かまいたちの夜2

かまいたちの夜2

・要約版:要約スレpart2-260,279~281

・詳細版:part4-83~96・126~135・209~211・305~319・348・386・388~399・416~419、part5-50~53・99~102・299~303


260 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/08/23(水) 00:02:28 ID:k+c+D1ei0
かまいたちの夜2 監獄島のわらべ歌

【事件】
前作は劇中劇扱いでゲーム『かまいたちの夜』のモデルとなった前作の面々が原作者『我孫子武丸』に招かれる。
しかし招待された島は監獄島と呼ばれ陰惨な過去のある島にある『三日月館』、
さらにその日は五十年に一度の暴風の日『かまいたちの夜』だという。
そこで島に伝わるわらべ歌になぞらえて連続殺人事件が起きる
①ゲームプロデューサーの『正岡』が館の角の部屋で首を切られて殺害
②大阪の社長香山に後妻『夏美』が首を絞められ殺害
③館の管理人の老婆『キヨ』が塔に吊るされ縛り首に
【謎】
①部屋は密室
②夏美の手には招待客の一人元ペンション従業員『みどり』が使用しているマニュキアが握られ、手を切断しようとした跡が
【犯人】
『キヨ』しかしこれは変装した姿で正体はシュプールのオーナー夫妻の妻、『小林今日子』
共犯者に生き別れの弟の作曲家『村上つとむ』
【トリック】
①三日月館はその名の通り三日月を模しており今日子は逆側の角の部屋の窓から侵入した
三日月館には島にある人工湖の流れを切り替えて館を水没する仕掛けがありそれを使い
庭を泳ぎ渡った。
②マニュキアは今日子がみどりにすすめたもので、盗み癖があった夏美はそれを盗み殺された。
③つるされた死体は人形で遠目からでは人間かどうか区別できない。しかしカラスについばまれ綿が出ていた。
【動機】
前作に出たOL三人組はモデルになった人物は二人組だった。
今日子は以前結婚しており、前夫が亡くなり一人では子供を養えず養子に出していた、
その子供が前作の三人組みの一人『河村亜紀』だった。モデルの人物達がシュプールに集まった際、亜紀も偶然にも宿泊する予定だった。
親だと名乗る気は無くとも心待ちにしていた今日子だが、亜紀は誰かにひき逃げされて亡くなっていた。
犯人は宿泊客の中だと確信し今日子は先祖の館を使った計画を考えた。
そしてそのひき逃げ犯はみどりだった。
第一の事件の際閉所恐怖症だった正岡はみどりと部屋を交換していたために殺された。
【結末】
今日子も知らなかったが、かまいたちの夜の後は島を大津波が襲うのだった。
避難するみんなだが、今日子と二郎の小林夫妻はこのまま波に飲まれることを選び
村上もそれに殉じるのだった。

 
279 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/07(木) 13:03:21 ID:2ciqlT980
>260に補足かま2他編適当要約
陰陽編
三日月館のかつての主人、イエモンの、本人以外には邪神となる神復活の為に、
皆生贄にされてしまいましたとさ。

底蟲村編
蜘蛛VS常世の虫。結果はドロー。果物に見せかけた常世の虫の実を食べた小林、香山は化け物に。真理は次の常世の虫へ
透以外の他の連中は蜘蛛に殺されあぼん。そして底蟲村は火の海へ

サイキック編
こんな体に誰がした!!ミネルヴァ社への復讐をする可奈子、啓子、キヨ(河村亜希)
ちなみに真理と夏美、透もサイキッカー。亜希と透は薬投与のせいで、老け顔。
ミネルヴァ社VSサイキッカー。
まぁ色々あって敵味方共に、真理いがいあぼん。ちなみに進行は真理視点。
 
280 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/07(木) 13:04:46 ID:2ciqlT980
ピンクの栞

官能編
色情霊に取り付かれた透に女性キャラ(夏美以外)皆色仕掛けを仕掛けてくる。
イイトコロで夏美登場。このままではヤバイと思った透は夏美に除霊してもらい、我に返った皆にボコボコにされるも、
真理に本音をいい(真理が好きだからあんなことしたんだ!的な)そして、真理と一晩中話し合うことができましたとさ。
ちなみに除霊を断ると、男性キャラに掘られる展開に。

わらび歌編
ギャグ編。かまいたち祭りではなく、カマイタ(かまぼこ板)血祭りによって、島の住民に殴られそうになる一行。
他の皆をおとりにして逃げる透と真理。船で逃げ出すが、方向もわからず遭難。

僕の恋愛編
叙述その1
我孫子からの招待状が届き、真理を誘って、三日月館へ行く僕。
波止場で出迎えた我孫子は透だった。真理は二股をかけていて、邪魔者の僕を殺そうと透が襲い掛かる。
背後から透を石で殴り殺した真理は僕と抱きしめあう。
「信じて、私…二股かけてたわけじゃないのよ」という真理を許す僕。
真理は嘘をついてはいなかった。三股をかけていたから。それを僕が知るのはもっと後…

僕の青春編
叙述その2
真理に誘われて三日月館へ行く透。
真理にはもう孫もいて、透はただのお友達。
 
281 :名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/07(木) 13:05:28 ID:2ciqlT980
紺の栞

惨殺編
楓に寄生する線虫に寄生された人間は、殺人によって、快楽を得るようになってくる。
それによって襲ってくる皆を撃退しつつ、透と真理は逃げる。
だが、透も寄生されていて、真理を殺したくなり、その欲求に負けたくないので、気を失おうとすると、
真理も寄生されていたらしく、真理に殺される。

洞窟探検編
岸猿家の財宝伝説に目が眩んだ真理に引っ張られ、宝探しをさせられる透。
この伝説は実は嘘で、キヨ(利用されていた)と船長にぎゅうず様の生贄にされかかる透と真理。
足手まといのキヨを置いてきた船長に殺されかかる二人だが、キヨに助けられる。キヨは二人にお礼をいい消えた。
透と真理の仲はより深まったようである。岸猿家の財宝以上に素晴らしい宝を、透は手に入れたようだった。

妄想編
透はシュプールに行ったときの記憶がはっきりしない。
どうして船に乗っているかもわからない。真理から説明をうけ、我孫子に招待を受けたことを聞く。
島に上陸しても記憶が途絶えがちだ。
二匹の黄金虫も動いている。かさこそかさこそ…
わけもわからず選んだ扉の先には巨大な二匹の黄金虫がベッドの上で重なり合って交尾していた。
下にいた黄金虫が透をみてこういった。
「美樹本さんは私から誘ったのよ。やめてよ、そんな目で見るの。勝手に純粋だの何だのって思い込まれても迷惑なのよ。
第一、今どきこんなもので女が口説けるとでも思っていたの?」
黄金虫は紙の束を床に叩きつけた。
紙束の表紙には『微笑む女神』というタイトル。透が真理に捧げた詩集だ。
こんなものがどうしてここに、何で黄金虫がこんなものを。
「やめろ!」思わず透は手近にあった電気スタンドを投げつけた。電気スタンドは窓を突き破る。
窓?三日月館に窓はないはずなのに。じゃあここはどこだ。
割れた窓から雪が吹き込んできた。
いつの間にか透の手には鎌が握られていた。
透は鎌を振った。黄金虫の頭が、脚が千切れ飛んだ。
誰かが笑っている。頭痛はとまらない。透は笑うのをやめた。
かさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそ
黄金虫が交尾する音が聴こえる…。

「ああ、またバッド・エンドだ」
透はコントローラーを投げ捨てた。
透は真っ白い部屋でずっとこのゲームをやっている。いつまでたってもグッド・エンドを迎えられないのだ。
テレビ画面の中から男が話しかけてきた。
「まだ思い出せないんですか。一昨年の十二月に『シュプール』で何があったか」
思い出せない。頭がひどく痛い。耳鳴りがする。
「その時ペンションにいた全員が殺害された。凶器は草刈り鎌です。そして犯人は…」
…そうだ、この男は医者だ。
思い出した。あの時ペンションにいた「全員」が殺された。そして「犯人」は…。
 

83 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 21:44ID:zchuZkAH
矢島 透    主人公。
小林真理   透のガールフレンド。親の転勤に伴い引越し、透とは疎遠になっている。
小林二郎   真理の叔父。ペンション「シュプール」オーナーで料理が得意。
(小林今日子) 小林の妻。料理は不得意。
久保田俊夫  「シュプール」でバイトをしていたスポーツマン。
久保田みどり 元「シュプール」のバイト。俊夫と結婚した。
渡瀬可奈子  OL。美人。
北野啓子    可奈子の同僚で友人。ぽっちゃり型。
美樹本洋介  フリーカメラマン。
香山誠一   大阪の会社社長。前妻・春子とは離婚。
──以上が一年半前「シュプール」に滞在していたメンバー(前作に出てた人)──
香山夏美    香山の後妻。派手好き。
正岡慎太郎  ゲームのプロデューサーで女好き。閉所恐怖症。
村上つとむ   作曲家。怒りっぽい。
菱田キヨ    「三日月館」の管理人をしている老女。
我孫子武丸  「三日月館」の主人。
 



 

84 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 21:46ID:zchuZkAH
『かまいたちの夜』というゲームがある。
雪山のペンションで殺人事件が起こるという内容のゲームだ。
そのゲームの中には透たちが一年半前にペンション「シュプール」に宿泊した時と
ほとんど同じ顔ぶれが登場しているのだ。
(『かまいたちの夜2』では、「シュプール」での殺人事件は現実では起こっていない事になっている)
 


 

透のもとへ一通の招待状が届いた。差出人は我孫子武丸。ゲーム「かまいたちの夜」の原作者らしい。
そこにはゲームへ出演してもらったことへのお礼と、
ゲームの売り上げで得た収入で購入した「三日月島」にある「三日月館」へと招待したい旨が記されていた。
真理と仲良くなりたい透は彼女を誘い、三日月島へ向かうことにした。
 


 

~8月15日~
透と真理は三日月島へ向かう小船の上にいた。真理の叔父、小林も一緒だ。
小林のもとへは招待状が届いていなかったのだが、妻の今日子が旅行に行ってて暇なのもあって、
「なぜオーナーの私が招待されてないんだ!」と勝手に参加してしまったのだ。
真理によると、我孫子武丸の正体はゲームの開発会社に問い合わせてもわからなかった、
しかしかなり事実を詳しく反映したゲーム内容であることから、当時そこにいたメンバーか
その関係者に間違いないだろう、とのこと。
 


 

船の船長は三日月島へ遊びに行く事にあまり良い顔をしない。
三日月島は地元の者には「監獄島」と呼ばれている。
かつてそこにあった底蟲(そこむし)村が廃村になった後、三日月島は岸猿(きしざる)家という旧家の
私設監獄となっていた。酷使され、死んでいった奉公人たち…今から宿泊するのは元監獄の館なのだ。
その後岸猿家は没落し、再度無人島となったが、最近になって我孫子が買い取ったというわけだ。
さらに船長は島に伝わる《わらべ唄》を歌って聞かせる。
 



 

85 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 21:47ID:zchuZkAH
底蟲村の しん太郎どん 痛い痛いと 泣いてござる
何が痛いと 蟹コがきけば
悪たれ鼬(イタチ)の ふうのしんに 喉を切られて 話ができぬ
それで痛いと 泣いてござる
びゅう びゅう びゅうの ざんぶらぶん
びゅう びゅう びゅうの ざんぶらぶん
 


 

底蟲村の 女郎蜘蛛 嫌じゃ嫌じゃと 泣いてござる
何が嫌じゃと 狐コきけば
悪たれ鼬の ふうのしんに 手足もがれて 散歩ができぬ
それが嫌じゃと 泣いてござる
 


 

底蟲村の 山姥どん 怖い怖いと 泣いてござる
何が怖いと 鴉コきけば
悪たれ鼬の ふうのしんに 高みに立たされ 身動きできぬ
それが怖いと 泣いてござる
 


 

底蟲村の 風見鶏 来ない来ないと 泣いてござる
何が来ないと 童コきけば
悪たれ鼬の ふうのしんが 夏の終わりに 大雪降らせ
秋が来ないと 泣いてござる
 


 

底蟲村の 村の衆 今日じゃ今日じゃと 泣いてござる
何が今日じゃと 蛇コがきけば
悪たれ鼬の ふうのしんも わっかが解けりゃ 慌てて逃げる
それが今日じゃと 泣いてござる
びゅう びゅう びゅうの ざんぶらぶん
ざんぶらぶんの どうどうどう
 



 

86 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 21:53ID:zchuZkAH
三日月島はその名の通り三日月型をした島で、風の神を祀った神社、岸猿家が作った人造湖などがある。
三日月館も島と同じく三日月型をした建物だ。その周りを高い暴波壁が取り囲んでいる。
船長は三人を送り届けると「今日は《かまいたちの夜》だ…」と謎の言葉を残して去る。
監視塔、堀には剣山状の刃物、少ない窓…館は元監獄らしい陰鬱な造りだ。
 


 

三人を出迎えたキヨに導かれ館内に入ると、そこには既に久保田夫妻、可奈子と啓子らが来ていた。
久保田夫妻も招待状を貰っていないと聞いて安心する小林。内心ビクビクしていたのだ。
可奈子・啓子はゲーム「かまいたちの夜」では「仲良しOL三人組」として描かれていた。
勝手に加えられていた三人目「河村亜季」には聞き覚えすらないと言う。
近況などを話していると、遅れて村上、さらに遅れて正岡もやってくる。
ゲームの続編制作に関わる彼らも我孫子武丸に会った事はないそうだ。
その後香山夫妻と美樹本も加わるが、我孫子が現れることは無かった。
 



 

87 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 21:57ID:zchuZkAH
夕食の時間。それぞれ自分のネームプレートが置かれた席へ座る。
我孫子はまだ現れず、イラつく村上は正岡と言い争いを始める。
その時、突然明かりが消えた。パニックに陥る一同。
美樹本が蝋燭に火を点けると、誰もいなかった我孫子の席に
若い女性の写真と、ヘコミと血のりで事故車のように見立てられたおもちゃの車が置かれていた。
写真の所に置かれたプレートには「河村亜希 享年19歳」の文字。
透は写真の女性の面立ちに見覚えがあるような気がした。
 


 

再び火が消え、重々しい声が響き渡る。
「ようこそ、私が我孫子武丸です。ご参加ありがとう。
訳あって姿を現す事は出来ませんが、私は間違いなくここにいます。
皆さん二日間ごゆっくりおくつろぎください…」
電気がつくと、すでに写真と車は無かった。
美樹本がキヨに我孫子の事を尋ねるが、キヨは「我孫子はまだ来ていないはずですが…」と
知らぬ存ぜぬの一点張り。
村上は怒り狂い、みどりは「帰る!」と言い出す。
しかし船は明日の夕方にしか来ない、とキヨが言うとしぶしぶ観念する。
 



 

88 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:00ID:zchuZkAH
一人一部屋が割り当てられ、それぞれ思い思いに過ごす。
外では防波壁の扉が閉められた。かなり風が強くなっているようだ。
啓子は先に眠り、みどりは具合が悪いと言って休み、その他の面々は応接室で歓談していた。
食堂での出来事のせいか、皆どこかピリピリしている。
可奈子が酔っぱらった正岡に付き添って彼の部屋に行った後、気晴らしに外へ出ようか、と話しているとキヨがそれは無理だと言う。
「かまいたちの夜が……始まりました」
それはこの地方で決まって暴風の起こる8月15日の夜の事で、50年ごとに特に強い風が吹くという。
今日がその50年目の夜なのだ。
ますます不安を募らせながら、一同は解散する。
 


 

~8月16日~
眠りについた透だったが、悪夢にうなされ夜中の3時に目が覚めてしまった。
風雨の様子を確認しようと廊下に出ると、小林もトイレに行こうと部屋から出てきた。
その時、絶叫が響き渡った。
真理を起こし、三人で声の聞こえた方向、みどりの部屋へと行くが、扉には鍵がかかっている。
真理が呼んできたキヨに許可を貰い、体当たりしてドアを開けると…
正岡が喉を切り裂かれて死んでいた。
透はそこで何かを踏みつけてしまう。それは蟹だった。
「しん太郎」が「喉を切られ」て死に、「蟹コ」が側にいたのだ。わらべ唄と同じように。
 



 

89 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:03ID:zchuZkAH
皆に正岡が殺された事が伝えられた。
みどりは閉所恐怖症の正岡に頼まれ、部屋を交換したのだという。
警察に連絡しようにも電話線が切れており、携帯電話も電波が届かない。
招待客以外に殺人者が潜んでいるかもしれないと館を調べるが、誰も見つからなかった。
濡れた地面に足跡もついておらず、外へ逃げたとも考えられない。
となると、ここにいる誰かが正岡を殺したということになる。招待客たちは互いに互いを疑いだす。
(補足・正岡の死んだ部屋はC字型の館の片端にある。窓があるのはこの部屋と、もう一方の端っこにある物置部屋だけ。)
 


 

美樹本だけが自前のクルーザーでこの島に来た、彼が犯人だとしたらすぐに逃げられるじゃないか。
そう考えた透は真理と共に美樹本のクルーザーへ向かった。
だがそこに居た美樹本は「こんな物騒な所早く逃げ出したいが、そうもいかなくなった」と沖を指し示す。
海面の水位が下がり、島のC字の口を開けた部分に岩礁が突き出していた。島は円環状だったのだ。
これで島に閉じ込められてしまったことになる。
 



 

90 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:05ID:zchuZkAH
三人で館に戻ると、みどりとOL二人が泣いていた。俊夫、小林、香山もそこにいる。
夏美が死んでいたのだ。
首に「狐」の襟巻き(夏美が持ってきていたもの)が巻きついている。これで絞め殺されたらしい。
右の手首には切断しようとしたのだろう、深い傷がついている。またわらべ唄と同じだ。
夏美の手に何かが握られている事に真理が気づいた。夏美の指を開かせると、中からマニキュアの瓶が出てきた。
緑色の珍しいマニキュアは、みどりが使っているものと同じだった。
当然みどりは疑われ、犯人ではないと主張するが信じてもらえず、俊夫と共にその場を離れた。
可奈子と啓子も「人殺しと一緒にいたくない」と自分たちの部屋へ行ってしまう。
香山は夏美の側に残り、他の者は応接室で話し合うが、殺人犯の正体がわかるはずもなく
疑心暗鬼になる一同。
 


 

昼食の時間になった。
食事をとらないわけにもいかないということで、夏美に付き添う香山以外の全員が集まった。
しかしスープが出されたきり、一向に食事が出てこない。キヨの身に何かあったのではないか…?
念のため二人一組になって館内をくまなく探すが、キヨは見つからなかった。
キヨが居たはずの厨房を詳しく調べてみると、キヨの出していた料理は全てレトルトだったことがわかる。
そこで何かに気づいた様子の小林だが、透が何を聞いても答えてくれない。
もう一つ奇妙な事に製氷機から氷が全て無くなっていた。
 



 

91 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:08ID:zchuZkAH
食堂に戻ると、またもや「河村亜希」の写真がテーブルの上に置かれていた。
我孫子武丸の声が響く。
「私は……河村亜希を殺した犯人を……許しません…絶対に…絶対に…絶対に…」
声はテープレコーダーから流れていた。
「馬鹿馬鹿しい。ちょっと出てくる。島が元に戻っているかもしれないからな」
そう言って出て行く美樹本の後を透と真理は追った。
外に出た三人は衝撃的な光景を目にする。
館の監視塔、通称《縛り首の塔》にキヨがぶら下げられていたのだ。
その死体に鴉がたかっている…わらべ唄の三番の歌詞だ。
 


 

殺人犯は我孫子武丸…目的は河村亜希を殺されたことの報復。しかしこれでは無差別殺人と同じではないか。
「とにかくキヨさんを降ろしてあげましょう」と透は言うが、この状況下で賛同する者はいなかった。
仕方なく透は一人で塔に向かうが、塔の入り口には鍵がかかっていた。キヨを降ろすことは諦めるしかなかった。
 



 

92 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:10ID:zchuZkAH
館内に戻ると、相変わらず誰もが怪しいという状況の中、可奈子が部屋の前に落ちていたというキヨの遺書を差し出す。
『私の手は血に染まっています。私は主人である我孫子の殺人を手助けしてしまいました。
我孫子は正岡さまに復讐を遂げました。他の方には被害は及びません。
我孫子の正体は…亡くなった夏美さまです』
夏美が犯人だったのかと納得する面々と、夏美の潔白を主張する香山。
結局、「自分の手で、しかも手首がひどく傷ついた状態で自分の首を占められるものだろうか」
「報復が終わったのならば、さっき流れたメッセージは何なんだ」と透と真理が主張した事で、
キヨの遺書は我孫子の用意したニセモノだろうということに落ち着いた。
 


 

透と真理は水位が元に戻ったかを確認しようと館の外へ出た。
真理は「館は島と同じように本当は円環状で、正岡殺しの時、犯人はやはり窓から侵入したのでは」と透に話す。
再び館に戻って《縛り首の塔》を見た透はあることに気づく。
「キヨさんの死体を降ろして確かめたい事がある」
真理、小林、村上、美樹本が協力してはしごを支え、透がそれを上っていく。
はしごの上で透は《失われた環(ミッシング・リング)》を見つけた。それは中庭の泉に残された足ひれだった。
それに気づいた瞬間、透は塔のに潜んでいた何者かに突き飛ばされ、はしごから落ちて気を失ってしまった…。
 



 

93 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:12ID:zchuZkAH
しばらくして目を覚ました透は、第四の殺人を防ぐ為に皆を応接室に集めた。
だが、俊夫が呼びに行ったとき、部屋に閉じこもっていたはずのみどりは姿を消していた。
わらべ唄の四番目の歌詞は「かざみどり」…
「みどりさんが危ない!」と透たちはみどりの行き先の手がかりを探す。
どうやらみどりは我孫子に手紙で呼び出されたらしい。手紙には『人造湖に来い』とあった。
 


 

人造湖のほとりの小屋。
小屋の中の樽に、かき氷状の氷に首まで埋められたみどりがいた。またわらべ唄の見立てだ。
幸いなことにみどりは生きているようだ。俊夫がみどりを館へ連れて行く。
「さて……犯人はあなたですね」
透の呼びかけに応えて小屋の奥から出てきたのは、死んだはずのキヨだった。
 


 

館の泉は人造湖と繋がっていた。岸猿家が奉公人の逃亡を防ぐ為に作った仕掛けで、
防波壁の扉を閉じ、バルブを操作すると、館の庭に湖の水が流れ込む仕組みになっているのだ。
キヨは館を水没させ、物置部屋の窓から正岡の部屋の窓まで中庭を泳いで渡った。
これなら短時間で移動でき、庭に足跡も残らない。泉にあった足ひれはキヨが使ったものだった。
窓が無い館では、外の異変に気づく者はいない。暴風の騒音の中ならなおさらだ。
ドライスーツを着ていれば、びしょ濡れになる事もない。
だが食堂の仕掛けなど、キヨ一人では実行不可能なことがある。
キヨの協力者とは村上だった。村上は密かに皆を誘導して、仕掛けを準備する時間を作っていたのだ。
 



 

94 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:14ID:zchuZkAH
透はキヨの正体に言及する。
「キヨさんの正体は……今日子さんです」驚く真理。
かつらをとり、老婆のメイクを拭うと、それは確かに小林の妻、今日子だった。
考えてみればキヨは招待もされていない小林の名を、小林が名乗る前から呼んでいた。
小林の様子がおかしかったのはキヨの正体に気づいたからだった。名前の事、料理が出来ない事、手紙の筆跡などで。
 


 

今日子が殺そうとしていたのは、久保田みどりただ一人だった。
正岡はみどりと部屋を交換していた為、暗闇で誤って殺してしまった。
夏美はキヨの部屋に忍び込み、あのマニキュアを見て年寄りがこんな物を持っているのはおかしい、と感じた。
『あんたが正岡さんを殺したんじゃないの』と疑われ、殺すしかなかったのだ。
(みどりが持っていた同じマニキュアは、かつて今日子の手からみどりに渡った物だった。)
そして疑いの目をキヨから逸らし、また行動しやすくする為に、キヨの存在を消したのだが、
透が真実に気づいてしまったため、急遽みどりを呼び出した。
 



 

95 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:17ID:zchuZkAH
今日子の旧姓は岸猿。
没落した貧しい家に生まれた今日子とその弟。弟は口減らしのために他家へ貰われた。
今日子は両親を亡くした後、漁師と結婚するが、夫は事故で死に、二人の間に生まれた娘は里子に出された。
今日子の弟とは村上つとむ、娘とは河村亜希。
小林と再婚した今日子は、ある日宿泊予定者の中に娘の名を見つけた。
娘を一目だけでも見ることを今日子は楽しみに待っていたが、その日「シュプール」に亜希が来ることは無かった。
亜希はペンションの宿泊客のものと思われる車にはねられ、一晩中吹雪にさらされて死んでしまったのだ。
今日子は犯人を捜すためにその夜の出来事をモデルに小説を書いた。幸運にもそれはゲーム化され多くの人の目に触れた。
しかし犯人が名乗り出るはずもなく、今回の無人島招待を計画したのだった。
夫と従業員のことは疑っていなかったため、招待状を出さなかった。
しかし食堂で、河村亜希の写真とおもちゃの車に露骨に反応したのはみどりだった…。
 


 

今日子が動機を語り終えた。
抜け殻のようになってしまった今日子、村上。
いつからか外に居て話を聞いていたみどりは、自分の罪を告白した。「殺されても仕方が無いんです…」
その時遠くから低い波の音が聞こえてきた…「島が元に戻ったかもしれない」「夕方には迎えの船が来る!」
館に戻ろうとした透たちは海岸で蛇のような生き物、リュウグウノツカイを見る。
そして島に向かって高波が迫ってきていることに気づく。
五番の歌詞の最後が「ざんぶらぶんの どうどうどう」となっているように、
島の円環が解けた影響で津波が起きているのだ。
 



 

96 かまいたちの夜2~わらべ唄篇~ sage 04/02/27 22:19ID:zchuZkAH
一同は丘の上に逃げようとするが、今日子はこの場に残ると言う。
呪われた岸猿の血は絶えるべきなのだと言って。そして小林も妻に付き添うのだった。
津波が迫る中小林は「いきなさい!」と透と真理に向かって叫ぶ。
丘の上に逃げたはいいものの、どうも波の高さは丘を上回るようだ。
透はとっさの閃きで三日月館に戻ろうと言う。館ならあの波に耐えられるかもしれない。
皆もそれに従う中、村上だけは「姉たちの最期を見届けたい」と言って丘に留まる。
 


 

館の中で波をしのいだ透たちが外へ出ると、島の被害は想像以上だった。
小林夫妻の姿も、村上の姿も無い。泣き出す真理。
『いきなさい』
小林の最期の言葉は『行きなさい』ではなく『生きなさい』と言っていたのではないか…透はそう思うのだった。
 


 

わらべ唄篇・完
 


 

補足
 
  • 透が河村亜希の写真に見覚えがあったのは今日子の面影があったから
  • 《縛り首の塔》を見て透が気づいたことは、キヨの死体(のニセモノ)から綿がはみ出ていたこと


 

126 かまいたちの夜2~陰陽篇~sage>>111官能篇を書く前に陰陽篇を書きます 04/02/29 17:47ID:2oopJZ3T
(島に向かうまではわらべ唄篇と同じ。
陰陽篇ではキヨ、村上、正岡は登場せず、夏美は密教や陰陽道に詳しい人物として描かれる)
 


 

島に向かう船の上で、透は我孫子について船長に訊く。
我孫子は地元の漁村「網曳村(あびこむら)」の出身ではないか、と船長は言う。
さらに詳しく訊こうとする透だが、船長は「網曳村の話はしたくない」と口を閉ざす。
「あんたらも物好きだな。よりによって《かまいたちの夜》にあんな島へ行くとは…」
 


 

船長が帰っていくと、美樹本がクルーザーでやって来た。
透、真理、小林、美樹本の四人は「三日月館」へ向かう。
美樹本は「かつてこの館は岸猿家の私設監獄だった」と透たちに話す。
岸猿家は奉公人を「カト(家兎)」と呼び、家畜のように扱っていたという。
 


 

島や館には風に由縁するものが数多くある。
風の神を祀った神社や、悪い風を切るという意味で館の窓に取り付けられた「風切り鎌」などだ。
美樹本はそれらの意味を説明しながら「糞忌々しい風が」とつぶやく。
だが透がその言葉の意味を尋ねると、美樹本は自分の言った事を覚えていないようだった。
 



 

127 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 17:48ID:2oopJZ3T
島の天候は崩れつつあった。さっきまであんなに晴れていたというのに。
館の応接室には、久保田夫妻、可奈子と啓子が既に到着していた。
遅れて香山夫妻がやって来た。合計十人だ。
我孫子が来るまで、館の探検をしていると、美樹本が食堂に集まってくれと言う。
皆が集まると美樹本は、「ぼくが《我孫子武丸》なんだ」と明かす。
美樹本は祖母が網曳村出身のため、このペンネームをつけたそうだ。
 


 

美樹本はふとしたことからこの島の事を知った。
祖母から岸猿家の話を聞いたときは作り話だと思っていたが、島が実在した為興味を引かれたのだった。
美樹本が調べたところによると、この島の前の持ち主・岸猿家は地元の網元にして神社の宮司でもあったらしい。
岸猿家の奉公人に対する残虐な仕打ちを知っていくうちに、ゲーム『かまいたちの夜』の
シナリオを思いついたのかな…と美樹本は語った。自分でもよくわからないようだ。
しかも、島を買うために何度か下見に訪れているはずなのに、その記憶が曖昧であることなど、
美樹本の行動と言動にはどうも不可解なところがあった。
 



 

128 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 17:50ID:2oopJZ3T
夕食後、透は真理を誘って外に散歩に出た。透は二人きりが良かったのだが、香山と夏美もついて来た。
出かける四人に美樹本は声をかける。
「今日は五十年に一度の、《かまいたちの夜》と呼ばれる暴風の日だから、風が強まる前に帰って来てくれよ」
なぜ美樹本はわざわざこんな日を選んで招待したのか?と透は訝しがる。
 


 

散歩中、香山が何かに躓いて転んでしまった。
それは真っ二つに割れた石碑であった。なぜか側には美樹本のものと思われる、壊れたカメラが落ちている。
夏美が石碑に刻まれた文字を解読した。これは岸猿家の当主だった伊右衛門の霊を鎮める目的のものらしい。
ここで夏美がそれまでに気がついたことを述べる。
伊右衛門はかなり人々に恐れられていたようだ。
伊右衛門は風水を利用してこの島に気の力を集めていたのではないか。
何の為に気を集めていたのかはわからないが、溜まりすぎた気は《かまいたちの夜》の暴風で拡散するので、
気が暴発して悪影響が出るようなことにはならないだろう…。
 



 

129 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 17:53ID:2oopJZ3T
風が強まり、防波壁の扉が閉ざされた。
応接室からみどりの悲鳴が聞こえた。
透たちが応接室に行くと、天井に赤い線が一本引かれ、そこからポタポタと滴が落ちている。線は血で描かれたものらしい。
その時、階上から絶叫が聞こえた。
急いで二階に上がると、啓子の部屋からすすり泣きが聞こえる。
すすり泣く啓子の脇、ベッドの上には…首にベッドのスプリングが食い込み、可奈子が絶命していた。
啓子からなんとか話を聞き出すと、「突然スプリングが飛び出して、可奈子の首に巻きついた」と言う。
部屋には『朱雀』と書かれた紙が落ちている…。
突如啓子が笑い出した。
啓子はそこにいる一人一人を指差し、「ここにいる全員が死ぬ」と老人の声で告げた。
「すべては岸猿家のため…」啓子は気を失った。
 



 

130 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 17:56ID:2oopJZ3T
啓子を部屋へ運び、残りの者は応接室に集まっていた。誰も口を開こうとしない。
二階から大きな物音がした。
物音は美樹本の部屋からするようだ。誰かと争っているらしい。
「お前の思うようにはさせん!」と美樹本。
「たかがアビコの家兎に何が出来る」と老人の声。
透たちは美樹本の部屋の扉を開けようとするが、体当たりをしても開かない。
ようやく扉が開いた時、部屋の窓の下には、堀に植えられていた鉄杭によって串刺しにされた美樹本の死体があった。
まるで昆虫標本のように外壁に磔になっている。
そして部屋の床には『玄武』と書かれた紙。応接室の天井には、もう一本の線が描き加えられていた。
 


 

誰の仕業なのか。そもそも人間にあんな殺し方が可能なのか。さっきの老人の声は?
応接室で皆が話し合う。
とりあえず警察に連絡を、と電話を探すが、館には電話が無いようだった。
では携帯電話なら、と香山、夏美、俊夫が携帯を取り出すと、3人の携帯から奇妙な声が流れ出た。
『ひとつ、ふたつ、みつよついつつむつ、ななつやつ、ここのつ血に満たされば
逆しまの力ぎんと溢れ、この世の法破れや、妙婆詞(ソバカ)。
さすれば比斗神(ひとがみ)生まれるぞよ』
 



 

131 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 17:59ID:2oopJZ3T
一同は美樹本のクルーザーで逃げようとするが、玄関には鍵がかかっていた。
美樹本の部屋に鍵があるはずだ…皆で美樹本の部屋に行き、鍵を探すが見つからない。
美樹本が鍵を持っているのだ。俊夫が窓から体を乗り出し、鍵を取ろうとした。
その瞬間、突然窓が閉まり、俊夫の体を挟み込んだ。
透たちが窓を引き上げようとするが窓は意思を持つかのように俊夫を絞めつけ、
俊夫の体は胴体で切断されてしまった。
どこからか『白虎』と書かれた紙が舞い降りてきた…。
 


 

夫の死を目の当たりにして気を失ったみどりは自室に運ばれた。
応接室の天井にはまた赤い線が増えていた。これで三本。
「こんな事になるなら今日子の言う通り、島に来なければ良かった」小林が呟く。
今日子は岸猿伊右衛門の孫に当たるらしい。
三日月館での岸猿家の非道な行いを聞き知っていた今日子は小林をひき止めたのだが、
どうしても行くときかない小林に、お守りと言って五芒星の描かれた木人形を渡したのだ。
「それはセーマンちゃうのん?」人形についた印を見て夏美が言った。
 



 

132 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 18:01ID:2oopJZ3T
夏美、そして美樹本の部屋にあった岸猿家について調べた本によると…
 
  • 五芒星(セーマン)に対する印はドーマン(縦四本、横五本の線を引いた碁盤目状の印)
  • ドーマンの描き順には、臨、兵闘、者、皆、陣、列、在、前の九字が割り当てられる。
別の言い方では、朱雀、玄武、白虎、勾陳、南斗、北斗、三台、玉女、青龍。
(注・この説明はかなりいい加減に書いてます。陰陽道に詳しい人、間違いがあっても突っこまないでね)
 


 

ドーマンの描き順と同じ文字が死体の側に。そして一本ずつ引かれていく天井の線。
どうやら人が殺されるごとにドーマンの完成が近づいているようだ。
勝手に付いてきた小林を除く、館に集まった九人は何らかの儀式の生贄にされるために呼ばれたのだ。
愕然とする一同。その時夏美が天井に線が一本増えている事に気づく。
廊下を誰かが歩いてくる。
それは全身を血に染めた啓子だった。先ほど携帯から流れ出た祭文をブツブツと唱えている。
啓子は手にみどりの首を下げていた。みどりの首は『勾陳』と書かれた紙をくわえている。
「我は岸猿家当主伊右衛門。ここに五の贄を捧げ奉り給う」
老人の声でそう言って、啓子は自分の首に包丁を突きたてた。『南斗』の紙がひらりと落ちる。
天井に五本目の線が引かれていった。
 



 

133 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 18:04ID:2oopJZ3T
応接室を離れ、食堂で残った五人が話し合う。
ドーマンの完成によって比斗神とやらが生まれるようだ。
伊右衛門は五十年かけて集めた気が最も高まるこの日、暴風によって気が散らされてしまう前に
ドーマンを完成させたいのではないか…。
突然、喉が渇いたといって厨房に行く夏美。
 


 

おそらく美樹本は初めてこの島に来たとき、伊右衛門を鎮める石碑を壊してしまったのだろう。
目覚めた伊右衛門の霊は美樹本を操って、生贄にするためにこの島に皆を集めたに違いない。
透が真理に自分の考えを話していると、夏美の絶叫が聞こえた。
食堂に逃げ込んできた夏美は全身火だるまとなっていた。そしてそのまま凄惨な最期を遂げる。
夏美の死体に『北斗』の紙が張り付いていた。
 


 

香山は夏美を失った悲しみと怒りで、先ほどから一人何も喋っていない小林にくってかかる。
「お前が夏美を殺したんや!」「私は無関係だ」小林は食堂を出て行ってしまう。
ひとりにして欲しいと言う香山を残し、透と真理は二階へ上がった。
だが透は香山のことが気になり、真理を先に行かせて食堂に戻った。
 



 

134 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 18:06ID:2oopJZ3T
食堂から声がする。「見んといて……見んといて…」
透がそこで見たものは、香山の目をえぐり出す、炭と化した夏美の姿だった。
透は慌てて真理のいる部屋に逃げ込んだ。
 


 

五十年かけて溜めた気は、《かまいたちの夜》に吹き飛んでしまうはず…
つまり部屋の中で夜が過ぎるのをじっと待っていれば助かるかもしれない!二人は希望を持つ。
部屋の外で小林の悲鳴が聞こえた。「助けてくれ!」
小林を見捨てる事は出来ず、透は扉を開け、そして見てしまう。
 


 

胸に穴を開けた美樹本、首に鉄線を食い込ませた可奈子、喉の裂けた啓子、
真っ黒に炭化した夏美、両目の無い香山、自分の首を抱えたみどり、上半身だけで這いずる俊夫…。
死者たちがあの祭文を唱えながら、こちらに迫ってくる。
部屋に入り扉を閉じるが、廊下からは扉を開けようとする音が聞こえてくる。
外では風が強まってきている。もう少しの辛抱だ。
しかし突然、小林が「奴らも頑張ったが、間に合いそうにもないなあ」と言って、
隠し持っていた鎌で真理を切りつけた。喉を切られて真理は息絶えた。
 



 

135 かまいたちの夜2~陰陽篇~ sage 04/02/29 18:09ID:2oopJZ3T
伊右衛門の霊は、美樹本を離れ啓子にとり憑いていたが、啓子が死んだ今は小林に憑いていたのだ。
小林の参加は伊右衛門にとって願ってもない幸運だった。
小林に憑いていれば、孫である今日子を守り、岸猿家を再建できるからだ。
「さあて、あと一人。もう時間は無い」
小林の姿の伊右衛門が透に切りかかった。同時に透は小林の首に手をかける。
鎌は透の肩に刺さったが、透はそのまま首を絞め続け、小林の息の根を止めた。
 


 

扉は開いていたが、死者の姿はない。《かまいたちの夜》が過ぎようとしていた。
悪夢は終わった…そう思ったとき、声が響いた。
「やれ嬉し やれ嬉し とうとう九執血で満たされおった
ひとつ ふたつ みつ よつ いつつ むつ ななつ やつ ここのつ
血に満たされ 今こそ逆しまの力 ぎんと溢れぬ」
九人目の生贄は誰でも良かったのだ。透でも、小林でも。
声は透自身が発するものだった。透の口から哄笑が溢れ出た…。
 


 

陰陽篇・完
 


 

比斗神=岸猿家にとっての守り神で、富をもたらすが、蘇らせた者以外にとっては邪神となる。
     呼び出すためには血のドーマン(生贄)が必要。
 



 

209 かまいたちの夜2~官能篇~ sage 04/03/02 19:08ID:sEVPQ++k
陰陽篇・透たちが散歩している所から分岐。
石碑が気になった透は、それを元の形につなぎ合わせる。
 


 

《かまいたちの夜》が始まった。恐ろしいほどの風の音がする。
透の部屋に真理が訪ねてきた。「なんだか恐くなっちゃって」二人は並んでベッドに腰掛けた。
透は思い切って真理の肩を抱き寄せ、見つめあった二人はキスをした。
今日の真理は妙に大胆だ…。我慢できなくなって、透は真理を押し倒す。
二人はベッドの上で抱き合い、愛撫する。
ついに、ついに一線を越えるのか…とその時。
 


 

部屋の入り口にみどりが立っていた。
「ぎょげええええ!」驚いて思わず真理の上から飛び退く透。
「そんな女に騙されちゃダメ」とみどり。
「私が彼とねるの」不敵に笑い、透の唇を吸う真理。
二人が透を奪い合い、透にあんなことやこんなことをしていた時。
「はじまってる~」「私もする~」突然、可奈子と啓子が服を脱ぎながら部屋に入ってきた。
四人の手によって服を剥ぎ取られ、
舐められたり噛まれたり吸われたりさすられたりこすられたりしごかれたりする透。
四人の女性にもみくちゃにされて痛い気持ちイイハァハァこんな幸せがあっていいのか。夢でも見ているのか?
 


 

「ここにおったんかいな」夏美が入ってきた。もしや夏美も、と思いきや違うようだ。
「あんた色情霊に取り憑かれてるで」
色情霊とは色欲に凝り固まって死んだ人間の霊だ。他の男連中はその力で眠りこけているという。
「あたしに任せとったらええねん。
大阪では『悪霊ハンター・お夏』と呼ばれとったんや。すぐ除霊したるわ」
『悪霊ハンター・お夏』!丈の短い装束(陰陽師とか巫女みたいな感じ)にコスチュームチェンジし、
ポーズを決める夏美。…夢でも見ているのか?
 



 

210 かまいたちの夜2~官能篇~ sage 04/03/02 19:10ID:sEVPQ++k
気持ち良すぎて、このままではPS2では表現できないモノを出してしまう…透は除霊を願い出る。
夏美によると、真理に対する透の欲望が霊を招いたという。
夏美の力によって透の中から悪霊が出てきた。
悪霊=岸猿伊右衛門は語る。
せっかく自由になったのに、石碑を元に戻され再び封じられるところだった。
そこでその場にいた透の並外れた色欲を伝って、透に取り憑いたのだ。
透に子作りさせて、透の子どもとして転生するために。岸猿家の再興のために。
 


 

悪霊は去った。
我に返った真理たちに説明する暇も無くボコボコにされ、ひとり全裸で横たわる透。
絶望感に打ちひしがれていると、ノックの音がした。
真理だ。夏美に事情を聞いたらしい。
真理は悪霊に操られていた時のことを、わずかに覚えていた。「私にしたこと、あれも全て悪霊の仕業だったの?」
もう失うものなんてないさ、と透は本音を語る。
「あんなことをしたのは、悪霊のせいだけじゃなくて真理のことを愛しているからだ」
 


 

透と真理は一晩中語り合った。透は今、無理をすることも飾ることもなく真理と話が出来た。
《かまいたちの夜》に感謝すべきかもしれない…たとえこの恋が実らなくとも。
 


 

官能篇・完
 



 

211 官能篇 蛇足 sage 04/03/02 19:11 ID:sEVPQ++k
夏美に除霊を頼まないと…
 


 

こんな気持ちいいこと終わらせるなんてとんでもない!と透が躊躇していると、夏美は呆れて出て行ってしまう。
 


 

「透ちゃん、ここだったのね」妙に甲高い声がした。声の主は…こ、小林さん!?
小林は赤いハンカチを咥え、身をくねらせながら訴える。「透ちゃんが、透ちゃんが、好きなのおお」
そこに香山が加わった。「わしもや、わしもや。わしも好きなんやああ」
香山はビキニパンツ一丁という姿だ。ワンサイズ小さめのものという所がミソだ。
美樹本が現れた。美樹本の格好は、素肌に皮ジャンとブーツだけを身につけている。
「やあ、俺のことは兄貴と呼んでくれ」と美樹本。
「兄貴は俺だ。そうだよな、透」これは俊夫だ。
なぜか俊夫は褌一枚で全身びしょ濡れ、伊勢えびの一杯入った桶を抱えている。白い歯が眩しい。
 


 

なんだなんだ、真理たちはどこに行ってしまったんだ。というかこのシチュエーションはなんなんだ。
考える暇を与えず漢たちが透に迫り来る…三日月館に絶叫が響き渡った。
 


 

官能篇バッドエンド・終
 


 

305 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:20ID:shVL7Qci
(島に出発するまではわらべ唄篇と同じ。
底蟲村篇の真理は大学で民俗学を専攻していたが、引っ越しの際に大学を辞めてしまっている)
 


 

島に向かう船の上で、船長が語る。
三日月島は地元の者には「天国島」と呼ばれている。
底蟲村が廃村になった後、島には岸猿家の別荘が建てられた。
岸猿家の者たちは豪奢な生活をおくっており、まさにそれはこの世の天国だと、人々は嫌味をこめて呼んだ。
昭和の時代になると、岸猿家の当主・伊右衛門は怪しげなものに興味を持ち出した。
『不老不死』の研究である。
金にあかせた生活と、研究は続けられが、そのうち島の者の消息が途絶えた。
岸猿家の番頭が別荘を訪ねていったが、別荘には誰もいなかった…。
 



 

306 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:21ID:shVL7Qci
船長は島に伝わるわらべうたを歌って聞かせる。
 


 

みのむしぶらりんしゃん美味そにみえる
なんぼ美味そでも喰ろてはならぬ
喰ろたら一生生き地獄
 


 

みのむしぶらりんしゃん我慢がでけぬ
我慢でけぬなら喰ろうてごろじ
喰ろたらお山に捨てられる
 


 

みのむしぶらりんしゃんたぢまのもりが
とこよのくにで見つけねばよかった
喰ろたら生きるぞ万万年
 


 

「あんたらも物好きだな…よりによって《かまいたちの夜》に行くとは…」
 


 

館に行く途中、『網張(あみはり)神社』という神社を見つける。
船長は「《かまいたちの夜》の前にここにお参りしておけ」と言う。
神社の中は蜘蛛の巣が張って荒れ果てていた。
ここでは土蜘蛛を神として祀っているらしい。また、錆付いた剣もそこに納められていた。
透は神社の外で、茂みの中に人影を見る。この島には猿でもいるのだろうか…。
 



 

307 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:22ID:shVL7Qci
「明日の夕方迎えに来る。気をつけることだ。《かまいたちの夜》には…『常世の虫』が目覚めると言うぞ」
透たちを館に送り届けると、意味深な言葉を残し船長は帰っていった。
 


 

透たちを柔和な顔をした老人が出迎えた。館の管理人、キヨだ。
応接室にいたのは、みどりと、この島の伝説を取材に来た美樹本。招待客はこれだけのようだ。
みどりは俊夫と結婚したが、俊夫は半年前に事故で死んだという。
我孫子が到着するまで島でも見物してくるといい、とキヨに言われ、
小林は湖へ釣りに、美樹本は山へ、みどりは中庭を散歩、透と真理は海へ泳ぎに行った。
 


 

浜辺にいた透たちのもとへ、すごい勢いでクルーザーが突っこんできた。慌てて逃げる二人。
クルーザーは岩礁に横腹をこすりつけ、止まった。クルーザーの中から出てきたのは香山だった。
クルーザーは壊れてしまったようだが、香山はこんなもんまた買えばいい、と豪快に笑った。
「ようこそ、歓迎するで。さ、わしの館へ行こうか」
 



 

308 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:24ID:shVL7Qci
館へ向かう途中、香山は二人に「我孫子の正体は自分だ」と明かす。
ゲーム業界参入の第一弾『かまいたちの夜』が大当たりしたらしい。
(最初は『かやまたちの夜』というタイトルだったが、手違いで今のタイトルになったのだとか。)
今はかなり羽振りが良く、この別荘もクルーザーもゲームで儲かった金で買ったという。
そこでゲームに登場してもらったお礼に、透たちを招待したのだ。
小林夫妻は勝手にペンションを出したので怒ってるのではないかと呼ばなかった。(結局小林は勝手に来たが)
OL二人は仕事で来られないそうだ。
透はなぜこの島を買ったのか、理由をきいた。
香山は答える。「この島には…『徐福伝説』があるからな」
他にもここには姥捨て山伝説、人魚伝説、『タヂマノモリ伝説』などもあるらしい。
 


 

『徐福伝説』
始皇帝の命令で徐福は不老不死の秘薬を探していた。
『海の向こうの蓬莱島(ほうらいじま)にその秘密がある…』
徐福はそう言って航海に出、消息を絶った。
『タヂマノモリ伝説』
垂任天皇が病になった際、家来の多遅摩毛理(タヂマノモリ)を『常世の国』に派遣し、
食べると不死になる『非時香果(トキジクノカクノコノミ)』を探させた。
 



 

309 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:25ID:shVL7Qci
姥捨山以外の三つの伝説は全て『不老不死』に関係している。
そして岸猿伊右衛門はここで不老不死の研究をしていた…この島にはきっと何かある。
香山は伊右衛門の研究を引き継ぎ、不老不死を実現したいのだと熱っぽく語った。
その時、透はわらべうたを思い出す。
あの三番の歌詞には『たぢまのもり』と『とこよのくに』が出てきたではないか。
それを聞くと香山は「ここには何かある!」と一層確信を増す。
 


 

館に着くと他の皆に香山が我孫子武丸だということが伝えられた。
二階の自室へ水着を置きに行った透と真理。それぞれの部屋に入った時、透は真理の悲鳴を聞いた。
透が急いで真理の部屋に向かうと…蜘蛛がいた。
蜘蛛は天井に張った大きな巣の中心に陣取っている。胴体だけで70センチはある。
真理を逃がし、蜘蛛と対峙する透。
部屋にあった傘を手に取り、蜘蛛の腹に何度も突き刺す。蜘蛛は廊下へと逃げ出した。
 


 

真理が呼んできた美樹本たちと合流し、蜘蛛の体液の跡を追う透。
廊下の突き当たりで天井に潜んでいた大蜘蛛が香山に襲いかかろうとしたその時、
いつのまにか菜箸を手にしていたキヨが、それを蜘蛛の頭に突き立てた。
 



 

310 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:26ID:shVL7Qci
さっきの蜘蛛のような化け物がいるというのに、迎えの船が来る明日までこの島にいなければならないのか。
恐怖と不安で落ち着きをなくす一同。
「ちょっと待ってください」美樹本が声をあげた。
さっきの大蜘蛛は伝説の土蜘蛛なのではないか。
あんなものが存在するくらいだ、もしかしたら不老不死伝説も現実にあるのかもしれない。
もしそれが発見できれば大スクープだ。自分はここに残る…、美樹本は言った。
さらにみどりも残ると言い出した。
俊夫を失ってから、人は何故死ぬのか、何故愛する人と死に別れなければならないのかという疑問が、頭から離れないのだ。
本当は大学で研究を続けたかった真理も、民俗学の生きた資料を目の前にして帰ることは出来ないという。
しかし透と小林の反対にあい、しぶしぶと真理は部屋に荷物を取りに行く。
 


 

真理が透を呼んだ。
透が真理の部屋に行ってみると、さっきの大蜘蛛が張った巣に、蜘蛛の糸で妙な模様が描かれている。
それは『アフナイソトクカヘレ』と書いてあるように見えた。首をひねる透の横で、真理は顔を青くして読み上げた。
「危ないぞ。疾く帰れ」
蜘蛛が警告を?そんなまさか…。
 



 

311 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:27ID:shVL7Qci
結局、透、真理、小林は帰ることになった。
クルーザーの無線機で送迎船に連絡はしたものの、船が来るのは夕方だという。
それまでここ待つと言う小林。しかし真理は「底蟲村に行ってみたい」と言い出した。
江戸時代に廃村となった村。管理人のキヨは底蟲村には絶対近づくなと言っていた。
一人でも行くと言う真理を止められず、また心配でもあったため、透と小林、香山も一緒に行くことにした。
 


 

村は驚くほど当時の景観を残していた。異様な量の蜘蛛の巣を除けば。
村の入り口には警告文が記してある。
『ココカラ先底蟲村 常世ノ入リ口ナリ 入ルナヨ
入ルト死ヌルゾ 皮溶ケルゾ 肉腐ルゾ 骨砕ケルゾ 五臓六腑ミナタダレルゾ
忌マハシキモノ多ク現レルゾ
一名 スクナビコナ トイフソレハ スデニ死ニタルモノデアル』
スクナビコナとは国造りを手伝い、後に常世の国へと飛ばされたという体の小さい神様のことだ。
警告文を無視して村に入ると、そこにいた全員が何とも言えぬ嫌な感じを味わう。明らかに村の中は空気が異質だった。
小林が村に生えている灌木に近づいていった。透と真理も後を追う。
 



 

312 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:28ID:shVL7Qci
奇妙な植物だった。
葉は無く、黒光りする枝に白い花と小ぶりのバナナのような黄色い実がついている。
香山によると、村の裏山にもこの木がたくさん生えているという。
料理人の小林は、この実が気になり味見してみた。「うん…いけるな。」
実を平らげ、他の三人にも食べろと勧める小林。
透は皮をむいてみた。ピンク色で甘い匂いがする。
だが…ねっとりしていて、粘液に包まれていて、妙に生々しい。まるで生肉のようだ。
改めて臭いを嗅ぐと、髪の毛が焼けるときみたいな臭いがするように感じる。
小林が見ている手前捨てるわけにもいかず、香山は一口だけ実を食べた。あまり口に合わなかったようだ。
真理が実を口に運び、噛み切ろうとした瞬間、透は悪い予感がしてそれを止めた。
 


 

廃屋を見に行こうといって、透はその場から真理を連れ出した。
廃屋の中には長持ちがあった。真理がそれに近づくと長持ちの陰から人影が飛び出してきた。
それは真理に襲い掛かり、真理を助けようとした透も組み伏せられてしまう。
サルのような姿のそいつの顔は、生ける屍、ゾンビというのが一番近かった。
首を絞められ、もう駄目かと思ったとき、天井から何かが落ちてきた。蜘蛛だ。
蜘蛛はゾンビにに飛び掛り、そいつの首を食いちぎった。
だが、首が千切れてなおゾンビは動けるようだ。そのまま廃屋から飛び出し、逃げてしまった。
騒ぎを聞きつけた小林と香山がやってきて、残っていた大蜘蛛を殺した。
 



 

313 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:29ID:shVL7Qci
この島には大蜘蛛以外の化け物もいる…。神社で見た猿のような影はあの化け物だったようだ。
あんな目にあったため、真理もようやっと帰る気になった。真理だけではない、香山もだ。
クルーザーの所に戻ってきたとき、小林が腹が痛いと言って苦しみだした。
もしやさっき食べたあの実が原因だろうか…。
しばらくするととりあえず痛みは和らいだようだが、船が来るまではまだ時間がある。四人は一旦館へ戻る事にした。
 


 

透が小林を背負い、山道を歩いた。
ふと気がつくと香山の様子がおかしい。顔色が悪い。キョロキョロと辺りを見て何かを探しているようだ。
どこか具合でも悪いのか、と透が声をかけようとした時、
「ミ…ミ…ミミミ…ミミミミミミミミミミミミミミ…!」
突然、小林が大声をあげた。口から泡を吹いて叫んでいる。
透の背から落ち、小林は四つん這いになって凄まじい速さで走り出した。そして草むらに消えてしまう。
四人は小林を探した。
捜索を続ける透と真理の背後で音がした。
二人が振り返ると、そこには底蟲村で見たゾンビのような化け物の姿があった。
化け物が三体。そして化け物と一緒にいたのは小林だった。皆、あの実を貪り食っている。
香山がやって来て、その物音に気づいた化け物たちと小林は、やぶの中に消えていった。
香山は化け物が食べていた実の残骸を見て、ただ一言「……そうか……」とつぶやいた。
 


 

「あの実のせいで叔父さんはあいつらの仲間になってしまった…あれは食べてはいけないものだったのよ」真理が言うのを聞いて、透は閃いた。
わらべうたの「みのむし」とはあの木の実のことだったのではないだろうか。
「喰ろたら一生生き地獄」は、食べたら化け物になってしまうことを表していたのか…。
 



 

314 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:32ID:shVL7Qci
館に戻ると、館は外も中も蜘蛛の糸で覆われていた。前に進むのも困難なほどだ。
他の者たちを探して食堂へ行くと、そこには蜘蛛に体液を吸い尽くされた美樹本の死体があった。
透たちはみどりとキヨを探し続けた。
みどりは物置部屋にいた。蜘蛛の糸に絡み取られぐったりしているが、生きているようだ。
みどりを助けようとすると、七体の大蜘蛛が立ちはだかった。
この数には太刀打ちできない…どうするかと迷っていると、キヨが火のついた松明を持って現れた。
炎で蜘蛛を焼き、追い払い、みどりを抱えて館から逃げる一行。
透たちは館の外に逃げたものの、十数体もの蜘蛛に囲まれてしまう。
すると、あのゾンビのような化け物たちが現れ、大蜘蛛たちに攻撃を始めた。しかし大蜘蛛に押され気味だ。
「蜘蛛が多すぎてスクナビコナでは防ぎきれません。早くこちらへ」キヨが言った。
 


 

「網張神社に、かつて大蜘蛛退治に使われた太刀、《蜘蛛切丸》があります。
あれさえあれば、蜘蛛たちを根絶やしにすることができるのです」
なぜキヨはそんな事を知っているのか。そこまで知っていながらなぜ自分で行かないのか。
透たちは疑問を感じるが、今はそれどころではない。
みどりも目を覚まし、蜘蛛たちに行く手を阻まれながらも透たちは神社に辿り着いた。
 



 

315 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:33ID:shVL7Qci
神社の周りには島中の蜘蛛がひしめいていた。
神社にあった錆びた剣《蜘蛛切丸》を振りかざすと、蜘蛛たちは後ずさっていく。
真理が透の袖を引っ張った。透が真理の指差す方を見ると、以前見たのと同じ蜘蛛の巣に書かれたメッセージがあった。
『ツルキヲタスナ』…剣を出すな…
『トコヨノムシアラワレ コノヨオワル』…常世の虫現れ、この世終わる…
 


 

《蜘蛛切丸》の威力は凄まじく、蜘蛛たちは無抵抗のまま殺されていった。
喜んだのも束の間、香山が剣を取り落とし、苦しみだした。
「とうとう来よったか……」香山は理性のあるうちに、と言って、透たちに自分の考えを伝えた。
自分や小林がこうなった原因…あの木の実はおそらく『トキジクノカクノコノミ』だ、と。
「体が…体が言うことをきかんのや!実をくれ!実…ミミミミミミミミ!」
そう叫んで香山は、小林と同じように走り去る。
 


 

透と真理はあのわらべうたを思い出す。あの歌にはなにもかも秘密が隠されていたのだ。
『タヂマノモリ』が持ち帰った木の実は、この世にとんでもない災厄をもたらすものだった。
あの実を食べた者は死ななくなるのではなく、ゾンビのような姿のまま死ねなくなるのだ。
そんなものが世界に広まったらどうなるか。
蜘蛛の巣に、文字が残されていた。
『モウテオクレ』
…もう、手遅れ…
「香山さんも小林さんもきっと『底蟲村』にいるわ」
突然、みどりが歩き出した。みどりからは今までとは違う、決意のようなものが感じられた。
 



 

316 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:34ID:shVL7Qci
透と真理は底蟲村の前にいた。みどりは一人でどんどん先へ行ったため、見失ってしまった。
村の中の嫌な感じは以前より増したようだ。
しかし裏山の辺りまで来ても、蜘蛛もゾンビも姿を現さなかった。
透は真理の様子がおかしいことに気づく。
顔面が蒼白で、キョロキョロと辺りを見回している。真理はあの実を一瞬口に含んだが、まさか…。
透が躊躇いつつもそのことを訊こうとした時、真理が「あっ」と声をあげた。
 


 

裏山は『トキジクノカクノコノミ』だらけだった。一面にその木が生えている。
そして木の周りには、ゾンビのような化け物が群がり、実を貪っていた。
人相のすっかり変わった小林らしき人もいる。そして香山も。
香山は透たちを見て恥ずかしそうに苦笑いするが、実を食べるのはやめなかった。
「わしはもうあかん。頭はしっかりしとるんやが、体が言うことをきかんのや…」
真理もふらふらと木の方へ近寄っていく。透は無理矢理ねじ伏せて真理を止めた。
「私、実を食べていないのに…あんなふうになりたくない。透、私を殺して!」
透は無言で真理をつかむ手に力を込めた。
 


 

「この実は粘膜に触れただけで作用を起こす。すぐに吐き出しても手遅れじゃ」
声がして振り向くとキヨが立っていた。
「あんたは何者なんだ。なぜいろいろなことを知ってる」
つかみかかる透の手をかわし、キヨは語り始めた…。
 



 

317 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:35ID:shVL7Qci
あの実…『トキジクノカクノコノミ』は木の実ではない。
『常世の虫』の卵なのだ。わらべうたにあった『みのむし』とは『虫の実』のことだった。
虫の実を食べた者は、理性を失い死ねない化け物『スクナビコナ』になる。
彼らはその名の通り不完全な幼体だが、稀に成熟する資質を持つ者が出る。
そして成熟した者は常世の虫となる。
今、底蟲村の地下に眠る常世の虫は、五十年に一度、この世を不死の国にするために地下から出ようとする。
それを食い止めていたのが、常世の虫を封印する為に島に置かれた土蜘蛛たちだった。
これまで何百年もの間、常世の虫の復活は蜘蛛たちに阻まれてきたが、
今回は透たちの手によって邪魔者の蜘蛛はいなくなった…。
 


 

キヨは『タヂマノモリ』だった。常世の国から『トキジクノカクノコノミ』を持ち帰った張本人。
島の『スクナビコナ』は、飢饉の時に『虫の実』に手を出し山に捨てられた底蟲村の村人たち(これが姥捨山伝説のもと)と、
不老不死を追求した岸猿家の人間の成れの果てだった。
 


 

キヨは透にも虫の実を食べさせようとした。もの凄い力で押さえ込まれ、もう終わりかと思ったが、急にキヨの力が緩んだ。
キヨの手を掴む人物がいた。
「何だかわからないけど、急にすっきりしちゃった。あんた、いいかげんにしなさいよ」真理だった。
真理はキヨに一本背負いをかけ、キヨが動けないでいるうちに二人は逃げ出した。
 



 

318 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:36ID:shVL7Qci
突然大地が揺れて、二人は地面に投げ出された。
村の地下から、常世の虫が現れたのだ。激しい揺れの中で透は真理を見失ってしまう。
小山ほどもある巨大な虫の背には、無数の『トキジクノカクノコノミ』が生えている。
木のように見えていたものは虫の体の一部だったというわけだ。
「うれしや…うれしや…この世を常世に、常世をこの世に…トコヨコノヨトコヨコノヨ…」
キヨに合わせて『スクナビコナ』たちも唱和する。「トコヨコノヨトコヨコノヨトコヨ…」
 


 

虫の進行方向にみどりがいた。
みどりは全裸で、両手を広げて虫を阻むように立っていた。このままでは踏み潰されてしまう。
しかしなぜか常世の虫はみどりの前で立ち止まった。次の瞬間…。
みどりの目や口、全身の穴という穴から無数の微細な蜘蛛がぞろぞろと出てきた。
みどりは蜘蛛に捕らえられた時、卵を産みつけられていたのだ。今まで動いていたのはみどりの皮を被った子蜘蛛だったのか…。
蜘蛛は見る間に成長し、他の蜘蛛と融合して、一匹の巨大な蜘蛛になった。
二体の巨虫は押しつ押されつ格闘する。
劣勢になった常世の虫のもとへ行こうとしたキヨの足を香山が掴んだ。
「まだ人間でおるうちに、やることはやっとかんとな」
香山以外の『スクナビコナ』たちまでがキヨの前に立ちはだかった。「もう死にたい…常世に帰りたい…」
キヨが虫を助けに行けずにいるうちに、虫と蜘蛛の戦いには決着がついていた。
相討ちだ。常世の虫も大蜘蛛も死んでしまった。
 



 

319 かまいたちの夜2~底蟲村篇~ sage 04/03/05 20:37ID:shVL7Qci
透と真理は村の外へ脱出した。
村の囲いの中から香山が顔を出した。「たったひとつ、心残りがある。会社のことや。透くん、わしの会社をついでほしい」
透が頷くと香山は何度も何度も礼を言い、村の中へ消えていった。
次の瞬間、村の地下から火柱があがり、村は地の底へと飲み込まれていった。
キヨも、虫も、蜘蛛も、香山たちも…全てが消え、村の痕跡すら残らなかった。
 


 

気がつくと二人は船上にいた。送迎船の船長が迎えに来てくれたのだ。
色々な事があったが、こうして生きている。何より真理が隣にいる。透は幸福感に酔いしれていた。
だから真理の話も聞こえていなかった。
「実を口にしたのに、私はどうして『スクナビコナ』にならなかったのかしら。
キヨが言っていた『成熟する資質を持った者』って…もしかしたら私は…」
 


 

透が真理のほうを見た時、真理は甲板に膝と両手をついていた。
真理の背中が透の目の前でぱっくりと割れた。
そして中から…虫が現れた。
カラスアゲハのような真っ黒な虫は、透を一瞥して飛び立った。
真理の抜け殻を手にして呆然としている透の上に、月の青い光が降り注いでいた。
 


 

底蟲村篇・完
 


 

補足
 
  • キヨやスクナビコナは、神社に張ってあった結界のために『蜘蛛切丸』を手にすることはできなかった。
  • 《蜘蛛ん太刀の夜》が訛って《かまいたちの夜》となった。


 

348 かまいたちの夜2・底蟲村篇 sage 04/03/06 10:22ID:A/Nf2lsh
前の別の人だが追加
真理に実を食わせてるかと(口にさせてはならない)
真理とキスしたかでエンドが違う。
 
1「真理が実を食べた、又は口にした」
 
 >「キスした」→「真理成熟、透化け物化」
 >「キスしてない」→「真理成熟」
 
2「真理が実を食べてない」
 
 >真理・透無事脱出(たぶんこれがパッピーエンドだと思われる)
 


 

あと、うろ覚えだが、このどれかが船まで行かないEDだった気がする。

386 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:20ID:cqkjhnP8
(わらべ唄篇で正岡の死体を発見したところから分岐。
事件のことを真理に相談した透の意識は唐突に薄れ、ここからは真理の視点で物語が進む)
 


 

真理の〈力〉によって、透は気を失ってしまった。まさか、こんな時に〈力〉が始まるなんて。
正岡の死はわらべ唄と符合する点が多すぎる、と言って小林はわらべ唄を口ずさんだ。
真理は初めて聞いたときからこの唄が気になっていた。どこかで聞いたことがあるような気がするのだ。
小林にしたって、一度聞いただけですらすらと歌えるのはおかしい。
とにかく皆に知らせようと言う小林に、少し待って欲しいと言って、真理は正岡の死体に触れると…
――三日月館の内部、病室のような場所、いくつも並んだベッドとその上の子どもたち、薬品、
ベッドから垂れ落ちた手、シーツに染み付いた血――
断片的な映像が真理の頭の中にフラッシュバックした。
 


 

まだふらついてる透も含めた全員が応接間に集められ、正岡の死が伝えられた。
殺された、ということはこの島に殺人者がいるということになる。
電話線は何者かによって切られ、警察に知らせることも出来ない。
館を調べても何も見つからず、根拠のあるアリバイを証明できる者もいなかった。皆の間に不安が広がる。
 


 

388 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:21ID:cqkjhnP8
自室に戻ると、透が言った。
「気絶した時、真理の声が頭の中に直接聞こえた。それにあの時、僕は真理になって僕を見ていた」
僕に何か隠しているんじゃないか、と透に問われる真理。
透は自分にとって一番信用できる人物だ。そして透も自分を信じてくれる。真理は秘密を明かす決心をする。
真理には特別な力がある。
物に残った人間の記憶を読み取る能力だ。
人の記憶や思いを探る事も出来なくはないが、それは相手の肉体・精神ともに大きな負担をかけることになる。
先ほど透が気を失ったのはその為だった。(しばらく使えなくなっていた〈力〉が突然目覚め、コントロールできなかった)
ただし、〈記憶〉はそれを残した者の心理によって歪められている。(嫌いなものは醜く歪められ、その逆は好ましく映る)
そのため完全な事実が読み取れるわけではないが、犯人探しに役立つかもしれない。
 


 

真理は透と共に正岡の部屋を調べてみたが、たいした手がかりは見つからなかった。
そこで、もう一度死体の記憶を読み取ってみることにした。死体の頭部に触れると…
――男の姿、フクロウの図案、〈ガンツフェルト症候群〉という文字、燃える人間――
「何をしている」不意に美樹本が現れた。
死体の発見者の透と、真理の行動を怪しむ美樹本。しかし意外にも透は慌てることもなく毅然とした態度をとっている。
美樹本は「怪しまれるような行動は慎め」と言い残して出ていった。
 



 

389 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:22ID:cqkjhnP8
朝食の時間は、島が閉じてしまったことが話題となっていた。これでは誰も脱出できない。
食事が済むと、真理は透を誘って外へ出た。二人きりになると透が言った。
「おかしな話だけど、僕はゲームをやってもいないのに河村亜希を知ってる気がするんだ」
「私もなの。河村亜希に見覚えがある気がする。…それからあのわらべ唄も」
それだけではなかった。二人とも、初対面のはずの村上や正岡にも以前どこかで会ったように感じていた。
そういえば二人が初めて出会ったときも同じような感覚を持った…。
しばらく歩いていると、村上と可奈子が言い争う声が聞こえた。
真理たちに気づくと逃げるように去っていく村上。それを可奈子が追いかける。
可奈子は真理とすれ違う時に囁いた。「思い出した?」
 


 

ハーバーで透がバッジを拾った。フクロウの図案の小さな丸いバッジ。
それは真理が正岡のビジョンの中に見たものと同じだった。真理はバッジの〈記憶〉を見てみた。
――五人の幼い子どもたち、〈ガンツフェルト症候群〉、そして子どもの頃の真理自身の姿――
真理は透に今見たものを伝えた。真理の中に何か引っかかるものがあった。
 



 

390 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:23ID:cqkjhnP8
館に戻ると、館内は異様な雰囲気で女性のすすり泣く声が聞こえてきた。
声のするほうへ行くと、血の海の中で夏美が死んでいた。
両目が潰され、首には狐の襟巻きが巻きついている。両の手首はもがれかけていた。わらべ唄の見立てだ。
目を泣き腫らした香山が搾り出すように言った。
「こいつはこないだまでミナミのソープで働いとったんや。わしらはそこで知りおうて…。
春子に死なれて、お前にも死なれたらどないしたらええんや!」
離婚したと言っていたが、春子は死んだのか…。
真理は隙を見て夏美の死体に触れてみた。
――泣いている子どもたち、春子や香山の姿――
真理は小林に肩をつかまれ意識を引き戻された。小林は悲しげに「そんなことはやめた方がいい」と言った。
消沈している香山を残して真理たちは部屋の外へ出た。
 


 

叔父は何か知っている…。真理は真相を確かめるべく小林の部屋に行った。
小林に確認するように真理は話した。
 


 

捨て子だった真理は今の両親に八歳の時引き取られた。それ以前にいたのは『愛護苑』という施設だ。
愛護苑は真理がいた当時、ミネルヴァ社という日本でも有数の薬品会社がスポンサーとなっていた。
そして小林は脱サラ以前、ミネルヴァ社の開発部にいた。
真理は小林の研究室で何日かを過ごした事がある。
そこには何人もの子どもたちが集められ、検査をし、薬品を与えられた。あれは確かに何かの実験だった…。
 



 

391 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:24ID:cqkjhnP8
「どうして今さらそんなことを…」青ざめる小林。
真理は小林に拾ったバッジを突きつけた。フクロウのバッジは、ミネルヴァ社の社章だった。
「ガンツフェルト症候群って何。今ここで何が起こっているの」と真理は訊いた。
「知れば後悔することになる」と小林は言ったが、真理の決意は固かった。小林は話し始めた。
 


 

ガンツフェルト症候群とは、第二次性徴前の子どもだけがかかる、内分泌異常を伴う神経障害だ。
これにかかった者は、視覚や触覚などを失う代わりに五感とは別の知覚や能力が開花することがある。つまり超能力を持つ。
そして小林は症候群の原因となる毒素を研究していた。
「その毒素を私に?」真理が訊いたが返事はなかった。
突然部屋に俊夫が入ってきた。
「ミネルヴァのことで話があるんですけど」俊夫は問答無用で小林を連れて行こうとした。
真理が思わず俊夫の腕を掴むと、〈力〉が勝手に発動し、真理の意識は俊夫の中に入っていった。
その時見えたのは、小林を殺すビジョンだった。俊夫はミネルヴァ社のスパイなのだ。
透が真理たちを呼びに来た。「大変だよ。早く外へ」真理たちは気絶した俊夫を置いて外へ向かった。
 


 

外へ出た真理は、監視塔の先端に串刺しになった村上の死体を見た。死体はカラスにつつかれ、内臓がはみ出している。
「わらべ唄よ…」啓子が呟いた。わらべ唄を口ずさむ啓子。
「茶番はやめろ!部外者の目を気にしてる場合じゃないだろ」みどりの肩を借りて俊夫が館から出てきた。
「こいつらが犯人に決まってる。あの実験では女しか残らなかったんだ」俊夫は啓子たちを指して言った。
「ミネルヴァの犬が何を吠えてるの」啓子は俊夫の正体を知っていた。
俊夫はナイフを構えて啓子に向かっていくが、その腕は見えない力でねじ切られてしまった。
「姉さん、やっちゃってもいいの?」そう言って俊夫に近づいたのはキヨだった。
キヨから〈力〉があふれ、俊夫の首がぎりぎりとねじれていく。
「それくらいにしておけよ」それを止めたのは美樹本だった。美樹本は銃をキヨに向けた。
美樹本もミネルヴァ社の関係者だったのだ。
 



 

392 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:25ID:cqkjhnP8
美樹本は語る。
一年半前、「シュプール」にはミネルヴァ社の関係者が集まっていた。
小林を監視していた俊夫、そのサポートをしていたみどりと、何か起こりそうだというので援軍として駆けつけた美樹本。
結局その時は何も起こらなかったのだが…。
「ちょっと待ってくれ」香山が話に割って入った。「何を言ってるのかさっぱりわからんわ」
夏美は誰に殺されたんだ、ミネルヴァとはなんだと詰め寄る香山を、美樹本はためらいもなく撃ち殺した。
続けて、俊夫が倒れた。もう死んでいるようだ…もし生きていたとしても、手首からの激しい出血で死は間近だろう。
次に美樹本は逃げ出そうと走り出したみどりを背後から撃った。
仲間じゃないのか、と問う小林に美樹本は言った。「俺のすべきことは被験者の回収と情報漏えいの阻止」
そして小林に銃口を向ける。そこに真理が立ちはだかった。「あなたに私は撃てない。私は…被験者のひとりよ」
「真理ちゃんも記憶が蘇ったわけだ。ミネルヴァの洗脳もあんまりたいしたもんじゃないな」と美樹本。
「被験者の回収ということは、実験はまだ続けられているのか。あれだけの事件を起こしたというのに」小林が言った。
その時美樹本が透の存在に気づいた。透は部外者だ。香山のように殺すつもりなのだ。
真理はとっさに〈力〉を使い、美樹本の意識の中に入り込んだ。
 



 

393 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:26ID:cqkjhnP8
十三年前。
ミネルヴァの研究所ではサイ能力者(超能力者)を人工的に作り出す薬品の開発が進められていた。
試薬は子どもにしか効き目がなかった。愛護苑から、身寄りのない子どもだけが数十人選ばれ、ミネルヴァ社の研究施設に入れられた。
危険のない実験のはずだった。
しかし投薬が始まってから一週間目の夜。ほとんどの子どもたちが体調に異変をきたし死んでいった。
しかも同時に火災が発生し、研究所は全焼してしまった。
生き残った被験者は五人。
河村啓子・亜希の双子の姉妹、米倉夏美、田嶋可奈子、そして真理。
ミネルヴァ社は隠蔽のため彼女たちを処分しようとしたが、小林がそれを止めた。
記憶を消し、今後監視をつけて追跡調査をすることを条件に…。
事件の直後、小林はミネルヴァ社を辞めたが、彼にも俊夫とみどりの二人が監視につけられた。
研究は正岡と村上が引き継いだが、真理を除く被験者四人は、数年前示し合わせたかのように姿をくらました。
その後薬は完成。美樹本が被験者の第一号となった…。
 


 

真理の意識は美樹本から抜け出した。美樹本は気を失っている。
いわば美樹本も実験の犠牲者だ。あたりに転がる死体を見て、真理はやるせなさを感じる。
その時、啓子が俊夫のナイフを拾いあげて美樹本を殺そうとした。啓子を止める真理。
「あなたまだわかってないの」啓子が蔑むように言った。
死んだ夏美を除くと被験者の生き残りは、真理、可奈子、啓子、河村亜希…。
キヨが啓子の妹、河村亜希だった。
亜希は超人的なサイコキネシス能力を身につけたが、薬の影響でホルモン分泌が異常になり、急速に歳をとってしまったのだ。
「その苦痛があなたにわかる?こいつらなんて死ねばいいのよ!」
亜希は美樹本に向かって〈力〉を放つ。夏美や俊夫を殺したのと同じ〈力〉だ。
いつの間にか目覚めていた美樹本はそれに応戦する。二人の間で〈力〉が膨れ上がった。押される美樹本。
「やめてええ!」真理が叫ぶと同時に、透が空に向けて美樹本の銃を撃った。〈力〉の放出は途切れ、美樹本は倒れる。
透は真理に銃を渡し、美樹本を背負って真理と小林をうながした。「行こう。彼女たちから逃げるんだ」
 



 

394 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:27ID:cqkjhnP8
山道で真理たちは休憩をとった。
啓子たちの狙いは自分だ、自分を置いていけ、と言う小林を真理は諌める。
あの三人は仲間のはずの夏美を殺したのだ。叔父さんにだって何をするかわからない…。
「どうせあの女は人殺しさ」そう言って現れたのは啓子だった。
可奈子が透視で真理たちの居場所を見つけ、啓子はここまでテレポートしてきたという。
正岡を殺した時も、同じようにテレポートで部屋に侵入したそうだ。
夏美はソープで働いている時に香山に目をつけ、正妻になるために香山の妻・春子を〈力〉で殺したのだという。
手に入れた豊かな生活を守るために、夏美は協力を拒んだ。だから殺した。
小林は処分されそうだった自分たちを救ってくれた。だから殺すつもりはなかったのだが…。
小林の姉にひきとられ幸せそうに暮らす真理を見て気が変わった、と啓子は言った。
「私たちは亜希がああなって暮らしていくのにも必死だったのに…」
 


 

「真理が私の姉に引き取られたのは偶然だ。それよりも何故洗脳が解けた」
問う小林に啓子は答える。
食卓に置かれたおもちゃの車は、可奈子の弟のものだった。可奈子の弟も実験の犠牲者だ。
ある日、可奈子のもとにそのおもちゃが届けられた。『ミネルヴァの実験を思い出せ』というメッセージとともに。
そこには五人の生き残りの名前も書いてあり、全てを思い出した可奈子は啓子たちを見つけ出した。
三人は実験の関係者に復讐する為に夏美に協力を求めたが断られた。
真理にも知らせようとしたが、その前にミネルヴァ社に気づかれてしまい、逃げ出すしかなかった。
危険を冒して「シュプール」に行った。その後、ゲームを利用して関係者に揺さぶりをかけ、正岡と村上の所在を知った。
そしてこの島に関係者を集めた。
わらべ唄は啓子たち姉妹が研究室で歌っていたものだった。
船長にわらべ唄を歌わせたのは、関係者に当時の事を思い出させ、それをテレパシーで探る為だった。
ミネルヴァ社と戦うために協力しなさい、と啓子は小林に言った。
真理は止めるが、小林は真理に手を出さないことを条件にそれを呑んだ。
 



 

395 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:28ID:cqkjhnP8
啓子は亜希と可奈子をこの場に連れてこようと、〈力〉を使おうとした。
その時ヘリコプターが飛んできた。救助か?と真理は思ったが、ヘリからは銃弾が飛んできて啓子の体を貫いた。
小林が真理の手を引き、逃げようとした時、突如戦闘ヘリは爆音とともに炎上した。
「パイロキネシス…」小林が呟いた。
 


 

真理、透、小林は力なく館に戻った。とっさの事で、美樹本は山道に置きざりにしてきてしまった。
「さっきの爆発は真理がやったのか」と小林に訊かれるが、真理には覚えが無い。では可奈子か亜希がやったのか…?
あの戦闘ヘリはミネルヴァ社のものだ。美樹本が連絡したのだろう。
薬品は完成し、かつての被験者はもう研究の価値は無い。ミネルヴァ社の裏の顔を知るだけの邪魔者だ。
ミネルヴァ社に処分されるのが先か、可奈子たちに殺されるのが先か…。
絶望的な状況だが、透が言った。「可奈子ちゃんたちと協力して戦うんだ」
 


 

館に入ると、「啓子を見殺しにしたわね」と言って可奈子と亜希が小林に詰め寄った。
そんな場合じゃない、と真理が言うと同時に、ミネルヴァ社の私兵が館に突入してきた。こんな状況なのに透は妙に楽しそうだ。
小林は兵士たちに殺されてしまい、残る四人は二階へと逃げた。
階下で手榴弾が爆発し、その爆風が真理を襲った次の瞬間、炎が立ち昇った。
まるで龍のようにうねる炎は、侵入者たちに襲い掛かり、薙ぎ払った…。
 



 

396 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:29ID:cqkjhnP8
二階の一室で真理は目を覚ました。しばらく意識を失っていたらしい。
「あれはあなたがやったの?」と可奈子たちに言われるが、何のことか分からない。
「パイロキネシス…あらゆるものを爆発炎上させる能力。こんな時には便利だよね」
そう言ったのは透だった。
 


 

実験で投薬を受けたのは子どもたちだけではなかった。他に三人の妊婦がいたのだ。
そのうち二人は流産したが、一人は無事だった。それが透の母親だ。
母の胎内にいた時から透には意識があった。
十三年前、透は胎内から〈力〉をふるい、研究室を焼き尽くした。
透の母親は火事で焼け死んだと思われていたため、監視もつかずに暮らしていた。
しかし八年ほど前にその存在がミネルヴァ社に知れ、母親の周りに不審な人物がうろつきだした。
その目を逸らす為に透は別の事件を起こし、母親を始末した。
可奈子に車を送ったのも透だった。被験者たちに実験の事を思い出させるために。
真理に近づいたのは、研究所にいた時から真理の事が好きだったから。
(透は真理と会う時には自らに仮想の記憶を植え付けていたため、真理が透の意識に触れたときも過去のことは読み取れなかった。
真理の〈力〉に触れたのがきっかけで、今は透の偽の記憶も外れている)
透の成長は常人よりも速かった。体は青年だが中身は十三歳なのだ。亜希と同じ薬の副作用だ。
それを聞いて、真理は透の妙な子どもっぽさに思い当たる。
 



 

397 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:30ID:cqkjhnP8
可奈子がミネルヴァの軍隊が迫っている事を感じ取った。
テレポートが使える啓子はもういない。今は手を組んで戦うしかない。
可奈子が透視で兵士の居場所を探り、透が焼き殺した。
兵を投入しても無駄だと悟ったのか、ロケットランチャーでの攻撃が始まった。
亜希が飛んできた弾を破壊するが、攻撃はまだ続いている。逃げなければいずれやられてしまう。
中庭の泉は海水だった。海と繋がっているはずだ。
真理たちは亜希の力で身を包み、透の炎を推進力にして水中を進み、館を脱出した。
 


 

出た場所は島の人造湖だった。(泉は海と湖の二ヶ所と繋がっている)
亜希は〈力〉の使いすぎか、気を失っているようだ。
透は可奈子に敵の居場所を訊いた。どうやら敵は館の方に集中しているようだ。
「よし、行こう」透は無邪気に笑って歩き出した。
館を見下ろす丘の上で、透は意識を集中した。そして〈力〉を放った。
館が炎に包まれ、豆粒のように見える兵士たちが一瞬で焼き尽くされる。
これは虐殺だ。ミネルヴァのやったことと変わらない…。真理は目を逸らさずそれを見ていた。
 



 

398 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:31ID:cqkjhnP8
突然、透の周囲の空気が揺らぎ、透の頭が吹き飛んだ。
「そのバカがサイ能力者だったとはな」美樹本の仕業だった。
美樹本は可奈子を殴り飛ばした。亜希はまだ気絶している。
真理は美樹本のものだった銃を構え、美樹本に向けた。
「人を殺すってのは、なかなか思いきりが必要なんだ。お前にはできない」美樹本が真理に近づいてきた。
真理は銃を撃つが、銃弾は美樹本をかすめただけだった。
銃は美樹本に奪われてしまう。「言ったろ?真理ちゃんには無理だ。だが俺にはできる」
そう言って美樹本は可奈子を撃ち殺した。
次に未だ目覚めていない亜希に向かって発砲する。亜希の身体がとび跳ねた。
真理は後先も考えず美樹本に飛び掛かった。しかし美樹本は動かない。
亜希が最後の力で美樹本の動きを封じていたのだ。
真理は美樹本の手を掴み、意識を集中した。
 


 

美樹本の記憶が見えた。貧しい家庭、借金、金のために実験体になったこと…。
次に見たものはがきょとんとした顔で目の前に立っている真理自身の姿。
今、真理の意識は美樹本の中にあった。そして美樹本の意識は真理の中に…。
―おまえの心に、もう帰る場所はない。
美樹本の中の真理は美樹本の頭に銃口を当て、引き金を引いた。
人間相手にサイコメトリーをする際、真理の意識は数秒間相手の肉体に入り込む。
その時相手の肉体を操れるのではないか…危険な賭けだったが、それは成功した。
美樹本は死に、真理は生き残った。
 


 

みんな死んでしまったというのに、私は生きている…焼け落ちた館を前に、真理は考えていた。
 



 

399 かまいたちの夜2~サイキック篇~ sage 04/03/08 21:32ID:cqkjhnP8
(サイキック篇は『完』と表示されるエンディングが三つあります)
 


 

真理の中には怒りがあった。
彼らは真理の愛したものを全て奪っていったのだ。許すべきではない。
同時に真理は恐れてもいた。
自分は復讐が始まるのを楽しんでさえいるのではないか、と。
しかし、他に選ぶ道はない。真理の心は既に復讐を選んでいた。
 


 

サイキック篇『復讐』・完
 



 

みんな死んでしまった。透や小林だけではない。ミネルヴァ社の人間たちも、何十人と…。
自分に生きる権利はあるのか。あれだけの死を目にして、なおも生きていけるのか。
答えは否だ。ひとりで生き延びても意味は無い。
真理は銃口を自分のこめかみに当てた…。
 


 

サイキック篇『疑問』・完
 



 

殺戮も、復讐もたくさんだ。もう悲惨な物事に出会いたくなかった。
ここであったことを記憶して生き延びること…それがわずかなりとも供養になるのではないか。
それを一生心の中に置いておくこと…それが自分に下された罰かもしれない。
真理は船着場へ向かった…。
 


 

サイキック篇『帰還』・完
 



 

416 かまいたちの夜2~惨殺篇~ sage 04/03/10 18:31ID:/zN8Y43h
(わらべ唄篇でキヨの死体が発見された後から分岐)
 


 

中庭に手帳が落ちていた。手帳はキヨのものだった。
そこには自分が我孫子武丸だということ、正岡や夏美を殺した事が記されていた。
動機は今となってはわからないが、キヨが殺人に悦びと恐れを抱いていた事は明らかだった。
 


 

殺人犯とはいえ、キヨをあのままにしておくのは忍びなかった。
透が物置部屋に梯子を取りに行くと、香山がキヨを降ろすのを手伝うと言ってくれた。
二人で物置に入ると、不意に香山が「わあっ!」と叫んだ。
木彫りの置物を手に取ったところ、ぬるぬると嫌な感触がして驚いたのだそうだ。
 


 

梯子を運び出すと、塔の下に真理が待っていた。真理も手伝ってくれるようだ。
透は梯子に登ってキヨの死体に近づいた。
死体の目から白い物が零れ落ちた。
糸の塊のようなものがあふれ出て、はらはらと透の顔や下にいる真理たちに降りかかった。
手にぬるりとした感触があった。透が手を見ると、白いものは糸などではなく体長二、三センチほどの細い線虫だった。
驚いたはずみに透は梯子から落ちてしまった。
 


 

気がつくと透は自分の部屋に寝かされていた。館は静まりかえっている。
透は他の者を探し、隣の村上の部屋へ行った。
村上の部屋には血の臭いが充満し、服装からして村上と思しき首無し死体が壁に釘付けにされていた。
透は真理の姿を探した。
廊下を走っていくと、啓子の部屋のドアが開いていることに気づいた。
中を見ると、そこには三体の首無し死体がぶら下がっていた。死体からおびただしい量の血が流れ出している。
死体はどれも女性だったが、真理はその中にいないようだ。啓子、可奈子、みどりだろう。
 



 

417 かまいたちの夜2~惨殺篇~ sage 04/03/10 18:32ID:/zN8Y43h
真理の部屋へ行くと、ドアには鍵がかかっていた。真理は中にいるらしい。
真理は透が一人であることを確認すると、扉の向こうに作っていたバリケードを取り除きはじめた。
「透くんやないか!」呼ばれて振り向くと香山と小林がいた。小林は香山に肩を借りてなんとか立っているようだ。
小林が透に何かを訴えるような目を向けた。
声は出せないようだが、その口が確かに『タスケテ』という形に動いた。
何があったのかと透が香山に聞くと、香山は小林を床に降ろした。小林の背中には鎌が突き刺さっていた。
香山は鎌を抜き取り、小林の首に当てた。
そして、よいしょ、どっこいしょ、と声を掛けながら香山は小林の首を切断し始めた。
透が金縛りにあったように立ち尽くしていると、ようやく部屋から出てきた真理が、その光景を見て悲鳴をあげた。
透は我に返り、真理の方を見た。真理が「危ない!」と叫んだ。
その声で身をかわしたが、香山の鎌は透の肩を裂いた。「うまいこと、よけたな」と香山。
透は真理の手を引いて逃げ出した。
 


 

館から逃げ出した二人は、気がつくと山の中にいた。
透の傷は浅かったが、二人ともショックが大きく、へたりこんでしまう。
透が気を失っていた時、真理は悲鳴を聴いたのだという。
真理が声のした方に行くと、俊夫の部屋から鎌と俊夫の生首を持った香山が出てきた。
真理は自分の部屋に逃げ込んだのだそうだ。
 



 

418 かまいたちの夜2~惨殺篇~ sage 04/03/10 18:33ID:/zN8Y43h
背後で物音がした。「無事だったか」美樹本だった。
なぜ香山はあんなことを…と悩む透に美樹本は言った。「ふうのしんって何だと思う」
美樹本は地元の漁師にもらったという冊子を見せた。そこにはこんな文章が書かれていた。
 


 

底蟲村の村の衆 一人残らず死んでござる
なぜに死んだかきこうとしたが
悪たれ鼬の楓の津が 最後の一人も殺してしまい
島に残るはただ風ばかり
そして誰もいなくなったとさ…
 


 

『楓の津』と書いて『ふうのしん』…
確かにこの辺りには楓の木が多い。『津』は液体、つまり楓の樹液ということだろう。
美樹本は「香山さんはこんなものを触っていなかったか」と言って一本の枝を取り出した。
それは香山が物置で触った置物と同じ木の枝だった。枝の表面はじっとりと濡れている。
美樹本は枝を踏みつけた。割れた枝の中からは無数の白い線虫が出てきた。
「憶測だが、楓に寄生するこの線虫は人にも寄生するんだろう。
そして寄生された人間はキヨや香山のようになるのさ」
そして美樹本は「今なら俺にも人を殺す快楽というものがわかるよ」と言った。
美樹本も虫の寄生した楓に触ってしまったのだ。糸のように細い線虫は毛穴からでも体内に侵入できるのだろう。
「香山もこの辺りにいるはずだ。俺はあいつを相手に自分の欲求を満たす。
どちらが生き残っても君たちの敵になる…さあ、俺がまだ人であるうちに逃げるんだ」
透は真理の手を引いて走り出した。
 



 

419 かまいたちの夜2~惨殺篇~ sage 04/03/10 18:34ID:/zN8Y43h
海岸まで行けば美樹本のクルーザーがある。
透たちは何かに追われるように走り続けた。途中、透たちは香山の『コレクション』を見た。
一本の木に果実のように生っている六個の生首。それを見た真理は気を失ってしまう。
「どや、なかなかのもんやろ」透が振り返ると香山がいた。香山は美樹本の首を持っていた。
香山は笑みを浮かべながら透に近づいてくる。
十分近くに来たところで、透は香山に飛び掛った。
しかし香山に押さえ込まれ、背中を切られてしまう。香山が透の首を掻き切ろうと、透の上に屈みこんだ。
その瞬間を狙って透は香山の眼球に指を突きたてた。たまらず香山は顔を押さえて立ち上がる。
透は香山の落とした鎌を持ち上げ、痛みでうずくまる香山に向かって振り下ろした。何度も何度も。
キヨの死体から落ちてきた線虫は透の体内に入り込んでいたのだ。
透の中に、殺人への悦びが沸き起こっていた。
 


 

透は真理の傍らに倒れた。
真理を殺したいという欲求。その欲求に負ける前に、気を失ってしまえばいい。透は目を閉じた。
真理が起き上がる気配がした。真理は透の手に握られた鎌をもぎ取った。
透は納得した。真理が生首を見て気を失ったのは、膨れ上がった欲望の大きさに押しつぶされそうになったからだったのか…。
横たわる透に鎌が振り下ろされた。
 


 

惨殺篇・完
 



 

50 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/13 20:00ID:JZR//hGz
(送迎船に乗るまではわらべ唄篇と同じ。船長にわらべ唄を聞くのも同じ)
 


 

島には半ば海に没した小洞窟があった。「探検したくなるわね。中に宝物があるかも」と真理。
それを聞いて船長は、
「あの洞窟の中は迷路のように入り組んでいると聞いた。甘い考えで危ない真似をするな」と厳しく言った。
 


 

三日月島には『暮拿島(くれだじま)』いう呼び名もある。
島の内海は『穢牛頭(えぎゅうず)の海』と呼ばれていた。昔、島では牛を神に捧げていたからだそうだ。
大学で民俗学の助教授をしていた船長の息子は、その話を聞くと
『あの島には岸猿家の秘宝が隠されている』と言って『底蟲村』に行き、死体となって洞窟から出てきたのだ…。
 


 

館に着いた透たちをキヨが迎え入れた。応接室には懐かしい顔が揃っている。
まだ部屋が片付いていないので、しばらく島でも見物していてくれ、とキヨは言った。
透は真理を海へ誘うが、真理は館を探検したいと言い出した。しぶしぶ付き合う透。
物置部屋で二人は『覚書』と書かれたノートを見つけた。
このノートを手にしたのなら、自分の代わりに岸猿家の財宝を見つけ出してほしい…ノートにはそう書かれていた。
ノートの持ち主は網曳(あびこ)和弘。あの船長の息子だろう。
真理はノートを読むと「宝探しをしましょう!」と言って透を底蟲村へ引っ張っていった。
 


 

底蟲村に行くと、村の中心部には小さな祠があった。
祠の石碑には『久納租宮(くのうそきゅう)』と彫られている。
網曳のノートには『久納租宮は蛇尾輪道(だびりんどう)に通ず』と書かれていた。
そして『あくたれいたちのふうのしん』は一字飛ばしで『クレタの牛』と読めることも。
どうやら三日月島にはギリシャ神話との共通点があるようだ。
『暮拿島』は『クレタ島』、『穢牛頭の海』は『エーゲ(アイギウス)海』
『久納租宮』は『クノッソス宮殿』、『蛇尾輪道』は『ラビリンス』…
クレタ島のミノス王がラビリンスにミノタウロスを幽閉したという神話。それに似た話が岸猿家にも伝わっていた。
生贄にするための牛を世話していた娘が突如妊娠し、牛の頭を持った子どもを生むという伝説だ。
 



 

51 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/13 20:01ID:JZR//hGz
ノートをかなり読み込んでいた真理は
「岸猿家の秘宝は蛇尾輪道にある。そして蛇尾輪道はここの地下にあるのよ」と言った。
祠の仕掛けを作動させると、透たちを乗せたまま祠の周辺がエレベーターのように下へと降りていった。
 


 

蛇尾輪道にはわらべ唄の歌詞になぞらえた数々の仕掛けが待っていた。
それを解くたびに古ぼけた鍵がひとつずつ手に入った。
先に進んでいくと、行き止まりに切り株のような石の台があった。順番からすると、次の見立ては《山姥》の歌詞なのだが…
「わかった!僕が《山姥》になればいいんだ!」
透が台に乗ると、台は真理を残して上昇してしまった。昇りきったところの正面に横穴がある。
「透一人で先に進んで」という真理の言葉どおりに、透は横穴に入っていった。
 


 

通路の奥から声が聴こえた。木製の扉の向こうからする、人のような獣のような、哀しく苦しげな声だ。
扉には鍵がかかっている。透は途中で手に入れた鍵を使い、扉を開けた。
 


 

部屋の中にはいくつもの燭台が置かれ、部屋の中心にいる声の主を照らし出していた。
紫色の座布団の上に載せられた、大きな牛の首。
まるで人間のような表情で、ぼろぼろと涙をこぼしている。
「せっかくの宝だ。ゆっくりとそばで見たらいい」
そう言って部屋の中に透を押し込んだのは、送迎船の船長だった。
 


 

船長の側に若い男が立っていて、その男に真理が捕まっていた。
男が真理を透のほうへ突き飛ばした。透にしがみつく真理。
「この牛が…宝」呟く透に、
「そうさ。岸猿家の秘宝だよ」船長が答えた。
牛の頭が人間の唇と歯と舌で喋った。「我ハ牛ニ非ズ」
「件(くだん)ね」と真理が言った。
くだんは人の身体に牛の頭を持つ怪物で、未来を予言する能力がある。
「それはくだんなんかじゃあない。岸猿家がその秘法で作り出した牛頭(ぎゅうず)様だ」と船長。
「平安の時代から我が一族に伝わる秘法よ」船長の背後から現れたのはキヨだった。
 



 

52 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/13 20:02ID:JZR//hGz
キヨの本名は岸猿キヨ。岸猿家の最後の生き残りだった。
船長と一緒にいる若い男は船長の息子・和弘だ。秘宝の話は船長と和弘の作り話だったのだ。
「ぎゅうず様には予言の力があるが、その力を維持するには生贄の血が必要なのさ」と和弘は話す。
昔は人間を生贄にしていたが、近代になってそれが難しくなり、牛の血を代わりに使った。
しかしやはり代用品は効力が薄く、ぎゅうず様の力は衰え、漁村は廃れて岸猿家も没落した。
最近になってキヨの存在がわかり、これで秘法の再現の目処がたった。
船長たちは生贄を呼び込むために嘘の秘宝伝説を流したのだ。
 


 

「さてと、ぎゅうず様がお待ちだ」と船長は鉈を取り出した。
「ソコナ二人、ヨオ聞ケ」突然牛の頭が喋り始めた。
「頭捨テ、蹴リテ終ワル」
「ぎゅうず様のお言葉です。これは避けることの出来ぬ予言」キヨは牛の頭に近づいた。
そして牛の流す涙を拭う。「そうか、哀れよのう。神の御身にしても永劫の時は辛うございましたか」
キヨも涙を流しながら、透たちに言った。「聞きましたか。終わらせるのです」
透は「わかったよ」と言って、牛の頭を床に転がした。
船長が鉈を振りかざして止めようとするが、真理がその腕にしがみついて邪魔をした。
透が牛の頭を蹴った。牛の頭が裂け、中から臓物のようなものが流れ出す。
呆然としている船長を殴り、透は真理の手を引いて走り出した。
キヨが小さくお辞儀をするのが見えた。
 


 

透たちは枝分かれした洞窟に出た。洞窟の壁や床は濡れていて、舐めるとしょっぱい。
今までは海に没していたのだろう。《かまいたちの夜》の影響で潮が引いているのだ。
この先は海から見た洞窟に通じているに違いない。「ここから海に出よう」透は言った。
透たちが進んでいくと、先の方が明るくなっていて夜空が見えた。
透は泳げないと言う真理を抱えて海に飛び込んだ。
 



 

53 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/13 20:03ID:JZR//hGz
波止場に着き、海から上がると、そこには船長と和弘が待ち構えていた。
「他の出口は塞いできた。ここ以外に出る場所はないからな」
キヨに新たなぎゅうず様を作り出す力は無い。ただの足手まといだから洞窟内に閉じ込めてきた、と船長は言った。
「他の招待客は帰すとして、いらぬことをいろいろと知ったやつは…」船長が鉈を振り上げた。
死を覚悟して、透は真理をかばうように前へ出た。
その時、ずるりと船長たちの身体が沈んだ。見ると二人は腰まで地中に埋もれている。
二人の肩に、キヨの細い腕がかかっていた。
キヨの姿は幻のように透き通っている。
「岸猿家の秘法を甘く見てはならん。網曳村の人間ならそう聞かされてはおらんかったか」
キヨの腕に力が入り、二人は水に沈むように地面に飲み込まれていった…。
 


 

「村人たちには夢でぎゅうず様の死を伝えておきます。もう岸猿家があなたたちに迷惑をかけることはありません」
キヨは笑った。その姿がだんだん薄れていく。
「力を使いすぎたようですね。それでは、お世話になりました」
そう言って、消える寸前にキヨは深々とお辞儀をした。
「これで終わったのね」真理が透にしがみついてきた。透はその肩をしっかりと抱き寄せた。
岸猿家の財宝以上に素晴らしい宝を、透は手に入れたようだった。
 


 

洞窟探検篇・完
 


 

途中の選択肢や、謎解きの進め方によって中間部分の細部は違ってきます。
 


 

99 かまいたちの夜2~わらび唄篇~ sage 04/03/15 02:47ID:BzW7qNCX
我孫子の招待を受けた透。しかし…嫌な予感がする。
真理から招待のことで電話が来た。真理は行く気マンマンのようだ。
「久しぶりに透にも会いたいし、この前素敵な水着も買ったの」
素敵な水着!?だが、そんなものに惑わされてはいけないのだ。
殺人事件が起こったり、悪霊に襲われる気がする。いや襲われるに違いない。
もちろん真理は「何バカなこと言ってるの」と一蹴する。
真理を一人で行かせては危険だ…!透も島に行く決心をした。
 


 

準備は念入りにしなければ。
サバイバルナイフ、スタンガン、危険を冒して手に入れたトカレフ、悪霊対策の十字架、ニンニク、銀の弾丸。
生物兵器対策のTNT火薬、血清、ペニシリン、ガスマスクにサリンの中和剤、そして照明弾。
保存食に水、ザイルとハーケン…保険証は必須だ。
 


 

透は60キロを超える重さの荷物を持ち、船にのりこんだ。
真理は相変わらず、透の心配を真に受けようとしない。
それにしても…
小林さん。招待もされてないのに嗅ぎ付けてくるとは…怪しい。
奥さんの今日子さんが来ていないのも怪しい…なんとなくだが、変装して島に先回りしている気がする。
船長も怪しい。今にも島についての因縁を話し出しそうだ。伝説とか、呪いとか、わらべ唄とか…。
「伝説?そんなもん聞いたことないのう」と船長。
「わらび唄ならあるぞ。わしなんか256番まで暗記しとる。歌ってやろうか」歌わないでいいです。
 


 

島はのどかな、まさにこの世の楽園といった風情だった。
浜辺には懐かしい顔ぶれも見える。…しかし気を許してはいけないのだ。そう、信じられるのは真理だけ。
「今晩は《かまいたち祭り》だ。楽しい夜になるだろうよ」と船長。
《かまいたち祭り》…!不吉な響きだ。やはり何かある…。
 



 

100 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/15 02:49ID:BzW7qNCX
館は高い塀に囲まれ、奇妙な形をしていた。…怪しい。
こういう変わった造りの建物では殺人事件が起こると相場は決まっているのだ。
入り口にそびえ立つ監視塔。《縛り首の塔》……ではなかった。
塔は赤いロープで亀甲縛りにされている。《亀甲縛りの塔》だ。「……趣味わるっ」思わず透は呟いた。
「今日子のムチとロウソクを思い出すなあ…」小林が何か言ったが、聞かなかった事にする。
塀で隠されて外からはわからなかったが、館は目も覚めるようなショッキングピンクで塗られていた。
「……趣味わるっ」真理が呟いた。
敷地内の堀の中には、囚人の逃亡を防ぐ錆び付いた剣山…ではなく、無数のサバが突き立っていた。
炎天下でサバは腐臭を放っている。「趣味わるっ!!」思わず三人とも呟いた。
「サバ…鯖…錆(サビ)に字面と音が似ているからかな」頼まれてもいないのに説明をいれる透だった。
 


 

どうせ招待主は姿を現さないに決まってるさ、と透は主張するが、
パンダの顔をしたノッカーを鳴らすと「ようこそ。私が我孫子武丸です」いきなり本人が出てきた。
いや、肩透かしはくらったがまだまだ油断はできない…。
我孫子に案内され、客室に入る。客室の趣味も、なんというか独特だ。
壁はパステルピンク、ベッドの上にはベッドの半分を占めるほどの大きなクマのぬいぐるみ。
「ど、どうしてぬいぐるみが?」透は困惑するが、
「だって、あれがないと眠れないでしょう?」我孫子は当然のように言った。
 


 

真理は海に行くようだ。透も真理を守るため、付いていく。
ビーチには招待客のほとんどが揃っているようだ。
『海の家かまいたち』では老女が焼きそばを焼いている。我孫子が言っていたお手伝いのキヨだろう。
青い空と海。浜辺でくつろぐ男女。平和だ…悪い予感なんて気のせいだったのかもしれない。
透もビールを一気に飲み干した。
「………く、苦しい!!」
ビールに毒が…!?見れば、他の者たちも砂浜に転がって苦しんでいる。
キヨが上半身をのけぞらせて高笑いしている。やはりこの招待は罠だったのだ…。
 



 

101 かまいたちの夜2~洞窟探検篇~ sage 04/03/15 02:51ID:BzW7qNCX
「もしもし」と呼びかけられて、透は目を覚ました。
絶叫して目を開けると、キヨが腰を抜かしている。どうやら夢を見ていたようだ…。
陽はすっかり落ちている。他の人たちはとっくに帰って、夕食も済ませたらしい。
眠っている間に真理の身に何かあったら…!透は館へ走った。
当然ながら真理は無事だった。
「よくおやすみでしたこと。あのまま永遠に眠ってればよかったのに」ひどい。
どうやらこれから、皆で《かまいたち祭り》に行くようだ。
透は空腹だったが、真理を守るために一緒に行く事にした。
 


 

底蟲村から太鼓の音が聴こえてくる。このリズムは盆踊りだ。《かまいたち祭り》とは盆踊り大会だったのか?
和やかな光景に、透はいつしか笑い出していた。連続殺人が起こる?どうかしていた。ゲームのやりすぎだな。
透も盆踊りの輪に加わり、一緒に踊る。
我孫子がやぐらの上からマイクで話し出した。
「底蟲村の皆さん!今年もかまいたち祭りのために素晴らしい客人をお招きしました!
さあ皆さん真ん中へどうぞ!」
透たちに言っているようだ。歓声と拍手の中、透たちは真ん中へ歩み出た。
「さあ皆さん、カマイタを!」
我孫子の掛け声で村人たちが一斉にカマボコ板を取り出した。太鼓のリズムが速くなる。
村人たちは透たちの方へじわじわと迫ってきた。
「カマボコ板…カマイタ?ということは《かまいたち 祭り》じゃなくて《カマイタ 血祭り》?」透たちは青ざめた。
 


 

我孫子が透たちに語る。
この村のご神体はカマボコ板のような形の大きな岩、『カマイタ様』だ。
この村は昔から台風の時期になると津波に襲われて、毎年死者が出ていた。
ある時、よそから来た漁師たちが酔っ払って、カマイタ様に小便を引っ掛けた。
村人は当然怒って、漁師たちを袋叩きに…するとその年はなぜか一人の死者も出なかった。
それがこの祭りの始まりだ。
 



 

102 かまいたちの夜2~わらび唄篇~sage名前欄そのままだった。100-101は間違い 04/03/15 02:53ID:BzW7qNCX
村人たちは我孫子の説明が終わるのを待っているようだ。動きを止めている。
真理だけは守らなければ…透は賭けに出た。
「香山さん!あそこに少し隙間が!」透の言葉に従って走り出し、村人に囲まれカマイタで殴られる香山。
「美樹本さん!あの辺が!」香山よりは素早かったが、やっぱり村人に殴られ地面に丸くなる美樹本。
他の者たちもそれを見てパニックに陥り、走り出し、殴られる。
透は同じく走り出そうとする真理を引きとめた。
そして村人たちが他の獲物に集中する瞬間を見計らって、真理の手を引き走り出す。
包囲から抜け出した二人を村人数人が追いかけてきた。
 


 

港には島に来る時乗った船が泊まっていた。(船長も祭りに参加していた為)
船など操縦した事がなかったが、何とか動かす事が出来た。港で村人たちが罵声をあげている。
二人は甲板にくずおれ、しっかりと手をつないだ。
「ごめんね…ごめんね…透の言うこと、もっと聞いておけばよかった…」と真理。
 


 

数時間後。
「ねえ、いつになったら着くの?」
「明るくなったら陸地が見えるよ……た、たぶん」
「たぶん?たぶんってどういうこと!?分からないのにこんなに走ってきちゃったの?信じらんない!」
真理は泣きわめいていたが、透は安らかな気持ちだった。
真理と狭い船の中で二人きり。ここが僕たちのエデンだ。……駄目かな?
 


 

わらび唄篇・完
 


 

299 かまいたちの夜2~妄想篇~ sage 04/03/17 18:56ID:KHKyzXhH
『かまいたちの夜』というゲームがある。ゲームは透と真理が「シュプール」に行った時のことがモデルになっている。
真理と「シュプール」に行って…そのあとどうなったっけ?透の記憶はどうにもはっきりしない。
ぴしゃ ぴしゃ ぴしゃ ぴしゃ ぴしゃ ぴしゃ ぴしゃぴしゃ
水音がする。そうだ船に乗っているのだった。
頭が痛い。二匹の黄金虫が頭の中で交尾している。
「どうして船に乗っているんだっけ?」隣にいる真理に話しかけて、初めてそれが真理だと思い出した。
真理からゲームのこと、その原作者に招待を受けたことを聞く。
ゲームの内容、「シュプール」で起きる殺人事件のことを思い出すと鳥肌が立つ。
 


 

気がつけば島に上陸していた。記憶が途絶えがちになっている。
館に着くと美樹本が出迎えた。
応接室には他のメンバーも集まっている。皆正座をして、横一列に並んでいる。
全員が透を見ている。口々に囁いている。
……やっぱり…だからなあ…してるはずだよ…いつかはこうなると…どうせもうすぐ……。
二匹の黄金虫も囁いている。
かさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそ…
…かき出してからだよ。…ざあっと、一気に。…病気だからねえ、やっぱり。…
透の視界は闇に包まれていた。手足を縛られ、固いものの上に寝かされているようだ。
透の頭を覆っているものに小さな穴が開いている。そこから小林が見えた。
小林は額を指でかいている。そのうち額に穴が空き、ざあっと赤い砂が零れ落ちた。見る間に小林はしぼんでいく。
「ああ、自分でかき出しちゃったよ」と俊夫の声。
「こいつには、なに入っとんねん」香山が透を指して言った。
「かき出してみたらわかるわ」透の腕が切られた。
「この子、虫だわ」「どうりでなあ」あざけるような声。透の腕を虫が這う感触がした。
 



 

300 かまいたちの夜2~妄想篇~ sage 04/03/17 18:57ID:KHKyzXhH
気がつけば周りには誰もいなくなっている。
かさこそと例の音がする。…いや、これは頭の中からするんじゃない、外からの音だ。
「透、起きてるのね」真理が来て透の頭の覆いを取り去ってくれた。
目の前に真理の顔が。純粋で愛らしい少女のような僕の真理。
「透、話はあと。逃げるのよ」
透は真理の後について部屋を出た。
廊下はひんやりとしていて、どこまでもどこまでも続く。
真理の姿が消えていた。どこかの部屋にでも入ってしまったのか?
極彩色に塗られた扉が並んでいる。透は金色の扉を選んだ。
 


 

なぜか扉を開けるのが恐ろしい。頭痛がひどくなってきた。
思い切って扉を開けると、巨大な二匹の黄金虫がいた。二匹はベッドの上で重なり合って交尾している。
下にいた黄金虫が透を見て、言った。
「美樹本さんは私から誘ったのよ。やめてよ、そんな目で見るの。勝手に純粋だの何だのって思い込まれても迷惑なのよ。
第一、今どきこんなもので女が口説けるとでも思っていたの?」
黄金虫は紙の束を床に叩きつけた。
紙束の表紙には『微笑む女神』というタイトル。透が真理に捧げた詩集だ。
こんなものがどうしてここに、何で黄金虫がこんなものを。
「やめろ!」思わず透は手近にあった電気スタンドを投げつけた。電気スタンドは窓を突き破る。
窓?三日月館に窓はないはずなのに。じゃあここはどこだ。
割れた窓から雪が吹き込んできた。
いつの間にか透の手には鎌が握られていた。
透は鎌を振った。黄金虫の頭が、脚が千切れ飛んだ。
誰かが笑っている。頭痛はとまらない。透は笑うのをやめた。
かさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそかさこそ
黄金虫が交尾する音が聴こえる…。
 



 

301 かまいたちの夜2~妄想篇~sageなんか中途半端に途切れた 04/03/17 18:57 ID:KHKyzXhH
「ああ、またバッド・エンドだ」
透はコントローラーを投げ捨てた。
透は真っ白い部屋でずっとこのゲームをやっている。いつまでたってもグッド・エンドを迎えられないのだ。
テレビ画面の中から男が話しかけてきた。
「まだ思い出せないんですか。一昨年の十二月に『シュプール』で何があったか」
思い出せない。頭がひどく痛い。耳鳴りがする。
「その時ペンションにいた全員が殺害された。凶器は草刈り鎌です。そして犯人は…」
…そうだ、この男は医者だ。
思い出した。あの時ペンションにいた「全員」が殺された。そして「犯人」は…。
 


 

妄想篇・完
 


 

302 かまいたちの夜2~ぼくの恋愛篇~ sage 04/03/17 18:59ID:KHKyzXhH
真理には我孫子からの招待状が届いてないそうだ。半ば強引に真理を誘って島へ行く。
船上で真理は「本当にあなたとシュプールに行った時のことなの?」と疑わしそうだ。
島に着くと、我孫子武丸と名乗る若者が現れる。帽子とサングラスで顔はよくわからない。
「他の招待客は…?」と訊くと、
「招待客は君一人だよ。君が真理の周りをちょろちょろしているのは目障りなんだ。死んでもらうよ!」
と言って、男はナイフを抜いて向かってきた。
その時、真理が男を見て言った。「あ、あなた…透!」
我孫子の正体は主人公の大学でのクラスメート・透だった。
真理は主人公と透に二股をかけていた。
透は邪魔者の四ツ橋某太郎(恋愛篇主人公の名前)を亡き者にするため、ここに呼んだ。
ゲームは某太郎と真理が「シュプール」に行った時ではなく、透と真理が行った時をモデルにしていたのだ。
某太郎に透のナイフが迫る…が、真理が背後から透を石で殴り殺した。
「真理!」「某太郎!」抱きしめあう二人。
「これだけは信じて…私、決して二股かけてたわけじゃあないのよ」泣きながら訴える真理。
「もういいったら。すんだことだよ」と某太郎。
確かに彼女は嘘をついていなかった。透と某太郎ともう一人の三股をかけてたのだから。
それを某太郎が知るのはもう少しあとのことだ…。
 


 

ぼくの恋愛篇・完
 



 

303 かまいたちの夜2~ぼくの青春篇~ sage 04/03/17 19:01ID:KHKyzXhH
真理に誘われ、透は二つ返事で三日月島へ行く事を決めた。
これが真理を口説くラストチャンスになるかもしれない…何しろ透には時間があまり残されていない。
船が島に着くと、我孫子が出迎えた。
「ようお越しやす。真理さん、義男くん」
義男とは船の操舵をしていた若者だ。次に我孫子は真理に訊ねた。
「そちらのお年よりは?」
「私の茶道のお友達で、透さん。孫と二人だけじゃ寂しいから、お誘いしたの」と真理。
「この透という人は、ばあちゃんのファンなんです」と義男。
「ははは…老いらくの恋というやつですわ。お恥ずかしい」
透は入れ歯をむき出して笑った。
『この三日月島で、ぼくは君のハートをゲットする…』
 


 

ぼくの青春篇・完
最終更新:2022年10月13日 14:14