黒ノ十三
「ラミア」:part27-418~421
「闇に舞う雪は」:part27-428~433
「殺し屋」:part27-436~440
「雨に泣いている」:part27-441,443~448
「彼女の図書館」:part27-453~458
「羽音」:part55-199~203
- 418 :黒ノ十三「ラミア」:2007/01/07(日) 04:41:28
ID:QOtl/FmM0
- プレステの黒ノ十三から、うろ覚えだけど記憶に残ってる「ラミア」書きます。
小学生の香穂は、ある日学校で願い事の叶うゲームの噂話を聞く。
ラミアという名前のそのゲームは近所のゲームセンターにあるゲーム機で、
画面に願い事を打ち込み、ラミア様ラミア様とおまじないを唱えると、
そこに書きこんだ願い事は必ず叶うのだという。
それを聞いた香穂は、ならば入院している母親の病気を治してもらおうと、
学校が終わるとすぐに、そのゲームセンターへと足を運んだ。
店員の話に寄ると、そのゲーム機は今日限りで撤去する予定だったそうで、
間一髪間に合ったとほっと胸をなでおろした香穂は、
早速コインを入れて「おかあさんのびょうきをなおして」と画面に打ち込む。
が、特に何らかの変化が起きるということもなく、
所詮は噂話かとガッカリした香穂はその足で母親の入院する病院へと向かった。
続く
- 419 :黒ノ十三「ラミア」:2007/01/07(日) 04:42:28
ID:QOtl/FmM0
- ところが病室へ行くも母親の姿はなく、馴染みの看護婦の話では、
突然容態がよくなったので急にではあるが退院したという。
ラミア様は本当だった! 香穂は大喜びして早速家に駆け戻るが、
そこで彼女を待っていたのは、めちゃくちゃに荒らされた家の中で、
頭を殴られ体中を刺されて、血まみれになって倒れている母親だった。
強盗だ、直感した香穂は慌てて母親に駆け寄るもすでに母親は絶命していた。
テーブルの上にはお誕生日おめでとうと書かれたケーキが。今日は香穂の誕生日だった。
私が病気を治してなんてラミア様にお願いしなければ、と悔やんだ瞬間に閃く。
だったら今度はラミア様にお母さんを生き返らせてもらえばいいのだ。
香穂はゲームセンターに走り、今度は「おかあさんをいきかえらせて」と打ち込んだ。
その足で家へととって帰す。これでお母さんは生き返ったはずだ。
続く
- 420 :黒ノ十三「ラミア」:2007/01/07(日) 04:43:35
ID:QOtl/FmM0
- 息を弾ませて家のドアを開ける。靴を脱ぐのもそこそこに、
お母さん、と呼びかけながら中に入ると確かに母親は生き返っていた。
殺された時のままの傷だらけの体のままで。
何度も殴られて醜く歪んだ顔、裂けた腹部の隙間からは内臓が垣間見え、
全身血まみれの状態でありながらも、動き、言葉を発する母。
香穂の目の前が真っ暗になる。違う、私の望んだことはこんなことじゃ…。
呆然と立ち尽くす香穂に向かって生きた死人の母は言う。
「今日は香穂ちゃんの誕生日だからケーキを作ったのよ。一緒に食べましょうね…」
あまりに非常な現実に涙を流しながら、香穂はゆっくりと食卓についた。
違わない、これが私の望んだこと、これが私のやったこと。
すでに腐敗が始まり、肉がずるずると落ちて造形が崩れていく母の姿を見ながら、
この母親とこれから一生一緒にここで生きていくのだと、
香穂は涙を拭いながらそう心に誓ったのだった。
続く
- 421 :黒ノ十三「ラミア」:2007/01/07(日) 04:46:08
ID:QOtl/FmM0
- その夜、営業時間を終えたゲームセンターではラミアの撤去作業が行われていた。
軽く機体のほこりを払ってから機体をずらし電源をひっこぬく。
その瞬間、香穂の目の前で突然母親が床に崩れ落ちた。
倒れた母親はその後ぴくりとも動くことはなく、ただそこに横たわるだけだった。
以上です。あくまでもうろ覚えなんで細部違ってたらごめんなさい。
要するにラミアはなんでも願い事を叶えられるけど、効力があるのは電源が入ってる間だけって話です。
-
- 428 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(1/6):2007/01/07(日)
19:32:21 ID:9Z0Q98yf0
- プレステの黒ノ十三より「闇に舞う雪は」です。
ラミア書いてたら他の話をやりたくなってきたので、引っ張り出してきました。全6レスです。
妹の美帆が自殺した。恋人に裏切られたショックからの自殺だった。
残された遺書からそれを知った俺は、妹の仇をとることを誓い、
彼女が恋人を含めた会社の同僚と行くはずだったスキーツアーのことを調べ、
それに乗じて復讐を果たすべくツアーバスに乗った。
ところが夜の山中を走行中にバスが事故にあい、崖下へ転落。
生き残ったのは、俺、運転手、梶野、木沢、村田という男5人と、
佐々木という女が1人の計6人だった。梶野たち4人は同じ会社の同僚だという。
乗客の大半はバスの転落と共に命を落としてしまったが、
彼らが美帆の同僚という可能性も捨て切れないと考えた俺は、
油断なく相手の様子に目を光らせていた。
続く
- 429 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(2/6):2007/01/07(日)
19:33:46 ID:9Z0Q98yf0
- 吹雪も衰えないことだし、とりあえずこの場から離れ森に身を隠そうと提案する俺に、
なぜか断固として反対する村田。そして周囲がとめるのも聞かずに崖を登りだす。
どうしたものかと全員が戸惑い気味に村田を見守っていると、
不意に崖の上から鋭い眼光の巨大な熊が現れ、あっという間に村田を噛み殺し崖下へと飛び降りてきた。
突然の恐怖に身をすくませながらも、森へ向かって脱兎の如く駆け出す5人。
その途中で木沢が転倒した。助けに駆け寄ろうとする佐々木の手を強く掴んで引き戻すと、
そこに崖の上からひとかかえもある巨大な岩が転落し、熊と俺たちの間を遮った。
泣き叫ぶ佐々木を抱えて、後ろめたくおもいつつも俺たちはその場を去る。
この間にできるだけ奴との距離を稼いでおきたかった。
続く
- 430 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(3/6):2007/01/07(日)
19:34:55 ID:9Z0Q98yf0
- ようやく一息つける場所にたどり着いたとき、佐々木が話の中で『美帆』という名前を口にした。
やはり彼らは美帆の同僚だったのだ。佐々木の話に寄ると、
以前、佐々木と木沢は付き合っていたのだが別れたあとに佐々木の妊娠が発覚、
よりを戻したかった佐々木は、木沢が現在付き合っている美帆に彼と別れるよう散々脅したのだという。
しかしそれは佐々木の勘違いで、木沢は美帆に告白はしたものの断られていたとのこと。
同僚をふったという話は少し前に俺も電話で聞いていたので、その話に間違いはなさそうだった。
「君のせいじゃない」と佐々木をなだめる梶野に、仲のよかった自分から攻められたせいで、
気の弱いあの子はそれを苦にして自殺してしまったのだと佐々木は泣きじゃくった。
俺は遺書の内容を思い出す。『信頼していた人に裏切られた』というその文面に、佐々木を重ね合わせる。
信頼していた人とは恋人のことではなく、親友のことだったのか…。
俺は決意を固め、佐々木を見ながらそっと懐のナイフに手を伸ばした。
そのナイフは登山家の俺にお守りとして、昔、美帆が買ってくれた登山ナイフだった。
続く
- 431 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(4/6):2007/01/07(日)
19:36:28 ID:9Z0Q98yf0
- その時、獣の咆哮音が吹雪に混じって届いた。奴だ。
咄嗟に俺たちはそばにあった大木によじのぼり、奴をやりすごそうとしてみるものの、
下手な小細工は通用せず、木の上にあっさりと俺たちを見つけた奴は、
その巨体を幹に勢いよくぶつけ、俺たちを木からふるい落とそうとしてきた。
悲鳴が聞こえた。見ると佐々木が木の枝にぶらさがり今にも落下しそうな状態になっている。
助けに行こうとする梶野。無理だととめるが「彼女を助けたい」と聞く耳を持たない。
「彼女が愛しているのは木沢、お前じゃない。腹の子もお前の子じゃない」と最後通告するも、
梶野は笑って「そんなことはたいしたことじゃない」と言う。
器の違いを見せ付けられた俺は観念して、お守りにと懐のナイフを手渡し佐々木の救助に向かわせた。
しかし佐々木は助けにきた梶野を見るなり、さようならと言って枝から手を離してしまう。
眼下で屠られる佐々木の姿を見た梶野は、自ら地面に降り果敢に熊に挑んだ。
ナイフが片目につきささる。手負いとなった熊は更に凶暴化し、
前足で弾き飛ばされた梶野は木の幹に叩きつけられ事切れた。
続く
- 432 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(5/6):2007/01/07(日)
19:38:01 ID:9Z0Q98yf0
- 梶野のくれたチャンスを無駄にはできない。俺と運転手はその隙に走った。
どこまで走っただろう、森が開けたと思ったら目の前に見覚えのあるバスの残骸が目に入った。
背後からは容赦なく迫る獣のうなり声。その時俺はバスの前輪に毛皮が巻き込まれているのを発見する。
それは小さな小熊だった。その瞬間、全てを理解した。
こいつを巻き込んだせいでバスが事故ったことも、これがあの大熊の子供であろうことも。
愛する者を奪われた復讐として、奴は俺たちを追いかけてきていたのだ。俺と同じだったのだ。
しかしここで殺されるわけにはいかない。俺は、バスの後方からガソリンが漏れているのに気づくと、
ライターを運転手に預け一計を案ずる。見事成功、熊は引火爆発したバスの機体と共に炎に包まれた。
助かった。爆風で雪原に叩きつけられて、横になったまま勝利をかみしめていると、
不意に運転手が俺に馬乗りになってきて首に手を伸ばしてきた。
驚く俺に向かって彼は憎々しげに言う、「お前が美帆の兄貴だったんだな」。
手には俺が渡したライターが握られていた。それは昔、美帆からプレゼントされたライターだった。
続く
- 433 :黒ノ十三「闇に舞う雪は」(6/6):2007/01/07(日)
19:39:13 ID:9Z0Q98yf0
- 彼は美帆の恋人だった。彼曰く、美帆の自殺は俺が婚約したことが原因なのだという。
美帆は俺に兄以上の好意を持っていた。彼と付き合っていたのも俺の気を引きたいが為だったらしい。
自殺前日にした電話を思い出す。彼女にプロポーズしたと確かに俺は美帆に話した。
遺書にある『信頼していた人』とは他の誰でもなく俺のことだったのだ。
美帆の復讐だとばかりに首をしめてくる運転手。俺は観念し、抵抗をやめた。
その時だった。炎に包まれた大熊が運転手の背後で咆哮をあげた。
驚いて立ち上がる運転手。奴は、そのまま彼に覆いかぶさるとごろごろと斜面をころがっていった。
しばらくしてばしゃんと川に落ちたような音がした。その後、辺りは静寂に包まれた。
山の端が徐々に明るくなっていく。夜明けだ。ヘリコプターのプロペラ音が聞こえる。
無事救助された俺は麓の病院にて、川から運転手の遺体があがったことを聞いた。
しかし、熊のようなものは発見されてないと言う。
地元住民の安全のためにも山狩りしてでも見つけ出すと鼻息の荒い警察に、
俺は、愛する者を失って屍のように生きる熊の姿を思った。
以上です。実際は熊だという表記は出てこないんですが、画像はどう見ても熊です。
なんだかわからないものとして書くと説明しづらかったので、熊と書きました。
-
- 436 :黒ノ十三「殺し屋」(1/5):2007/01/07(日) 22:55:39
ID:9Z0Q98yf0
- 乙レスありがとうございます。調子こいて「殺し屋」やりました。全5レスです。
その日、兜沼氷介はデパートの屋上遊園地でとある男たちの密談を盗み聞きしていた。
彼らの座るベンチの背後にこっそりと周り、気配を殺してそっと聞き耳を立てる。
会話はほとんど終了していたようで、「じゃあ、ボスと一緒に明日の夜9時にG埠頭で」という部分しか、
聞き取ることはできなかったが、兜沼にしてみればそれで十分だった。
後は気づかれずにこの場を去るだけ、と思った矢先、兜沼のすぐそばに子供が駆け込み、
思い切り転倒して火がついたように泣き出した。
まずい、観葉植物に身を隠しているもののここで振り返られたら…と警戒するも、
男たちはちらりと泣いている子供を一瞥しただけで、それぞれに立ち上がり、その場を後にしていく。
気づかれなかったのか? ほっと胸をなでおろしながら自身の幸運に感謝しつつ、兜沼もその場を去った。
続く
- 437 :黒ノ十三「殺し屋」(2/5):2007/01/07(日) 22:56:53
ID:9Z0Q98yf0
- 兜沼の職業は殺し屋である。マーガレットという組織のボスに拾われ、
子供の頃から殺しの英才教育を施されてきた。今ではボスの右腕的存在となっている。
そのボスからとある人物を尾行するように言われたのが、数日前のことだった。
尾行に自身のある兜沼は楽な仕事だと侮るが、
ボスに「この仕事だけは失敗は許されない」と強く念を押される。
ところが尾行中、思わぬアクシデントでこちらの存在に気づかれてしまい、
逃げる相手を追ってとある倉庫の中に入り込んだ兜沼は、
相手のフェイントに惑わされ、頭部に衝撃を受けてその場に倒れこみ気を失ってしまった。
続く
- 438 :黒ノ十三「殺し屋」(3/5):2007/01/07(日) 22:58:21
ID:9Z0Q98yf0
- 気がつくと兜沼は見知らぬ病院のベッドの上にいた。
頭部がずきずきと痛む。気を失う前にそばに落ちた拳銃のことを思い出した。
おそらくあれの持ち手あたりで思い切り殴られたのだろう。
痛む頭を抱えベッドの上に起き上がり辺りを見回していると、2人の男たちが病室へと入ってきた。
咄嗟に寝たふりをしてやり過ごす兜沼。彼らが去ると兜沼は身支度を整えて病院を脱出した。
外に出て病院の看板を確認すると、そこはマーガレットと対立する殺し屋組織のボスが経営する病院だった。
対立組織絡みの仕事だったから、ボスは失敗するなと念を押していたのだ。
今になってようやく理由を理解した兜沼はその足でマーガレットの本部に戻るが、
すでに対立組織の手が入り、ボスはおろかメンバーも皆殺しにされていた。
復讐を誓った兜沼は、病院で出会った2人の男を数日間尾行し、
そしてようやく今日、デパートの屋上にてボスがG埠頭に来ると言う情報を得たのだった。
続く
- 439 :黒ノ十三「殺し屋」(4/5):2007/01/07(日) 23:00:10
ID:9Z0Q98yf0
- G埠頭では拳銃密輸かなにかの取引が行われるようだった。
しかし取引の内容になど興味のない兜沼は、対立組織のボスの首をとるという目的を遂行するため、
ただひたすらに厳重な警備の隙を狙う。
今だ! ようやく訪れたチャンスに、物陰から飛び道具を飛ばし首を狙う兜沼。
しかし確実に殺ったと思ったのも束の間、ボスや周囲の様子に全く変化は見られず、
首をひねりつつも再度挑戦するが、やはり何の手ごたえもない。
業を煮やした兜沼はナイフを手に物陰から飛び出し、直接相手の首筋を狙った。
が、その手は相手の体に突き刺さるどころか、驚くことに体をつきぬけてしまい、
二度三度とナイフを振りかざしてみるものの内部から押し返される抵抗感はまるでなく、
あからさまに姿をさらしているはずの兜沼の存在についても誰も気にとめようとはしない。
そのうちにボスは車に乗りどこかへ行ってしまった。
あまりに信じられない出来事に、兜沼はその場に呆然と立ち尽くす。
続く
- 440 :黒ノ十三「殺し屋」(5/5):2007/01/07(日) 23:01:41
ID:9Z0Q98yf0
- もしかして、と兜沼はここ数日の出来事を思い出した。
デパートの屋上で泣いてる子供にしか目をやらなかた男たち。
あまりにも簡単に誰からも見咎められず脱出できた病院。
もしかして、あの時拳銃で殴られたのではなく、拳銃で撃たれたのではないか……。
だとすれば頭部に銃創が残っているはず。兜沼は自分の頭にそっと手をやった。
しかし、そこには頭も何もなく、ただ手が空をきるだけだった。
以上です。ちなみに飛び道具はビールの王冠です。ねじって飛ばしてました。
-
- 441 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/08(月) 04:34:36
ID:5GJOWoKg0
- 乙でした。
興味持ったので黒ノ十三をグーグルでイメージ検索したんですけどしなきゃ良かった……。
寝れないよ。もう既に五時近いけど。
- 443 :黒ノ十三「雨に泣いている」(1/4):2007/01/08(月)
13:50:41 ID:UBAgiBIv0
- >>441
レスに引かれて自分もイメ検してしまいました。あんな感じのバック画像ばかりです。
今回は「雨に泣いている」です。全4レスになります。
まるでバケツをひっくり返したような、そんなひどい雨の日だった。
僕は恋人の真由子を連れて居酒屋から家に帰る途中に、路地裏で不思議な生き物に出会った。
それは今までに見たこともない、こぶし大ほどのゼリー状の生物で、
水たまりの中に浮かびながら、雨に打たれてぷるぷると身動きしていた。
見ているうちに不思議と愛着がわいてきた僕らは、そいつを僕の家に持ち帰ることにした。
水を張ったバケツの中で、かわいらしい鳴き声をあげて動きまわるそれを見ていると、
より一層の愛しさが募ってくる。が、なぜか同時に、
無性にこいつを食べたいという気持ちに駆られてきて、僕の心は戸惑った。
それは真由子も同じらしく、そのことにどこか不吉なものを感じた僕はすぐにコンビニに出かけると、
買ってきたインスタント食品を片っ端から腹に入れていった。
なぜかベランダの向こう側から奇妙な視線を感じたが、気にせず2人でベッドに入り目を瞑る。
翌朝目覚めると、すでに真由子は帰宅した後だった。
昨日とはうってかわってきれいに晴れた空の下、僕は会社へと向かった。
続く
- 444 :黒ノ十三「雨に泣いている」(2/4):2007/01/08(月)
13:52:10 ID:UBAgiBIv0
- それから一週間、仕事が忙しいのもあり僕は真由子と連絡を取らずにいた。
向こうからも連絡はなかった。僕は毎日仕事から帰ってくると、バケツの中を見つめて過ごしていた。
ベランダからの視線は相変わらず感じていたが、僕はあまり気にしなくなっていた。
とにかくこいつに夢中だった。暇さえあれば僕はそいつを眺めていた。
その日もこいつを拾った時のようなひどいどしゃぶりの日だった。
僕の家を見知らぬ男が訪ねてきて、開口一番、「あれを返してほしい」と言う。
理由を尋ねても適当な言葉でにごそうとするため、それでは返せないと拒否すると、
しぶしぶ僕についてくるようにと言って外に出た。
僕はあいつをビニール袋の中に入れると、それを手に提げ男の後をついていく。
連れて行かれたのは地下にある不思議な洞窟だった。
そこにはまるで仙人のような雰囲気を備えた1人の老人が僕を待っていた。
続く
- 445 :黒ノ十三「雨に泣いている」(3/4):2007/01/08(月)
13:54:04 ID:UBAgiBIv0
- 老人の話に寄ると、こいつは龍肉という食べ物だそうで、
食べても食べても減らないのだが、一度こいつを口にしてしまうと、
その人はそれ以外の食べ物を受け付けなくなるとのことだった。
これが必要な人間がいる、との言葉に僕ははっとした。
見ると部屋の片隅にもう1人、人が蹲っていた。真由子だった。
彼女は僕が食料を買出しに行っている間に、我慢しきれず龍肉を口にしてしまったらしい。
それ以後は何を口にしても全て吐いてしまうため、僕の家の様子を伺いに来ては、
留守を狙って家に侵入し、龍肉をかじっていたとのことだった。
いつも感じていたベランダからの視線の主は、真由子だったのだ。
ガリガリにやせた彼女を指し示し、龍肉を渡してほしいと詰め寄る老人。
しかし、真由子のこんな姿を目の当たりにしても、僕は龍肉に対する未練を捨てられずにいた。
が、龍肉の鳴き声を聞いた真由子が目を血走らせて僕からビニール袋を奪い、
脇目もふらずにガツガツとそれを貪り始めたのを目の当たりにした僕は、ついに観念した。
男に案内されて僕はしぶしぶ手ぶらで地上への階段を上った。
続く
- 446 :黒ノ十三「雨に泣いている」(4/4):2007/01/08(月)
13:55:44 ID:UBAgiBIv0
- 外の雨足はまだ衰えていなかった。まるで滝のような雨に打たれて、
僕は初めて自分のしたことの恐ろしさを知った。そして彼女に対してすまなく思い、激しく後悔した。
僕は男にすがった。やっぱり彼女を1人にはできない、僕をまた地下に戻してくれと。
しかし男の反応は厳しかった。龍肉を食べ続けていると、思考力はだんだん衰え、
それ以外のことは何も考えられなくなっていく。更に、龍肉も生命体のためいずれ寿命がつきるのだが、
龍肉以外のものを拒絶する体は、唯一人肉しか受け付けることはなく、
その時は人を襲い、その肉を貪り食いだすのだと。
「わかりますか? 彼女はね、貴方にそんなあさましい姿を見られたくないんですよ」
引き下がるしかなかった。僕は自分の運命を呪いながら、重い足取りで家へと戻った。
その日以来、僕は寝るときにカーテンを開けたままにする。
雨の日には彼女がそこにやってくるからだ。そして窓の向こうで泣いている。
僕も泣く。しかしそれは彼女を想って泣くのではない。
人としての感情があるということを確かめるために、僕は涙を流すのだ。
以上です。初日の視線は多分男のもので、それ以降の視線は彼女のものだと思われます。
- 447 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/08(月) 14:55:24
ID:jD0JJo6X0
- その展開だと、最終的には主人公は彼女に食べられそうだ((((;゚д゚)))))
- 448 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/08(月) 19:06:50
ID:iahnj9xo0
- 黒ノ十三をぐぐって一番最初に出たサイトをのぞいたら不覚にも笑ってしまった
- 453 :黒ノ十三を書いてる人:2007/01/08(月) 20:40:32
ID:lV2O7XDd0
- >>447
ちょっとあらすじからは省いたんですが、
実際は老人のいる洞窟にはもっとたくさんの人がいて、
みんなモグモグと無心に龍肉食ってます。
食べてるうちに思考が働かなくなってくるので、
洞窟でモグモグ→龍肉なくなる→そばでモグモグしてる人食べる、
っていう状況になるので多分主人公は食われないと思います。
彼のもとを訪ねるという行為自体が、まだ理性が残ってる証拠ってことで、
おそらく今以上に食が進むと訪ねてこなくなると思われます。
>>448
本当にそんなシステムなのでバッドエンドは全部省いて、
正解ルートのみを書いています。
-
- 454 :黒ノ十三「彼女の図書館」(1/5):2007/01/08(月)
20:42:24 ID:lV2O7XDd0
- 「彼女の図書館」やりました。全5レスです。
図書館の仕事を手伝うことを引き受けたのは、
単純に学校へ行かなくてもいい理由が欲しかっただけだった。
他人との付き合いに辟易していた。
うすっぺらい友達関係に嫌気がさして登校拒否するも、
不安定な娘を持て余す両親の態度にいらつく日々。
そんな時、暇つぶしに通っていたこの町外れにある小さな図書館で、
穏やかな司書の老人に声をかけられ、千里は一も二もなくそれを承諾した。
仕事は書庫にある本の傷んだラベルの張り替え作業。
単調な作業だったがし始めるとなかなかに面白く、
気づけば千里は夢中になって背表紙のラベルを付け替えていた。
続く
- 455 :黒ノ十三「彼女の図書館」(2/5):2007/01/08(月)
20:43:23 ID:lV2O7XDd0
- 日が暮れるまで作業をした千里はその日は図書館に泊まっていくことにした。
夜中12時、司書の老人と共に図書館の見回りに出た千里は、
壁の彫刻のふくろうが鳴き声をあげたり、石のライオンが歩き回るのを目撃する。
驚く千里だったが、怪異は次の日も、またその次の日の見回りの時にも発生した。
壁や柱にある彫像が生きてるように身動きする。しかもそれは千里だけにしか見えないらしい。
次第に彼らは夜だけではなく、昼間千里が仕事をしている最中にも現れるようになった。
最初こそ驚いていた千里だったが、ただ彼女の周りで静かに過ごすだけの彼らが妙に愛しく、
彫像たちのいるその空間を心地よく感じるようになっていった。
続く
- 456 :黒ノ十三「彼女の図書館」(3/5):2007/01/08(月)
20:44:21 ID:lV2O7XDd0
- ある日のこと、いつものように千里がラベル張りをしていると、
一冊の文庫本の中から小さな男の子が表れた。
彼は、近々この図書館が取り壊されてしまう予定であると千里に告げると、
けれどそれを許せないからこの街を滅ぼして人間に思い知らせてやるつもりだと、
その目に異様な憎しみの光を宿して言い捨てた。
書庫の奥の魚が目印だと言われた千里は、その日から注意深く魚の壁画を見守った。
数日後、その魚の目が真っ赤に染まっているのを発見した彼女は、
司書の老人に事情を打ち明け、夜の書庫へと出向く。
するとそこにはどこから流れてきているのか、大量の水が溢れ帰っていた。
慌てて倉庫から古いボートを持ち出して、書庫に漕ぎ出す2人。
魚のいる壁まで舟を進ませると、そこにはすでにその姿はなかった。
続く
- 457 :黒ノ十三「彼女の図書館」(4/5):2007/01/08(月)
20:45:33 ID:lV2O7XDd0
- その時、背後でぱしゃりと何かが跳ねる音がした。
振り返ると大きな銀色の魚が水面に跳ね上がっていた。
あの魚だと直感した千里は老人と協力して、
互いの所持品で即席の釣竿を作成し、魚を釣り上げる。
ボートの上であえぐ魚を説得する千里。こんなことをしてはいけない、
この流れに乗って、自由になりたかったかもしれないけど、
自分のいる場所から逃げたりしないで。
この図書館のことを私はみんなに話す、バカにされても話す、
だからお願い、こんなことはやめて、と。
魚は千里をギロリと見ると、次の瞬間、その場からふっと姿を消した。
水がみるみると引いていく。あっという間にそこはいつもとなんら変わらない、
真夜中の書庫へと戻っていった。千里の願いは聞き届けられたのだ。
続く
- 458 :黒ノ十三「彼女の図書館」(5/5):2007/01/08(月)
20:47:49 ID:lV2O7XDd0
- 図書館は取り壊された。跡地には巨大なマンションが建設された。
千里は学校に戻ることにした。魚に逃げるなと説教した以上、自分もこれ以上逃げたくなかったのだ。
手探りをしつつ、それでもなんとか学校生活に馴染めそうになってきた頃、
司書の老人から手紙が届いた。そこには、訪ねてきてほしい場所があると書かれていた。
同封されていた地図を頼りに千里がその場所に赴くと、そこには、
取り壊される前と寸分違わないあの図書館がそのまま現存していた。
老人が中から顔を出す。実は以前から移築の話は進めていたとのこと。
君にも彼らにも黙っていたけどね、と話す老人に、
千里は初めて老人にも動く彫像たちが見えていたことを知った。
彼らはいるの? と尋ねる千里に、笑顔で頷く老人。
彼女はこみあげる嬉しさを抑えながら、入り口のドアを開け、
あの穏やかな彼らの空間へと足を踏み入れた。
以上です。よくこんなキモイ人形見つけてきたなと思うくらい、男の子の画像は壮絶でした。
- 199 :黒ノ十三「羽音」※グロ注意:2011/02/09(水) 04:01:07
ID:0L+zscjX0
- 私は、空を飛ぶ夢を見ていた。
この羽根さえあれば、どこまでも飛んでいける。なんて素晴らしい気分!
「ほんトうにソウ思う?」心の声が自問する。
もっと高く飛ぼうとするが、できない。地上すれすれから離れることが出来ない。
こんな薄い羽根では高く飛べない。カサカサとこすれ合う、私のこの羽根は何の羽根?
振り向くと、茶色くヌラヌラとした羽根が見えた。
これは…台所をよく這っている、この虫の名前は…
パン、と叩かれて目を覚ますと、目の前にお母さんがいた。
うなされていたから、起こしてくれたらしい。
「多恵子、学校に遅れるわよ」と言われる。学校に行きたくない。
全部喋ってしまえば、お母さんは行かなくていいと言ってくれるかもしれない。
でも言えない。お腹の中からあの茶色い羽虫が這い出てくる気がした。
そっと、朝の支度をする。初めての中間試験が済んだばかりなのに、ボロボロに破かれた教科書。
朝ご飯はシリアル。じゃりじゃりと噛むと、気持ち悪くなってきた。
あれに、触感が似ているからだ。あの忌まわしい物を食べさせられた記憶。
這い出て来る。お腹の中で生きてるわけないのに…。
たまらず、食べた物を吐いてしまった。
ミルクの中に、茶色い羽根と、チクチク毛の生えた足が浮いている…。
ふと気付くとそれは幻覚だった。
お母さんは心配してくれたけど、熱が無いから学校には行きなさいと言われる。
大好きなお母さん、仕事で忙しいお母さんを、心配させることなんて出来ない。
だから今日も学校に行く。
でも、私は学校でひどくいじめられていた。
東くるみを中心にして、クラス全員から残酷ないじめを受けていた。
それが学校生活を支障をきたし、私は時間を守れない生徒として教師にも睨まれていた。
きっかけは、うちが母子家庭で、働いているお母さんの代りに私が買い物をしているから。
「オバサンくさい」と笑われ、「台所の臭いが染み付いたゴキちゃん」といじめられるようになった。
お弁当は、屋上で一人で食べている。
屋上は本当は立ち入り禁止。何年か前に自殺した子がいるから。
その子は今もそこにいて、いじめられている子に力を貸してくれるって噂がある。
それが本当なら私は…。
以前、東くるみにお母さんの事まで悪く言われ、反論した時。
トイレで羽交い締めにされて、金バサミで挟んだゴキブリを口に突っ込まれた。
顎を抑えつけられて、ゴキブリはばらばらになりながら喉を通って行った。
それ以来、私は鏡が怖くて見られなくなった。
それ以来、私は何度も授業中に吐くようになった。
いい加減、先生の目も冷たい。
嫌なことばかり。そういう時はいつも、自分の中から羽音が聞こえるようになった。
羽虫が私を食い破って出てきそうな気がする。そして、時々幻覚を見るようになった。
幻覚は、私を屋上へ、屋上へと誘う。
家に帰りたい。お母さんが待っていてくれる家に。
入学前、お母さんと二人で模様替えした私の部屋。
春らしく緑色に統一した、私の聖域。
- 200 :黒ノ十三「羽音」※グロ注意:2011/02/09(水) 04:03:36
ID:0L+zscjX0
- 家に帰り、昼食べられなかったお弁当を食べる。
お母さんは、朝吐いた私の為に、会社を早退けして帰ってきてくれた。忙しい時に申し訳ない。
お母さんは、少し溜息をついていた。
次の日、嬉しい事があった。入学当初は親友同士だった裕美と話ができたのだ。
科学の実験で同じ班になった時、話しかけたら返事をしてくれた。
そして、以前と同じように楽しく話すことが出来た。
だから、次の授業中に手紙を書いた。
何か悪い事があるなら直すから、仲直りしたい。
裕美が今仲良くしている東くるみは悪い奴なの。私をいじめているのよ。
ルーズリーフ2枚に想いをつらつら書き、裕美の席に回してもらった。
わくわくしながら待ったが、昼休みの後、その手紙が床に落ちているのを見つけた。
幾つもの靴の跡。手紙には私の文字を覆うように、
「バカ女」「鬱陶しい」「ゴキブリ今中臭すぎ」「いっぺん屋上で死んでこい」と書きこまれていた。
クラス中の女子がこの手紙を回し読みし、そして私を嘲っていたのだ。
ひどい、ひどすぎる。羽音で何も聞こえなくなる。
私の居場所はここにはない。私の居場所は私の家だけ。あの、緑の聖域だけ。
部屋に帰り、ベッドの中で泣いた。
死んじゃおうかな。私が死んだら皆後悔するかな。
バカな感傷を笑うように、羽音がどんどん大きくなる。虫が私の中を這いまわっている。
突然、私の腕がもげた。体が裂けた。
隙間から、無数のゴキブリが這い出て来る。私の中で産まれた羽虫達。
虫が全部出た私は空っぽ。骨の隙間をカサコソと虫が這う。
ハッと目が覚めるとそれは夢だった。
おかしな夜だった。次々に夢ばかり見た。
次の日も学校に行く。こんなに嫌なら行かなきゃいいのに、私は学校に行く。
今日も嫌なことばかりだった。
真っ暗な体育用具庫に閉じ込められてしまったのだ。
私は何もしていないのに、何故こんなひどい事ができるの?何故誰も助けてくれないの?
憎い。皆嫌い。東くるみは許せない。あいつだけにでも思い知らせてやりたい。
そうだ。屋上のあの子だ。あの子なら分かってくれる。
結局出られたのは、暗くなってから見回りの先生に発見されてだった。
チャンスだった。先生に怒られた後、鞄を取りに行くふりをして、屋上へ登った。
今日しかない。今日は、お母さんが出張しているから遅くなってもかまわない。
自殺した女の子の霊に呼び掛けるおまじないはこう。
フェンスの向こう側へ降り、目をつむったまま、端へ5歩歩く。
足を踏み外す恐怖と闘いながら、一歩一歩歩く。女の子に呼び掛けながら。
風が強く、まるで羽音のような音が自分を取り巻いている。
いや、本当に羽音ではないのか?ビシビシと、顔に羽虫が当たっている気がする。
どうしても気になり、5歩目を踏み出す前に、思わず目を開けてしまった。
- 201 :黒ノ十三「羽音」※グロ注意:2011/02/09(水) 04:08:22
ID:0L+zscjX0
- 目の前に、醜く崩れた、少女だったものが居た。
顔は腐って変色し、目玉は膨張して飛び出し、唇はズル剝けて歯茎を露出させながらぶら下がっている。
それは、骨が剥き出しになった腕で、私にぶら下がっていた。
「憎イよねぇ、みんなが憎いでしョ?あナたは私とおんなジよ」
電子音で我に返ると、私は自分のベッドで目覚ましをつかんでいた。
私はどうやって帰ったんだろう?いつから寝てたの?制服のままで。
お母さんが起こしに来た。「おはよう、お母さん。」
「おはよう多恵子。おやすみなさい、永遠に。」
いきなりすぎて反応ができなかった。お母さんが私の首に包丁を突き立てた。
ベージュのカーペットに、鮮血が散る。
あレ?おカしいよね?緑色の、はずなノに。
自分の絶叫にびっくりして目が覚めた。部屋はまだ真っ暗。
どこからが夢?一体いつから私は寝ているの?
汗と涙できっとひどい顔。この部屋に鏡が無くて本当によかった。
ベッドから足を降ろすと、グちゃりという感触があった。
部屋が暗いのは、夜だけのせいじゃなかった。何もかもを黒く覆い尽くす、ゴキブリの群れ!
そして、ダラリ、と頭上からあの腐った少女が覗きこんできた。
おまじないは失敗したんだ。
途中で目を開けたから?憎しみに囚われていたから?
虫を踏みつぶしながら台所まで逃げ、包丁を掴んで少女に応戦する。
どうして私の聖域でこんなことが起きるの?
この家の中だけは、誰も私を傷つけず、お母さんと幸せに暮らせるはずなのに。
少女の崩れた口ではなく、パックリ裂けた首から声が漏れてくる。
「うふふ、私もそウ思っていたわァ。でもダめよね。
聖域なんテ無い。苦しいのはドこに行っても同ジだヨね。」
少女は、包丁に向かって倒れ込んできた。
柔らかに腐れた少女の体は包丁どころか私の腕も突き抜け、
ぐじゃり、と私にもたれかかって来た。
「あなタは私。だから見逃しテあげる。今夜のとこロはね。」
気付けば、朝の台所で、包丁を持ち、一人で失禁していた。
怖くて一人じゃいられないので、学校に行く。
学校にも居場所は無い。耳が聞こえなくてかえってよかった。
私の耳は、完全にわんわんと響く羽音しか聞こえなくなっていた。
家に帰ると、お母さんも帰っていた。
「何かあったの?」と聞かれ、「なんにも」と返す。
お母さんの声だけは聞こえるなんて、変だな。
- 202 :黒ノ十三「羽音」※グロ注意:2011/02/09(水) 04:09:46
ID:0L+zscjX0
- そして、自分の部屋に帰り、ぼんやりと色々な事を思い出していた。
入学前、凄く気に入ってこの壁紙を選んで貼ったんだ。
白地に小花のプリント。私、どうしてこんな柄選んだんだっけ。
この壁紙、日に焼けて傷んでる。安物はすぐに傷むのかな。
考えていると、目の前の壁紙がべろりと剥がれた。
現れた古い壁紙には、黒い染みが大きく飛んでいる。何故か凄く嫌な気持ち。
でも、染みは途中で四角く途切れていた。
この部分だけ焼けてないし、何か置いてたっけ?ポスターにしては位置が低いし…。
ああ、姿見だ。
中学の時おねだりして、特別に埋め込み式の鏡を買ってもらったんだ。
でも変ね。あんなに大事にしてた鏡をはがしてまで、何故わざわざ壁紙を張り替えたの?
いや、入学してからもこの位置に鏡はあったよ。
おニューの制服を映して喜んでいたから、間違いない。
じゃあ、入学前に壁紙を張り替えた記憶が間違ってるのかな。
そもそも、私が選んだんじゃないよ。この壁紙。私、花柄は嫌いだったもん。
そうだ。
お母さんが貼った。
私はそれを見ていた。床の上からただ見ていた。
赤い血が、グリーンのカーペットを染めていた。
お母さんが突然私の首に包丁を突き立てた。
赤く染まった肉切り包丁で、逃げる私に何度も何度も包丁を突き刺した。
「あなたは死ねナいわ。だってもう死んでイるから」
私の弱さ。頼る一方の依存心。
死んだ方がマシだと泣きながら、死ぬ事さえ自分ではできず、
可哀想な自分に酔いしれて、ただ泣いていただけ。
お母さんはそんな私を見ていた。
「そう、お母さんが多恵子を殺してあげたの。だからその苦痛は、永遠。」
壁に飛んだ血の染み。その真中で、姿見が私の最期を看取ろうとしていた。
鏡に映るのは本当の私。あの少女は、私だったのだ。
私は羽虫を食べさせられまシタ。
私の中で羽虫が死に、私は今、羽虫の中で死んでいく。
私は今この時点で死に、明日の朝になったら、新しい今中多恵子が夢を見るのだ。
生きている頃の夢を…。私にとって現実になった死の夢を。
私は、鏡の中の私を食い破り羽虫が羽を拡げるのを見ていた。
土の中の私を、羽虫が食んでいるのか。私の中で、今も無数の羽虫が生まれているのか。
ああ、だから…
空を飛ぶ夢を見た。なんて素晴らしい気分。なんて素晴らしい。
空っぽになった骨と骨の間で、羽音がした。
- 203 :ゲーム好き名無しさん:2011/02/09(水) 04:10:59
ID:0L+zscjX0
- 以上。
東くるみの憎たらしさとリアルなゴキブリの画像で発狂しそうになる話です。
最終更新:2011年02月11日 02:48