中学生日記・三年・夏
もうそろそろ蝉の声もうるさくなって来た。季節は変わるのに、僕と蒼星石の仲は、悲しいかな全く変わることは無い。
まぁ以前のようにあからさまに避けられるということは無く、普通に話しかけては…もらえる。
ただそれだけ。
例の男と別れたと聞いたからなのか、蒼星石はそれから何度か男からの呼び出しや、告白を受けていた。
律儀な奴だから一つ残らず話も聞いてやっているようなのだが、それはどれだけあいつにとって辛いことなのかは想像が付かない。
銀「ジュンに朗報よぉ。」
J「なんだぁ?」
銀「蒼星石がね、塾の帰りに、電車で痴漢に遭ってるらしいのよぉ。」
J「……それの何処が朗報なんだ…?」
銀「おばかさぁん。だから、家まで送ってあげればいいじゃなぁい。」
J「えぇっ!!そ、そんなの無理だって…だ、大体やっとあいつと普通に…話せるようになっただけで…会話…続かないし……
気の利いたことも言えないし……それに誘えない…し、あいつも僕と…男と二人ってのは…嫌じゃないのか?」
銀「…あんた達は友達でしょ。友達が一緒に帰ってどこが悪いのぉ?それに話なんかしなくてもいいわよぉ。
一緒に帰るだけで、蒼星石はとっても安心するんだからぁ…あ、何なら私がお膳立てしておいてあげるぅ」(メールを打ち出す)
J「…わわわわ…「今日塾一緒に帰ろうね♪10時半に塾の入り口で待ってて。」って何嘘抜かしてるんだ?!お前が行くんじゃないだろ?」
銀「だから、私が急用でいけなくなったから代わりにって事。塾は違うけど、一緒の駅よねぇ。じゃあ決まりね。しっかりしなさぁい。」
J「え……あ…」
塾の前
蒼「え…?桜田…君?この塾だっけ…?」
J「ち、違うんだ…そ、その……水銀燈から頼まれて…ちょちょちょっと急用で一緒に帰れなくなったから僕が代わりにって…」
蒼「わざわざ…?そんなの悪いよ………って水銀燈から聞いたの…その…あの事……?」
J「…」(こくん)
蒼「……それでわざわざ来てくれたの…?ありがとう…でも僕は…」
J「と、友達がやっかいな目にあってるっていうのに…黙ってみるわけには、い…いかないから…な?」
蒼「………そうだね。友達だもんね。」
J「…………うん…」(でも…ちょっとだけデートみたい…だとか思う僕は…汚れてるかなぁ…?)
駅までの道
J「いつから遭ってるんだ?」
蒼「二週間くらい前かな…?夏服に変わり始めたくらい…」
J「け…結構前からだな…制服で来るのやめろよ…」
蒼「だって…仕方ないじゃない…制服を取りに帰る時間無いんだから…そういう桜田君も制服じゃない」
J「まぁ…な。中3だし、仕方ないよ…で、それよりもどんな奴がやってくるかとか分かってるのか?」
蒼「…うん。大体のめぼしは付くんだけど……薔薇丘駅で乗ってくるみたい…」
J「そうか…薔薇丘で一気に人増えるしな…で……お前…一応聞いておくけど…その…抵抗とか……してるのか?」
蒼「あ…その…恥ずかしながら出来てないんだ…人が多くて動けないってのもあるけど……多分ちょっとした出来心だと思うから…
それでその人の人生僕が壊しちゃうのもなぁ…って思って…」
J「……そんな奴の人生壊せばいいじゃないか…」(な~に言ってんだか…)
蒼「でもね、僕のせいで一家離散になる人がいるかもしれない…僕はそんなの耐えられない…」
J「………」(…おいおい…)
蒼「でも、多分今日は大丈夫だと思う。誰か…その桜田君付いていてくれるし…」
J「うん……」(水銀燈の言ってたこと、本当みたいだな…)
駅
J「何も無かった…んだよなぁ?」
蒼「うん。今日は大丈夫だったよ。本当にどうもありがとう…じゃあね。」
J「ちょっと待って…家近いし……家まで送る…」
蒼「悪いよ…もう遅いし…また明日…」
J「僕だって水銀燈から頼まれたんだから最後までしなきゃ…」
蒼「そう、水銀燈が…分かった…じゃあお願い」
J「うん…」(何なんだ今の間は…)
家までの帰り道
J「そういえば、第一志望何処なんだ?」
蒼「えっ…僕は……R女子にしようと思ってるんだけど…」
J「そっか…」(うわ~バリバリ進学校…)
蒼「桜田君は?」
J「僕は薔薇学園かな…近いし…」(まぁ頭にあった学校なんだけどな…)
蒼「そっか…じゃあ中学でお別れか…僕どっちにしろ女子校にしか行きたくないから…」
J「……うん……」
蒼「でも私立になるとおじいさんとおばあさんに迷惑かかっちゃうから…多少無理してでも…R女子に行きたいんだ…」
J「共学は…やっぱり……嫌…?」
蒼「そ…だね。やっぱり…まだ男の人なんて全然信じられないし…痴漢の人だって…結局誰だっていいんだろうし…」
J「だ、誰だっていいなんて……そんな事…無いと思うけど……」(…………)
蒼「…ごめんね……桜田君だって好きな人いると思うのにこんな事言っちゃって…」
J「いいよ……別に……」(…………)
蒼「あっ…僕の家ここだから…良かったら上がっていく?おじいさんとおばあさんも喜ぶと思うし…ってもう遅いね……」
J「うん…ここまでで失礼するよ…おじいさんとおばあさんによろしく言っといて。」
蒼「……うん。じゃあまた明日…今日は本当にありがとう……お休みなさい……」(かすかに微笑んで控えめに手を振る)
J「…!!あっ…水銀燈だって大変だと思うし…とりあえず暫くは僕が帰り…お、送ってやるから…!!
お、お…お休み…」(何か修学旅行の事…思い出しちゃった……あの時はまだ…自分の気持ちなんか……)
やっぱり本当は気付いていたのかもしれない…もし二年の夏までに戻れてて…
好きって素直に言えてたら……こんな事で悩むこと…無かったのかな…?
それに学校別々になっちゃうのか…出来れば一緒の高校に行きたかったな…
じ「蒼星石。お帰りなさい。一人で大丈夫だったかい?」
ば「そうよ。いつも駅まで迎えに行くって言ってるのに…いつもいい、いいばっかりで…少しは翠ちゃんみたいに素直になって…」
蒼「もう、いいの!!それに今日は……友達に送って貰ったから…大丈夫だったよ。」
じ「そうかそうか。良かったのう。」
ば「お礼の電話でも入れておきなさい…ね。」
蒼「うん……分かった。」(名簿を取り出す)
蒼「……」(桜田君…家近いって言ってたのに全然別方向……僕の為にわざわざ遠回りしてくれてたのかな…)
RRRRRRR……
の「はい、桜田でございます。」
蒼「夜分遅く申し訳ございません。ジュン君と同じクラスの蒼星石と申しますが、ジュン君今お電話口に出られますか?」
の「えっと…まだ帰ってきてないんです…今日は塾で…いつもはもうちょっと早いんですけど…
あ、もし伝言があれば伝えておきますけど…」
蒼「じゃあ…今日はありがとう…とだけお伝え願えますか?急ぎの用ではないので、また明日学校で話します。」
の「はい、わかりました。」
蒼「では失礼します。ジュン君によろしくお伝えください。」
J「ただいま~」
の「あ、ジュン君。今同じクラスの蒼星石さんから電話があってね、今日はありがとうですって。」
J「あ、あぁ…」
の「かけなおす?学校ででも良いって言ってたけど…」
J「じゃあ良いよ。風呂入ってくる…」(もし電話かかってきてたら…上手いこと喋れてたのかな?…はぁ…)
翌日
蒼「お早う、桜田君。」
J「お早う。」(こいつから挨拶してくるなんて珍しいな…
蒼「あ、これおばあさんがね…昨日のお礼にって……よく家で食べる和菓子なんだけど…凄く美味しいから…ひょっとして…和菓子嫌いかな?」
J「ありがとう…おばあさん、おじいさんにもお礼言っておいて。あと…僕和菓子好きだよ…(これくらい軽くいえたら…)昼休み皆で食べようか。何があるんだ?」
それとおばあさん、おじいさんにもお礼言っておいて」
蒼「うん…っ。えっとね、ここにのりのお煎餅があってこれがあられで…」
銀「何だか良い雰囲気…このまま上手く纏まってくれれば良いんだけど…」
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