「Horizon Initiative」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

Horizon Initiative」(2016/04/15 (金) 02:15:22) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*Horizon Initiative ◆7.5A2XKHMQ 生と死の境界など、案外曖昧なものだ……少なくとも、この街では。 シルバーカラスはそう考えるようになっていている。 キャスターのサーヴァント。幽冥楼閣の亡霊少女、西行寺幽々子。 彼女は間違いなく『死』の側に立つ者だろう。 だが、彼女は確かにこの街に存在しているのだ。肉体を持たずとも。 そして幽々子によって命を奪われた者もまた、アーカムシティを彷徨っている。 「ナムアミダブツ」 その言葉は誰に向けられたものだったろうか? 彼もまた、死者だ。幽々子の言を借りるならば半死人か。 医者が匙を投げ、リー先生……死体蘇生者にも弄らせなかった身体は、確かにあの場で力尽きていた。 黙ってジゴクに行くだけ。その筈だった男が今もこうして二本の足で立って歩いている。 その意味を考える事を、シルバーカラスはしなかった。 彼らが為すべきは、幽々子の宝具たる妖怪桜・西行妖を展開するための陣地の確保だ。 使い魔となった死霊を各地に向かわせ、魔力の集中する地点はある程度特定できている。 しかし霊地として優れているならば良いと言う訳ではない。 聖杯戦争は各々の思惑が絡む大きなイクサだ。 霊地の確保に成功したとしても、その効果を発揮できなければ意味は無い。 周辺の状況を調査し、考慮した上で陣地の作成は行うべきだろう。 無論、イクサにおいては真の意味での安全地帯など存在しない。だからこそ、その環境に近づこうとする努力は怠るべきではない。 「そしてだ。その前にやるべきこともある」 シルバーカラスは虚無的に呟いた。 その生は既に終わっている。勝利に意味はない。だが、それで何もかもを捨て鉢に考えるようならば、シルバーカラスはシルバーカラスになってはいないのだ。 未知のイクサを前にして、彼のニューロンは研ぎ澄まされていた。 …… 小汚い店だった。 ふりの客を拒否していると言うよりも、最初から見捨てられたような場所だった。 一人だけの客は、冷め切ったコーヒー入りのカップに口づけし、顔をしかめた。 時刻を確認。既に店に入ってから小一時間が経過している。 「どうだ」 短い、ぶっきらぼうな声に返答するのは姿を消した彼のサーヴァントだ。 「視られてるわね。やっぱり」 「わかってるよ」 視られている。それはシルバーカラス自身も感じていたことだ。 己のニンジャ洞察力に疑問を覚えるほど落ちぶれたつもりはない。 だが、その観察者の正体、思惑までもを掴むことは出来ていないのも事実であった。 「感じねえのか。魔力だとかは」 「ないこともないけど、あいまいね」 「ハッキリしねェな」 「ハッキリしてる視線もあるけど」 ガサリ、という音。新聞で顔を隠した店主がチラチラとシルバーカラスの側を伺っていた。 「ふん」 シルバーカラスは薄汚れたテーブルにカネを置き、立ち上がる。 得体のしれぬブキミめいた視線。その観察者はシルバーカラスに接触する気はないらしい。 では暗殺を狙っているのか? 正面から挑むでもなく、自らの気配を消しきれていない事にも気付かぬようなサンシタがわざわざ狙ってきてくれた、というのは楽観的な考えだろう。 ならばこちらの情報だけを集めようと言うことか? 「撒かなきゃァダメか。面倒な」 時間を無駄にしたな。少しばかりの苛つきを覚えながら、シルバーカラスは店のドアに手をかけ、開けた。                     ▼  ▼  ▼ 広がる銀世界。 降り積もる雪は乾ききった砂漠にも似ている。 くすんだ、うらぶれた《イーストタウン》の光景は失われ、ただ雪原だけがシルバーカラスの目の前に存在していた。 サーヴァントとの繋がりは感じられる。だが応答はない。隔絶された空間か。 「……どうやら、ブッダ殿。つくづくアンタは俺をサンズ・リバーでない所に投げ入れるのがお好きなようだ」 「―――いいえ。ここにあなたを招いたのは、この私。歓迎しますわ、お客さま」 空間が歪む。あたかも鏡の中から抜け出すように、少女の姿が浮かび出る。 雪原の主たる夢魔はシルバーカラスの正面に立ち、幽雅にオジギした。 「……ドーモ。シルバーカラスです」 即座にアイサツを返したシルバーカラスのフードがニンジャ装束に変形し、メンポがその顔を覆った。 「何の用だ」 目の前の少女が何者であるのか、彼は問わなかった。 どのような存在であろうが関係はなかった。 ただひとつ……聖杯戦争に関わる者だということがわかっていれば。 少女は妖艶な笑みを浮かべる。 「それじゃあ、シンプルに行きましょうか―――貴方が欲しいのよ、私」 「ハッ」 「あら、真面目な話ですのに。貴方の力が欲しい、という事なら、聞いてくださる?」 「なんで俺だ」 「死者を絡繰るのは貴方達だけではない、ということ。私はそれが専門ではないけれど、探りを入れる程度ならできる。  そうして貴方を見つけた。本当なら、始末しても良かったのだけど―――」 ゆっくりと、シルバーカラスはカタナに向けて手を伸ばした。ゆっくりと。 「噂よ。貴方も少しくらいは知っているでしょう? いいえ―――内容はあまり関係ないわね。  重要なのはその情報に引き寄せられる者がいる、という事の方。今は、ね」 「簡潔に言え」 「協力しろとは言わないわ。ただ、噂を創りだして欲しいの。そうね。街を練り歩く辻斬り魔―――殺人鬼というのはどうかしら。  簡単でしょう? だって、貴方は―――」 「アー、いや、もういい」 シルバーカラスは少女へと歩み寄る。 「ひとつ聞きたい」 「―――何?」 「タバコ無いか。『少し明るい海』」 言葉と同時に、鈍色のニンジャが飛んだ。正面に向かって。 「無いよな」 「っ―――!」 振り抜かれたカタナが少女の身体を襲う。 だが届いてはいない。展開された半透明の防壁が、かろうじてその刃を防いでいた。 「ビジネスはもうやめたんだよ。生憎な」 「―――いいわ。まずは躾をしてあげる……!」 高姿勢な言葉とは裏腹に、少女の表情には焦りが滲んでいる。 相手に余裕を与えることなく、シルバーカラスは再び斬撃を繰り出す。 「イヤーッ!」 「く……!?」 防壁に亀裂が入る――クラッシュ。鏡が割れ、散乱する。 「……」 手応えはない。否、少女の姿すらも、雪原から消え去っている。 引き換えに現れたのは、別のカタチをした影である。 「――ふふ」 裂けたマント。片手には道化面。 赤紫のアーマーを身に纏う少女――サーヴァント。 シルバーカラスは警戒を強める。同時に、自らの身体に刻まれたマスターの証……令呪へと意識を向けた。 しかし、その必要はないようだった。 虚空をしばし見つめたサーヴァントは、おもむろに口を開く。 「そろそろ出てきたらどうだい?」 「あら、お客様?」 飄々と答える声の主は、確認するまでもない。 「お客様はそっち。ここって、ファントム・ゾーンほどじゃなくても、簡単には来れない場所だと思ってたんだけど」 「生きたまま冥界に花見に来る人間もいる。ましてや、ここはあの世ではない」 「まあ、呼んでない人達だってけっこう来てたみたいだしね。メイドさんとか、ヘンなネコとか」 「変わり者もいるものねえ。好き好んでこんな所に来るなんて」 少女の会話にサツバツとしたアトモスフィアはない。 彼女達は知っているからだ。それがなくとも、命のやり取りなどいつでも起こりうるものなのだ、と。 「殺風景で、全然華やかさがないもの。騒がしい三姉妹でも呼んだらどうかしら」 「あの三人を呼んでもうるさいだけだと思うけど」 「それは、多分霊違い」 「どっちにしても、多分この街にはいないんじゃないかなあ」 妖精、亡霊、吸血鬼。 伝承に語られる魔物、人ならざる者が生きる世界こそが、彼女達がかつて在った場所である。 幻想世界の少女――キャスターのサーヴァントは、互いの姿を凝視する。 「さてと」 「それじゃあ」 「――主共々負け猫になりなさいな、二重の歩く者」 「――ばたんきゅーにしてあげるよ、レイスのおねーさん」 二者の魔力が増大する。 己の内のニンジャ直感に従い、即座に後方へとシルバーカラスが跳躍した、その瞬間。 弾幕と魔導の戦いは、始まっていた。                     ▼  ▼  ▼ 視界が変色する。 弾幕は生者必滅の理となり、華奢な躰へと迫ってゆく。 花吹雪の如き重砲火に飲み込まれる寸前、 「――リバイア」 魔導師は、攻撃を反射する事で対処した。 あらぬ方向へとねじ曲がり、地平線の彼方へと去りゆく弾幕をよそに魔導師は詠唱を続ける。 魔導の効力は持って数秒。 が、それだけの時間を稼げたならば威力は十分――――! 「アアアア――アイスストーム!」 呼吸と共に唱えられる、威力を増幅させた魔導。 爆風と化した雪嵐は弾幕を薙ぎ払い、氷柱が頸動脈を狙い撃つ。 然れど西行寺幽々子とて英霊の身。 直撃すれば大打撃となる一撃なれど、ごく単純な軌道を描く単発射撃などその身を動かすまでもない――――! 「こんなものかしら」 放たれる大玉。 自らの背丈ほどもある巨大な紫色は、氷柱を巻き込みながら消える。 「ライトニング――!」 間髪入れず放射される一条の雷電。 「はいはい」 一瞬の間を置いて照射されるレーザーが雷を掻き消す――相殺。 「――じゃ、続けましょうか」 放出される紅の楔。 「ちぇ、手がたわなかったみたい。――どんえーん」 防御壁が展開される。 ――対決は、魔導師の不利に傾いていた。 回避運動を取りながらの攻撃は亡霊に届かず、さりとて処理を怠れば押し潰されるは必定。 弾幕は、ジレンマに呻吟する時間も与えぬと言わんばかりに迫り来る。 「アハハハ――」 それでもなお、魔導師は内面の読めぬ笑い声を漏らす。 時に壁を作り出し、時に上空へと転移する。 僅かな間隙を縫って、掌より生じる火球を放つ。 発火点はしかし、相手の砲撃を作動させる催促に過ぎず――。                     ▼  ▼  ▼ ――キャスターのマスターは、従者の戦いに介入しようとはしなかった。 戦場から距離をとったシルバーカラスはカタナを収めぬまま呼吸を整える。 彼の狙いはひとつである。 ニンジャ装束のステルス機構はあえて作動させていない。 カタナへと変化させる。己自身を。 その時が来た瞬間、最大限のワザマエを振るうことができるように。 『ふん―――可愛げのないこと』 見澄ますのは姿を隠した白の少女。 全力を出せぬ今の状況であっても、戦闘者としての彼女はシルバーカラスの狙いを悟っている。 一撃必殺の後の先。 迂闊に手を出そうものなら、地に伏しているのはこちらになっているだろう。 『いいわ。せいぜい気を張っていなさいな』 既に淘汰の時期は終わった。 簡単に駒を手に入れられるとは最初から思っていないし、この主従が一筋縄ではいかない相手だと言う事も確認した。 適当なところで戦いを切り上げる算段はついている。 夢魔は意識をサーヴァントの戦いへと向ける。 『―――キャスターも案外やるものね。あの物量、凌ぐだけでも結構な骨なのに。  とはいえ―――やっぱり魔術以外はからっきし、か。単純な肉体強化程度なら可能みたいだけど、近接戦闘を挑めるようなものじゃない。  出来る事が多いのは結構だけど……見立て通り、直接対決なら三騎士相手じゃどうしようもないか。  ―――はあ。自分のマスターにさえその力量を正確に測らせない、なんて。面倒にもほどがあるわ。  ……ああ、そういえば。キャスターに一方的にやられるなんて、あのアサシン、どれだけだらしないサーヴァントだったのかしら。ま、別にいいけど』 彼女にとっては、今回の一戦はキャスターの実戦での力を見る機会でもあった。 ――サーヴァント同士の戦闘。 間近に英霊の攻防を目の当たりにしながらも、彼女の表情に驚愕の色はない。 二十七祖の一柱を担うタタリの残滓。 真祖の使い魔にして数百年の齢を重ねた夢魔の写身。 第五の魔法使いによって生み出されたこの身を慄かせようというのなら、窮極の一が必要と心得よ――。 『―――そうね、折角の機会だし。見せてもらいましょうか、亡霊さん?』 ――彼女は、未だ。 此度の聖杯戦争の本質に到達していない。                     ▼  ▼  ▼ 「フレイム・トルネード……!」 炎の渦が桜花を散らす。 浮かぶ亡霊へと迫る魔力は当然のように相殺され、弾幕が魔導師に返却される。 「つぅ――ガイアヒーリング!」 不敵な笑みを浮かべたまま、徐々にその身は削られる。 外見の傷を癒やす事は出来ても、身体を構成する魔力自体が失われてゆくのは避けられない。 「頑張るわねえ」 慈悲はない。 展開されるクナイ型の弾幕は、逃げ場を潰す為の副砲である。 「それじゃ、これで――」 狙いを付けて放たれるは本線たるレーザー。 発射される直前。僅かに見える光筋は、最早逃れる事は叶わぬ事を示している。 ――その『予告』こそが。 魔導師が待っていた瞬間だった。 「ヴォイドホール――!」 掲げられる両腕。 しかし遅い。 唱えられた言葉に如何な魔力があろうとも、数瞬後にはレーザーがその身を焼いている。 ――光線が、到達する事があるのなら。 「――あら?」 放たれるべき光は動作せず、 穿たれるべき体に孔はない。 異常はそれに留まらず。空隙に捕らわれたように、全ての弾が空中で静止していた。 「――――」 停止した弾幕を潜り抜ける。 初めて危険を認識した亡霊が後退しようとした、その寸前。 「ジュゲム」 言葉と共に、爆発が周囲を覆った。 莫大な気を発し、相手に叩き付ける攻撃呪文――その爆風は確かに、亡霊に届いていた。 「――危なかったわー」 だが足りない。 西行寺幽々子はぽかんと口を開けたまま、暢気な姿を保っている。 ――千年を越える時を過ごし、閻魔より冥界の永住を許された、永久に供養できぬ亡霊。 たとえサーヴァントとして此世に現界した彼女であろうとも、一度きりの爆風《ボム》でその身を消し去る事など不可能である。 「まあ、結構時間も経ってるし。そろそろ終わりにしましょうか」 告げる華胥の亡霊。 彼女の『死を操る程度の能力』の一端が開放される。 ――そうして。 その真名を、宣言した。 「いきなさい。――――『反魂蝶』」                     ▼  ▼  ▼ 『あ―――』 夢魔は、それを直視する。 具現化された死のカタチ。 畏れよ。 畏れよ。 畏れよ。 ここに至りて神は人に等しく、人は禽獣蟲魚に堕しからむ。 常世の国より来たりし姫は、生を奪いて死を齎さむ。 『あ―――あ』 融ける壁。解ける意味。説ける自己。可変透過率の滑らかさ。乱交する時間。観測生命と実行機能。小指のない手。頭のない目。走っていく絨毯。 八重霧の渡し。ギルティ・オワ・ノットギルティ。真理の扉。刀剣は絢爛舞踏へ。死忍。殺戮にいたる病。金色の破壊神。金色の魔王。 祝福。祝祭。同化。天体は死と新生を迎える。フォーマルハウト。俯瞰するクォーク。すべて否定。螺鈿細工をして無形、屍庫から発達してエンブリオ、そのありえざる法則に呪いこそ祝いを。 『―――嫌』 幻視する。 ひとつのユメを終わらせた、七つ夜の殺人貴を。 『オレもアンタも不確かな水月だ。  もとより存在しないもの。夏の雪に千切れて消えるのが、互いに幸福なんだろうさ―――』 「――――――――、あ。  ああ、あ、ああああああああああああああああああ……!!」 ――咎重き 桜の花の 黄泉の国 生きては見えず 死しても見れず                     ▼  ▼  ▼ 声にならぬ叫び。 狂気と恐慌の狭間に落とされた少女が姿を現し、シルバーカラスへと襲いかかる。 アンブッシュですらない、工夫なきブザマな攻撃を見逃すシルバーカラスではなかった。 「イヤーッ!」 ……一撃で勝敗は決した。 少女の首は胴体から離れ、シルバーカラスのすぐそばへと落ちた。 雪原が血に染まると同時に、くすんだ街並……元のアーカムシティの景観を取り戻してゆく。 戦いとも呼べぬ戦いが終わり、シルバーカラスの姿はイーストタウンにあった。 「……」 シルバーカラスは戦闘態勢を崩さない。 幽々子と敵サーヴァントの気配が消えている。 警戒を続けながら、念話を試みようとしたシルバーカラスは、急激に地面へとへたり込んだ。 「ゴホッ……ああ畜生、こんな時にか」 シルバーカラスは咳き込んだ後、口を拭った。 拭った手は赤色になっていた。 彼は苦笑いした後、もう一度、むせた。 その時である! 「グワーッ!?」 唐突な背後からの強襲! 後頭部に噛み付きをかけるその下手人は……動くことのないはずの生首! しかもその生首は少女のものではない! ギリシャ像めいた白髮の男のそれへと形を変えた首がシルバーカラスを襲う! 「イヤーッ!」 ニンジャ感覚を駆使し攻撃の正体を掴んだシルバーカラスは大きくジャンプ。 首を引き剥がした後に空中で姿勢を反転し、スリケンを連続投擲……全て命中! 「無念っ!」 爆発四散! そして、シルバーカラスが地面に着地したと同時に……彼は、現実の架空都市で目を覚ました。 …… 「一杯食わされたわねえ」 仰向けに倒れたシルバーカラスを覗き込む、気楽な幽々子の声。 「奴らはどうした」 「どーにか、こーにか」 「逃げられたんなら、そう言えよ」 シルバーカラスは自らの手を眺めた。赤くはない。少なくとも、今は。 大きく息を吐き、立ち上がる。 「休まなくていいの?」 「場所取りは早い方がいいんだろ。花見の」 できるといいけど。他人事のように、幽々子が言う。 全く同じ調子のまま、彼女は続けた。 「夢の中だったら、煙草もあったんじゃないかしら」 「夢は叶わないもんなんだよ」                     ▼  ▼  ▼ 「イリュージョン効果切れ。でもここまで来れば大丈夫、かな」 存在さえ不確かなドッペルゲンガーが、白猫を抱えて街を駆け。 自ら動くことを放棄した夢魔は、ただ、震える。 『何よ―――何よ何よ何よ、何なのアレは――――!』 「宝具じゃない?」 『貴女は黙ってなさい……!』 純粋にしてシンプルな『死』の行使。 理解してはならぬモノで構成された反魂の蝶に、夢魔は真夏の幻影を視た。 『冗談じゃない―――あんなモノ、どうやって―――』 「まあ、次からは気をつけようよ」 『っ……他人事みたいに言うものね、キャスター』 「他人事だよ。ボクとマスターは、違うから。どうやったって、何を知っていたって、同じにはなれない。  マスターが感じてることは、自分でどうにかしなくっちゃ」 『―――そんなの、貴女に言われなくたってわかってる。  ええ―――今回はこっちの負けよ。次があるのなら―――』 勝つ、と。宣言する事は、今の彼女には出来なかった。 ――夜が明ける。 陽の光を浴びてなお。幻影を払拭するには、いま暫くの時間が必要なようだった。 【イーストタウン・路地裏/1日目 早朝】 【シルバーカラス@ニンジャスレイヤー】 [状態]やや疲労 [精神]正常 [令呪]残り3画 [装備]「ウバステ」 [道具]不明 [所持金]余裕はある [思考・状況] 基本行動方針:イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。 1.陣地構築のため、候補となる地点へ向かう。 【キャスター(西行寺幽々子)@東方Project】 [状態]健康、戦闘分の魔力を消費 [精神]正常 [装備]なし [道具]扇 [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:シルバーカラスに付き合う。 1.妖怪桜を植える場所へ。 [備考] ※各地に使い魔の死霊を放っています。 【白レン@MELTY BLOOD Actress Again】 [状態]へろへろだ [精神]ばたんきゅー寸前 [令呪]残りみっつ [装備]なし [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:虚脱してる、からだが動かない [備考] 固有結界は、魔力があるなら勝手に出入りできるみたい。マスターだけ閉じ込めるのは難しいかも。 【キャスター(ドッペルゲンガーアルル)@ぽけっとぷよぷよ~ん】 [状態]魔導力減ってきた [精神]うん、がんばる [装備]装甲魔導スーツ [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従う。 1.いったん休まなきゃ、すぐやられちゃうよ。 |BACK||NEXT| |007:[[接触]]|投下順|009:[[アーカム喰種[JAM] ]]| |007:[[接触]]|時系列順|011:[[Answer And Answer]]| |OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|[[シルバーカラス]]&キャスター([[西行寺幽々子]])|017:[[それぞれのブランチ]]| |~|[[白レン]]&キャスター([[アルル・ナジャ(ドッペルゲンガーアルル)]])|~|
*Horizon Initiative ◆7.5A2XKHMQ 生と死の境界など、案外曖昧なものだ……少なくとも、この街では。 シルバーカラスはそう考えるようになっていている。 キャスターのサーヴァント。幽冥楼閣の亡霊少女、西行寺幽々子。 彼女は間違いなく『死』の側に立つ者だろう。 だが、彼女は確かにこの街に存在しているのだ。肉体を持たずとも。 そして幽々子によって命を奪われた者もまた、アーカムシティを彷徨っている。 「ナムアミダブツ」 その言葉は誰に向けられたものだったろうか? 彼もまた、死者だ。幽々子の言を借りるならば半死人か。 医者が匙を投げ、リー先生……死体蘇生者にも弄らせなかった身体は、確かにあの場で力尽きていた。 黙ってジゴクに行くだけ。その筈だった男が今もこうして二本の足で立って歩いている。 その意味を考える事を、シルバーカラスはしなかった。 彼らが為すべきは、幽々子の宝具たる妖怪桜・西行妖を展開するための陣地の確保だ。 使い魔となった死霊を各地に向かわせ、魔力の集中する地点はある程度特定できている。 しかし霊地として優れているならば良いと言う訳ではない。 聖杯戦争は各々の思惑が絡む大きなイクサだ。 霊地の確保に成功したとしても、その効果を発揮できなければ意味は無い。 周辺の状況を調査し、考慮した上で陣地の作成は行うべきだろう。 無論、イクサにおいては真の意味での安全地帯など存在しない。だからこそ、その環境に近づこうとする努力は怠るべきではない。 「そしてだ。その前にやるべきこともある」 シルバーカラスは虚無的に呟いた。 その生は既に終わっている。勝利に意味はない。だが、それで何もかもを捨て鉢に考えるようならば、シルバーカラスはシルバーカラスになってはいないのだ。 未知のイクサを前にして、彼のニューロンは研ぎ澄まされていた。 …… 小汚い店だった。 ふりの客を拒否していると言うよりも、最初から見捨てられたような場所だった。 一人だけの客は、冷め切ったコーヒー入りのカップに口づけし、顔をしかめた。 時刻を確認。既に店に入ってから小一時間が経過している。 「どうだ」 短い、ぶっきらぼうな声に返答するのは姿を消した彼のサーヴァントだ。 「視られてるわね。やっぱり」 「わかってるよ」 視られている。それはシルバーカラス自身も感じていたことだ。 己のニンジャ洞察力に疑問を覚えるほど落ちぶれたつもりはない。 だが、その観察者の正体、思惑までもを掴むことは出来ていないのも事実であった。 「感じねえのか。魔力だとかは」 「ないこともないけど、あいまいね」 「ハッキリしねェな」 「ハッキリしてる視線もあるけど」 ガサリ、という音。新聞で顔を隠した店主がチラチラとシルバーカラスの側を伺っていた。 「ふん」 シルバーカラスは薄汚れたテーブルにカネを置き、立ち上がる。 得体のしれぬブキミめいた視線。その観察者はシルバーカラスに接触する気はないらしい。 では暗殺を狙っているのか? 正面から挑むでもなく、自らの気配を消しきれていない事にも気付かぬようなサンシタがわざわざ狙ってきてくれた、というのは楽観的な考えだろう。 ならばこちらの情報だけを集めようと言うことか? 「撒かなきゃァダメか。面倒な」 時間を無駄にしたな。少しばかりの苛つきを覚えながら、シルバーカラスは店のドアに手をかけ、開けた。                     ▼  ▼  ▼ 広がる銀世界。 降り積もる雪は乾ききった砂漠にも似ている。 くすんだ、うらぶれた《イーストタウン》の光景は失われ、ただ雪原だけがシルバーカラスの目の前に存在していた。 サーヴァントとの繋がりは感じられる。だが応答はない。隔絶された空間か。 「……どうやら、ブッダ殿。つくづくアンタは俺をサンズ・リバーでない所に投げ入れるのがお好きなようだ」 「―――いいえ。ここにあなたを招いたのは、この私。歓迎しますわ、お客さま」 空間が歪む。あたかも鏡の中から抜け出すように、少女の姿が浮かび出る。 雪原の主たる夢魔はシルバーカラスの正面に立ち、幽雅にオジギした。 「……ドーモ。シルバーカラスです」 即座にアイサツを返したシルバーカラスのフードがニンジャ装束に変形し、メンポがその顔を覆った。 「何の用だ」 目の前の少女が何者であるのか、彼は問わなかった。 どのような存在であろうが関係はなかった。 ただひとつ……聖杯戦争に関わる者だということがわかっていれば。 少女は妖艶な笑みを浮かべる。 「それじゃあ、シンプルに行きましょうか―――貴方が欲しいのよ、私」 「ハッ」 「あら、真面目な話ですのに。貴方の力が欲しい、という事なら、聞いてくださる?」 「なんで俺だ」 「死者を絡繰るのは貴方達だけではない、ということ。私はそれが専門ではないけれど、探りを入れる程度ならできる。  そうして貴方を見つけた。本当なら、始末しても良かったのだけど―――」 ゆっくりと、シルバーカラスはカタナに向けて手を伸ばした。ゆっくりと。 「噂よ。貴方も少しくらいは知っているでしょう? いいえ―――内容はあまり関係ないわね。  重要なのはその情報に引き寄せられる者がいる、という事の方。今は、ね」 「簡潔に言え」 「協力しろとは言わないわ。ただ、噂を創りだして欲しいの。そうね。街を練り歩く辻斬り魔―――殺人鬼というのはどうかしら。  簡単でしょう? だって、貴方は―――」 「アー、いや、もういい」 シルバーカラスは少女へと歩み寄る。 「ひとつ聞きたい」 「―――何?」 「タバコ無いか。『少し明るい海』」 言葉と同時に、鈍色のニンジャが飛んだ。正面に向かって。 「無いよな」 「っ―――!」 振り抜かれたカタナが少女の身体を襲う。 だが届いてはいない。展開された半透明の防壁が、かろうじてその刃を防いでいた。 「ビジネスはもうやめたんだよ。生憎な」 「―――いいわ。まずは躾をしてあげる……!」 高姿勢な言葉とは裏腹に、少女の表情には焦りが滲んでいる。 相手に余裕を与えることなく、シルバーカラスは再び斬撃を繰り出す。 「イヤーッ!」 「く……!?」 防壁に亀裂が入る――クラッシュ。鏡が割れ、散乱する。 「……」 手応えはない。否、少女の姿すらも、雪原から消え去っている。 引き換えに現れたのは、別のカタチをした影である。 「――ふふ」 裂けたマント。片手には道化面。 赤紫のアーマーを身に纏う少女――サーヴァント。 シルバーカラスは警戒を強める。同時に、自らの身体に刻まれたマスターの証……令呪へと意識を向けた。 しかし、その必要はないようだった。 虚空をしばし見つめたサーヴァントは、おもむろに口を開く。 「そろそろ出てきたらどうだい?」 「あら、お客様?」 飄々と答える声の主は、確認するまでもない。 「お客様はそっち。ここって、ファントム・ゾーンほどじゃなくても、簡単には来れない場所だと思ってたんだけど」 「生きたまま冥界に花見に来る人間もいる。ましてや、ここはあの世ではない」 「まあ、呼んでない人達だってけっこう来てたみたいだしね。メイドさんとか、ヘンなネコとか」 「変わり者もいるものねえ。好き好んでこんな所に来るなんて」 少女の会話にサツバツとしたアトモスフィアはない。 彼女達は知っているからだ。それがなくとも、命のやり取りなどいつでも起こりうるものなのだ、と。 「殺風景で、全然華やかさがないもの。騒がしい三姉妹でも呼んだらどうかしら」 「あの三人を呼んでもうるさいだけだと思うけど」 「それは、多分霊違い」 「どっちにしても、多分この街にはいないんじゃないかなあ」 妖精、亡霊、吸血鬼。 伝承に語られる魔物、人ならざる者が生きる世界こそが、彼女達がかつて在った場所である。 幻想世界の少女――キャスターのサーヴァントは、互いの姿を凝視する。 「さてと」 「それじゃあ」 「――主共々負け猫になりなさいな、二重の歩く者」 「――ばたんきゅーにしてあげるよ、レイスのおねーさん」 二者の魔力が増大する。 己の内のニンジャ直感に従い、即座に後方へとシルバーカラスが跳躍した、その瞬間。 弾幕と魔導の戦いは、始まっていた。                     ▼  ▼  ▼ 視界が変色する。 弾幕は生者必滅の理となり、華奢な躰へと迫ってゆく。 花吹雪の如き重砲火に飲み込まれる寸前、 「――リバイア」 魔導師は、攻撃を反射する事で対処した。 あらぬ方向へとねじ曲がり、地平線の彼方へと去りゆく弾幕をよそに魔導師は詠唱を続ける。 魔導の効力は持って数秒。 が、それだけの時間を稼げたならば威力は十分――――! 「アアアア――アイスストーム!」 呼吸と共に唱えられる、威力を増幅させた魔導。 爆風と化した雪嵐は弾幕を薙ぎ払い、氷柱が頸動脈を狙い撃つ。 然れど西行寺幽々子とて英霊の身。 直撃すれば大打撃となる一撃なれど、ごく単純な軌道を描く単発射撃などその身を動かすまでもない――――! 「こんなものかしら」 放たれる大玉。 自らの背丈ほどもある巨大な紫色は、氷柱を巻き込みながら消える。 「ライトニング――!」 間髪入れず放射される一条の雷電。 「はいはい」 一瞬の間を置いて照射されるレーザーが雷を掻き消す――相殺。 「――じゃ、続けましょうか」 放出される紅の楔。 「ちぇ、手がたわなかったみたい。――どんえーん」 防御壁が展開される。 ――対決は、魔導師の不利に傾いていた。 回避運動を取りながらの攻撃は亡霊に届かず、さりとて処理を怠れば押し潰されるは必定。 弾幕は、ジレンマに呻吟する時間も与えぬと言わんばかりに迫り来る。 「アハハハ――」 それでもなお、魔導師は内面の読めぬ笑い声を漏らす。 時に壁を作り出し、時に上空へと転移する。 僅かな間隙を縫って、掌より生じる火球を放つ。 発火点はしかし、相手の砲撃を作動させる催促に過ぎず――。                     ▼  ▼  ▼ ――キャスターのマスターは、従者の戦いに介入しようとはしなかった。 戦場から距離をとったシルバーカラスはカタナを収めぬまま呼吸を整える。 彼の狙いはひとつである。 ニンジャ装束のステルス機構はあえて作動させていない。 カタナへと変化させる。己自身を。 その時が来た瞬間、最大限のワザマエを振るうことができるように。 『ふん―――可愛げのないこと』 見澄ますのは姿を隠した白の少女。 全力を出せぬ今の状況であっても、戦闘者としての彼女はシルバーカラスの狙いを悟っている。 一撃必殺の後の先。 迂闊に手を出そうものなら、地に伏しているのはこちらになっているだろう。 『いいわ。せいぜい気を張っていなさいな』 既に淘汰の時期は終わった。 簡単に駒を手に入れられるとは最初から思っていないし、この主従が一筋縄ではいかない相手だと言う事も確認した。 適当なところで戦いを切り上げる算段はついている。 夢魔は意識をサーヴァントの戦いへと向ける。 『―――キャスターも案外やるものね。あの物量、凌ぐだけでも結構な骨なのに。  とはいえ―――やっぱり魔術以外はからっきし、か。単純な肉体強化程度なら可能みたいだけど、近接戦闘を挑めるようなものじゃない。  出来る事が多いのは結構だけど……見立て通り、直接対決なら三騎士相手じゃどうしようもないか。  ―――はあ。自分のマスターにさえその力量を正確に測らせない、なんて。面倒にもほどがあるわ。  ……ああ、そういえば。キャスターに一方的にやられるなんて、あのアサシン、どれだけだらしないサーヴァントだったのかしら。ま、別にいいけど』 彼女にとっては、今回の一戦はキャスターの実戦での力を見る機会でもあった。 ――サーヴァント同士の戦闘。 間近に英霊の攻防を目の当たりにしながらも、彼女の表情に驚愕の色はない。 二十七祖の一柱を担うタタリの残滓。 真祖の使い魔にして数百年の齢を重ねた夢魔の写身。 第五の魔法使いによって生み出されたこの身を慄かせようというのなら、窮極の一が必要と心得よ――。 『―――そうね、折角の機会だし。見せてもらいましょうか、亡霊さん?』 ――彼女は、未だ。 此度の聖杯戦争の本質に到達していない。                     ▼  ▼  ▼ 「フレイム・トルネード……!」 炎の渦が桜花を散らす。 浮かぶ亡霊へと迫る魔力は当然のように相殺され、弾幕が魔導師に返却される。 「つぅ――ガイアヒーリング!」 不敵な笑みを浮かべたまま、徐々にその身は削られる。 外見の傷を癒やす事は出来ても、身体を構成する魔力自体が失われてゆくのは避けられない。 「頑張るわねえ」 慈悲はない。 展開されるクナイ型の弾幕は、逃げ場を潰す為の副砲である。 「それじゃ、これで――」 狙いを付けて放たれるは本線たるレーザー。 発射される直前。僅かに見える光筋は、最早逃れる事は叶わぬ事を示している。 ――その『予告』こそが。 魔導師が待っていた瞬間だった。 「ヴォイドホール――!」 掲げられる両腕。 しかし遅い。 唱えられた言葉に如何な魔力があろうとも、数瞬後にはレーザーがその身を焼いている。 ――光線が、到達する事があるのなら。 「――あら?」 放たれるべき光は動作せず、 穿たれるべき体に孔はない。 異常はそれに留まらず。空隙に捕らわれたように、全ての弾が空中で静止していた。 「――――」 停止した弾幕を潜り抜ける。 初めて危険を認識した亡霊が後退しようとした、その寸前。 「ジュゲム」 言葉と共に、爆発が周囲を覆った。 莫大な気を発し、相手に叩き付ける攻撃呪文――その爆風は確かに、亡霊に届いていた。 「――危なかったわー」 だが足りない。 西行寺幽々子はぽかんと口を開けたまま、暢気な姿を保っている。 ――千年を越える時を過ごし、閻魔より冥界の永住を許された、永久に供養できぬ亡霊。 たとえサーヴァントとして此世に現界した彼女であろうとも、一度きりの爆風《ボム》でその身を消し去る事など不可能である。 「まあ、結構時間も経ってるし。そろそろ終わりにしましょうか」 告げる華胥の亡霊。 彼女の『死を操る程度の能力』の一端が開放される。 ――そうして。 その真名を、宣言した。 「いきなさい。――――『反魂蝶』」                     ▼  ▼  ▼ 『あ―――』 夢魔は、それを直視する。 具現化された死のカタチ。 畏れよ。 畏れよ。 畏れよ。 ここに至りて神は人に等しく、人は禽獣蟲魚に堕しからむ。 常世の国より来たりし姫は、生を奪いて死を齎さむ。 『あ―――あ』 融ける壁。解ける意味。説ける自己。可変透過率の滑らかさ。乱交する時間。観測生命と実行機能。小指のない手。頭のない目。走っていく絨毯。 八重霧の渡し。ギルティ・オワ・ノットギルティ。真理の扉。刀剣は絢爛舞踏へ。死忍。殺戮にいたる病。金色の破壊神。金色の魔王。 祝福。祝祭。同化。天体は死と新生を迎える。フォーマルハウト。俯瞰するクォーク。すべて否定。螺鈿細工をして無形、屍庫から発達してエンブリオ、そのありえざる法則に呪いこそ祝いを。 『―――嫌』 幻視する。 ひとつのユメを終わらせた、七つ夜の殺人貴を。 『オレもアンタも不確かな水月だ。  もとより存在しないもの。夏の雪に千切れて消えるのが、互いに幸福なんだろうさ―――』 「――――――――、あ。  ああ、あ、ああああああああああああああああああ……!!」 ――咎重き 桜の花の 黄泉の国 生きては見えず 死しても見れず                     ▼  ▼  ▼ 声にならぬ叫び。 狂気と恐慌の狭間に落とされた少女が姿を現し、シルバーカラスへと襲いかかる。 アンブッシュですらない、工夫なきブザマな攻撃を見逃すシルバーカラスではなかった。 「イヤーッ!」 ……一撃で勝敗は決した。 少女の首は胴体から離れ、シルバーカラスのすぐそばへと落ちた。 雪原が血に染まると同時に、くすんだ街並……元のアーカムシティの景観を取り戻してゆく。 戦いとも呼べぬ戦いが終わり、シルバーカラスの姿はイーストタウンにあった。 「……」 シルバーカラスは戦闘態勢を崩さない。 幽々子と敵サーヴァントの気配が消えている。 警戒を続けながら、念話を試みようとしたシルバーカラスは、急激に地面へとへたり込んだ。 「ゴホッ……ああ畜生、こんな時にか」 シルバーカラスは咳き込んだ後、口を拭った。 拭った手は赤色になっていた。 彼は苦笑いした後、もう一度、むせた。 その時である! 「グワーッ!?」 唐突な背後からの強襲! 後頭部に噛み付きをかけるその下手人は……動くことのないはずの生首! しかもその生首は少女のものではない! ギリシャ像めいた白髮の男のそれへと形を変えた首がシルバーカラスを襲う! 「イヤーッ!」 ニンジャ感覚を駆使し攻撃の正体を掴んだシルバーカラスは大きくジャンプ。 首を引き剥がした後に空中で姿勢を反転し、スリケンを連続投擲……全て命中! 「無念っ!」 爆発四散! そして、シルバーカラスが地面に着地したと同時に……彼は、現実の架空都市で目を覚ました。 …… 「一杯食わされたわねえ」 仰向けに倒れたシルバーカラスを覗き込む、気楽な幽々子の声。 「奴らはどうした」 「どーにか、こーにか」 「逃げられたんなら、そう言えよ」 シルバーカラスは自らの手を眺めた。赤くはない。少なくとも、今は。 大きく息を吐き、立ち上がる。 「休まなくていいの?」 「場所取りは早い方がいいんだろ。花見の」 できるといいけど。他人事のように、幽々子が言う。 全く同じ調子のまま、彼女は続けた。 「夢の中だったら、煙草もあったんじゃないかしら」 「夢は叶わないもんなんだよ」                     ▼  ▼  ▼ 「イリュージョン効果切れ。でもここまで来れば大丈夫、かな」 存在さえ不確かなドッペルゲンガーが、白猫を抱えて街を駆け。 自ら動くことを放棄した夢魔は、ただ、震える。 『何よ―――何よ何よ何よ、何なのアレは――――!』 「宝具じゃない?」 『貴女は黙ってなさい……!』 純粋にしてシンプルな『死』の行使。 理解してはならぬモノで構成された反魂の蝶に、夢魔は真夏の幻影を視た。 『冗談じゃない―――あんなモノ、どうやって―――』 「まあ、次からは気をつけようよ」 『っ……他人事みたいに言うものね、キャスター』 「他人事だよ。ボクとマスターは、違うから。どうやったって、何を知っていたって、同じにはなれない。  マスターが感じてることは、自分でどうにかしなくっちゃ」 『―――そんなの、貴女に言われなくたってわかってる。  ええ―――今回はこっちの負けよ。次があるのなら―――』 勝つ、と。宣言する事は、今の彼女には出来なかった。 ――夜が明ける。 陽の光を浴びてなお。幻影を払拭するには、いま暫くの時間が必要なようだった。 【イーストタウン・路地裏/1日目 早朝】 【シルバーカラス@ニンジャスレイヤー】 [状態]やや疲労 [精神]正常 [令呪]残り3画 [装備]「ウバステ」 [道具]不明 [所持金]余裕はある [思考・状況] 基本行動方針:イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。 1.陣地構築のため、候補となる地点へ向かう。 【キャスター(西行寺幽々子)@東方Project】 [状態]健康、戦闘分の魔力を消費 [精神]正常 [装備]なし [道具]扇 [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:シルバーカラスに付き合う。 1.妖怪桜を植える場所へ。 [備考] ※各地に使い魔の死霊を放っています。 【白レン@MELTY BLOOD Actress Again】 [状態]へろへろだ [精神]ばたんきゅー寸前 [令呪]残りみっつ [装備]なし [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:虚脱してる、からだが動かない [備考] 固有結界は、魔力があるなら勝手に出入りできるみたい。マスターだけ閉じ込めるのは難しいかも。 【キャスター(ドッペルゲンガーアルル)@ぽけっとぷよぷよ~ん】 [状態]魔導力減ってきた [精神]うん、がんばる [装備]装甲魔導スーツ [道具]なし [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従う。 1.いったん休まなきゃ、すぐやられちゃうよ。 |BACK||NEXT| |007:[[接触]]|投下順|009:[[アーカム喰種[JAM] ]]| |007:[[接触]]|時系列順|011:[[Answer And Answer]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|[[シルバーカラス]]&キャスター([[西行寺幽々子]])|017:[[それぞれのブランチ]]| |~|[[白レン]]&キャスター([[アルル・ナジャ(ドッペルゲンガーアルル)]])|~|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: