「衛宮切嗣&キャスター」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

衛宮切嗣&キャスター」(2015/06/17 (水) 19:09:42) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

*衛宮切嗣&キャスター◆NHpqfH./HY 「それじゃあ士郎、僕はもう行くけど、ちゃんと大河ちゃんの言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ」 「言われなくってもわかってるって。爺さん、いってらっしゃい」  冬木市の一角にある屋敷の前で、何度も繰り返したやり取りが行われた。  旅に出ると言ってどこかへ赴く父と、特に疑うことなくそれを見送る子。  数日後にはどこか寂しそうな顔をした父が帰ってきて、子がそれを迎え入れる。  ひょっとしたら永遠に続くのではないかと錯覚するほどに何度も繰り返してきた光景だ。  しかし、物事に永遠はない。  爺さんと呼ばれた男は、これで幾度となく繰り返した偽りを終わらせようと決意していた。  父親の名は衛宮切嗣。「魔術師殺し」の名を持つ魔術師である。  いや、魔術師であった、が正確かもしれない。  アインツベルンのマスターとして数年前に行われた聖杯戦争に参加し、そこで魔術師としての力は失われているからだ。  聖杯戦争に参加した彼は生き延びることに成功したが、体を呪いで蝕まれ、夢は砕け、生きながらにして死人となっていた。  士郎と呼ばれた少年も切嗣の実子ではなく、彼によって齎された大火災から唯一救い出せた孤児であり、切嗣が養子として迎えたのだ。  そうして幽鬼のように生きているはずの彼が時折どこかへ旅に出る。  その目に使命感を漂わせ、なにかに脅迫されているような面持ちで。  子供ながらも士郎はそのことに気付きはしたが、枯れた彼がそれで生きていけるならいいと、いつもにこやかに切嗣を送り出していた。  切嗣が旅と偽って訪れていた場所はアインツベルンの所領である。  結界に閉ざされたその場で、たどり着くことが叶わなかろうと何度も結界を破ることに挑戦していた。  大切な、たったひとりの娘を取り戻すために。  しかし体を呪いで蝕まれた切嗣には結界を解くことはおろか、その起点を探し出すことすらできずにいた。  凍死寸前まで吹雪の森を彷徨うことを無意味に繰り返し、娘を救出することを半ば諦めかけていた。  諦めがつくならどれほど楽であるだろうかと自嘲しながら。  体の中で延々と続く怨嗟の声に押し潰されそうになりながら。 「これで駄目ならば、もう…………」  数日前に情報屋を名乗る魔術師からある噂話を耳にした。  どのような結界や封印が施されていようとそれを打破する、どのような鍵穴にも適合する礼装があると。  藁にも縋る思いでどこにあるのかと問うと、魔術師は素質のある、強く求める者の元にいつの間にか現れると言った。  一体なんの素質なのか、それを聞いても魔術師は一切口を開かず、煙のようにその場から消え失せた。あの魔術師は果たして何者だったのか。  そんな疑問を今更ながらに抱くが、だが謎の魔術師の言葉は真実であった。その日になんとなく家の土蔵を掃除していると、蔵から複雑な彫刻を施された銀の鍵が発見された。 「強く望む者の前に現れるという話は本当だった。だが、噂通りに結界を解除できるかどうか……」  確かに鍵からは強い神秘を感じ取ることができる。だが謎の部分が多すぎるのだ。  銀の鍵など今まで一度も耳にしたことがない礼装であるし、そもそも強く望むだけで手元に来るなどわけがわからない。  さらに素質というワード。魔術師として、という意味ではないだろう。それならば僕は選ばれはしないはずだ。魔術師としての、いや、魔術師など関係なく既に僕は死に体に等しい。  だというのにこの鍵は僕の元へと現れた。  詳細も理由も一切不明の、そんな未知の礼装であろうと今はこれに頼るしかなかった。  僕の力ではどうやってもイリヤスフィールを救い出すことはできない。そしておそらく、僕ももう長くはない。 「噂通りであってくれよ」  猛々しく吹雪く森の中、目の前には何度も辛酸を舐めさせられた結界が展開されている。  ポケットから鍵を取り出し、恐る恐る結界へ近づけると、まるでそこにはなにもないかのように鍵は結界を貫き、そして根元近くが結界の中に入った所で行き止まりにぶつかった。  一瞬噂は嘘だったのかと考えたが、ここから何をどうすべきかすぐに思い至る。 「鍵だから、回せってことか…………。待っててくれイリヤ。すぐ迎えにいくよ」  随分と長く一人にさせてしまったことの罪悪感から、どのような顔をして会えば良いのかはまだわからない。だが。  愛する娘を助け出すため、衛宮切嗣は結界に刺さった銀の鍵を回す――――――――。        ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎ 「――――くそッ! よりにもよってまた聖杯戦争だって!?」  衛宮庭の土蔵の中で、切嗣は声を荒げる。  銀の鍵を回した瞬間、切嗣はアーカムへ召喚されていた。  切嗣が召喚された場所は自宅の土蔵。冬木の自宅がそっくりそのまま、アーカム市内にて再現されていた。  外から響いてくる喧騒が普段のものと異なる以外は内装から庭、何もかもがそのままで、聖杯から与えられた知識がなければ冬木へ飛ばされたと勘違いしていたことだろう。  しかし切嗣からすれば、いっそ冬木へ送還されていたほうが良かった。  もはや切嗣の体は聖杯戦争に耐えることが不可能なほど衰弱しており、まともにサーヴァントを運用するほどの魔力も有してはいない。  おまけにマスターを召喚する聖杯など耳にしたこともなく、明らかなイレギュラー。  そしてなによりも、第四次聖杯戦争で聖杯が汚染されていたという事実が切嗣に拭いきれない不安を与えていた。 「なにがどんな封印も解く鍵だ! なにが結界破りの礼装だ! 詐欺もいいとこじゃないかッ!」  この挑戦で駄目ならば諦めて士郎と静かに余生を終えるつもりでいた切嗣にとって、聖杯戦争への強制参加など失敗する以上に望まない、最悪の展開である。  生き残ることなど不可能。このままではイリヤだけでなく、士郎までひとりにさせてしまう。  聖杯戦争に参加せずに逃げ帰ってしまえれば良いのだが、アーカムシティなどという都市は本来存在していない。そしてそこに自宅が設置され、この都市の市民としての記憶が与えられているなど、ひょっとすると自分は異界に召喚されていて、日本行きの飛行機に乗ったところで冬木市は存在していないかもしれない。  いや、そもそもこの都市から抜け出すことすら可能かどうか。  兎に角、士郎のところに帰るにはこの聖杯戦争で生き抜くしかなかった。  そしてそれが叶わないことは明白であり、状況は完全に詰みであった。 「くすくすくすくすくす…………」  詰みであると――――――この時までは思っていた。  絶望的な展望に活路を見出そうと思案していた切嗣の耳に、静かな、透き通っているはずなのに微かなおぞましさを伴わせた笑い声が届く。  その笑い声に惹かれたように視線を上に向けると、そこには見知らぬひとりの女が佇んでいた。  それは白い女であった。  汚れひとつない真っ白のローブで全身を覆い、絹糸のような白髪は真っ直ぐに腰まで流れている。  肌は雪の様に白く、ローブについたカウベルや裾等に装飾された金の模様以外は全てが白。おそらく他に色を持つ箇所があるとすれば、今は閉ざされているその『目』だけであろう。 「はじめましてマスター」 「!? お前は……僕のサーヴァントか……?」  くすくすと笑っていたかと思えば切嗣が己の存在を認識したことに気付くと、女は慈母のような微笑を携えて、切嗣へ出会いの言葉を送った。  それは従者から主に向けての言葉であり、正しく契約により切嗣の元へと召喚されたサーヴァントであるという証明の言葉であった。 「ええ、私はキャスター。あなたが望んでいたクラスのサーヴァント」  キャスターは微笑を崩すことなく、切嗣に自らのクラスを告げる。  己はマスターが望んでいたクラスのサーヴァントであると。  そんなキャスターの言葉を、しかし切嗣は快く受け入れることはできなかった。  確かに自分は第四次聖杯戦争の始まりに際して、アハト翁から英霊召喚の触媒を渡された時、扱いの良さからアサシンやキャスターの方が好ましいと考えていた。  だが今の衰弱した肉体ではどのクラスの英霊を手にしたところでどうすることもできない。アサシンであろうと満足に魔力を供給することもできずに消滅してしまうだろう。  今更キャスターを与えられたところで、結局はなにもできずに敗退する未来しか存在しないのだ。  「そんなことはないわ、マスター」 「そんなことはないって、実際僕はお前を現界させているだけで既に…………――――!?」  キャスターの言葉を返す途中で、切嗣はある事に気付く。  自分はキャスターに対し、考えていたことをまだ口に出してはいなかったということに。 (心を読まれた? いや、そもそも僕はキャスターを召喚したいだなんて微塵も考えてはいなかった。  まさか、記憶を見られた――?)  突如心どころか記憶までも覗かれたことに狼狽する切嗣の様に、今度は子供のように楽しそうにキャスターは笑う。 「くすくすくす…………。ごめんなさい、マスター。先にあなたがどういう人なのか知っておいたほうが会話がスムーズになると思って」  悪びれた様子もなく、上手くからかえたことが実に面白いと言わんばかりにキャスターは笑う。 「それがお前の力か……、キャスター」 「そう。『視る』。これが私の力。此方から彼方、過去から未来までの遍く全てを視ることができる、ただそれだけのチカラ」  切嗣が平静を取り戻したからか、キャスターは笑いを微笑へと戻し、己の力が何であるかを伝える。  全てを見通す目。それはきっと、切嗣が健全な状態であれば恐ろしい力となっただろう。 「そうね。あなたの魔力供給がもっと多ければこのアーカム全てを見渡すことが出来るでしょうね。マスターもサーヴァントも、そうでないものも全て。どこにいて、何を考えているかまで手に取るようにわかるでしょうね」  そうなればいくらでも敵のマスターを屠ることができるだろう。敵の位置や、あろうことか考えまでわかってしまうなど、攻略本を見ながらゲームをするようなものだ。  だが現実はそうではない。 「記憶を覗いたのならわかっているだろう。僕の体は呪いに蝕まれている。どれだけお前が強力であろうとその力を活かすことはできない」  それが確かな真実だ。  あの時、『この世全ての悪』によって与えられた呪いは魔術回路を使い物にならなくし、確実に切嗣の体を、寿命を食らっている。  サーヴァントのエンジンであるマスターが死に体である時点で、どれだけ優秀なサーヴァントであろうと関係ないのだ。 「だから僕達はこの聖杯戦争に勝つことはできない」  いや、そもそも勝ちたいとすら考えていないのかもしれない。  だってそうだろう? 未知の聖杯によって執り行われるこの聖杯戦争を、誰がまともに信用することが出来る。一体誰が、聖杯が泥によって汚染されていないと言い切れる。  詰る所、僕はそもそも聖杯戦争を勝ち抜くことにすら懐疑的で、ただ士郎の所に戻りたいだけなのだ。  だから、厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。  そう考えて、切嗣は右手を掲げてその甲を見やる。  そこはセイバーの令呪が宿っていた場所であった。そして今そこに刻まれているのは、三画によって成された一つの目。  力のない目でそれを見返し、切嗣はあることをキャスターに命じようとする。  聖杯戦争に巻き込まれない方法。それはマスターであることをやめてしまうことである。  自分のように徹底するマスターがいなければ、それで聖杯戦争に巻き込まれることなく生き残ることができる。そう考えた。  キャスターという監視の目を失うことは多大な損失であり、早計かもしれない。  聖杯に願わなければ帰ることはできないかもしれない。  だけどひょっとしたら、聖杯戦争が終われば元の場所へ返されるかもしれない。  誰にも気付かれることもなく生きられるかもしれない。  すべては可能性の話。  だがキャスターを現界させ続けることは切嗣の僅かな寿命をさらに削るということは紛れもない現実であった。やるならば、早い内にやっておかねばならなかった。  そうして切嗣は、なんの躊躇いを持つことなく己の下僕へと命令を下す。 「令呪を以て我がサーヴァントに命ず――キャスター、自害せ――」 「イリヤスフィールのことはもういいの?」  冷徹な指示が下る直前、切嗣の心の中の、最も気付きたくなかった部分をキャスターが指摘する。 「イリヤスフィールのことは、諦めてしまうの?」  なおもキャスターは切嗣の心残りを掘り返す。実の娘を取り戻すことなく、ただ漫然とした余生を甘受するのかと問い質す。 「でも、そうよね? あなたには士郎がいるから別に寂しくはないものね? 藤村組のみなさんも良くして下さるし、今はとても穏やかな生活だものね? 戦場を転々として、魔術師を殺して、安息のない日々を、常に何かを失い続けた過去とはまるで違う。今更イリヤスフィールなんていなくてもあなたは満たされているものね?」 「違う。そんなことはない……」  ああ、そんなことはない。 「あなたは穏やかな余生を過ごせればそれでいいのよね? イリヤスフィールにはもうあなたしかいないけれど、関係ないわよね?」 「違う! そんなことはないッ!」  そんなことあってたまるか――! 「だってそうじゃない。折角聖杯戦争だなんて何でも望みが叶う儀式に召喚されたのに、いきなりその権利を放棄しようとするのだもの。今回が最後と決めていたのに、随分とあっさり諦められるのね」 「聖杯戦争は殺し合いだ。こんな状態じゃどうやったって死ぬ。……士郎を一人にはできない」  そこまで言って、ある変化に気付く。  些細なことだが、とても大きな、おぞましい変化。 「そうよね。士郎を一人にはできないわよね?」  どこまでも白かった女に、色が混じっていた。 「じゃあ、アインツベルンの結界を突破できていたら、どうするつもりだったのかしら? 流石に城の中にまで入ってきた侵入者を見逃すはずがないもの。きっと殺されるわ」  そのローブは変わらず真っ白であった。 「運よくイリヤスフィールの元に辿りつけたとして、追っ手はどうするつもりだったのかしら? 大切な小聖杯を奪われて黙っているはずがないもの。下手をすればイリヤスフィールも巻き込まれて命を落とすかもしれないわね」  絹糸のように美しい白髪はやはり腰まで伸びていた。 「もしも日本まで逃げ切れたとして、どうするの? 士郎とイリヤスフィール、家族三人で仲良く暮らすの? それが叶うと思うの? まさか、日本まで逃げればアインツベルンの積年の妄執も諦めてくれるとでも本当に思っているの?」  肌も雪のように白いままだ。だが――。 「ありえないわ。必ず見つけ出されて殺される。士郎も、藤村組の人も、あなたがイリヤスフィールを助け出せば、みんな巻き込まれて死ぬわ」  いつの間にか女はその両の瞳を開けていた。  そこにある色は紅。  今まで一度たりとも目にしたことがない、恐ろしいほどに鮮やかすぎる真紅の二点が、白で構成されていたはずの女に新しく付け加えられていた。  慈母のようであった微笑も、愉しくて悦しくて仕方がないのか、口の端は歪みきり、悪魔のそれと形容できる物へと変化していた。 「あなたがイリヤスフィールを助け出せば必ず死ぬわ。しかも成功すればするほど周りへの被害が酷くなる。士郎を一人にできないと言っておきながら、あなたは何度そんな危険な綱渡りに挑んだのかしら?」  紅は僕の全てを見透かすかのように、視線を外そうとはしてくれない。  耐え切れずに僕の方から視線を逸らそうとするが、恐ろしいというのにその真紅の眼から目を離すことが全く出来ない。 「うふふ、くすくす。いえ、実際はそんな綱渡りじゃなかったわよね? だってあなた自身、本当は無理だって気付いていたものね?  だけど努力はしたと、全部自分に言い聞かせるための行動だったのよね?」  否定の言葉を出そうとするが、口も視線同様に一切動けない。女がそれを許可しない。 「不可能なことはわかっているけど、だからといって行動しなくちゃ夢見が悪いものね?  『この世全ての悪』の呪いも良くなることはないものね?  アイリスフィールに顔向けできないものね?」  アイリと同じの赤い目の白い女は、徹底的に切嗣の心を切り刻む。切嗣ですら気付いていない、気付こうとしなかった所を明け透けと指摘する。 「もういいじゃない♪ 何度も頑張って、何度も凍死しそうになったんだからいいじゃない♪  諦めても、きっとアイリスフィールはあなたのことを許してくれるわ。実の娘なんか忘れて、仮の子供と静かに余生を過ごせばいいじゃない♪  ――――――――あなたはそう考えているわ。自覚はしていないけれど、聖杯戦争を降りようとしたことがその証」 「嘘だッ! 僕は本気でイリヤスフィールを助けようとした! 罪悪感からの行動だったわけじゃない!! 娘を、イリヤを忘れられるわけないだろう…………っ!!」  耐え切れず、切嗣はキャスターに反論する。自覚していない部分をどれだけ指摘されようと、自分は確かにイリヤを助けようとした。それは本心であったと、後ろめたさからの行動ではなかったと、言葉にしなければ耐えられなかった。本当に自分がそう思っていたのではないかと、真紅の目を見ていると錯覚しそうになった。  いつの間にかキャスターはその目を閉ざしていた。それはきっと切嗣が反論をした際には閉じていたのだろう。そうでなければ未だに切嗣は一言も発することはできなかったはずだ。  そして再び慈母のような微笑を浮かべるキャスターは、切嗣にだったらどうするべきかと問いかける。 「イリヤスフィールは諦めるの? それとも諦めないの?」  簡単な、意地の悪い質問であった。  切嗣は諦めたくはない。  だが聖杯を勝ち取り、イリヤを助け出すなど夢のような話である。  どちらを選ぶかなど、合理主義者である切嗣からすれば選択肢など無いに等しい。 「僕は――――イリヤスフィールを取り戻したい」  切嗣が選択したのは、魔術師殺しであれば取らなかった方であった。 「どうして? そんな選択はあなたらしくないわ。素直にさっきしようとしたみたいに、少しでも早くこの聖杯戦争から降りた方が利口よ? 勝ち目のない戦いに乗るなんてバカのすることじゃない。感情を優先させるなんて、愚か者のすることじゃない。もっと合理性を追求しなければ嘘じゃない」  キャスターはその笑みを崩すことなく、切嗣に問う。そんな愚かな選択で良いのか、気まぐれではないのか、と。 「お前が乗せたんだろうキャスター。僕はイリヤを助けたい。この気持ちに嘘なんかない。それを証明するためにも、僕は聖杯を利用する」  途端にキャスターの顔がつまらない物を視るものへと変化する。聞き分けのない子供に辟易した大人のような怒りがそこに見て取れた。 「つまらない。つまらないわマスター。またそうやって夢に逃げて現実と向き合わないつもりなの?  そんな体でどうやって勝ち抜くことができると言うの? 聖杯が汚染されていたことをもう忘れたの? この聖杯戦争なら無事だとでも言い切れるの?」  キャスターは切嗣の選択に露骨な不満を示す。正確には切嗣が振り切れたことに、だが。  その様子から切嗣は、このサーヴァントは自分を苦しめたいだけであると悟った。自分が懊悩する様を、ただただ視ていたいだけ。  気付いてしまえば、キャスターの発する言葉に惑わされることなど無い。 「どうしたキャスター? 僕が令呪を使えば死んでしまうというのに、随分と僕に令呪を使わせたそうじゃないか」 「それは私が聖杯に焼べる願いを持っていないから。いつまでも私を現界させ続けることはあなたの寿命を縮めるから。あなたが最初に思った事じゃない」  煩わしそうに、キャスターは切嗣の質問に大した興味を持たずに受け流す。 「なあキャスター……、ひょっとしてだが、お前なら僕の体をある程度戦える状態まで戻すことができるんじゃないか?」  ありえないことかもしれないが、それでも切嗣はそのことをキャスターへと問うた。  見つめる先の顔はつまらないを通り越してしかめっ面になっていたが、この問を聞いた途端に虚を突かれた物となり、そして子供のように楽しそうな笑顔へと戻る。 「どうして……そんな突拍子も無いことを考えたのかしら、マスター?」 「別に、お前が勧める方とは逆の選択の可能性について考えただけだよ。お前が残念がる僕の顔を見たいから、わざと間違った選択肢を突きつけてきているのではないかってね」  切嗣の答えが気に入ったのか、キャスターは笑い声を漏らす。その笑いは、選択は間違ってはいないと切嗣に確信を持たせた。 「くすくすくす。ひどいマスターね。従者が体のことを気遣ってあげているというのに、その気持ちを無碍にして疑うだなんて」  可笑しそうに、楽しそうに、キャスターは切嗣のことを嘲う。 「第一、本当に可能だと思うの? あなたの体にある呪いは『この世全ての悪』によって施されたものよ。一介の英霊でどうこうできるものだとでも、本当に思っているの?」 「そうだな。きっと生半な英霊ではどうにかできるような代物じゃないだろう。…………だけどキャスター」  切嗣は思っていたことを口にすることにした。  それはキャスターの異常性について。  魔術師の最高位となる存在ならば、キャスター同様に世界の全てを見通すことが可能である。  しかし見れる物は、過去か、現在か、未来か、これらの内の一つだけだ。  キャスターは違う。過去も未来も現在も、それらの全てを見渡せると言った。  そのようなことが可能な存在がいるとすれば、それは――。 「キャスター――――お前は、神霊じゃないのか?」  切嗣がキャスターについて、その疑問から導き出した仮説を口にした瞬間。 「うふ」  また、キャスターの笑い声が漏れた。しかしそれは今までのようにすぐに収まることは無く。 「うふ、うふふふふふ……、くすくすうふふ、あはっ、あはは! あーっははははははは!くすすあはははうふあはははははははうふふふふはは!!」  まるで壊れたスピーカーから発せられたかのように耳障りな、耳をつんざくけたたましい哄笑が土蔵の中で反響した。 「そう! そうよ! 私は神。摩利支天。凄いわマスターよくわかったわね! あははははは! 凝り固まった魔術師の頭でよく正解できました!」  なにがおもしろいのか全くわかりはしなかったが、それでも摩利支天と名乗ったサーヴァントは笑い転げる。  切嗣はそこに得も言えぬ恐怖を抱いたが、そんなことよりももっと気にすべき点があった。 「うふくすすすす。そう、そうね。私はサーヴァント。でも、おかしいわよね? 正常じゃないわよね? 本来ならば英霊の座にアクセスしてそこからサーヴァントを引っ張ってくるはずなのに、神霊が召喚されるだなんて異常よね?」  未だ楽しそうにしているキャスターの言う様に、本来の聖杯戦争ではありえない。神霊の召喚など、冬木の聖杯を遥かに凌駕している。 「で、どうするのだったかしら? 汚染されているかもしれない聖杯を勝ち取りにいくのだったかしら? 明らかに本来の聖杯から逸脱しているソレを」  マスターを召喚する時点で異常だとはわかっていたが、神霊を再現してサーヴァントとして使役させるなど想像以上である。  キャスターは聖杯をどうするのか、とても興味深げにこちらを見ている、のだろう。その目は開いてはいなかった。 「ねえ。ねえねえねえ! どうするの? どうするのマスター!? これで碌でもないことしか叶わない聖杯だとしたらどうするの?  それでもあなたは聖杯を求めるの? 今度はきっと『この世全ての悪』よりもっと酷い物に憑かれるかもしれないわね!?」  キャスターは問う。聖杯をどうすべきなのか、と。果たして求めて良い代物であるのか、と。  その問に、正しく答えることが出来るのはおそらく切嗣ひとりだけであった。汚染された聖杯を知り、正しく人類のことを思うことができるのはこの男だけであった。 「だったらなおさら、他のマスター達に渡すわけにはいかない。僕が勝ち残らねばならない」  仮令汚染などなくても、神霊を召喚可能な力を持つ聖杯が邪な者の手に渡れば、それは間違いなく世界に未曾有の危機を齎すだろう。 「そう! その通りよマスター! なんとしてもあなたが残らなければ、下手をすれば全世界規模で大惨事なんてことになりかねないものね!  ああでも残念ねマスター! あなただけしか正しく脅威を認識できていないというのに、あなたには戦う力が残っていないだなんて!」  意地悪そうに、何が入っているかわからないプレゼントの箱を開ける子供のように、わくわくとした顔でキャスターは切嗣に語りかける。  これほど歯痒いこともないでしょう、と暗にそう語りかける。  そして切嗣の答えは定まった。  イリヤの元に駆けつける為に、一人の父として聖杯を求める。  悪意を持つ者が悪用しない為にも、汚染されていないとも限らない聖杯を処理する為にも、魔術師殺しとしても聖杯を求める。  そしてそれを実行するためにも。 「キャスター。頼む、僕の体を治してくれ」  この衰弱した肉体をどうにかしなければならなかった。 「嫌よ。無理。できない」  しかしキャスターはそれを拒んだ。不可能であると断じた。  それでも引き下がることはできず、切嗣は右手を掲げ、手の甲に出来た目をキャスターに見せ付ける。 「令呪を使ってサポートをする」  令呪。聖杯より授けられた強制執行権。  本来ならば己のサーヴァントを律するために使用するが、補助として扱えばサーヴァントに生前の能力を使用させることも可能となる。  それを利用すれば、最悪『この世全ての悪』の呪いを軽減させることができるかもしれない。  切嗣はその可能性に賭けた。 「嫌」  キャスターは再びそれを拒否する。しかし今度は不可能であるとは言わなかった。 (やはりか……)  キャスターが言った、そんなことはないという言葉に、切嗣は体をある程度元に戻すことができるのではないかという可能性を感じていた。  そしてしつこい程の令呪の使用の強制。ここから、一画使用したところで、三画あれば体を治せたとでも言うつもりだったに違いないと踏んでいた。  何せこのサーヴァントは性悪で、切嗣が苦悩することを至上にしている節が今までの会話で十分に感じ取ることができた。 「だったらキャスター。どうすれば僕の体を治してくれる?」  令呪を用いての強制命令も考えたが、純粋な神霊相手に令呪がどれだけ機能するかもわからないし、下手に抵抗されて治癒が出来なければ令呪の無駄撃ちとなってしまう。  それを避けるためにも、切嗣はキャスターが快諾するための方法を聞いた。 「目を」  するとキャスターは、何かを呟いた。  先ほどの悪魔じみた笑顔とは別の、完全に悪魔と言える笑みを張り付かせて。 「? 目?」 「そう。目をちょうだい――?」  そう言うとキャスターは切嗣の左目に掌を押し付けた。左側の視界が減少する。 「辛いことや苦しいこと、悲しいことばかり見てきたあなたの目を、ちょうだい?」  キャスターは言う。自分は目玉をコレクションしていると。『この世全ての悪』と向き合ったあなたの目が欲しい、と。  戦闘において片側が視認できないということや距離感が掴めないということは大きな不利である。  しかし、全く動くことができない体でいるよりも、片目を失ってでも健康な体である方が遥かにアドバンテージがあると切嗣は判断した。 「それで聖杯戦争で戦えるようになるなら……僕は――ッ!?」  喜んでこの目を捧げる。そう言おうとした瞬間、もう片方の目もキャスターによって押さえつけられ、視界が暗転する。 「誰も片目だけだなんて言ってないわ。両目。どっちも貰う」  手から逃れようと必死にもがくが、サーヴァントの筋力には衰弱していようといなかろうと敵うはずがなかった。 「まずは前払いとして左目を頂くわ。これは私の分ね。で、聖杯を勝ち取ることが出来れば報酬として本体の方に右目を貰うわ」  暗闇の中で、ただキャスターの声だけが聞こえてくる。目を閉じればいつでも見ることができる闇だというのに、今はそんな単純な闇が恐ろしい。 「恐い? そうよね。怖いに決まっているわ。この暗闇がずっと、ずぅーっと続くの。  聖杯を手にしてイリヤスフィールをその手に抱いても、あなたは娘の顔を見ることができない。成長して姿が変わっていたとしても知ることができない。  イリヤスフィールだけじゃないわ。士郎もそう。これからどんどん大きくなるというのに、あなたはその姿を見ることができないの。嫌?」  意地の悪い笑い声だけが闇の中で木霊する。不安に潰されそうになり、キャスターの腕に手をかけると万力のような力で頭を潰されそうになる。 「ぐあっ、がぁあああああああっ!?」 「嫌? 嫌よね!? こんな目に遭ってまでイリヤスフィールを助ける必要なんてないじゃない! 正義の味方になんてなる必要なんかないじゃない! いつまで生きられるかわからないけど、静かに生きて士郎の成長を見守ってあげればいいじゃない!?」  切嗣の心配など一切していないくせに、中身のない親身な言葉を楽しそうにキャスターは送る。  闇に対しての恐怖と頭を締め付ける激痛に、言葉などまともに聞き取れる状態でなかった切嗣は、しかしその発言に待ったをかけた。 「ど、んなに苦しくても……、辛くても、……恐くても、それでも、ぼ、くは……、ぼく、は――――――!!!!」 「僕は? 僕は、何? 僕はなんなの?」  今までだって、そういう選択を選んできた。最近はそうでもなかったが、ずっと何かを失い続けてきた。  イリヤもそうだ。僕が失った物の一つ。そのイリヤを取り戻すことができるのだったら、今更自分の目の一つや二つ。 「僕は……、そういう生き方しか、できない…………!!」  そう言った直後、左目の部分に激痛と喪失感が襲い掛かってきた。  そして強力な倦怠感と疲労感もそれらに追随し、一瞬気を失いそうになる。  それは大量に魔力を消費した時に起こる疲労であった。  衰弱しきった体では即死であったはずの量の魔力を持っていかれたと切嗣は気付いた。つまり――。 「契約完了ね」  そう言ってキャスターが手を離すと視界が光を取り戻した。両目を開いたはずなのに、左側の視界は欠けていた。  見える右側だけで体に視線を落とすと、衣服は左目から零れた血で汚れていたが、枯れ枝のようになっていた腕は健康的な太さに戻っており、血色も良好であった。  体が数年前の、第四次聖杯戦争時の肉体へと戻っていた。  相違があるとすれば今は左目の部分が空洞となっている、という部分だけである。  魔術回路は規則正しく励起し、強力な疲労感があるにも関わらず、体は数分前までよりもよっぽど軽い。 「……何をした? 僕はまだ令呪を使用していなかったはずだ」 「面倒だから左目を貰った際に一緒に使わせてもらったわ。あの体のままだと目を抜き取った時の激痛だけで死にそうだったもの」  言われ、右の手の甲を見てみると、そこにはもう目の模様は存在していなかった。 「令呪が全て消えたなんて些細なこと。だって、魔術師殺しが復活したんだもの」 「魔術師殺し……」  魔術師殺し――それは切嗣につけられた渾名。  魔術師として魔術師が取るであろう行動を全て想定し、そして魔術師が想定し得ない手段を用いて魔術師を殺す者。  その男が、片目こそ失っているものの、全身全霊で聖杯戦争へと臨む。 「うふふ、くすくす……。楽しみね。本当に楽しみ」  何が見えているのかわからないが、キャスターは目を閉ざしてくすくすと、先ほどと同じように楽しそうに笑う。  その様子にどこか嫌な物を感じ取った切嗣は、当たり障りの無いように、基本的なことからキャスターに聞くことにした。 「キャスター、まずはどれだけの組が存在するのか、そして警戒すべきはどこの組かを教えてくれ」  最も知っておくべきこと。敵の数と、そして脅威の認識。これらのことを切嗣はキャスターから聞き出そうとする。しかし。 「え? 嫌よ。いきなりネタバレなんてつまらないわ」 「なっ――!?」  あっけらかんと。キャスターはマスターである切嗣からの指示を断った。 「うふ、うふ、うふふふ。ひょっとして、令呪のないあなたの指示に私が従うとでも思った?  サーヴァントをただの道具としか思わないあなたに、私が従うと思った? 人間なんて神さまからしたらおもちゃみたいな物なのに、そんな物の言うことを聞くと思った?」  可笑しそうにキャスターは笑う。令呪のない人間の言うことを神が聞くわけがない、と。なんとも可笑しなことを言う、と。  そこで初めて切嗣は思い至った。このサーヴァントは元々自分に協力するつもりはなかったということに。  そもそもこいつは切嗣が苦しむ姿が見たいだけというのは、切嗣自身が出した結論だったではないか――! 「そう。私はただおもしろいものが見たいだけ。今回の番組は聖杯戦争。その役者の一人なのに何もできないんじゃつまらないからあなたを魔術師殺しの役に戻してあげたの。  それなのにわざわざ他の参加者の情報を教えると思う? ありえないわ。あなたも思った通り、そんなことをすれば攻略本を見てゲームをするようなものになってしまう。それじゃあつまらないの。だから私はあなたに協力しない。  あなたは役者で私は視聴者。偶にファンレターを出して意見することはあるかもしれないけど、基本的には番組に干渉はしない」  うふふ。 「だから切嗣、あなたは一人で他のマスターを全員殺さなくてはならないわ。ここには舞弥もいないし、当然アイリスフィールもセイバーもいないもの。  何人いるか、どんな力を有しているかもわからないマスターを、サーヴァントに協力してもらえないのに全員殺すの。くすくす、きっと第四次聖杯戦争の時より大変ね」  くすくす。 「でも、しょうがないわよね? あなたが召喚したのは私だったんだもの。折角あなたが望んでいたクラスだったのに、召喚されたのが私じゃどうしようもないものね?」 「だったら……、攻めてこられるまで僕はお前と居るぞ。一軒家に一人暮らしな上に、令呪もなくなった今なら長い間隠れ続けることが出来る。マスターの数が減るのを待つことも戦略として十分取ることができる」 「じゃあ敵を呼び込むわ。話が動かないなんてつまらないでしょう? ああ、当然私は隠れてるから」 「お前――!」  どこまでも意地の悪い女は切嗣を虚仮にする。道具と認識していた存在から道化扱いされる男を馬鹿にする。 「僕が死ねばお前は……ああそうか、くそッ!」  自分が死ねば番組を見ることができないとキャスターを脅そうとして、それが無意味だと切嗣はすぐに悟る。  未来の見えている存在に途中退場を脅迫に使ったところで意味はない。しかし。 「くすくす、その選択は正解よ切嗣。だって私LIVEは生派だもの。先に結末を視るなんてつまらないわ。だから」  キャスターが言葉を紡ぐその間、切嗣の体にあった倦怠感や疲労感、左目の激痛は瞬時に消失した。 「どれだけ死に掛けても、ここに来れば治してあげる。もちろん死んでいたら無理だけど」  何をされたかわからず、切嗣は左目に手をやった。そこに目玉はなかった。  だが目玉が取られた際に流れた血が手に付いておらず、衣服に目をやると血の汚れなどどこにもない。 「陣地内でならこれぐらいできるわ。どうにも埃っぽいのが問題だけど、私もできれば最後まで番組を視ていたいからそこは我慢しましょう」 「陣地……。この土蔵を工房にしたのか」  工房。それはキャスターのクラスに与えられた陣地作成によって作り出される自らに有利になる空間である。  キャスターはこの小さな土蔵を工房として選んだようである。 「工房だなんてそんな木端な物じゃないわ。これは領地。私が好きなようにできる箱庭。  それよりも切嗣、早く屋敷に戻らないと生徒のみんなが待っているわよ?」  いつの間にかマスターから切嗣と呼ぶようになったキャスターに指摘され、切嗣はこのアーカムでの自分の役割を思い出す。  切嗣は自分の屋敷を利用して、日本語塾の教師をしている、ということになっている。  そして腕時計に目をやれば、すでに塾が始まる時間となっていた。 「今はそれどころじゃ……、それに体のことをどう説明する」 「与えられた仕事をきちんとこなさないと、先に敵のマスターに見つけられるわよ? それに体のほうは何の心配もいらないわ」 「何……?」 「だって昔からそうだったって、この都市であなたに関わった全員の記憶を書き換えておいたもの」  数十、下手をすると数百人規模での一瞬の記憶の改竄に、切嗣は神霊のチカラの一端を垣間見る。 「ほら、待たせたら生徒が可哀想よ。先生」  キャスターに促されるままに土蔵から出ようとする切嗣の足は、やはり数分前よりも遥かに軽い。軽いのだが。  まるで別の呪いを仕込まれたかのように、その空間から逃れようと急ぐ足は重く感じられた。 「頑張ってね、切嗣。面白い物語を期待するわ」     こうして――――邪神に魅入られた男の運命が、幕を開けた。        ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎   ◎  切嗣が塾生達の元へ駆けていった後も、キャスターは蔵の中で目を閉じて座っていた。 「うふふ、くすくすくす。さあ、この物語はどうなるのかしら?  みんな発狂して終わっちゃうのかしら?  誰かが聖杯を手にして終わるのかしら?  それとも――――」  誰も聞く者はいないというのに、まるで誰かに語りかけるようにキャスターは独り言を漏らす。 「それとも、あなたの目論見通りになってしまうのかしら? ねえ――キーパー?」 【クラス】 キャスター 【真名】 マリーチ@ミスマルカ興国物語 【ステータス】 筋力D 耐久D 敏捷E 魔力EX 幸運D 宝具EX 【属性】 混沌・善 【クラススキル】 陣地作成:EX  魔術師に有利な陣地を作り上げる。工房を上回る神殿、信者さえ確保できれば更にその上を行く教団領を作成可能。  教団領は信者の数に呼応して範囲を拡大可能。教団領内に限定すれば、キャスターは過去や現在の改変・物質や生命の分解と再構築、空間の操作等本体の持つ『権能』を小規模で再現可能となる。  令呪の補助を受けた場合は、教団領内に関係する事柄に限れば外部にすら干渉可能。 道具作成:E  魔力を帯びた道具を作成できる。  特に非業な生涯を送る不器用な人間を自らの『使徒』として仕立てることを好む。 【保有スキル】 神性:☆  摩利支天。仏教の守護神である天部の一柱。日天の眷属で陽炎を神格化したもの。  キャスターの正体はその伝承の元となった張本人であり、神霊そのものであるため通常のサーヴァントの規格を超えたランクで表記される。 カリスマ:B-  軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。  神仏としての崇拝を集め、また新たな教団を作り世界規模で浸透させるだけのカリスマ性を持つ。ただし本性を曝け出した相手には効果を喪失する。 天の属:-  天界に生まれた唯一神直系使徒。かつて運命を司った聖四天という出自を表す。  本来この次元で観測できる彼女は二十六次元からの射影であり、それ未満の次元からでは彼女の本体に干渉することはできない。  ただしサーヴァントとして再現された分身に過ぎないキャスターは、その性質を失っている。 魔眼:E~A++  宝具に由来する億千万の目。ただの人間の目から、元の持ち主がわからないものまで、ありとあらゆるものを見通す無数の目を眷属として保有している。  中でもキャスター本人が持つ未来視は最高位の魔眼とされている。 【宝具】 『億千万の眷属・視姦魔人(Laplace's demon)』 ランク:EX 種別:対心宝具 レンジ:億千万 最大捕捉:億千万  魔人の最高位、インフィニティ・シリーズの一柱である億千万の目。視えぬものなしと謳った視姦魔人である彼女の能力にして眷属、在り方そのものの伝説が宝具として再現されたもの。  此方から彼方までの空を埋め尽くすほどの大小様々な、数え切れぬほどに膨大なストックのある眼球を場所と個数を問わず自在に召喚し、使役する。  精神的な干渉に特化しており、白い目玉、黄ばんだ目玉、血塗れの目玉、萎んだ目玉、乾いた目玉、潰れた目玉、人の頭ほどもある目玉、人の体が入りそうな目玉等々のいずれもが他者を覗き込むことで心を読み、必要とあればそこに何かを投影し、そのまま対象を発狂させることや五感を欺き幻惑することができる。この効果は精神干渉に耐性を持つ相手でも、宝具ランク未満ならば貫通して作用する。  敢えてこちらから覗き込まずとも、元々気の弱いものならば大量展開しただけでも正気を失ってしまいかねない景色を披露できたが、此度の聖杯戦争では常を越える精神的打撃を見るものに与えることとなる。また、奪い取った他者の目を宝具の一部として取り込むことが可能。  過去未来現在、世界中から異界まで果てなく見通す全知の神たるチカラであったが、人間のマスターではその本来の規模を再現することは不可能。  それでも都市一つを見通すだけの力は発揮できるが、ハイゼンベルクの不確定性原理に打ち払われて以来、完璧であったはずの未来視は損なわれ、時に視間違いを起こしてしまうようになった。 【weapon】 ・白杖……造りが良いだけの杖。キャスターの膂力ならば人体を貫く程度はできるが、サーヴァント相手には意味を成さない。 ・神器『崩壊の鐘』……本来はキャスターの持つもう一つの宝具であるが、クラス適正とキャスター本人の希望もあってここでは外観を再現しただけの単なるカウベルとなっている。 【人物背景】  元は天界に生まれた唯一神直系使徒。運命を司る聖四天の座を与えられ、未来を見通す力を持っていた。  悠久の昔、未来視の力で人心が神仏から離れることを察知し警告を発したが、逆に彼らに人間への愛想を尽かせ、神々を異界へと引きこもらせることとなってしまう。  わずかに人界に残った神々には問題児しか居らず、人類を絶滅の危機に追い込む神々の潰し合いの仲介役としてマリーチは自らの片翼を折り、天界を離れて地上を管理する神々の列に加わる。  神々の手綱を握る魔王の側近に収まる一方で、預言者として神殿協会を設立して人と魔のバランスを取って人の世を導く存在となり、後の摩利支天のモデルとしての信仰も集めた。  しかし訪れた平和な世界は皮肉にも人の心を鈍らせ、やがて人間同士の争いを頻発させるようになってしまう。  やがてハイゼンベルクにより狂わされていた未来視で最悪の世界大戦を視たマリーチは、それを回避するために『一切問題のない世界』を作ろうとするも、クルト・ゲーデルの不完全性定理によってそんなものは実現し得ないと、よりにもよって導いて来た人の理性により拒絶されてしまう。  第二次世界大戦の結末もマリーチの視たものとは異なる結果となり、自らの存在意義を揺るがされたマリーチは心を歪め邪神と化す。自らの見たいシナリオのために他者の人生を玩弄し、そうして作った恨み辛みを利用して次の芝居を打たせるような邪悪な神に。  やがて、かつて己の発した警告で神々が不在となった世界そのものを玩具として破滅寸前に導くが、初代聖魔王が引き連れた軍勢との戦いの中、初代魔王から改竄していた己の記憶を突きつけられ、ショックで己が何者であったのかも忘却して逃げる道を選び、神として“堕ちて”しまう。  しかし更なる未来、文明崩壊後も残っていた神殿協会改め神殿教会の象徴・預言者として存在していたマリーチは、悠久の時の中で忘れ去られて消え去る前に、時の教皇クラウディスの暴走によって自己を取り戻す。今回限りの反則としながら再び神としてのチカラを揮ってクラウディスの起こした動乱も、それに関わった者達の人生も書き換えて事態を鎮圧。  聖魔杯を求めるマヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトに警告を与えるものの、初代魔王ら残った神々同様、基本的には人の世を見守るという在り方に従い彼らの旅を覗き見している。  かつては善神だったが現在は性悪。人間が悩み苦しむ様を視るのが大好きで、不幸な生涯を送ってきた人間の目玉をコレクションするなど大概な一方、そのような境遇を恨まず自らの信心を貫く人の在り方を好み、そういった人間には今でも時々神としての慈悲を与える。本当に時々。ただし堕ちてボケていたのが直った後は、以前よりも心なし温和。  現在では自らを基本的にはブラウン管の外の視聴者としており、ファンレターのように役者へ意見を言うことがあってもスタジオに入ることは「たぶん」もうないと語っており、今回も切嗣が四苦八苦するところを見たいだけであるため、本当に陣地外でまで手助けするつもりはないと思われる。ただし、そのLIVEをリラックスして楽しみたい自分の領域(リビング)にまで踏み込んでくる場合にはその限りではない可能性もある。 【マスター】  衛宮切嗣@Fate/Zero 【マスターとしての願い】 聖杯を勝ち取り、危険ならば破壊。そうでなければイリヤスフィールを助け出すために使用する。 【weapon】 護身用のトンプソン・コンテンダー 【能力・技能】  魔術師としての腕前は並程度だが、一般的な魔術師が忌避している銃火器及び爆発物の扱いに長けており、また自身の時間流を操作する『固有時制御』での高速戦闘及びバイオリズムの抑制による隠密活動を可能とする。 【人物背景】 「魔術師殺し」の異名を持つ、魔術師を殺す術に長けた異端の魔術使い。  冬木で執り行われた聖杯戦争に参加し世界を平和にするという願いを叶えようとするも、その聖杯に宿っていた『この世全ての悪』の存在に気付き、セイバーに聖杯を破壊させ、聖杯から溢れた泥を浴びて呪いを受けることとなる。  冬木の大火災を引き起こした原因である切嗣は、その火災の中で唯一助け出すことができた士郎を養子として引き取り静かに暮らしていたが、その実何度も妻・アイリスフィールとの忘れ形見である娘のイリヤスフィールをアインツベルンから奪おうと何度もアインツベルンの領内へ踏み込み、そしてその度に凍死寸前まで彷徨い歩いてきた。  今回の聖杯戦争ではサーヴァントのチカラにより肉体が以前の健康な状態へ戻っており、自らを聖杯の危険性を知りうるただ一人の人間として、イリヤスフィールを助け出す為に利用できるのなら利用するつもりで聖杯を求める。   【方針】  キャスターは陣地に篭り、切嗣が帰って来た際に回復するか、敵が攻め込んで来た際に場合によっては迎撃するだけ(やられたフリだけで済ますか抗戦するかは気分の問題)。  基本的には片目喪失起源弾なしの切嗣が単独で敵マスターを発見し打倒して行く形となるためかなりのハードモード。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: