『人の物はちゃんと返しましょう』
読書が大好きな真紅は、たまに良い本があると、人に貸す。
真「水銀燈、この前に貸した本、感動したでしょ?」
水「感動したわぁ~。読んでないけど」
真「どうして読まないのよ?せっかく貸してあげたのに」
水「私は活字に興味ないのよぉ~。ごめんなさぁい」
真「じゃあ、早く返してちょうだい」
水「……それなんだけど、ブックオフに売っちゃったぁ~」
真「な、なんですってぇ~!」
真紅はぶち切れ、水銀燈のむなぐらを掴む。
真「人の物を勝手に売るなんて、どうかしてるのだわ!」
水「だ、だってぇ、ちょうど金欠だったのよぉ」
真「そんなの理由にならないのだわ!」
水「今度、ヤクルトあげるから許してよぉ~」
真「そんな物いらないわ!水銀燈、あなたとは絶交よ!」
そう言うと、真紅は教室から出て行った。取り残された
水銀燈は、なんとも言えない気持ちで、その後姿を見ていた。
放課後、水銀燈は先輩である、めぐがいる教室に行くことにした。
真紅は完全に怒っていて、他のみんなも少し話しかけにくかった。
水銀燈は逃げるように、めぐがいる教室に行く。
雛「真紅ぅ~、喧嘩はよくないのぉ~仲直りするのぉ」
蒼「雛苺の言うとおりだよ、真紅。絶交はいくらなんでも…」
真「うるさいわね!あの子が悪いのだわ。口出ししないでちょうだい!」
そう言われると、雛苺も、蒼星石も何も言えなくなった。
真「(あんな非常識な子なんて、友達じゃないのだわ…)」
一方、三年生の教室に来た水銀燈は、めぐを探した。めぐはすぐに
見つかった。しょんぼりしている水銀燈に、駆け寄るめぐ。
めぐ「珍しいね、水銀燈の方から逢いに来るなんて」
水「…めぐぅ、実はね、真紅と喧嘩しちゃったの」
めぐ「どうしてぇ~?どうせ、水銀燈が変なことしたんでしょ?」
水「うん…。真紅の大切な本を、勝手に売っちゃったの…」
めぐ「はぁ…。あなたらしいわね。そりゃ怒られて当然だよ?」
水「わかってるわぁ…。でも、絶交されたから…話せないよ」
めぐ「…でも、ごめんなさいしないと、何も解決しないよ?」
水「どうすれば良いかな…?」
めぐは、少し考えた後、クスッと微笑み、水銀燈の手を握った。
そして、二人は本屋へ行くのだった。
公園のブランコに乗りながら、一人で今日のことを思い出す真紅。
一緒に帰っていた雛苺は、仲直りしたら?とずっと呟いていた。
もちろん、他のみんなもそう言っていた。
真「…でも、やっぱり悪いのは水銀燈だわ…。私の本を勝手に…」
でも、絶交する必要はなかったのでは?そう考えたら、少し
言い過ぎたかもしれない…。自問自答が続く。その時、ブランコの
影が、揺れた。隣をふと見ると、水銀燈がいた。
水「あの主人公、本当に根性がない男よねぇ~。ダメダメだわぁ。
それに、あのヒロインの性格の悪さ…。私の方がよっぽどましよぉ」
彼女がさっきから、独り言のように呟いているのは、貸した本の内容だった。
真「…でも、ラストシーンでは、主人公は格好良かったのだわ」
水銀燈は、クスッと微笑んだ。
水「絶交じゃなかったのぉ~?良いの?私に話しかけて」
真「わ、忘れてただけなのだわ!話しかけないでちょうだい」
水「ごめんなさぁい。はい、これ借りてた本よぉ」
真「…買ったの?」
水「めぐに、弁償しなさいって言われたからよぉ…。べ、別に仲直り
したかったわけじゃないのよぉ?」
真「ふふ、その割には、きっちり読んだみたいね」
水「そ、それもめぐに言われたからよぉ。勘違いしないでぇ」
喧嘩するほど、仲が良いという話は、ウソじゃないかもね。
…完。
ある夜の一コマ
「ねぇ、ジュン?」
「どうした?水銀燈」
「ちょっとお散歩しなぁい?」
「もう日付変更する直前だぞ?明日も学校あるのに……」
「あらぁ?ジュンは私と居るのが嫌なのぉ?」
「そう言うわけじゃないけど……あーもう、わかったよ。」
「ふふっありがとぉ♪」
嬉しそうな表情でジュンの頬に軽く口づけ、水銀燈はベッドから降りる。
今まで何度も見てきたが改めてみるとその綺麗な肢体に目を奪われる。
「どうしたのぉ?ジュンも早く服着ましょうよぉ?」
「え?あぁ、うん。」
正確には着たいが一部が見せたくない状態にある為、動きたくない。
が、そんなことも言ってられないのでベッドから降りて服を着始めるジュン。
「やだぁ、ジュンったらまた元気になっちゃってるのぉ?」
その様子を見た水銀燈がクスクスと可笑しそうに笑う。
「し、仕方ないだろ。男なんだから……。」
そんなことを言いながら焦って服を着たせいだろうか?ジーパンのチャックを上げるときに――
「あqwrftgyふじこlp@「;・」
何かを噛んだらしい。声にならない悲鳴を上げながら蹲るジュン
「ジ、ジュン?大丈夫ぅ?」
どれほどの痛みがあったのかは想像できないが、
ジュンのリアクションをみて流石に轢き攣った表情を浮かべながら心配する水銀燈
(こんな時はどうしたらいいのかしら?)
少し悩んだ後ピロリン♪と某ゲームのように豆電球が水銀燈の頭の上で光る
「ちょっと待っててねぇ?消毒してあげるぅ。」
そう言って部屋から出て行く水銀燈、数分後に戻ってきた彼女の手の中にはキン○ン。
「ちょwwwwおまっwwwwそれキンカ○ッ!?」
「ほらぁ、抵抗しないのぉ♪」
天使のような笑顔を浮かべながらジュンのジーパンを脱がせていく。
そして瓶の液体をだばーっとぶっかける水銀燈。
「あqswでrfgtyふじこl0p;@:!!!111!!!1!」
直後にジュンの悲鳴が夜空に響き渡った。
この後、暫くジュンが使い物にならなくなったのは云うまでもない。
『私の生意気な後輩』
最近、頻繁に三年生の教室に行く水銀燈。目的はめぐに会うため。
今日はいつも一緒にいる薔薇水晶が、学校を休んだので暇だし。
教室に入ると、窓際の一番奥の席に、めぐはいた。どうやら、MD
を聴いているみたいだ。
めぐ「水銀燈、どうしたの?」
水「いや…ちょっと暇だったから、来ただけよぉ」
めぐ「ウソつき。本当は、寂しいから会いに来てくれたんでしょ?」
水「そ、そんなわけないでしょぉ。寂しくなんてないわぁ」
めぐ「うふふ。ねぇ、今とてもいい曲を聴いてるの。聴く?」
水「うん。めぐが、どんな音楽を聴いてるのか、気になるわぁ」
めぐは、右耳に入れていた方のイヤホンを、水銀燈に渡した。
自然に、顔がとても近い状態になる。一つのイヤホンを共有して
同じ音楽を聴く。なんだか、心まで一つになった気がした。
水「イメージと違って、激しい曲が好きなのねぇ」
めぐ「もしかして、クラシックだと思った?」
水「そうねぇ…。めぐがパンクロックを聴くとは、思わなかったわぁ」
めぐ「他のみんなもそう言ったわ。でも、クラシックは静かすぎて嫌いなの」
水「いかにも癒してあげますって、感じが気に食わないのねぇ?」
めぐ「まあ、そんな感じかな。ひねくれ者だからね」
水「……良い曲だわぁ」
めぐは、そっと水銀燈の髪の毛を触った。サラサラの銀髪が揺れる。
水銀燈は、いきなり髪の毛を触られて、少し焦っていた。
水「な、何よぉ?いきなりびっくりするじゃなぁい」
めぐ「水銀燈、スキあり!」
水「……バカじゃないのぉ?」
めぐ「こら、私は一応、先輩だぞ?それにしても、困った顔も可愛いね」
水「ふん。私、二年生の教室に戻るわぁ。もうすぐ予鈴が鳴るし」
めぐ「うん。いつでも良いから、また会いに来てね」
水「もう、来てあげなぁい…。私はめぐの相手してるほど、暇じゃないのよぉ」
めぐ「あらそぉ?じゃあ、絶対に来ないでね」
水「えっ…?」
急に、水銀燈は寂しそうな表情を見せた。めぐは、水銀燈のこと
を誰よりも、理解してる。めぐは微笑み、言った。
めぐ「ウソよ、いつでも来て。ここで私、待ってるから」
水「ふん!絶対に来てあげないんだからぁ!」
プリプリ怒りながら、水銀燈は三年生の教室を後にした。
めぐ「はぁ…。また一人になっちゃった」
私には、同学年で喋る人がいない。
だからいつも、私は一人ぼっち。でもね、寂しいなんて思わないんだ。
生意気で、素直じゃない後輩が、いつも来てくれるから…。
水銀燈、私はあなたが、大好きよ……。
水「へっくちゅ!……誰か私の噂をしてるのかしらぁ…?」
…完。
『眠れる教室の水銀燈』
スヤスヤと、居眠りをする水銀燈。授業が終わっても、眠り続ける。
外はほんのりと暖かく、眠るにはちょうど良い温度だった。
金「あっ、水銀燈まだ眠ってるかしらぁ…」
水「……むにゃ…むにゃ」
金「これはチャンスかしら!今のうちに顔に落書きするかしらぁ」
筆箱から、マジックペンを取り出す金糸雀。顔に、猫のひげを描いた。
金「あははは、日頃いじられてるから、仕返しかしらぁ!」
それでも、眠り続ける水銀燈。
次は、薔薇水晶がやってきた。遊んで欲しいけど、眠っているから
どうしょうもない。じっと水銀燈を眺める。
薔薇「……すごい可愛い…。あっ、そうだ」
携帯電話を取り出し、ぱしゃっと寝顔を撮る薔薇水晶。
水「……うぅ~ん……zzzz」
薔薇「……うふふ。待ち受け画面に設定しよっと♪」
それでも、まだ水銀燈は眠り続ける。
薔薇「……ちょっと触ってみよう」
ぷにぷにと、ほっぺたを突付いてみる。
水「……むにゃぁ……」
薔薇「……あっ!そうだ。……飽きた」
薔薇水晶は、食堂に去っていく。水銀燈は、まだ眠っている。
とても気持ちが良さそうに、眠り続ける水銀燈。そこに
蒼星石がやってくる。
蒼「水銀燈、まだ寝てるの?そろそろ起きないと、授業始まるよ?」
水「……zzzzz」
蒼「…反応がないなぁ。仕方ないか、これだけ気持ちよく眠ってるし」
そう言って、蒼星石は数学のノートを机に置いた。
蒼「さっきの授業の分だから、起きたらそれ見て写したら良いよ」
水「……まりがとぉ……雛苺…」
蒼「僕は雛苺じゃないんだけど。本当に寝てるのかな?」
まだ、水銀燈は目を覚まさない。
今度は、三年生の先輩である、めぐがやってきた。
めぐ「水銀燈、この前に貸したCD…あれ、寝てるの?」
水「……むにゃ……」
めぐ「もしもーし、銀ちゃ~ん。応答せよ、水銀燈隊長!」
水「……zzzzz」
めぐ「本当に寝てるみたいね。カバンの中にCD入れとくね」
水「……めぐぅ…そこはダメだよぉ?」
めぐ「え!?カバン以外にどこに入れたら良いの!?起きてるの?」
水「……めぐぅ……ダメよぉ…そこは汚いよぉ」
めぐ「ど、どんな夢を見てるのよ…。恥ずかしいなぁ、もう」
めぐは、水銀燈の夢を妄想して、恥ずかしくなった。顔を紅くしながら
自分の教室に帰っていった。水銀燈は、まだ寝ている。
まだ、眠り続ける水銀燈。そこに、ベジータがやってくる。
べ「まだ寝てるのかよ。しかし、寝顔だけは天使みたいだな」
水「……むにゃ…むにゃ…」
見ていると、よだれが垂れそうになっていた。
べ「おい、よだれが垂れそうだぞ?」
返事がない。ここで、なんだか気持ち良くなってきたベジータ。
べ「今なら、起きている時に出来ないこと、いっぱい出来るのでは?」
妄想がふくらむ、ベジータ。とりあえず、自分の指を咥えさせるベジータ。
水「……ちゅぱ…ちゅぱ」
べ「こ、これは……」
暴走し始めるベジータ。奇声を上げながら、チャックを下ろす。
べ「さあ!今度は指じゃなくて、これを、ちゅぱちゅぱしてくれ!」
水「……う~ん……あんた、何やってるのぉ?」
べ「えっ!?いつ起きたの!?」
寝ぼけまなこで、手鏡を見る水銀燈。
水「……あっ、顔にひげみたいなの描かれてるぅ!」
べ「いや、それは知らないよ?俺はただ、ちゅぱちゅぱさせてもらっただけで…」
水「ちゅぱちゅぱぁ!?てゆうか、よく見たら、なんで脱いでんのよぉ?」
べ「あっ、えーと……」
水銀燈は、履いていた靴を脱いで、ベジータの『あれ』を靴で何度も殴った。
水「もう、使い物にならないわねぇそれ。ジャンクになっちゃったぁ」
べ「……うぅ…(これが俺の求めていた刺激だぜ…)」
…完。
『嫌いと好きの境界線』
最近、水銀燈は私と一緒にいてくれない。いつも一緒に昼休みに
お弁当を食べていたのに、今は三年生の教室で食べている。
彼女は決まって、その時「ごめん」と私に呟くんだ…。
私は、邪魔なのかなぁ…。もう、私は必要ないのかなぁ…。
水「ごめん、今日もめぐとお弁当食べるから、他の人と食べといてぇ」
薔薇「……うん。わかった」
本当は嫌なんだけど、そうしないと嫌われる気がしていた。
私は仕方なく、違うグループと一緒にお弁当を食べることにする。
蒼「あれ?最近、水銀燈とお弁当食べてないけど、喧嘩でもしたの?」
薔薇「ううん、そうじゃないよ…ただ…」
翠「ただ…なんですか?気になるです」
薔薇「ただ、私よりも仲が良い人と食べてるだけだよ…」
私がそう言うと、気まずい空気になった。
明るく振舞わないとダメだ。でも、冗談を言える元気がなかった。
薔薇「ねぇ、三年生のめぐって人、どういう人なの?」
翠「そうですねぇ、なんか重い病気かなんからしいですけど…」
薔薇「重い病気って何なの?」
蒼「確か、心臓が悪いとかいう話は聞いたけど…」
薔薇「……そうなんだ」
翠「なんでそんなに、暗い顔してるですか?もっと元気出しやがれです」
蒼「もしかして、めぐ先輩に水銀燈を取られて、自分は嫌われたと思ってるの?」
私が無言のまま頷くと、二人は笑いながら、「それはないよ」と
言ってくれた。でも、心配なんだ…。とても、心配なんだ。
双子の二人に慰められても、心は満たされなかった。溜まっていく憎悪。
私から水銀燈を奪った、めぐという先輩に対して、悪意が芽生えた。
こんなこと、考えたらいけないのは分かってる。でも、考えてしまう。
「病気で、早く死ねば良いのに……」
心の中で呟いても、自分に嫌気がさした。口には出せないよ、こんな事。
薔薇「……水銀燈、学校の帰りにどこか行かない?」
水「ごめん、今日はめぐと遊ぶ約束してるから…。また今度ね」
そう言って、そっけなく私の前から姿を消していった。
置き去りにされた気分になった。二人が楽しそうに笑ってる。
めぐ「水銀燈、どこに行きましょうか?」
水「そうねぇ、めぐが行きたい所なら、どこでも良いわぁ」
二人の会話が、耳を通り抜けていく。私はなんだか、泣きたくなった。
このまま、水銀燈は私と友達を止めるのかな……。家に帰り、私は
ふと、そんなことを思う。めぐ…。とても嫌い。
薔薇「いなくなっちぇば良いのに…」
こんなこと、言いたくなかった。でも、口に出してしまった。
薔薇「……嫌われて当然かも…」
私はその日、ぐっすりと眠る事にした。明日は日曜日だから
散歩でもすれば、気が晴れるだろう……。
次の日、昼過ぎまで眠っていたようだ。私は予定通りに散歩
に出かけた。でも、隣にはいつもいた水銀燈がいない。寂しい…。
大好きな公園が近づいた頃、あの人がいた。大嫌いなあの人が。
薔薇「……なんであそこにいるの?会いたくないのに…」
私は道を引き帰そうとした。でも、苦しむ声が聞こえた。
めぐ「うぅ、苦しぃ…。薬が…。薬を飲まないと」
胸を押さえながら、めぐは倒れこむ。
めぐ「はぁ…はぁ……。誰か……助けて…」
私には、関係ない。でも、どうしてだろうか?
あんな嫌いな奴がどうなろうと、知ったことじゃない。
でも、私の足は、自然と彼女の方向へと向かっていた。
薔薇「……しっかりして…薬はどこにあるの?」
めぐ「はぁ、はぁ、この……カバンに…」
無我夢中で、私はその人を救った。彼女が目を覚ました時に
言ってやるんだ。水銀燈と縁を切れと…。言ってやるんだ。
めぐ「……あなたが、助けてくれたの?」
薔薇「……わ、私の……」
めぐ「ありがとう……」
ただ、その一言が胸に刺さった。言いかけていた言葉が消えた。
薔薇「……あなたは、ずるい…。そんな笑顔で…」
気付けば、私は一番嫌いなこの人の胸で、泣いていた。
その人からは、優しい匂いがした…。
朝は、とてつもなく快晴だった。いつもと同じ登校ルートに
いつもと違う登校メンバー。なんだか、笑えてくるよね。
あんなに嫌いだったのに、今は好きになってるんだから。
水「ちょっとぉ、薔薇水晶、めぐにくっつきすぎよぉ?」
めぐ「別に良いのよ?もしかして、妬いてるの?」
水「だ、誰が!バカじゃないの」
薔薇「うふふ」
めぐ「まさか、命の恩人が水銀燈の友達だったなんてね~」
水「え?何かあったのぉ?私にも教えてよぉ」
めぐ「だ~め!私と薔薇水晶ちゃんだけの秘密だもんね~」
薔薇「ね~、めぐ」
水「何よぉ、私にも教えなさいよぉ、ケチ!」
嫌いと好きに、境界線はあるのだろうか?よくわかんないや。
私は、どうして嫌いだったんだろう?
私は、どうしてあの時、助けに行ったんだろう?
やっぱり、難しくてわかんないや。私が今わかってるのは一つだけ。
『めぐも、水銀燈も、同じぐらい大好き』ただ、それだけ。
…完。
水銀燈、空へ
翠「性格も黒いんだからお似合いです。キャハハハ」
銀「笑い事じゃないわよ」
J「朝起きたら、これじゃあ、そりゃ笑えんよなあ」
紅「あなた、病院には行かないの?」
銀「電話してみたんだけど、東京の大学病院へ行けって」
蒼「僕たちもついていっていいかな?」
銀「別にいいけど」
翠「キャハハハ」
J「笑いすぎだ」
ドクター「本当に黒い羽が生えているんだね」
銀「これはどういうことなんですかぁ?」
D「まず、DNAを調べてみる。他にも細かく検査しよう。2,3日かかるかな」
銀「そうですか」
蒼「それじゃ僕たちはこれで」
紅「水銀燈、気をしっかり持ちなさい」
銀「大丈夫よぉ」
翠(笑いすぎて腹筋が痛いです…)
J「あれから3日か」
蒼「今日は学校に来られると思うんだけどね」
翠「笑っちゃって授業が受けられなくなるです」
紅「……」
梅「お前らー、今日も水銀燈は休みだ。インフルエンザが酷くて入院したそうだよ」
J「入院か……」
J「水銀燈は大丈夫なんですか」
D「それがなあ……」
紅「はっきり仰ってください。水銀燈は」
D「あれは奇病だよ」
蒼「それは見れば分かりますよ」
翠「どうなっちゃうですか」
D「全身がカラスのようになるかもしれん」
翠「カ、ラス……」
J(さすがにこいつももう笑えないのか)
D「脳までやられるかは分からないが、口や喉はダメだろう」
紅「じゃあもう喋れなくなるんですか!」
D「よくてそれだ」
蒼「病気の原因は?」
D「やはり遺伝子の異常だろう。細かい原因は分からん」
J「このこと、マスコミには…?」
D「言ってないよ。水銀燈さんの残り少ない時間は静かに」
J「残り少ない!?」
D「1ヶ月もすれば全身が…」
紅「そんな…」
蒼「今、水銀燈には会えますか」
D「ああ。会ってあげてくれ。病気のことは言わないように」
銀「やっと検査終わったわぁ。でも入院だって」
J「そうか。じきによくなるさ。そしたらまた学校行こうな」
紅「あなたがいないと調子狂うのだわ」
銀「みんな…」
翠「元気だすです。らしくねーですよ」
蒼「そうだよ。病は気からっていうしね」
銀「絶対に治すから、待っててね」
J(うすうす気づいているようだ。くっ、なんとかならないのか)
紅「お父様に頼んで、アメリカの偉い医者を呼んだのだけど」
翠「翠星石と蒼星石は見舞いの花を育ててるです」
J「僕は服を作ってるんだ。羽があっても着られるやつを」
蒼「ふふ、水銀燈は幸せものだなあ」
紅「そうね。あの子には時間が、ないのですものね…」
J「おす、水銀燈元気にしてたか?」
銀「JUM、これ、これ…」
J「(やっぱり悪化してるのか。)……きっと治るから。真紅は偉い医者を呼んだっていうし」
銀「そうよね。大丈夫だよね」
J「ああ。大丈夫だ。だからこれ」
銀「あ、服作ってくれたんだぁ。ありがと」
J「どういたしまして」
ロ「ダメだそうだ。彼でも無理らしい。あとは科学者に頼むしか」
紅「そんな…お父様、お父様」
ロ「あんな病気は、人類の記憶にないんだ。残念だが」
紅「お父様ああ!!」
翠「水銀燈いるですかー」
蒼「入るよ」
銀「カーカー」
蒼「まさか!!」
翠「す、水銀燈…そんな…水銀燈ぉぉ」
銀「カー、クカー」
J「先生、脳までやられてしまったんですか?」
D「いや、そこまではまだ。しかし時間がなさそうだ」
紅「科学者は何て言っているんです?」
D「解剖しないと分からないって…」
翠「お手上げ、なんですね」
蒼「水銀燈…」
J「水銀燈、僕が分かるか?」
銀「カー」
J「本当は、僕はお前が好きだったんだ」
銀「カーカー」
J「見た目はカラスでも、これからも好きだ」
銀「カー……カー…」
J「水銀燈…水銀燈!!」
銀「ジュー、ジューー」
紅「水銀燈…」
蒼「今でも実感がないよ。まるで映画か小説みたいだ」
翠「きっと本人もそう思ってるはずです。だけど…」
J「脳もあと3日と持たないそうだ」
銀「カーカー」
D「あれはもう水銀燈ではない」
J「先生……彼女は、彼女は水銀燈です!」
D「……彼女には家族がいない。君が決めるんだ。彼女の未来を」
J「水銀燈は、何て言ってたんですか」
D「君に任せると」
J「そうですか。だったら、自然に帰してあげたい」
D「自然に、か」
J「こう思ってるんです。彼女は他人より自然に帰るのが、少し早かっただけだって」
紅「JUM……」
蒼「それがいいのかもしれないね」
翠「たまにはいいこと、言うですね……」
銀「カーカー」
J「水銀燈……」
J「さあ、飛ぶんだ水銀燈!」
銀「カーカー」
J「達者でやれよ、じゃあな、水銀燈!」
翠「水銀燈、さよならです」
蒼「お元気で!」
紅「水銀燈、水銀燈……」
銀「ジュー、ジューー」
紅「行っちゃったわね」
J「ああ。……真紅、驚くなよ」
紅「どうしたのJUM」
J「お前にも、黒い羽が生えてるんだ」
人間もいつか自然に帰るときが来るのかもしれません。
J「ZZzz……」
銀「JUM、気持ちよさそうに」
J「……水銀燈、好きだ……」
銀「えっ? なんだ寝言かぁ」
J「カラスになっても好きだ……」
銀「どんな夢よww」
銀「真紅ぅ、はいこれ」
紅「これは…私のお弁当」
銀「おいしかったわよぉ」
紅「空っぽじゃないの。水銀燈!」
銀「ふふ、おばかさぁん」
J「バカはお前だ」
銀「いたっ。何するのよぉ」
J「まったく。やめろよそういうこと」
紅「JUM、お弁当わけてちょうだい」
J「しょうがないな」
銀「なによなによぉ。あんたの弁当作ってるの私じゃない」
紅「……」
銀「ありがとうも言わないあんたが悪いのよ」
紅「ごめんなさい水銀燈。本当は感謝しているのよ」
銀「……そう」
J「なんだかんだで仲いいよなお前ら」
静かな夜。花も鳥も眠りにつく時間。
紺色の空には鋭い三日月と、一握りの星が転がっている。
月明かりの下、ある家の窓からかすかに光が漏れている。
一人の少女が窓を開け、夜の空気を部屋に取り込む。
涼しい風が少女の頬をかすめる。
薄いベールのように風になびく艶やかな長い髪。
彼女のものと思われる机の上には、電源のついたラジオ。
MCの明るい声が流れている。
MC「....おっと今回のRMラジオもそろそろお別れの時間のようだね。
さーて、本日のリクエストは『東京都・恋する銀色』さんより、『透明シェルター』!
それでは、See you,again ! 」
夜が明けていく。
薄く漂う朝霧を切り裂くような、けたたましい声。
「あぁぁぁぁ~~~!」
声の主は水銀燈。今は午前8時。
銀「ま、また寝坊よぉ! 今日遅刻したら単位がぁぁぁ!
めぐぅ! なんで起こしてくれなかったのぉ!?」
何故か保護者であるめぐに八つ当たりする水銀燈。
めぐ「そんなこと言っても、私は何度も起こしに言ったわ。
でも水銀燈ったら『あと5分~』とか言って布団に潜っちゃったじゃない。
まぁそんなあなたの寝顔もなかなか良かったわ♪」
銀「そ、そう?
恥ずかしいわぁ・・・・・じゃなくて!『あと5分』は『起こしてね』って意味よぉ!
とにかく今は登校の準備手伝ってぇ!」
めぐ「クス・・・はいはいお姫様。」
・
・
・
めぐ「じゃあ私は先に出るから鍵、忘れないでね。」
ひとまずその場は落ち着いた。
水銀燈は朝食もそこそこに家を駆け出す。
学校へつづく坂道を駆け抜ける水銀燈。
銀『こ、このペースだと少しヤバいかもぉ・・・。』
とはいえ足を休めれば遅刻は確定。
普通だったら歩いて間に合う距離だが今日は違った。
周りから見れば、自転車に乗ればいいのに・・・。と言いたくなる光景。
だが彼女は自転車を持っていない。ていうか乗れない。
チリンチリン
突然後方から聞こえた軽い音。誰かが自転車でこっちに向かって来る。
ジュン「水銀燈おはよ。ってお前また遅刻か?」
彼は桜田ジュン。水銀燈の幼馴染であり、水銀燈と同じクラス。そして水銀燈にとっての・・・
銀「み、見て分からないのぉ!? これは、その・・・そう! トレーニングよ!」
必死な彼女の顔を見てつい噴き出してしまうジュン。
ジュン「そうですか~なら僕は先に行くから、頑張れよ~w」
そういうとジュンは急ぐ素振りを見せる。
銀「ちょ、ちょっとぉ!」
さすがに焦る水銀燈。
ジュン「嘘だよ嘘wいいから後ろ乗れって。トレーニングはまた今度。な?」
銀「もう、バカ・・・」
そういうとジュンは力強く水銀燈の腕を引っ張る。
水銀燈を後ろに乗せ、ゆっくりペダルを踏み出すジュン。
ジュン「飛ばすぞ! しっかり掴まってろよ! 」
坂道を一気に下る二人。
水銀燈「きゃあ! ちょ、ちょっと、速すぎよぉ!?」
反射的にジュンの背中に体を寄せてしまう。
『ジュンの背中ってこんなに大きかったのね・・・。ずっと冴えない子と思っていた。
なのに、いつからかしら、この感じ・・・。あなたの顔を見ると胸が締め付けられるよう。
真紅たちと話しているあなたを見かける度に思ったわ。私だけを見て。私だけを感じて・・・。
ジュン、あなただけが私の心の泉。あなただけが私の・・・
私もう限界なの。もう・・・我慢したくないの。今なら・・・今なら言える。』
ジュン「よっし到着!ってなんだ、ぜんぜん間に合ったな!」
人気の無い駐輪場。気持ちは固まっている。
銀「・・・ねぇ、ジュン。」
ジュン「なんだ?水銀燈。」
ジュンの瞳を捉える水銀燈のヒトミ。
銀「私は、あなたが好き。ずっと。愛しています。」
空気の流れが止まる。呆然としていたジュンがやっと我に返ったのか、なんとか何かを言おうとする。
ジュン「あ、あの・・・。その、僕・・・」
銀「ストップ!」
突然喝の入った声が木霊する。
ジュン「え?」
ふふ、と水銀燈の口元が緩む。
銀「ごめんね。今はあなたの答えを聞くつもりはないの・・・。
それがたとえ私にとってどんなものでも・・・。
私は私の気持ちを伝えたかった。胸が苦しかった・・・。」
「乙女を焦らすなんて紳士じゃないわ。
だから・・・だからいつかきっと、あなたから言わせてみせるわ。
その日まで私は私を磨き続けるわ。誰も敵わないほどに。
私は水銀燈。誇り高いあなたの・・・」
静寂が流れた。ジュンは水銀燈の言葉をしっかり受け止めていた。
ジュン「分かった・・・。よし!早く教室に行こうぜ。ホントに遅刻しちまう。」
走り出す二人。水銀燈はもうジュンの背中を追うことはやめた。
いつか、振り向かせるために・・・。
fin
『二人の先輩』
薔薇学園には、人気の高い二人の先輩がいる。一人はローゼン
というハーフの男子。女子に人気だ。もう一人はめぐという病弱
な女子。この二人に過剰に夢中なのが、後輩の水銀燈と蒼星石だ。
めぐ「私ね、今UFOキャッチャーにはまってるの」
水「そうなんだぁ…。ぬいぐるみが好きなのぉ?」
めぐ「うん!でもね、どうしても取れない景品があるの」
水「どんなのぉ?聞かせてくれるぅ?」
めぐ「えっとねぇー、くんくん探偵のくんくんよ」
水「…それが欲しいのぉ?」
めぐ「うん。でも、お小遣いも減ってきたし、あきらめようかなってね…」
水銀燈は、めぐ先輩のためなら、手段を選びはしない…。
一方その頃、別の場所ではローゼン先輩と蒼星石がおしゃべりをしていた。
ロ「やっぱり、人形は最高だよ」
蒼「人形が好きなんですね。僕も好きですよ?」
ロ「話がわかる子だね。実は今とても欲しいものがあるんだ」
蒼「…彼女とか…ですか?」
ロ「いや、UFOキャッチャー限定のくんくん人形だ」
蒼「…くんくん人形ですか…」
ロ「喉からアワビが出るほど欲しいんだ…どうしたもんか…」
蒼「…僕に任せてください!先輩のためなら、がんばります」
蒼星石は、ローゼン先輩のためなら、ユダにでもなんでもなる。
水「めぐのために…くんくん人形を手に入れないと…」
蒼「ローゼン先輩に褒められたい…。人形を手に入れないと…」
当然、狙われるのはくんくん探偵が好きな、真紅である。
教室で本を読む真紅に、最初に話しかけたのは、蒼星石だった。
蒼「真紅、くんくん探偵好きなんだよね?」
真「…好きじゃないわ。愛しているのよ」
蒼「…でさぁ、頼みがあるんだけど、ぬいぐるみ持ってる?」
真「持ってるわ。それがどうかしたの?」
蒼「なんでもするから、ちょうだい!」
真「い、嫌だわ。UFOキャッチャー限定なのよ?どれだけ苦労したか」
蒼「そこをなんとかお願いだよ、真紅」
蒼星石は、この後何回もおねだりしたが、真紅は断固拒否し続けた。
仕方なく、自分で取ることにする蒼星石。だが、ゲーセンには先客がいた。
殺気を漂わせながら、UFOキャッチャーを睨み付ける水銀燈。
水「イライラするわねぇ~。なんなのよ、これぇ」
蒼「水銀燈、君もくんくん人形を狙ってるの?」
水「そうよぉ~。まさか、あんたも狙いに来たんじゃないでしょうねぇ?」
蒼「残念だけど、そうだよ。僕が先にゲットさせてもらうよ」
水「冗談じゃないわぁ~。私が先よぉ~。邪魔しないで」
蒼「ちょっと待って、くんくん人形が二つあるよ」
UFOキャッチャーの中には、二つくんくん人形が入っていた。
二人は思った。無駄な争いは避けて、協力して取ろうと…。
何度も挑戦する二人。二個同時にゲットなんて、無茶だけど
二人は必死になって、UFOキャッチャーをやり続ける。
水「ああ!蒼星石が揺らすから、失敗したじゃなぁい!」
蒼「僕のせいじゃないよ!水銀燈のスキルが足りないのが原因でしょ!」
水「私が悪いって言うの!?もう怒ったわぁ」
そう言って、水銀燈はゲームセンターを出ていった。
蒼「…言い過ぎたかな…。後で謝らないと…」
が、すぐに水銀燈は戻ってきた。コンクリートブロックを持って。
水「これで、一撃よぉ~。私のスキル、見せてあげるわぁ」
蒼「お、落ち着いてよ水銀燈!UFOキャッチャー壊す気でしょ!?」
水「これで終わりよぉ~。覚悟しなさぁい、UFOキャッチャー!」
店員「こらこら、何をしてるんだ君は!出入り禁止にするぞ」
水「…わっ…ごめんな…いたぁぁぁぁぁ!!」
店員に呼ばれて焦ったのか、ブロックを足元に落とす水銀燈。
水「…べ、別に痛いから泣いてるんじゃないもん…」
蒼「…じゃあ、悔しくて泣いてるの?」
水「うぐっ…えっぐ…違う…。もうやだぁ。蒼星石一人で、私の分も取っといて」
蒼「…それじゃあ、意味ないよ…」
結局、二人はお金が無くなるまでUFOキャッチャーをやり続けた。
でも、最後の最後まで取れなかった。
次の日、蒼星石はローゼン先輩と、水銀燈はめぐ先輩と一緒に
登校していた。
めぐ「どうしたの?足にギブスして…捻挫でもしたの?」
水「ち、違うわぁ…。なんでも良いでしょぉ」
めぐ「ふ~ん。あっ、そうだ。昨日言ってたくんくん人形、手に入れたんだ」
水「うそぉ!?(私の努力は…)」
めぐ「なんかねぇ、薔薇水晶って子がくれたんだ。お友達?」
水「え?うん、友達だけど…」
めぐ「その子にありがとうって、言っといてね。昨日言い忘れてたから」
水「わかったわぁ…(でも、どうして薔薇水晶が?)」
その頃、ローゼンと蒼星石はというと…。
ロ「くんくん人形、ありがとう。君には感謝してるよ」
蒼「え?僕は何もしてませんけど…」
ロ「またまたぁ、昨日の夜、家の前に君からの手紙つきで置いてあったよ?」
蒼「??え?あの、えーと、それ、僕が置いたんです(ウソだけど)」
ロ「とにかく、ありがとう。本当にありがとう」
蒼「照れちゃいますよぉ…(でも一体、誰が?)」
二人は気付いていない。二人には、応援してくれる人がいるってこと。
翠「作戦大成功ですね!UFOキャッチャーなら、私を呼べば良いですのに」
薔薇「…水銀燈も、どうして言ってくれなかったんだろ。でも、良かったね」
…完。