《図書館》鷺沢文香&アーチャー◆q4eJ67HsvU




 ――飛ばしたページを読み返すように心と向き合えば、少しは自分を変えられる一歩を踏み出せそうで。



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 架空都市『アーカム』。

 ごくありふれたこの陰鬱な街を世界に唯一のものと成らしめているのが、『ミスカトニック大学』の存在である。
 この1797年に創立された総合大学の名は、40万冊以上に及ぶ蔵書を持つ大学図書館によって知られていた。
 その大図書館の一室、他に人影のない閲覧席の一角で、少女の囁くように小さな声が鈴の音のごとく響いた。

「黄金と白銀とを縫い込んだ、天空の帳を持っていたならば。
 昼と夜と黄昏の、青と薄墨と闇色をした、煌めく空の帳を持っていたならば。
 私はその帳をあなたの足元に広げるだろう――」

 無造作に伸ばした、それでいて美しい黒髪と、その隙間から覗く宝石めいた青い瞳が印象的な少女である。
 ゆったりとした、大人しいというよりも地味とすら言える服装で、ともすれば目にした者の印象に残らないほどか細い少女。
 しかしその内側には、前髪に隠れる瞳の美しさ同様、秘めたる輝きが確かにあった。

「――しかし貧しい私は、夢を見るしかなかった。夢をあなたの足元に。そっと踏んでほしい、私の大切な夢だから」

 鷺沢文香。このミスカトニック大学の文学部に通う大学生である。
 彼女は詩を読み終え、本のページを閉じると、小さく息を吐いてからそっと呟いた。

「……イェーツの詩ですか。おっしゃる通り、確かに良き書でした」

 そう言って文香が傍らに目を向けると、そこに立つ男はその仏頂面を変えるではなく、しかし何かに感じ入るように目を閉じた。
 黒ずくめの男である。その顔は整っていながらも鉄面皮そのもので、黒髪はオールバックに撫で付けられていた。
 何の感情も伺えないのにただ立っているだけで緊張感を周囲に与えるような、抜き放たれた銃のような男だった。

「……あ、あの……アーチャーさん」

 文香はおずおずと、絞り出すような声で、彼をサーヴァントとしてのクラス名で読んだ。
 自分は彼のマスターであり、彼が自分に危害を加えることは出来ない。その理屈は既に「知って」いたが、
 それとは別の問題として――文香は知り合って間もない、しかも男性と気軽にお喋り出来るような性格をしていなかった。

「何だ」

 短い返答を聞いただけで、条件反射で肩が跳ねる。
 それでも勇気を振り絞って答えることが出来たのは、彼女がこのアーカムに来るまでに積み重ねた努力の成果かもしれない。

「アーチャーさんにとって……この書は、大切なものなのですか。私に、一番に薦めるほどに」
「私ではない。パートリッジが読んでいた」
「……パートリッジさん、ですか」
「かつての同僚だ。私が殺した」

 殺した、という言葉の重みに今度は肩ではなく心臓が跳ねた。
 平和な日本に暮らしていた文香とは縁遠い……あまりにも縁遠い、暴力の響き。
 アーチャーの素性は既に知っている。この聖杯戦争が常識の埒外にあるものであることも、辛うじて受け入れている。
 それでも、人の死を容易く受け入れられるようには、鷺沢文香の心は出来ていない。

 男の名は、ジョン・プレストン。

 管理国家リブリアにおいて感情統制による均衡(Equilibrium)に対する叛逆(Rebellion)を成し遂げた英霊。
 二挺拳銃を用いた近接格闘術ガン=カタを極め、かつては優秀な特殊捜査官として文化と感情違反者を抹殺していた。
 しかし己の感情を取り戻した彼は、反逆者として社会へと立ち向かったのだという。

 人が過ちを犯さぬように、感情と感受性を抑制された社会。
 確かにその社会では世界大戦の芽は摘まれ、感情違反者を除けば犯罪行為は発生しなかったのだという。
 恐らくそのパートリッジという同僚というのは、詩集を所持していた罪により感情違反者としてプレストン自身の手で処刑されたのだろう。
 しかし、プレストンはその詩集を捨てられなかった。それが意味することは、つまり。

「……アーチャーさん。私は、本を愛する人に、悪い人はいないと思っています」

 プレストンが鋭い視線を向けた。しかし鋭くても、そこには殺意も敵意も篭っていないのが感じられた。
 大丈夫だ。言葉は届く。プレストンが感受性を持ち、詩の奥底にある心を汲み上げられる人ならば、文香の言葉はきっと届く。

「……私は、こう見えて、アイドルをしています。書物のように、人の心を動かすお仕事です」

 訥々と、詩を読む時のようなテンポで、文香は言葉を続ける。

「私は、自分のことを何の物語も生まない人間だと思っていました。何かを与える側になるとは、思いませんでした。
 ですが……私という書を、紐解いてくれた人がいるのです。日の当たらない書庫の奥から、私を見出してくれた人が……」

 鷺沢文香に、聖杯に懸ける望みなどはない。
 アーカムに辿り着くための扉を開いたのは、ただ事務所の鍵を開けたつもりだっただけだ。つまりは事故に他ならない。
 この「栞」の意匠を持つ『銀の鍵』も、いつ手に入れたのか記憶にすらない。
 だから文香に戦う理由はない。戦う意志もない。何も分からず他人を傷つけられる人間ではない。
 それでも、会いたい人がいる。戻りたい場所がある。

「……私は、あの人のところに帰りたい……私の物語を、このようなところで終章にはしたくないのです。
 まだ戦いの実感など、沸いていません。恐怖すら感じていないというのは……きっとそういうことでしょう。
 ですが、アーチャーさん……こんな私を、怯えることすら出来ない私を、どうかあの人のところに帰して……」

 鉄面皮のアーチャーに、絞り出すような声で懇願する。
 それだけが、ただひとつの切なる願い。生きて帰りたい、そんなつまらない願い。
 アーチャーは一切の表情を見せないまま聞いていたが、やがて口を開いた。

「最初に言っておく。この聖杯戦争は異常だ。英霊の持つ神秘が、予期しない働きをしている。
 何か裏があるのかもしれないが……いずれにせよ、それが法則ならそれに従って戦うしかない。
 あいにく、私は近代の英霊だ。神秘がものをいうのが此度の戦いならば、私は強力なサーヴァントではない」

 文香の表情に不安の色がよぎる。その感情の乱れをプレストンは続く言葉で遮った。

「――だが、ガン=カタを極めた者は無敵だ。信じろ」

 プレストンはそれ以上は語らなかった。文香もそれ以上の言葉を求めたりはしなかった。
 ただ、人には人の心を動かす力がある、そのことを、改めて噛み締めていた。

 図書館の片隅で、ガラスの靴が僅かに煌めいた。




【クラス】
アーチャー

【真名】
ジョン・プレストン @ リベリオン

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B+ 魔力E 幸運A 宝具E

【属性】
中立・中庸


【クラススキル】
単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。



【保有スキル】
ガン=カタ:A+
「ガン=カタ」とは、二挺拳銃を用いて行う近接格闘術である。
基礎の動きを修得するだけで攻撃効果は120%上昇、一撃必殺の技量は63%向上する。
ガン=カタを極めた者は無敵となる!

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
あらゆる状況を活用し圧倒的劣勢を脱してこその第一級クラリックである。

千里眼:D
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
プレストンの千里眼スキルは遠方視よりも動体視力や観察眼が主となっている。

革新:C
時代の変革者たる英傑に与えられる特殊スキル。古きに新しきを布く概念の変革。
神性スキルを持つ者、高い神秘を持つ者、体制の守護者たる英雄などに対して有利な補正を得られる。
反面、神秘の薄い近現代の英霊には無効どころか逆に自身のスキルおよび宝具のランク低下が生じる。
もっとも、プレストンの宝具にランクは元々存在しないのだが。



【宝具】
『均衡に死を(リベリオン)』
ランク:なし 種別:なし レンジ:1~20 最大捕捉:50人
拳銃近接格闘術ガン=カタ、その窮極。宝具に準ずるものとして扱われてはいるが、厳密には宝具ではなくプレストン個人の戦闘技術。
そのため宝具が本来持つはずの『物質化した奇跡』という性質が薄く、目にした者の本能的な畏れを喚起することはほぼ無い。

膨大な戦闘データの統計により、プレストンは相手の攻撃に対して常に有利な位置に立ち回りながら最小の攻撃で最大の戦果を得る。
さらに英霊となったプレストンのこの戦闘技術には、外なる神と隣り合う数多の並行世界の『統計』が反映されている。
そのためプレストンは例えば魔術のような生前一切無縁だった攻撃体系に対しても、統計学的な回避および反撃ができる。
本来ならばたかが二挺拳銃ごときでは立ち向かえないような敵との戦力差を覆し、齎すのは調和した運命への叛逆。



【weapon】
「クラリック・ガン」
特殊捜査官グラマトン・クラリック専用のマシンピストル。
普段は両袖の中に仕込んであり、戦闘時は専用器具により自動で手のひらへ移動する。
グリップ部には打撃用の突起がせり出すギミックが搭載されており、格闘戦も可能。

なおガン=カタとは統計学と武術の型の融合こそが真髄であり、究極的には武器が何であるかを問題としない。


【人物背景】
映画『リベリオン』の主人公。
感情抑制剤により戦争の原因となる感情が抹殺された未来の管理国家リブリア。
そのリブリアを支配するテトラ・グラマトン党の特殊執行官グラマトン・クラリックであった男。
二児の父であり、妻は既に感情違反者として火刑にされている。
優秀なクラリックであったプレストンは任務として多くの感情違反者を処刑してきたが、
同僚パートリッジの死、そして偶然感情抑制剤を注入せずに世界と向き合ったことにより、
己の心を揺り動かす存在を知り、自ら薬の使用を止めて社会への疑念を募らせていく。
しかしその感情違反により追われる身になった彼は、地下のレジスタンスと手を組み叛逆を決意。
リブリアを独裁する指導者ファーザーの元へと向かい、そこで真実を知ることとなる。

作中に登場するガン=カタ使いの中では事実上最強であり、無敵に近い戦闘力を誇る。
また戦闘時はポリグラフが直線になるほどに極度の平静状態に身を置くことが可能。
その一方でまだ感情が芽生えて間もないせいか咄嗟の嘘や機転が不得手であり、息子にすら上を行かれている。




【マスター】
鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
生還して、プロデューサーのもとに帰りたい。

【能力・技能】
アイドルであり、歌唱やダンスのレッスンを積んでいる。
また非常な読書家であり知識は豊富。

【人物背景】
アイドルマスターシンデレラガールズに登場するアイドルの一人。
文学部の学生で、常に読書に没頭しているほどの本好き。
その一方で人付き合いは苦手であり、相手と目を合わせて話すことすら当初は出来なかった。
自分は何の物語も生み出せないと考えていたが、プロデューサーに与えられたガラスの靴を履き、
少女は恐る恐る、しかし確実にシンデレラへの道を進み始める。

【方針】
元の世界へ戻るためのヒントを探したい。



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