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レイン・ポゥ・マストダイ」(2021/03/31 (水) 19:38:32) の最新版変更点

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「無駄に治療に時間が掛かり、ご迷惑をお掛けいたしましたわ」  「それ以外のとこで滅茶苦茶迷惑が掛かってんだよ」、と口にしても、全く馬耳東風の様子で、此方に近付いて行く純恋子。 此処までサーヴァントの話を顧みないその精神性はある意味で大物だし、正に女王とも言うべき風格の持ち主だが、頼むから今の内に改善して欲しいレイン・ポゥだった。まだ間に合う。  黒礼服の魔王、殺人鬼のバーサーカー、黒贄礼太郎とそのマスターである遠坂凛との戦闘から、三時間が経過した。 純恋子達は、拠点であるハイアットホテルに戻っていた。凛の放った飛び道具の魔術によって破壊された義腕と義脚を換装すればまだ戦える、 と送迎車内で純恋子が主張していたが、レイン・ポゥは彼女の意見を封殺した。確かに破壊されたのが、換装可能な上の二つであればまだしも、 あの戦いで純恋子は令呪一画を失っただけでなく、遠坂凛に左胸を撃ち抜かれているのだ。 こんな序盤で、こんな馬鹿の死亡に牽引される形での消滅など真っ平御免だと考えたレイン・ポゥは、負ったダメージの治療を進言。長く、入念な治療の末、現在に至る、と言う訳だ。  元々が一般庶民であったレイン・ポゥもとい、三香織は、今日に至るまで知る由もなかったが。 この世界には、所謂『上級国民』。例えて言えば、貴族や、大企業の総帥、官僚や与党や第一野党の党員と言った人物が受けられる治療と言うものが存在する。 こう言った治療は、保険証を見せて、綿密な診察を長い時間行い、病巣を取り除く為に動く、と言った治療とは一線を画する。 使われる設備は、国民にはまだ披露されていない最新鋭のそれで、施術を行う医療陣は言うまでもなくトップクラスの実力の持ち主。投薬される薬も、特別性のそれだ。 国家にとって有為の人物であるからこそ、最新最高の医術を受けられる、と言うのも本当だが、それ以前にこう言った技術をフル活用するには、金が要る。結局は、コネと金が、当人の生死を左右するのだ。  英純恋子がハイアットホテルのある部屋で今まで受けていた治療も、正しくそんなものだった。 聖杯戦争に際して、ホテルの別室に医療チームを待機させていたのである。無論、莫大な金が掛かったが、純恋子にとっては女王>金の価値観だ。全く問題がない。 純恋子がダメージを負った、香砂会の邸宅での一件を見ていたレイン・ポゥは、純恋子の損傷をよく知っていたが、その重大性を知っていたからこそ驚いた。 全くこのマスターにはダメージを負った様子がないのだ。恐らくは手術もしただろう。それなのに、彼女は全くピンピンした状態で、 ハイアットホテルの最上階に近いフロアに在る、主従が使う為の私室に登場したのである。 幾ら最新鋭の医療技術をフル活用したと言っても、この完治ぶりは凄いとしか言えない。純恋子本人の気力や体力の所以であろうか。 どちらにせよやはり、世の中金とコネなのだと、改めてレイン・ポゥは思い知らされた。 「さて、回復した事ですし、早速行きますわよ」 「大人しくしてろ」  最新鋭の医療技術でも、馬鹿と短絡的な性格を治す事は不可能であるらしかった。 馬鹿は死ななければ治らない、と最初に言ったのは、何処の誰だったか、その人物は誇っても良い、その言葉は世の真理に近しいからだ。 「それよりもさ。アンタが治療を受けている間、契約者の鍵からルーラー達から何か新しい情報が追加されたよ」 「ルーラーから?」  と言って、レイン・ポゥは、自分が手に持っていた契約者の鍵を、ポイッと純恋子の方に投げ放った。 契約者の鍵は、当たり前の事ながらサーヴァントである彼女に任せておいたのだ。手術中に通達があり、光りでもしたら、コトだからだ。 そうそう通達はないと思っていたが、念の為レイン・ポゥに預けておいて正解だった。  ホログラムを投影させ、その内容を確認する純恋子。 一分程、その内容を吟味し、投影させたそれを打ち切らせ、レイン・ポゥの方に純恋子は向き直った。 「ま要するに、派手にやり過ぎた奴らがいるって事よ」  と言い、レイン・ポゥはルームサービスのオレンジジュースを飲み始める。彼女は前もってその内容を確認していた。 <新宿>と言う狭い街で行われる聖杯戦争と言う都合上、悪事は特に露見しやすい。大量殺人や著しい環境の破壊など、直にアシが付く。 それは、遠坂凛やセリュー・ユビキタスの件でも皆重々理解していた、とレイン・ポゥも思っていたが……理解していてなお、狂行に及んだ主従がいたらしい。 しかも、事もあろうにルーラーに対する反逆行為と来た。レイン・ポゥ自身、ルーラーがまともな人物ではないのではないかと、思ってはいる。 思ってはいるが、反逆を行う気にはなれない。自身の戦闘力が控えめであると言う自己評価もそうだが、先ず仲間がいない。これでルーラーに喧嘩を売りに行く、と言うのが先ずどうかしている。 「……アサシン」 「何よ」 「ステータスの方をご覧になりましたわね?」 「一応ね」 「勝てると思います?」  案の定と言うか、やはり純恋子は聞いて来た。そして、この質問に答えた後、何てまた質問するのかも、嫌になる程良く解る。 とは言え、想定していなかった質問かと言えば、それは違う。ご丁寧に宝具考察やスキル考察、ステータスや真名まで公表されているのだ。 遠坂凛やセリューの件とは比較にならない程の腰の入れようだ。余程、腹に据えかねるものが、この主従にはあったと見える。 折角ステータスや真名諸々まで公表されたのだ、当然レイン・ポゥは、このステータスを元手に、考察を行った。 「半々って所かな」  考察をした上で、この返事だった。 「弱気ですのね。このステータスは、貴方と差して変わらないじゃありませんか」  この一点においては、純恋子の方が正しいと言えよう。 ステータスの面から見ても、このヴァルゼライドと言うバーサーカーは、狂化しているとは思えない程ステータスも平均的だ。 何せレイン・ポゥとステータス的な差が全くないどころか、平均値で言えばレイン・ポゥの方が勝っていると言う始末だ。 これならば、レイン・ポゥでも勝てる、と純恋子が思うのも致し方のない話である。 「その弱いって言う点が曲者なんだよ。私のスキルが機能しなくなるじゃんか」  そも、レイン・ポゥと言うアサシンが、何故英霊にまで奉られたか。 結論を言えばそれは、彼女が百人どころか万人束になっても敵わない程の強さを誇る、『魔王』を殺したからに他ならない。 ただしそのメソッドは、真正面から堂々と、と言った武勇伝めいた方法で、ではない。転がり込んできた機会を最大限に利用しての、暗殺だ。 このような方法で魔王を殺したレイン・ポゥが、その後、あの世界でどう伝わっていたのか、彼女は解らない。卑怯だとか、姑息だとか、言われたのかも知れない。 しかし、確実に言える事があるとすれば、レイン・ポゥは暗殺者にとっての一種の到達点、弱者にとってのある種の希望として機能したと言う事だ。 本来絶対勝てない筈の強者を暗殺する。それは、そのような稼業に身を落とす者達にとってのある種の目標になった事だろう。 絶対勝てない存在を、どんな方法でも良いから抹殺する。それは、戦闘に向かない能力を持った魔法少女にとっての憧憬となった事だろう。 良きにつけ、悪しきにつけ、人々の想念を形を伴った何かしらの外殻で閉じ込めた存在が英霊であると言うのなら、成程。確かにレイン・ポゥは、暗殺者(アサシン)の英霊として、これ以上となくその条件を満たしている事になる。  レイン・ポゥの英霊としての肝となる部分は、『絶対に勝てる筈がなかった格上の存在』を、『完璧に油断させてから暗殺した』と言うこの点に他ならない。 その逸話はレイン・ポゥと呼ばれる魔法少女の中核を成す要素に等しく、その象徴が、彼女のスキル『魔王殺し』である。 このスキルはまさにサーヴァントとしての、英霊としての彼女のシンボルのような物である。従って、これを基点に置いた戦闘の方法を模索する必要があるのだが――。 欠点がある。格上の存在を殺した事で英霊となったレイン・ポゥは必然的に、『常に強者の暗殺を視野に入れねばならぬ存在である』と言う事になる。 その証拠に、象徴たる魔王殺しのスキルは、自身よりもステータス的に強い存在にしかその効果を発揮しない。 逆に格下相手には、彼女を彼女足らしめる魔王殺しの魔法少女と言う部分が機能しなくなるのだ。ヴァルゼライドと言うサーヴァントは、その格下と言う要素を満たしている。  ステータス的に弱いのであれば、勝てるだろうと思うかも知れないが、事はそう簡単ではない。 魔法少女の時もそうだったが、彼女らは自分だけの魔法と言うものを一つ持っている。通常暗殺や戦闘と言う局面に入った場合、素の身体能力も勿論の事、 その能力も合算して考える。サーヴァントの場合は、宝具だ。スキルだ。こればかりは、解らない。だからこそ、油断が出来ないし、慎重に行きたいのだ。 更にたちの悪い事に、ヴァルゼライドはステータス平均はレイン・ポゥより低いとは言っても、総合的に見るなら自分と強さがさして変わらない。 それどころか、凄まじく武術に秀でたサーヴァントと言うではあるまいか。こう言う手合いが一番困る。 魔王殺しのスキルも機能しないだけでなく、況してやバーサーカー。演技で騙して油断した所を暗殺、という手法も通じ難い。 それにレイン・ポゥ個人として、もうバーサーカーと戦うのはこりごりだった。先程の、黒贄との戦いがまだ尾を引いている。 「私はもっと賢く立ち回りたいの、解る?」 「私の立ち回り方が、そうじゃないみたいな口ぶりですのね」 「当たり前だろあんぽんたん、鏡見ろや」  本当に、自分の聖杯戦争へのスタンスが優れていると、純恋子は思っていたらしい。 ちなみにレイン・ポゥからしたら、マスターの聖杯戦争への考え方が間違っているなどハナから気付いていた事柄であり、黒贄との戦いで、更にその考えが強まっていた。 「まぁ……、アサシンの御怒りの方も、尤もな所ですわ。令呪も失い、私も不様を晒してしまいましたから。その点は、反省しています」  ――本当かよ……―― 「猜疑心が顔に出てますわよアサシン。とは言え、口では幾らでも言えますから。誠意代わりに、情報を持ってきましてよ」  そう言えば、黒贄と遠坂凛から距離を離そうとした際に、車の中で純恋子が念話で言っていた。 自分達の手傷がある程度癒えるまで、英財閥の調査室を動かし、<新宿>での動向を改めて探らせる、と。この口ぶりでは、成程、如何やら進展があったようである。 「私達が傷を癒している間に、戦況はかなり進んだようですわね。アサシン、此方のタブレットをお使いなさいな」  言って純恋子はレイン・ポゥに、小脇に抱えていたタブレットを手渡し、それを操作し始めた。 「書類じゃないんだね、今朝のエルセンの時は書類で持って来てたけど」 「書類だと量が多くなって、かさばる位に、<新宿>に動きがあった。そう言う事です」  そんなに状況が動いたのか、と怪訝に思いながら、レイン・ポゥは直近の椅子に腰を下ろし、慣れた手つきでタブレットを操作する。 情報はタブレットの中のあるファイルの中にドキュメント形式で纏められており、それらがトピックスごとに幾つも存在するのだ。  ――確かにこの量は書類で見るのはしんどいな――    エルセンが今朝方伝えに来た情報の倍はあろうかと言う程、ドキュメントが存在する。 純恋子の言うように、これだけの量を書類にし直すとなると、読む方も作る方も手間になるだろう。 試しにレイン・ポゥは、ドキュメントの一つをタップする。  そのドキュメントは、南元町で発生した、超局所的な豪雨について記されていた。午前九時ごろの情報らしい。 近頃<新宿>には、天気予報にない局所的な豪雨と稲妻が走る事で有名で、市民や国民から、気象庁の勤怠を指摘されている。 夏場の天気は崩れやすいと当初は思っていたが、目撃情報によると、今回の雷雨は、『南元町だけ』に発生した現象であるらしかった。 実際、秘密裏かつ水面下に気象庁から獲得した、気象衛星からの日本のその時の天気の画像を確認した所、明らかに南元町だけに雨雲が発生しており、 それ以外は雲一つない快晴だったのだ。これで、確信に変わった。この一件にはサーヴァントが関わっている、と。 明らかに天候の崩れが局所的過ぎるからだ。自然のものとは、到底思えない。となれば、この現象を引き起こした下手人が当然いる筈なのだが……。 その肝心要の、サーヴァント及びマスターらしい存在は、発見出来ていないらしいし、南元町の住民に聞き込みを行っても、それらしい存在は確認出来なかったと言う。何れにせよ、警戒しておかねばなるまい。  次のドキュメントをタップする。 そのドキュメントは、<新宿>に放置されていた、怪物の死骸について記されていた。 怪物、と聞くと、魔法使い達は獣のような使い魔を使役すると言う事実を生前伝え聞いた事をレイン・ポゥは思い出す。 ご丁寧に写真が添付されているのでそれを確認すると、成程、確かに怪物としか思えない。三枚の画像を順繰りに確認して行く。 赤黒い体表を持った屈強な体格の存在。何故か、首から上がなくなっている。これは、新大久保のコリアタウンで発見されたらしい。 牛と蜘蛛の相の子のような、巨大な怪物。幼い頃に少しだけ見た、妖怪もののアニメに出て来たそれからデフォルメ分を消して見たような姿だ。神楽坂の飲食店で見つかったらしい。 ライオンや虎が子猫の様にしか見えない程、屈強な体格を持った獣。特筆すべきは隈取のような物を施した人頭を持っている事であろうか。西大久保の裏路地で見つかったらしい。 人類とは肉体の組成が違う為、死亡推定時刻の特定も難しいと来ている。解っている事は三体共に、致命的な外傷の末に殺されたと言う事である。 魔法使いの使役する使い魔、と言う知識があるせいで、何らかのサーヴァント――キャスター辺りか――が使役する存在だと推察したレイン・ポゥ。 そうであって欲しかった。こんな怪物を無秩序に野に放つなど、それこそ狂気の沙汰としか思えない。これもやはり、下手人は要警戒であろう。  次のドキュメントをタップする。 <新宿>二丁目で発生した大規模な戦闘――これは、黒贄と戦う前に散々車内のラジオで聞いた事柄だ。 英財閥の調査室の力を持っても、ラジオで報道されていた以上の情報が解らないと言う点が気がかりだが、さしあたって、見るだけに止めておいた。  次のドキュメントをタップする。 落合方面のあるマンションで起った、車体を輪切りにされた事件と、マンションの一室が凄まじいまでに荒らされていた事件。 これもカーラジオで聞いていた事柄の一つだが、あれから進展があったらしい。荒らされた部屋に住んでいた住民が行方知れずであるのだが、その住民の事が解ったらしい。 住んでいた人物は、北上と呼ばれる少女で、区内の高校に通う、これから受験を控えた三年生であると言う。 顔写真を手に入れているらしく、それを確認するレイン・ポゥ。平凡な少女だった。荒らされたと言う部屋の様子の写真も初めて確認するが……。 正直、荒らされたと言うよりは、部屋の中で竜巻が暴れまくった、としか見えない程の凄惨な光景だ。年若い一人の少女が何をしたら、此処までの恨みを買われるのか。 部屋を此処まで荒らした存在は元より、この北上と言う少女についても、マークをする必要があるだろう。  次のドキュメントをタップする。 早稲田鶴巻町と、新小川町で起った、住宅街での大規模な戦闘。住宅街の模様が撮影されているが、先の北上の私室よりももっと酷い。 地面のコンクリートは溶けて冷え固まり、住宅街は基礎部分が見える程完膚なきまでに破壊されているのだ。曲りなりにも人の密集する地域で、何をやったと言うのか。 読み進めて行くうちに、凡そ何が起ったのか、レイン・ポゥは推測出来た。早稲田鶴巻町と新小川町で、光の柱のような物が、空に向かっていったり、逆に空から降り注いだり。 時には水平に放たれて行く要素を目撃した人物が、幾つもいると言うのだ。光の柱……もしかしなくても、主催者達から討伐令を新たに下された主従。 ザ・ヒーローと、クリストファー・ヴァルゼライドの主従である蓋然性が高い。成程、本当に危険人物であるらしい。指名手配された時点で最も注意するべき存在であったが、この文章を見て、最も警戒するべき主従に変わった。  ――粗方読み終え、タブレットの電源を落とすレイン・ポゥ。ふぅ、と、一息吐いてから、口を開く。 「奇跡だね」 「何がですの?」  純恋子が訊ねた。 「此処が襲撃されない所が、さ」  <新宿>と言う場所は狭い。何せ四方四㎞しかないからだ。 都内全域で聖杯戦争を行うと言うのであるのならばいざ知らず、特別区一区に限定して聖杯戦争を行うなど、箱庭で核弾頭を連れまわしているのと殆ど同義だ。 実際その核弾頭の一部は、言い逃れも申し開きも出来ない程その暴威を振っており、主催者から指名手配を喰らっている始末だ。 この調子ではどんな慎重な主従でも、戦火に呑まれる可能性がある。逃げの一手にも、限界が来る。自分達の存在も、やがては広く知れ渡るかも知れないのだ。 レイン・ポゥ達が拠点としているハイアットホテルは特に目立つ建物の一部。これを狙って、聖杯戦争の主従が誰もやって来ないのは、幸運と言う他なかった。 「私としても、此処の拠点を失うのは、余り宜しくはありませんわ。あるとないとでは、雲泥の差ですもの」 「へぇ、珍しく同意見だね。まぁ、私の方がまだまだ手傷は回復出来てないんだわ。今は回復に――」  其処までレイン・ポゥが言った瞬間だった ギュオンッ、としか形容のしようがない音が鳴り響いたと同時に、天井に、直径二m程の大穴が穿たれたのは。 その音源の方にいち早くレイン・ポゥは気付き、バッと天井を見上げる。遅れて純恋子もそれに従った。 完全な円形に天井は刳り貫かれていた。穴からは、青い青い空が、雲一つない天空を、認める事が出来た。 相手は如何やら屋上から何らかの攻撃をして来たらしい。だが、床には全く傷がない所を見ると、完全に天上だけに穴を空けたようである。  穴を認識した瞬間、レイン・ポゥは、サーヴァントの気配を感知する。 近い。もう後十m頭上に、敵はいる。向こうもその事に気付いているだろう。出なければ、こんな行為をする筈がないのだから。 「まさかこんな状況下でも、お逃げになるのかしら? アサシン」  蠱惑的な笑みを浮かべ、純恋子が問うた。 「暗殺者舐めんなよ。腹括って戦う時だってあるっつの」  暗殺の過程でトラブルは付き物だ。 多少の荒事に覚えがなければ、魔王を葬るその前の段階で命を散らせている。暗殺で殺した魔法少女や要人と同じ位、戦闘で殺した魔法少女だっているのだ。 此処まで来たら、覚悟を決めるしかないだろう。せめて相手が、弱い存在である事を祈るばかりだが……こんな自信満面な挑戦状を叩きつけて来る手合いだ。 自分にさぞ自信があるのだと言う事は、疑いようもない。憂鬱な気分を隠せぬレイン・ポゥだった。気分の高揚を隠そうともしない、英純恋子であるのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  特別な施設、例えばプールやら展望台などがある場合を除き、普通は、建物の屋上と言うのは入れない事になっている。 普通はそうなのであるが、英財閥の関係者に限っては特別だ。純恋子に何かしらの危難があった時の為、と言う理由の下、既に客が宿泊している部屋以外の、 全ての所をパス出来るように許可を取っているのだ。そのような経緯があるから、普通は立ち入る事の出来ない屋上に、純恋子は足を運ぶ事が出来た。  屋上へと続く階段を警備する守衛の人間に、専用の許可証を見せ、階段を上って行く純恋子。 一段一段、段を上る度に、嫌でも解る。気魄と言うか、鬼気と言うべきか。兎に角、オーラと言う物が、一般人の純恋子にすら理解が出来る程だった。 この先に、凄まじいまでの怪物がいる。純恋子にすらそれが解るのだ、況や、レイン・ポゥなど、語るに及ばず。 【頭数は一人だよ】  念話でレイン・ポゥが言った。 【問題は、そいつが凄まじいまでの怪物だって事だけど】 【貴女が戦ったバーサーカーと比較は出来ますか?】 【見てみない事には解らない】  そんな事を話す内に、屋上へと繋がる扉の前にやって来た。 レイン・ポゥの逡巡など全く斟酌せずに、純恋子は勢いよくそのドアを開けた。降り注ぐ昼の光、頭上に広がる純潔のような青い空。 そしてそれとは対照的な、陰鬱なコンクリートの床と、エアコンの室外機。抜けるような自然の青空と、不細工な文明の一面が同居したその風景は、酷くアンバランスだった。  そのアンバランスな風景の先に、その存在は立ち尽くしていた。 くすんだブロンドを短髪に纏めた女性で、頭にパナマ帽を被り、夏場であると言うのに、ドレスコートが暑苦しい。 しかし当の本人はそれを、平気な様子で着こなしていた。だが何よりも特徴的なのが、その整った顔立ちか。 左右線対称で、目鼻立ちも完璧に等しく、肌の色も白磁を思わせるような素晴らしい白であった。血が、透けて見えそうだった。 表参道でも歩いていれば、十人が十人、二度見は間違いない程の美人。そんな女性が、腕を胸の前で組み、尊大な態度で此方の事を値踏みしていた。  そして――その値踏みするような表情が、驚きに染まった。 彼女だけでない。純恋子が引き当てた、虹を操るアサシン、レイン・ポゥも。最も、レイン・ポゥの場合は驚きと言うより、蒼白、に近かったが。 「……クク、驚いたな」  最初に口火を切ったのは、パナマ帽の女性の方だった。複雑な喜悦が、その声には混じっていた。 「久々だなレイン・ポゥ? お前とはサシで話して見たかったよ」  驚いたのは純恋子である。 レイン・ポゥ。自らがその名を口にしない限り、絶対にその真名など解りっこないサーヴァントであった筈なのに、目の前の女性は、それを普通に当てて来た。 しかも如何やら口ぶりから察するに、この二人は、知り合いとみて間違いなさそうだった。その事を念話で、レイン・ポゥに純恋子は訊ねた。 【知り合いですの?】 【……アンタに話した事あっただろ? 私が魔王殺しのスキルを獲得した所以】  レイン・ポゥの声には、驚く程精彩がない。癌を告げられた患者ですら、まだマシな声を放つだろう。 【えぇ】 【私が殺した魔王その人だよ】  それを受けて、純恋子は、驚いた――のではなく、逆に、フフン、と言うような態度で、気を強く持ち始めた。 【何だ、それなら雑魚じゃないですの】 【は?】 「貴様ら、何をベラベラと念話で喋っている!!」  雪崩の如き一喝を、パナマ帽の女性は轟かせた。 優美で儚げで、指で突けば溶けてしまいそうな可憐な容姿とは裏腹に、内情は、燃える鋼のようであった。 この喝破のみを聞けば、軍隊上がりの女教官と言われても、まだ信じる事が出来るであろう。 「何をそんなに強く出ているのです?」  純恋子の方も腕を組み、不敵な笑みを浮かべてパナマ帽の女の方に注視する。互いの目線が、絡まり合った。 「我がサーヴァントから聞きましてよ。貴女、魔王などと言う大仰な名前で呼ばれて居ながら、私のアサシンに不覚を取った小物らしいですわね」 「え、え?」  レイン・ポゥは純恋子の後ろで困惑していた。一人で勝手に何話してんだコイツ。 「生前、我がサーヴァントに敗れた者が、私の操るサーヴァントに勝てると思いまして? アサシン、魔王殺しの伝説を再びこの地で成就させなさい」 「ふあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!?!?!?!!?!?!」  余りの展開にレイン・ポゥが叫んだ。 何言ってくれてんだこの女と言う感情と、こいつなら絶対言うと思ったと言う諦念と、そもそも何でこの地に魔王パムがいるのだと言う思い。 この三つがぶつかり合った瞬間、レイン・ポゥの思考はショートを引き起こしてしまった。 一種の混乱状態に陥ってしまったレイン・ポゥであるが、一つだけ、導き出せている答えがあった。自分では、パムには勝てないと言う現実だった。  レイン・ポゥと言うアサシンの一番真っ当で、そして、本人自身も認識している一番の暗殺の方法は、二つ。 一つは気配遮断を以て油断した所を一撃で。そしてもう一つが、相手にとって好ましいと思う自分を演じ、気の緩んだところで相手を葬る、と言う物。 この二つの方法を適宜使い分ければ、どんなサーヴァントでも、殺しうる……筈だった。しかし、何事にも例外は存在する。 その方法では絶対殺せないサーヴァントが、一人存在する。それは皮肉にも、自身が英霊として登録される原因であり、目の前で威風堂々と佇む『魔王パム』である。 単純である。パムはレイン・ポゥが如何なる方法で暗殺を実行するのか、それを身を以て知っているからだ。 そもそもパムは、レイン・ポゥが何百人いた所で、汗一つかく事もなく蹴散らせる程の強さを誇る、規格外の魔法少女。 そんな存在を暗殺出来たのは何度も言うように、奇跡に等しい偶然をレイン・ポゥが最大限利用したからに他ならない。その偶然がなければ、彼女は勝てない。  パムがレイン・ポゥの事を忘れているのであれば、まだチャンスはあったかも知れないが、百%向こうは、この虹の魔法少女の事を知っているのは口ぶりからも明らかだ。 レイン・ポゥの手口も当然知っている事になる。更に最悪なのは、自分の姿を完全に認識、そして意識している事だろう。 当たり前だ、生前自分を暗殺した存在がそのままサーヴァントとして呼び出されているのだ、警戒しない筈がない。つまり――レイン・ポゥは、完全に、詰んでいた。 「……ぷっ、ククク、あはははははは!!」  堪え切れない、と言った様子でパムは爆笑を始めた。 彼女の性格を知るレイン・ポゥからしたら、パムの反応は俄かに信じ難い物だった。 アメリカ辺りで封を切られた、軍隊ものの映画に出て来る鬼教官そのもののような性格の持ち主、それが、魔王パムだ。 ちょっとした私語で頬を叩かれた回数など、十回は超えていた筈だ。そんな性格の彼女である、今の純恋子の不遜な物言いなど、断じて許せるものではない筈だろう。 それなのに、パムは、本当に面白いと言った様子でひとしきり笑い終えた後で、眦に浮かんだ涙の粒を弾き飛ばしながら、言った。 「いや悪い悪い、余りにもお前には似合わないマスターだと思ってな。マスターの性格に牽引されて、サーヴァントが呼び出されるのではないのか?」  それに関してはパムよりもレイン・ポゥの方が疑問に思っている。如何して自分のこの性格で、このマスターを宛がわれるのか、理解不能だ。 「良い性格をしているな、お前。魔法少女になったらさぞや魔王塾に相応しい人物になるだろうさ」 「生憎、魔法少女になる夢はとうの昔に卒業しておりますので」 「何だ、其処の食わせ物から聞かされていないのか? 魔法少女は――」  其処まで言った瞬間、レイン・ポゥが動いた。 魔王が話に夢中になっている間。この怪物を屠るには、この瞬間をおいて他にない。 虹を伸ばす方向にも、気を配らねばならない。この魔王程戦闘に手慣れた魔法少女に限っては、余程油断していない限り死角からの攻撃は通じない。 況してやレイン・ポゥはアサシンのサーヴァント。目で見えぬ範囲の攻撃には、より神経質にあの魔王は気を配っている事だろう。 故にレイン・ポゥは、裏をかき――真正面から、虹の刃を高速で伸ばし、魔王の胴体を真っ二つにせんと放った!!  電柱ですら容易く切断する虹の縁が、魔王パムの、コートに包まれた胴体に当たる。 乙女の白肌と綿のような柔らかさの筋肉を切断――しない。虹の進行が、そこで停まった。 更に、パムの服装が、黒いドレスコートから、黒い『ライダースーツ状の服装』に、一瞬で変貌しており、その服に虹が触れているだけで、ここから虹はビクともしない。 タイトなライダースーツは、魔王パムのボディラインを扇情的に浮かび上がらせている。女性の持つ優美さと戦士の持つ強靭さが、最良の形で融合した美しい肉体だった。 豊かな乳房と、くびれた腰。人体の理想と言うよりは、彫像の理想形と言うべき身体つきだった。古代ギリシアなら、優美の理想形である女神(ヴィーナス)のモデルに、この魔王を選んだ事だろう。 「ハハハ、何だ、お前はそんなに解りやすい性格だったのか!!」  虹の刃を臍の辺りに押し付けられたまま、魔王パムが笑った。 「良いぞ、お前みたいに乱暴な奴は嫌いじゃない。それにその、怯えの中に隠された、ギラつくみたいな殺意はどうだ? 全く、お前は生前、相当上手く私に本性を隠していたんだな」 「うっせぇんだよこのババァ!! また生前みたいに全身挽肉にして不細工に殺してやるから黙ってろ!!」  嘗てない程の怒気を発散させて、レイン・ポゥが叫んだ。純恋子とコミュニケーションを取っている時ですら、此処まで彼女が怒った事はない。 簡単な話だ。この虹の魔法少女は、魔王パムと言う魔法少女が、心の底から嫌いなのだ。 如何にも外面の良さそうな外見をしていながら、その性情は暴君極まりない、身勝手で、暴力的なそれ。他者を抑圧し、自分の望む方に相手を導くその姿。 レイン・ポゥは、そんな魔王パムの姿を、レイン・ポゥではない三香織だった時代に存在した、自らの姉の姿を重ねていた。彼女もまた、家庭内の暴君だった。 だから、嫌いだった。憎んでも憎み切れない程、大嫌いだった。だから生前――自らの虹でパムの命を奪った後も、彼女を念入りに五体を切り刻んで殺してやったのだ。  最初にこの地でパムを見た時は、勝てないから逃げようと思った。 しかし事此処に至って、怒気が勝った。どの道あの怪物相手では、到底逃げ果せる事も出来ない。実力差にはそれ程開きがある。 ならば、此処で奮闘した方が、まだ勝ちの目がある。レイン・ポゥは、そう踏んでいた。  レイン・ポゥは頭上から、幅二m程の虹の道をギロチンの如く超高速で落下させた。直撃すればパムの頭は割れたスイカの如くになるだろう。 魔王パムの能力は、覚えている。背中から生えている黒く大きい四枚の翼を、『自由』に変化させる能力だ。 恐らく彼女は、纏わせていた黒いドレスコート――に変形させていた翼の一枚を、あのようなライダースーツに変えさせたに相違あるまい。 ならば、スーツで纏われた箇所以外の所を攻撃するしかなかった。そして、レイン・ポゥの推測は事実その通りで、翼を変形させたあのライダースーツは、ゼロ距離でのC4の爆発すらも、無衝撃でやり過ごせる程の防御能力を持っていた。  パムは、笑みを崩さず、右腕を頭上に掲げ、落下する虹の刃を受け止める。 指先までスーツは覆っている為、指の一本持って行く事すら、レイン・ポゥの宝具は叶わなかった。 「良い事を教えてやろうレイン・ポゥ。頭は人間の身体の中ではかなり的が小さい。狙われると最悪死に至る器官が集中している所でもあり、故に狙われやすい所だが、だからこそ、初めから其処を狙っていると解ると、対応しやすいのさ」  黙れ、と言う事も最早レイン・ポゥはしない。 ただ無言で、しかし、悪鬼の如き表情を浮かべ、美しい七色の刃をパムの頭へと殺到させる。 「魔剣(グラム)」  そうパムが言った瞬間、彼女の左手に、黒い剣身の剣が握られていた。 刃渡りは一m程、柄の方は、彼女に握られていて見えない。剣身を墨液に漬け込んだとしか思えない程の黒いそれを、パムは振った。 前方から迫る虹は、その剣に当たった瞬間、直撃した箇所から根本まで粉々に粉砕してしまう。 その一本を破壊したままの勢いで、ずっと右手で受け止めていた頭上の虹に黒剣を直撃させ、これも破壊。 そして、背後から迫りくる細い虹の刃も、先の二本と同じ運命を辿らせる。  レイン・ポゥは、パムが背後の虹を破壊したその瞬間には、地面を蹴っていた。 あの程度の虹ではパムを殺せない事など知っていた。本命は、レイン・ポゥが接近する事による攻撃だ。 悔しい話だが、直線軌道の虹を放つだけでは、例えその虹の本数が百万本だろうと百億本だろうと、結果は同じだと考えていた。 十m近い距離が、一瞬で二m程にまで縮まる。右掌から長さ三m程の虹の刃を伸ばし、それをパム目掛けて突き刺そうとした。 それを嘲笑うかのようにパムは、左方向にステップを刻む事で回避。虹の刃が空を切る。 伸びた虹の刃に、パムが右脚によるトゥーキックを放つ。戦車砲ですら防ぐ筈のそれは、パムの細い脚の一撃で、ペキンッ、と言う音を立てて圧し折れてしまう。 パムは魔法少女として最高水準の身体能力を誇るが、果たして虹を折ったのは、彼女の自前の筋力なのか、それともスーツのせいなのか。それは、レイン・ポゥには解らない。 「平伏す黒重(ブラックライダー)」  そう言った瞬間だった。 パムが握っていた魔剣(グラム)と呼ばれていた剣が霧のように消えてなくなったのは。 急いで次の攻撃に移ろうとしたレイン・ポゥであったが、次の瞬間、攻撃しようとした態勢のまま、俯せにぶっ倒れた。 それは、意識がなくなって倒れたと言うよりも、突如として背中に恐ろしく重い物を背負わされた時のような倒れ方に似ている。 事実彼女の手足は、まるで生きた昆虫の背中をそのままピンで刺した様に動いており、この事から、今も必死の抵抗をしているであろう事が窺える。 「良い名前だと思わないか? ブラックライダーとは黙示録に登場する四体の騎士の一騎の事でな、飢餓を以て地上の人類の1/4を殺す権利を与えられた天の遣いの事だ。勉強になるだろう」  何故自分の考えた技名を説明する時に、凄い誇らしげな表情をするのか、レイン・ポゥにも純恋子にも理解が出来ない。本当に、パムは何故か嬉しそうだった。 「アサシン!! 立ち上がりなさい、如何したのです!!」 「立とうにも立つ事が出来んのさ。今私は翼の一枚を『重力』に変えさせた。今レイン・ポゥには、魔法少女の身体能力を以ってしても、活動不可能な過重力が掛けられている」 「嬲り……殺しが趣味とは、恐れ入ったよ魔王様」  苦しげに呻きながら、レイン・ポゥが言葉を発する。一言一言発するのも辛い様子である事が、純恋子にも窺える。 「私を……、滅茶苦茶にして、殺すか? 昔私が……アンタにそうした……みたいに、さ!!」  そこで言葉を切り、レイン・ポゥはパムの真横から虹を飛来させる。直撃すれば彼女の頭を鼻梁の真ん中から切断するだろう。 しかし、一直線に伸びた虹は、パムに当たるまであと一m程と言う所で、ベキンッ、と嫌な音を立てて圧し折れてしまった。 「私の周りの重力の強さを、今お前に掛かかっているそれよりも強く設定させた。無駄な抵抗はやめておけ、虹が自重で折れるだけで、私には掠り傷も負わせられんぞ」 「んの、クソババァ……!! 焦らしてないでさっさと殺れよ!! どこまで捻じ曲がってんだよお前は!!」  全身の内臓が骨ごと潰れそうな程の重力の中で、レイン・ポゥは叫んだ。 肺の中の空気を全て使い果たして叫び終え、呼吸をするのも最早難しい。魔法少女程のスタミナの持ち主が、息切れを起こしていた。  その言葉を聞き届けた瞬間、パムは、レイン・ポゥに掛かっていた重力を解除させ、彼女が纏う虹色のコスチュームの襟部分を乱暴に掴み、 無理やり彼女を立ち上がらせた。何が何だか解らない、と言うような表情を浮かべるレイン・ポゥの頬を、パムは思いっきり平手打ちした!! アドバルーンが割れたような破裂音が響いたと同時に、レイン・ポゥは矢の様な勢いで吹っ飛んで行く。 転落防止の為のフェンスに激突。パムの張り手の威力は、クッション代わりになった金網部分が千切れている事からも、推して知るべし、と言う所であった。 「痛ぅ……!!」  奥歯が折れてないかと、口内に舌を這わせるレイン・ポゥ。一本も折れてないし、欠けてもない。口内が少し切れただけだ。 本気でぶった訳ではない事は、自身が生きている事からも明らかだ。パム程の膂力の魔法少女が本気で頬を張れば、下手な魔法少女なら顎の位置が上下逆転している。 「アサシン、大丈夫ですの!?」  大丈夫な方が不思議だよ、と思いながらも、レイン・ポゥは立ち上がろうとする。 「私の溜飲はこれで下がった。私を殺した仕打ちに対する仕返しは、今の一撃でチャラにしてやる」 「――は?」  殴った側の掌を、パンパンと叩きながらそう言ったパムを、レイン・ポゥは信じられないものを見る様な目で見つめていた。 「不思議そうな瞳だな。殺しでもしない限り、納得が行かないとでも思っていたか?」 「だって私は、アンタの敵で……アンタを殺した暗殺者だぞ」  元々、レイン・ポゥは、魔王パムが任務の一環で逮捕、状況次第では抹殺せねばならなかった標的だった。 そして何度も言うように、この虹の魔法少女は、魔王とすら言われた、魔法少女達にとっての雲上人であるパムを殺害した張本人。 自分を殺した者を見て、烈火の如き性情を持ったパムが、許す筈がない。レイン・ポゥでなくとも、皆、そう思うに相違ない。この常識を、パムはあっさりと覆した。 「魔法の国に纏わる、仕事上の因縁は、水に流してやる。そもそもこの世界には魔法の国も何もないのだぞ? 今更、生前未遂に終わった任務の事をウジウジ考えても、しょうがないだろう」  その辺りは、キッパリと分ける性格であるらしかった。だが、自分自身を殺した、と言う揺るぎない事実を、分けても良いのか。魔王パムよ。 「もう一つ、私を殺したと言う関係についてだが……。私とて煩悩の多い生き物だ、あの件については、思う所が何もないと言えば嘘になる。お前のせいで魔王塾は解散してしまっただけでなく、外交部門も危うく消滅寸前になったからな」  魔王パムの死が与えた影響と、その死が残した爪痕は絶大だった。 何せ、当代どころか歴代でも最強の誉れが高い魔法少女が、取るに足らない任務で殉職したのである。影響が小さい、訳がなかった。 魔王パムと言う最強のワイルドカードを失った魔法の国の外交部門は、その発言力を極限まで落とし、部署としてのパワーを著しく低下させた。 そして、その外交部門を後ろ盾にしていた、パムを塾長とする魔王塾は、それまでの傍若無人な行いのせいもあり、即座に解散に追い込まれた。 レイン・ポゥの放った七色の刃は、多くの魔法少女を路頭に迷わせ、また、多くの関係者を不幸にさせてしまった。ある意味で、魔王殺しの負の側面と言えた。 魔王塾生でもあり、唯一認めた高弟と言っても過言ではない、森の音楽家に纏わる忌まわしい事件でも、思う所があったのだ。自分の死が直接齎した影響に、何も思わぬ訳がなかった。 「思う所は確かにあったが、それでお前を恨み骨髄、と言うのも筋が違うだろう」  ふぅ、と其処で一呼吸パムは置いた。 「私はあの時、お前と、お前の連れの魔法少女に何と言った。魔法少女は常に臨戦態勢でいろ、油断するな……そんな事を懇切丁寧に指導したのだぞ? 全く笑えるだろう、居丈高にそう言っておきながら、その実誰よりも油断していたのは、私だった」  クク、と笑いを堪えきれぬ様子で、忍び笑いを浮かべるパム。 「お前は、この私を相手に見事に演じきった。突然魔法少女にされて訳も分からず混乱する、無力な女子中学生と言う役割を、この私を前にして臆する事なくだ。 私の理不尽な行いや言動に耐え続け、ついにお前は、私を殺せる機会を手繰り寄せ、それを最大限に利用し、私を葬った」  「――そうだ」 「お前は強い。そして、狡賢く、強かだ。だからこそ、私はお前を恨むのではなく、評価している。お前は自分が持ちうる全ての才能を活かして、私を殺った。 年齢、身長、魔法少女としての能力の微妙さ、演技力、そして、経験。これら全てを有効に使って、お前は私を殺した。私はお前を恨むどころか寧ろ、評価の上方修正すらしているぞ?」  更に言葉を続けるパム。 「私は見苦しく、不様な真似は嫌いだ。お前を恨み、否定すると言う事は、『戦場では油断してはならない』、『殺される奴が愚か』と言う、 この魔王パムが散々弟子達に偉そうに垂れた高説すらも否定する事になる。自分が負けた理由を捻じ曲げ、お前に全て責任転嫁する。 これは確かに簡単だが、これ程見苦しく見っともないものはあるまい? 私が常々口にしていた言葉が、薄っぺらい物になるのだから。 それならば、私はお前から与えられた敗北を受け入れる。そして、お前を認め、自身が如何に油断して、馬鹿だったかも自覚するさ。その方が、ずっと在り方としては高潔だろう?」 「……はっ、馬鹿じゃないのアンタ。まさか今の一撃で、生前での因縁を本気でチャラにするつもり?」 「心配するな、私はお前を認めこそすれど、もうお前に不覚を取る事もない。自惚れでも何でもないぞ、貴様の性格も能力も既に理解しているのだ、此処からどうやってお前は私の寝首を掻くと言うのだ?」  言葉に詰まるレイン・ポゥ。相手は、自分の能力から本性に至るまで、全て身を以て理解している魔法少女でありサーヴァントだ。 今更猫を何枚被った所で、騙す事など不可能であるし、例え令呪のバックアップがあったとしても、この怪物を葬るのは不可能に等しいだろう。 平素の実力で戦った場合、それこそ天と地程の開きがある戦力差だった。 「それで、貴女は自分の気が晴れたのならば、如何するのです?」  純恋子が至極当然の疑問を投げかけた。考えてみればこの二人は、そもそも何故パムが此処にいるのかが解らないのだ。 「このホテルを当面の拠点としようと思った矢先に、サーヴァントの気配があり、それを誘った所、お前達だった訳だ。まぁ何だ、今の私には当面の宿がない、お前達の部屋に泊めろ」 「ごめん、ちょっと意味が解らない」 「一日十万円払えば足りるか? 金だけは一応あるぞ」 「そうじゃねよ馬鹿魔王!! 泊める訳ないだろ!! て言うか、自分のマスターの所で寝泊まりしろや!!」  レイン・ポゥとしては、こんな危険極まりない人物と一緒の部屋で過ごすなど、断固として反対だった。 生前散々殴られた事は、英霊になった今でも覚えているし、何よりもこのパムと言うサーヴァント自体、かなり喧嘩っ早く、要らぬ火種を巻きかねない。 戦闘は最小限度に留める事が原則のアサシンにとって、要らぬ戦闘を繰り広げようとする存在と共に過ごすなど、死んでも御免なのだ。 しかも現状、そんな余計な事をマスターである純恋子自体がやる傾向が強い。それがもう一人増えるなど……考えるだに、おぞましい。 「生憎、私にはマスターがいなくてなぁ。頼れる者がいないのだ。其処で偶然にもお前を見つけたと言う訳だなレイン・ポゥ。これは頼らない訳には行かないだろう」  自身を殺した相手に宿を借りるなど、相当頭がおかしいとしか言いようがないが、そんな思考回路も、魔王パムであればこそなのだろう。 戦士や猛将の精神を持った存在から見たら、パムの姿は肝が据わっているだとか、度胸がある、所謂女傑に見えるのだろうが、一般人としての感性を持ったレイン・ポゥからしたら、本物の狂人にしか映らなかった。 「……マスターが、いない?」  純恋子がその部分に反応した。余りにも突飛なパムの発言で忘れがちだったが、確かに、この文脈は相当おかしい。 通常聖杯戦争において、マスターとサーヴァントは不可分の存在に等しい。いわばコインの裏表だ。サーヴァントにはマスターがいるのは、当たり前の事なのだ。 それが、いない、と来ている。まさかパムは早々にマスターを殺されてしまったのだろうか。言っては何だが、パム程のサーヴァントを引き当てておいて、 自分達より早く脱落する等、相当センスがないとしかレイン・ポゥには思えなかったが、如何も、パムの様子を見るにそう言う訳でもないらしい。 本当に、マスター自体が『初めから存在しない』らしいのだ。幾ら単独行動に優れたアーチャークラスと言っても、これは妙である。 「その事も私を泊めれば教えてやる。恐らくは、決して貴様らでは知り得ぬ情報だぞ。どうだ、レイン・ポゥのマスター。私はこれでもそれなりに義理堅いぞ、此処でナシを付けておけば、後々有利だぞ」 「……断った場合は?」  レイン・ポゥの問いに、ニッ、とした笑みを浮かべて、こう言った。 「仕方がない、立ち退こう。だが、うっかり口を滑らせて、他の主従にお前達の事を話してしまうかも知れないな」 「なっ、お前、卑怯だぞ!!」 「あら、我々の方から敵の所に向かう手間が省けて宜しいのでは」 「黙ってろ脳筋女、話がこじれる!!」  「貴女の為を思って言いましたのに……」と拗ねだす純恋子。何処がだ。 何れにしても、魔王パムはこのまま見過ごして良い相手ではない。この女性は、やると言ったら本当にやる人物だ。 このままだと、数時間後には<新宿>に跋扈する多くの主従が、既にレイン・ポゥの事を知っていた、と言う事態にもなりかねない。 頭の中の思考回路が火を噴きかねない程に、思考をフル回転させるレイン・ポゥ。 視界の端で、「ほら、如何した? もうすぐ帰ってしまうぞ?」、と急かすパムが殺したくなる位目障りだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  結論から先に述べるのならば、レイン・ポゥは、パムの要求を呑んだ。 正に、断腸の思いと言う体で、だ。「わかった」、この四文字を口に出すのに、身体の主要器官の過半を代償にした、とも言うべき消耗をしてしまった。 結局その旨を表明する決め手となったのは、自身がアサシンクラスであるから、と言うのが大きい。 三騎士や、指名手配されているクリストファー・ヴァルゼライドの件を見てもそうだが、一般的に戦闘能力に優れたサーヴァントと言うものは、 たとえ宝具の詳細やその正体が明らかになったとしても、地力が強いので、生半な強さでは逆に返り討ちにされる可能性が高いのだ。 レイン・ポゥの場合はそうは行かない。暗殺以外に勝ち筋が薄いアサシンクラス、その中に在ってレイン・ポゥは特に、自身の正体と本性が露見してはならないサーヴァントだ。 情報の秘匿性が特に重要になる彼女にとって、自身の正体とそのクラス、そして宝具が明らかにされ、それを他者に広められると言うのは最も避けたい事態。 マスターに純恋子を宛がわれた事により、只でさえ消しゴムで限界まで薄く消されているに等しい勝ち筋が、完璧に消されるのは絶対に御免だった。 だから、血を吐く様な思いでレイン・ポゥはパムの要求を呑み、一緒の部屋で過ごす事を許可した。 当然純恋子は否定的な意見を念話で主張したが、先の黒贄との一戦による失点でレイン・ポゥも反論。彼女の意見を折っておいた。  そうして、現在に至る。 何でもパムは、そもそもの出自からして、一般的なサーヴァントとは一線を画する存在であるらしいのだ。 曰く、<新宿>において『メフィスト病院』と呼ばれる病院で彼女は召喚されたと言うらしい。 その方法にしても特別で、ドリー・カドモンと呼ばれる特殊な触媒に、アカシック・レコードと呼ばれる場所から自身の情報を固着させ、それによってサーヴァントとして<新宿>に現界していると言うのだ。  ……俄かに信じ難い。だが、培ってきた人間観察力が、それは違う、パムは嘘を吐いていないと告げている。 パムの言っている事が思い違いでなければ、メフィスト病院は特に警戒しておかねばならない施設となる。 それはそうだ、もしも彼女の言う事が事実であれば、メフィスト病院はサーヴァントを多く従えられると言う事になるのだから。 尤も、それが解っているからと言って、如何する事も出来ない。何せ自分はアサシン、直接戦闘能力に秀でているクラスではない。 それにパム曰く、自身を作り上げたキャスターは、自分ですらも勝てるかどうか危ういと言う程の強敵であるらしく、 レイン・ポゥでは一万回戦っても埃一つ着けられるか否かの次元らしい。馬鹿にしている、とは思わなかった。パムは尊大だが、戦闘に纏わる事柄に対しては凄まじい慧眼を持つ。だから此処は、彼女の言う事を信じる事にした。よって、メフィスト病院は、以前どおり、当分は様子見である。  ――さて、それはそれとして、だ。   「ほう、そんなサーヴァントがいたのか!! 聖杯戦争、ますます面白いじゃないか!!」 「えぇ。アサシンがどんなに虹の刃で斬りかかっても、平然として戦いに赴くその姿。恐ろしくもある一方で、かなり雄々しかったですわ」 「面白い面白い、そんな存在がいるとなると、いても立ってもいられんぞ。純恋子とやら、他には誰と戦ったのだ?」 「申し訳ございませんわ、如何も我々には運が向かないと言いますか、その一人としか戦えていませんの」 「そうか、うむ。気にする事はない。まだまだ聖杯戦争は始まったばかりだろう。これから戦えば良い」 「えぇそうですわ、まだまだ序盤ですものね」  ……何故か、パムと純恋子が打ち解けていた。 そもそもの馴れ初めは、パムがレイン・ポゥに話しかけても、レイン・ポゥ自体が全く反応してくれないので、仕方なく純恋子に話しかけた、 と言う物であったが、これが予想以上に二人の馬が合う。どちらもかなりイケイケの気が強く、戦闘については積極的な性格なので、考えてみればそれは当然と言えた。 如何してあの女の呼び寄せたサーヴァントがパムではなく自分なのか。あの魔王の方が、余程性格の反りもあっているではないか。  兎も角、話が盛り上がる分には問題ない。 勝手にしていろ、と言う所であるのだが―― 「ですが問題は、私の所のアサシンをどのように、あのバーサーカーを倒せる位の強さにするのか、と言う事なのですが……」 「うむ、確かに。敵に背を向けて遁走するのは、魔王塾の生徒として相応しくないな」 「何か案はありますか?」 「私の羽で強化させると言う手段も無きにしも非ずだが、やはり自分の力で勝利を勝ち取って欲しい物だな」 「成程。それは確かに、一理ありますね」 「レイン・ポゥは慎重過ぎるからな。其処が長所でもあり、短所でもある。ふむ、私の羽を興奮物質に変換させ、意気を昂揚させる、と言うのはどうだ?」 「まぁ、そんな事が出来るのですか!?」 「出来るぞ。戦闘に対する意識を昂揚させ、近接戦闘の鬼にさせる。これなら、戦闘に対する覚悟も、決まる事だろう」 「でも裏返せば、長所も消滅する事になりますわね。そうなったらば――」 「運だ。奴は悪運が強い、二度までなら生き残れるだろう」 「えぇ、そうですわね」  ……話を聞くだに、恐ろしい内容と言う他なかった。 何故か勝手に魔王塾の生徒にされていたり、基本的人権など犬に喰わせたとでも言わんばかりの非人道的な作戦を練っていたり、その作戦についてのフォローもなかったりで。 兎に角、レイン・ポゥの意思など何処吹く風、と言う様子で侃々諤々の議論を二人は続けていた。 しかも二人の性格上、冗談ではなく、本気でやりかねないのが怖い。何せマスターがあの英純恋子、その相談役が、あの魔王パムなのだから。  ――頼むから死んで欲しい――  あの二人が即時的に死ぬ事故が巻き起こり、そして自分を必要としてくれるはぐれのマスターの到来を、レイン・ポゥは祈っていた。 ……そんな美味しい状況など起こる筈もないから、今こうして、ルームサービスのワインを口にしているのだが。 酒に酔って全てを忘れたい気分だが、人間と比して規格外の、魔法少女のアルコール分解能力と、そもそもサーヴァントとしての特性がそれを許さない。 ワインを五分で一本空けたが、酩酊の気配すら起きそうにない。魔法少女になると、酒による逃避も出来ない事を、レイン・ポゥは学んだ。 嫌な知識が、また一つ増えてしまった、レイン・ポゥなのであった。 ---- 【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット)/1日目 午後1:30分】 【英純恋子@悪魔のリドル】 [状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小) [令呪]残り二画 [契約者の鍵]有 [装備]サイボーグ化した四肢(現在右腕と右足が破壊状態) [道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている) [所持金]天然の黄金律 [思考・状況] 基本行動方針:私は女王(魔王でも可) 1.願いはないが聖杯を勝ち取る 2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ [備考] ・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました ・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました ・遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました ・メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました ・自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました ・現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません ・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました ・次はもっとうまくやろうと思っています 【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]霊体化、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、嵐のように荒れ狂い海の如く尽きる事のないストレス [装備]魔法少女の服装 [道具] [所持金]マスターに依存 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯獲得 1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠 2.こいつらの頭に隕石とか落ちないかな…… [備考] ・バーサーカー(黒贄)との交戦でダメージを負いましたが、魔法少女に備わる治癒能力で何れ回復するでしょう ・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました ・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです ・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました 【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]健康、実体化 [装備]パナマ帽と黒いドレスコート [道具] [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:戦闘をしたい 1.私を楽しませる存在はいるのか 2.聖杯も捨てがたい [備考] ・現在新宿駅周辺をウロウロしています ・英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました **時系列順 Back:[[黙示録都市<新宿>]] Next:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]] **投下順 Back:[[ワイルドハント]] Next:[[仮面忍法帖]] |CENTER:←Back|CENTER:Character name|CENTER:Next→| |25:[[殺人最高永久不滅]]|CENTER:英純恋子|| |~|CENTER:アサシン(レイン・ポゥ)|~| |33:[[黙示録都市<新宿>]]|CENTER:黒のアーチャー|| ----
「無駄に治療に時間が掛かり、ご迷惑をお掛けいたしましたわ」  「それ以外のとこで滅茶苦茶迷惑が掛かってんだよ」、と口にしても、全く馬耳東風の様子で、此方に近付いて行く純恋子。 此処までサーヴァントの話を顧みないその精神性はある意味で大物だし、正に女王とも言うべき風格の持ち主だが、頼むから今の内に改善して欲しいレイン・ポゥだった。まだ間に合う。  黒礼服の魔王、殺人鬼のバーサーカー、黒贄礼太郎とそのマスターである遠坂凛との戦闘から、三時間が経過した。 純恋子達は、拠点であるハイアットホテルに戻っていた。凛の放った飛び道具の魔術によって破壊された義腕と義脚を換装すればまだ戦える、 と送迎車内で純恋子が主張していたが、レイン・ポゥは彼女の意見を封殺した。確かに破壊されたのが、換装可能な上の二つであればまだしも、 あの戦いで純恋子は令呪一画を失っただけでなく、遠坂凛に左胸を撃ち抜かれているのだ。 こんな序盤で、こんな馬鹿の死亡に牽引される形での消滅など真っ平御免だと考えたレイン・ポゥは、負ったダメージの治療を進言。長く、入念な治療の末、現在に至る、と言う訳だ。  元々が一般庶民であったレイン・ポゥもとい、三香織は、今日に至るまで知る由もなかったが。 この世界には、所謂『上級国民』。例えて言えば、貴族や、大企業の総帥、官僚や与党や第一野党の党員と言った人物が受けられる治療と言うものが存在する。 こう言った治療は、保険証を見せて、綿密な診察を長い時間行い、病巣を取り除く為に動く、と言った治療とは一線を画する。 使われる設備は、国民にはまだ披露されていない最新鋭のそれで、施術を行う医療陣は言うまでもなくトップクラスの実力の持ち主。投薬される薬も、特別性のそれだ。 国家にとって有為の人物であるからこそ、最新最高の医術を受けられる、と言うのも本当だが、それ以前にこう言った技術をフル活用するには、金が要る。結局は、コネと金が、当人の生死を左右するのだ。  英純恋子がハイアットホテルのある部屋で今まで受けていた治療も、正しくそんなものだった。 聖杯戦争に際して、ホテルの別室に医療チームを待機させていたのである。無論、莫大な金が掛かったが、純恋子にとっては女王>金の価値観だ。全く問題がない。 純恋子がダメージを負った、香砂会の邸宅での一件を見ていたレイン・ポゥは、純恋子の損傷をよく知っていたが、その重大性を知っていたからこそ驚いた。 全くこのマスターにはダメージを負った様子がないのだ。恐らくは手術もしただろう。それなのに、彼女は全くピンピンした状態で、 ハイアットホテルの最上階に近いフロアに在る、主従が使う為の私室に登場したのである。 幾ら最新鋭の医療技術をフル活用したと言っても、この完治ぶりは凄いとしか言えない。純恋子本人の気力や体力の所以であろうか。 どちらにせよやはり、世の中金とコネなのだと、改めてレイン・ポゥは思い知らされた。 「さて、回復した事ですし、早速行きますわよ」 「大人しくしてろ」  最新鋭の医療技術でも、馬鹿と短絡的な性格を治す事は不可能であるらしかった。 馬鹿は死ななければ治らない、と最初に言ったのは、何処の誰だったか、その人物は誇っても良い、その言葉は世の真理に近しいからだ。 「それよりもさ。アンタが治療を受けている間、契約者の鍵からルーラー達から何か新しい情報が追加されたよ」 「ルーラーから?」  と言って、レイン・ポゥは、自分が手に持っていた契約者の鍵を、ポイッと純恋子の方に投げ放った。 契約者の鍵は、当たり前の事ながらサーヴァントである彼女に任せておいたのだ。手術中に通達があり、光りでもしたら、コトだからだ。 そうそう通達はないと思っていたが、念の為レイン・ポゥに預けておいて正解だった。  ホログラムを投影させ、その内容を確認する純恋子。 一分程、その内容を吟味し、投影させたそれを打ち切らせ、レイン・ポゥの方に純恋子は向き直った。 「ま要するに、派手にやり過ぎた奴らがいるって事よ」  と言い、レイン・ポゥはルームサービスのオレンジジュースを飲み始める。彼女は前もってその内容を確認していた。 <新宿>と言う狭い街で行われる聖杯戦争と言う都合上、悪事は特に露見しやすい。大量殺人や著しい環境の破壊など、直にアシが付く。 それは、遠坂凛やセリュー・ユビキタスの件でも皆重々理解していた、とレイン・ポゥも思っていたが……理解していてなお、狂行に及んだ主従がいたらしい。 しかも、事もあろうにルーラーに対する反逆行為と来た。レイン・ポゥ自身、ルーラーがまともな人物ではないのではないかと、思ってはいる。 思ってはいるが、反逆を行う気にはなれない。自身の戦闘力が控えめであると言う自己評価もそうだが、先ず仲間がいない。これでルーラーに喧嘩を売りに行く、と言うのが先ずどうかしている。 「……アサシン」 「何よ」 「ステータスの方をご覧になりましたわね?」 「一応ね」 「勝てると思います?」  案の定と言うか、やはり純恋子は聞いて来た。そして、この質問に答えた後、何てまた質問するのかも、嫌になる程良く解る。 とは言え、想定していなかった質問かと言えば、それは違う。ご丁寧に宝具考察やスキル考察、ステータスや真名まで公表されているのだ。 遠坂凛やセリューの件とは比較にならない程の腰の入れようだ。余程、腹に据えかねるものが、この主従にはあったと見える。 折角ステータスや真名諸々まで公表されたのだ、当然レイン・ポゥは、このステータスを元手に、考察を行った。 「半々って所かな」  考察をした上で、この返事だった。 「弱気ですのね。このステータスは、貴方と差して変わらないじゃありませんか」  この一点においては、純恋子の方が正しいと言えよう。 ステータスの面から見ても、このヴァルゼライドと言うバーサーカーは、狂化しているとは思えない程ステータスも平均的だ。 何せレイン・ポゥとステータス的な差が全くないどころか、平均値で言えばレイン・ポゥの方が勝っていると言う始末だ。 これならば、レイン・ポゥでも勝てる、と純恋子が思うのも致し方のない話である。 「その弱いって言う点が曲者なんだよ。私のスキルが機能しなくなるじゃんか」  そも、レイン・ポゥと言うアサシンが、何故英霊にまで奉られたか。 結論を言えばそれは、彼女が百人どころか万人束になっても敵わない程の強さを誇る、『魔王』を殺したからに他ならない。 ただしそのメソッドは、真正面から堂々と、と言った武勇伝めいた方法で、ではない。転がり込んできた機会を最大限に利用しての、暗殺だ。 このような方法で魔王を殺したレイン・ポゥが、その後、あの世界でどう伝わっていたのか、彼女は解らない。卑怯だとか、姑息だとか、言われたのかも知れない。 しかし、確実に言える事があるとすれば、レイン・ポゥは暗殺者にとっての一種の到達点、弱者にとってのある種の希望として機能したと言う事だ。 本来絶対勝てない筈の強者を暗殺する。それは、そのような稼業に身を落とす者達にとってのある種の目標になった事だろう。 絶対勝てない存在を、どんな方法でも良いから抹殺する。それは、戦闘に向かない能力を持った魔法少女にとっての憧憬となった事だろう。 良きにつけ、悪しきにつけ、人々の想念を形を伴った何かしらの外殻で閉じ込めた存在が英霊であると言うのなら、成程。確かにレイン・ポゥは、暗殺者(アサシン)の英霊として、これ以上となくその条件を満たしている事になる。  レイン・ポゥの英霊としての肝となる部分は、『絶対に勝てる筈がなかった格上の存在』を、『完璧に油断させてから暗殺した』と言うこの点に他ならない。 その逸話はレイン・ポゥと呼ばれる魔法少女の中核を成す要素に等しく、その象徴が、彼女のスキル『魔王殺し』である。 このスキルはまさにサーヴァントとしての、英霊としての彼女のシンボルのような物である。従って、これを基点に置いた戦闘の方法を模索する必要があるのだが――。 欠点がある。格上の存在を殺した事で英霊となったレイン・ポゥは必然的に、『常に強者の暗殺を視野に入れねばならぬ存在である』と言う事になる。 その証拠に、象徴たる魔王殺しのスキルは、自身よりもステータス的に強い存在にしかその効果を発揮しない。 逆に格下相手には、彼女を彼女足らしめる魔王殺しの魔法少女と言う部分が機能しなくなるのだ。ヴァルゼライドと言うサーヴァントは、その格下と言う要素を満たしている。  ステータス的に弱いのであれば、勝てるだろうと思うかも知れないが、事はそう簡単ではない。 魔法少女の時もそうだったが、彼女らは自分だけの魔法と言うものを一つ持っている。通常暗殺や戦闘と言う局面に入った場合、素の身体能力も勿論の事、 その能力も合算して考える。サーヴァントの場合は、宝具だ。スキルだ。こればかりは、解らない。だからこそ、油断が出来ないし、慎重に行きたいのだ。 更にたちの悪い事に、ヴァルゼライドはステータス平均はレイン・ポゥより低いとは言っても、総合的に見るなら自分と強さがさして変わらない。 それどころか、凄まじく武術に秀でたサーヴァントと言うではあるまいか。こう言う手合いが一番困る。 魔王殺しのスキルも機能しないだけでなく、況してやバーサーカー。演技で騙して油断した所を暗殺、という手法も通じ難い。 それにレイン・ポゥ個人として、もうバーサーカーと戦うのはこりごりだった。先程の、黒贄との戦いがまだ尾を引いている。 「私はもっと賢く立ち回りたいの、解る?」 「私の立ち回り方が、そうじゃないみたいな口ぶりですのね」 「当たり前だろあんぽんたん、鏡見ろや」  本当に、自分の聖杯戦争へのスタンスが優れていると、純恋子は思っていたらしい。 ちなみにレイン・ポゥからしたら、マスターの聖杯戦争への考え方が間違っているなどハナから気付いていた事柄であり、黒贄との戦いで、更にその考えが強まっていた。 「まぁ……、アサシンの御怒りの方も、尤もな所ですわ。令呪も失い、私も不様を晒してしまいましたから。その点は、反省しています」  ――本当かよ……―― 「猜疑心が顔に出てますわよアサシン。とは言え、口では幾らでも言えますから。誠意代わりに、情報を持ってきましてよ」  そう言えば、黒贄と遠坂凛から距離を離そうとした際に、車の中で純恋子が念話で言っていた。 自分達の手傷がある程度癒えるまで、英財閥の調査室を動かし、<新宿>での動向を改めて探らせる、と。この口ぶりでは、成程、如何やら進展があったようである。 「私達が傷を癒している間に、戦況はかなり進んだようですわね。アサシン、此方のタブレットをお使いなさいな」  言って純恋子はレイン・ポゥに、小脇に抱えていたタブレットを手渡し、それを操作し始めた。 「書類じゃないんだね、今朝のエルセンの時は書類で持って来てたけど」 「書類だと量が多くなって、かさばる位に、<新宿>に動きがあった。そう言う事です」  そんなに状況が動いたのか、と怪訝に思いながら、レイン・ポゥは直近の椅子に腰を下ろし、慣れた手つきでタブレットを操作する。 情報はタブレットの中のあるファイルの中にドキュメント形式で纏められており、それらがトピックスごとに幾つも存在するのだ。  ――確かにこの量は書類で見るのはしんどいな――    エルセンが今朝方伝えに来た情報の倍はあろうかと言う程、ドキュメントが存在する。 純恋子の言うように、これだけの量を書類にし直すとなると、読む方も作る方も手間になるだろう。 試しにレイン・ポゥは、ドキュメントの一つをタップする。  そのドキュメントは、南元町で発生した、超局所的な豪雨について記されていた。午前九時ごろの情報らしい。 近頃<新宿>には、天気予報にない局所的な豪雨と稲妻が走る事で有名で、市民や国民から、気象庁の勤怠を指摘されている。 夏場の天気は崩れやすいと当初は思っていたが、目撃情報によると、今回の雷雨は、『南元町だけ』に発生した現象であるらしかった。 実際、秘密裏かつ水面下に気象庁から獲得した、気象衛星からの日本のその時の天気の画像を確認した所、明らかに南元町だけに雨雲が発生しており、 それ以外は雲一つない快晴だったのだ。これで、確信に変わった。この一件にはサーヴァントが関わっている、と。 明らかに天候の崩れが局所的過ぎるからだ。自然のものとは、到底思えない。となれば、この現象を引き起こした下手人が当然いる筈なのだが……。 その肝心要の、サーヴァント及びマスターらしい存在は、発見出来ていないらしいし、南元町の住民に聞き込みを行っても、それらしい存在は確認出来なかったと言う。何れにせよ、警戒しておかねばなるまい。  次のドキュメントをタップする。 そのドキュメントは、<新宿>に放置されていた、怪物の死骸について記されていた。 怪物、と聞くと、魔法使い達は獣のような使い魔を使役すると言う事実を生前伝え聞いた事をレイン・ポゥは思い出す。 ご丁寧に写真が添付されているのでそれを確認すると、成程、確かに怪物としか思えない。三枚の画像を順繰りに確認して行く。 赤黒い体表を持った屈強な体格の存在。何故か、首から上がなくなっている。これは、新大久保のコリアタウンで発見されたらしい。 牛と蜘蛛の相の子のような、巨大な怪物。幼い頃に少しだけ見た、妖怪もののアニメに出て来たそれからデフォルメ分を消して見たような姿だ。神楽坂の飲食店で見つかったらしい。 ライオンや虎が子猫の様にしか見えない程、屈強な体格を持った獣。特筆すべきは隈取のような物を施した人頭を持っている事であろうか。西大久保の裏路地で見つかったらしい。 人類とは肉体の組成が違う為、死亡推定時刻の特定も難しいと来ている。解っている事は三体共に、致命的な外傷の末に殺されたと言う事である。 魔法使いの使役する使い魔、と言う知識があるせいで、何らかのサーヴァント――キャスター辺りか――が使役する存在だと推察したレイン・ポゥ。 そうであって欲しかった。こんな怪物を無秩序に野に放つなど、それこそ狂気の沙汰としか思えない。これもやはり、下手人は要警戒であろう。  次のドキュメントをタップする。 <新宿>二丁目で発生した大規模な戦闘――これは、黒贄と戦う前に散々車内のラジオで聞いた事柄だ。 英財閥の調査室の力を持っても、ラジオで報道されていた以上の情報が解らないと言う点が気がかりだが、さしあたって、見るだけに止めておいた。  次のドキュメントをタップする。 落合方面のあるマンションで起った、車体を輪切りにされた事件と、マンションの一室が凄まじいまでに荒らされていた事件。 これもカーラジオで聞いていた事柄の一つだが、あれから進展があったらしい。荒らされた部屋に住んでいた住民が行方知れずであるのだが、その住民の事が解ったらしい。 住んでいた人物は、北上と呼ばれる少女で、区内の高校に通う、これから受験を控えた三年生であると言う。 顔写真を手に入れているらしく、それを確認するレイン・ポゥ。平凡な少女だった。荒らされたと言う部屋の様子の写真も初めて確認するが……。 正直、荒らされたと言うよりは、部屋の中で竜巻が暴れまくった、としか見えない程の凄惨な光景だ。年若い一人の少女が何をしたら、此処までの恨みを買われるのか。 部屋を此処まで荒らした存在は元より、この北上と言う少女についても、マークをする必要があるだろう。  次のドキュメントをタップする。 早稲田鶴巻町と、新小川町で起った、住宅街での大規模な戦闘。住宅街の模様が撮影されているが、先の北上の私室よりももっと酷い。 地面のコンクリートは溶けて冷え固まり、住宅街は基礎部分が見える程完膚なきまでに破壊されているのだ。曲りなりにも人の密集する地域で、何をやったと言うのか。 読み進めて行くうちに、凡そ何が起ったのか、レイン・ポゥは推測出来た。早稲田鶴巻町と新小川町で、光の柱のような物が、空に向かっていったり、逆に空から降り注いだり。 時には水平に放たれて行く要素を目撃した人物が、幾つもいると言うのだ。光の柱……もしかしなくても、主催者達から討伐令を新たに下された主従。 ザ・ヒーローと、クリストファー・ヴァルゼライドの主従である蓋然性が高い。成程、本当に危険人物であるらしい。指名手配された時点で最も注意するべき存在であったが、この文章を見て、最も警戒するべき主従に変わった。  ――粗方読み終え、タブレットの電源を落とすレイン・ポゥ。ふぅ、と、一息吐いてから、口を開く。 「奇跡だね」 「何がですの?」  純恋子が訊ねた。 「此処が襲撃されない所が、さ」  <新宿>と言う場所は狭い。何せ四方四㎞しかないからだ。 都内全域で聖杯戦争を行うと言うのであるのならばいざ知らず、特別区一区に限定して聖杯戦争を行うなど、箱庭で核弾頭を連れまわしているのと殆ど同義だ。 実際その核弾頭の一部は、言い逃れも申し開きも出来ない程その暴威を振っており、主催者から指名手配を喰らっている始末だ。 この調子ではどんな慎重な主従でも、戦火に呑まれる可能性がある。逃げの一手にも、限界が来る。自分達の存在も、やがては広く知れ渡るかも知れないのだ。 レイン・ポゥ達が拠点としているハイアットホテルは特に目立つ建物の一部。これを狙って、聖杯戦争の主従が誰もやって来ないのは、幸運と言う他なかった。 「私としても、此処の拠点を失うのは、余り宜しくはありませんわ。あるとないとでは、雲泥の差ですもの」 「へぇ、珍しく同意見だね。まぁ、私の方がまだまだ手傷は回復出来てないんだわ。今は回復に――」  其処までレイン・ポゥが言った瞬間だった ギュオンッ、としか形容のしようがない音が鳴り響いたと同時に、天井に、直径二m程の大穴が穿たれたのは。 その音源の方にいち早くレイン・ポゥは気付き、バッと天井を見上げる。遅れて純恋子もそれに従った。 完全な円形に天井は刳り貫かれていた。穴からは、青い青い空が、雲一つない天空を、認める事が出来た。 相手は如何やら屋上から何らかの攻撃をして来たらしい。だが、床には全く傷がない所を見ると、完全に天上だけに穴を空けたようである。  穴を認識した瞬間、レイン・ポゥは、サーヴァントの気配を感知する。 近い。もう後十m頭上に、敵はいる。向こうもその事に気付いているだろう。出なければ、こんな行為をする筈がないのだから。 「まさかこんな状況下でも、お逃げになるのかしら? アサシン」  蠱惑的な笑みを浮かべ、純恋子が問うた。 「暗殺者舐めんなよ。腹括って戦う時だってあるっつの」  暗殺の過程でトラブルは付き物だ。 多少の荒事に覚えがなければ、魔王を葬るその前の段階で命を散らせている。暗殺で殺した魔法少女や要人と同じ位、戦闘で殺した魔法少女だっているのだ。 此処まで来たら、覚悟を決めるしかないだろう。せめて相手が、弱い存在である事を祈るばかりだが……こんな自信満面な挑戦状を叩きつけて来る手合いだ。 自分にさぞ自信があるのだと言う事は、疑いようもない。憂鬱な気分を隠せぬレイン・ポゥだった。気分の高揚を隠そうともしない、英純恋子であるのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  特別な施設、例えばプールやら展望台などがある場合を除き、普通は、建物の屋上と言うのは入れない事になっている。 普通はそうなのであるが、英財閥の関係者に限っては特別だ。純恋子に何かしらの危難があった時の為、と言う理由の下、既に客が宿泊している部屋以外の、 全ての所をパス出来るように許可を取っているのだ。そのような経緯があるから、普通は立ち入る事の出来ない屋上に、純恋子は足を運ぶ事が出来た。  屋上へと続く階段を警備する守衛の人間に、専用の許可証を見せ、階段を上って行く純恋子。 一段一段、段を上る度に、嫌でも解る。気魄と言うか、鬼気と言うべきか。兎に角、オーラと言う物が、一般人の純恋子にすら理解が出来る程だった。 この先に、凄まじいまでの怪物がいる。純恋子にすらそれが解るのだ、況や、レイン・ポゥなど、語るに及ばず。 【頭数は一人だよ】  念話でレイン・ポゥが言った。 【問題は、そいつが凄まじいまでの怪物だって事だけど】 【貴女が戦ったバーサーカーと比較は出来ますか?】 【見てみない事には解らない】  そんな事を話す内に、屋上へと繋がる扉の前にやって来た。 レイン・ポゥの逡巡など全く斟酌せずに、純恋子は勢いよくそのドアを開けた。降り注ぐ昼の光、頭上に広がる純潔のような青い空。 そしてそれとは対照的な、陰鬱なコンクリートの床と、エアコンの室外機。抜けるような自然の青空と、不細工な文明の一面が同居したその風景は、酷くアンバランスだった。  そのアンバランスな風景の先に、その存在は立ち尽くしていた。 くすんだブロンドを短髪に纏めた女性で、頭にパナマ帽を被り、夏場であると言うのに、ドレスコートが暑苦しい。 しかし当の本人はそれを、平気な様子で着こなしていた。だが何よりも特徴的なのが、その整った顔立ちか。 左右線対称で、目鼻立ちも完璧に等しく、肌の色も白磁を思わせるような素晴らしい白であった。血が、透けて見えそうだった。 表参道でも歩いていれば、十人が十人、二度見は間違いない程の美人。そんな女性が、腕を胸の前で組み、尊大な態度で此方の事を値踏みしていた。  そして――その値踏みするような表情が、驚きに染まった。 彼女だけでない。純恋子が引き当てた、虹を操るアサシン、レイン・ポゥも。最も、レイン・ポゥの場合は驚きと言うより、蒼白、に近かったが。 「……クク、驚いたな」  最初に口火を切ったのは、パナマ帽の女性の方だった。複雑な喜悦が、その声には混じっていた。 「久々だなレイン・ポゥ? お前とはサシで話して見たかったよ」  驚いたのは純恋子である。 レイン・ポゥ。自らがその名を口にしない限り、絶対にその真名など解りっこないサーヴァントであった筈なのに、目の前の女性は、それを普通に当てて来た。 しかも如何やら口ぶりから察するに、この二人は、知り合いとみて間違いなさそうだった。その事を念話で、レイン・ポゥに純恋子は訊ねた。 【知り合いですの?】 【……アンタに話した事あっただろ? 私が魔王殺しのスキルを獲得した所以】  レイン・ポゥの声には、驚く程精彩がない。癌を告げられた患者ですら、まだマシな声を放つだろう。 【えぇ】 【私が殺した魔王その人だよ】  それを受けて、純恋子は、驚いた――のではなく、逆に、フフン、と言うような態度で、気を強く持ち始めた。 【何だ、それなら雑魚じゃないですの】 【は?】 「貴様ら、何をベラベラと念話で喋っている!!」  雪崩の如き一喝を、パナマ帽の女性は轟かせた。 優美で儚げで、指で突けば溶けてしまいそうな可憐な容姿とは裏腹に、内情は、燃える鋼のようであった。 この喝破のみを聞けば、軍隊上がりの女教官と言われても、まだ信じる事が出来るであろう。 「何をそんなに強く出ているのです?」  純恋子の方も腕を組み、不敵な笑みを浮かべてパナマ帽の女の方に注視する。互いの目線が、絡まり合った。 「我がサーヴァントから聞きましてよ。貴女、魔王などと言う大仰な名前で呼ばれて居ながら、私のアサシンに不覚を取った小物らしいですわね」 「え、え?」  レイン・ポゥは純恋子の後ろで困惑していた。一人で勝手に何話してんだコイツ。 「生前、我がサーヴァントに敗れた者が、私の操るサーヴァントに勝てると思いまして? アサシン、魔王殺しの伝説を再びこの地で成就させなさい」 「ふあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!?!?!?!!?!?!」  余りの展開にレイン・ポゥが叫んだ。 何言ってくれてんだこの女と言う感情と、こいつなら絶対言うと思ったと言う諦念と、そもそも何でこの地に魔王パムがいるのだと言う思い。 この三つがぶつかり合った瞬間、レイン・ポゥの思考はショートを引き起こしてしまった。 一種の混乱状態に陥ってしまったレイン・ポゥであるが、一つだけ、導き出せている答えがあった。自分では、パムには勝てないと言う現実だった。  レイン・ポゥと言うアサシンの一番真っ当で、そして、本人自身も認識している一番の暗殺の方法は、二つ。 一つは気配遮断を以て油断した所を一撃で。そしてもう一つが、相手にとって好ましいと思う自分を演じ、気の緩んだところで相手を葬る、と言う物。 この二つの方法を適宜使い分ければ、どんなサーヴァントでも、殺しうる……筈だった。しかし、何事にも例外は存在する。 その方法では絶対殺せないサーヴァントが、一人存在する。それは皮肉にも、自身が英霊として登録される原因であり、目の前で威風堂々と佇む『魔王パム』である。 単純である。パムはレイン・ポゥが如何なる方法で暗殺を実行するのか、それを身を以て知っているからだ。 そもそもパムは、レイン・ポゥが何百人いた所で、汗一つかく事もなく蹴散らせる程の強さを誇る、規格外の魔法少女。 そんな存在を暗殺出来たのは何度も言うように、奇跡に等しい偶然をレイン・ポゥが最大限利用したからに他ならない。その偶然がなければ、彼女は勝てない。  パムがレイン・ポゥの事を忘れているのであれば、まだチャンスはあったかも知れないが、百%向こうは、この虹の魔法少女の事を知っているのは口ぶりからも明らかだ。 レイン・ポゥの手口も当然知っている事になる。更に最悪なのは、自分の姿を完全に認識、そして意識している事だろう。 当たり前だ、生前自分を暗殺した存在がそのままサーヴァントとして呼び出されているのだ、警戒しない筈がない。つまり――レイン・ポゥは、完全に、詰んでいた。 「……ぷっ、ククク、あはははははは!!」  堪え切れない、と言った様子でパムは爆笑を始めた。 彼女の性格を知るレイン・ポゥからしたら、パムの反応は俄かに信じ難い物だった。 アメリカ辺りで封を切られた、軍隊ものの映画に出て来る鬼教官そのもののような性格の持ち主、それが、魔王パムだ。 ちょっとした私語で頬を叩かれた回数など、十回は超えていた筈だ。そんな性格の彼女である、今の純恋子の不遜な物言いなど、断じて許せるものではない筈だろう。 それなのに、パムは、本当に面白いと言った様子でひとしきり笑い終えた後で、眦に浮かんだ涙の粒を弾き飛ばしながら、言った。 「いや悪い悪い、余りにもお前には似合わないマスターだと思ってな。マスターの性格に牽引されて、サーヴァントが呼び出されるのではないのか?」  それに関してはパムよりもレイン・ポゥの方が疑問に思っている。如何して自分のこの性格で、このマスターを宛がわれるのか、理解不能だ。 「良い性格をしているな、お前。魔法少女になったらさぞや魔王塾に相応しい人物になるだろうさ」 「生憎、魔法少女になる夢はとうの昔に卒業しておりますので」 「何だ、其処の食わせ物から聞かされていないのか? 魔法少女は――」  其処まで言った瞬間、レイン・ポゥが動いた。 魔王が話に夢中になっている間。この怪物を屠るには、この瞬間をおいて他にない。 虹を伸ばす方向にも、気を配らねばならない。この魔王程戦闘に手慣れた魔法少女に限っては、余程油断していない限り死角からの攻撃は通じない。 況してやレイン・ポゥはアサシンのサーヴァント。目で見えぬ範囲の攻撃には、より神経質にあの魔王は気を配っている事だろう。 故にレイン・ポゥは、裏をかき――真正面から、虹の刃を高速で伸ばし、魔王の胴体を真っ二つにせんと放った!!  電柱ですら容易く切断する虹の縁が、魔王パムの、コートに包まれた胴体に当たる。 乙女の白肌と綿のような柔らかさの筋肉を切断――しない。虹の進行が、そこで停まった。 更に、パムの服装が、黒いドレスコートから、黒い『ライダースーツ状の服装』に、一瞬で変貌しており、その服に虹が触れているだけで、ここから虹はビクともしない。 タイトなライダースーツは、魔王パムのボディラインを扇情的に浮かび上がらせている。女性の持つ優美さと戦士の持つ強靭さが、最良の形で融合した美しい肉体だった。 豊かな乳房と、くびれた腰。人体の理想と言うよりは、彫像の理想形と言うべき身体つきだった。古代ギリシアなら、優美の理想形である女神(ヴィーナス)のモデルに、この魔王を選んだ事だろう。 「ハハハ、何だ、お前はそんなに解りやすい性格だったのか!!」  虹の刃を臍の辺りに押し付けられたまま、魔王パムが笑った。 「良いぞ、お前みたいに乱暴な奴は嫌いじゃない。それにその、怯えの中に隠された、ギラつくみたいな殺意はどうだ? 全く、お前は生前、相当上手く私に本性を隠していたんだな」 「うっせぇんだよこのババァ!! また生前みたいに全身挽肉にして不細工に殺してやるから黙ってろ!!」  嘗てない程の怒気を発散させて、レイン・ポゥが叫んだ。純恋子とコミュニケーションを取っている時ですら、此処まで彼女が怒った事はない。 簡単な話だ。この虹の魔法少女は、魔王パムと言う魔法少女が、心の底から嫌いなのだ。 如何にも外面の良さそうな外見をしていながら、その性情は暴君極まりない、身勝手で、暴力的なそれ。他者を抑圧し、自分の望む方に相手を導くその姿。 レイン・ポゥは、そんな魔王パムの姿を、レイン・ポゥではない三香織だった時代に存在した、自らの姉の姿を重ねていた。彼女もまた、家庭内の暴君だった。 だから、嫌いだった。憎んでも憎み切れない程、大嫌いだった。だから生前――自らの虹でパムの命を奪った後も、彼女を念入りに五体を切り刻んで殺してやったのだ。  最初にこの地でパムを見た時は、勝てないから逃げようと思った。 しかし事此処に至って、怒気が勝った。どの道あの怪物相手では、到底逃げ果せる事も出来ない。実力差にはそれ程開きがある。 ならば、此処で奮闘した方が、まだ勝ちの目がある。レイン・ポゥは、そう踏んでいた。  レイン・ポゥは頭上から、幅二m程の虹の道をギロチンの如く超高速で落下させた。直撃すればパムの頭は割れたスイカの如くになるだろう。 魔王パムの能力は、覚えている。背中から生えている黒く大きい四枚の翼を、『自由』に変化させる能力だ。 恐らく彼女は、纏わせていた黒いドレスコート――に変形させていた翼の一枚を、あのようなライダースーツに変えさせたに相違あるまい。 ならば、スーツで纏われた箇所以外の所を攻撃するしかなかった。そして、レイン・ポゥの推測は事実その通りで、翼を変形させたあのライダースーツは、ゼロ距離でのC4の爆発すらも、無衝撃でやり過ごせる程の防御能力を持っていた。  パムは、笑みを崩さず、右腕を頭上に掲げ、落下する虹の刃を受け止める。 指先までスーツは覆っている為、指の一本持って行く事すら、レイン・ポゥの宝具は叶わなかった。 「良い事を教えてやろうレイン・ポゥ。頭は人間の身体の中ではかなり的が小さい。狙われると最悪死に至る器官が集中している所でもあり、故に狙われやすい所だが、だからこそ、初めから其処を狙っていると解ると、対応しやすいのさ」  黙れ、と言う事も最早レイン・ポゥはしない。 ただ無言で、しかし、悪鬼の如き表情を浮かべ、美しい七色の刃をパムの頭へと殺到させる。 「魔剣(グラム)」  そうパムが言った瞬間、彼女の左手に、黒い剣身の剣が握られていた。 刃渡りは一m程、柄の方は、彼女に握られていて見えない。剣身を墨液に漬け込んだとしか思えない程の黒いそれを、パムは振った。 前方から迫る虹は、その剣に当たった瞬間、直撃した箇所から根本まで粉々に粉砕してしまう。 その一本を破壊したままの勢いで、ずっと右手で受け止めていた頭上の虹に黒剣を直撃させ、これも破壊。 そして、背後から迫りくる細い虹の刃も、先の二本と同じ運命を辿らせる。  レイン・ポゥは、パムが背後の虹を破壊したその瞬間には、地面を蹴っていた。 あの程度の虹ではパムを殺せない事など知っていた。本命は、レイン・ポゥが接近する事による攻撃だ。 悔しい話だが、直線軌道の虹を放つだけでは、例えその虹の本数が百万本だろうと百億本だろうと、結果は同じだと考えていた。 十m近い距離が、一瞬で二m程にまで縮まる。右掌から長さ三m程の虹の刃を伸ばし、それをパム目掛けて突き刺そうとした。 それを嘲笑うかのようにパムは、左方向にステップを刻む事で回避。虹の刃が空を切る。 伸びた虹の刃に、パムが右脚によるトゥーキックを放つ。戦車砲ですら防ぐ筈のそれは、パムの細い脚の一撃で、ペキンッ、と言う音を立てて圧し折れてしまう。 パムは魔法少女として最高水準の身体能力を誇るが、果たして虹を折ったのは、彼女の自前の筋力なのか、それともスーツのせいなのか。それは、レイン・ポゥには解らない。 「平伏す黒重(ブラックライダー)」  そう言った瞬間だった。 パムが握っていた魔剣(グラム)と呼ばれていた剣が霧のように消えてなくなったのは。 急いで次の攻撃に移ろうとしたレイン・ポゥであったが、次の瞬間、攻撃しようとした態勢のまま、俯せにぶっ倒れた。 それは、意識がなくなって倒れたと言うよりも、突如として背中に恐ろしく重い物を背負わされた時のような倒れ方に似ている。 事実彼女の手足は、まるで生きた昆虫の背中をそのままピンで刺した様に動いており、この事から、今も必死の抵抗をしているであろう事が窺える。 「良い名前だと思わないか? ブラックライダーとは黙示録に登場する四体の騎士の一騎の事でな、飢餓を以て地上の人類の1/4を殺す権利を与えられた天の遣いの事だ。勉強になるだろう」  何故自分の考えた技名を説明する時に、凄い誇らしげな表情をするのか、レイン・ポゥにも純恋子にも理解が出来ない。本当に、パムは何故か嬉しそうだった。 「アサシン!! 立ち上がりなさい、如何したのです!!」 「立とうにも立つ事が出来んのさ。今私は翼の一枚を『重力』に変えさせた。今レイン・ポゥには、魔法少女の身体能力を以ってしても、活動不可能な過重力が掛けられている」 「嬲り……殺しが趣味とは、恐れ入ったよ魔王様」  苦しげに呻きながら、レイン・ポゥが言葉を発する。一言一言発するのも辛い様子である事が、純恋子にも窺える。 「私を……、滅茶苦茶にして、殺すか? 昔私が……アンタにそうした……みたいに、さ!!」  そこで言葉を切り、レイン・ポゥはパムの真横から虹を飛来させる。直撃すれば彼女の頭を鼻梁の真ん中から切断するだろう。 しかし、一直線に伸びた虹は、パムに当たるまであと一m程と言う所で、ベキンッ、と嫌な音を立てて圧し折れてしまった。 「私の周りの重力の強さを、今お前に掛かかっているそれよりも強く設定させた。無駄な抵抗はやめておけ、虹が自重で折れるだけで、私には掠り傷も負わせられんぞ」 「んの、クソババァ……!! 焦らしてないでさっさと殺れよ!! どこまで捻じ曲がってんだよお前は!!」  全身の内臓が骨ごと潰れそうな程の重力の中で、レイン・ポゥは叫んだ。 肺の中の空気を全て使い果たして叫び終え、呼吸をするのも最早難しい。魔法少女程のスタミナの持ち主が、息切れを起こしていた。  その言葉を聞き届けた瞬間、パムは、レイン・ポゥに掛かっていた重力を解除させ、彼女が纏う虹色のコスチュームの襟部分を乱暴に掴み、 無理やり彼女を立ち上がらせた。何が何だか解らない、と言うような表情を浮かべるレイン・ポゥの頬を、パムは思いっきり平手打ちした!! アドバルーンが割れたような破裂音が響いたと同時に、レイン・ポゥは矢の様な勢いで吹っ飛んで行く。 転落防止の為のフェンスに激突。パムの張り手の威力は、クッション代わりになった金網部分が千切れている事からも、推して知るべし、と言う所であった。 「痛ぅ……!!」  奥歯が折れてないかと、口内に舌を這わせるレイン・ポゥ。一本も折れてないし、欠けてもない。口内が少し切れただけだ。 本気でぶった訳ではない事は、自身が生きている事からも明らかだ。パム程の膂力の魔法少女が本気で頬を張れば、下手な魔法少女なら顎の位置が上下逆転している。 「アサシン、大丈夫ですの!?」  大丈夫な方が不思議だよ、と思いながらも、レイン・ポゥは立ち上がろうとする。 「私の溜飲はこれで下がった。私を殺した仕打ちに対する仕返しは、今の一撃でチャラにしてやる」 「――は?」  殴った側の掌を、パンパンと叩きながらそう言ったパムを、レイン・ポゥは信じられないものを見る様な目で見つめていた。 「不思議そうな瞳だな。殺しでもしない限り、納得が行かないとでも思っていたか?」 「だって私は、アンタの敵で……アンタを殺した暗殺者だぞ」  元々、レイン・ポゥは、魔王パムが任務の一環で逮捕、状況次第では抹殺せねばならなかった標的だった。 そして何度も言うように、この虹の魔法少女は、魔王とすら言われた、魔法少女達にとっての雲上人であるパムを殺害した張本人。 自分を殺した者を見て、烈火の如き性情を持ったパムが、許す筈がない。レイン・ポゥでなくとも、皆、そう思うに相違ない。この常識を、パムはあっさりと覆した。 「魔法の国に纏わる、仕事上の因縁は、水に流してやる。そもそもこの世界には魔法の国も何もないのだぞ? 今更、生前未遂に終わった任務の事をウジウジ考えても、しょうがないだろう」  その辺りは、キッパリと分ける性格であるらしかった。だが、自分自身を殺した、と言う揺るぎない事実を、分けても良いのか。魔王パムよ。 「もう一つ、私を殺したと言う関係についてだが……。私とて煩悩の多い生き物だ、あの件については、思う所が何もないと言えば嘘になる。お前のせいで魔王塾は解散してしまっただけでなく、外交部門も危うく消滅寸前になったからな」  魔王パムの死が与えた影響と、その死が残した爪痕は絶大だった。 何せ、当代どころか歴代でも最強の誉れが高い魔法少女が、取るに足らない任務で殉職したのである。影響が小さい、訳がなかった。 魔王パムと言う最強のワイルドカードを失った魔法の国の外交部門は、その発言力を極限まで落とし、部署としてのパワーを著しく低下させた。 そして、その外交部門を後ろ盾にしていた、パムを塾長とする魔王塾は、それまでの傍若無人な行いのせいもあり、即座に解散に追い込まれた。 レイン・ポゥの放った七色の刃は、多くの魔法少女を路頭に迷わせ、また、多くの関係者を不幸にさせてしまった。ある意味で、魔王殺しの負の側面と言えた。 魔王塾生でもあり、唯一認めた高弟と言っても過言ではない、森の音楽家に纏わる忌まわしい事件でも、思う所があったのだ。自分の死が直接齎した影響に、何も思わぬ訳がなかった。 「思う所は確かにあったが、それでお前を恨み骨髄、と言うのも筋が違うだろう」  ふぅ、と其処で一呼吸パムは置いた。 「私はあの時、お前と、お前の連れの魔法少女に何と言った。魔法少女は常に臨戦態勢でいろ、油断するな……そんな事を懇切丁寧に指導したのだぞ? 全く笑えるだろう、居丈高にそう言っておきながら、その実誰よりも油断していたのは、私だった」  クク、と笑いを堪えきれぬ様子で、忍び笑いを浮かべるパム。 「お前は、この私を相手に見事に演じきった。突然魔法少女にされて訳も分からず混乱する、無力な女子中学生と言う役割を、この私を前にして臆する事なくだ。 私の理不尽な行いや言動に耐え続け、ついにお前は、私を殺せる機会を手繰り寄せ、それを最大限に利用し、私を葬った」  「――そうだ」 「お前は強い。そして、狡賢く、強かだ。だからこそ、私はお前を恨むのではなく、評価している。お前は自分が持ちうる全ての才能を活かして、私を殺った。 年齢、身長、魔法少女としての能力の微妙さ、演技力、そして、経験。これら全てを有効に使って、お前は私を殺した。私はお前を恨むどころか寧ろ、評価の上方修正すらしているぞ?」  更に言葉を続けるパム。 「私は見苦しく、不様な真似は嫌いだ。お前を恨み、否定すると言う事は、『戦場では油断してはならない』、『殺される奴が愚か』と言う、 この魔王パムが散々弟子達に偉そうに垂れた高説すらも否定する事になる。自分が負けた理由を捻じ曲げ、お前に全て責任転嫁する。 これは確かに簡単だが、これ程見苦しく見っともないものはあるまい? 私が常々口にしていた言葉が、薄っぺらい物になるのだから。 それならば、私はお前から与えられた敗北を受け入れる。そして、お前を認め、自身が如何に油断して、馬鹿だったかも自覚するさ。その方が、ずっと在り方としては高潔だろう?」 「……はっ、馬鹿じゃないのアンタ。まさか今の一撃で、生前での因縁を本気でチャラにするつもり?」 「心配するな、私はお前を認めこそすれど、もうお前に不覚を取る事もない。自惚れでも何でもないぞ、貴様の性格も能力も既に理解しているのだ、此処からどうやってお前は私の寝首を掻くと言うのだ?」  言葉に詰まるレイン・ポゥ。相手は、自分の能力から本性に至るまで、全て身を以て理解している魔法少女でありサーヴァントだ。 今更猫を何枚被った所で、騙す事など不可能であるし、例え令呪のバックアップがあったとしても、この怪物を葬るのは不可能に等しいだろう。 平素の実力で戦った場合、それこそ天と地程の開きがある戦力差だった。 「それで、貴女は自分の気が晴れたのならば、如何するのです?」  純恋子が至極当然の疑問を投げかけた。考えてみればこの二人は、そもそも何故パムが此処にいるのかが解らないのだ。 「このホテルを当面の拠点としようと思った矢先に、サーヴァントの気配があり、それを誘った所、お前達だった訳だ。まぁ何だ、今の私には当面の宿がない、お前達の部屋に泊めろ」 「ごめん、ちょっと意味が解らない」 「一日十万円払えば足りるか? 金だけは一応あるぞ」 「そうじゃねよ馬鹿魔王!! 泊める訳ないだろ!! て言うか、自分のマスターの所で寝泊まりしろや!!」  レイン・ポゥとしては、こんな危険極まりない人物と一緒の部屋で過ごすなど、断固として反対だった。 生前散々殴られた事は、英霊になった今でも覚えているし、何よりもこのパムと言うサーヴァント自体、かなり喧嘩っ早く、要らぬ火種を巻きかねない。 戦闘は最小限度に留める事が原則のアサシンにとって、要らぬ戦闘を繰り広げようとする存在と共に過ごすなど、死んでも御免なのだ。 しかも現状、そんな余計な事をマスターである純恋子自体がやる傾向が強い。それがもう一人増えるなど……考えるだに、おぞましい。 「生憎、私にはマスターがいなくてなぁ。頼れる者がいないのだ。其処で偶然にもお前を見つけたと言う訳だなレイン・ポゥ。これは頼らない訳には行かないだろう」  自身を殺した相手に宿を借りるなど、相当頭がおかしいとしか言いようがないが、そんな思考回路も、魔王パムであればこそなのだろう。 戦士や猛将の精神を持った存在から見たら、パムの姿は肝が据わっているだとか、度胸がある、所謂女傑に見えるのだろうが、一般人としての感性を持ったレイン・ポゥからしたら、本物の狂人にしか映らなかった。 「……マスターが、いない?」  純恋子がその部分に反応した。余りにも突飛なパムの発言で忘れがちだったが、確かに、この文脈は相当おかしい。 通常聖杯戦争において、マスターとサーヴァントは不可分の存在に等しい。いわばコインの裏表だ。サーヴァントにはマスターがいるのは、当たり前の事なのだ。 それが、いない、と来ている。まさかパムは早々にマスターを殺されてしまったのだろうか。言っては何だが、パム程のサーヴァントを引き当てておいて、 自分達より早く脱落する等、相当センスがないとしかレイン・ポゥには思えなかったが、如何も、パムの様子を見るにそう言う訳でもないらしい。 本当に、マスター自体が『初めから存在しない』らしいのだ。幾ら単独行動に優れたアーチャークラスと言っても、これは妙である。 「その事も私を泊めれば教えてやる。恐らくは、決して貴様らでは知り得ぬ情報だぞ。どうだ、レイン・ポゥのマスター。私はこれでもそれなりに義理堅いぞ、此処でナシを付けておけば、後々有利だぞ」 「……断った場合は?」  レイン・ポゥの問いに、ニッ、とした笑みを浮かべて、こう言った。 「仕方がない、立ち退こう。だが、うっかり口を滑らせて、他の主従にお前達の事を話してしまうかも知れないな」 「なっ、お前、卑怯だぞ!!」 「あら、我々の方から敵の所に向かう手間が省けて宜しいのでは」 「黙ってろ脳筋女、話がこじれる!!」  「貴女の為を思って言いましたのに……」と拗ねだす純恋子。何処がだ。 何れにしても、魔王パムはこのまま見過ごして良い相手ではない。この女性は、やると言ったら本当にやる人物だ。 このままだと、数時間後には<新宿>に跋扈する多くの主従が、既にレイン・ポゥの事を知っていた、と言う事態にもなりかねない。 頭の中の思考回路が火を噴きかねない程に、思考をフル回転させるレイン・ポゥ。 視界の端で、「ほら、如何した? もうすぐ帰ってしまうぞ?」、と急かすパムが殺したくなる位目障りだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  結論から先に述べるのならば、レイン・ポゥは、パムの要求を呑んだ。 正に、断腸の思いと言う体で、だ。「わかった」、この四文字を口に出すのに、身体の主要器官の過半を代償にした、とも言うべき消耗をしてしまった。 結局その旨を表明する決め手となったのは、自身がアサシンクラスであるから、と言うのが大きい。 三騎士や、指名手配されているクリストファー・ヴァルゼライドの件を見てもそうだが、一般的に戦闘能力に優れたサーヴァントと言うものは、 たとえ宝具の詳細やその正体が明らかになったとしても、地力が強いので、生半な強さでは逆に返り討ちにされる可能性が高いのだ。 レイン・ポゥの場合はそうは行かない。暗殺以外に勝ち筋が薄いアサシンクラス、その中に在ってレイン・ポゥは特に、自身の正体と本性が露見してはならないサーヴァントだ。 情報の秘匿性が特に重要になる彼女にとって、自身の正体とそのクラス、そして宝具が明らかにされ、それを他者に広められると言うのは最も避けたい事態。 マスターに純恋子を宛がわれた事により、只でさえ消しゴムで限界まで薄く消されているに等しい勝ち筋が、完璧に消されるのは絶対に御免だった。 だから、血を吐く様な思いでレイン・ポゥはパムの要求を呑み、一緒の部屋で過ごす事を許可した。 当然純恋子は否定的な意見を念話で主張したが、先の黒贄との一戦による失点でレイン・ポゥも反論。彼女の意見を折っておいた。  そうして、現在に至る。 何でもパムは、そもそもの出自からして、一般的なサーヴァントとは一線を画する存在であるらしいのだ。 曰く、<新宿>において『メフィスト病院』と呼ばれる病院で彼女は召喚されたと言うらしい。 その方法にしても特別で、ドリー・カドモンと呼ばれる特殊な触媒に、アカシック・レコードと呼ばれる場所から自身の情報を固着させ、それによってサーヴァントとして<新宿>に現界していると言うのだ。  ……俄かに信じ難い。だが、培ってきた人間観察力が、それは違う、パムは嘘を吐いていないと告げている。 パムの言っている事が思い違いでなければ、メフィスト病院は特に警戒しておかねばならない施設となる。 それはそうだ、もしも彼女の言う事が事実であれば、メフィスト病院はサーヴァントを多く従えられると言う事になるのだから。 尤も、それが解っているからと言って、如何する事も出来ない。何せ自分はアサシン、直接戦闘能力に秀でているクラスではない。 それにパム曰く、自身を作り上げたキャスターは、自分ですらも勝てるかどうか危ういと言う程の強敵であるらしく、 レイン・ポゥでは一万回戦っても埃一つ着けられるか否かの次元らしい。馬鹿にしている、とは思わなかった。パムは尊大だが、戦闘に纏わる事柄に対しては凄まじい慧眼を持つ。だから此処は、彼女の言う事を信じる事にした。よって、メフィスト病院は、以前どおり、当分は様子見である。  ――さて、それはそれとして、だ。   「ほう、そんなサーヴァントがいたのか!! 聖杯戦争、ますます面白いじゃないか!!」 「えぇ。アサシンがどんなに虹の刃で斬りかかっても、平然として戦いに赴くその姿。恐ろしくもある一方で、かなり雄々しかったですわ」 「面白い面白い、そんな存在がいるとなると、いても立ってもいられんぞ。純恋子とやら、他には誰と戦ったのだ?」 「申し訳ございませんわ、如何も我々には運が向かないと言いますか、その一人としか戦えていませんの」 「そうか、うむ。気にする事はない。まだまだ聖杯戦争は始まったばかりだろう。これから戦えば良い」 「えぇそうですわ、まだまだ序盤ですものね」  ……何故か、パムと純恋子が打ち解けていた。 そもそもの馴れ初めは、パムがレイン・ポゥに話しかけても、レイン・ポゥ自体が全く反応してくれないので、仕方なく純恋子に話しかけた、 と言う物であったが、これが予想以上に二人の馬が合う。どちらもかなりイケイケの気が強く、戦闘については積極的な性格なので、考えてみればそれは当然と言えた。 如何してあの女の呼び寄せたサーヴァントがパムではなく自分なのか。あの魔王の方が、余程性格の反りもあっているではないか。  兎も角、話が盛り上がる分には問題ない。 勝手にしていろ、と言う所であるのだが―― 「ですが問題は、私の所のアサシンをどのように、あのバーサーカーを倒せる位の強さにするのか、と言う事なのですが……」 「うむ、確かに。敵に背を向けて遁走するのは、魔王塾の生徒として相応しくないな」 「何か案はありますか?」 「私の羽で強化させると言う手段も無きにしも非ずだが、やはり自分の力で勝利を勝ち取って欲しい物だな」 「成程。それは確かに、一理ありますね」 「レイン・ポゥは慎重過ぎるからな。其処が長所でもあり、短所でもある。ふむ、私の羽を興奮物質に変換させ、意気を昂揚させる、と言うのはどうだ?」 「まぁ、そんな事が出来るのですか!?」 「出来るぞ。戦闘に対する意識を昂揚させ、近接戦闘の鬼にさせる。これなら、戦闘に対する覚悟も、決まる事だろう」 「でも裏返せば、長所も消滅する事になりますわね。そうなったらば――」 「運だ。奴は悪運が強い、二度までなら生き残れるだろう」 「えぇ、そうですわね」  ……話を聞くだに、恐ろしい内容と言う他なかった。 何故か勝手に魔王塾の生徒にされていたり、基本的人権など犬に喰わせたとでも言わんばかりの非人道的な作戦を練っていたり、その作戦についてのフォローもなかったりで。 兎に角、レイン・ポゥの意思など何処吹く風、と言う様子で侃々諤々の議論を二人は続けていた。 しかも二人の性格上、冗談ではなく、本気でやりかねないのが怖い。何せマスターがあの英純恋子、その相談役が、あの魔王パムなのだから。  ――頼むから死んで欲しい――  あの二人が即時的に死ぬ事故が巻き起こり、そして自分を必要としてくれるはぐれのマスターの到来を、レイン・ポゥは祈っていた。 ……そんな美味しい状況など起こる筈もないから、今こうして、ルームサービスのワインを口にしているのだが。 酒に酔って全てを忘れたい気分だが、人間と比して規格外の、魔法少女のアルコール分解能力と、そもそもサーヴァントとしての特性がそれを許さない。 ワインを五分で一本空けたが、酩酊の気配すら起きそうにない。魔法少女になると、酒による逃避も出来ない事を、レイン・ポゥは学んだ。 嫌な知識が、また一つ増えてしまった、レイン・ポゥなのであった。 ---- 【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット)/1日目 午後1:30分】 【英純恋子@悪魔のリドル】 [状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小) [令呪]残り二画 [契約者の鍵]有 [装備]サイボーグ化した四肢(現在右腕と右足が破壊状態) [道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている) [所持金]天然の黄金律 [思考・状況] 基本行動方針:私は女王(魔王でも可) 1.願いはないが聖杯を勝ち取る 2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ [備考] ・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました ・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました ・遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました ・メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました ・自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました ・現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません ・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました ・次はもっとうまくやろうと思っています 【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]霊体化、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、嵐のように荒れ狂い海の如く尽きる事のないストレス [装備]魔法少女の服装 [道具] [所持金]マスターに依存 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯獲得 1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠 2.こいつらの頭に隕石とか落ちないかな…… [備考] ・バーサーカー(黒贄)との交戦でダメージを負いましたが、魔法少女に備わる治癒能力で何れ回復するでしょう ・遠坂凛が実は魔術師である事を知りました ・アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです ・パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました 【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】 [状態]健康、実体化 [装備]パナマ帽と黒いドレスコート [道具] [所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った [思考・状況] 基本行動方針:戦闘をしたい 1.私を楽しませる存在はいるのか 2.聖杯も捨てがたい [備考] ・現在新宿駅周辺をウロウロしています ・英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました **時系列順 Back:[[黙示録都市<新宿>]] Next:[[It's your pain or my pain or somebody's pain(前編)]] **投下順 Back:[[ワイルドハント]] Next:[[仮面忍法帖]] |CENTER:←Back|CENTER:Character name|CENTER:Next→| |25:[[殺人最高永久不滅]]|CENTER:英純恋子|48:[[Cinderella Cage]]| |~|CENTER:アサシン(レイン・ポゥ)|~| |33:[[黙示録都市<新宿>]]|CENTER:黒のアーチャー|48:[[Cinderella Cage]]| ----

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