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―猟奇的な彼女―
自分の手に掴めるかもしれない物が、遠くへ消えていく。
少しばかり臆病で素直でなかった自分から、離れていく。
でもそれが収まった場所は、決して見えないところではなく。
だからこそ、悔しくて哀しくて、それでも喜ばしいことだった。
わかっている。今こんな風に抽象的に見えるコレは夢に過ぎない。
現実をこんな風に現しているという事実は、少々腹立たしい。
「ふふふ……」
遠目にそれを見ながら思い出す現実。実に厳しい現実。
だが、決して負けてなるものか。譲ってなるものか……
「あははははは!!待ってやがれですぅ!!」
故に、翠星石は眼を覚ます。
心地良さと胸糞の悪さを同居させた夢から現実へと帰還する。
――欲しいものなら、奪ってでも勝ち取ってやると。

桜田ジュンに蒼星石が告白してはや1ヶ月程。
姉の翠星石と想い人を同じくしていることには気付いていた。
だがそれでも、姉にだって譲りたくないものがあった。
罪悪感を感じながらも、先に告白して得られた応えはイエス。
そんな蒼星石を、翠星石はよかったよかったと笑顔で祝福してくれた。
罪悪感を更に募らせながら、蒼星石は感謝し……同時に不気味さを感じていた。
「蒼星石ーご飯ですよー」
「あ、ちょっと待っててー」
一瞬思考を打ち切り、階下へと下りていく。
最近、翠星石はよく笑うようになった。そして、口数が少なくなっていた。
長年一緒にいる姉妹だからこそわかる程度の些細な変化ではある。
だが確実にその点において変化していることを、蒼星石は見逃さなかった。
(……何か企んでるんじゃないだろうね、翠星石)
「そう言えば、蒼星石がジュンと付き合い始めてもう1ヶ月ですか?」
食事を取りながらそんな風に翠星石が切り出した。
最近よく翠星石は二人の関係についての話をしていた。
「ああ、そろそろそうだね……その、翠星石」
少しだけ居たたまれなくなって、謝ろうとした蒼星石。
「でも一度もウチへは呼んだことがないですねぇ」
少しだけ寂しそうな表情をしている翠星石に、更なる罪悪感。
まさか本人の目の前でお前がいるからだとも言えまい。ちょっと思っていたが。
「翠星石のことなら気にしないでいいですよ」
「あ……すい、せいせき」
きっと、気付いていたのだろう。ある程度蒼星石が気を遣っていたことに。
「嫌だったら翠星石はその間何処かに出かけてるですから」
「……ごめんね。ごめんね、変な気を遣わせて……ありがとう翠星石」
罪悪感を押し殺し、感謝の気持ちだけを蒼星石は伝えた。
「いいですよ……何も問題はないです」
だから――翠星石が嗤っているのに、蒼星石は気付かなかった。

授業の終了後、蒼星石はジュンの所に行った。
「ねえ、ジュン君。今晩……食事にウチに来ないかい?」
「え、行ってもいいのか?」
今まで蒼星石の家、つまりは翠星石の家に行かないのは暗黙の了解だった。
ジュンは翠星石の気持ちにも気付いていたし、気を遣って当然だった。
……ただ、ジュンが翠星石にも好意を抱いていたことは秘密だったが。
「うん。翠星石が、呼んでくればいいって……だから今日はご馳走するよ」
「そうか……嬉しいよ。ありがたくご相伴に預からせてもらいます」
許しさえ出ればあっさりと決まることだなあと、二人は笑いながら思った。

談笑する二人を、廊下側の窓から翠星石が嗤って見ていた。

……
家に帰った蒼星石は、夕食の準備をしていた。
ジュンが家に来るという話は既に姉には済ませている。
「ねえ、蒼星石」
「何~翠星石~」
「蒼星石は、翠星石のこと好きですか?」
突然の質問、料理の手を止めて、振り返る。
「最近翠星石は、蒼星石に嫌われたんじゃないかと心配で……」
「……僕が、翠星石のことを嫌いになるはずないじゃないか」
本心だった。何があろうと、それだけは絶対に嘘にはなりえない。
「じゃあ、これくらいいいですよね」
「え?」
翠星石が、蒼星石の唇にキスをした。

「んっんぅぁ……んぁ」
頬を染めた翠星石の舌が、蒼星石の口内を蹂躙していく。
声が出せない。何故こんなことをされるのかと思いながらも、されるまま。
抵抗することは出来ず、その行為に思考が少しずつ麻痺して行った。
「ぁ……んぶぅ」
蕩けた脳が指令を出す。翠星石の行為に応えようとする。
反射するように、ただされるままでなく、蒼星石も舌を絡めていく。
「ん……ぁ……ぴちゃ」
一瞬蒼星石の舌に、何か当たったような気がしたが、気にならなかった。
分泌される唾液を交換しながら、二人で飲み干しあった。

口を先に離したのは、翠星石の方からだった。
互いの口元から伝った唾液が糸を引く姿が、酷くいやらしく見えた。
「あ……翠星石、なんでこんな……」
「そんなの、蒼星石が好きだからに決まってますぅ」
とびっきりの笑顔で、少し恥ずかしそうに笑う翠星石。
なんだか、それを見ただけで蒼星石の脳は揺れているようだった。
「あ、でも……ぼくたち……しまぃ」
「そんなの関係ないです。好きだから関係ないです」
言葉の一つ一つが、蒼星石を揺らしていき、まともな判断力を奪った。
「あ……め……あたま……」
精神的にも、物理的にも蒼星石の体は揺れていた。
あまりのショックに、意識が保てなくなり……何事か呟きつつ気絶した。
上から、翠星石が見下ろしていた。

ほんの少し緊張しながら、家の呼び鈴を鳴らした。
待ち構えていたようにすぐ玄関が開き、蒼星石が顔を出す。
「いらっしゃい、待ってたよジュン君」
「ああ、お邪魔します」
嬉しそうに笑う蒼星石に、緊張は大凡解された。
案内されるままに中に入って、少し気になった。
「そういや、翠星石は?」
「ああ、姉さんはさっき出て行った。気を遣ってくれたんだと思う」
「そうか……」
罪悪感を覚えた。それでも、この状況が嬉しいことに変わりはない。

食事を取りながら、ジュンはいつもと違うなと思った。
あまり見慣れない私服の所為か、うっすらとした化粧のせいか。
何処かいつもより少しだけ、蒼星石が大人びて見えた。
「今日は、いつもより可愛いよ」
歯の浮くような台詞が、口から自然と出た。
ワインに酔っているのかもしれない(未成年の飲酒は略)
「うふふ、嬉しいよ……」
蒼星石も酔っているのか、頬を染めながら応えた。

食事を終え、なんだかそれっぽいムードになってきた。
どちらからともなく自然と互いに近づき、キスをした。
そこで、ジュンは驚いた。いつもの触れ合うだけのそれではない。
ジュンの唇を割って開き、中へと進入してくる蒼星石の舌。
舌と舌が絡み合い、多少の息苦しさを感じながら、快感が増していく。
(……やべ、かなり変な気分に)
「蒼星石……僕、もう」
にっこりと笑う蒼星石に、一瞬でジュンは陥落(おち)た。
自分から後ろに倒れこんだ蒼星石。
その表情は、誘うように艶かしく、思わずジュンは唾を飲む。
「ジュン君……来て」
理性を完膚なきまでに破壊するその一言。ジュンは獣と化した。
服を半ば無理矢理剥ぎ取っていく。それを愉しそうに蒼星石が笑う。
「そんなに、がっつかないでいいよ」
窘められても、そう簡単に欲情の焔は消えはしない。
既に蒼星石に残されたのは、上下の下着だけだった。

「は、ハァハァハァ。い、いただきますっ!!」
「はい、召し上がれ」
上の下着に手を掛けながら、意外と着やせするタイプなのかと思った。
行為に及ぶのは初めてだったので、彼女の裸身を見たことはなかったが。
服の上から判断したよりも大きく、またそれが興奮を誘った。
「ハァハァハァハァ、ぬ、脱がすよ」
下着のホックにジュンが手を掛けた――その瞬間。
「だ、騙されるんじゃないジュン君!!」
聞き覚えのある、切羽詰った声がした。
振り向いた方向には――縄でぐるぐる巻きにされた蒼星石が倒れていた。
「そ、蒼星石!!でも蒼星石はこっちに」
「そ、それは姉さんだよジュン君!!」
「な、なんだってー!!」
思わず今組み敷いている翠星石?に再び顔を向ける。
「チッ、既成事実作っちまえばこっちのモノだったのに」
マジだった。
「う、うわああああ!!ち、違うんだぞ蒼星石!!これは」
慌てて弁解しようとするジュンを嘲るように、寂しげに翠星石が言った。
「……ここまでしておいて、私とのことは遊びだったですか」
「状況を悪化させようとするなあああああああ!!」
体の自由が利かない蒼星石が、這って二人に近づく。
ジュンが良く見れば、蒼星石は下着以外に何も着ていない。
今さっきジュンが脱がせた服は、蒼星石から奪ったものなのだろう。
「あ、あの……蒼星石さん。これには海よりも深い理由が」
「わかってるよ……姉さんに薬呑まされて起きたらこの状況さ」
既に諦め気味の蒼星石。とりあえず体を拘束する縄を解いてあげた。
「翠星石……コレはどういうこと?まあ聞くまでもないんだろうけど」
蒼星石が問い詰めるが、翠星石は拗ねたように口を開かない。
ちなみに現在全員半裸である。間抜けな状況だが、ジュンは少し喜んでいた。
「僕を眠らせて服を脱がせて縛って押入れにだなんて、酷いよ」
「……だって……寂しかったです」
「え?」
漸くこちらを向いた翠星石が、話し始めた。
「翠星石は、ジュンの事も蒼星石の事も好きです」
「……あ、うん」「ありがとう」
面と向かって好きだといわれると、少々照れる。
「だから、二人が付き合い始めて、二人とも遠くに行ったみたいで」
そんな風に思っているだなんて、気付かなかった。
「だから、こんなことしたです。悪かった……です」
「翠星石……」
反省しているのか、その表情はしおらしかった。

が、一瞬にして豹変した。
「でもさっきジュンがいつもより可愛いって言ったです」
「うっ!!」
その呻き声、問い詰めるまでもなく事実を語っていた。
「ジュン君……君って人は」
「その、それはだって……」
しどろもどろになるジュンをジト目で見る蒼星石。
これを好機と見たか、翠星石は更に畳み掛ける。
「そういえば蒼星石も、私とキスして悦んでたですぅ」
「そ!!それは!!」
今度は慌てる蒼星石をジュンが睨み返す。
「へぇ……そんなことしてたんだ蒼星石」
「ち、違う!!それは口移しで薬を飲まされて」
互いに慌てながら責任を押し付けあう二人。
その間に翠星石が割って入り、二人を同時に抱き締めた。

「翠星石は、二人とも大好きです。どっちかなんて選べないです」
屹度それは、本心からの言葉。だからこそ、返す言葉も出てこない。
「だから、翠星石は二人と一緒にいたいですぅ」
二人だって、翠星石の事は好きに決まっている。
こんな事まで言わせて、それでもあっさり切り捨てられるほど非道ではない。
「……ハァ。こう言ってるけどどう?僕は別にいいよ」
「え?お、お前それでいいのか?」
既に諦めているような蒼星石の言葉にジュンは驚いた。
その言葉の意味するところはつまり、姉妹一緒に付き合ってという事だ。
「……気付いてないと思った?ジュン君は翠星石のことも好きだったんでしょ」
「ッ!!……い、いや……たしかにそんな気はしないでもないけど」
完全に混乱して何を言っても墓穴を掘りそうなジュンに、更なる追い討ち。
「ほ、本当ですか?……その、ちょっと嬉しいです」
ズギュウウウウーン!!何かを撃ち抜かれた気がした。
そんなジュンを見て、蒼星石が答えを悟り、翠星石をちらりと見た。
丁度、翠星石も蒼星石の方を見て、いたずらっぽく笑っていた。
「それじゃあジュン君。不束者ですが」
「二人まとめて、お世話になるです」
「あ、アハハハハハハハハハハ!!」
状況に流されるまま決まってしまいつつも、不幸とは思わなかった。
ただ――これから待つのは天国か地獄かと、ジュンは考えていた。

END