(投稿者:フェイ)
ここまで走ってきただけでも全身が悲鳴を上げた。
目の前には平常時でも一人では捌ききれないほどのGの群れ。
間に合わない救援は無いと考えたほうがいいだろう。
状況は絶望的。
それでも。
自らの誇りと挟持に賭けて、レギンレイヴが退くことは無い。
「さあ……掛かってきなさい…! このレギンレイヴがお相手しましょう…!」
眼光鋭くGの群れを睨みつけ、光剣を起動させる。
「っ…う…!」
瞬間、立ちくらみが起きた。
倒れるわけには行かず膝に力を込めて前へと向き直り、光剣を構える。
そして、愕然とした。
自らが握る光剣からは、僅か30cmほどの短い光が伸びるだけとなっていたことに。
まるでそれは、レギンレイヴ自身の命の短さを示しているようで―――。
「……っ、く……それが、どうしたというのです…!」
自らに言い聞かせるように声を無理やり張り上げると、そのまま一歩前へ踏み出す。
力を込めて身体を前へと押し出すようにして、Gの群れへと飛び込んだ。
「は、ああああっ…!!」
突き出したLS1938が先頭のワモンを貫く。
勢いと気迫を載せ突き出した光剣がその意を受け、短かった刀身をまっすぐに伸ばす。
貫かれたワモンの背後からレギンレイヴへ飛びかかろうとしていたもう一体のワモンが、その背より突き出した光剣の先端にまとめて貫かれた。
無造作に右へと剣を降れば、伸びたままの光がしなるように追従し、ワモンの身体を引き裂いていく。
―――私は…まだいける!
獰猛な笑みを浮かべ、手首を返すと光の鞭が風とGの身体を切り裂く。
腰を曲げ姿勢を低くしながら背後へ跳躍、形状を剣へと戻したLS1938をレイピアのように構え直し姿勢を取る。
戦闘時の興奮故か、普段身体を襲う激痛は感じられない。
飛び掛ってきたウォーリアの急所を一突きにすると即座に剣を引く。
引き抜いた動作そのままに身体を回転させ、再び鞭状に展開した光剣でなぎ払い周囲のGを一掃。
積み上げられた仲間の死骸に躊躇したGの隙を逃さず跳躍、脚を振り上げワモンの頭部へと蹴りを見舞う。
先端に鉄の仕込まれたブーツがやすやすと蹴り砕き、倒れ伏した背中を蹴り砕くように着地。
着地の勢いのまま、振り上げていた光剣を振り下ろし、シザースを真っ二つに卸す。
――そう、私は…!
光剣を振りぬき、敵に向かって次の一歩を踏み出したその瞬間。
身体の内側から起きた弾けるような激痛に、足の力が抜けた。
「っ…!!」
息がつまり、身体のバランスが崩れていく。
踏みとどまると、消えかけたLS1938の刀身が見えた。
「まだ……まだ!!」
激痛を無視し、LS1938を握る手に力を込め直すと、僅かに輝きを取り戻す。
勢いのまま無造作に振り上げた剣先がウォーリアの顔面を粉砕するのも見届けずにそのまま袈裟斬りに振り下ろす。
斜めに切断されたウォーリアが地面に崩れ落ちた。
その背後から、山にように押し寄せるGの群れ。
「が、はぁっ……!!」
全身に走る激痛を吐き出すように息を吐くと、歯を食いしばり直し右腕を振るう。
LS1938から伸びた光の剣が接近していたウォーリアの頭部を薙いだ。
頭を失ったウォーリアが二歩、三歩ふらふらと歩いて倒れこむのを確認もせず、今度は後ろへと光剣を突き出す。
背後から迫っていたワモンが貫かれ、もがいた後に動きを止める。
「く、ううううっ…!!」
後ろにつきだした勢いを自分で制御しきれずたたらを踏み、なんとか踏みとどまって顔を上げる。
その瞬間、目の前には次のウォーリアが迫っていた。
――こんな、ことで…!
反射的に膝をかちあげそのウォーリアの顎を砕き割るが、バランスを崩したレギンレイヴは足を滑らせ、その場に尻餅をつく。
それを見逃すはずもないGがレギンレイヴの上へと群がり、彼女の上に山のように積み重なっていく。
「っ、ぐ、あ、離しなさいっ…無礼、なっ…!!」
ウォーリアの重みに耐えながら押し返そうとするが腕に力が入らない。
激痛が走り、レギンレイヴの胸に何かが突き刺さった事を伝える。
視線を下ろせば、シザースの発達した二本の顎がレギンレイヴの胸へと突き刺さり、骨を砕き内蔵を貫いて背中から顔をのぞかせていた。
「あ…か、ひゅ……」
声が出ない。
せりあがってきた血の泡が喉を塞ぎ、ごぽりと嫌な音を立てて口の端からこぼれていった。
足掻こうにも串刺しにされたまま身動きも取れない。
飛びそうな意識を続けざまに襲いかかる激痛が無慈悲につなぎとめる。
「っ…! ……っ、っ……!!」
引きちぎろうとしているのか、腕に噛み付かれて引っ張られる。
無理に引っ張られた肩は既に外れ、体の千切れる音がレギンレイヴの体内で響き始めた。
シザースの顎が傷口をえぐるように押し込まれ、レギンレイヴの身が仰け反る。
(―――っ、喰わ、れ――っ!)
専用に仕立てられた装甲服を食いちぎられ、シザースの口に当たる部分が身体へとあたり、牙が突き立てられる。
肌を、肉を食い破りその牙がレギンレイヴの奥深くへと貪り進んでいく。
(――コ、ア……を……?)
朦朧とした意識が、Gの目的を悟る。
―――この、レギンレイヴのコアを喰らい取り込もうというのか。
(――――………ざ、け………!)
腕が千切れる音がした。
左腕の肘から先が持って行かれ、引きちぎられた箇所から大量の血が吹き出す。
激痛、激痛、激痛、激痛、激痛。
――だが、関係ない。
(―――ふざ、け…ないで…もらいましょうか…!)
――このレギンレイヴが、貴様らのような下衆に取り込まれてたまるものか…!
焦点の定まっていなかった瞳に光がもどる。
全身を走る痛みを、怒りという意志が凌駕する。
抑えこまれ、左腕と同じように引きちぎられようとしていた右腕が力を取り戻す。
Gを振り払い、転がっていたLS1938を手に取ると、レギンレイヴは全ての意思を込めて心から叫んだ。
「…退けえええええええええええっ!!!!」
「…!?」
グレートウォール戦線上空、Si43による輸送に身を委ねていたブリュンヒルデは、何かを感じうつむいていた顔を上げた。
気流の影響か激しく揺れる機内だが、感じた異常はそれではないと確信。
身を貫く気配に落ち着かず、席を立つと機内の揺れによろめきもせずに操縦席へと近づいていく。
「お、おいブリュンヒルデ、座っててくれ! 今原因不明の気流が…」
必死に機体を操る操縦士が慌てて声をかけてくるが、ブリュンヒルデの耳には届かない。
ブリュンヒルデの眼は真っ直ぐに操縦席の正面、向かうべき方向を見つめる。
「ブリュンヒル……」
「お、おい、なんだアレは…!?」
声をかけようとした操縦士は、副操縦士の声に意識を前へと戻した。
ブリュンヒルデと同じ方向を見て、その光景を目の当たりにする。
「……なんだよ、ありゃあ…!?」
「………光の、柱……?」
地上から天を貫くように立ち上がる光の柱。
ブリュンヒルデには、伝わっていた。
その光の柱を発しているのは誰か。
―――そのコアエネルギーの波動を持つものは、誰なのか。
「………レギン…レイヴ……!!」
光が、その周囲にいた全てのGを切り裂いた。
「――――」
警戒したGが一斉にその光から離れると、光の中から人影が立ち上がる。
左腕は食いちぎられたまま、足の力だけで立ち上がったその人影は右手に持った光剣をG達へと向ける。
敵対行為と見なした一体のウォーリアが、光のオーラを纏うその人影に近づこうと手を伸ばす。
途端、その腕がバラバラにちぎれ飛んだ。
「……!?」
その切り傷は瞬く間にウォーリアの全身を侵食しつくすと、そのままウォーリアの身体を切り散らす。
細切れになったウォーリアの姿にG達が警戒に一歩、また一歩と後退する。
「――――…ハ、ハ……」
人影から声が漏れる。
「ハハ、ハハハハハハ………」
その人影が前へ一歩、踏み込む。
「ハハハハハハハハハハ……!!」
Gが一歩、また一歩と後退するのを追い詰めるように人影が前へ進む。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
顔を上げたレギンレイヴが右腕を横へ振りかぶり、なぎ払うように降る。
途端、レギンレイヴの身体に収束していた光が方向性を与えられ喜ぶように輝くと、大量のGを一斉になぎ払った。
「ハハハハ、他愛もない…!!」
光に触れ、細切れになったGを見下すようにしながらレギンレイヴは哂う。
「これが、コアエネルギーの力…!」
千切れた左腕の痛みはない。
貫かれた胴の痛みも、折れた肋骨の痛みも、肺がやぶれている故の息苦しさもない。
「貴様達を滅ぼす……私たちの、剣です…!!」
宣言するように声をあげると、力を増していく光をまといGの群れの中へと飛び込んでいく。
レギンレイヴ逃れようとするG。
レギンレイヴをとらえようとするG。
それら全てを、コアエネルギーの光が切り刻んでいく。
「刻め、刻め、刻め…!!」
レギンレイヴの声に呼応するように光は輝きを強め、世界をその色へと染めていく。
光が満ち溢れた世界の中、レギンレイヴはただ只管にGを切り刻む。
踏み込むたびに世界が切り刻まれていく。
Gだけではない、地面も、天高く揺らめく雲も、全てを切り刻む光。
「ハハハ、ハハハハハ…」
真っ白な光の中を、レギンレイヴは歩き続ける。
細切れになって地面に落ちた死骸を今一度切り刻み、それにも構わず歩き続ける。
「………ハハハ…。………?」
次第に静かになっていく様子に、周囲を見渡す。
気づけば、白い世界には何もいなくなっていた。
ただ一人、レギンレイヴだけが立っている。
「………なんだ、もう終わりですか?」
歩みをとめる。
真っ白な世界の中、立ち尽くす。
「………少し、疲れましたか」
一息をつくと途端に疲労がレギンレイヴの身体を包みこむ。
落ち着かせるように眼を閉じて深呼吸を数回。
「………レギンレイヴ」
「……え…?」
どこか、遠くから聞こえた声に眼を開ける。
世界を埋め尽くす光の中、手をかざすメードの姿が見えた。
「……ああ、なんだ……」
レギンレイヴもまた、笑って手を伸ばす。
手を伸ばすメードはレギンレイヴが手を伸ばしたのを見ると笑顔を見せ、手招きをする。
「ここに、いたんですか…皆」
メードの後ろにもまた、幾人ものメードが見えた。
いずれもレギンレイヴを急かすように手を振りながら、光の向こうへと歩いて行く。
「…せっかちすぎます。もう少し休ませなさい」
レギンレイヴは苦笑いをしながらも、歩を踏み出した。
―――今、私もそこへいきますから