五十雀吟遊録



  學校の先生は えらいもんぢやさうな えらいから なんでも教へるさうな
 教へりや 生徒は無邪氣なもので それもさうかと 思ふげな
 ハハ ノンキだね

 声を嗄(か)らして僅か三割 電力節約するのなら
 ついで二ヶ月三ヶ月 防空演習をやればよい

 銃後を守るこの非常時に 次から次へと火事騒ぎ 
 どうしたわけかと尋ねたら 消炭(けしずみ)が欲しい といいました

 凡(すべ)て内密で取引きするのが 闇取引きでご座います
 帝国議会の闇取引きは 秘密会議と申します
 
 むかし郭(くるわ)で 一番稼ぐのは オショク女郎といいました
 いまは官吏で一番稼ぐのを 汚職官吏と申します

 洋食食って英語を しゃべるが文化人 ならばぁ
 アメリカの九官鳥は 文化人かいなぁ

 生存競争の 八街(やちまた)走る 電車の隅ッコに生酔い一人
 ゆらりゆらりと 酒のむ夢が さめりや終點で 逆戻り

 成金といふ火事ドロの 幻燈など見せて 貧民學校の 先生が
 正直に働きや みなこの通り 成功するんだと 教へてる

 貧乏でこそあれ 日本人はえらい それに第一 辛抱強い
 天井知らずに 物価はあがつても 湯なり粥なり すゝつて生きてゐる

 洋服着よが靴をはこうが 學問があろが 金がなきや やっぱり貧乏だ
 貧乏だ貧乏だ その貧乏が 貧乏でもないよな 顏をする

 貴婦人あつかましくも お花を召せと 路傍でお花の おし賈(売)りなさる
 おメデタ連はニコニコ者で お求めなさる 金持や 自動車で知らん顔

 お花賈る貴婦人は おナサケ深うて 貧乏人を救ふのが お好きなら
 河原乞食も お好きぢやさうな ほんに結構な お道樂

 萬物の靈長が マッチ箱見たよな ケチな巣に住んでゐる 威張つてる
 暴風雨(あらし)にブッとばされても 海嘯(つなみ)をくらつても
 「天災ぢや仕方がないさ」で すましてる

 南京米をくらつて 南京虫にくはれ 豚小屋みたいな 家に住み
 選挙權さへ 持たないくせに 日本の國民だと 威張つてる

 機械でドヤして 血肉をしぼり 五厘の「こうやく」 はる温情主義
 そのまた「こうやく」を 漢字で書いて 「澁澤論語」と 讀ますげな

 うんとしぼり取つて 泣かせておいて 目藥ほど出すのを 慈善と申すげな
 なるほど慈善家は 慈善をするが あとは見ぬふり 知らぬふり

 我々は貧乏でも とにかく結構だよ 日本にお金の 殖えたのは
 さうだ!まつたくだ!と 文なし共の 話がロハ臺(台)で モテてゐる

 二本ある腕は 一本しかないが キンシクンショが 胸にある
 名譽だ名譽だ 日本一だ 桃から生れた 桃太郎だ

 議員へんなもの 二千圓(円)もらふて 昼は日比谷で たゞガヤガヤと
 わけのわからぬ 寢言をならべ 夜はコソコソ 烏森

 膨脹する膨脹する 國力が膨脹する 資本家の横暴が 膨脹する
 おれの嬶(かゝ)ァのお腹が 膨脹する いよいよ貧乏が 膨脹する

最終更新:2006年01月31日 04:43
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