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アーカム喰種 ◆Jnb5qDKD06


 聖杯戦争開幕。

 戦争と名を冠するが、参戦者は事前情報では26組。更に先日、亜門によって一組が退場したため25組になる。
 つまり最大50名。更にはバトルロワイヤル形式である以上、敵対する人数は更に減る。
 一組にとって戦う相手は多くて精々10~15組程度でしかないだろう。

 しかし、このアーカムの市民にとっては50組全員が脅威であることを亜門は知っている。

 英霊たちの戦いを見れば精神に異常をきたし、巻き込まれれば死は免れない。
 先日殺したキャスターのマスターに至ってはサーヴァントを肥やさせるための餌という認識しかしていなかった。
 そんな悪鬼天災が跋扈する地獄に立っているすら知らぬ、無辜の市民を見捨てることなど亜門鋼太朗に出来はしない。
 彼らを犠牲にしないためにも戦う場所と相手を知る必要があった。
 故にマスターとサーヴァントを探し出すことは必要であるのだが、誰が味方かわからない以上は自力で探すしかない。

 今日も亜門は朝の自主パトロールへ出る。

「今日も調査かい? 」

 傍で霊体化していたランサーが話しかける。
 中性的な容姿と騎士団長という肩書きから勘違いされやすいが彼女は女性である。
 真名はリーズバイフェ・ストリンドヴァリ。亜門と同じく人に仇なす異形種を狩る聖堂騎士。
 聖杯戦争ではマスターとサーヴァントという上下関係だが、亜門は使い魔ではなく同志として見ている。

「ああ、ここ最近になってロウワー・サウスサイドに精神異常者が大量に現れたところを見ると
聖杯戦争参加者の可能性が潜伏している可能性が高い。」
「うん、その可能性は十分に考えられる。それで何処を探すんだい?
 流石にあそこを全部探索するのは難しいんじゃないかな」

 ランサーの意見は尤もである。ロウワー・サウスサイド地区は広くない方なのだがスラムの路地裏は迷路なのだ。
 スラムの路地裏では前世紀から粗大ゴミや産業廃棄物を違法投棄する輩が後を絶たない。そのためゴミで道が塞がり迷路と化している。
 しかも毎日ホームレスがゴミを持ち出すため道が変わり、昨日の通れた場所が通れないということも珍しくない。

「被害者は特に人気のない路地裏で見つかっている」
「そう言えばそういっていたな」

 霊体化して会議の内容を聞いていたランサーは情報を整理する。

 ロウワー・サウスサイドの地形を利用して犯罪が毎日行われている。
 殺人、窃盗、誘拐、人身売買、違法薬物の取引、マフィアの会合や抗争など犯罪のバリエーションにはキリがなく、
そんな暗がりに潜む犯罪者達が次々と精神異常者へ成り変わっているのがスラムの現状だ。

 さらに異常なのはスラム街だけではない。
 電報、電話、夕刊ボストンイブニンググローブなどの新聞社に至るまで謎の介入・改竄を受け、ある内容に書き換えられているのだ。
 その内容が────

「〝ロウワー・サウスサイドの白髪の喰屍鬼〟か。マスター、恐らくこいつがサーヴァントだろう。
 しかし、自分の存在をわざわざ周囲に広めて何が狙いだ。『タタリ』じゃあるまいし」
「────」
「マスター?」
「──ッ。ああ、申し訳ない。ボーとしていた」
「君、しっかりしたまえ。
もう何処から狙われるかわからないんだぞ」

 ここ最近呆ける回数が多いのは亜門自身理解しているし、原因もほぼ把握していた。

 英霊達を従えてのバトルロワイヤル。
 奇しくもその開幕前にフレンチヒルにて集団衰弱事件を引き起こしていたマスターを殺した亜門だったが、それが必ずしも亜門のリードを意味するものでない。

(やはり……回数が減りつつあるが、あの戦いから呆けることが多かった)

 おそらく強烈な光景を見せられて頭のネジが弛んだからだろう。
 つまり今後も戦いを重ねるということは〝ああいったもの〟を見るということであり、すなわち精神崩壊のリスクを孕み続けるということを意味する。

 ならばアーカムの異変を見て見ぬふりをし、他のマスターから逃げ続けるのが正しいか────断じて違う。

 亜門鋼太朗の力は世界を正し、人々を救うために磨いた力だ。
 故に例え相手が喰種(グール)でなくても無辜の人々が異形に喰われることを見過ごせるはずもない。
 むしろ、この情報は早期に獲得できてよかっただろう。亜門鋼太朗の戦う理由ができたのだから。

 亜門がアーカム市内の地図を開くと今回の探索ルートが赤いインクで描かれていた。

「この街の地図だな」

 付箋を使って細かい情報を記しているのが実直な彼らしいとランサーは感想を抱くと探索ルートとは別に赤丸がいくつか描かれている。

「マスター。この○はなんだ?」
「これは恐らく聖杯戦争参加者が起こしただろう事件の場所だ。発狂者や死者が何名も出ている」
「そんな場所こそ探索すべきじゃないのか」
「スラムと違って野次馬や捜査官がまだ多い。犯人や他のマスターがいた場合、最悪そこで戦闘になる。そうすると」
「また大勢の市民が犠牲になるというわけか。
 ふふ。なんというか、君は本当にお人好しなんだな」
「愚かだと笑ってくれても構わないさ」
「いいや、そうじゃなくてね。君がマスターで本当によかったと思ったのさ」







【ソレデハ諸君、観測ヲ始メヨウ】



 金木研はロウワー・サウスサイドで男達に囲まれていた。

「お前が〝白髪の喰屍鬼〟か?」

 最近では金木は〝白髪の喰屍鬼〟という通り名がそこかしこに知られており、彼を見つけた人間は二通りの行動を取る。
 一つは逃亡や命乞いといった無害な行動だ。
 金や物を差し出す人もいるため、ある程度の金品は得たが、それ以外の凶器やらドラッグやらは必要なかった。
 そしてもう1つのパターンが現状。
 白髪の喰屍鬼を倒せば箔がつくと思ったり、金木の持つ違法物を狙ったりする連中がこうやって日常的に襲ってくるのだ。

「何とかいいやがれ!」

 いつまでも黙っている金木に男は怒り(あるいは怖れて)金木の眉間に拳銃の銃口を押し付ける。
 周りの男達もそれに続いた。

 はぁ、と溜め息しか出ない。
 名声が欲しければ他を当たって欲しいし、違法物が欲しければ勝手に持っていって構わない。
 なんとなく財宝を持っていたから襲われる神話の怪物達の気持ちがよく分かる。
 自分は、『あんていく』に戻らねばならないのだ。従って目の前の男達は────



「邪魔ですね」



 以降、男達の姿を見た者はいない。



 何処かで猫がニャアと鳴いた。





 真実を追い求め、彼を見張っていたシュバルツ・バルトは遂にその一端へ辿り着いたと確信する。

「見たかキャスター」
「ああ、見たともマスター」

 キャスターは確信する。

 あれこそが噂の発信源。
 あれこそが今回の舞台装置

 彼を主役にしたこの演劇はきっと────────喜劇だ。

 狂気の笑みを浮かべてシュバルツ・バルトとキャスターは

「開幕のベルを鳴らそう」
「腐った街の住人も邪神の走狗のマスターも、全員に真実と恐怖を思い知らせよう」

「演目名は──」
「見出しは──」


「「〝アーカム喰種〟(アーカム・グール)」」




「な、これはッ!」

 既にマスターとロウワー・サウスサイドに訪れていたランサーは〝覚えのある〟波動を感じ取った。
 忘れられるはずがない。かつて己を殺した魔業を忘れることは己の魂が許さない。

「固有結界『タタリ』……!」

 ランサーが敵の宝具の名前を言ったとほぼ同時に次なる異変は起こった。







「グァァァァェェェェエエエェェィィィ」


 金木研の前の空間がガラス窓を殴ったように割れた。
 そして割れた空間の奥から赫子のように赫黒い血泥がドロリと垂れてコロンブスの卵のように立ち、次には〝中身〟が蠢き始める。
 殻だった血泥が滴り落ちて浮き出るように現れたのは白いスーツを纏った太い腕だった。



「ガァァァァァァネェェェェェェ」



 ああ、そうだ。金木研はこれを知っている。
 忘れられるはずがない。頭で忘れようにも全身を巡る赫子がこれを記憶している。



「ガァァァァネェェェェギィィィィィィ」



 そう、忘れられるはずがないのだ。
 何故ならばこれは今の金木研を生み出した存在であり元凶。
 己の中の〝喰種〟という存在を喰らわねば倒せなかった最凶の敵。
 全ての血泥が落ちた時、金木研にとって最悪の悪夢が顕現した。



「カネキィィィィィ」



 十三区の悪鬼、金曜日の死神、半赫者、ジェイソン、そして『ヤモリ』。
 数多の名で呼ばれた〝白髪の喰種〟が再誕の産声を上げた。
 ───そして同時刻、亜門の方にもタタリが現れていた。



「コォォォォォォゾォォォォォォ!」



 ああ、そうだ。亜門鋼太朗はこれを知っている。
 忘れられるはずがない。頭で忘れようにも全身の細胞がこれを記憶している。
 そう、忘れられるはずがないのだ。
 何故ならば彼女は新米だった頃の亜門鋼太朗に襲いかかった最初の喰種。
 上司の真戸呉緒がいなければ死んでいてもおかしくなかった老喰種。
 全ての血泥が落ちた時、亜門鋼太朗にとっての最初の悪夢が顕現した。

「小僧ォォォォォォ!」
「アップルヘッド────村松キエ!!」

 アップルヘッドとコードネームで呼ばれた〝白髪の喰種〟が再誕の産声を上げた。

 同時刻、別の場所、別の相手に対して生まれたタタリは別の口から全く同じことを吐いた。


「「開幕直後より鮮血乱舞。烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す。
  廻セ……廻セ廻セ…………廻セ廻セ廻セェェェ!!」」

 狂気に満ちた台詞回しは明らかに第三者によるものだろう。
 そして言葉が意味するのは役者の死、即ち亜門達の滅殺宣言に他ならない。
 明後日の方向を見ていた村松キエの眼がグルリと回り、その赫い眼球を亜門に合わせる。

「久しぶりだねぇ小僧ォ。
 もう一人の捜査官(ハト)はいないのかい?」

 確かな殺意と悪性情報で塗り固まった噂が、『タタリ』の主の意志を乗せて駆動する。

「村松キエ! 貴様がこのロウワー・サウスサイドで人を殺している殺人鬼か!?」
「ん、ああ、確かに〝白髪の喰屍鬼〟はあたしだよ。お前らがそう噂する限りはそうあり続ける」
「ならば───」

 『クラ』を取り出して切っ先を村松キエへ向ける。

「また貴様を倒すまでだ!」
「ほざいたな小僧ガァァァァ!!」

 村松キエの臀部の衣服を突き破って現れる喰種の武装『赫子』。
 村松キエの赫子は亜門の記憶している彼女ものと同じく尻尾の形状をした『尾赫』と分類付けされるもの。
 亜門にとって見慣れたものであり、それを繰る彼女の実力も知っている。今の亜門にとって容易く倒せる相手だ。

「何を考えているか分かるぞ。お前、また私に勝てると思っているだろう」
「それがどうした!」

 過去の戦いで亜門はこの老婆に遅れを取った。
 しかし、それは村松が老婆の姿を利用した弱者の装いに躊躇したからであり、亜門鋼太朗が未熟だっただけのことだ。
 今は違う! 殺せるッ! 例えどんなに弱々しい仕草や憐れみを誘う命乞いをされても殺して見せるッッ!!!
 しかし、そんな亜門の覇気は村松キエに一切通じず。

「ク、ハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 狂笑と共にその赫子が爆発的に質量を増し、大蛇の如き巨大な尾赫へと成長した。

「なッ」

 ムカデと称されたSS級喰種に劣らぬ大量の赫子は無論、生前の村松キエには有り得ない。

「こちとら前よりピンピンじゃコラァ!!」

 圧倒的な質量と暴力を込めて奮われた尾赫は空間自体を軋ませながら刹那の間に亜門へ到達する。
 赫子───それは喰種の最強の武器であり同時に人間を裁断する調理器具。
 どんなに弱い喰種でも、例え幼い児童であっても大人三人の四肢をもぎ取るだけの力を宿す。
 しかもこれだけの大赫子。亜門を殺して余りあるだろう。

 しかし、その尾が亜門を砕くことはなかった。
 ランサーが聖なる盾を持って亜門の前に立ちはだかり、尾赫を防いだからだ。
 いや、防ぐどころか弾かれた尾赫が水風船のように弾けて赤い粘液が撒き散らされる。

「マスター、指示を」

 血腥い修羅場においてもランサーから発せられる戦意は清廉。まさに神の名の下に戦う殉教者の如し。
 攻撃を防いだ盾も金属音を響かせ続け、ガマリエル自体が武者震いしているようにも思えた。
 そして、防がれた方もまた、口角を吊り上げて喜悦を隠さない。

「そうか。お前か『盾の乙女』。その盾の加護と令呪のパスで小僧は正気を失っていないというわけか」
「お前こそ随分と余裕だな。もう夜が白み始めてきている以上、死徒であるお前の力は衰えていく一方だというのに」

 死徒。それは食屍鬼(グール)を経て霊長から逸脱した吸血種(ヴァンパイア)。
 一般的な吸血鬼のイメージ通り、彼らは日に弱い。
 つまり朝方に戦うなど自殺行為に等しいはずなのだが目の前の敵はそんなもの一顧だにしていない。

「本体はどこだ?」
「言ってやる義理は無いねぇ」

 コイツを潰しても所詮は影だ。本体である虚言の王まで届きはしない。
 つまり、村松キエとの戦いは魔力をするだけとなるが、かといって無視するわけにもいかなかった。
 コイツは己を生み出した者を皆殺しにする現象なのだ。放置すれば〝白髪の喰屍鬼〟を噂したアーカム市民全員が殺される。
 よって────

「ランサー。駆逐しろ」
「ああ、了解した」

 盾から銀色の杭──「滅び」の概念武装が牙を剥く。
 亜門はまだ知らないが、これはタタリ。死徒が生み出す吸血の夢だ。故にこの杭こそが死徒殺しに有効である。

 ああ、そうだ。リーズバイフェ・ストリンドヴァリはタタリを知っている。
 忘れられるはずがない。頭で忘れようにも英霊の座がこれを記憶している。
 そう、忘れられるはずがないのだ。
 何故ならばコレはリーズバイフェを殺した最期の敵。ヴェステル弦楯騎士団を鏖殺し、その血を啜った夜の支配者。
 己と、そして仲間の仇敵────!!!

「キキ、キキキ、キキキキキキキキキキキ」

 尾赫が、クラが、ガマリエルが、三様に振るわれる。

 事実だけを述べれば村松キエはランサーに太刀打ちできない。
 そしてランサーの装備は聖なる力を宿しているため、タタリに有効だ。

 しかし、亜門達はまだ理解していない。
 タタリで編まれた悪夢がどれほど悪辣なのかを。





 ヤモリが姿を顕して最初に感じたのは狂気だった。
 普通ならば何故生きているとかお前は死んだはずだとか思うだろう。
 もしくは神代リゼと同じ幻覚かと疑う。
 しかし、金木研がヤモリを認識した瞬間に迫る理解。

 あれは神秘だ。


 神秘。


 神秘、神秘。



 神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘────!


 固有結界『タタリ』という神秘を見て金木研の精神が悲鳴を上げる。
 しかし、同時刻にタタリと戦っている亜門とは別の理由で、この聖杯戦争で起き得る精神ダメージを受けず、すぐに持ち直す。

 理由は三つ。
 一つは固有結界がまだ完全発動ではないこと。
 二つ目は金木研をベースに顕現したタタリであるため彼自身に対しては神秘性が低いこと。
 そして三つ目は金木研とヤモリの相性。
 金木研はかつてヤモリを倒し、その赫包(赫子を生み出す臓器)を喰っている。その際にヤモリの自我が金木の中に混ざってしまったのだ。
 故に金木の精神の一部はヤモリであり、金木の赫子の一部はヤモリのものである。
 つまり双子のように存在が近いため神秘性がやはり薄い。
 例えば金木が自分のことを神のように崇めるナルシストならば神秘性は増しただろうが、彼にそんな思考回路はない。

 すぐさま持ち直し赫子を展開する。
 ヤモリは聖杯戦争の参加者だろうか────などと考える余裕すら与えられず奴が剛腕を振るう。

 挨拶代わりに振り下ろされた掌を金木は避けた。
 本能的に回避を選択した金木だったが、それが正解だったと知る。

「な!?」

 金木研の記憶に依る敵────ヤモリの強さは自分より弱い。
 何せ一度倒した相手だ。しかもその時より金木は強くなっている。
 だから勝てるだろうとタカを括っていたが、それが誤りだと認識した。

 今避けたのは赫子すら纏っていないただの拳だ。
 にも関わらず殴った石畳で舗装された路地に爆雷の如き轟音と半径ニメートルものクレーターを生み出した。

 何だコレは。どうなっている。
 喰種どころの話ではない。ヤモリの常識を逸脱した破壊力に戦慄が走る。

「どうしたんだいカネキ君。そんなに怯えることないよ」

 優越の笑みを浮かべて拳を握って再び振るうヤモリ。
 このままではまずいと金木は判断した瞬間────



「あ……」




 お腹に溜まっていた〝何か〟がきゅるりと広がって────




 百足の足音が…………した…………






 ロウワー・サウスサイドの鉄塔の頂上部。
 長年の老朽化と破壊の震動でいつ倒壊してもおかしくないその場所にシュバルツ・バルトはいた。
 彼はキャスターが用意した望遠レンズで金木研を見ていた。いや、金木研だけを見ていたというべきだろう。

「まだか、まだ現れぬのか」

 シュバルツ・バルトはかつてパラダイムシティと呼ばれた都市の真実を知っている。
 そして、このアーカムはパラダイムシティと同じような構造だ。用意された民衆、用意された舞台で役者を踊らせるママゴトでしかない。


 では、この都市の真実は何処にある?


 我々のメモリーを弄ったのは何者だ?


 いや、そもそも我々の記憶は正しいのか?


 答えを求め、手掛かり探した結果、ある存在を知る。
 その種は邪神。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが書いたアーカムを舞台とした邪神恐怖譚に登場する化物。
 人が作り出した神(デウス)。ラヴクラフトはそれを小説にして出版し、その後不自然な死を遂げている。

「これだ。これに違いない」

 邪神の手掛かりを求めて、その一端に辿り着いた。
 それこそがあの赫黒き原始的な恐怖をもたらす軟体生物の如き触腕である。



 金木は絶叫していた。
 言葉は既に乱脈を極めており、有体に言って気が触れている。

「1000ひく7ひく7ひく7ひく7はあああ?」

 だが同時にこれが喰種である金木研の全力であった。
 莫大な赫子を身に纏うように展開する『半赫者』の形態。
 正確には全力ではなく赫子の暴走だが強さのレベルは跳ね上がっている。

「生きるってのは他者を喰らう事…だから喰うんだよオ!!」

 金木研は赫子は鱗赫。再生力と一撃の重さが特徴であり、攻撃的な反面で脆い。
 一撃で再生不可能なレベルの傷を負わす相手とは相応のリスクが伴う。
 故に今回の金木研とヤモリの戦いは金木研が不利だった。
 如何なる理由か、圧倒的パワーを得たヤモリの手足は凶器で、更に赫子によって手数も増えている。
 にも関わらず────

「ペンチで五指捩じ切って、耳の中にムカデ入れて、喰い足りねぇよ雑魚が!!!」

 金木がヤモリを圧倒していた。
 縦横無尽に駆け回り、人間が視認すら不可能になった速度で全方位からヤモリの肉を削ぐ。
 要は当たらなければどうということはないのだ。桁外れの膂力もこれでは無価値である。
 無論、今の狂乱した金木にそんな戦略的思考などできはしないが。

「カネキィ!」

 ヤモリのスーツは引き裂かれ、タタリで受肉した体は噛み千切られている。
 それでもヤモリは拳を振り回し、赫子を広げて攻撃を続けていた。
 瓦礫を巻き上げ、ミキサーのように粉微塵にしていく二人の戦いは天災そのもので、周囲に甚大な被害をもたらす。
 近くにいた浮浪者や犯罪者はヤモリを見て発狂するか、巻き込まれて肉片へと変わり果てていた。
 賢い者ならば音だけで既に遠くへ避難しているだろうが愚者はそうはいかない。
 宙を舞う肉を喰らいながら金木とヤモリの戦いは更なる回転率を上げていく。

「いあいあいィィィィィアァァァァァ。僕の、私の、いいや俺のモンだ消えろ!!!」

 支離滅裂な言葉を吐いて赫子を振り回す金木は文字通り、狂乱した化物である。
 そんな彼を見てヤモリは侮蔑を投げ掛ける。

「弱いなぁカネキ君」

 今もなお一方的に攻撃されているヤモリが金木を弱者と嘲笑う。
 ヤモリは激情型でプライドも高い。これほど一方的にいたぶられて普通ならば平気であるはずがない。
 しかし、ヤモリは怒り狂っているわけでもなく極めて平常に近かった。
 ならば負け惜しみでいったのかと言うとそうでもない。単純に彼の無様を嗤ったのだ。

「何だその様は。俺を喰っといて喰われている? 滑稽だよ全く」

 そんなヤモリの嘲笑を理解できない金木は、遂にヤモリの心臓を捉えて鱗赫を振るった。
 そして狙い通りにヤモリの胸部を潰し鮮やかな血が噴き出てここに金木の勝利が決まる────はずだった。








「やっぱりお前、俺に喰われろ」








 低く、そしてドス黒い憤怒を混じらせた言葉と共に、金木の振るった鱗赫が引っ張られる。
 そして、赫子がヤモリの全身を覆い────────赫者が姿を顕した。

「ガァァァァァネエエェェェギイイイイイイィィィィィィィィィィ!!!」

 喰種の中でも最上位。SSS級の冠を戴く最強の怪物。それが赫者である。
 それらは同胞たる無数の喰種と共食いし、大量の赫包と一種の変異を伴って新生する存在だ。
 本来……金木にとっては生前のヤモリはそれの途上たる半赫者である。そして半赫者のまま金木に喰われた。
 だからヤモリが赫者に成れるはずがないのだが、大前提を忘れてはならない。

 これはタタリ。人の噂によって形を得た悪夢であり、その力も噂の質に左右される。
 今回で言えば〝人を喰い殺す白髪の喰屍鬼〟という暴力的な噂を再現すべくヤモリは強化されて顕れた。
 つけ加えてキャスターのスキル『吸血鬼』による上昇補正がまだ続いていることと此処が聖杯戦争と暗黒神話の舞台であることも関係している。
 つまり、なまじ強壮な連中や神話生物という強大な怪物を知っているNPCが多いため、彼らが想像する怪物のレベルが高いのだ。

「殺す殺す殺す殺してグチャクチャにして喰ってやる!!!」

 間欠泉のように抑え込んでいた呪詛を口から噴き上げながら赫子を纏って四回りも大きくなったヤモリの拳を振るわれる。
 無論、威力は先ほどとは段違い。そして鱗赫を引っ張られている金木は回避の術がない。

「あらあらあららららららああららら!!!」

 全ての鱗赫を防御へと回すが、しかし怒れる赫者の攻撃を防ぐことはできないだろう。
 その時────金木の腹の中でまた〝何か〟が動き、全身へと広がった。



「ガアアアアアアアアア」

 村松キエだったものの断末魔が響き渡る。
 勢いよく盾から飛び出したランサーの杭が村松キエの心臓を貫き飛ばした。その衝撃で宙に浮いた村松を亜門が追う。
 二刀に分けたクラのうち片方を地面に突き刺し、それを踏み台として跳んだ亜門はもう片方のクラで老婆の首を刎ね飛ばした。
 亜門達の勝利である────これがただの喰種との戦いならば。

「マスター! まだだ!!」

 ランサーの澄んだ声が耳朶を打つ。

(まだとはどういう意味だ?)

 他に敵がいるのかと残心する亜門だったが次の異常の前には無意味だった。

「鼠ヨ回セ! 秒針ヲ倒(サカシマ)ニ! 誕生ヲ倒ニ! 世界ヲ倒ニ!」

 もはや声帯すらないはずの村松キエの胴から男の声が出る。
 内容はまったく理解のできない言葉の羅列である。何を言っているか検討もつかない。
 しかし、亜門にとって完全に不意討ちで次の異常を止めることができない。

「廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェェェ!!」

 時計の針が巻き戻るように村松キエの傷口から血が、肉が、骨が湧いて人の頭部を象っていく。
 いや、それだけではない。皺だらけの体が瑞々しく、体格がボコボコという音と共に小柄に変容し、全く別の存在へと変わる。

「お前は……」

 変容後のそれは隻眼だけが赫い少女だった。白い服を纏う〝白髪の喰屍鬼〟だった。
 彼女もまた亜門の知る人物である。その少女の名は──────

「安久ナシロ! 君が……何故?」

 呆けて致命的な隙を晒し続ける亜門にナシロと呼ばれた少女の美脚が蹴りを放った。
 風切り音を伴うそれは人間の頭部を蹴り飛ばすどころか粉微塵にするものであり、亜門であっても常人と同じ運命を辿るだろう。
 亜門は未だ空中にいるため身動きできない。しかし、為す術がないわけではない。

「再帰!!」

 地面に刺したクラが亜門の持つクラへと引き寄せられ、ナシロの足へと勢いよくぶつかり蹴りを妨害する。

「マスター下がって!」

 亜門を守るように前に出るランサー。盾へ杭を戻し、〝宙に浮き続けている〟ナシロを警戒する。
 一方でふわりふわりと浮いて白い外套をはためかせながらその瞳は二人を見下していた。
 そして彼女の背中から鱗赫が、莫大な量の赫子が吹き荒れる。
 ああ、何の冗談だ、これは。まるで彼女が───

「亜門一等…………」

 彼女の鱗赫が震える。その様は噴火直前の火山を思わせて、巨大な一撃がくることを告げている。

「させない」

 ランサーが前に出た。先に潰すつもりなのだろう。
 ナシロは宙に浮いているとはいえ精々5メートル。サーヴァントならば一瞬で詰められる距離だ。
 いや、しかし、そんなことは。

「ランサー! 待ってくれ、彼女は!!」

 彼女は何だ亜門鋼太朗。
 あのナリを見ても人間だというつもりか。
 先ほど村松キエを前に誓ったお前の信念はどこへいった。

 言葉が出ない。
 口が震え、声帯が麻痺する──それは最近味わったばかりの”恐怖”という感情に由来する。
 『正式外典ガマリエル』の守護は確かに亜門にも働いているが、所詮お零れである。
 ランサーとの距離が離れたり、相手の神秘が強ければ途端、この聖杯戦争の正気度略奪に引っかかるのだ。
 つまり、村松キエから安久ナシロという格の高い存在に変わったことにより神秘性が上がったため、彼は今恐怖している。

 ランサーはそれを理解している──だから前に出た。
 キャスターもそれを理解している──だからこそ前に出した。
 だが、亜門だけが全く別の、現実を認めることに対する恐怖からだと思って理解していない。
 故に全く無自覚に《中度》の精神ダメージ、激しい混乱に陥って、呆然とナシロを見続ける。

 そして逆に、自分を見続ける亜門の瞳にナシロは──

「私を見るな!!!」

 大爆発した。ドラム缶並に太かった鱗赫がさらに増え、白面九尾の妖獣が如く九つに増えた大鱗赫が周囲を薙ぎ払う。

「マスター!」

 正気度を喪失している亜門を守るランサー。
 宝具『正式外典ガマリエル』は魔を弾く城塞。あらゆる魔性と不浄に有効な聖盾だ。
 赫子であろうがタタリで編まれている以上は魔性であることに違いなく、聖盾はナシロの攻撃を防ぎ切っていた。

 しかし、聖盾に守られなかった全てがこの世から消える。
 ナシロの攻撃は暴力のハリケーンそのものであり、轟音と共に周囲の建物を一気に破壊し尽くし更地に変える。
 一撃で建物が跡形もなく粉々に破壊されたのだから中にいた一般人の生死ことなど言うまでもないだろう。
 そうした惨状を目にしながら未だに亜門は目の前の光景を信じられなかった。

「安久ナシロ、なぜ君が!?」
「マスター! あれはタタリだ!! 本人じゃない!!!」

 村松キエの時と同じく赫子は弾けていたが再生が早いのが鱗赫の特徴である。
 ランサーは即座に再形成して振るわれた触腕の如き赫子の一本を防ぎ払う。
 ランサーの杭も盾も魔的な存在に対して抜群の相性を誇っている。事実盾には傷一つない。


「廻セ」


 しかし。


「廻セ廻セ廻セ」


 三本の鱗赫が迫る。
 それを弾くもランサーの肩が少し抉れた。
 そして────


「廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェ!」


 同時に五本の鱗赫がランサーを襲う。
 前後左右上方から迫る攻撃はランサーの処理限界を超えており、急所は全て守るも左足と右腕が潰される。
 致命傷を防いだだけでも彼女の防御技能は凄まじいと言えるのだが、そんな賛辞はこの場では何の役にも立ちはしない。
 着陸して止めを刺さんと飛び出したナシロの凶手を亜門が止める。

「安久ナシロ。お前はただの喰種か? お前があんなにも憎んでいた喰種なのか?」
「亜門一等」

 腕とクラとの鍔競り合いの中、無感動に亜門の名を呼んで、そしてこう告げた。

「人間なんて捨ててやったよ。歪んだ世界に興味はない」
「ただの喰種でいいんだな、お前は」

 亜門はアーカムに来る前、元の世界で彼女の姉である安久クロナを見た。
 左目に喰種の特徴である赫眼を彼女は持っていた。
 故にもしかしたら彼女(ナシロ)も──と思っていた。
 そして、その不安はタタリとなって今、目の前にいる。


「そうよ。だって────」
「そうか。ならば────」


 ナシロもまた亜門から赫眼を逸らさない。




「「世界を歪めているのは」」




 安久ナシロと亜門鋼太朗。二人の口から同じ言葉が交わされる




「「お前たちだ!!!」」




 鱗赫が、そしてクラが分離して振るわれる。
 居合の如く放たれた両者の攻撃は若干ナシロの方が早い。
 故に亜門の敗北か───否。彼は一人じゃない。

「マスター!」

 再起したランサーが盾で亜門を守る。〝今度こそ〟守りきる。
 そして、一人しかいないナシロに亜門のクラを防ぐ術はない。
 よって、対喰種用の武器「クインケ」は喰種を殺すという機能を十全に全うする。

「ぐ、は」

 これが決着。左鎖骨から右の脇腹まで両断されて今度こそタタリは原型を保てない。
 輪郭が崩れ、灰になるように散っていくナシロ。その最後に────



「かくて男は誇りを取り戻し、タタリに堕ちた少女を正す────ご満足いただけたかな?」



 第三者の言葉を吐いて少女は消えた。





[ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝]
【亜門鋼太朗@東京喰種】
[状態]疲労
[精神]一時的狂気(激しい混乱)
[令呪]残り3画
[装備]クラ(ウォッチャーによる神秘付与)
[道具]
警察バッチ、拳銃、事件の調査資料、警察の無線、ロザリオ
[所持金]500$とクレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:アーカム市民を守る
1.他のマスターとの把握
2.魂喰いしている主従の討伐
3.白髪の喰屍鬼の調査
[備考]
※調査資料1.ギャングの事務所襲撃事件に関する情報
※調査資料2.バネ足ジョップリンと名乗る人物による電波ジャック、および新聞記事の改竄事件に関する情報。
※神秘による発狂ルールを理解しました。
※魔術師ではないため近距離での念話しかできません。
※警察無線で事件が起きた場合、ある程度の情報をその場で得られます

【ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]健康(少々の魔力を消費)
[精神]正常
[装備]正式外典「ガマリエル」
[道具]なし
[所持金]無一文
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと同様
1.タタリを討伐する
2.キーパーの正体を探る
[備考]
※女性です。女性なんです。
※秘匿者のスキルによりMELTY BLOOD Actress Againの記憶が虫食い状態になっています(OPより)
※『固有結界タタリ』を認識しましたがサーヴァントに確信を持てません。



 ヤモリが放った一撃はベチャリと赫子と肉を四散させた。
 跳ねた血がヤモリの顔にかかる。
 ただし、それは金木の血ではなくヤモリの血であり、飛び散った肉片もヤモリのものだった。

「お、おお、おおおおおおお!!!」

 ヤモリの振るった拳は手首から先が消失していた。
 赫者でありタタリであるヤモリの攻撃は喰種の鱗赫程度で防げるはずがない。
 ならば一体何がと目を向けた先に答えがあった。

「イアいあイアいあるーすといあ!」

 金木のムカデのような赫子に銀色の筋が走っていた。
 さらには赫子とは明らかに異なる──異形の黒い硬質な触手が生えている。
 それらが集束して一本の太い、黒銀の赫子になる。

「にゃる・しゅたん。にゃる・がしゃんな。にゃる・しゅたん。にゃる・がしゃんな」

 凹凸のある赫黒銀のムカデはまるで……まるで銀色の鍵だ。

「カネキィテメェェェ!」

 ヤモリは知る由もないが、金木研はこのアーカムへ来る前にある物とある者を喰った。
 それは銀色の鍵と浅黒い男。

 一つは〈門〉を開き時間と空間を超越する〈境界〉の彼方へ向かう銀の鍵。
 今回の行き先はアーカム限定であったが、時空を超越していることに違いなく、故に銀の鍵と化した鱗赫はヤスリのように
触れたものを削っていつかのアーカムのどこかへ飛ばしてしまう。
 そしてもう一つの男は邪神の化身。その血肉を喰らい体内を巡った宇宙的神秘と恐怖は赫子となって見た者を狂わせる。
 つまり今の金木の赫子は触れたものの耐久力を無視して削る異形の何かだ。
 タタリであるヤモリはコレを発狂することはないが、あの赫子に触れるのはこの世から削がれることを意味する。
 今ここに、この聖杯戦争における象徴的な力が顕現した。

「あなた邪魔ですね。亜門さん死なないで。僕に喰わせろ。
 僕が僕が僕があああああいあいあいぐないいいィィィィィ」

 だが、そんな力は喰種といえど何の代償もなく使えるわけではない。なぜなら赫子とは喰種の血中を循環するRc細胞なのだ。
 〈門〉と邪神の混沌に引きずられて金木研も自壊し、喰種の能力で再生しても明らかに元とは異なる浅黒いものへと変わっていく。
 それらは元の肉体よりも強壮である。しかし、その代償に今度は意識が混沌へ溶けていく。

 何か、冒涜的な何か、理解してはいけない神話生物的な何かへの変異が始まったのだ。
 最早、金木の鼓膜を振るわすのは百足の音ではなく呪われたフルートの狂おしき音色と下劣な太鼓の連打に変わっていた。

「ガ~~ネ~~~ギィ~~~~」

 再生を終えた赫者の拳が迫る。
 それに鱗赫で対抗する金木。
 チェーンソーで削られる樹木のようにヤモリの拳が削られていくも、ヤモリの攻性は止まらず、蹴りが放たれる。
 鱗赫による防御が間に合わないと判断した金木は両腕を交差させ防御の構えを取る。
 しかし、そんなものは焼け石に水でしかなく、金木は両腕の骨肉と肋骨をいくつか粉砕されて蹴り飛ばされた。

 いくら金木が邪神の触手という最強の盾と矛を持とうと相手は赫者のタタリ。
 耐久力も再生速度半端ではなく、一撃が重いであるため次は掠ることすら許されないだろう。
 故に金木も一撃で決めなくてはならない。相手の攻撃を掠めることなく急所に赫子を叩き込む技能が求められている。

「ガネギィィィィィィィィィィィ!!!」

 夜の帳が曙光によって裂かれる中、二人は最後の衝突を行う。
 それは悍ましく、勇ましく、恐ろしい化け物同士の決着。
 それを傍観する狂人は喜悦を浮かべていた。




「おお、これだ。これこそが真実へ至る手掛かりだ」

 あの鍵と黒い触手こそ邪神の実在を証明する。
 明らかに世界法則を逸脱しつつあるアレはこの聖杯戦争の主催者にとって見過ごせないものとなるだろう。

【ゴ満足イタダイタ?】

 声のした方向、シュバルツ・バルトの足下に無線を括り付けた可愛らしい猫がいた。
 その無線から流れる声は本来、マスターの正気を奪う神秘性を宿しているはずだが、狂人たる彼に正気を疑うなど無意味である。

【うおおおヤベェ、マジヤベェ】
【さっき新聞社にコイツの言ってみた】
【意味が理解不能な上に俺らの声で発狂しちまったさ】
【え? 何? 私達ってもしかして殺人犯?】
【アーカムでんなモン振り回すな住んでる俺には迷惑だっつーの】
【包帯男……実在したんた】
【コイツサーヴァントじゃね?】
【お前の仕業か】
【早く止めろ。アーカムが壊れる】
【このアーカムを壊すのが目的なんですか?】

 支離滅裂というより大勢が好き勝手に話すせいで会話らしい会話になっていないため最後の質問だけに答えることにした。

「私は真実の探求者だ。それを知りそれを知らしめる。
 この即興劇の第四の壁の向こうを明らかにする演者にして批評家だ」

 邪神の実在。この箱庭の世界を揺らす神。その存在を思い知らしめるためにここにいる。

【何言ってんだコイツ】
【邪神ねぇ。ミスカトニック大学の本でそんなの見たけど本当にいるのか】
【邪神ってアレだろ? ルシファーとかサタンとか】
【それ悪魔やん。邪神って言ったらマーラ様やで】
【まぁとにかく何か言いたいことあるなら言ってみなよ聞いてあげるし、ばらまいてあげる】
【おいおい、『バネ足ジョップリン』は不干渉だろ】
【その通り。私たちは】
【傍観者】【観測者】【だから何もしない】


 馬鹿め、馬鹿め、馬鹿め。

 アレを見てまだわからないのか?

 ならば演者として踊らされているがいい。

 乱雑な会話を続ける無線猫を置き去り、シュバルツ・バルトは鉄塔から降りる。
 既に金木とタタリの戦いは終わっていた。もはやこの場に用はない。

「見ているがいい観客(じゃしん)共! 貴様らの存在の一切を暴き立てて流布してやる!!」

 白みがかった曙光の空を睨んでマイクル・ゼーバッハと呼ばれた包帯男が叫ぶ。
 何処かから嘲笑う声がした。





【ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝】
【シュバルツ・バルト@THEビッグオー 】
[状態]健康
[精神]狂人(正気度判定を必要としないが、いつでも物語の表舞台から姿を消す可能性がある)
[令呪]残り3画
[装備]ガソリンを染み込ませた包帯
[道具]望遠レンズ付きカメラ(キャスターの道具作成によるもの)、ライター、替えの包帯
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:真実暴露
1.金木研をモデルに邪神の情報を流布し、邪神の存在を知らしめる。
[備考]
※金木研の中にある邪神の触手を視認しました。
※ウォッチャーの存在を認識しました。
※この世界の仕組みを大体知っています(登場話より)
※ラヴクラフト小説を読んだためEランク相当の「神話技能」スキルがあります

【キャスター(ワラキアの夜)@MeltyBlood】
[状態]健康(戦闘分の魔力を消費)
[精神]Bランク相当の精神汚染
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一文無し
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の筋書きを書いた者を探し出し、批評を叩きつける
1.タタリの範囲を広め、よりイレギュラーを生み出す乱数を作り出す。
2.いっそのこと『邪神』をタタリで出すのも面白い
[備考]
※固有結界タタリより以下のかたちを取ることができます。
(〝白髪の喰屍鬼〟、〝包帯男〟)
※亜門鋼太朗&リーズバイフェ・ストリンドヴァリを認識しました。
※金木研を認識しました。
※スキル「吸血鬼」より太陽が昇っている間はステータスが下がります。(タタリのステータスも下がります)




「彼アイヌ、眉毛かがやき、白き髯胸にかき垂り、家屋の外に萱畳敷き……」

 金木研は路地のマンホールから悪臭漂う下水道へと逃げていた。
 あれだけ暴れたのだから今頃大騒ぎだろう。大量の屍が晒されている中、一人ポツリと立っていれば連続殺人犯の扱いを受けてしまう。

「さやさやと敷き、厳かしきアツシシ、マキリ持ち……」

 それに傷は塞がっているがヤモリとの戦闘で疲労困憊である。
 他のマスターに見つかるわけにはいかなかった。



 金木とヤモリの最後の一撃は互いに頭を狙っていた。
 結局のところ金木研は触手を出したことによる《重度》の精神ダメージより気が触れていたため、
相手の攻撃を躱すという思考回路まで至らなかったのだ。
 よって相討ちとなるはずだったが、ここでタタリにとってのタイムリミットが発生する。

「グ、オ、オオオオォォォォ!!!」

 吸血鬼の弱点である朝の陽射しが彼ら二人を照らしたことでヤモリの赫子は一気に崩壊を迎える。
 生と死を分かつこの最終局面で僅かにでも天秤が傾けば勝てるはずもなく、ヤモリの攻撃は逸れて当たらず、金木の攻撃は的確に頭を潰した。
 赫者はそのまま引き千切られ、バラ撒かれ、踏み躙られ、タタリかタタリの犠牲者なのかすらわからない無残な姿となって霧散したようだ。
 ようだ、と表現するのは金木が正気の状態でなかったから。

(僕は一体、どうしてしまったんだ)

 赫者となったヤモリの戦いでは終始フルートと太鼓の音と人間の枠を超えた声域で話す暗黒の男の声を聞いていた。
 そして今も────


「怖がることないさ。友達になろうよ金木君」


 やめろ。入ってくるな。


「私は君の味方さ」


 お前は誰だ。


「私は暗黒の男で這■寄■■■だよ」


 知るか。知らない。知ってたまるか。


「ならば『白秋』を詠って正気に戻るといい。
 私はいつでもここにいる。
 ずっと君の腹の中で君を見ているよ」


「………………マキリ持ち、研ぎ、あぐらゐ」


「…………ふかぶかとその眼凝れり」


「……」



【オヤオヤイツノ間ニカ場所取ラレチャッテルネ】
【ああ、君か。今後ともよろしく】
【アア、ヨロシク。アナタモバネ足ジョップリンノ誰カナノカ?】
【そうだな。そういうことでいいだろう】
【ソノ返事ハドウイウ意味? アナタハモシカシテ邪神?】
【そうもあるだろうし、そうでないこともあるだろう。どうだってよいではないか。
 君達をどうこうするつもりは無いし、君達にどうこうされるつもりもない】
【OK。オ互イ不干渉トイウコトダネ。一緒ニ神話ヲ作リマショウ】



【ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝】
【金木研@東京喰種】
[状態]疲労(神話生物化1回)
[精神]思考停止中(《重度》の狂気から戻る途中)
[令呪]残り3画
[装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)
[道具]違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中)
[所持金]100$程度
[思考・状況]
基本行動方針:あんていくに行かないと
1.どこかで休まないと
[備考]
※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。
※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。
※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。
※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。
※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。

【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】
[状態]観測中
[精神]多数
[装備]不要
[道具]不要
[所持金]不要
[思考・状況]
基本行動方針:金木研の神話を作る
1.【猫じゃ流石に限度があるね】【カメラのある場所探そうぜ】
[備考]
※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません)
※暗黒の男を認識しました
※包帯男の都市伝説を広めています。


※暗黒の男はナイ神父同様に正体がアレですが、別口です。
 どんなキャラかはナイ神父同様に書き手に委ねます。



 秘匿者(キーパー)のサーヴァントことシオン・エルトナム・アトラシアはエーテルライトによってスラムの顛末を狂人と化したNPCの脳髄から読み取った。
 並列思考と■■霊子■算■ヘル■スによる計算、そしてキーパーとして知っている各主従の人格と能力から何が起きたかを完璧にシュミレートする。

「これは許容できない」

 キーパーは機械的に、理論的に、そして自動的に判断を下す。

 『秘匿者』の役割は聖杯戦争と邪神の隠蔽だ。
 あのシュバルツ・バルトというマスターはそれを故意に破ろうとしている。
 厳重注意、いやこれ以上の暴露を防ぐために強制退場させるべきか。
 いずれにせよ直接会うより他にあるまい。

「再演算停止」

 キーパーが立ち上がる。
 彼女の背後にはチクタク、チクタクと尋常ならざるリズムで時を刻む棺型の大時計と────巨大な鋼鉄の何かがいた。



【???/1日目 早朝】
【キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア?)@MELTY BLOOD actress again】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]エーテルライト、永劫刻む霊長の碑
[道具]エーテルライト
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の完遂と邪神の隠蔽
1.シュバルツ・バルト&キャスターペアの裁定
[備考]
※ある程度の情報があれば何が起きたかシュミレートできます
※シュバルツ・バルトを裁定しに行きます。


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金木研&ウォッチャー(バネ足ジョップリン 005:アーカム喰種[日々]
シュバルツ・バルト&キャスター(ワラキアの夜 013:The Keeper of Arcane Lore
キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア? :