「向日葵の手紙」(2006/02/05 (日) 20:53:12) の最新版変更点
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<p>向日葵の手紙</p>
<p>雛苺が、死んだ。<br>
初めは信じれなかった。<br>
「うそでしょう?」<br>
何度も聞きなおした。それこそ、壊れたラジカセみたいに。<br>
だが、返ってくる答えは<br>
「事実なんです」<br>
これも、まるで録音された台詞のように繰り返された。<br>
あんなに元気だった雛苺。いつも笑顔で、皆の人気者、元気の素だった雛苺。それが急にいなくなった。<br>
交通事故に巻き込まれたのだ。酒に酔ったドライバーが、道を歩いていた雛苺に一直線に突っ込んだ。<br>
事故現場には、ブレーキ痕がなかったらしい。恐らく、ものすごいスピードではねられたのだろう。<br>
殆ど即死の状態に近かったのではないか、医者はそう言っていた。もしそれが本当なら、苦しんでいなかったのなら<br>
せめてもの救いだろう。<br>
それでも納得いかない。<br>
何であんないい子が死ななきゃならないの?<br>
誰に聞いても、ただ俯いて押し黙るだけだった。</p>
<p>広いお寺。お堂の中に黒い服を着た人が多くいる。<br>
皆一様に押し黙っている。いや、泣いている人のほうが多い。<br>
そのお堂の中心に菊の花が多く敷き詰められた祭壇の真ん中に、周りの状況とはまるで似合わない、向日葵のような<br>
笑顔をした少女の写真がある。<br>
だが、彼女はもう2度と笑うことは無い。動くことも、喋ることもない。<br>
今日は、その彼女とのお別れの日。彼女の体は、空へと還るのだ。<br>
そして、彼女を失った人たちがまた新たに歩み始めるための、決別の日。<br>
いい加減、現実を受け止めなければならない。彼女のためにも、皆のためにも。</p>
<p>プワァァァァン…<br>
仏壇を象った様な車が、クラクションを鳴らす。<br>
これから、空へ帰るための場所へ彼女を運んで行くのだ。<br>
自分の左隣にいる翠星石はずっと泣きっぱなしだった。金糸雀もだ。蒼星石は、そんな2人の背中を無言でたたいている。<br>
そんな蒼星石も泣く寸前のように見える。薔薇水晶はずっと黙ったままだ。<br>
ジュンもずっと黙ったままだ。ただ、目が腫れているのを見ると恐らくずっと泣いていたのだろう。<br>
「ねぇ、真紅…」<br>
右隣にいた水銀燈が呟いた。<br>
銀「ねぇ、真紅…。何で雛苺が死なないといけないの?」<br>
彼女は肩を震わせながらそう言った。<br>
銀「何で?ねぇ、何でよ!?」<br>
そう言うと水銀燈は真紅の肩をつかんだ。<br>
銀「何で…。ねぇ…。」<br>
そう言うと、ついに水銀燈はヒックヒックと泣き始めてしまった。<br>
それを見て真紅は水銀燈を優しく抱き寄せる。<br>
紅「そうね…。雛苺が死ぬのはおかしいわ。でも、いくら叫んでも雛苺は還ってこないの」<br>
諭すように言う真紅。<br>
銀「真紅…、真紅ぅーーー!!!」<br>
真紅に抱きつき、大声で泣き始めた水銀燈。真紅は泣くのを堪えた。<br>
ここで泣くと立ち直れなくなる。そう直感的に思った。<br>
泣く代わりに、真紅は水銀燈の背中を優しく撫でた。</p>
<p>葬儀から2週間が過ぎた。<br>
いつもと変わらない町並み。いつもと変わらない校舎。いつもと少しだけ違う教室。<br>
彼女のいた席には花が置かれていた。学年度が替わるまで使うであったろう、その机の主はもういない。<br>
代わりに、今は花瓶が主になっていた。<br>
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪<br>
いつもと変わらない音で、今日の授業終了を告げている。<br>
皆、帰り支度に急いでいる。ただ、その姿はどこかぎこちない。彼らにとってもまた、彼女の存在は大きかったのだろう。<br>
そんな彼らと同様、真紅も帰り支度をしていた。<br>
銀「真紅、ちょっといいかしら…」<br>
教室の入り口から水銀燈が呼びかけてきた。<br>
紅(珍しいわね…)<br>
彼女がいなくなってからずっと落ち込んでいた水銀燈。それもそのはず、水銀燈が彼女を誰よりも可愛がり、誰よりも<br>
大切にしていたのだ。<br>
その水銀燈が、真紅を呼んだのだ。<br>
水銀燈の様子が気になっていた真紅は、水銀燈の元へ歩んでいった。</p>
<p>校舎の屋上。<br>
11月にしては暖かい日和だった。風も殆ど吹いてない。<br>
その屋上で、景色を眺めるようにして真紅と水銀燈がいた。<br>
銀「ねぇ、真紅。今になってやっと分かったわ。雛苺は、もう還ってこない。どんなに願っても。」<br>
遠くを見ながら水銀燈は呟いた。<br>
銀「私っておばかさぁん。そんなことを理解するのに2週間もかかっちゃうんだから…」<br>
自分を嘲笑するように笑う水銀燈。真紅はただ黙ることしか出来なかった。<br>
銀「だから、雛苺のことを引きずるのはやめる!」<br>
決心したように言い、真紅のほうへ向く。<br>
銀「明日からいつもの水銀燈に戻るわ」<br>
笑顔を浮かべたまま、涙を流す水銀燈。<br>
銀「あれ?何で涙が?もう出ないと思ってたのに…」<br>
そういいながらどんどんクシャクシャな顔になっていく水銀燈。<br>
銀「ごめんなさい真紅。これで最後にするから…」<br>
水銀燈は、2週間前と同じように真紅の胸の中で泣いた。</p>
<p>その日の夜、真紅は夢を見た。<br>
(ここは、どこ…?)<br>
何処かの公園。ブランコと滑り台、ジャングルジムがあるだけの小さな公園。<br>
(あぁ、ここは…)<br>
ここは幼い頃にに、雛苺と初めて出会った場所だ。<br>
(懐かしいわね…)<br>
その公園はもう取り壊されてない。かわりにマンションが建っている。<br>
?「ねぇ、真紅ぅ…」<br>
夢を「夢」と認知できる不思議な空間。その中で彼女に話しかけられた真紅はとても驚いた。<br>
紅「その声は、雛苺!?」<br>
振り返ると、2週間前までは元気に動いていた雛苺が、そのままの姿でいた。<br>
雛「うん、ヒナなのー…」<br>
紅「あぁ、雛苺!!」<br>
彼女に駆け寄ると、真紅は力いっぱい抱きしめた。<br>
雛「真紅ぅ、苦しいの…」<br>
彼女の抗議を無視し、真紅は問いかけた。<br>
紅「可哀相な雛苺…。痛くなかった?寂しくなかった?」<br>
今にも泣きそうな声で呟く真紅。<br>
雛「ヒナ、何があったか分からなかったのー」<br>
その答えを聞いた真紅は、少しだけ安心した。苦しんで死んでしまったのなら、どうしていいか分からなくなる。<br>
紅「そう…」<br>
真紅は彼女を解放した。<br>
雛「えへへ。真紅、ありがとうね」<br>
いつもの向日葵のような笑顔で、彼女はお礼を言った。<br>
紅「…何が?」<br>
いまいち理解出来ない真紅は彼女にそう聞いた。<br>
雛「いままでヒナにいっぱい優しくしてくれたでしょ?だから、そのお礼」<br>
それを聞いた真紅は胸が痛くなった。</p>
<p>
紅「お礼を言われる事なんか何もしてないわ。いや、出来てないわ。だって、最後まで貴女を守れなかった…」<br>
それは真紅がずっと思っていた事だった。真紅の時計もまた、あの日から止まっていた。<br>
雛「ヒナが死ぬのはね、なんとなく分かってたの…」<br>
雛苺の口から、想像を絶する言葉が発せられた。<br>
紅「……じゃあ、何で言ってくれなかったのよ。何で死ぬのを避けようとしなかったのよ!何で…」<br>
そこまで言うとついに真紅は泣き始めてしまった。<br>
雛「雛もはっきりとは分かってなかったの。けど、あの日の1週間前から嫌な夢を見てたの」<br>
紅「…夢?」<br>
泣きながら、辛うじて聞くことが出来た。<br>
雛「うん。ヒナが道を歩いてるとね、いきなり真っ暗になるの。そして、真紅や水銀燈、蒼星石、翠星石、金糸雀<br>
薔薇水晶がヒナの周りで泣いてるの。ヒナが『何で泣いてるの?』って聞いても、誰も答えてくれなかったの…」<br>
さぞ怖い夢だったのだろう。そう思うと真紅は胸が苦しくなった。<br>
雛「でもヒナね、みんなと一緒にいて楽しかったの。いっぱいいっぱい思い出をもらったの。ヒナはちょっと早く<br>
お空に行くだけ。だから別れじゃないの!またみんなと会えるの!!」<br>
いつもの向日葵のような笑顔に、涙を浮かべて言う雛苺。<br>
そんな雛苺の体が、どんどん透けて行く。<br>
紅「雛苺!!」<br>
慌てて彼女を抱きしめようとしたが、腕はむなしく空を切るだけだった。<br>
雛「だからね、真紅。もう泣かないでぇ。またお話できるの!」<br>
どんどん消えて行く雛苺の体。そんな姿をまともに見ていられず、真紅は泣き伏せてしまった。<br>
雛「そうだ、最後に一つだけ。真紅の部屋にある机、右下の引き出しをよく見て欲しいの」<br>
そう言うと雛苺は完全に消えてしまった。</p>
<p>「はっ!!!」<br>
真紅は自分の涙で目が覚める。デジタル時計は3:20と表示していた。<br>
(そうだ、右下の引き出し…)<br>
部屋の明かりをつけると、夢の中の雛苺が言っていた場所をひっくり返してみる。<br>
(…?)<br>
その中から便箋が1通出てきた。見慣れた雛苺の字だ。<br>
(!!)<br>
真紅は心臓の止まる思いがした。手が震え、便箋を上手くあけることができない。<br>
それでも必死に便箋をあけ、中身を取り出した。</p>
<p>『真紅へ</p>
<p>
いつも遊んでくれてありがとうなの。でも、この手紙を見てる時にはヒナもういないの。ヒナ、多分死んじゃってるの。<br>
でもいいの。みんなと出会えて、遊んで、たまに喧嘩もしたけど…。でも、とっても楽しかった!みんなとの思い出、<br>
いっぱいあるの!だからヒナ、一人でも寂しくないの!!<br>
でも、ヒナ死んじゃったらどうなるんだろう?天国ってあるのかな?暗くて寒いところだったらやだな…。ヒナ、死ぬ<br>
のは怖い。死にたくない!でも、仕方が無いの…。<br>
もし生きてたら、この手紙はヒナが破って捨てるの。それで「ヒナはばかだね」っていいながらまたみんなと遊ぶの。<br>
ずーっと、ずーーーっと一緒だよ、真紅…。</p>
<p>
おばかなヒナより』</p>
<p><br>
end</p>
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