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吊るしビトのマクガフィン」(2017/03/25 (土) 23:26:23) の最新版変更点

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*吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 「『標的』の情報が入ったよ」 休息も束の間、金木に対して目の前の小柄な女性から不似合いなほど剣呑な言葉が発せられた。 だが、自らのサーヴァントのそんな発言にも金木には動揺が一切無かった。 既に自身が一戦交えているのだ。 あのヤモリが蘇った本人なのか、あるいはその名を騙る偽者なのかまでは判別がつかなかったが間違いなく聖杯戦争の関係者であろう。 キーパーなる存在の通達から半日も経っていないが好戦的な主従は恐らく積極的に行動しておりその姿を『バネ足ジョップリン』が捉えたのかも知れない。 「それで……具体的にどういった情報で?」 「んー、どれから話そうかな。今、カネキくんに話せる情報は四つくらいあるんだけど」 「もうそんなに集めたんですか……」 「正確には私以外の『バネ足ジョップリン』が集めた情報だけどね」 金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』は中心になる人物こそいるものの、その本質は"ウォッチャー"というクラス名が表すように不特定多数の傍観者にして観測者たちである。 彼らはこのアーカムシティにも一市民として紛れ込み、各々が観測した事象を共有し『都市伝説』として好き勝手に流布している。 いったい何人このアーカムに潜んでいるのかマスターである金木ですら分からないのだ。 ―――そして今、目の前にいる小柄な女性こと掘ちえも本人ではなく彼女の姿を借りたウォッチャーの一人であり、こうして会話している間にも彼らは観測を続けている。 「それじゃあ、まずはこれにしようかな。一番最初に見つかった標的だよ。」 掘が最初に語った情報はこうだ。 時間にして今日の未明、場所はキャンパス地区。 甲冑を纏った青年が女性を抱えて駆け抜けていく所を街中の防犯カメラ―――バネ足ジョップリンの監視下である―――を通して発見したらしい。 甲冑具足という格好だけでも時代錯誤なのに、況してやここは日本ではなくアメリカ合衆国のアーカムだ。 コスプレではないだろうし、十中八九その青年がサーヴァントだろう。 一方、マスターと思しき女性については、外見から特筆するほどの情報は得られなかったと思われたが―――   「パチュリー・ノーレッジ、ですか」 「らしいね。ミスカトニック大学ではそこそこ名が通っている学生みたい。  同じ大学に通っている『バネ足ジョップリン』からの情報だけどね」   金木にとっては幸運なことに、大学にもウォッチャーの一人が潜んでいた。 さらに、件の女性は大学でもそこそこ有名な人物だったらしく、そこからマスターの名前を探り当てることができたのだ。 ―――パチュリー・ノーレッジ。 ミスカトニック大学では"七曜の魔女"の通り名で知られており優秀な神秘学科の学生らしい。 最も大学のバネ足も彼女と親交があったわけではないらしく、その人となりまでは知らないそうだ。 せいぜい、普段は図書館に入り浸っている程度のことしか分からないとのこと。 それでもマスターの名前と所在が判明したのは非常に大きなアドバンテージだ。 「彼らには気づかれなかったんですか?」 「多分、気づいていなかったんじゃないかな。あんまり余裕なさそうだったし」 既にその甲冑姿のサーヴァントは傷を負っていたらしく、脇目も振らずに駆け抜けていったらしい。 そんな様子では目立たないところに仕掛けてある防犯カメラに気づかなかったのも無理はない。 手傷を負っていたことと合わせて考えると他のサーヴァントとの戦闘から撤退している最中と考えるのが自然だろうか。 最も分かったのは外見に基づく特徴のみで、サーヴァントのクラスや真名といったより深い情報は手に入らなかったそうだ。 だがマスターがパチュリー・ノーレッジなる人物であることと、そのサーヴァントがおそらく日本人の武者らしき英雄という情報が得られただけでも十分すぎる結果といえよう。 「そろそろ、二つ目の情報に入っていいかな。  まぁこれはそんなに大した内容じゃないんだけどね、ひょっとしたらさっきの話に関係あるかもしれないよ?」 次に語られた情報はそのミスカトニック大学で発生した不可解な首吊り事件についてであった。 大した内容じゃないと前置きしたのは、既にその事件が大々的にアーカムで話題になっているからであり警察の捜査も始まっているそうだ。 とはいえ、浮浪者という身分でおまけに"白髪の喰屍鬼"の噂のために表立って出歩くこともできない金木にとっては貴重な情報である。 何でも事件の被害者である女学生は自殺が困難な高さの桜の木で首を縊っていたらしい。 明らかに聖杯戦争の関係者の仕業だが一体どのような意図でこんな目立つことをしでかしたというのか。 単純に他のマスターをおびき寄せるための罠なのか、あるいはそれこそヤモリのようなイカれた嗜虐趣味の持ち主なのか……。 どちらにせよ下手人は相当に碌でもない人物であることが窺える。  「チエさんはさっきのパチュリーってマスターがこの件に関わってると言いたいんですか?」 「別にそこまで言ったわけじゃないよ。あくまでその可能性があるかもってだけだし。  彼女とは無関係の人間が事件を起こした可能性だって十分あるわけだしね」 第一の情報で明らかになったマスター、パチュリー・ノーレッジは確かにミスカトニック大学に在学している。 だがそれだけで彼女がこの事件の関係者と決めつけるのは早計だろう。 大学に潜むマスターが彼女一人と決まったわけではないし、むしろあれ程大きな大学ならばマスターが複数人大学の関係者として存在していることも十分に考えられる。 これ以上パチュリー主従と大学での首吊り事件との関係について考えても詮無き事であるし、一先ずこの件について金木は考察を打ち切ることにした。 「さて、三つ目の情報なんだけど……。これはカネキくんにも結構関係あることだししっかり聞いておいた方がいいかもね」 「……僕に関係する情報?」 今まで淡々と情報を受け取っていた金木の表情に僅かな驚きの感情が浮かんだ。 自分に関係する情報とは一体何なのか――― 「私たちウォッチャーが直接コンタクトまでとった―――『包帯男』についての情報だよ」 今アーカム中を騒がせている『包帯男』。 アーカムの人々はそれを下らない噂話か、目立ちたがり屋による迷惑な悪戯程度にしか捉えていない。 しかし、その正体は聖杯戦争の関係者―――それも、極めて危険な―――である。 関係者、としたのは包帯男がマスターなのかサーヴァントなのかウォッチャーには判別がつかなかったかららしい。 ウォッチャーによれば包帯男は、無秩序に"白髪"の怪物を生み出しては街の住民に嗾けているそうだ。 金木がつい先ほど戦ったヤモリも生み出された怪物の一体であるという。 「サーヴァントって本当に常識が通用しないんですね……」 「まあ、私たちもそうなんだけど言ってみれば人々の信仰の集合体みたいなものだし。  でも今のカネキくんも十分常識外れの存在だと思うよ?」 「あはは……」 ごもっともな掘の指摘に苦笑しつつも金木は考える。 あのヤモリが本当に蘇った本人ではないことが分かって安堵できたが、同時に包帯男についての警戒も強めなければならないと。 その強さを除けば、姿形、声、口調に至るまでとても偽者とは思えなかったあのヤモリ。 件の包帯男が見知った人物を再現して、あの強さで襲わせることができるとすれば非常に危険な相手だ。 「直接、包帯男と接触したんですよね。どんな人物だったか分かりましたか?」 「いやー、それがさっぱり。……強いて言うなら話が通じない人ってことが分かったかな」 猫と無線機を通して包帯男とコンタクトを取ったウォッチャーであったが会話すらまともに成り立たなかったという。 言っていることは支離滅裂でこちらの話にもまともに取り合わなかったそうだ。 ただ、一つ気になるワードを繰り返していて――― 「……邪神?」  「そうそう。まるで口癖みたいに邪神がどうのこうの呟いていたよ」 ―――邪神。 一体何のことなのか、金木には見当もつかなかった。 だが、話を聞く限り包帯男は正真正銘の狂人だ。そんな狂人の妄言を真に受ける方が馬鹿馬鹿しいのかもしれない。 ……しれないが、なぜだろうか。 その邪神という言葉に妙な引っ掛かりを覚えるのは……。 ――――そして、幻聴だろうか。その瞬間、きゅるりと自らの腹から音がしたのは。 「とりあえず包帯男について分かっている情報は今ので全部だね。  次は四つ目、最後の情報だよ」 思考を打ち切られ、顔を上げて最後の情報に耳を傾ける金木。 最後は一体どのような情報がもたらされるのか。 「さっき話した包帯男が生み出す怪物。  カネキくんがそいつと戦っていたのと同じ時間に他の怪物と戦ってた二人がいたんだよ。  多分、っていうか間違いなくマスターとサーヴァントだね」 先の戦場をハイセ―――ウォッチャーが宝具で呼び出した猫―――を通して徘徊していた際に偶然その主従を発見したらしい。 サーヴァントと思わしき方は女性で、大きな盾の様な物を武器にしていたとか。それがそのサーヴァントの宝具だろうか。 そしてマスターである方は大柄な男性で服装からしてアーカム警察署の者だという。 驚くべきことにそのマスターは自分のサーヴァントと肩を並べて共に戦っていたらしい。 戦っていた怪物があの偽ヤモリと同レベルの強さだとしたら、そのマスターの凄まじさが知れるというものだ。 「そのマスターについて、顔まではよく覚えていないんですよね?」 「うん。本当に通りがかっただけだからね。  あの場所に留まっていたらハイセが戦闘に巻き込まれちゃうだろうし。  でも、使ってる武器は分かったよ。目立つ大きさだったもの」 そう、武器。 そのマスターは両腕で巨大な剣のような武器を振るっていたそうだ。 ……大柄、警官、凄まじい実力者で武器が大剣。 次々と浮かび上がるマスターの人物像に、金木の脳裏に"ある男"の姿がよぎった。 だが、そんなはずはない。あの人とは別人だと金木は考え直す。 そもそもそのマスターは"両腕"で武器を振るっていたそうじゃないか。 そう否定しても動揺は金木の表情にしっかりと出ていたらしい。 金木の様子を見かねた掘が声を掛けた。 「急にどうしたのさ、カネキくん。……ひょっとして知り合い?」 「…………いえ、多分、人違いだと思います。だって―――」 ―――だって亜門さんの腕を奪ったのは僕だから。 「――――ッ!!」 「ホントに大丈夫?顔色悪いよ」 「……もう、大丈夫です。直ぐにでも戦えますよ」 そうだ。元の世界ではやらなくちゃいけないことがたくさんある。 こんな所で油を売っている暇はないんだ。早くあんていくに帰って皆を助けなきゃ。 芳村さん、古間さん、入見さん……そして、亜門さんも。 誰一人として死なせたくない。死なないでほしい――― 「おお、やる気満々だね、カネキくん。そっちの方が観ている側としては面白いけど。  でも、今後の具体的な予定とかはあるの?」 「とりあえず、大学の方に向かってみたいと思います。一番明確にマスターの所在が分かっている場所ですからね。  ……人目を忍ばなきゃならないのは面倒ですけど」 「へえ、外出するんだ。だったらいい物があるよ」 ごそごそとカバンから何かを取り出して金木に手渡す掘。 金木が手に取ったそれは後ろ髪まですっぽりと覆える大きさである黒のニットキャップだった。 確かにこれを被れば、万が一その姿を見られてもすぐには"白髪の喰屍鬼"だと騒がれることはないだろう。 「ありがとうございます。でも、いいんですか?ここまでしてくれて」 「これもアーカムの一市民からのサービスの範疇だからね。  今まで話した情報だって私たちがアーカムで見聞きしたことを勝手にカネキくんに喋っただけだし。  その情報を使ってどうするかまでは私たち干渉したりしないけど」 ともかく、これでどうにか外出がしやすくなった。 後は大学の方でマスターを探し出し、あわよくばそのサーヴァントを仕留める。 当面の標的はパチュリー・ノーレッジのサーヴァントであるが、無理をするつもりはない。 危険を感じたら直ぐにこの拠点へと帰ってくるつもりである。 ……金木は聖杯で叶うという願いについては半信半疑だ。 あくまで、このアーカムという名の監獄から一刻も早く元の場所―――あんていく―――へと帰るために戦っているに過ぎない。 そして他のマスターをその手に掛けるつもりもない。狙いはサーヴァントのみである。 だから、その為には今よりもっと強くなる必要がある。 誰にも奪われない、奪わせない強さが必要だ。 そして、その強さは自ずと得られる。自らのサーヴァントによって。 アーカムに"白髪の喰屍鬼"の噂を最初に流布したのは他ならぬ金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』である。 その噂によって金木は"白髪の喰屍鬼"という名の都市伝説として神秘を纏うことができたのだ。 さらに、実際に"白髪"の怪物による犠牲者を包帯男が出しているために、噂は真実味を帯び、金木が纏う"白髪の喰屍鬼"としての神秘はより濃くなっている。 そのため金木はウォッチャーの想定を超える早さで強さを増し、既にサーヴァント級の存在とも渡り合えるレベルにまで達していた。 ……同時により強く"白髪の喰屍鬼"としての在り様に引っ張られるようにも。 それでも金木は構わない。強くなれるのなら。 「それじゃあ、行ってきます。遅くても日が変わる前には帰ってきますよ」 「いってらっしゃい、カネキくん。外での食事は自分でどうにかしてね」 「子どもじゃないんだから……」 必要最低限の"食料"を臭いが外へと漏れないようタッパーに詰めて、鞄に放り込む。 また、アーカムに来る前から身に着けていたマスクも同様に鞄へと仕舞い込む。 いざ戦闘を行う前に、顔が外部に割れないよう装着するつもりである。 ウォッチャー以外にも情報収集に長けたサーヴァントがいるかもしれないからだ。 拠点の入り口のドアを開けば、もうすぐ正午だというのにアーカムの空は相変わらずの曇天。 正直、気が滅入るがそんな事を気にしている場合ではない。 しくじれば死ぬのは自分だからだ。 ――――この世のすべての不利益は当人の能力不足。 忌まわしくも真理としてその身に刻み付けられた言葉を胸に、金木はキャンパス地区へと向かっていった。 その後ろに一匹の猫を伴って。 ▼  ▼  ▼ カネキくん、行っちゃったね。 【ソノヨウダネ。サテサテ、コレカラ如何ナルコトヤラ】 とりあえず、私からは面白そうな情報を喋っただけだからね。 カネキくんの方針には私たち不干渉だから、ここからどうなるのかは彼次第としかえいないよね。 【おいおいよりにもよって大学かよ】【ご愁傷様】【死ね】【お前がな】 【はいはい喧嘩しない】【戦争開始だ!】【祭りだワッショイワッショイ!!】 【金木君どうなっちゃうのかな】【大金星?】【それとも速攻退場?】【それは勘弁】 【フフフ、彼がどう行動するにせよ、きっと面白い物語を綴ってくれるだろうさ】 【相変わらず新顔のくせに偉そうだな】【何様?】【俺様】【ツマンネ】 【金木君以外も色々面白そうだけどね】【やっぱ時代はアイドルっしょ】 【金木クンガドウ動コウトモ、ソノ結果ドウナロウトモ、私タチハ彼ノ物語ヲ楽シムダケ。ソレガ私タチ『バネ足ジョップリン』ダカラネ】 ―――ソレデハ、諸君。観測ヲ続ケヨウ。 【ロウワー・サウスサイド・寂れた住宅街/1日目 午前】 【金木研@東京喰種】 [状態]健康(神話生物化1回) [精神]少しリラックス [令呪]残り3画 [装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)、ニットキャップ [道具]鞄("食料"、マスク入り)、違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中) [所持金]100$程度 [思考・状況] 基本行動方針:あんていくに行かないと 1.ひとまず人目につかないよう注意しながらミスカトニック大学へ向かう。 2.マスターの捜索。当面の目標はパチュリー・ノーレッジ。 [備考] ※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。 ※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。 ※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。 ※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。 ※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。 ※パチュリー主従、亜門主従、包帯男(シュバルツバルト)についての情報を得ました。  ただし、包帯男がマスターかサーヴァントかは分かっておらず、亜門については別人だと思っています。 【アーカム全土/1日目 午前】 【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】 [状態]観測中 [精神]多数 [装備]不要 [道具]不要 [所持金]不要 [思考・状況] 基本行動方針:金木研の神話を作る 1.【金木君どうなるかな】【楽しみだね】【他にも色々見て回ろうぜ】 [備考] ※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません) ※暗黒の男を認識しました ※包帯男の都市伝説を広めています。 ※金木研に情報を渡しました。また、それ以上の情報を保有しています。 ※ミスカトニック大学にも生身のバネ足ジョップリンが存在しています。 ※宝具で召喚した猫を通して金木を観測しています。 |BACK||NEXT|| |021:|[[Pigeon Blood]]|投下順|000:[[]]| |005:|[[アーカム喰種[日々]]|時系列順|000:[[]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |005:[[アーカム喰種[日々]]|[[金木研]]&ウォッチャー([[バネ足ジョップリン]])| :[[ ]]|
*吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 「『標的』の情報が入ったよ」 休息も束の間、金木に対して目の前の小柄な女性から不似合いなほど剣呑な言葉が発せられた。 だが、自らのサーヴァントのそんな発言にも金木には動揺が一切無かった。 既に自身が一戦交えているのだ。 あのヤモリが蘇った本人なのか、あるいはその名を騙る偽者なのかまでは判別がつかなかったが間違いなく聖杯戦争の関係者であろう。 キーパーなる存在の通達から半日も経っていないが好戦的な主従は恐らく積極的に行動しておりその姿を『バネ足ジョップリン』が捉えたのかも知れない。 「それで……具体的にどういった情報で?」 「んー、どれから話そうかな。今、カネキくんに話せる情報は四つくらいあるんだけど」 「もうそんなに集めたんですか……」 「正確には私以外の『バネ足ジョップリン』が集めた情報だけどね」 金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』は中心になる人物こそいるものの、その本質は"ウォッチャー"というクラス名が表すように不特定多数の傍観者にして観測者たちである。 彼らはこのアーカムシティにも一市民として紛れ込み、各々が観測した事象を共有し『都市伝説』として好き勝手に流布している。 いったい何人このアーカムに潜んでいるのかマスターである金木ですら分からないのだ。 ―――そして今、目の前にいる小柄な女性こと掘ちえも本人ではなく彼女の姿を借りたウォッチャーの一人であり、こうして会話している間にも彼らは観測を続けている。 「それじゃあ、まずはこれにしようかな。一番最初に見つかった標的だよ。」 掘が最初に語った情報はこうだ。 時間にして今日の未明、場所はキャンパス地区。 甲冑を纏った青年が女性を抱えて駆け抜けていく所を街中の防犯カメラ―――バネ足ジョップリンの監視下である―――を通して発見したらしい。 甲冑具足という格好だけでも時代錯誤なのに、況してやここは日本ではなくアメリカ合衆国のアーカムだ。 コスプレではないだろうし、十中八九その青年がサーヴァントだろう。 一方、マスターと思しき女性については、外見から特筆するほどの情報は得られなかったと思われたが―――   「パチュリー・ノーレッジ、ですか」 「らしいね。ミスカトニック大学ではそこそこ名が通っている学生みたい。  同じ大学に通っている『バネ足ジョップリン』からの情報だけどね」   金木にとっては幸運なことに、大学にもウォッチャーの一人が潜んでいた。 さらに、件の女性は大学でもそこそこ有名な人物だったらしく、そこからマスターの名前を探り当てることができたのだ。 ―――パチュリー・ノーレッジ。 ミスカトニック大学では"七曜の魔女"の通り名で知られており優秀な神秘学科の学生らしい。 最も大学のバネ足も彼女と親交があったわけではないらしく、その人となりまでは知らないそうだ。 せいぜい、普段は図書館に入り浸っている程度のことしか分からないとのこと。 それでもマスターの名前と所在が判明したのは非常に大きなアドバンテージだ。 「彼らには気づかれなかったんですか?」 「多分、気づいていなかったんじゃないかな。あんまり余裕なさそうだったし」 既にその甲冑姿のサーヴァントは傷を負っていたらしく、脇目も振らずに駆け抜けていったらしい。 そんな様子では目立たないところに仕掛けてある防犯カメラに気づかなかったのも無理はない。 手傷を負っていたことと合わせて考えると他のサーヴァントとの戦闘から撤退している最中と考えるのが自然だろうか。 最も分かったのは外見に基づく特徴のみで、サーヴァントのクラスや真名といったより深い情報は手に入らなかったそうだ。 だがマスターがパチュリー・ノーレッジなる人物であることと、そのサーヴァントがおそらく日本人の武者らしき英雄という情報が得られただけでも十分すぎる結果といえよう。 「そろそろ、二つ目の情報に入っていいかな。  まぁこれはそんなに大した内容じゃないんだけどね、ひょっとしたらさっきの話に関係あるかもしれないよ?」 次に語られた情報はそのミスカトニック大学で発生した不可解な首吊り事件についてであった。 大した内容じゃないと前置きしたのは、既にその事件が大々的にアーカムで話題になっているからであり警察の捜査も始まっているそうだ。 とはいえ、浮浪者という身分でおまけに"白髪の喰屍鬼"の噂のために表立って出歩くこともできない金木にとっては貴重な情報である。 何でも事件の被害者である女学生は自殺が困難な高さの桜の木で首を縊っていたらしい。 明らかに聖杯戦争の関係者の仕業だが一体どのような意図でこんな目立つことをしでかしたというのか。 単純に他のマスターをおびき寄せるための罠なのか、あるいはそれこそヤモリのようなイカれた嗜虐趣味の持ち主なのか……。 どちらにせよ下手人は相当に碌でもない人物であることが窺える。  「チエさんはさっきのパチュリーってマスターがこの件に関わってると言いたいんですか?」 「別にそこまで言ったわけじゃないよ。あくまでその可能性があるかもってだけだし。  彼女とは無関係の人間が事件を起こした可能性だって十分あるわけだしね」 第一の情報で明らかになったマスター、パチュリー・ノーレッジは確かにミスカトニック大学に在学している。 だがそれだけで彼女がこの事件の関係者と決めつけるのは早計だろう。 大学に潜むマスターが彼女一人と決まったわけではないし、むしろあれ程大きな大学ならばマスターが複数人大学の関係者として存在していることも十分に考えられる。 これ以上パチュリー主従と大学での首吊り事件との関係について考えても詮無き事であるし、一先ずこの件について金木は考察を打ち切ることにした。 「さて、三つ目の情報なんだけど……。これはカネキくんにも結構関係あることだししっかり聞いておいた方がいいかもね」 「……僕に関係する情報?」 今まで淡々と情報を受け取っていた金木の表情に僅かな驚きの感情が浮かんだ。 自分に関係する情報とは一体何なのか――― 「私たちウォッチャーが直接コンタクトまでとった―――『包帯男』についての情報だよ」 今アーカム中を騒がせている『包帯男』。 アーカムの人々はそれを下らない噂話か、目立ちたがり屋による迷惑な悪戯程度にしか捉えていない。 しかし、その正体は聖杯戦争の関係者―――それも、極めて危険な―――である。 関係者、としたのは包帯男がマスターなのかサーヴァントなのかウォッチャーには判別がつかなかったかららしい。 ウォッチャーによれば包帯男は、無秩序に"白髪"の怪物を生み出しては街の住民に嗾けているそうだ。 金木がつい先ほど戦ったヤモリも生み出された怪物の一体であるという。 「サーヴァントって本当に常識が通用しないんですね……」 「まあ、私たちもそうなんだけど言ってみれば人々の信仰の集合体みたいなものだし。  でも今のカネキくんも十分常識外れの存在だと思うよ?」 「あはは……」 ごもっともな掘の指摘に苦笑しつつも金木は考える。 あのヤモリが本当に蘇った本人ではないことが分かって安堵できたが、同時に包帯男についての警戒も強めなければならないと。 その強さを除けば、姿形、声、口調に至るまでとても偽者とは思えなかったあのヤモリ。 件の包帯男が見知った人物を再現して、あの強さで襲わせることができるとすれば非常に危険な相手だ。 「直接、包帯男と接触したんですよね。どんな人物だったか分かりましたか?」 「いやー、それがさっぱり。……強いて言うなら話が通じない人ってことが分かったかな」 猫と無線機を通して包帯男とコンタクトを取ったウォッチャーであったが会話すらまともに成り立たなかったという。 言っていることは支離滅裂でこちらの話にもまともに取り合わなかったそうだ。 ただ、一つ気になるワードを繰り返していて――― 「……邪神?」  「そうそう。まるで口癖みたいに邪神がどうのこうの呟いていたよ」 ―――邪神。 一体何のことなのか、金木には見当もつかなかった。 だが、話を聞く限り包帯男は正真正銘の狂人だ。そんな狂人の妄言を真に受ける方が馬鹿馬鹿しいのかもしれない。 ……しれないが、なぜだろうか。 その邪神という言葉に妙な引っ掛かりを覚えるのは……。 ――――そして、幻聴だろうか。その瞬間、きゅるりと自らの腹から音がしたのは。 「とりあえず包帯男について分かっている情報は今ので全部だね。  次は四つ目、最後の情報だよ」 思考を打ち切られ、顔を上げて最後の情報に耳を傾ける金木。 最後は一体どのような情報がもたらされるのか。 「さっき話した包帯男が生み出す怪物。  カネキくんがそいつと戦っていたのと同じ時間に他の怪物と戦ってた二人がいたんだよ。  多分、っていうか間違いなくマスターとサーヴァントだね」 先の戦場をハイセ―――ウォッチャーが宝具で呼び出した猫―――を通して徘徊していた際に偶然その主従を発見したらしい。 サーヴァントと思わしき方は女性で、大きな盾の様な物を武器にしていたとか。それがそのサーヴァントの宝具だろうか。 そしてマスターである方は大柄な男性で服装からしてアーカム警察署の者だという。 驚くべきことにそのマスターは自分のサーヴァントと肩を並べて共に戦っていたらしい。 戦っていた怪物があの偽ヤモリと同レベルの強さだとしたら、そのマスターの凄まじさが知れるというものだ。 「そのマスターについて、顔まではよく覚えていないんですよね?」 「うん。本当に通りがかっただけだからね。  あの場所に留まっていたらハイセが戦闘に巻き込まれちゃうだろうし。  でも、使ってる武器は分かったよ。目立つ大きさだったもの」 そう、武器。 そのマスターは両腕で巨大な剣のような武器を振るっていたそうだ。 ……大柄、警官、凄まじい実力者で武器が大剣。 次々と浮かび上がるマスターの人物像に、金木の脳裏に"ある男"の姿がよぎった。 だが、そんなはずはない。あの人とは別人だと金木は考え直す。 そもそもそのマスターは"両腕"で武器を振るっていたそうじゃないか。 そう否定しても動揺は金木の表情にしっかりと出ていたらしい。 金木の様子を見かねた掘が声を掛けた。 「急にどうしたのさ、カネキくん。……ひょっとして知り合い?」 「…………いえ、多分、人違いだと思います。だって―――」 ―――だって亜門さんの腕を奪ったのは僕だから。 「――――ッ!!」 「ホントに大丈夫?顔色悪いよ」 「……もう、大丈夫です。直ぐにでも戦えますよ」 そうだ。元の世界ではやらなくちゃいけないことがたくさんある。 こんな所で油を売っている暇はないんだ。早くあんていくに帰って皆を助けなきゃ。 芳村さん、古間さん、入見さん……そして、亜門さんも。 誰一人として死なせたくない。死なないでほしい――― 「おお、やる気満々だね、カネキくん。そっちの方が観ている側としては面白いけど。  でも、今後の具体的な予定とかはあるの?」 「とりあえず、大学の方に向かってみたいと思います。一番明確にマスターの所在が分かっている場所ですからね。  ……人目を忍ばなきゃならないのは面倒ですけど」 「へえ、外出するんだ。だったらいい物があるよ」 ごそごそとカバンから何かを取り出して金木に手渡す掘。 金木が手に取ったそれは後ろ髪まですっぽりと覆える大きさである黒のニットキャップだった。 確かにこれを被れば、万が一その姿を見られてもすぐには"白髪の喰屍鬼"だと騒がれることはないだろう。 「ありがとうございます。でも、いいんですか?ここまでしてくれて」 「これもアーカムの一市民からのサービスの範疇だからね。  今まで話した情報だって私たちがアーカムで見聞きしたことを勝手にカネキくんに喋っただけだし。  その情報を使ってどうするかまでは私たち干渉したりしないけど」 ともかく、これでどうにか外出がしやすくなった。 後は大学の方でマスターを探し出し、あわよくばそのサーヴァントを仕留める。 当面の標的はパチュリー・ノーレッジのサーヴァントであるが、無理をするつもりはない。 危険を感じたら直ぐにこの拠点へと帰ってくるつもりである。 ……金木は聖杯で叶うという願いについては半信半疑だ。 あくまで、このアーカムという名の監獄から一刻も早く元の場所―――あんていく―――へと帰るために戦っているに過ぎない。 そして他のマスターをその手に掛けるつもりもない。狙いはサーヴァントのみである。 だから、その為には今よりもっと強くなる必要がある。 誰にも奪われない、奪わせない強さが必要だ。 そして、その強さは自ずと得られる。自らのサーヴァントによって。 アーカムに"白髪の喰屍鬼"の噂を最初に流布したのは他ならぬ金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』である。 その噂によって金木は"白髪の喰屍鬼"という名の都市伝説として神秘を纏うことができたのだ。 さらに、実際に"白髪"の怪物による犠牲者を包帯男が出しているために、噂は真実味を帯び、金木が纏う"白髪の喰屍鬼"としての神秘はより濃くなっている。 そのため金木はウォッチャーの想定を超える早さで強さを増し、既にサーヴァント級の存在とも渡り合えるレベルにまで達していた。 ……同時により強く"白髪の喰屍鬼"としての在り様に引っ張られるようにも。 それでも金木は構わない。強くなれるのなら。 「それじゃあ、行ってきます。遅くても日が変わる前には帰ってきますよ」 「いってらっしゃい、カネキくん。外での食事は自分でどうにかしてね」 「子どもじゃないんだから……」 必要最低限の"食料"を臭いが外へと漏れないようタッパーに詰めて、鞄に放り込む。 また、アーカムに来る前から身に着けていたマスクも同様に鞄へと仕舞い込む。 いざ戦闘を行う前に、顔が外部に割れないよう装着するつもりである。 ウォッチャー以外にも情報収集に長けたサーヴァントがいるかもしれないからだ。 拠点の入り口のドアを開けば、もうすぐ正午だというのにアーカムの空は相変わらずの曇天。 正直、気が滅入るがそんな事を気にしている場合ではない。 しくじれば死ぬのは自分だからだ。 ――――この世のすべての不利益は当人の能力不足。 忌まわしくも真理としてその身に刻み付けられた言葉を胸に、金木はキャンパス地区へと向かっていった。 その後ろに一匹の猫を伴って。 ▼  ▼  ▼ カネキくん、行っちゃったね。 【ソノヨウダネ。サテサテ、コレカラ如何ナルコトヤラ】 とりあえず、私からは面白そうな情報を喋っただけだからね。 カネキくんの方針には私たち不干渉だから、ここからどうなるのかは彼次第としかえいないよね。 【おいおいよりにもよって大学かよ】【ご愁傷様】【死ね】【お前がな】 【はいはい喧嘩しない】【戦争開始だ!】【祭りだワッショイワッショイ!!】 【金木君どうなっちゃうのかな】【大金星?】【それとも速攻退場?】【それは勘弁】 【フフフ、彼がどう行動するにせよ、きっと面白い物語を綴ってくれるだろうさ】 【相変わらず新顔のくせに偉そうだな】【何様?】【俺様】【ツマンネ】 【金木君以外も色々面白そうだけどね】【やっぱ時代はアイドルっしょ】 【金木クンガドウ動コウトモ、ソノ結果ドウナロウトモ、私タチハ彼ノ物語ヲ楽シムダケ。ソレガ私タチ『バネ足ジョップリン』ダカラネ】 ―――ソレデハ、諸君。観測ヲ続ケヨウ。 【ロウワー・サウスサイド・寂れた住宅街/1日目 午前】 【金木研@東京喰種】 [状態]健康(神話生物化1回) [精神]少しリラックス [令呪]残り3画 [装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)、ニットキャップ [道具]鞄("食料"、マスク入り)、違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中) [所持金]100$程度 [思考・状況] 基本行動方針:あんていくに行かないと 1.ひとまず人目につかないよう注意しながらミスカトニック大学へ向かう。 2.マスターの捜索。当面の目標はパチュリー・ノーレッジ。 [備考] ※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。 ※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。 ※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。 ※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。 ※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。 ※パチュリー主従、亜門主従、包帯男(シュバルツバルト)についての情報を得ました。  ただし、包帯男がマスターかサーヴァントかは分かっておらず、亜門については別人だと思っています。 【アーカム全土/1日目 午前】 【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】 [状態]観測中 [精神]多数 [装備]不要 [道具]不要 [所持金]不要 [思考・状況] 基本行動方針:金木研の神話を作る 1.【金木君どうなるかな】【楽しみだね】【他にも色々見て回ろうぜ】 [備考] ※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません) ※暗黒の男を認識しました ※包帯男の都市伝説を広めています。 ※金木研に情報を渡しました。また、それ以上の情報を保有しています。 ※ミスカトニック大学にも生身のバネ足ジョップリンが存在しています。 ※宝具で召喚した猫を通して金木を観測しています。 |BACK||NEXT|| |021:|[[Pigeon Blood]]|投下順|023:[[Call of darkness]]| |005:|[[アーカム喰種[日々]]|時系列順|023:[[Call of darkness]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |005:[[アーカム喰種[日々]]|[[金木研]]&ウォッチャー([[バネ足ジョップリン]])| :[[ ]]|

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