火星物語

火星物語

 

・要約版:要約スレpart2-814

 

・詳細版:part34-252~281


814 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/24(日) 01:28:09 ID:7F0TaM830
火星物語

時代はいつかは不明だが、舞台は火星。ロマンシアという大陸での話。
人間が火星に移り住んで何千年も経っている。現代、火星では、
生まれた子供は少年Aとか少女Yとかいう記号が与えられる。そして
12才になったとき、職業と名前をもらって大人になる。
もうすぐ12才になる主人公の少年Aは、名前をもらうために田舎のアロマの村から
大都市のカンガリアンへ旅立つ。カンガリアンで少女Yと出会う。
少年Aと少女Yは、名前と職業をもらった人が洗脳されている事実を知って逃げ出す。
途中で捕まりそうになったとき、突然青い服の女性が現れて、敵を全部やっつけた。
女性は<藍色の風>と名乗った。火星には風という一種のエネルギーが存在する。
<藍色の風>は7種類ある風のうちの一つ。(風とは召喚魔法みたいなもんです)
そして少年Aは、火星の最後の風使いなのだそうだ。
少年Aと少女Yはそれぞれフォボスとセイラという名前を名乗ることに決めた。
フォボスはアロマに帰ってきたが、そこはすでにフーギ皇帝率いるハーネス国に侵略されていた。
とりあえずアロマの人々は一旦逃げ出す。そのとき、セイラが持っていた銀色の懐中時計が光りだした。
フォボスが懐中時計に触れると、タイムスリップして過去に来てしまった。
この時代を名目上古代と呼ぶことにする。古代では、アロマの周辺はまだ誰も住んでおらず、
金髪の少年、風使いのアンサーの家しかなかった。
フォボスはアンサーと意気投合し、一緒にカンガリアンに行く事になった。
カンガリアン王国では、王女さまが誘拐されたといって大騒ぎ。フォボスとアンサーは王女さまを助けることになった。
王女さまを探して謎の穴から地底深くに潜る。そこには大きな岩があって、王女さまを攫った男がラリっていた。
男を倒して王女さまを連れ帰る。王女さまとアンサーは好き会ってしまった。カンガリアン王は
王女さまをアンサーに嫁に出すことにした。そこでフォボスは現代に帰ることになった。
アンサーはやがて、アロマ地方にアロマ王国を建国し初代国王となり、後に「風の王」と呼ばれるようになる人物だった。
現代に帰ったフォボスは、セイラと一緒にカンガリアンに行ったが、そこもハーネス帝国に戦争をふっかけられていた。
ハーネス帝国と全面戦争になるのも時間の問題だ。フォボスはとりあえずアロマを解放する。
そしてまた懐中時計が光り、フォボスはタイムスリップ。今度は中世に来た。
アロマ王国の王女にして風使いのクエスと一緒に行動することに。
中世では、アロマ王国はアショカ法国に攻められていて、かなり絶望的な状況だった。
クエスとフォボスはアショカ法国に最後の戦いを挑むことに。謎の穴から地底へ潜り、
あの大きな岩の前にやってきた。そこにはアショカ法国の最後の生き残り、リュートが待っていた。
リュートは反乱を起こそうとしていた。実は大きな岩には、黒い天使が封じられていて、
黒い天使からは、人々を洗脳するという黒い風が吹き出ているという。
フォボスたちはリュートに決戦を挑んで、勝利する。
リュートは最後の力で黒い天使を解放しようとする。それをクエスは命を懸けて阻止した。
アロマ王国最後の王女だったクエスが死んだので、アロマ王国の歴史はそこで終わった。
フォボスは現代に帰ってきた。鋼鉄製の樽が発掘された。樽の中には、フォボスに宛てたクエスからの手紙が入っていた。
クエスはアショカ法国を潰すために死ぬ覚悟でいることが書いてあった。
だが、クエスは現代にフォボスがいると知って、自分のしてきたことが無駄ではないと悟ったらしい。
フォボスは風を着々と集め、虹の七色の風全てが使えるようになった。七色の風が折り重なって、<白の風>になった。
フォボスとセイラはハーネス帝国に最終決戦を挑む。謎の穴から地底に潜って、
大きな岩の前でフーギ皇帝と戦って勝つ。フーギ皇帝は黒い天使を解放してしまう。
黒い天使はルシフェルという名前の、超古代に火星に流刑されてきたヤツだった。
ルシフェルは<黒の風>を繰り出してくる。フォボスは<白の風>を使ってルシフェルを倒した。
おしまい。
 

252 :火星物語:2007/11/14(水) 15:54:08 ID:aaUPr/qP0
これは、はるか遠い昔、人々が忘れてしまった物語。
どこかの時間、どこかの世界の火星。空に3つの太陽が浮かび、砂の海に囲まれた大陸、ロマンシアがあった。
ロマンシアは、普通の人間の「ヒト族」の他に、「ウマ族」や「トリ族」など、半獣人もいる世界だった。
(「どうぶつの森」のような感じです)
この世界では、子どもは十二歳で成人と認められ、
十二歳の誕生日に「命名の儀」というものをして、名前と職業が与えられる。
それまでは、生まれた時につけられた記号が名前代わりだが、
それでは呼びにくいので慣習的に「少年A」「少女B」などという呼称を使っているらしい。


第一話 少年Aからはじめよう

薄暗いガレージの中、小さな戦車が置いてある。そのコックピットから、少年がひょっこり顔を出す。
額に当てたゴーグルにワークパンツ。片手には長いスパナが握られている。
そこへ、青い羽根を全身に生やした、トリ族の少年がやってきた。
「よう、少年A。戦車は完成したか?」
少年Aと呼ばれた彼はうなずいた。
「そうか。いよいよ明日か。このアロマを出て、ロマンシア最大の都、カンガリアンへ行くんだな・・・」
トリ族の少年、少年Bは感慨深げに言った。
少年Aと少年Bは同い年で、もうすぐ十二歳になる。ここ、辺境のアロマで「命名の儀」を受けてもいいが、
どうせなら、大都会のカンガリアンへ行って受けようということになった。そして、明日が出発の日なのだ。
カンガリアンへ旅に出るには資金が要る。今日、アロマでは「カーニバル」というお祭りが開かれていて、
その中で作品展が開催されている。少年達は、戦車を出品し、優勝賞金をゲットするつもりなのだ。
少年達はカーニバルを一通り楽しみながら、アンサー広場にやってきた。
「風の王 アンサー」の像が立っている広場だ。アンサーは六百年以上昔、アロマ王国を建国した人だ。
広場にいる人々にお別れの挨拶などを言う。
時間が来たので、少年達は、戦車を作品展の会場まで運んでいく。
会場にはアロマの長老がいた。見回すと、会場はめちゃくちゃに壊されていた。
長老が言うには、掘り出したロボットが暴走して、困っているとのこと 。
そのロボットが、運んできた戦車にぶつかり、戦車のタイヤが取れてしまった。これでは走れない。
だが、主砲はなんとか打てそうだ。
「ようし、少年A!ロボットを止めよう。そうすれば、間違いなく作品展は優勝だ!」
少年Bはそう言うが自分は戦闘には参加しないつもりだ。少年Aはスパナを取り出し、戦闘開始!
そして、戦車の主砲を上手く使い、ロボットを止めることに成功する。
ホッとしていると、ロボットは最後の力で少年Aに一撃を加える。
少年Aは跳ね飛ばされ、地面に身体を打ちつける・・・と思ったとき、さわやかな風が吹き抜けた。
少年Aの身体はふわりと地面に落ちた。濃い青の服を着た女性の姿が一瞬見えたと思ったが、消えた。
「見事じゃ。少年Aに少年B、文句なしにお前らが優勝じゃ」
長老は少年達に賞金を渡した。
 
253 :火星物語:2007/11/14(水) 15:55:30 ID:aaUPr/qP0
第二話 カンガリアンへ

次の日の朝早く、少年Aと少年Bはアロマを後にした。
カンガリアン行きのバスが出ているリビドーまで徒歩で移動。日が暮れる頃、リビドーに到着した。
リビドーは鉱山の町だ。黄色いヘルメットに黒いサングラス、つるはしを片手に持った、
いかにもと言う感じのモグラ族達が働いている。
少年達はバスのターミナルへやってきた。バスと言っても、限りなく列車に近いような外観をしている。
カンガリアンまでのチケットを買い、バスに乗り込む。
バスは夜通し休み無く走り続け、あと数時間でカンガリアンで着くという頃、いきなり止まった。
「このバスは我々が乗っ取った・・・」
車内放送が響く。バスはテロリストに制圧されてしまった。
少年Aはテロリストの下っ端たちをかわし、一番前の車両、機関室にやってくる。
そこには白い毛のイヌ族の男、テロリストのボスがいた。
「むっ、お前は、子どもか・・・。いや、でも、俺の直感が、お前が危険だと告げている!試させてもらうぞ」
男は青い刀身の剣を抜き、襲い掛かってきた。
少年Aは反撃しようとするが、男は圧倒的に強い。ついに少年Aは倒れてしまう。
そこへ、あの時と同じ、さわやかな風が吹いてきたか思うと、男はその場で凍りついて、動かなくなってしまう。
少年Aが起き上がると、風は止み、男は自由を取り戻した。
男は部下に、退却を指示した。
「今日のところはこれで退くが、お前とはまた会うことになりそうだ」
そう言って男はバスを降りた。バスは再び動き出した。
日付が変わる前に、バスはカンガリアンに着くことができた。
大都会に足を踏み入れた喜びもつかの間、少年達は急いでセンターへ向かう。
センターとは、カンガリアンで一番大きな建物で、各種手続きを受け付けている所だ。
中では、アンドロイドたちがせわしなく働いている。手数料を払い、命名の儀の申し込みをする。
「それでは、呼ばれるまでしばらくお待ちください」
しばらくして・・・。
「アロマ出身のB794・・・」
機械的な音でそう言う声が聞こえた。
「おっ、そう言えばオレは、正式にはそんなんだったな」
そう言いながら少年Bは、呼び出された窓口に向かった。
「アロマ出身のA710・・・」
次は少年Aの番だ。
「あなたは、十二歳の誕生日まで、まだ三日以上ありますね」
センターの外に寄宿舎があるので、そこに滞在して誕生日を待てと指示された。
少年Bは、誕生日が近いので、センター内の寄宿舎に滞在するよう指示されたとのことだ。
「それじゃ、とりあえずここでお別れだな、少年A。明日の朝、センターの前で待ち合わせしようぜ」
少年Aはセンターを出て、寄宿舎へ向かう。
「ようこそ、君はA710だね。ここでは、交流を深めるために全て二人部屋になっているんだ」
寄宿舎の管理人のおじさんが言った。
あてがわれた部屋に入る。そこには、赤いセーラー服の少女がいた。


 
254 :火星物語:2007/11/14(水) 15:56:35 ID:aaUPr/qP0
第三話 BOY MEETS GIRL

「あなたは・・・誰ですか?」
少年Aは自己紹介する。
「ああ、相部屋なんですね。わたしは少女Y。ソドムの町から来ました」
二人はすぐに打ち解けた。
翌日、二人は一緒にセンターの前へ行った。少年Bが約束どおり待っていた。
三人でカンガリアンを観光して回ることになった。
長い長い下りエスカレーターに乗り、着いたところは旧市街。
古いお城がまだ残っており、カンガリアンがとても歴史のある街であることを思い知らされる。
上りエスカレーターに乗って新市街に戻ってきて、3Dシアターの前に来ると、少女Yが突然声を上げた。
「クエス様だわ!クエス様が出ている映画なのね!」
そこには3Dの看板が出ていた。緑の上着を着て、長い髪を束ねて三つ編みにしている女の子の姿が映し出されている。
少年Aと少年Bはクエスという名前に聞き覚えが無かったので、首を傾げていると、少女Yが熱く語りだした。
「クエス様は三百年前の、アロマ王国の王女で、アショカ王と最後まで戦い抜いた英雄なのよ!」
「オレ達、そのアロマから来たんだけどなぁ・・・」
と、少年Bはあきれている。
ともかく、そのクエスが出てくる3D映画を見ることになった。
クエスと、アショカ王の部下リュートとの一騎打ちとなり、二人は相打ちになる、そんなラストだった。
「あれじゃまるで、クエス様が悪者みたいじゃないですか!この絵本にはそんなこと、書いてなかったのに」
少女Yはポケットから小さな絵本を取り出した。クエスの物語がかかれている絵本らしい。
シアターから出るとすっかり暗くなっていた。三人はセンターまで戻る。
「ここでお別れだな。オレは今夜、命名の儀を受けて、大人になる。だけど、大人になっても友達だよな。
明日もここで待ち合わせしようぜ。じゃあな」
少年Bはセンターの中へ消えた。
次の日、少年Aと少女Yは、約束通り、センターの前に行ったが、そこに少年Bの姿はなかった。
受付のアンドロイドに聞いてみると、少年Bは「アービン」という名前をもらい、下水溝掃除士になったという。
二人は、下水溝に行けば会えるかも・・・と思い、マンホールから下水溝へ。
下水溝の奥の奥に、少年Bはいた。黙々と作業をしている。
「あ、あの、少年B?」
「私の名前はアービン。職業は下水溝掃除士」
少年B・・・いや、アービンは機械的にそう答えた。
「もしかして、わたしたちのこと、忘れちゃったんですか?アービン・・・さん」
「命名の儀で少々疲れてしまってね。記憶が曖昧なのだ。私は忙しいのだ。帰ってくれ」
もう何を言っても無駄だ。少年Aと少女Yは暗い気持ちで来た道を戻った。



 
255 :火星物語:2007/11/14(水) 16:00:54 ID:aaUPr/qP0
第四話 名前のない町

寄宿舎で悲嘆に暮れる少年Aと少女Y。
「少年B、わたしたちのこと忘れて・・・。今までのことを忘れることが、大人になるってことなの?
それが、名前をもらうってことなの?わたし、名前さえもらえれば、大人になれるって思ってた。だけど、だけど・・・」
泣き出す少女Yを少年Aはなぐさめた。
そのとき、少女Yのポケットから光が漏れだした。少女Yは何かをポケットから取り出した。それは銀色の懐中時計だった。
「嘘・・・光ってる?今まで、こんなことなかったのに」
少年Aは懐中時計に手を伸ばし、触れたかと思うと、少女Yの前から消えた。
少年Aは、時空を越えていく。気がついたときには見知らぬ土地にいた。
荒野の真ん中で大勢の敵と戦っている男がいた。片目の上に傷があり、黄色い服を着て、手には刀を持っている。
「クエス、まだか!」
男は後方に呼びかける。
「待たせたな、サスケ!」
クエスは映画に出てきたときの姿そのものだ。
「行け!<赤の風>!」
クエスが掲げた右手から、熱気を含んだ風が渦を巻き、その中から、赤い服の女性が姿を現した。
頭に赤いスカーフを巻き、服はさながらフラメンコの衣装のよう。彼女が情熱的なステップを踏むように動くと、辺りは火の海に包まれた。
少年Aもそれに巻き込まれ、気を失って倒れてしまった。
「あれ?ボクの懐中時計が・・・」
クエスの声が聞こえる。少年Aは眼を覚まし、起き上がる。
赤い服の女性や大勢の敵は、もういなくなっていた。
「ボクはクエス。アロマ王国第一王女で風使いでもある」
「そして俺は、同じく風使いの近衛隊長のサスケだ」
名前を聞かれたので少年Aと答える。
「少年A?それは記号だな。そうか、名前がないのか。ちょうどいい。
ボクたちは、これから名前のない町へ行く。一緒に来ないか?・・・不安なんだな。
大丈夫。ボクたちがもとの場所へ返してあげるから」
ともかく、少年Aはクエスとサスケについていくことになった。
名前のない町は現在、アショカ法国に制圧されているらしい。それを解放するのが、クエス達の目的だ。
町に着いた。入り口を守るアショカ兵を倒し、中へ入る。
住宅地へ差し掛かったが、行き交う人々はみな怯えた目をしている。
話を聞いてみる。かつて、この町にも名前があったが、名前を呼ぶとアショカ王から罰せられるので、
町の名前も、人の名前も、忘れられ、なくなってしまったという。
レジスタンスが潜伏しているという酒場へ来た。秘密の入り口から地下へ。
地下室にいる、レジスタンスのリーダーが、作戦を説明する。
もうすぐ、アショカ本国から司教がやってくる。そのとき、司教になりすまし、町の中心、総督府に潜入する。
だが、逆に裏をかかれ、リーダーは捕らえられてしまう。
「ボクにいい考えがある」
向かった先は、議長官邸。この町のトップである、デーモン議長の所だ。
クエスは、議長の力を借りようと言うが、サスケはそんなことできるのかと訝しげだ。
議長は、アショカ軍が来た時、あっさりとアショカに降服した、いわばこの町をアショカに売り渡した張本人だ。
クエスは必死で力を貸してくれるよう訴えた。すると議長はこう言った。
「私は、町の住人が無事なら、名前ぐらいなくてもいいと思っていた。だが、それは間違っていた。名前は個人そのものなのだ。なくしてはならない」
議長の協力を得、クエス達は町を解放することに成功する。群集が見守る中、演説する議長。
「私は宣言する。個人を尊重しないアショカの政策には、今後一切従わないだろう!!
そして、今からこの町は、ふたたび『自由なるソドム』と呼ばれることになる!」
ソドムの町を後にして、三人は荒野の真ん中に戻った。少年Aが帰るときが来た。
「ボクは友人を記号で呼びたくない。今度会うときまで、ちゃんとした名前を決めておいてくれよ。
そうだ、ボク達の友情の証として、この風の紋章をあげよう」
少年Aはクエスから、十センチ四方ほどの、正方形の金属の板を受け取った。
「風」の文字が意匠化されて、刻まれている。
「少年A、俺達とお前はまた会うことになる。じゃあ、またな」
クエスが取り出した、少女Yが持っているのと同じデザインの懐中時計が光っていた。
それに触れると、少年Aは消えた。
少年Aはまた時空を越え、寄宿舎の部屋に戻ってきた。
「少年A・・・少年Aがいる!わたし、とても心配したんですよ」
少女Yはまた泣き出してしまった。


 
256 :火星物語:2007/11/14(水) 16:02:54 ID:aaUPr/qP0
第五話 命名の儀

少年Aはポケットを探った。風の紋章が入っていた。
夢かと思ったが、間違いない。確かに過去に飛んでいたのだ。
少年Aは少女Yに、過去でクエスに会ったことを話した。そして、風の紋章を差し出した。
「えっ?これは、クエス様の物なんですって!いいんですか、もらっちゃって」
少年Aはうなずく。代わりに、少女Yは少年Aに、クエスの絵本を渡した。
またアービンに会ってみようと、少年Aと少女Yは再び下水溝にもぐることにした。
アービンに話し掛けるが、前と変わらない反応が返ってきた。
少年Aが一計を案じた・・・スパナでアービンの頭を一発、コツン!
「あれ?少年Aに少女Yじゃないか。こんな所で何してるんだ」
アービンが元に戻った!喜ぶのも束の間、数分後には元に戻って掃除を始めようとしてしまう。
どうやら、元に戻るのは一時的らしい。アービンを殴りつつ、なんとか地上へ戻る。
何とかアービンを完全に元に戻す方法はないものかと、少年Aと少女Yは、街の人々から情報を集める。
カンガリアンでは危険人物だとみなされると、頭部に「Aチップ」なるものを埋められ、言動を制御されてしまうらしい。
そして、Aチップを取る方法は、旧市街にいるという、「ブラパン党」と名乗るテロリスト達が知っているということだ。
三人は旧市街の、ブラパン党が潜伏してるという地域に向かった。
そこには、ランディとシェイルという、白い服のブラパン党員の男女がいた。
「お願いします。友達を元に戻してください!」
シェイルはうなずき、アービンのAチップを取り外す。
そのとき、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「ここは危ない。君たちも早く逃げるんだ」
ブラパン党員の二人は去っていった。少年Aたちは、やってくるポリスロボ達を蹴散らしながら逃げる。
もうこんな街に用はない、アロマへ戻ろうということになった。少女Yは少し迷ったが、一緒に行くことにした。
バスターミナルまでやってきたが、バスはない。 そこへパトカーがやってきた。
三人はホバーパトカーを奪い、高速道路を走る。だが、ポリスロボに行く手をふさがれ、パトカーは大破。
しかも、ポリスロボにびっしりと周りを囲まれてしまった。
絶体絶命、そう思ったとき、少年Aの上空で、涼やかな風が渦を巻いた。そう、作品展で、バスの車内で吹いたような風が。
そして、風の渦の中から、濃い青のドレスの女性が姿を現す。いや、ドレスというよりは、バレエのチュチュだ。
女性が念じると、周りのポリスロボは凍りつき、砕け散ってしまった。
「助けていただいて、ありがとうございました。あの、あなたは・・・?」
「私は<藍色の風>」
「風?」
「あなたたちが人間であるように、私は風。風は風です。私は、ずっと昔から、
あなたに会えるのを待っていました。どうか、あなたをなんと呼べばいいのか、名前を教えてください」
<藍色の風>は少年Aに呼びかけた。
「えっ?『少年A』ですか?それは記号ですね。名前ではありません」
それを聞いて、アービンは言った。
「ようし、いい機会だ。これからオレ達だけの命名の儀をしようぜ。オレはアービンだ」
少女Yは首をひねる。
「わたしは・・・セイラ。セイラです。少年Aは?」
少年Aは少し考えてから「フォボス」に決めた。
「フォボスか。火星の衛星だな。いい名前じゃないか」
「フォボスさん、セイラさん、アービンさん。あなた達はもう立派な大人です」
「でも、職業がまだ決まってません」
そう言うセイラに、<藍色の風>は答える。
「職業は重要ではありません。重要なのは、何がしたいか、何をなすべきかです」
「はぁ。でも、これからどうやってアロマに帰ろう?ホバーパトは壊れてしまったし」
「それなら、私がアロマまでお運びします」
<藍色の風>が目を閉じて念じると、フォボスたちは光に包まれた。


 
257 :火星物語:2007/11/14(水) 16:03:25 ID:aaUPr/qP0
第六話 黒き侵略者

気がつくとそこはアロマの、フォボスの家の前だった。
「フォボスさん、私はいつでもあなたと一緒です。必要な時はいつでも呼んでください。ではまた会いましょう」
そう言って<藍色の風>は消えた。
なつかしの我が家・・・のはずだが何かがおかしい。よく見ると、荒らされている。
「帰ってきたのか、少年Aに少年B。今この村は黒い服を着た奴らに占領されているんだ。
なんでも、『風使い』というのを探しているらしいよ」
近所のおじさんがそう教えてくれた。
長老に会う。
「おお、少年Aに少年Bよ。よく戻ってきたな。しかも、ギャルまで連れて。
ああ、そうじゃった。お前たちにはもう名前があるんじゃったな」
「オレはアービン。そして、少年Aはフォボス。こちらはセイラだ」
「何?フォボス・・・じゃと?」
長老はフォボスと聞いて驚いている。そして、話し始めた。
「昔、王女クエスがこんな予言を残していたんじゃ。
『遠い未来、このアロマの地に、再び風使いが現れる。彼の名前はフォボス。
そのときのために、アロマ城の奥深くに、風の谷への地図を残しておく』と」
フォボスとセイラは、アロマ城址に地図を取りに行くことにした。アービンは入り口に残った。
住み着いた幽霊たちを倒しながら、フォボスたちは地図を手に入れる。
入り口まで戻ってきたが、アービンがいない。代わりに、手紙が置いてあった。
「復活せし邪悪な風使いの血を引くものよ。アービンとかいうヤツは預かった。
返してほしければ風車小屋まで来い。 ハーネス軍隊長 シルビー」
黒い服のやつらを蹴散らし、フォボスとセイラはシルビーが待つ風車小屋へやってきた。
シルビーは黒いレオタードのセクシーな女性だ。シルビーは、黒い刀を構える。
「来たか、風使いめ。フーギ皇帝のご意志により、全ての風使いを消去する!」
シルビーは強い。フォボスは風を呼ぼうとしたが、何故か上手くいかない。
「この漆黒剣は、風を打ち消す力があるんだよ!」
今はシルビーに敵う方法はない。二人は逃げた。
フォボスとセイラは作品展会場に向かった。あの時倒したロボットの残骸が、まだ片付けられずに残っている。
フォボスは、得意の機械工作で、ここにある資材を使い、何かシルビーに有効な兵器を作るつもりなのだ。
「フォボスさん、そんなこと出来るんですか?」
セイラが訊くと、フォボスは自身ありげにうなずいた。
セイラが見守るなか、フォボスは何かを作り上げていく。そして、一晩中作業し続け、
次の朝、ついに完成した。円筒形の白いボディに、短い手足という、ありがちなロボットだ。
カタコトではあるが、言葉も話せる。フォボスは、そのロボットに「タローボー」と名付けた。
タローボーを連れ、シルビーと再戦。三人のコンビネーションでついに勝った。
漆黒剣は二つに折れてしまった。剣の刀身から黒いオーラがほとばしり、シルビーは気を失ってしまった。
急いでアービンを救出する。
「遅いぞ、フォボス。・・・なあ、お前たち、風の谷に行くんだろ。
ここで考えたんだ。どうしたら一番いいのか。オレがアロマに残るから、お前たちは気にせず風の谷に行って来い」
フォボスとセイラ、そしてタローボーは、風の谷に向けて旅立つ。


 
258 :火星物語:2007/11/14(水) 16:05:17 ID:aaUPr/qP0
第七話 風の谷

アロマから出てまっすぐ北へ歩く。
「あれ?行き止まり?」
道は突然、壁に遮られていた。フォボスが近づいていくと、壁は透明になって消えた。
壁の中には、のどかな田園風景が広がっている。民族衣装を着けた女の人に話し掛ける。
「あなたたちは・・・。風の門を通り抜けて来たのですか?
ようこそ、風の谷へ。最後の風使い、フォボス君。歓迎いたします。
わたしはこの谷の長(おさ)、サフィです」
サフィは、風の門を通れるフォボスは風使いだと認めたが、他の風の谷に住む住民は認めないだろうとのことだ。
「早速ですがフォボス君、滝の方へ行ってみてはどうでしょう?
こんな予言が残されています。『最後の風使いは、試練を乗り越え、風の谷に繁栄をもたらすであろう』と。
きっと、試練を乗り越えれば皆信じてくれると思います」
スフィの言うとおり、滝に行ってみる。滝の裏には洞窟があった。そこへフォボスは一人で入っていく。
そこには3つの小部屋があり、それぞれ「知」と「運」と「力」を試された。
奥へと進むと、そこには美しく光り輝く、巨大な水晶があった。
試練を乗り越えたので、洞窟を出てセイラとタローボーに合流した。
サフィに試練を乗り越えたことを報告する。
「そうだ。この谷には、『風使いの館』というものがあるの。
その建物、どうも、風使いしか入れないみたいなのよ。そこへ行ってみたらどうかしら」
行ってみると、そこは何の変哲もなさそうな、古びた大きな家だった。入り口の鍵は閉まっている。
「あれ、このくぼみ、クエス様の紋章に似てる・・・」
セイラが風の紋章を取り出してはめると、鍵が開いた。
中に入る。部屋が幾つもある。その部屋の一つに、手紙が載っているテーブルがあった。
「フォボスへ。この鍵は後で役に立つものだから、キミが持っておくように。あなたの親友より」
手紙に書いてある通り、フォボスは鍵をポケットに入れた。
「あっ、また光ってる・・・」
セイラの懐中時計が光っていた。


 
259 :火星物語:2007/11/14(水) 16:07:01 ID:aaUPr/qP0
第八話 クエスとの再会?

「行ってらっしゃい。わたしたち、ここで待っています。だから、必ず帰ってきてくださいね」
セイラとタローボーに見送られ、フォボスは過去へと旅立った。
着いた先は、さっきと同じ部屋のようだ。背後で女の子の叫び声がしたのでふり向くと、
そこには下着姿のクエスがいた。黒いパンティが目に眩しい。どうやら、着替えの途中らしい。
「お前!アロマ王国第一王女であり、風使いでもあるクエス様の部屋に入ってくるとは、いい度胸だな!」
クエスに殴られ、フォボスは倒れた。サスケに引きずっていかれ、部屋の外に出された。
フォボスが倒れていたところに、絵本が落ちていた。クエスは絵本を拾い上げる。
「この絵本・・・ボクが描かれてる。ということは、彼は未来から・・・?」
フォボスは牢屋に入れられてしまっていた。
クエスやサスケはフォボスを知らないようだ。という事は、ここは前回来た時より前の時間だということだ。
フォボスは持っていた鍵で牢の扉を開いて、外に出た。
着替えを済ませたクエスとサスケに、自分はフォボスで未来から来た・・・と自己紹介する。
「未来から来たということは、俺たちがどうなったか知ってるってことだよな?
どうだ?アロマ王国は、クエスや俺はどうなってる?」
サスケは未来のことを聞き出そうとしたが、クエスが制止した。
やはりここは風の谷で、この建物は風使いの館だ。今は大勢の風使いたちが暮らしている。
そこへ突然、風のクリスタルが賊に襲われたという知らせが入ってきた。
フォボスは、クエスとサスケと一緒に試練の洞窟へ向かった。
洞窟の内部は荒らされていた。試練を乗り越えなければ進めないところを強引に通ったらしい。
賊を倒し、風のクリスタルの前へ。
「これが風のクリスタルだ。この風の谷を造ったアンサー様が、魔力を封じ込めたと言われている。
このクリスタルを使って、風の谷に結界を張ることもできるんだ」
クエスが説明した。
それから広場に行き、風の谷に入り込んだ賊を撃退した。
風の谷はまだ作りかけで、風使いたちが安心して住めるような町にするのだとクエスは言う。
そろそろ帰る時間だ。フォボスたちは風の民の館に戻ってきた。
クエスとサスケに再会を約束し、フォボスは現代に戻る。


 
260 :火星物語:2007/11/14(水) 16:07:39 ID:aaUPr/qP0
第九話 さよならアロマ

フォボスはセイラと相談し、ひとまずアロマに戻ることに決めた。
<藍色の風>を使い、アロマの、フォボスの自宅前に戻る。
「あれ?なんだか昼間なのに薄暗いですよ?」
見回すと、見慣れない立て札がある。
「お帰りフォボス。この通り、アロマは闇に包まれてしまっている。
この闇の中心は風車小屋だ。気分が悪いので、みんなは避難している。オレは広場で待ってる。 アービン」
風車小屋・・・そういえば、あのとき折れた刀から黒いオーラが出てきて、シルビーが気絶したっけ。
この闇は、折れた刀から出たものなのだろうか。
広場に行くと、アービンと長老が待っていた。
誰かが風車小屋に行って原因を調べないのかと言うと、風車小屋に近づくと気絶してしまって危険だという答え。
「それよりもフォボス、古い文献を漁っていたらな、昔、アンサー王が『古代封印器』というものを使って、
闇を滅ぼした、という記録が出てきたんじゃ」
「古代といえば、確かリビドーに、古代文明研究所っていうのがあったな」
フォボスたちは<藍色の風>でリビドーに向かう。
道行く人に話を聞くが、研究所は数十年前に取り壊されたとのことだ。
研究所の跡地に新鉱山が出来て、今でもたまに古代の遺物が掘り出せるとのこと。
新鉱山に行ってみる。入り口付近に、何百年も前のデザインの鎧姿の男がいた。
なんでも、その男は、何百年も前に生きていたが、
鉱山で、真っ黒な色になって、鉄のように硬くなっている状態で掘り出されたところで、
ブラボーという、遥か東の町の秘薬で元通りに蘇ったのだという。
新鉱山の中に入り、奥に進むと、巨大な謎の装置を発見。古代の遺物だ。
床に置かれた円盤のような装置の上で、風が渦を巻いたかと思うと、水色のネグリジェ姿の少女が現れた。
「う~ん、アンサーくぅん、もう朝なの~?」
少女は寝ぼけまなこでフォボスに近づいてきた。が、アンサーではないことに気付き、突然叫び声をあげた。
「キャー、痴漢よ~!なによあなた、このわたしが風のなかで一番かわいい、<青の風>と知ってのことね~?
・・・いいわよ、仲良くなっても。でも、アンサーくんの許可がなきゃダメよ~」
<青の風>は消えてしまった。
新鉱山を一通り回ってから、フォボスたちはアロマへ帰った。
広場で待つ長老に、古代封印器の手掛かりが見つからなかったことを報告する。
そして、これ以上アロマに居ては危険なので、皆で風の谷に避難することを進言する。
「そうか。解った。皆にはわしから話しておこう」
広場の中央、アンサーの像に近づくと、いきなり<青の風>が現れた。
「アンサーくぅん、元気~?」
<青の風>はアンサーの銅像に向かって話し掛けていたが、銅像だと気付くと、また消えた。
そしてまた、セイラの懐中時計が光りだした。
「時計が光るってことは、困ってる人がいるっていうこと・・・なんだよね」
セイラはフォボスを、過去へと送り出す。


 
261 :火星物語:2007/11/14(水) 16:09:01 ID:aaUPr/qP0
第十話 アンサーとポチ

そこは小さな家のダイニング・キッチン。そして続きのリビング。
全身に茶色い毛を生やし、アロハシャツを着たイヌ族の男がいる。
しっぽに、セイラが持ってるのと同じ懐中時計が引っかかっているので、手を伸ばして取った。
金髪の巻き毛をして、品良くチョッキを着ている少年がフォボスに話し掛けてきた。
「あれ?キミは・・・ありがとう。その時計、ずっと探してたんだ。僕はアンサー」
「そして俺が大剣士のポチだ」
この家で二人暮しだという。フォボスは、未来から来たのだと自己紹介した。
「へぇ。そうなのか。この辺りには人があまり住んでないから、お客さんが来るのは久しぶりなんだ」
三人で夕食。
「アロマ王国?ここら辺はアロマ地方と呼ばれているけど、王国はないよ」
「それにアンサーが王様だなんてなー。信じられないね」
アンサーとポチは首を傾げるばかりだ。
「そうだフォボス、スパナを持ってるってことは、機械工作とか得意?
実は、テレビが壊れちゃって・・・直してくれない?」
フォボスはテレビを修理することになった。全く映らなかったテレビは、突然映るようになった。
ノイズ交じりに映し出されたのは、ピンクの服を着たツインテールの女の子だった。
「このメッセージを聞いたら、どうかカンガリアンの王様に知らせてください。
わたしはコアラップ。囚われの身です」
カンガリアン王国のコアラップ王女が誘拐された!アンサーは自分たちだけで王女を助けに行こうと言い出した。
「でも、ここは素直にカンガリアンの王様に知らせた方がいいんじゃないのか?」
ポチはそう言うが、アンサーは聞かない。
「解った。明日、カンガリアンに向けて出発しよう」
また突然<青の風>が現れて、アンサーに話し掛けた。だが、アンサーは<青の風>を知らないらしい。
当然だ。今はまだ彼は<青の風>と知り合う前なのだから。
「アンサーくん、わたしのこと忘れちゃうなんてひどい!いいもん。フォボスくんと仲良くなるから!!」
なんだか解らないけどフォボスは<青の風>が使えるようになった。
次の日、意気揚揚と出発した。フォボスもついていくことに。
確かに、このアロマ地方は、国どころか町や村もない、寂しいところだ。
日が暮れる頃リビドーに到着。入り口で、チンピラの兄弟に絡まれたが、撃退した。
この時代にはまだバスはなく、馬車でカンガリアンに向かうことになる。
出発まで時間があるので、リビドーの町を回ることになった。そこにはまだ古代文明研究所があった。
展示品の中に、古代封印器がある!ピラミッドを4つ組み合わせたようなヘンな形をしている。
「キミのその格好・・・機械いじりが好きなのか?実は、この展示品は動かなくて困っているんだ。
だから、直して動かせたら、持っていってもいいよ」
研究員がそう言うので、フォボスは古代封印器を修理し、動かすことに成功する。
ついに古代封印器を手に入れた。
時間が来たので乗り場に行き、馬車に乗ろうとしたら、御者のオジサンに止められた。
「俺はイヌ族だけはどうも好きになれないんだ。悪いが、帰ってくれ」
「差別するなんて・・・。ポチは僕の大切な友達なんです!」
アンサーは必死で訴えたが御者は首を横に振る。そうだ、古代文明研究所に「古代馬」が展示してあったっけ。
それに乗ったら楽にカンガリアンまで行けそうだ。フォボスは直し、古代馬をゲットした。
古代馬を馬車乗り場に運び、乗ろうとしたら、あのチンピラ兄弟がやってきて、先に乗ってしまった。
古代馬は暴走し始めてしまった。このままではチンピラ兄弟が危ない!
ポチは古代馬の前に飛び出した。居合切りのように剣を振り、古代馬を壊して止めた。
「助けてくれてありがとう。あいつ等は俺の弟なんだ。イヌ族にもいい奴が居るんだな」
御者はお礼にと、アンサーたちに馬車を一台プレゼントしてくれた。馬車に乗り、カンガリアンを目指す。


 
262 :火星物語:2007/11/14(水) 17:28:00 ID:aaUPr/qP0
第十一話 アンサーの覚醒

カンガリアンへの道の半ばで、馬車を引いていた馬が逃げ出してしまった。
仕方が無いので徒歩でカンガリアンへ向かうことに。
しばらく街道沿いに進むと、大きなリンゴの木があった。三人はそこで休憩することにした。
ポチがリンゴを取ろうとすると、象の化け物が姿を現した。
「僕、聞いたことがある。こいつは『ナラハンヌ』っていう、固まる息を吐く化け物だ!」
三人は力を合わせ、ナラハンヌを撃退することに成功した。
ホッとしているアンサーの背後に、起き上がったナラハンヌが襲い掛かる。ポチがとっさにアンサーを庇った。
そして、ポチは固まる息をまともに浴び、黒く固まってしまった。
何が起こったのか解らぬまま、アンサーの目の前で涼やかな風が渦を巻き、ナラハンヌは再び倒れた。
悲しみに打ちひしがれるアンサー。リンゴの木の下に固まったポチを埋め、即席のお墓を建てた。
「この剣、借りるね」
ポチが愛用していた剣をアンサーは拾い上げた。
アンサーの前に<藍色の風>が姿を現した。
「初めまして、アンサーさん。わたしは<藍色の風>。あなたはやがて、多くの風の仲間になります。
でも、今はそのときではありません。またお会いできるときを楽しみにしています」
<藍色の風>は去っていった。
もしかしたら、現代のリビドーにいた鎧姿の人、あれはナラハンヌの息で固まった人なのかも?
そう思ったフォボスは、ブラボーの秘薬があればポチは助かるのでは?とアンサーに話した。
「そうか。そうだね。とりあえずカンガリアンに行って、それからブラボーに行く方法を探そう!」
カンガリアンに着いた。現代で旧市街と呼ばれているところが、この時代の市街地だ。
二人は怪しい薬屋を発見する。ブラボーの薬を売っているそうだ。店の中に入る。
「いらっしゃい、坊やたち。でも、遅かったアル。もう売る薬無いよ。これからブラボーに仕入れに行くアルね」
店員のお姉さんがそう言うので、それなら、自分たちもブラボーに連れて行ってくださいと頼み、一緒に行くことになった。
お姉さんと一緒に「登山ヤドカリ」に乗り込み、険しい山道を進んでいくと、ロマンシアの東端、ブラボーに着いた。
山の上に住んでいる仙人が、薬について詳しく知っているというので、会いに行く。
アンサーは仙人に、友達がナラハンヌにやられてしまい困っていると事情を話すと、仙人は薬を作ると行ってくれた。
仙人は大きな壺に次々と材料を投げ込んでいく。
「後は少しの間・・・六百年くらい寝かせれば完成ね」
仙人は長生きなので六百年も少しの間らしいが、アンサーにとっては長すぎる。
「僕はポチに生きて会いたい・・・」
フォボスは、現代に戻って完成した薬を取ってくると提案した。
「ありがとう、フォボス。よし、ここでお別れしよう。僕はあのリンゴの木のところで、君をずーっと待ってるよ。
一人でも大丈夫。ポチに心配かけないように、風たちに認められるように、強くならなくちゃ」
フォボスはうなずくと、現代に帰っていった。


 
263 :火星物語:2007/11/14(水) 17:28:29 ID:aaUPr/qP0
第十二話 ランディ登場

帰ってきてみると、そこは小さな部屋だった。セイラとタローボーがくつろいでいる。
ここは風の谷の人たちが作ってくれたという、フォボスの新しい家だ。
既にアロマの人たちは風の谷に移住してきているという。
フォボスは急いで長老のところへ行き、古代封印器を手に入れたことを話した。
「おお、フォボスよ、その封印器を、暗闇の中心に投げ入れるのじゃ!」
アロマに行き、風車小屋のところに行く。風車小屋の中心には、黒い風が渦巻いているように見える。
古代封印器を投げ入れると、黒い風は止んだ。
これなら、しばらくすればまたアロマに住めるようになるだろう。
風の谷に帰り、長老に報告したあと、セイラとタローボーに、アンサーとポチのことを説明する。
早速三人でブラボーに行くことになった。<藍色の風>でカンガリアンまでワープ。
そして、東の果てのブラボーには、「弾丸列車」というもので行くらしい。
列車が出る「リボルバー駅」は、旧市街にあるというので、エスカレーターに乗って旧市街に行く。
あの時と同じ、ブラボーの薬を売る店が同じ場所にあった。店の前に、どこかで見た顔がある。
黒い服の男。バスジャックしたテロリストだ。確かエマークとかいう名前だった。
エマークはいきなりセイラを殴って気絶させると、肩に担ぎ上げた。
「返して欲しかったら、王国ホテルのスイートルームに来い!」
そう言い残して去っていった。フォボスたちは、言われた通りホテルの最上階のスイートルームに来た。
すると、そこには元気そうなセイラが待っていた。エマークは悪い人じゃないとセイラは言う。
しばらくするとエマークがエレベーターに乗ってやってきた。
「手荒なまねをして悪かった。君達を我々の秘密基地へ案内しよう」
エレベーターに乗せられた。エレベーターはどんどん下り、とうとう一階よりも地下深くでやっと止まった。
そこには、シェイルと呼ばれていた、アービンのチップを取った女と、一緒にいた白い服の男が待っていた。
「ようこそ、ブラパン党の基地へ。私はリーダーのランディ。早速だが、君たちに協力をお願いしたい。
風使いの力を借りたいのだ」
フォボスたちが迷っていると、ランディはさらに言う。
「君たちは希望を持ってカンガリアンに来た。だが、カンガリアンは想像とはだいぶ違ってた。そうだね?
カンガリアンの現国王、キウィ64世は優秀な人物だ。とても彼がこの国を動かしているとは思えない。
きっと今の国王は偽物で、裏で糸を引いている黒幕がいるに違いない。黒幕はたぶん、ハーネス帝国だ。
最近、Aチップの使用頻度が激増している。Aチップはハーネス帝国からの輸入品だからな。
どうか、ハーネス帝国を倒すのに協力してくれ」
フォボスはうなずいた。
「そうか、ありがとう。作戦が決まり次第連絡する」
ブラボーに急ごうとするフォボス達に、エマークは「バトルカード」というものをくれた。
なんでも乗り物がタダで乗れるカードだという。
ブラパン党の基地を出て、リボルバー駅で弾丸列車に乗り、アッというまにブラボーに到着した。
仙人の家に行くとそこはもぬけの殻。仙人はとなりの山に移り住んだという。
険しい山道を登り、山の中腹に来ると、ブラボーに似つかわしくない巨大な洋館が立っていた。
突然<藍色の風>が現れて、言う。
「ここから、助けを求める声がします。恐らく、<赤の風>が捕まっています!」


 
264 :火星物語:2007/11/14(水) 17:29:56 ID:aaUPr/qP0
第十三話 <赤の風>救出作戦

フォボスたちは広い洋館の中を進んでいく。
某ゲームを思い起こさせる、窓をぶち破って飛び込んでくるゾンビ犬などを倒していく。
奥には、シルビーが待っていた。横には檻に入れられた<赤の風>がいた。
「あなたは、四百年前、クエスと一緒に行動していた人!助けてください!」
どうやら、彼女はクエスが使っていた<赤の風>と同じらしい。
余計な口を聞いたので、シルビーは怪しげな機械を操作し、<赤の風>に苦痛を与えた。
「かかっておいで!<藍色の風>の能力は調査済みだよ!」
シルビーはそんなことを言ったが<青の風>には弱かった。シルビーは倒れた。
「こ、こんな所でやられるわけには・・・わたしは、あのお方の、フーギ皇帝のために・・・」
シルビーは立ち上がって再びフォボスたちに襲い掛かろうとするが、突然警報が鳴り出した。
「シルビー様!ハーネス帝国本土で、大規模なテロが発生したとのことです!至急お戻りください!」
それを聞くと、シルビーは捨て台詞を吐いて去っていった。
フォボスは怪しげな装置を解体した。檻が壊れ、<赤の風>は自由の身になれた。
「ありがとう。改めて、これからよろしくね」
フォボスは<赤の風>と仲間になった。
そういえば、薬を忘れていた!仙人は山のさらに上のほうに住んでいるというので、山を登っていく。
すると、頂上に仙人がいた。
「おお、お前さんは六百年前とちっとも変わらんのう。ほれ、薬は出来ておるぞ」
小さな壺に入った薬を受け取った。
どうして仙人はこんな高いところに住んでいるのかと聞いてみた。
「わしは、ウィンダムを目指しておるのじゃ。ウィンダムとは、全ての謎の答えがあるという、空中城のことじゃ」
セイラの懐中時計が光りだした。
「そう・・・アンサーさんが呼んでいるのね。行ってあげて、フォボス」
セイラとタローボーはバトルカードでのんびり帰るという。フォボスは過去へと飛んだ。
そこは、リンゴの木の下の、ポチの墓の前。
「早かったね、フォボス!」
約束通り、アンサーが待っていた。あれから数日しかたってないという。
墓から掘り出したポチの体に薬をふりかけると、色が変わり、ポチは元に戻った。
アンサーに抱きつこうとするポチだが、アンサーは逃げる。
「どうして逃げるんだよ、アンサー。ここは感動して抱きつくところだろー?」
「だって、ポチの服、泥だらけなんだもん。いやだよ」
笑顔で追いかけっこをする二人を見つめるフォボスであった。


 
265 :火星物語:2007/11/14(水) 17:30:28 ID:aaUPr/qP0
第十四話 王女様を捜して

改めて、コアラップ王女様を捜すことになったアンサー、ポチ、フォボスの三人。
「ねぇ、フォボス、僕、またカンガリアンに行って情報を集めようと思うんだ。
<藍色の風>さん、助けて!」
アンサーはなんと、<藍色の風>を呼び出した。
「僕ね、あれから風さんとお話して、風さん達と仲良くなったんだ」
アンサーはフォボス同様に、<青の風>と<赤の風>も使えるようになったという。
驚いたフォボスは、現代の<藍色の風>を呼び出した。姿がそっくりの<藍色の風>が二人というなんとも奇妙な光景。
「こんにちは、私の私」
などと言って<藍色の風>同士で挨拶したりしている。
「私は風。私は風使いの心の中に吹きます」
<藍色の風>の言うことは解り難いが、要するに、
フォボスにはフォボスの、アンサーにはアンサーの風が呼び出せるという意味らしい。
ともかく<藍色の風>でカンガリアンに行く。酒場でカレー食べ放題がやっているというので、行ってみることに。
中に、ターバンを巻いて、黄色いチョッキを着た男がもくもくとカレーを食べていた。
この感じ・・・彼は風だ。
「ねえ、君、風さんでしょ?」
アンサーが男に話し掛けた。
「そうだよ。僕は<黄色の風>。カレーっておいしいよね。キミもそう思うだろ?」
「僕たちに力を貸してくれないかな?」
「ダメだよ。十万皿ぐらい食べないと」
十万皿・・・一年が六百八十七日と計算して、およそ三年くらいカレーを食べ続けるつもりらしい。
「わかったよ。じゃあ、食べ終わったらまた来るよ」
アンサーたちは<黄色の風>に無理強いはせず、酒場を出た。気をとりなおして、市役所で情報収集だ。
「コアラップ王女を捜索される方たちですね?王女を見つけられたら、
国王のキウィ2世からお褒めの言葉がいただけますよ。頑張ってくださいね」
市役所の人に励まされた。
次に、城壁付近にやってきた。道行く人に話を聞くと、怪しげな黒フードの集団を見かけたという。
さらに聞き込みを続けると、王女の手袋の片方がブラボーで発見されたという情報が。
<藍色の風>でブラボーに移動し、黒フードについて尋ねると、町外れの家でみかけたという人がいた。
該当の町外れの家で、黒フードの怪しげな男を発見。こいつらが王女を誘拐した犯人か?
「コアラップ王女を返せ!」
「さあね ここにはいないよ。もうラブリーに着いた頃かな。フッフッフ。
ハインバッハ博士の作戦は見事だな。偽の情報で王女を探索する者をおびき寄せ、倒す・・・」
黒フードの男と戦闘になり、ポチの華麗な剣さばきで倒す。
さあ、ラブリーに急ごう!


 
266 :火星物語:2007/11/14(水) 17:31:37 ID:aaUPr/qP0
第十五話 新しい時代

ラブリーはロマンシアの北東部にある町だ。
まず中央に位置するカンガリアンに戻り、そこから北東部へ続く街道を歩いていき、ラブリーに到着。
ラブリーはカラフルな敷石が目にまぶしい、メルヘンチックで美しい町だ。
王女や黒フードについて聞き込みをすると、どうやら町外れの一軒家が怪しい。
一軒家の中には、また黒フードの男が。
「貴様らには儀式の邪魔はさせない。今頃は王女も生け贄としてその身を捧げていることだろう・・・」
儀式?生け贄?と疑問に思ったが、男が襲い掛かってきたので倒す。
男の背後の床にはぽっかりと穴があいており、はしごが掛けてある。穴は深そうだ。
王女様はこの中に?穴を下っていくと、突然開けた空間に出た。
「すごい・・・火星の裏側まで続いていそうだ」
丈の高い原始的な植物が生えており、とっくに絶滅したと思われる恐竜が居る。
しばらく進んでいくと、アンサーが突然叫びだした。
「水だ!水で出来てる海だ!僕、初めて見たよ」
火星では、水は貴重品である。
「地下には水があるのか。うーん、何とかしてこの水を地上に持っていけないかな?」
アンサーが考えこんでいると、フォボスが風車で水を汲み上げるといいと助言した。
それよりも、この海を越えなければ、王女のもとへは辿り着けない。
フォボスは巨大植物の巨大な葉を集めて即席の船を造り、海に浮かべた。
「未来には水の海を往く船があるんだね」
船に乗りながらアンサーは感心している。
海を渡って向こう岸に下りると、気を失っているらしいコアラップ王女を抱えた老人の姿があった。
あいつがハインバッハ博士とかいう奴らしい。奥には祭壇らしきものがあり、巨大な白い岩があった。
「生贄を捧げよ、心を捧げよ!」
博士はナイフを取り出してコアラップ王女に斬りつけようとしたが、アンサーが体当たりを食らわせて博士を弾き飛ばした。
その博士を殴りつけるポチ。王女は目を覚ました。
「王女様、お怪我は?」
「大丈夫です。アンサーさん、礼を言います」
アンサーと王女はそのまま見詰め合ったまま動かない。
やれやれ・・・といった感じで、ポチが二人に帰るぞと声を掛けた。
縛り上げた博士を連れて、カンガリアンに戻る。
「おぬしら、よくやったぞ。何でも褒美を取らそう」
お城の大広間で、キウィ二世からお褒めの言葉を頂いている三人。アンサーは首を振る。
「そんな・・・何かがほしくて助けたわけではありません。・・・そうだ、一つ、いいですか?
王女様に、また会いに来てもいいですか?」
「わたくしからもお願いいたします。アンサー殿は、わたくしを命がけで助けてくれたのです」
コアラップ王女はそう言った。
「うむ。アンサーよ、コアラップを嫁にもらってくれぬか?さすれば、わしがアロマに土地を用意しよう」
キウィ二世は、アンサーと王女が好き合ってるのを見抜き、そんなことを言った。驚く一同。
「ところで・・・、こやつはどうしよう?」
縛られているハインバッハ博士をちらりと見る。そのとき、博士はもぞもぞと動き出した。
「生贄を・・・」
そう言うと、ハインバッハ博士を中心に黒い風が渦巻いた。
アロマの風車小屋で見たのと同じ奴だ。フォボスが古代封印器を投げつけると、風が止んだ。
ハインバッハ博士は気を失った。どうやら、博士は黒い風に操られていたらしい。
アロマの、アンサーの家に戻ってきた三人。家の前に、鎧姿の兵士が数人待っていた。
「お待ちしておりました、アロマ国王様」
そう呼ばれてアンサーは驚く。アンサーにアロマ国王になってほしい、というのがキウィ二世の願いだという。
「さあ、何から始めましょうか、国王様」
そう言われてアンサーは迷わず答えた。
「風車小屋を造ろう。きっとアロマの名所になるよ。地下の水を汲み上げるんだ」
そろそろフォボスが現代に帰る頃だ。帰り際に、アンサーの<藍色の風>が現れ、こう呟くのが聞こえた。
「フォボス、最後の風使いにして、全ての風を集めうる唯一の可能性。
わたしは、ここアロマの地で、あなただけを待ち続けましょう。そして、あなたの目覚めを導きましょう。
風が、人々が、自由に生きる未来を創るために・・・」


 
267 :火星物語:2007/11/14(水) 18:51:55 ID:aaUPr/qP0
第十六話 おばあさんの記憶

フォボスは現代に帰ってきた。風の谷にあるフォボスの家の居間で、セイラやアービンたちに、
ポチが助かったことなどを話す。付けっぱなしになっていたテレビからこんなニュースが流れた。
「次のニュースです。ソドム自治区では、ハーネス国との友好の証として、すべての住人にAチップの装着を義務付けました」
それを見てセイラはうつむく。
「ソドムはわたしの故郷なんです。おばあさん、大丈夫かな・・・」
フォボスとセイラ、そしてタローボーは、ソドムに行くことに決めた。
まずカンガリアンまで行き、そこから北方へ歩いていく。
四百年前とさほど変わらないと思われる、壁に囲まれた堅牢な石造りの町、ソドムに着いた。
「自由の門」と名付けられた、町の入り口をくぐり、セイラの生家へ。
そこには、おばあさんが一人で住んでいるようだ。と、そこでセイラの足が止まった。
「怖いんです。もしも、おばあさんが、わたしのことを覚えていないんじゃないかと思うと・・・。
フォボスさん、代わりにおばあさんに会ってくれませんか?」
セイラの願いを聞き入れ、フォボスはおばあさんに尋ねてみた。少女Yという女の子を知らないか、と。
「そんな女の子は知りません。Aチップの記憶容量にも限りがあるのですから」
Aチップの影響か、それとも本当に忘れてしまったのか、おばあさんは覚えてないと言った。
「参っちゃいますね。・・・いえ、いいんです。今まで帰らなかったわたしが悪いんです」
セイラは涙ぐむ。だが、気丈にも泣き出さない。せっかくソドムに来たんだからと、色々見て回ることに。
酒場の前に来た。ここは400年前、レジスタンスのアジトがあった場所だ。そこでエマークにバッタリ会った。
「なぜこんなところに?・・・安心しろ。我々はこの町を助けに来たんだ」
エマークは、市役所にランディが居るので会ってくれと言う。
市役所でランディに会った。
「ハーネス国のやり方は許せない。この町の人々のAチップを全て外す。明朝、作戦を開始する」
指定されたホテルで朝まで休む。目を覚ましてロビーに下りると、シェイルが待っていた。
「わたしが町の人のAチップを外していくから、キミ達は風の力で派手に戦ってほしいの」
いわゆる、陽動作戦だ。
言われたとおり、派手に戦い、ついにソドムの町の全ての住人からAチップは外された。
翌日、セイラの生家の裏手。セイラは勇気を出しておばあさんの前に出た。
「おばあさん、わたしよ。少女Yよ」
「そんな名前の子は知らないね。・・・あんたはもう立派な名前をもってるはずだよ。
さあ、名前を教えておくれ」
おばあさんがこう言うのを聞いて、セイラの顔に笑顔が戻った。その光景を見たフォボスとタローボーは、
そっと立ち去った。セイラはおばあさんの胸に飛び込む。
「わたし、セイラ。セイラっていうの!」
「お帰りセイラ、いい名前だね」
「おばあさん、もう心配しなくても大丈夫よ。わたし、ここにいる。どこへも行かない」
セイラはそう言ったが、おばあさんはセイラを優しく突き放した。
「セイラ、自分の道をお行き。それが大人になるってことだよ」
「・・・うん。わたし、フォボスさんと一緒に行く。でも、必ず帰ってくるから!」
自由の門を出るフォボスとタローボー。振り返って門を見上げる。そのとき、遠くから声が聞こえてきた。
「フォボスさーん!!」
駆け寄ってくるセイラの姿が見えた。


 
268 :火星物語:2007/11/14(水) 18:53:21 ID:aaUPr/qP0
第十七話 誓い

風の谷に帰ってきて、居間でくつろいでいるフォボスたちのもとに、サフィがやってきた。
来客があるので会ってほしいと言う。それは黒いスーツの男だった。
「フォボスくんですか。わたくしはカンガリアン王国大臣エミュウの使者としてきました。
現在、各地でハーネス帝国が不穏な動きを見せています。ソドムだけではありません。カンガリアンも狙われています」
そこでエミュウ大臣は、ハーネス皇帝フーギが恐れるという伝説の風使いを探して協力を求めることにしたのです。
一緒にカンガリアンまで来て頂けますか?」
フォボスはOKし、セイラとタローボーとともにカンガリアンに向かった。エスカレーターに乗り、旧市街の歴史資料館へ。
そこにはエミュウ大臣が待っていた。
エミュウ大臣は以前、広場で見かけたことのある人だった。
Aチップを刺されていて、言動がおかしいなーと思っていたおじさんだった。
「君達も知っているとおり、今の国王は偽物だ。そして、本物の国王のキウィ64世は、
止めるのも聞かずに、王宮に乗り込んで行ってしまった。どうか国王を助けてほしい」
エミュウ大臣がそう言うので引き受けることにした。帝国ホテルで一休み。
「最近、ホテルに泊まることが多いですね。でもわたしは、どこにいても、フォボスさんと、タローボーさんが一緒なら幸せです」
そうセイラは言った。
夜になってから、隠し通路を進む。その先は王宮内のクロゼットに繋がっていた。
王宮は広く、何故か調理場に着いてしまった。
そこには、カレーを作り続ける機械と、それを食べつづける男が・・・。
「やあ、フォボス君じゃないか。カレーはおいしいね♪」
それは<黄色の風>だった。
「よーし、十万と五皿食べて、お腹がいっぱいだ。食後の運動を兼ねて一緒に行動するから、よろしく」
やっと満足したのか、<黄色の風>が仲間になった。
しばらく進んで、やっと謁見室に着いた。
太っちょの体に金色の巻き毛、顔もそっくりで着ているものも同じという、そっくりの二人がにらみ合っていた。
双方とも、自分は本物だとアピールするが、見分けがつかない。
「そうはさせるか!」
一方がそう叫ぶと、いきなり服を脱いで上半身裸になった。
そこには桜吹雪の立派な彫り物が・・・。
「特別プログラム作動 全てを破壊する・・・」
もう一方は観念して本性をあらわした。それは、どんな人にでも変身できるアンドロイドだった。
アンドロイドを倒す。
「ありがとう、キミたち。そうか、フォボス君だったね。『アロマの風使いには最大の援助をせよ』か。
君は、カンガリアン王家にとって最大の恩人だ。さて、これからどうするかな・・・」
玉座に座った本物のキウィ64世。
「大丈夫だ。これからは我々ブラパン党が、影から国王を守る」
いきなりランディが現れた。キウィ64世とランディは昔からの知り合いらしく、親しげに話している。
「フォボス君。君には驚かされるよ。今後も協力を頼む」
ランディが帰るのと入れ違いに、兵士が飛び込んできた。
「た、大変です!ハーネス帝国がわが国に戦争を仕掛けてきました
王宮に向けミサイルを発射した、速やかに退去せよとのことです!」
「戦争か。そんなものは過去の出来事だと思っていたが、わしの時代に起きるとはな・・・」
逃げる王宮の人々。フォボスたちも国王と一緒に逃げた。
広場に着いて、空を見上げると、巨大なロケットが迫って来ているのが見えた。
いきなりタローボーがジェット噴射で飛び上がり、ロケットを受け止めた。ロケットはそのまま空中で爆発した。
「嘘・・・タローボー、死んじゃった・・・?」
セイラとフォボスは驚いている。
「彼に救われた人々のためにも、我々は幸せにならねばならん。
そして、人々の幸せのために、わしはハーネス帝国を倒す!」
そう宣言して、国王は去っていった。
しばらく呆然としていると、白衣のおじさんがやってきた。レノール博士とかいう、プラパン党の人だ。
「ロケットを受け止めたという、すごいロボットを作ったのは君かね?」
フォボスはうなずく。そこへ、何かが降ってきた。ロケットの残骸?いや、何かの赤い部品だ。
「ほほー。それは、そのロボットのコアじゃな?それがあれば、蘇らせることが出来るかも知れん。
フォボス君、手伝ってくれるね?」
ブラパン党の地下基地にある研究所で、レノール博士とフォボスは寝る間も惜しんで作業する。
そして、タローボーは復活した。手足が長くなっており、デザインもカッコ良くなっていた。


 
269 :火星物語:2007/11/14(水) 18:54:12 ID:aaUPr/qP0
第十八話 鋼鉄の樽

風の谷の、フォボスの家の居間で、いつものようにくつろいでいると、作業服姿の男が慌てた様子で飛び込んできた。
風の谷の工事現場で、クエスからの贈り物が掘り出されたというので、みんなは工事現場に集まった。
それは鋼鉄製の樽だった。表面にはこう彫られている。「親愛なるフォボスへ時を越えて贈る クエスより」
「クエス様ったら、タイムカプセルを作っていたなんて・・・でも、これどうやって開けるんですか?」
フォボスが樽を調べてみたら、鍵穴を見つけた。以前クエスから託された牢屋の鍵を使ってみるが、合わない。
そのときセイラの懐中時計が光りだした。
「どうやらこいつは、フォボスが会いたいと思ったときに光るみたいだな」
アービンがそんなことを言った。フォボスは過去へと飛ぶ。
間の悪いことに、またクエスの着替え中に来てしまった。早々に部屋を追い出される。
今は、クエスと初めて出会い、ソドムを開放した時から少し後らしい。
アショカの攻勢は日に日に激しくなっており、風使いの館に居た風使い達は、死ぬか、怪我がひどいので
他の場所に移されるかしており、戦力として動ける風使いはクエスとサスケのみになってしまったとのことだ。
「さっきも、こんなときにフォボスが居てくれれば・・・って思ってたところなんだよ」
自嘲気味ににサスケが言う。
「今のアショカのやり方は許せない。ボクたちは、風の谷を出る。そして、たぶん、もう帰らない。
アショカ本国に殴り込みだ。フォボス、一緒に来てくれないか?」
クエスは、命を賭してでもアショカを倒す覚悟らしい。フォボスはうなずいた。
「よし、そしたら、アロマの城と町をなんとかしなくちゃな」
クエスは、風の谷の長に、アロマの人々を風の谷に移住させるので、それが済んだら結界を張るよう指示した。
風の谷を出るとき、クエスは振り返った。
「しばらくここともお別れだから、目に焼き付けておきたいんだ」
南へ行き、アロマの城へ。クエスは大臣に言う。
「ボクは、アショカにやられた父の仇を討たなければならない。今日をもって、アロマ王家は消滅する。
アロマの民を風の谷に連れて行って、アロマ王家のことは忘れてくらしてほしい」
大臣は、クエスがもう帰らないつもりなのを悟ったらしく、何も言わずに従った。
「そうだ、風の谷の地図を残しておかなくちゃ。フォボスに渡すには、これしか方法がない」
宝箱の中に地図を入れ、城の奥に安置した。
アロマを後にし、ブラボーに向かう。ブラボーは、アショカに占領されていたが、占領軍を倒していく。
あとは司令官を倒すだけだ。そのとき、遠くからクエスを呼ぶ声が聞こえた。白い服の男たちがやってきた。
「おお、ブラパン党とかいう、クエスの追っかけじゃないの」
サスケがふざけて言う。ブラパン党員の協力で、司令官を倒すことに成功する。
夕暮れ時、ブラボーの人々とブラパン党員たちが手を取り合って喜んでいた。
そんな光景を眺めながら、サスケがため息をつく。
「いいねぇ。彼らには未来があって・・・」
「ボクらにも、自由な世界と言う大きな未来があるじゃないか。ここにいるフォボスがその証拠だ」
フォボスは頭を掻いた。


第十九話 アショカの脅威

クエスたちはリビドーを出発し、カンガリアンに着いた。
カンガリアンは今、アショカのサロメ総督という女が支配しており、王宮を追われた国王キウィ25世は、
街外れのエスカレーター建設現場に隠れているという。
サロメは王宮に立てこもり、外に出ようとはしないらしい。クエスはなんとか王宮に侵入して、
中から崩そうと提案した。
キウィ25世に会い、王宮内部に通じる隠し通路のありかを聞き出した。
通路を進み、王宮内に入る。クエスの目論見どおりにサロメを倒した。
謁見室に戻ったキウィ25世は嬉しそうだ。
「そなた達には本当に世話になった。聞けば、キウィ2世もアロマの風使いに救われたという。
そなた達の名は、救国の士として、キウィ家末代まで称えられようぞ」
キウィ25世の話は大仰で長い。クエス達は少々辟易した。



 
270 :火星物語:2007/11/14(水) 18:54:44 ID:aaUPr/qP0
第二十話 人間の尊厳

謁見室に伝令が入ってきた。
「申し上げます。リュート将軍が、こんな宣言を出しました。
『アショカに従わぬ者には死を これが新たなる我々の方針だ。まずは、ソドムの町を焼き払う』」
「ソドムか・・・最近、名前を取り戻したばかりなのに」
クエス達は早速ソドムに行く。まだアショカ軍は来ていないようだ。
デーモン議長に話を聞く。
「ソドムは、自由のために最後まで戦い抜きますぞ。このソドムは、守りやすく、攻めにくい町です。
守りを固めて、アショカがあきらめるのを待つつもりです」
そこへ兵士がやってきて、アショカ軍の使者が町の入り口に居ると言った。
クエスたちは使者と会った。それは、意外にも、若い女性だった。
彼女は、勇猛であることで知られるバサラ将軍の娘で、ラーラと名乗った。
バサラ将軍からの手紙を受け取って読む。
「勇敢なるクエス殿。もし、貴殿らが私と会談を持ちたいと思うなら、
明朝、ソドムの外のテントまで来られたし」
罠かと疑ったが、とりあえず行ってみることにした。
バサラ将軍は、部下の兵士も連れず、一人で待っていた。
「今のアショカに正義はない。私は、アショカと袂を分かとうと思う。
だが、アショカ軍とは戦いたくない。そこで、私はアショカの国境付近に陣取り、リュート将軍を牽制する」
クエスはそれはいいと賛成した。戦わずに戦争が終われば、そのほうがいいと。
「ば、ばかな・・・うおおおお!」
突然、バサラ将軍は苦しみだし、そして、恐ろしい魔獣へと姿を変えてしまった。
リュート将軍に、アショカを裏切ると、変貌してしまうという魔法をかけられていたらしい。
クエスたちは武器を構え、ある程度ダメージを与えると、バサラ将軍は人間の姿に戻った。
だが、まだ苦しんでいる。そこへ、ラーラが駆けつけてきた。
「ラーラよ、私はこのままでは、また魔獣になってしまう。だから、人間であるうちに、殺してくれ」
「でも、お父様・・・」
「私が死んだら、残存兵を集め、この人たちに協力しなさい。さあ、早く・・・!」
ラーラはナイフを取り出し、バサラ将軍の胸につき立てた。
「お父様はああ言いましたが、わたしはあなた方と協力する気はありません。
この戦争を終わらせるために、暴力も振るい、アショカの民とも戦います」
ラーラは目に涙を溜めながら言った。クエスたちはソドムへと引き返していく。
「早くこの戦争を終わらせないと。人が、人らしくあるうちに・・・」


 
271 :火星物語:2007/11/14(水) 18:55:50 ID:aaUPr/qP0
第二十一話 リュート反乱

「バサラ軍が引き返した以上、ソドムはもう安泰でしょう」
デーモン議長が言った。だがまだ安心は出来ない。法王とリュートがいるかぎり、アショカは戦いを止めないだろう。
「このまま一気にアショカ本国へ攻め込む。そして、法王とリュートを倒して、こんな戦いは終わらせるんだ」
決意も新たに、クエスが言う。
ロマンシアの北東、アショカ法国へ急ぐ。
町の入り口に、奇妙な人影があった。アショカ大攻勢の原動力となった、人型兵器、風機(ふうき)だ。
風機は合計十機造られ、そのうち数機は既に倒したということだ。
町の中に入る。ここはかつて、ラブリーと呼ばれていた町だ。カラフルだったな敷石は地味な色に替えられている。
町には活気というものがない。そして、町の人は貧しそうなのに、随分立派な教会が建っていたりする。
街外れに建っている王宮に入る。人気がない。法王の執務室と思われる部屋も、誰も居ない。
乱雑に置かれている書類を見る。アショカの戦力は、リュートの風機部隊以外ほとんど残ってないようだ。
そして、法王とリュートは地下に逃げたらしい。
王宮内を進んでいくと、広い牢屋があり、男が入れられていた。
オレンジ色で短く刈り込んだ髪に、ランニングに短パン。マッチョな男だ。
何かを感じ取ったサスケが男に話し掛けた。
「お前は風?」
「おお、そう言うお前は風使いか?ここから出してくれないか?もう百年近くここにいるからな。
そろそろ出たいんだ」
フォボスは鍵を見た。四桁のダイヤル式で、その下に「ごくろうさん」と書いてある。
四桁のダイヤルを「5963」に合わせてみると、ドアは開いた。
「助けてくれたんだ、お前らと一緒に行こう。俺は<オレンジの風>。よろしくな」
<オレンジの風>はそう言ったが、クエスはこういうタイプは苦手らしく、辞退した。
そして、フォボスは・・・。
「お前も風使いか。だが、匂いが違うな。同じ匂いになったら、一緒に行ってやるよ。
このへんで待ってるからよ」
フォボスを見て、<オレンジの風>は言った。どうやら、そのときはまだ来ていないようだ。
さらに奥に進み、地下室へ。そこには、アショカ法王が閉じ込められていた。
クエスたちが武器に手をかけると、法王は命乞いを始めた。
「わしは知らん。全てはリュートがやったことだ。たのむ、殺さんでくれ。命さえ助けてくれれば、和平に応じよう」
そのとき、法王の背後からリュートの部下が現れ、法王を切り伏せた。
「法王様、それではちと困ります。あなたはリュート様の操り人形でなければならないのです」
リュートの手下が襲い掛かってきたので、倒した。クエスが叫ぶ。
「狂ってる!なぜ分かり合おうとしないんだ。・・・だが、リュートがやったとして、
彼にそれだけの力があるとは思えない。何かに操られてるとしか・・・」


第二十二話 悪魔の機械 風機

各所に配置されている風機を倒しながら、先へ進む。
数人の人が吊り下げられている、奇妙な部屋を発見した。
「アショカ、万歳。リュート、万歳」
カタコトの言葉を話しながら、そいつらはこちらにやってくるので倒した。
この人たちは、たぶん、元は人間で、兵器へと改造されたに違いない。
風機の設計図が置かれた部屋も発見した。そこには「ヴィルド博士」と署名があった。 
「ヴィルド博士・・・確か、風機を造った博士じゃなかったか?」
あの改造された人間も、ヴィルド博士の仕業だろう。そして、それを更に発展させ、風機を造り出した・・・。
他のドアとは違うデザインのドアを開けると、壁一面を埋め尽くすコンソールの前に立っている老人の姿があった。
「ワシがヴィルドじゃ。ようこそ、ワシの研究所へ。どうだ?改造人間たちは?なかかな強かっただろう」
「許せない!人間を道具のように使うなんて!人間は、一人一人がかけがえのない存在なんだ。
だから、一人一人に名前がついていて、一人一人がそれぞれの幸せを・・・」
クエスが話しているのをヴィルド博士がさえぎった。
「それぞれの幸せだって?笑わせてくれる。どうやら、話し合う余地はなさそうだな」
ヴィルド博士はコンソールを操作し、クエスたちとの間にバリヤーを張った。
バリヤー発生装置を壊し、ヴィルド博士を倒す。
「フッフッフ。だがまだ終わりではない。リュート様に託した最後の作品がある。ワシが死んでも、作品は残る・・・」


 
272 :火星物語:2007/11/14(水) 18:57:26 ID:aaUPr/qP0
第二十三話 歴史が変わる日

ヴィルド博士は死んだ。あとは、リュートを倒すだけだ。
「フォボス、悪いが、サスケと二人きりにさせてくれ」
クエスはそう言って、サスケと一緒に、ヴィルド博士がいた部屋に閉じこもってしまった。
しばらく待った後、二人は顔を真っ赤にして出てきた。
「前に、鋼鉄の樽の話をしたな。それはボクの知り合いが埋めたものなんだ。鍵を渡しておくよ。そして、この絵本も」
クエスは絵本と鍵を差し出した。
「この絵本には、ボクとリュートは相打ちになったと書かれている。だが、ボクはそんなつもりは無い。
ボク達は必ず勝つ。今日は歴史が変わる日だ」
「そうだな。この絵本には、俺とクエスの名前は書かれているけど、フォボスのことは書いてないもんな」
アンサーの時代にもあった、地下の巨大な空洞まで降りて、さらに進んでいく。
今は橋が掛けられている、水で出来た海を渡る。コアラップ王女を助けた、祭壇のようなところに、リュート将軍はいた。
「ついにここまで来たか・・・」
「倒す前に、一つ聞きたい。お前はどうやってそんな強い力を手に入れた?」
クエスが尋ねると、リュートは笑った。
「教えてやろう。そこに、羽根がついた巨人の死体が見えるであろう」
ただの巨大な岩と思われたそれは、よく見ると、黒い羽根の天使のような姿が浮き出ていた。
まるで、岩に封じ込められているかのようだ。
「そこから、ある種のガスが出る。余はそのガスをシュヴァルツヴィント(黒い風)と呼んでいる。
それを吸った者の反応は二通りに別れる。
一つは余のように、力を手にする者。余は魔力が増大し、ヴィルドは知力が増大したらしい。
そしてもう一つは、自分の意思をなくし、己の意思を失い、従順なしもべになる者だ。
どうだ?王女クエスよ、シュヴァルツヴィントを吸ってみないか?そなたなら、さぞ強大な力を手にすることであろう。
余と共にロマンシアを支配しようではないか」
もちろんクエスは断った。リュートと戦い、そして勝つ。
「さすがは風使いといったところか。だが、全ては無意味だ」
リュートの姿は、巨大な風機に変貌していった。
ヴィルド博士がリュートに託したという、最後の作品、リュート専用風機だ。強かったがこれも何とか倒す。
「お前ら虫けらどもにやられるとは。だが、余もただ死ぬわけには行かぬ」
リュートは、背後の巨人が封じ込められた岩を掴んで、壊そうとする。
「地殻変動を起こし、この地下空洞を崩壊させる。シュヴァルツヴィントが地上に充満し、地獄と化すであろう」
リュートはついに動かなくなったが、空洞が崩壊し始めた。このままではヤバイ。
「サスケ、風の結界を張るぞ」
クエスはそう言った。シュヴァルツヴィントが出ないように、岩を封じようというのだ。
「でも、術をかけ終わったときは、俺たちはもう・・・」
サスケが言うとおり、地上には帰れない。ここで死ぬしか方法はない。
クエスは、フォボスの手に懐中時計を握らせた。
「<藍色の風>よ!」
クエスの呼びかけに応え、フォボスの<藍色の風>が姿を現した。
「ボクはキミを使う者ではない。でも、この願いを聞いてほしい。フォボスを安全な場所に運んでくれ。
彼が未来に帰れるように、そして、未来を彼が守れるように」
<藍色の風>はクエスの願いを聞き入れ、フォボスを運んでいった。
残されたクエスとサスケは、岩に術を掛ける。
「最後の最後まで、つき合わせてしまって、悪いな」
クエスはサスケに言った。
「じゃじゃ馬のお姫様に惚れちまったんだ、仕方ないさ。まあ、最期の瞬間に一緒に居れるだけでも良かったぜ」
「サスケ、ありがとう。ボクも、キミが・・・」
現代に帰ってきたフォボス。誰も居ない、フォボスの家の居間だった。目の前に懐中時計が置かれている。
見回すと、鋼鉄の樽があった。鍵を使い蓋を開くと、中には紙が一枚、入っているだけだった。
「親愛なるフォボスへ。今、リュートと戦う前に、これを書いている。
ボクたちは、フォボスの世界の歴史どおり、命を落とすことになるだろう。
だが、それでいいと思っている。リュートを、アショカを倒し、使命を果たすことが出来るのだから。
下手に歴史を変えようとすれば、逆にアショカをのさばらせることになるだろう。
だから、ボクたちは歴史の通りに行動するつもりだ。
最後に、本当にありがとう。キミが未来から来てくれたおかげで、ボク達がやってきたことは
無駄ではないと確信することができた。本当に、ありがとう。    クエス」
読み終わってふり向くと、いつの間に入ってきたのか、セイラたちの笑顔があった。


 
273 :火星物語:2007/11/14(水) 20:24:09 ID:aaUPr/qP0
第二十四話 ハーネス潜入

風の谷で、平穏な日々が過ぎていく。ある日、セイラが言った。
「もうすぐクリスマスですよね、フォボスさん。それで、記念にツリーの苗を植えようと思うんです。
みんなで一緒にクリスマスを過ごせる記念として」
この前、フォボスが帰ってきて以降、セイラは勤めて明るく振舞おうとしているようだ。
クエスを救えなかったことを気に病む、フォボスを励ますかのように。
モミの苗木をもらってきて、風の谷の北の外れの空き地に植えた。
「た、大変じゃ!ついに、この谷にハーネスが攻めてきたのじゃ!」
そこへアロマの長老が駆け込んできた。急いで風の門へ向かう。
そこには、若い男が一人、居るだけだった。男はハーネス帝国のラディス博士と名乗った。
「私は戦いに来たのではない。ハーネスから亡命してきたのだ。フーギ皇帝は、衛星『アスラ』を打ち上げ、
そこから発せられる電波で、Aチップを刺された人々をコントロールしようとしている。
確かにアスラやAチップをを作ったのは私だが、フーギ皇帝のやり方にはもうついていけない・・・」
ラディス博士は突然倒れてしまった。フォボスの家に運んで介抱することに。
なんと、元気だったアービンも昏倒してしまったので、運ばれてきた。
目を覚ましたラディス博士は言った。
「彼はAチップの被害者だったね。おそらく、その後遺症だろう。かくいう私の頭にもチップがあるのだ。
アスラはクリスマスイブの夜に打ち上げられる。頼む、アスラの打ち上げを止めてくれ」
ラディス博士とアービンのことをサフィに頼み、フォボスたちいつもの三人はハーネスへ向かう。
まずはカンガリアンに行き、ブラパン党のアジトへ。
ランディは部下を引き連れて、既にハーネスに向かったとのことだ。
カンガリアンから北東へ、雪道を歩いていく。夜になったころ、ハーネスに到着。
昔、ラブリーと、そしてアショカ法国と呼ばれたその町は、昔の面影がまったくない。
どこもかしこも機械化されている。かつて教会があったところに、巨大な時計等が建っている。
いきなり<黄色の風>が飛び出した。
「あれ?今、声が聞こえたよ?この声は、<オレンジの風>だ」
そういえば、待っていると言っていたっけ。だがひとまず、待ち合わせ場所に向かい、ランディと会った。
「この町に風が?確かに、協力が得られれば、有利になるな。よし、フォボスくん、九時半までに戻ってきてくれ」
フォボスたちは、<オレンジの風>を探すべく、町をうろうろする。闇夜に浮かぶ、ライトアップされた時計塔を見る。
「たぶん、<オレンジの風>はあの時計塔にいる!」
<黄色の風>がそう言った。時計塔を登っていき、頂上に着いた。
「さび~。さび~よ~。乳首立っちゃうよ~」
<オレンジの風>は、吹きさらしの壁面に磔にされており、エネルギーを搾り取られているところだった。
この寒空でランニング姿とは、やはり寒そうだ。フォボスは<オレンジの風>を解放した。
「助かった~。人間に捕まるなんて思いもしなかった。お、あんた、昔に会った風使いだな。
約束だ。一緒に行ってやる。俺の名は<オレンジの風>。これからもよろしく」


 
274 :火星物語:2007/11/14(水) 20:25:21 ID:aaUPr/qP0
第二十五話 聖夜

時計塔を降りたとき、ちょうど九時だった。鐘が九回鳴った。そして、時計塔の前に、フーギ皇帝の3D映像が映し出された。
黒くゆったりした服に、頭をすっぽり覆う鉄火面を被っている。映像の皇帝は演説を始めた。
「ついに、今夜午前零時に、全人類の希望、衛星アスラが打ち上げられる。新たな神が光臨するのだ!」
待ち合わせ場所に来たが、ランディはいなかった。トラブルがあって、すでにアスラの打ち上げドームに向かったとのことだ。
フォボスたちも急いで後を向かう。町の外へ出て、雪原を進んでいくと、ドームに着いた。
ドームの中に駆け込む。そこにはアスラは無く、がらんとしており、真ん中にランディが倒れている。
「そこまでだ、風使い!」
元気そうなラディス博士と、その横には手を縛られているアービンが現れた。
「ラディス博士の罠にかかってしまった。私の部下は全滅だ・・・」
ランディは言った。
「本物のアスラの打ち上げは一週間後ですよ」
ラディス博士は勝利を確信し、笑う。そのとき、隙をついてアービンが縄を解き、拳銃を取り出し博士に突きつけた。
「撃てるのか、私を」
アービンはわざと外して撃った。
「次は外さないからな。・・・逃げろ!フォボス」
ラディス博士はアービンから拳銃を奪い、フォボスを撃とうとした。それを庇うようにアービンが飛び出す。
「いやぁぁぁぁ!」
セイラの絶叫がドームに響く。アービンは撃たれて、倒れた。ラディス博士は逃げた。
アービンに駆け寄る一同。
「どっちみち、Aチップの後遺症で死ぬんだ。これで良かったんだ。
なぁ、フォボス、オレの最後の頼みを聞いてくれ。オレが死んだら、みんなで植えたあのモミの木の根元に埋めてくれ。
フォボス、今までありがとうな。みんな、楽しかったぜ・・・」


 
275 :火星物語:2007/11/14(水) 20:30:22 ID:aaUPr/qP0
第二十六話 秘境

風の谷の外れの空き地。モミの木の根元にあるアービンの墓の前に、フォボス、セイラ、タローボーがいた。
「アービンさん、わたしたち、今からもう一度アスラ衛星の打ち上げを止めに行きます」
カンガリアンの、ブラパン党の基地へ。レノール博士が心配そうな顔をしていた。
Aチップを元に博士が開発した、Mチップという最終兵器。それは、刺した者の魔力を百倍にするというものだ。
だが、Mチップはまだ未完成で、副作用があるかも知れないとのこと。ランディは、危険を承知でMチップを刺し、
部下を連れず単身、ラッキーに向かったとのことだ。
ラッキーは、秘境と呼ばれ、ロマンシアの南東部に広がるジャングルの中にある町だ。
フォボスたちはランディを追い、ラッキーへ。
町の人から、ランディに託されたという、ボイスレコーダーを受け取った。
「私はこれから、アスラ基地に向かう。キミ達もすぐに来てほしい」
ジャングルの奥深く分け入り、アスラ基地へ向かう。途中で、奇妙な女性に出会った。
ボロボロの緑の布を身体に巻きつけただけという、原始的な衣装で、足は裸足。
「む、お前たちは・・・。我が名は<緑の風>。自然と平和を愛する者だ。
我は戦いを好まない。戦いの道具として仲間になるのは遠慮したい」
フォボスは道具にはしないと約束する。
「いいだろう。よろしく頼むよ、フォボス」
<緑の風>は握手を求めてきたので、フォボスは手を握った。
アスラ基地は、円筒形をしており、古代人の遺跡を改造したものだった。
入ってすぐの所に、メモリーが置いてあったので、レコーダーで聞いた。
「私は地下に潜り、アスラを破壊する。キミたちは、屋上へ行き、太陽エネルギーの供給を止めてくれ」
らせん状の通路を登っていき、屋上へ。そこには、見覚えのある顔・・・シルビーが待っていた。
「貴様、どうやってここに・・・。まあいい。決着をつけてやる」
もちろん、フォボスたちが勝った。
「くっ、どうして勝てないのだ。だが、いい。今ごろはアスラのエネルギー供給は終1わっているだろう。
まもなく、フーギ皇帝様の、そして、全ハーネス国民の夢、アスラが上がる・・・あはははは!」
シルビーは笑いながら去っていった。フォボスたちは急いで地下に向かう。
地下では、ラディス博士とランディが対峙していた。
「たかがテロリストの分際で、アスラの打ち上げを阻止しようとするなど・・・!!」
ラディス博士がそう言うと、ランディは不敵な笑みを浮かべる。
「たかが科学者の分際で、皇帝を出し抜こうとするよりはマシだ。それに、私はたかがテロリストではない。
教えてやろう。私の名は『ランドルフ=レム=キウィ』。キウィ王家の血を引く者だ!
ブラパン党総帥として、貴様を抹殺する!!」
ラディス博士は、持っていたレイピアでガラスをぶち破り、飛び降りた。ランディも後を追う。
地下には、十数メートルもあろうかという巨大な球体、アスラがあった。アスラに乗り込むラディス博士。
入り口が閉じようとする所にギリギリランディも滑り込んだ。
少し後にフォボスたちも駆け込んできたが、アスラの入り口は閉まった後だ。
「待て!これ以上好きにはさせない」
振り向くと、シルビーが迫ってきていた。そこへ、警報が鳴り出す。
「アスラが打ち上げ体勢に入りました。基地内の隔壁を封鎖します」
シルビーの背後で隔壁が閉まった。これでは逃げられず、アスラに巻き込まれて死んでしまう。
突然、空中にフーギ皇帝の3D映像が浮かび上がり、シルビーに言った。
「新しいチップの調子はどうだ?ご苦労だったな、シルビー。お前の役目はもう終わりだ。
フフフ。アスラが上がり、最後の風使いも死ぬ。もう世界は私のものだ!!」
シルビーはフーギ皇帝に見捨てられたショックで呆然としている。
フォボスたちはシルビーに、一緒に逃げましょうと言うが、シルビーは断った。
だが、逃げるといってももうダメだ。そう思ったとき、<緑の風>が現れた。
「こんな所で最後の風使いを失うわけにはいかない。飛ぶぞ!」
<緑の風>はフォボスたちを、そしてシルビーを、基地の外へと飛ばした。
ゆっくりと空を上昇していくアスラを見上げる。
「わたしはこれからどうすればいいんだ・・・」
シルビーは呟いた。セイラは言う。
「それは自分で考えて、自分で決めることです。それが、人間です」
「そうだな。自分のことは自分で片をつけよう。ありがとう、世話になったな」
シルビーは去っていった。


 
276 :火星物語:2007/11/14(水) 20:31:02 ID:aaUPr/qP0
第二十七話 風のいない宇宙

フォボスたちは、とりあえずカンガリアンに戻り、ブラパン党の基地へ行った。
そして、ランディがアスラに乗って宇宙に行ってしまったことを伝えた。
それから、なんとかしてアスラを追えないものかと思案する。
ハーネスに行けばシャトル(宇宙船)があるかも知れないが、今行くのは危険すぎる。
「最近、ブラボーで、シャトルのようなものが発見されたという噂があるの」
ブラボーの鉱山に行ってみると、なるほど、それはシャトルだった。
乗り込んでみたが、さすがのフォボスでも動かし方がわからない。
「シャトルの操縦は任せてもらおう」
そこには、シルビーがいた。
「あれからいろいろ考えたんだ。まずは、お前たちのこれからを見届けようと決めた」
シルビーはコックピットに座り、操作する。エンジンを点火し、発進!
大気圏に突入する直前で、慌てた様子で<藍色の風>が言う。
「フォボス、よく聞いてください。私たちは火星の風です。宇宙空間には出られません!!」
無事大気圏を抜け、シャトルをアスラに向けた。だが、アスラはビームを撃って攻撃してきた。
「くっ、このままでは装甲が持たない!退くぞ」
とりあえず退却した。どうやってアスラに近づこうかと思案していると、シルビーが言った。
「巨大なエネルギー反応を感知。行ってみよう」
それは巨大なスペースコロニーだった。
「これは、全ての謎の答えがあるという、天空城ウィンダムじゃないか?」
天空城とは聞いていたが、まさか宇宙空間にあったとは。
ウィンダムでドッキングし、シルビーがシャトルを修理している間に、フォボスたちはウィンダムの中を見て回ることに。
宇宙服を着てシャトルを降りる。ウィンダムの中には誰も居ない。
博物館のようなところに、いろいろなものが展示されており、
触れると情報が直接脳に流れ込んでくるオブジェがたくさん置かれている。
古代人たちが、情報を後世に残すべく、作ったものだ。これこそが、「全ての答え」だ。
フォボスたちは答えを読み取っていく。
―水が少なく、赤い砂に覆われた惑星。その星は火星と名付けられた。
―今から一万年ほど前、火星に移住が始まった。
―我々は、七種類の、一種のエネルギーを発見した。それを風と呼ぶことにする。
―堕天使ルシフェルは、我々が移住するはるか昔から、火星に住んでいた。
―ルシフェルは<黒の風>という、一種のエネルギーを使う。<黒の風>は危険だ。
 ルシフェルを消去もしくは封印しなければならない。
―聖都エデンで、「ミカエル」という、対ルシフェルの最終兵器が完成した。
 七種類のエネルギー体の最強の一種を動力源として組み込んでいる。
 だが、ルシフェルは封印されたので、ミカエルは使われることがなかった。
―銀色の懐中時計は、瞬間移動装置だ。風の力が使える者が触れれば、過去の懐中時計へと移動することが出来る。
 また、自由に元の懐中時計へと戻ってこられる。だが、未来への移動は出来ない。
展示品の中に、「超重力爆弾」という使えそうなものがあったので、貰っておく。
一通り見て回ったので、シャトルに帰ってきた。
「アスラの攻撃に耐えられるように装甲を強化したし、自動操縦もセットした。文句無いだろ」
気を取り直して出発!と思ったが、エンジントラブルらしく、シャトルは動かない。
船外修理が必要だというので、宇宙服を着込み、シルビーは出て行った。
「ああ、これではダメだな。・・・っと、修理完了。う、うああああ!!」
「シルビーさぁん!!」
こんなことが前にもあった。あのとき、フーギ皇帝が言っていた「新しいチップ」。それは、
裏切った者を死に至らしめるものだったのだ・・・。シルビーの最後の言葉が聞こえてきた。
「あとは任せたぞ、フォボス」


 
277 :火星物語:2007/11/14(水) 20:31:33 ID:aaUPr/qP0
第二十八話 邪神の黄昏

シャトルは自動操縦で、アスラの元までやってきた。フォボスたちはアスラに乗り込む。
ドーム型の変わった形の牢屋に、誰かが入っているのが見えたので、ランディかと思い開けてみると、
それはラディス博士だった。
「こうなったのはみんなランディが悪いんだ。ランディは、キウィ王家の血を引く者だ。
奴は狂ってる。アスラを使って、世界を裏から操ろうとしている。どうか奴を止めてくれ」
フォボスたちは、ランディを捜し、ついに発見した。だが、ラディス博士の言うように、狂っている様子は無い。
「またラディスに騙されたのか。だが、疑うよりは騙されたほうがいいとも言うな。
Aチップを無効化する周波数を流すことに成功したが、私の魔力は完全に尽きてしまった・・・」
ランディは息も絶え絶え、苦しそうだ。
「ははは、馬鹿め」
金ピカの強化スーツに身を包んだラディス博士が現れた。
フォボスたちはラディスを倒す。
「たとえこの肉体が滅びようとも、アスラは不滅だ!」
最後の力を振り絞り、ビームサーベルを取り出し、フォボスに切りかかろうとしたが、
とっさにランディがフォボスを突き飛ばし、代わりに斬られた。
「どうやら、私にもヤキが回ったようだ。キミ達に頼みがある。これを、シェイルに渡してくれ」
それは、小さな赤い宝石のついた指輪だった。
「今度生まれ変わるときは、自由で平和な世界で・・・」
ランディは息を引き取った。フォボスたちは、アスラのコアに超重力爆弾を仕掛け、アスラを脱出する。
シャトルの背後でアスラは爆発した。シャトルは火星へと帰っていく。
「大気圏突入角度に問題があります!このままでは燃え尽きてしまいます!」
自動操縦装置がそう言ったが、フォボスたちにはどうすることも出来ない。
万事休すと思ったとき、シャトルを涼やかな風が取り巻いた。
「大気圏ということは、風もありますもんね。お帰りなさい、フォボス」
シャトルの側で、<藍色の風>が微笑んでいた。


 
278 :火星物語:2007/11/14(水) 20:32:12 ID:aaUPr/qP0
第二十九話 聖都エデン

シャトルはラッキーの側のジャングルに着地した。カンガリアンへ向かい、ブラパン党の基地へ行く。
シェイルに指輪を差し出す。
「そう、やっぱり、死んでしまったのね。大丈夫、もうあきらめてた。あきらめ・・・」
涙を堪えようとしていたが、やはり泣き出してしまった。しばらくして、泣き止んだシェイルは言った。
「フォボス君、キミは、彼女のこと、泣かせないのよ、絶対。
さて、これからは、わたしがブラパン党を引っ張っていかなくちゃ」
ブラパン党の基地を出て、東の方を見る。かつて聖都エデンがあったとされる、オリンポス山が見える。
オリンポス山は、標高二万五千メートル、斜面の傾斜角は七十度ほどで、山頂は平らになっている。
かつて、数々の登山家が山頂を目指したが、誰一人として登れなかったという、とても険しい山だ。
あの頂上に、ミカエルが眠っているのだ。何とかして登る方法はないかと思案する。
ダメ元で王様にお願いしてみようと、王宮に向かった。
「おお、フォボス君。久しぶりだな。何?オリンポス山に登りたい?
よし、カンガリアンの威信と、背中の桜吹雪にかけて、明日までには何とかしよう」
王様は約束してくれた。翌日、再び王宮へ。
「何とかなったぞ。リボルバー駅に向かってくれ」
リボルバー駅に行ってみると、なんだか駅全体が傾いていておかしな感じだ。
弾丸列車でちょうど山頂に着地出来るよう、徹夜で計算して、角度や射出速度を調整したのだという。
弾丸列車に乗り、アッという間にオリンポス山の頂上に着いた。
地下シェルターを発見したので降りていく。
そこには、白と紫色のツートンカラーのロボットのパーツが一式、置かれていた。
「ねぇ、タローボーさんにぴったりだと思いません?付け替えてみたらどうですか?」
セイラに言われたとおり、フォボスはバーツを付け替えた。タローボーの身長はフォボスより高くなり、
背中に白い羽根のようなものが付いている。見違えるようにカッコ良くなった。
次の部屋の中心には、謎の足型が描かれていた。フォボスやセイラが踏んでみても、何も起こらないが、
パーツを付け替えたタローボーの足の形にぴったり合った。
「ミカエルを確認しました」
えっ、あのパーツがミカエル?と思ったのも束の間、タローボーの上で風が渦を巻き、男性の姿が現れた。
長い金髪に、紫のスーツとマントを着け、いかにもナルシストといった感じだ。
ウィンダムの情報では、彼は最強の風らしい。
「初めまして、風使い。キミを待っていたよ。私は<紫の風>。これからよろしく」
フォボスはとうとう、七色の風と仲間になった。
ハーネスにワープすると、町は静まり返っていた。フーギ皇帝は、町の外にあるメギドの塔に行ってしまったとのことだ。
メギドの塔とは、四百年前に地殻変動が起こったときに、
地面が隆起して八本の塔のようなものが出来たところだそうだ。


 
279 :火星物語:2007/11/14(水) 20:33:16 ID:aaUPr/qP0
最終話 引き継がれる魂

メギドの塔。それは一本を中心に周りを七本の塔が囲んでいるところだ。
七本の塔の中を上り下りし、さらに横に渡された連絡通路をあみだくじのように進む。
七本の塔それぞれには、七色の風に対応した敵が待っていた。
風たちはそいつを、<黒の風>に歪められた自分の未来だと言った。
<藍色の風>は、黒いチュチュを着た「藍鳥の湖」に。
<青の風>は、黒いパジャマの「ひねくれ青」に。
<赤の風>は、ボディコンを着てセンスを持った「紅の女王」に。
<黄色の風>は、ターバンの変わりにアフロヘアになりファンキーな「クラブイエロー」に。
<オレンジの風>は、肌が浅黒くなり「オレンジ肉マン」に。
<緑の風>は、カエルの着ぐるみを着た「けろけろ緑」に。
<紫の風>は、パンツ一丁にマントを着けた変態に成り下がり「紫の男爵」に。
フォボスたちは、風の歪んだ未来を全員倒していく。
そして中央の塔に到達し、地下へと降りていく。堕天使が封じられている岩の前で、フーギ皇帝は待っていた。
「ここまで来たか、風使いよ。だがもう遅い。もうすぐ堕天使は復活する」
<黒の風>を駆使してフーギ皇帝は襲ってきたが、倒す。だが、彼の言うとおり遅かった。
岩が割れ、背中に羽根を生やした堕天使が降臨した。
体はリトル・グレイを想起させる、頭でっかちな体形だ。周りに黒い風が渦巻いている。
「我が名はルシフェル。はるか昔、神に反逆し、この星に流刑された。
だが、我は神に復讐すると誓った。我の息から、七色の風を生み出し、この火星に生物を創った。
さあ、風たちよ、今こそ昇華の時。我に帰り、<黒の風>となれ!」
ルシフェルが風を生み出した?衝撃の事実に呆然とする一同。そこへ<藍色の風>が現れた。
「フォボス、私たちは確かに、ルシフェルから生まれました。ルシフェルの言うとおり、七色の風を集めれば、
<黒の風>にもなりますが、<黒の風>を打ち消す<白の風>にもなります。
火星に生きる全ての者に、希望の風を吹かせるのです!」
タローボーはミカエルとしての役目を果たすべく、ルシフェルの前に進み出て、ルシフェルの力を押さえ込んだ。
「<白の風>を吹かせることができなければ、ルシフェルに勝てません。今は一旦、戻りましょう。
タローボーがルシフェルを押さえているうちに、<白の風>を吹かせるのです!」
フォボスとセイラは、<藍色の風>に運ばれ、風の谷に戻った。
 
280 :火星物語:2007/11/14(水) 20:37:22 ID:aaUPr/qP0
セイラの懐中時計が光っている。フォボスは過去へと飛んだ。
まずはアンサーの元へ。アンサーとポチが話しているところにやってきた。
「アンサー王子、いよいよ明日、王子誕生ですね」
「でも、僕が父親だなんて、照れるなぁ・・・あ、フォボスだね。よく聞いて。
人は、長い歴史を生きている。そして、誰かから誰かに引き継がれていくんだ。
僕が僕の息子に引き継ぐように。どんなことがあっても、歴史を途切れさせてはならない」
フォボスはうなずき、さらに時空を移動し、クエスの元へ。
「サスケ、本当にありがとう。ボクたちは、今日でおしまいだね」
どうやら、クエスとサスケが、ヴィルド博士の部屋に引っ込んだところに来たらしい。
「フォボスか。どうやって入ってきた?ん、待て。外のフォボスとは違うようだ。
お前、七つの風全てと仲間になったのか」
「フォボス、ボクたちは力足りずに、今日、死ぬ。だが、希望は捨てていない。
<白の風>は、純粋な希望とともに吹くという。希望を忘れるな」
クエスはサスケに駆け寄っていき、そして・・・。
現代に帰ったフォボスとセイラは、アービンの墓の前に来た。
「わたし、火星のために戦います。・・・アービンさんも見守ってくれてるみたい」
フォボスは風のクリスタルの前に行き、一心に祈りを捧げた。
フォボスの心の中で、今までの思い出が解き放たれて行く。最後には希望が残った。
七色の風が折り重なっていき、<白の風>になった。
そろそろタローボーの限界の時間だ。ルシフェルの元へと戻る。
フォボスが<白の風>を呼ぶと、ルシフェルの周りの黒い風は止んだ。
フォボスたちはついに、ルシフェルを倒した。
「私が生み出した風に、私が倒されるとは・・・。なぜなんだ・・・!」
絶叫と共に、ルシフェルの姿は消えた。
「帰りましょう、風の谷へ」

風は、心の中に熱く吹く。明日のために。
とりあえず、おわり。
ですが、風の物語は皆さんの心の中でずっと続いています。


 
最終更新:2020年02月23日 20:22