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Arkham Ghul Alptraum ◆Jnb5qDKD06



【アーカム】アーカムに白髪の食人鬼が出たらしい【ヤバイ】

181.名無しさんはアーカム市民
今朝大学に行く途中にパトカーが何十台も停まってたけどどうやらこのスレタイの奴の仕業らしい

182.名無しさんはアーカム市民
アレってそんなんだったのか。
おかげで講義に遅刻したじゃねぇか。
邪魔者なんじゃボケェ!

183.名無しさんはアーカム市民
え、デマでしょ?
テロだって聞いたぞ。
爆弾が爆発したみてーにクレーターできていたぞ

184.名無しさんはアーカム市民
建物が粉々になっていた時点で人間技じやねぇ!

185.名無しさんはアーカム市民
いや、マジだって白髪の奴がジェンガみてーに建物を粉々にして人間喰ってたって

186.名無しさんはアーカム市民
それでその白髪の奴はどんな姿だったの?

187.名無しさんはアーカム市民
それは……なんと!




─────とある電子掲示板より



   *   *   *


「ええい! 時の神すらも我が行く手を阻み嘲笑うか!
約束の地はもうすぐだというのに、既に時の長針が十度刻まれてしまっているではないか」

 ノースサイドの自宅から出て、仕事場へと向かった神崎蘭子。
 いつもならばスタジオのある商業区域にはノースサイド線に乗っていく。
 しかし今日に限ってはノースサイド線の照明器具がいくつか破損していたことにより、いつもの時間帯にノースサイド線に乗れなかったのだ。
 アメリカ人サラリーマン達の怒声が飛び交うノースサイド線の駅から脱出し、タクシーでダウンタウン、リバータウンを経由してようやく商業区域についた。
 それでも十分の遅刻である。蘭子の顔には焦りが見え、急いでいることが誰の目にも見て取れるだろう。
 しかし霊体化して同伴しているサーヴァントの落ち着き払った姿は恐らく見えまい。
 見えるとしたら聖杯戦争参加者くらいだ。

「なぁマスター」
「フッ、韋駄天の如く天地を駆ける我に何用か」
「韋駄天、確かスカンダのことをそう呼ぶらしいな。俺の槍を与えたインドラと同等の速さを持ち、力においては圧倒的と聞いている。
 見事だ、マスター。一見して華奢なその肉体からは想像もできないほどの力を秘めているということか。一体どれほどの修練を積めばそこまで引き締まるのか俺では想像すらつかない」
「と、疾く今の呪文を忘却の彼方へ沈めよ」
「それが命令ならば忘れるが、近くにサーヴァントがいることを言っておくぞマスター。
 だが、その鍛えぬいた肉体があれば例えサーヴァントが束になろうとも勝てるだろう。俺の御守りなど無用の長物に過ぎん」

 と爆弾発言をして黙りこくるランサー。二人の間に気まずい空気が流れた後、消え入るように蘭子は呟く。

「ま、まも、守って下さい」
「了解したマスター」

 タクシーの運転手が一人で話す少女に訝しげな表情をしながらラジオの番組を変える。
 ラジオは本日の天気予報を告げている。どうやら午前中は曇るらしい。



   *   *   *



188.名無しさんはアーカム市民
わかんない。ゴメンね(・ω<)

189.名無しさんはアーカム市民
ROMれ

190.名無しさんはアーカム市民
いや、目撃者はいるよ?
でもソイツ、事件を見たショックで正気じゃないらしくて病院運ばれたらしい。

191.名無しさんはアーカム市民
胡散臭い

192.名無しさんは観測者
【いたとしたらどんな姿だったと思う?】

193.名無しさんはアーカム市民
汚ないオッサン。ストレスで白髪になった感じの

194.名無しさんはアーカム市民
むしろ俺はマリーアントワネットみたいな悲劇の白髪の美少女がいい。

195.名無しさんはアーカム市民
然り! 然り! 然りィ!

196.名無しさんはアーカム市民
美女になら食べられたい(性的な意味で)
きょにゅーならば更に良し。

197.名無しさんはアーカム市民
( ゚∀゚)o彡゚



─────とある電子掲示板より



   *   *   *



 スタジオビルでの収録を終え、若干の駆け足でビルを出る。
 ランサー曰く、すぐ近くで様子を伺っているのか、動かないらしい。
 もしや、戦いは好かない性分なのかもしれないし、話し合いがしたいのかもしれない。

 ────もしかしたら協力できるかもしれない。

 そんな希望を胸にランサーに案内されて行った先はスタジオのあるビルの裏側。人気のない屋外のバスケットコートだった。
 スタジオビルによって少ない太陽の光を奪われ、ほんのわずかに朝の冷たさを残すコートは今や廃れており、空き缶や萎んだバスケットボール、紙屑などのゴミが散らばっている。
 そんな荒れ具合にも関わらず、不法侵入を防ぐべくコートはフェンスに囲まれ入口には錠前もされていた。
 もしかしたら何かの建物を建てるために土地の保有者が錠をしたのだろうか、と蘭子は考えたが、その錠前もやむなしとランサーが素手で錠を切断してしまったためもう用を為さない。

「我が友よ。我が瞳に適う者は見当たらないが?」
「いいや、用心しろマスター。いる……いや、くるぞ!」


 そしてランサーとそのマスターがコートに足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。


「えっ!?」

 蘭子のいる場が突如として青紫色の濃霧に包まれ前後左右の視界を完全に埋め尽くした。
 そして場に蔓延する妖気、蘭子達へ向けられる殺気。
 考えなくてもわかる。これは初めから話し合いというものを放棄している。

「化生の類か」

 ランサーが呟く。それに応えるようにペチャペチャという足音と女の声が乱反射して耳に届いた。
 強烈な腐臭と鉄の匂いに蘭子は鼻を抑える。

「くぅくぅお腹が空きました」

 まるで奈落の底から呻くような、もしくは天の祝福に歓喜するような正と負の感情が絶妙に混ざった声。
 壊れている。破滅している。演技であっても常人が出せる声ではない。
 歪なその声に、蘭子は生理的不快感を感じる。

「マスター。俺の側から離れるな。それと耳を傾けるな。あっという間に食われるぞ」

 蘭子を傍らに寄せ、ランサーは注意を促す。
 されど顔の向きは蘭子ではなく前方の霧に向けたままなのは敵がそこにいるからであり、同時にカルナをもってしても油断できない相手であることを意味している。
 カルナの実力は英霊の中でどれくらい強いのか蘭子は知らない。だが、とてつもなく強いことは分かる。
 巨峰や大海原のように見ただけでその光景にただ凄いと感じるように、カルナの力を感じるのだ。
 反面、現れた凶象は文字通り霧のように掴みどころのない、手ごたえの無い感じだ。カルナほどの圧力を感じない。あるのは意味の分からない声だけ……。

「これは『宝具』だ。聞き流せ。まとも聴くと狂うぞ」
「宝具……」

 聖杯戦争の知識を与えられたため宝具に関する情報はある。
 曰く、伝説の再現。曰く、英雄のシンボル。なら声が宝具? でもこの霧は一体……。

「この声が宝具と思っているのならば違うぞマスター。おそらく、この空間そのものが宝具だ」
「然り」

 ぶわっと突風が吹いて前方の妖霧が晴れる。
 霧の帳が取り除かれて良好になった視界の先に白髪で黒衣の女の子が立っていた。
 その子の足元からは血管のように赤い筋が走る黒い泥が拡がり出した。
 まるで軟体生物の触腕のようにうねり、コート内に捨ててあった吸殻や空き缶等のゴミが泥に呑まれてそのまま暗黒の海に沈む。

「あ……」

 あれに触ると死ぬ、間違いなく死ぬと平和な国で生まれた少女に僅かに残っていた生物の本能が告げた。

                  *  *  *






  【SANITY CHECK――『タタリ』の一部を視認】



  マスター/神崎蘭子……『失敗』








                  *  *  *


「────────────ぁ」

 そして突如、神崎蘭子に襲いかかる『この聖杯戦争のルール』。脳髄の奥に突如埋め込まれる狂気の波長。すなわち邪神からの極上の祝福(どく)。
 この世、人類、総ての悪性を謳い、そして死ねと連呼する■■。
 悪意が、害意が、そして■■……■の……が……を■ねと。■■■しまえ。

 耐えられない。耐えきれない。耐えてはいけない。耐えるな■ね。
 蘭子が、ホラーやスプ■ッタを、苦手としているとか、そういう次元ではなく、まともな思考の持ち主ならばこれは■■だ。■■すぎて■■■■■がなくなる。

「あぁ……ぁあ……」

 壊れてゆく。崩れてゆく。融けてゆく。蘭子の精神が。音もなく、誰にも知られることがなく────いいや、ここに一人いるぞマスター。

 死人の如く蒼白となっていた蘭子はぬくもりを感じた。彼女の肌を温めたのは眩き炎。
 視界を覆い尽くしたカルナの炎が、蘭子の精神の崩壊を防いだ。

「まだ戦いは始まってすらないぞ、マスター」



   *   *   *



 カルナは現れた者を見た。白髪で黒衣。容姿から察するに東洋人だろう。
 異国人のカルナから見ても整っていると思う顔は薄気味の悪い笑みを浮かべ、濃密な殺気をばらまいていた。

「壮絶な悲劇で精神が壊れ、箍が外れ、気が触れてしまった少女 。
 それが白髪の食屍鬼の正体に違いない、そうであってほしいという願望に吸血鬼としてアレンジを加えて再現したのか」

 カルナの観察眼は少女の背後で蠢く無数の人影を見通していた。
『白髪の食屍鬼』というイメージにドラマを求める無数の声。

 こういった大衆の趣向は古今東西として珍しい話ではない。
 シェイクスピア気取りの悲劇好きが、フランケンシュタインのような哀れな怪物を求める。
 ジャック・ザ・リッパーのような殺人鬼を好き勝手に妄想し、あるいはヴラド三世のように何かを怪物に仕立て上げて物思いに耽る。
 英雄が華々しく活躍するよりモードレッドの反逆やジークフリートのような英雄が散る物語を好む。
 事実として人々の声はそれら全てとは言わないが、言っていることは大体こうだ。


 ────怪物があってほしい。


 ────悲劇があってほしい。


 ────何か物語を寄越せ。


 そうした思想、妄想、噂をする人々が目の前の怪物を生み出す母体であり、だが同時に被害者でもあった。
 なぜなら目の前の怪異が放つ殺意は座標を彼らに向けていた。
 お前たちの願いは叶えてやった。だから望み通り怪物としてお前たちを殺してやろうと。
 つまり、コレは己を生み出した者を殺す、そういう現象だ。

「自業自得。身から出た錆と言えば大団円に聞こえるのだろうが。
被害者(おや)への感謝も無ければ、自覚も無い彼らを殺すのは英霊として恥ずかしくないのか?」

 歪な笑みを浮かべるばかりで返答はない。いや、あった。
 黒い泥のような影がゴボと音を立てて膨れ上がり、次の瞬間には爆発した。
 赫黒の津波と化してコンクリートの地面を木屑のようにバラバラにしながらカルナ達へ迫る。

「そうか、それが答えか」

 しかし、それらが目標に届く前にカルナの炎によって阻まれる。
 泥が炎を地面へと沈めようとするが、逆にカルナの炎に喰われてその体積を焼滅されていく。
 燃え盛る魔炎の中、カルナは敵を見据える。

「ならば是非もなし。マスターを守護するサーヴァントとして、貴様を排除する」

 槍は必要ない。あれを使うにはマスターに相当な負荷を強いる。
 そも、この程度の相手に武具など無粋。己の目に魔力を込め────

「真の英雄は眼で殺す!」

 そして放たれた眼力は質量と煌めきを伴って視線上の全てを破壊した。当然、相対していた少女も消し飛ぶ。

「所詮は曖昧な噂を象っただけのモノ。膨らんだ風船程度のものでこの俺は倒せん」





 カルナの言う通り、所詮は偶像であり、その内容(なかみ)も曖昧(スカスカ)。
 実像とは程遠い、風船を膨らませた程度のもの。
 こと英霊の中でも最上位に分類されるカルナの攻撃も防御も突破できる道理があるはずもなく一撃で終了である。





 これがタタリでなければ。






   *   *   *



198.名無しさんはアーカム市民
白髪美少女といえばあのアイドルを忘れてませんかねぇ


199.名無しさんはアーカム市民
あの子は白髪ではなく銀ぱ……おや、誰か来たようだ

200.名無しさんはアーカム市民
【あの子って一体誰さ?】

201.名無しさんはアーカム市民
ついこの間、日本から来たアイドル。

202.名無しさんはアーカム市民
我等がアイドル。神崎蘭子ちゃん!

203.名無しさんはアーカム市民
そういえば白髪の食屍鬼と彼女が来た時期って被るよな。
もしかすると……


─────とある電子掲示板より



   *   *   *



 出演中止(カット)!

 役者交代(カット)!!

 情報構築(カット)!!!

 再演開始(カット)!!!!



 聞きなれた業界用語が蘭子の耳朶を打つ。
 その音源は少女が消失する前に立っていたた場所。

「え?」

 男の声がする。ノイズが走る。空間が歪む。そして────

「第二幕開始(キャスト)!」

 およそビルの二階ほどの高さにある空間にピントがずれたようなにぼやけた。そして今度は黒に限りなく近い紫色をした砂が次々と人型を象っていく。
 まずは華奢な白い四肢、そして漆黒の四枚羽。そして白、黒、赤を基調とした魔王調(ヘルロードゴシック)の衣装。
 邪眼を宿した大鎌が次々と露わになり────ああなんてことだろう。
 顕現したものを神崎蘭子は知っている。なぜならそれは

「傷ついた悪姫────第二形態! 魔王ブリュンヒルデ降臨!」

 紛れもなく自分なのだから。