~邂逅~
昼下がり、乾いた風吹く病院の屋上。
僕は看護婦の目を盗んで、今この場にいるのだ。
フェンスに寄っかかり、空を仰ぐ。少し眩しかった。
雲ひとつ無い無限の天井。心を見透かすように澄んだ蒼い空間。
此処に来ると、あの日もこんな空だったな、とふと思ってしまう。
ゆっくり目を閉じる。瞼に映るのは、彼女の最後の笑顔。
「めぐ・・・僕は・・・」
一日として忘れたことは無い。
彼女と過ごした時間を。
あの日の
彼女の涙を。
半年前、僕は不注意で交通事故に巻き込まれた。右足を酷くやってしまったよう
だった。
とはいっても命に別状は無く今に至るのだが。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
事故から3週間後、僕はいつもの様に病室で一人勉強していた。午前のノルマを
終え、ゆっくりとベッドに横たわる。
しばらくして静かにに開くドア。見慣れた顔のご登場だ。
の「ジュン君、入るわね~。」
ジ「...あぁ。ってあれ? 今日学校は?」
の「私たちの学年はテスト休みなのぅ。だから今日は早めに来れたのよ~。」
「あのさぁジュン君、今日すっごくいいお天気なのよ。だから一緒に屋上に行かない?看護婦さんからも許可いただいたの♪」
ジ「まぁ、たまにはいいかな...。」
松葉杖をつきながらゆっくりと階段を上る。
の「大丈夫?ジュン君、手伝おうか?」
ジ「いや、いいよ。この程度ならリハビリになるし。」
屋上への扉を開く。陽の光が目を刺激する。光に慣れるまで目を細める。
の「来てよかったね、ジュン君。」
ジ「ん・・・そうだな。」
フェンス越しに外界を眺める。乾いた風が心地よい。
僕の通っている学校が見える。みんなの顔を思い出し、思わず微笑んでしまう。
・・・何か聞こえる?
ジ「姉ちゃん、今なんか言った?」
の「え?何も・・・。」
また聞こえた。これは・・・歌? 誰かが歌っている?
ジュンは周りを見渡す。少し離れたところに人がいるのに気付いた。
ジ「この歌・・・あの人が?」
『やっぱり、あの人が...。』
とても澄んだ綺麗な声。だけどとても悲しい声。
ジュンはその不思議な声に引き寄せられるように、自分でも気付かないうちに、
いつのまにかすぐ隣にまで近寄っていた。
『女の子・・・僕と同い年くらいか?』
少女と目が合う。その時初めてジュンは自分の状況を把握した。
めぐ「あの、何か・・・?」
ジ「え・・・?あ、いや!別に・・・。なんていうか・・・歌聞いてて・・・。
綺麗な声だな~。みた、みたいな? あ、あはははは・・・」
完全に混乱していた。穴があったら入りたい。
しばらく不思議そうな顔をしていた彼女だが、すぐに優しく微笑する。
めぐ「ふふ、面白いのね、キミ。名前は?」
ジ「え・・・。」
ジュンは彼女の神秘的な瞳に吸い込まれそうだった。
めぐ「あら、私ったら。名乗るならまず自分からよね。私は柿崎めぐ。」
ジ「僕はジュン・・・。桜田ジュン。」
これが二人の出会い。運命の歯車はここから動き出したのだ。
・・・あれから数週間・・・
めぐは時間があれば、屋上に来て歌を歌っている。
僕は彼女の隣に座ってその歌を聴く・・・。いろいろお喋りもした。僕は友達の
こと。彼女は住んでいた町のこと。
いつからか、それが僕の時間の過ごし方となっていた。
めぐ「ねぇ、私の歌聞いてて楽しいの?」
ジュン「つまんなかったらここにいないって。」
めぐ「ふふ、ホントにジュンって変わった人・・・。」
ジュン「それはお互い様だろw」
めぐ「そうね、私は変わってるわ。っていうより狂ってるのかもw」
ジュン「・・・なら僕も狂ってるよ。」
めぐ「え?それってどういう・・・
ぎゅっ
ジュンはめぐの手を強く、優しく握りる。
周りの空気がゆっくり流れる。今なら言える。
ジ「めぐ、僕は・・・きみが好きだ。」
スローだった時がまた流れ出す。ジュンは、今自分がしてしまったことを激しく後悔
している。
ジ「あ・・・、そっ、そのゴメン! 会って間もないのに・・・いきなりこんな、
こんな・・・。」
そう言うとジュンは掴んでいた手を振りほどく。
『あぁぁぁぁ、ダメだ、めぐの顔が見られな
え?』振りほどいて、何も無い
はずの手に暖かいものが触れる。細い、白い小さな手。今度はめぐがジュンの手
を握っている。
めぐ「ジュン・・・」
ジ「は、はひっ!」
めぐ「ありがとう・・・。私も・・・ジュンが好き。」
ジ「あ・・・ぇ・・・ぇ・・・?」
めぐを見るとはっとした。めぐは今までに見たことの無いほどの優しい笑顔だった。
ジ「で、でも僕なんか・・・そう言うおうとすると、めぐは僕の唇に人差し指を
添え、言葉を制止する。
めぐ「ねぇ、もう一回歌っていい・・・?」
僕はそれ以上何も言わなかった。今はただ、この優しい時間を過ごしてていたい・・・。
静かな午後、いつもの場所、いつもと同じ時間にめぐはいなかった。少し待っていても彼女は来ない。
『面会の人でも来てるのかな?』
そう思いジュンは病室に戻るため歩き出す。屋上の扉に手を掛けると同時に開くそれ。そこにはめぐの姿が。
ジ「あ、どうしたんだよ?今日遅かったな。面会でもあったのか?」
めぐ「ジュン・・・。」
ジ「ん? 」
めぐ「話したい事があるの。」
ジュンは気付いていなかった。めぐの声にはいつもの輝きが無かったことを。
めぐ「私ね・・・もうあなたに会えなくなるわ・・・。」
ジ「え・・・?それって・・・?」
ジュンは混乱した。あのめぐがこんな不謹慎な冗談は言わないと知っていたから。
めぐ「私の病気・・・前に話したわよね?」
以前、めぐから聞いた話しだ。めぐは心臓の病気だった。幼い頃からのモノで、
薬や手術で今まで永らえてきたらしい。めぐに告白したあの日、余命はあと5年だったそうだ。
それでも僕は気持ちを伝えたかった。
そして、あれからまだ一ヶ月しかたっていない。
めぐ「今日、病気の定期検査を受けたの。そうしたら、あと2ヵ月ももたないって・・・。」
僕の頭の中は真っ白になった。めぐ、何言っているんだ?
冗談は言わないと知っていた。冗談じゃないと分かっていた。
だけど・・・。
ジ「は、はは。変な事言うなって。あ、そういや今日姉ちゃんがお菓子持ってきてくれて・・・
めぐ「聞いて・・・ジュン、私・・・。」
『言うな言うな言うな言うな!聞きたくない聞きたくない聞きたくない!』
言葉が止まる。ジュンはめぐを見る。目の前でめぐは泣いていた。
めぐ「もうダメなんだ・・・。私、『壊れた子』だから・・・。」
そう言いながら彼女はケラケラと笑っている。大粒の涙と共に。
ジュンはその場にへたりこんでしまった。
そんなジュンを背中から優しく抱き締めるめぐ。
めぐ「ジュン、私ね、死ぬことなんて怖くなかった・・・。こんな苦しい命なら、
いっそ早く枯れてほしかった・・・。だけどあなたに会って、一緒に過ごして、私思ったの・・・。
もっと生きたいって・・・まだ死にたくないって・・・。」
ジ「・・・め、・・ぐ・・・。」
『なんて言えばいいんだ?
僕はどうすればいいんだ?どんなに優しい言葉を
かけても、めぐの命を、心を救うことはできない。僕はなんて無力なんだ・・・。』
僕はただめぐを抱き締め返すことしか出来なかった。そんな自分が憎くて仕方ない。
僕は声を上げ泣いた。めぐは僕の胸の中で、静かに泣いた。
空は雲ひとつ無い、晴天だった。
その日からめぐは集中治療室に入り、会う事ができなくなってしまった。
そして、めぐの死を知ったのは予想より早くだった。
それからはいつもとは違った・・・いや、いつもどおりだった。今までの時間はまるで甘い夢のようだった。
むしろ夢だったのかもしれない・・・。
――――――――――
少し前のことを思い出していた。
ジ「人間なんて脆いよな・・・。」独り言を呟きながら僕は屋上で風に吹かれている。
めぐと過ごしたあの場所で。 涙はとうに枯れてしまっていた。
ジ「いっそのこと人形になれればいいのにな・・・。」「はは、やっぱり僕は狂ってるよ、めぐ。」
・・・瞬間、強い風が体を揺らす。
『ふふ、なら私も狂ってるわね。』
ジ「・・・めぐ?」
風が止む。耳に残るは彼女の声。
それは刹那に見た白昼夢か。はたまた風の運んだ幻か・・・。
ジュンはまた空を仰ぐ。もう眩しくはなかった。
『そうだ・・・僕には帰る場所がある・・・。そして僕は君の分まで生きなくちゃならない。
めぐ、君はいつもそばにいてくれるだろ?・・・今度は僕が歌うよ。命の歌を・・・。』
そう言って屋上をあとにする。
空は晴れ渡っていた。
きっと雨は降らない。
fin
季節は夏。
詳しく言うと夏休み。
部活が午前中で終わって帰っている途中の事
突然の雨。気持ちよかったが雨宿りしたい
そんなときに目に付いた図書館
当分雨は止みそうにない
J「雨宿りにはちょうどいい」
そんな事を考えそこに入る
夏休み、しかも正午を回ったぐらい
当然人はすくなかった
J「ここに来たのは久しぶりだな・・・・」
ずいぶんと様変わりしていて少し寂しかった
感傷に浸りながら本を選び席に着く
「よかったら・・・これどうぞ?………」
ずぶ濡れの自分に差し出されたタオル
顔を上げて声の主を見る
知らない人。少しやつれているような………でも綺麗な人
見とれながらその優しさを受け取る
J「ありがとう………」
こんな事をされたのはいつ以来であろう?
「私………用事があるので………さよなら!」
そう言って飛び出す女の子
まだ雨が降っているのに…………
次の日会えるかも知れない
そんな甘い考えと共に
同じ時間に図書館に行く
昨日と同じ場所で女の子は本を読んでいる
J「昨日はありがとう」
大きな声は出せないが精一杯の感謝を込める
「あまりにも濡れていたから………」
少し恥ずかしそうな女の子
昨日はよく見てなかったのでわからなかったが
歳は同じ。もしくは1つ上ぐらいか?
昨日の気持ちを忘れぬ内に切り出す
J「昨日の恩返しがしたい…………これから昼食にでも?」
「大丈夫です!………それにお昼はもう食べたし………」
『キュー』
彼女の方から音が鳴る
顔が赤くなる
お互い吹き出してしまう
J「ははは」
「ふふふ」
「ゴメンなさいwwやっぱりごちそうになりますwww」
そんななりゆきでレストラン
話していく内に彼女の事がわかりはじめる
名前はめぐと言う事
同じ学校だったこと。
やっぱり先輩だった事。
体が弱く入退院を繰り返している事。
それからの夏休みは図書館に行く事が日課になっていた
楽しかった。
いつもより日常が充実していた。
おたがいが惹かれていったのも事実。
夏休みが終わってもこんな関係でいたい。
J「夏休み終わっても会えるよな?」
「…………うん」
夏休みの最後の会話
久しぶりに部活に出た
先輩からはサボっていた理由を聞かれる
「何で部活サボってたんだよ?」
J「ちょっと図書館でwww」
自慢げに答える
「何々?女?」
J「ここの先輩らしいんですけどねwww」
そう言うと会話が止まる。
先輩達が顔をしかめる
「なぁ?名前とか聞いてないのか?」
J「下の名前だけですけど………確か、メグ?だったと」
先輩の顔が暗くなる
「なぁ?その女の事は忘れろ」
J「なんでですか?」
頭に来る言い方当然返事もぶっきらぼう
「あんまり言いたくは無いんだけどな…………
俺は同じクラスだからよ………
昨日の夜に緊急入院でさ………死んだよ……」
J「そんなwww悪い上段はやめてくださいよ」
本当の事を言ってる風にしか見えない
信じたくない。それが本当であっても
「こんな事………冗談でも言えねえよ………」
その場に崩れ落ちる僕
周りのことは考えない。
嗚咽が響き渡る
そんな中水銀燈から渡される手紙
「………最後まで私じゃなくてあんたの名前しか呼ばなかったわ」
「くやしい………」
そんな事葉を言い捨てて立ち去っていった
「わ、わかったわぁ・・・着替えるから出てもらえるぅ?」
「・・・いや、体育の時いつも胸を揉み合っているじゃない」
薔薇はサラッという、やっぱ怖い
「し、してないわよぉ!!出ててぇ!!」
「・・・いやだ、銀の裸・・・下着姿見たい・・・」
普段まじまじと見ることができないので、無理な注文
恋人同士の独特の雰囲気が、部屋ごと包む
「わ、わかったわよぉ・・・薔薇ちゃんがぁそこまで言うならぁ」
おずおずと脱ぎだしたパジャマ、パサッパサッとカーペットに落ちる
下半身はスラッと伸びた足、身の引き締まったふくらはぎと太もも
上半身はうっすらと浮き出る腹筋、引き締まったウエスト
そして男を殴り飛ばすほどの力がある腕は、華奢で今にも折れそうだった
薔薇は言う
「・・・負けた・・・わたしお腹太いもん・・・」
「プッ・・・」そう言えば薔薇は食欲旺盛、いつも1000円分はあるかと思われる菓子パンを昼食に食べていた
「・・・でも綺麗・・・」そう言うと、ブラをつけていない銀の胸に顔をうずめた
「・・・もう離さないわ・・・わたしの・・・銀・・・」
「薔薇ちゃぁん・・・約束よぉ・・・離しちゃだめよぉ・・・」
銀は微笑み、こう語りかける
「愛してるわぁ・・・」
開ける事が恐かった
読む事が恐かった
めぐの思いが無くなってしまうような気がして………
その日の帰り道の突然の夕立
最初の出会いを思い出す
J「…………めぐ…………」
そこで気づく
読まない方が彼女の思いを無くしてしまう
開けない方が彼女の思いを消してしまう
向かった場所は図書館
いつも座っていた場所に座る
そこに彼女の姿は見えない
おそるおそる開けた手紙
「ごめんねジュン君
約束守れなくて……
実はジュン君と出会ったときにはもうダメだったの
もう助からないからって退院して図書館にいたんだ
そしたら濡れたジュン君が入って来てかっこよかったなー
思わず声かけちゃってさ
一目ぼれだったんだ
最後に悔いが残らないようにしたつもりだったのに……
逆に悔いがのこちゃったなー
私は先に天国に行くけど
ジュン君はもっとかっこよくなってから来るんだよ?
あなたのメグより」
声を出して泣きたかった
メグの声が聞こえた気がした
「よかったら……どうぞ?」