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「《イグジスト》真壁一騎&アーチャー」(2015/05/28 (木) 01:46:57) の最新版変更点
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*《イグジスト》真壁一騎&アーチャー◆arYKZxlFnw
川のせせらぎのその脇で、ひときわ賑わう場所がある。
商店が立ち並ぶ商業地区は、地方都市アーカムの中でも、特に活気に溢れた場所だ。
客引きと雑踏の音に満ちた、そんな商店街の道を、1人歩く青年がいた。
少し伸ばした髪は、黒い。どことなく女性的な顔立ちは、東洋人のそれだろうか。
髪をさらさらと揺らしながら、右へ左へと向けられる視線は、随分と物珍しそうに、街並みを見渡しているようだった。
「ヘイ、そこの君、ちょっと」
そこへ、声がかけられる。
背後から聞こえてきた男の声に、黒髪の青年は振り返る。
「すまないが、少し話してもいいかな。こういう者なんだけどね」
後ろから呼び止めてきたのは、赤髪を丸めた若い男だ。
差し出してきた警察手帳には、ビリー・モーガンという名前が書かれていた。
纏っているのは制服ではない。私服警官というやつらしい。
「はぁ。何か用ですか?」
「いやなに、実は最近この辺りで、スリの被害が多発しているんだ」
賑やかで買い物客の多いところだからねと、赤髪の警官は青年に言う。
「それで今はこうやって、パトロールをしているんだよ。……君、名前は?」
「真壁一騎です」
「アーカムには観光で?」
「いえ、リバータウンに住んでますけど」
「本当かな。ちょっと持ち物を見ても?」
きょろきょろと周りを見回していた視線を、獲物の品定めと見られたのだろうか。
警官は半ば強引に、青年――真壁一騎から了解を得ると、彼の手荷物を調べ始めた。
ややあって、ため息と共に手が止まる。怪しいものは出なかったらしい。
「何もなし……か。邪魔をして悪かったね。ただ、あまり怪しまれないようにした方がいいよ」
そう言って手荷物を返すと、若い警官は笑顔を浮かべて、足早に一騎の前から立ち去っていった。
ようやく職務質問から解放された一騎は、ふぅとため息をついて肩を落とすと、再びリバータウンへの帰路につく。
そうして騒がしいマーケットの中を、少しばかり歩いた後。
『――忘れ物だよ、一騎』
頭に直接響く声と共に、ポケットに何かが落ちる感触がした。
歩く足をぴたりと止めて、何だろうとズボンを探る。
出てきたものは財布だった。それも見覚えのある、自分の財布だ。
咄嗟に手荷物を確認すると、確かに財布がなくなっている。
先ほど買い物した時には、間違いなく持ち歩いていたはずだ。となると一体この財布は、どこでここから動いたのか。
『……そっか、取り返してくれたのか』
答えはすぐに出た。先ほどの職務質問の時だ。
あのスリを探していた警官は、そう名乗っているだけの偽者で、実は彼こそがスリだったのだ。
得心のいった一騎は、脳裏の声に、自らも心で声を送る。
『不用心だな。今のが他のマスターだったらどうするのさ』
『そうだな。これからは気をつけるよ』
微かに不機嫌そうな響きのこもった声に、一騎は素直に従う意を示す。
それでも、軽い様子が気に食わなかったのか、声は小さく唸ったかと思うと、それきり沈黙してしまった。
機嫌を損ねてしまったらしい。一騎は苦笑を浮かべると、再び道を歩み始めた。
財布をしまう左手の甲には、赤い何かが塗られているように見えた。
◆
アーカムは騒がしい街だ。
リバータウンは落ち着いているものの、商業地区や都市部ともなれば、人混みにめまいすら覚える。
生まれてこの方19年、ずっと島暮らしをしてきた人間にとっては、少々落ち着かない場所だった。
「東京なんかも、こうだったのかな」
今となっては知る由もないが、失われた日本の都会とは、こういうものだったのだろうかと。
アパートの窓から街並みを眺め、真壁一騎は独りごちた。
「一騎は、この街が嫌いなの?」
「思ってたよりも、居心地はよくないな……なんというか、ざわざわする感じだ」
言葉にしにくい感覚を、手探りで手繰るかのように。
痕の残る左手を、握ったり開いたりしながら、一騎は問いかけに答える。
部屋の奥から聞こえた問いは、先ほど頭に響いたのと同じ声だ。
同席者は黒いフードを頭にかぶった、 小柄な少女の姿をしている。
老人のような白髪と、闇に溶け込むような褐色肌が、どこかぼんやりとした印象を与えていた。
「それに聖杯のことを考えると、な」
「じゃあ、一騎は聖杯が嫌いなんだ」
真に受け入れがたいのは街よりも、街を作り出した存在なのか、と。
少女の問いかけに対して、一騎は沈黙で肯定する。
聖杯がいかな存在であるのか――直接会ったことのない一騎にとっては、それは想像するしかない。
それでも、人々を結界に閉じ込め、殺し合いを強いる行いは、彼にとっては間違いなく悪だ。
「俺は今まで、たくさんの死を見てきた」
まだ高校生にもなっていない、幼かった友の死を。
生まれてくる子供に会うことも叶わず、戦場に散っていった男の最期を。
「だから、身勝手に命を弄ぶ奴を、俺はどうしても好きになれない」
それらの無念と後悔の記憶が、一騎に嫌悪を抱かせる。
彼らが求め続けた明日を、叶わず届かなかった未来を、嘲笑い奪い去るものを、悪しき存在だと断定させる。
語る一騎の手に力が籠もり、ぎゅっと握り拳を作った。
「それでも、一騎はここにいる」
聖杯の性質を嫌いながらも、聖杯戦争の場に招かれている。
その時は知らなかったとはいえ、聖杯の持つ願望器の力に、少なからず惹かれていると。
「聖杯の持っている力を、一騎はどこかで欲しがってる」
「……多分、そうなのかもな」
遠慮のない少女の指摘に対し、一騎は、苦笑気味に答えた。
「他人を傷つけたくはない……そうまでして生き残りたいとは思えない。俺はそう思ってるつもりだった。
だけど多分、それだけじゃないんだ……理屈じゃない根っこの部分では、それでも生きたいって思ってるんだ」
真壁一騎の肉体は、限界まで酷使されていた。
侵略者フェストゥムと戦い、同化現象に蝕まれ、身も心もボロボロにすり減っていた。
表面的な症状こそなくなったが、蓄積されたダメージは、決してごまかせるものではない。
齢19歳にして、既に真壁一騎という青年は、残り3年の命だと告げられているのだ。
「やっぱり、言えないよな。生きたくないなんてことは」
それが恐ろしくないなんて嘘だ。
あれほど目の当たりにしてきた死を、達観し完全に受け入れるなど、到底できることではなかったのだ。
だからこそ一騎は、心のどこかで、奇跡の存在に期待した。
その心が銀の鍵を引き寄せ、アーカムへの扉を開かせたのだ。
たとえその先端が、肉を貫き血に染まる、赤い鏃であったとしても。
「分かるよ」
と、少女は言った。
意外にも黒ずくめの少女が口にしたのは、素直な肯定の言葉だった。
これまでの様子が様子だっただけに、一騎は驚きの色を込め、瞳を少し丸くする。
「どれだけ痛くても、苦しくても……それでも生きたいって気持ちはなくならないし、それに嘘はつけないんだ」
私は痛み以上の喜びを、生きていく中で知ったから、と。
そう話す少女の語り口調は、相変わらず静かなものだった。
それでもどこか、その言葉には、今までのそれにはなかった温度が、微かに感じられる気がした。
であれば、それは本音なのだ。
隠しも偽りもできない、この少女の本心からの言葉なのだ。
それを聞いて、一騎は初めて、この少女のことを理解できた気がした。
「……俺、君のことを誤解してた。君もそこにいたかったんだな」
静かで儚げな様子は、無関心の表れだと思っていた。
かつての自分がそうだったように、ここにいることに執着がなく、むしろ消えてしまいたいのだろうと思っていた。
それでも、違った。彼女もその場所にいたがったのだ。
生きることを肯定し、精一杯に生きたいと願い、最期まで生き抜いた命だったのだ。
それを知って安心して、一騎は穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も一騎と一緒だよ。生きていたいと思ったし……生きてほしいと思う人も、いる」
「だったら俺達は仲間だ。俺がこれからどうするにしても、君の手を借りなきゃならない時は、きっと来るんだと思う」
無茶の利かない身の上だから、自分独りではできないことが、山ほどあることは理解していると。
そして仲間が君であるなら、迷いも躊躇いも感じることなく、命を預けることができると。
「だから、その時は頼むな、アーチャー」
真紅の紋章が刻まれた、左手の甲を返しながら。
頼りにさせてもらうから、と、一騎は少女へと言った。
まるで友人にかけるような、気さくで、信頼に満ちた言葉だった。
「うん」
弓兵の名で呼ばれた少女は、一騎に対して短く返す。
アーチャーのサーヴァント――名を、ストレングス。
遠きアザトースの庭を追われ、人界の地獄へと堕とされながら。
傷を負って世界を知っても、それでも生きたいと願った少女。
大切な友と半身を、命に代えても救いたいと願い、懸命に手を伸ばした少女。
彼女は死と転生の果てに、再び人の世へ降り立ち、戦うことを決意する。
新たに巡り会った仲間の命を、その手でもう一度繋ぐために。
たとえ新生したこの存在が、得体の知れない仄暗い何かに、仕組まれたものであったとしても。
【マスター】真壁一騎
【出典】蒼穹のファフナーEXODUS
【性別】男性
【マスターとしての願い】
「生きたい」。聖杯の奇跡に願えるのなら、死の運命を覆したい
【weapon】
なし
【能力・技能】
家事
男所帯で家事を一手に引き受けているため、高いスキルを有している。
特に料理の腕は一級品で、手製の「一騎カレー」は島の名物になっている。
身体能力
本来は天才症候群の影響もあり、オリンピックの金メダルを総なめにできると言われるほどの素質を持っていた。
しかし体力が衰えた今では、その身体能力は失われている。
【人物背景】
宇宙から飛来したシリコン生命体・フェストゥムから、人類種を存続するために作られた人工島・竜宮城。
その唯一の喫茶店である「楽園」で、調理師のアルバイトをしている、19歳の青年である。
かつては対フェストゥム兵器・ファフナーを操縦するパイロットだったが、現在は第一線を退いている。
現在でこそ穏やかな物腰をしているが、過去に親友の皆城総士を傷つけたことから、
かつては強い自己否定に囚われており、近寄りがたい雰囲気を放っていた。
以来総士とも疎遠になっていたが、紆余曲折の末に分かり合い、性格も現在のように軟化している。
乗機であったファフナー・マークザインに蝕まれ、文字通りボロボロになりながらも戦い、パイロットとしての職務を全うした。
既に余命3年を宣告されており、彼は誰よりも強さを認められながらも、誰よりも安息を望まれていた。
しかし運命だけはそれを望まず、彼を新たな戦いへと誘おうとした。
本来の歴史に沿うならば、彼は聖杯戦争に招かれた日の翌日、再びフェストゥムの襲来に直面することになっている。
【方針】
未定。
【クラス】アーチャー
【真名】ストレングス
【出典】ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)
【性別】女性
【属性】中立・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ストレングスは人間・神足ユウとして、長きに渡って人間世界に留まり続けた。
この経歴にもとづきストレングスは、破格のランクを保有する。
ただし自力で魔力を生成することはできない。
【保有スキル】
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。本来ならば魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
幻術:D
魔術系統の一種。
ストレングスは人間世界にいた間、このスキルで他者の認識を操作し、自らの存在を溶け込ませていた。
ただしサーヴァントに対してはほとんど効果がない。
アンノウン:E
逸話なき英霊。
人の世に語り継がれることのない、夢の世界に生きたサーヴァント。
そのためストレングスは、真名を看破されることによるデメリットをほとんど持たないが、
代償として知名度によるパラメータ補正をほとんど受けられなくなる。
夢魔:???
この世は黒き玉座につく、原初の神が見た夢である。
ゆえにこの聖杯戦争において、夢の住人であることは、特別な意味を持っているとされる。
ストレングスはこのスキルにもとづき――【検閲・閲覧不能】。
【宝具】
『掴み、明日へ繋ぐために(Orga Arm)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:30人
ストレングスの体躯をも凌ぐ、巨大なサイズを有した機械腕。
四本指の先端は機関銃となっており、この宝具こそがストレングスをアーチャーたらしめている。
上述した射撃戦闘のほか、大質量を活かした格闘戦に用いることも可能。
平時は両手に装備する二本腕だが、最大駆動時には四本腕に増やすことができる。
『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:50人
かつて神足ユウが「虚の世界」に有していたテリトリーを、擬似的に再現する固有結界。
マグマの海を見下ろす、浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックス。
この足場はストレングスの意志によって自在に変形し、彼女が有利な位置取りをする助けとなる。
それ以上の効果は一切なく、あくまで得意な戦闘エリアを形成するための宝具。
しかし夢というあからさまな「異界」の出現は、相手マスターには大きな精神ダメージとなるだろう。
【weapon】
なし
【人物背景】
人の夢の向こうに広がる、痛みと苦しみが具現化された「虚の世界」。
ストレングスは、神足ユウという少女が虚の世界に生み出した、もう1人の神足ユウである。
本来は感情を持たず、本能のままに戦う存在であったが、
唯一ストレングスには、ユウの尋常ならざる苦痛や悲嘆に引きずられる形で感情が発現。
それに目をつけたユウによって、人格を交代させられ、自身は人間世界のユウの肉体へと移されてしまった。
その後10年以上に渡って、女子中学生の姿のまま、人間世界に留まり続けていたが、
その中で友人となった黒衣マトが、虚の世界絡みで抱えていたトラブルを解決するために、
彼女を虚の世界へと誘うことを決断する。
しかし目論見は失敗し、マトともう1人のマト・ブラック★ロックシューターは暴走。
責任を感じたストレングスは、友を救い出すために、ユウに奪われた本当の肉体と同化し、虚の世界へと舞い戻った。
しかし戦闘の最中、ユウに肉体の主導権を奪われたことにより、戦況は最悪の方向へと進行する。
このままでは何も解決しないと考えたストレングスは、自滅を選ぶことで、ユウを虚の世界から、現実世界へと送り返すことを決断。
戦いの中で致命傷を負い、最後の力もマトへと託したストレングスは、人間世界で知った生きる喜びをユウへと伝え、消滅した。
かつて虚の世界にいた頃の肉体は、現在よりも貧弱なものだったが、
本聖杯戦争においては、年月を経て強化された肉体を、ユウから引き継いでいる。
また、ユウが人間世界へ戻った後に生まれた、新たなストレングスとは別の個体である。
【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら、ユウやマト達の幸せを願いたい
|BACK||NEXT|
|Archer01:[[《図書館》鷺沢文香&アーチャー]]|投下順|Lancer01:[[《天才》クリム・ニック&ランサー]]|
|Archer01:[[《図書館》鷺沢文香&アーチャー]]|時系列順|Lancer01:[[《天才》クリム・ニック&ランサー]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
||[[真壁一騎]]&アーチャー([[ストレングス]])|OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|
*《イグジスト》真壁一騎&アーチャー◆arYKZxlFnw
川のせせらぎのその脇で、ひときわ賑わう場所がある。
商店が立ち並ぶ商業地区は、地方都市アーカムの中でも、特に活気に溢れた場所だ。
客引きと雑踏の音に満ちた、そんな商店街の道を、1人歩く青年がいた。
少し伸ばした髪は、黒い。どことなく女性的な顔立ちは、東洋人のそれだろうか。
髪をさらさらと揺らしながら、右へ左へと向けられる視線は、随分と物珍しそうに、街並みを見渡しているようだった。
「ヘイ、そこの君、ちょっと」
そこへ、声がかけられる。
背後から聞こえてきた男の声に、黒髪の青年は振り返る。
「すまないが、少し話してもいいかな。こういう者なんだけどね」
後ろから呼び止めてきたのは、赤髪を丸めた若い男だ。
差し出してきた警察手帳には、ビリー・モーガンという名前が書かれていた。
纏っているのは制服ではない。私服警官というやつらしい。
「はぁ。何か用ですか?」
「いやなに、実は最近この辺りで、スリの被害が多発しているんだ」
賑やかで買い物客の多いところだからねと、赤髪の警官は青年に言う。
「それで今はこうやって、パトロールをしているんだよ。……君、名前は?」
「真壁一騎です」
「アーカムには観光で?」
「いえ、リバータウンに住んでますけど」
「本当かな。ちょっと持ち物を見ても?」
きょろきょろと周りを見回していた視線を、獲物の品定めと見られたのだろうか。
警官は半ば強引に、青年――真壁一騎から了解を得ると、彼の手荷物を調べ始めた。
ややあって、ため息と共に手が止まる。怪しいものは出なかったらしい。
「何もなし……か。邪魔をして悪かったね。ただ、あまり怪しまれないようにした方がいいよ」
そう言って手荷物を返すと、若い警官は笑顔を浮かべて、足早に一騎の前から立ち去っていった。
ようやく職務質問から解放された一騎は、ふぅとため息をついて肩を落とすと、再びリバータウンへの帰路につく。
そうして騒がしいマーケットの中を、少しばかり歩いた後。
『――忘れ物だよ、一騎』
頭に直接響く声と共に、ポケットに何かが落ちる感触がした。
歩く足をぴたりと止めて、何だろうとズボンを探る。
出てきたものは財布だった。それも見覚えのある、自分の財布だ。
咄嗟に手荷物を確認すると、確かに財布がなくなっている。
先ほど買い物した時には、間違いなく持ち歩いていたはずだ。となると一体この財布は、どこでここから動いたのか。
『……そっか、取り返してくれたのか』
答えはすぐに出た。先ほどの職務質問の時だ。
あのスリを探していた警官は、そう名乗っているだけの偽者で、実は彼こそがスリだったのだ。
得心のいった一騎は、脳裏の声に、自らも心で声を送る。
『不用心だな。今のが他のマスターだったらどうするのさ』
『そうだな。これからは気をつけるよ』
微かに不機嫌そうな響きのこもった声に、一騎は素直に従う意を示す。
それでも、軽い様子が気に食わなかったのか、声は小さく唸ったかと思うと、それきり沈黙してしまった。
機嫌を損ねてしまったらしい。一騎は苦笑を浮かべると、再び道を歩み始めた。
財布をしまう左手の甲には、赤い何かが塗られているように見えた。
◆
アーカムは騒がしい街だ。
リバータウンは落ち着いているものの、商業地区や都市部ともなれば、人混みにめまいすら覚える。
生まれてこの方19年、ずっと島暮らしをしてきた人間にとっては、少々落ち着かない場所だった。
「東京なんかも、こうだったのかな」
今となっては知る由もないが、失われた日本の都会とは、こういうものだったのだろうかと。
アパートの窓から街並みを眺め、真壁一騎は独りごちた。
「一騎は、この街が嫌いなの?」
「思ってたよりも、居心地はよくないな……なんというか、ざわざわする感じだ」
言葉にしにくい感覚を、手探りで手繰るかのように。
痕の残る左手を、握ったり開いたりしながら、一騎は問いかけに答える。
部屋の奥から聞こえた問いは、先ほど頭に響いたのと同じ声だ。
同席者は黒いフードを頭にかぶった、 小柄な少女の姿をしている。
老人のような白髪と、闇に溶け込むような褐色肌が、どこかぼんやりとした印象を与えていた。
「それに聖杯のことを考えると、な」
「じゃあ、一騎は聖杯が嫌いなんだ」
真に受け入れがたいのは街よりも、街を作り出した存在なのか、と。
少女の問いかけに対して、一騎は沈黙で肯定する。
聖杯がいかな存在であるのか――直接会ったことのない一騎にとっては、それは想像するしかない。
それでも、人々を結界に閉じ込め、殺し合いを強いる行いは、彼にとっては間違いなく悪だ。
「俺は今まで、たくさんの死を見てきた」
まだ高校生にもなっていない、幼かった友の死を。
生まれてくる子供に会うことも叶わず、戦場に散っていった男の最期を。
「だから、身勝手に命を弄ぶ奴を、俺はどうしても好きになれない」
それらの無念と後悔の記憶が、一騎に嫌悪を抱かせる。
彼らが求め続けた明日を、叶わず届かなかった未来を、嘲笑い奪い去るものを、悪しき存在だと断定させる。
語る一騎の手に力が籠もり、ぎゅっと握り拳を作った。
「それでも、一騎はここにいる」
聖杯の性質を嫌いながらも、聖杯戦争の場に招かれている。
その時は知らなかったとはいえ、聖杯の持つ願望器の力に、少なからず惹かれていると。
「聖杯の持っている力を、一騎はどこかで欲しがってる」
「……多分、そうなのかもな」
遠慮のない少女の指摘に対し、一騎は、苦笑気味に答えた。
「他人を傷つけたくはない……そうまでして生き残りたいとは思えない。俺はそう思ってるつもりだった。
だけど多分、それだけじゃないんだ……理屈じゃない根っこの部分では、それでも生きたいって思ってるんだ」
真壁一騎の肉体は、限界まで酷使されていた。
侵略者フェストゥムと戦い、同化現象に蝕まれ、身も心もボロボロにすり減っていた。
表面的な症状こそなくなったが、蓄積されたダメージは、決してごまかせるものではない。
齢19歳にして、既に真壁一騎という青年は、残り3年の命だと告げられているのだ。
「やっぱり、言えないよな。生きたくないなんてことは」
それが恐ろしくないなんて嘘だ。
あれほど目の当たりにしてきた死を、達観し完全に受け入れるなど、到底できることではなかったのだ。
だからこそ一騎は、心のどこかで、奇跡の存在に期待した。
その心が銀の鍵を引き寄せ、アーカムへの扉を開かせたのだ。
たとえその先端が、肉を貫き血に染まる、赤い鏃であったとしても。
「分かるよ」
と、少女は言った。
意外にも黒ずくめの少女が口にしたのは、素直な肯定の言葉だった。
これまでの様子が様子だっただけに、一騎は驚きの色を込め、瞳を少し丸くする。
「どれだけ痛くても、苦しくても……それでも生きたいって気持ちはなくならないし、それに嘘はつけないんだ」
私は痛み以上の喜びを、生きていく中で知ったから、と。
そう話す少女の語り口調は、相変わらず静かなものだった。
それでもどこか、その言葉には、今までのそれにはなかった温度が、微かに感じられる気がした。
であれば、それは本音なのだ。
隠しも偽りもできない、この少女の本心からの言葉なのだ。
それを聞いて、一騎は初めて、この少女のことを理解できた気がした。
「……俺、君のことを誤解してた。君もそこにいたかったんだな」
静かで儚げな様子は、無関心の表れだと思っていた。
かつての自分がそうだったように、ここにいることに執着がなく、むしろ消えてしまいたいのだろうと思っていた。
それでも、違った。彼女もその場所にいたがったのだ。
生きることを肯定し、精一杯に生きたいと願い、最期まで生き抜いた命だったのだ。
それを知って安心して、一騎は穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も一騎と一緒だよ。生きていたいと思ったし……生きてほしいと思う人も、いる」
「だったら俺達は仲間だ。俺がこれからどうするにしても、君の手を借りなきゃならない時は、きっと来るんだと思う」
無茶の利かない身の上だから、自分独りではできないことが、山ほどあることは理解していると。
そして仲間が君であるなら、迷いも躊躇いも感じることなく、命を預けることができると。
「だから、その時は頼むな、アーチャー」
真紅の紋章が刻まれた、左手の甲を返しながら。
頼りにさせてもらうから、と、一騎は少女へと言った。
まるで友人にかけるような、気さくで、信頼に満ちた言葉だった。
「うん」
弓兵の名で呼ばれた少女は、一騎に対して短く返す。
アーチャーのサーヴァント――名を、ストレングス。
遠きアザトースの庭を追われ、人界の地獄へと堕とされながら。
傷を負って世界を知っても、それでも生きたいと願った少女。
大切な友と半身を、命に代えても救いたいと願い、懸命に手を伸ばした少女。
彼女は死と転生の果てに、再び人の世へ降り立ち、戦うことを決意する。
新たに巡り会った仲間の命を、その手でもう一度繋ぐために。
たとえ新生したこの存在が、得体の知れない仄暗い何かに、仕組まれたものであったとしても。
【マスター】真壁一騎
【出典】蒼穹のファフナーEXODUS
【性別】男性
【マスターとしての願い】
「生きたい」。聖杯の奇跡に願えるのなら、死の運命を覆したい
【weapon】
なし
【能力・技能】
家事
男所帯で家事を一手に引き受けているため、高いスキルを有している。
特に料理の腕は一級品で、手製の「一騎カレー」は島の名物になっている。
身体能力
本来は天才症候群の影響もあり、オリンピックの金メダルを総なめにできると言われるほどの素質を持っていた。
しかし体力が衰えた今では、その身体能力は失われている。
【人物背景】
宇宙から飛来したシリコン生命体・フェストゥムから、人類種を存続するために作られた人工島・竜宮城。
その唯一の喫茶店である「楽園」で、調理師のアルバイトをしている、19歳の青年である。
かつては対フェストゥム兵器・ファフナーを操縦するパイロットだったが、現在は第一線を退いている。
現在でこそ穏やかな物腰をしているが、過去に親友の皆城総士を傷つけたことから、
かつては強い自己否定に囚われており、近寄りがたい雰囲気を放っていた。
以来総士とも疎遠になっていたが、紆余曲折の末に分かり合い、性格も現在のように軟化している。
乗機であったファフナー・マークザインに蝕まれ、文字通りボロボロになりながらも戦い、パイロットとしての職務を全うした。
既に余命3年を宣告されており、彼は誰よりも強さを認められながらも、誰よりも安息を望まれていた。
しかし運命だけはそれを望まず、彼を新たな戦いへと誘おうとした。
本来の歴史に沿うならば、彼は聖杯戦争に招かれた日の翌日、再びフェストゥムの襲来に直面することになっている。
【方針】
未定。
【クラス】アーチャー
【真名】ストレングス
【出典】ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)
【性別】女性
【属性】中立・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ストレングスは人間・神足ユウとして、長きに渡って人間世界に留まり続けた。
この経歴にもとづきストレングスは、破格のランクを保有する。
ただし自力で魔力を生成することはできない。
【保有スキル】
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。本来ならば魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
幻術:D
魔術系統の一種。
ストレングスは人間世界にいた間、このスキルで他者の認識を操作し、自らの存在を溶け込ませていた。
ただしサーヴァントに対してはほとんど効果がない。
アンノウン:E
逸話なき英霊。
人の世に語り継がれることのない、夢の世界に生きたサーヴァント。
そのためストレングスは、真名を看破されることによるデメリットをほとんど持たないが、
代償として知名度によるパラメータ補正をほとんど受けられなくなる。
夢魔:???
この世は黒き玉座につく、原初の神が見た夢である。
ゆえにこの聖杯戦争において、夢の住人であることは、特別な意味を持っているとされる。
ストレングスはこのスキルにもとづき――【検閲・閲覧不能】。
【宝具】
『掴み、明日へ繋ぐために(Orga Arm)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:30人
ストレングスの体躯をも凌ぐ、巨大なサイズを有した機械腕。
四本指の先端は機関銃となっており、この宝具こそがストレングスをアーチャーたらしめている。
上述した射撃戦闘のほか、大質量を活かした格闘戦に用いることも可能。
平時は両手に装備する二本腕だが、最大駆動時には四本腕に増やすことができる。
『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:50人
かつて神足ユウが「虚の世界」に有していたテリトリーを、擬似的に再現する固有結界。
マグマの海を見下ろす、浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックス。
この足場はストレングスの意志によって自在に変形し、彼女が有利な位置取りをする助けとなる。
それ以上の効果は一切なく、あくまで得意な戦闘エリアを形成するための宝具。
しかし夢というあからさまな「異界」の出現は、相手マスターには大きな精神ダメージとなるだろう。
【weapon】
なし
【人物背景】
人の夢の向こうに広がる、痛みと苦しみが具現化された「虚の世界」。
ストレングスは、神足ユウという少女が虚の世界に生み出した、もう1人の神足ユウである。
本来は感情を持たず、本能のままに戦う存在であったが、
唯一ストレングスには、ユウの尋常ならざる苦痛や悲嘆に引きずられる形で感情が発現。
それに目をつけたユウによって、人格を交代させられ、自身は人間世界のユウの肉体へと移されてしまった。
その後10年以上に渡って、女子中学生の姿のまま、人間世界に留まり続けていたが、
その中で友人となった黒衣マトが、虚の世界絡みで抱えていたトラブルを解決するために、
彼女を虚の世界へと誘うことを決断する。
しかし目論見は失敗し、マトともう1人のマト・ブラック★ロックシューターは暴走。
責任を感じたストレングスは、友を救い出すために、ユウに奪われた本当の肉体と同化し、虚の世界へと舞い戻った。
しかし戦闘の最中、ユウに肉体の主導権を奪われたことにより、戦況は最悪の方向へと進行する。
このままでは何も解決しないと考えたストレングスは、自滅を選ぶことで、ユウを虚の世界から、現実世界へと送り返すことを決断。
戦いの中で致命傷を負い、最後の力もマトへと託したストレングスは、人間世界で知った生きる喜びをユウへと伝え、消滅した。
かつて虚の世界にいた頃の肉体は、現在よりも貧弱なものだったが、
本聖杯戦争においては、年月を経て強化された肉体を、ユウから引き継いでいる。
また、ユウが人間世界へ戻った後に生まれた、新たなストレングスとは別の個体である。
【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら、ユウやマト達の幸せを願いたい
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