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夏の暑い昼下がり。ただでさえ暑いのに、校舎の中にいると更に暑く感じる。いや、実際暑い。
外は風が通るのに対し、校舎の中は風が通りにくいのである。しかも、外は蝉の大合唱。
そんな中で、翠星石がイライラするのも仕方の無い話だった。
と、そこへ、ノー天気そうな顔をして廊下を歩いている雛苺を発見した。
翠「おばか苺!」
イライラしている心を少しでも紛らわすため、翠星石は少し棘のある言い方で雛苺を呼び止めた。
雛「おばか苺はひどいのぉ!ヒナ、何も悪いことしてないのぉ!」
翠星石の呼び声(ひどい呼ばれ方だが・・・)に気が付いて、雛苺が抗議をしながら翠星石の所へ寄ってきた。
雛苺の言い分は最もである。いきなり”ばか”と言われればムッとする。
しかし、翠星石は意に介した様な素振りが無い。
翠「雛苺がばかなのは常識ですぅ」
そう言うものの、実際は雛苺の方が成績がよい。2人とも成績は良いのだが、翠星石は20~30位、雛苺は
トップ10以内の差がある。
雛「ヒナの方が成績いいの…」
翠「何か言ったですか!?」
雛「ぴゃっ!」
雛苺の呟きを聞き逃さなかった翠星石は、即座に威圧する。
雛苺より成績が悪いのを、翠星石は密かに気にしているのだ。しかし、本人が「密かに」と思っているだけで
周りの面々は雛苺以外、皆気付いている。

翠「ふん、まあいいですぅ。それでおばか苺、放課後はあいてるですか?」
イライラの治まっていない翠星石は再度、雛苺をばか呼ばわりにした。
雛「だから成せ…」
バン!!
雛苺がまた何かを言いかけたので、翠星石はそれを遮るように壁を叩いた。
雛「ぴゃっ!あ、あいてるのー!なにも予定はないのぉ!」
これ以上何か言うと危ない。身の危険を感じた雛苺は素直に答えた。
翠「よろしいですぅ。じゃあ、放課後に買い物に付き合うですぅ」
雛(素直じゃないのぉ…)
心でそう思いながら雛苺は誘いを受けることにした。帰っても特にやることがなかったのだ。
雛「うぃ、わかったの…。蒼星石も来るんだよね?」
翠「今日は蒼星石はいないですぅ」
それを聞いた雛苺は少し驚いた顔をした。
雛「ぅよ?めずらしいのぉ。蒼星石とは行かないのー?」
その通り。翠星石はいつも、事あるごとに蒼星石と行動していることが多いのだ。誘われるにしても、翠星石と
蒼星石と誰か、という具合だった。その蒼星石がいない。これはとても珍しい事だった。
翠「今日は用事があるみたいです…」
少しだけ寂しそうな顔をして翠星石は答えた。
雛「わかったなのぉ!翠星石は、きょうはヒナとお買い物に行くのー!」
暗い顔を見るのが嫌な雛苺は、出来るだけ明るく翠星石に答えた。

キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪

休み時間の終了を告げるベルが鳴り響いた。
雛「じゃあ授業終わったら正門前で待ち合わせなのぉ!」
雛苺は翠星石に一方的に言うと、自分の教室へ帰っていった。
放課後、それは生徒の気分を高揚させる時間帯。友人と話す者、部活に打ち込む者、家路を急ぐ者・・・。皆、それぞれに
笑みをたたえている。
翠星石と雛苺も例外ではない。
彼女達も、やはり「放課後」は嬉しい時間帯なのだ。
雛「で、どこに行くのー?」
雛苺がいつもの笑顔で翠星石に問いかけた。
翠「駅前のデパートですぅ。靴を買いにいくですぅ」
校舎の中とは打って変わって、翠星石も笑顔で答える。
雛「お靴がほしいのぉ?それならどこでも買えるのぅ」
確かに、今時であれば靴なんかどこにでも売っている。
翠「違うですぅ!これを見るです!」
そう言うと翠星石は自分の鞄から雑誌を取り出した。
翠「これです!これじゃないと駄目なんですぅ!」
雛苺が覗き込むと、そこには黒のかわいらしい靴が載ってあった。
雛「かわいいのー」
素直な感想を翠星石に返した。
翠「ふふん、この靴が残り1足しかなかったら雛苺は買えないですぅ♪」
雛(別にいらないの…)
上機嫌で言う翠星石を横目に雛苺は密かに思った。

綺麗な装飾。空調の効いた部屋。明るい室内。
そう、ここはデパートの中。そして、翠星石と雛苺はお目当ての靴が売っているお店にいる。
翠「あったあった、これですぅ!」
お目当ての靴を見つけると、翠星石は小走りにその靴へと駆け寄った。
翠星石と離れてしまわないよう、雛苺も追いかける。
翠「これが欲しかったですぅ。すいませーん!」
買う気満々の翠星石は即座に店員を呼んだ。
店員「はい、なんでしょう?」
店員は必要以上のスマイル(営業スマイルともいう)でこちらへきた。
翠「この靴で私に合うサイズはないですか?」
店員「この靴で…、少々お待ちください」
そう言うと店員は靴を飾っている所の下の引き出しをあけ、ごそごそ探し始めた。そして、暫く探した後
店員「申し訳ございません、その靴の在庫はございません」
と申し訳なさそうに返答した。
翠「ええぇ~!そんなぁ…」
心底がっかりした感じで翠星石は嘆いた。
店員「…あら?」
店員が何か気づいたようだ。

店員「この展示の靴、お客様のサイズぴったりですよ。もしこれでよろしければお売り出来ますが…。」
恐る恐る、といった感じで店員が翠星石に提案した。
翠「本当ですか!?」
今まで暗かった表情から一変、翠星石はパッと輝いたような顔になった。
店員「ふふ…はい、お客様さえよろしければ」
コロコロ変わる翠星石の表情が面白かったのか、店員は少し笑いながら答えた。しかし、笑われた翠星石はそのことに
気づいていない。
翠「いいです!それ、もらうですぅ!」
この靴を手に入れるのをひたすら楽しみにしていた翠星石に、”断る”という選択肢はなかった。
店員「はい、かしこまりました。展示品なので少し値引きしておきますね」
店員は先ほどの、必要以上なスマイルではなく、ごく自然な笑顔で返した。
翠「やったですー!」
それを聞いた翠星石は、今日一番の笑顔を浮かべた。

翠「今日は良い日ですぅ~♪」
買い物が終わって、翠星石は靴を抱きしめたまま上機嫌で公園の中を歩いていた。
雛「ヒナ疲れたの。翠星石、ちょっと休もうよぉ」
上機嫌な翠星石はともかく、振り回された雛苺はかなり疲れていた。
翠「そうですねぇ…あっ、あそこにしましょう!」
雛苺の提案を受けて翠星石は、公園の中の空いているベンチを見つけた。
2人はそのベンチまで移動すると、それぞれに腰をかけた。
翠「ふぅ、ちょっと疲れたです…」
翠星石はテンションが上がって気が付かなかったが、翠星石自身もかなり疲労している。
翠「ちょっと喉渇いたですね。そうだ雛苺、翠星石がおごってやるですよ」
雛苺を買い物に付き合わせたお礼も込めて、翠星石はジュースをおごろうと思った。
お金は靴代の割引が結構大きかったので、300円弱の出費は余裕だった。
雛「うわーい!ありがとうなのぉ!んじゃぁヒナね、苺ミルクがいいの!!」
まさか翠星石からおごってもらえると思っていなかった雛苺は、諸手をあげて喜んだ。
翠「苺ミルクですね、ちょっと待ってるです」
そう言うと翠星石は自動販売機のあるところへ向かった。

ピッ…ガチャン…

雛苺の苺ミルクと、自分の分のオレンジジュースを買い、雛苺の所へ戻ろうとした時
びゃーーっ…
と雛苺の悲鳴が聞こえてきた。
翠「雛苺!?」
驚いた翠星石はダッシュで雛苺のところへ戻った。

翠「雛苺!?」
戻った翠星石が見たものは、明らかに性質の悪そうな二人組みの男に囲まれた雛苺だった。
男A「お嬢ちゃん、怖がらなくていいからさ、俺達と遊ぼうぜ」
男B「そうそう、絶対楽しいぜ?」
にやけ顔で雛苺に迫って行く2人の男に対し、雛苺は涙を浮かべながら必死の抵抗をしていた。
雛「やなの!絶対にやなの!!今日は翠星石と買い物に来ただけなの!!」
大きな声を上げて抵抗する。周りの人も「警察呼んだほうがよくない?」とは言ってるものの、実行しようとする人は
見当たらない。
翠(キーーッ、使えない奴等ばかりですぅ!!)
そう思いながら翠星石は二人組みの男に近寄った。
翠「下賎な野郎ども!その子に何してるですか!!」
自分でも驚くほど大きな声で翠星石は叫んでいた。
男A「君がこの子の連れ?へぇ~、かわいいじゃん」
2人の男は翠星石を値踏みするような目で見ている。
翠「気持ち悪い目で見るなです!汚れるです!!」
無意識にそんな言葉が翠星石から発せられた。
男B「なにぃ!?」
流石にムッとなったのか、男Bが翠星石に近寄ってきた。
翠「ひぃっ!く、来るなですぅ!!!」
空恐ろしく感じた翠星石は、右手に持ってたジュースを男に投げつけた。
男B「!!!!!!!!!」
翠星石が咄嗟に投げた缶は、運悪く男の急所に当たった。
男B「~~~~~~!!」
男A「大丈夫か!?」
言葉にならない痛みに悶えている男Bに、男Aが駆け寄った。
男A「てめぇ、何しや…」
?「お前ら~!何やってる~!!」

鬼のような形相で翠星石に詰め寄る男A。しかし、男Aが彼女に触れることは出来なかった。遠くから救世主が現れたのだ。
紺色の、きちっとした制服。制服と同色の帽子。その帽子には金色のエンブレムが付いている。
間違いなく、警察官だった。
警察官は自転車に乗って猛然とこちらへ向かってくる。
勿論、彼が標的にしているのは可憐な乙女2人ではなく、性質の悪そうな男2人だ。
警「お前らー!!」
警官も、やはり鬼のような形相で男2人を捕まえようとする。
男A「や、やべぇ!!おい、逃げるぞ!!」
今までの態度から一変、血の気の引いた男2人は一目散に逃げ始めた。
警「まてコラーー!!」
逃げ出す男2人を猛然と追撃している。乙女2人を無視して。
やがて警官は、声が聞こえない程遠くへ行ってしまった。
翠「…はっ!」
半ば放心状態だった翠星石であったが、雛苺の無事をまだ確認していないことに気が付いた。
翠「雛苺、大丈夫だったですか?」
心配そうな声を出し、雛苺に話しかける翠星石。しかし、雛苺は俯いたまま返事をしない。
雛「……か……の…」
いや、返事はしていた。ただ、翠星石に聞こえていなかっただけ。
翠「もしかして、どっか怪我とかし…!」
雛苺を覗き込むようにしていた翠星石。すると、いきなり雛苺が抱きついてきたのだ。
翠「ちょっ、雛いち…」
雛「怖かったの!ヒナ、あのまま何処かに連れ去られると思ったの!!」
翠星石の胸に顔を埋める様にして泣く雛苺。
それもそのはず。あんな状況になれば、人見知りの激しい翠星石は失神していたかもしれない。
翠「しかたないですねぇ…」
そう言うと翠星石は、雛苺の髪を優しく撫でてやった。

30分ほど経ったであろうか、雛苺はやっと泣き止んだ。
辺りを見るとビルが夕日に赤く染まっていた。
翠「落ち着いたですか?」
雛苺が泣き止むまで、ずっと髪を撫でていた翠星石。
雛「…うん。ありがとうなの。翠星石」
ずっと泣いてたせいで大きな目が真っ赤の雛苺。それでも、ぎこちなくではあるが笑って見せた。
翠「いいですよ、別に」
そう答えた時、翠星石は自分の左手に違和感を感じた。何か持っているのだ。
翠(何でしょうね…)
気になって自分の左手を確認する翠星石。そこには、「苺ミルク」がしっかりと握られていた。
翠(じゃあ、あの時投げたのは…)
そう、彼女のオレンジジュースだった。
翠(まあ、仕方ないです…)
この状況で自分だけジュースを飲めるわけが無かった。
翠「これでも飲むです。ちょっとぬるくなっちゃったですけど」
翠星石はそう言い、雛苺にぬるくなった苺ミルクを渡した。
雛「ありがとうなの」
雛苺は少し微笑むと苺ミルクの蓋をあけ、少しずつ飲み始めた。

苺ミルクを飲んでいた雛苺がポツリと話はじめた。
雛「ヒナね、とっても怖かったの。あのまま誰にも助けてもらえなくて、そのまま何処かに連れて行かれるんじゃないかって…」
苺ミルクの缶を見つめながら話す雛苺。
雛「いつもなら蒼星石や真紅がついてくれてたの。でも、今日は一人だったの。翠星石もヒナに気が付いてくれないんじゃ
  ないのかなって思った。もしかして、ヒナを見捨てたんじゃないかって」
雛苺はそこまで言うと、ゆっくりと顔をあげた。そして、翠星石を見つめる。
雛「でも、翠星石は来てくれたの。ヒナを助けてくれたの。翠星石、ありがとうなの…」
とてもかわいい顔でお礼を言う雛苺。
翠「べ、別に礼を言われるほどじゃないですぅ!」
恥ずかしさのあまり、明後日の方向を向いてしまう翠星石。まともにお礼を言われるのは苦手だった。
だが、その顔は夕日のせいとは思えないほど真っ赤であった。
雛「ねぇ、翠星石?」
雛苺が翠星石を呼ぶ。
翠「何です?」
ちゅっ・・・
振り返りざまの翠星石の唇に、何かやわらかいものが触れた。
翠「………!!」
何が触れたか、翠星石は理解するまで少しの時間を要した。
雛「えへへ…。今のはヒナのお礼なの」
そういう雛苺は屈託の無い笑みを浮かべている。それを見てしまった翠星石は何も言えなくなってしまった。
翠「…仕方ないですね。今日はこれでおあいこにしてやるです。あんまり遅くなると家の人が心配するから、今日はもう帰るですよ」
雛「うん!」
翠星石に満面の笑みで返す雛苺。そうして、2人は帰路についた。
靴と、ちょっとしたスリルと、苺ミルクの味を残して。

end