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メーデー ◆qB2O9LoFeA






『■■■■、■■■■、■■■‥‥』


 耳障りな雑音が響く。


『■ー■ー、■ー■ー、■ー■ー‥‥』


 ノイズ混じりの音声通信。それが衛宮切嗣の意識を覚醒させた。


『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』


(ここはいったい‥‥)

 まだはっきりしない頭で周囲を見渡そうとする。だが、動かない。首が何かに固定されているのだ。よく神経を張れば、椅子に座らされて両手両足が拘束され、胴体には圧迫感がある。そして妙な浮遊感。

(落ちている、のか‥‥?)

 微かな揺れとシートベルトのような胸部と腹部の感覚からそう判断する。やがて、ごく小さい音と衝撃とともにそれらの感覚と拘束が無くなった。

「うっ‥‥!」

 慎重に立ち上がろうとしたものの、立ちくらみのような頭痛に襲われ再び席に着いた。と、同時に首にだけ違和感があることに気づく。どういうわけか、首の戒めだけ首輪という形で体から離れないようだ。強引に引っ張ると『ミシり』と音がしたのでひとまずそれ以上手を出さないことにした。


『‥‥デー、メーデー、メー‥‥』


 どうやら、自分は球状の小部屋のようなものにいるらしい。切嗣はおそるおそる手を伸ばしてそう判断すると自分の足元になにかあることに気がついた。
 大きさと形からしてデイパックだろうか。手探りでジッパーを開けると僅かに光点が見える。電子的なその光から通信機器の類いのものだと判断すると、その板のようなそれを取り出した。


『メーデー、メーデー、メーデー、こちらは防災試験センター、 防災試験センター、防災試験センター。 メーデー、防災試験センター。位置 は■■島。島全土が放射性物質に汚染されていてセンターから出られない。電子回路も破壊されている。すぐに救助を。センターには現在1名。メーデー、防災試験センター。オーバー。』


 デイパックから取り出したことでいくらか音声がクリアになる。どうやら声の主は若い女のようだ。切嗣は、その内容をいぶかしんだ。

 パアッと、突然板が青白い光を発する。驚ろきと眩しさで取り落としかけるのを堪えると、その板、いわゆるタブレットにはワープロのようなものが表示されていた。


『メーデー、メーデー、メーデー、こちらは防災試験センター、 防災試験センター、防災試験センター。 メーデー、防災試験センター。位置 は■■島。島全土が放射性物質に汚染されていてセンターから出られない。電子回路も破壊されている。すぐに救助を。センターには現在1名。メーデー、防災試験センター。オー バー』


「音声を文字として出力するのか‥‥」
 呟きながら、文字に目を通す。まだはっきりしない頭には、早口な通信よりも文字で起こされたほうがありがたかった。もっとも、すぐにその内容に困惑することになるのだが。

(放射性物質に汚染?電子回路が使えない?核でも落ちたのか?)

 そこに書かれた通信内容が、あまりにも切嗣の人生とは無縁のものだったからだ。
 確かに、一部の紛争地帯では劣化ウラン弾などの広義の意味での核兵器が使われることはある。だが、通信はまるで核戦争でも起きたかのようなことを言っている。これらは切嗣の知らない謎の機械と相まって次々と疑問符を生んでいた。

(通信に答えるか‥‥いや、迂闊な行動はよそう。それに、この機械にはマイクらしきものがない。)
『ん?!生存者がいるのか!返事をしてくれ!もっとはっきりゆっくり!』
(!バレたか?)

 切嗣は思わず身を固くする。

『‥‥駄目か‥‥やはり、この放射線では通信は無理か‥‥いや、一応言っておく。もしかしたら、ラジオかなにかで聞いてる者がいるかもしないからな。』

 どうやらバレたわけではないらしい。安堵のため息を吐いた切嗣をよそに、通信は続く。

『こちらは、防災試験センター。現在この島は非常に高い放射線の影響下にある。そのため、通信ができるのはアンテナから1kmの範囲内でしかない。』

『この通信が聞こえるということは、首輪が起動している生存者だろう。現在こちらでは、約60の首輪の起動を確認している。その首輪は、生きている者が着けると特殊な力場によりある程度の放射線に耐えられるようになっている。』

『もっとも、その機能はアンテナから1km以内でないと使えないようだ。アンテナから発信されるエネルギーをそれ以上は受信できないようだな。くれぐれもその首輪を外さないでくれ。その首輪が機能しなくなれば、一時間と経たずに放射性障害で死ぬだろう。』

『今その首輪のエネルギーは、全員できっかり24時間分ある。今日の2350から、防災試験センターのゲートを開けるのでその間に入ってくれ。ただ、2350までセンターの周囲1kmに入らないでくれ。センターのアンテナは島の各部のアンテナにエネルギーを供給している。出力が通常のものより強いので、首輪が耐えられずに爆発する可能性があるようだ。気をつけてくれ。』

『それと、島の各所にあるアンテナには核爆弾が仕掛けられているようだ。起爆と同時に中性子を発する。範囲は1kmと狭いが、首輪では防ぎきれないうえに首輪そのものを破壊してしまう。なにかのひょうしに暴発させてしまう可能性もあるので、なるべくアンテナには近づかないようにしてくれ。』

『核爆弾の起爆の順番と時間は■■■■■、また通信が‥‥また六時間後に■■■■■。詳細は、回線から島の電子機器に送っておく。地図なども添付するので参考にしてくれ。それと機器には名前をつけておいてもらえると助かる。■■■■■■■■■■■■いいな、2350に島の中央の防災試験センターに来てくれ。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■』


 耳障りなノイズと画面の文字化けを残して通信は途絶えた。その内容を吟味しようとして、切嗣はまた眩しさに目をとられる。ゆっくりと四角い光が拡がっていき、それが飛行機のハッチのようなものだとわかると外を伺う。

(‥‥どうやら、そうとう面倒なことになったみたいだね。)


 それは虫だった。
 一匹や二匹ではない。何匹かの虫がひっくり反っていた。

 離れたところ見る。一羽のカラスが落ちている。少し離れたところだが、外傷はないように見えた。

 後ろを振り返る。自分が入っていたのは無骨な金属製の球体だったようだ。さきほどデイパックのようだと思ったものは予想どうりデイパックだったが、オレンジ色に反射材の持ち手なのを見ると非常用の物なのだろう。中には非常食や水やメタルマッチなどに方位磁針などが入っていた。それと内容物のリストもあったが、なぜかいくつかリストに無いものもある。そのことに違和感を覚えていると。手が振動を感じた。

(バイブレーション機能か。)

 手に持っていた板、タブレットを見る。画面を何気なく触ると、ワープロ画面は消え、いくつかのアイコンのある画面が出てきた。そのうちの『New!』とあるアイコンをタッチすると地図などが記されたpdfファイルが開かれた。

(なるほど、島の端から起爆していくのか。しかし、なぜこんな情報が載ってるんだ。それに、この板じたいも随分と先進的だ。)

 扱い方に困りながらページをなんとかめくっていく。その手が一つのページで止まった。

(この仕様を見ると、複数首輪を着けても一つしか首輪は作動しないのか。まて、作動していない方の首輪は、エネルギーを溜めておける?。これだと、24時間が過ぎたときに生き残るためには‥‥)



 アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ‥‥

 どこからかサイレンが鳴り響く。タブレットの隅には『00:00』と表示されていた。

「━━まずは、この球をもう一度確認しよう。」
 切嗣はタブレットをデイパックにしまうと球体の内側をあらためる。



 生けるものは約60名。死地と化した孤島で、誰も『殺し合え』などとは言わない。
 それでも、戦いを広めようという悪意は既に動き出した。

 そして、その悪意は。

「‥‥な、なぜ‥‥」

 防災試験センター。核攻撃にも耐えられる巨大なその建物の一室で、一人の少女がコンソールに突っ伏している。
 目や鼻や口から血を吐きながら、必死に手を伸ばし。

「‥‥これも‥‥なにか考えが、あっての‥‥そうか!私がこの役目になったのは‥‥」

 誰に看取られることもなく、悲しみと絶望で凝り固まった鬼の形相で、その少女は息することをやめた。


 コンソールだけが、目に悪い光で彼女を照らしていた。



【???@???????? 死亡】

【主催、後援】
不明。



※首輪が外れる、首輪が機能しなくなる、首輪にエネルギーを送るアンテナがなんらかの事情で働かなくなるとあらゆる生物は一時間以内に放射性障害で死亡します。また電子機器も高い放射線により確実に破壊されます。
※2Lの水と三食分の非常食、メタルマッチ、方位磁針、タブレット、ホイッスル、左記の共通支給品が書かれたリスト、デイパック内に入る範囲のランダム支給品1~3が入っています。共通支給品だけで最低でもデイパックは4kgあります。またデイパックの推奨される耐荷重は12kgです。
※タブレットには島の詳細な地図やその他の情報、また核爆弾の起爆時間などがpdfとしてまとめられています。核爆弾は1時間に一発ずつ起爆します。
※会場内のものは防災試験センターなどの地下にあるもの以外全て放射線による汚染を受けています。
※放射線の影響であらゆるものが著しい減衰を受けます。
※放射線の影響で無線は1km以上通じません。
※首輪が放射線の影響を押さえられるのは首輪の半径3m以内です。


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