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「BRAND NEW FIELD」(2018/03/10 (土) 19:17:46) の最新版変更点
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*BRAND NEW FIELD ◆HQRzDweJVY
リバータウンにある喫茶"楽園"。
遅めの朝食を楽しむ人々で賑わうその店の一角で、一人の少女が本を読みながら軽食をとっている。
彼女の名はパチュリー・ノーレッジ。
ミスカトニック大学に通う学生であり、ここアーカムの裏側で起こっている聖杯戦争のマスターである。
"魔法使い"という種族であるパチュリーにとって食事は必要ないが、嗜好品として楽しむことは出来る。
その点、この喫茶店はおあつらえ向きである。
具が多めのサンドイッチは見た目も味も良いし、新鮮な野菜の歯ごたえがたまらない。
そして何より店主の老人が入れてくれた紅茶は中々のものだ。
……咲夜の入れてくれた紅茶とは天と地ほどの差があるが、それは比べる相手が悪すぎるというものだろう。
もう少し静かであれば更に加点したいところだが、商店街の大通りにそこそこ近いため、外の賑わいが店内にまで入り込んできている。
その音の方向に視線を向ければ、そこにいるのは幻想郷の人里などとは比べ物にならないほどの人の波。
それだけではない。
窓から見える淀んだ空気も、天を突くほどに高く伸びた建物も幻想郷とは何もかもが違うのだ。
ここ、アーカムにおいて自分が異邦人であることを強く認識させられる。
『……で、何でこんなところで呑気に茶なんざ飲んでんだ、あんたは』
そんな物思いに耽る少女に対して、不躾な声が投げつけられる。
その声の主である剣の英霊・同田貫正国は霊体化した状態でパチュリーの傍らに立っている。
その表情には隠し切れない苛つきが浮かんでいるが、主たる少女はそれを無視したかのように口を開く。
「これを見てみなさい」
そう言ってパチュリーが差し出したのはスマートフォン。
そこには一つのニュースサイトが映しだされている。
――アーカム・アドヴァタイザー・ナウ。
アーカムの歴史ある地方紙が時代の流れに従い、オンライン化したものだ。
そのトップページにはでかでかと、一つのニュースが掲載されている。
"Miskatonic University Death"
名詞だけで形作られた鮮烈な見出し文(ヘッドライン)。
それが意味するのはミスカトニック大学で死体が発見されたというニュースだ。
そう、彼女たちが今朝までいたあの大学でだ。
『死体? どういうこった』
「ちょっと待っていなさい。ええと、フリック入力ってこうやるのよね……」
もたもたとした手つきでスマートフォンを操作するパチュリー。
正直なところ、同じ情報を手に入れられるのであればパチュリーは紙に印刷された新聞を選ぶタイプだ。
だが"インターネット"とやらの情報スピードは凄まじい物がある。
こと今朝方起こったような事件に関しては、紙媒体よりも有用であることは認めなくてはならないだろう。
「ここに『今朝方、大学で首吊死体が発見された』と書いてあるわ。
吊るされていたのは大学の桜の木……それも普通の人間では届かないような位置にわざわざ吊るされていたそうよ。つまり犯人は普通の人間ではないということね」
パチュリーも幾度と無く見かけたキャンパス内で最も大きい桜の木。
あの枝に縄をかけるなど、そこそこ大きい脚立でもなければ難しいだろう。
だがそんな行動をしていれば流石に警備員の目についてしまう。
逆に言えばそれがないということは、普通の犯罪などではないということだ。
「……それに加えて、ここアーカムには魔女の首をくくって吊るしたとかいう過去があるそうよ。
そのことを考えれば自ずとこの事件の意味が見えてくるでしょう?」
それが意味するところは一つ。
特定の人種……魔女に向けたメッセージといったところか。
意味合いとしては『お前の正体はバレている。次はお前の番だ』ぐらいだろうか。
わざわざ死体を使う辺り、何とも悪趣味かつ安い挑戦状だ。
『なるほどな。あの槍使いのマスターからの悪趣味極まりない挑戦状ってわけか。
……で、あんたはビビって尻尾を巻いて逃げてるってところか?』
「口を慎みなさい、セイバー」
ピシャリと言い切るパチュリーの語気は強く、目には静かな炎が燃えている。
「そんなわけないでしょう。
この愚かなマスターには私を侮辱した代償を必ず払わせてやるわ」
そうだ。
この挑戦状の送り主はこのパチュリー・ノーレッジを、紅魔館の魔女を侮辱したのだ。
それがどれだけ愚かな行為だったか……それを脳幹の奥まで叩き込んでやらなければならないだろう。
その答えを聞いた同田貫は、獰猛な笑みを浮かべた。
『そいつは重畳だ。立ち向かう気があるならこっちとしては文句はねぇよ。
……で、だったらあんたは何でこんな場所で管巻いてやがる。
とっとと槍使いのマスターを探しに行かなくていいのかよ』
「落ち着きなさい。急いては事を仕損じる、という諺は貴方の故郷のものでしょうに。
それに……その理由はあの雷撃を食らった貴方が一番理解しているでしょう?」
そう言ってすっかり温くなった紅茶を口に運ぶ。
そしてサーヴァントが口を開く前に湿った唇から言葉を続ける。
「ランサーのマスターは一流の魔術師……それも戦闘に特化しているタイプよ。
正直、直接遭遇して戦いになった場合、不利になる可能性は十分にあるわ」
例えDランクとはいえサーヴァントの対魔力を真っ向から打ち抜ける魔力。
それにあの場にいなかったにも関わらず、こちらを狙い撃つ正確性。
間違いなく戦闘的な魔術に心得のあるマスターだ。
魔術戦で負ける気はしないが、自分には体力というハンディキャップがある。
それにあの魔術精度でサーヴァントと連携されると極めて厄介だと言わざるをえない。
「だからこちらも再戦には万全の体制で望む必要がある。
……特にこれから相手の魔術工房を襲撃する場合はね」
『ちょっと待て。襲撃だと? そもそも相手の寝座はわかってるのかよ』
「ええ。大体の予想は付いてるわ」
パチュリーはそう断言すると人差し指をピンと立てた。
「まず一つ目。
私を名指ししているということは、まず間違いなく大学の関係者であるということよ」
神秘学科の七曜の魔女。
学内ではそれなりに有名な異名らしいが、流石に学外までは響いてないはずだ。
故に犯人は学内の人間だと断言できる。
『……っておい。あんた、大学に何百人の人間がいると思ってんだ』
「だから話は最後まで聞きなさい。
絞り込むための二つ目の手がかりは――この被害者よ」
アーカム・アドヴァタイザー・ナウには被害者の名前も乗っている。
そして学内の人間ならば、その所属する学科程度ならば簡単に調べられるのだ。
「大学という場所はより専門的な学問を収める場所。
つまり自身の所属する学科外との繋がりは非常に薄いものよ。
そして彼女は『応用化学部』という学科に所属していた……犯人はほぼ間違いなくこの学科の関係者でしょうね」
『それだと通りすがりの犯行って線もあるんじゃねぇのか』
「確かにその可能性も0じゃないわ。
ただ死体発見時刻から考えてもこの死体を用意したのは、私達と遭遇するよりも前……
そうなると偶発的な事故か何かで殺したというのが有力な線よ。
……となるとやはり複数の学部の人間が利用するような人通りの多いところで殺害されたというのは考えにくいでしょう?」
『なるほどな。筋は通ってるってわけか』
「ええ、そしてあのランサーが学校内で仕掛けてきたということは、学校内に本拠地――すなわち工房を持っている可能性が非常に高いわ」
キャンパスの地図で調べてみたところ、応用化学部の研究棟は大きめの建物が1棟しかない。
……であれば犯人が誰であれ、工房がそこである確率は非常に高いと考えられる。
『……ってえことは今度の戦は城攻めか。
ハッ、面白くなってきたじゃねぇか』
喜々とした声を上げる同田貫。
その単純な思考にパチュリーは頭を抱える。
とはいえ魔術工房への突撃を城攻めと評するのは、あながち間違いではない。
幻術による迷宮、幾多の魔術的な罠、猟犬代わりのモンスター……練度の高い魔術師なら一部を魔界化させることすらやるかもしれない。
それは最早魔術で編まれた要塞と言っても過言ではないだろう。
『……で、いつ攻め込むんだ』
「だから落ち着きなさいと言ってるでしょう。
……まず一つ確認するのだけど、体の調子は万全なのね?」
『問題ねぇな。傷は完全に塞がってる』
その声にごまかす響きは欠片もない。
純然たる事実だけをマスターに伝えている。
実際、パチュリーによる計算でも完全回復している時間だ。
「そう……なら問題の一つはクリア。
もう一つの問題はつけられている可能性だったけれど……それも問題ないようね」
身元がバレている、ということは自宅も把握されている可能性があるということだ。
こちらの体勢が整う前に襲われること……そしてこちらが襲撃を掛ける前にカウンターを食らうことは避けたかった
それなりの魔術工房(ようさい)に改造してある自宅ならともかく、登校途中に隙を突かれ襲撃されるのは目立ちすぎて非常によろしくない。
そのためにわざわざ大学を迂回してリバータウンにやってきたのだ。
だがそれも結局は杞憂だったようだ。であればいつ仕掛けても問題はない。
「じゃあ、この紅茶を飲み終わったら大学に向かうことに――」
『――振り返るな。そのままだ』
自分の言葉を遮るように放たれた同田貫の言葉。
その張り詰めた、冷たい刃のような言葉にパチュリーは思わず体をこわばらせる。
『後ろ斜め向かいの席に東洋人の男がいる。
首を動かさずに、窓の反射越しに確認しろ』
言われるまま、反射する窓ガラスごしに視線をそちらに向ける。
同田貫の言うとおり、自身の背面側、斜め後ろの席に男が座っている。
『見覚えは?』
「――あるわけないわね」
格好も特段奇抜なものではない、一般的なサラリーマンと同じグレーのスーツ。
背格好も中肉中背な平均的なもので、街の中にいると埋没してしまいそうなぐらい個性の薄い格好であった。
だがパチュリーはその目が気になった。
何かを見定めるようなその目でこちらをチラチラと見ているのだ。
そして視線の先、男は何かを決意したような表情を見せ、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
『こっちに来るぜ。どうする?』
(……サーヴァントでないのなら私が相手をするわ。
貴方は奇襲がないように周囲を警戒しておいて)
『応』
落ち着け。二度と醜態を晒してなるものか。
そう心のなかで呟きながら、シングルアクションで魔術を発動できるように準備しつつ、視線を男に向ける。
「……何か、用かしら?」
パチュリーのその言葉に対し、男は懐から何かを取り出そうとしている。
(……呪符か何か? それとも拳銃?)
――大丈夫だ。
魔術に対する抵抗(レジスト)はしっかりかけてあるし、拳銃であれば一刀のもとに切り伏せられるだけだ。
そう自分に言い聞かせつつ、ただ男の顔をしっかりと見つめている。
その視線の先、果たして男が取り出したものは。
「君、アイドルに興味はないかな?」
何の変哲もない、名前の書かれた紙だった。
■ ■ ■
そこは、戦場であった。
白刃がぶつかり合い、策謀と意地が渦巻く戰場(いくさば)。
その中で豪奢な鎧をまとった男と弓を持った軽装の男が相対している。
体を大きく動かしながら、豪奢な鎧に身を包んだ男が声を上げる。
「『ふざけているのか? 弓なんぞで何ができる?
せいぜい不意打ちでしか俺を傷つけることが出来なかったそんなもので』」
嘲笑の入り混じったその言葉に対し、青年は手にした弓を構える。
「『――試してみるか?』」
二者の間の緊張が徐々に高まっていく。
青年の持つ弓が限界まで引き絞られ、そしてそれが解き放たれるその瞬間。
「――カァット!」
甲高い声が、その戦場を終わらせた。
先程まで向き合っていた二人の間にあった、緊迫した空気が霧散霧消する。
それだけではない。周囲の空気も一気に騒がしい会話で埋め尽くされ、ラフな格好の人々が道具片手に戦場に入り乱れる。。
――そう、これは舞台の上の話である。
この舞台の企画者は286プロダクションという日本の事務所だ。
歌やライブだけでなく総合的なエンターティメントを掲げる286プロダクションは、本格的な歌劇の開催を予定していた。
実際の公演はノースサイドで予定されているが、その練習は商業地域にあるスタジオ"ル・リエー"で行われていたのだ。
「いや~クリムちゃん、助かったよ~。
主役の子が遅れてて、セリフ覚えてる子が他にいなくてさ~」
「ははっ、この程度……当然ですよ」
そしてクリムの所属しているプロダクションもそれに参加している……という筋書きらしい。
そう、ここアーカムでクリム・ニックにあてがわれた役割は"舞台役者"であった。
出番は多くもなく少なくもなく、練習さえこなしていれば割と自由が効く立場だ。
今回の演劇でも先程は都合で主役の代わりを務めたが、実際は主人公の副官ポジションの役が割り振られている。
しかし舞台上で堂々とセリフを読み上げるその姿を見ていると最初に名乗った軍人という肩書より、こちらのほうがよほど似合っているようにリュドミラには見えた。
『……貴方、自分のことを軍人だと言ったけど演者の方が向いてるんじゃないのかしら』
「真の天才とは万物に秀でるものですよ、戦姫さま。
それに将たるもの、軍人という猪武者を束ねるためにはポーズを見せてやることも大切でしょう?」
最初にあった時から変わらない、自信満々なその姿。
それが馬鹿だからなのか、それとも本人がうそぶく通り天才だからなのか。
一軍の将として様々な傑物や道化と会ってきたリュドミラを持ってしてもこの男を読み切れていなかった。
そして今のリュドミラにとって気になることは一つだけではない。
『しかしよりにもよって、演劇の内容が、"これ"とはね……』
本来ならば演劇で何が演じられようと、彼女が気に留めることはなかっただろう。
だがクリムが手にしている台本に書かれたタイトルは"Lord Marksman and Vanadis(魔弾の王と戦姫)"
ヨーロッパ地方に伝わる伝承を現代風にアレンジしたもの……とされているが、問題はその内容が彼女の知る人物と出来事に酷似しているということだった。
その台本の中には彼女の知る名前が幾つもあり……無論、その中には"リュドミラ・ルリエ"という名前も書かれている。
「しかしどんなお気持ちですか。自分たちをモデルにした劇を見るというのは」
『……まぁ、悪い気分ではないわ。
吟遊詩人によって、英雄の歌が語られるようなものだもの』
それが侮辱するようなものならば別だけど、と付け加える。
そして細部こそ異なるものの、この劇において登場人物を侮辱するような改変は見られなかった。
……正直なところ、リュドミラとしては自分が脇役で、自分とも因縁深いあの戦姫がヒロイン役というのが非常に気に食わないが、それを表に出すのも大人げない。
「ほう。そういえばこの劇のモデルに成った伝説では、ティグルウルムド卿と恋仲になったという説もあるそうでガアッ!?」
いきなり頭を抑えてうずくまったクリムに、周囲は奇妙なものを見る視線を向ける。
そんな彼らに『なんでもない』とアピールしながら、クリムは自身のサーヴァントの様子を諜う。
軽口を叩きすぎただろうか。そんなことを考えながら自身のサーヴァントへ視線を向けた。
だがそんなクリムの目に入ってきたのは予想外のリュドミラの表情だった。
照れたような顔ではなく、何かに悩んでいるような、または苛つきを無理やり押さえつけたような――そんな複雑な表情でリュドミラが口を開く。
『……覚えていないのよ』
「……は? いや失敬。それはどういう意味ですか戦姫さま?」
『言葉のままよ。記憶が欠如しているの。
この台本に書かれたようなことは覚えている。
けれど自分がどうやって死んだか……それこそ戦場で散ったのか、天寿を全うしたのか……そのあたりの記憶は靄がかかったように思い出せないのよ』
そのリュドミラの言葉に、クリムは怪訝そうな表情を浮かべる。
「それは……奇妙な話ではないですか。
英霊とは一生を駆け抜けたものの映し身。
でなければ…‥であればこそ、自分の末期は覚えているはず」
古今東西の英雄に共通するのは悲劇的な死だ。
だからこそ、その結末に納得ができず、聖杯に呼ばれる英霊も数多くいるのだ。
そう、クリム・ニックは解釈していた。
『ええ、そうよ。
……これが普通の聖杯戦争ならばありえない事態よ。
気を引き締めなさい、マスター。この聖杯戦争……やはり何かがおかしいわ』
その忠告を神妙に聞き入るクリム。
そんな彼にスタッフの一人が近づいてくる。
「クリムさん、そろそろ次の出番なので準備お願いしまーす!」
「ああ、わかった。――ん、あれは?」
いつの間にか入口辺りに見慣れぬ少女がいる。
ここはいわゆるタレントも多数いる。
部外者が入れるような場所ではないはずだが……?
『マスター、ちょっといいかしら?』
怪訝な表情を浮かべるクリムに対し、緊迫した様子のリュドミラの声。
「どうされましたか、戦姫さ――」
その時、"それ"は起こった。
■ ■ ■
「はぁ……」
パチュリーは深くため息を付いた。
『溜息つくぐらいなら断ればよかったじゃねぇか』
「……貴方は直接相手をしてないからそんなこと言えるのよ。
あの男、相当な曲者よ」
喫茶店で声をかけてきた謎の男。
"プロデューサー"と名乗ったその男は、事もあろうにパチュリーをアイドルにスカウトしたのだ。
無論、パチュリーにはそんなものに興味はないし、今から戦いを仕掛けに行こうとしている出鼻をくじかれ不機嫌なのも手伝ってはっきりと断るつもりでいた。
だが男は硬柔織り交ぜた巧みな言葉と、どこから生まれてくるのか謎の熱意によって、パチュリーを強引にこのスタジオまで連れてきたのだ。
仕掛け人(プロデューサー)と名乗っていたが、あれは最早詐欺師や話術士の類だ。
『それにこんなところで道草食ってる暇があるのかよ』
(私だってこんな場所に何時間もいる気はないわ。さっさと切り上げて大学に向かうわよ)
パチュリーの視線の先で奇妙な衣装をきた役者らしき人物の間を、多くのスタッフが慌ただしく移動している。
情熱、資金、様々な人が色々なものを懸けているのだろう。
――だが、それだけだ。
パチュリーは文学も勿論読むが、彼女が追いかけるのはあくまで文字で綴られるものだ。
舞台で演じられる劇に対してはまったく興味がわかなかった。
実際に目の当たりにしてもそれは変わらない。
「……で、連れられて来て舞台とやらも見たわ。だから私はそろそろ……」
「あっれぇ~! プロデューサーちゃん来てたの~?」
パチュリーの声を遮る、はっきりと通る明るい声。
その声の主は奇妙な衣装を着た金髪の少女だった。
「お、唯。ちゃんと仕事してたか?」
「うんうん、バッチシ☆ 戦うお姫様をキメちゃったんだから!
あれ? 誰、この可愛い子!」
「おう、スカウトしてきたんだ。スゴイだろ?」
「にゃはは、プロデューサーさんってば、隙あればスカウトしてくるんだから~。
しかも可愛い子ばっかり! えっちぃ~」
「誰がエッチだ。仕事熱心と褒めなさい」
何が楽しいのか、けらけらと笑いながら話す金髪の少女。
パチュリーの方に向くと笑みを一層深くして、手を差し出してきた。
「ゆいの名前は大槻唯。ゆいでいいよ! これからヨロシクね!」
正直なところ、パチュリー・ノーレッジの性根は引きこもりのそれに近い。
多くの人と関わるより、本を読んで静かに過ごしたいのが彼女のスタイルだ。
……それに経験上、金髪のふわふわ髪に関わるとろくなことがないのだ。
だが礼儀知らずと思われるのも面白く無い。
二つの意識を秤にかけ、わずかに後者が勝った。
仕方なしに唯の手を取る。
「……パチュリー・ノーレッジよ。
ただ誤解してほしくないのだけど、私はこの男に無理矢理連れてこられただけで、芸人の真似事をする気は欠片もないわ」
「ゲイニン? プロデューサーちゃん、ゲイニンって何?」
「あー、まぁアイドルの古い言い方みたいなもんだよ」
その言葉に唯は驚きの表情を浮かべる。
「え~、楽しいって! 今やってる劇もすっごく面白いんだから!」
「……だから言ったでしょう。私はそういうのに興味ないわ」
「うんうん、最初はそう言ってた子も多かったんだけど、
プロデューサーちゃんに無理やり引っ張られてアイドルになった子ってけっこういるんだよ!
ゆいもその一人なんだけどね!」
唯の言葉にプロデューサーを名乗る男はどうだ、みたいな自慢気な顔をしている。
……正直ブン殴りたい。
だがその衝動をぐっとこらえ、大学に向かうため、話を強引に切り上げようとする、その時だった。
「……ッ!」
パチュリーの体が軽くよろめいた。
「あれ、どったの?」
「……歩き疲れたのよ。少し座らせて頂戴」
「ああ、それは気が付かなかった。椅子を持ってこよう」
「あ、じゃあ、ゆいは飲み物持ってくるね~!」
そう言ってパチュリーから離れる二人。
そのタイミングで同田貫が話かけてくる。
『……で、気づいてんだろ?』
(当たり前よ。この無茶苦茶な魔力に気づかない魔術師なんているわけ無いでしょう)
全身の肌が粟立ち、得体のしれないものが体の奥からせり上がってくるこの感覚。
しかもパチュリーはそれによく似た現象に数時間前に遭遇しているのだ。
間違えようがない。
宝具――もしくはそれに匹敵する魔力を近辺で何者かが解き放ったのだ。
『だったら俺がひとっ走り様子を見て……』
(待ちなさいセイバー。
敵がどこにいるかもわからないこの状況で、私がサーヴァントを離すとでも?)
リードを常に握っていなければ、何処かへ行ってしまう駄犬か何かか。
それにその魔力を発した奴も気になるが、それ以上に気になる反応を見せた奴がこの場所にいるのだ。
(それよりも舞台の横にいる男を見なさい。
衣装を着た連中の中に髪を切りそろえた痩せぎすの男がいるでしょう?)
『ああ、いるぜ。もやしみたいな男が……で、あいつがどうかしたのかよ』
(……あの男、さっきの魔力に感づいたような素振りを見せたわ)
こちらが気づいたことがバレないように、目線を合わさないようにする。
(周囲にサーヴァントの気配は感じるかしら)
『……わかんねぇな。ここはごちゃごちゃしすぎている。
相手が霊体化した状態じゃ、意図的にダダ漏れになってない限り判別は難しいな』
周囲に溢れる人。人。人。
深夜の大学のような場所ならば魔力の匂いも嗅ぎ取れるだろうが、こんな人の多い場所ではその匂いも紛れてしまうということだろう。
それにこの微妙な距離ではマスター同士のステータス確認もできない。
(さて、どうしたものかしらね……)
あくまで本命は大学で待ち構えるランサーのマスターだ。
だが聖杯戦争がバトルロイヤルである以上、他のマスターを無視することなど出来はしない。
この街はすでに危険な盤上と化している。
一手誤ればそのままチェックメイトまで持って行かれても不思議ではない。
次の手に悩むパチュリー。
そんな彼女のもとにプロデューサーがパイプ椅子を抱えて戻ってくる。
「はい、椅子をどうぞ。で、うちのプロダクションの契約方式なんだけど……」
「……待ちなさい。何で契約方式の話になっているのかしら?」
■ ■ ■
(……何だ、今のは)
クリム・ニックは頭を抑えつつ、呻いた。
『この魔力量――恐らくはこの近辺で何者かが宝具を開放したみたいね。
それも相当に強力なやつを』
表情を歪めるクリムの方を見て、リュドミラは言葉を続ける。
『……ただ貴方が感じたのはそれだけではないだようだけれど』
(ええ、宇宙(そら)にいる感覚とも違う。
戦場で感じるそれとも違う……おぞましい悪寒としか表現できないものですよ)
彼の身体を震わせたのは、体の芯から込み上げてくるような悪寒。
幾多の戦場を駆け抜けてきたクリムですら体感したことのない何か。
死よりも深い、もっと奥底から込み上げてくるような根源的な恐怖だった。
『気になるわね。
貴方の感じたそれが魔術的なものなら、サーヴァントである私も感じ取っているはず。
けれど私が感じ取ったのは開放された魔力だけ。
……やはり普通の聖杯戦争ではないようね』
(……で、どうされますか戦姫さま。
そんな膨大な魔力を開放した相手を放っておくことなど出来ないでしょう?)
『……いえ、その前にマスターに言わなけれなばらないことが二つほどあるわ』
リュドミラの何かを決意したような真剣な声色にクリムも居住まいを正し、じっとその目を見る。
『まず一つ。さっき入ってきた連中の誰かにラヴィアスが反応していたわ。
間違いなくこのスタジオ内に私以外のサーヴァントがいる』
「ほう……」
氷槍ラヴィアスのもたらす高い気配感知スキル。
それはこのスタジオ内に何者かが来たことを察知していた。
『十中八九、マスターは入口付近に立っているあの見慣れない女でしょうね』
「その根拠は?」
『そうね……反応したタイミングというのもあるけど……彼女、"不自然なくらいに"こっちを見ていないわ』
リュドミラ・ルリエが持つ観察眼。
戦姫は政治的にも大きな力を持ち、政治の場にも借り出される。
特にリュドミラは名家の出だ。
スキルにこそないものの、その観察眼は人並み以上であることは間違いない。
「なるほど。確かにそれは怪しい。対処しない訳にはいかないでしょう。
それで、もう一つの"私に話しておくこと"、というのは?」
『……宣言しておくわ。この場所の判断を全て貴方に預ける』
「!? それは……」
『私はアサシンとの戦いで、"してやられた"。
侮辱という名の挑発に乘り、氷槍ラヴィアスを――私の誇りを奪われ、窮地に陥った。
それは誇り高き戦姫の一人として、そして槍の英霊として決してあってはならないことよ』
あの時、アサシンとそのマスターがこちらを始末する腹づもりであったなら、無様に脱落していたはずだ。
今、こうして無事でいられるのは『運が良かった』。ただそれだけのことなのだ。
だからこそ今一度、自分を見つめなおすと同時に自分の目の前の男の器を見極め無くてはならない。
『……だから今回は貴方に全ての判断を任せるわ。
天才の名に恥じない采配を期待しているわ、マスター』
そう言って、リュドミラは口を閉じた。
それはクリムにすべてを任せるという意思表示でもある。
その態度にクリムの芯に何かが湧き上がる。
それは先ほどの悪寒も掻き消えるような熱だ。
これは期せずして訪れたチャンスだ。
目の前の英雄に、自身が天才と呼ばれるに足る男だと証明できるまたとない機会がやってきたのだ。
チャンスが目の前にあれば迷わず飛びつき、挑戦する。
それがクリム・ニックという男なのだ。
「ふっ、ふふふっ、おまかせください戦姫さま!
ご期待にそう働きをすることを約束しましょう!」
同盟を結ぶもよし、首級をあげるのを狙うもよし。
だが、どんな選択肢を取ろうとも負けるなどとは欠片も思っていない。
この男が、クリム・ニックであるがゆえに。
【商業区域・スタジオ"ル・リエー"/一日目 午前】
【パチュリー・ノーレッジ@東方Project】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大学生としては余裕あり
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に関わり、神秘を探る。
0.舞台袖の男(クリム)に対処する。
1.さっさと大学へ行きたい。
2.ランサーのマスター、あるいは他の参加者を探り出す。
[備考]
※ ランサー(セーラーサターン)の宝具『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』の名を知りました。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【セイバー(同田貫正国)@刀剣乱舞】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:敵を斬る。ただそれだけ。
1.敵を見つけたら斬る。
2.面倒な考え事は全てマスターに任せる。
[備考]
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【クリム・ニック@ガンダム Gのレコンキスタ】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:天才的直感に従って行動する
1.マスターと疑わしき少女(パチュリー)に対処する。
2.同盟相手を探す
3.あやめとやら、見つければアサシン主従の貸しにできるな
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【ランサー(リュドミラ=ルリエ)@魔弾の王と戦姫】
[状態]健康
[精神]若干の精神ダメージと苛立ち
[装備]氷槍ラヴィアス
[道具]紅茶
[所持金]マスターに払わせるから問題ないわ
[思考・状況]
基本行動方針:誇りを取り戻す
1.クリムの指示に従う
2.四日目の未明にアサシン主従を倒す
3.それまではマスターの行動に付き合う
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※アサシンの宝具『境界を操る程度の能力』を確認しました。
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
|BACK||NEXT|
|015:[[UNDERGROUND SEARCHLIE]]|投下順|017:[[それぞれのブランチ]]|
|015:[[UNDERGROUND SEARCHLIE]]|時系列順|017:[[それぞれのブランチ]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
|002:[[首括りの丘へ]]|[[パチュリー・ノーレッジ]]&セイバー([[同田貫正国]])|:[[ ]]|
|010:[[妖怪の賢者と戦姫]]|[[クリム・ニック]]&ランサー([[リュドミラ=ルリエ ]])|:[[ ]]|
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*BRAND NEW FIELD ◆HQRzDweJVY
リバータウンにある喫茶"楽園"。
遅めの朝食を楽しむ人々で賑わうその店の一角で、一人の少女が本を読みながら軽食をとっている。
彼女の名はパチュリー・ノーレッジ。
ミスカトニック大学に通う学生であり、ここアーカムの裏側で起こっている聖杯戦争のマスターである。
"魔法使い"という種族であるパチュリーにとって食事は必要ないが、嗜好品として楽しむことは出来る。
その点、この喫茶店はおあつらえ向きである。
具が多めのサンドイッチは見た目も味も良いし、新鮮な野菜の歯ごたえがたまらない。
そして何より店主の老人が入れてくれた紅茶は中々のものだ。
……咲夜の入れてくれた紅茶とは天と地ほどの差があるが、それは比べる相手が悪すぎるというものだろう。
もう少し静かであれば更に加点したいところだが、商店街の大通りにそこそこ近いため、外の賑わいが店内にまで入り込んできている。
その音の方向に視線を向ければ、そこにいるのは幻想郷の人里などとは比べ物にならないほどの人の波。
それだけではない。
窓から見える淀んだ空気も、天を突くほどに高く伸びた建物も幻想郷とは何もかもが違うのだ。
ここ、アーカムにおいて自分が異邦人であることを強く認識させられる。
『……で、何でこんなところで呑気に茶なんざ飲んでんだ、あんたは』
そんな物思いに耽る少女に対して、不躾な声が投げつけられる。
その声の主である剣の英霊・同田貫正国は霊体化した状態でパチュリーの傍らに立っている。
その表情には隠し切れない苛つきが浮かんでいるが、主たる少女はそれを無視したかのように口を開く。
「これを見てみなさい」
そう言ってパチュリーが差し出したのはスマートフォン。
そこには一つのニュースサイトが映しだされている。
――アーカム・アドヴァタイザー・ナウ。
アーカムの歴史ある地方紙が時代の流れに従い、オンライン化したものだ。
そのトップページにはでかでかと、一つのニュースが掲載されている。
"Miskatonic University Death"
名詞だけで形作られた鮮烈な見出し文(ヘッドライン)。
それが意味するのはミスカトニック大学で死体が発見されたというニュースだ。
そう、彼女たちが今朝までいたあの大学でだ。
『死体? どういうこった』
「ちょっと待っていなさい。ええと、フリック入力ってこうやるのよね……」
もたもたとした手つきでスマートフォンを操作するパチュリー。
正直なところ、同じ情報を手に入れられるのであればパチュリーは紙に印刷された新聞を選ぶタイプだ。
だが"インターネット"とやらの情報スピードは凄まじい物がある。
こと今朝方起こったような事件に関しては、紙媒体よりも有用であることは認めなくてはならないだろう。
「ここに『今朝方、大学で首吊死体が発見された』と書いてあるわ。
吊るされていたのは大学の桜の木……それも普通の人間では届かないような位置にわざわざ吊るされていたそうよ。つまり犯人は普通の人間ではないということね」
パチュリーも幾度と無く見かけたキャンパス内で最も大きい桜の木。
あの枝に縄をかけるなど、そこそこ大きい脚立でもなければ難しいだろう。
だがそんな行動をしていれば流石に警備員の目についてしまう。
逆に言えばそれがないということは、普通の犯罪などではないということだ。
「……それに加えて、ここアーカムには魔女の首をくくって吊るしたとかいう過去があるそうよ。
そのことを考えれば自ずとこの事件の意味が見えてくるでしょう?」
それが意味するところは一つ。
特定の人種……魔女に向けたメッセージといったところか。
意味合いとしては『お前の正体はバレている。次はお前の番だ』ぐらいだろうか。
わざわざ死体を使う辺り、何とも悪趣味かつ安い挑戦状だ。
『なるほどな。あの槍使いのマスターからの悪趣味極まりない挑戦状ってわけか。
……で、あんたはビビって尻尾を巻いて逃げてるってところか?』
「口を慎みなさい、セイバー」
ピシャリと言い切るパチュリーの語気は強く、目には静かな炎が燃えている。
「そんなわけないでしょう。
この愚かなマスターには私を侮辱した代償を必ず払わせてやるわ」
そうだ。
この挑戦状の送り主はこのパチュリー・ノーレッジを、紅魔館の魔女を侮辱したのだ。
それがどれだけ愚かな行為だったか……それを脳幹の奥まで叩き込んでやらなければならないだろう。
その答えを聞いた同田貫は、獰猛な笑みを浮かべた。
『そいつは重畳だ。立ち向かう気があるならこっちとしては文句はねぇよ。
……で、だったらあんたは何でこんな場所で管巻いてやがる。
とっとと槍使いのマスターを探しに行かなくていいのかよ』
「落ち着きなさい。急いては事を仕損じる、という諺は貴方の故郷のものでしょうに。
それに……その理由はあの雷撃を食らった貴方が一番理解しているでしょう?」
そう言ってすっかり温くなった紅茶を口に運ぶ。
そしてサーヴァントが口を開く前に湿った唇から言葉を続ける。
「ランサーのマスターは一流の魔術師……それも戦闘に特化しているタイプよ。
正直、直接遭遇して戦いになった場合、不利になる可能性は十分にあるわ」
例えDランクとはいえサーヴァントの対魔力を真っ向から打ち抜ける魔力。
それにあの場にいなかったにも関わらず、こちらを狙い撃つ正確性。
間違いなく戦闘的な魔術に心得のあるマスターだ。
魔術戦で負ける気はしないが、自分には体力というハンディキャップがある。
それにあの魔術精度でサーヴァントと連携されると極めて厄介だと言わざるをえない。
「だからこちらも再戦には万全の体制で望む必要がある。
……特にこれから相手の魔術工房を襲撃する場合はね」
『ちょっと待て。襲撃だと? そもそも相手の寝座はわかってるのかよ』
「ええ。大体の予想は付いてるわ」
パチュリーはそう断言すると人差し指をピンと立てた。
「まず一つ目。
私を名指ししているということは、まず間違いなく大学の関係者であるということよ」
神秘学科の七曜の魔女。
学内ではそれなりに有名な異名らしいが、流石に学外までは響いてないはずだ。
故に犯人は学内の人間だと断言できる。
『……っておい。あんた、大学に何百人の人間がいると思ってんだ』
「だから話は最後まで聞きなさい。
絞り込むための二つ目の手がかりは――この被害者よ」
アーカム・アドヴァタイザー・ナウには被害者の名前も乗っている。
そして学内の人間ならば、その所属する学科程度ならば簡単に調べられるのだ。
「大学という場所はより専門的な学問を収める場所。
つまり自身の所属する学科外との繋がりは非常に薄いものよ。
そして彼女は『応用化学部』という学科に所属していた……犯人はほぼ間違いなくこの学科の関係者でしょうね」
『それだと通りすがりの犯行って線もあるんじゃねぇのか』
「確かにその可能性も0じゃないわ。
ただ死体発見時刻から考えてもこの死体を用意したのは、私達と遭遇するよりも前……
そうなると偶発的な事故か何かで殺したというのが有力な線よ。
……となるとやはり複数の学部の人間が利用するような人通りの多いところで殺害されたというのは考えにくいでしょう?」
『なるほどな。筋は通ってるってわけか』
「ええ、そしてあのランサーが学校内で仕掛けてきたということは、学校内に本拠地――すなわち工房を持っている可能性が非常に高いわ」
キャンパスの地図で調べてみたところ、応用化学部の研究棟は大きめの建物が1棟しかない。
……であれば犯人が誰であれ、工房がそこである確率は非常に高いと考えられる。
『……ってえことは今度の戦は城攻めか。
ハッ、面白くなってきたじゃねぇか』
喜々とした声を上げる同田貫。
その単純な思考にパチュリーは頭を抱える。
とはいえ魔術工房への突撃を城攻めと評するのは、あながち間違いではない。
幻術による迷宮、幾多の魔術的な罠、猟犬代わりのモンスター……練度の高い魔術師なら一部を魔界化させることすらやるかもしれない。
それは最早魔術で編まれた要塞と言っても過言ではないだろう。
『……で、いつ攻め込むんだ』
「だから落ち着きなさいと言ってるでしょう。
……まず一つ確認するのだけど、体の調子は万全なのね?」
『問題ねぇな。傷は完全に塞がってる』
その声にごまかす響きは欠片もない。
純然たる事実だけをマスターに伝えている。
実際、パチュリーによる計算でも完全回復している時間だ。
「そう……なら問題の一つはクリア。
もう一つの問題はつけられている可能性だったけれど……それも問題ないようね」
身元がバレている、ということは自宅も把握されている可能性があるということだ。
こちらの体勢が整う前に襲われること……そしてこちらが襲撃を掛ける前にカウンターを食らうことは避けたかった
それなりの魔術工房(ようさい)に改造してある自宅ならともかく、登校途中に隙を突かれ襲撃されるのは目立ちすぎて非常によろしくない。
そのためにわざわざ大学を迂回してリバータウンにやってきたのだ。
だがそれも結局は杞憂だったようだ。であればいつ仕掛けても問題はない。
「じゃあ、この紅茶を飲み終わったら大学に向かうことに――」
『――振り返るな。そのままだ』
自分の言葉を遮るように放たれた同田貫の言葉。
その張り詰めた、冷たい刃のような言葉にパチュリーは思わず体をこわばらせる。
『後ろ斜め向かいの席に東洋人の男がいる。
首を動かさずに、窓の反射越しに確認しろ』
言われるまま、反射する窓ガラスごしに視線をそちらに向ける。
同田貫の言うとおり、自身の背面側、斜め後ろの席に男が座っている。
『見覚えは?』
「――あるわけないわね」
格好も特段奇抜なものではない、一般的なサラリーマンと同じグレーのスーツ。
背格好も中肉中背な平均的なもので、街の中にいると埋没してしまいそうなぐらい個性の薄い格好であった。
だがパチュリーはその目が気になった。
何かを見定めるようなその目でこちらをチラチラと見ているのだ。
そして視線の先、男は何かを決意したような表情を見せ、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
『こっちに来るぜ。どうする?』
(……サーヴァントでないのなら私が相手をするわ。
貴方は奇襲がないように周囲を警戒しておいて)
『応』
落ち着け。二度と醜態を晒してなるものか。
そう心のなかで呟きながら、シングルアクションで魔術を発動できるように準備しつつ、視線を男に向ける。
「……何か、用かしら?」
パチュリーのその言葉に対し、男は懐から何かを取り出そうとしている。
(……呪符か何か? それとも拳銃?)
――大丈夫だ。
魔術に対する抵抗(レジスト)はしっかりかけてあるし、拳銃であれば一刀のもとに切り伏せられるだけだ。
そう自分に言い聞かせつつ、ただ男の顔をしっかりと見つめている。
その視線の先、果たして男が取り出したものは。
「君、アイドルに興味はないかな?」
何の変哲もない、名前の書かれた紙だった。
■ ■ ■
そこは、戦場であった。
白刃がぶつかり合い、策謀と意地が渦巻く戰場(いくさば)。
その中で豪奢な鎧をまとった男と弓を持った軽装の男が相対している。
体を大きく動かしながら、豪奢な鎧に身を包んだ男が声を上げる。
「『ふざけているのか? 弓なんぞで何ができる?
せいぜい不意打ちでしか俺を傷つけることが出来なかったそんなもので』」
嘲笑の入り混じったその言葉に対し、青年は手にした弓を構える。
「『――試してみるか?』」
二者の間の緊張が徐々に高まっていく。
青年の持つ弓が限界まで引き絞られ、そしてそれが解き放たれるその瞬間。
「――カァット!」
甲高い声が、その戦場を終わらせた。
先程まで向き合っていた二人の間にあった、緊迫した空気が霧散霧消する。
それだけではない。周囲の空気も一気に騒がしい会話で埋め尽くされ、ラフな格好の人々が道具片手に戦場に入り乱れる。。
――そう、これは舞台の上の話である。
この舞台の企画者は286プロダクションという日本の事務所だ。
歌やライブだけでなく総合的なエンターティメントを掲げる286プロダクションは、本格的な歌劇の開催を予定していた。
実際の公演はノースサイドで予定されているが、その練習は商業地域にあるスタジオ"ル・リエー"で行われていたのだ。
「いや~クリムちゃん、助かったよ~。
主役の子が遅れてて、セリフ覚えてる子が他にいなくてさ~」
「ははっ、この程度……当然ですよ」
そしてクリムの所属しているプロダクションもそれに参加している……という筋書きらしい。
そう、ここアーカムでクリム・ニックにあてがわれた役割は"舞台役者"であった。
出番は多くもなく少なくもなく、練習さえこなしていれば割と自由が効く立場だ。
今回の演劇でも先程は都合で主役の代わりを務めたが、実際は主人公の副官ポジションの役が割り振られている。
しかし舞台上で堂々とセリフを読み上げるその姿を見ていると最初に名乗った軍人という肩書より、こちらのほうがよほど似合っているようにリュドミラには見えた。
『……貴方、自分のことを軍人だと言ったけど演者の方が向いてるんじゃないのかしら』
「真の天才とは万物に秀でるものですよ、戦姫さま。
それに将たるもの、軍人という猪武者を束ねるためにはポーズを見せてやることも大切でしょう?」
最初にあった時から変わらない、自信満々なその姿。
それが馬鹿だからなのか、それとも本人がうそぶく通り天才だからなのか。
一軍の将として様々な傑物や道化と会ってきたリュドミラを持ってしてもこの男を読み切れていなかった。
そして今のリュドミラにとって気になることは一つだけではない。
『しかしよりにもよって、演劇の内容が、"これ"とはね……』
本来ならば演劇で何が演じられようと、彼女が気に留めることはなかっただろう。
だがクリムが手にしている台本に書かれたタイトルは"Lord Marksman and Vanadis(魔弾の王と戦姫)"
ヨーロッパ地方に伝わる伝承を現代風にアレンジしたもの……とされているが、問題はその内容が彼女の知る人物と出来事に酷似しているということだった。
その台本の中には彼女の知る名前が幾つもあり……無論、その中には"リュドミラ・ルリエ"という名前も書かれている。
「しかしどんなお気持ちですか。自分たちをモデルにした劇を見るというのは」
『……まぁ、悪い気分ではないわ。
吟遊詩人によって、英雄の歌が語られるようなものだもの』
それが侮辱するようなものならば別だけど、と付け加える。
そして細部こそ異なるものの、この劇において登場人物を侮辱するような改変は見られなかった。
……正直なところ、リュドミラとしては自分が脇役で、自分とも因縁深いあの戦姫がヒロイン役というのが非常に気に食わないが、それを表に出すのも大人げない。
「ほう。そういえばこの劇のモデルに成った伝説では、ティグルウルムド卿と恋仲になったという説もあるそうでガアッ!?」
いきなり頭を抑えてうずくまったクリムに、周囲は奇妙なものを見る視線を向ける。
そんな彼らに『なんでもない』とアピールしながら、クリムは自身のサーヴァントの様子を諜う。
軽口を叩きすぎただろうか。そんなことを考えながら自身のサーヴァントへ視線を向けた。
だがそんなクリムの目に入ってきたのは予想外のリュドミラの表情だった。
照れたような顔ではなく、何かに悩んでいるような、または苛つきを無理やり押さえつけたような――そんな複雑な表情でリュドミラが口を開く。
『……覚えていないのよ』
「……は? いや失敬。それはどういう意味ですか戦姫さま?」
『言葉のままよ。記憶が欠如しているの。
この台本に書かれたようなことは覚えている。
けれど自分がどうやって死んだか……それこそ戦場で散ったのか、天寿を全うしたのか……そのあたりの記憶は靄がかかったように思い出せないのよ』
そのリュドミラの言葉に、クリムは怪訝そうな表情を浮かべる。
「それは……奇妙な話ではないですか。
英霊とは一生を駆け抜けたものの映し身。
でなければ…‥であればこそ、自分の末期は覚えているはず」
古今東西の英雄に共通するのは悲劇的な死だ。
だからこそ、その結末に納得ができず、聖杯に呼ばれる英霊も数多くいるのだ。
そう、クリム・ニックは解釈していた。
『ええ、そうよ。
……これが普通の聖杯戦争ならばありえない事態よ。
気を引き締めなさい、マスター。この聖杯戦争……やはり何かがおかしいわ』
その忠告を神妙に聞き入るクリム。
そんな彼にスタッフの一人が近づいてくる。
「クリムさん、そろそろ次の出番なので準備お願いしまーす!」
「ああ、わかった。――ん、あれは?」
いつの間にか入口辺りに見慣れぬ少女がいる。
ここはいわゆるタレントも多数いる。
部外者が入れるような場所ではないはずだが……?
『マスター、ちょっといいかしら?』
怪訝な表情を浮かべるクリムに対し、緊迫した様子のリュドミラの声。
「どうされましたか、戦姫さ――」
その時、"それ"は起こった。
■ ■ ■
「はぁ……」
パチュリーは深くため息を付いた。
『溜息つくぐらいなら断ればよかったじゃねぇか』
「……貴方は直接相手をしてないからそんなこと言えるのよ。
あの男、相当な曲者よ」
喫茶店で声をかけてきた謎の男。
"プロデューサー"と名乗ったその男は、事もあろうにパチュリーをアイドルにスカウトしたのだ。
無論、パチュリーにはそんなものに興味はないし、今から戦いを仕掛けに行こうとしている出鼻をくじかれ不機嫌なのも手伝ってはっきりと断るつもりでいた。
だが男は硬柔織り交ぜた巧みな言葉と、どこから生まれてくるのか謎の熱意によって、パチュリーを強引にこのスタジオまで連れてきたのだ。
仕掛け人(プロデューサー)と名乗っていたが、あれは最早詐欺師や話術士の類だ。
『それにこんなところで道草食ってる暇があるのかよ』
(私だってこんな場所に何時間もいる気はないわ。さっさと切り上げて大学に向かうわよ)
パチュリーの視線の先で奇妙な衣装をきた役者らしき人物の間を、多くのスタッフが慌ただしく移動している。
情熱、資金、様々な人が色々なものを懸けているのだろう。
――だが、それだけだ。
パチュリーは文学も勿論読むが、彼女が追いかけるのはあくまで文字で綴られるものだ。
舞台で演じられる劇に対してはまったく興味がわかなかった。
実際に目の当たりにしてもそれは変わらない。
「……で、連れられて来て舞台とやらも見たわ。だから私はそろそろ……」
「あっれぇ~! プロデューサーちゃん来てたの~?」
パチュリーの声を遮る、はっきりと通る明るい声。
その声の主は奇妙な衣装を着た金髪の少女だった。
「お、唯。ちゃんと仕事してたか?」
「うんうん、バッチシ☆ 戦うお姫様をキメちゃったんだから!
あれ? 誰、この可愛い子!」
「おう、スカウトしてきたんだ。スゴイだろ?」
「にゃはは、プロデューサーさんってば、隙あればスカウトしてくるんだから~。
しかも可愛い子ばっかり! えっちぃ~」
「誰がエッチだ。仕事熱心と褒めなさい」
何が楽しいのか、けらけらと笑いながら話す金髪の少女。
パチュリーの方に向くと笑みを一層深くして、手を差し出してきた。
「ゆいの名前は大槻唯。ゆいでいいよ! これからヨロシクね!」
正直なところ、パチュリー・ノーレッジの性根は引きこもりのそれに近い。
多くの人と関わるより、本を読んで静かに過ごしたいのが彼女のスタイルだ。
……それに経験上、金髪のふわふわ髪に関わるとろくなことがないのだ。
だが礼儀知らずと思われるのも面白く無い。
二つの意識を秤にかけ、わずかに後者が勝った。
仕方なしに唯の手を取る。
「……パチュリー・ノーレッジよ。
ただ誤解してほしくないのだけど、私はこの男に無理矢理連れてこられただけで、芸人の真似事をする気は欠片もないわ」
「ゲイニン? プロデューサーちゃん、ゲイニンって何?」
「あー、まぁアイドルの古い言い方みたいなもんだよ」
その言葉に唯は驚きの表情を浮かべる。
「え~、楽しいって! 今やってる劇もすっごく面白いんだから!」
「……だから言ったでしょう。私はそういうのに興味ないわ」
「うんうん、最初はそう言ってた子も多かったんだけど、
プロデューサーちゃんに無理やり引っ張られてアイドルになった子ってけっこういるんだよ!
ゆいもその一人なんだけどね!」
唯の言葉にプロデューサーを名乗る男はどうだ、みたいな自慢気な顔をしている。
……正直ブン殴りたい。
だがその衝動をぐっとこらえ、大学に向かうため、話を強引に切り上げようとする、その時だった。
「……ッ!」
パチュリーの体が軽くよろめいた。
「あれ、どったの?」
「……歩き疲れたのよ。少し座らせて頂戴」
「ああ、それは気が付かなかった。椅子を持ってこよう」
「あ、じゃあ、ゆいは飲み物持ってくるね~!」
そう言ってパチュリーから離れる二人。
そのタイミングで同田貫が話かけてくる。
『……で、気づいてんだろ?』
(当たり前よ。この無茶苦茶な魔力に気づかない魔術師なんているわけ無いでしょう)
全身の肌が粟立ち、得体のしれないものが体の奥からせり上がってくるこの感覚。
しかもパチュリーはそれによく似た現象に数時間前に遭遇しているのだ。
間違えようがない。
宝具――もしくはそれに匹敵する魔力を近辺で何者かが解き放ったのだ。
『だったら俺がひとっ走り様子を見て……』
(待ちなさいセイバー。
敵がどこにいるかもわからないこの状況で、私がサーヴァントを離すとでも?)
リードを常に握っていなければ、何処かへ行ってしまう駄犬か何かか。
それにその魔力を発した奴も気になるが、それ以上に気になる反応を見せた奴がこの場所にいるのだ。
(それよりも舞台の横にいる男を見なさい。
衣装を着た連中の中に髪を切りそろえた痩せぎすの男がいるでしょう?)
『ああ、いるぜ。もやしみたいな男が……で、あいつがどうかしたのかよ』
(……あの男、さっきの魔力に感づいたような素振りを見せたわ)
こちらが気づいたことがバレないように、目線を合わさないようにする。
(周囲にサーヴァントの気配は感じるかしら)
『……わかんねぇな。ここはごちゃごちゃしすぎている。
相手が霊体化した状態じゃ、意図的にダダ漏れになってない限り判別は難しいな』
周囲に溢れる人。人。人。
深夜の大学のような場所ならば魔力の匂いも嗅ぎ取れるだろうが、こんな人の多い場所ではその匂いも紛れてしまうということだろう。
それにこの微妙な距離ではマスター同士のステータス確認もできない。
(さて、どうしたものかしらね……)
あくまで本命は大学で待ち構えるランサーのマスターだ。
だが聖杯戦争がバトルロイヤルである以上、他のマスターを無視することなど出来はしない。
この街はすでに危険な盤上と化している。
一手誤ればそのままチェックメイトまで持って行かれても不思議ではない。
次の手に悩むパチュリー。
そんな彼女のもとにプロデューサーがパイプ椅子を抱えて戻ってくる。
「はい、椅子をどうぞ。で、うちのプロダクションの契約方式なんだけど……」
「……待ちなさい。何で契約方式の話になっているのかしら?」
■ ■ ■
(……何だ、今のは)
クリム・ニックは頭を抑えつつ、呻いた。
『この魔力量――恐らくはこの近辺で何者かが宝具を開放したみたいね。
それも相当に強力なやつを』
表情を歪めるクリムの方を見て、リュドミラは言葉を続ける。
『……ただ貴方が感じたのはそれだけではないだようだけれど』
(ええ、宇宙(そら)にいる感覚とも違う。
戦場で感じるそれとも違う……おぞましい悪寒としか表現できないものですよ)
彼の身体を震わせたのは、体の芯から込み上げてくるような悪寒。
幾多の戦場を駆け抜けてきたクリムですら体感したことのない何か。
死よりも深い、もっと奥底から込み上げてくるような根源的な恐怖だった。
『気になるわね。
貴方の感じたそれが魔術的なものなら、サーヴァントである私も感じ取っているはず。
けれど私が感じ取ったのは開放された魔力だけ。
……やはり普通の聖杯戦争ではないようね』
(……で、どうされますか戦姫さま。
そんな膨大な魔力を開放した相手を放っておくことなど出来ないでしょう?)
『……いえ、その前にマスターに言わなけれなばらないことが二つほどあるわ』
リュドミラの何かを決意したような真剣な声色にクリムも居住まいを正し、じっとその目を見る。
『まず一つ。さっき入ってきた連中の誰かにラヴィアスが反応していたわ。
間違いなくこのスタジオ内に私以外のサーヴァントがいる』
「ほう……」
氷槍ラヴィアスのもたらす高い気配感知スキル。
それはこのスタジオ内に何者かが来たことを察知していた。
『十中八九、マスターは入口付近に立っているあの見慣れない女でしょうね』
「その根拠は?」
『そうね……反応したタイミングというのもあるけど……彼女、"不自然なくらいに"こっちを見ていないわ』
リュドミラ・ルリエが持つ観察眼。
戦姫は政治的にも大きな力を持ち、政治の場にも借り出される。
特にリュドミラは名家の出だ。
スキルにこそないものの、その観察眼は人並み以上であることは間違いない。
「なるほど。確かにそれは怪しい。対処しない訳にはいかないでしょう。
それで、もう一つの"私に話しておくこと"、というのは?」
『……宣言しておくわ。この場所の判断を全て貴方に預ける』
「!? それは……」
『私はアサシンとの戦いで、"してやられた"。
侮辱という名の挑発に乘り、氷槍ラヴィアスを――私の誇りを奪われ、窮地に陥った。
それは誇り高き戦姫の一人として、そして槍の英霊として決してあってはならないことよ』
あの時、アサシンとそのマスターがこちらを始末する腹づもりであったなら、無様に脱落していたはずだ。
今、こうして無事でいられるのは『運が良かった』。ただそれだけのことなのだ。
だからこそ今一度、自分を見つめなおすと同時に自分の目の前の男の器を見極め無くてはならない。
『……だから今回は貴方に全ての判断を任せるわ。
天才の名に恥じない采配を期待しているわ、マスター』
そう言って、リュドミラは口を閉じた。
それはクリムにすべてを任せるという意思表示でもある。
その態度にクリムの芯に何かが湧き上がる。
それは先ほどの悪寒も掻き消えるような熱だ。
これは期せずして訪れたチャンスだ。
目の前の英雄に、自身が天才と呼ばれるに足る男だと証明できるまたとない機会がやってきたのだ。
チャンスが目の前にあれば迷わず飛びつき、挑戦する。
それがクリム・ニックという男なのだ。
「ふっ、ふふふっ、おまかせください戦姫さま!
ご期待にそう働きをすることを約束しましょう!」
同盟を結ぶもよし、首級をあげるのを狙うもよし。
だが、どんな選択肢を取ろうとも負けるなどとは欠片も思っていない。
この男が、クリム・ニックであるがゆえに。
【商業区域・スタジオ"ル・リエー"/一日目 午前】
【パチュリー・ノーレッジ@東方Project】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大学生としては余裕あり
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に関わり、神秘を探る。
0.舞台袖の男(クリム)に対処する。
1.さっさと大学へ行きたい。
2.ランサーのマスター、あるいは他の参加者を探り出す。
[備考]
※ ランサー(セーラーサターン)の宝具『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』の名を知りました。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【セイバー(同田貫正国)@刀剣乱舞】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:敵を斬る。ただそれだけ。
1.敵を見つけたら斬る。
2.面倒な考え事は全てマスターに任せる。
[備考]
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【クリム・ニック@ガンダム Gのレコンキスタ】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:天才的直感に従って行動する
1.マスターと疑わしき少女(パチュリー)に対処する。
2.同盟相手を探す
3.あやめとやら、見つければアサシン主従の貸しにできるな
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【ランサー(リュドミラ=ルリエ)@魔弾の王と戦姫】
[状態]健康
[精神]若干の精神ダメージと苛立ち
[装備]氷槍ラヴィアス
[道具]紅茶
[所持金]マスターに払わせるから問題ないわ
[思考・状況]
基本行動方針:誇りを取り戻す
1.クリムの指示に従う
2.四日目の未明にアサシン主従を倒す
3.それまではマスターの行動に付き合う
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※アサシンの宝具『境界を操る程度の能力』を確認しました。
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
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