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黙示録都市<新宿>」(2021/03/31 (水) 19:42:30) の最新版変更点

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 メフィスト病院には、次のような有名な言葉遊びがある。 『治療室に入った者は必ず戻る。しかし、院長室に入って出て行った者はいない』、と。 より補足を加えるのであれば、院長室に招かれた者以外は、如何なる奇跡を味方にした者であろうと、如何なる神の加護、如何なる悪魔の庇護を受けようとも。 絶対に、其処から脱出する事が出来ない。後に待ち受けるのは、美しい男の繊手によりて下される、幸福な死だけである。 永久に外の風景を眺める事が叶わない、と言う地獄から解放させてくれるのが、虚無に話しかければ虚無を構成する分子の方から語りかけてきそうな美しい男なのだ。 それはそれで、最後の幸運、と呼ぶべき物なのかもしれないが。  院長室に、所謂顔パスで、通る事が許されている人物は、現在三人。 その内の一人は、この世界には存在すらしていない男。<新宿>警察に所属する刑事(デカ)の一人。 自分を痛めつければ痛めつける程、因果律レベルでその痛めつけた人間により不幸を強いらせると言う特異な運命を持った貧相な刑事、朽葉。 朽葉以外の残り二人は、聖杯戦争の舞台となっている<新宿>に招かれている人物だ。その内の片方は、しかも、メフィストと同じサーヴァントとして。 世界の誰よりも、黒の似合う美男子。親しみやすくて気の良い男の仮面を被った、残酷で冷酷な魔界その物のと呼ぶべき存在、秋せつらこそが、メフィスト病院の院長室に足を踏み入れる事を許された存在である。  ――そしてもう一人は、サーヴァントとして自身が召喚されてから認めた男。 メフィストが嘗て出会った如何なる紳士よりもずっと上品で、気品漂う物腰で。そして、彼の出会った如何なる魔人よりも空寒い何かを放つ男。 そのマスターこそは、地上で並ぶ者のいない賢者であった。地上で最も愚かな行いをしてしまった、大馬鹿者でもあった。 「素晴らしい」  最も愚かなその賢者の名こそ、ルイ・サイファー。 メフィストが認める、せつらと並んで黒の似合う男。いや、或いは黒その物。紳士の皮を被った悪魔であり魔王。 万年の統治を約束する名君の建前を持った、圧政に対する反逆者。それこそが、魔界医師が従っている男の正体であるのだった。  夏至に近い時期の午後一時とは、一年を通して最も明るい時期。太陽が最も高い位置に置かれた高見座から地上を見下ろす時間帯である。 その時限に差しかかろうとも、メフィスト病院院長室は、薄く青い闇が優勢を保っていた。 如何なる魔霊をも祓い、浄化する、太陽天の暖かな光をこの部屋に受け入れようとしないのは、単なる主の美観の問題なのか。 それとも主が、光を避ける者と言う意味を持つ悪魔と同じ名前をした魔人だからなのか。その真実を知る者は、誰もいない。 「この街には確かに、混沌が芽吹きつつある。私の望む、善い街になりつつある。実に、好ましい主従を呼んだようだよ、『彼』は」  ブラックスーツに身を纏った紳士、ルイ・サイファーは左手で、群青色に透き通った鍵を弄びながら、其処から投影されるホログラムを楽しんでいた。 名画と名高い映画でも眺めるように、ルイが面白がっているホログラムとは、何か。喜劇か、悲劇か。はたまた、ポルノか。 どれとも違う。ルイは、契約者の鍵を通して通告された、ルーラー及び<新宿>の聖杯戦争の運営者からの緊急報告を面白がっているのだ。 盛り上がりもない、事務的で淡々とした文体の文章に、アクセント程度の二名の男の顔写真。 話を要約すると、ザ・ヒーローと、バーサーカーのクリストファー・ヴァルゼライドと言う男達は相当羽目を外したらしく、それがルーラー達の逆鱗に触れたと言う事らしい。 それが、ルイには面白くて仕方がなかったのだ。彼はこの二人を愚かだと思っていない。寧ろ、自分を何処までも楽しませてくれる、実に有能な役者達だとすら思っていた。 「彼、とは誰の事か」  格調高く艶やかな漆黒をした、黒檀の机に向かって座る、机の色とコントラストを成すような白いケープを纏う男が訊ねた。 汚れや塵埃の方から、避けるに違いない完全な白を身に纏った、冷たい闇が人の形を成したようなこの男こそが、ルイ・サイファーが召喚したキャスター。メフィストであった。 「此処に投影されているホログラムが見えるだろう? 其処に映っているマスターさ」 「マスターの友人かね」 「当たらずとも遠からず、と言った所さ」  そう言ってメフィストは、凛冽とした輝きを、水晶体の奥底で湛えるその瞳で、ルイが左手に持つ鍵から投影された映像を眺めた。 サーヴァントと思しき男は、彼のナチスの将校服にも似た形式の黒軍服を身に纏った金髪の男で、言葉を交わさずともその烈しい気性が窺い知れる、鉄の男だった。 メフィスト好みの益荒男と言うべき人物である。男らしさの欠片もない柔弱な“僕”にも、見習って欲しいぐらいだ。 そんな男を従えるマスターの男は、市井を歩けば幾らでも見つかるような、平凡とした容姿と顔立ちの男だった。 とてもではないが、ヴァルゼライドと言う男には釣り合わない。普通の人間の目には、そう映るだろう。しかし、メフィストには違って見えた。 如何に普通の人間を装おうとも、修羅場を潜り抜けて来た人間は、目が違う、口の結び方が違う。一目見てメフィストは理解した。 マスターと言う体裁で此処<新宿>に呼び出されたこの男は、間違いなく、ルイ・サイファーが目を掛けているだけの大人物であると言う事を。成程、ザ・ヒーロー(英雄)と言う名前は、伊達でも何でもないらしい。 「碌な事をしなさそうな友人だな」  すぐにメフィストは、机の上で開いていた本に目線を下ろそうとした。 『嫦娥運行図』と名付けられたその古びた書物は、院長であるメフィストだけがその場所を知る秘密の書庫に納められた蔵書の一つである。 直近二千年の、世界中のありとあらゆる月の満ち欠けとその異常を記録した書物こそがこの本で、世界に四冊と無い貴重な書物だった。 単なる月の記録図ではない。狼男(ワーウルフ)と月の関係性と、何年何月何時に狼男が姿を見せたかと言う記録は勿論の事、 牛車に乗せられ月の都へと旅立って行った、ある美しい女の話をもこの書物は記録していた。 他にも、月齢と魔力の相関図をもこの書物は記録しており、この月齢の時に一番魔力や霊力、マナが満ちる土地は何処か、と言う事も記されている。 そんな貴重な書物を気まぐれに、メフィストが手に取った理由は一つ。つい数時間前にメフィストが臨時の職員として雇った、ある女性の話を受けたからだ、と言う事を知る者は、彼一人だけだった。 「概要は貴方の口から聞かされた程度だが、推察するに、到底正気とは思えんな。放射線の散布、大量殺戮、そして、ルーラーに対する反逆。一事が万事のような男達だ」 「だからこそ、私は好ましいと思っているのだよ」  ホログラムを消し、懐に契約者の鍵を仕舞い込んでから、ルイ・サイファーは大仰そうに腕を広げ、口を開く。 「混沌の中にあって、人は己を高める事が出来る。高次の霊になる事が出来る。真の自由を得る事も、出来る」 「貴方は、人間と飽きる程接して来て、未だに理解が出来ないのか? 人は、貴方が享受出来る混沌を生き抜ける程、強くはないぞ」 「肉体的な強さに関して言えばその通りだろう。しかし、肝心なのは生き抜こうとするその精神性だ。無論強さがある事は好ましい。だが私は、畏敬を以て今日を生き、希望を抱いて明日を夢む者を、決して見捨てはしないよ」 「人は無秩序な環境に身を置いている時こそ、秩序を求める生物だ。法とは即ち、理由であり根拠だ。人はそれなしでは生きて行けない。だから貴方は永劫、秩序の体現であるYHVHと戦い続けて来たのだろう」 「人が秩序と縋る者を求めるその時、創造主もまた形を伴い現れる。その通り。故に私は戦い続けて来た。宇宙の秩序を司る大いなる意思とね」  ルイは、目線を明白にメフィストの顔に固定させた。 常人は、それ自体が光り輝いているとしか思えないメフィストの面構えを、まず、直視出来ない。 中東の砂漠の国に、商人として生まれた男が開祖となった宗教は、天使の姿を人が見れば、発狂すると説いた。 神や天使とは、人の持つあらゆる言葉を用いても表現出来るものでは断じてなく、人間の感覚器官や美意識では見る事も評価する事も叶わぬ存在であるからだと言う。 では、この男の場合は如何か。如何なる修飾語、如何なる形容語句を用いても、表現出来ぬこの美しい男の場合は。 そして、その美しい男を真正面から見据えて、恬淡としている黒スーツの男は、一体、何なのか。誰なのか。 「私はこの街に、大いなる意思を中心とした理を破壊するだけの力を求めている。だが、それだけの力を生む混沌は、そう簡単に生まれ出でないのもまた、事実だ」 「だから、貴方は素晴らしいと言うのか? 新しく討伐令を敷かれたこの男達の事を」 「彼らは実によく働いていてくれているよ。だが、まだまだ私が求め、楽しめる程度の混沌には至っていないと見るべきか」  一呼吸を置いてから、ルイは続けた。 「私が手助けをせねばなるまい。先達の整えた舞台を、より良くする。先達の失敗を、取り繕う。それが、後続の仕事であり、労苦であるからね」 「何を成す、ルイ・サイファー」 「この街に、更なる試練と混沌を。君の語った魔界都市のような街に、昇華される時が来たのだ」 「貴方はやはり、無間地獄(ジュデッカ)の奥底で、永久に氷漬けにされていた方が良かったのかも知れんな。人に不幸しか齎さないではないか」 「試練に痛みと堅忍はつきものさ。良い定職に在り付きたいから勉強を頑張る、金銭が欲しいから必死に根を回す。神の与える試練など、それらの延長線上に過ぎない。まぁ、私の齎す試練も正しくそれに近しいのだがね」  ルイは滔々と言葉を続けて行く。 演説に特有の熱もない、要点だけを簡潔に述べる爽やかさもない。しかし、何故か、この男の言葉は、心によく染みわたるのだ。 まるで、ヒビの入った石に、雨水でも染み込んで行くかの如き語り口で、男は話をする。ルイの言葉は水であり、そして、人をその気にさせる炎だった。 「間もなくこの<新宿>は混沌に包まれる。あらゆる命に意味がなくなる街と化す。それを担うのは我々だ、メフィスト」 「だろうな。私には未だに実感が湧かぬが、この世界の<新宿>の主役は如何も、私達であるようだ」 「時は満ちた。私もいよいよ動こうかと思う。メフィスト、『準備』は出来たかね」  パタン、と、本が閉じる音が、例えようもない静かさを伴って流れた。 「最後のボルトを締め終え、実用の段階に入った」 「結構。其処に、私を案内してくれ」 「心得た、我が主よ」  言ってメフィストは立ち上がり、無言で音もなく、歩み始めた。 人の形をした白い光が風のような滑らかさで歩いているように、余人には見えるだろう。 それを追うように、ルイもまた歩き始める。周囲数百億光年に、光を放つ恒星が一つとして存在しない宇宙の闇が、人の形を伴って歩いているように、余人には見えた事だろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  其処が、地上に面した階なのか、それとも陽の光の届かない地下の世界なのか。 恐らく、それを推察出来る者は一人として存在するまい。この病院の全てを知っている、メフィスト以外は。  窓もなければ時計もなく、音もなければ生き物の気配すらない、メフィスト病院の何処かであった。 深海を思わせるような、青みを孕んだ闇の中を、二人は歩んでいる。メフィストと、ルイ・サイファー。 およそ照明の類が一つとして存在しない回廊であるのに、そこは薄らとした暗さしかなく、歩く分には問題がないと言う奇妙な結果が同居していた。 そんな不思議で、深海の奥底に建てられた神殿を思わせる神秘的な世界の中でも、メフィストの姿は白く光っているように見え、ルイの姿は黒く霞んでいるように見えた。 二人の存在感は、その程度の神秘さと不思議さでは、色あせる事すらないと言う事の証左でもあった。  この回廊を歩くまでの道のりは、本当に普通と変わりがなかった。 患者の関係者が見舞いの為に入院している部屋へと足を運ぶ、患者の担当医が定期検診の為にその部屋へと向かう。 本質は其処と何も変わりがない。であるのに二人は、このような奇怪な道を歩くに至っている。 ただ階段を上り、そして、時には階段を降り、またある時は、関係者以外の立ち入りを禁止すると言う扉を開けて其処の中に入る。 それだけなのに、二人は今この場所にいるのだ。だが、聡明なルイ・サイファーは気付いていた。 メフィストの宝具であるこの病院は、メフィストがその気になれば、この世の時空の法則が全く当てにならない空間に変貌する。 その装置が安置されている場所は、恐らくは院長室と同じで、普通にその場所に向かっただけでは先ず辿り着けない。 メフィストは、目的のものは地下に在ると言っていたが、それを愚直に信じ、地下に足を運ぶだけでは目当ての物を目にする事は不可能。 地下にあるのに、階段を昇る。其処とは全く関係のない扉を、開く。また適当な所で、階段を降りる。 そのような、特定の手順を経ねば辿り着けない部屋がこの病院には幾つも存在する事に、ルイは気付いていた。 そしてメフィストが、その装置を安置させる為に、その様なプロセスを設定したのは、妥当であるとすらもルイは思った。そのようなプロテクトを施す程の価値が、その装置にはあるのだから。  白が止まる。黒が、見上げる。 目の前に立ちはだかる、巨大な鉄扉を見るがよい。見る者に与えられる、異様としか言いようのない重圧感は、その扉が決して張りぼてではない。 正真正銘の、密度と厚みを伴った真なる金属の証であると言えるだろう。だが何よりも異様だったのは、その扉の表面に刻まれた、様々な魔術的言語。 在る箇所は、古英語で何かが記されていた。ある場所は、太古の大和言葉で何かが記されていた。 在る箇所は、シュメールの粘土板に刻まれた象形文字めいた言葉が。またある場所は、古代エジプトで用いられたヒエログリフが。 そしてこれら、世界史や日本史で存在を習う文字とは別に、明らかに魔術的な言語である、ルーン文字や梵字の類すら、扉の表面で市民権でも主張するかの如く踊っていた。 「厳重だな」  ルイがほう、と嘆息するように呟いた。単に、巨大な金属の塊、と言う性質が保有する、物質的強度だけでない。 扉の表面に刻まれたこれらの文字は、それぞれが異なる様式の魔術を成し、扉に霊的かつ魔術的な強度を与え、そして物質的強度も更に底上げしている事に、ルイは気付いた。 「核ミサイルに直撃しても無傷だ。理論上は、地球が粉々に砕け散っても、この扉だけは無事に形を保つ程の強度を持つ」 「試した見た事が?」 「まさか」  魔人と魔王のジョークは、聞くだけで心臓に悪いやり取りであった。 談笑と言えない談笑を行った後、メフィストは、スッと、その右腕を伸ばした。 夾雑物の一切存在しない白金を、削り、磨き上げたような美しさが、その腕にはあった。 向こう側が透けて見えそうな程白い薬指に嵌められた指輪の宝石が、光った。それに呼応し、扉は、重々しい音を立てて、観音開きになる。 事の一部始終を見届けたメフィストが、特に合図もなくスタスタと部屋の中に入って行く。当然、ルイもそれを追う。  距離感が狂う程広大な、立方体の部屋であった。 部屋に満ちているのは、青い闇。暑さも冷たさも感じぬ白い霧。閉所恐怖症なる病気がこの世には確認されているが。 これだけ広大な部屋に閉じ込められてしまっても、逆に同じ事だろう。人は、何もない広大な空間に放り出されて、正気を保って居られる程、強くないのだから。  そんな広大な部屋の中に在って、部屋の中央に設置された何かは、ある種のアクセントを演出していた。 一言で言えばそれは、所々に鉄鋲の打ちこまれた、真鍮製の奇妙なメカニズムだ。四方から飛び出した、奇妙な鉄管にガラス管。 そしてそれらを繋ぎ合わせる、表面にマイクロ単位の細やかさの魔術的言語の刻まれた針金と、ゴムのような素材の表面にやはりその言語が刻まれたケーブル等々。 メカニズム、と表現した理由は、その装置に取り付けられた、ハンドルやレバーのせいである。 中世的なクラシカルさと、近現代的なシステマチックさとモダンさが同居した、ちぐはぐな機械だった。まるで子供の奇妙な妄想が形を成したような何かであった。 「これが禁術に指定されたのは、千四百年の事だった」 「後にモンゴルと呼ばれる土地に生を受けた遊牧民の男が築き上げた一大帝国の影響で、ユーラシアの東と西の文化がサラダボウルの様に混ざり終えて久しい時代であり、オスマントルコ帝国はまだバヤズィト一世が健在だった時期か」 「権力者は常に、歴史の裏側で暗躍する魔術の一派を恐れたものだ。特にヴァチカンは、必要以上に神経質に、私の師を恐れた」 「ドクトル・ファウストの事かね」 「ヴァチカンが制御しようとして制御出来る男じゃないさ。あれは狂っているからな」  メフィストが装置に歩み寄る。ルイは、その様子を眺めるだけだった。 「今から行う術法は、魔術の歴史を読み解いても、成せた者はまずいない。いや、そもそも魔術が操れると言うのは基本的な条件であり、大前提だからだ。此処に更なる知識が加わり始めてこの技術は形を成す。これはある意味で、魔術でもあり科学。水にして油。焔にして樹木。相反する性質が必要な業だからだ」 「歴史上、この術法を操れた魔術師は、君が確認出来た限りでどれ程いた」 「本当に優れた魔術師なら、これを操ったと言う記録自体を抹消するさ。近現代で解っている限りで一番有名なのが、エドガー・ゲイシーだろう。ただあの男は、魔術に優れていた、と言うよりは、其処に『接続』出来る才能に溢れた、ある種のバグと言っても良い男に過ぎないのだが」 「私も知っているよ、その男なら。上手く操れたとは思えんが」 「無論、コントロールする術まではあの男は保有していなかった。精々が、記録を解読し、自身の病気を治せた程度だ。尤も、それだけでも十分過ぎる程凄いのだがな」  暫し、沈黙が降りた。本来ならば言葉を返す筈のルイが、黙っているからだ。 とは言えメフィストも、其処で彼に返事を求めてなどいなかった。何故ならば、まだまだこの男には、語る事があったからだ。 「不滅の存在を滅ぼす局面に立たされた時、マスター。君ならどう対処する」 「不滅になる前の過去に遡り、その存在に干渉して見るのも悪くはないが、私ならば、不滅を滅ぼせる存在を育てるだろうな」 「独創的な答えだ。……嘗て、私がそのような存在と対峙した時、私と、私が認める大魔術師は、この装置を使った。未遂に終わったがな」 「それは?」 「並行世界の数は、無限大にも及ぶ。貴方なら、理解している事柄だろう」 「無論」 「理屈自体は簡単だ。不滅の存在であると言うのなら、『その存在が滅んだ並行世界の未来』を探せばよい。そしてその未来を、その存在に押し付ければ良い。そうすれば、如何なる存在をも滅ぼす事が可能だ」  更にメフィストは続けた。 「不滅の存在に死を与える。不幸の源泉であるパンドラの匣をも無力化させる。如何なる存在にも、特定の運命を強いらせる事が出来る。今から操る術法とは、そんな、『神』の一端に触れる技術だ」 「君にそれが出来るかね」 「生前の時点でも、このような装置を借りねば出来なかった程だ。それに今は、サーヴァントとして矮化された身分。先程述べたような事柄は、不可能に近い」 「それでも、私の求める事は出来るのだろう?」  ルイ・サイファーの唇の両端が、少し吊り上った。 何億人の人間が見ても、魅力的としか映らない、その紳士の微笑みに、途方もない野望の色が見え隠れしているのは、一体、何故なのだろうか。 「出来る」  対するメフィストの答えは、氷塊の如くに冷たかった。 過去に勉強し尽くし、知り尽くしてしまった事柄に対する質問を、面倒くさそうに答える老教授宛らであった。 「ならば、これ以上の言葉は無用だな。是非とも、メフィスト。君の腕前を見せてくれたまえ。私は彼のりゅうこつ座の主が運営する、北極星の王座のシステムを、人の身で操っていると言う事実自体もまた楽しみなのだ」 「心得た。ならば、しかと見るがよい。如何なる結末が待ち受けていようとも、それを覚悟して受け入れるが良い」  そう言ってメフィストは、白いケープの裏側から、土気色をした、しかし、それでいて全体的には筋肉のような質感を保った、 不細工な子供のような人形を二つ取り出した。ルイもまた、上着の裏側から、同じような人形を二つ、外に晒した。 「――これより、『アカシア記録(レコード)』の操作を行う」  言ってメフィストは、そのレバーに手を伸ばした。 今からメフィストが行う術法は、あらゆる次元に渡り存在する、宇宙的エーテルが流出している記録庫へ接続し、それを操作する禁術。 あらゆる世界、あらゆる宇宙の全歴史を記録(レコード)する史書であり、全ての歴史の全ての可能性の未来をも読み取れ、操る技。言い換えれば、根元への接続そのもの。 それこそが、今この部屋にいる白と黒が行おうとしている事柄だった。アカシアの霊異記を操ろうとして、メフィストよ。ルイよ。お前達は、何を成すと言うのだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      また、わたしが見ていると、小羊が七つの封印の一つを開いた      すると、四つの生き物の一つが、雷のような声で「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、白い馬が現れ、乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上に更に勝利を得ようと出て行った ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「何故、私を呼び寄せたのだ」  苛烈な性格であると言う事が窺える声音で、その女は訊ねた。 「君が勝利を求めて渇望している人間であるからさ」  それを受けるは、黒スーツを着用した紳士、ルイ・サイファーだった。 「勝利? 馬鹿を言わないで下さいましミスター。お姉様は、富も権威も名声も、そして自分の国ですら持っていた御方でしたのよ」  ルイの言葉を受けて返すのは、先程の凛冽とした声音が特徴的な女のそれではなかった。 それは、その女性の背後に影のように付き従う、小柄な少女だった。リボンで纏めたシニョンが特徴的な緑髪の少女で、背の割に胸の大きい、トランジスタ・グラマーだ。 「大切な者だけは、ついぞ得られなかったようだがな、お嬢さん」  少女がお姉様と呼んでいる女性の顔が、不愉快そうに歪んだ。 ルイの言葉を受けた少女が、不愉快さと怒りに、酷く引き攣った。ルイの言った言葉の全て、理解しての表情である事は明白だ。 「君は確かに、誰の目から見ても完全かつ完璧な勝利を得る事が出来たのだろう。だが、君自身は、勝利だと思ってなかっただろう? 何故なら君と勝利を喜びあう筈だった男は――」 「よく勉強しているじゃないか、ミスター。だが、聡明な貴方なら理解しているだろう。知りたがり屋は何時だって、寿命が縮まるものだ、と」  背後の少女が動こうとした、その瞬間、彼女の身体は自由が効かなくなり、うつ伏せに倒れ伏した。 「なっ、がっ……!?」、と、少女のもがく声。彼女は今、自分の身体に、銀色の糸が纏わりついている事を知った。針金だった。 「君の気持も解らないでもないが、その男は私の主だ。そして、この病院で、争いは認めん」  ルイの背後に広がる、無明の闇の向こう側から、白い闇、輝ける光のような男が姿を現した。 苛烈な雰囲気を纏った女性が、言葉に詰まった。地面に倒れ伏した少女の表情から、険が抜け、呆然、そして、恍惚とした表情が露になる。 無理もない。この男の――ドクターメフィストの、悪魔的な美貌を見てしまえば、そんな事は当たり前の事なのだ。 「見事な腕前だ、とでも言えば満足か? 美丈夫」 「早く話を済ませたまえ」  メフィストの言葉は、余りにもそっけなかった。目の前の女性達になど、微塵の興味もないと言った風な体だった。 「お前の言う通りだ、ミスター。率直に言うよ、私の人生は、空虚だった」 「お姉様!!」  ギンッ、と、地べたに這いつくばる少女を、女は睨んだ。それだけで、少女は全てを得心。グッ、と歯を食いしばり二の句を押し殺した。 「確かに私は、誰の目から見ても明らかな勝利を掴んだが、私だけは、虚しかったよ。私の傍には、愛した男がいなかったからなぁ」  其処で女性は、頭上を見上げた。青い闇が蟠る、冬の夜空のような昏黒が広がっているだけだ。 「ただそれでも私は、待って待って、待ち続けた。何時か奴が……私が愛した、汚れた人狼(リュカオン)が戻ってくるのだ、と」 「結局、戻らなかった、と」 「私の言葉を奪うのはやめてくれ。他人から指摘されると、どうも、な」  苦笑いを浮かべる女。 「私の求めた勝利は、完全な勝利じゃなかった。ピースが、三つも四つも足りない、不揃いの勝利だった。それは、ミスターの言う通りだ。認めよう」  「――だがな」 「だからと言って私は、お前に踊らされる程愚かじゃないぞ。私は女である以上に、民の上に立つ為政者だ。況してや此処は、私の先祖であるアマツの民の生国。聖杯戦争? 馬鹿を言うな、乗る訳がない」  彼女の返事は、気高かった。そして、美しかった。 その言葉には微塵の嘘も偽りもなく、全てが真実、全てがありのまま。一切の虚飾を取り払ったシンプルな言葉は、余りにも美しい。 地面に這いつくばった少女は、女性の言葉に魅了され、ほう、と嘆息した。如何やら、同性愛(レズビアン)の気が強いらしかった。 「成程、予想していた通りの答えだ。君を動かすには、万の言葉を尽くしたとて、不可能だろう」 「切り札を早く見せたらどうだ」 「ふむ?」  疑問気な声をルイは上げた。「惚けは興を削ぐぞ」、と直に女は指摘。 「ミスターは、私が見た中でも一番聡明な人間だ。断言しても良い。そして、私が見て来たどんな政治家よりも腹の黒い曲者でもあるとな」 「つまり?」 「私を聖杯戦争の参加者、いや、サーヴァントか? その手駒として参戦させると意気込んだ以上、当然、私をその気にさせる『切り札』があるのだろう?」 「ふふふ」  ルイは、不敵に笑った。 「切り札を温存したまま機会を逸する事程、馬鹿らしい事はあるまい。悔いのないよう、今の内に開帳しておいたらどうだ?」 「ハハハハハ、素晴らしい。君は実に聡明な女性だ。腹を割って話せる人間は大好きだ、腹の探り合いなどは無駄なプロセスだから、ね」  そう言ってルイはポケットから、あるものを取り出した。 群青色の宝石で出来た鍵のようなそれは、契約者の鍵だった。慣れた手つきでそれを弄ぶと、鍵から、ホログラムが投影される。 それを見て――女性と、そして、少女は、心底驚いたような表情を隠せなかった。愕然、と言う言葉がこれ以上となく相応しいだろう。 硬直したまま動かないのは、少女の方だった。硬直から直に復帰したのは、激しい気性の女性であった。そして彼女は、笑った。 「は、ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハッ!!!」  爆発するような哄笑だった。病的な物すら感じられる程の、呵呵大笑。 心底愉快そうな笑みである一方で、自身の運命の皮肉さを呪い、嘲るようなシニカルさで満ち溢れた、すてばちな感情すらも読み取る事が出来る。 ホログラムには、金髪の、極めて意思の強そうな男性が映り出されていた。名をクリストファー・ヴァルゼライドと言う男だった。 「な、何だ、総統閣下はこの世界ではお尋ね者の犯罪者なのか、ククッ、ハハハハハハ!! 全く、笑わせるジョークを見せてくれるじゃないかミスター!!」  ルイは、女性の笑いが収まるのを待った。 たっぷり十秒程の大笑いが、広大な空間に広がった後、眦に浮かんだ涙を弾き飛ばしながら、女性は、ルイ・サイファーの方に向き直った。 濡れた鴉の黒羽の様に艶やかで美しい黒髪を、後ろに長く伸ばした女性であった。彼女は、クリストファー・ヴァルゼライドが纏っている制服と同じ様な軍服を身に纏い、 そして何よりも特徴的なのが、彼女の右目に取り付けられた眼帯だった。彼女の右眼は生前の時点で抉り取られている。 もしも、その様な身体的欠陥がなければ、さぞや美しい、軍服ではなくドレスを身に纏えば男をより取り見取りに出来た程の麗女であった事だろう。 「返事を聞かせてくれないか、セイバー。いや……『チトセ・朧・アマツ』くん」  それを受けて、チトセと呼ばれた軍服の女性は、懐に差した剣を勢いよく引き抜き、それを振り回した。 それは彼女の、弛まぬ鍛錬と天性の才能が組み合わさった剣捌きを受けて、びゅんびゅんと音を立てて彼女の周りを旋回する。 その剣は、剣身を複数に分割されており、分割された部分をワイヤーで繋ぎ止めた、いわゆる蛇腹剣と呼ばれる剣であり、まるで鞭のように、そして、 神技の如き軌道を描いて、チトセの周りを回転。ガチャンッ、と言う音と同時に、分割された剣が元の一本の剣になり、その剣先を、ルイの首元に近付けた。 「お前の指図は受けん」  チトセの言葉は、奇しくも、ヴァルゼライドと同じ、鋼であった。 「だが、このまま黙って帰るのも面白くない。折角、滅ぶ前の日本にやって来れたのだ。観光がてらに街を散策し、そして――生前成し得なかった事を成して見るのも、悪くはない」 「ほう、それは?」 「決まっている。私の愛した人狼(リュカオン)は、如何なる手段を用いてか、あの英雄を下したと言う」  剣を鞘に納めチトセは、言った。 「ならばこの世界では、奴の……ゼファー・コールレインの代わりに私が、『逆襲(ヴェンデッタ)』と『完全なる勝利』を、あの英雄を相手に成し遂げるのさ」 「逆襲か。それは、私にも、か?」 「そうだ、ミスター。つまらないか? その結果が」 「最高に面白いよ、セイバー」  ルイが爽やかな口ぶりで、返事をした。その貌に浮かぶのは、狂人の微笑み。 「研がれた牙を誇りに、地の果てまでも走るが良い。そして私は、君が今度こそ、完全な勝利を得られる事を祈ろう。何故なら君が――『期せずして、希望とは違う勝利を得てしまった哀れな女性』であるが故に」  ルイがそう語り終えると、チトセの従者にして、宝具である少女。 サヤ・キリガクレを縛る針金が解除される。急いで彼女は立ち上がり、敵意をルイとメフィストに露にする。目線は、メフィストから外されている。 その美を直視してしまえば、耐えられないと思ったからだ。 「サヤ、出るぞ」 「お、お姉様……」 「此処に最早用はない。余りにも薄暗く、黴臭いからな。出口は何処だ、麗しい美丈夫さん?」 「案内しよう」  言ってメフィストは、ケープの袖から、ビュンッ、と針金を伸ばした。 それはメフィストの右脇の方にずっと伸びていた。針金の伸びた方向に、チトセは歩いて行く。 ありったけの殺意と憎悪をルイに叩き付けながら、サヤはその場から、正に霧の様に消えて行く。 二人の退院を、ルイ・サイファーは愉快そうに眺めていた。望まぬ勝利を得てしまった白い騎士が今、<新宿>に解き放たれた瞬間だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆     子羊が第二の封印を開いたとき、第二の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた     すると、火のように赤い別の馬が現れた。その馬に乗っている者には、地上から平和を奪い取って、殺し合いをさせる力が与えられた     また、この者には大きな剣が与えられた ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「どうして私を呼び寄せたんですかねぇ?」  軽薄そうな男の声が、跳ねかえる壁が一目見ただけでは存在しないとしか思えない程広大な部屋の中に広がった。 「君がとても、トラブルの類を好みそうな者だからさ」  人をおちょくっているとしか思えない程、軽く、薄っぺらなその言葉に、ルイ・サイファーはいつものような笑みを浮かべてそう返すだけ。 「私がそーんなに、揉め事の類が好きそうに見えるんです?」 「過去の経歴を調べさせて貰ったよ。いやはや、実に面白い。人々を争わせ、星を滅ぼし、それを遠くから眺める。実に、悪辣だ。好ましい」 「照れちゃいますよ~」  と、それらしい声の調子で、軽薄そうな男は返事をする。 声と態度からは、目の前の黒スーツの男への警戒と侮り、そして――ルイの背後に佇む、圧倒的な存在感を保つ、白皙の美貌の男への畏怖めいた感情が、微かに読み取れる。 「そんな君だからこそ、赤い騎士の役割が相応しいのだよ」 「何です、それ?」 「世界の終焉を記した、黙示録なる書物に登場する、四騎の騎士の一人さ。赤い馬に跨ったその騎士は大きな剣をその手に持ち、地上に戦乱と喧騒の種を撒くのだよ」 「それはそれは……素晴らしい存在じゃないですかぁ」 「全くその通りだよ」  ルイは不敵な微笑みを浮かべた。相対する男もまた、笑った。 「私はね、君にその悪い力を存分に奮って欲しいのさ。出来るだろう? 災禍の象徴である、君ならば」 「良いんですかぁ? そーんな事をしちゃって? 私が本当にその力を奮ったら、遊びじゃすまなくなりますよぉ?」 「構わないよ」  一切の逡巡を見せぬ様子で、ルイは返答した。 一瞬、呆然に近いような表情を男は浮かべたが、直に、狂的な笑みを浮かべて、ルイの事を眺めた。 この男の正気を疑う以上に、初めて、自分の理解者を得たような、そんな心境を窺わせる笑みであった。 「君の混沌を齎す力は、私が必要とする力なのだよ。人の争乱、悩み、疑心、妬み。負の感情から生まれる何かも、またあるだろう。今の<新宿>には、それが必要だ」 「んっふふふ、ゆっくりりかいしたよっ。それじゃぁ、私、張り切っていっちゃいましょうか」  そう言って男は、空中に如何なる浮力を用いてか浮遊し、其処で足を組んで座る、と言う器用な体勢を解き、地面に両脚から着地した。 「……ところで、アサシン」 「なんでしょ」 「余り肩肘を張る必要は、ないと思うが」  それを指摘されて、顎に手を当てて男は考え込んだ ピンクがかった赤髪を、後ろに長く伸ばした人間だった。ドライヤーなどを使って整えていないのか、髪はもじゃもじゃと言う擬音が相応しい位になっている。 だがそれよりも目立つのはその長身である。二mを超す程の背丈の持ち主で、ルイやメフィストを見下ろす形になっているのだ。 伸ばした前髪で隠された瞳、喜悦に吊り上った唇。男の容姿は、一目見ただけでその性別を窺わせない、中性的なシルエットだった。 「……私がそんなに無理してるように見えます?」 「見えるさ。君の本当の性格は、そんな取り繕う風でもないだろう。そもそもアカシア記録に曰く、君の一人称は私、ではなく……」 「一人称はぁ?」  途端に、馴れ馴れしい口調にアサシンが変わった。 恐ろしく速いペースで、チッチッチッチッチッチッと舌打ちを響かせている。カウントダウンのつもりであるらしかった。 「『ミィ』、だった筈だが?」 「ぴーんぽーんwwwwwwwwwwwwwwww正解でーすwwwwwwwwwwwwwwグリフィンドールに893点!!!wwwwwwwwwwwwwww」  途端に、アサシンの態度がぶっ壊れた。 まるで第一志望の面接に挑む就活性にも似た真面目さでルイと会話をしていたアサシンであったが。 彼にこの事を指摘された瞬間、まるで躁病の患者の如くそのテンションを天井知らず的に上げさせた。 今のアサシンの態度に、全く違和感も何も感じられない。成程、これが如何やら素であるらしい。 「や~、慣れない口調で話すものじゃないッスね~~~~(CV:内田真礼)、もう吐きそうで吐きそうでwwwwwwwwwwww」 「そもそも、如何して初めからそのような話し方じゃなかったのだね」 「それはあれ、第一印象ってと~っても大事でしょ? 初めは礼儀正しく、後は砕けて。ミィとルイルイのコミュランクは今七位ですよ~wwwwwwwwwww」 「成程。随分と踏み込んだ関係になったな、アサシン」 「ど~も、そのクラス名? とか言う奴で呼ばれるの慣れないんですよね~」  「では、こう呼べば良いのかね?」、ルイは、アサシンの言葉を受けて、第二案を提示する。 「『ベルク・カッツェ』と」  「カッツェでいいッスよルイル~~~~イwwwwwwww」  其処でアサシンこと、ベルク・カッツェは空中を浮遊しだし、其処で寝っ転がる。 空中をうつ伏せに浮遊しながら、顎を両手に乗せると言う形で、カッツェは二人を見下ろす。 カッツェは何を思っているのか解らないが、数秒程何かを思案した後、ケラケラと笑い始め、空中を浮遊しながらゴロゴロと寝転がり始めた 「あ~イイっすね~wwwwwwwwwwwwwこの世界にはミィ以外のガッチャマンはいないし、あの脳内お花畑野郎もいないですしぃ?wwwwwwwwwwww思う存分ミィのウルトラなパワーを愚かな人猿に見せつけられますね~wwwwwwwwwwwwwwwwww」 「期待しているよ」 「ウッスwwwwwwwwwwwwあ、其処のイケメンさん、出口何処ッスか?wwwwwwwwwwww」  無言で、メフィストはその方向を指差した。 この状態で彼が口を開き、あの先に天国があると口にすれば、誰もがそれを信じ、その方向に何万人も向かって行くに相違あるまい。 表情にこそ動きはないが、如何も動作が緩慢で、面倒くささと言うものを体中から発散している。どうやら、カッツェと言う男は苦手な手合いらしかった。 「りょーかいでーすwwwwwwwそれじゃ、カッツェ、いきま~すwwwwwwwwwwwwヒャッホー! ぶううううーん、ぶーううーんっwwwwwwww」  そう叫びながらベルク・カッツェは、白い指の指し示す方向へと風の様に走り、去って行った。 「あれが黙示録の赤き騎士担当とは、随分なジョークだな」、とメフィストは溜息交じりにそう零した。 全てを血に染め、地上を戦禍に満たそうとする赤い騎士が今、<新宿>に解き放たれた瞬間だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      子羊が第三の封印を開いたとき、第三の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、黒い馬が現れ、乗っている者は、手に秤を持っていた      わたしは、四つの生き物の間から出る声のようなものが、こう言うのを聞いた     「小麦は1コイニクスで1デナリオン。大麦は3コイニクスで1デナリオン。オリーブ油とぶどう酒とを損なうな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「大樹!!」 「お母さん!!」  そう言って、三十路に漸く差し掛かったかと言う、世間的に見ればまだまだ若い年齢の女性と、小学校に入学したかどうか程度の背丈と年齢の子供が抱き合った。 母親の心境を語るのならば、漸く見つかった、と、無事で良かった、に尽きるだろう。<新宿>に用向きがあった為、<新宿>駅で降りた所で、我が子とはぐれた。 迷子である。気付いた時にはもう遅い、大樹と言う名前の少年は、駅から出た時には既にはぐれていたのだ。 <新宿>駅は<魔震>が起こる前から、兎角複雑な構造をしている事で有名であったが、<魔震>からの復興後も、その構造には何の変化もない。 だから、子が迷っているとしたら、あの駅内であったのだろう。そうなると、見つけるのは困難を極める。何せ駅自体も広い上、人も大量に行き交いしている。 その上、探す対象が子供だ。親を待って一ヶ所で大人しくしていると言う事もしないだろうし、駅員に話しかける知恵と言うのも薄い。 何よりも母親は、子供に切符を持たせてしまっていた。勝手に外に出ている、と言う危険性すら考えられる。だから母親は、急いで一番近くの、 <新宿>駅東側の交番に助けを求めたのである。結果論になるが、子供は十分程度後に戻って来た。 「お母様を探して、駅近くの路地裏を歩いていましたのよ」 「それは、わざわざ申し訳ございません!! 何とお礼を申し上げたら……」 「いえいえ、お構いなく」  但し子供は自力で戻って来たのではなく――大人の女性に連れられて戻って来た、と言うべきなのだが。  くすんだブロンドを短髪に纏めた女性だった。顔立ちは驚く程端正で、西洋人的な気風に溢れている。 髪の色と言い顔付きと言い、日本人、と言うよりアジアの人間ではないのだろう。それを抜きにしても彼女の顔立ちは綺麗である。 眠たげな瞳は、何処かセクシーさと優しさを醸し出しており、<新宿>ではなく表参道を歩いていれば、間違いなくモデルとしてスカウトされてもおかしくない風格すらある。 アジアの人間は西欧の人間は皆同じ顔に見えると言うが、そんな事はない。母親にすら解る、大樹をわざわざ交番に案内してくれたこの女性が、際立った綺麗さだと言う事を。 だがどうにも、日本の季節については不勉強であったらしい。東京の夏にはそぐわない、黒色のドレスコートを身に纏い、その上にパナマ帽である。 暑いに決まっている。コーディネート自体は見事だが、これでは着ている方も後悔しているに違いないだろう。 「お子さんに間違いありませんね?」  そう訊ねるのは、この交番の駐在の警察官であった。 既に年配に差し掛かっているが、一目見て真面目で、実直そうだと解る、見事な身体つきの男だ。 若い時分はさぞや、剣道や柔道、空手などで腕を鳴らした事であろう。 「はい、間違いありません」 「解りました。早期に発見出来て幸いでした。それでは僕は、<新宿>駅に連絡を入れさせて貰います」  そう言って駐在は、交番内の固定電話を手に取り、電話番号を入力して行く。 ドレスコートの女性が此処に来る前、駐在は<新宿>駅の駅員に、こう言う子供が迷子になっていないか、職務を遂行する傍ら探して欲しい、と。 連絡を入れていたのだ。見つかった以上、このような結果になったと言う事を報告する義務があると言うものだった。 「それでは、私はこれで」 「すいません、本当にすいません」 「いえいえ」  そう言って、ドレスコートを着た女性は、軽く母親と、駐在に会釈し、堂々とした足取りで去って行った。 話していて魅力的で、そして不思議さを感じる女性だった。その上、日本語もかなり上手い。故国では相当なインテリであったのだろう。 母親の彼女も見習いたいものであった。短大を卒業こそしたが、今では学生時代に学んだ事の殆どを育児の忙しさで忘れてしまっていた。 「お母さん、あの綺麗な女の人、すっごい強いんだぜ!!」  あのくすんだブロンドの女性の姿が見えなくなってから、大樹と呼ばれた少年は、目を輝かせてそう言った。 日曜の朝早くから始まる特撮ヒーロー、不死鳥戦隊フェザーマンを毎週楽しみにしている少年であったが、今の瞳の輝きは、それを視聴している時の物によく似ていた。 「強いって、何が?」 「俺がお母さんを探してた所でさ、すっげぇ『怖い骸骨のお化け』がいたんだ!! 早く逃げなきゃ、って俺が思ってたんだけど、そこにあのお姉さんが現れて、パンチ一発でお化けをやっつけちゃったんだぜ!!」 「もう、そんなわけないでしょ。アニメの見過ぎよ」 「本当だって!!」  そう言って大樹は力説するが、はいはい、と母親である彼女はそれを流すだけ。 先週のフェザーマンは、そんな内容だったかと思い出す彼女。確か先週は、戦隊の一人が操られて主人公の敵に回ったが、直に元に戻った、という話だった筈だが。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  ――何故、私を呼んだのだ――  ――君自身が餓えたる黒い魔人だからさ――  ――餓える?――  ――黙示録、と言う書物を読んだ事はあるかね――  ――アポカリプスだろう。知っているぞ――  ――では、その中に登場する、子羊が呼び寄せる四騎の騎士の話は?――  ――……――  ――偏った読み方をしているね、君は――  ――うるさい――  ――話を戻そう。俗に黙示録の四騎士と呼ばれるその騎士達は、白、赤、黒、青の四色の馬に跨った者達の事であり、彼らは神より与えられた権能を以て、地上の人類を殺戮し尽くすと言われている――  ――……使える設定だな――  ――何に、とは聞かないよ。白は勝利を、赤は戦争を、黒は飢餓を、青は死そのもの。君は、黒を担当して貰おうと、呼び寄せたのだよ――  ――私が、黒? 服装と翼のせいだからか? 随分安直ではないか。黒と言う色は嫌いではないが、私を表すのには飢餓と言う概念は不適だろうよ――  ――君が戦いに餓えたる魔王だからだよ――  ――何?――  ――君は戦いが好きだろう。君が今のような存在になってから戦いが気に入ったのか、それとも人であった頃からそうだったのか。それは私としては興味がない。肝心なのは、君の現在だ。君がとても戦いを好きで、愛している。その一点が重要なのだ――  ――胡散臭いお前の意見に賛同してやるのは癪だが、確かにその通りだよ。私は、強い魔法少女と戦う事が、何よりも好きだった。血が躍る――  ――命を掛けた戦いが好きな君の事だ。君は、君自身と対等な魔法少女と戦う事は、何よりも好きであった事だろう。言い換えれば君は、自分を倒してくれる好敵手を探していたような物であり、自分の死に場所を求めていたに等しい人物でもある――  だが、と、黒スーツを纏った紳士は其処で言葉を区切った。  ――強かった君は、敗れ去った。君自身が問題にもしていなかった弱い少女の不意打ちで。理想の好敵手でもない相手に、理想の死に場所とは到底言えないような所で、君は、殺された――  ――……――  ――君は渇望しているのではないのかね。戦闘を。そして、自分の納得の行く結末と言うものを――  ――それに、私が餓えているとでも?――  ――違っているのならば謝罪しよう――  ――答えはいつか教えてやる。ただ、これだけは言っておく。私を呼び出した理由は如何あれ、私はお前にいくばくかの感謝を抱いている――  ――ほう――  ――何のかんのと言っても、生前のようなスペックを振えぬ仮初の肉体とは言え、現世に戻って来れたのは中々嬉しい。それに、聖杯戦争、だったか。魔法少女以外の強者がいるのだろう? いいじゃあないか、素晴らしい事柄だよ――   ――だが――、と、言うのは、最早紐としか言いようがない程の細い繊維で、局所を隠していると言う痴女的な服装を身に纏った、ブロンドの髪の女性だった。  ――お前の指図は受けんよ、明けの明星殿。私は私の意思で動く、それを忘れるな――  ――元より、私は君の自由な意思を尊重する立場だよ。行きたまえ、アーチャー。君の飢えと渇望を満たす相手との出会いを、私は祈ろう――  ――本心では、ないのだろう?――  ――さて、ね――  <新宿>、と呼ばれる町は、平和そうな所だった。 行き交う衆愚。立ち並ぶ虚栄と虚飾のビルディング。そして、都市的な退廃と泡(あぶく)のような都市的繁栄の匂いが香る、爛熟の街。 何処にでもある栄えた街。何処にでもある、経済都市。だが、彼女は違った。彼女は明確に感じ取っていた。 あのスーツの男が語っていた事は嘘ではない。この街は本当に、聖杯戦争なる、超常の輩が跋扈し、凌ぎを削る舞台に選ばれたのだ。 彼女の嗅覚は血の香りを捉えていた。彼女の皮膚は戦火の熱を感じていた。彼女の身体は――荒れ狂う殺意の渦を感じて歓喜していた。 「面白い街だ」  <新宿>駅の周辺を歩きながら、パナマ帽を被ったドレスコートの女性は呟いた。 この街は、あのスーツの男に餓えと呼ばれた感覚を満たす者は、きっといる事であろう。それに、聖杯にだって興味がある。 この力を使って完全に復活する事も、ありかも知れない。夢と空想は、尽きない。  彼女の身体は、これからの期待とドキドキで、日本の夏より熱く燃え滾っていた。 大声で叫び、サーヴァントと呼ばれる存在を、呼んでみたくなる。――『魔王パム』は、此処にいるぞ、と。叫んでみたい衝動を、ぐっと彼女は抑えるのであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      小羊が第四の封印を開いたとき、「出て来い」と言う第四の生き物の声を、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は、「死」といい、これに冥府が従っていた      彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「おのれ魔界医師、私を呼ぶとは何たる無礼者じゃ!!」  その存在は、アカシア記録制御装置(コントローラー)で呼び寄せられるなり、すぐさまそう叫んだ。 彼女を<新宿>に呼び寄せると、ルイ・サイファーから言われた時、メフィストは正気を疑った。 理論上、彼女を呼び寄せる事は可能な事柄であった。魔力回路や肉体的性能や強度を高めた、メフィスト謹製のドリー・カドモン。 ルイ・サイファーは、このカドモンに、アカシア記録に記録されている異世界の存在の情報を固着させ、その存在をサーヴァントとして動かそうと考えたのだ。 つまりルイは、アカシア記録制御装置を動かして獲得した、該当存在の情報を依代にして、カドモンにそれを注入させ、言うなれば、受肉したサーヴァントに近い存在を、 産み出そうとしたのである。理論に間違いはなく、成功する蓋然性が極めて高い実験ではある。しかし、リスクがないわけではない。 先ず、彼らには、サーヴァントを本来御す為の令呪がない為、自由に活動が出来ると言う事が一つ。 そして何よりも問題なのは、彼らはルイの魔力によって動く存在ではなく、自前の魔力回路が生み出す魔力で動く存在だ。自律性が恐ろしく高い。 彼らはサーヴァントでありながら、マスターを必要としない完全なる独立存在だ。そんな物を四体、<新宿>に放てば、どうなるのか。想像するに難くない。  これらの性質を加味して、最後のドリー・カドモン、四騎士における青に相当する存在として、彼女を呼び出そうとルイから言われた時。 メフィストは珍しく、目を見開かせて驚いた。呼び寄せる事は可能だが、その存在を呼び寄せるなど、悪魔を召喚するよりもずっと危険な事柄なのだ。 如何なる黒魔術師が、如何なる用意をしておこうとも、彼女を呼び寄せた末に待っているのは、無惨な死以外にはあるまい。  その存在は過去、メフィストと浅からぬ因縁を持った女性であった。 嘗て魔界都市を壊滅寸前にまで追い込んだ、最強の毒婦にして、バビロニアの大淫婦の再来。世の全ての吸血鬼の女帝にして、自らの赴くがままに動くわがままな女王。 そして、人生で初めての恋に破れ、世界の何処かに隠れるように逃げて行った、哀れな女。全てを受け入れる魔界都市ですら、受け入れられなかった女。 「久々に出会うのだ。挨拶の一つぐらいは、して然るべきではないのかね」 「貴様の創造主(つくりぬし)は、冗談の才能だけは授けなかったようじゃの。私の顔を爛れさせた男が、よくも言うわ」  メフィストと、ルイの目線の先にいるのは、女だった。 年の頃は二十代。誰がどのような角度で見ようとも、それ以外の年齢には見えないだろう。 だが、最早。年齢など、誰も問題にしないだろう。彼女の貌を。身体を見てしまえば。  天使の美貌を持つ男、秋せつら。神の美貌を持つ男、ドクターメフィスト。彼らですら、この娘の美貌には及ぶまい。 風に委ねた黒髪は、この部屋の青い闇を支配する程の神秘性と王威に溢れており、あらゆる黒よりなお目立つ。 人の手の触れ得ぬ高山の山頂の万年雪よりもなお白いその肌は、身に付けた飾り気のない、純白の衣装ですらが薄汚れた汚物に見えてくる。 美の基準は、年代、時代、国によって変わると言う。だがしかし、この女性の誇る美は、永遠であり、不変。そして、絶対の物であった。 薄暗い闇の中に、ポッと光がともったようなその美貌の持ち主の名は――一体。 「ほほほ、じゃが、唯一面白い冗談があるとすれば、今の貴様の境遇だの、メフィスト」 「ほう」 「魔界医師と呼ばれ、この私ですらが認めた男が、事もあろうに使役され、頭を垂れる身分になっておろうとは。それも、ただの人間に従っているのではない」  目線を、黒いスーツを身に纏った男の方に向けた。 凝視しただけで、男を射精させる程の、美と言うエネルギーを内包した女性の視線を受けても、ルイは、平然とした顔をするだけだった。 「事もあろうに、悪魔どもの王に従っていると言うのだから、愉快極まりないわ。当ててやろうか、貴様の名は、ルシファー、じゃろう?」 「ルイ・サイファーさ」 「ふん、神に逆らい魔界で燻っていると、愉快さも失うようじゃ。メフィスト以上につまらぬ冗談だぞ」  つまらなそうにルイから目線を外した。 「メフィストよ、一つ答えよ」 「何か、姫よ」 「ふん、今更貴様がその名で呼ぶのは、白々しいとしか言いようがない。何故貴様は、その男に従っている。そして何故、貴様自身も弱くなっているのだ」  姫と呼ばれた女性が、一切の嘘は許さぬ、と言う、女帝の眼光を輝かせながらメフィストに詰問した。 別段、欺く程の事でもないと思ったのか、メフィストは説明し始めた。この世界の<新宿>の事、此処で行われる聖杯戦争の事。 そして、メフィスト自身も姫自身も、サーヴァントと呼ばれる存在になり、弱体化していると言う事を。 「下らぬ」  全てを聞き終えた姫の答えは、短く、簡素で、解りやすいものだった。 「私に聖杯を求めて争え、とでも言うのではあるまいな。嘗ては戯れに、フィリップ四世なる王を誑かし、彼の愚王の手によりて壊滅させられたテンプル騎士団とやらも、同じような物を求めていたな」 「君がそんな物を求める程、安い存在じゃない事位は知っているさ。私が求めるのは、ただ一つさ、姫――いや、『美姫』よ」  其処で一呼吸を置いて、ルイは続けた。 「君はこの<新宿>で、飽きるまで自分を謳歌して欲しいのさ。寝たい時に寝、食べたい時に食べ、血を吸いたい時に血を吸い、交わりたい時に交わる。君の理想は、それだろう」 「然り、じゃ。悪魔王。だが、貴様は一つ見誤っているぞ」 「ほほう」  面白そうに、ルイの表情が動いた。 「私がこの堕ちた<新宿>に呼び寄せられたのは、大方貴様の差金じゃろう。貴様ともあろうものが、理解していない筈があるまい。貴様の口走ったそれは、自由じゃ。 そしてその自由こそ、私が尊いと思う物。だがな、貴様の思惑で、偽りの肉の人形に情報を固着されて、この世界に呼び寄せられた私に、自由があると思おうか?」 「実に、口が立つな」  ルイは反論をしなかった。その通りであるからだ 美姫が言っている事は要するに、ルイがどんなに姫の理想とする条件、つまり自由だが、それを保証して現世に呼び寄せた所で。 サーヴァントに近しいスペックで呼び寄せた以上、その時点でそれは自由ではないのだ。それはつまり、檻の中の自由。軛の中での解放に過ぎないのだ。 「心底不愉快じゃが、今の私は貴様の掌で踊る文字通りの人形に過ぎぬ。それがつまらぬと言うのじゃ。どんなに貴様が私に自由を楽しめと言おうが、これで本当に、愉しめると思うのか?」 「ならば、自死を選ぶかね、姫よ」  と問うのは、やはりルイだ。これを受けて、ホホホ、と高笑いを浮かべる姫。 天から落ちて来た白銀の琴の様に美しい声で彼女は笑うが、その声に秘められた、残忍かつ冷酷な感情を聞き取れる者は、決して少なくないだろう。 彼女と言う人物を知らなくても解る、捻じ曲がった性格の笑い声であった。 「私の本体は今でも船に乗り、地上の何処かの時空を彷徨っておる。所詮この世界の私など、一抹の夢に過ぎぬのだろう?」  其処で、ククッ、と忍び笑いを浮かべ、美姫は続けた。 「私にとっては死すらも楽しみな事柄じゃ。この世の悦楽を飽きる程楽しめば、後は自ら命を断つわ。生きたい時に生き、死にたい時に死ぬ。最高の在り方じゃろうが?」 「そうかそうか、それには賛同の余地があるな」  「――尤も」  「それを今行えば、秋せつら君に遭えないだろうがな」 「――貴様。今、何と言った」  嘲るような微笑みに彩られた美姫の表情が、一瞬で、虚無その物の如き無表情に転じて行った。 無、とはまさに、今の彼女の表情の事を言うのだろう。喜びがない、怒りがない、哀しみがない、楽がない。 能面ですら、まだ幾らかの表情を湛えていると言う物だ。今の彼女の貌は、星のない宇宙の暗黒そのものだ。 だからこそ、恐ろしい。次に如何なる感情の波が迸るのか、理解が出来ないから。 「君の愛した男が、この<新宿>にもいると言っているのだよ。彼もまた、サーヴァントとして――」  其処で、姫が動いた。 腕全体が消し飛んだとしか思えぬ速度で、ガッと、アカシア記録制御装置から飛び出した鉄の管を掴んだのである。 重さ数tは下らない、真鍮のメカニズムを片腕で持ち上げ、音速を超える程の速度で、ルイの方へとそれを放擲した!! 彼にそれが激突し、肉体を破壊し内臓を飛び散らせるまであと二m程、と言う所で、そのメカニズムは上空へと消え去った。 見るが良い!! そのメカニズムを巨大な両脚の爪で器用に握る、銀色の大鷲を!! 翼を広げれば、二十mにも達する、その気になれば巨象ですらも持ち上げられそうな、その大鷲の魁偉!! コレなるは、彼の魔界都市に於いても名高い、ドクターメフィストの針金細工。彼は、姫が制御装置を手にしたその段階で、懐に忍ばせていた針金を使って、瞬間的にこの大鷲を作り上げていたのである。 「せつらを従えるは、何処の誰じゃ」  地の底から響いてくるような、恐るべき声音で、姫が訊ねた。 「聞いて、如何するのかね」  メフィストが静かに訊ねた。彼だけが、冷淡な態度を崩しもしなかった。 まるで美姫よりも、ルイよりも。アカシア記録制御装置に、異常はないだろうか、と言う事の方に興味関心がある、と言うような装いである 「その者を縊り殺す」  殺す。その言葉の意味する所は何よりも重い物である一方、人類史の過去未来を問わず、多くの者がその言葉を口にして来た。 ある者は冗談で、ある者は恫喝で。そしてその言葉の多くが、話しの流れで場当たり的に飛び出した言葉だったり、単なるその場凌ぎの、重みを感じさせぬそれであった事だろう。  姫の口にした、その言葉の重さは、別格だった。 北の果ての海に浮かぶ氷山よりも冷たくて重々しく、そして、その意思を絶対に遂行すると言う漆黒の情動が、その言葉には渦巻いていた。 情念により鬼になった女を、般若と人は言う。今の美姫が、伝承の般若の通りの、恐ろしい風貌であれば、どれ程良かった事か。 美しいが故に、凄惨だった。ヴィーナスですら褪せて見える程の美貌の持ち主が、今の殺意を発散しているからこそ、絶望感が、凄まじかった。 「私は許さぬぞ、メフィスト、ルシファー。せつらは、私が求め、下僕とするべき男だった。何処の誰が、奴の心を射止めたか? 何処の誰が、従えているのか? 女である事も問わぬ、男である事も問わぬ。若かろうが老いていようが、赤子であろうが獣であろうが、私はその存在を赦す事など出来ぬ」  ルイの方を、決然たる目つきで睨めつけ、姫は言った。 「今一度は、貴様の掌の上で踊ってやろう、明けの明星。私が唯一、奴がいればこの世の何者もいらぬと認めた男が、サーヴァントなどと言う下らぬ身分で呼び出されたと言う事実が、最早許し難い。奴を従える者を殺し、せつらも殺し、私も死のう」 「お好きなように」  ルイの口は吊り上っていた。これで、四騎士の全てが揃った。 白のセイバー、赤のアサシン、黒のアーチャー。そして、蒼のライダー。 この街が辿る運命を、メフィストは夢想した。この都市は、魔界都市になるか。それとも――黙示録の世界となるか。 彼の知能を以ってしても、先の見通せぬ、ルイ・サイファーの鬼謀が、酷く腹ただしいのであった。 ---- 【四谷、信濃町(メフィスト病院)/1日目 午後1:10分】 【ルイ・サイファー@真・女神転生シリーズ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [契約者の鍵]有 [装備]ブラックスーツ [道具]無 [所持金]小金持ちではある [思考・状況] 基本行動方針:聖杯はいらない 1.聖杯戦争を楽しむ 2.???????? [備考] ・院長室から出る事はありません ・曰く、力の大部分を封印している状態らしいです ・セイバー(シャドームーン)とそのマスターであるウェザーの事を認識しました ・メフィストにマガタマ(真・女神転生Ⅲ)とドリー・カドモン(真・女神転生デビルサマナー)の制作を依頼しました(現在この二つの物品は消費済み) ・マガタマ、『シャヘル』は、アレックスに呑ませました ・失った小指は、メフィストの手によって、一目でそれと解らない義指を当て嵌めています ・ドリーカドモンとアカシア記録装置の情報を触媒に、四体のサーヴァントを<新宿>に解き放ちました ・?????????????? 【キャスター(メフィスト)@魔界都市ブルースシリーズ】 [状態]健康、実体化 [装備]白いケープ [道具]種々様々 [所持金]宝石や黄金を生み出せるので∞に等しい [思考・状況] 基本行動方針:患者の治療 1.求めて来た患者を治す 2.邪魔者には死を [備考] ・この世界でも、患者は治すと言う決意を表明しました。それについては、一切嘘偽りはありません ・ランサー(ファウスト)と、そのマスターの不律については認識しているようです ・ドリー・カドモンの作成を終え、現在ルイ・サイファーの存在情報を基にしたマガタマを制作しました ・そのついでに、ルイ・サイファーの小指も作りました。 ・番場真昼/真夜と、そのサーヴァントであるバーサーカー(シャドウラビリス)を入院させています ・人を昏睡させ、夢を以て何かを成そうとするキャスター(タイタス1世(影))が存在する事を認識しました ・アーチャー(八意永琳)とそのマスターを臨時の専属医として雇いました ・ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上&モデルマン(アレックス)の存在を認識しました ・浪蘭幻十の存在を確認しました ・現在は北上の義腕の作成に取り掛かるようです ・マスターであるルイ・サイファーが解き放った四体のサーヴァントについて認識しました。 【セイバー(チトセ・朧・アマツ)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】 [状態]健康、実体化 [装備]黒い軍服 [道具]蛇腹剣 [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライドとの戦闘と勝利) 1.余り<新宿>には迷惑を掛けたくない 2.聖杯を手に入れるかどうかは、思考中 [備考] ・現在<新宿>の何処かに移動中。場所は後続の書き手様にお任せします 【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】 [状態]健康、実体化 [装備] [道具] [所持金]貰ってない [思考・状況]真っ赤な真っ赤な血がみたぁい! 基本行動方針: 1.血を見たい、闘争を見たい、<新宿>を越えて世界を滅茶苦茶にしたい 2.ルイルイ(ルイ・サイファー)に興味 [備考] ・現在<新宿>の何処かに移動中。場所は後続の書き手様にお任せします 【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]健康、実体化 [装備]パナマ帽と黒いドレスコート [道具] [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:戦闘をしたい 1.私を楽しませる存在はいるのか 2.聖杯も捨てがたい [備考] ・現在新宿駅周辺をウロウロしています 【ライダー(美姫)@魔界都市ブルース 夜叉姫伝】 [状態]健康、実体化、せつらのマスターに対する激しい怒り [装備]白い中国服 [道具] [所持金]不要 [思考・状況] 基本行動方針:せつらのマスター(アイギス)を殺す 1. アイギスを殺す、ふがいない様ならせつらも殺す [備考] ・現在メフィスト病院にいます ※ドリー・カドモンを触媒に呼び寄せられたサーヴァントには、以下の特徴があります ①基本的に彼らには霊核と呼ばれる物が存在せず、言うなれば受肉しているに等しい存在です ②彼らにはカドモンに備わった自前の魔力回路が用意されており、魔量供給無しで魔力が自動回復しますが、その代償として霊体化が出来ません ③ルイ・サイファーはこの四体のサーヴァントに対する令呪を持たず、基本的に完全に独立した行動であり、特徴としてAランク相当の単独行動スキルのような物を持ちます ④魔力を使い過ぎると、ステータスの大幅な低下が発生し、それを越えて魔力を消費し過ぎると、単なるドリー・カドモンに戻ります。これを、魔力の遣い過ぎによる退場とします **時系列順 Back:[[シャドームーン〈新宿〉に翔ける]] Next:[[レイン・ポゥ・マストダイ]] **投下順 Back:[[開戦の朝]] Next:[[太だ盛んなれば守り難し]] |CENTER:←Back|CENTER:Character name|CENTER:Next→| |45:[[インタールード 白]]|CENTER:ルイ・サイファー|46:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]]| |~|CENTER:キャスター(メフィスト)|~| ||CENTER:白のセイバー|| ||CENTER:赤のアサシン|| ||CENTER:黒のアーチャー|37:[[レイン・ポゥ・マストダイ]]| ||CENTER:青のライダー|46:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]]| ----
 メフィスト病院には、次のような有名な言葉遊びがある。 『治療室に入った者は必ず戻る。しかし、院長室に入って出て行った者はいない』、と。 より補足を加えるのであれば、院長室に招かれた者以外は、如何なる奇跡を味方にした者であろうと、如何なる神の加護、如何なる悪魔の庇護を受けようとも。 絶対に、其処から脱出する事が出来ない。後に待ち受けるのは、美しい男の繊手によりて下される、幸福な死だけである。 永久に外の風景を眺める事が叶わない、と言う地獄から解放させてくれるのが、虚無に話しかければ虚無を構成する分子の方から語りかけてきそうな美しい男なのだ。 それはそれで、最後の幸運、と呼ぶべき物なのかもしれないが。  院長室に、所謂顔パスで、通る事が許されている人物は、現在三人。 その内の一人は、この世界には存在すらしていない男。<新宿>警察に所属する刑事(デカ)の一人。 自分を痛めつければ痛めつける程、因果律レベルでその痛めつけた人間により不幸を強いらせると言う特異な運命を持った貧相な刑事、朽葉。 朽葉以外の残り二人は、聖杯戦争の舞台となっている<新宿>に招かれている人物だ。その内の片方は、しかも、メフィストと同じサーヴァントとして。 世界の誰よりも、黒の似合う美男子。親しみやすくて気の良い男の仮面を被った、残酷で冷酷な魔界その物のと呼ぶべき存在、秋せつらこそが、メフィスト病院の院長室に足を踏み入れる事を許された存在である。  ――そしてもう一人は、サーヴァントとして自身が召喚されてから認めた男。 メフィストが嘗て出会った如何なる紳士よりもずっと上品で、気品漂う物腰で。そして、彼の出会った如何なる魔人よりも空寒い何かを放つ男。 そのマスターこそは、地上で並ぶ者のいない賢者であった。地上で最も愚かな行いをしてしまった、大馬鹿者でもあった。 「素晴らしい」  最も愚かなその賢者の名こそ、ルイ・サイファー。 メフィストが認める、せつらと並んで黒の似合う男。いや、或いは黒その物。紳士の皮を被った悪魔であり魔王。 万年の統治を約束する名君の建前を持った、圧政に対する反逆者。それこそが、魔界医師が従っている男の正体であるのだった。  夏至に近い時期の午後一時とは、一年を通して最も明るい時期。太陽が最も高い位置に置かれた高見座から地上を見下ろす時間帯である。 その時限に差しかかろうとも、メフィスト病院院長室は、薄く青い闇が優勢を保っていた。 如何なる魔霊をも祓い、浄化する、太陽天の暖かな光をこの部屋に受け入れようとしないのは、単なる主の美観の問題なのか。 それとも主が、光を避ける者と言う意味を持つ悪魔と同じ名前をした魔人だからなのか。その真実を知る者は、誰もいない。 「この街には確かに、混沌が芽吹きつつある。私の望む、善い街になりつつある。実に、好ましい主従を呼んだようだよ、『彼』は」  ブラックスーツに身を纏った紳士、ルイ・サイファーは左手で、群青色に透き通った鍵を弄びながら、其処から投影されるホログラムを楽しんでいた。 名画と名高い映画でも眺めるように、ルイが面白がっているホログラムとは、何か。喜劇か、悲劇か。はたまた、ポルノか。 どれとも違う。ルイは、契約者の鍵を通して通告された、ルーラー及び<新宿>の聖杯戦争の運営者からの緊急報告を面白がっているのだ。 盛り上がりもない、事務的で淡々とした文体の文章に、アクセント程度の二名の男の顔写真。 話を要約すると、ザ・ヒーローと、バーサーカーのクリストファー・ヴァルゼライドと言う男達は相当羽目を外したらしく、それがルーラー達の逆鱗に触れたと言う事らしい。 それが、ルイには面白くて仕方がなかったのだ。彼はこの二人を愚かだと思っていない。寧ろ、自分を何処までも楽しませてくれる、実に有能な役者達だとすら思っていた。 「彼、とは誰の事か」  格調高く艶やかな漆黒をした、黒檀の机に向かって座る、机の色とコントラストを成すような白いケープを纏う男が訊ねた。 汚れや塵埃の方から、避けるに違いない完全な白を身に纏った、冷たい闇が人の形を成したようなこの男こそが、ルイ・サイファーが召喚したキャスター。メフィストであった。 「此処に投影されているホログラムが見えるだろう? 其処に映っているマスターさ」 「マスターの友人かね」 「当たらずとも遠からず、と言った所さ」  そう言ってメフィストは、凛冽とした輝きを、水晶体の奥底で湛えるその瞳で、ルイが左手に持つ鍵から投影された映像を眺めた。 サーヴァントと思しき男は、彼のナチスの将校服にも似た形式の黒軍服を身に纏った金髪の男で、言葉を交わさずともその烈しい気性が窺い知れる、鉄の男だった。 メフィスト好みの益荒男と言うべき人物である。男らしさの欠片もない柔弱な“僕”にも、見習って欲しいぐらいだ。 そんな男を従えるマスターの男は、市井を歩けば幾らでも見つかるような、平凡とした容姿と顔立ちの男だった。 とてもではないが、ヴァルゼライドと言う男には釣り合わない。普通の人間の目には、そう映るだろう。しかし、メフィストには違って見えた。 如何に普通の人間を装おうとも、修羅場を潜り抜けて来た人間は、目が違う、口の結び方が違う。一目見てメフィストは理解した。 マスターと言う体裁で此処<新宿>に呼び出されたこの男は、間違いなく、ルイ・サイファーが目を掛けているだけの大人物であると言う事を。成程、ザ・ヒーロー(英雄)と言う名前は、伊達でも何でもないらしい。 「碌な事をしなさそうな友人だな」  すぐにメフィストは、机の上で開いていた本に目線を下ろそうとした。 『嫦娥運行図』と名付けられたその古びた書物は、院長であるメフィストだけがその場所を知る秘密の書庫に納められた蔵書の一つである。 直近二千年の、世界中のありとあらゆる月の満ち欠けとその異常を記録した書物こそがこの本で、世界に四冊と無い貴重な書物だった。 単なる月の記録図ではない。狼男(ワーウルフ)と月の関係性と、何年何月何時に狼男が姿を見せたかと言う記録は勿論の事、 牛車に乗せられ月の都へと旅立って行った、ある美しい女の話をもこの書物は記録していた。 他にも、月齢と魔力の相関図をもこの書物は記録しており、この月齢の時に一番魔力や霊力、マナが満ちる土地は何処か、と言う事も記されている。 そんな貴重な書物を気まぐれに、メフィストが手に取った理由は一つ。つい数時間前にメフィストが臨時の職員として雇った、ある女性の話を受けたからだ、と言う事を知る者は、彼一人だけだった。 「概要は貴方の口から聞かされた程度だが、推察するに、到底正気とは思えんな。放射線の散布、大量殺戮、そして、ルーラーに対する反逆。一事が万事のような男達だ」 「だからこそ、私は好ましいと思っているのだよ」  ホログラムを消し、懐に契約者の鍵を仕舞い込んでから、ルイ・サイファーは大仰そうに腕を広げ、口を開く。 「混沌の中にあって、人は己を高める事が出来る。高次の霊になる事が出来る。真の自由を得る事も、出来る」 「貴方は、人間と飽きる程接して来て、未だに理解が出来ないのか? 人は、貴方が享受出来る混沌を生き抜ける程、強くはないぞ」 「肉体的な強さに関して言えばその通りだろう。しかし、肝心なのは生き抜こうとするその精神性だ。無論強さがある事は好ましい。だが私は、畏敬を以て今日を生き、希望を抱いて明日を夢む者を、決して見捨てはしないよ」 「人は無秩序な環境に身を置いている時こそ、秩序を求める生物だ。法とは即ち、理由であり根拠だ。人はそれなしでは生きて行けない。だから貴方は永劫、秩序の体現であるYHVHと戦い続けて来たのだろう」 「人が秩序と縋る者を求めるその時、創造主もまた形を伴い現れる。その通り。故に私は戦い続けて来た。宇宙の秩序を司る大いなる意思とね」  ルイは、目線を明白にメフィストの顔に固定させた。 常人は、それ自体が光り輝いているとしか思えないメフィストの面構えを、まず、直視出来ない。 中東の砂漠の国に、商人として生まれた男が開祖となった宗教は、天使の姿を人が見れば、発狂すると説いた。 神や天使とは、人の持つあらゆる言葉を用いても表現出来るものでは断じてなく、人間の感覚器官や美意識では見る事も評価する事も叶わぬ存在であるからだと言う。 では、この男の場合は如何か。如何なる修飾語、如何なる形容語句を用いても、表現出来ぬこの美しい男の場合は。 そして、その美しい男を真正面から見据えて、恬淡としている黒スーツの男は、一体、何なのか。誰なのか。 「私はこの街に、大いなる意思を中心とした理を破壊するだけの力を求めている。だが、それだけの力を生む混沌は、そう簡単に生まれ出でないのもまた、事実だ」 「だから、貴方は素晴らしいと言うのか? 新しく討伐令を敷かれたこの男達の事を」 「彼らは実によく働いていてくれているよ。だが、まだまだ私が求め、楽しめる程度の混沌には至っていないと見るべきか」  一呼吸を置いてから、ルイは続けた。 「私が手助けをせねばなるまい。先達の整えた舞台を、より良くする。先達の失敗を、取り繕う。それが、後続の仕事であり、労苦であるからね」 「何を成す、ルイ・サイファー」 「この街に、更なる試練と混沌を。君の語った魔界都市のような街に、昇華される時が来たのだ」 「貴方はやはり、無間地獄(ジュデッカ)の奥底で、永久に氷漬けにされていた方が良かったのかも知れんな。人に不幸しか齎さないではないか」 「試練に痛みと堅忍はつきものさ。良い定職に在り付きたいから勉強を頑張る、金銭が欲しいから必死に根を回す。神の与える試練など、それらの延長線上に過ぎない。まぁ、私の齎す試練も正しくそれに近しいのだがね」  ルイは滔々と言葉を続けて行く。 演説に特有の熱もない、要点だけを簡潔に述べる爽やかさもない。しかし、何故か、この男の言葉は、心によく染みわたるのだ。 まるで、ヒビの入った石に、雨水でも染み込んで行くかの如き語り口で、男は話をする。ルイの言葉は水であり、そして、人をその気にさせる炎だった。 「間もなくこの<新宿>は混沌に包まれる。あらゆる命に意味がなくなる街と化す。それを担うのは我々だ、メフィスト」 「だろうな。私には未だに実感が湧かぬが、この世界の<新宿>の主役は如何も、私達であるようだ」 「時は満ちた。私もいよいよ動こうかと思う。メフィスト、『準備』は出来たかね」  パタン、と、本が閉じる音が、例えようもない静かさを伴って流れた。 「最後のボルトを締め終え、実用の段階に入った」 「結構。其処に、私を案内してくれ」 「心得た、我が主よ」  言ってメフィストは立ち上がり、無言で音もなく、歩み始めた。 人の形をした白い光が風のような滑らかさで歩いているように、余人には見えるだろう。 それを追うように、ルイもまた歩き始める。周囲数百億光年に、光を放つ恒星が一つとして存在しない宇宙の闇が、人の形を伴って歩いているように、余人には見えた事だろう。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  其処が、地上に面した階なのか、それとも陽の光の届かない地下の世界なのか。 恐らく、それを推察出来る者は一人として存在するまい。この病院の全てを知っている、メフィスト以外は。  窓もなければ時計もなく、音もなければ生き物の気配すらない、メフィスト病院の何処かであった。 深海を思わせるような、青みを孕んだ闇の中を、二人は歩んでいる。メフィストと、ルイ・サイファー。 およそ照明の類が一つとして存在しない回廊であるのに、そこは薄らとした暗さしかなく、歩く分には問題がないと言う奇妙な結果が同居していた。 そんな不思議で、深海の奥底に建てられた神殿を思わせる神秘的な世界の中でも、メフィストの姿は白く光っているように見え、ルイの姿は黒く霞んでいるように見えた。 二人の存在感は、その程度の神秘さと不思議さでは、色あせる事すらないと言う事の証左でもあった。  この回廊を歩くまでの道のりは、本当に普通と変わりがなかった。 患者の関係者が見舞いの為に入院している部屋へと足を運ぶ、患者の担当医が定期検診の為にその部屋へと向かう。 本質は其処と何も変わりがない。であるのに二人は、このような奇怪な道を歩くに至っている。 ただ階段を上り、そして、時には階段を降り、またある時は、関係者以外の立ち入りを禁止すると言う扉を開けて其処の中に入る。 それだけなのに、二人は今この場所にいるのだ。だが、聡明なルイ・サイファーは気付いていた。 メフィストの宝具であるこの病院は、メフィストがその気になれば、この世の時空の法則が全く当てにならない空間に変貌する。 その装置が安置されている場所は、恐らくは院長室と同じで、普通にその場所に向かっただけでは先ず辿り着けない。 メフィストは、目的のものは地下に在ると言っていたが、それを愚直に信じ、地下に足を運ぶだけでは目当ての物を目にする事は不可能。 地下にあるのに、階段を昇る。其処とは全く関係のない扉を、開く。また適当な所で、階段を降りる。 そのような、特定の手順を経ねば辿り着けない部屋がこの病院には幾つも存在する事に、ルイは気付いていた。 そしてメフィストが、その装置を安置させる為に、その様なプロセスを設定したのは、妥当であるとすらもルイは思った。そのようなプロテクトを施す程の価値が、その装置にはあるのだから。  白が止まる。黒が、見上げる。 目の前に立ちはだかる、巨大な鉄扉を見るがよい。見る者に与えられる、異様としか言いようのない重圧感は、その扉が決して張りぼてではない。 正真正銘の、密度と厚みを伴った真なる金属の証であると言えるだろう。だが何よりも異様だったのは、その扉の表面に刻まれた、様々な魔術的言語。 在る箇所は、古英語で何かが記されていた。ある場所は、太古の大和言葉で何かが記されていた。 在る箇所は、シュメールの粘土板に刻まれた象形文字めいた言葉が。またある場所は、古代エジプトで用いられたヒエログリフが。 そしてこれら、世界史や日本史で存在を習う文字とは別に、明らかに魔術的な言語である、ルーン文字や梵字の類すら、扉の表面で市民権でも主張するかの如く踊っていた。 「厳重だな」  ルイがほう、と嘆息するように呟いた。単に、巨大な金属の塊、と言う性質が保有する、物質的強度だけでない。 扉の表面に刻まれたこれらの文字は、それぞれが異なる様式の魔術を成し、扉に霊的かつ魔術的な強度を与え、そして物質的強度も更に底上げしている事に、ルイは気付いた。 「核ミサイルに直撃しても無傷だ。理論上は、地球が粉々に砕け散っても、この扉だけは無事に形を保つ程の強度を持つ」 「試した見た事が?」 「まさか」  魔人と魔王のジョークは、聞くだけで心臓に悪いやり取りであった。 談笑と言えない談笑を行った後、メフィストは、スッと、その右腕を伸ばした。 夾雑物の一切存在しない白金を、削り、磨き上げたような美しさが、その腕にはあった。 向こう側が透けて見えそうな程白い薬指に嵌められた指輪の宝石が、光った。それに呼応し、扉は、重々しい音を立てて、観音開きになる。 事の一部始終を見届けたメフィストが、特に合図もなくスタスタと部屋の中に入って行く。当然、ルイもそれを追う。  距離感が狂う程広大な、立方体の部屋であった。 部屋に満ちているのは、青い闇。暑さも冷たさも感じぬ白い霧。閉所恐怖症なる病気がこの世には確認されているが。 これだけ広大な部屋に閉じ込められてしまっても、逆に同じ事だろう。人は、何もない広大な空間に放り出されて、正気を保って居られる程、強くないのだから。  そんな広大な部屋の中に在って、部屋の中央に設置された何かは、ある種のアクセントを演出していた。 一言で言えばそれは、所々に鉄鋲の打ちこまれた、真鍮製の奇妙なメカニズムだ。四方から飛び出した、奇妙な鉄管にガラス管。 そしてそれらを繋ぎ合わせる、表面にマイクロ単位の細やかさの魔術的言語の刻まれた針金と、ゴムのような素材の表面にやはりその言語が刻まれたケーブル等々。 メカニズム、と表現した理由は、その装置に取り付けられた、ハンドルやレバーのせいである。 中世的なクラシカルさと、近現代的なシステマチックさとモダンさが同居した、ちぐはぐな機械だった。まるで子供の奇妙な妄想が形を成したような何かであった。 「これが禁術に指定されたのは、千四百年の事だった」 「後にモンゴルと呼ばれる土地に生を受けた遊牧民の男が築き上げた一大帝国の影響で、ユーラシアの東と西の文化がサラダボウルの様に混ざり終えて久しい時代であり、オスマントルコ帝国はまだバヤズィト一世が健在だった時期か」 「権力者は常に、歴史の裏側で暗躍する魔術の一派を恐れたものだ。特にヴァチカンは、必要以上に神経質に、私の師を恐れた」 「ドクトル・ファウストの事かね」 「ヴァチカンが制御しようとして制御出来る男じゃないさ。あれは狂っているからな」  メフィストが装置に歩み寄る。ルイは、その様子を眺めるだけだった。 「今から行う術法は、魔術の歴史を読み解いても、成せた者はまずいない。いや、そもそも魔術が操れると言うのは基本的な条件であり、大前提だからだ。此処に更なる知識が加わり始めてこの技術は形を成す。これはある意味で、魔術でもあり科学。水にして油。焔にして樹木。相反する性質が必要な業だからだ」 「歴史上、この術法を操れた魔術師は、君が確認出来た限りでどれ程いた」 「本当に優れた魔術師なら、これを操ったと言う記録自体を抹消するさ。近現代で解っている限りで一番有名なのが、エドガー・ゲイシーだろう。ただあの男は、魔術に優れていた、と言うよりは、其処に『接続』出来る才能に溢れた、ある種のバグと言っても良い男に過ぎないのだが」 「私も知っているよ、その男なら。上手く操れたとは思えんが」 「無論、コントロールする術まではあの男は保有していなかった。精々が、記録を解読し、自身の病気を治せた程度だ。尤も、それだけでも十分過ぎる程凄いのだがな」  暫し、沈黙が降りた。本来ならば言葉を返す筈のルイが、黙っているからだ。 とは言えメフィストも、其処で彼に返事を求めてなどいなかった。何故ならば、まだまだこの男には、語る事があったからだ。 「不滅の存在を滅ぼす局面に立たされた時、マスター。君ならどう対処する」 「不滅になる前の過去に遡り、その存在に干渉して見るのも悪くはないが、私ならば、不滅を滅ぼせる存在を育てるだろうな」 「独創的な答えだ。……嘗て、私がそのような存在と対峙した時、私と、私が認める大魔術師は、この装置を使った。未遂に終わったがな」 「それは?」 「並行世界の数は、無限大にも及ぶ。貴方なら、理解している事柄だろう」 「無論」 「理屈自体は簡単だ。不滅の存在であると言うのなら、『その存在が滅んだ並行世界の未来』を探せばよい。そしてその未来を、その存在に押し付ければ良い。そうすれば、如何なる存在をも滅ぼす事が可能だ」  更にメフィストは続けた。 「不滅の存在に死を与える。不幸の源泉であるパンドラの匣をも無力化させる。如何なる存在にも、特定の運命を強いらせる事が出来る。今から操る術法とは、そんな、『神』の一端に触れる技術だ」 「君にそれが出来るかね」 「生前の時点でも、このような装置を借りねば出来なかった程だ。それに今は、サーヴァントとして矮化された身分。先程述べたような事柄は、不可能に近い」 「それでも、私の求める事は出来るのだろう?」  ルイ・サイファーの唇の両端が、少し吊り上った。 何億人の人間が見ても、魅力的としか映らない、その紳士の微笑みに、途方もない野望の色が見え隠れしているのは、一体、何故なのだろうか。 「出来る」  対するメフィストの答えは、氷塊の如くに冷たかった。 過去に勉強し尽くし、知り尽くしてしまった事柄に対する質問を、面倒くさそうに答える老教授宛らであった。 「ならば、これ以上の言葉は無用だな。是非とも、メフィスト。君の腕前を見せてくれたまえ。私は彼のりゅうこつ座の主が運営する、北極星の王座のシステムを、人の身で操っていると言う事実自体もまた楽しみなのだ」 「心得た。ならば、しかと見るがよい。如何なる結末が待ち受けていようとも、それを覚悟して受け入れるが良い」  そう言ってメフィストは、白いケープの裏側から、土気色をした、しかし、それでいて全体的には筋肉のような質感を保った、 不細工な子供のような人形を二つ取り出した。ルイもまた、上着の裏側から、同じような人形を二つ、外に晒した。 「――これより、『アカシア記録(レコード)』の操作を行う」  言ってメフィストは、そのレバーに手を伸ばした。 今からメフィストが行う術法は、あらゆる次元に渡り存在する、宇宙的エーテルが流出している記録庫へ接続し、それを操作する禁術。 あらゆる世界、あらゆる宇宙の全歴史を記録(レコード)する史書であり、全ての歴史の全ての可能性の未来をも読み取れ、操る技。言い換えれば、根元への接続そのもの。 それこそが、今この部屋にいる白と黒が行おうとしている事柄だった。アカシアの霊異記を操ろうとして、メフィストよ。ルイよ。お前達は、何を成すと言うのだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      また、わたしが見ていると、小羊が七つの封印の一つを開いた      すると、四つの生き物の一つが、雷のような声で「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、白い馬が現れ、乗っている者は、弓を持っていた。彼は冠を与えられ、勝利の上に更に勝利を得ようと出て行った ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「何故、私を呼び寄せたのだ」  苛烈な性格であると言う事が窺える声音で、その女は訊ねた。 「君が勝利を求めて渇望している人間であるからさ」  それを受けるは、黒スーツを着用した紳士、ルイ・サイファーだった。 「勝利? 馬鹿を言わないで下さいましミスター。お姉様は、富も権威も名声も、そして自分の国ですら持っていた御方でしたのよ」  ルイの言葉を受けて返すのは、先程の凛冽とした声音が特徴的な女のそれではなかった。 それは、その女性の背後に影のように付き従う、小柄な少女だった。リボンで纏めたシニョンが特徴的な緑髪の少女で、背の割に胸の大きい、トランジスタ・グラマーだ。 「大切な者だけは、ついぞ得られなかったようだがな、お嬢さん」  少女がお姉様と呼んでいる女性の顔が、不愉快そうに歪んだ。 ルイの言葉を受けた少女が、不愉快さと怒りに、酷く引き攣った。ルイの言った言葉の全て、理解しての表情である事は明白だ。 「君は確かに、誰の目から見ても完全かつ完璧な勝利を得る事が出来たのだろう。だが、君自身は、勝利だと思ってなかっただろう? 何故なら君と勝利を喜びあう筈だった男は――」 「よく勉強しているじゃないか、ミスター。だが、聡明な貴方なら理解しているだろう。知りたがり屋は何時だって、寿命が縮まるものだ、と」  背後の少女が動こうとした、その瞬間、彼女の身体は自由が効かなくなり、うつ伏せに倒れ伏した。 「なっ、がっ……!?」、と、少女のもがく声。彼女は今、自分の身体に、銀色の糸が纏わりついている事を知った。針金だった。 「君の気持も解らないでもないが、その男は私の主だ。そして、この病院で、争いは認めん」  ルイの背後に広がる、無明の闇の向こう側から、白い闇、輝ける光のような男が姿を現した。 苛烈な雰囲気を纏った女性が、言葉に詰まった。地面に倒れ伏した少女の表情から、険が抜け、呆然、そして、恍惚とした表情が露になる。 無理もない。この男の――ドクターメフィストの、悪魔的な美貌を見てしまえば、そんな事は当たり前の事なのだ。 「見事な腕前だ、とでも言えば満足か? 美丈夫」 「早く話を済ませたまえ」  メフィストの言葉は、余りにもそっけなかった。目の前の女性達になど、微塵の興味もないと言った風な体だった。 「お前の言う通りだ、ミスター。率直に言うよ、私の人生は、空虚だった」 「お姉様!!」  ギンッ、と、地べたに這いつくばる少女を、女は睨んだ。それだけで、少女は全てを得心。グッ、と歯を食いしばり二の句を押し殺した。 「確かに私は、誰の目から見ても明らかな勝利を掴んだが、私だけは、虚しかったよ。私の傍には、愛した男がいなかったからなぁ」  其処で女性は、頭上を見上げた。青い闇が蟠る、冬の夜空のような昏黒が広がっているだけだ。 「ただそれでも私は、待って待って、待ち続けた。何時か奴が……私が愛した、汚れた人狼(リュカオン)が戻ってくるのだ、と」 「結局、戻らなかった、と」 「私の言葉を奪うのはやめてくれ。他人から指摘されると、どうも、な」  苦笑いを浮かべる女。 「私の求めた勝利は、完全な勝利じゃなかった。ピースが、三つも四つも足りない、不揃いの勝利だった。それは、ミスターの言う通りだ。認めよう」  「――だがな」 「だからと言って私は、お前に踊らされる程愚かじゃないぞ。私は女である以上に、民の上に立つ為政者だ。況してや此処は、私の先祖であるアマツの民の生国。聖杯戦争? 馬鹿を言うな、乗る訳がない」  彼女の返事は、気高かった。そして、美しかった。 その言葉には微塵の嘘も偽りもなく、全てが真実、全てがありのまま。一切の虚飾を取り払ったシンプルな言葉は、余りにも美しい。 地面に這いつくばった少女は、女性の言葉に魅了され、ほう、と嘆息した。如何やら、同性愛(レズビアン)の気が強いらしかった。 「成程、予想していた通りの答えだ。君を動かすには、万の言葉を尽くしたとて、不可能だろう」 「切り札を早く見せたらどうだ」 「ふむ?」  疑問気な声をルイは上げた。「惚けは興を削ぐぞ」、と直に女は指摘。 「ミスターは、私が見た中でも一番聡明な人間だ。断言しても良い。そして、私が見て来たどんな政治家よりも腹の黒い曲者でもあるとな」 「つまり?」 「私を聖杯戦争の参加者、いや、サーヴァントか? その手駒として参戦させると意気込んだ以上、当然、私をその気にさせる『切り札』があるのだろう?」 「ふふふ」  ルイは、不敵に笑った。 「切り札を温存したまま機会を逸する事程、馬鹿らしい事はあるまい。悔いのないよう、今の内に開帳しておいたらどうだ?」 「ハハハハハ、素晴らしい。君は実に聡明な女性だ。腹を割って話せる人間は大好きだ、腹の探り合いなどは無駄なプロセスだから、ね」  そう言ってルイはポケットから、あるものを取り出した。 群青色の宝石で出来た鍵のようなそれは、契約者の鍵だった。慣れた手つきでそれを弄ぶと、鍵から、ホログラムが投影される。 それを見て――女性と、そして、少女は、心底驚いたような表情を隠せなかった。愕然、と言う言葉がこれ以上となく相応しいだろう。 硬直したまま動かないのは、少女の方だった。硬直から直に復帰したのは、激しい気性の女性であった。そして彼女は、笑った。 「は、ハハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハッ!!!」  爆発するような哄笑だった。病的な物すら感じられる程の、呵呵大笑。 心底愉快そうな笑みである一方で、自身の運命の皮肉さを呪い、嘲るようなシニカルさで満ち溢れた、すてばちな感情すらも読み取る事が出来る。 ホログラムには、金髪の、極めて意思の強そうな男性が映り出されていた。名をクリストファー・ヴァルゼライドと言う男だった。 「な、何だ、総統閣下はこの世界ではお尋ね者の犯罪者なのか、ククッ、ハハハハハハ!! 全く、笑わせるジョークを見せてくれるじゃないかミスター!!」  ルイは、女性の笑いが収まるのを待った。 たっぷり十秒程の大笑いが、広大な空間に広がった後、眦に浮かんだ涙を弾き飛ばしながら、女性は、ルイ・サイファーの方に向き直った。 濡れた鴉の黒羽の様に艶やかで美しい黒髪を、後ろに長く伸ばした女性であった。彼女は、クリストファー・ヴァルゼライドが纏っている制服と同じ様な軍服を身に纏い、 そして何よりも特徴的なのが、彼女の右目に取り付けられた眼帯だった。彼女の右眼は生前の時点で抉り取られている。 もしも、その様な身体的欠陥がなければ、さぞや美しい、軍服ではなくドレスを身に纏えば男をより取り見取りに出来た程の麗女であった事だろう。 「返事を聞かせてくれないか、セイバー。いや……『チトセ・朧・アマツ』くん」  それを受けて、チトセと呼ばれた軍服の女性は、懐に差した剣を勢いよく引き抜き、それを振り回した。 それは彼女の、弛まぬ鍛錬と天性の才能が組み合わさった剣捌きを受けて、びゅんびゅんと音を立てて彼女の周りを旋回する。 その剣は、剣身を複数に分割されており、分割された部分をワイヤーで繋ぎ止めた、いわゆる蛇腹剣と呼ばれる剣であり、まるで鞭のように、そして、 神技の如き軌道を描いて、チトセの周りを回転。ガチャンッ、と言う音と同時に、分割された剣が元の一本の剣になり、その剣先を、ルイの首元に近付けた。 「お前の指図は受けん」  チトセの言葉は、奇しくも、ヴァルゼライドと同じ、鋼であった。 「だが、このまま黙って帰るのも面白くない。折角、滅ぶ前の日本にやって来れたのだ。観光がてらに街を散策し、そして――生前成し得なかった事を成して見るのも、悪くはない」 「ほう、それは?」 「決まっている。私の愛した人狼(リュカオン)は、如何なる手段を用いてか、あの英雄を下したと言う」  剣を鞘に納めチトセは、言った。 「ならばこの世界では、奴の……ゼファー・コールレインの代わりに私が、『逆襲(ヴェンデッタ)』と『完全なる勝利』を、あの英雄を相手に成し遂げるのさ」 「逆襲か。それは、私にも、か?」 「そうだ、ミスター。つまらないか? その結果が」 「最高に面白いよ、セイバー」  ルイが爽やかな口ぶりで、返事をした。その貌に浮かぶのは、狂人の微笑み。 「研がれた牙を誇りに、地の果てまでも走るが良い。そして私は、君が今度こそ、完全な勝利を得られる事を祈ろう。何故なら君が――『期せずして、希望とは違う勝利を得てしまった哀れな女性』であるが故に」  ルイがそう語り終えると、チトセの従者にして、宝具である少女。 サヤ・キリガクレを縛る針金が解除される。急いで彼女は立ち上がり、敵意をルイとメフィストに露にする。目線は、メフィストから外されている。 その美を直視してしまえば、耐えられないと思ったからだ。 「サヤ、出るぞ」 「お、お姉様……」 「此処に最早用はない。余りにも薄暗く、黴臭いからな。出口は何処だ、麗しい美丈夫さん?」 「案内しよう」  言ってメフィストは、ケープの袖から、ビュンッ、と針金を伸ばした。 それはメフィストの右脇の方にずっと伸びていた。針金の伸びた方向に、チトセは歩いて行く。 ありったけの殺意と憎悪をルイに叩き付けながら、サヤはその場から、正に霧の様に消えて行く。 二人の退院を、ルイ・サイファーは愉快そうに眺めていた。望まぬ勝利を得てしまった白い騎士が今、<新宿>に解き放たれた瞬間だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆     子羊が第二の封印を開いたとき、第二の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた     すると、火のように赤い別の馬が現れた。その馬に乗っている者には、地上から平和を奪い取って、殺し合いをさせる力が与えられた     また、この者には大きな剣が与えられた ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「どうして私を呼び寄せたんですかねぇ?」  軽薄そうな男の声が、跳ねかえる壁が一目見ただけでは存在しないとしか思えない程広大な部屋の中に広がった。 「君がとても、トラブルの類を好みそうな者だからさ」  人をおちょくっているとしか思えない程、軽く、薄っぺらなその言葉に、ルイ・サイファーはいつものような笑みを浮かべてそう返すだけ。 「私がそーんなに、揉め事の類が好きそうに見えるんです?」 「過去の経歴を調べさせて貰ったよ。いやはや、実に面白い。人々を争わせ、星を滅ぼし、それを遠くから眺める。実に、悪辣だ。好ましい」 「照れちゃいますよ~」  と、それらしい声の調子で、軽薄そうな男は返事をする。 声と態度からは、目の前の黒スーツの男への警戒と侮り、そして――ルイの背後に佇む、圧倒的な存在感を保つ、白皙の美貌の男への畏怖めいた感情が、微かに読み取れる。 「そんな君だからこそ、赤い騎士の役割が相応しいのだよ」 「何です、それ?」 「世界の終焉を記した、黙示録なる書物に登場する、四騎の騎士の一人さ。赤い馬に跨ったその騎士は大きな剣をその手に持ち、地上に戦乱と喧騒の種を撒くのだよ」 「それはそれは……素晴らしい存在じゃないですかぁ」 「全くその通りだよ」  ルイは不敵な微笑みを浮かべた。相対する男もまた、笑った。 「私はね、君にその悪い力を存分に奮って欲しいのさ。出来るだろう? 災禍の象徴である、君ならば」 「良いんですかぁ? そーんな事をしちゃって? 私が本当にその力を奮ったら、遊びじゃすまなくなりますよぉ?」 「構わないよ」  一切の逡巡を見せぬ様子で、ルイは返答した。 一瞬、呆然に近いような表情を男は浮かべたが、直に、狂的な笑みを浮かべて、ルイの事を眺めた。 この男の正気を疑う以上に、初めて、自分の理解者を得たような、そんな心境を窺わせる笑みであった。 「君の混沌を齎す力は、私が必要とする力なのだよ。人の争乱、悩み、疑心、妬み。負の感情から生まれる何かも、またあるだろう。今の<新宿>には、それが必要だ」 「んっふふふ、ゆっくりりかいしたよっ。それじゃぁ、私、張り切っていっちゃいましょうか」  そう言って男は、空中に如何なる浮力を用いてか浮遊し、其処で足を組んで座る、と言う器用な体勢を解き、地面に両脚から着地した。 「……ところで、アサシン」 「なんでしょ」 「余り肩肘を張る必要は、ないと思うが」  それを指摘されて、顎に手を当てて男は考え込んだ ピンクがかった赤髪を、後ろに長く伸ばした人間だった。ドライヤーなどを使って整えていないのか、髪はもじゃもじゃと言う擬音が相応しい位になっている。 だがそれよりも目立つのはその長身である。二mを超す程の背丈の持ち主で、ルイやメフィストを見下ろす形になっているのだ。 伸ばした前髪で隠された瞳、喜悦に吊り上った唇。男の容姿は、一目見ただけでその性別を窺わせない、中性的なシルエットだった。 「……私がそんなに無理してるように見えます?」 「見えるさ。君の本当の性格は、そんな取り繕う風でもないだろう。そもそもアカシア記録に曰く、君の一人称は私、ではなく……」 「一人称はぁ?」  途端に、馴れ馴れしい口調にアサシンが変わった。 恐ろしく速いペースで、チッチッチッチッチッチッと舌打ちを響かせている。カウントダウンのつもりであるらしかった。 「『ミィ』、だった筈だが?」 「ぴーんぽーんwwwwwwwwwwwwwwww正解でーすwwwwwwwwwwwwwwグリフィンドールに893点!!!wwwwwwwwwwwwwww」  途端に、アサシンの態度がぶっ壊れた。 まるで第一志望の面接に挑む就活性にも似た真面目さでルイと会話をしていたアサシンであったが。 彼にこの事を指摘された瞬間、まるで躁病の患者の如くそのテンションを天井知らず的に上げさせた。 今のアサシンの態度に、全く違和感も何も感じられない。成程、これが如何やら素であるらしい。 「や~、慣れない口調で話すものじゃないッスね~~~~(CV:内田真礼)、もう吐きそうで吐きそうでwwwwwwwwwwww」 「そもそも、如何して初めからそのような話し方じゃなかったのだね」 「それはあれ、第一印象ってと~っても大事でしょ? 初めは礼儀正しく、後は砕けて。ミィとルイルイのコミュランクは今七位ですよ~wwwwwwwwwww」 「成程。随分と踏み込んだ関係になったな、アサシン」 「ど~も、そのクラス名? とか言う奴で呼ばれるの慣れないんですよね~」  「では、こう呼べば良いのかね?」、ルイは、アサシンの言葉を受けて、第二案を提示する。 「『ベルク・カッツェ』と」  「カッツェでいいッスよルイル~~~~イwwwwwwww」  其処でアサシンこと、ベルク・カッツェは空中を浮遊しだし、其処で寝っ転がる。 空中をうつ伏せに浮遊しながら、顎を両手に乗せると言う形で、カッツェは二人を見下ろす。 カッツェは何を思っているのか解らないが、数秒程何かを思案した後、ケラケラと笑い始め、空中を浮遊しながらゴロゴロと寝転がり始めた 「あ~イイっすね~wwwwwwwwwwwwwこの世界にはミィ以外のガッチャマンはいないし、あの脳内お花畑野郎もいないですしぃ?wwwwwwwwwwww思う存分ミィのウルトラなパワーを愚かな人猿に見せつけられますね~wwwwwwwwwwwwwwwwww」 「期待しているよ」 「ウッスwwwwwwwwwwwwあ、其処のイケメンさん、出口何処ッスか?wwwwwwwwwwww」  無言で、メフィストはその方向を指差した。 この状態で彼が口を開き、あの先に天国があると口にすれば、誰もがそれを信じ、その方向に何万人も向かって行くに相違あるまい。 表情にこそ動きはないが、如何も動作が緩慢で、面倒くささと言うものを体中から発散している。どうやら、カッツェと言う男は苦手な手合いらしかった。 「りょーかいでーすwwwwwwwそれじゃ、カッツェ、いきま~すwwwwwwwwwwwwヒャッホー! ぶううううーん、ぶーううーんっwwwwwwww」  そう叫びながらベルク・カッツェは、白い指の指し示す方向へと風の様に走り、去って行った。 「あれが黙示録の赤き騎士担当とは、随分なジョークだな」、とメフィストは溜息交じりにそう零した。 全てを血に染め、地上を戦禍に満たそうとする赤い騎士が今、<新宿>に解き放たれた瞬間だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      子羊が第三の封印を開いたとき、第三の生き物が「出て来い」と言うのを、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、黒い馬が現れ、乗っている者は、手に秤を持っていた      わたしは、四つの生き物の間から出る声のようなものが、こう言うのを聞いた     「小麦は1コイニクスで1デナリオン。大麦は3コイニクスで1デナリオン。オリーブ油とぶどう酒とを損なうな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「大樹!!」 「お母さん!!」  そう言って、三十路に漸く差し掛かったかと言う、世間的に見ればまだまだ若い年齢の女性と、小学校に入学したかどうか程度の背丈と年齢の子供が抱き合った。 母親の心境を語るのならば、漸く見つかった、と、無事で良かった、に尽きるだろう。<新宿>に用向きがあった為、<新宿>駅で降りた所で、我が子とはぐれた。 迷子である。気付いた時にはもう遅い、大樹と言う名前の少年は、駅から出た時には既にはぐれていたのだ。 <新宿>駅は<魔震>が起こる前から、兎角複雑な構造をしている事で有名であったが、<魔震>からの復興後も、その構造には何の変化もない。 だから、子が迷っているとしたら、あの駅内であったのだろう。そうなると、見つけるのは困難を極める。何せ駅自体も広い上、人も大量に行き交いしている。 その上、探す対象が子供だ。親を待って一ヶ所で大人しくしていると言う事もしないだろうし、駅員に話しかける知恵と言うのも薄い。 何よりも母親は、子供に切符を持たせてしまっていた。勝手に外に出ている、と言う危険性すら考えられる。だから母親は、急いで一番近くの、 <新宿>駅東側の交番に助けを求めたのである。結果論になるが、子供は十分程度後に戻って来た。 「お母様を探して、駅近くの路地裏を歩いていましたのよ」 「それは、わざわざ申し訳ございません!! 何とお礼を申し上げたら……」 「いえいえ、お構いなく」  但し子供は自力で戻って来たのではなく――大人の女性に連れられて戻って来た、と言うべきなのだが。  くすんだブロンドを短髪に纏めた女性だった。顔立ちは驚く程端正で、西洋人的な気風に溢れている。 髪の色と言い顔付きと言い、日本人、と言うよりアジアの人間ではないのだろう。それを抜きにしても彼女の顔立ちは綺麗である。 眠たげな瞳は、何処かセクシーさと優しさを醸し出しており、<新宿>ではなく表参道を歩いていれば、間違いなくモデルとしてスカウトされてもおかしくない風格すらある。 アジアの人間は西欧の人間は皆同じ顔に見えると言うが、そんな事はない。母親にすら解る、大樹をわざわざ交番に案内してくれたこの女性が、際立った綺麗さだと言う事を。 だがどうにも、日本の季節については不勉強であったらしい。東京の夏にはそぐわない、黒色のドレスコートを身に纏い、その上にパナマ帽である。 暑いに決まっている。コーディネート自体は見事だが、これでは着ている方も後悔しているに違いないだろう。 「お子さんに間違いありませんね?」  そう訊ねるのは、この交番の駐在の警察官であった。 既に年配に差し掛かっているが、一目見て真面目で、実直そうだと解る、見事な身体つきの男だ。 若い時分はさぞや、剣道や柔道、空手などで腕を鳴らした事であろう。 「はい、間違いありません」 「解りました。早期に発見出来て幸いでした。それでは僕は、<新宿>駅に連絡を入れさせて貰います」  そう言って駐在は、交番内の固定電話を手に取り、電話番号を入力して行く。 ドレスコートの女性が此処に来る前、駐在は<新宿>駅の駅員に、こう言う子供が迷子になっていないか、職務を遂行する傍ら探して欲しい、と。 連絡を入れていたのだ。見つかった以上、このような結果になったと言う事を報告する義務があると言うものだった。 「それでは、私はこれで」 「すいません、本当にすいません」 「いえいえ」  そう言って、ドレスコートを着た女性は、軽く母親と、駐在に会釈し、堂々とした足取りで去って行った。 話していて魅力的で、そして不思議さを感じる女性だった。その上、日本語もかなり上手い。故国では相当なインテリであったのだろう。 母親の彼女も見習いたいものであった。短大を卒業こそしたが、今では学生時代に学んだ事の殆どを育児の忙しさで忘れてしまっていた。 「お母さん、あの綺麗な女の人、すっごい強いんだぜ!!」  あのくすんだブロンドの女性の姿が見えなくなってから、大樹と呼ばれた少年は、目を輝かせてそう言った。 日曜の朝早くから始まる特撮ヒーロー、不死鳥戦隊フェザーマンを毎週楽しみにしている少年であったが、今の瞳の輝きは、それを視聴している時の物によく似ていた。 「強いって、何が?」 「俺がお母さんを探してた所でさ、すっげぇ『怖い骸骨のお化け』がいたんだ!! 早く逃げなきゃ、って俺が思ってたんだけど、そこにあのお姉さんが現れて、パンチ一発でお化けをやっつけちゃったんだぜ!!」 「もう、そんなわけないでしょ。アニメの見過ぎよ」 「本当だって!!」  そう言って大樹は力説するが、はいはい、と母親である彼女はそれを流すだけ。 先週のフェザーマンは、そんな内容だったかと思い出す彼女。確か先週は、戦隊の一人が操られて主人公の敵に回ったが、直に元に戻った、という話だった筈だが。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  ――何故、私を呼んだのだ――  ――君自身が餓えたる黒い魔人だからさ――  ――餓える?――  ――黙示録、と言う書物を読んだ事はあるかね――  ――アポカリプスだろう。知っているぞ――  ――では、その中に登場する、子羊が呼び寄せる四騎の騎士の話は?――  ――……――  ――偏った読み方をしているね、君は――  ――うるさい――  ――話を戻そう。俗に黙示録の四騎士と呼ばれるその騎士達は、白、赤、黒、青の四色の馬に跨った者達の事であり、彼らは神より与えられた権能を以て、地上の人類を殺戮し尽くすと言われている――  ――……使える設定だな――  ――何に、とは聞かないよ。白は勝利を、赤は戦争を、黒は飢餓を、青は死そのもの。君は、黒を担当して貰おうと、呼び寄せたのだよ――  ――私が、黒? 服装と翼のせいだからか? 随分安直ではないか。黒と言う色は嫌いではないが、私を表すのには飢餓と言う概念は不適だろうよ――  ――君が戦いに餓えたる魔王だからだよ――  ――何?――  ――君は戦いが好きだろう。君が今のような存在になってから戦いが気に入ったのか、それとも人であった頃からそうだったのか。それは私としては興味がない。肝心なのは、君の現在だ。君がとても戦いを好きで、愛している。その一点が重要なのだ――  ――胡散臭いお前の意見に賛同してやるのは癪だが、確かにその通りだよ。私は、強い魔法少女と戦う事が、何よりも好きだった。血が躍る――  ――命を掛けた戦いが好きな君の事だ。君は、君自身と対等な魔法少女と戦う事は、何よりも好きであった事だろう。言い換えれば君は、自分を倒してくれる好敵手を探していたような物であり、自分の死に場所を求めていたに等しい人物でもある――  だが、と、黒スーツを纏った紳士は其処で言葉を区切った。  ――強かった君は、敗れ去った。君自身が問題にもしていなかった弱い少女の不意打ちで。理想の好敵手でもない相手に、理想の死に場所とは到底言えないような所で、君は、殺された――  ――……――  ――君は渇望しているのではないのかね。戦闘を。そして、自分の納得の行く結末と言うものを――  ――それに、私が餓えているとでも?――  ――違っているのならば謝罪しよう――  ――答えはいつか教えてやる。ただ、これだけは言っておく。私を呼び出した理由は如何あれ、私はお前にいくばくかの感謝を抱いている――  ――ほう――  ――何のかんのと言っても、生前のようなスペックを振えぬ仮初の肉体とは言え、現世に戻って来れたのは中々嬉しい。それに、聖杯戦争、だったか。魔法少女以外の強者がいるのだろう? いいじゃあないか、素晴らしい事柄だよ――   ――だが――、と、言うのは、最早紐としか言いようがない程の細い繊維で、局所を隠していると言う痴女的な服装を身に纏った、ブロンドの髪の女性だった。  ――お前の指図は受けんよ、明けの明星殿。私は私の意思で動く、それを忘れるな――  ――元より、私は君の自由な意思を尊重する立場だよ。行きたまえ、アーチャー。君の飢えと渇望を満たす相手との出会いを、私は祈ろう――  ――本心では、ないのだろう?――  ――さて、ね――  <新宿>、と呼ばれる町は、平和そうな所だった。 行き交う衆愚。立ち並ぶ虚栄と虚飾のビルディング。そして、都市的な退廃と泡(あぶく)のような都市的繁栄の匂いが香る、爛熟の街。 何処にでもある栄えた街。何処にでもある、経済都市。だが、彼女は違った。彼女は明確に感じ取っていた。 あのスーツの男が語っていた事は嘘ではない。この街は本当に、聖杯戦争なる、超常の輩が跋扈し、凌ぎを削る舞台に選ばれたのだ。 彼女の嗅覚は血の香りを捉えていた。彼女の皮膚は戦火の熱を感じていた。彼女の身体は――荒れ狂う殺意の渦を感じて歓喜していた。 「面白い街だ」  <新宿>駅の周辺を歩きながら、パナマ帽を被ったドレスコートの女性は呟いた。 この街は、あのスーツの男に餓えと呼ばれた感覚を満たす者は、きっといる事であろう。それに、聖杯にだって興味がある。 この力を使って完全に復活する事も、ありかも知れない。夢と空想は、尽きない。  彼女の身体は、これからの期待とドキドキで、日本の夏より熱く燃え滾っていた。 大声で叫び、サーヴァントと呼ばれる存在を、呼んでみたくなる。――『魔王パム』は、此処にいるぞ、と。叫んでみたい衝動を、ぐっと彼女は抑えるのであった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆      小羊が第四の封印を開いたとき、「出て来い」と言う第四の生き物の声を、わたしは聞いた      そして見ていると、見よ、青白い馬が現れ、乗っている者の名は、「死」といい、これに冥府が従っていた      彼らには、地上の四分の一を支配し、剣と飢饉と死をもって、更に地上の野獣で人を滅ぼす権威が与えられた ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「おのれ魔界医師、私を呼ぶとは何たる無礼者じゃ!!」  その存在は、アカシア記録制御装置(コントローラー)で呼び寄せられるなり、すぐさまそう叫んだ。 彼女を<新宿>に呼び寄せると、ルイ・サイファーから言われた時、メフィストは正気を疑った。 理論上、彼女を呼び寄せる事は可能な事柄であった。魔力回路や肉体的性能や強度を高めた、メフィスト謹製のドリー・カドモン。 ルイ・サイファーは、このカドモンに、アカシア記録に記録されている異世界の存在の情報を固着させ、その存在をサーヴァントとして動かそうと考えたのだ。 つまりルイは、アカシア記録制御装置を動かして獲得した、該当存在の情報を依代にして、カドモンにそれを注入させ、言うなれば、受肉したサーヴァントに近い存在を、 産み出そうとしたのである。理論に間違いはなく、成功する蓋然性が極めて高い実験ではある。しかし、リスクがないわけではない。 先ず、彼らには、サーヴァントを本来御す為の令呪がない為、自由に活動が出来ると言う事が一つ。 そして何よりも問題なのは、彼らはルイの魔力によって動く存在ではなく、自前の魔力回路が生み出す魔力で動く存在だ。自律性が恐ろしく高い。 彼らはサーヴァントでありながら、マスターを必要としない完全なる独立存在だ。そんな物を四体、<新宿>に放てば、どうなるのか。想像するに難くない。  これらの性質を加味して、最後のドリー・カドモン、四騎士における青に相当する存在として、彼女を呼び出そうとルイから言われた時。 メフィストは珍しく、目を見開かせて驚いた。呼び寄せる事は可能だが、その存在を呼び寄せるなど、悪魔を召喚するよりもずっと危険な事柄なのだ。 如何なる黒魔術師が、如何なる用意をしておこうとも、彼女を呼び寄せた末に待っているのは、無惨な死以外にはあるまい。  その存在は過去、メフィストと浅からぬ因縁を持った女性であった。 嘗て魔界都市を壊滅寸前にまで追い込んだ、最強の毒婦にして、バビロニアの大淫婦の再来。世の全ての吸血鬼の女帝にして、自らの赴くがままに動くわがままな女王。 そして、人生で初めての恋に破れ、世界の何処かに隠れるように逃げて行った、哀れな女。全てを受け入れる魔界都市ですら、受け入れられなかった女。 「久々に出会うのだ。挨拶の一つぐらいは、して然るべきではないのかね」 「貴様の創造主(つくりぬし)は、冗談の才能だけは授けなかったようじゃの。私の顔を爛れさせた男が、よくも言うわ」  メフィストと、ルイの目線の先にいるのは、女だった。 年の頃は二十代。誰がどのような角度で見ようとも、それ以外の年齢には見えないだろう。 だが、最早。年齢など、誰も問題にしないだろう。彼女の貌を。身体を見てしまえば。  天使の美貌を持つ男、秋せつら。神の美貌を持つ男、ドクターメフィスト。彼らですら、この娘の美貌には及ぶまい。 風に委ねた黒髪は、この部屋の青い闇を支配する程の神秘性と王威に溢れており、あらゆる黒よりなお目立つ。 人の手の触れ得ぬ高山の山頂の万年雪よりもなお白いその肌は、身に付けた飾り気のない、純白の衣装ですらが薄汚れた汚物に見えてくる。 美の基準は、年代、時代、国によって変わると言う。だがしかし、この女性の誇る美は、永遠であり、不変。そして、絶対の物であった。 薄暗い闇の中に、ポッと光がともったようなその美貌の持ち主の名は――一体。 「ほほほ、じゃが、唯一面白い冗談があるとすれば、今の貴様の境遇だの、メフィスト」 「ほう」 「魔界医師と呼ばれ、この私ですらが認めた男が、事もあろうに使役され、頭を垂れる身分になっておろうとは。それも、ただの人間に従っているのではない」  目線を、黒いスーツを身に纏った男の方に向けた。 凝視しただけで、男を射精させる程の、美と言うエネルギーを内包した女性の視線を受けても、ルイは、平然とした顔をするだけだった。 「事もあろうに、悪魔どもの王に従っていると言うのだから、愉快極まりないわ。当ててやろうか、貴様の名は、ルシファー、じゃろう?」 「ルイ・サイファーさ」 「ふん、神に逆らい魔界で燻っていると、愉快さも失うようじゃ。メフィスト以上につまらぬ冗談だぞ」  つまらなそうにルイから目線を外した。 「メフィストよ、一つ答えよ」 「何か、姫よ」 「ふん、今更貴様がその名で呼ぶのは、白々しいとしか言いようがない。何故貴様は、その男に従っている。そして何故、貴様自身も弱くなっているのだ」  姫と呼ばれた女性が、一切の嘘は許さぬ、と言う、女帝の眼光を輝かせながらメフィストに詰問した。 別段、欺く程の事でもないと思ったのか、メフィストは説明し始めた。この世界の<新宿>の事、此処で行われる聖杯戦争の事。 そして、メフィスト自身も姫自身も、サーヴァントと呼ばれる存在になり、弱体化していると言う事を。 「下らぬ」  全てを聞き終えた姫の答えは、短く、簡素で、解りやすいものだった。 「私に聖杯を求めて争え、とでも言うのではあるまいな。嘗ては戯れに、フィリップ四世なる王を誑かし、彼の愚王の手によりて壊滅させられたテンプル騎士団とやらも、同じような物を求めていたな」 「君がそんな物を求める程、安い存在じゃない事位は知っているさ。私が求めるのは、ただ一つさ、姫――いや、『美姫』よ」  其処で一呼吸を置いて、ルイは続けた。 「君はこの<新宿>で、飽きるまで自分を謳歌して欲しいのさ。寝たい時に寝、食べたい時に食べ、血を吸いたい時に血を吸い、交わりたい時に交わる。君の理想は、それだろう」 「然り、じゃ。悪魔王。だが、貴様は一つ見誤っているぞ」 「ほほう」  面白そうに、ルイの表情が動いた。 「私がこの堕ちた<新宿>に呼び寄せられたのは、大方貴様の差金じゃろう。貴様ともあろうものが、理解していない筈があるまい。貴様の口走ったそれは、自由じゃ。 そしてその自由こそ、私が尊いと思う物。だがな、貴様の思惑で、偽りの肉の人形に情報を固着されて、この世界に呼び寄せられた私に、自由があると思おうか?」 「実に、口が立つな」  ルイは反論をしなかった。その通りであるからだ 美姫が言っている事は要するに、ルイがどんなに姫の理想とする条件、つまり自由だが、それを保証して現世に呼び寄せた所で。 サーヴァントに近しいスペックで呼び寄せた以上、その時点でそれは自由ではないのだ。それはつまり、檻の中の自由。軛の中での解放に過ぎないのだ。 「心底不愉快じゃが、今の私は貴様の掌で踊る文字通りの人形に過ぎぬ。それがつまらぬと言うのじゃ。どんなに貴様が私に自由を楽しめと言おうが、これで本当に、愉しめると思うのか?」 「ならば、自死を選ぶかね、姫よ」  と問うのは、やはりルイだ。これを受けて、ホホホ、と高笑いを浮かべる姫。 天から落ちて来た白銀の琴の様に美しい声で彼女は笑うが、その声に秘められた、残忍かつ冷酷な感情を聞き取れる者は、決して少なくないだろう。 彼女と言う人物を知らなくても解る、捻じ曲がった性格の笑い声であった。 「私の本体は今でも船に乗り、地上の何処かの時空を彷徨っておる。所詮この世界の私など、一抹の夢に過ぎぬのだろう?」  其処で、ククッ、と忍び笑いを浮かべ、美姫は続けた。 「私にとっては死すらも楽しみな事柄じゃ。この世の悦楽を飽きる程楽しめば、後は自ら命を断つわ。生きたい時に生き、死にたい時に死ぬ。最高の在り方じゃろうが?」 「そうかそうか、それには賛同の余地があるな」  「――尤も」  「それを今行えば、秋せつら君に遭えないだろうがな」 「――貴様。今、何と言った」  嘲るような微笑みに彩られた美姫の表情が、一瞬で、虚無その物の如き無表情に転じて行った。 無、とはまさに、今の彼女の表情の事を言うのだろう。喜びがない、怒りがない、哀しみがない、楽がない。 能面ですら、まだ幾らかの表情を湛えていると言う物だ。今の彼女の貌は、星のない宇宙の暗黒そのものだ。 だからこそ、恐ろしい。次に如何なる感情の波が迸るのか、理解が出来ないから。 「君の愛した男が、この<新宿>にもいると言っているのだよ。彼もまた、サーヴァントとして――」  其処で、姫が動いた。 腕全体が消し飛んだとしか思えぬ速度で、ガッと、アカシア記録制御装置から飛び出した鉄の管を掴んだのである。 重さ数tは下らない、真鍮のメカニズムを片腕で持ち上げ、音速を超える程の速度で、ルイの方へとそれを放擲した!! 彼にそれが激突し、肉体を破壊し内臓を飛び散らせるまであと二m程、と言う所で、そのメカニズムは上空へと消え去った。 見るが良い!! そのメカニズムを巨大な両脚の爪で器用に握る、銀色の大鷲を!! 翼を広げれば、二十mにも達する、その気になれば巨象ですらも持ち上げられそうな、その大鷲の魁偉!! コレなるは、彼の魔界都市に於いても名高い、ドクターメフィストの針金細工。彼は、姫が制御装置を手にしたその段階で、懐に忍ばせていた針金を使って、瞬間的にこの大鷲を作り上げていたのである。 「せつらを従えるは、何処の誰じゃ」  地の底から響いてくるような、恐るべき声音で、姫が訊ねた。 「聞いて、如何するのかね」  メフィストが静かに訊ねた。彼だけが、冷淡な態度を崩しもしなかった。 まるで美姫よりも、ルイよりも。アカシア記録制御装置に、異常はないだろうか、と言う事の方に興味関心がある、と言うような装いである 「その者を縊り殺す」  殺す。その言葉の意味する所は何よりも重い物である一方、人類史の過去未来を問わず、多くの者がその言葉を口にして来た。 ある者は冗談で、ある者は恫喝で。そしてその言葉の多くが、話しの流れで場当たり的に飛び出した言葉だったり、単なるその場凌ぎの、重みを感じさせぬそれであった事だろう。  姫の口にした、その言葉の重さは、別格だった。 北の果ての海に浮かぶ氷山よりも冷たくて重々しく、そして、その意思を絶対に遂行すると言う漆黒の情動が、その言葉には渦巻いていた。 情念により鬼になった女を、般若と人は言う。今の美姫が、伝承の般若の通りの、恐ろしい風貌であれば、どれ程良かった事か。 美しいが故に、凄惨だった。ヴィーナスですら褪せて見える程の美貌の持ち主が、今の殺意を発散しているからこそ、絶望感が、凄まじかった。 「私は許さぬぞ、メフィスト、ルシファー。せつらは、私が求め、下僕とするべき男だった。何処の誰が、奴の心を射止めたか? 何処の誰が、従えているのか? 女である事も問わぬ、男である事も問わぬ。若かろうが老いていようが、赤子であろうが獣であろうが、私はその存在を赦す事など出来ぬ」  ルイの方を、決然たる目つきで睨めつけ、姫は言った。 「今一度は、貴様の掌の上で踊ってやろう、明けの明星。私が唯一、奴がいればこの世の何者もいらぬと認めた男が、サーヴァントなどと言う下らぬ身分で呼び出されたと言う事実が、最早許し難い。奴を従える者を殺し、せつらも殺し、私も死のう」 「お好きなように」  ルイの口は吊り上っていた。これで、四騎士の全てが揃った。 白のセイバー、赤のアサシン、黒のアーチャー。そして、蒼のライダー。 この街が辿る運命を、メフィストは夢想した。この都市は、魔界都市になるか。それとも――黙示録の世界となるか。 彼の知能を以ってしても、先の見通せぬ、ルイ・サイファーの鬼謀が、酷く腹ただしいのであった。 ---- 【四谷、信濃町(メフィスト病院)/1日目 午後1:10分】 【ルイ・サイファー@真・女神転生シリーズ】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [契約者の鍵]有 [装備]ブラックスーツ [道具]無 [所持金]小金持ちではある [思考・状況] 基本行動方針:聖杯はいらない 1.聖杯戦争を楽しむ 2.???????? [備考] ・院長室から出る事はありません ・曰く、力の大部分を封印している状態らしいです ・セイバー(シャドームーン)とそのマスターであるウェザーの事を認識しました ・メフィストにマガタマ(真・女神転生Ⅲ)とドリー・カドモン(真・女神転生デビルサマナー)の制作を依頼しました(現在この二つの物品は消費済み) ・マガタマ、『シャヘル』は、アレックスに呑ませました ・失った小指は、メフィストの手によって、一目でそれと解らない義指を当て嵌めています ・ドリーカドモンとアカシア記録装置の情報を触媒に、四体のサーヴァントを<新宿>に解き放ちました ・?????????????? 【キャスター(メフィスト)@魔界都市ブルースシリーズ】 [状態]健康、実体化 [装備]白いケープ [道具]種々様々 [所持金]宝石や黄金を生み出せるので∞に等しい [思考・状況] 基本行動方針:患者の治療 1.求めて来た患者を治す 2.邪魔者には死を [備考] ・この世界でも、患者は治すと言う決意を表明しました。それについては、一切嘘偽りはありません ・ランサー(ファウスト)と、そのマスターの不律については認識しているようです ・ドリー・カドモンの作成を終え、現在ルイ・サイファーの存在情報を基にしたマガタマを制作しました ・そのついでに、ルイ・サイファーの小指も作りました。 ・番場真昼/真夜と、そのサーヴァントであるバーサーカー(シャドウラビリス)を入院させています ・人を昏睡させ、夢を以て何かを成そうとするキャスター(タイタス1世(影))が存在する事を認識しました ・アーチャー(八意永琳)とそのマスターを臨時の専属医として雇いました ・ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上&モデルマン(アレックス)の存在を認識しました ・浪蘭幻十の存在を確認しました ・現在は北上の義腕の作成に取り掛かるようです ・マスターであるルイ・サイファーが解き放った四体のサーヴァントについて認識しました。 【セイバー(チトセ・朧・アマツ)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】 [状態]健康、実体化 [装備]黒い軍服 [道具]蛇腹剣 [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライドとの戦闘と勝利) 1.余り<新宿>には迷惑を掛けたくない 2.聖杯を手に入れるかどうかは、思考中 [備考] ・現在<新宿>の何処かに移動中。場所は後続の書き手様にお任せします 【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】 [状態]健康、実体化 [装備] [道具] [所持金]貰ってない [思考・状況]真っ赤な真っ赤な血がみたぁい! 基本行動方針: 1.血を見たい、闘争を見たい、<新宿>を越えて世界を滅茶苦茶にしたい 2.ルイルイ(ルイ・サイファー)に興味 [備考] ・現在<新宿>の何処かに移動中。場所は後続の書き手様にお任せします 【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]健康、実体化 [装備]パナマ帽と黒いドレスコート [道具] [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:戦闘をしたい 1.私を楽しませる存在はいるのか 2.聖杯も捨てがたい [備考] ・現在新宿駅周辺をウロウロしています 【ライダー(美姫)@魔界都市ブルース 夜叉姫伝】 [状態]健康、実体化、せつらのマスターに対する激しい怒り [装備]白い中国服 [道具] [所持金]不要 [思考・状況] 基本行動方針:せつらのマスター(アイギス)を殺す 1. アイギスを殺す、ふがいない様ならせつらも殺す [備考] ・現在メフィスト病院にいます ※ドリー・カドモンを触媒に呼び寄せられたサーヴァントには、以下の特徴があります ①基本的に彼らには霊核と呼ばれる物が存在せず、言うなれば受肉しているに等しい存在です ②彼らにはカドモンに備わった自前の魔力回路が用意されており、魔量供給無しで魔力が自動回復しますが、その代償として霊体化が出来ません ③ルイ・サイファーはこの四体のサーヴァントに対する令呪を持たず、基本的に完全に独立した行動であり、特徴としてAランク相当の単独行動スキルのような物を持ちます ④魔力を使い過ぎると、ステータスの大幅な低下が発生し、それを越えて魔力を消費し過ぎると、単なるドリー・カドモンに戻ります。これを、魔力の遣い過ぎによる退場とします **時系列順 Back:[[シャドームーン〈新宿〉に翔ける]] Next:[[レイン・ポゥ・マストダイ]] **投下順 Back:[[開戦の朝]] Next:[[太だ盛んなれば守り難し]] |CENTER:←Back|CENTER:Character name|CENTER:Next→| |45:[[インタールード 白]]|CENTER:ルイ・サイファー|46:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]]| |~|CENTER:キャスター(メフィスト)|~| ||CENTER:白のセイバー|48:[[Cinderella Cage]]| ||CENTER:赤のアサシン|43:[[推奨される悪意]]| ||CENTER:黒のアーチャー|37:[[レイン・ポゥ・マストダイ]]| ||CENTER:青のライダー|46:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]]| ----

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