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『few years after … 』

私立薔薇学園高等学校には昔から伝わる『おまじない』がある。
それは『バレンタインの日、好きな人にチョコを渡してさらに、告白してカップルになれたら一生幸せになれる』というもの…。

時は2月になった頃。世の女の子たちはバレンタインを間近に控えてソワソワしていた。
水銀燈も、例外ではなかった。
彼女は二週間後のバレンタインになったら幼なじみの桜田ジュンに告白しようと思っていた。
だが、そんな矢先にとんでもない事を耳にしてしまった…

それはいつものように二人で下校していた時
「なぁ、水銀燈…」
ジュンが唐突に話し掛けてきた
「なぁに?ジュン」
「うん…」
「もぉ、ちゃんと話してみなさいよぉ」
「ああ…実は…俺…今度外国に引っ越すことになったんだ…」
「…………えっ…?」
彼は、なにを、言ったの?
「今度の14日に…アメリカに…」
そんな…
幼なじみの垣根を越えて、恋人同士になろうとした矢先に…
「なんで…?」
こういうのを『青天の霹靂』と言うのだろうか
「少なくとも、向こう3年はあっちに住むらしい…」
「………そう…………なんだぁ…………」

ああ…。ジュンが私の目の前からいなくなる
そんなこと今まで考えたこともなかった
告白しようとした途端の出来事…
彼は三年だけだと言ったけど…。でも…
これは…私のわがままでどうにかなる問題じゃない…
わたしの、目の前は、真っ暗に…

「水銀燈…?おい、顔色悪いぞ?」
「えっ?あっ…。ああ…。うん。平気よぉ…」
嘘。平気なはずない。
「突然の話でわるいなぁ…」
「い…いいのよぉ…。戻ってくるんでしょ?」
「ああ。それは絶対、だ」
やだ…。ジュンと離ればなれになるなんて…
でも…そんな事言えっこない…

それからの二週間はあっという間に過ぎていった。
水銀燈はいつもと変わらないように振る舞っていたが、本心は寂しさでいっぱいだった。

そして…ついにジュンが出発する日がやって来た。
水銀燈は、学校を休んで空港まで見送りに来ていた。
「じゃあ、また会おうな…」
「ジュン…」
「…そんな顔するなよ。三年なんてすぐだ」
「…私、待ってるからねぇ?三年間、待ってるからね?」
「あ…ああ。」
「三年後の2月14日に、学校の前にある公園のベンチで待ってるから…。その時に…私の気持ち、受け取って…ね?」
「…わかった。約束、だ」

そして、ジュンはゲートの中に消えていった…

「私、絶対に待ってるからねぇ!」
水銀燈の声が響いた。
ジュンが渡米してから水銀燈をとりまく環境は、少しずつ変わっていった。

彼女はやがて高校を卒業し、大学に入学した

大学への通学の関係で一人暮らしも始めた

彼女は日々女に磨きをかけ、かなりの美人になった
プラチナブロンドの髪も、薄紅色の瞳も、全てが美しかった

こんな美人を男たちが放っておくはずがなく、告白されたことも数知れなかった
しかし、彼女はそれらをすべて断り続けた
そう…彼女には待つべき人がいるから…


そして、ついにあの別れの日から約三年が経った。

2月…13日。

明日、もしかしたら彼は来ないかもしれない
もう忘れてしまってるかもしれない
帰ってきてさえいないかもしれない
でも、わたしはあの場所にいく。

チョコだって用意したわぁ
告白のせりふだって何度も練習したんだからぁ
あとは明日を待つだけねぇ

期待と不安に胸を高鳴らせ、水銀燈はベッドに入った。
運命の2月14日。
その日、水銀燈は朝早くから目が覚めてしまった。
さぁ、今日は早くあの場所に行かなくちゃあ
ジュンが来るかもしれないんだものぉ
そして二人はめでたく…うふふっ♪そうなればいいんだけどぉw

彼女は意を決して家を出た。

久しぶりに通る高校時代の通学路。
懐かしい駅のホーム懐かしい電車。

今一度、三年間自分が歩んできた軌跡を踏みしめる

そして
もうすぐで到着するという所で
横断歩道を歩いていた
水銀燈に
信号無視の車が
突っ込んで来た

強い衝撃の後で、視界が真っ白になった

今日はあの日…。水銀燈と空港で別れた日から約三年が経った。
明日は彼女と約束した日だ。

学校の前にある公園のベンチで待ってる、と

彼女はきっと待ってる筈だ。
だから、俺は絶対行ってやらなきゃ
それが、今おれにできること…


運命の14日。
ジュンは朝9時からベンチに座っていた
彼女を待たせないために早めに来たのだ。

思えばアメリカに行ってから水銀燈の事だけが気がかりだった。
いつも、いつも、彼女の事を考えていた。
水銀燈は幼なじみ。だがそれ以上に大きな存在だと、ジュン認識したのだ。



…10時間待った。
結局、水銀燈は…ジュンの所に来ることは…なかった…

水銀燈が目覚めたのは病院の一室だった。
日付は…2月15日…。

ああ…。行けなかったなぁ…。
ジュン、来てくれてたのかなぁ?
来てくれてたなら、怒ってただろうなぁ…。

そんなことを考えていたら自然と涙がこぼれ落ちてきた。

「あ…。涙…」

ジュンに会えなかった悔しさ、自分の不甲斐なさが…悲しくて、悲しくて。

「うっ…くっ…うわぁぁぁぁぁ…………ん…」

とめどなく涙が溢れてきた。

どうして?どうして?

そう問いかける想いも虚しく、病室には水銀燈の嗚咽が響いていた。

水銀燈は来なかった。
だがそれはきっと訳あっての事だ。彼女は約束を破らない。
そう、ジュンは自分に言い聞かせた。

その後ジュンは再び両親からアメリカに戻ってくるよう言われ、ひとまずまた三年間だけアメリカに行く事になった。

俺は、きっとまたここに戻ってくる。
三年後、また…

「約束…だからな」

その想いを胸に、ジュンは再び渡米した。

そして、三年の月日が流れた。
あの別れから通算六年である。

水銀燈はあの事故で右足が不自由になってしまい、いつも片手に杖を持つ生活を余儀なくされた
大学を卒業したあと、小さな商社に入り、仕事に励む毎日だ。
彼女は毎年バレンタインになると、チョコ持参であのベンチに座りジュンを待つことにしている。
来るはずがない…。
そう思っても、待たずにはいられないのだ

一方ジュンはアメリカで大学を卒業し、日本へ帰国。
外資系の企業に勤めることになった。

そして…、ジュンが帰国して最初のバレンタイン。
悩むことなく、彼はあの場所に向かった。

高校時代に毎日歩いた通学路。
見慣れた駅のホームに見慣れた電車。
駅を降りてしばらく歩けば薔薇学が見えてくる

その前にある公園のベンチで待ってるからね、と言った少女

彼女に会うために…
六年前に、彼女が伝えたかった想いを受け止める為に…

ああ、見えてきた。
やぁ。何も変わってないぞ。
懐かしいなぁ。
彼女、待っているかなぁ?
彼の足は、自然と歩みを早めた。

そして…、彼はついに彼女と再会したのだ

「よ…よう、久しぶり!」
「そうねぇ。久しぶりねぇ」
「…で、話って?」
「あ、うん。あのねぇ、ジュンに受け取ってほしいものがあるの」
「…なんだい?」
「これ…。チョコ」
「あ…、ありがとうな!」
「あとね、もうひとつ。いいかしらぁ?」
「なに?」
「…………す・き。愛してるわぁ」
「…………ああ!俺もだよ!」


fin