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*《鍵開け》シルバーカラス&キャスター◆q4eJ67HsvU
「できないよ」「できねえか」「できないよ」「そうか」
▼ ▼ ▼
「夢だな、こりゃあ」
男は無感動な声を挙げ、淡々と現状を認識した。
「噂に聞くソーマト・リコールってやつか。自分で見る羽目になるとはな」
見せたことなら恐らくは何百回あるか分からないが、と自嘲する。
目の前にあるのは何の変哲もないドアノブ。鉄の扉。部屋番号が書かれたプレート。
マンション「さなまし」B棟303号室……この部屋は敵へのアンブッシュのため、爆破したはずだが。
「しかし分からねえな。ソーマトめいて見る夢が、なんで俺の部屋になる」
そう呟く男は、随分と奇妙な出で立ちをしていた。
鈍色のフード。その中の顔全体を覆う銀色のフルメンポ。
男はニンジャであった。シルバーカラス――そう呼ばれていた。
卑しい人斬り、シルバーカラス。最後のイクサにおいても、彼は自らそう名乗った。
泣きそうな目をした、彼女を前にして。
「……………………」
シルバーカラスは、自室の扉を前にしてしばし躊躇った。
ニンジャ第六感が働きアンブッシュの危険を察知したとか、そういうことではない。
ただ……恐れたのだ。この扉の向こうに、彼女がいることを。
他でもない、痩せた体、黒い髪。桜色の瞳、まだ頼りない、しかし奥には意志を秘めたその瞳。
彼女が自分を迎え入れる、そんな幻想を頭から振り払う。
「別れは済ませたろうが。今さら何を話すことがあるんだ」
甘えた自分に吐き捨てるようにそう言い、シルバーカラスは乱暴にコートのポケットを漁った。
自宅の鍵を引っ張り出し、無造作に鍵穴に突っ込み、それから音を立てて回した。
回してから……ようやく彼は違和感に気付いた。
「何だ、この鍵?」
握っていた手を開き、ドアノブに刺さったままのそれをまじまじと見つめる。
シルバーカラスのメンポと同様の銀色を放つその鍵は、アラベスク模様に似た細かな装飾が施され、
握りの部分にはオリガミの鶴めいた意匠のレリーフが刻まれていた。
こんなものを持っていた記憶はない。しかしこの鍵は確かに鍵穴に刺さり、扉を開けた。
「……どうせ死んだ身だ。なんの罠だろうが、知った事か」
あえて手荒く扉を開け放ち、シルバーカラスは自室に足を踏み入れた。
しかし、事実だけを述べるならば、その部屋はマンション「さなまし」B棟303号室ではなく、
シルバーカラスが初めて見る、そして「昔からずっと住んでいる部屋」だったのだが。
「おかえりなさい。それともハジメマシテ、かしら」
女の声だ。まだ少女のようにも、千年を生きた人間のようにも聞こえる。
シルバーカラスは血中カラテを絞り出した。悟られぬよう掌の中でスリケンを生成し、姿なき声に答える。
「シニガミか? サンズ・リバーのカロン・ニンジャ? 女だとは知らなかったな」
「あら失礼ね。あんな鎌を持ったサボタージュ概念と一緒にしてもらいたくはないわ」
「随分な言いようだな。そいつはやっぱり舟を漕ぐのかい」
「ええ。仕事をしている時も、仕事を抜け出した時も舟を漕いでるそうね」
「ナゾナゾかよ」
「あら、嫌い?」
「嫌いだな。少なくともまどろっこしい問答は……!」
気配の方へ腕を振り抜く。最大速のスリケンが部屋を横断し、ガラス窓を粉砕した。
しかし女の声は相変わらずどこかのんびりとした様子で、不意打ちなど意にも介さぬように続いた。
「物騒ねぇ」
「誰のせいだ」
「半分は貴方のせいね」
「……話が進まねえな。姿を見せろ」
「最初からそう言えばいいのに」
そう言うやいなや、その少女はシルバーカラスの目と鼻の先に姿を表した。
青いゆったりとした衣装。同じく青い帽子には死に装束の天冠めいて白い三角が立ち、赤い渦巻きが描かれている。
そしてこの世離れした桜色の髪……桜色。桜色の輝き。フラッシュバック。思い出すな。振り払う。
「……ドーモ。シルバーカラスです」
オジギすると、少女も真似をするようにドーモと手を合わせた。
「では改めて。貴方が私のマスターね。私の名は西行寺幽々子。此度の聖杯戦争では、『魔術師(キャスター)』のクラスとして現界しました」
言いたいことはいくつもあるが、まず聖杯戦争って何だ、とシルバーカラスは訊こうとした。
しかし実際にその言葉を発する前に、自分自身が既にその答えを知っていることに彼は当惑した。
いつからだ? 今さっき知ったはずのことを、まるで遥か昔から知っているように思える。
この部屋にしてもそうだ。初めて来たのに、ずっとここに住んでいる。奇妙な感覚。
「貴方は『銀の鍵』を手にし、扉を開いた。だから知っている。聖杯戦争の何たるかを」
キャスターが両手を広げて踊るようにくるくると回りながらそういう。
「選ばれたのよ、運命に。そして死に魅入られた貴方を迎えるために、死を司る英霊の私が此処にいる」
ひとしきり踊ると、彼女はシルバーカラスへそっと白い指を差し出した。
「ようこそ、アーカムへ。歓迎するわ、シルバーカラスさん」
▼ ▼ ▼
アーカム市の北東部、《イーストタウン》。
この地区はかつての栄光をそのままに放置し、開発の波からも取り残された、くすんだ街だ。
郊外には過去の栄光の残滓めいた邸宅が数少ない通行人を威圧するようにそびえているものだが、
ミスカトニック川により近い南部側にはより安く、狭く、それでいて古びたところだけは共通したマンションが並んでいる。
シルバーカラスが偽名であるカギ・タナカの名で借りている一室も、そのうちのひとつだった。
特にこのあたりの裏路地は警官の巡回も少なく、スラム寸前の《ロウアー・サウスサイド》ほどではないにせよ、
あまり軽々しく夜中に出歩いていいような場所ではない。そういうことは既に「知って」いる。
しかしあえてシルバーカラスがこの街灯もない道を選んだのは、試してみたいことがあったからだった。
「なんだ、兄ちゃん? こんなところに女連れでよ」
「いい身分だな、これから前後か? 俺達も混ぜてくれない? ヒヒ」
予想通りというか、記憶通りというか。
暇を持て余した二人連れのヨタモノに道を塞がれる格好になったシルバーカラスは、メンポを外した顔のまま溜息を付いた。
隣のキャスターが、「本当にいいの?」と聞いてくる。
「よし決めた! 兄ちゃん、まずは金だ。小遣い欲しいぜ」
「額が足りなきゃそっちの姉ちゃんと俺達で前後! 当然兄ちゃん抜きでな」
「……やれやれ。せめてダウンタウンあたりに住ませてくれればよかったのによ、聖杯さんも」
「アン?」
「こっちの話だ。やってくれ、キャスター」
「なにごちゃごちゃ言って…………!?」
いきがっていたヨタモノ達が一斉に口を閉じる。
彼らの目は一点に集中していた――即ち女、キャスターの掌に止まる一匹の蝶に。
ただの蝶ではない。それは物質化した奇跡、あるいは人にして人ならざる者の証。
神秘の発現……それを目にした時、人は己の常識を打ち砕かれる。
「ア、アイエエエエエエエエエエエ!??」
名状しがたい潜在的恐怖が、哀れな犠牲者の口から絶叫となって迸る。
西行寺幽々子の宝具、『反魂蝶』。死に魅入られることは、あらゆる美しさよりも恐ろしい。
既にヨタモノのうちの一人は精神的ショックで足腰も立たず、残る一人が這うようにしてこの場から逃れようとしていた。
「繰り返すようだけど……本当にいいの?」
「どのみち見られた以上は生かして置けないだろ」
「薄情ねぇ」
「職業柄な」
反魂蝶が飛び立った。そして這いずるヨタモノの頭に止まり、その生命を一瞬にして吸い出した。
その後でひっくり返ったままのもう一人の方にも蝶が止まるのを眺めながら、シルバーカラスは無感情に呟いた。
「……まるでサーヴァント・リアリティショックだな。ニンジャの俺も、他の神秘を見ればああなるのか」
「恐らくは、ね。本来の聖杯戦争ではあり得ないことのはずなのだけど」
「あり得ない?」
「この聖杯戦争には、私達英霊ですら知らないことが多すぎるということよ」
ふわふわとして掴みどころのない幽々子が、この時ばかりは神妙な顔で口をつぐむ。
人間の持つ潜在的な畏れを喚起する力。まるでモータルに対してのニンジャだ。
人にして人を越えしもの……奇跡という概念への畏れ。
ニンジャの源がニンジャソウルなら、サーヴァントへの畏れの源は何処にある?
「……オヒガンに渡りかけの俺が考えることでもねえか」
死体には何の傷もない。死因を特定するのは不可能だろう。
足がつくことはまず無いと判断し(別にサーヴァントの仕業とバレたところで失うものが少ないというのもある)、
シルバーカラスは霊体化した幽々子を連れて裏路地を後にした。
そういえば、と幽々子が念話で話しかけたのは、それからしばらく歩いてからだった。
『そういえば、まだマスターが何故聖杯戦争に挑むのか、聞いていなかったわね』
理由か。シルバーカラスは僅かに考え、それから答えた。
「タバコだ」
『タバコ?』
「売ってねえんだよ、『少し明るい海』。どうせあんたも持ってないだろ」
『そうね。それで、聖杯に?』
「サンズ・リバーを渡る前にやっときたいことなんて、それくらいだ」
『変な人』
「だろうな」
『付き合ってあげる』
「ありがたいこった」
あの桜色の少女に、残せるだけのものは残した。
もはやシルバーカラスの人生に悔いと呼べるものはない。
あとはシニガミに運ばれて、ジゴクで沙汰を待つだけだ。
しかし、未だ自分が、少なくともイクサの只中にいるのならば。
まだもう少し、シルバーカラスはシルバーカラスでいなければならないようだ。
【クラス】
キャスター
【真名】
西行寺幽々子@東方Project
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:EX
魔術師に有利な陣地を作り上げる。
幽々子の陣地作成スキルは宝具と不可分である。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成できる。
ランクは低く、ほとんど機能していない。
【保有スキル】
カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。
幽々子のカリスマは死霊に対してより強く働く。
幽体:B
肉体を持たない亡霊としての姿。
物理的な攻撃によるダメージを大幅に軽減する(神秘が篭っている限り無効化は出来ない)。
死霊統率:B
自身の宝具『反魂蝶』で命を吸った死霊を、一種の使い魔として使役する。
このスキルで使役される霊は命を囚われているため自然に成仏することは出来ない。
ボーダーオブライフ:E
生死の境界を司る幽々子の能力に対する、対魔力の効果を僅かに軽減する。
西行妖が満開に近付くにつれて、このスキルのランクは上昇していく。
【宝具】
『反魂蝶』
ランク:C 種別:対命宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1人
幽々子の「死を操る程度の能力」の象徴といえる、桜色の光を放つ魔力の蝶。
触れた者の命を吸い取って問答無用で死に誘う、反則的とも言うべき力を持つ。
ただし生身の人間ならば触っただけで即死するが、一度死んだ存在であるサーヴァントから奪える生命力には限りがある。
また蝶の姿を取るがゆえに飛行速度が遅く、また遠方から精密な動きで飛ばすことも出来ないため暗殺には不向き。
もっとも、十分な陣地と魔力源さえ確保できれば、幽々子は数十数百の反魂蝶を弾幕として飛ばすことが可能である。
『幽雅に咲かせ墨染の桜』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:自身
幽々子の父を始めとする多くの人間の命を吸い、幽々子自身の死をもって封印された妖怪桜『西行妖』。
周囲の魔力を集めて花開くこの巨木こそが幽々子の陣地であり、宝具であり、それ自体が樹の内側に展開された固有結界でもある。
西行妖は根から霊脈を吸い上げるだけでなく、付近に漂う魔力や魂を吸収して力を蓄え、満開へと近付いていく。
満開に近づけば近づくほど、陣地としての強固さと魔力量は増し、超一級の霊地をも凌ぐ力を発揮する。
それ自体が攻撃力を持つのではなく、幽々子のバックアップに特化した宝具である。
なお、西行妖を封印しているのは生前の幽々子の遺体であり、満開に近付くことはその停止が解かれつつあることを意味する。
そして完全に開花した時封印されていた少女は真の死を迎え、亡霊としての幽々子は消滅する。
幽々子自身はこの事実を知らず、自身が桜の下で息絶えたことも覚えていない。
【weapon】
常に扇を持ち歩くが、特に武器とか魔術の媒介というわけではない。
【人物背景】
冥界にある「白玉楼」に1000年以上前から住んでいる亡霊の少女。西行寺家のお嬢様。
幽霊を統率できる能力を持っており、幻想郷の閻魔大王である四季映姫・ヤマザナドゥより冥界に住む幽霊たちの管理を任されている。
元々は約千年前に命を落とした歌仙の娘。生まれつき命を死へと誘う能力を持っており、それを疎んで命を経った。
その遺体は妖怪桜の封印の要となっているが、幽々子はこのことを知らず、自分自身であることを忘れて蘇らせようとしていた。
性格は飄々として掴みどころがない。時おり何もかも悟っているような振る舞いを見せる。
【サーヴァントとしての願い】
不明。無いのかもしれないし、何かを考えているのかもしれない。
少なくともその飄々とした様子からは何も伺えない。
【マスター】
シルバーカラス@ニンジャスレイヤー
【マスターとしての願い】
最後に好きなタバコを吸って死にたい。
彼にとっての人生の思い残しなど、もはやその程度である。
【能力・技能】
ニンジャソウル憑依者として、超人的な肉体能力と百戦錬磨のカラテを武器とする。
ユニークジツ(固有能力)は持っていないが、そのイアイドーによる神速の斬撃は実際脅威。
しかしその体は重い病魔に蝕まれており、今日明日にも死にかねない状態である。
【人物背景】
ネオサイタマで兵器実験の依頼を受けて無辜の市民を殺害してきた、フリーのニンジャ。
かつてはドージョーでイアイドーを習っていたがニンジャソウル憑依により意義を見失い、脱退している。
ヘビースモーカーであるが、その体はニンジャでも抗えない病(恐らくは肺癌)によって蝕まれている。
死を予感し、人生でやり残したことを考えていた彼は、ある夜ひとりの少女ニンジャ、ヤモト・コキと出会う。
彼は彼女に自分の最後のわがままとしてイアイドーを教えることを決意するのであった。そして――
【方針】
この戦いに誇りはない。恐れも罪の意識もない。
ただイクサの中に身を置く限りは、淡々と戦い続けるだけ。
|BACK||NEXT|
|Rider02:[[《オカルト》アイアンメイデン・ジャンヌ&ライダー]]|投下順|Caster02:[[《錬金術》アルフォンス・エルリック&キャスター]]|
|Rider02:[[《オカルト》アイアンメイデン・ジャンヌ&ライダー]]|時系列順|Caster02:[[《錬金術》アルフォンス・エルリック&キャスター]]|
|BACK|登場キャラ|NEXT|
||[[シルバーカラス]]&キャスター([[西行寺幽々子]])|OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|
*《鍵開け》シルバーカラス&キャスター ◆q4eJ67HsvU
「できないよ」「できねえか」「できないよ」「そうか」
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「夢だな、こりゃあ」
男は無感動な声を挙げ、淡々と現状を認識した。
「噂に聞くソーマト・リコールってやつか。自分で見る羽目になるとはな」
見せたことなら恐らくは何百回あるか分からないが、と自嘲する。
目の前にあるのは何の変哲もないドアノブ。鉄の扉。部屋番号が書かれたプレート。
マンション「さなまし」B棟303号室……この部屋は敵へのアンブッシュのため、爆破したはずだが。
「しかし分からねえな。ソーマトめいて見る夢が、なんで俺の部屋になる」
そう呟く男は、随分と奇妙な出で立ちをしていた。
鈍色のフード。その中の顔全体を覆う銀色のフルメンポ。
男はニンジャであった。シルバーカラス――そう呼ばれていた。
卑しい人斬り、シルバーカラス。最後のイクサにおいても、彼は自らそう名乗った。
泣きそうな目をした、彼女を前にして。
「……………………」
シルバーカラスは、自室の扉を前にしてしばし躊躇った。
ニンジャ第六感が働きアンブッシュの危険を察知したとか、そういうことではない。
ただ……恐れたのだ。この扉の向こうに、彼女がいることを。
他でもない、痩せた体、黒い髪。桜色の瞳、まだ頼りない、しかし奥には意志を秘めたその瞳。
彼女が自分を迎え入れる、そんな幻想を頭から振り払う。
「別れは済ませたろうが。今さら何を話すことがあるんだ」
甘えた自分に吐き捨てるようにそう言い、シルバーカラスは乱暴にコートのポケットを漁った。
自宅の鍵を引っ張り出し、無造作に鍵穴に突っ込み、それから音を立てて回した。
回してから……ようやく彼は違和感に気付いた。
「何だ、この鍵?」
握っていた手を開き、ドアノブに刺さったままのそれをまじまじと見つめる。
シルバーカラスのメンポと同様の銀色を放つその鍵は、アラベスク模様に似た細かな装飾が施され、
握りの部分にはオリガミの鶴めいた意匠のレリーフが刻まれていた。
こんなものを持っていた記憶はない。しかしこの鍵は確かに鍵穴に刺さり、扉を開けた。
「……どうせ死んだ身だ。なんの罠だろうが、知った事か」
あえて手荒く扉を開け放ち、シルバーカラスは自室に足を踏み入れた。
しかし、事実だけを述べるならば、その部屋はマンション「さなまし」B棟303号室ではなく、
シルバーカラスが初めて見る、そして「昔からずっと住んでいる部屋」だったのだが。
「おかえりなさい。それともハジメマシテ、かしら」
女の声だ。まだ少女のようにも、千年を生きた人間のようにも聞こえる。
シルバーカラスは血中カラテを絞り出した。悟られぬよう掌の中でスリケンを生成し、姿なき声に答える。
「シニガミか? サンズ・リバーのカロン・ニンジャ? 女だとは知らなかったな」
「あら失礼ね。あんな鎌を持ったサボタージュ概念と一緒にしてもらいたくはないわ」
「随分な言いようだな。そいつはやっぱり舟を漕ぐのかい」
「ええ。仕事をしている時も、仕事を抜け出した時も舟を漕いでるそうね」
「ナゾナゾかよ」
「あら、嫌い?」
「嫌いだな。少なくともまどろっこしい問答は……!」
気配の方へ腕を振り抜く。最大速のスリケンが部屋を横断し、ガラス窓を粉砕した。
しかし女の声は相変わらずどこかのんびりとした様子で、不意打ちなど意にも介さぬように続いた。
「物騒ねぇ」
「誰のせいだ」
「半分は貴方のせいね」
「……話が進まねえな。姿を見せろ」
「最初からそう言えばいいのに」
そう言うやいなや、その少女はシルバーカラスの目と鼻の先に姿を表した。
青いゆったりとした衣装。同じく青い帽子には死に装束の天冠めいて白い三角が立ち、赤い渦巻きが描かれている。
そしてこの世離れした桜色の髪……桜色。桜色の輝き。フラッシュバック。思い出すな。振り払う。
「……ドーモ。シルバーカラスです」
オジギすると、少女も真似をするようにドーモと手を合わせた。
「では改めて。貴方が私のマスターね。私の名は西行寺幽々子。此度の聖杯戦争では、『魔術師(キャスター)』のクラスとして現界しました」
言いたいことはいくつもあるが、まず聖杯戦争って何だ、とシルバーカラスは訊こうとした。
しかし実際にその言葉を発する前に、自分自身が既にその答えを知っていることに彼は当惑した。
いつからだ? 今さっき知ったはずのことを、まるで遥か昔から知っているように思える。
この部屋にしてもそうだ。初めて来たのに、ずっとここに住んでいる。奇妙な感覚。
「貴方は『銀の鍵』を手にし、扉を開いた。だから知っている。聖杯戦争の何たるかを」
キャスターが両手を広げて踊るようにくるくると回りながらそういう。
「選ばれたのよ、運命に。そして死に魅入られた貴方を迎えるために、死を司る英霊の私が此処にいる」
ひとしきり踊ると、彼女はシルバーカラスへそっと白い指を差し出した。
「ようこそ、アーカムへ。歓迎するわ、シルバーカラスさん」
▼ ▼ ▼
アーカム市の北東部、《イーストタウン》。
この地区はかつての栄光をそのままに放置し、開発の波からも取り残された、くすんだ街だ。
郊外には過去の栄光の残滓めいた邸宅が数少ない通行人を威圧するようにそびえているものだが、
ミスカトニック川により近い南部側にはより安く、狭く、それでいて古びたところだけは共通したマンションが並んでいる。
シルバーカラスが偽名であるカギ・タナカの名で借りている一室も、そのうちのひとつだった。
特にこのあたりの裏路地は警官の巡回も少なく、スラム寸前の《ロウワー・サウスサイド》ほどではないにせよ、
あまり軽々しく夜中に出歩いていいような場所ではない。そういうことは既に「知って」いる。
しかしあえてシルバーカラスがこの街灯もない道を選んだのは、試してみたいことがあったからだった。
「なんだ、兄ちゃん? こんなところに女連れでよ」
「いい身分だな、これから前後か? 俺達も混ぜてくれない? ヒヒ」
予想通りというか、記憶通りというか。
暇を持て余した二人連れのヨタモノに道を塞がれる格好になったシルバーカラスは、メンポを外した顔のまま溜息を付いた。
隣のキャスターが、「本当にいいの?」と聞いてくる。
「よし決めた! 兄ちゃん、まずは金だ。小遣い欲しいぜ」
「額が足りなきゃそっちの姉ちゃんと俺達で前後! 当然兄ちゃん抜きでな」
「……やれやれ。せめてダウンタウンあたりに住ませてくれればよかったのによ、聖杯さんも」
「アン?」
「こっちの話だ。やってくれ、キャスター」
「なにごちゃごちゃ言って…………!?」
いきがっていたヨタモノ達が一斉に口を閉じる。
彼らの目は一点に集中していた――即ち女、キャスターの掌に止まる一匹の蝶に。
ただの蝶ではない。それは物質化した奇跡、あるいは人にして人ならざる者の証。
神秘の発現……それを目にした時、人は己の常識を打ち砕かれる。
「ア、アイエエエエエエエエエエエ!??」
名状しがたい潜在的恐怖が、哀れな犠牲者の口から絶叫となって迸る。
西行寺幽々子の宝具、『反魂蝶』。死に魅入られることは、あらゆる美しさよりも恐ろしい。
既にヨタモノのうちの一人は精神的ショックで足腰も立たず、残る一人が這うようにしてこの場から逃れようとしていた。
「繰り返すようだけど……本当にいいの?」
「どのみち見られた以上は生かして置けないだろ」
「薄情ねぇ」
「職業柄な」
反魂蝶が飛び立った。そして這いずるヨタモノの頭に止まり、その生命を一瞬にして吸い出した。
その後でひっくり返ったままのもう一人の方にも蝶が止まるのを眺めながら、シルバーカラスは無感情に呟いた。
「……まるでサーヴァント・リアリティショックだな。ニンジャの俺も、他の神秘を見ればああなるのか」
「恐らくは、ね。本来の聖杯戦争ではあり得ないことのはずなのだけど」
「あり得ない?」
「この聖杯戦争には、私達英霊ですら知らないことが多すぎるということよ」
ふわふわとして掴みどころのない幽々子が、この時ばかりは神妙な顔で口をつぐむ。
人間の持つ潜在的な畏れを喚起する力。まるでモータルに対してのニンジャだ。
人にして人を越えしもの……奇跡という概念への畏れ。
ニンジャの源がニンジャソウルなら、サーヴァントへの畏れの源は何処にある?
「……オヒガンに渡りかけの俺が考えることでもねえか」
死体には何の傷もない。死因を特定するのは不可能だろう。
足がつくことはまず無いと判断し(別にサーヴァントの仕業とバレたところで失うものが少ないというのもある)、
シルバーカラスは霊体化した幽々子を連れて裏路地を後にした。
そういえば、と幽々子が念話で話しかけたのは、それからしばらく歩いてからだった。
『そういえば、まだマスターが何故聖杯戦争に挑むのか、聞いていなかったわね』
理由か。シルバーカラスは僅かに考え、それから答えた。
「タバコだ」
『タバコ?』
「売ってねえんだよ、『少し明るい海』。どうせあんたも持ってないだろ」
『そうね。それで、聖杯に?』
「サンズ・リバーを渡る前にやっときたいことなんて、それくらいだ」
『変な人』
「だろうな」
『付き合ってあげる』
「ありがたいこった」
あの桜色の少女に、残せるだけのものは残した。
もはやシルバーカラスの人生に悔いと呼べるものはない。
あとはシニガミに運ばれて、ジゴクで沙汰を待つだけだ。
しかし、未だ自分が、少なくともイクサの只中にいるのならば。
まだもう少し、シルバーカラスはシルバーカラスでいなければならないようだ。
【クラス】
キャスター
【真名】
西行寺幽々子@東方Project
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:EX
魔術師に有利な陣地を作り上げる。
幽々子の陣地作成スキルは宝具と不可分である。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成できる。
ランクは低く、ほとんど機能していない。
【保有スキル】
カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。
幽々子のカリスマは死霊に対してより強く働く。
幽体:B
肉体を持たない亡霊としての姿。
物理的な攻撃によるダメージを大幅に軽減する(神秘が篭っている限り無効化は出来ない)。
死霊統率:B
自身の宝具『反魂蝶』で命を吸った死霊を、一種の使い魔として使役する。
このスキルで使役される霊は命を囚われているため自然に成仏することは出来ない。
ボーダーオブライフ:E
生死の境界を司る幽々子の能力に対する、対魔力の効果を僅かに軽減する。
西行妖が満開に近付くにつれて、このスキルのランクは上昇していく。
【宝具】
『反魂蝶』
ランク:C 種別:対命宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1人
幽々子の「死を操る程度の能力」の象徴といえる、桜色の光を放つ魔力の蝶。
触れた者の命を吸い取って問答無用で死に誘う、反則的とも言うべき力を持つ。
ただし生身の人間ならば触っただけで即死するが、一度死んだ存在であるサーヴァントから奪える生命力には限りがある。
また蝶の姿を取るがゆえに飛行速度が遅く、また遠方から精密な動きで飛ばすことも出来ないため暗殺には不向き。
もっとも、十分な陣地と魔力源さえ確保できれば、幽々子は数十数百の反魂蝶を弾幕として飛ばすことが可能である。
『幽雅に咲かせ墨染の桜』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:自身
幽々子の父を始めとする多くの人間の命を吸い、幽々子自身の死をもって封印された妖怪桜『西行妖』。
周囲の魔力を集めて花開くこの巨木こそが幽々子の陣地であり、宝具であり、それ自体が樹の内側に展開された固有結界でもある。
西行妖は根から霊脈を吸い上げるだけでなく、付近に漂う魔力や魂を吸収して力を蓄え、満開へと近付いていく。
満開に近づけば近づくほど、陣地としての強固さと魔力量は増し、超一級の霊地をも凌ぐ力を発揮する。
それ自体が攻撃力を持つのではなく、幽々子のバックアップに特化した宝具である。
なお、西行妖を封印しているのは生前の幽々子の遺体であり、満開に近付くことはその停止が解かれつつあることを意味する。
そして完全に開花した時封印されていた少女は真の死を迎え、亡霊としての幽々子は消滅する。
幽々子自身はこの事実を知らず、自身が桜の下で息絶えたことも覚えていない。
【weapon】
常に扇を持ち歩くが、特に武器とか魔術の媒介というわけではない。
【人物背景】
冥界にある「白玉楼」に1000年以上前から住んでいる亡霊の少女。西行寺家のお嬢様。
幽霊を統率できる能力を持っており、幻想郷の閻魔大王である四季映姫・ヤマザナドゥより冥界に住む幽霊たちの管理を任されている。
元々は約千年前に命を落とした歌仙の娘。生まれつき命を死へと誘う能力を持っており、それを疎んで命を経った。
その遺体は妖怪桜の封印の要となっているが、幽々子はこのことを知らず、自分自身であることを忘れて蘇らせようとしていた。
性格は飄々として掴みどころがない。時おり何もかも悟っているような振る舞いを見せる。
【サーヴァントとしての願い】
不明。無いのかもしれないし、何かを考えているのかもしれない。
少なくともその飄々とした様子からは何も伺えない。
【マスター】
シルバーカラス@ニンジャスレイヤー
【マスターとしての願い】
最後に好きなタバコを吸って死にたい。
彼にとっての人生の思い残しなど、もはやその程度である。
【能力・技能】
ニンジャソウル憑依者として、超人的な肉体能力と百戦錬磨のカラテを武器とする。
ユニークジツ(固有能力)は持っていないが、そのイアイドーによる神速の斬撃は実際脅威。
しかしその体は重い病魔に蝕まれており、今日明日にも死にかねない状態である。
【人物背景】
ネオサイタマで兵器実験の依頼を受けて無辜の市民を殺害してきた、フリーのニンジャ。
かつてはドージョーでイアイドーを習っていたがニンジャソウル憑依により意義を見失い、脱退している。
ヘビースモーカーであるが、その体はニンジャでも抗えない病(恐らくは肺癌)によって蝕まれている。
死を予感し、人生でやり残したことを考えていた彼は、ある夜ひとりの少女ニンジャ、ヤモト・コキと出会う。
彼は彼女に自分の最後のわがままとしてイアイドーを教えることを決意するのであった。そして――
【方針】
この戦いに誇りはない。恐れも罪の意識もない。
ただイクサの中に身を置く限りは、淡々と戦い続けるだけ。
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||[[シルバーカラス]]&キャスター([[西行寺幽々子]])|OP:[[運命の呼び声~Call of Fate~]]|