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『あなたの瞳に映るのは』

16年間、微かな光しか与えられたことのない少女たちは、それを『映像』と認識するまで、多少の時間を要した。

窓硝子に映る少年が見えた。
同じ年ほどの少年だろうか。
彼の表情は曇っていて。
悩みがある。
戸惑いがある。
苦しみがある。
自己嫌悪がある。
生きているという感情が彼女ら二人にはとても理解できた。
そして他人とは思えない親近感が沸いた。
『この人も、私たちと同じ・・・』

大人びた容姿の女の子が見える。
彼女の笑顔はどこか儚くて。
銀色の髪の毛がどこか哀しくて。
紅い瞳がとても切なくて。
彼女の言葉は聞こえなくて・・・。

「じゃあ包帯をとるよー。光にやられないようにゆっくり目をあけてねー」
医師の言葉に従い、翠星石と蒼星石の二人はゆっくりと目を開ける。
16年間僅かな映像しか認識することができなかった脳に、生まれて初めて鮮明な映像が流れてくる。
「確認するよーこれはなにかな?」
医師は指を一本出す。
「い・・・一?」
「一・・・デス」
はじめはなんだかわからなかったが、1という意味は知識として頭の中に入っていたため、理解できた。
「まあ、初めてみる世界だからね。君たちの頭の中にある知識と、現実のものに多少のズレあるかもしれないけど・・・』
医師のくどい話など聞き流して、翠星石と蒼星石はお互いと己の顔を見比べた。
「あはは。蒼星石、これが蒼星石デスか・・・双子だけあって翠星石とウリ二つデス」
「うふふ。そうだね翠星石。片目しか見えないけど、全盲に近い僕たちに眼球を提供してくれた人に感謝しなくちゃね」
「そうデス。お互い片目しか見えないけど、二人一緒なら大丈夫デス!」
二人は鏡を見る。
初めて見る顔。
映像を映し出しているのは・・・彼女たちのものではない。
違う色の瞳。

ドナー

ドナーは知らない。

「ありがとうございましたー」
いくら売っても利益にならないスマイルを振りまき、水銀燈は苦笑いしてしまった。
(・・・変わったわね。これも彼のおかげかしら)
我ながら、あまりのポジティブさに驚いていた。
あんなに周りを嫌っていた自分が茶番を演じていたようにしか思えなくて。
バイザーに滲む汗が心地よくて。

「蒼星石!翠星石は一度ファーストフードとかいうジャンクフードを食べてみたかったデスよ!」
「翠星石、お店の人がいるのに、そんなこと言っちゃ悪いよ」
「いらっしゃいませぇ。ふふ、当店には『ジャンク』フードなんておいてませんよぉ』
水銀燈は笑顔で二人を応対する。
「んー・・・どれがおいしいのかわからないデス・・・」
「お勧め聞いてみようよ。この人優しそうだから・・・」
「そうデスね・・・」
二人が相談している間、水銀燈は笑顔でいた。
『あの、アナタのお勧めにしたいとお願いします』
ユニゾンした声と曇りの無い瞳が水銀燈を見た。
「・・・・・・」
「あの、どうかしました?」
「え?あ、ああご、ごめんなさい。えっと、私のお勧めは、このセットで~」
淡々と説明する水銀燈。声に動揺の色が見える。
「・・・ドコかで会ったこと、あったデスか?」
疑問に思った翠星石が質問する。
「・・・そういえば私の行ってる学校と同じ制服ですね。ネクタイの色から見ると二年生なのかな?」
「そうなんデスか!あの、翠星石たちは、やっと目が見えるようになってデスね。それで、それで・・・」
「翠星石、後ろが詰まってるよ」
後ろを見ると不満顔の行列ができていた。
「あの、よろしかったら、明日一緒にご飯を食べにいきませんか?明日はバイトは休みだし。おいしい
お好み焼き屋も知ってるのよ」
「わかりました!なら明日の放課後、校門前で待っています」

気になっていた。
彼女たちの瞳。二人して左右の色が違っていた。
でも違っているほうの瞳の色は同じ色で。
あの眼は・・・あの人の。

ファーストフード店からの帰り道、二人は食べ歩きをしながら会話という女子高生では当たり前だけど
憧れであった行為をしていた。
「ねえ翠星石」
「なんデス?」
「あの何度も夢に出てくる銀色の髪の人。さっきの店員さんにそっくりだったよね」
「言われてみればそうデスね」
「それで、それでもう一人のあの男の人だけど・・・」
そう言いかけた蒼星石は足を止める。
「好きになったデスか?」
蒼星石は無言で頷く。
「私たちは双子デス。蒼星石の考えていることぐらいわかります!」
「明日、あの人に聞いてみよう・・・」
蒼星石は食べかけのハンバーガーを頬張った。

~地獄お好み焼きチェーン店 『フリーザ』~

「ほっほっほ。水銀燈さん。いらっしゃい。今日はアルバイトの面接ですか?あなたほどの人間なら私は
高く評価しますよ。早くあの店やめてこっちへきてください」
「こんにちは。フリーザさん。今日はお好み焼きを頂きにきました。全国チェーン店とはいえ、
ここのお好み焼きは絶品ですからね。あと、べジータはいますか?」
「べジータさんですか?ほっほっほ。居ますよ。おーいべジータさん。水銀燈さんがいらっしゃいました。
おいしいお好み焼きを作ってあげなさい」
「あいよー」
べジータがのっそりと厨房から顔を出す。
「お、その双子はなんだ?」
「なんだは失礼でしょぉ。この子たちは私のお客様よ。早く席に案内しなさいな」
「はいはい」
べジータに案内されて三人は卓に着く。

「水銀燈先輩は、なんか、大人っぽいですね」
「そうデス」
褒められた水銀燈は自重気味に笑う。
「そんなことないわ。私だって、変われたの最近だもの」
「へー」
雑談はしていると、べジータが卓にやってきた。
「はいちょっとごめんよ」
慣れた手つきでお好み焼きを作っていく。
その手さばきに翠星石と蒼星石の二人はいちいち関心する。
「初めてか?」
べジータはちらりと二人を見る。
間違いない。二人の目は・・・。
「あの、水銀燈先輩。聞きたいことがあるんですけど」
「なあに?蒼星石ちゃん」
お好み焼きは両面が焼け、べジータはソースとマヨネーズを薄く塗る。
上から振りかけた青海苔と鰹節が踊っていた。

「寝ている時に・・・水銀燈先輩が映るんです。その時の水銀燈先輩はなんか悲しそうで・・・ううん
それより、もう一人映るんです。男の人が、なにか悩んでるような・・・。でもそこがステキで・・・会え」
「会えないわ」
「え・・・?」
「あなたと彼は会えないわ」
蒼星石の目から涙が落ちた。
「ちょっと!そんなに強く否定するなんてどういう了見デスか!」
妹を庇う翠星石。強く叩いたテーブルが箸を揺らした。
「・・・」
「答えるデス!」
「・・・そいつは。今この場にいるよ。そしてもういない」
べジータは淡々とお好み焼きを切り分けていく。
「ど、どういう・・・」
べジータは水銀燈を見る。お互い、眼で会話した。
水銀燈は頷いた。
「あいつは死んだよ。そしてお前ら三人を生かしてる。水銀燈には心臓が。お前らにはあいつの眼球が。」
六等分されたお好み焼きを2つずつ皿に盛り、三人に差し出す。

「お待ち」
湯気がたつお好み焼きに誰も箸を進めない。
「・・・はは、僕、なんてバカなんだ。し、死んだ人に恋するなんて・・・。よく考えてみたら、僕たちがみる水銀燈先輩は、誰にも見せたことのない表情をしていた。きっと、あの人と・・・すいませんでした!」
蒼星石は顔を覆い。外へ飛び出した。
「ちょ!蒼星石!」
翠星石は蒼星石と水銀燈を交互に見る。水銀燈も、泣いていた。
べジータのほうを見る。へらを遊ばせて、鉄板のこげを取っている。彼もどうしたらよいかわからないのだ。
「どうしたら・・・」
翠星石は肩を叩かれた。店長だった。
「これを持っていきなさい」
おしぼりだった。顔を拭いてやれとのことだろう。
「サンキューデス店長!」
翠星石は駆け出した。
「べジータさん。代わりにギニューさんを呼んでおきました。もう上がっていいですよ。そのベショベショの顔では接客はできませんからねえ」
べジータも泣いていた。落ちた涙が鉄板で音を立て、蒸発していく。
「俺だって・・・辛いんだ」

薄暗い夜道を蒼星石は走り抜けていく。当てなどない。
ただ走る。体力が続くまで。
勝手な初恋。実ることなく失恋。
それは死んだ人だから。
自分たちに光を与えてくれた人。
水銀燈に生きる道をあたえた人。
でも好きだった。
初めて姉以外の人間を好きになれる気がした。
「・・・酷いやつだな」
乾いた笑いが闇に消えていく。やがて、涙がじわりと出てきた。
「・・・なんかもう疲れたなあ」
蒼星石はその場にすわりこんでしまった。

「やっと、やっと見つけたデス蒼星石ぃ!」
息を切らせた翠星石が蒼星石に駆け寄る。蒼星石は逃げようとした。
「ちょっとそこになおれ!デス」
姉の怒声に妹は足を止めた。
「ごめん」
「別に謝ることないデス・・・」
翠星石は泣きじゃくる妹の肩に手を置く。
「・・・だって。だって・・・僕、先輩に・・・先輩のこと・・・なにも知らないのに・・・・酷いこと・・・」
「そんなこと言うなデス。蒼星石は悪くないデス」
翠星石はフリーザから貰ったオシボリで蒼星石の顔を拭く。
ほんのりと、暖かかった。

「でも、僕・・・初めてみたあの人のことを・・・」
翠星石はなにも言わず、抱きしめる。
「あなたの瞳に映るのは、その人だけデスか?翠星石は映ってないデスか?父さんや母さん。それに
あの人から命を分けてもらった水銀燈先輩は映らないデスか?」
溢れてくる涙を抑えて、翠星石は続けた。
「蒼星石が・・・好きな男性が見つかるまで・・・翠星石が・・・愛してやるデス。
私たちはやっと目が見えるようになったではないデスか。朝陽を浴びて、布団から出て、朝食を食べて
着替えて、歯を磨いて・・・制服着て、学校に行って、勉強するのをどんなに待ちわびたことか。
そしてそれがどんなに幸せなことか。・・・私たちは片目しか見えないけど・・・」
「二人一緒なら、両目になるね」
蒼星石は笑ってみせた。
「・・・こいつ。やっぱ翠星石の妹デス」
「あーあ。お腹空いたよ。お好み焼き食べに戻ろう」
「まったく、蒼星石はいやしんぼデス!」
「さめちゃったと思うからまたあのべジータって人に焼いてもらおう!」

二人は仲良く、歩いていった。

そう、二人が別々な人を好きになるその日まで・・・。

『あなたの瞳に映るのは』 ~完~