銀「はぁ~」
雑誌を放り投げベッドに寝転がった水銀燈は思わずため息をついた。
今年は猛暑の影響か九月下旬になっても残暑がまだ厳しい、
幸い部屋の中はクーラーのお陰で快適な温度になっている。
っといってもここは彼女の部屋ではない。
いま水銀燈がいるの幼馴染のジュンの部屋
そして寝転がっているのはもちろんジュンのベッドだ。
しかし部屋の主であるジュンの姿はそこにはない。
それどころかこの家の中には現在水銀燈しかいないのだ。
断っておくが別に水銀燈は勝手に上がりこんだわけではない。
休日、暇なのでジュンで遊ぼうかと来てみれば彼はちょっと買い物に出ていた。
家にいた彼の姉はすぐ帰ってくるからと水銀燈を招き入れてくれのだが
その姉も用事があって遅くなるからと水銀燈に留守番を頼むとすぐに出て行ってしまった。
いくら昔からの知り合いとはいえ他人を一人家の中に残していくのはどうなのかと思いながらもあの人らしいと水銀燈は苦笑した。
とは言え、他人の家に一人ではやることもない。
銀「はぁ~」
またため息をついて先ほど投げ出した雑誌を手に取る。
扇情的なポーズを取った女性の裸体が写った青年男子ごようたしの雑誌。
無論、これは水銀燈がものではなくこの部屋の主のもの
からかいのネタにと冗談半分でベッドの下を漁ってみたら発見した。
ベッドの下などというありきたりで使い古された場所に隠しておくなどいかにも彼らしかった。
ページをパラパラとめくるがそんなものはさして面白くもない
これが特殊な趣味人が愛用するようなものであれば、彼をそれでどうからかえるかを考え多少は楽しめたのだろうが
あいにくとジュンが持っていたのはいたって普通のもの、これでも十分からかえるがそれではいまいち面白くない。
銀「はぁ~」
本日何度目かのため息と共にまた持っていた雑誌を投げ出し布団に顔を押し付けた。
布団からはジュンの匂いがした。
その匂いを感じながら水銀燈はゆっくりとその切れ長の瞳を閉じ眠りへと落ちていった。
どれくらい時が過ぎただろうか
体を揺り動かされる感覚で水銀燈は夢の世界から帰還した。
J「おい、起きろよ」
その声に目を開けると困ったようなジュンの顔が見えた。
銀「おはよぉうジュン」
まだぼんやりとした頭で水銀燈がそう言うと彼は大きくため息をついた。
J「はぁ~、たく勝手に人の部屋で寝るなよな」
銀「あらぁ、別に勝手に上がりこんだわけじゃないわよぉ」
J「わかってるよ、どうせ姉ちゃんが上がって待ってろとか言ったんだろ」
ぶつぶつと姉への不満を言う彼に水銀燈は笑いがこみ上げてきた。
J「笑うなよ、あーでも一人じゃ暇だっただろ」
銀「そんなことないわよぉ」
水銀燈はそう言って傍らに放置してあった雑誌を掲げて見せた。
刹那、ジュンは顔を真っ赤にして雑誌をひったくると慌てて引き出しの奥にそれを放り込んだ。
銀「ジュンもそういうものに興味を持つようになったのねぇ」
その一連の動作見て水銀燈はクスクスと笑った。
銀「隠し場所をもうちょっと凝ったほうがいいわよぉ」
J「勝手に人の部屋漁るなよ」
膨れっ面をしてそっぽを向くジュン
それにまた笑いがこみ上げてきた。
銀「うふふ、ならお詫びに今日は私が晩御飯ご馳走してあげるわぁ」
いまだ膨れっ面をしたままのジュンの頬をちょんっと突いて水銀燈はそう言って微笑んだ。
時計を見れば午後5時夕飯のしたくをするにはいささか早いがまあ問題はないだろう。
まだ顔の赤いジュンの横を通り抜け水銀燈は台所へと降りていった。
END
『マゾっ娘☆銀様』
僕の通う薔薇学園には、水銀燈というサディストな女の子がいる。僕はいつも
彼女のパシリにされている。今日も彼女に命令された。
水「ちょっとぉ、喉が渇いたぁ。ヤクルト買って来てぇ」
ジュン「あの、食堂にも、自販機にもヤクルト売ってないのですが…」
水「はぁ?寝言は寝てる時に言ってよぉ。コンビニまでダッシュしてきてぇ」
ジュン「そんな、無茶苦茶な……」
水「あ~あ、喉が渇いて死にそうだわぁ~。これで死んだら、あんたも死んでねぇ」
ジュン「ごめん、すぐに買ってきます」
水「五分以内にねぇ~。遅れたら教卓の上で、未成年の主張してもらうわよぉ~」
とまあ、こんな風に学園内の彼女は、とても意地悪だ。色々な人から、慰められる
こともある。が、しかしこれはあくまで、学園内での話。
二人きりでデートする時は、完璧に立場は逆転してしまうのだ。
ジュン「遅いなぁ、あいつ」
水「はあ、はあ、ごめんなさぁい。遅れちゃったぁ」
ジュン「何分の遅刻だよ?僕を待たせるなんて良い度胸だね」
水「ごめんなさぁい。許してくださいよぉ」
ジュン「ダメだ。時間にルーズな君には、お仕置きをしなくちゃならない」
水「でもでも、ちゃんと言われた通りに、ミニスカート穿いてきたよぉ?」
ジュン「それは、して来て当たり前のことなの!」
水「うぅぅ……。いじわるぅ…」
ジュン「と、とにかく罰ゲームとして、僕の命令を聞いてもらう」
水「はぁい…。わかりましたぁ」
僕たちは、レンタルビデオ店に入った。映画が借りたいわけじゃない。
水銀燈をいじめるために、入ったのだ。
水「ねぇ、ここで何をするのよぉ?」
ジュン「ふふふ、今から君には、5本、アダルトビデオを借りて来てもらう」
水「えぇぇ!?そ、そんなの恥ずかしくて死んじゃうよぉ…」
ジュン「罰ゲームだよ。僕に、文句でもあるの?」
水「ないですぅ…」
ジュン「よろしい」
僕は5本、アダルトビデオをチョイスした。どれもこれも、きついタイトルの
ものを、あえて選んであげた。なんて優しい僕。僕たちは十七歳だけど、関係ない。
とにかく僕は、彼女の恥辱に満ちた表情が見たいだけだからね。
ジュン「さあ、借りてきて。僕はここで待ってるから」
水「はぁ~い。やだなぁ……」
アダルトビデオコーナーなんて、今まで入ったことがない。まさに、禁断の場所。
水「(恥ずかしいなぁ。あっ、これか。やだぁ、何よこれぇ?)」
水「(女子高生の(自主規制)!?これをレジに持っていくなんてぇ)」
水「(男の人ばっかりだよぉ…。ジロジロ見られてるぅ)」
水「(監禁レズ姉妹?なんなのよぉ、このタイトルぅ…もう、やだぁ)」
なんとか5本のアダルトビデオを手に入れて、レジに並ぶ水銀燈。
顔はもう、りんごのように、紅く染まっている。
僕はそれを、にやにやしながら眺める。
これだから、彼女をいじめるのは止められない。
レジの順番が来て、水銀燈は5本のアダルトビデオを置く。これだけでも
かなり恥ずかしいのだが、今日は日曜日だから、人もたくさんいる。後ろの
人に見られているのではないか?という、不安がよりいっそう、恥ずかしさを増させる。
店員「え~と、全部で5点ですね。会員証をお出しください」
水「はぁい(うぅぅ、早くしてぇ!)」
店員「…あのお客様、誠に申し訳ありませんが、未成年の方への貸し出しはちょっと…」
水「え!?そ、そうですよねぇ!すいません!棚に返しといてください!(きゃあああ!)」
全部、僕の計算どおり。慌てふためく水銀燈を見ていると、笑いが止まらない。
レジから戻ってきた水銀燈は、下を向いていた。
ジュン「あははは、面白かったよ」
水「うぅぅ、もう!ジュンのいじわるぅ!わざとだったのねぇ!」
ジュン「ごめん、ごめん。あははは、今度、何かおごるから許してよ」
水「許さないんだからぁ!バカぁ!」
こうして、日曜日が終わっていく。月曜日になれば、いつもの彼女に戻る。
僕も、同じように元に戻る。
水「ちょっとぉ、肩がこっちゃったんだけどぉ」
ジュン「はい。今すぐ、もみもみします」
水「本当に、あんたは役立たずのゴミだわぁ~」
ジュン「はい、おっしゃる通りでございます」
水「ちゃんと手を洗ってからもみなさぁい。あんたの手は、ばっちぃからぁ」
まあ、こんな風にサディストな彼女も、僕は好きだけどね。
…完。
【今宵月が照らす部屋で】
深夜、月光が射す部屋のベッドの上で水銀燈は月を眺めて物思いにふけっていた。
傍らには愛してやまない少年が穏やかな寝顔を無防備にさらしている。
満月から少し欠けた月
その月から視線を外して部屋の隅に置いてある姿見に視線を移す。
そこには、銀色の髪に月の光を反射させた自分の姿が移っている。
銀「はぁ~」
小さくため息をついて悩みの種である少年の寝顔を見る。
桜田ジュン
すこし冴えないクラスメートの一人にして彼女の恋人
ジュンと付き合いだしたのは今から2ヶ月ほど前、ジュンが彼女に告白してきたのだ。
彼と出会ったのは中学に入学したとき、たまたま同じクラスになり席が隣り合ったのがその始まりだった。
取り立てて取り柄のない彼のどこに引かれたのかと問われても明確に答えることは出来ない。
ただ、優しくて少々ぶっきらぼうで照れ屋のジュンと一緒にいるうちに水銀燈は彼に引かれていったのだ。
親愛から友愛へそしてそれが情愛に変わるまでの時間はさして長くなかった。
だからこそ、水銀燈はジュンから告白されたときは本当に嬉しかった。
水銀燈はもう一度月を見上げてから、ゆっくりと立ち上がり姿見の前に移動する
そして、来ていた衣服を全て脱ぎ捨てると姿見の中に映し出された自分の姿を見つめた。
整った顔立ちに映える長い銀色の髪、真っ白な肌、
雛苺には負けるものの彼女の年齢の平均に以上に豊かなバスト、くびれたウエスト、すらりと伸びた長い脚
その整った容姿は学校の男子生徒の憧れの的だった。
しかし、水銀燈はその自分の身体があまり好きではなかった。
彼女の腹部にある大きな傷跡、幼い頃にあった自動車事故で負ったものでその醜い傷跡が水銀燈は大嫌いだった。
酷い事故で一命を取り留めたのは奇跡だと医師は言っていた。
しかし、そんなことは何の慰めにもならない、身体に残る傷跡は生涯消えることはないのだから
無論、水銀燈とて最初からその傷跡を気にしていたわけではない。
だが、成長するにつれ周りの女子と比べたときそれは大きな染みとなって彼女の心に広がっていった。
そしてその思いはジュンを愛するようになってよりいっそう広がっていった。
こんな身体をしている自分を愛してくれるのだろうか、この醜い身体みて嫌われはしないか
水銀燈の心は常にその不安でいっぱいだった。
最初にジュンと肌を合わせたとき傷のことは包み隠さずジュンに教えた。
水銀燈の話を聞いた彼が目を見開いて驚いていたのを思い出す。
その時彼女は不安で仕方なかったジュンに嫌われはしないかと
しかし、それは杞憂に終わった。彼はそこに優しくキスをすると笑って「気持ちは変わらない」と言ったのだ。
水銀燈はそっとその傷跡を撫で上げる。
ジュンは水銀燈の全てを愛してくれていた。
その気持ちに偽りは微塵もないだろう
だが、それでも水銀燈は自分の身体が、醜い傷跡が嫌いだった。
彼女はそっと振り返ると寝ているジュンの顔を覗き込み囁く
銀「ねぇジュン、私のこと本当に好き?こんな醜い身体をしている私なんかが好き」
ジュンは寝ているので答えはない。
銀「私はあなたのことが好き、他の誰よりも大好きよぉ」
彼の頬を優しく撫でる。
するとジュンは突然目を開き水銀燈を抱き寄せた。
銀「・・・・きゃ!?」
J「たく、何度言えばわかるんだよ」
ジュンは苦笑しながら水銀燈に言った。
J「僕が水銀燈を好きな気持ちはどんなことがあたってかわらないよ」
銀「本当ぉ?」
水銀燈はそっとジュン瞳を覗き込む
J「ああ、むしろ僕がお前に愛想つかされて捨てられないかのほうが心配だよ」
その言葉に水銀燈は安心する。
そして、この人を愛してよかったと心底思った。
銀「うふふ、安心してジュンそんなことありえないからぁ」
そう言って水銀燈はジュンの胸に顔を埋めた。
やはりこの身体は好きになれない、でもいつかきっと好きになれる日が来るだろう、彼と一緒なら
そう思いながらジュンの腕の中で水銀燈は眠りについた。
FIN
銀「ねぇ・・・ジュン」
J「?」
銀「ジュンにだけ聞いてもらいたい事があるの。わたしね・・・赤ちゃん、産めないんだ」
J「え・・・それって、どう言う――」
銀「小さい時に事故にあってね、子宮を・・・摘出したの」
見て、と言って水銀燈は服の裾を持ち上げた。
彼女の真っ白なお腹の下に、ピンク色の手術痕が鉤裂きに這い回っていた。
J「水銀燈・・・」
銀「醜いでしょぉ?・・・せっかく恋人同士になれたのに・・・ごめんね、ジュン」
J「そんな事ないよ・・・そんな事ない」
JUMは顕になった水銀燈のお腹を優しく撫でる。
彼の指が傷痕を優しく愛撫するたびに、水銀燈はお腹の奥に暖かいものが広がるのを感じた。
銀「っん・・・あったかいわぁ、ジュンの指」
J「水銀燈は・・・僕といるのが嫌なのかい?」
銀「そんなわけないじゃない。ジュンの事は大好きよ、愛してるわ」
J「ならそれでいいじゃないか。僕と水銀燈、ずっと二人だけでも」
銀「ジュン・・・」
JUMは水銀燈の目尻に浮かんだ涙をそっと拭い、彼女に口づけた。
ゆっくりと唇を離し、水銀燈の瞳を覗き込む。
J「結婚しよう、水銀燈。僕とずっと一緒にいて欲しい」
銀「・・・・・・はい」
数年後
皆に祝福され結婚したJUMと水銀燈
二人結婚後すぐに養子を向かえ幸せな家庭を築いていたかにみえたが・・・
子供が思春期を向かえその素行が怪しくなってきた。
そのことを兼ねてより気にしていた水銀燈は夕飯の席でそのことを切り出した。
銀「ちょっとぉまた学校サボったんですってぇ」
子供「うるせぇな、いいだろ別に」
銀「よくないわぁよ」
子供「うるせぇつってんだろ、本当の親でもないくせに」
その言葉は水銀燈の胸に深く突き刺さった。
本当の親ではない、それは水銀燈がないよりも気にしていることだったのだ。
水銀燈の目に涙が浮かぶ
しかし子供はさらに言葉を続けようとしたが、刹那、JUMに殴り飛ばされた。
J「おい、お前もう一度言ってみろ!!」
子供「っくなんだよ・・・」
銀「あなた、いいのよぉ」
泣きながらJUMを制止する水銀燈
その手を振り払ってJUMは子供の胸倉を掴みあげた。
J「お前をここまで育ててくれたのは誰だ!!」
子供「別に頼んでなんか・・・」
J「ふざけるな、母さんに謝れ、でないと今すぐこの家からたたき出すぞ」
その剣幕に子供はたじろぐ
いままで何度か殴られたことはあったが本気で殴られたのはそれが初めてであった。
J「いいか、学校に行きたくないならそれでいい、だがまたさっきみたいなことを言ったら今度は本当にたたき出すぞ」
完全に迫力負けした子供は素直に水銀燈に頭をさげる
子供「・・・母さんごめん」
銀「いいのよ、でもこれだけは覚えておいて、私もジュンも貴方のことを本当に愛しているわ」
そういって水銀燈は子供を抱きしめた。
『大嫌いな僕自身』
いつだって、自分のことが嫌いで、嫌いで仕方なくなる。
誰といても、どこにいても、退屈に感じてしまう。空はこんなにも
広く、青いのに僕の心の中は灰色に染まっている。そして、僕はこの憂鬱な日々が
消えてなくなる方法を、見つけたんだ。
ジュン「これで、この世界ともさよならか……。今度は猫に生まれたいな…。いや、もう
生まれてこなくて良いや…」
僕の敵は、僕の中で巣食う化け物かもしれない。校舎の屋上で吹く風は、とても
純粋な気持ちにさせてくれたような気がした。最後の最後に、こんな良い風に吹かれて
僕は幸せな人間だなぁ……。さようなら、『大嫌いな僕自身』
水「ねえ、そこで何をしてるのぉ?」
誰だ?せっかくのチャンスを……。ああ、あれは水銀燈とかいう奴か……。
ジュン「別になにもしてねぇーよ。お前こそ、何してんだよ?」
水「私?私はね、ここで風に吹かれるのが好きなの。あんたもそうじゃないのぉ?」
ジュン「いや、俺はその……。と、とにかくさっきから腕広げて何してんだよ?」
水「こうしているとさぁ、なんだか、鳥になったような気分にならなぁい?」
ジュン「ならねぇーよ。ていうか、パンツ見えてるんですけど」
水「あっそぉ?下着ぐらい、別にいくらでも見て良いけどぉ?ふふ」
ジュン「なんだよそれ……」
僕は、知らない内に彼女に見惚れていた。ポケットの中に潜ませていた遺書は
グシャグシャにしていた。
あの日から、僕は自分でも気付かないうちに、水銀燈と一緒にいる時間が
楽しくて仕方なかった。彼女の口ぐせは、『鳥になりたい』だった。
大空を自由に飛びまわれる、鳥がとてもうらやましかったらしい。
水「あははぁ、ジュンっておかしな人なのねぇ~」
ジュン「水銀燈にだけは言われたくないね、俺としては」
水「どうしてよぉ?私ってそんなにおかしいかなぁ~」
ジュン「そりゃぁ……」
僕たちが話をしている時、クスクスと言う笑い声が聞こえた。どうにも嫌な笑い方だ。
最初は、僕に対して笑っているのかと思えば、どうも違う。
ジュン「水銀燈?どうしたんだ、なんだか顔が青いぞ……」
水「……うっ!」
水銀燈は、急に吐き出した。僕は焦りながら、彼女に肩を貸して、トイレまで
連れて行った。女子便所だからって気にしない。誰も居ないし、僕は中に入り
彼女の背中をさすってあげた。
水「ごほっ……ごほっ……」
ジュン「大丈夫なのか!?なあ、保健の先生呼んで来ようか?」
水「良いの、大丈夫……」
水銀燈の目からは、涙が溢れていた。彼女はどうやら、いじめられていたらしい。
僕はなんて馬鹿な男なんだろうか……。あの日だって、彼女はきっと僕と同じで
飛び降りようとしていたんだ。先に僕がいたから、あんな風にごまかしていたんだ。
水「……辛いよぉ…。ねえ、私苦しいよぉ」
僕は、ただ何も言わず、彼女を抱きしめていた。こんなに誰かを愛しいと
感じたことは、今までなかった…。
放課後、屋上で空を見ながら、僕たちはあの日、自分が死のうとしていたことを
告白した。でも、あの日の出来事は、きっと必然だったんだと僕は思う。
水「私、ずっといじめられていて……。本当に鳥になれたらって、何度も思ったわ」
ジュン「僕だって、自分が嫌いで、嫌いで仕方なかった。だから僕も死のうと思ったんだ」
水「似たもの同士なのかしらねぇ~。私たちって」
ジュン「どうだろうね……」
水「はぁ……。鳥になってしまいたいわぁ」
僕は、彼女の言葉を強く否定した。
ジュン「なれないよ、鳥になんて」
水「そうよねぇ……。私っておばかさんねぇ」
ジュン「君がなれるのは、鳥じゃなくて、『天使』だよ」
水「はあ!?何をいきなり恥ずかしいこと言ってるのよぉ?」
もっと良い言葉が見つけられたら、どんなに格好よかっただろう。でも、僕は
『天使』って言葉しか思いつかなかったんだ。
ジュン「他の人が君を悪魔だと言ったとしても、僕は永遠に君の事を天使だと言うよ」
水「……ふん、もう帰るわね、これ以上あんたといると、顔が熱くなっちゃうわぁ」
ジュン「はいはい……」
僕にははっきりと見えるんだ。君の背中から生える、真っ白な天使の羽根が……。
君と出会えたおかげで、自分のことが好きになれそうだよ…。天使を好きになれた自分自身を……。
さようなら、『大嫌いな僕自身』
…完。
~GTO(グレート ティーチャー オタコン)~
僕の名前はオタコン、薔薇学園で事務の教師をやっている。同じく薔薇学園の倫理教師のスネーク先生の友人だ・・・堀江貴文先生が懲戒免職処分になったのは先々週の事だった。
そこで情報教師に欠員が出て急遽この僕が臨時で情報教師をやることになった・・・。正直不安だ・・・なんたって教壇に立つのなんか初めてだ・・・。しかしそうも言っていられない、最初の授業、2年A組・・・僕が担当するクラスだ・・・。
オ「よ~し・・・やるぞ~!!」
僕はそう気合を入れてドアを開けた。
オ「はい!じゃあ授業始めます!」
翠「あ!!教師がいるです!」
水「なあに~??授業やるの~??」
蒼「本当かい?確か先生は懲戒免職処分になったんじゃ・・・。」
真「ホーリエは悪くない!!」
オ「えっと・・・臨時でこのクラスの情報の担当することになったオタコンです!どうぞヨロシクね!」
水「じゃあ来たとこ悪いけど帰ってくれる~?」
オ「え!?」
金「ZZZ・・・かしら~・・・ZZZ。」
雛「先生オタク臭いの~!」
翠「オタクとかマジいらんです~!!」
水「コミケとか行ってるやつきんも~☆」
薔「・・・。(先生がんばって)」
オ「(こ、こんな時は・・・。)は、はいじゃあ教科書の36Pを笹塚君読んで、そして廊下に立ってて下さい!」
笹「嫌です・・・お前が立ってろ!」
オ「・・・。」
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン
オ「じゃ、じゃあ授業を終わります。」
水「二度と来ないでね~。」
真「ホーリエは悪くないの!!」
こうして僕の初めての授業は幕を閉じた・・・。
オ「スネーク・・・僕は教師には向いていないんじゃないかな?」
放課後の居酒屋で僕はスネークに相談していた。
ス「どうしたんだ?・・・今日が初日だろう?まだ解らんさ!」
オ「わかるさ、あんなにボロボロに言われて・・・誰も僕なんて求めてないんだろうね?」
ス「大丈夫さ!・・・まあがんばれよ!!」
オ「うん・・・あと一日がんばってみるよ・・・。」
そうは言ったものの僕は不安だった・・・。
その帰り道のことだった・・・。
オ「うい~・・・ん?」
オ「あ、アレは??」
僕の目の先には制服で出歩く女子高生の姿・・・うちの制服だ、しかもその生徒は。
オ「水銀燈!?」
時間は深夜1:00少女が出歩くには不適切な時間だ、しかもよく見ていると彼女は近くの中年男性に声を掛け・・・。
水「ねえ・・・5万で最後まで、どお??」
おじさん「おお!いいぞいいぞ!!」
そういって消えていった・・・。
オ「まずいもの見ちゃったなあ・・・。」
オ「水銀燈・・・ちょっといいかな?」
水「なあに~オタク先生?なんか用なの、早くしてよね!」
僕は授業の後水銀燈を人目の無いところへ呼び出した。
オ「実は・・・。」
僕は昨日の一部始終を語った。
水「な~んだ・・・ばれちゃったのね~、そうね!先生もしたくなったの?」
オ「何を!?・・・いや、まだ信じられないんだ・・・。」
水「なあに?・・・私が清純派だったとでも思ってるの~?お馬ぁ鹿さん、したくなったら5万で最後までしたげるわ!」
オ「・・・。」
~放課後 紅薔薇市民総合病院~
水「・・・先生、これ今月の治療費です・・・あ、あのメグは、メグは直りますか!?」
医者「う~ん・・・まだなんとも言えないねえ・・・。」
水「・・・そうですか・・・先生?、メグには会えますか??」
医者「勿論。」
水「メグ・・・。」
メ「水銀燈・・・。」
水「お金のことは気にしないで・・・メグは早くよくなってね!」
水「ねえ・・・おじさん、5万で最後まで、どお??」
おじさん「よっしゃ!やったるで~ハアハア・・・。」
水「今日ももう一稼ぎ~っと!これで今月分は大丈夫♪」
水「あの~、おじさん、5万で最後まで、どお??」
おっさん「ん?なんじゃええなあおい!!よし!さあ行こか!」
そのおっさんは明らかな・・・と言うほどヤバめな人だった。
??「まった・・・僕の生徒です!この話はなかったことに!」
水「え!?ちょっとあんた!!なんで・・・。」
おっさん「ああ~?、なんじゃお前は!?」
オ「オタコン・・・この娘の教師です。」
おっさん「おお!ええ度胸じゃな自分!!ちょっと来いや!!」
おっさんはそういうと携帯を取り出した。
おっさん「事務所までつれてくことはあらへん、ここで殺る!」
水「ちょっと・・・なんで・・・なんで出てくるのよ!?」
オ「言っただろ・・・僕は君の教師だ、教師には生徒を守る義務がある・・・。」
水「先生・・・。」
-裏路地
オ「グハッ・・・」
おっさん「なんや自分?もうだめか?」
オ「ま、まだだ・・・。」
おっさん2「はよあきらめろや・・・悪い事いわんから。」
おっさん3「はやくあの娘としたいな~・・・終わったらまたソープへ沈めて一稼ぎ?」
おっさん「そうそう!ぐはははは!!」
オ「そんなこと・・・させない・・・水銀燈は僕が守る!」
おっさん「まだいうてんの?そろそろ仕舞いにするか?(チャキッ」
そういうとおっさんはナイフを取り出した・・・。
??「ちょっとまて・・・。」
おっさん「ああん?、なんじゃ自分??」
オ「き、君は・・・スネーク!!」
ス「待たせたな・・・よく耐えた。さあ後は俺に任せろ・・・。」
後の事はよく覚えていない気付いたらスネークに負ぶわれて水銀燈の前にいた・・・。
オ「水銀燈・・・怪我はなかったかい?」
水「なんでよ?何で私なんか助けたの?私たちは先生のこと・・・」
オ「僕は君たちの先生、それで十分じゃないか・・・。」
水「先生・・・。」
水銀燈はそういうと何も言わず僕の胸の中で泣いた。
オ「そういえばスネークはなんでここに??」
ス「水銀燈が呼んだんだ・・・今にも泣きそうな必死の顔でな・・・。」
オ「水銀燈・・・。」
それからの僕たちは大変だった、僕は水銀燈から事情を聞かされた病院の友達のことも、残りの治療費のことも・・・。
オ「水銀燈、残りの治療費はいくら残ってるんだい??」
水「まだよく解らない・・・でも近く大変な手術するって言うし・・・全部あわせて100万くらい・・・。」
オ「そうか・・・。」
僕の給料じゃとても間に合わないので二人でバイトして稼ぐ事にした、水銀燈は・・・
水「そんな!?先生いいわよ!!」
って言ってくれたけど大事な生徒にそんな苦労をさせるわけにはいかない!しかし直ぐにそんな大金用意できるわけない
僕は生まれて初めて借金をすることにした・・・。
萬田銀次郎「わいが貸すんは地獄銭!!トイチの利息がついてまんねん!!」
オ「それでもいい、入用なんだ!!」
萬田銀次郎「・・・よっしゃ!!100万持って来なはれ!!」
そして僕はその借金を返すために働きまくった。もちろん水銀燈に借金の話は内緒である・・・。
そして借金を全て返済しメグの手術も無事成功に終わったある日・・・。
水「先生・・・紹介したい人がいるんだけど・・・。」
ぼくはそういう水銀燈に連れられて病院の一室まで招き入れられた。
水「メグ・・・この人が私の先生・・・オタコン先生よ。」
メ「あなたが!?、水銀燈から話は聞いてるわ、ありがとう・・・私のことも、水銀燈のことも・・・。」
オ「い、いやあ・・・僕の大事な生徒ですし・・・。」
メ「オタコン先生っていい人ね。」
水「うん!いい先生よ!!」
病室内にそんな3人の笑い声が木霊する。
オ「(スネーク、やっぱ教師っていいもんだね!!)」
その後退院して元気になったメグとオタコンが市内の小さな教会で式を挙げるのは、まだ先のお話・・・。
~GTO グレートティーチャーオタコン~完
J「ちょと、抱締めて良いかな?」
昼休みの屋上、この二人以外に誰も居ない。
水「まだ、昼休みじゃなぁい。家に帰るまで我慢なさぁいよぉ」
ジュンを軽くあしらう。
J「やだー絶対にやだー今すぐ抱締めないと、俺は駄々をこねる」
水「もう、今日のジュンはどうしたのよぉ」
J「ちょと、待て。本気で駄々をこねる俺は恐ろしいぞ?」
水「へぇ、どんな風なのかしらぁ?」
興味を持ち出した。
J「俺が駄々をこねるとき、世界は核の炎に包まれるだろう・・」
水「それは、大変だわぁ。ほら、おいでぇ抱締めて良いわよぉ」
J「ありがとう救世主!」
『だきぃ』横から抱締める。
顔をサラサラの髪に埋める。
J「んん・・気持ちい・・」
水「もう、本当に甘えん坊さんねぇ・・」
水銀燈の手が自分を抱締めるジュンの腕に添えられる。
J「ここに、居るよな・・水銀燈は・・」
水「ええぇ・・ずぅうと一緒よぉ・・」
屋上を一陣の風が凪いだ。そう、僕達を包み込むように・・