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鵺野鳴介&ランサー」(2015/07/21 (火) 00:00:18) の最新版変更点

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*鵺野鳴介&ランサー ◆wgC73NFT9I  ある晴れた日。  空は雲一つなく澄み渡り、涼しい風の吹く気持ちの良い朝だった。  職場である童守小学校へ向かう稲葉京子の足取りも、自然と軽くなる。  自宅も思わず、いつもより早く出てきてしまった。  彼女は朝日の差す校門に、一人の知り合いの教師が立っているのを見つける。  短く刈り込んだ黒髪に凛々しい眉毛。  腕まくりしたワイシャツに黒のスラックス。  左手にだけトレードマークの黒い手袋を嵌めて、大きな水晶玉を乗せている。  自分も11年前に薫陶を受けた、偉大な霊能力者の先生、鵺野鳴介だ。  彼は何故か眉を顰めたままぶつぶつと何事か呟き、うろうろと校門の前を右往左往していた。  まだ登校時間には早いから人目はないが、はっきり言ってその挙動は不審者のそれだ。  響子は朗らかに彼に声をかけた。 「ぬ~べ~、おはよう! 一体どうしたの?」 「ああ、おはよう響子。ところでお前今日、下痢してたりしてないか」  鵺野鳴介はそう言って、いきなり響子の下腹部に手を伸ばした。 「ひえっ……!?」 「うむ……、霊障の気配はないな……。するとやはり俺一人を狙っている……?」  手袋を嵌めた左手で、真顔のまま鵺野は彼女のスカートの上を撫でまわす。  響子は顔を真っ赤にしながら彼を叩きのめした。     □□□□□□□□□□ 「……強い霊気を感じたからって、いきなりアレはないでしょ、鵺野先生!!」 「す、すまん。今朝からどうもこの学校の一帯に強烈な邪念のようなものを感じてな……」  職員室の椅子に座り、稲葉響子は憤慨していた。  顔中を青あざだらけにされた鵺野鳴介は、隣に座ったままへこへこと頭を下げている。 「それにしても、その邪念の正体って、掴めたの?」 「いや、それがわからないから悩んでいるんだ。校内に入ったらもっと強くなった。  かなり強い霊気だから、生徒や他の教師たちにも影響が出ているんじゃないかと思ったんだが……」 「うーん……、別に私は何も感じないけど。お天気もこんなに良いし。ぬ~べ~の勘違いってことはない?」 「むぅ、昨晩は3日前の給食の残り物を食ってしまったからな……。もしやアタったか……?」 「下痢ってそれかい!! もぉ~! ゆきめさんが九州だからって食生活だらしなさすぎ!!」  響子の問いに返ってきたのは、恩師である同僚の情けない食事内容の告白だった。  蒼褪めた顔で腹を押さえる鵺野に、響子は呆れかえる。  かつては今と同じく童守小学校5年3組で、稲葉響子にも勉強を教えていた鵺野鳴介だったが、それから数年間は九州に転任になってしまっていた。  彼はゆきめという気立ての良い雪女の少女と結婚し、人間と妖怪という種の差はあれど円満な夫婦生活を送っていたはずだった。  だが、アイス販売事業を起ち上げた彼女を九州に残し、現在の鵺野鳴介は童守町に単身赴任中である。  そのため彼の生活は、独身時代と同じ粗末なものになってしまっていた。  食べるものといえば給食かカップ麺という、料理をする気もない恩師の悲惨な食生活に、響子は頭を抱えた。  じっとりとした目つきで、彼女は鵺野をねめつける。 「とりあえず、授業はできるんでしょうねぇ、鵺野せんせぇ?」 「お、おう、もう大丈夫だから睨むな睨むな、ハハハ……」 「しっかりしてよねぇ、生徒たちのためにも」  鵺野鳴介こと『ぬ~べ~』は、前任の際と同じ5年3組の担任だ。  かつての教え子だった稲葉郷子も新米教師となり、鵺野と一緒にT・Tで教鞭をとっている。  T・T(チーム・ティーチング)とは読んで字のごとく、クラスに2人の教師を置くこと。  郷子は他にも3クラスの副担任を兼任しており、常時いるわけではないが授業に参加する時は担任の鵺野を出来る限りサポートすることになっている。  もし鵺野が体調不良ということならば、響子や生徒の負担が倍増することになるので一大事なのだ。 「ぬ~べ~先生! 体育倉庫の鍵借りまーす」 「おう、今日の一時間目は体育からだったな。いいぞ、そこから取っていきなさい」 「はーい」  二人が書類をまとめて立ち上がろうとした時、ちょうど5年3組の生徒が職員室に入って来た。  鵺野が壁際の棚を指すと、体操服を着た生徒は元気よく走って行って、鍵のある戸棚を引き出す。  その瞬間だった。  鵺野鳴介こと『ぬ~べ~』は、前任の際と同じ5年3組の担任だ。  かつての教え子だった稲葉郷子も新米教師となり、鵺野と一緒にT・Tで教鞭をとっている。  T・T(チーム・ティーチング)とは読んで字のごとく、クラスに2人の教師を置くこと。  郷子は他にも3クラスの副担任を兼任しており、常時いるわけではないが授業に参加する時は担任の鵺野を出来る限りサポートすることになっている。  もし鵺野が体調不良ということならば、響子や生徒の負担が倍増することになるので一大事なのだ。 「ぬ~べ~先生! 体育倉庫の鍵借りまーす」 「おう、今日の一時間目は体育からだったな。いいぞ、そこから取っていきなさい」 「はーい」  二人が書類をまとめて立ち上がろうとした時、ちょうど5年3組の生徒が職員室に入って来た。  鵺野が壁際の棚を指すと、体操服を着た生徒は元気よく走って行って、鍵のある戸棚を引き出す。  その瞬間だった。 「……? あれ、なんだこの『銀の鍵』……?」  鵺野鳴介の背筋に、強烈な悪寒が走っていた。 「待て! その鍵に触れるな!!」 「え、どうしたのぬ~べ~先生?」 「ぬ~べ~!?」  響子と共に急いで生徒の元に走り寄り、鵺野はその棚の中に入っている鍵を見つめる。  体育倉庫の鍵棚の中に、明らかに異質な銀製の鍵が混ざっていた。  うすら寒い瘴気のようなものがその鍵から出ているのが感じられる。  間違いなく、今朝から鵺野が感じていた邪悪な霊気は、そこから発生していたものだった。  鵺野は左手の黒い手袋を外す。  そこから出てきたのは、赤紫色をした、鉤爪を持つ異形の『鬼の手』だった。  形状としては、体育倉庫の鍵とほとんど同一だ。  しかし、今まで使っていたものはもちろん銀製ではない。  何者かが夜間に入れ込んでいたとしか考えられない。  強い霊的な干渉能力を持つ鬼の手で、その鍵を拾い上げてみた。  その鍵自体には、なんら怪しい箇所は見受けられない。  だがその鍵からは何か描写し難い、地獄か異世界に『繋がっている』ような感覚が、鬼の手を伝わってくる。  持ち手には、『鬼』という文字がレリーフにされていた。  ――明らかに、これを仕掛けた奴は、俺を狙っている。  鬼の手で、その鍵を強く握り込んだ。 「響子……、いや稲葉先生。この鍵が、俺の感じていた邪念の発生源だ。  正体を確かめる。もしかすると今日の授業は出来なくなるかもしれん。生徒たちを頼んだぞ」  鵺野が振り向いた先で、稲葉響子が硬い唾を呑んだ。     □□□□□□□□□□ 「ぬ~べ~先生……、大丈夫なのかよ一人で……!?」 「来るんじゃないみんな。何が出てくるのか解らないんだぞ! お前たちを危険な目に会わせるわけにはいかない!」 「だって、私たちもぬ~べ~先生のことが心配なんだもん!!」  体育倉庫前で、5年3組の生徒たちと副担任の稲葉響子が、不安げに鵺野鳴介のことを見守っていた。  鵺野は出来る限り離れた位置へ彼らを追いやり、恐る恐る、その鍵を体育倉庫の鍵穴に差し込んだ。  学校のセキュリティを容易く掻い潜り、明らかに鵺野だけを狙ったような謎の鍵を置き去っていった相手だ。  間違いなく妖怪か霊の類だろう。  何を目論んでいるのか知らないが、あからさまな邪念と唯一の手がかりを残されていってしまった以上、生徒を守るためにも誘いに乗ってやるしか鵺野の選択肢にはなかった。  いつでも鬼の手を抜き放てるように構えつつ、彼は銀の鍵を回す。  果たして、カチリという軽い音とともに体育倉庫のロックは解かれ、その向こう側が開け放たれた。 「……あれ?」  そしてその向こう側には、なんとバレーボールがあった。  バスケットボールも、跳び箱も、巨大なマットやフラフープさえあった。  つまりは、いつも通りの倉庫そのまま。  特に霊気なども感じられない。 「……なぁんだ、カン違いかよ、つまんねー」 「ぬ~べ~先生かっこわるぅーい」 「あ、あはは、まぁたまにはこういうご愛嬌もあるってことで、な、みんな……」 「折角ぬ~べ~の鬼の手が見られると思ったのに期待させやがってよー」  まるっきり肩すかしだった。  張り詰めていた緊張の風船を中途半端に萎まされてしまったような不平の嵐に、鵺野は平謝りするしかなかった。     □□□□□□□□□□ 「……はぁ、霊感が鈍ってるのかねぇ? それとも本当に昨日のメシのせいとか……?」  帰り道、鵺野はとぼとぼと自宅のアパートへの道を辿っていた。  結局終業時間まで、学校では何の異変も起きなかった。  鵺野の腹具合が悪くなっただけである。  あれほど感じていた邪念のような霊気も、ぱったりとナリを潜めてしまっている。  一応、詳しく帰ってから調べようと思い、件の銀の鍵はポケットに入れてきているものの、これ以上この物品で何かがわかるとは考えづらかった。  釈然としないままの歩みでも、アパートにつくのはすぐだ。  九州からアーカムに帰って来て借りたアパートは、ミスカトニック川や商店街にも近く、それなりに立地の良いところだ。  ミスカトニック大学に併設された小学校からも当然近い。  それに、家に帰れば手料理を作ってくれるあの子が――。 「――!?」  そこまで考えて、鵺野鳴介は自分の思考に衝撃を覚えた。  家で手料理を作ってくれる『あの子』など、いるはずがなかった。  いたら、鵺野は今日、腹を壊していない。 「アーカム……!? ミスカトニック……!? どこだここは……!?  童守町じゃない。こんな場所、今まで俺は知らなかったはずなのに、なぜ、知っているんだ……!?」  今まで全く存在しなかったはずの記憶を、自分は何の違和感もなくそのまま享受してしまっている。 「いつの間に……!? あの、体育倉庫を開けた時からか!?」  鵺野は、来たことも聞いたこともないはずのこの土地の地図や生活を、詳しく思い描くことができてしまっていた。  恐らく彼は一瞬にして、偽りの記憶を刷り込ませられながら別の空間に移動させられてしまったのだろう。  そして同時に彼は、この土地で自分がこれからしなくてはならない『戦い』のことも、理解してしまう。  鵺野鳴介は歯を噛み締めて、アパートのドアノブを回した。  鍵は思った通り、開いていた。 「あ、お帰りなさい、先生。お夕飯、もう少しでできますから」 「……あなたが、俺のサーヴァントなんですね」  自宅の玄関には、煮物の醤油とダシがくつくつと煮立つ、香しい湯気が漂ってきている。  鵺野はその向こうで自分に微笑みかける、エプロン姿の少女に向かって、静かにそう呼びかけた。  顔立ちから窺える年の頃は、せいぜい大学生か高校生くらいにしか見えない。  長い亜麻色の髪を後ろでひとくくりにして、普段着然としたブラウスとジーンズを身に纏っている彼女のエプロン姿は、そのまま新妻か何かのように堂に入っていた。  彼女は洗い物をしていた手をタオルで拭き、鵺野に向けて深くお辞儀をする。 「はい。改めまして、ランサーのクラスで召喚されました、綾小路・ハーン・葉子と申します」 「俺の名前は、鵺野鳴介です……。すみません、ちょっと何が何だか混乱して……」 「そうですね……。どうもこの土地は、亜空間系縛妖陣(フーヤオチェン)の一種のような気がします。私も最初はびっくりしました」  綾小路葉子と名乗った少女は、見かけによらぬ非常に落ち着いた態度でそう語った。  彼女が自身の配下である槍兵だということも、鵺野自身理解していた。  だがそのこと自体が、鵺野には理解困難だった。  聖杯戦争、マスター、サーヴァント、神秘への畏れ。  今まで自分が持っていなかったはずの知識を何故か持っており、なおかつそれを不思議にも思っていなかったことに、鵺野は並々ならぬ焦燥を感じている。 「こ、この界隈全体が巨大な結界のようなものだと……!? それが本当だとしたら、一体俺たちはどんな化物から狙われていることになるんだ!?」 「そうですね……、ベナレス様以上の力を持った方かと。そんな方に連れ去られてしまった以上、腹をくくるしかないのかと思います」  確かなのは、鵺野がこの目の前の少女と共に、何者かが企画した殺し合いに巻き込まれてしまったということだけだ。  霊能力者である自分の記憶すら簡単に改竄し、その上で自分のいた空間までどこかに転移させてくるとは。  この企画の裏に潜む相手は、想像を絶する強大な霊力を持った者に違いなかった。  それにつけて、この少女は早々と『腹をくくる』――つまり、その他の聖杯戦争の参加者と戦うことを覚悟してしまっている。  鵺野は青い顔をして、綾小路葉子という少女を睨みつけた。  彼女は心配そうに鵺野の顔を覗き込んでくる。 「鵺野先生、大丈夫ですか? ご気分が……」 「すみません、葉子さん……、と仰いましたね。そこから動かないでください。  ……あなた、人間では、ありませんね……?」 「あら、精(ジン)の流出は極力抑えてたんですが、わかっちゃいますか。先生は鋭いですね」  少女は驚いたように眼を見開いて、指先に髪を掻く。  鵺野は額に冷や汗をかきながら、念珠と水晶玉を綾小路葉子に向けていた。  彼女からは、押さえ込んではいるものの、隠しきれない程の強力な霊気が漂っている。  人間の少女の姿をしてはいるが彼女からは、自身の妻であるゆきめや、妖狐である玉藻のような強い妖物の気配が感じられた。  ことによると、自分に銀の鍵を届けてこの土地に誘い込んだ人物は、彼女なのかも知れない。  そうでなくとも、問答無用で他のマスターや一般人を襲おうとする妖怪なのであれば、鵺野は許すわけには行かなかった。 「……職業柄、妖怪や霊にはよく関わってまして。もしあなたが、人間に危害を及ぼすような妖怪であるなら、例え自分のサーヴァントであろうと、俺はあなたを倒さねばならない」 「危害なんて……!」  鵺野の低い声に、綾小路葉子は唇を噛んだ。 「私も、夫と子供を持つ身です。ベナレス様の元で『化蛇(ホウアシヲ)』として生きていた時は確かに色々とやりましたが……。  今はもう、私を迎え入れてくれた人間社会を乱すつもりなんて、少しもありません……!  ここに来るような怪物(モンストルム)は、私みたいな者ばかりではないでしょうから……、むしろそんな者を止めるために戦おうと思っていただけです!」 「『化蛇(かだ)』……!? あ、あの、山海経に記載されている、洪水を起こす人面蛇身の妖怪ですか……!?」  化蛇(かだ)は、中国に伝わる妖怪である。  山海経の五、中山経によれば、 『その顔は人面の如くにして しかも豺身鳥翼ありて 蛇行す  その声は叱叫するが如く あらわるれば則ち その邑に大水あり  化蛇(ホウアシヲ)なる水妖は かような怪神なり』  などとある。  本当ならば、彼女は中国ではかなり有名な水神の一人だということになる。  彼女から吐露された意外な情報に、鵺野は慌てる。  神性すら帯びているだろう相手が奇特にも人間へ味方してくれようとしているのに、思いっきり敵対的な応対をしてしまったのだ。  狼狽する彼はそこではたと、さらに彼女の奇特な点に気づく。 「そうだ、あなた複合姓(ダブルネーム)でしたよね。ご結婚されてるんですか!?」  間の抜けたその質問に、葉子は叫ぶように声を荒げた。 「そうです! 人間と『闇の怪物(モンストルム)』が結婚しちゃ悪いんですか!?  妖怪は心も体も醜い、なんて言う類の輩なんですか先生も!?」 「あ、いや……、決してそういうわけでは!!」  眼に涙を溜め始めた葉子の声に、鵺野は蒼褪めた顔で手を打ち振る。 「俺も、妖怪と結婚しているんです! 雪女ですが、一途に俺のことを思ってくれる良い子で。俺もあの子を愛しています。  だから、妖怪でも人間と分かり合えるのだと身に染みて感じます。  いや、ことによると、人間より気高い精神を持った子だっているんだと思います……!」 「そう……、なんですか……!」  鵺野は慌てて水晶玉を放り出して玄関から上がり、綾小路葉子の手を握る。  今までの非礼を詫びるように、切々と自分の愛する妖怪への思いを語った。  それに彼女の顔はパッと明るくなる。  鵺野は妖怪との壁を乗り越えた人間である。  葉子は人間との壁を乗り越えた妖怪である。  自身のマスターが理解ある人間だったことに、葉子は感激したようだった。  鵺野は汗を垂らしながら、真摯に言葉を紡いだ。 「あなたが俺をここへ連れてきたわけではないんだとも、わかりました。  これから一緒に、俺たちをこんな戦争に巻き込んだ奴の正体を確かめましょう。  この場所にも、俺の生徒たちはいるんです。彼らを守るためにも、どうか協力してください……!」 「ええ、よろしくお願いします……!」 「はは、俺の方こそ、よろしくお願いしま……はオッ!?」 「先生!? どうしたんですか!?」  だが言いかけた途中で、その言葉は呻きに変わる。 「あ、いや……、今朝から腹の調子が……! 3日前の給食を食っちまったもんで……」 「そんなの悪くなってるに決まってるじゃないですか!!」  差し込むような腹の痛みについに耐え切れなくなり、鵺野はついにぐるぐると喚く腹を押さえて膝を折りかける。  先程から顔色が悪かったり冷や汗が出ていたりしたのは、すべてこの腹痛のせいである。 「――先生、ちょっとじっとしてて下さいね」 「な、何を――」  彼の前で、葉子が腕まくりをした。  するとその右腕がいきなり長く伸び、緑色の鱗に覆われる。  手には鉤爪と水かきが生え、肩口にまで、翼のような水かきのような皮膜が生じていた。  『化蛇』としての性質を、部分的に発現させてきたものらしい。  彼女がその掌を鵺野の腹に当てると、唸り回っていた彼の腹痛が、嘘のように収まっていた。  葉子はばっちりとウィンクをしてみせる。 「洪水の妖怪だからって、私の能力(ハビリータス)は大雑把な破壊以外のこともできるんですからね?」 「これは……、腸の中の水分バランスを正してくれたんですか」 「ええ。むしろ今となっては、近くで細かな動きをさせることの方が性に合ってるんです」  水音に鵺野が顔を上げてみれば、シンクの蛇口がひとりでに水を流し、洗い場に残っていた食器を洗っていた。  すすがれた食器は、水がまるで生きているかのように腕の形を成して、水切り棚の上に載せてしまう。  彼女はうきうきとした様子でキッチンに戻り、火の通った鍋をコンロから下ろす。  照りのきいた大根と鶏肉の煮物が器に盛られ、お釜からは白いご飯が茶碗によそられた。 「奥さんに敵うかどうかは分かりませんが、少なくともここにいる間は、先生のお腹も命も、しっかりお守りしますので。  妖怪と人間の今後のためにも、どーんとこのランサーに任せてくださいね!」  食卓に並べられた家庭料理の数々を見て、鵺野の口の端から思わず涎が零れた。  彼女の夫であるハーンという男性はさぞや幸せなのだろう、と思わずにはいられなかった。  しかし次の瞬間には、いやいやうちのゆきめだって負けないくらい料理は上手いぞ、と考えて首を振る。  いずれにしても、久方振りに胃に収めた手料理の味は、鵺野の五臓六腑に染みわたった。  ――彼女が俺を守ってくれるように、俺は、生徒たちの、人々の命を守ろう。  名も知れぬ魍魎から神仙すら裏に控えているかも知れぬ危険な戦いへの、決意を固めるに足る旨さだった。 【クラス】 ランサー 【真名】 綾小路・ハーン・葉子@3×3EYES 【ステータス】 筋力C 耐久D+ 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A++ 【属性】 中立・善 【クラススキル】 対魔力:B  魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。  大魔術・儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 【保有スキル】 怪力:B  一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。  使用する事で筋力を1ランク向上させる。  ランサーが使用する場合は、体の一部を『化蛇』の状態にしておかねばならない。  また使えば使うほど『綾小路葉子』としての人格が崩れて、怪物としての思考に近づいていってしまう。 神性:E  神霊適正を持つかどうか。  ランサーの種族である『化蛇』は、一説には水神とされることもあったが、下級妖魔とされることもあった。  そのためランクは低い。 中国伝承:B  伝承、神話などに対する造詣の深さ。自身も山海経に記載されている妖魔であるため、ランサーの知識はかなり豊富。  中国において逸話を持つ宝具を目にした場合、かなり高い確率で真名を看破することができる。  また、司馬R太郎、E藤周作などの文学にも詳しい読書家であり、龍皇ベナレスの配下として相当数の妖魔と交流してきたため、中国以外の逸話に関しても2ランク下がった状態でこのスキルを使用できる。 応急手当:A  怪我などの簡易治療ができる技能。  ランサーは自身の能力により、対象の体液を操作し傷の治りを早めることが出来るためそのランクは高い。  もちろん自身に対しても使用可能であり、同ランクの戦闘続行スキルの効果を兼ねる。 水泳:EX  泳ぎの巧みさ。ランサーは元々水を操る水棲の妖魔なので、悪条件でも何不自由なく水中で行動できる。  水中で呼吸や発声をすることも可能。 【宝具】 『化蛇(ホウアシヲ)』 (人間形態時)ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:10 (部分変化時)ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100 (妖魔形態時)ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000  ランサーの肉体そのものであり、本来の姿である『化蛇(かだ)』と呼ばれる妖魔としての能力を含む宝具。  綾小路葉子としての人間の姿から、下半身と腕までが完全に爬虫類となった半人半蛇の姿にまで自在に変化できる。  また『水を操る能力』を持っており、妖魔の姿になるにつれてその性能が向上する。  人間形態時は、主にペットボトルや水道、空気中などから得た水分を数百リットルまで操作することができる。  超高圧水流を噴射し相手を貫通する『水の槍』で攻撃したり、水流の縄で相手を捕縛したり、水の盾を成して衝撃を緩和させたり、接触した相手の体液を逆流させ内部から破壊するなどして活用する。  腕などを部分的に本来の姿に戻すと、水を操作できる範囲が拡大し、その操作可能量は約数億リットル(小さめの貯水池程度)にまで上昇する。  より多方面の相手に一度に『水の槍』をぶつけたり、下水道を逆流させてマンホールを溢れさせ、街道1ブロックを封鎖するなどのことまで優に可能。  半人半蛇となり『化蛇』としての性質を完全に現すと、一河川を流れる全ての水に匹敵する水分量(重量にしておよそ数兆トン以上)までをも操作することができる。  大洪水を起こして一帯を水没させたり、津波として叩きつけて建造物を崩壊させたり、大量の敵を水で絡めとって溺死させたりすることも可能。  ただし妖魔形態時に大量の水を操り続けると『綾小路葉子』としての人格が崩れて、怪物としての思考に近づいていってしまう。  なお当然のことながら、操作範囲・操作量が上がるにつれて消費魔力も飛躍的に上がっていく。 【weapon】  ミネラルウォーターのペットボトルを常時携行しており、手近なところに水がない場合、主にその水を操作して攻撃する。  その他、腕を『化蛇』の姿に戻すと、下腕が伸び、固い鱗と鉤爪と水掻きが生えるため、怪力を使わずとも人の肉を引き裂く程度の攻撃力は持つことができる。  下半身まで『化蛇』の姿になれば、その蛇状になった尾で相手を締め上げることも可能であり、水中を泳ぐ速度も速くなる。 【人物背景】  漫画『3×3EYES』の登場人物。ヤングマガジン海賊版に連載中の続編『3×3EYES~幻獣の森の遭難者~』にも出演している。  もともとは中国に伝わる洪水をもたらす水妖『化蛇』であり、三只眼という妖怪を統率する鬼眼王のボディーガードである无・ベナレスの配下だった。  三只眼の生き残りであるパイの記憶を封じる命を受けていたが、主人公の八雲に深い想いを寄せ、ベナレスに反旗を翻す。  自ら化蛇に戻った後、普通の高校生『綾小路葉子』として転生し、級友たちと平穏に暮らすようになる。  再び戦いに巻き込まれた際は八雲たちの仲間となり、戦いを通じて、パキスタンの秘術商人ハズラット・ハーンから思いを寄せられる。  八雲にとってのパイの存在、ハーンの真摯な思いなどから、次第に彼に惹かれるようになる。  ハーンの死後は八雲達とは別行動を取り調査に当たっていたが、鬼眼王にハーンの残された魂を人質にされ、精神支配を受けて再びベナレスの配下となった。  八雲たちとの戦いを経て自我を取り戻し、戦線から一時離脱するも、サンハーラの核での最終戦闘には参戦。  今でも八雲が好きだと断ち切れない想いを語っていたが、後日談の外伝ではサンハーラで復活したハーンと結ばれ、長女セツをもうけて幸せな家庭を築いた。  娘を愛しているが、いずれ鬼眼王が復活した時に彼女も重要な戦力となると考え、幼少期から実戦訓練を積ませようとしている。  娘を普通の人間として育てたい夫のハズラットに、そうした思考を咎められて諍いが起きたこともある。  未だ自分の根底にあるそうした『闇の怪物(モンストルム)』としての性質はコンプレックスにもなりうるようだ。  お気に入りのご当地スイーツは北海道の白い恋人と、長野の雷鳥の里。 【サーヴァントとしての願い】  人間と妖魔の間でも平穏な暮らしが続くことを願う。  そのため人間と妖物で共存しているという、自分と似た境遇のマスターを守り、無事に家庭へ帰す。 【マスター】  鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~ 【マスターとしての願い】  人間と妖怪の間でも平穏な暮らしが続くことを願う。  聖杯戦争という非人道的な企画の謎を解き明かし、人々を守りながら首謀者の狙いを挫く。 【能力・技能】  左手に『鬼の手』を有し、彼の霊能力者としての除霊能力を格段に高めている。  九州の小学校に赴任してから5年後に覇鬼が地獄に帰ってしまったため、現在は残留妖気の「陽神の術」で作り上げた形だけの存在であることが判明している。  その力は100分の1ほどに落ちていたものの、その後で鬼の手に変わる力の玉を得て鬼の手を復元し、『鬼の手NEO』として行使している。  鬼の手による霊的攻撃能力以外にも、霊波封印の術、幽体離脱、思考に触れる、ダウジングやフーチによる感知能力、白衣観音経による白衣霊縛呪などの多彩な霊能力を行使できる。 【weapon】  上記の鬼の手の他、白衣観音経や霊水晶、念珠を携帯しており、鬼の手と共に彼を印象付ける道具となっている。 【人物背景】  漫画・アニメ『地獄先生ぬ~べ~』の主人公。グランドジャンプにて連載中の続編『地獄先生ぬ~べ~NEO』にも出演している。  童守小学校5年3組の担任教師。日本で唯一の霊能力教師で、左手に鬼の力を封じ込めた鬼の手を持ち、普段は黒の皮手袋を嵌めて隠している。  鬼の手は彼自身のシンボルとして、悪霊や妖怪を倒す必殺の武器となる他、霊の心を読み取ったり、気を送り込んで霊や妖怪の傷を癒やすなど、様々な能力を持っている。   責任感が強く、奉仕・慈悲の精神に溢れる反面、ドジ・間抜け・スケベな一面もある。  計画性の無さ、要領の悪さ、金銭面でのだらしなさで呆れられてはいるが、その人柄や人望により、学校の同僚の教師や生徒たちから深く敬愛されている。  正義感が強いゆえにやや一方的で頑固な一面も見られるものの、最終的には相手の意見の正しさを納得して受け入れる柔軟さと自らの過ちを改める誠実さも持ち併せている。  運動神経は抜群で、中学時代から大学まで色々なスポーツを経験しては、体操や球技からスケート・スキー・水泳など何でもこなせる。  一方で車の運転やゲームは全くできない不器用ぶり。運転免許もようやく取れた模様。  それでも運転はヘタと自負し、幽霊に条件付きでサポートしてもらっていたほど。  本編終盤では、彼を愛する雪女ゆきめと結婚した。  彼女はかき氷売りからアイス販売を事業化しぬ~べ~家の生計を立てている模様。  結婚後も彼はゆきめから「鵺野先生」と呼ばれている。 【基本戦術、方針、運用法】  ランサーが主な攻撃手段として用いる『水の槍』は、その性質上直線的な刺突しかできないものの、貫通力の高い大口径のウォーターカッターであり、複数本同時に生成できるため、その攻撃力は非常に高い。  懐に入られても、自在に水を変形させて応戦できるほか、妖魔としての自身の腕を用いた白兵戦も可能。  むしろ接近戦では、相手を水球に捕縛して窒息させたり、接触部の体液圧を操作して内部から炸裂させるなど攻め手が増える。  自分とマスターだけを大きな気泡で包み、呼吸を確保したまま潜水したりすることも可能。  マスターも鬼の手や白衣観音経といった英霊に干渉・攻撃できる手段を持っており、それなりの魔力も有しているため、敵サーヴァントとの直接戦闘においても柔軟に対応できるだろう。  宝具の最終段階の解放や怪力スキルについては、ランサーが自身の妖魔としての思考をコンプレックスにも思っているため、積極的には使わないと思われる。  両人とも人並み以上に正義感はあるため、悪行を為しそうなサーヴァントとマスターに対しては容赦なく交戦を仕掛けていくだろう。  とりあえずこの聖杯戦争というものの裏に潜む思惑を探ろうと調査に乗り出すことから始めると考えられる。

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