第六話 招かれざる客
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デイヴィッド・リマーは昨晩静かに床に就いた。
ここ二年間のニート生活時に比べると、遥かによく眠れた。
ただ、いつもの夢だけは相変わらずデイヴの意識の中に入り込むことを忘れはしなかった。
ここ二年間のニート生活時に比べると、遥かによく眠れた。
ただ、いつもの夢だけは相変わらずデイヴの意識の中に入り込むことを忘れはしなかった。
一人の少女が、悠久の時を眠る。
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…
初雪のように白い肌に咲き誇るは、薔薇のように美しい唇。
少女には恐らく感情というものはない。眠ってはいるのだが、目を覚ましたとて、美の権化がただ在るだけだという印象を与える。
あまりの美しさに、そっと触れようと手を伸ばす。
決して遠くはない距離にいる少女に触れるには、少しの時があれば十分だろう。
しかし、あまりにも遠い。あまりにも永い。
その時間さえ愛おしく思えるほどの美しさ…
そして、指先が少女の面を捉えた刹那…
そして今彼は気づく。目の前の少女、エリスと名乗る少女こそが、夢の中に出てくる少女であったことに。
「お前…」
突然の出来事に混乱するデイヴの冷や汗は止まらない。
先ほどマルスのカメラファンネルで受けた傷の痛みに苦しんだことなど、遥か遠い昔のことのようだ。
デイヴの頭の中を様々な疑問が駆け抜けた。
襲いかかって来たアンノウン(ローズのことだ)は一体何者なのか。
目の前で戦っていたガンダムは一体何なのか。
そしてそれに乗るパイロット…クランとアレスという少女と少年の名。(二年前のデイヴの記憶の中ではクランは少女と呼べる年齢だ)
何故彼ら姉弟がそんな機体に乗って、こんなところで(ああ、あまつさえ俺の目の前で!)争っていたのか…
見たこともない装備と技術の数々。圧倒的な性能。
そして今自らの前に導かれるようにして現れたガンダムドルチェ。
二年前の悲劇を起こした機体が何故…?
エリス。自分にずっと会いたかったといった少女。
今までの26年間、みずからの両親と親友のフィリア以外からの誰からも、ただの一度もそんなことを言われたことはない。
新鮮な気持ちのまま、デイヴはエリスによって、ドルチェの甘美なる純白の世界に引きずり込まれようとしていた。
そんな彼女が、何故俺の夢の中に…?
今世界で何が起ころうとしているのか、デイヴは世界の、宇宙の声を聞いたような気がした。
「ああ、デイヴ、デイヴ。私は今、あなたに会えてとても嬉しいの。ね。だからそんな顔をしないで?」
シンシアと…また、ドルダを駆る謎の少女がしてみせたように、わずかに首をかしげて微笑みかける。
それはまさに、悪魔の微笑み。
いや、決して醜いというわけではないのだ。あまりに美しすぎて。あまりに眩しすぎて。
けれど彼女の笑みは、本当に純粋な、または正義の心を持つ者が一目見たなら、なんていやな笑顔なんだろう、と言うかもしれない。
今のデイヴはそのどちらでもなかった。
ただただ静かに、その美しさに呑まれ、けれど必死の思いで自我を保ったまま、少女に問う。
「お前は何だ…そしてこの機体は…?」
「運命よ」
言い終わる前にエリスは言う。まるでこの世に存在するすべての「動き」と呼べるものを止めてしまうような、氷の声で。
「あなたがフィリア・シュードと再会した時から運命の序曲は始まっていたの。そしてクラン・R・ナギサカ、アレス・C・ナギサカと再会した時、そして」
ここで一旦言葉を切り、再びその唇は言の葉を紡ぐ。
「私との出会いが、運命を加速させる」
毒りんごのような笑み。
再び口を開くデイヴ。
「お前は…この機体で何をしようとしている…!?」
すると少女は、ああ、と気楽そうに頷き、答える。
「私は歯車。偉大なる意志の僕。その役目を果たすだけの存在。そしてあなたは」
またも、言葉を切る。
「選ばれし者。私のパートナー」
「…ふっざけるな!」
激昂するデイヴ。
「何が歯車だ!何が運命だ!じゃ二年前お前が地球で起こしたあの悲劇も運命だったとでも言うのかよ!」
「ええ」
「…っ!」
こともなげに答える少女。やがて心から悲しそうな顔をして言う。
「ああ、デイヴ、デイヴ。悲しいわ、お願いだからそんな事を言うのはやめて」
しかしその表情は、真の賢者なら、人の機微というものに敏い者なら、あるいは太宰風に言うと、美醜についての訓練を経てきた人なら…
その表情は、簡単に見抜くことが出来る。
しかし、それさえ計算して。それさえわざとである少女。続けて言う。
「あなたが悲しいと、私も悲しいの」
「だったら今すぐここから降ろせ。俺はもう金輪際厄介事はゴメンだ。ニートやってた方がまだマシってもんだ」
もう、誰とも関わらない…デイヴは再び固く決意したのだった。
フィリア、ディック、シヴォーフ、ネルネ、ゲイリー…
そしてクラン・R・ナギサカとその妹弟、父母。
最後に自らの両親の顔を思い浮かべ、デイヴはうつむき涙する。
そんなデイヴを優しく抱き締めるエリス。
「大丈夫、あなたは私が守るから…」
悪魔の優しさに捉われた中で、デイヴィッド・リマーは再びまどろみの夢を見る。
一方クラン・R・ナギサカとアレス・ルナークはそれぞれの乗る機体を沈黙させ、向かい合っていた。
その沈黙を破るのはクラン。
「アレス、とにかく今はお互い色々と気になることがあると思うの。降りて話をしましょう」
「…わかった」
アレスは思っていた。姉・クランの先ほどの呼びかけは、ドルダを恐れるあまり自らが作り出した幻聴なのではないかと。
しかし、改めてその声を聞いて。二年前、力を渇望したがゆえに袂を分かつこととなった姉と再び向き合う。
先にドルダのハッチが開き、ノーマルスーツを着たクランが出てくる。
呼吸は出来る、先程のミランダ・ウォンとのやり取りを思い出しながらヘルメットを外す。
美しい艶のある長い赤髪が露になる。
(…!)
それを見て決心したアレスもまた、マルスのハッチを開け、火星の大地に降り立つ。
同様にヘルメットを外すと、そこには幼さを残しながらも凛々しい瞳を持った弟の姿があった。
「…ああ!」
クランは思わず弟を抱き締める。
本当の、家族の温もり。クランはドルダを駆る謎の少女に抱いたのとはまた別な親愛の念を、弟に対して抱く。
アレスもまた、忘れかけていたモノを思い出し、一瞬目を丸くしたものの、その温もりに全てを委ねた。
「アレス、ずっとあなたを探していたの…」
「クラン…姉さん…」
クランは今まで感じた恐怖の全てを置き去りにしたまま、アレスに言う。
「ね、アレス。これからは二人で暮らしましょう。私達は、たった二人の家族なのよ」
言った後、謎の少女のことを思い出し頭が疼く。けれど、その痛みさえ…
しかしアレスは、本当に、本当に精一杯、こみあげてきそうな何かを抑えて、深呼吸してから言う。
「クラン、姉さん!俺は見つけたんだ。シンシアと…姉さんともう一度会えるかもしれない方法を!あなたと別れてから二年間、ずっとずっと探していたんだ。
姉さん達と俺と、三人で暮らせる日々を…」
胸の中に洪水のように溢れる想いの全てを、抱きとめてくれるであろう姉にぶつける。
けれど、クランは…
「もういいの、アレス。あなたがいてくれたなら、私はこれ以上何も要らない!あなたがこれ以上危ない目に遭うのは、私には耐えられない。だから…」
言いかけたクランに、アレスは意外そうな、焦点の合わない瞳でクランを見つめる。
「クランは…姉さんは、シンシアに会いたくないの…?」
「それは…」
口籠るクラン。会いたくないと言えば、嘘になる。
けれど、こうして。火星開発公社の情報網を頼みの綱に、弟を探してきたのだ。
やっと会えたアレスを、もう失いたくないという気持ちの方が大きい。
「だったらクラン。俺と一緒に行こう?」
手を差し伸べるアレス。
「二人でシンシアを…姉さんを、助けるんだ」
「アレス!」
クランが叫ぶ。ああ、もう戻らない過去に、これ以上囚われるのはやめて…!
次の瞬間、ドルダのコクピットハッチが開き、シンシアと思しき謎の少女が二人の前に姿を見せるのだった。
「お前…」
突然の出来事に混乱するデイヴの冷や汗は止まらない。
先ほどマルスのカメラファンネルで受けた傷の痛みに苦しんだことなど、遥か遠い昔のことのようだ。
デイヴの頭の中を様々な疑問が駆け抜けた。
襲いかかって来たアンノウン(ローズのことだ)は一体何者なのか。
目の前で戦っていたガンダムは一体何なのか。
そしてそれに乗るパイロット…クランとアレスという少女と少年の名。(二年前のデイヴの記憶の中ではクランは少女と呼べる年齢だ)
何故彼ら姉弟がそんな機体に乗って、こんなところで(ああ、あまつさえ俺の目の前で!)争っていたのか…
見たこともない装備と技術の数々。圧倒的な性能。
そして今自らの前に導かれるようにして現れたガンダムドルチェ。
二年前の悲劇を起こした機体が何故…?
エリス。自分にずっと会いたかったといった少女。
今までの26年間、みずからの両親と親友のフィリア以外からの誰からも、ただの一度もそんなことを言われたことはない。
新鮮な気持ちのまま、デイヴはエリスによって、ドルチェの甘美なる純白の世界に引きずり込まれようとしていた。
そんな彼女が、何故俺の夢の中に…?
今世界で何が起ころうとしているのか、デイヴは世界の、宇宙の声を聞いたような気がした。
「ああ、デイヴ、デイヴ。私は今、あなたに会えてとても嬉しいの。ね。だからそんな顔をしないで?」
シンシアと…また、ドルダを駆る謎の少女がしてみせたように、わずかに首をかしげて微笑みかける。
それはまさに、悪魔の微笑み。
いや、決して醜いというわけではないのだ。あまりに美しすぎて。あまりに眩しすぎて。
けれど彼女の笑みは、本当に純粋な、または正義の心を持つ者が一目見たなら、なんていやな笑顔なんだろう、と言うかもしれない。
今のデイヴはそのどちらでもなかった。
ただただ静かに、その美しさに呑まれ、けれど必死の思いで自我を保ったまま、少女に問う。
「お前は何だ…そしてこの機体は…?」
「運命よ」
言い終わる前にエリスは言う。まるでこの世に存在するすべての「動き」と呼べるものを止めてしまうような、氷の声で。
「あなたがフィリア・シュードと再会した時から運命の序曲は始まっていたの。そしてクラン・R・ナギサカ、アレス・C・ナギサカと再会した時、そして」
ここで一旦言葉を切り、再びその唇は言の葉を紡ぐ。
「私との出会いが、運命を加速させる」
毒りんごのような笑み。
再び口を開くデイヴ。
「お前は…この機体で何をしようとしている…!?」
すると少女は、ああ、と気楽そうに頷き、答える。
「私は歯車。偉大なる意志の僕。その役目を果たすだけの存在。そしてあなたは」
またも、言葉を切る。
「選ばれし者。私のパートナー」
「…ふっざけるな!」
激昂するデイヴ。
「何が歯車だ!何が運命だ!じゃ二年前お前が地球で起こしたあの悲劇も運命だったとでも言うのかよ!」
「ええ」
「…っ!」
こともなげに答える少女。やがて心から悲しそうな顔をして言う。
「ああ、デイヴ、デイヴ。悲しいわ、お願いだからそんな事を言うのはやめて」
しかしその表情は、真の賢者なら、人の機微というものに敏い者なら、あるいは太宰風に言うと、美醜についての訓練を経てきた人なら…
その表情は、簡単に見抜くことが出来る。
しかし、それさえ計算して。それさえわざとである少女。続けて言う。
「あなたが悲しいと、私も悲しいの」
「だったら今すぐここから降ろせ。俺はもう金輪際厄介事はゴメンだ。ニートやってた方がまだマシってもんだ」
もう、誰とも関わらない…デイヴは再び固く決意したのだった。
フィリア、ディック、シヴォーフ、ネルネ、ゲイリー…
そしてクラン・R・ナギサカとその妹弟、父母。
最後に自らの両親の顔を思い浮かべ、デイヴはうつむき涙する。
そんなデイヴを優しく抱き締めるエリス。
「大丈夫、あなたは私が守るから…」
悪魔の優しさに捉われた中で、デイヴィッド・リマーは再びまどろみの夢を見る。
一方クラン・R・ナギサカとアレス・ルナークはそれぞれの乗る機体を沈黙させ、向かい合っていた。
その沈黙を破るのはクラン。
「アレス、とにかく今はお互い色々と気になることがあると思うの。降りて話をしましょう」
「…わかった」
アレスは思っていた。姉・クランの先ほどの呼びかけは、ドルダを恐れるあまり自らが作り出した幻聴なのではないかと。
しかし、改めてその声を聞いて。二年前、力を渇望したがゆえに袂を分かつこととなった姉と再び向き合う。
先にドルダのハッチが開き、ノーマルスーツを着たクランが出てくる。
呼吸は出来る、先程のミランダ・ウォンとのやり取りを思い出しながらヘルメットを外す。
美しい艶のある長い赤髪が露になる。
(…!)
それを見て決心したアレスもまた、マルスのハッチを開け、火星の大地に降り立つ。
同様にヘルメットを外すと、そこには幼さを残しながらも凛々しい瞳を持った弟の姿があった。
「…ああ!」
クランは思わず弟を抱き締める。
本当の、家族の温もり。クランはドルダを駆る謎の少女に抱いたのとはまた別な親愛の念を、弟に対して抱く。
アレスもまた、忘れかけていたモノを思い出し、一瞬目を丸くしたものの、その温もりに全てを委ねた。
「アレス、ずっとあなたを探していたの…」
「クラン…姉さん…」
クランは今まで感じた恐怖の全てを置き去りにしたまま、アレスに言う。
「ね、アレス。これからは二人で暮らしましょう。私達は、たった二人の家族なのよ」
言った後、謎の少女のことを思い出し頭が疼く。けれど、その痛みさえ…
しかしアレスは、本当に、本当に精一杯、こみあげてきそうな何かを抑えて、深呼吸してから言う。
「クラン、姉さん!俺は見つけたんだ。シンシアと…姉さんともう一度会えるかもしれない方法を!あなたと別れてから二年間、ずっとずっと探していたんだ。
姉さん達と俺と、三人で暮らせる日々を…」
胸の中に洪水のように溢れる想いの全てを、抱きとめてくれるであろう姉にぶつける。
けれど、クランは…
「もういいの、アレス。あなたがいてくれたなら、私はこれ以上何も要らない!あなたがこれ以上危ない目に遭うのは、私には耐えられない。だから…」
言いかけたクランに、アレスは意外そうな、焦点の合わない瞳でクランを見つめる。
「クランは…姉さんは、シンシアに会いたくないの…?」
「それは…」
口籠るクラン。会いたくないと言えば、嘘になる。
けれど、こうして。火星開発公社の情報網を頼みの綱に、弟を探してきたのだ。
やっと会えたアレスを、もう失いたくないという気持ちの方が大きい。
「だったらクラン。俺と一緒に行こう?」
手を差し伸べるアレス。
「二人でシンシアを…姉さんを、助けるんだ」
「アレス!」
クランが叫ぶ。ああ、もう戻らない過去に、これ以上囚われるのはやめて…!
次の瞬間、ドルダのコクピットハッチが開き、シンシアと思しき謎の少女が二人の前に姿を見せるのだった。
「雲行きが怪しくなってきたな…」
呟くギデオン。テラ・フォーミング後の火星に、初めての雨が降ろうとしているのだろうか。
ところで、半ば空気と化していた第一次調査隊を登場させられるのは嬉しい限りで。
「クランさんから連絡、来ないですか?」
モモが心配そうに言う。
ミランダは先ほどから通信機器をいじり、音信不通となっていたクランへのコンタクトを試みている。
ヴァイスはというと、黙ったまま腕を組んで、壁にもたれかかっていた。
ふとヴァイスが顔を上げると、見知らぬ飛空挺がその影を見せていた。
「隊長、アレは…?」
驚く調査隊の面々。
ただ一人、ギデオンのみがその飛空挺のことを知っていた。
「あれは…カナリヤ…?」
「カナリヤって何ですかー?わかりませーん!モモにもわかるように説明してくださいよー!」
「公社の飛空挺だ。我々を救援に来てくれたのかもしれない。信号を送ってみよう、ウォン君!」
ミランダに言うギデオン。
「でも、クランさんは…?」
戸惑うミランダに、ヴァイスが言う。
「本当にアレが俺達を助けに来たってんなら、アイツの捜索にも協力してくれるはずだ。とにかく今は人手が欲しい。俺は隊長に賛成だな」
比較的冷静なヴァイスだったが、内心はヒヤヒヤものだった。
「…わかりました」
ミランダはそう言うと、通信機器をいじるのをやめ、カナリヤに向けて救援信号弾を放った。
「!」
最初にその信号弾に気づいたのはフィリアだった。その操縦を止めさせる。
「待って!今誰かが救援信号弾を…!」
フィリア・シュード達第七次調査団も、ディック、ネルネ、ゲイリーの三名を保護した後、デイヴの捜索を行っていたのだった。
「構わん、落ちこぼれのグワッシュだけを探せばよいのだ」
冷たく言い放つはスメッグヘッド教授。
「しかし教授!もしかしたらあれがデイヴからの合図なのかもしれませんし…」
「シュード君、君の目はふし穴かね?アレはグワッシュに搭載された信号弾とは別のものだ」
「遭難者ならなおのこと…」
「我々以外にこの火星に誰かがいるとでも言うのかね!とにかく我々は今そんな些末なことにかかずらっている暇はないのだ!」
「いいじゃないですか、教授。行きましょう」
論争中のフィリアに助け舟を出したのはディック。
「中尉…!君までそんなことを言うのかね!?」
「今はとにかく情報が欲しい。もしかしたらこれがアイツに繋がる情報になるのかもしれない。
それに仮に遭難者がアンノウンのパイロットだとしても、捕虜にして色々と問い詰めることが出来る」
「…くっ!」
口を噤むスメッグヘッド。やがてぶっきらぼうに言う。
「…好きにせい!その代り私はこの件に関しては一切関与しない!」
「ありがとうございます!」
頭を下げるフィリア。その後でディックに小さくウインクをしてから礼を言う。
「ありがとう、中尉」
「…っス」
顔を赤らめるディック。…お年頃なのであった。
やがてカナリヤは低空飛行へと移行し、ギデオン達第一次調査隊の元へ降り立った。
呟くギデオン。テラ・フォーミング後の火星に、初めての雨が降ろうとしているのだろうか。
ところで、半ば空気と化していた第一次調査隊を登場させられるのは嬉しい限りで。
「クランさんから連絡、来ないですか?」
モモが心配そうに言う。
ミランダは先ほどから通信機器をいじり、音信不通となっていたクランへのコンタクトを試みている。
ヴァイスはというと、黙ったまま腕を組んで、壁にもたれかかっていた。
ふとヴァイスが顔を上げると、見知らぬ飛空挺がその影を見せていた。
「隊長、アレは…?」
驚く調査隊の面々。
ただ一人、ギデオンのみがその飛空挺のことを知っていた。
「あれは…カナリヤ…?」
「カナリヤって何ですかー?わかりませーん!モモにもわかるように説明してくださいよー!」
「公社の飛空挺だ。我々を救援に来てくれたのかもしれない。信号を送ってみよう、ウォン君!」
ミランダに言うギデオン。
「でも、クランさんは…?」
戸惑うミランダに、ヴァイスが言う。
「本当にアレが俺達を助けに来たってんなら、アイツの捜索にも協力してくれるはずだ。とにかく今は人手が欲しい。俺は隊長に賛成だな」
比較的冷静なヴァイスだったが、内心はヒヤヒヤものだった。
「…わかりました」
ミランダはそう言うと、通信機器をいじるのをやめ、カナリヤに向けて救援信号弾を放った。
「!」
最初にその信号弾に気づいたのはフィリアだった。その操縦を止めさせる。
「待って!今誰かが救援信号弾を…!」
フィリア・シュード達第七次調査団も、ディック、ネルネ、ゲイリーの三名を保護した後、デイヴの捜索を行っていたのだった。
「構わん、落ちこぼれのグワッシュだけを探せばよいのだ」
冷たく言い放つはスメッグヘッド教授。
「しかし教授!もしかしたらあれがデイヴからの合図なのかもしれませんし…」
「シュード君、君の目はふし穴かね?アレはグワッシュに搭載された信号弾とは別のものだ」
「遭難者ならなおのこと…」
「我々以外にこの火星に誰かがいるとでも言うのかね!とにかく我々は今そんな些末なことにかかずらっている暇はないのだ!」
「いいじゃないですか、教授。行きましょう」
論争中のフィリアに助け舟を出したのはディック。
「中尉…!君までそんなことを言うのかね!?」
「今はとにかく情報が欲しい。もしかしたらこれがアイツに繋がる情報になるのかもしれない。
それに仮に遭難者がアンノウンのパイロットだとしても、捕虜にして色々と問い詰めることが出来る」
「…くっ!」
口を噤むスメッグヘッド。やがてぶっきらぼうに言う。
「…好きにせい!その代り私はこの件に関しては一切関与しない!」
「ありがとうございます!」
頭を下げるフィリア。その後でディックに小さくウインクをしてから礼を言う。
「ありがとう、中尉」
「…っス」
顔を赤らめるディック。…お年頃なのであった。
やがてカナリヤは低空飛行へと移行し、ギデオン達第一次調査隊の元へ降り立った。
デイヴはエリスに言われるまま、二つある操縦席のうちの一つに座る。
「…あの二機に何かするつもりなのか?」
「んー、場合によっては。今の私はただの監視者(ウォッチャー)」
「…俺をどうするつもりだ?」
「心配しないで?あなたをさらったりはしないわ。ただ、あなたの調査団に私も加えてもらうだけだから」
「そんなこと、あのジジイが黙っちゃいねえぞ」
「この機体…ドルチェをチラつかせればスメッグヘッド教授なんてお手の物」
「知られたらマズイんじゃないのか?」
「まさか。これは人の手の届かない領域の物だから。アレと違ってね」
全天周モニターに映るマルスを顎で差し、エリスは薄く笑う。
「だったら尚更マズイじゃねえか」
「どうして?人間ごときに理解できるシロモノじゃないのよ、ドルチェは」
デイヴの顔が険しくなる。
「…お前、一体何者だ…?」
「初めて聞いてくれたわね。嬉しい!」
「はぐらかすな。答えろ、お前は何者なんだ」
「待って。今はまだその時じゃないわ。いつかあなたにも全てを話す。決してあなたを信用してないわけじゃない。もう少し待って」
「ハッ!信用も信頼もしてくれなくていいから、サッサと帰してくれよ」
「まだそんなことを言うの、あなたは…?」
少女は再び悲しそうに言うと、そっとデイヴに口づけた。
「…っ!」
悔しそうな男の顔を、再び悪魔が押さえつける。
「シン、シア…!?」
ドルダから降りてきた少女を見て、アレスは驚き、そして大いに喜ぶ。
「シンシア!」
クランの制止も聞かず、シンシアの元へ駆けるアレス。
「会いたかった…シンシア、ずっとずっと、貴女だけを探していたんだ…!」
困惑の少女を余所に、アレスは涙する。
(やはりティモール…いや、ルナーク博士の言う通り…!)
もはやアレスにとっては、目の前の少女が本物の姉であろうとなかろうと関係なかった。
偽物でも幻でも構わない…夢よ、醒めないで…
泣きむせぶアレスに少女の残酷な一言が突き刺さる。
「あなた、誰?」
目を丸くするアレス。ああ、やはり彼女は…僕の、姉さんでは…
わかってはいたことだが、実際に言われるとやはりツライものがある。
「放して。私はお姉ちゃんと一緒にドルダに乗るの」
「「!」」
驚愕のアレスとクラン。
「行こ、お姉ちゃん」
ゆっくりとアレスを振りほどき、クランの手をとってからドルダの元へ行こうとする少女。
悲しみと混乱が、再び世界を支配する。
「…あの二機に何かするつもりなのか?」
「んー、場合によっては。今の私はただの監視者(ウォッチャー)」
「…俺をどうするつもりだ?」
「心配しないで?あなたをさらったりはしないわ。ただ、あなたの調査団に私も加えてもらうだけだから」
「そんなこと、あのジジイが黙っちゃいねえぞ」
「この機体…ドルチェをチラつかせればスメッグヘッド教授なんてお手の物」
「知られたらマズイんじゃないのか?」
「まさか。これは人の手の届かない領域の物だから。アレと違ってね」
全天周モニターに映るマルスを顎で差し、エリスは薄く笑う。
「だったら尚更マズイじゃねえか」
「どうして?人間ごときに理解できるシロモノじゃないのよ、ドルチェは」
デイヴの顔が険しくなる。
「…お前、一体何者だ…?」
「初めて聞いてくれたわね。嬉しい!」
「はぐらかすな。答えろ、お前は何者なんだ」
「待って。今はまだその時じゃないわ。いつかあなたにも全てを話す。決してあなたを信用してないわけじゃない。もう少し待って」
「ハッ!信用も信頼もしてくれなくていいから、サッサと帰してくれよ」
「まだそんなことを言うの、あなたは…?」
少女は再び悲しそうに言うと、そっとデイヴに口づけた。
「…っ!」
悔しそうな男の顔を、再び悪魔が押さえつける。
「シン、シア…!?」
ドルダから降りてきた少女を見て、アレスは驚き、そして大いに喜ぶ。
「シンシア!」
クランの制止も聞かず、シンシアの元へ駆けるアレス。
「会いたかった…シンシア、ずっとずっと、貴女だけを探していたんだ…!」
困惑の少女を余所に、アレスは涙する。
(やはりティモール…いや、ルナーク博士の言う通り…!)
もはやアレスにとっては、目の前の少女が本物の姉であろうとなかろうと関係なかった。
偽物でも幻でも構わない…夢よ、醒めないで…
泣きむせぶアレスに少女の残酷な一言が突き刺さる。
「あなた、誰?」
目を丸くするアレス。ああ、やはり彼女は…僕の、姉さんでは…
わかってはいたことだが、実際に言われるとやはりツライものがある。
「放して。私はお姉ちゃんと一緒にドルダに乗るの」
「「!」」
驚愕のアレスとクラン。
「行こ、お姉ちゃん」
ゆっくりとアレスを振りほどき、クランの手をとってからドルダの元へ行こうとする少女。
悲しみと混乱が、再び世界を支配する。
第七次調査団のカナリヤに、捕虜として連行された第一次調査隊の面々。
唯一フィリアだけがその待遇に異議を唱えるが、傲慢なスメッグヘッド教授によって阻まれたのだった。
その尋問に、フィリアとディックが当たり、数分の時が過ぎていた。
ちなみにスメッグヘッドは相変わらずデイヴの、いや、グワッシュのミッションレコーダーを鋭意捜索中である。
「だからぁ!モモ達は怪しい者じゃないんですよぉ!早くクランさんを探さなきゃって言ってるじゃないですかー!」
モモ・マレーンがふくれっ面で二人に抗議する。
続いてギデオンが、出来るだけ落ち着いた態度で二人に事情を説明する。
「確かに我々は、あなた方同様地球本社の者ではなく、公社のコロニー支社の者です。しかし、人命がかかっているのです!
勝手なお願いであることは承知の上です。どうか捜索に協力していただきたい!」
そう語るギデオンの瞳には、強い意志が宿っていた。
(私には16回の隊長職の自負と、プライドがある…調査隊の全員を無事生還させるのが私の仕事だ!)
「事情はわかりました」
真っ直ぐなギデオンの目を見て、フィリアは本能的にギデオンを信頼に足る人物だと判断する。
「現在我々もまた同様に、一名の隊員を捜索中です。あなた方の探される方の捜索にも、善処いたしますよ」
「本当ですかぁ?ありがとうございます、お姉さん!」
はしゃぐモモ。溜息をつくヴァイス。しかしその口元は微笑んでいる。
「あの…僕は一応、男なんだけど…」
困ったように言うフィリアに驚きを見せる調査隊の面々。
「えぇ!?ご、ごめんなさい…」
「いやいいんだよ。慣れてるから」
慌てるモモに優しく答えるフィリア。
なんだか顔が赤くなるモモ。乙女の初恋というやつだろうか。スイーツ(笑)
そんなやり取りの中、ミランダが口を挟む。
「ここが、現在我々の捜索しているクラン・R・ナギサカ氏が最後にいたと推測されるポイントです」
端末のデータを示すミランダ。机に火星の地図と共に、座標が映し出される。
「オイ、これって…」
ディックが言う。
「シュード主任、俺達がアンノウンと交戦してた場所じゃないか…!?」
その場にいる全員の鼓動が速くなる。これは紛れもなく、そしてどうしようもない、運命なのだろうか。
「とにかくもう一度行ってみよう!今ならその未確認機体同士の戦いも終わっているかもしれない!」
進路を変更するカナリヤは、約束の地へと向かう。
唯一フィリアだけがその待遇に異議を唱えるが、傲慢なスメッグヘッド教授によって阻まれたのだった。
その尋問に、フィリアとディックが当たり、数分の時が過ぎていた。
ちなみにスメッグヘッドは相変わらずデイヴの、いや、グワッシュのミッションレコーダーを鋭意捜索中である。
「だからぁ!モモ達は怪しい者じゃないんですよぉ!早くクランさんを探さなきゃって言ってるじゃないですかー!」
モモ・マレーンがふくれっ面で二人に抗議する。
続いてギデオンが、出来るだけ落ち着いた態度で二人に事情を説明する。
「確かに我々は、あなた方同様地球本社の者ではなく、公社のコロニー支社の者です。しかし、人命がかかっているのです!
勝手なお願いであることは承知の上です。どうか捜索に協力していただきたい!」
そう語るギデオンの瞳には、強い意志が宿っていた。
(私には16回の隊長職の自負と、プライドがある…調査隊の全員を無事生還させるのが私の仕事だ!)
「事情はわかりました」
真っ直ぐなギデオンの目を見て、フィリアは本能的にギデオンを信頼に足る人物だと判断する。
「現在我々もまた同様に、一名の隊員を捜索中です。あなた方の探される方の捜索にも、善処いたしますよ」
「本当ですかぁ?ありがとうございます、お姉さん!」
はしゃぐモモ。溜息をつくヴァイス。しかしその口元は微笑んでいる。
「あの…僕は一応、男なんだけど…」
困ったように言うフィリアに驚きを見せる調査隊の面々。
「えぇ!?ご、ごめんなさい…」
「いやいいんだよ。慣れてるから」
慌てるモモに優しく答えるフィリア。
なんだか顔が赤くなるモモ。乙女の初恋というやつだろうか。スイーツ(笑)
そんなやり取りの中、ミランダが口を挟む。
「ここが、現在我々の捜索しているクラン・R・ナギサカ氏が最後にいたと推測されるポイントです」
端末のデータを示すミランダ。机に火星の地図と共に、座標が映し出される。
「オイ、これって…」
ディックが言う。
「シュード主任、俺達がアンノウンと交戦してた場所じゃないか…!?」
その場にいる全員の鼓動が速くなる。これは紛れもなく、そしてどうしようもない、運命なのだろうか。
「とにかくもう一度行ってみよう!今ならその未確認機体同士の戦いも終わっているかもしれない!」
進路を変更するカナリヤは、約束の地へと向かう。
冷たくつき放されたアレスを見て、エリスは冷やかに笑う。
(だから言ったのよ、アレス。あの娘じゃなくて、私のところに来ればいいと)
さて、と…予想通りの展開を見守って、エリスは思う。
(でもいいの。私にはデイヴがいるから。さあ、アレス、次はどう出るの?)
ドルダに乗る少女。クランは立ち尽くしている。アレスは…
再び、ガンダムマルスへと搭乗する。
(そう、あなたはやっぱり戦うことを選んだのね…)
エリスは薄く笑い、ドルチェを起動させ、高らかに叫ぶ。
「ガンダムドルチェ、デイヴィッド・リマー!これより介入行動に入る!」
「!」
困惑のデイヴを余所に、白き舞姫が戦場へと踊り出る。
(だから言ったのよ、アレス。あの娘じゃなくて、私のところに来ればいいと)
さて、と…予想通りの展開を見守って、エリスは思う。
(でもいいの。私にはデイヴがいるから。さあ、アレス、次はどう出るの?)
ドルダに乗る少女。クランは立ち尽くしている。アレスは…
再び、ガンダムマルスへと搭乗する。
(そう、あなたはやっぱり戦うことを選んだのね…)
エリスは薄く笑い、ドルチェを起動させ、高らかに叫ぶ。
「ガンダムドルチェ、デイヴィッド・リマー!これより介入行動に入る!」
「!」
困惑のデイヴを余所に、白き舞姫が戦場へと踊り出る。
六話 終 七話に続く