翠ジュンの遊園地ラブコメ
それは翠星石の言葉から始まった。
翠「おい、チビ人間。明日遊園地に行くです」
J「は?いきなりどうしたんだよ」
蒼「新しく遊園地が出来たから、皆を誘って行こうって翠星石が」
J「ああ、そういうことか。僕は別にいいけど他の皆は?」
翠「これから誘うです。どうせあいつら暇人だから大丈夫です」
――ところが。
蒼「水銀燈は薔薇水晶と買い物、真紅は金糸雀と雛苺に勉強を教えるか」
翠「そういやテスト悪くて追試があるって言ってたです……」
J「そうか。それじゃあどうする?今度皆が行けそうな日にしようか」
翠「……そうですね。誘ったのに悪かったです」
蒼「(翠星石……)いや、折角だし3人で下見がてら行ってみようよ」
J「皆は今度連れて行けばいい、か。僕は別にそれでいいよ」
翠「あ、す、翠星石も行ってやってもいいですよ。チビ人間は感謝するです」
ということで、遊園地には三人で行くことになったのです。
翌朝
ピンポーン。
J「おはよう、翠星石。蒼星石は?」
翠「それが……風邪をひいてしまったみたいなんです」
蒼「……ゴホゴホ。ごめんね、ジュン君。悪いけど行けそうにないや」
J「それじゃあ今日はやっぱりやめて看病を」
蒼「い、いやいいよ。ゴホゴホ。熱もないし、少し体調が悪いだけ。二人で行ってきなよ」
翠「でも、蒼星石……」
蒼「そんなに心配しないで。僕の分まで楽しんできてね」
咳をしながら笑う蒼星石を見て、これ以上は無駄だと判断する。
このままごねていても蒼星石は気を遣うだけだと思い、二人は家を出た。
翠「な、なんだか変なことになっちまったですね。チビ人間と二人ですか」
J「あ、ああ。そうだな。でも蒼星石の分まで楽しんでこようぜ」
なんだか二人はぎこちないまま、会話も少なくバスに乗り、遊園地に到着した。
休日のそれも新しい遊園地だけあって、人はかなり多かった。
にぎやかな空気にあてられたのか、さっきまで元気なく見えた翠星石も楽しそうだ。
翠「さあ、早速行くです。遊園地と言えばまずはアレです!!」
J「げ、いきなりジェットコースターかよ。お前元気だなあ」
翠「当然です。ひょっとしてチビ人間は怖いですかぁ?」
J「馬鹿言うなよ。そんなこと言って本当はお前だってビビってないか」
翠「ふ、ふん。そんなワケないです。絶叫するチビ人間を見て笑ってやるです!!」
そして二人は隣同士の席に乗り込み……
J「うわああああああああああああああああああああ!!」
翠「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」
翠「……ふ、ふふふ。た、たいしたこと、なかったです」
J「そ、そうだな……じゃ、じゃあ次はアレだ」
翠「……フリーフォールですね。今度こそほえ面を」
J「か、カメラあればお前の馬鹿面を撮れたのに。まあ行くぞ」
翠「いやああああああああああああああああああ!!」
J「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
数分後
J「ぜ、絶叫マシーンはも、もうやめとこう」
翠「そ、そうですねぇ。い、いきなり飛ばしすぎたです……」
絶叫マシーンにて疲れ果てた二人。今度は軽いものでと選んだのは。
翠「メリーゴーラウンドですか。ちょっと子どもっぽいけどまあいいです」
J「こんなの乗ったの小学生以来かな。まあたまにはいいだろ」
はくばーのーおーじさまーなんてー
音楽とともに白馬やペガサスを模した乗り物が回りだす。
前を行くジュンを見ながら、何故か白馬の王子様なジュンを翠星石が想像する。
翠「……ぷっ。全く似合わないですぅ」
J「何か失礼なこと考えてないか、お前」
翠「そんなことないですぅ。あ、そろそろ終わりみたいです」
しーんじてるーわけじゃないー
回転の速度がだんだんと落ちていき、音楽とともに完全に動きは止まった。
傍から見ていてもわからなかったが、乗ってみればそんなに悪いものではなかった。
J「ああ、そろそろ疲れてきたな。休憩しないか?」
翠「それじゃあ昼食にするです。翠星石が作ってきてやったです」
弁当箱をあけると、丁度良いサイズのおにぎりと、色とりどりのおかず。
からあげや卵焼き、プチトマトなどが美味しそうに並んでいる。
翠「さあ、翠星石に感謝して食いやがれです」
J「ゴクリ。これ、全部お前が作ったのか?」
翠「当たり前です。朝早く起きて作ったけど、多いからしっかり食べるです」
J「ああ。いただきます。もぐもぐ……お、美味しいよこれ!!」
翠「あ、ありがとう……ですぅ。ホラ、もっと食べやがれですぅ!!」
J「うん、、もぐもぐ、んぐんぐ……うっ(のどに詰まらせた)」
翠「!!ジュン!!大丈夫ですか!!み、水を!!」
J「ゴホゴホ。あ、ああ悪い。ちょっとがっつきすぎたよ」
翠「……ほ、ほら。急がないでもまだまだいっぱいあるです。ゆっくり食えです」
本当は蒼星石の分も入れて3人分だったのだが。
ジュンはあっさりと大量のお弁当を平らげた。
昼食後の小休憩の後、二人が向かったのは
J「……す、翠星石。ちょっとひっつきすぎじゃないか」
翠「ななななな何言うですか。ち、チビ人間が怖いんじゃないかと」
暗いお化け屋敷の中、身体を震わせながら翠星石が腕を掴んでいる。
既に伝統とも言えるろくろ首や一つ目小僧などだけではなく。
何故かスプラッターな死体やら吸血鬼も混ざってよくわからないことになっている。
JUMは正直少し拍子抜けしていたが、翠星石には効果が抜群だったようだ。
翠「こ、こんなもの所詮作り物です。怖いはずがないですぅ!!」
J「そうか?……あ、出口見えてきたかな」
うっすらと行く先に「出口」と看板が見える。
翠「(ホッ)ふ、ふん。もう終わりですか。さ、さっさと行くです」
J「あ、待てよ翠星石。大抵こういうのは最後にドッキリが」
JUMが言い終わる前に駆け出していく翠星石。
そして、出口の直前で上から何かが落ちてきて、顔に当たった。
翠「ひっ、ひいいいいいいいい!!ジュ、ジュン!!何かいるですぅ!!」
J「ああ、そうだな。お前の顔にコンニャクがへばりついてるよ……」
お化け屋敷の翠星石の醜態を笑いながら。
また、隠し撮りされた泣きそうな表情の写真をネタにしながら。
残された他のアトラクションをこなしていくうちに、日も落ちてきていた。
翠「帰る前に、最後に観覧車に乗るです」
J「ああ、そうだな。もういい加減疲れてるしな」
二人を乗せて、ゆっくりと観覧車が回り始める。
少しずつ地上を離れ、下に見える人々が小さくなっていく。
夕暮れの遊園地を見下ろしながら、今日は楽しかったと思った。
翠「……ジュン。今日はありがとうです」
J「え?どうしたんだよ急に」
翠「本当に楽しかったです。ジュンは蒼星石が来れなくて残念だったですけど」
J「え、ちょ」
翠「今日はこんなにいっぱい、時間を忘れて遊べて、本当に楽しかったです」
翠星石の笑顔がオレンジ色の空を背景にしていて。
笑っているのに、それが何処か寂しそうに見えて。
翠「……え?」
考えるより先に、翠星石にキスしていた。
翠「……ジュン?」
J「お前、ひょっとして勘違いしてないか?蒼星石がなんとか」
翠「だって、蒼星石が来れなくて。それで、なんだか元気なくて」
J「行きがけのことか。……あれは緊張してたんだよ。お前と二人だったから」
翠「え、どういう」
J「いきなり二人で行けって言われてさ、ドキドキして、何言えばいいのかわかんなくて」
しどろもどろになってしまうが、ここで伝えておかなければいけない。
本当に、心の底から想っているのは……
J「僕が好きなのは、翠星石だよ」
翠「あ……ジュン。す、翠星石も、ジュンのことが、好きですぅ」
言いながら、胸に顔を埋めて翠星石が泣き出してしまった。
翠「う、嬉しいですぅ……ずっと、ずっと好きだったです。ジュンのことずっと」
J「うん。僕もだよ。今まで言えなくて、ごめん」
そのまま泣きじゃくる翠星石をなだめ、好きだよと言い合いながら。
観覧車が戻ってくる前に、もう一度キスをした。
遊園地から出て、またバスに乗って帰る。
隣同士の席で、肩を寄せ合って。
会話はなかったけれど、手は繋いだまま。幸せな沈黙だった。
翠「帰ったら、蒼星石にお礼を言わないといけないです」
J「蒼星石に?」
翠「たぶん、蒼星石は風邪なんてひいてなかったです。気を遣っただけです」
J「(そういえば、蒼星石が3人でも行こうって……)そうか」
翠「……それじゃあ、ここでお別れですぅ」
名残惜しそうに繋いだ手を離す。手は離しても、その体温はまだ残っている。
翠「また明日、学校でですぅ」
J「ああ、また明日」
翠「……ま、また今度……二人でどこか行くですぅ」
顔を赤らめてそれだけ言い、翠星石は走っていった。
その姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。
手に残った体温はもうないけれど、その柔らかい感触は、もう二度と消えないだろう。
END
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二人はいつも一緒だった 学校に行っても、食事をするときも、買い物をする
時も・・ずっと、ずぅっと二人は一緒だったのに・・・・
蒼星石は、私の知らない子と話している、どうして?その笑顔は、私だけのもの
じゃなかったの?
胸が苦しい、心が痛い、そんな笑顔を他人にみせないで、私以外に見せないで・・
真「・・星石!・・翠星石!!」
ふと顔を上げる、目の前で真紅が自分の名前を呼んでいる
視線を真紅に向けて聞いてみる
翠「なにか、ようですかぁ?・・」
真「あら・・あなたなにも聞いてないのね?・・まぁ、いいわ・・じゃぁもう
一回言うわね。今度の買い物はいつ行くの?」
翠「買い物 ですか?・・・そんな約束しましたっけ?・・・」
真「・・・あなた今日おかしいわ?・・何かあったの?」
翠星石の頭にふと蒼星石のことが浮かぶ、真紅に相談でもしてみようかな?
少しは気が軽くなるのかもしれない・・・でも・・
翠「いや・・何でもないですぅ!翠星石は元気ですぅ!!」
元気だ、そう私は元気だ・・真紅には心配かけたくない
真「・・・嘘よ」
翠「えっ・・・」
真「何でも言ってごらんなさい?・・私たち姉妹でしょ?」
涙がでてくる
翠「うぅ・・・真紅ぅ・・」
翠星石と下校
J「うぅ~さみぃ~」
翠「チビ人間!今日は私と一緒に帰るです!」
J「えぇ~」
翠「この翠星石さまが一緒に帰ってやるって言ってるんです!光栄に思いやがれ、ですぅ!」
J「わかった、わかったよ」
―下校中―
J&翠(とはいうものの話のネタがない・・・」
J&翠『翠星石・・・「あの、JUN・・・」
J「な、なんだよ。先に言えよ」
翠「JUNが先に言うです!あっ・・・」
J「どうした?」
翠「雪・・・」
どうりで寒いわけだ。ひらりひらりと白い妖精が宙を舞っている。
翠「キレイですぅ・・・」
J「へぇ~お前もキレイって思う感情があるんだなw」
翠「当たり前ですぅ!引き籠もりのチビ人間とは比べないで欲しいです!」
J「ひでぇwwwにしても寒いな」
翠「確かに寒いです。でも・・・」
突然手が暖かくなる。そこには彼女の手があった。
翠「こうすれば、あったかいです・・・」
J「・・・そうだな」
寒い、だけど温かい、幸せな時間が二人を包んでいた。
―それはある一言がきっかけだった―
J「それにしても最近寒いよな」
翠「これぐらいで寒いなんて、まったくチビ人間は貧弱です」
J「雪も降り始めたし、寒いに決まってるだろ。
マフラーとか手袋みたいな暖かいものが欲しいよな」
~帰り道~
翠「マフラー・・・か」
蒼「ん?翠星石何かいった?」
翠「べ、別に何も言ってねーです。
それより蒼星石帰りに寄りたいところがあるから付き合ってほしいんです」
翠「じゃ、始めるです」
そういった翠星石の周りには様々な色の毛糸球が転がっている
蒼「こんなに毛糸を買い込んで、一体何を作るんだい?」
翠「そ、蒼星石には関係ねーです。気にし・・・」
蒼「JUM君にマフラーでも作るのかな」
翠「ど、どうしてそれを!・・・・・・・あ」
蒼「ふふ、学校で2人が話してるのが聞こえてたからね」
翠「うぅ・・・JUMには内緒にしてほしいですぅ」
蒼「わかってるよ。僕もできることがあれば手伝うけど」
翠「気持ちだけありがたく受け取っておくです
これは翠星石が1人で作り上げてやるんです」
蒼「そっか、じゃ上手にできるように応援だけさせてもらうね」
翠「蒼星石・・・姉思いの妹を持ってお姉ちゃんはほんと嬉しいです」
それからしばらく翠星石は家に帰っては編み物を続けた
翠「や、やっとできたんです!!」
マフラーを作り始めてから1週間が経った
不慣れな作業で翠星石の手には細かな傷による絆創膏が貼られている。
翠「(JUM喜んでくれるかな・・・」
~学校~
J「翠星石、その手どうしたんだ?」
翠「ちょっと料理してて切っちゃっただけです。
それよりチビ人間に渡し・・・・・・・・!?
そ、そのマフラーはどうしたんですか!」
J「これか?最近寒いからさ、買ってきたんだけど」
翠「そうですか・・・」
J「今何か言いかけてだろ?なんか用があるなら言えよ」
翠「何も言いかけてないです!チビ人間に・・・用なんか・・・ウ、ヒック・・・」
目に涙を溜めて、翠星石は教室から飛び出した
翠「こんなことならマフラーなんか作らなければよかったんです!」
そういって袋に詰めたマフラーをゴミ箱に投げ入れる
翠「もう・・・こんなもの」
蒼「あれ?これって」
ゴミ箱から袋を拾い上げる
蒼「翠星石・・・」
そして、蒼星石はJUMを探しに走り出した
蒼「JUM君!」
J「蒼星石どうしたんだ?それと手に持ってる袋は何なんだ?」
蒼「これはね、翠星石が作ったマフラーだよ
ほら、1週間前JUM君マフラーとか欲しいって言ってたでしょ?
それで翠星石はJUM君の喜ぶ顔が見たくて家に帰ってはずっとこれを作ってたんだ」
J「・・・」
蒼「でも、JUM君今日マフラー着けてたでしょ?それで翠星石は・・・」
J「蒼星石、知らせてくれてありがとう!それ貰えるか」
蒼「うん、翠星石は屋上にいたよ。早く翠星石のところに行ってあげて」
走り去るJUM
蒼「ほんとは僕もJUM君にマフラーあげたかったんだけどな・・・」
J「翠星石!」
急に名前を呼ばれて驚く
翠「な、何ですかいきなり!私はチビ人間なんかに用はないです
だからとっとと失せやがれです」
J「これ・・・」
翠「なんでチビ人間がこれを持ってるんですか?
捨てたはずなのに・・・」
J「これ、貰ってくれないか」
そう言って自分の買ったマフラーを翠星石にかけるJUM
J「僕はお前がくれたマフラーがある。
これ以上に欲しいマフラーなんかないよ」
翠「・・・ヒック、ほ、ほんとにこんなのでいいんですか・・・?」
J「言っただろ、これ以上に欲しいものはないって」
―JUMは翠星石を優しく抱きしめる―
―外は寒く、雪が降っていた。でも2人を包む空気は暖かかった―