『triangle』
水銀燈と巴とジュンは小さい頃からの友達同士。いつでも三人一緒だった。
やがて三人は高校生になった。
水銀燈は学内で一、二を争う美人になり沢山の男たちに囲まれる日々を送っている。
巴は幼少の折から続けていた剣道で頭角をあらわし、その実力は全国レベルだ。
ジュンはというと…こちらはごく一般の男子高校生なのであった。
そんな三人のお話…
ある日の下校時
ジ「さ~て、そろそろ帰るか。おーい巴」
巴「うん。いまいくよ。…水銀燈は?」
ジ「いつも通りさ」
そう言ってジュンは水銀燈の席の方に目をやる
べ「銀嬢。俺と一緒に帰ろう!」
笹「ぼ…僕とも一緒に帰ってくださいっ!」
水「わ…わかった…わかったからぁ」
水銀燈の周りには男どもが群がって下校の誘いをしていた
その圧力で水銀燈はやむなくOKしてしまう…。これが『いつもの光景』なのだ。
巴「しかたないね。水銀燈、美人だもんね」
ジ「ああ…。最近あいつとは何だか疎遠だよな…」
巴「うん…。…ね、もう行ここ?」
ジ「え、あ、そうだな。行こうか」
そうして二人は外へ出た。
帰り道にて
巴「でも最近いつも私たち一緒に帰ってるね」
ジ「ああ。中学の頃はまだ三人一緒だったのにな…」
巴「でも…そのお陰でジュン君と親密になれたかな?」
そう言って巴はジュンの顔をのぞき込んだ。
ジ「なっ…なにを言って…」
巴「うふふっ。私はジュン君の事好きだよ?」
ジ「なっ…なっ…なに言い出すんだよ…」
巴「本気…だよ?」
ジ「う…まぁ、おれも…その…嫌いじゃない…な…」
巴「…やっぱり水銀燈が好きなんだ」
ジ「うっ…それは…」
巴「それは?」
ジ「…………二人とも好きさ。悪いか?」
巴「そう言うと思った。ジュン君昔からそうだったよね。幼稚園の時も『銀ちゃんも巴ちゃんもだいすき!』って言ってくれたよね」
ジ「あ~~~そんなこともあったような…」
巴「変わってないね」
ジ「…悪いかよ」
巴「ううん。悪くないよ」
その日の夜。巴の家
巴「はぁ…。ジュン君の気持ち、結局どうなんだろう?
私か…水銀燈…。
いつも私たちは一緒だったから…仲良しなのはいいけど…。
はっきりさせなきゃなんかイヤだなぁ…
…明日、水銀燈と話してみようかな?
話し合って…ケリを付けなきゃ…
取りあえず、今日はおやすみ…」
翌日、学校(昼休み)にて巴「水銀燈。ちょっといいかしら?」
水「え?あっ、巴…」
巴「話したい事があるの…。屋上いいかしら」
水「ええ。いいわよぉ…」
(屋上)
水「話って…何かしらぁ?」
巴「あのね…ジュン君のことなの…」
水「ジュンの…?」
巴「私…彼と本格的にお付き合いしようと思ってるの」
水「え……?」
巴「今度、ちゃんと告白するつもりよ」
水「……どう…して……?」
巴「水銀燈?」
水「どうして…私にそんな事言うのぉ…?…なんでぇ…?…ねぇ…」
水銀燈はそう言ってポロポロと涙をこぼし始めてしまった
巴「え…ちょっと水銀燈…」
水「ひどいよひどいよ…。私だってぇ…ジュンの事好きなのにぃ…。私だって…告白…しようと思ってたのにぃ…」
巴「…」
水「それに…巴だって覚えてるでしょう?小さい頃にした約束…」
巴「えっ…」
水「私と貴女で…どっちがジュンの『こいびと』になるか…」
巴「あっ…」
(三人が幼稚園にいたころ)
巴「わたし、おおきくなったらジュン君のこいびとになるー」
水「あ…じじゃあ私もなるぅ!」
ジ「ふたりともほんと?うれしいな」
巴「えーでも『こいびと』は一人しかなれないんだよ」
水「え…じゃあ私はなれないのぉ…?」
途端に涙目になる水銀燈。
巴「ああ~わかったから、泣かないで。ね?」
水「うん…」
巴「そうだー!じゃあ、じゃんけんして勝った方がジュン君のこいびとね」
水「えぇ~…私、じゃんけん弱いよぉ…」
巴「いくよ~…じゃんけん………ぽん!」
水(勝てますように勝てますように勝てますように………!)
結果は巴がパー、水銀燈がチョキ
水「あ…」
ぱぁっ。と表情が明るくなる水銀燈。
巴は残念そうに肩をすくめ、
巴「わたし。まけちゃったね。ざんねん!」
と、おどけてみせた。
水「じゃあ、私がジュン君の『こいびと』!」
巴「うー。ざんねんだな」
遠い過去の、約束…
屋上には、相変わらず冷たい風が吹いていた
水「確かに…ジュンはあの事もう忘れてしまったかもしれないわぁ。…でもね、それでも…それでも…………告白して…恋人同士になれたら、って…」
巴「水銀燈…。…なら、もう一度勝負しましょう」
水「勝負…?」
巴「ええ。また前と同じじゃんけんで」
水「…」
巴「ジュン君に立ち会ってもらって、勝った方はその場で彼に告白する。どう?」
水「うん……わかったわぁ。…いつにするのぉ?」
巴「今日の放課後。教室で」
水「わかったわぁ。…負けないんだからぁ」
巴「私だって」
そしてその日の放課後
ジ「…こうやって三人で集まるの…久しぶりだな」
水「そうねぇ…。…ごめんね、いつも…」
ジ「…仕方ないさ」
巴「じゃあ、もう始めようか?…恨みっこなしだよ?」
水「…ええ…」
巴「せーの…」
巴水「じゃんけん………ぽん!」
結果は…………?
水・巴「じゃんけん………ぽん!」
ジュン「あっ…」
結果は………
巴がパー、水銀燈がチョキ。
昔と同じ結果。
水「あ…あ…」
巴「うふふっ。負けちゃった」
水「う…うれしい……けど…巴…?」
巴「ほらっ。勝ったのは水銀燈だよ?なら…」
水「うん…」
ジ「…水銀燈…」
夕陽に染まる教室で、水銀燈は憧れの少年と向き合った。
水「あ…あのぅ…」
ジ「うん…」
水「ずっと昔から好きでした!どうか私を恋人にしてください!」
耳まで真っ赤にして水銀燈は思いの丈をぶつけた。
巴「ジュン君の返事は?」
ジ「ああ…!もちろんだとも!こっちからお願いしたいくらいだよ!」
水銀燈の顔が喜びで満ち溢れた
水「うれしい…うれしいよぉ…。今まで…すごく不安で…心配で…たまらなかったの…」
ジ「ごめんな…おまえの気持ちに気づいてやれなくて…」
水「ううん。だって今はこうして夢が叶ったんだものぉ…」
そして…ふたりは強く抱きしめ合い、お互い初めてとなる口づけを交わした。
ジ「水銀燈…愛してる…」
水「ああ…ジュン…ジュン…。もう離さないわぁ…」
巴「おめでとう…水銀燈」
水「巴……ごめんねぇ…」
巴「ううん。いいのよ。なにがあっても、私たち友達でしょう?友達を祝福するのは当然よ」
そう言って巴は水銀燈の肩に手をおいた
水「うっ…うぁぁぁぁ…」
巴「ほらほら、泣かないの」
水「うん…うん…。でも、うれしいのよぉ…涙が止まらないのよぉ…」
巴は、そんな水銀燈の事をまるで母親のような優しい眼差しで見つめていた
昔から一緒の三人。
今までずっと仲良く生きてきた。
喧嘩もしたし、恋もした。
でも、どんなことがあってもその友情は色褪せない
いつまでも…
糸冬