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花見酒

近所の公園に着いてみれば、既に当然のように人が溢れていた。
季節も変わり、気温が暖かくなったことで桜が満開になっていた。
楽しそうに大騒ぎする大人たちを掻き分けて、皆を探す。
いくら人が多くてもそんなに広い公園ではない。すぐに見つかった。

J「……で?」

見つけたときには既に遅かった。
レジャーシートの上にずらりと並んだ酒類の数々。
食い荒らされた弁当箱やおつまみ、そこに居座る人々の姿が惨状を物語っている。
真紅、雛苺、翠星石、蒼星石、水銀燈、薔薇水晶、それと金糸雀。
程度に差はあれ、恐らく全員が酔っ払っていた。いや、一人を除いて。
ベ「来てしまったか。ここからが本当の地獄だ……」
何故か疲労の色濃いベジータが顔面を腫らしている。

べ「皆を酔いつぶれさせればハーレムが出来ると思ったんだがな……」
悔しそうに語るベジータ。あまり同情する気にはなれない。
J「まさか、誰かに変なことを……」
ベジータに限ってそんなことはあるまいと思ったが。
ベ「……やろうと思ったが、酔っているのに皆俺のことは見間違えずに殴ってくれたんだ」
疑って悪かったと思う。なんだか少し可哀想になってきた……。

さて、改めて現状を確認してみよう。
真紅「……くんくん、犯人がわかったのだわ」(睡眠中
雛苺「うにゅぅー……うにゅぅーがいっぱい押し寄せてくるのー」(同
翠「や、やめるですの……人がいっぱい見て」
蒼「いいじゃないか、こういうのが興奮するんだろう?」(絡み中
薔薇「プハーッ、飲んだぜ」(楽しそうに深酒中
銀「薔薇水晶……私の……妹になりなさぁい」(絡み中

ちなみに誰も僕が来たことに気付いてくれていない。ちょっと泣きそう。

金「……あーらー?じゅーんなのかしらー?」
いや、一人気付いてくれた(ベジータは問題外なのでカウントしない)
皆一様に顔を真っ赤に染めている中――薔薇水晶は普段どおりだが。
呂律こそ回っていないが、他よりは顔色の良い金糸雀。
J「お前らどれだけ飲んだんだよ、出来上がるの早過ぎないか?」
約束の時間に遅れること30分。どう考えても早すぎる。
金「うー?覚えてないのかしらーあははははははは」
不安に思い、ベジータに視線を向ける。目を背けやがった。
ベ「薔薇嬢……そろそろ飲むのやめた方が」
薔「あんだとを!!」
ベ「グエーッ!!」
止めようとして殴られるベジータ……あれはあれで本望だろう。
金「じゅんもーのーむかぁしらー?」
J「いや、僕はいいよ……(未成年の飲酒は法律で略)」
金「えんりょはいらないのかしらー?みっちゃんにもらってくるのかしらー?」
言いながら身体をふらつかせ、金糸雀は走っていった。
そういや近くに保護者一同も来ているらしい。

数十分後
少し離れて一人桜を見ながら弁当の残りをつまむ。
遠目に観察してみるが、どうやら薔薇水晶とベジータ以外眠ってしまったようだ。
ベ「そ、そろそろヤバいぜ薔薇」
薔「もうちょっと待ってねえ!!」
ベ「グボァ!!」
諌めようとする度にベジータが殴られている。楽しそうだなあ。
泣くほど嬉しいらしい。来て良かったなあ、ベジータ。
そんな遣り取りを効果音代わりに、桜を眺めていると……
金「ま、待たせたの……かしら?」
J「あ、お帰り。遅かった……な」
振り向いてみて驚いた。金糸雀が、着物に着替えていた。
金「みっちゃんに着替えさせられて……ど、どうなのかしら」
開いた口がふさがらない。普段の印象と違いすぎて、上手く反応できない。
シンプルな布地ではあったが、それだけに桜や月夜に良く映えている。
顔を赤らめているのは酔いだけではなく、恥じらいの所為もあるのだろう。

J「あ、ああ。驚いた。意外だけど似合ってるな」
金「ありがとう、お世辞でも嬉しいのかしら~」
大人びて見えるが、楽しそうに跳ね回る姿は普段通り。
金「さっき穴場を見つけたから一緒に行くのかしら~」
そう言って、手を引っ張って走っていこうとする。
急に手を握られたせいで、心臓がドキドキしはじめる。
J「あ、ベジータ。僕たちちょっと行ってくるから」
ベ「え、待て!!お前俺を置いていくぐわ!!」
薔「ああ、持ってけ!!」
意味不明の言葉を叫びながらベジータを殴る薔薇水晶。
少しだけ悪いなと思いながら、手を引かれるままに走っていった。
……というか、薔薇水晶は本当に酔っているのだろうか。

連れて行かれた先は、一番大きな桜の裏側。
絶好の花見ポイントだというのに人はまばらだ。
金「何故か人が全然いないのかしら~」
理由に即座に気付いた。……薔薇学の教師一同が近くに居座っている。
それもかなり酔っているらしい。暴れたんだろうなあきっと……
J「ま、まあいいじゃん。折角だしこの辺でのんびりするか」
金「それじゃあ余興代わりに演奏でもするのかしら~」
そう言って立ち上がる金糸雀――をこれ以上行動させてはいけない。
脳裏には彼女のバイオリンが奏でる不協和音が浮かぶ。
J「ま、待て。酔った状態じゃあ満足に演奏できな」
止めようとしたが、遅すぎた。金糸雀のバイオリンが音色を奏ではじめていた。
……
J「あれ?」
予想外に、ガラスを引っ掻いたような超音波は聞こえてこない。
バイオリンからは美しい、懐かしさを感じる和の旋律が響く。
J「さくらさくら……か」
耳は音楽に、視線は演奏する金糸雀を見たまま。
こんな時間がずっと続けばいいとさえ思ってしまった。

演奏が終わる。そして、今日の楽しかった花見が終わる。
金「どうだったのかしら~」
拍手で応える。金糸雀が照れて笑う。
酔いのせいか、本来はこんな綺麗な演奏ができるのかわからない。
だが、間違いなく今宵の僕にとっては最高の演奏だった。
笑いながら近づいてくる金糸雀が躓く。
J「おっと」
咄嗟に受け止める。まだ酔いが残っているのだろう。
金「あ、あらーなのかしら。何だかふらついて……」
J「負ぶうよ。さっきの演奏のお礼代わりだ」
自分の状態はわかっているのか、素直に金糸雀は従った。

帰り際、横目に映る薔薇学教員一同。
考えたくないほどの惨状の中、唯一アーカード先生だけが素面のようだ。
ア「いい月夜だな。気をつけて帰れ」
最初から気付いていたらしい。顔もこちらに向けずに言ってくる。
J「はい、失礼します。おい、金糸雀……」
先生に挨拶をさせようとして気付く。
金「すぅ……すぅ」
J「寝ちゃったか。まあ結構飲んでたみたいだ……あ」
ア「構わんよ。だが次からは気をつけろ」
別段気にもしていない様子のアーカード先生に感謝しながら、その場を後にする。
寝息が首筋に当たって少しくすぐったい。
金「……ジュン……大好き……なのかしら……すぅ」
J「んー?何か言ったかー?」
よく聞こえなかったが、ただの寝言だろう。
背中に暖かさを感じながら、日常へ戻ろう。
皆を起こして、家に帰ろう――

ベ「お、遅かったな……こっちは本当の地獄だった……ぜ」
ボロボロの体で、全てをやり遂げた男が倒れた。
ああ、忘れてた。お疲れ様ベジータ……
紅「なんだか頭が痛いのだわ……」
雛「うにゅぅがぁ……うにゅぅに食べられるのぉ……」
蒼「ふぅ……なんだかとてもいい夢を見たような(ニコニコ)」
翠「な、なんだか気持ちいいような複雑なような夢を見た気が……」
銀「さ、帰れる?薔薇水晶」
薔「……ベジータ君、どうして倒れてるの?」
雛苺を除いて皆起きている。状態にある程度差はあったが。

それぞれがそれぞれの方向へと別れていく。
寝ていた金糸雀は僕を掴んでなかなか離さなかったが。
彼女の保護者――みっちゃんさんが、連れて帰った。
花見なんて好きでもなかったが、決して悪くはなかった。
いや――楽しかった。金糸雀の珍しい姿も見られた。
宴は終わり。僕も家へと帰ろうとして――強い風が吹いた。

桜の花びらが狂ったように舞い散る。
桜の木からも花が散っていく。風が吹いていたのはほんの少しの時間。
儚いだとか、寂しいだなんて感じられないくらいの壮観。
そして、背中の方からあの元気な声がした。
金「ジュンー!!また、明日なのかしらー!!」

ああ、綺麗だなあ。そう思いながら手を振り、僕は走る。
叶うならば、こんな幸せを、楽しさを、今日の夢にも見られますように。

おしまい

おまけ
ベ「……はっ!!ここは一体」
周囲を見回す。誰もいない。置いて帰られたらしい。
ベ「……本当の地獄だ」
梅「ベジータ、なんだこの酒盛りの跡は!!」
ベ「……ここからが本当の地獄だ!!」