《ラクロス》新田美波&アーチャー ◆MQZCGutBfo
両手を、きつく握り締めた。
いつも繋いでいた手。
どうか少しでも、届きますようにと。
―――さよならだねって、最後の言葉
大丈夫だよ、と。美嘉ちゃんが励ましてくれて。
その言葉を示すように、アーニャちゃんは天使のようにきらきら輝いていて。
蘭子ちゃんの表情からも、必死さが伝わってきて。
―――ハローグッバイ、振り向かないように
画面越しに見る『景色』は、ライトブルーの海で満ちていて。
それはきっと。
デビューライブに見た景色とも違っていて。
良かった、と。
心から良かった、と。
言えるはずなのに。
涙が、少しだけ零れた。
停電の影響で、見られることはなかったはずだけれど。
美嘉ちゃんは、ぽんぽんと優しく私の頭を叩いて、部屋を出て行った。
「さ、次は美波ちゃんが身体を治す番。これを飲んで、一度眠ればスッキリですよ」
ちひろさんがカップを持ってきてくれた。
渡されたカップを覗くと、名状しがたい色の液体がなみなみと入っていた。
「え、えと。こ、これを飲むんですか……?」
「ええ。騙されたと思って、グイっと飲んじゃってください」
ちひろさんに促され、もう一度カップを覗く。
コポッと、泡が立ったのが見える。炭酸、なの……?
「さ、頑張って……!」
笑顔で握りこぶしを作るちひろさんに、こちらも無理やり笑顔を作って。
ぐい、と。
その液体を、飲み込んだ。
◆
ミスカトニック大学。
そこで私はアイドルとしてではなく。一学生としてだけの立場に戻っていた。
夢の中で開いた扉。
神さまは、ここでもう一度自分を見つめ直せ、と言っているのだろうか。
―――私がサマーフェスティバルで倒れてしまったのは。
監督とリーダーとの職務をはき違えたこと。
リーダーは全体の状況把握も大切だけれど、自身がプレイヤーでもあるのだ。
全てを自分で支えようとしたこと。
全体作業量の見極め不足。自身の体調管理不足。自身の基礎体力的不足。精神的タフさの不足。
いくらでも考えられる。
つまるところ、リーダー失格だったのだ。
ここで私はアイドルでないのなら。
基礎体力の構築、精神力の向上、全体を見る目を養うなど、自身の能力をもう一度磨きあげるチャンスなのだ。
聖杯。
何でも願いが叶うという奇跡。
そんなものに、掛けて良い願いなどない。
サマーフェスティバルをやり直したいわけじゃない。
蘭子ちゃんを羨ましいと思ってしまうような、精神的未熟さを。自分自身で克服しなければ。
そして、自分自身の足で立って。
隣に。
アーニャちゃんの隣に、また並べるように。
繋いだ手を放すことの無いように。
そのための、試練なのだ。
広大な敷地を誇るこの大学は、各カレッジスポーツも充実している。
アメリカでは、プロスポーツと同等にカレッジスポーツも国民から注目されているのだという。
このミスカトニック大学は、アイビー・リーグと言われる世界屈指の名門連盟に所属しているのだ。
そしてアイビー・リーガーには、その後の社会での活躍が約束されている。
私が所属するラクロスチームも、例外ではなかった。
日本で所属しているラクロスサークルとは違って、留学をしてまでラクロスを極めようという人間が集まっている。
つまりは、競争の社会。
選手権を目指していない和気藹々とした私のサークルとは、空気そのものが違っていた。
身体能力には自信があったし、アイドルになってからも体力勝負で、レッスンに真面目に打ち込んでもいた。
それでも、レギュラー選手にはなれなかった。
ラクロスならば、自分のプレイヤーとしての体力も、チーム全体を俯瞰するリーダーとしての能力も身に着くだろう。
私はここで、自身を鍛えることを目的にした。
ラクロスチームの公式練習が終わった後。
私は毎日寄り道をして。ラクロスコートのある公園で、ダッシュとシュート練習を欠かさず行うようにしていた。
今日も公園で自主錬をして。日も落ちてそろそろ練習を切り上げようと思った時。
柄の悪そうな三人の男性が、こちらに近寄ってきた。
「ようジャパニーズのおねえちゃん。ラクロスの練習でもしてるのかい?」
「マジかよ。ゴリラばっかりの競技で、そんな綺麗な顔と身体が勿体ないぜ」
「俺達とラクロスじゃなくて、もっと楽しいコトしようぜ」
口々に好きなことを言いながら寄ってくる三人組。
私を取り囲むように三角形の位置取りをしている。
「……」
私は何も言葉を返さず、ラクロススティックを持ったまま、肩にバッグをかける。
そして。
正面から来る男性に全力でダッシュし、右足を出して右から抜く動作を仕掛ける。
「おっと!」
男が右の方向を防ぐように態勢を変える。
―――かかった!
私は右足を強く踏みしめ、体を捻って左方向に向かって再度ダッシュを掛ける。
スプリットダッジ。
ラクロスにおいて、相手を抜く時の技術のひとつだ。
男性をかわし、成功したかに思えた時。
グイ!と、バッグの端を掴まれてしまった。
「へえ、なかなかやるもんだねえ」
「きゃ!」
そのままバッグごと引っ張られ、お尻から地面に着いてしまう。
「逃げたりしたら俺達傷ついちゃうじゃないの。ほら、楽しいコトしにいこうぜ」
「お、顔を紅潮させて。おねえちゃんも満更じゃないんじゃないの?」
「いや……!!」
カランカランと、スティックが音を立てて落ち。
両方の手首をそれぞれ二人から掴まれ、振り解くことができない。
「別に人通りもないし、ここでヤってほしいんだったら、それでも……」
正面の男が台詞を言っている途中で。
空気を切り裂くようなスピードで何かが飛んできて、男の頬に当たり。
「ぐぎゃあああああああああああああ!!!!!」
そのまま男の体ごと吹き飛ばした。
今のは……野球のボール?
そう思っていると、手首を掴んでいた男二人にも同じようにボールが飛んできて、
二人を後方へと弾き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおお!!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
ボールが来た方向に目を向ける。
「ヘッ。ただのキャッチボールだってのに。大の男がだらしねえな」
暗闇から、ガシャンガシャン、と音が近づいてくる。
その人が来る前に、三人組は脱兎の如く逃げだした。
「あ、あの、貴方は……?」
「君の進むべき道を知っている者だ。……なんてな」
ガシャンガシャンと、その人が姿を現す。
身長は2mくらいはあるだろうか。
黒い帽子に茶色の服……服?
左肩には大きなドリルと、大きく「1」と書かれていた。
「助けて頂いてありがとうございます。あの、私は新田美波って言います」
ぺこりと、お辞儀する。
「ああ。
俺の名はゴールドアーム。アイアン・リーガーであり、嬢ちゃんのサーヴァントってやつだな。
詳しくは俺をよく見てみろ」
「は、はい……!」
言われた通り、じーっとゴールドアームさんを見つめる。
すると、能力やスキルといった情報が頭に流れてくる。
「ま。多くを語る必要はねえだろう」
そう言うと、彼はラクロスのゴールの前に立つ。
「―――打ってきな」
風が吹き始める。
砂埃が、宙を舞い。
グラウンドを照らすライトが灯し始めた。
私は頷くと。
バッグを置いて、スティックを拾い。再び彼にぺこりと礼をした。
「……美波、行きます!!!」
「来い!!!」
私は後方に一度下がって、全力で走りながらスティックを振り被り、ランニングシュートを放つ。
全霊を込めたそのシュートは、軽々とゴールドアームさんの左手でキャッチされた。
ボールが鋭く投げ返され、私のスティックのクロスにバシン! と突き刺さる。
「構わずどんどん来い!」
「はい!!」
止まった状態からのスタンディングシュート。
ダッジをかけたフェイントシュート。
シュートの打ち方も、オーバー、サイド、アンダーと変えていく。
言うまでもなく、こんな風にラクロスの練習したことはない。
趣味として楽しみ、仲間とのコミュニケーションを楽しむようなところもあった。
でも、今は違う。
胸の奥から、ラクロスをしたい! ラクロスをしたい! と、気持ちが湧き上がってくる。
こんな気持ちは初めて。
「ほう、やるじゃねえか」
もう何百回打っただろうか。
いつの間にか。ボールがネットを揺らしていた。
「や、やった! やりました!」
「フ……中々見込みあるじゃねえか、嬢ちゃん」
―――気が付けば。太陽が、昇り始めていた。
【マスター】
新田美波@アイドルマスター シンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
アイドルとして復帰するため、自身を鍛える
【weapon】
ラクロス用スティック
【能力・技能】
『アイドル』
デビュー後間もない駆け出しアイドル。相方のアナスタシアと共にユニット「ラブライカ」を組んでいる。
大人っぽく落ち着いて楚々とした佇まいと、所作の艶やかさとで人気が出始めている。
細身の体型だが、シンデレラプロジェクト内において身体能力は高い。
『ラクロス』
サークルは男女混合で、選手権とかは目指していません。
明るくプレイ自体を楽しんでいます♪
……のスタイルを捨て。
アーカム世界において、新田美波のポテンシャル全てをラクロスに向けている。
【人物背景】
「シンデレラプロジェクト」最年長19歳。
アイドルとして何を目指せばいいのかわからず不安で思い悩んでいたが、ユニット「ラブライカ」として、
アナスタシアと二人三脚で臨んだデビューライブで見えた「景色」に感動したことをきっかけに心境が変化。
プロジェクトの合宿でリーダーを任命され、もっと新しい「景色」の可能性を求めて冒険していくことが彼女にとってのモチベーションになっていく。
しかし、サマーフェス時にリーダーとして奔走する中、気負い過ぎたため開始直前に心因性による発熱で一時ダウンしてしまう。
危うくラブライカのステージが中止になりかけるものの、神崎蘭子が美波の代理となって奮闘し、ステージを成功させることができた。
【方針】
まずは実力でレギュラーの座を勝ち取る。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ゴールドアーム@疾風!アイアンリーガー 銀光の旗の下に
【パラメーター】
筋力B 耐久B+ 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
リーガー魂:A
アイアンリーガーの熱き心。各種スポーツ競技に対して有利補正が付く。
同ランク相当の『戦闘続行』と、『勇猛』を併せ持つ。
また対峙した者の、ロボットならばオイルを、人間ならば血を、熱く滾らせる効果を持つ。
かばう:B
兄弟や仲間の危機において常に庇い、傷だらけになりながらも意志を貫いてきた証。
庇う対象が本来受けるはずの攻撃の因果を、自分自身に変更させるスキル。
逆境の星:B
屈辱に吼える反逆精神。泥水を啜っても生き延びた執念。
形勢不利な状況において、各種判定に有利補正が付く。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
【宝具】
『全てを貫く黄金の右腕』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:1人
ゴールドアームが数々の特訓によって会得した魔球の具現化。
基本的に威力と魔力消費は下の技になるほど大きくなる。詳細は下記参照。
・『悪を喰らう回転球(ジェノサイドスクリュー)』
ボールをゴムのように伸ばしてサイドスローで投げ放ち、対象者に直撃させる攻撃技。バットに当てても弾道を変化させて対象者に当てる。
神秘力は低く、直接打撃技に分類される。
自ら封印しているが、外道に対しては封印を解除することもある。
・『魂受け継ぐ熱き心(44ソニック)』
オーバーハンドで高エネルギーを纏った球を投げ放つことで、空気の壁を引き裂き、球の周囲に衝撃波を発生させる球威の高い投球技。
戦闘用ロボットのビームやミサイル攻撃を弾き飛ばす程の威力がある。
神秘力は高く、見た者は自身の熱き心を触発され、発狂せざるをえない。
雷属性を付与し、更に攻撃力・神秘力を上げる「44ソニック・オン・サンダー」も使用可能。
・『誇りを貫く黄金の魂(ライジング・ブラスト)』
左脚を大きく振り上げた態勢で力を溜め、振りおろすと同時に強力な螺旋状のエネルギーを纏った球を投げ放つ。
その球は山を抜き、水を分かつ程の威力。44ソニックに比べ神秘力は低く、実用性の高い技である。
更に攻撃力を上げる「ライジング・ブラスト・ネクストジェネレーション」も使用可能。
『熱き絆で結ばれた兄弟の証(ゴールド三兄弟)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:50人
ゴールドアームの兄弟であるゴールドフット、ゴールドマスクを一時的に召喚し、
三兄弟の必殺技である「竜巻フォーメーション」を使用した各種の合体技を使用可能。
召喚時の魔力消費量は多いが、フット、マスク共に単独行動E-相当のスキルが付くため、現界後の魔力消費に関して問題はない。
【weapon】
超合金でできたボールのはずだが、意外にゴムのように伸びたりする。打撃力は高い。
よく相手の必殺技に溶かされるバット。相手の攻撃を弾き返す際などに使用する。
左手の爪を回転させ、ドリル状にして対象を貫く武装。
【人物背景】
ダークキングスのエースを務めるピッチャータイプの野球リーガーでゴールド三兄弟の長兄。
また、チームスポーツにおいては常に司令塔となり、冷静にチーム全体に目を配ることができる。
10年の間ダークキングスでプレイを続ける猛者であり、殺人投法を使ったラフプレイ主体であったが、
マグナムエース率いるシルバーキャッスルとの激闘を経て、フェアプレーに目覚めていく。
熱しやすい弟をたしなめ、兄弟を支えるしっかり者の出来た兄。
『疾風!アイアンリーガー』はゴールド三兄弟の成長物語としても見ることができる。
【サーヴァントとしての願い】
嬢ちゃんを守りつつ、願いを叶えてやる。
【基本戦術、方針、運用法】
アイアンリーガー。
二次聖杯系において一般人マスターに呼ばれやすいクラス筆頭のアーチャー。
今回も例に漏れず、新田美波に魔力はないため、魔力運用はゴールドアーム単独で行う必要がある。
単独行動スキルがあるため、三兄弟召喚を行わず、魔球主体で運用すれば問題にはならないだろう。
機械に魂があること自体かなりの神秘ではあるのだが、一度その対象に存在を受け入れさせてしまえば、通常時における神秘力は低くなる。
勝ち抜くことが第一目標ではなく、必然的に守り重視の動きとなるため、同盟を探す必要があるだろう。
或いはラクロスのチームメンバーを集め、邪神聖杯内のラクロスで世界を取る道も無いではないが、
ゴールドアームにはマグナムエースのような「洗脳に近い話術」のようなスキルは無いため、実現は困難だろう。
美波はラクロスに打ち込み、寄ってきた敵をゴールドアームが排除して、
気が付いたら終盤まで残っていたような棚ぼた勝利を目指すのが妥当な道か。
最終更新:2015年07月20日 23:33