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 タタリに終わりはない。
 未だアーカムを覆う噂に限りはなく、人が活動し始める午前という時間において情報は加速度的に増殖する。
 情報の種類は千差万別であるが汎用性が高かったり流行の情報ほど数が多く、芸能人で言えば知名度が高い者ほど取り上げられる量が多い。
 そして現代の電脳においては情報を知った者が感想を述べたり第三者へ拡散するソーシャルネットワークが構築されている。
 故に生じたこの事象も至極当然であり

「傷ついた悪姫────第二形態! 魔王ブリュンヒルデ降臨!」

 同時に否定できない現実であった。

「L'inizio! さぁ、緞帳(マク)は上がったぞ。終末(オワリ)を謳うがいい」

 アイドルという存在もまた、人々の会話に上がりやすいのだ。
 スキャンダルを狙うパパラッチが、飯の種にする報道機関(マスコミ)が、あるいは彼女たちに喝采を送るファンが大勢噂する。
 故に情報を絡めとり吸血鬼へと二次創作(アレンジ)するタタリにとって彼らのアイドル賛歌は絶好のカモである。
 顕現したのは『本当に魔の力を得た神崎蘭子』。無論、本人は悪魔の如き角も生えていなければ、四枚の黒翼もない。

「闇に飲まれよ(カット)!」

 しかし、事実としてここにタタリ『魔王ブリュンヒルデ』は顕現していた────彼女を噂したファンを殺す現象として。



                  *  *  *




  【SANITY CHECK――『タタリ』の規格急上昇による再チェック】



  マスター/神崎蘭子……『失敗』


  タタリが自身に関する噂をベースにしたため狂気に下方修正が入ります





                  *  *  *



「闇に飲まれよ(カット)!」



 自分の貌をした何かが暴威を振るう。
 魔法の力を使う姿。自信と威厳に溢れた姿。
 それこそ、私が夢見た姿だった。だけど、それは最悪の方向性をもって蒼の世界からアーカムへと顕現した。
 生じた影は先ほどの数倍の密度と規模で360度全方位よりランサーと自分を飲み込まんと迫る。
 傍から見たら嵐の時の河川や雪崩を思わせるだろう影の奔流が迫るのに対し、蘭子が感じたのは不安でも恐怖でもなく、ショックだった。
 カルナの言う事が事実であったのならば、大多数の人間が『神崎蘭子が白髪の食屍鬼に違いない』と願っているのだ。これがショックでなくて何だといおう。
 あまりのショックに力が抜けて膝をつく。

「ショックかね、我が原典(はは)よ!」

 影の奔流が怒涛の勢いで迫る中、なぜかもう一人の自分の声がゆっくりと耳に届いた。
 高みから見下ろすその姿は天上の存在そのもので、しかし黒く染まった翼は堕天使のソレである。
 蒼界幻想ではなく人々の想念から顕れた魔王ブリュンヒルデ。その口が産声の代わりに絶望を親元へと囁く。

「何も不思議なことではない。
 覚醒(メザメ)を願ったのだろう。魔王(ワレ)を願ったのだろう。
 汝が描き、振舞った願望が子羊たちによって顕現したに他ならん。
 尤も、之より先は汝が忌む血の惨劇だがな。
 約束の刻は来た。この運命(サダメ)を謳うがいい」

 お前が魅せてきた姿だ。お前の望んだ結末だ。
 故にこれからの殺戮を受け入れろ。それが運命である。
 下される言葉と共に影が迫るのを虚ろな目で蘭子は見ていた。

「ほう、これがマスターの積み重ねた結果だと?」

 カルナが紅炎を全方位へ放ち、二人の間を割るように蘭子の前に踊り出た。



   *   *   *



 影の大侵攻に対抗してカルナの炎もまた勢いを増しているが、ジリジリと押されていく。
 押されるのならば出力を上げればよい、という風にはいかない。場所が悪すぎる。

 カルナの炎はスキル「魔力放出」によって外側へ放つ力である。
 この影の威力を超える力を一気に出すことは可能だが、勢いが過ぎれば周りに被害が出るだろう。
 ここはスタジオビルの裏側であるし、表は商業区域であり人が大勢いる。

(宝具の使用は控えるべきか……)

 迫る影が五感全てにプレッシャーを与える状況の中、カルナは微細な火力調整で徐々に拮抗状態に持ち込むしかない。
 弱卒であれば既に恐慌しているだろう。修羅場を経験した強者でも肝を冷やしているだろう。
 しかし、カルナは大英雄だった。冷静であり、そして清廉な戦士だった。
 命が惜しくて周りを吹き飛ばすような思考回路をカルナは持っていないし、一片たりとも考えていない。
 反面、怪物の方は犠牲者が多い越したことがなく、『神崎蘭子』という殻に固執がないため、自壊をも厭わぬ規模と威力を引き出す。

「…………」

 加減と限界突破。出力差は明らかで炎が押されても無理はない……だけでは今の状況に説明がつかない点が一つある。
 それはカルナの太陽という属性とタタリの吸血鬼という属性だろう。吸血鬼にとって太陽の光も炎も鬼門である。
 そもそも最初の少女のタタリは泥を炎に一方的に喰われ、眼光で吹き飛ぶような強度しかなかったのにここに来てこの状況。
 カルナが極限まで抑えているとはいえ、サーヴァント級の力を発揮できて、しかもコレ自体はサーヴァントではないのだ。不自然極まる。
 その異常性に気付いたカルナは僅かに怪訝な表情を浮かべ、その表情を愉快そうに眺めながら魔王が口を開く。

「汝の貌は疑問を持っているという貌だな。察するに我が何故、サーヴァントと同等の力を解放できるかといったところか」
「そうだ吸血鬼。貴様らは太陽の光の前には疾く塵になるのが道理だろう。サーヴァントでもない、使い魔に何故これほどの力がある」

 期待していない問いだった。戦闘中に己の力の秘密を語る者などおるまい。
 だが意外にも怪異はその問いに応じた。

「キ─────キキキキキ。至極当然の理であるぞ槍兵よ。生前の我、否、"私"ならば煩わしい太陽の前に疾く塵になったであろうが、忘れてはおらんか?
 今の"私"はサーヴァントよ。英霊よ。当然、この『固有結界"タタリ"』もまた異なる魂の解放を遂げておる」

 ランサーの目が微かに見開く。固有結界タタリ────己が宝具の名を自ら口にしたのだから当然と言えるだろう。
 聖杯戦争においてサーヴァントの真名と宝具を隠蔽するのが定石である。正体が知られれば弱点が知れ渡るし、対策を取られることが明らかだ。
 しかし、目の前の存在は違う。一切合切、聖杯戦争の定石を無視している。
 かといって正々堂々を望む存在かと言えばそれも違う。そも、そんな高潔な人格ならば民草を殺戮しようなどという気など起こすはずもない。

 故にコレは異端、異形、異常だ。
 これは聖杯戦争に参加しながら聖杯戦争などどうでもよいと考える殺戮者。その口が饒舌的に己の宝具を説明する。

「"闇の眷属(タタリ)"の生成方式は汝の睨んだ通り噂や妄想が『実際に起きてもおかしくない』と思われることにある。
 共鳴できるか? 英霊への昇華と同じよ。噂(ものがたり)が信憑(しんこう)されて昇華するのだ。
 つまり"私"の保有する固有結界"タタリ"はな。一時的な噂の英霊化なのだよ。
 サーヴァントと違うのは親和性と知名度の補正が上限(カンスト)に至っていることだな」

 さらにと魔王は付けたし────

「この地は太古より邪神や怪物の伝承に事欠かぬ。
 化け物と聞けば途方もない上位者の存在を思い浮かべ、その祝福を受け闇の眷属達はより禍々しく逞しき力が満ちる!
 故に我が漆黒の闇は汝を飲み込むに足る顎(アギト)を宿している。
 如何な業火を纏おうとも魂の解放をしておらぬ汝ではこの魔王ブリュンヒルデに仇名すことなど不可能よ! ナーハッハッハッハッハ!」

 話題沸騰中のアイドルと巷で噂の殺人鬼から生まれたタタリ。
 光が強いほど闇が強くなるように、神崎蘭子というフィルターを通して神話めいた力を発揮できる本物の魔王だ。
 そして忘れてはならない。これはワラキアの夜でもあるのだ。

「黒き翼に舞え(ブレイク)!」

 鎧の"内側"、皮膚と鎧の間に斬撃が満遍なく発生してカルナの肉体を切り刻む。
 内側からの攻撃で黄金の鎧が剥がれる。

「……!」

 決して軽くない傷を受けて、刹那ほど意識に間隙ができた。炎の純度に淀みができた。
 当然、刹那でも勢いが弱まれば天秤が一気に傾くのが自明の理であり────

「ナーハッハッハッハ────では、ここで死ね」

 影の濁流がミキサーの如くコンクリートも炎も切り刻みながらカルナ達を飲み込んだ。



   *   *   *



「どうして」

 無明と無音の闇の中、蘭子は呟いた。
 オカルティックな言動と周りの理解がかけ離れているというのは知っていた。
 それが原因で人との意思疎通が困難になったり、時には前に歩み出せない障壁にもなった。
 そして、私が夢見た存在が今、私たちを殺そうとしている。

「一体、私は……どこで……間違えたの……」
「違うな。どこも間違えてなどいない」

 闇の中でほんのわずかに炎が灯った。

「確かに、アレは、マスターの知名度から力を得ているのだろう。
 アレは強い。並の戦士(クシャトリヤ)では束になっても敵うまい。故に鎧を剥がされた俺がこうなるのは道理か」

 炎はカルナだった。彼は身を挺して蘭子を守っていたのだろう。
 いや、今も守っているのだ。徐々に増えていく彼の切り傷、擦り傷がそれを証明している。
 彼と一体であったはずの黄金の鎧は彼を守らず、逆にサイズの合わない服のように不格好な印象をカルナに与えている。
 彼をここまで苦しめているのは自分の夢だ。


 きっと、怒っているだろう。


 たぶん、恨んでいるだろう。


「だから誇るがいい。我がマスター、神崎蘭子。
 光が強いほど闇が濃くなるというのならば、あれの強さこそ真にお前が他者に魅せた輝きの強さに他ならない」


 だが、ここで、こんな状況で。
 彼から出た言葉は糾弾ではなく賞賛だった。


「お前が人々を魅せる輝きも、積み重ねてきた熱量も、この太陽(オレ)に確かに匹敵するものだ。
 仮令この先どうなろうとも、その輝きは太陽神スーリヤの子である俺が保証する」


 その口調に憐憫や皮肉は一切感じられない。掛け値なしの賛辞が太陽の子から人界の娘に送られる。


「そしてそんなお前のサーヴァントだからこそ、俺もそれに相応しい役割を演じてみせよう。
 そも、このまま太陽(ちち)の威光が影ごときに負けるなど俺が許せん」


 気炎を噴き上げるカルナ。
 その身に纏った炎が主に応じて勢いを増す。

「キレイ……」

 ──なんて、美しい。

 ──なんて、逞しい。

 太陽の子に相応しくあろうとする彼、それに応じる炎。
 互いが互いを鼓舞し奮わせるその相互関係はアイドルとファン、またはプロデューサーと自分に似ていて────


「わが主。神崎蘭子よ。まだ諦めていないというのなら────どうか俺に力を貸してくれないだろうか?」


 そしてそんな彼のマスターだからこそ、それに相応しい役割を演じたい!
 そう想う心に嘘はなく────ククク、魂が猛るわと笑いながら震える足で立ち上がって喝破する。


「よかろう。ならば行こうぞ我が友よ! 既に魔力は満ち、今こそ魂を共鳴させるとき!」


 熱を上げる魔力回路。
 カルナへ齎される魔力。
 呼応して噴き上げる焔。
 次第に光が闇を喰らい、熱が死を焼却し、臨界を超えて世界を切り裂いた。



   *   *   *



 圧縮して暗黒とも呼べるほどに高密度になった影が光に裂かれるのをタタリ『魔王ブリュンヒルデ』は見た。
 そして同時に槍の英霊がこちらに向かって飛び出す。その足は大地よりも少し高い位置で滞空……いや、徐々に上昇している。
 炎を背から噴き上げジェット噴射するように気流を操っているのだろう。浮いて地面との接触が無い分、ただ地を蹴るよりも何倍も速かった。
 距離が近づくにつれて急上昇し、己ヘ接近する腹積もりだろう。

「愚かな」

 だがその選択はどう考えても誤りだろう。なぜならマスターの守護ががら空きである。
 そもそもブリュンヒルデで全方位で攻撃していたのはランサーをマスターから離さないためにある。

 散々己の強さを自慢しておいてなんだが、実のところランサーの眼力で吹き飛ばされて実力差は理解しているのだ。
 あの眼力でさえブリュンヒルデに重傷を負わせるだろう。ならば本業の槍を使われれば、いや炎を纏ってさえいれば肉弾でもブリュンヒルデを殺し得るはずだ。
 故に常に距離を取ってマスターを巻き込む形で攻撃し、溜めの時間も攻撃に移る時間も与えないようにしていた。

 非力な少女を狙うこの戦術を卑怯と断ずる者などおるまい。
 元よりタタリにとってこの状況は御前試合でなく殺戮の一つにすぎない。
 ルールだの正々堂々だのそんな騎士道精神は持ち合わせていないし、鉄火場でそれを訴えるのは底なしの間抜けだろう。
 そして正道を弁えない戦術だからこそ有効である。
 相手は常にマスターを守らなければマスターが死ぬ。こちらは防戦一方のランサーを嬲り殺せばよいだけだ。

 しかし今、相手はマスターの守護を放棄した。
 もしかすると先にタタリを討つ自信があったのかもしれないが、ランサーが詰める前にマスターを肉片に変える方が圧倒的に早い。

「闇に飲ま(カッ)……」

 ツマラナイ。そう思いながら幕引きの一撃を放つ寸前、タタリは異変に気付いた。そう、無いのだ。ランサーの黄金の鎧が。
 鎧はどこに行ったのか、明晰な頭脳はその答えに一瞬で辿り着き、その様子を見たランサーが口を開く。

「お前は初めからマスターを巻き込む形で攻撃していたな。
 それは俺とマスターを離さないため、そして距離を取るためだろう」

 ────淡々と話すものだ。
 台詞を棒読みで話す新米の役者か、あるいは達観した識者が語るようではないか。

「その戦法が別に卑怯だとは思わない。そも、その場合はマスターを守れない俺に非がある。
 故に反省した。どうやら俺はある一点において慢心していたようだ」

 ────およそ慢心とは程遠い役者に見えたが。

「俺の父の鎧は無敵だとそう信じ切っていた。しかし、お前に無効化されてようやく気付いた。
 鎧は確かに何物をも弾く無敵の鎧だが、俺は無敵ではない。
 つまりお前は"鎧を切り剥がしたという俺の伝承を再現した"のだな?」

 カルナは思い出す。
 鎧の内側を切り刻まれた時、カルナが感じたのは苦痛よりも違和感だった。
 身を刻むその痛みになぜか懐かしさを感じたのだ。そして同時に機能不全に陥る黄金の鎧。
 いや、黄金の鎧自体は全く何も変わっていなかった。変わったのはカルナの方だ。

「魂とは高密度の魔力の塊であり、同時に霊子という情報媒体でできているらしい。
 固有結界"タタリ"を使う者は3名。うち2名は第五架空要素(エーテル)を使って、魂への強制介入(ハッキング)を行うのは2名だ。
 お前はそのどちらかなのだろう。英霊の魂を解析し、そこから情報を分析して再演したといったところか」

 霊子ハッキング。または魔術理論・擬似霊子(ムーンセル)とも呼ばれる魂への強制介入。
 エジプトのアトラス院にてとある魔術の家系が使う他者の魂から情報を複製する魔術。
 タタリの初代と三代目はその家系より生まれており、故に使えてもおかしくはないとランサーは判断したのだろう。

 そしてそれは間違いではない。この技術こそ"私"がアトラス最高の錬金術師であった証明である。
 さすがに英霊に擬似神経を仕込むことは───特にランサーの場合はあの黄金の鎧が邪魔なため───不可能である。
 しかし、現界したサーヴァントの血肉もまた、ハッキングに利用するエーテライトと同じ材質、すなわち第五架空要素で構築されているのだ。
 エーテライトから情報を読み取る要領である程度は解析できる。

「鎧は使えず、力は放てず、体は動けず。ああ、見事に嵌るところだった。だが────」

 ついにランサー槍が現界する。
 魔王ブリュンヒルデは一目で理解した。
 アレは掠るだけで己を滅するに足る。

「鎧の力は失われていない。マスターに渡せば何物をも弾く太陽の力を発揮する」

 故に鎧をマスターに渡し、ランサーは前に出たのだろう。
 相手マスターの様子を見る余裕は魔王ブリュンヒルデに無い。
 ランサーは加速し、突貫の勢いはそのまま、槍を突き出す。
 だが、まだだ。魔王ブリュンヒルデが素早く状況を理解したため先手を撃てる距離がある。

「魔王を讃えし漆黒のヴェール(ループ)!」

 漆黒の翼から羽根が次々と舞う。
 羽根の一枚一枚が鴉に。
 鴉が黒槍に。
 黒槍が槍衾に。
 ランサーの勢いはもはや止まれまい。故に串刺しになるのは確定事項であるとそう考えたところで。

「“梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)”」

 英雄は確定事項を書き換える────!
 あらかじめ力を溜めておいたランサーの眼力によって影の槍衾は粉々に破壊される。
 その様は叩きつけられた陶器か、破城槌に砕かれる城壁の如く無残かつ無慈悲であった。

 そしてランサーは止まらない。止められない。だからこその強者(つわもの)である。
 あわよくばランサーを滅ぼすという思い上がりはこの瞬間に消え失せた。

「─────キ」
「……」

 ブリュンヒルデは大鎌を振る。
 ランサーはより前へと槍を突き出す。
 おそらくランサーがブリュンヒルデを仕留めるだろう。
 しかし、鎧無き今。鎌によって重傷を受けることは必然である。というよりそれ以外の選択肢はランサーに無い。
 これで、しばらくは戦線復帰もままなるまい。



   *   *   *



205.名無しさんはアーカム市民
おいおい、特定人物を殺人鬼扱いとは正気の沙汰じゃねぇな

206.名無しさんはアーカム市民
そういえばHasttur(ハスッター)の呟きにノースサイド線の駅で神崎蘭子見かけたって
つソース [URL]



─────とある電子掲示板より



   *   *   *



「  キ  キ    キ  キキ    キ   キ
   キ         キ    キキ  キ  
 キ   キ   キ    キ  キ       」


 鎌を振るう腕から頭頂に至るまで大きく罅が入り────像がぼやける。
 それはタタリにとって決定的なダメージが入ったことを意味してる。



"サーヴァントと違うのは土地の親和性と知名度の高さが上限(カンスト)に至っていることだな"



 絶大な信憑性を拠り所に暴と虐を行う吸血鬼タタリ。裏を返せば少しでも信憑性が疑われた瞬間に、タタリという存在は意義を無くす。
 それが数人程度であれば大した問題ではないが、数百人規模で信じられなくなれば話は別だ。語源となった祟りとは少なければ百人に満たない村落程度で起きる呪術なのだから崩壊の度合いは絶大だろう。

「   キ   キ     」


 ましてや今回の聖杯戦争において、固有結界タタリと死徒ズェピア・エルトナム・オベローンは剥離している。
 故に「魔王ブリュンヒルデ」という固有結界が与えられた心象風景(かたち)は外部の影響に強く揺さぶられてしまう。

「キ      キキ     」

 電子掲示板の一言。たった数byteのそれでタタリが崩れた。
 もしも時代が古代であれば問題なかっただろう。迷信というものは根付くから迷信である。中世でも同じだ。近代であってもここまでの崩壊は起きまい。
 しかし現代、情報社会においてはそうもいかない。真偽定かならぬ情報が渦巻く坩堝の中で確定情報こそが最大の信用を得る。たとえ数多の伝聞と冒涜的な信仰渦巻くこのアーカムであってもだ。
 故にタタリの存在強度に罅が入った。崩壊はそれだけに留まらない。
 所詮、噂は噂。砂上の楼閣だと思い知らせるように、腐乱した死体が如く肉体が崩れだした。
 膂力は衰え、身体は硝子よりも脆くなる。

「ギ────!」

 そして遂にランサーの槍とタタリの鎌が交差する。
 槍は一撃で胴体を吹き飛ばす。
 鎌はランサーの脇下に触れた瞬間に砕け散る。
 無論、ランサーは傷一つ負わない。
 これにて決着。上半身だけなったタタリの首をすかさずランサーが掴んだ。

「キ。キキ。汝の勝利だ。我が祝福を受けるがいい」
「いいや、この勝利は我がマスターに捧げられるものだ。
 彼女の求心力(ひかり)がお前の虚飾(カゲ)を払った。俺はそこに槍を刺しただけにすぎん」

 首を掴むランサーの手元から炎が噴き出る。
 キキキと薄気味の悪い声は消えない。
 魔王ブリュンヒルデという殻は既に崩れ去っており雑音(なかみ)が回光反照の如くまだ囀る。

「最後に朗報だ『施しの英雄』。コレは私であって本体(ワタシ)ではない。
 君達の情報を知っているのはこの一幕(わたし)のみだ。
 本来、噂とは一人歩きするものだからね。キ、キキキ、キキキキキ────!」

 完全に灰と化し消失する。残ったのは2名と破壊の跡が残るコートのみ。
 三度の攻防、二分足らずの戦いであったが、蘭子達にとって初勝利であることに変わりはない。
 くるりとカルナは振り返り、汗だくの蘭子を見た。瞳を潤ませ、足は震えている。

「マスター、大丈夫か」
「だ、だ、大丈夫……です。だけど、少し……休ませて下さい」

 零れ出す涙は安堵のものか、それとも恐怖の名残か。
 震える足は友への見栄か、あるいは緊張の名残か。
 いずれにせよ、彼女は生き残り、理解した────これが聖杯戦争(ころしあい)だと。


 太陽は沈まず南中へと昇る。明けない夜は無く、東から西へ移るは天の道理である。
 しかし天界と人界とは未だ、鉛色の帳を隔てている。




【商業区域・スタジオビル裏/一日目 午前】

【神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力の消費による疲労、ストレスにより若干体調が優れない
[精神]大きなストレス(聖杯ルール、恐怖、流血目視、魔王ブリュンヒルでの登場によるショック)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生としては多め
[思考・状況]
基本行動方針:友に恥じぬ、自分でありたい
1.我と共に歩める「瞳」の持ち主との邂逅を望む。
2.我が友と魂の同調を高めん!
3.聖杯戦争は怖いです。

[備考]
  • タタリを脅威として認識しました。
  • 「日輪よ、具足となれ」はこの後に返還しました。

【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】
[状態]切り傷、擦り傷多数あり(次回には再生できている程度)
[精神]正常
[装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する。
1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。
2.今後の安全を鑑みれば、あの怪異を生むサーヴァントとマスターは放置できまい。
3.だが、どこにでも現れるのであれば尚更マスターより離れるわけにはいかない

[備考]
  • タタリを脅威として認識しました。
  • タタリの本体が三代目か初代のどちらかだと思っています。


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