「Answer And Answer」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

Answer And Answer」(2016/04/29 (金) 04:11:58) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

**Answer And Answer  ◆HQRzDweJVY   ■  ■  ■ INTERNATIONAL STUDENT IDENTITY CARD Studies at MISKATONIC UNIV. Name FUMIKA, S. Born 27/10/199X Validaty XX/201X - XX/201X   ■  ■  ■ 「…………」 自身の学生証を見返すのは、もう何度目になるかわからない。 だが何度見てもそこにあるのは代わり映えのない無機質なデータと無愛想な女の顔写真だけだ。 鷺沢文香はミスカトニック大学文学科に所属する一年生である。 高校時代に英米文学、特にハワード・フィリップス・ラヴクラフトに高い関心をもち、叔父の勧めで有数の文学科を持つミスカトニック大学を受験。 見事現役で合格し、現在は叔父の友人の元にホームステイしつつ大学に通っている。 ――これが今の鷺沢文香である。 そう、"この世界"では文香はアイドルではない。 一介の留学生、それが彼女に与えられた役割(ロール)だ。 もちろん彼女はこれが偽りの状況であることを理解している。 だが文香はそんな現在の状況を自身でも驚くほど自然に受け入れていた。 ……それはもしかしたら文香にとってあり得た未来だったからかもしれない。 本を好み、本について学ぶ……アメリカ留学は中々出ない選択肢だとは思うが、それでも『アイドルをやる』という選択肢よりは自身の中から出そうな選択肢だからだろうか。 そう、あの人が自分を見つけ出してくれなかったら……もしかしたらありえたかもしれない未来。 でも再び選択肢を与えられたとしても文香はアイドルの道を選ぶだろう。 あの人が与えてくれた、煌めく世界への道を。 だから文香は元の世界に帰る手段を探している。 (……でも、何をすればいいのでしょうか……) 知識を貯めこむだけではいけない、ということは文香にもわかっている。 だが次になすべき具体的な行動がわからない。 『どうする、マスター』 そして文香のサーヴァント、アーチャー『ジョン・プレストン』は具体的な指示をしたりはしない。 戦いに不慣れな文香に対して警告はしてくれるし、意見を聞けば答えを返してくれる。 けれども積極的に手をとって導いてくれるような存在ではない。 あくまでサーヴァントとしての矜持を守っている。そのように文香には見える。 それは男性に免疫のない文香にとってありがたく、同時に不安でもあった。 煌めく世界に踏み出したのも、あの人に手を引かれたからだ。 真っ白な原稿用紙を差し出されたからといって、即座に書き出し始められるような性格ではない。 けれど何もしないままだと底のない沼に引きずり込まれるような不安がある。 「……その……"図書館の魔女"という方とお話してみたいと思います」 ミスカトニック大学には数多くの有名人がいるが彼女はその一人だ。 魔女の異名を持つ神秘学(オカルティズム)の新星……もしかしたら元の世界に帰るためのヒントを得られるかもしれない。 そんな淡い期待を胸に、図書館への道を歩く。 その道中で文香は奇妙な光景に遭遇した。 ――ミスカトニック大学には一本の桜の木がある。 樹齢数百年を超えるとも言われる大木で、春には見事な花を咲かせることで有名だ。 だが時期外れの今は花をつけるでもなく、ひっそりと佇んでいる。 だからその桜は誰もが通り過ぎるただの風景……そのはずだった。 「……?」 その桜の木を取り囲むように人だかりができている。 時間はまだ8時前……そう人が多くない時間帯だ。 よく見れば取り囲んでいる学生の隙間から黄色いテープのようなものが見える。 それにウィンドブレイカーをきた人物がせわしなく動いているようだ。 文香は人並みの好奇心をもってその人だかりに近づこうとした。 「――近づかない方がいい」 だが男の声によってその歩みは止められる。 耳に届いたのはアーカムで日常的に使っている英語ではなく、懐かしい日本語だった。 驚き、振り向いた先にいたのは一人の男性。 文香はその顔に見覚えがあった。 どこかで誰かが話していた。少し変わった講義を行う東洋人の若い民俗学講師。 確か、名前は――   ■  ■  ■ 思わず声をかけてしまったことを、竹内多聞は後悔した。 いきなり見知らぬ女性に声をかけたのだ。 客観的に見ればあらぬ誤解を招いてしまいかねない行為だ。 「ああ、私は……」 「あの……竹内先生……ですよね」 その女性はおずおずとそう答えた。 「その……日本人の講師の方は珍しいので……」 自分の顔に驚きが浮かんでいたのだろう。 その女性はそう付け加えた。 確かに。ここアーカムは多種多様な人種がいるが日本人の数は決して多くはない。 むしろ学内に二人も日本国籍の講師がいるのが不思議なぐらいだ。 「それで……その……」 いきなり近づかない方がいいと言われたのだ。 その理由を知りたいと思うのも当然のことだろう。 「……今朝、あの桜の木に学生の死体が吊るされているのが発見された。  それも、決して足が届かない高さに、だ」 「――!」 竹内のもとに大学からメールが届いたのはつい先程の事だった。 『桜の木に学生の死体が吊るされていた』とのショッキングな内容のそれに、竹内の目は一気に覚めた。 発見者は応用科学部に所属する学生の一人。 被害者とは顔見知りであったらしく、身元が判明するのは早かった。 普通ならばこれだけの事件が起きれば大学は休校、封鎖され、しかるべき調査が行われることとなる。 だがここアーカムでは違う。 警察関係者の捜査はあるだろうが、概ね今日と変わらない日常が続くだろう。 ハイスクールの集団衰弱事件やダウンタウンで起こった怪文書事件など、そんな異常を受け入れてしまう陰鬱な空気がここアーカムにはあった。 ふと女性に目を向ければ手にした本を不安そうに抱きかかえている。 無理もない。 日本という国は平和なのだ。 見慣れない年号を使っていようとも、社会体制が大きく変わらないかぎりそれは変わらない。 死者――それも殺人などというものと鉢合わせる場面は滅多にあるものではない。 『ハハハ、おもしろい。実に面白いぞマスター』 (……いきなり話しかけないでもらえるか、アサシン) 竹内の脳裏に響き渡る男の声。 この奇妙な同行者の発言はいつも唐突で心臓に悪い。 『マスター、あの木の周りから魔力の気配がするぞ。ハハ、とても良い匂いだ』 (……なんだと?) 『ウフフ、誘っているぞ。私にはわかる。これもまた真実の一端なのだからな』 狂人の戯れ言、と一蹴してしまうのは簡単だ。 だがここ数日の付き合いでわかったことがある。 彼の言葉は狂っていたが、(今のところ)積極的に虚偽を混ぜるようなことはしなかった。 ということはおそらく学内に聖杯戦争とやらの関係者がいるのだ。 しかもこんな……挑発行為を行うような好戦的な人物が。 と、そこで竹内は自身が思考に埋没してしまっていたことに気付く。 隣の女性に目を向ければ口を抑え、顔を青くしている。 やはり殺人という単語は重すぎたのだろう。 「気分が悪ければ医務室に行くといい。場所はわかるかね?」 「……はい。すみません……失礼します」 綺麗な一礼を残し、女性は去っていった。 竹内は何ともなしにその力のない後ろ姿を見つめていた。 「おはよう、竹内君」 そんな竹内の背中に声がかけられる。 自分のことをそう呼ぶ人間は多くない。 しかもその声が若々しい少女のものであればなおさらだ。 「……芳乃教授、おはようございます」 芳乃さくら。ミスカトニック大学の誇る植物学の権威。 東洋人は子供のように見えるというが、同じ日本人であるはずの竹内から見ても彼女は若すぎる。 実年齢は竹内よりも上だというが、外見はどう見てもせいぜい十代の少女にしか見えない。 ――永遠に生きる女。 竹内の脳裏に、故郷に伝わっていた伝承の一片がよみがえる。 だがここは羽生蛇村ではないし、彼女自身も『そういう身体なんだ』と公言している。 (恐らくは何らかの病気なのだろう、というのが学内での通説だ) だがそういうものだと理解しているつもりでも、彼女に気さくな口調で話しかけられるとどうにも調子が狂う。 「それにしても意外だね。竹内君は文香ちゃんと知り合いなの?」 「いえ、たまたま声をかけただけです。……名前も今知ったところですよ」 あの学生はフミカ、というらしい。 そういえばフルネームを聞くのを忘れていた。 まぁいい。学科も違うようだし、これから先、関わることもそうそうあるまい。 「芳乃教授は彼女と知り合いなのですか?」 「うん……と言っても数えるほどしか話したことはないけどね。  図書館に資料を借りに行く時、見かけたら話しかけるぐらいかな。  あの子、結構図書館に入り浸っているから」 だがそこで芳乃の表情が曇る。 「……"あの子"も、ね。一緒に図書館に行ったことがあったんだ」 その視線は桜の木の方へ向けられている。 「……勉強熱心な娘で、専門外の授業なのに質問攻めにされたっけ。  明るくて、いい子だったよ」 その横顔には隠し切れない悲しみが滲んでいる。 それは彼女の持つ優しさゆえだろう。 一方で自分はどうかといえば、……驚くほどに冷静だった。 竹内自身も過去の事故で家族を失っている。 だから吊るされた少女の家族の気持ちを想像することは出来る。 だが、それを我が事として考えるには、あまりにも吊るされた彼女のことを知らなさすぎた。 いや、もしかしたらあの生と死の境界線が曖昧な空間で、自分の何かは壊れてしまったのかもしれない。 先ほどの彼女のように怯えるでもなく、目の前の彼女のように死者を悼むでもない。 ただそこに死者がいる、それだけを受け入れていた。 「……直に警察による捜査も始まるでしょう。  私たちにできることなどない」 アサシンの言うとおりであればこれはオカルトの領域だ。 この殺人者に警察の手が届くことはないだろう。 かといって竹内自身が積極的にこの事件を追うかと言われれば首を横に振る。 確かに竹内自身が求める聖杯の真実を追うために、この事件について調査するのも一つの手ではある。 だがあんな挑発行為をしてくるということは、相当な自信があるということだ。 用意周到な罠か、それとも余程強力なサーヴァントを持っているのか 待ち構えているのが何かは分からないがよほどうまく立ち回らねば、竹内の命などあっという間に失われてしまうだろう。 だから今の自分に出来ることは、せいぜい他人に警告することぐらいだ。 「……そうだね。ゼミの皆には気をつけるように言っておかないと」 そう言って彼女は力なく微笑んだ。   ■  ■  ■ 芳乃さくらの祖母は魔術師であった。 故にさくら自身も魔術については人並み以上の理解がある。 サーヴァントを通じるまでもなくよく分かる。 桜の木あたりから漂う魔術の残り香があまりにわざとらしいことに。 色に例えるなら自然界の中に突如現れた蛍光色。 これほどまでに露骨な形跡は、意図的に創りだされたものでしかありえない。 つまりこれは聖杯戦争の参加者に対する宣戦布告なのた。 わざわざ目立つ場所に死体を吊るしたのも、その一環なのだろう。 そう、これは聖杯戦争と言う名の魔術儀式なのだ。 手段を選ばない主従がいたとしてもおかしくはない。 聖杯戦争とは自分の願いのための殺し合い……エゴとエゴのぶつかり合いにすぎない。 自ら望んでその儀式に参加した自分にそれを否定する権利はない。 けれどそんなこと吊るされた"あの子"には関係がない。 ただ他のマスターへのメッセージボード代わりに使われただけ。 ただ巻き込まれただけの、意味のない突然の死。 彼女の両親は嘆き悲しむだろう。 彼女の友人は消えない傷に苦しむだろう。 そう、もしもあの子が"彼"だったならば……それを想像しただけで胸の奥がキリキリと締め付けられる。 『……なぁ、さくらよ』 そしてさくらは知っている。 セイバーは、徳田新之助はこんな所業を許さない正義の人物だと。 『……さくらの望みは知っている。  だが無辜の人々を巻き込み、亡骸を弄ぶ外道を放ってはおけん』 (ううん、気にしないでください、新さん。  ボクもこのまま放っておくことはできないって思ってたところだから……) 願いのために戦うと決めた。その決意に変わりはない。 だがいたずらに死者を増やすやり方は一人の人間として……いや、一人の母親として放っておくことなど出来なかった。     ■  ■  ■ 知識としては知っていた。 あれが、人の死だ。 それも病死や事故死などではない。 殺人――明確な意図を持って誰かが誰かの命を奪うという行為。 その恐ろしい行為は文香にとって紙の上で語られるべきものだった。 だが今、それはとても静かに――あまりに唐突に文香の目の前に現れた。 人混みに近寄り、アーチャーに調べさせることも出来ただろう。 周囲の人間に聞きこみをするのも手だったかもしれない。 だが文香は目を背け、逃げ出してしまった。 アーチャー曰く、『桜の木、それも枝のあたりから魔力を感じた』らしい。 十中八九、死体が吊るされていたという場所だろう。 つまり死体を吊るすという行為は聖杯戦争に関わる者達への恫喝だったのだ。 ――私は見ているぞ。 ――私は知っているぞ。 ――次はお前だ。 ――首をくくられるべき魔女は、お前だ。 「――……ッ!」 聖杯戦争のことは知っていた。 死と背中合わせであることも知っていた。 それでも改めて目の前につきつけられると、身体がすくみ、震えが止まらない。 逃げ出したことをアーチャーは責めない。 いっそ責めてくれれば、明確な意志や感情を叩きつけられれば、例えそれがネガティブなものだったとしても動けたのかもしれない。 けれどアーチャーはあくまで従者(サーヴァント)として、文香に選択を委ねてくる。 それはあの日、自分の手を少し強引に引いたあの手とは、同じではないのだ。 そして今、この場所に、自分の隣に"彼"はいない。 「……プロデューサー、さん」 思わず漏れた、応えるもののいない言葉。 その悲鳴のようなつぶやきは、アーカムの淀んだ空気の中に霞んで消えた。 【キャンパス・ミスカトニック大学構内/一日目 早朝】 【竹内多聞@SIREN】 [状態] 健康 [精神] 正常 [令呪] 残り三画 [装備] 38口径短銃 [道具] 特に無し [所持金] 社会人として普通の金額 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯の謎を解き明かす 1. 桜の木に死体を吊るした犯人に対処すべきかどうか…… [備考] 【アサシン(メンタリスト)@ニンジャスレイヤー】 [状態] 健康 [精神] 発狂 [装備] なし [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:アハハハハハハハ 1. おかしいと思いませんか?あなた? [備考] 【芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―】 [状態]健康 [精神]正常 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]鞄(大学教授としての所持品) [所持金]お屋敷でゆったり暮らせる程度のお金(世界有数の大学の教授) [思考・状況] 基本行動方針:願いの桜の制御方法を知るために聖杯を手に入れる。 1.桜の木に死体を吊るした犯人を探す。 2.ナイ神父を警戒。 3.キーパーには何か狙いがある? [備考] アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森は吉宗曰く「魔性の気配がする」と聞いています。 アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。 アルフォンス・エルリックと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。 鷺沢文香とは顔見知りのようです。マスターとは認識していません。 【セイバー(徳川吉宗)@暴れん坊将軍】 [状態]健康 [精神]正常 [装備]主水正正清 [道具]扇子 [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:さくらの願いを叶えてやりたい。 1.さくらを守る。 2.ナイ神父を警戒。 [備考] アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森から魔性の気配を感じました。 アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。 アルフォンス・エルリックを見ましたが、マスターとは認識していません。 【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態] 健康 [精神] 恐怖 [令呪] 残り三画 [装備] なし [道具] 本 [所持金] 普通の大学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:元の世界に帰りたい 1.プロデューサーさん…… [備考] 【アーチャー(ジョン・プレストン)@リベリオン】 [状態] 健康 [精神] 正常 [装備] クラリックガン [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターを守る。 1.マスターを守る。 [備考] |BACK||NEXT| |010:[[妖怪の賢者と戦姫]]|投下順|012:[[鉛毒の空の下]]| |008:[[Horizon Initiative]]|時系列順|012:[[鉛毒の空の下]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|[[鷺沢文香]]&アーチャー([[ジョン・プレストン]])|:[[ ]]| |~|[[竹内多聞]]&アサシン([[メンタリスト]])|:[[ ]]| |007:[[接触]]|[[芳乃さくら]]&セイバー([[徳川吉宗]])|:[[ ]]| ----
**Answer And Answer  ◆HQRzDweJVY   ■  ■  ■ INTERNATIONAL STUDENT IDENTITY CARD Studies at MISKATONIC UNIV. Name FUMIKA, S. Born 27/10/199X Validaty XX/201X - XX/201X   ■  ■  ■ 「…………」 自身の学生証を見返すのは、もう何度目になるかわからない。 だが何度見てもそこにあるのは代わり映えのない無機質なデータと無愛想な女の顔写真だけだ。 鷺沢文香はミスカトニック大学文学科に所属する一年生である。 高校時代に英米文学、特にハワード・フィリップス・ラヴクラフトに高い関心をもち、叔父の勧めで有数の文学科を持つミスカトニック大学を受験。 見事現役で合格し、現在は叔父の友人の元にホームステイしつつ大学に通っている。 ――これが今の鷺沢文香である。 そう、"この世界"では文香はアイドルではない。 一介の留学生、それが彼女に与えられた役割(ロール)だ。 もちろん彼女はこれが偽りの状況であることを理解している。 だが文香はそんな現在の状況を自身でも驚くほど自然に受け入れていた。 ……それはもしかしたら文香にとってあり得た未来だったからかもしれない。 本を好み、本について学ぶ……アメリカ留学は中々出ない選択肢だとは思うが、それでも『アイドルをやる』という選択肢よりは自身の中から出そうな選択肢だからだろうか。 そう、あの人が自分を見つけ出してくれなかったら……もしかしたらありえたかもしれない未来。 でも再び選択肢を与えられたとしても文香はアイドルの道を選ぶだろう。 あの人が与えてくれた、煌めく世界への道を。 だから文香は元の世界に帰る手段を探している。 (……でも、何をすればいいのでしょうか……) 知識を貯めこむだけではいけない、ということは文香にもわかっている。 だが次になすべき具体的な行動がわからない。 『どうする、マスター』 そして文香のサーヴァント、アーチャー『ジョン・プレストン』は具体的な指示をしたりはしない。 戦いに不慣れな文香に対して警告はしてくれるし、意見を聞けば答えを返してくれる。 けれども積極的に手をとって導いてくれるような存在ではない。 あくまでサーヴァントとしての矜持を守っている。そのように文香には見える。 それは男性に免疫のない文香にとってありがたく、同時に不安でもあった。 煌めく世界に踏み出したのも、あの人に手を引かれたからだ。 真っ白な原稿用紙を差し出されたからといって、即座に書き出し始められるような性格ではない。 けれど何もしないままだと底のない沼に引きずり込まれるような不安がある。 「……その……"図書館の魔女"という方とお話してみたいと思います」 ミスカトニック大学には数多くの有名人がいるが彼女はその一人だ。 魔女の異名を持つ神秘学(オカルティズム)の新星……もしかしたら元の世界に帰るためのヒントを得られるかもしれない。 そんな淡い期待を胸に、図書館への道を歩く。 その道中で文香は奇妙な光景に遭遇した。 ――ミスカトニック大学には一本の桜の木がある。 樹齢数百年を超えるとも言われる大木で、春には見事な花を咲かせることで有名だ。 だが時期外れの今は花をつけるでもなく、ひっそりと佇んでいる。 だからその桜は誰もが通り過ぎるただの風景……そのはずだった。 「……?」 その桜の木を取り囲むように人だかりができている。 時間はまだ8時前……そう人が多くない時間帯だ。 よく見れば取り囲んでいる学生の隙間から黄色いテープのようなものが見える。 それにウィンドブレイカーをきた人物がせわしなく動いているようだ。 文香は人並みの好奇心をもってその人だかりに近づこうとした。 「――近づかない方がいい」 だが男の声によってその歩みは止められる。 耳に届いたのはアーカムで日常的に使っている英語ではなく、懐かしい日本語だった。 驚き、振り向いた先にいたのは一人の男性。 文香はその顔に見覚えがあった。 どこかで誰かが話していた。少し変わった講義を行う東洋人の若い民俗学講師。 確か、名前は――   ■  ■  ■ 思わず声をかけてしまったことを、竹内多聞は後悔した。 いきなり見知らぬ女性に声をかけたのだ。 客観的に見ればあらぬ誤解を招いてしまいかねない行為だ。 「ああ、私は……」 「あの……竹内先生……ですよね」 その女性はおずおずとそう答えた。 「その……日本人の講師の方は珍しいので……」 自分の顔に驚きが浮かんでいたのだろう。 その女性はそう付け加えた。 確かに。ここアーカムは多種多様な人種がいるが日本人の数は決して多くはない。 むしろ学内に二人も日本国籍の講師がいるのが不思議なぐらいだ。 「それで……その……」 いきなり近づかない方がいいと言われたのだ。 その理由を知りたいと思うのも当然のことだろう。 「……今朝、あの桜の木に学生の死体が吊るされているのが発見された。  それも、決して足が届かない高さに、だ」 「――!」 竹内のもとに大学からメールが届いたのはつい先程の事だった。 『桜の木に学生の死体が吊るされていた』とのショッキングな内容のそれに、竹内の目は一気に覚めた。 発見者は応用科学部に所属する学生の一人。 被害者とは顔見知りであったらしく、身元が判明するのは早かった。 普通ならばこれだけの事件が起きれば大学は休校、封鎖され、しかるべき調査が行われることとなる。 だがここアーカムでは違う。 警察関係者の捜査はあるだろうが、概ね今日と変わらない日常が続くだろう。 ハイスクールの集団衰弱事件やダウンタウンで起こった怪文書事件など、そんな異常を受け入れてしまう陰鬱な空気がここアーカムにはあった。 ふと女性に目を向ければ手にした本を不安そうに抱きかかえている。 無理もない。 日本という国は平和なのだ。 見慣れない年号を使っていようとも、社会体制が大きく変わらないかぎりそれは変わらない。 死者――それも殺人などというものと鉢合わせる場面は滅多にあるものではない。 『ハハハ、おもしろい。実に面白いぞマスター』 (……いきなり話しかけないでもらえるか、アサシン) 竹内の脳裏に響き渡る男の声。 この奇妙な同行者の発言はいつも唐突で心臓に悪い。 『マスター、あの木の周りから魔力の気配がするぞ。ハハ、とても良い匂いだ』 (……なんだと?) 『ウフフ、誘っているぞ。私にはわかる。これもまた真実の一端なのだからな』 狂人の戯れ言、と一蹴してしまうのは簡単だ。 だがここ数日の付き合いでわかったことがある。 彼の言葉は狂っていたが、(今のところ)積極的に虚偽を混ぜるようなことはしなかった。 ということはおそらく学内に聖杯戦争とやらの関係者がいるのだ。 しかもこんな……挑発行為を行うような好戦的な人物が。 と、そこで竹内は自身が思考に埋没してしまっていたことに気付く。 隣の女性に目を向ければ口を抑え、顔を青くしている。 やはり殺人という単語は重すぎたのだろう。 「気分が悪ければ医務室に行くといい。場所はわかるかね?」 「……はい。すみません……失礼します」 綺麗な一礼を残し、女性は去っていった。 竹内は何ともなしにその力のない後ろ姿を見つめていた。 「おはよう、竹内君」 そんな竹内の背中に声がかけられる。 自分のことをそう呼ぶ人間は多くない。 しかもその声が若々しい少女のものであればなおさらだ。 「……芳乃教授、おはようございます」 芳乃さくら。ミスカトニック大学の誇る植物学の権威。 東洋人は子供のように見えるというが、同じ日本人であるはずの竹内から見ても彼女は若すぎる。 実年齢は竹内よりも上だというが、外見はどう見てもせいぜい十代の少女にしか見えない。 ――永遠に生きる女。 竹内の脳裏に、故郷に伝わっていた伝承の一片がよみがえる。 だがここは羽生蛇村ではないし、彼女自身も『そういう身体なんだ』と公言している。 (恐らくは何らかの病気なのだろう、というのが学内での通説だ) だがそういうものだと理解しているつもりでも、彼女に気さくな口調で話しかけられるとどうにも調子が狂う。 「それにしても意外だね。竹内君は文香ちゃんと知り合いなの?」 「いえ、たまたま声をかけただけです。……名前も今知ったところですよ」 あの学生はフミカ、というらしい。 そういえばフルネームを聞くのを忘れていた。 まぁいい。学科も違うようだし、これから先、関わることもそうそうあるまい。 「芳乃教授は彼女と知り合いなのですか?」 「うん……と言っても数えるほどしか話したことはないけどね。  図書館に資料を借りに行く時、見かけたら話しかけるぐらいかな。  あの子、結構図書館に入り浸っているから」 だがそこで芳乃の表情が曇る。 「……"あの子"も、ね。一緒に図書館に行ったことがあったんだ」 その視線は桜の木の方へ向けられている。 「……勉強熱心な娘で、専門外の授業なのに質問攻めにされたっけ。  明るくて、いい子だったよ」 その横顔には隠し切れない悲しみが滲んでいる。 それは彼女の持つ優しさゆえだろう。 一方で自分はどうかといえば、……驚くほどに冷静だった。 竹内自身も過去の事故で家族を失っている。 だから吊るされた少女の家族の気持ちを想像することは出来る。 だが、それを我が事として考えるには、あまりにも吊るされた彼女のことを知らなさすぎた。 いや、もしかしたらあの生と死の境界線が曖昧な空間で、自分の何かは壊れてしまったのかもしれない。 先ほどの彼女のように怯えるでもなく、目の前の彼女のように死者を悼むでもない。 ただそこに死者がいる、それだけを受け入れていた。 「……直に警察による捜査も始まるでしょう。  私たちにできることなどない」 アサシンの言うとおりであればこれはオカルトの領域だ。 この殺人者に警察の手が届くことはないだろう。 かといって竹内自身が積極的にこの事件を追うかと言われれば首を横に振る。 確かに竹内自身が求める聖杯の真実を追うために、この事件について調査するのも一つの手ではある。 だがあんな挑発行為をしてくるということは、相当な自信があるということだ。 用意周到な罠か、それとも余程強力なサーヴァントを持っているのか 待ち構えているのが何かは分からないがよほどうまく立ち回らねば、竹内の命などあっという間に失われてしまうだろう。 だから今の自分に出来ることは、せいぜい他人に警告することぐらいだ。 「……そうだね。ゼミの皆には気をつけるように言っておかないと」 そう言って彼女は力なく微笑んだ。   ■  ■  ■ 芳乃さくらの祖母は魔術師であった。 故にさくら自身も魔術については人並み以上の理解がある。 サーヴァントを通じるまでもなくよく分かる。 桜の木あたりから漂う魔術の残り香があまりにわざとらしいことに。 色に例えるなら自然界の中に突如現れた蛍光色。 これほどまでに露骨な形跡は、意図的に創りだされたものでしかありえない。 つまりこれは聖杯戦争の参加者に対する宣戦布告なのた。 わざわざ目立つ場所に死体を吊るしたのも、その一環なのだろう。 そう、これは聖杯戦争と言う名の魔術儀式なのだ。 手段を選ばない主従がいたとしてもおかしくはない。 聖杯戦争とは自分の願いのための殺し合い……エゴとエゴのぶつかり合いにすぎない。 自ら望んでその儀式に参加した自分にそれを否定する権利はない。 けれどそんなこと吊るされた"あの子"には関係がない。 ただ他のマスターへのメッセージボード代わりに使われただけ。 ただ巻き込まれただけの、意味のない突然の死。 彼女の両親は嘆き悲しむだろう。 彼女の友人は消えない傷に苦しむだろう。 そう、もしもあの子が"彼"だったならば……それを想像しただけで胸の奥がキリキリと締め付けられる。 『……なぁ、さくらよ』 そしてさくらは知っている。 セイバーは、徳田新之助はこんな所業を許さない正義の人物だと。 『……さくらの望みは知っている。  だが無辜の人々を巻き込み、亡骸を弄ぶ外道を放ってはおけん』 (ううん、気にしないでください、新さん。  ボクもこのまま放っておくことはできないって思ってたところだから……) 願いのために戦うと決めた。その決意に変わりはない。 だがいたずらに死者を増やすやり方は一人の人間として……いや、一人の母親として放っておくことなど出来なかった。     ■  ■  ■ 知識としては知っていた。 あれが、人の死だ。 それも病死や事故死などではない。 殺人――明確な意図を持って誰かが誰かの命を奪うという行為。 その恐ろしい行為は文香にとって紙の上で語られるべきものだった。 だが今、それはとても静かに――あまりに唐突に文香の目の前に現れた。 人混みに近寄り、アーチャーに調べさせることも出来ただろう。 周囲の人間に聞きこみをするのも手だったかもしれない。 だが文香は目を背け、逃げ出してしまった。 アーチャー曰く、『桜の木、それも枝のあたりから魔力を感じた』らしい。 十中八九、死体が吊るされていたという場所だろう。 つまり死体を吊るすという行為は聖杯戦争に関わる者達への恫喝だったのだ。 ――私は見ているぞ。 ――私は知っているぞ。 ――次はお前だ。 ――首をくくられるべき魔女は、お前だ。 「――……ッ!」 聖杯戦争のことは知っていた。 死と背中合わせであることも知っていた。 それでも改めて目の前につきつけられると、身体がすくみ、震えが止まらない。 逃げ出したことをアーチャーは責めない。 いっそ責めてくれれば、明確な意志や感情を叩きつけられれば、例えそれがネガティブなものだったとしても動けたのかもしれない。 けれどアーチャーはあくまで従者(サーヴァント)として、文香に選択を委ねてくる。 それはあの日、自分の手を少し強引に引いたあの手とは、同じではないのだ。 そして今、この場所に、自分の隣に"彼"はいない。 「……プロデューサー、さん」 思わず漏れた、応えるもののいない言葉。 その悲鳴のようなつぶやきは、アーカムの淀んだ空気の中に霞んで消えた。 【キャンパス・ミスカトニック大学構内/一日目 早朝】 【竹内多聞@SIREN】 [状態] 健康 [精神] 正常 [令呪] 残り三画 [装備] 38口径短銃 [道具] 特に無し [所持金] 社会人として普通の金額 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯の謎を解き明かす 1. 桜の木に死体を吊るした犯人に対処すべきかどうか…… [備考] 【アサシン(メンタリスト)@ニンジャスレイヤー】 [状態] 健康 [精神] 発狂 [装備] なし [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:アハハハハハハハ 1. おかしいと思いませんか?あなた? [備考] 【芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―】 [状態]健康 [精神]正常 [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]鞄(大学教授としての所持品) [所持金]お屋敷でゆったり暮らせる程度のお金(世界有数の大学の教授) [思考・状況] 基本行動方針:願いの桜の制御方法を知るために聖杯を手に入れる。 1.桜の木に死体を吊るした犯人を探す。 2.ナイ神父を警戒。 3.キーパーには何か狙いがある? [備考] アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森は吉宗曰く「魔性の気配がする」と聞いています。 アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。 アルフォンス・エルリックと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。 鷺沢文香とは顔見知りのようです。マスターとは認識していません。 【セイバー(徳川吉宗)@暴れん坊将軍】 [状態]健康 [精神]正常 [装備]主水正正清 [道具]扇子 [所持金]なし [思考・状況] 基本行動方針:さくらの願いを叶えてやりたい。 1.さくらを守る。 2.ナイ神父を警戒。 [備考] アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森から魔性の気配を感じました。 アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。 アルフォンス・エルリックを見ましたが、マスターとは認識していません。 【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】 [状態] 健康 [精神] 恐怖 [令呪] 残り三画 [装備] なし [道具] 本 [所持金] 普通の大学生程度 [思考・状況] 基本行動方針:元の世界に帰りたい 1.プロデューサーさん…… [備考] 【アーチャー(ジョン・プレストン)@リベリオン】 [状態] 健康 [精神] 正常 [装備] クラリックガン [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針:マスターを守る。 1.マスターを守る。 [備考] |BACK||NEXT| |010:[[妖怪の賢者と戦姫]]|投下順|012:[[鉛毒の空の下]]| |008:[[Horizon Initiative]]|時系列順|012:[[鉛毒の空の下]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|[[鷺沢文香]]&アーチャー([[ジョン・プレストン]])|018:[[昏濁の坩堝へと]]| |~|[[竹内多聞]]&アサシン([[メンタリスト]])|:[[ ]]| |007:[[接触]]|[[芳乃さくら]]&セイバー([[徳川吉宗]])|:[[ ]]| ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: