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さよなら

雪のように降り積もり、全てを侵食したのに夏には溶けて消えていった。


男は目を瞑り、指を折って数を数えた。
ステレオから流れるBEATLESは空気のように自然で、昔と何一つ変わらない。
そのメロディが男を過去へと運んで行った。思い出したくない事ばかり、思い出してしまう。
幸福な思い出は辛い思い出に掻き消されてほんの少しの居場所さえ無い。

『もうさよならするしかないよ』

涙の一つも見せずに彼女はそう言った。
その言葉が男の頭の中で何度もリフレインする。
ひどくずきずきとした痛みが鈍く音を立てて身体中を巡った。
男は痛みから逃れようと窓を開いて外の空気を吸う。季節は冬で、冷たい風が心地良い。
雪が幻想的に舞って部屋の中へふわふわと流れ込んだ。
その雪を指先で潰しながら男は考える。
悪夢のようだった別れの事を。
きっとずっと一緒だと思っていた。それは単に甘い夢でしかなかった。現実は何よりも残酷で、噛み合わない歯車を回してくれるほど優しくはない。

『友達にも戻れない?』
『俺は別れたくないよ』

男は昔の自分を思い出す。
卑怯で、未練がましくて、最低で、自分のことしか考えていなかった人間。

時が経ってやっと男は『さよなら』の意味を理解した。それはもう遅すぎたかもしれないが。


ステレオから「Girl」が流れる。
男が昔、ようやく弾けるようになったギターで彼女に聴かせた曲。
切なさが胸に溢れて男の目に涙が込み上げる。
もう、過去の事なのに忘れられない日々。

でも、消えていってしまった。
もしまた彼女とどこかで会っても、男は彼女にとってもう他人でしかない。


冷たい雪はまだ、果てる事なく空から舞い落ちる。
  

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