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《不運》ツスクル&キャスター」(2016/04/28 (木) 23:04:22) の最新版変更点

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*《不運》ツスクル&キャスター ◆zzpohGTsas 「悩んでいるの?」  人通りのない夜の路地裏の事である。 大きな赤い帽子を被った、民族衣装のような赤の服を着用した女性が訊ねて来た。 大きめの襟が鼻梁の中央部分まで顔を隠している為、目元位しか顔のパーツが確認出来ないが、それだけの露出でも、陰性の美を湛えている事が解る、上玉の女性である。 「……何をして良いのか、少し迷ってる」  帽子の女性の言葉に応答するのは、アジサイのような紫色のフード付きローブを身に付け、肩の辺りにたすき掛けの要領で鎖を巻き付けた、橙色の髪の少女である。 栄養をちゃんと摂取していないのか、その肌は病的なまでに青白く、睡眠も不足気味なのか目の下には隈まで出来ていた。 ローブの少女の名は、ツスクル。アーカムタウンはロウアー・サウスサイドで占い師を営む――否。 巨大な地下樹海である『世界樹の迷宮』の上に建つ小さな街エトリアの長ヴィズルに仕える、世界樹の謎を解明しようとする冒険者を抹殺する暗殺者だ。 「……私も少し迷ってるの。ごめんなさい、サーヴァントなのに、貴女に何か道を示せて上げられなくて」 「お構いなく」  申し訳なさそうに言葉を紡ぐ赤い民族着の女性の言葉に対し、そんな労いの言葉をツスクルは投げ掛けた。 帽子の女性の名前は、シェリル。ツスクルに召喚された、此度の聖杯戦争の参加者。キャスターのクラスで召喚されたサーヴァントである。 「シェリルは、聖杯に叶えたい願いはあるの?」  ツスクルがそう聞くと、シェリルは考えるような素振りを見せる。 「……私に関わると不幸になる、その原因を消し去りたい……」  消え入りそうな程弱々しい声で、シェリルが言った。 「私に関わると、不幸になって、最終的には死ぬのよ。ツスクル」 「そんなのは単なる偶然。貴女の思い込み」 「貴女が思ってる以上に、私は多くの人の死を見て来たわ。私に関わった人は皆、最後には死んでしまうの」  頭を2、3度横に振るってから、シェリルは言葉を続ける。 「優しい人も、怖い人も。綺麗な人も、醜い人も。若い人も、老いた人も。……何の隔てもなく死んでいく」 「それが、世界の常。ずっと生き続ける人間なんて、存在しない」  ツスクルの言う通りである。どんな世界にだって、永久に生き続ける人間など存在しないのだ。 どんな聖人君子だろうが、どんなに優れた顔つきの人間だろうが、どんなに強壮な肉体を持っていようが、人は死から逃れられない。 怪我に、病に、事故に、悪意に……。運よくそれらから逃れられたとしても、結局は老いと言う宿命から、人は逃げ切る事は不可能である。 シェリルは人が死ぬのは自分のせいだと、1人で思いつめている。しかしそれは全くのお門違いなのではないか。 自分から殺そう死なせようと思い行動に移らない限り、シェリルはその人物の死とは無関係の筈。彼女が1人背負い込む理由は、まるでない。 「……貴女を見てると、悲しい事を思い出すわ」  宣言通りの、悲しそうな光を双眸に宿して、シェリルが語る。どこか遠くを見るような目つきであった。 「ローザリアにいた、騎士団所属の暗殺者の話」 「……暗殺者」  思い当たるふしがあるらしく、その言葉をポツリと、ツスクルが反芻する。 「騎士達には任せられない、騎士達自身も引き受けたくないような汚れ仕事を任務にしてたの。それでも愛国心と、騎士達の為に、影でずっと耐えてたの。 ある時暗殺に失敗して相手に囚われた時、その暗殺者を助けてくれる人は、国にも騎士団にもいなくて、拷問の末に殺されたわ」 「……貴女には関係ない事じゃないの?」  ツスクルは思った通りの事を口にする。普通に生活して居たら、袖振り合う事もないような人種であろう。 このサーヴァントは思い込みが激しいと考えるが、心の何処かでシェリルの言葉が引っかかるのは、自分も曲がりなりにも暗殺者だと言う事実があるからだった。 「ガレサステップを旅していた、2人の冒険者の話も思い出したわ」  シェリルはまたしても過去を思い出したらしい。その事を話すべく、ゆっくりと口を開いた。 「剣士と魔術師の2人。剣士の方は一騎当千の腕前、魔術師の方は様々な魔術を操る事が出来る腕の立つ人。 2人は幼馴染で仲が良かったのだけれど、魔物に不意を突かれて剣士を殺されて、残った魔術師は、失意のまま草原を彷徨って、孤独に餓死して死んでしまったわ」 「……シェリル。貴女は、それを私に話して、どうしたいの? 私を不安にさせたいの……?」  少しばかり声を低くして、ツスクルが問いを投げ掛けた。 ツスクルとその相棒の剣士であるレンが死守している世界樹の迷宮の核心部、通称『シンジュク』と呼ばれる階層で拾った銀の鍵を手に取ったその瞬間から、 呪言使い(カースメーカー)であるツスクルは、聖杯戦争への参加者になった。……元居た世界に大事な相棒であるレンをおいて。 ツスクルは、こんな何処とも知らない街で、誰にも知られず死んでゆく何て真っ平御免なのだ。生きて元の世界に帰る、それが、彼女の望み。 だからシェリルには、弱気になって欲しくないのだ。このキャスターは聖杯戦争の常識から言ったら、最弱争いに名を連ねるクラスのキャスターの中でも、 更に扱いの難しい、クセとアクの強いサーヴァントである事をツスクルはしっかりと把握していた。 だからせめて、気心だけは強くあって欲しいのである。サーヴァントがこの調子では、勝てるものも勝てなくなるのだから。 「ごめんなさい。……つい感傷的になっちゃったわ。貴女の気を萎えさせるつもりはなかったのだけれど……」  ツスクルの感情に気付いたシェリルが、慌てた様子で謝り始める。 「いいわよ、別に」、と、すぐに気にしてない風な言葉をツスクルは紡ぐ。 「ただ、これだけは注意しておいて、ツスクル。……私と関わった人は、不運にも死んでしまう事が多かったのは……事実よ。 皆、自らの不注意と不慮の事故、過去の迂闊さから死んでいった……。だから貴女はせめて、私の言う事を信じて……身の回りに注意して頂戴」 「理解したわ、シェリル。いえ……キャスター」 「ありがとう。……知り合いに死なれるのは、とても悲しい事。勝ち残りましょう、聖杯戦争を」  言ってシェリルは霊体化を行い、ツスクルの視界からその姿を消した。 過去のせいもあるのだろう、随分と悲観的なサーヴァントと共に過ごさねばならなくなったと、内心で憂鬱になるツスクル。 悲観的だけであったのならばまだ救いようがあったが、これで戦闘能力も格段に低いと言うのだから、これからの未来を憂慮するのも無理はない。 救いなのが、シェリル自体の魔力消費が極端に少ない事であろうか。何となればカースメーカーのツスクルも、戦闘に参加せねばならない。 戦闘の心得自体はツスクルは豊富だ。相手の自由を奪う呪言や、高度な呪いの方法だって修めている。 だがカースメーカーと言うのは打たれ弱い、況してやツスクルは少女の身。下手な打撃一発で戦闘不能に陥る事だって少なくない。 つまりツスクルは、後方支援に向いた人物なのだ。聖杯戦争におけるキャスターもまた、然り。 後方支援が2人もいては、下手に攻め込まれたら瞬時に瓦解してしまう。前途多難にも、程がある。  これからの聖杯戦争と同じ程に憂いているのが、エトリアに残して来てしまった、自分の相棒、レンの事。 彼女は果たして自分がいなくても、元気にやれているだろうか。いやもしかしたら、自分を探して、恐ろしい生命が跋扈する樹海の迷宮を駆けずり回っているのか?  恐ろしい事だった。自分がいなくなったせいで、正気を忘れてあの迷宮に一人で潜り、勝手に死なれたりでもしたら。 或いは自棄を起こして、樹海に潜った冒険者を片っ端から斬り殺していたりでもしたら。 そして何よりも――唯一の友人であるレンに会えず、自分が死んだりでもしたら。全身が粟立つような恐怖である。そんな事は、あってはならない。  そのような事は忘れ、聖杯戦争へと集中しようにも、先程シェリルが話した内容が頭に引っかかる。 国家に尽くしていたのに最後には1人孤独に死んでいった暗殺者の話、相棒に死なれて狂ってしまった冒険者の話。 ……聞けば聞く程、自分とレンの境遇とダブってしまうのだ。果たしてシェリルは狙ってツスクルに対して、その2つのケースを引き合いに出したのか。 それとも本当に無作為に、その2つのケースを選んだのか。真相は解らない。 ただ1つ言えるのは、その話を聞いて、ツスクルは嫌な不安と言うものを脳裏に過らせている、と言う事だった。 「……勝ってみせる」  静かにそう呟いてから、ツスクルはスタスタと貧民街の路地裏を歩きはじめる。 リン、と、首にぶら下げた黄金色の鐘が、雑駁とした路地裏には不釣り合いな透明な音を響かせる。  全にして一なる門たる邪神が、ツスクルと、異世界マルディアスに君臨していた邪神の化身であるシェリルに強いた運命は過酷そのものなのだと。 今の時点で2人はまだまだ、気付いてすらいないのであった。 【クラス】 キャスター 【真名】 シェリル@ロマンシングサガ・ミンストレルソング 【ステータス】 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E- 宝具EX 【属性】 中立・中庸 【クラススキル】 陣地作成:-(EX) 保有しない。後述の宝具発動時には、カッコ内のランクに修正。 大神殿をも遥かに上回る、世界を覆う”闇”の形成が可能。凄まじい速度で闇は侵食するが、キャスター自身はこれを制御出来ず、無尽蔵に広がり続ける。 道具作成:- 保有しない。 【保有スキル】 神性:-(EX) 現在は消失しているが、特定条件でカッコ内のランクに修正される。 本来のキャスターは創造神マルダーの妻であるサイヴァの髪より生まれ出でた三柱神の一柱であり、マルディアスにおける正当な神である。 神の加護:A 冥府を統治し、霊の管理と死を司る神、『デス』の恩寵(兄妹贔屓)を受けている。 キャスターに危害を加え、命を奪おうとする人物の幸運を一時的にスリーランク下降させる。 更に、様々なアクシデントを確率で引き起こさせ、無理やりにでもキャスターが死ぬ運命を捻じ曲げようと試みる。 但しマスターに対する危害には、このスキルは発動しない。本来ならばキャスターに危害を加えようとする人物はその場で不自然な死を遂げる運命にあるのだが、 聖杯戦争の舞台はデスの威光が届きにくい地である為、相応の性能に劣化している。 【宝具】 『光のダイヤモンド』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身 1000年前、光の神であるエロールの加護を受けた英雄・ミルザと死闘を繰り広げた邪神サルーインを封印する為に用いた、10個のディスティニーストーン。 その内の一つが、キャスターの右薬指の指輪に嵌められた、光のダイヤモンドである。 装備する事で、ランク問わず、ありとあらゆる闇の属性を秘めた魔術・魔法を無効化する。 しかし、この宝具をキャスターが装備する意図はそう言った事柄ではなく……。 『三柱神・破壊女神の髪より生まれ出づる者(シェラハ)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1000~ 最大補足:1000~ 宝具、光のダイヤモンドが嵌められた指輪を外す事により、強制的に発動してしまうキャスターの真の宝具。 兄妹である三柱神だけでなく、神々の父であり太陽神でもあるエロールをもしのぐ最強の魔力と、 エロールが放つ神の威光をも塗り潰す、強大な闇の力を持つ邪神・シェラハへと変身する。 元々光のダイヤモンドとは、終る事無く続いていた戦いに虚しさを感じていたシェラハが、エロールと停戦を結び、その際にエロールが、 彼女の強大な闇の力を抑制する為に与えたもので、この影響でシェラハは、シェリルと言う人間の女性として過ごす事になっていたのである。 永きに渡り人間として生活し過ぎていたキャスターは、シェラハ自身が有する圧倒的な闇の力の制御が不可能となっており、変身している間は闇を無秩序に世界へと撒き散らしてしまう。 光のダイヤモンドを外してしまうと、聖杯戦争内では最早二度とシェリルの姿に戻る事は出来ない。まさに、正真正銘最後の手段の宝具である。 シェラハ変身後は、ステータスとスキルを以下のものに修正する。 筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力EX 幸運D 『陣地作成:EX』の獲得、『対魔力:A+』の獲得、『精神操作:A+』の獲得、『魔術:EX』の獲得、『神性:EX』の獲得、『神の加護:A』、の消滅。 キャスター自身は、自らがシェラハの転生した姿であると言う事実を知らないが、自らが光のダイヤモンドを外してしまえば、 取り返しのつかない事態になる事に薄々感付いており、滅多な事ではこれを外す事をしない。 【weapon】 【人物背景】 遥か昔、マルディアスと呼ばれる世界を創造した神であるマルダーの妻サイヴァが、彼と彼に連なる神々に戦いを仕掛けた。 サイヴァの力は強大で、マルダーを含む他の神を相手取っても互角の戦いを繰り広げた。やがて戦況が拮抗し、こちらの側に組する新たな神を生み出そうと考えたサイヴァ。 彼女は自らの小指からエロールを生み出すが、その子指はサイヴァ良心が備わった場所だったので、エロールは善神として誕生、逆にサイヴァは敗れ去った。 この時四散した身体の部位から生まれたのが、後三柱神、或いは三邪神と呼ばれる、デス、サルーイン、シェラハであり、シェラハは三兄妹の末妹である。 当初は兄達と同じく、マルディアスの神々と敵対関係にあったが、いつ終わるとも知れぬ戦いに疲れ果てたシェラハは、エロールに自分は戦いを降りる事を申し出る。 これを受け入れたエロールは、シェラハの強大な力を封じる光のダイヤモンドを与え、彼女はこれを指に嵌め、神としての力を抑制。人間へと転生する。 以降は人間女性のシェリルとして地上に降り立ち、何百年もその姿で生き続ける(性質と姿こそ人間だが、寿命は神のそれである為半不死)。 人間女性になったシェラハだったが、仲良くなった人間はその寿命の差で早く亡くなり、自分と親しくなった男が次々不審な死を遂げる(これは、兄であり死の神であるデスの御節介の為)と言った経験を経、自分は他人を不幸にする女と考えてしまい、鬱屈とした毎日を送り続ける事となってしまうのだった。 【サーヴァントとしての願い】 幸せになりたい 【基本戦術、方針、運用法】 0か100かしかないサーヴァントである。平時の戦闘能力は異論の挟みようがない外れのそれだが、シェラハ状態になると凄まじいものとなる。 逆に言えばキャスターの強みはこれしかなく、魔力消費も非常に激烈な宝具の上に一度使用してしまえばもとに戻る事も不可能と言うハイリスクさ。 陣地作成も道具作成も出来ない為に、待ちではなく『逃げ』を主眼に置かねばならない。非常に使いにくい、99.9%外れクジのサーヴァントである。 【マスター】 ツスクル@世界樹の迷宮 【マスターとしての願い】 元の世界へと帰還する 【weapon】 【能力・技能】 カースメーカー: 世界樹の迷宮の世界に伝わっている職業の一つ。呪い使い、呪言使いとも言われる。 相手の動きを止める、身体の一部の自由を奪う、能力値を下げる、幻覚を見せる、自傷行為を行わせる、恐慌状態に陥れる、呪わせる。 と言った、完全に搦め手がメインとなる職業。能動的な攻撃手段を殆ど持たない職業だが、唯一ペイントレードと言う、 自らの生命力が減れば減る程莫大な威力を発揮する術を唯一持つ。修行する方法が過酷かつ独特の為か、線の細い人物が殆どで、非常に打たれ弱い。 【人物背景】 世界樹の迷宮と呼ばれる地下樹海があることを名物としている小さな街、エトリアを拠点に活動する冒険者。相棒にブシドーのレンを持つ。 新米の冒険者や、ある程度腕が立つようになった冒険者たちのサポートを行っており、彼らの手助けに回る事も多い。 その正体はエトリアの執政院ヴィズルに仕える暗殺者で、世界樹の迷宮の真相へと近づこうとする冒険者を抹殺する為に活動している。 但しレンと違いツスクルの方は暗殺に対して積極的ではなく、レンも暗殺から手を引いてほしいと心の底では思っている。 【方針】 なんとしてでも脱出せねば……。
*《不運》ツスクル&キャスター ◆zzpohGTsas 「悩んでいるの?」  人通りのない夜の路地裏の事である。 大きな赤い帽子を被った、民族衣装のような赤の服を着用した女性が訊ねて来た。 大きめの襟が鼻梁の中央部分まで顔を隠している為、目元位しか顔のパーツが確認出来ないが、それだけの露出でも、陰性の美を湛えている事が解る、上玉の女性である。 「……何をして良いのか、少し迷ってる」  帽子の女性の言葉に応答するのは、アジサイのような紫色のフード付きローブを身に付け、肩の辺りにたすき掛けの要領で鎖を巻き付けた、橙色の髪の少女である。 栄養をちゃんと摂取していないのか、その肌は病的なまでに青白く、睡眠も不足気味なのか目の下には隈まで出来ていた。 ローブの少女の名は、ツスクル。アーカムタウンはロウワー・サウスサイドで占い師を営む――否。 巨大な地下樹海である『世界樹の迷宮』の上に建つ小さな街エトリアの長ヴィズルに仕える、世界樹の謎を解明しようとする冒険者を抹殺する暗殺者だ。 「……私も少し迷ってるの。ごめんなさい、サーヴァントなのに、貴女に何か道を示せて上げられなくて」 「お構いなく」  申し訳なさそうに言葉を紡ぐ赤い民族着の女性の言葉に対し、そんな労いの言葉をツスクルは投げ掛けた。 帽子の女性の名前は、シェリル。ツスクルに召喚された、此度の聖杯戦争の参加者。キャスターのクラスで召喚されたサーヴァントである。 「シェリルは、聖杯に叶えたい願いはあるの?」  ツスクルがそう聞くと、シェリルは考えるような素振りを見せる。 「……私に関わると不幸になる、その原因を消し去りたい……」  消え入りそうな程弱々しい声で、シェリルが言った。 「私に関わると、不幸になって、最終的には死ぬのよ。ツスクル」 「そんなのは単なる偶然。貴女の思い込み」 「貴女が思ってる以上に、私は多くの人の死を見て来たわ。私に関わった人は皆、最後には死んでしまうの」  頭を2、3度横に振るってから、シェリルは言葉を続ける。 「優しい人も、怖い人も。綺麗な人も、醜い人も。若い人も、老いた人も。……何の隔てもなく死んでいく」 「それが、世界の常。ずっと生き続ける人間なんて、存在しない」  ツスクルの言う通りである。どんな世界にだって、永久に生き続ける人間など存在しないのだ。 どんな聖人君子だろうが、どんなに優れた顔つきの人間だろうが、どんなに強壮な肉体を持っていようが、人は死から逃れられない。 怪我に、病に、事故に、悪意に……。運よくそれらから逃れられたとしても、結局は老いと言う宿命から、人は逃げ切る事は不可能である。 シェリルは人が死ぬのは自分のせいだと、1人で思いつめている。しかしそれは全くのお門違いなのではないか。 自分から殺そう死なせようと思い行動に移らない限り、シェリルはその人物の死とは無関係の筈。彼女が1人背負い込む理由は、まるでない。 「……貴女を見てると、悲しい事を思い出すわ」  宣言通りの、悲しそうな光を双眸に宿して、シェリルが語る。どこか遠くを見るような目つきであった。 「ローザリアにいた、騎士団所属の暗殺者の話」 「……暗殺者」  思い当たるふしがあるらしく、その言葉をポツリと、ツスクルが反芻する。 「騎士達には任せられない、騎士達自身も引き受けたくないような汚れ仕事を任務にしてたの。それでも愛国心と、騎士達の為に、影でずっと耐えてたの。 ある時暗殺に失敗して相手に囚われた時、その暗殺者を助けてくれる人は、国にも騎士団にもいなくて、拷問の末に殺されたわ」 「……貴女には関係ない事じゃないの?」  ツスクルは思った通りの事を口にする。普通に生活して居たら、袖振り合う事もないような人種であろう。 このサーヴァントは思い込みが激しいと考えるが、心の何処かでシェリルの言葉が引っかかるのは、自分も曲がりなりにも暗殺者だと言う事実があるからだった。 「ガレサステップを旅していた、2人の冒険者の話も思い出したわ」  シェリルはまたしても過去を思い出したらしい。その事を話すべく、ゆっくりと口を開いた。 「剣士と魔術師の2人。剣士の方は一騎当千の腕前、魔術師の方は様々な魔術を操る事が出来る腕の立つ人。 2人は幼馴染で仲が良かったのだけれど、魔物に不意を突かれて剣士を殺されて、残った魔術師は、失意のまま草原を彷徨って、孤独に餓死して死んでしまったわ」 「……シェリル。貴女は、それを私に話して、どうしたいの? 私を不安にさせたいの……?」  少しばかり声を低くして、ツスクルが問いを投げ掛けた。 ツスクルとその相棒の剣士であるレンが死守している世界樹の迷宮の核心部、通称『シンジュク』と呼ばれる階層で拾った銀の鍵を手に取ったその瞬間から、 呪言使い(カースメーカー)であるツスクルは、聖杯戦争への参加者になった。……元居た世界に大事な相棒であるレンをおいて。 ツスクルは、こんな何処とも知らない街で、誰にも知られず死んでゆく何て真っ平御免なのだ。生きて元の世界に帰る、それが、彼女の望み。 だからシェリルには、弱気になって欲しくないのだ。このキャスターは聖杯戦争の常識から言ったら、最弱争いに名を連ねるクラスのキャスターの中でも、 更に扱いの難しい、クセとアクの強いサーヴァントである事をツスクルはしっかりと把握していた。 だからせめて、気心だけは強くあって欲しいのである。サーヴァントがこの調子では、勝てるものも勝てなくなるのだから。 「ごめんなさい。……つい感傷的になっちゃったわ。貴女の気を萎えさせるつもりはなかったのだけれど……」  ツスクルの感情に気付いたシェリルが、慌てた様子で謝り始める。 「いいわよ、別に」、と、すぐに気にしてない風な言葉をツスクルは紡ぐ。 「ただ、これだけは注意しておいて、ツスクル。……私と関わった人は、不運にも死んでしまう事が多かったのは……事実よ。 皆、自らの不注意と不慮の事故、過去の迂闊さから死んでいった……。だから貴女はせめて、私の言う事を信じて……身の回りに注意して頂戴」 「理解したわ、シェリル。いえ……キャスター」 「ありがとう。……知り合いに死なれるのは、とても悲しい事。勝ち残りましょう、聖杯戦争を」  言ってシェリルは霊体化を行い、ツスクルの視界からその姿を消した。 過去のせいもあるのだろう、随分と悲観的なサーヴァントと共に過ごさねばならなくなったと、内心で憂鬱になるツスクル。 悲観的だけであったのならばまだ救いようがあったが、これで戦闘能力も格段に低いと言うのだから、これからの未来を憂慮するのも無理はない。 救いなのが、シェリル自体の魔力消費が極端に少ない事であろうか。何となればカースメーカーのツスクルも、戦闘に参加せねばならない。 戦闘の心得自体はツスクルは豊富だ。相手の自由を奪う呪言や、高度な呪いの方法だって修めている。 だがカースメーカーと言うのは打たれ弱い、況してやツスクルは少女の身。下手な打撃一発で戦闘不能に陥る事だって少なくない。 つまりツスクルは、後方支援に向いた人物なのだ。聖杯戦争におけるキャスターもまた、然り。 後方支援が2人もいては、下手に攻め込まれたら瞬時に瓦解してしまう。前途多難にも、程がある。  これからの聖杯戦争と同じ程に憂いているのが、エトリアに残して来てしまった、自分の相棒、レンの事。 彼女は果たして自分がいなくても、元気にやれているだろうか。いやもしかしたら、自分を探して、恐ろしい生命が跋扈する樹海の迷宮を駆けずり回っているのか?  恐ろしい事だった。自分がいなくなったせいで、正気を忘れてあの迷宮に一人で潜り、勝手に死なれたりでもしたら。 或いは自棄を起こして、樹海に潜った冒険者を片っ端から斬り殺していたりでもしたら。 そして何よりも――唯一の友人であるレンに会えず、自分が死んだりでもしたら。全身が粟立つような恐怖である。そんな事は、あってはならない。  そのような事は忘れ、聖杯戦争へと集中しようにも、先程シェリルが話した内容が頭に引っかかる。 国家に尽くしていたのに最後には1人孤独に死んでいった暗殺者の話、相棒に死なれて狂ってしまった冒険者の話。 ……聞けば聞く程、自分とレンの境遇とダブってしまうのだ。果たしてシェリルは狙ってツスクルに対して、その2つのケースを引き合いに出したのか。 それとも本当に無作為に、その2つのケースを選んだのか。真相は解らない。 ただ1つ言えるのは、その話を聞いて、ツスクルは嫌な不安と言うものを脳裏に過らせている、と言う事だった。 「……勝ってみせる」  静かにそう呟いてから、ツスクルはスタスタと貧民街の路地裏を歩きはじめる。 リン、と、首にぶら下げた黄金色の鐘が、雑駁とした路地裏には不釣り合いな透明な音を響かせる。  全にして一なる門たる邪神が、ツスクルと、異世界マルディアスに君臨していた邪神の化身であるシェリルに強いた運命は過酷そのものなのだと。 今の時点で2人はまだまだ、気付いてすらいないのであった。 【クラス】 キャスター 【真名】 シェリル@ロマンシングサガ・ミンストレルソング 【ステータス】 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E- 宝具EX 【属性】 中立・中庸 【クラススキル】 陣地作成:-(EX) 保有しない。後述の宝具発動時には、カッコ内のランクに修正。 大神殿をも遥かに上回る、世界を覆う”闇”の形成が可能。凄まじい速度で闇は侵食するが、キャスター自身はこれを制御出来ず、無尽蔵に広がり続ける。 道具作成:- 保有しない。 【保有スキル】 神性:-(EX) 現在は消失しているが、特定条件でカッコ内のランクに修正される。 本来のキャスターは創造神マルダーの妻であるサイヴァの髪より生まれ出でた三柱神の一柱であり、マルディアスにおける正当な神である。 神の加護:A 冥府を統治し、霊の管理と死を司る神、『デス』の恩寵(兄妹贔屓)を受けている。 キャスターに危害を加え、命を奪おうとする人物の幸運を一時的にスリーランク下降させる。 更に、様々なアクシデントを確率で引き起こさせ、無理やりにでもキャスターが死ぬ運命を捻じ曲げようと試みる。 但しマスターに対する危害には、このスキルは発動しない。本来ならばキャスターに危害を加えようとする人物はその場で不自然な死を遂げる運命にあるのだが、 聖杯戦争の舞台はデスの威光が届きにくい地である為、相応の性能に劣化している。 【宝具】 『光のダイヤモンド』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身 1000年前、光の神であるエロールの加護を受けた英雄・ミルザと死闘を繰り広げた邪神サルーインを封印する為に用いた、10個のディスティニーストーン。 その内の一つが、キャスターの右薬指の指輪に嵌められた、光のダイヤモンドである。 装備する事で、ランク問わず、ありとあらゆる闇の属性を秘めた魔術・魔法を無効化する。 しかし、この宝具をキャスターが装備する意図はそう言った事柄ではなく……。 『三柱神・破壊女神の髪より生まれ出づる者(シェラハ)』 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1000~ 最大補足:1000~ 宝具、光のダイヤモンドが嵌められた指輪を外す事により、強制的に発動してしまうキャスターの真の宝具。 兄妹である三柱神だけでなく、神々の父であり太陽神でもあるエロールをもしのぐ最強の魔力と、 エロールが放つ神の威光をも塗り潰す、強大な闇の力を持つ邪神・シェラハへと変身する。 元々光のダイヤモンドとは、終る事無く続いていた戦いに虚しさを感じていたシェラハが、エロールと停戦を結び、その際にエロールが、 彼女の強大な闇の力を抑制する為に与えたもので、この影響でシェラハは、シェリルと言う人間の女性として過ごす事になっていたのである。 永きに渡り人間として生活し過ぎていたキャスターは、シェラハ自身が有する圧倒的な闇の力の制御が不可能となっており、変身している間は闇を無秩序に世界へと撒き散らしてしまう。 光のダイヤモンドを外してしまうと、聖杯戦争内では最早二度とシェリルの姿に戻る事は出来ない。まさに、正真正銘最後の手段の宝具である。 シェラハ変身後は、ステータスとスキルを以下のものに修正する。 筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力EX 幸運D 『陣地作成:EX』の獲得、『対魔力:A+』の獲得、『精神操作:A+』の獲得、『魔術:EX』の獲得、『神性:EX』の獲得、『神の加護:A』、の消滅。 キャスター自身は、自らがシェラハの転生した姿であると言う事実を知らないが、自らが光のダイヤモンドを外してしまえば、 取り返しのつかない事態になる事に薄々感付いており、滅多な事ではこれを外す事をしない。 【weapon】 【人物背景】 遥か昔、マルディアスと呼ばれる世界を創造した神であるマルダーの妻サイヴァが、彼と彼に連なる神々に戦いを仕掛けた。 サイヴァの力は強大で、マルダーを含む他の神を相手取っても互角の戦いを繰り広げた。やがて戦況が拮抗し、こちらの側に組する新たな神を生み出そうと考えたサイヴァ。 彼女は自らの小指からエロールを生み出すが、その子指はサイヴァ良心が備わった場所だったので、エロールは善神として誕生、逆にサイヴァは敗れ去った。 この時四散した身体の部位から生まれたのが、後三柱神、或いは三邪神と呼ばれる、デス、サルーイン、シェラハであり、シェラハは三兄妹の末妹である。 当初は兄達と同じく、マルディアスの神々と敵対関係にあったが、いつ終わるとも知れぬ戦いに疲れ果てたシェラハは、エロールに自分は戦いを降りる事を申し出る。 これを受け入れたエロールは、シェラハの強大な力を封じる光のダイヤモンドを与え、彼女はこれを指に嵌め、神としての力を抑制。人間へと転生する。 以降は人間女性のシェリルとして地上に降り立ち、何百年もその姿で生き続ける(性質と姿こそ人間だが、寿命は神のそれである為半不死)。 人間女性になったシェラハだったが、仲良くなった人間はその寿命の差で早く亡くなり、自分と親しくなった男が次々不審な死を遂げる(これは、兄であり死の神であるデスの御節介の為)と言った経験を経、自分は他人を不幸にする女と考えてしまい、鬱屈とした毎日を送り続ける事となってしまうのだった。 【サーヴァントとしての願い】 幸せになりたい 【基本戦術、方針、運用法】 0か100かしかないサーヴァントである。平時の戦闘能力は異論の挟みようがない外れのそれだが、シェラハ状態になると凄まじいものとなる。 逆に言えばキャスターの強みはこれしかなく、魔力消費も非常に激烈な宝具の上に一度使用してしまえばもとに戻る事も不可能と言うハイリスクさ。 陣地作成も道具作成も出来ない為に、待ちではなく『逃げ』を主眼に置かねばならない。非常に使いにくい、99.9%外れクジのサーヴァントである。 【マスター】 ツスクル@世界樹の迷宮 【マスターとしての願い】 元の世界へと帰還する 【weapon】 【能力・技能】 カースメーカー: 世界樹の迷宮の世界に伝わっている職業の一つ。呪い使い、呪言使いとも言われる。 相手の動きを止める、身体の一部の自由を奪う、能力値を下げる、幻覚を見せる、自傷行為を行わせる、恐慌状態に陥れる、呪わせる。 と言った、完全に搦め手がメインとなる職業。能動的な攻撃手段を殆ど持たない職業だが、唯一ペイントレードと言う、 自らの生命力が減れば減る程莫大な威力を発揮する術を唯一持つ。修行する方法が過酷かつ独特の為か、線の細い人物が殆どで、非常に打たれ弱い。 【人物背景】 世界樹の迷宮と呼ばれる地下樹海があることを名物としている小さな街、エトリアを拠点に活動する冒険者。相棒にブシドーのレンを持つ。 新米の冒険者や、ある程度腕が立つようになった冒険者たちのサポートを行っており、彼らの手助けに回る事も多い。 その正体はエトリアの執政院ヴィズルに仕える暗殺者で、世界樹の迷宮の真相へと近づこうとする冒険者を抹殺する為に活動している。 但しレンと違いツスクルの方は暗殺に対して積極的ではなく、レンも暗殺から手を引いてほしいと心の底では思っている。 【方針】 なんとしてでも脱出せねば……。

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