《銀の槍》フィオレ&ランサー ◆69lrpT6dfY




ユグドミレニア一族の次期当主と目される少女、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは困惑していた。
一族の拠点、ルーマニアの都市・トゥリファスに居たはずなのだが。
気付いたら、合衆国マサチューセッツ州の見知らぬ都市にいた。
訳の分からぬ状況に対して、ただただ理解が追い付いていなかった。
いや、正確には現在地『アーカム』に至る以前の記憶だと、確かトゥリファスの外に出て欧州の各所を巡っていた所だった。
目的は英霊を喚ぶための触媒探しの旅。様々な情報を集めて、目的の物品の居場所を突き止めていた。


近々、彼女が属するユグドミレニアの一族は「魔術教会からの独立」という宣戦布告を行うつもりでいる。
それはつまり、確実に魔術教会と戦争になるだろう。
そのため一族は総力を挙げて活動し、聖杯戦争を起こして一族の悲願を達成しようと目論んでいる。

  機は熟した。いまこそ、我ら千界樹(ユグドミレニア)が、この世界の神秘と奇跡を手に入れるのだ。

現当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが一族総意の決断を下したのと同じ刻。
フィオレにも令呪が現れ、聖杯戦争への参加資格を得た。
奇しくも弟・カウレスも令呪を宿してしまったものの、姉弟揃って一族からの命が下された。
今は別々に行動し、フィオレは目的の触媒の所有者の所まで辿り着いた。


彼女が選んだ触媒は「先端に青黒い血が付いた古びた矢」。
狙うは多くの大英雄達を育て上げ大成させてきたケンタウロス族の大賢者、その名は「ケイローン」。
本来『神霊』にカテゴリーされる存在だが、かの有名な神話の中でもあるようにその身に宿す「神性」を失った影響もあり、
『英霊』として召喚されるに足りうる存在になれる、と推測される。
思惑通りにケンタウロスの叡智を降霊できたならば、歴代の英雄達が集う聖杯戦争においてこれ程にもないアドバンテージを得られるだろう。

そして交渉の末、フィオレは持ち主から触媒を受け取り、無事に目的を果たした。
しかしまだまだ安堵は出来ない。やるべきことは多い。本番はこれからなのだから。
だからフィオレは根城トゥリファスを戻るため、丁寧な謝礼を送り踵を返そうとした。
その時、元所有者がフィオレを呼び止め、とある物を手渡してくれた。
それは銀の鍵。髑髏と蛇の意匠が施された、不思議な鍵だった。
一体これは何なのか、フィオレは問いかけたが、行き掛けの駄賃だ、と言われてはぐらかされた。
然したる物ではないだろうとフィオレはそのまま受け取り、今度こそその場から離れた。


――そして、それ以降の記憶が途切れてしまった。


気付いた時には全く見知らぬ、そして記憶上では存在しない都市『アーカム』で生活していた。
なぜか、魔術教会から遣わされて『アーカム』という未知の土地を監視する、という役割が与えられていた。
フィオレも少し前までは魔術教会の時計塔にも所属し魔術を学んでいたため、このような役割を与えられるのも納得できるが。
これから離反する算段を立てている身としては、記憶を取り戻してからは随分と気まずい気分になった。


ともあれ状況を整理すると、とても不味い状況になってしまった。
どうやってもユグドミレニア一族の者と連絡が取れず、この未開の異界からの脱出も救援も望めない。
しかも確かにその手に持っていたはずの触媒もなくなってしまった。
手元に残るのは念の為に持ち込んでいた接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)と、銀鍵のみ。

状況が呑み込めない中、フィオレはふと手に刻まれた令呪を眺めた。
その意匠も以前のものとは違い、髑髏と蛇の紋様に様変わりしていた。
それはまるで、銀鍵に示し合わせたかの様に、朧ながらに似ている。
同時に、頭の中に眠る聖杯戦争の知識が告げている。


これもまた聖杯戦争ならば、異端であろうと、試してみる価値はある。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






素に無明の闇。傍に盲し白痴の王。

泡立つ虹には贄を。

四方を円に閉じ、炎を五芒へ示し、第五宮に至る陽を循環せよ。

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を冒涜する。

――――Ancient(セット)

告げる。

汝の身は我が門に、我が命運は汝の鍵に。

星辰の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

誓いを此処に。

我は全なる一の戒めを破る者、

我は一なる全の印を棄てる者。

汝、混沌の媒介を記す断章。

窮極の門より来たれ、銀鍵の守り手よ――――!





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




目の前に描いた魔法陣が輝き、その場に奇跡が現れる。
――まさか本当にサーヴァントを降霊できるなんて。
フィオレはただ見蕩れていた。この不安定で怪しい状況下で、よもやルーマニア以外の所で召喚の儀を為しえてしまった。
とはいえ呼び出してしまった以上、今はこの従者に頼るしか術はない。
大賢者に至る依り代がない以上、この銀の鍵に応じる未知の英雄に賭けるしかない。
不安と期待を抱きながら、フィオレは生涯に一度とない眩い現象をしっかりと見つめることに努めた。


光が弾け、魔法陣から幻想で紡がれた体が浮かび上がる。


「よう、アンタが俺のマスターか」


現れたのは青年の男。
容姿は軽装、ピアスやシルバーアクセ等、それは今時の若者そのもので、とても歴代の英雄には見えない。
しかし漂う雰囲気が違う。現代に生きる人間などとは全く異なる武勇の相がハッキリ判る。
フィオレは少し驚いた顔をしたが、すぐさまサーヴァントの問いに答えた。


「はい、そうです。私の事はフィオレと呼んでください、どうぞよろしくお願いします」
「ちょっと固くないか?まあいいけど。オレはランサー、真名はハムリオ・ムジカ。
 周りの奴らからはムジカって呼ばれているから、アンタもそのつもりでいてくれ」
「ハムリオ・ムジカ……わかりました。ところでランサー、幾つか聞きたいことがあるのだけれども」
「なんだ?」
「そうね、まずは……申し訳ないですが、貴方はいつの時代のどこの英雄なのでしょうか?」


いくらか予習をしてきたフィオレだが、目の前の英霊に関してはすぐには分からなかったので、失礼ながらも聞いてみる事にしてみた。
他にも幾つか質問してみた。
記憶が曖昧な点や元々持っていた触媒の所在、監督役の居場所、第何号聖杯なのか、そしてアーカムという舞台の異常性について。
フィオレにしてみればここの聖杯戦争もまた紛い物の一つ、冬木の聖杯を模して造られた贋作だと考えていた。
彼女が知る歴史では、世界各所で偽物の聖杯が出没し、その度に戦争が発生して誰もが掴めないまま終わってしまったと記録されているからだ。
なにより、一族の拠点に本物の聖杯がある。
紛れもない、冬木の地から持ち出された本物の願望器が。
第二次世界大戦の動乱の最中、ナチスドイツが聖杯戦争を創設した御三家を出し抜き、さらに現当主のダーニックが奪い取り、ルーマニアに秘匿した真の神秘が。
そして今、その奇跡に魔力が注ぎ込まれ輝き始めていた。
その姿を特別に見せてもらったが、不全とはいえその神々しさに心奪われてしまった。
だからフィオレはこの地の聖杯には目もくれず、なるべく早くユグドミレニアの地に戻りたかった。
彼女が求めるものは、ここにはないはずだから。

.

だがしかし、ランサーからの受け答えはフィオレが想定してものとは予想を超えていた。
まずランサーの出身は、なんと自分達とは違う異世界だった。
多少の違いはあるが発達した文明を有し、さらに秘匿されずに限定的だが普遍している魔術、そして異形の種族との共存などがなされているなんて。
もしかしたら、ここの聖杯戦争に呼び出されたマスターやサーヴァントも異世界の住人なのかもしれない。
都市『アーカム』もこの聖杯によって創られた仮初の世界だとか。
だから、彼女の常識外が多いのも頷ける。
そして、異端の聖杯の異常性に身の毛がよだつ思いがする。


「それでマスター、アンタはこの聖杯戦争をどうするつもりなんだい?」


驚愕の事実に戸惑う中、ランサーがマスターの意図を問い掛ける。
ここの聖杯は本物とは違うが、偽物とは違う、全く正体不明の異物。
果たして願望器足り得るかは分からないが、あるいは……


「……ランサー、もう一つ尋ねたいことがあります」
「貴方は、聖杯にどの様な願いを託しますか?」

「ん?それは……ないな。オレには、叶えたい願いとかはないぜ」

「そう……それじゃあランサー。お願いがあります」
「私は一刻も早くこの地から、聖杯戦争から抜け出したいです」
「申し訳ないですが、私が戦うべき場所はここではないのです」
「だから私は脱出の方法を探るべく、色々と調査にあたりたいと思います」
「時には他のマスターと接触し、情報を集める事もあるでしょう」
「しかし、一体いつどこで何が起こるかわからないのが聖杯戦争というもの」
「だからもし戦闘になる時には、貴方の力を是非ともお貸しください」

「オッケー、了解だ。そん時になったら任せな」


思いの外ランサーは従順してくれた。
言葉通り願いがないからか、勇猛さを剥き出しにしていないからか。
ともあれ、頼りになれるサーヴァントと巡り合えて嬉しく思う。
そしてこれからが険しくなる。
本来の手筈なら一族の密偵からの連絡である程度の情報が手に入るのだが。
この地では未だ自分と己が従者しか信用できず。
強大であろう未知数の主従が多いだろう。
それでも出来る限り動いていれば、何かしら糸口は見つかるはずだ。


しかし、もしここから途中退場する方法が見つからない場合は。

――止む得ない。勝ち残り聖杯を手にいれよう。

そうすれば、おのずと帰還への道が開けるはずだ。



――邪(よこしま)にも、私の悲願を叶えたい、とは思わない方がいいだろう。

ここにある奇跡が、どういった代物なのか、まだ判らないから。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



【マスター】
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア@Fate/Apocrypha

【マスターの願い】
一族がいるルーマニアへの帰還。
―――もしできるなら、足の異常を治したい。

【weapon】
接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)

【能力・技能】
降霊術と人体工学において他の追随を許さない程の才華を発揮する。
接続強化型魔術礼装も彼女ならではの発想で生まれた傑作である。
それら以外の魔術についてはほとんど不得手である。

【人物背景】
ユグドミレニア一族において随一の能力を持ち、ダーニックの後継者として目されている魔術師。
魔術回路の変質により両足が動かず、車椅子による生活を強いられている。
彼女の魔術回路は両足に存在するため、魔術師の道を諦めない限り足を治療することはできない。
そしてフォルヴェッジ家の後継者として魔術を捨てることは許されないため、聖杯に願いを託す他ない。

正確は穏やかで奥ゆかしく、礼節正しい凛とした貴人である。
魔術師の価値観の他にも普通の人間としての価値観を有しており、過去のトラウマが今も心の奥底で引き摺っている。

【方針】
優先事項はこの地を脱出し一族がいるルーマニアへ戻る。
その為に他の主従の動向などもチェックしながら此度の聖杯戦争を調査し、糸口を見つける。
もし、脱出が叶わない場合は、『アーカム』の聖杯戦争を勝ち残る事で、様々な呪縛から解放されるつもり、かもしれない。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



【クラス】
ランサー

【真名】
ハムリオ・ムジカ@RAVE

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
銀術:A
 銀術師(シルバークレイマー)としての技術。銀を自在に形状変化させる。他の金属にも多少の干渉が可能。

芸術審美:E
 芸術品・美術品への執着心。芸能面の逸話を持つ宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破できる。

戦闘続行:B
 往生際が悪い。数多の戦闘で致命傷を負わされてもそこから反撃して強敵を倒してきた。

【宝具】
『銀槍シルバーレイ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:15
 またの名を『レイナ』。海をも割る力を秘めた銀術の槍。三種の銀が一つになって生まれた信愛の証。
 この銀槍は通常の銀術より体力・魔力を消耗するが、それに見合う以上の威力を発揮してくれる。
 相手の異能の効力を無視して、ランサーの意志のままに突き通す。
 (※具体的には、斥力・引力の異能を無視して攻撃できる、捻じ曲げる異能を銀槍にかけても捻じ曲がらない、など)

『紲の銀』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~20 最大補足:50
 一人では為し得ない銀術奥義。二人の銀術師が心から互いを信頼した時にのみ使える、物理を超越した衝撃波。
 難しい発動条件に加え、ランサーの心に残る想いと未練の影響もあり、聖杯戦争において使う機会はほぼ訪れないだろう。

【weapon】
『銀』
普段は髑髏に蛇が巻き付いた状態のアクセサリーになっているが、銀術により自在に形状変化させる事が可能。
得意の獲物は銀槍だが、他にも盾やムチ、カギなど様々な道具に変化できる。

【人物背景】
窃盗団「銀の衝動(シルバリズム)」を束ねる青年。しかし今はレイヴマスター達と共にRAVE探しの旅に出ている。
幼少期に家族を皆殺しにされた所で銀術師リゼに拾われて、彼に師事されながら銀術を習得した。
趣味はシルバーアクセの作成。特技はナンパ、盗み。女を虐める奴が嫌い。
当初は少々悪ぶった不良みたく振る舞っていたが、芯には熱い正義感を秘めているため悪行はしない。
仲間のために命を賭けたり、時に暴走してしまった仲間を殴り飛ばすなど非常に仲間想い。
あと旅の最中に色々と因縁があるorできてしまった女性との出会いが多い。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。マスターの手助けをする。

【基本戦術、方針、運用法】
三騎士らしく正面から衝突するのがベスト。
瀕死の状態でも相手に反撃できるので泥仕合もアリ。
でも傷が大きすぎると治すのも大変なので程々に。
それ以外にも銀術は器用で応用が利くので有効活用しよう。