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高垣楓&キャスター ◆jcwmWF8NEs


そのディレクターは、目と目がひどく離れている容貌をしていた。
ギョロッとした目はどこを見つめているのか分かりづらい。
日本人をさして魚顔とはよく言われるが、このディレクターは極端すぎた。
高垣楓は、その特徴的すぎるディレクターの顔をぼうっと眺めていた。

「いやはや、まさか『高垣楓』さんが出向いてくれるとは……!」

ペチリ、と。
平たい顔に広がる大きなデコを打ちながらディレクターは調子の良い言葉を口にする。
楓は、相変わらずぼうっとした顔つきのまま、ディレクターの何度目ともなる言葉を受け流す。

「いやぁ、ワシとしても鼻が高いばかりです」

ディレクターは、文面だけならば標準語ではあるが、隠し切れない独特のイントネーションで語りかけてくる。
ここは寂れた過疎村の集会所の中。
346プロに所属する『アイドル』である楓は、『田舎に行っちまおう』という番組のロケのために訪れている。

「ワシの地元……つまりは、この『印州馬臼村』ではちょうど大きなお祭りが有りましてな」
「『インスマス村』?」
「『印州馬臼(いんすまうす)村』です。
 ああ、でも、昔は一部で『蔭洲升(いんすます)村』とも呼ばれておったらしいですな!
 ワシのひい爺さんの頃の話らしいですが」

楓の茶々を入れるような問いに対して、ディレクターは朗らかに応える。
気を悪くした様子もない。

「ワシも故郷に錦を飾りたいと言いますかな、過疎になって久しい村に彩りを加えたいのですよ
 今回の『田舎に行っちまおう』では、このお祭りにも参加してもらおうと想いましてな」
「参加……ですか?」

ここに来て初めて知らされる話に、楓は眉をひそめた。
事務所を通しての話であるため、怪しさはないだろう。
ないだろうが、それでもテレビ局というのは時々信じられないことを行う。
楓を『笑いもの』にするような自体もあり得るかもしれない。

「神社で祀っている『ネコのミカン』様に祈りを捧げるお祭りでしてな」
「『ネクロノミコン』に祈り?」
「『ネコのミカン』様です」

茶々を入れる楓と、やはり朗らかに応えるディレクター。
ディレクターは言葉を続ける。



「そこで、その、ですな」

先ほどまで歯切れの良かった言葉はどこに行ったのか。
突然、口ごもり始める。
嫌な予感がした。

「高垣さんに、その、『巫女』の役をやって欲しくて、ですな」

来た、と、楓は思った。
はてさて、引き受けるべきか否か。
巫女の内容次第では、楓が失敗してお祭りを台無しにしてしまうかもしれない。

「その儀式には『団子の酒』と言うものを用いましてな」
「『ダゴンの書』?」
「『団子の酒(だんこ・の・しゅ)』です、地酒ですな」
「お酒!」

その言葉に楓は顔を輝かせる。
ディレクターは、ホッ、と胸を撫で下ろした。
噂通り、というべきだろうか。
これならば断られないかもしれない。

「大食いが神儀であることはご存知ですかな?」
「いえ……」
「これもその一種でしてな、巫女がご神体の前でお酒を飲んでみせるのです。
 その量が多ければ多いほど良いというわけです」
「やります」

即答だった。

「おお……しかし、合計で一升は呑んでしまうと思いますが。
 あっ、もちろん、医者も用意しておりますので」
「やらせてもらいます」

再度、即答だった。

「これが団子の酒です……ささ、どうぞどうぞ」
「それじゃ、一杯だけ」

楓はそう言って、その神秘的な美しさを台無しにするほど豪快に呷る。
喉を通った瞬間に、楓は顔をほころばせた。

「美味しい!」

夜が明ければ、収録だ。
酒を断っておこう、せめて、この一杯だけで。
なにせ、明日にはこの酒を浴びるほどに飲むことが出来るのだ。




――■日が沈み、また日が昇り、明くる日■――



.




「祟りじゃぁ……!」


収録の休憩時間。
突然、声が響いた。
楓は驚いたようにして、声の主を見つめる。
皺苦茶、というよりも、顔が皺でできているような老爺とも老婆ともわからぬ老人が居た。
プルプルと震える指を楓と向けて、その老体には似つかわしくない大声が飛び出る。

「祟りじゃあ!」
「ちょ、誰だ!婆様を近づけたのは!
 ケンタロの奴はなにをやっちょる!」

反応したのは、村長だった。
『ケンタロ』とは『健太郎』という五十すぎの男で、目の前の老人の息子だ。
その息子が飛び出してきて、老人を押さえつけた。
それでも老人は言葉を止めない。

「余所者に巫女をやらせるなど……ミカン様の祟りが来るんじゃぁ……!」
「やめねえか!
 わんざわざ都会のがたが来てくださたっと!
 そんに、こげな綺麗な方がやってくれてミカン様が怒るわぎゃねえべ!」

健太郎は頭を下げながら、老人を引きずっていく。
ディレクターはポリポリと首をかきながら、楓へと謝罪の言葉を紡ぐ。

「いや、すいませんな……あの婆様は、その、ワシが村を出る前から、イカれてしまっておって……
 まだ生きておったとは……」
「おばあさんだったんですね」
「は?」
「あのぐらいの年頃の人になると、中性的になるものですね……」
「は、はぁ……」

楓の言葉に、不思議そうな表情を浮かべるディレクター。
何はともあれ、気を悪くしていないことに安堵した。
出演者の中には、こういったことですぐにへそを曲げてしまう者も少なくない。
ディレクターと言っても力の弱い彼には、そうした出演者を留める力はない。
ましてや、相手は346プロのアイドルだ。
ヘタは打てない。

「あっ……」

そんなディレクターをどこ吹く風か、楓は村の少年たちに視線を移した。
そして、軽い足取りでその少年たちに近づいていく。
突然近づいていきた、田舎の村では見ることも出来ない美貌の女性に、村で三人しか居ない少年たちはたじろぐ。
女性といえば、自身の母親よりも年上の女性だけなのだ。

「え、えと……」
「それ、なに?」
「ク、クリオネの、アクセサリー……」

ドン、と背後の二人から肩を押された少年はどもりながら応えた。
頬を染めて、たどたどしい言葉を発し始める。

「村では『クリオネ』が大流行で、でも、持ち歩けないから外ではアクセサリー……」
「『クトゥリュー』が大流行?」
「『クリオネ』です」

無理やりの聞き間違いを、少年は丁寧に訂正する。
楓は、へぇ、とだけ応えて、じろりとクリオネを見る。

「友達のと、ム●キングみたいに戦わせるの?」
「は?」

そのつぶやきに対して、少年たちは間抜けな声を出す。
クリオネは、そんな、カブトムシじゃない。
動揺したまま、少年たちは何も言えずに顔を見合わせた。

「さっ、収録の続き続き。おめえらも、ほれ、散った散った!」
「ちぇー!」

ディレクターの声に、少年たちは不満そうに声を上げる。
しかし、それ以上に駄々をこねるようなこともなく、走り去っていく。
走り去る少年たちを見送った。
大人しそうな少年が一人、その視線に気付き、照れたように耳まで赤く染めた。



――■日が沈み、境内■――


.


「ふふーん」

鼻歌を鳴らしながら、楓は地酒を口に運ぶ。
このようなときにお神酒でないのは、楓でも不思議に思った。
思ったが、同時にどうでもいいとも思った。
酒は酒だ。
ニコニコ顔で酒を口に運ぶ。

「ん……」

喉を通る熱い感覚に、艶やかな声を漏らす。
顔に浮かんでいるものは、まさしく喜色満面といった表情。
教科書に載るほどのそれを浮かべながら、酒を呑んでいく。

「っと、と、とっと……」

不確かな言葉を呟きながら、酒を呷り、ふと、役目を思い出した。
先ほど手渡されたばかりの『経典』と呼ばれる書を台座に捧げる。
ふらふらとした足取りは危なかっしく、いつ転倒してもおかしくないものだ。

「……?」

ふと、不快感を覚えた。
正確に言えば、足元に走った『ぬめり』とした感覚に不快感に似た感情を覚えた。
この『ぬめり』は、人間のそれとは異なる。
もちろん、この木造建ての神社の床の感覚とも違う。
これは、両生類や魚類が持つ皮膚の『ぬめり』と良く似ている。
酒が不味くなった、と。
楓は思った。

「……」

先ほどまで心地良かった酔いが、急として不快感を煽るものへと変わっていく。
ある種、初めての感覚だった。
果たして、この『祭』が原因なのか?
この『祭』は妖しくはない。
妖しくはない、はずだ。
この村の人々は皆『魚のような顔』をしていた。
しかし、良く良く見れば、老人ほどそれが顕著であるが、子供はさほど目が離れているわけではない。
『いまどきの若いものは』という言葉は、信仰の面に置いても例外ではない。
子供にとって、この『お祭り』はあくまで『お祭り』という遊びであって、『お祀り』という神儀ではないのだ。
もはや、ただの『お祭り』と成り果てた『お祀り』。

「あー……!」

楓は嫌悪感を消すために、嫌悪感を生み出した酒を呷った。
『魚のような顔』
『蔭洲升村』
『銀の鍵』
『ネコのミカン』
『団子の酒』
『クリオネ』
様々な単語が頭に過る。
いや、待て。

『銀の鍵』?


「……?」

楓は視線を移す。
そこには、銀色の月光に照らされて光る鍵があった。
誘われるように、その鍵を手にとった。
台座の下に、鍵穴が見える。
台座の中に、腐り落ちた、かつては透明であったであろう濁った白い触手が見える。
台座の奥に、屍体が見える。
かつての神、崇められた異常生命。
銀の鍵が、かちり、と音を立てた。





――■世界が変わり、窮極の門前■――



.


話をしよう。
一人の男の話だ。
美しく、逞しく、賢い男の話だ。
誰よりも美しかった。
誰よりも逞しかった。
誰よりも賢かった。
英霊と言う肩書きを持って現れる『サーヴァント』という存在にふさわしい男だった。
その男が、高垣楓の前に現れていた。

「どうも、初めまして……愛されて10年、科学の申し子、天才物理学者・上田サイエンス次郎です」
「どうも。国民的超絶美人アイドル、高垣シンデレラ楓です」
「……ふざけているのか?」
「貴方に合わせてみたんです」

満足にセットもしていない、ボサボサの髪を揺らしながら鼻を鳴らす上田次郎なる男。
地味な色のベストと、やはり地味な眼鏡は、英雄とイコールであるサーヴァントとしてはひどく野暮ったい容姿だった。
それでもその地味な服装の奥に隠された肉体は鍛え抜かれている。

「聖杯戦争などというオカルトに巻き込まれるとは……しかも、魔術師<<キャスター>>のクラスだなんてなんの冗談だ。
 バカバカしすぎて、逆にこのキャスターの笑いのツボにも掠ってしまうぞ」
「キャスターさんだけにかすった? キャスターさんだけにかすった?」
「駄洒落じゃあない! 君のような人間と一緒にするんじゃない!」

嬉しそうに言う楓へと、上田次郎なるキャスターのサーヴァントは怒りを見せる。
その怒りを納めようともせずに、言葉を続ける。

「いいか、マスター。私のことはサイエンティストのサーヴァントと呼びなさい。
 魔術師など、全く、非科学的だ」
「竿売れんティスト?」
「竿とか!巨根は!童貞は関係ないだろ!」

下ネタのつもりはないが、サイエンティストは激しく動揺を示した。
トラウマとは、そういうものなのだろう。
肩で息をして、心を落ち着かそうとするサイエンティスト。

「まあ、いい。さっさとこんなバカなお祭りは終わらせて帰ろうじゃないか」
「終わらせる、ですか?」
「謎を解いて、それで終わりだ。
 オカルトというのは、往々にして謎が判明した瞬間に『冷めて』しまう。
 このお祭りも、すぐに終わるさ」

『どんと来い!超常現象』という名著がある。
全国で二千……ン部売れた、サイエンティスト上田次郎の象徴である。
転じて、上田次郎の宝具と化した概念的な宝具。
上田次郎がその秘匿された謎を解き明かした瞬間、その神秘は霧散してしまう。
この聖杯戦争において、『狂気を白昼に晒してしまおうという狂気』。
同時に『狂気を正気へと貶める狂気』である。

「さて……私が本来ならばセイバーで召喚されるべき勇猛な英雄といえども、万が一がある。
 もしも逸れてしまった時、あるいは、不届きにも誰かが私に変装した時のために、特別な『合言葉』を決めておこう」
「合言葉……『あー、いい言葉』っていうのは?」
「そんな間抜けな合言葉があるか!
 だいたい合言葉というのは、片方がある言葉を言った際に、片方が答えとなる言葉を言うものだ」
「それじゃ、どんなの?」

そうだな、と無精髭の生えた顎を抑えた。
チラリ、と。
楓のスレンダーな肉体を、その長身故に高所にある目で見下ろす。

「『貧』と『乳』だ」

妙に、自信に溢れていた。


【クラス】
キャスター

【真名】
上田次郎@TRICK

【パラメーター】
筋力:D+ 耐久:D 敏捷:E 魔力:- 幸運:A+ 宝具:E

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:-
上田次郎は陣地を作成できない。

道具作成:-
上田次郎は魔術的な道具はもちろん、特殊な科学道具も作成できない。
かろうじて上田次郎人形を作成することが出来る。

【保有スキル】
通信空手:A++
上田次郎が通信教育の空手科目で納めた技術。
免許皆伝を取得しており、また、恵まれた肉体によって高ランクの通信空手を誇る。
このスキルは取得が余りにも容易く、Aランクでやっと『他の武術家とも戦える……かな?』と言ったレベルである。

被暗示体質:A
思い込みが激しいとも言い換えることが出来るスキル。
他者からの暗示、自己暗示関係なくあらゆる暗示にかかりやすい。
騙されやすいとも言う。

日通教の申し子:A
日本通信教育においてあらゆる技能を習得したキャスターが持つユニークスキル。
キャスターは『専門家には遠く及ばないが、しかし、知識と免許だけはある』といった技術を多く所有している。
キャスターにとって通信教育は、もはや生涯の趣味とも言えるものである。


【宝具】
『なぜベストを尽くさないのか』
ランク:E 種別:暗示宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人

――私は、どんな困難もたちどころに吹き飛ばしてしまう秘密の呪文を知っている――

この宝具を開放した時、筋力ステータスがワンランクアップする。
強烈な自己暗示であり、キャスターの魂に刻まれた言霊。
勘違いとも、誇大妄想とも言い直すことが出来る。
また、キャスターの口から出たこの詠唱を信じ込めることが出来れば、他のサーヴァントも筋力をワンランクアップする。


『どんと来い!超常現象』
ランク:- 種別:対秘宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:上限なし
この宝具は神秘を持たない故に、神秘を汚染する。
そして、この宝具は他者の神秘を侵蝕し、神秘を打ち消す。
あらゆる超常現象を否定し、それを現実のものへと変換する。
発動条件は一つだけ。
『マスター、もしくはキャスターが、対象の神秘について深く理解する』ということである。


【weapon】
上田次郎の恵まれた肉体に武器は必要だろうか……?

【人物背景】
日本科学技術大学教授、上田次郎。
人知を超えた天才であり、人類の秘宝。
上田次郎が生まれた日、日本では密かに飛び級制度の実施も検討され、イギリスではついにアーサー王が復活したと噂された。
あらゆる不可能を可能とし、1999年に恐怖の大王が上田によって打ち倒されたことは公然の秘密である。
上田次郎は自身の意思で死を迎える前、一度だけ死にかけたがその時は『死』という概念そのものが泣いて謝った。
死後は当然として英霊の座についた。
上田次郎の生後、毎日が上田次郎記念日である。
彼にとって不幸と呼べることは一つだけ、それは彼と同じレベルの存在が居ないために常に孤独であったということである。

【サーヴァントとしての願い】
上田次郎が聖杯に願うのではない、聖杯が上田次郎に願うのだ。

【基本戦術、方針、運用法】
びっくりするぐらい使えないからハズレって言われる類のサーヴァントだと思う。



【マスター】
高垣楓@アイドルマスターシンデレラガールズ

【weapon】
兵器がなくても平気。

【能力・技能】
No 力。

【人物背景】
一見するとシックな落ち着いた、どこか神秘的な女性。
実際は子供のまま大人になったような、無邪気な二十五歳児。
憂いを帯びた視線で見つめる物は日本酒のラベルであり、目を伏せて思慮に耽っているのはオヤジギャグの推敲である。
お酒と温泉が大好きで、今回のロケにもその二つに惹かれて引き受けた。
最近、アイドルとしての自覚を抱きつつある。

【方針】
ほー、神秘を解き明かそうって?