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流星 影を切り裂いて」(2021/03/31 (水) 18:12:08) の最新版変更点

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シャドームーンは新国立競技場で起きた出来事を、一部始終という訳では無いが目撃し把握していた。具体的にはクリストファー・ヴァルゼライドが乱入して来た辺りから。 元より新国立競技場は赴くつもりの場所ではあったが、事件発生を知ったシャドームーンは予定よりも早くに出立。 競技場では無く警察署に直行し、事件発生を知り一つ処に集まっていた警察上層部を洗脳。 〈新宿〉中の目が競技場に向いている隙を突いたこの行動は物の見事に図に当たり、シャドームーンは警察組織を掌握。そして最初に下した命令は、“競技場を遠巻きに包囲して誰も通すな”というものだった。 シャドームーンが警察組織に期待する役割は、情報収集と戦闘の際に敵の脱出を困難とする肉壁役である。 競技場が魔天すら揺るがす魔戦の場となる事を推察したシャドームーンは警官を万どころか億投入しても骸の山になるだけだと判断。 本来の役割以外の事に兵を投入して無駄死にさせるのは愚行を避け、警官を無駄死にさせず、尚且つ警察の行動を不信がられない指示を下したのだった。 そうしてシャドームーンは、競技場にほど近い場所からキングストーンの力で疑似的に気配遮断を付与させ、マイティアイで競技場内部で行われる魔戦を見届けたのだった。 そして見たのだ。シャドームーンがシャドームーンで有る限り、必ず己自身で斃さねばならぬ男を。 身を異形と化し、鋼の身体と変えられても人の心と魂を失わず、人の技と精神力とを以って絶望しか抱けない戦力差を覆し続けた男達と同じ存在を。 シャドームーンには理解できる。あの男は己が打ち倒さなければならない者と同じだと。 知った以上看過することなど有り得ぬ。シャドームーンはこの〈新宿〉に顕れて以降、初めてといえる決意を胸に、空間転移を行った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 南榎町にある廃マンション『クレセント・ハイツ』の屋上。〈新宿〉全域が煮えたぎる地獄の釜の様な喧騒に包まれている中、座り込んでスマホを見るガタイの良い少年─────佐藤十兵衛が居た。 「凄ェ!なんだコイツラ明らかに体積以上に喰ってやがる!!」 見ているものはこの世界で過去に行われたフードファイト。 丸いとしか形容出来無い怪女と、桃色の髪のゆったりとした服の上からでも分かる素晴らしいプロポーションの美女が、吸い込んでいるとしか思えない勢いで皿を空にしていた。 怪女のお付きの妙にひょろ長い腕と短足と色黒のせいでゴリラにしか見えない男と、美女のお付きの銀髪の少女が顔を引き攣らせているが、当人達は気付いた風もない。 新国立競技場の惨劇を知った十兵衛は、最初はアーサー・シロタとかいうオッさんが運営しているサイトが、会場の様子を写しているという書き込みを当てにして会場の様子が判るかと覗いてみればとんだ大外れ、 下半身が炭化し、矢が突き立った神谷奈緒の死体や、完全に炭になって誰だか判ら無い死体。砕けて潰れて泥の様になった人体などが映されているだけだった。 思わずスマフォに罵声を浴びせる十兵衛。 バージルがカメラを破壊した上にNPCが全て逃げてしまった為に追加の映像が無いのだが、そんな事は露知らず、「管理人が悪魔にでも喰われりゃ良い」などと毒吐く十兵衛だった。 そして諦めて、面白そうな動画を探していると、この映像に行き当たったのだった。 “カービィvsタッコング” そんな感想を十兵衛が抱いたのを見計らったかの様に待ち人がやって来る。 「十兵衛〜お待たせ〜」 凡そ緊張感を感じさせない美声の主は比那名居天子。少年─────佐藤十兵衛のサーヴァント。 新国立競技場で起きた惨劇を知った十兵衛は、競技場にサーヴァントが殺到することを予測。霊体化した天子を派遣して観戦させていたのだった。 「おお、どうだった?」 スマホをしまって訪ねる十兵衛。実際問題として十兵衛はそこまで期待してい無い。二丁目の戦闘を目撃した際も、あまり要領を得ない答えを返して来たからだ。 尤も、実際に戦うのは天子である為、観戦させておいても損は無いだろうと考えてはいる。 此奴が見た事を実戦で活かせるかどうかについては際限無く不安に思っているが。 「ん〜一応見て来たんだけど。前にも言ったけれど、遠くのものを見るのは自信無いのよ」 そもそもが見つかる事を避ける為にかなりの距離から見ていた事も有り、「そんなに精確に観れるとは思わない事ね」とは天子自身の言である。 そして語りだした内容は、十兵衛で無くとも戦慄するものだった。 凡そ原型を留めぬほど肉体を破壊されても平然と戦い、遂には肉体を消し去られても復活した黒礼服のバーサーカー。 マスタースパーク─────相変わらず何の事か判らなかったが─────よりも強力な閃光放つクリストファー・ヴァルぜライド。 四枚の翼を操り、凡そあらゆる攻撃を放った痴女みたいな格好の女。 気象を操り衣玖みたいな─────だからなんだよイクって何か響きがエロいけど─────雷落とす女。 紅白巫女みたいに─────だからわかんねーっての─────攻撃を透過する少年。 クリストファー・ヴァルゼライドに不意打ちを決めた虹を操る少女。 あの戦場に集った魔人達を縛った、不思議な歌を歌う少女。 そして、十兵衛が知りたかったサーヴァントの情報と、無視など到底出来ぬ重要な情報。 銃と剣と瞬間移動と良く判ら無い防御法を駆使して縦横無尽に戦い、異形の姿に変貌するライドウが従えるセイバー。 そのセイバーと互角に戦った瞬間移動と飛ぶ斬撃と虚空に出現する剣を飛ばす、これまた異形の姿に変貌するセイバーそっくりな何か因縁の有る剣士。 そして─────十兵衛の目下の同盟相手、塞が従えるサーヴァント、鈴仙・優曇華院・因幡の師。月の賢者八意永琳。 それらの強者達をどうやってか纏めて行動不能にしたオレンジ色の服着た少女。 最後に現れた、競技場を消し去った少年。 「あのオッサンのサーヴァントの師匠って……お前の処から来過ぎだろ!!?」 英霊とやらが何れだけ居るか知らないが、幾ら何でも多過ぎる。単に幻想郷とやらが多士済々なだけなのか? 「私が知る訳ないでしょう。それにしても面倒なのが出て来たわね」 十兵衛は天子の発言に聞き捨てならないものを聞いた。「面倒?」この自信満々な傲岸不遜を絵に描いたような女が「面倒」。 「其奴はそんなに強いのか?」 「さあ?手の内がさっぱり判らないからなんとも言えないけれど。幻想郷でも上位に入る顔触れを纏めて捻った綿月姉妹の師だから、相当強い筈よ」 「何だそりゃ?東方不敗か何かかよ?」 まあ髪型は似ているが。 「誰それ?とにかく、心しなさい十兵衛。あそこに居たのは全員油断していると足元を掬われる相手よ」 天子が見た処、一番弱いのは虹を使う少女だが、紅と蒼の二人の魔剣士の猛攻を凌ぎ切り、剰え蒼いコートの方の技を盗んで反撃し、 その後八意永琳を初めとする強者達に盛大に袋叩きにされても防ぎきったクリストファー・ヴァルゼライドに、完璧な不意打ちを決めるというのは尋常では無い。 紅魔館のメイドの様に時を止めた明けでは無い。おそらくは覚の妹の方の様な能力持つのだろうが、あれは厄介だと思う。 何しろ自分でも多分防げない不意打ち、十兵衛に矛先が向けばどうしようも無い。為す術無く己は退場させられるだろう。 ─────だが、それでも。 「安心しなさい十兵衛、勝つのは私よ。私が敗北するなんて事はありえ無いんだから」 傲慢とも言うべき確信を持って断言するその姿を見て、十兵衛は安心感を─────抱いたりはしなかった。 十兵衛の抱いた感想は、“世紀末救世主をチビヤロウ呼ばわりして、自信満々で挑んだ元プロボクサー”。或いは“某地上最強の生物に目をつけられたムエタイ”といったものだった。 どう転んでもあべしするかジャガられるかの未来しか見えない。 取り敢えず何か言ってやろうと思い、口上を考えていると、突如として轟音が響き、クレセント・ハイツが直下型地震にでも遭ったかのように激震した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 人の居ない方へ居ない方へと移動を続けたザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドは、人気の無い寂れた場所に来ていた。 群がって来る野次馬や、逆に避難する者たち、道路を封鎖する警官を避けて移動するうちに、南榎町の一角に辿り着いていた。 移動しながらヴァルゼライドの手傷を癒してはいるものの、余りにも損傷が酷く、癒えるのは相当の時間と魔力を費やさねばならない様だった。 ヴァルゼライドは全く意に介しておらず、意気軒昂だが、ザ・ヒーローとしては看過できる傷では無い。 それに、魔力の消費も無視出来無い。ザ・ヒーローが今後の事を考え、僅かに焦燥を抱いていると、不意にザ・ヒーローの背筋を悪寒が走り抜けた。 無言で大きく前方に飛ぶザ・ヒーロー。ヴァルゼライドも同じであったらしく、並んで飛びながら、宙で身を捻って180度向きを変え、最優先で修復した刀を左右の手で抜きガンマレイを纏わす。 同じくヒノカグツチを抜き、宙で方向を転換し構えるザ・ヒーロー。 そして二人の足が未だ地につかぬうちに、天空より飛来した銀色の影が、先程まで二人の居た地点に着弾。 アスファルトの路面が20m範囲に渡って砕けて大穴が空き、更にその周囲の路面が70m程陥没し、爆弾でも投下されたかの様な音と震動が生じた。 音速を超えて飛来する瓦礫を撃ち落としながら再度後方に飛びす去るザ・ヒーロー。 隣で同じ様に飛びす去るヴァルゼライドが、着弾地点目掛けガンマレイを放つ。 生じた土煙も未だ飛来する瓦礫も消し飛ばし、穿たれた穴に着弾したガンマレイが再度の爆発を起こし、上空数百mにまで噴煙と土砂を噴き上げ、周囲に瓦礫を降り注がせる。 ─────!? 何かを感じたのか、咄嗟に後ろを振り向くヴァルゼライド。その顔面に勢い良く拳が叩き込まれ、ヴァルゼライドをガンマレイにより更に広がった穴の中に叩き込む。 即座に反応したザ・ヒーローがヒノカグツチを薙ぎつけるが、真紅の剣身が斬撃を阻み、ザ・ヒーローの攻撃と同時に放たれていた前蹴りが、ザ・ヒーローを蹴り飛ばした。 瞬時に15mも飛ばされた処で、地にヒノカグツチを突き立てて急制動をかけ、5m程の溝を地に刻んでザ・ヒーローは停止した。 間髪入れず、穴の中から崩落する瓦礫を足台として踏み抜いたヴァルゼライドが躍り出て、ガンマレイを纏った双刀を勢い良く振り下ろすが、既に場所を移していた襲撃者を捉えられず、路面に鍔元まで刀身を埋め込むだけに終わった。 「何者だ」 ザ・ヒーローが問う。〈新宿〉で今まで対峙した相手に対し、ザ・ヒーローが声を掛けるのはこれが最初。相手の返答など最初から期待していない。仕切り直す為の時間稼ぎだった。 「クリストファー・ヴァルゼライド………。俺はお前を殺しに来た」 問いに対する答え。返した者は総身を銀の鎧で覆い、髑髏を思わせる蝗の様な頭部に、エメラルド色の瞳を鈍く輝かせた剣士。世紀王シャドームーンに他ならなかった。 「お前も糞蠅の様に、楽に勝ちを貪りに来たのか」 立て直したヴァルゼライドが、鋼が軋むような声で問う。先刻の蝿の王を思い出して怒りに再度火が着いたのか、刀身に纏ったガンマレイが輝きを増した。 「ならば最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントを狙っている」 シャドームーンの答え。これは真実その通りで、最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントこと八意永琳、彼女とといえども、 上空数百mの高さで、マスターである志希を抱えた状態でシャドームーンに攻撃されれば、確実に敗北していただろう。 シャドームーンが攻撃しなかったのは自分以外に覗き見ていた者の存在を認識していた為だ。 だが、この男だけは見逃せぬ。この〈新宿〉のちに顕現した者共は、世紀王シャドームーンといえども敗北して地に伏すかもしれぬ魔人達。 だが、それら総ては、聖杯への途上にある障害でしかない。 只この男一人を除いては。 クリストファー・ヴァルゼライド。シャドームーンが只一つの座に至る為に戦い、そして敗れたRXの様に、条理を捻じ曲げ不思議な事を起こしてのける男。 シャドームーンは思うのだ。この男を避ける様では、この男一人を斃せぬ様では、己は到底RXの前に立つ事など出来ぬと。この男の輝きを上回れぬ様ではRXもまた上回れぬと。 此処に世紀王シャドームーンは、クリストファー・ヴァルゼライドを『敵』と、聖杯への途上にある障害では無く、己が何としても打ち斃さねばならない『敵』 と認識した。 「お前を斃した際の褒賞の令呪など知らぬ。俺は俺の大願に掛けて、クリストファー・ヴァルゼライド、お前を殺す」 シャドームーンの言葉と共に放出される極大の殺意と戦意。この前には言葉など一切不要。世紀王が不退転の意思を以って、光の英雄を斃しに来たと、見るもの総てに悟らせる。 「貴様には貴様の願いが有り、その為に聖杯を欲しているのは理解した。貴様は大願成就の為に、俺を殺しに来たことも。」 ヴァルゼライドが一刀を青眼に構える。一刀?今彼は両手に一振りづつ刀を持つのでは無く、両手で刀を握りしめていた。 「その決意、受け止めよう。だが、お前の大願が俺の屍の先に有る様に、俺の願いもまた、お前の屍の先に有るのだ」 両者の間に満ちる戦意が、二人の間の空間を軋ませ。二人の身に纏う殺意が、二人の周囲の空間を陽炎の様に歪ませる。 「刃を交えずとも判る、お前は強い。対する俺は傷付き、疲弊している。だが、それでも─────」 ヴァルゼライドの握る刀身が更に光を増していく。シャドームーンの全身に纏う魔力が目に見える程に濃密さを増していく。 「─────勝つのは俺だ」 クリストファー・ヴァルゼライドが断言するのと 「そうでなければ殺しに来た意味が無い」 クリストファー・ヴァルゼライドの言葉を予感していたかの様に、シャドームーンが告げたのは同時。 そして─────二人が動いたのもまた同時。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヴァルゼライドが納刀していた一刀を猛速で抜刀する。新国立競技場でバージルの次元斬から習得した剣技で先手を取りに行ったのだ。 無論この一撃が本命という訳では無い。先程の攻防からシャドームーンが空間移動を使い、まともにガンマレイを撃つだけでは回避されることを本日のこれまでに至る戦闘経験から推測。 先ずはシャドームーンの動きを止め、その後に必殺の威力を持つガンマレイを叩き込むつもりだった。 空間に無数の光条が刻まれる、本命に繋げる為の攻撃とはいえ光の一筋一筋に宿る威力と込められた意志は紛れも無く必殺。この攻撃で決着を見てもおかしくは無い。 だが、その時既にシャドームーンは動いている。無論、ヴァルゼライドの方に向かってだ。右手の長剣を真っ直ぐ突き出し、キングストーンの膨大な魔力を足に籠めて爆発が生じたかの勢いで路面を蹴り、、 一直線にヴァルゼライド目掛けて突撃する様をダンテやバージルが見れば驚いただろう。威力は落ちるが、その動きはまさしくロキが創った異界の中で、紅い魔剣士が使用した『スティンガー』に他ならない。 虚空に虚しく刻まれた光条を背に、50mの距離をコンマ一秒と懸からずシャドームーンはヴァルゼライドに突っ込む。 此れにヴァルゼライドは即座に反応、鮮烈に輝く刀身を振るい、真紅の長剣ごとシャドームーンを撃砕せんとする。 此処でシャドームーンは再度大地を蹴って加速。振り下ろされる刃よりも速くヴァルゼライドを刺し貫き、長剣に籠めた暴力的な魔力を流し込んでその肉体を四散せしめんとする。 シャドームーンの速度と動きを完全に見切って迎撃を行い出した刹那の加速。振るい出した刀に更に速度を込めるにはもはや遅い。 だが、それにも対応する事を可能とするのが、クリストファー・ヴァルゼライドの積み上げてきた研鑽と蓄積してきた経験。 更には聖杯戦争という、魔戦の場で研磨された感覚の為せる技だった。 シャドームーンを斬り伏せる為に踏み出していた足を引き戻し、本来踏み降ろす位置より手前に降ろす。 此れによりヴァルゼライドの歩幅は狭まり、斬撃の描く弧が変わり、丁度加速したシャドームーンの脳天を直撃する線を描いた。 シャドームーンの突きも己に刺さるだろうが問題無い。己は只刺されるだけ、相手は頭を撃砕されて絶命する。 こちらは生き、向こうは死ぬ。 この迎撃をシャドームーンは予測していたわけでは無い。だが、新国立競技場での一戦を見ていれば判る。この程度の攻撃に即応出来ぬ程、この英雄の技量は低くは無いと。 事実、ヴァルゼライドは即応し、シャドームーンに致命傷を与える斬撃を放ってきた。 此方の突きもヴァルゼライドを捉えるが、致命傷には至らない。 シャドームーンは敗死し、ヴァルゼライドは勝って生き延びる。 だが、ヴァルゼライドの刀は再び虚空を断った。 種は至極簡単で、迎撃されることを確信していたシャドームーンが空間転移を行った為だ。 しかも悪辣此の上ないことに、長剣を手から放した上で空間転移を行っている為、慣性に従い長剣は真っ直ぐヴァルゼライドの胸目掛けて飛来している。 握る者が居ないとはいえ、鋼すら貫く勢いの剣身に、何とか刀身を叩きつけ、防ぐことに成功するヴァルゼライド。 同時に周囲を白く染め、轟音が半径50mに渡って、建物の窓ガラスを粉砕し、地と空を伝った爆発の衝撃が数百範囲の建物を震撼させた。 シャドームーンが予め剣身に纏わせていた魔力が、ヴァルゼライドの持つ刀身に纏うガンマレイと反応し、爆発を起こしたのだとヴァルゼライドに思考する暇があったかどうか。 地面と水平に後方に飛んでいくヴァルゼライドの上方にシャドームーンが出現。ヴァルゼライドの援護に動こうとしたザ・ヒーローをシャドービームで牽制。ヴァルゼライドには今だ手に持つ短剣を投擲する。 ザ・ヒーローがシャドービームをヒノカグツチで切り払うのと同時、ヴァルゼライドもまたガンマレイを纏った刀で短剣を払い除ける─────のとシャドームーンにガンマレイを放つ事を同時にやってのけた。 この攻防一体のヴァルゼライドの動きにシャドームーンはまたしても瞬間移動で対応。立て直して地に二条の溝を20m程刻んで止まったヴァルゼライドに、上空から念動力を叩き込む。 一度目、路面の広範囲に渡って太い亀裂が入った。 二度目、路面が大きく陥没した。 三度目、路面が砕け、下を走る下水道にヴァルゼライドが落下した。 シャドームーンの周囲の空間が揺らめく。無数の真紅の剣がシャドームーンを囲む様に出現。ヴァルゼライドが消えた穴目掛け殺到する。 剣の群れが穴に突入するかどうかといった処で、黄金光が真っ直ぐ天目掛けて上昇。剣の群れの悉くを蒸発させた。 黄金光が収まるより早く、ヴァルゼライドが穴の中から飛び出し、路面に降り立つ。 その前方5mの処に、再度両手に長短の剣を持ったシャドームーンも着地。二人は静かに、それでいて必殺の意思を籠めて睨み合う。 此れだけの濃密な攻防を僅か5秒にも満たぬ間に行った両者は、未だに些かの揺らぎも見せていなかった。 「ムンッ!」 「オオオオオオッッ!!」 再度同時に踏み込む。路面が砕ける程の勢いで踏み込み、互いに手にした武器を振るう。 激突した刃が音の域を超えた衝撃波を放って、周囲を揺るがす。 両者は互いに有利な位置を求めて動き、再度繰り出される刃と刃が激突し、生じる火花と衝撃波。 秒の間に撃ち交わす50余合、無数の火花が二人を彩り、衝撃波が周囲の建物と路面を破砕する。 凡そ地力で大幅に劣る─────それこそシャドームーンが本戦開始直後に撃破したバーサーカーとさして変わらぬクリストファー・ヴァルゼライドが、 力も技もヴァルゼライドの上をいくシャドームーンと此処まで拮抗できるのは何故か? 気合と根性で力を振り絞る─────処か増幅させているのもあるが、本戦開始以降最も多く戦闘を経験して来た、というのが大きい。 人という種の持つ最大の強み。人類をして万物の霊長足らしめるもの、全ての生物を比べた時、『脆弱』という言葉で語れる人類を地上の覇者足らしめたもの。 経験の蓄積と、技術の研鑽、そして体験した事象に対する思考である。 ヴァルゼライドは今まで戦い経験した者達の技を、何度も脳内で反芻しては思考し、模擬戦闘を繰り返しては勝利する術を得ようと努力し続けていた。 シミュレーションに有りがちな己に有利な夢想など一切排した模擬戦闘は、結果としてヴァルゼライドの技量を極短時間で向上させ、〈新宿〉に顕れた魔人達の技の模倣すら可能とさせたのだ。 ダンテの、バージルの、タカジョーの、ライドウの、果ては人修羅に至るまでの人の域を越えた技を、 己が今までに積み上げた技術と蓄積した経験とを以って、己の技とアレンジして使いこなすヴァルゼライドの技量は、最早今朝公園でタカジョー及びパスカルと戦った時の比では無い。 地力で遥か上をいき、極限域を越えた武技を持つシャドームーンと互角に斬り結ぶ程に。 二人の剣撃は全くの互角。このまま一日中刃を交えてもケリが着くとは萌えない。 この均衡を崩すべく此処でザ・ヒーローが参戦する。 己に殆ど意識を向けないシャドームーンが、宣言通りヴァルゼライドを殺すことに執着している事を理解したザ・ヒーローは、積極的というよりも大胆に仕掛けていった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 二振りの真紅の剣が同時に振るわれる。長剣はヴァルゼライドの首を薙ぎ、短剣はザ・ヒーローの燃え盛る剣を短剣で防ぐ シャドームーンとしては実に腹立たしい事態だった。 通常マスターはサーヴァントに対して、有効な攻撃手段はおろか、対峙して5秒と生きる術を持たぬ。 つまりはサーヴァントとサーヴァント、マスターとマスターが鉾を交えるのがセオリーなのだが、ザ・ヒーローはサーヴァントと互する力量と、サーヴァントを害せる武器を持つ。 通常のマスターならば捨て置いてヴァルゼライドに専念できるのだが、このマスターは放置すれば致命傷を負わされかね無い。 しかもザ・ヒーローは、シャドームーンの心情を理解して、防御を全く考えないで攻めてくる。 互いに全力を傾注した一対一で互角なら、二人に気を払わねばならないこの状況は、シャドームーンにとって絶対的な不利を齎していた。 だが、それでもシャドームーンは退かぬ。RXを撃ち斃す困難に比べればこの程度は気にもならない。 長剣で、受けたヴァルゼライドが後退する程の渾身の斬撃を見舞い、次いでザ・ヒーローの上段からの斬撃を短剣で跳ね上げて体を崩し、右膝膝に前蹴りを入れて蹴り砕き、ザ・ヒーローの動きを止めようとする。 対するザ・ヒーローは右足を上げて防御。シャドームーンが片足立ちという不安定な状態になった隙を逃さず、立て直したヴァルゼライドが左右の刀を振るう。 右は袈裟懸けに、左は右脚を狙った斬撃。方や必殺、方や行動に重大な損傷を与えて動きを止め、必殺の機を齎す攻撃。 どちらを受けても敗北必死な攻撃をシャドームーンは前方に跳躍し、ザ・ヒーローを飛び越えることで凌ぐ。 ザ・ヒーローが振り向くより早く着地を決めると、振り向き終わったザ・ヒーローを捕まえ、腹に膝を連続して撃ち込む。 三発目を入れた処でヴァルゼライドが横に周り、シャドームーンの背中目掛けて刃を薙ぎつけて来るのを、ヴァルゼライドにザ・ヒーローをぶつけて防ぎ、 ザ・ヒーローを上空に放り投げると、ヴァルゼライド目掛けてシャドービームを放射、ヴァルゼライドが切り払った隙を狙い念動力でヴァルゼライドを背後の廃マンションに叩き込む。 コンクリートの壁が砕けて崩れ、瓦礫に埋まったヴァルゼライドに追撃のシャドービーム。廃マンションが大きく揺らぐ勢いで、瓦礫ごと爆発炎上させた。 次いで跳躍し、上空のザ・ヒーローに拳を振るう。ヒノカグツチで受けたザ・ヒーローを、同じく廃マンション目掛けて殴り飛ばすのと、シャドームーンが先刻立っていた場所をガンマレイが通過するのが同時。 カシャンという、金属音の響き、地に降り立ったシャドームーンは油断無く再々度長短の剣を構え、ザ・ヒーローとヴァルゼライドも身を起こす。 そのまま三者は静止。飢えた獣ですら飢えを忘れて逃げだしそうな、凄惨無比な殺気が周囲に満ちた。 均衡を破ったのはヴァルゼライド。バージルから習得した技で空間に十数条の亀裂を刻む。 同じ様に前へと己の身体を撃ち出すシャドームーン。此れをザ・ヒーローがヒノカグツチを横薙ぎに振るって迎撃、 読んでいたシャドームーンは、短剣で受け止めると、突撃の推力と己が膂力とを併せてザ・ヒーローを弾き飛ばす。 ザ・ヒーローに迎撃されて、勢いを減じる処か更に増したシャドームーンにヴァルゼライドが一刀を振り上げる。 最初の攻防の焼き直しに見えるこの一幕。無論シャドームーン程の戦士がそんな事をする訳が無い。 ヴァルゼライドがシャドームーンの瞬間移動に備えて、左の刀を納刀し、脚に移動する為の力を蓄えているのは先刻承知。 ヴァルゼライドが裂帛の気勢と共に一刀を振り下ろす。その切っ先の前にシャドームーンの姿は在った。 何の事は無い、急制動を掛けて制止。ヴァルゼライドに空振りさせてから、隙を晒したヴァルゼライドに引導を渡すつもりなのだ。 この瞬間、ヴァルゼライドは─────シャドームーンの上をいった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ クリストファー・ヴァルゼライドがシャドームーンの上を行った攻撃は、クリストファー・ヴァルゼライドにしか為し得ぬものだった。 要はするに、競技場でバージルの幻影剣を防いだ時と同じ事をやっただけ、虚空に黄金光の膜を形成したのだ。 持続時間が秒にも満たぬとはいえ、空振りしたヴァルゼライドの隙を補い、ヴァルゼライドの首を落とすべく踏み込んだシャドームーンに痛打を与えるには充分だった。 苦悶の声をあげて後方によろめくシャドームーンに、ヴァルゼライドは真っ向から斬りかかる。 アスファルトの路面が砕け、足首までもが埋まる程の踏み込みから、脳天から股間まで唐竹割にする斬撃。 此れをシャドームーンは膨大な魔力を纏わせた左腕のシルバーガードで防御。凄まじい火花が散り、シャドームーンの左腕の処か、全身の関節を震撼せしむる衝撃が伝わった。 シャドームーンとヴァルゼライドが、バチバチと火花を散らせながら拮抗すること3秒。シャドームーンは全方位に念動力を放ち、 ヴァルゼライドと後ろから斬りつけようとしていたザ・ヒーローを退けた。 ザ・ヒーローが立て直し、ヒノカグツチを構え直す。 シャドームーンがマイティアイを爛と輝かせ、キングストーンの絶大な力を開放しようとする。 ヴァルゼライドが刀身に纏わせたガンマレイをより一層輝かせる。 その時─────天地が翳った ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 三人が死闘を繰り広げる路上の側に有る廃マンション、クレセント・ハイツの上空から、要石に乗った佐藤十兵衛と、その横に浮遊する比那名居天子は、眼下で繰り広げられる魔戦を見守っていた。 但し、十兵衛には何が起きているのか全く理解できていないが。 「どうするの?あれ」 「どうって言われてもなあ……」 十兵衛の基本戦略は情報収集と数の暴力による圧殺。此処で天子を投入するのは十兵衛の本意では無い。 だが、此処でヴァルゼライドを葬れば十兵衛が令呪を独占できる。 優勝を狙うのならば避けては通れぬライドウや、油断も信頼もならない塞といった面子に隠れて切り札を増やせる、というのは魅力的だった。 腕組みして考える十兵衛。 大体、今の処は目の前の相手に集中しているのと、距離を置いている所為で気付かれてはいないが、気付かれたら最後、ヴァルゼライドの放射能熱線で消し飛ばされるのは必至。 少なくとも、自分が安全地帯に移動するまでは何もしないのが賢いのだが、此処で問題になるのが“もし自分が離れて、天子を嗾けた場合。果たして此方の指示を聞くのか”というものだった。 一撃加えて退け。と命じても、無視して戦闘続行しそうな気質をこの少女は有している。 「それにしても、あのバーサーカー。放射能熱線出しまくるわ、あんな傷でも元気に戦うわ。G細胞でも植え込んでるのか?」 無論バイオじゃ無い方の。 「G細胞?」 訪ねてくる天子をスルーして眼下を見る。高い地力と多彩な能力とを持つ銀蝗のセイバーが、ヴァルゼライドを相手に手傷を負わされていた。 此処に十兵衛の肚は決まった。 「セイバー。俺を安全な場所まで運んでから、強烈なのを一発カマシてくれ。狙いはバーサーカーのマスター」 双方が傷付いたのなら得るべきは漁夫の利。強敵を労せず排し、令呪をコッソリ頂こう。 「私達は蛤と鷸を捕らえる漁夫という訳ね。任せなさい、天網恢恢疎にして漏らさず。一網打尽という言葉の意味を教えてあげる」 手に握るは天人にしか扱えぬ緋想の剣。〈新宿〉に顕現した英霊が持つ宝具の中でも上位に入る性質の剣を開帳すると、巨大な要石を造り出し、その上に乗った。 要石 ─────* 天 地 開 闢 プ レ ス 直径10m、重量にして100tを超える要石が、地上で対峙する三人に落ち行く様は、まさに争いを止めぬ愚者共に対し、天が下した罰か。 古典文学に詳しい者なら、ジョナサン・スウィフトの小説に登場する、空に浮かぶ国を思い浮かべたかもしれない。 地上の三人が上を見上げたのが同時。 燃え盛る剣を持った男が要石の下から走って逃げようとし。 輝く剣を持った男が両手の光刃を振り上げ。 銀蝗の剣士の姿が描き消える。 そして─────落下した要石が路面を貫き、下水道すら粉砕し、完全に路面に埋まってから、緋想の剣を持った天子がドヤ顔で誰も居なくなった路上へと降り立った。 周囲に有った建造物が、要石の落下の際の激震と路上の陥没に伴い、大きく傾いでいるが気にした風も無い。 その時、天子の遥か上空から銀色の影が極音速すら超えて落下してくる。その様は、人が近い未来に於いて実現するであろう神威の兵器。“神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)”さながらのものだった。 回避も要石を用いた防御も間に合わぬ程に迫った処で、漸く気付いた天子が緋想の剣で銀影を受け止める。 隕石の落下にも匹敵する轟音は、衝撃波と化して周囲の建物を撃ち震わせ、耐えられなかった建物を倒壊させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ カシャン。という音と共に大地を踏みしめるシャドームーン。先刻までの戦意は消え失せ、凄まじい怒気を宿して、天子が立っていた場所に穿たれた大穴を睨め付けた。 「絶えて滅びよ、道化」 忌々しげに呟くと、念動力で天子を穴の底から引き摺り出した。 右の拳を真直ぐに引く、エルボートリガーを作動させることなどしない。 RXとの再戦の為の儀式、己がRX前に立つ為に避けては通れぬ相手との一戦に、巫山戯た乱入をしてきた女に、シャドームーンは激怒していた。 この怒りは乱入者を、死ぬまで殴って殺しでもしなければ晴れはしない。 穿たれた穴の底から天子がゆっくりと引き上げられてくる。 見る者が居れば、シャドームーンの風貌も合間って、宙に釣り上げられた天子は魔神に捧げられた美しい贄を思わせたに違いない。 その眼に烈しい戦意を湛え、身体の周囲に要石を旋回させていなければ。 「今のは…大分痛かったんだから!!」 ─────要石 カナメファンネル 天子の怒りの声と共に、天子に周囲を旋回していた要石がシャドームーン目掛けて猛進。シャドーセイバーを振るっての迎撃を嘲笑うが如く展開し、シャドームーンを包囲すると、凄まじい勢いで光弾を射出し始めた。 「ヌゥオオオオオオオ!!!」 全方位からの弾幕を浴び、全身に火花を散らせて怒声を上げるシャドームーン。然し、直線上に位置する天子とシャドームーンで射線が重なる為に、真後ろにだけ要石が配置されていない事を即座に看破、スティンガーを模した動きで一気に天子との距離を詰める。 前方に突き進むことで弾幕から逃れ、天子との距離を詰める。この二つの行為を一つの動作で行う動き。 今だシャドームーンの念動力に捉われた天子にこの攻撃を防ぐことも躱すことも叶いはしない。 「ゴフッ!?」 胸に撃ち込まれる拳の一撃、エルボートリガーもシャドーセイバーを用いなかったのは、やはり怒りの所為だった。 更に振るわれる拳の連打。肝臓、胃、鳩尾、心臓、喉、と急所に連続で撃ち込んで天子に苦鳴を吐かせ続け、最後に大きく右拳を弓引いた。 弓引いた右の拳に赤熱の魔力を纏わす、放つは必殺のシャドーパンチ。頑強な肉体を持つ天人といえども、この一撃を受ければ頭が砕けて死に至る。 拳が放たれようとした時、攻撃に間が生じた機を逃さず、天子がカナメファンネルを再度操り、シャドームーンの背中に連続して要石を直接叩き込む。 シャドームーンの背中に連続して火花が散り、よろめいたシャドームーンに今度は正面からありったけの魔力弾とレーザーを射出。 シャドームーンの姿が火花の向こうに消える程の弾幕を生成し、シャドームーンを後退させる。 此処で念動力による拘束が緩んだ事を認識した天子は、全力で拘束を振り切り大きく空中へ飛翔。30m程の処に浮遊すると、再度カナメファンネルを展開し、 自身の放つ魔力弾、レーザー、要石及び、カナメファンネルの魔力弾で濃密な弾幕を形成した。 幻想郷の弾幕ごっこだと反則必至の隙間の無い魔力弾とレーザーの嵐。 回避など出来よう筈も無く、防いだ処で雨霰と降り注ぐ攻撃に削り潰される。手数と威力に物を言わせた弾雨を、念動力の壁で防ぐシャドームーンの周囲が、陽炎のように揺らめいて無数の剣が形作られていく、その全ての切っ先は、シャドームーンの殺意を示すが如く天子の方に向いている。 念動力の壁が凄まじい勢いで削られている事を全く意に介さないシャドームーン、 シャドームーンの緑色の複眼が禍々しい光を放つと、一つ一つが膨大な魔力で形成された、無数の刃が天子めがけて殺到する。 天子の弾幕が雨ならば、此方はさしずめ剣の嵐。雨を蹴散らし呑み込んで、雨の元たる不良天人を斬り刻み、肉体を塵と散らして弾雨を止めんと宙を舞う。 並のサーヴァントならば、死命を制されていただろうが、そこは弾幕の撃ち合いには慣れっこの幻想郷の住民である比那名居天子、飛来する剣を回避し、カナメファンネルをぶつけて防ぎ、緋想の剣で薙ぎ払う。 顔面目掛けて飛んできた最後の一本を回避したのを最後に、撃ち止めになった事を認識し、防御の為に使い潰したカナメファンネルを再形成したその時、 背中側に在ったカナメファンネルが突如として砕け、反射的に身を捻った刹那、首筋を掠めて、さっき躱したばかりの剣が通過、処女雪の様な白い肌から紅い血の珠が飛散した。 シャドームーンは最後に放った剣に念動力を纏わせ、天使に回避された剣の向きを変えて、背後から襲わせたのだった。 天子がこの攻撃を凌いだのは、幻想郷での弾幕ごっこでは、躱した後背後から飛んでくるという攻撃はさほど珍しく無いからだが、 それにも関わらず刹那の差で致命傷を負わせる攻撃を行ったシャドームーンの技の冴えよ。 差し伸べられた右手に自然に収まった長剣、シャドーセイバーを構えて空中の天子を睨みあげるシャドームーン。 緋想の剣を手に、身体の周囲に要石を旋回させ、地上のシャドームーンを睨みつける天子。 天子が再び弾幕を放とうとし。 シャドームーンの周囲に陽炎が生じたその時。 要石の埋まった場所から、彼らのいる方向へと向かって、直線距離にして数百mの距離に渡って地面が爆砕、その先の1km近くが煮えたぎる灼熱の溶岩と化した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 要石を壁にして、噴き上がる土煙と瓦礫を避けながら天子は見た。地面に埋まった要石の頂点部分が閃光を放つのを。 光の柱が天地を繋ぎ、要石が内部からの光圧に耐えかねたかの様に千々に砕けて四散する。 その様は地中深くに封じられていた破壊神が、封を破って地上に躍り出ようとする瞬間に天子には見えた。 果たして閃光に灼けて眩む天子の視界の中を舞ったのは、黄金の英雄クリストファー・ヴァルゼライド。遍く邪悪を憎んで許さず撃滅する英雄だった。 「嘘でしょ………」 最早天子はヴァルゼライドが人類種とは信じられなくなってきた。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。 無論、ヴァルゼライドが健在なのには種が有る。ヴァルゼライドとてあんな巨岩に潰されれば死ぬ。 岩が直撃する寸前に振り上げた双刀に纏わせた黄金光の熱で、要石の自身と接触する部分を蒸発させ、砕けた路面と共に地下へと落下。 その場でガンマレイを放ち、地下からの一撃で乱入者諸共シャドームーンを消し飛ばそうと目論んだのだ。 その目論見は一応の成果を見せ、シャドームーンをこの場より消し去った。 だが、その代償は果たして成果に応じたものか?もとより満身創痍の上に、シャドームーンの猛攻に晒されたヴァルゼライドの身体は、最早死に体というものを通り越し、生きて─────現界を保てる事自体が理不尽な程の傷を負っていたのだ。 そこへ更に岩盤が蒸発したことによる、溶岩など比較にならない高熱のガスに身を浸していたのだ。ヴァルゼライドは人の英霊だ、吸血鬼でも蓬莱人でも無い、 にも関わらず五体が─────酷く傷付いているとはいえ存在し、動けること自体が異常此の上無いのだ。 ヴァルゼライドを見る天子の眼は、真性の怪物を見るそれだった。妖怪や神が其処いらで酒盛りしている幻想郷でも、天子が此の様な目で他者を見たことなどはない。 「あの銀のセイバーは消えたか、残るはお前だ。俺の願いの為、永遠の人理の繁栄の為に此処でその命を終えてもらう」 黄金光を纏わせた双刀を構えるヴァルゼライド。確かにダメージは受けている。傷の痛みと体機能の損傷はヴァルゼライドを苛んでいる。 それでもこの英雄は止まらない。有限の魔力体力では無く、無尽蔵の気合と根性で、壊れた/壊れつつある身体を支え、天子を斬ろうと動き出す。 「貴方はさっき“全ての悪の敵となり、全ての『善』と全ての『中庸』から『悪』を遠ざけ、彼方にて悪を断罪し続ける裁断者となる”そう言ったわね。 過ぎたるは猶及ばざるが如し、薬も過ぎれば毒となる。この世が病人だとするならば、貴方は過ぎた薬で、そして悪だわ。病魔を絶やしても病人を死なせる薬なんて意味が無い」 対する天子も緋想の剣を構え、身体の周囲にカナメファンネルを旋回させる。 新国立競技場でのヴァルゼライドの雷声は、 遮蔽物が無いというのもあるだろうが、かなり離れて見ていた天子の耳にも届く大音声だった。 そのヴァルゼライドの宣言に嘘偽りが無い本心からの言葉であることは天子にも理解できる。 そしてその在り方が有害極まりないことも、戦い方を見ていれば理解できる。 「だろうな。確かに俺はこの世界にとっては毒だろう。だが、毒であるからこそ病魔を駆逐する事が出来る。毒である俺が此の身を処するのは、全ての病魔を駆逐した後の事だ」 天子の言葉に返し終えた時には、既に双刀は黄金光に激しく鮮烈に輝いている。 ヴァルぜライドは天子の言葉が正しいと理解している。だがそれでも英雄は止まらない。只真っ直ぐに征き、そして理想成就という勝利を得て死ぬのみだ。 その決意と想いを刃に乗せ、クリストファー・ヴァルゼライドは比那名居天子を屠るべく動き出した。 方や地を操り天に住まう少女。 方や地に生き天罰の具現とも言うべき黄金光を放つ英雄。 生きる場所も、使うものも対照たる二人は、今天地に分かれて争覇する ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 天に浮かんで、地に聳え立つヴァルゼライドと対峙した天子は迷うこと無く地に降りようとした。 亜光速のガンマレイはその速度故に発動モーションを見て、放たれるより前に回避するしか無いが、飛翔速度が其れ程速くはない天子では、回避しきれ無い可能性が高いのだ。 防ぐことなど無論出来ず、回避も宙にあっては難しいとあれば、地に降りるのは理の当然。飛翔したままで、ヴァルゼライドの剣技を封じるという利点より、不利の方が大き過ぎる。 天子の動きにヴァルゼライドは、右手に握った星辰光の発動媒体であるアダマンタイト製の刀を振るう。 ヴァルゼライドの動きに、ガンマレイの発動を予感した天子は即座にカナメファンネルから光弾を射出しつつ、要石を蹴り抜き横っ飛びに移動。死光の射線上から身を避ける。 だが、そんな事はお見通しだとばかりのヴァルゼライドの一手。右は陽動、本命の左が、バージルの次元斬を模したガンマレイを発動する。 偽攻に釣られた天子に回避する術は無く、如何に頑強な天人の肉体といえども、極熱の放射能光を直接身に刻まれれば絶命するより他にない。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」 天子が助かったのは、放ったカナメファンネルの一弾が偶然ヴァルぜライドの左腕を直撃。技の威力を鈍らせ、狙いを狂わせた為だった。 それでも右足を掠めた死光に、まともに声も出せずに苦悶し、地へと落ちていく。 天から落ちた天人は、只人にすら組み伏せられるのは各地に残る伝説が語る通りだ。 ましてや天子を地に引き摺り下ろしたのは、人類種に於ける最大の異常者(えいゆう)クリストファー・ヴァルゼライド、比那名居天子の命運は此処に窮まる─────事は無かった。 ─────気符 無念無想の境地。 如何なる攻撃を受けても怯まず退かぬ天子の闘法。一説によれば“只気合と根性で耐えているだけ”とされるだけの代物であるが─────鬼の猛打にすら引かずに制圧前進出来る頑強さをこの少女の華奢な身体は有している。 つまりは、比那名居天子は、死光の直撃を受けたのならば兎も角、光条が足を掠めた程度では倒れ伏すことも止まることもないのだ。 天に留まった天人は、その人という種とは比べられぬ程の頑強さを以って黄金の死光に耐え、大地を両の足で踏みしめて、殺到してくるヴァルぜライドを迎え撃つ。 「人間五十年。下天の内を比べれば、夢幻の如くなり。私(天人)から見れば一瞬にも満たない生で、幾ら功を積み上げても、天には届か無いと知りなさい!!」 緋想の剣を青眼に構えて天子が啖呵を切る。 「笑止。人が武技を研鑽し積み上げてきた歳月は、猿人同士が殺しあった時から始まっているッッ!!貴様がどれほどの生を生きたかは知らぬが、人という種を甘く見るなッッ!」 言葉とともに繰り出される黄金剣を、天子は橙色に燃え盛る剣で受ける。 「そっちこそ!種の違いを知りなさい!!」 緋想の剣で斬り返す。ヴァルゼライドは左手の刀で受け、天子の首目掛けて右の刀で刺突を放つ。 上体を横に振って躱した天子に、繰り出した刀を横薙ぎに振って追撃。膝を曲げて屈んだ天子が地に緋想の剣を突き立て、ヴァルゼライドの足元から要石を出現させる。 当たれば腰から下が骨と血の混じった肉塊と化した奇襲を、ヴァルゼライドは跳躍することで回避、追う様に下から迫る要石を更に蹴って飛翔。上方から天子目掛けて襲い掛かる。 天子は咄嗟にレーザーを数条放ち、ヴァルゼライドの身体を穿つが、頭部だけを護って突っ込んだヴァルゼライドは天子の脳天目掛けて、太陽の如き輝きを放つ刃を振り下ろす。 受け止めた天子の足元の路面が、割れ砕けて大きく陥没する程の一撃。 「鬼並みじゃない!!?」 シャドームーンと交えていた時よりも、上昇しているヴァルゼライドの膂力に驚愕する天子だが、そんな呑気な事をしている暇は無いと、刹那にも満たぬ後に思い知る。 頭頂から股間まで両断し、踏みしめている地殻ごと打ち砕かんと振り下ろされる上段からの斬撃。 胸を貫く─────どころか当たった部位を中心に、肉が骨が吹き飛んで大穴が開きそうな突き。 万年の大樹の幹を枯れ枝の様に撃砕する剣威の薙ぎ払い。 それら全ての動き一つ一つが複数の変化を秘め、全ての動きは自然に繋がり、淀みない連続技─────どころかたった一つの動作にを緩慢に行っている様に見える程に超高水準に連結された動き、双刀を存分に駆使したこの剣嵐を、要石を併用しているとはいえ、殆んどを只一振りの剣で支える天子の身体能力こそ讃えられるべきだろう。 それでも、服の各所に焦げ目が生じているのは、凌ぎきれずにグレイズしている為だった。 そんな窮状にありながらも、天子あ半歩も下がってはいない。両足は同じ場所を踏みしめたままヴァルゼライドの猛威を耐えしのいでいる。 其れは天人としての意地か、下がらずに耐えれば即座に反撃に移れるという計算か。 それも有るが、やはり死光の掠めた右足の損傷が無視できず、この猛撃のさなかに僅かでも下がればそのまま押し潰されると理解している為だ。 受け、弾き、捌き、躱し、その合間を縫ってレーザーや要石で応戦するも、悉く黄金に燃え盛る双刀に阻まれ、当たっても英雄の勢威を微塵も揺るがせることもできはしない。 誰の眼から見ても劣勢─────どころか敗勢にある天子だが、その眼に宿した戦意に僅かの曇りも無い。 裂帛の気勢と共に振り降ろされた黄金剣を緋想の剣で受け流す。天子の足元がひび割れる。 喉笛を貫き、剣勢で首を宙へと飛ばす程の突きを、緋想の剣を横からぶつけて逸らす。天子の足が砕けた路面に僅かに沈む。 壮絶無比の剣撃が伝える衝撃は、天子の身体を伝わり、元々傷んでいた路面を更に破壊していく。 そして遂に放たれる、受けた剣ごと両断し、剣が持っても剣を支える腕が撃砕される剣威の真っ向上段からの斬撃。 此れを天子はヴァルゼライドの刀を握る右手に要石を連続してぶつけることで対抗。刀こそ手放さぬものの。流石に威力を減じた斬撃を受け止める。 同時、形容し難い音とともに天子の足元の路面が砕け足首までが地に埋まった。 同時に繰り出される首を狙った左の横一文字。天子の首を斬り飛ばす処か微塵と砕く威力を乗せた刃が、音を遥かに超えた速度で迫る。 死地に落ちた天子にこの絶殺の斬撃を躱す術無し、受けたところで押し切られて首が飛ぶ。 此処に比那名居天子は〈新宿〉の聖杯戦争に於ける最初の脱落者に─────なりはしなかった。 空間をすら断裂する勢いで黄金に輝く刃が虚空を薙いだ時、天子の頭はヴァルゼライドの膝より低い位置に在った。 自分の踏んで居る場所が砕けつつあるの当にを感知していた天子は、路面が砕けて身体が沈んだと同時に膝を曲げ、上体を地面に伏せて、ヴァルゼライドの刃を躱してのけたのだ。 傍目から見れば敗北のベスト・オブ・ベストにしか見えない姿勢だが、そんな姿勢をこの気位の高い少女がするはずも無く。 ─────ッッ!? ヴァルゼライドの剣舞が極小の間、静止する。ヴァルゼライドは人の子の英雄、条理を逸脱した精神を持とうとも、その肉体構造は人のそれと同じ。 人の剣術が威を発揮するのは、相手の身体の高さが膝の辺りにあるまで、それより低い相手には、常の姿勢では刃は届かぬ。 この機を狙っていた天子が地に突き立てた緋想の剣を振り上げる。ヴァルゼライドの左の刀は振り切ったばかり、右の刀もこの下からの猛襲を防ぐには遠い。 古流剣術の奥伝にも似たこの動きは、ヴァルゼライド程の剣士をして剣舞を止め、退かせた。 咄嗟に後方に跳躍して躱したヴァルゼライドに、構え直した天子が、脚を叱咤して前方に跳躍し、真っ向上段から緋想の剣を振り下ろす。 此れに対しヴァルゼライドも猛然と右の刀を振るい、自身目掛けて振るわれる緋想の剣の切っ先目掛けて刃を振り下ろす。 振り下ろされた刀の加えた力により、緋想の剣は更に勢いを増すが、僅かに方向を狂わされ虚しく地面を穿つ。 緋想の剣を撃ち落としたヴァルゼライドの刀は、そのままの勢いで天子の頭を割りにいく。 攻防一体のこの動きは、ヴァルゼライドのいた世界では消滅した/今ヴァルゼライドの居る地─────日本に伝わる剣術で言うところの“切り落とし”と同じ技だった。。 思い切り天子が仰け反った為に、刃は被った帽子の鐔を割っただけに留まった。 ヴァルゼライドが後方に飛んで居る最中でなければ、天子の頭は両断されていただろう。 着地し、天子が放った要石を双刀で捌きながら、更に後ろに飛んだヴァルゼライドが、刀を握った両手を後ろに回す。 双刀から放たれるガンマレイ、斜め後方に放たれた黄金光が路面を穿ち、巨大な爆発を起こす。 そしてヴァルゼライドは超音速の爆風を背に受けると同時に地を蹴り、音を遥かに超える速さで天子目掛けて突貫した。 驚愕に天子の眼が見開かれる、こんな方法で加速するなど思いもよらぬ。背中に刺さった複数の石塊など知らぬとばかりに双刀を振りかざすその姿は、鬼神も三舎を避けるだろう。 咄嗟に天子は地に刺さったままの緋想の剣に魔力を注ぎ、足元の地面を隆起させ己の身体を上昇させる。 そのまま突っ込んだヴァルゼライドが黄金に輝く双刀を振り抜く、隆起した石柱に刀身が接触した刹那、常軌を逸した剣勢で石柱が爆散した。 石柱の内部に予め爆弾が仕込まれていて、それが爆発したのだと言われても納得いく爆発。石柱の上に乗っていた天子の身体が宙に放り出される。 間髪入れず放たれるガンマレイ、しかし、ヴァルゼライドがガンマレイを放つモーションに入るより早く、ヴァルゼライドの足元に撃ち込まれた要石と魔力弾が、ヴァルゼライドの足元を崩していた為、虚しく宙を彩るに留まった。 天子が空中で弾幕を形成し、ヴァルゼライドの両脚を狙って光弾を猛射、ヴァルゼライドに防御に務めさせて、その隙に着地を決める。 地に降り立ったと同時に、緋想の剣を地に突き立てると、己の足元から斜め三十度の角度で地面を勢い良く隆起させ、 先のヴァルゼライドの模倣を行い、その隆起をカタパルト代わりにして勢いをつけ、ヴァルゼライド目掛けて突撃する。 「ええええええええいッッ!!!」 「オオオオオオオオオッッ!!!」 叫喚して突っ込む天人に、英雄は双刀を振り上げ真っ向から迎撃。 三つの刃が両者の間で交差した。 刃と刃が激突した音が衝撃波と化して宙を伝わり、天子の突撃の威力が地面に激震として伝わり、砂塵はおろか周囲の瓦礫すら舞い上げる。 拮抗する両者が鍔競り合う最中、先刻放たれたガンマレイで、マグマと化して煮え滾っていた路面が盛り上がり、灼熱の波濤と化して二人の頭上から落ちてきた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヴァルゼライドの放ったガンマレイの爆発で飛ばされ、マグマと化した一帯に墜落 したシャドームーンは、念動力を身体の周囲に展開し、自身の周りにマグマを寄せ付けず。 更にシルバーガードの防御力を併せる事で、マグマの中に潜伏。マイティアイを用いてザ・ヒーローの居場所を探っていたのだった。 結果、ザ・ヒーローは、乱入してきた女のマスターを求めて離れた場所に居る事を把握。此れでヴァルゼライドのマスターを巻き込む心配は無い。 シャドームーンは神経が繋がっているかどうか確かめる様に、左手の手指を開閉させる。 数万年の歴史を持つゴルゴムの科学力の結晶たるシャドームーンである、活火山の火口に放り込まれたのならいざ知らず、高熱で溶けたアスファルト程度では小揺るぎもしない。 気になるのはヴァルゼライドの一刀を受けた左腕。ヴァルゼライドの死光は高濃度の放射能を帯びているということは、ルーラーからの通達と、マイティアイでの観察で理解しているが、 それだけでは無い何かを、あの死光は帯びている様だった。でなければ、キングストーンの力を用いているのに、傷は治らず痛みが引かぬということがあり得ない。 ─────其れでも関係ない。 動けば良いのだ。クリストファー・ヴァルゼライドはあれだけの損傷を負って、尚も烈しく戦い抜いたのだ。 比べれば、この程度は傷とも呼べぬ。 シャドームーンはキングストーンの生成する膨大な魔力を用いて、マグマを束ね、津波として、合い戦う天子とヴァルゼライドの頭上から落としたのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 突如として起きた灼熱の津波に、二人が愕然としたのも束の間。意識が他を向いた隙に、十数発の魔力弾を放ちながら天子が大きく後ろに飛ぶ。 ヴァルゼライドの両脚と左右に放たれた魔力弾は、脚を撃って脱出を阻む狙いと、左右に回避する余地を潰す意図の元放たれている。 此れに対しヴァルゼライドはガンマレイを応射。魔力弾諸共天子を消し飛ばそうとするが、予め読んでいた天子は再度足元の地面を隆起させて踏み台とし、上空へと自身の身体を打ち上げていた。 いよいよ降りかかってくる灼熱の波濤を迎え撃つべく、ヴァルゼライドが双刀を振り上げ、ガンマレイを放とうとしたその時、 ヴァルゼライドの背後から飛来したカナメファンネルが背中を直撃。動きが止まった刹那を逃さず、緋想の剣気が直撃する。 そして─────英雄の姿は滾り落ちるマグマの中にに消えた。 「まだだっ!」 燃え盛る溶岩の中、より熾烈に、より鮮烈に煌めく黄金光が天地を繋ぐ。 天より神が降臨したと言われて、聞いた者全てが納得しそうな光景を現出せしめたのはクリストファー・ヴァルゼライドに他ならない。 灼熱の溶岩を浴びながらも、振り上げた双刀からガンマレイを放ち、溶岩を蒸発させてしまったのだ。 この光景を上空から呆然と見やる天子。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。 天子が動けずにいる間に、ヴァルゼライドが灼熱地獄と化した、陽炎揺らめく路上で双刀を動かす。 左の刀の切っ先は天子の方を。 右の刀の切っ先は津波が到来した方を。 放たれる二条のガンマレイ。切っ先が此方を向きだした瞬間に回避を始めていた天子は何とか回避に成功する。 右の刀から放たれたガンマレイは、空間そのものが揺らいでいるとしか見えない程に烈しく空気が揺らめく方へと放たれ、過ぎ去った。 ──────────!? 何かを感じた二人が頭上を仰ぎ見る。銀色の影が上空に浮遊する天子の更に上空に現れる。二人が構えた時、シャドームーンは既に攻撃を終えていた。 爆発音としか聞こえない轟音。シャドームーンが念動力で天子を叩き落としたのだ。 地面に種蒔いたら生えてくる戦闘員に自爆されたZ戦士そっくりなポーズで、天子の身体が路面にめり込む。その上から砕けたカナメファンネルの残骸が降り注いだ。 「ぐうう……」 流石に動く事も出来ずに呻くだけの天子目掛けて、止めを刺すべく空中からシャドームーンが膝を落とす。 レッグトリガーを最大限に稼働させたニードロップは、当たれば天子の背骨を粉砕し、九穴から赤黒い肉塊を噴出させて絶命させた事だろう。 だが、膝が触れる直前でシャドームーンの姿は掻き消え、俯せに伏したままの天子の身体が地に埋没する。 刹那の間も置かず、天子の倒れていた辺りを閃光が走り抜けた。 ガンマレイを放ったヴァルゼライドは双刀を持った両腕を真っ直ぐ伸ばして回転。自身の周囲を黄金光の幕で覆う。 シャドームーンが天子に止めを刺しに行ったのを、己の攻撃を誘う為と、己に天子を始末させる為の、二つの目的を持った行為と理解した上でのガンマレイ。 二人纏めて屠るつもり─────少なくとも天子は葬れると踏んだのだが、両者共にガンマレイを回避、ヴァルゼライドはこの結果にも動じず、シャドームーンの猛襲に備えて動く。 果たして、ヴァルゼライドが展開した防御幕に、全方位からシャドームーンが形成した武具が激突し、激しい爆発を起こす。 ここでヴァルゼライドは直感に任せてガンマレイを発射。確かにガンマレイはシャドームーンのいた位置を通り抜けるも、シャドームーンは捉えられず。 此れも又予測の内。右の刀を納刀し、左の刀を振り上げ垂直に放つ黄金光。同時に膝を地につけて屈み込む。 果たして黄金光は再度シャドームーンを捉えられず。ヴァルゼライドが屈むと同時にその背後に出現したシャドームーンが、真紅の長剣を振るうも虚しく虚空を裂いたのみ。 不意に居る筈の標的を見失い、シャドームーン程の大戦士が、刹那の間にも満たぬ間動きを止める。 先刻の天子が、ヴァルゼライドの剣舞を凌いで反撃した時と同じ状況だとは、シャドームーンは知らぬ。 此処に来て更に冴え渡るクリストファー・ヴァルゼライドの感覚は、シャドームーンの出現と同時に身体を動かし、神速という言葉ですら猶遠い抜刀でシャドームーンに斬り掛かる。 シャドームーンはこの攻勢に、素早く思考を巡らせる。 空間転移─────即座に使うことは出来ない。 魔力を脚に纏わせ敢えて受ける─────否。今からでは間に合わぬ。脚を斬り飛ばされる。 後ろに飛ぶ─────否。あの虚空に光条を刻む技を仕込んでいるかもしれない。 であれば残るは─────。 サイドステップして回避─────ヴァルゼライドの斬速の方が遥かに速い。 残るは─────上。 シャドームーンは跳躍し、ヴァルゼライドの斬撃を回避する。 しかし、此処で更にヴァルゼライドは加速。左腰の刀を抜刀して水平に薙ぐ右腕のベクトルを強引に変換。真っ向上段からの縦の斬撃に変えてシャドームーンを猛襲する。 もとよりこの局面、上方にしか逃げ場が無い。故にシャドームーンの読むことは容易いが、その動きへの対応が尋常では無かった。 強引極まりない変化に筋肉が裂け、骨が軋むがそんな事には構いはしない。 この鬼神でも予測不可能な奇襲を、シャドームーンは咄嗟にシャドーセイバーで防ぐ。 天を圧する巨人が、大鉄槌で山を砕いたかの様な衝撃と轟音。双方の刃が半ばからへし折れ宙を舞う。 シャドームーンは極音速で飛ばされ、ヴァルゼライドが空に刻んでいた黄金の斬痕に背中から突っ込んだ。 間髪入れずに放たれるガンマレイ。遍く悪を許さず滅ぼす黄金光がゴルゴムの世紀王、反英霊シャドームーンを討ち滅ぼす。 シャドームーンはヴァルゼライドの奇襲を受けた時、背中に魔力を集めて防御する事をしなかった。 そんな事に魔力を使うよりも、シャドーチャージャーに魔力を集める事を選んだのだ。 一日で二人の相手にこの宝具を使う事になるとはシャドームーンも思ってはいなかったが、読み合いに負けて王手詰み(チェックメイト)になった時点で切り札を切るしか無いと確信。 窮まった盤上を覆すには、最早盤面そのものを引っくり返すより他に無し。 「シャドーフラッシュ!!」 ヴァルゼライドが黄金光を放つと同時、シャドーチャージャーも緑色の光を放つ。 黄金光が緑色の光に呑まれる様に掻き消えたその時、シャドームーンはヴァルゼライド目掛けて躍り掛かっていた。 左へと─────ヴァルゼライドから見て右へと回り込み、再び形成したシャドーセイバーによる、ヴァルゼライドを縦に両断し地面にまで切っ先を食い込ませる振り下ろし。 ヴァルゼライドは必殺の一撃が霧散して、意識に空白が生じているが、そんなものが致命となる程この英雄は柔ではない。 そこで折れた刀を持つ手の方から仕掛ける。右の折れた刀では満足に防御が行えない。それはシャドームーンは知らぬが、ルーラーとの一戦でも明らかだ。 だが─────真紅の刃は半ばから折れた刀に止められていた。 激しく動揺しながらも繰り出す四撃、その全てが折れた刀で防がれる。反撃として放たれたライフル弾を超える速度のヴァルゼライドの突きを、左手の短剣で受け止める。 立て続けに繰り出される八連撃、悉くを短剣で捌いて首を狙っての刺突を返す、右の折れた刀で跳ね上げられ、空いた胸元に左の突き、 跳ね上げられた勢いを利用して後ろに飛び、右にサイドステップ。十数条の光条が虚空に刻まれる。 両者は5mの距離を置いて静止した。 シャドームーンは内心大いに驚愕していた。まさかこの極小の間に、己の剣技すら習得してのけるとは、やはりこの男は強い。それもスペックなどでは無く、人として純粋に強い。 まるで“あの男”の様に。身体を改造されても、人では無い身体となっても、人の心を失わず、人として戦い抜いた“あの男”の様に強い。 ─────矢張りこの男を越えねばRXは見えてこない。 そう、確信したシャドームーンは静かに一歩を踏み出す。 ヴァルゼライドは内心大いに驚愕していた。まさか己の星辰光が幻の様に消えるとは。 あれこそがこのセイバーの宝具なのだろう。宝具を用いずとも尋常では無い程の強さ、それがあの様な超常の宝具を用いだしたとなれば、魔星全てを同時に相手取って勝ちを収めるのではあるまいか? 今日戦った者達は、皆超絶の強さを異能を持つ者達。此の男は彼等と比べても遜色無いどころか上位に入る。 だが、それでも─────。 「“勝つ”のは俺だ」 そう口にして一歩を踏み出す。 進んだ距離は同じ、振り下ろす刃の速度も同じ、二つの刃が交わる─────。 その刹那、二人を中心に地面が急激に隆起する。 見る者が居れば、二人の発する圧で、二人の間の地面が押し上げられたと取るだろう。 この現象により、後方に崩れた姿勢を立て直そうとしていたヴァルゼライドが、不意にトンボを切って後方に飛ぶ。 同時に地面を突き破り、緋想の剣を肩に担いだ天子が飛び出して来た。 シャドームーンに叩き落とされ、ヴァルゼライドの死光を躱す為に地に潜った天子は、下水道を通って二人の下に移動、 『大地を操る程度の能力』を用いて二人の間の地面を隆起させ、隙を作らせた上で強襲したのだ 身体を真っ直ぐ伸ばし、頭からヴァルゼライド目掛けて飛翔する。天人の頑丈さを活かしたこの猛襲。直撃すればヴァルゼライドの背骨と臓腑が砕けたろうが、 天子が飛び出すと同時に回避行動に移っていたヴァルゼライドには当たらない。 だが、天子とてそれでも終わる攻撃をする様な甘いサーヴァントでは無い。自身の上方で背を晒すヴァルゼライドに担いだ緋想の剣を振るう。 緋想の剣がヴァルゼライドの身体を背骨に沿って斬り裂く、全身を大きく震わながらも着地を決めるが、ダメージが大きすぎるのかそのまま蹲ってしまう。 好機とばかりに天子が突っ掛けるが─────。 「まだだっ!!」 裂帛の気勢を挙げ、立ち上がったヴァルゼライドが、凄まじい速度で左の無事な刀を振るう。明らかに速過ぎる、天子の服に切っ先がかする事も無く過ぎ去る攻勢。 天子の全身に走る衝撃。石壁に全力疾走してぶつかった様な痛みと衝撃を受けて後方に飛ばされる。 ヴァルゼライドが人修羅との一戦で受けた『烈風破』、振り抜いた腕で大質量の物体に等しい空気の壁を作り出しぶつけて攻撃する技で、ヴァルゼライドは天子を弾き飛ばしたのだった。 元々はガンマレイを無効化する閻魔刀を持つバージルを破る為の方策を模索していた結果の産物だが、よもやこんな形で役立つとは思ってもみなかった。 今だ宙を飛び続ける天子目掛けてヴァルゼライドは死光を放つ。 此れに対し、天子は自身の斜め後ろに要石を形成、ぶつかることで飛翔の軌道を変えて、死光の範囲外へと逃れる。 ヴァルゼライドは追い討つ事をせず、回転しながら刃を振るう。180度開店した処で火花が散り、刃が止まる。 シャドームーンが空間転移を行い、ヴァルゼライドの後ろに回り込んだのを、ヴァルゼライドがその一刀を以って防いだのだ。 獅子吼と共に繰り出されるヴァルゼライドの六連撃。防ぎ、躱しきったシャドームーンが念動力を至近距離から放つも、ヴァルゼライドは黄金光に輝く刀で両断、霧散させてしまった。 シャドームーンとて、ヴァルゼライドを相手に散々多用した念動力だ、どれ程至近距離であろうと今更正面から念動力を放っても通用しないと判っている。 元よりこの攻撃はヴァルゼライドの攻勢を止める為のもの。シャドームーンは僅かに稼いだ時間で体勢を立て直し、猛然と刃を振るう。 共に長短の刃を持つ両者は、秒週の間に無数の剣撃を交わし、身体の周囲を無数の火花で彩った。 突如として両者に飛来する十数条の赤い光線。シャドームーンとヴァルゼライドがそれぞれ反対方向に7mも飛び、レーザーの飛来した方に視線を向ける。 二人の視線を浴びて傲然と立つは、比那名居天子に他ならない。既に身体の周囲にカナメファンネルを旋回させ、傲岸とさえ言える視線を両者に向ける。 「随分と面白くなってきたじゃない」 天界での何不自由無い平穏で退屈な暮らしに飽いて、ワザワザ地上に異変を起こした不良天人の本領此処に在り。 天人の永い永い生から見れば、人の生など瞬きの間に終わる程度。だが、人にとって、時に人の生の刹那の燃焼は、永劫の輝きを凌駕する。 比那名居天子は元は地上の者である。其れ故にこそ人の生の輝きに魅せられ、地上の諸人諸妖と交わり戯れる様になったのだ。 ─────愉しい。こんなに愉しいのは久し振り。 地上の愉快な人間達が皆死んでしまい。妖怪達も数が減り、死ぬ前にはそれはそれは退屈だった。 死んでからまたこんな愉快な事に巡り会えるとは思わなかった。 いっそのこと聖杯に願ってもう一度生を得ようかと思う程に、心の底からの愉悦を感じながら、不良天人は驚天の魔人超人に挑みかかる。 此処に三つ巴の魔戦が開始された。 三人の中で唯一、武器が宝具であり、尚且つ頑丈極まりない身体を有し、多彩な飛び道具を持ち、地殻を操る程度の能力を持つ比那名居天子。 三人の中で最も高いステータスを有し、シルバーガードによる高水準の防御力と、多彩な能力による強力な攻撃力と、尽きることの無い魔力を有するシャドームーン。 この両者と比べれば、やはりヴァルゼライドは劣っていると言わざるを得ない。 武器で劣り、手数で劣り、魔力量で劣り、何より基準となるべきステータスで劣る。 そして満身創痍を通り越して死に体だ。今日これまでに無数の傷を受け、そして此の場でも痛手を負った。 息が有るだけで奇跡。意識が有るだけで偉業と言える重篤の身で、二本の足で立って戦うという理不尽を成し遂げるヴァルゼライドは、二人を相手に優勢を保って戦うという大理不尽を成し遂げていた。 新国立競技場で、紅蒼の魔剣士達を相手取った時は、二人の息の合い過ぎたコンビネーションの前に一方的にやられたが、シャドームーンと天子にコンビネーションなど発揮出来るわけも無く。 且つシャドームーンはヴァルゼライドと戦って勝つ為に此の場に在り、比那名居天子は佐藤十兵衛の狙いがザ・ヒーローで有る為に此の場に現れた。 此の為、シャドームーンは先ず天子の排除を優先し、天子はヴァルゼライドを狙う。 そしてヴァルゼライドは二人を此の場で屠るべく奮起する。 ヴァルゼライドが新国立競技場で紅蒼の魔剣士達を相手にした時の策が、この戦場で成立した。 左の刀でシャドームーンの放った念動力を斬り散らし、右の折れた刀で天子の放った要石を、シャドームーン目掛けて飛ぶ様に軌道を変える。 シャドームーンが防いでいる隙に天子の目掛けて猛攻を掛ける。 悉くを受け、捌き、躱す天子だが、明らかにヴァルゼライドの動きに追随出来ていない。 それもその筈、幻想郷の住人は基本的に空を飛んで戦う者。地に足を着けて戦う経験が乏しい為に、間合いを構成する要素のうち、歩幅や歩法といったものに慣れていないのだ。 それでもヴァルゼライドの攻勢を凌ぎ切れるのは、陽動や回避先潰し、只の見せ球を含む無数に飛来する弾幕の中から、 自身に直撃するものを精確に見切って防ぎ、躱す、命名決闘法の経験によるものだ。 向かって左から首を薙いできた刀を緋想の剣で受け止める。ガンマレイが掠めた右足が激しく痛むが歯を食いしばって耐える。 動きが止まったのは一瞬。同時に2人は後ろに飛ぶ。 ヴァルゼライドの首の有った処を天子の放った光条が、天子の首が有った位置を真紅の長剣が、同時に通過した。 天子に向かってシャドームーンが猛進する。仮借無い殺意を乗せた凄絶無比の斬撃が途切れること無く天子を襲う。 十余合を打ち交わした時、傷ついた右足を狙ってシャドームーンが長剣を振るう。 緋想の剣で受けたのを狙いすまし、左の短剣を天子の口目掛けて突き込んでくる。 頑強な肉体を持つ天子といえど、口に刃を突き込まれて脳幹を貫かれれば絶命する。 仰け反って回避した天子に、シャドームーンが念動力を放とうとした時、踏み込みの勢いでアスファルトを砕き、ヴァルゼライドが二人纏めて両断する勢いで斬りつける。 シャドームーンが横に、天子が後ろに転がって回避。天子が要石を、シャドームーンが左のシャドーセイバーをヴァルゼライド目掛けて飛ばす。 長短の刀でヴァルゼライドが防いだ隙に、立て直した二人が殺到する。 龍を思わせる咆哮と共にヴァルゼライドが折れた刀を捨て、腰の刀に手をやる。今手にしている双刀では無く、新たに手にした三本目。 戦いながら再生させた三本目の刀で、バージルから習得した剣技を放つ。 シャドームーンが駆ける為に足に込めていた膨大な魔力を用いて横に飛び、天子がカナメファンネルを踏み台に上方に跳躍する。 読んでいたかの如くシャドームーンが跳躍した天子にシャドービームを放って直撃させるも、自身も光条が右の脇腹を掠めた。 地に落ちた天子目掛けて走り寄るヴァルゼライドが、突如虚空に一刀を振るうのと、立ち上がった天子が硬直したのが同時。 「アアアアアアアッッ!!」 天子が絶叫する。いきなり拘束されて、全身を魔力のスパークで灼かれているのだ。 ヴァルゼライドには看破出来ていた。ルーラーと戦った時、先んじてルーラーと交えていたアサシンの技と同類の─────操る技量も刃そのものも大幅に劣るが─────ものだと。 シャドームーンが精製した隠し札。サーチャーの使う妖糸の劣化コピー。 両手の中指から精製した、百分の一ミリの魔力糸を念動力で操り、ヴァルゼライドと天子目掛けて放ったのだ。 そもそもがオリジナルの再現など、そう簡単に出来るわけなど無い。太さも強度も紉性もサーチャーの妖糸には遥か及ばぬ。まして操る技など論外だ。 それでも百分の一ミリの魔力糸は不意を衝くには充分過ぎる─────筈、だったのだが。 天子には決まったものの、ヴァルゼライドは“以前にも対したことがある”かの様な手慣れた動きであっさりと防いでしまった。 魔力糸を介して天子に魔力を流し込んでダメージを与えながら、全長30cm程の魔力糸を数百条精製、念動力を用いて、ヴァルゼライド目掛けて殺到させる。 シャドームーンは知らぬ。ヴァルゼライドがこの地で戦った者の中に、サーチャー─────秋せつら─────と同じ日に生まれ、幼馴染として育ち、唯一の座を巡って相剋した魔人が居たことを。 シャドームーンと同じ宿命の元に産まれ、シャドームーンと同じく敗北した魔人、浪蘭幻十と対峙した経験を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの隠し札を破り捨てる。 ヴァルゼライドが“魔力糸の悉くを斬り払いながら猛進。瞬く間にシャドームーンに詰め寄り両手を後ろに廻す。 シャドームーンがヴァルゼライドの意図を読めず、硬直した刹那、ガンマレイを斜め後ろに発射。爆風を受けて加速する。 両腕を後ろに回したヴァルゼライドがどちらの腕で攻撃てしてくるのかシャドームーンには読めない。 先手を取って斬り伏せる、という事も考えたが、ヴァルゼライドが両腕を後ろに廻した時に、意図を読めずに硬直したことで遅れを取ってしまった。 この状態で繰り出せる攻撃などそうは無く、クリストファー・ヴァルゼライドならば、全て防ぐ準備を終えているだろうと判断。 先ずは防ぐ、そして返す一撃で仕留める。シャドームーンは意識を集中し、ヴァルゼライドを注視する。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく─────最早刀の間合いでは無くなっている。 ヴァルゼライドが近づく。 左腕が動き出し、黄金に輝く刀身が振り上げられる。 ヴァルゼライドが近づく。 シャドームーンはヴァルゼライドの瞳に写る己の顔を見た。 ヴァルゼライドが近づく。 衝撃─────シャドームーンが後ろによろめく。その左胸に突き立っているのは右の刀。 ヴァルゼライドの左は陽動。左に気を引きつけて置いて、右の刀で心臓を抉るのが本命。 突撃の勢いを用いてシャドームーンの胸部に、僅かな狂いも無く直角に刃を突き立てることで、シルバーガードを貫いたのだ。 思考が受けに回った時点で、この結果は定まっていたのいたのかも知れない。 左の刀を振りかぶり、ヴァルゼライドがシャドームーンに刃を繰り出す。狙いは首。どれ程の戦闘続行能力があろうとも、首を落とせば身体を動かすことが出来ない。例え死なずとも戦闘不能。 総身が消滅しても平然と蘇る化け物が相手でも、首を落として動きを封じ、その間にマスターを殺せば良い。 不死身のバーサーカー黒贄礼太郎を殺すべく、ヴァルゼライドが出した答えが此れだった。あの場では乱戦の為に成功しなかったが、次に出会えば世の安寧の為に必ず殺す。 蝿の王や悪魔との混血まで居るこの魔戦の場、全ての敵に確実に死を滅びを与える手段をヴァルゼライドは思考し、そして眼前のセイバーで実践する。 シャドームーンは防御も回避も出来る状態では無く、念動力やシャドービムも使える状態ではない。だが、おとなしく首をやる程シャドームーンは諦めが良くは無い。 左腕を伸ばして斬撃を受け止める。凄絶な斬撃は、掌を断ち割り、肘まで達して刃は止まった。エルボートリガーを作動させて、刀身を砕こうとしたのにこの有様。 この時点でシャドームーンは敗北を悟っていた。 左腕を断ち割った黄金剣が更に鮮烈に煌めく。この次のヴァルゼライドの一手をシャドームーンは確信しているが何も出来ない。 刃を肉体に食い込ませたまま放つガンマレイ。RXの必殺の一撃と同じ技を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの左肘から先を消し飛ばした。 「グゥオオオオオオ!!!!」 此れが真っ当な一対一の闘争ならば、シャドームーンは敗北を受け入れることがまだ出来た。無念は残るが、此の男に勝てぬ様ではRXの前に立っても同じ結末を迎えるだけだからだ。 だが─────こんな邪魔が入った勝負で敗死するのは受け入れられない。 怒りと無念を乗せた念動力でヴァルゼライドを50mも後方に飛ばし、魔力のスパークで灼かれ続けて、蹲ったまま立てぬ天子に極大の殺意を向ける。 「オオオオオオオオオッッ!!!」 怒号と共に放たれる念動力。倒壊したクレセント・ハイツの瓦礫から、数トンはある円柱を宙に舞わせる。 比那名居天子は、生前に凄まじく自分勝手な理由で博麗神社を倒壊させたことが有る。 シャドームーンが今まさに、比那名居天子を潰すべく、念動力で持ち上げた円柱は、奇しくも此処とは異なる〈新宿〉で、 “神”によって天へと消え、その後天より落ちて、名も無き神社を破壊したものと同じ円柱だった。 説教の長い閻魔やスキマ妖怪なら『因果応報』とでも言うだろう。 「オ・ン・バ・シ・ラーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?」 上を仰ぎ見た天子が間抜けな絶叫を残し、円柱の影に消えた時、その場には誰も残ってはいなかった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ザ・ヒーローは南榎町の一角を当てど無く彷徨って居た。乱入してきたセイバーのマスターを仕留めるべく、ヴァルゼライドと別行動を取ったのだが、敵のマスターの姿を補足できなかったのだ。 其れもそのはずで乱入してきたセイバー、比那名居天子のマスターは矢来町に迄移動しているのだから、幾ら南榎町を探しても見つかる筈が無いのだった。 戻ってヴァルゼライドに合流するべきか。そう、考えた時、ザ・ヒーローの全身は、不意に動きを止めた。 「グ……アアアアア…」 凄まじい力で全身を締め上げられ、宙に浮くザ・ヒーロー。その目前に姿を現したのは、銀鎧のセイバー、シャドームーンに他なら無い。 比那名居天子にオンバシラ決めた後、空間転移であの場を離脱。マイティアイでザ・ヒーローを補足し、キングストーンによる疑似的な気配遮断を用いて近づき、念動力を以って拘束したのだ。 全身を拘束されて、宙に浮いたザ・ヒーローにシャドームーンに抗する術無し。 此処にザ・ヒーローの命運窮まったかと思われた。 「お前を殺すことは容易いが、クリストファー・ヴァルゼライドを斃すまでは貴様に生きていて貰わなければならぬ」 然し、シャドームーンにザ・ヒーローを害する意思なし。 念動力でザ・ヒーローを拘束したまま、ザ・ヒーローのアームターミナルに右手を伸ばす。 ザ・ヒーローが全身に力を漲らせる。アームターミナルはザ・ヒーローの魔力ソースであり、クリストファー・ヴァルゼライドの力の元でもある。此れを破壊されては、満身創痍のヴァルゼライドを治せない。 だが、シャドームーンの行動は、ザ・ヒーローの予想もし無い事だった。 シャドームーンの右手から、アームターミナルに流れ込む魔力。其れがマグネタイトとして、アームターミナルに蓄積されていく。 この量ならば、ヴァルゼライドの傷を治して、新国立競技場に於ける魔戦をもう一度行ってもまだまだ余剰が残る。 「クリストファー・ヴァルゼライドに伝えておけ、この聖杯戦争の後に控える相克に臨む為に、俺はお前の屍を越えると」 そうしてセイバーは現れた時同様、唐突に消え去り。後にはザ・ヒーローが残された。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「クソッ!!」 地面に突き立った石柱をガンマレイで消し飛ばし、地面に空いた穴を見たヴァルゼライドは怒声をあげて地面を蹴りつける。 満身創痍と読んでも良かった身体は、最早形容する言葉も無い程に傷ついていたが、そんなものはこの怒りを鈍らせる事など無い。 あの時、銀鎧のセイバーを確実に葬る為に左腕を吹き飛ばしたが、あの場は首を落としにいくべきでは無かったか。 ─────否。其れで獲れる程あの首は低くない。右腕で防ぐだけだ。 左腕を吹き飛ばし、更に左側から猛攻を掛ける。この方針に間違いは無い。あのセイバーの力量を鑑みればこれしか無い。 落ち度は一つ。己が間髪入れずにセイバーの首を落とせなかった事。そして、女のセイバーにガンマレイを撃たなかった事。 あの女のセイバーは動けない程に消耗していた。ガンマレイを放てば確実に仕留められていた。 だが、ヴァルゼライドは即座に思考を切り替える。二人共にダメージは深刻だ。当面の間戦闘能力は半減するだろう。仕留めるならば好機というもの。 ヴァルゼライドは脳裏に二人のセイバーを加えて、模擬戦闘を行いながら、ザ・ヒーローと合流すべく歩み去った。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(南榎町の一角)/一日目午後4:00】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生】 [状態]肉体的ダメージ(中)、廃都物語(影響度:小) [令呪]残り二画 [契約者の鍵]有 [装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F [道具]ハンドベルコンピュータ [所持金]学生相応 [思考・状況] 基本行動方針:勝利する。 1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する 2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討 3.翼のマスター(桜咲刹那)を倒す 4.ルーラー達への対策 5.取り敢えずヴァルゼライドを治そう [備考] ・桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。 ・ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。 ・雪村あかりとそのサーヴァントであるアーチャー(バージル)の存在を認識しました ・マーガレットとアサシン(浪蘭幻十)の存在を認識しましたが、彼らが何者なのかは知りません ・ルーラーと敵対してしまったと考えています ・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです ・現在<新宿>新国立競技場周辺から脱出しています。何処に向かうかは次の科書き手様にお任せします ・キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました ・ライドウが自分と同じデビルサマナー、それも恐ろしいまでの手練だと確信しています ・セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。 【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】 [状態]肉体的ダメージ(超々極大)、魔力消費(大の大)、霊核損傷(超々極大)、放射能残留による肉体の内部破壊(極大)、全身に放射能による激痛(極大)、 全身に炎によるダメージ(現在重度)、幻影剣による内臓損傷(現在軽度)、内蔵損壊(超々極大)、頭蓋骨の損傷(大)、脊椎の損傷(大)、出血多量(極大) 、背骨を緋想の剣で縦に割られている(大)、背中に無数の石塊が埋まっている。 →以上を気合と根性で耐えている [装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀(現在五本破壊状態。宝具でない為時間経過で修復可) [道具]なし [所持金]マスターに依拠 [思考・状況] 基本行動方針:勝つのは俺だ。 1.あらゆる敵を打ち砕く 2.例えルーラーであろうともだ 3.ザ・ヒーローと合流する [備考] ・ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。 ・ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。 ・ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。 ・セイバー(チトセ・朧・アマツ)は、彼女の意向を汲みいつか決着を付けたいと思っております ・アーチャー(那珂)は素晴らしい精神の持ち主だとは思っておりますが、それはそれとして斬り殺します ・マーガレットと彼女の従えるアサシン(浪蘭幻十)の存在を認知しましたが、マスター同様何者なのかは知りません セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。 ・早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います ・早稲田鶴巻町の某公園から離れた、バージルと交戦したマンション街の道路が完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ・新小川町周辺の住宅街の一角が、完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ・交戦中に放ったガンマレイの影響で、霞ヶ丘町の集合団地や各種店舗、<新宿>を飛び越えて渋谷区、世田谷区、目黒区、果ては神奈川県にまでガンマレイが通り過ぎ、進行ルート上に絶大な被害と大量の被害者を出していますが、聖杯戦争の舞台は<新宿>ですので、渋谷区等の被害は特に問題ありません ・南榎町に有るマンション、クレセント・ハイツの有る一帯がが完全に破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ---- ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 空間転移を繰り返し、メフィスト病院目指して移動しながらシャドームーンは思考する。 警察組織は掌握した。此れを今後にどう活用するべきか。 先ずは遠坂凛及びセリュー・ユピキタスの捜索だろう。この両者を仕留めることで令呪を独占する。 遠坂凛に関しては、警察からある程度の情報をあえて流すことにより、他の主従をぶつけることにする。 特に新国立競技場に居た者共は、遠坂凛はサーヴァントを失ったと認識している事だろう。そうして、あの歌うアーチャーに令呪を独占させまいとして、不死身のバーサーカー、黒贄礼太郎と遭遇する。 そして猟犬共と黒贄が交戦している間に、遠坂凛を殺せば良い。シャドームーンの持つ能力ならば十分可能だ。 マイティアイと空間転移と気配遮断の組み合わせは、現にあのザ・ヒーローですら不覚を取った。 そうして遠坂凛と黒贄礼太郎を排除し、黒贄と戦い、疲弊したサーヴァントを討つ。 あの新国立競技場での魔戦を戦った者共は、いずれも端倪すべからざる強者達。黒贄には精々頑張って奴等を消耗させて貰おう。 其の後に控えるのは黒衣のサーチャー及びクリストファー・ヴァルゼライドとの決着だ。 サーチャーのマスターはウェスが自分の手で破壊したがっている為、マスター同伴になる。リスクを無くす為にもやはり令呪を使うべきだろう。 だが、クリストファー・ヴァルゼライドに関しては、令呪など不要。己が力のみであの英雄を打倒できねば、到底RXの前には立てぬからだ。 残る討伐対象のセリュー・ユピキタスとバーサーカーに関しては、全く情報が無い。紅いセイバーの例もある。手の内を探ってから戦うべきだろう。 「勿体無い事をしたかも知れん」 シャドームーンの脳裏に浮かぶのは、本戦が始まった直後に撃破したバーサーカーとそのマスター。奴等が居れば、有用な駒として使い潰せるのに。 例えばこの場合なら、セリュー・ユピキタスにぶつけて威力偵察を行わせる。という事が可能だ。 シャドームーンはこの聖杯戦争を戦う主従の数を、こう推測していた。 今まで確認した中で、最も数が多いのがバーサーカーの四体。各クラス四体として、全八クラス有るのだから、全部で32組。 此れを単独で撃破するのは流石に面倒だ。其れに己が地に伏してもおかしく無い強者が犇いている。 やはり手駒は必要だった。 手駒が有れば、クリストファー・ヴァルゼライドとの一戦に際して、奴等が居ればザ・ヒーローを抑えさせる事も出来た。 シャドームーンは怒りを抑えて考える。 そもそもクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは目立つ。戦う度に周囲に黄金光を放ち、街を破壊する。 クリストファー・ヴァルゼライドは自身の存在を大声で喧伝しながら戦闘を行っているに等しい。 あの巫山戯た乱入者の様な輩が、次に沸いてこないとは言い切れない。何処か人の立ち入れ無い場所で決着を着けたかった。 此処で脳裏に浮かぶのは、紅いコートのセイバーと交えた異相空間。あの様な場所を用意出来れば、心置き無く戦えるのだが。 ─────悪魔か。 あのロキとかいう悪魔以外にも存在するというが、首尾よく見つかるのだろうか。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(南榎町の一角)/一日目午後4:00】 【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】 [状態]魔力消費(大だが、時間経過で回復) 、肉体的損傷(中)、左腕の肘から先を欠損 [装備]レッグトリガー、エルボートリガー [道具]契約者の鍵×2(ウェザー、真昼/真夜) [所持金]少ない [思考・状況] 基本行動方針:全参加者の殺害 1.敵によって臨機応変に対応し、勝ち残る。 2.他の主従の情報収集を行う。 3.ルイ・サイファーと、サーチャー(秋せつら)、セイバー(ダンテ)を警戒 4.クリストファー・ヴァルゼライドはこの手で必ず斃す。 5.手駒が欲しい。 [備考] ・千里眼(マイティアイ)により、拠点を中心に周辺の数組の主従の情報を得ています ・南元町下部・食屍鬼街に住まう不法住居外国人たちを精神操作し、支配下に置いています ・"秋月信彦"の側面を極力廃するようにしています。 ・危機に陥ったら、メフィスト病院を利用できないかと考えています ・ ルイ・サイファーに凄まじい警戒心を抱いています ・アイギスとサーチャー(秋せつら)の存在を認識しました ・葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)の存在を認識しました ・ルシファーの存在を認識。また、彼が配下に高位の悪魔を人間に扮させ活動させている事を理解しました ・〈新宿〉の警察組織を掌握しました ・新国立競技場で新たに、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました ・ ザ・ヒーローが人間を超えた強さを持つことを認識しました ・セイバー(比那名居天子)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。 ---- ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 十兵衛は戦場から大分離れた場所に降り立ち、そこから徒歩で移動して、矢来町のほぼ中央にある写真スタジオの前に居た。 かなりの距離を離した筈だが、時折此処にまで伝わる地響きは、十兵衛に聖杯戦争というものを雄弁に教えていた。 天子が未だに戻ってこないのは、戦いに巻き込まれたのか、戦いに乗ったのか。 どちらにせよ確かめる術は無く、十兵衛としては戻ってくるのを祈りながら待つより他無い。 手持ち無沙汰の現状、やれることといえば頭を働かせるくらいである。 まず、この聖杯戦争なる催しで言えることは、参加者の選考に関して運営は関わっていない─────完全ランダムという可能性が高い。 根拠としては、田島彬が開催した陰陽トーナメントの参加者と比較すれば判るが、あっちの参加者が皆悉くやる気全開で優勝狙い。 対して、こっちの参加者は、マスターはおろかサーヴァントにさえ、やる気が無いどころか運営に反旗を翻す気の奴等迄居る。 しかもその運営に逆らう奴の中に、主従共に全参加者中最強といって良い戦力持ちのライドウが居るという始末。 そんな連中を管理する運営の能力はどれほどのものか? もし仮にライドウが他のマスターを全員制圧し、令呪を使わせてサーヴァントに戦うことを禁じさせれば、聖杯戦争はそこで止まる。 つまり運営としてはライドウの行動を今のうちに掣肘してもおかしくは無いが、今現在それを行おうとはしていない。 遠坂凜やセリュー・ユピキタスの様に、暴れ回る連中を抑えに回っているというのも有るだろうが、積極的に行わない理由は三つ。 1.単純にライドウが意図する処を知らない。 2.歯向かって来ても返り討ちに出来るから放っている。 3.ライドウが意図する処を知っていて、今は対処する時では無いと考えて放置している。 2の場合だと、“運営に逆らう=死”という事が確定するが、十兵衛はおそらく1だと思っている。 3という可能性については、正直判らない。3の場合だと参加者の動向をリアルタイムで知っている事になるが、こればかりは不明である。 だが、討伐令が、NPCや〈新宿〉に対する大規模な加害行為に対して発布されていることを考えれば、3は無い。 相当数のNPCを悪魔化しているサーヴァントを放置している理由が無いからだ。 それに、今迄に出た討伐令の内容を踏まえれば、確実に3は無い。 「無能だな」 十兵衛の運営に関する評価は辛辣だった。 十兵衛は元いた世界の知識に照らし合わせて考えてみるが、運営が無能という結論はそうそう変わらない。 十兵衛が思い浮かべる知識は、北野武が華麗なナイフ投げを披露した、中学生が殺しあう映画だった。 運営のレベルがあの映画並だとすると、ザ・ヒーローに対する討伐令など出ない。逆らった時点で殺されるからだ。 十兵衛が己の令呪の有る位置を手で撫でた。凡そ元居た世界からして違うマスター達の唯一の共通項。三度きりの切り札を十兵衛はずっと疑っていたが、どうやら杞憂だった様だ。 この令呪が、マスター達の動向を逐一モニターし、尚且つ反逆行為や禁則事項に抵触した場合、マスターに死を齎すのでは無いか─────此れを十兵衛は懸念していたのだ。 あの二人、ザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドのおかげで判ったことが二つ有る。 聖杯狙い─────例えば塞のような─────にとっては気にかけることも無い事柄だが、脱出が目的の十兵衛にとっては重要な事実である。 運営に対する反逆=死では無いということ。少なくとも、運営が絶対的上位者で、全てのサーヴァントを問題としない権限を持っている訳では無い。もし持っていたとしても抵抗や対策は可能。 目的が目的の為に、運営と一戦交える可能性もある十兵衛にとって、あの二人はモルモットの役割を果たしたも同然だった。 もう一つは、“運営の監視能力の低さ”。何故にクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントのみ名前とステータスを開示したのか。 そして、何故にステータスと宝具の大雑把な説明しかしていないのか。 宝具の真名も発動条件も、保持するスキルも説明されていない。“運営に喧嘩売って怒らせた”というならば、ステータス及びスキルと宝具の詳細な情報を公開して然るべきでは無いか。 更には、今迄に出た討伐令の全てが、標的がどこに居るのかを明かしていない。 どうしても始末したいなら、居場所を公開するべきだろう。 此れに関しては、ザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドに対してすら無い。 何故に『ルーラー』という特殊なクラスが関わったにも関わらず、一般のマスターとサーヴァントが得られる程度の情報しかないのか。 此処から出せる推論は一つ。『此れが運営の限界』という事。おそらくはルーラーというサーヴァントの情報収集能力は、 対峙したサーヴァントの真名を看破する程度のものでしか無く、それ以外は一般のサーヴァントとそう変わらないのだろう。 つまりはよっぽど派手な動きをしない限り、運営が気付くことは無い。という結論になる。此れならNPCの悪魔化やライドウを放置している説明がつく。 そしていざ事を構えるにしても、此方の手を隠しておくことも可能だという事だ。 益々以って、あの跳ねっ返りの手綱を慎重に握っておかなくてはならなくなった。その場の勢いで宝具を使われては溜まったものでは無い。 ならばどうやってセリュー・ユピキタスの写真を入手したのかが不明だが、此の〈新宿〉のカメラ全てを掌握しているのだろうか?此処はよく判らない。 そして、この討伐令で運営が犯したミス。其れは“クリストファー・ヴァルゼライドと交戦した”という情報を提示したこと。つまり運営は〈新宿〉の何処かに居るという事を提示したに等しい。。 そしてクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは、戦闘の度に高濃度の放射能汚染を引き起こしている。つまり、居場所、或いは元居た場所の特定が容易ということだ。 ライドウならば、容易にルーラーの拠点に迫る事だろう。 そうなれば十兵衛としても行動を決めなければなら無い。迅速に離脱する為に、もし仮にライドウと共に運営と戦うのなら、ジョナサンと塞を駆り出せる。 ジョナサンは元々聖杯戦争に否定的であり、塞にした処で、運営を斃して聖杯を強奪出来るとなれば乗ってくるだろう。 もしルーラーが何らかの切り札を持っていても、十兵衛と天子以外の誰かが犠牲になれば、其れを元に攻略できる。 とまあ、仮定の話は置いておいて、此処から判る事は、運営している奴等は“此の手の事に関する経験を持たない”という事だ。例えば田島彬ならこんな杜撰なミスは犯すまい。 この事から十兵衛は運営の裏をかくことは、困難だが充分に可能だと判断した。 十兵衛は短く息を吐くと、思考を切り替える。 次に考えるべきは、脱出の方法だ。此れは4パターン有る。 1.何らかの脱出方法が有る。 2.運営をどうにかしなければ脱出不能。 3.聖杯に願わなければ脱出不能。 4.優勝しなければ脱出不能。 取り敢えずどの場合でも、必要とあれば十兵衛は天子を令呪を用いて自殺させるつもりでいる。余り気は乗らないが元より死人、良心は痛まない。 それはさて置き、どの場合でも当面の間、十兵衛は現在の同盟関係を崩すつもりは無い。 1の場合なら、脱出条件を満たすまでの身の護りとして、ライドウ達の戦力と、塞達の能力は有用だ。 2の場合ならば、ライドウ達の戦力は多いに利用出来る。天子が帰ってこなければ判らないが、ヴァルゼライドの戦力次第では、 ヴァルゼライドを退けたルーラーは運営としては無能だが、戦闘能力が極めて高い。という事になる。この場合、ライドウと組んでおくことが唯一の正答だろう。 若しくは、ルーラー何らかの隠し札を持っているかも知れないが、ライドウ達の戦力ならば、その隠し札の内容を明らかに出来るだろう。 3の場合だと、ライドウと組んで聖杯を獲れば良い。ジョナサンと手を組むのも有りだろう。 天子が途中で死んでも、ライドウかジョナサンが聖杯を獲れば、“巻き込まれたマスター達を元の世界に返す”という願いをして貰う事が出来る。あの二人ならば、この手の願いをさせることは可能だろう。 此処迄のパターンだと、十兵衛は塞を切り捨てることにな。向こうもそのつもりだろうが、塞と十兵衛では圧倒的に十兵衛が有利だ。 何故ならば、ライドウに対する為には塞単独では不可能だからだ。 塞と十兵衛の同盟は、ライドウという圧倒的な強者の存在が保証している。何かの拍子でライドウが死ねばともかく、生きて居る間は、塞は十兵衛を裏切れない。 そして4の場合。此れが一番困難なパターンだった。 この場合、一番の問題となるのは“ライドウを排除するタイミング”である。 理想的なのは、十兵衛と塞の同盟では苦戦するような連中が全員死んでいて、残った連中の手の内が判っている。というものだが、此れは高望みし過ぎだろう。 其れにライドウを倒すのならば、確実にあと一組は仲間にしたい。 此処で仲間にするとなれば、ライドウを速やかに排除出来きて、更には正面戦闘が苦手なアサシンが理想的だった。若しくは優秀なサーヴァントを従えた一般人。 敵対した時の事を考えれば、天子が苦戦するような相手でも、マスターを仕留めれば其れで済む。方針が優勝狙いならば“強いサーヴァントに一般人のマスター”というのは、理想的な同盟相手である。 そして塞も同じ事を考え、同盟相手を密かに探しているだろう。新国立競技場に居た、塞のサーヴァントの師匠とやらについては口を閉ざすことにしておこう。 まあ、対ライドウで同盟を組むのは容易だろう。何せ新国立競技場での乱戦で、主従共に破格の戦闘能力を存分に見せつけたのだ。 強敵と見做されて、対抗策としての同盟を考えている奴等が必ず居る筈だ。其奴等と組めば良い。 然し、組みたく無い相手もいる、それはアーチャーだった。単独行動スキルを持つアーチャーは、マスターを殺しても直ぐには消えない。思わぬ逆撃を食うのは御免だった。 では、アーチャーを従える塞との同盟は? 此れに関しては例外で、先ず問題は無い。何しろ向こうの手を知り尽くす天子が居る上に、京王プラザで出逢った時の向こうの反応から、あのウサギは天子に勝てないと判断して居る。 塞にした処で、真っ向勝負で十兵衛が十度戦って一度勝てれば良い方な強さだが、時間稼ぎに徹すればそうそう簡単にはやられ無い自信がある。要は天子がウサギを仕留める迄粘れば良いだけなのだ。 ライドウが健在な限り、十兵衛は塞に対し行動上で常に先手を取れる。直接戦闘以外の処で厄介極まりない二人だが、この優位は覆せ無い。 取り敢えず、現在の同盟関係ならば、どの様な状況にも対応は可能だ。この状態を崩すのは脱出方法が明らかとなり、聖杯戦争が終盤に差し掛かった頃だろう。 「お待たせ~~」 そこ迄考えた時、戻ってきた天子が実体化した。 「ボロボロじゃねぇか。負けたのか」 「お流れよ、お流れ。次は必ず私が勝つわよ!!」 眦を決して告げる天子に、十兵衛は口を閉ざした。オンバシラがどうこう言っているがスルー。 令呪をこっそり獲得&運営の機嫌を取る為に行ったザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドの討伐は失敗したらしい。 まあ、ルーラーが知らないであろう“NPCを悪魔化しているサーヴァント”の情報があるから問題は無いが。 「取り敢えずメフィスト病院行くか」 ほっといても治るが、時間が掛かる。その間に襲われたら事だし、魔力の消費も惜しい。 「そういやヤゴコロエーリン……とかいうのは医者なんだっけか。存外メフィスト病院に居たりしてな」 「ん~どうかしらね?結構気位高いそうだから、対抗意識燃やしてたりして、『フ…メフィスト病院か…そのくらいの事私にも出来る!!』みたいな事言ってたりして」 「で、誰にも相手にされなくて『メフィスト!メフィスト!メフィスト!どいつもこいつもメフィスト!何故奴を認めてこの私を認めないのよ!』とかキレてるのか」 この時〈新宿〉の何処かで銀髪の美女が凄まじく不愉快そうにクシャミをしたとかしなかったとか。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(矢来町にある写真スタジオの前)/一日目 午後4:00】 【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】 [状態]健康 魔力消費(中)、廃都物語(影響度、小) [令呪]残り三画 [契約者の鍵]有 [装備]部下に用意させた小道具 [道具]要石(小)、佐藤クルセイダーズ(9/10) 悪魔化した佐藤クルセイダーズ(1/1) [所持金] 極めて多い [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。 1.他の参加者と接触し、所属する団体や世界の事情を聞いて見聞を深める。 2.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。 3.勝ち残る為には手段は選ばない。 4.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める。 5.当面は今の同盟関係を維持する。 [備考] ・ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました ・拠点は市ヶ谷・河田町方面です ・金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました ・セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました ・佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。 ・構成人員の一人、ダーマス(増田)が悪魔化(個体種不明)していますが懐柔し、支配下にあります。現在はメフィスト病院で治療に当たらせ、情報が出そろうまで待機しています ・セイバー(天子)経由で、アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、バーサーカー(高槻涼)、謎のサーヴァント(アレックス)の戦い方をある程度は知りました ・アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在と、真名を認識しました ・ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(増田)と交戦、<新宿>にそう言った存在がいると認識しました ・バーサーカー(黒贄礼太郎)の真名を把握しました ・遠坂凛、セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を塞から得ています ・<新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています ・<新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました ・塞の主従、葛葉ライドウの主従と遭遇。共闘体制をとりました ・屋上から葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)と、ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)が戦っていたのを確認しました ・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません ・セイバー(シャドームーン)を認識、ステータスを把握しました。 ・ルーラー及び主催者の能力について考察しました。ルーラーの能力は真名を看破する程度だと推測しましたが、その戦力は全くの未知数だと認識しています。 ・黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました 【比那名居天子@東方Project】 [状態]ダメージ(中)、放射能残留による肉体の内部破壊(小)、放射能による全身の痛み。 上機嫌。 [装備]なし [道具]携帯電話 [所持金]相当少ない [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。 1.自分の意思に従う。 2.復活を願うのも良いかも知れない。 3.まさかオンバシラされるとは思わなかった。 [備考] ・拠点は市ヶ谷・河田町方面です ・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません ・セイバー(シャドームーン)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。 ・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました ・ ザ・ヒーロー及びライドウが人間を超えた強さを持つことを認識しました。
シャドームーンは新国立競技場で起きた出来事を、一部始終という訳では無いが目撃し把握していた。具体的にはクリストファー・ヴァルゼライドが乱入して来た辺りから。 元より新国立競技場は赴くつもりの場所ではあったが、事件発生を知ったシャドームーンは予定よりも早くに出立。 競技場では無く警察署に直行し、事件発生を知り一つ処に集まっていた警察上層部を洗脳。 〈新宿〉中の目が競技場に向いている隙を突いたこの行動は物の見事に図に当たり、シャドームーンは警察組織を掌握。そして最初に下した命令は、“競技場を遠巻きに包囲して誰も通すな”というものだった。 シャドームーンが警察組織に期待する役割は、情報収集と戦闘の際に敵の脱出を困難とする肉壁役である。 競技場が魔天すら揺るがす魔戦の場となる事を推察したシャドームーンは警官を万どころか億投入しても骸の山になるだけだと判断。 本来の役割以外の事に兵を投入して無駄死にさせるのは愚行を避け、警官を無駄死にさせず、尚且つ警察の行動を不信がられない指示を下したのだった。 そうしてシャドームーンは、競技場にほど近い場所からキングストーンの力で疑似的に気配遮断を付与させ、マイティアイで競技場内部で行われる魔戦を見届けたのだった。 そして見たのだ。シャドームーンがシャドームーンで有る限り、必ず己自身で斃さねばならぬ男を。 身を異形と化し、鋼の身体と変えられても人の心と魂を失わず、人の技と精神力とを以って絶望しか抱けない戦力差を覆し続けた男達と同じ存在を。 シャドームーンには理解できる。あの男は己が打ち倒さなければならない者と同じだと。 知った以上看過することなど有り得ぬ。シャドームーンはこの〈新宿〉に顕れて以降、初めてといえる決意を胸に、空間転移を行った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 南榎町にある廃マンション『クレセント・ハイツ』の屋上。〈新宿〉全域が煮えたぎる地獄の釜の様な喧騒に包まれている中、座り込んでスマホを見るガタイの良い少年─────佐藤十兵衛が居た。 「凄ェ!なんだコイツラ明らかに体積以上に喰ってやがる!!」 見ているものはこの世界で過去に行われたフードファイト。 丸いとしか形容出来無い怪女と、桃色の髪のゆったりとした服の上からでも分かる素晴らしいプロポーションの美女が、吸い込んでいるとしか思えない勢いで皿を空にしていた。 怪女のお付きの妙にひょろ長い腕と短足と色黒のせいでゴリラにしか見えない男と、美女のお付きの銀髪の少女が顔を引き攣らせているが、当人達は気付いた風もない。 新国立競技場の惨劇を知った十兵衛は、最初はアーサー・シロタとかいうオッさんが運営しているサイトが、会場の様子を写しているという書き込みを当てにして会場の様子が判るかと覗いてみればとんだ大外れ、 下半身が炭化し、矢が突き立った神谷奈緒の死体や、完全に炭になって誰だか判ら無い死体。砕けて潰れて泥の様になった人体などが映されているだけだった。 思わずスマフォに罵声を浴びせる十兵衛。 バージルがカメラを破壊した上にNPCが全て逃げてしまった為に追加の映像が無いのだが、そんな事は露知らず、「管理人が悪魔にでも喰われりゃ良い」などと毒吐く十兵衛だった。 そして諦めて、面白そうな動画を探していると、この映像に行き当たったのだった。 “カービィvsタッコング” そんな感想を十兵衛が抱いたのを見計らったかの様に待ち人がやって来る。 「十兵衛〜お待たせ〜」 凡そ緊張感を感じさせない美声の主は比那名居天子。少年─────佐藤十兵衛のサーヴァント。 新国立競技場で起きた惨劇を知った十兵衛は、競技場にサーヴァントが殺到することを予測。霊体化した天子を派遣して観戦させていたのだった。 「おお、どうだった?」 スマホをしまって訪ねる十兵衛。実際問題として十兵衛はそこまで期待してい無い。二丁目の戦闘を目撃した際も、あまり要領を得ない答えを返して来たからだ。 尤も、実際に戦うのは天子である為、観戦させておいても損は無いだろうと考えてはいる。 此奴が見た事を実戦で活かせるかどうかについては際限無く不安に思っているが。 「ん〜一応見て来たんだけど。前にも言ったけれど、遠くのものを見るのは自信無いのよ」 そもそもが見つかる事を避ける為にかなりの距離から見ていた事も有り、「そんなに精確に観れるとは思わない事ね」とは天子自身の言である。 そして語りだした内容は、十兵衛で無くとも戦慄するものだった。 凡そ原型を留めぬほど肉体を破壊されても平然と戦い、遂には肉体を消し去られても復活した黒礼服のバーサーカー。 マスタースパーク─────相変わらず何の事か判らなかったが─────よりも強力な閃光放つクリストファー・ヴァルぜライド。 四枚の翼を操り、凡そあらゆる攻撃を放った痴女みたいな格好の女。 気象を操り衣玖みたいな─────だからなんだよイクって何か響きがエロいけど─────雷落とす女。 紅白巫女みたいに─────だからわかんねーっての─────攻撃を透過する少年。 クリストファー・ヴァルゼライドに不意打ちを決めた虹を操る少女。 あの戦場に集った魔人達を縛った、不思議な歌を歌う少女。 そして、十兵衛が知りたかったサーヴァントの情報と、無視など到底出来ぬ重要な情報。 銃と剣と瞬間移動と良く判ら無い防御法を駆使して縦横無尽に戦い、異形の姿に変貌するライドウが従えるセイバー。 そのセイバーと互角に戦った瞬間移動と飛ぶ斬撃と虚空に出現する剣を飛ばす、これまた異形の姿に変貌するセイバーそっくりな何か因縁の有る剣士。 そして─────十兵衛の目下の同盟相手、塞が従えるサーヴァント、鈴仙・優曇華院・因幡の師。月の賢者八意永琳。 それらの強者達をどうやってか纏めて行動不能にしたオレンジ色の服着た少女。 最後に現れた、競技場を消し去った少年。 「あのオッサンのサーヴァントの師匠って……お前の処から来過ぎだろ!!?」 英霊とやらが何れだけ居るか知らないが、幾ら何でも多過ぎる。単に幻想郷とやらが多士済々なだけなのか? 「私が知る訳ないでしょう。それにしても面倒なのが出て来たわね」 十兵衛は天子の発言に聞き捨てならないものを聞いた。「面倒?」この自信満々な傲岸不遜を絵に描いたような女が「面倒」。 「其奴はそんなに強いのか?」 「さあ?手の内がさっぱり判らないからなんとも言えないけれど。幻想郷でも上位に入る顔触れを纏めて捻った綿月姉妹の師だから、相当強い筈よ」 「何だそりゃ?東方不敗か何かかよ?」 まあ髪型は似ているが。 「誰それ?とにかく、心しなさい十兵衛。あそこに居たのは全員油断していると足元を掬われる相手よ」 天子が見た処、一番弱いのは虹を使う少女だが、紅と蒼の二人の魔剣士の猛攻を凌ぎ切り、剰え蒼いコートの方の技を盗んで反撃し、 その後八意永琳を初めとする強者達に盛大に袋叩きにされても防ぎきったクリストファー・ヴァルゼライドに、完璧な不意打ちを決めるというのは尋常では無い。 紅魔館のメイドの様に時を止めた明けでは無い。おそらくは覚の妹の方の様な能力持つのだろうが、あれは厄介だと思う。 何しろ自分でも多分防げない不意打ち、十兵衛に矛先が向けばどうしようも無い。為す術無く己は退場させられるだろう。 ─────だが、それでも。 「安心しなさい十兵衛、勝つのは私よ。私が敗北するなんて事はありえ無いんだから」 傲慢とも言うべき確信を持って断言するその姿を見て、十兵衛は安心感を─────抱いたりはしなかった。 十兵衛の抱いた感想は、“世紀末救世主をチビヤロウ呼ばわりして、自信満々で挑んだ元プロボクサー”。或いは“某地上最強の生物に目をつけられたムエタイ”といったものだった。 どう転んでもあべしするかジャガられるかの未来しか見えない。 取り敢えず何か言ってやろうと思い、口上を考えていると、突如として轟音が響き、クレセント・ハイツが直下型地震にでも遭ったかのように激震した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 人の居ない方へ居ない方へと移動を続けたザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドは、人気の無い寂れた場所に来ていた。 群がって来る野次馬や、逆に避難する者たち、道路を封鎖する警官を避けて移動するうちに、南榎町の一角に辿り着いていた。 移動しながらヴァルゼライドの手傷を癒してはいるものの、余りにも損傷が酷く、癒えるのは相当の時間と魔力を費やさねばならない様だった。 ヴァルゼライドは全く意に介しておらず、意気軒昂だが、ザ・ヒーローとしては看過できる傷では無い。 それに、魔力の消費も無視出来無い。ザ・ヒーローが今後の事を考え、僅かに焦燥を抱いていると、不意にザ・ヒーローの背筋を悪寒が走り抜けた。 無言で大きく前方に飛ぶザ・ヒーロー。ヴァルゼライドも同じであったらしく、並んで飛びながら、宙で身を捻って180度向きを変え、最優先で修復した刀を左右の手で抜きガンマレイを纏わす。 同じくヒノカグツチを抜き、宙で方向を転換し構えるザ・ヒーロー。 そして二人の足が未だ地につかぬうちに、天空より飛来した銀色の影が、先程まで二人の居た地点に着弾。 アスファルトの路面が20m範囲に渡って砕けて大穴が空き、更にその周囲の路面が70m程陥没し、爆弾でも投下されたかの様な音と震動が生じた。 音速を超えて飛来する瓦礫を撃ち落としながら再度後方に飛びす去るザ・ヒーロー。 隣で同じ様に飛びす去るヴァルゼライドが、着弾地点目掛けガンマレイを放つ。 生じた土煙も未だ飛来する瓦礫も消し飛ばし、穿たれた穴に着弾したガンマレイが再度の爆発を起こし、上空数百mにまで噴煙と土砂を噴き上げ、周囲に瓦礫を降り注がせる。 ─────!? 何かを感じたのか、咄嗟に後ろを振り向くヴァルゼライド。その顔面に勢い良く拳が叩き込まれ、ヴァルゼライドをガンマレイにより更に広がった穴の中に叩き込む。 即座に反応したザ・ヒーローがヒノカグツチを薙ぎつけるが、真紅の剣身が斬撃を阻み、ザ・ヒーローの攻撃と同時に放たれていた前蹴りが、ザ・ヒーローを蹴り飛ばした。 瞬時に15mも飛ばされた処で、地にヒノカグツチを突き立てて急制動をかけ、5m程の溝を地に刻んでザ・ヒーローは停止した。 間髪入れず、穴の中から崩落する瓦礫を足台として踏み抜いたヴァルゼライドが躍り出て、ガンマレイを纏った双刀を勢い良く振り下ろすが、既に場所を移していた襲撃者を捉えられず、路面に鍔元まで刀身を埋め込むだけに終わった。 「何者だ」 ザ・ヒーローが問う。〈新宿〉で今まで対峙した相手に対し、ザ・ヒーローが声を掛けるのはこれが最初。相手の返答など最初から期待していない。仕切り直す為の時間稼ぎだった。 「クリストファー・ヴァルゼライド………。俺はお前を殺しに来た」 問いに対する答え。返した者は総身を銀の鎧で覆い、髑髏を思わせる蝗の様な頭部に、エメラルド色の瞳を鈍く輝かせた剣士。世紀王シャドームーンに他ならなかった。 「お前も糞蠅の様に、楽に勝ちを貪りに来たのか」 立て直したヴァルゼライドが、鋼が軋むような声で問う。先刻の蝿の王を思い出して怒りに再度火が着いたのか、刀身に纏ったガンマレイが輝きを増した。 「ならば最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントを狙っている」 シャドームーンの答え。これは真実その通りで、最初に空を飛んで逃げた女のサーヴァントこと八意永琳、彼女とといえども、 上空数百mの高さで、マスターである志希を抱えた状態でシャドームーンに攻撃されれば、確実に敗北していただろう。 シャドームーンが攻撃しなかったのは自分以外に覗き見ていた者の存在を認識していた為だ。 だが、この男だけは見逃せぬ。この〈新宿〉のちに顕現した者共は、世紀王シャドームーンといえども敗北して地に伏すかもしれぬ魔人達。 だが、それら総ては、聖杯への途上にある障害でしかない。 只この男一人を除いては。 クリストファー・ヴァルゼライド。シャドームーンが只一つの座に至る為に戦い、そして敗れたRXの様に、条理を捻じ曲げ不思議な事を起こしてのける男。 シャドームーンは思うのだ。この男を避ける様では、この男一人を斃せぬ様では、己は到底RXの前に立つ事など出来ぬと。この男の輝きを上回れぬ様ではRXもまた上回れぬと。 此処に世紀王シャドームーンは、クリストファー・ヴァルゼライドを『敵』と、聖杯への途上にある障害では無く、己が何としても打ち斃さねばならない『敵』 と認識した。 「お前を斃した際の褒賞の令呪など知らぬ。俺は俺の大願に掛けて、クリストファー・ヴァルゼライド、お前を殺す」 シャドームーンの言葉と共に放出される極大の殺意と戦意。この前には言葉など一切不要。世紀王が不退転の意思を以って、光の英雄を斃しに来たと、見るもの総てに悟らせる。 「貴様には貴様の願いが有り、その為に聖杯を欲しているのは理解した。貴様は大願成就の為に、俺を殺しに来たことも。」 ヴァルゼライドが一刀を青眼に構える。一刀?今彼は両手に一振りづつ刀を持つのでは無く、両手で刀を握りしめていた。 「その決意、受け止めよう。だが、お前の大願が俺の屍の先に有る様に、俺の願いもまた、お前の屍の先に有るのだ」 両者の間に満ちる戦意が、二人の間の空間を軋ませ。二人の身に纏う殺意が、二人の周囲の空間を陽炎の様に歪ませる。 「刃を交えずとも判る、お前は強い。対する俺は傷付き、疲弊している。だが、それでも─────」 ヴァルゼライドの握る刀身が更に光を増していく。シャドームーンの全身に纏う魔力が目に見える程に濃密さを増していく。 「─────勝つのは俺だ」 クリストファー・ヴァルゼライドが断言するのと 「そうでなければ殺しに来た意味が無い」 クリストファー・ヴァルゼライドの言葉を予感していたかの様に、シャドームーンが告げたのは同時。 そして─────二人が動いたのもまた同時。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヴァルゼライドが納刀していた一刀を猛速で抜刀する。新国立競技場でバージルの次元斬から習得した剣技で先手を取りに行ったのだ。 無論この一撃が本命という訳では無い。先程の攻防からシャドームーンが空間移動を使い、まともにガンマレイを撃つだけでは回避されることを本日のこれまでに至る戦闘経験から推測。 先ずはシャドームーンの動きを止め、その後に必殺の威力を持つガンマレイを叩き込むつもりだった。 空間に無数の光条が刻まれる、本命に繋げる為の攻撃とはいえ光の一筋一筋に宿る威力と込められた意志は紛れも無く必殺。この攻撃で決着を見てもおかしくは無い。 だが、その時既にシャドームーンは動いている。無論、ヴァルゼライドの方に向かってだ。右手の長剣を真っ直ぐ突き出し、キングストーンの膨大な魔力を足に籠めて爆発が生じたかの勢いで路面を蹴り、、 一直線にヴァルゼライド目掛けて突撃する様をダンテやバージルが見れば驚いただろう。威力は落ちるが、その動きはまさしくロキが創った異界の中で、紅い魔剣士が使用した『スティンガー』に他ならない。 虚空に虚しく刻まれた光条を背に、50mの距離をコンマ一秒と懸からずシャドームーンはヴァルゼライドに突っ込む。 此れにヴァルゼライドは即座に反応、鮮烈に輝く刀身を振るい、真紅の長剣ごとシャドームーンを撃砕せんとする。 此処でシャドームーンは再度大地を蹴って加速。振り下ろされる刃よりも速くヴァルゼライドを刺し貫き、長剣に籠めた暴力的な魔力を流し込んでその肉体を四散せしめんとする。 シャドームーンの速度と動きを完全に見切って迎撃を行い出した刹那の加速。振るい出した刀に更に速度を込めるにはもはや遅い。 だが、それにも対応する事を可能とするのが、クリストファー・ヴァルゼライドの積み上げてきた研鑽と蓄積してきた経験。 更には聖杯戦争という、魔戦の場で研磨された感覚の為せる技だった。 シャドームーンを斬り伏せる為に踏み出していた足を引き戻し、本来踏み降ろす位置より手前に降ろす。 此れによりヴァルゼライドの歩幅は狭まり、斬撃の描く弧が変わり、丁度加速したシャドームーンの脳天を直撃する線を描いた。 シャドームーンの突きも己に刺さるだろうが問題無い。己は只刺されるだけ、相手は頭を撃砕されて絶命する。 こちらは生き、向こうは死ぬ。 この迎撃をシャドームーンは予測していたわけでは無い。だが、新国立競技場での一戦を見ていれば判る。この程度の攻撃に即応出来ぬ程、この英雄の技量は低くは無いと。 事実、ヴァルゼライドは即応し、シャドームーンに致命傷を与える斬撃を放ってきた。 此方の突きもヴァルゼライドを捉えるが、致命傷には至らない。 シャドームーンは敗死し、ヴァルゼライドは勝って生き延びる。 だが、ヴァルゼライドの刀は再び虚空を断った。 種は至極簡単で、迎撃されることを確信していたシャドームーンが空間転移を行った為だ。 しかも悪辣此の上ないことに、長剣を手から放した上で空間転移を行っている為、慣性に従い長剣は真っ直ぐヴァルゼライドの胸目掛けて飛来している。 握る者が居ないとはいえ、鋼すら貫く勢いの剣身に、何とか刀身を叩きつけ、防ぐことに成功するヴァルゼライド。 同時に周囲を白く染め、轟音が半径50mに渡って、建物の窓ガラスを粉砕し、地と空を伝った爆発の衝撃が数百範囲の建物を震撼させた。 シャドームーンが予め剣身に纏わせていた魔力が、ヴァルゼライドの持つ刀身に纏うガンマレイと反応し、爆発を起こしたのだとヴァルゼライドに思考する暇があったかどうか。 地面と水平に後方に飛んでいくヴァルゼライドの上方にシャドームーンが出現。ヴァルゼライドの援護に動こうとしたザ・ヒーローをシャドービームで牽制。ヴァルゼライドには今だ手に持つ短剣を投擲する。 ザ・ヒーローがシャドービームをヒノカグツチで切り払うのと同時、ヴァルゼライドもまたガンマレイを纏った刀で短剣を払い除ける─────のとシャドームーンにガンマレイを放つ事を同時にやってのけた。 この攻防一体のヴァルゼライドの動きにシャドームーンはまたしても瞬間移動で対応。立て直して地に二条の溝を20m程刻んで止まったヴァルゼライドに、上空から念動力を叩き込む。 一度目、路面の広範囲に渡って太い亀裂が入った。 二度目、路面が大きく陥没した。 三度目、路面が砕け、下を走る下水道にヴァルゼライドが落下した。 シャドームーンの周囲の空間が揺らめく。無数の真紅の剣がシャドームーンを囲む様に出現。ヴァルゼライドが消えた穴目掛け殺到する。 剣の群れが穴に突入するかどうかといった処で、黄金光が真っ直ぐ天目掛けて上昇。剣の群れの悉くを蒸発させた。 黄金光が収まるより早く、ヴァルゼライドが穴の中から飛び出し、路面に降り立つ。 その前方5mの処に、再度両手に長短の剣を持ったシャドームーンも着地。二人は静かに、それでいて必殺の意思を籠めて睨み合う。 此れだけの濃密な攻防を僅か5秒にも満たぬ間に行った両者は、未だに些かの揺らぎも見せていなかった。 「ムンッ!」 「オオオオオオッッ!!」 再度同時に踏み込む。路面が砕ける程の勢いで踏み込み、互いに手にした武器を振るう。 激突した刃が音の域を超えた衝撃波を放って、周囲を揺るがす。 両者は互いに有利な位置を求めて動き、再度繰り出される刃と刃が激突し、生じる火花と衝撃波。 秒の間に撃ち交わす50余合、無数の火花が二人を彩り、衝撃波が周囲の建物と路面を破砕する。 凡そ地力で大幅に劣る─────それこそシャドームーンが本戦開始直後に撃破したバーサーカーとさして変わらぬクリストファー・ヴァルゼライドが、 力も技もヴァルゼライドの上をいくシャドームーンと此処まで拮抗できるのは何故か? 気合と根性で力を振り絞る─────処か増幅させているのもあるが、本戦開始以降最も多く戦闘を経験して来た、というのが大きい。 人という種の持つ最大の強み。人類をして万物の霊長足らしめるもの、全ての生物を比べた時、『脆弱』という言葉で語れる人類を地上の覇者足らしめたもの。 経験の蓄積と、技術の研鑽、そして体験した事象に対する思考である。 ヴァルゼライドは今まで戦い経験した者達の技を、何度も脳内で反芻しては思考し、模擬戦闘を繰り返しては勝利する術を得ようと努力し続けていた。 シミュレーションに有りがちな己に有利な夢想など一切排した模擬戦闘は、結果としてヴァルゼライドの技量を極短時間で向上させ、〈新宿〉に顕れた魔人達の技の模倣すら可能とさせたのだ。 ダンテの、バージルの、タカジョーの、ライドウの、果ては人修羅に至るまでの人の域を越えた技を、 己が今までに積み上げた技術と蓄積した経験とを以って、己の技とアレンジして使いこなすヴァルゼライドの技量は、最早今朝公園でタカジョー及びパスカルと戦った時の比では無い。 地力で遥か上をいき、極限域を越えた武技を持つシャドームーンと互角に斬り結ぶ程に。 二人の剣撃は全くの互角。このまま一日中刃を交えてもケリが着くとは萌えない。 この均衡を崩すべく此処でザ・ヒーローが参戦する。 己に殆ど意識を向けないシャドームーンが、宣言通りヴァルゼライドを殺すことに執着している事を理解したザ・ヒーローは、積極的というよりも大胆に仕掛けていった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 二振りの真紅の剣が同時に振るわれる。長剣はヴァルゼライドの首を薙ぎ、短剣はザ・ヒーローの燃え盛る剣を短剣で防ぐ シャドームーンとしては実に腹立たしい事態だった。 通常マスターはサーヴァントに対して、有効な攻撃手段はおろか、対峙して5秒と生きる術を持たぬ。 つまりはサーヴァントとサーヴァント、マスターとマスターが鉾を交えるのがセオリーなのだが、ザ・ヒーローはサーヴァントと互する力量と、サーヴァントを害せる武器を持つ。 通常のマスターならば捨て置いてヴァルゼライドに専念できるのだが、このマスターは放置すれば致命傷を負わされかね無い。 しかもザ・ヒーローは、シャドームーンの心情を理解して、防御を全く考えないで攻めてくる。 互いに全力を傾注した一対一で互角なら、二人に気を払わねばならないこの状況は、シャドームーンにとって絶対的な不利を齎していた。 だが、それでもシャドームーンは退かぬ。RXを撃ち斃す困難に比べればこの程度は気にもならない。 長剣で、受けたヴァルゼライドが後退する程の渾身の斬撃を見舞い、次いでザ・ヒーローの上段からの斬撃を短剣で跳ね上げて体を崩し、右膝膝に前蹴りを入れて蹴り砕き、ザ・ヒーローの動きを止めようとする。 対するザ・ヒーローは右足を上げて防御。シャドームーンが片足立ちという不安定な状態になった隙を逃さず、立て直したヴァルゼライドが左右の刀を振るう。 右は袈裟懸けに、左は右脚を狙った斬撃。方や必殺、方や行動に重大な損傷を与えて動きを止め、必殺の機を齎す攻撃。 どちらを受けても敗北必死な攻撃をシャドームーンは前方に跳躍し、ザ・ヒーローを飛び越えることで凌ぐ。 ザ・ヒーローが振り向くより早く着地を決めると、振り向き終わったザ・ヒーローを捕まえ、腹に膝を連続して撃ち込む。 三発目を入れた処でヴァルゼライドが横に周り、シャドームーンの背中目掛けて刃を薙ぎつけて来るのを、ヴァルゼライドにザ・ヒーローをぶつけて防ぎ、 ザ・ヒーローを上空に放り投げると、ヴァルゼライド目掛けてシャドービームを放射、ヴァルゼライドが切り払った隙を狙い念動力でヴァルゼライドを背後の廃マンションに叩き込む。 コンクリートの壁が砕けて崩れ、瓦礫に埋まったヴァルゼライドに追撃のシャドービーム。廃マンションが大きく揺らぐ勢いで、瓦礫ごと爆発炎上させた。 次いで跳躍し、上空のザ・ヒーローに拳を振るう。ヒノカグツチで受けたザ・ヒーローを、同じく廃マンション目掛けて殴り飛ばすのと、シャドームーンが先刻立っていた場所をガンマレイが通過するのが同時。 カシャンという、金属音の響き、地に降り立ったシャドームーンは油断無く再々度長短の剣を構え、ザ・ヒーローとヴァルゼライドも身を起こす。 そのまま三者は静止。飢えた獣ですら飢えを忘れて逃げだしそうな、凄惨無比な殺気が周囲に満ちた。 均衡を破ったのはヴァルゼライド。バージルから習得した技で空間に十数条の亀裂を刻む。 同じ様に前へと己の身体を撃ち出すシャドームーン。此れをザ・ヒーローがヒノカグツチを横薙ぎに振るって迎撃、 読んでいたシャドームーンは、短剣で受け止めると、突撃の推力と己が膂力とを併せてザ・ヒーローを弾き飛ばす。 ザ・ヒーローに迎撃されて、勢いを減じる処か更に増したシャドームーンにヴァルゼライドが一刀を振り上げる。 最初の攻防の焼き直しに見えるこの一幕。無論シャドームーン程の戦士がそんな事をする訳が無い。 ヴァルゼライドがシャドームーンの瞬間移動に備えて、左の刀を納刀し、脚に移動する為の力を蓄えているのは先刻承知。 ヴァルゼライドが裂帛の気勢と共に一刀を振り下ろす。その切っ先の前にシャドームーンの姿は在った。 何の事は無い、急制動を掛けて制止。ヴァルゼライドに空振りさせてから、隙を晒したヴァルゼライドに引導を渡すつもりなのだ。 この瞬間、ヴァルゼライドは─────シャドームーンの上をいった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ クリストファー・ヴァルゼライドがシャドームーンの上を行った攻撃は、クリストファー・ヴァルゼライドにしか為し得ぬものだった。 要はするに、競技場でバージルの幻影剣を防いだ時と同じ事をやっただけ、虚空に黄金光の膜を形成したのだ。 持続時間が秒にも満たぬとはいえ、空振りしたヴァルゼライドの隙を補い、ヴァルゼライドの首を落とすべく踏み込んだシャドームーンに痛打を与えるには充分だった。 苦悶の声をあげて後方によろめくシャドームーンに、ヴァルゼライドは真っ向から斬りかかる。 アスファルトの路面が砕け、足首までもが埋まる程の踏み込みから、脳天から股間まで唐竹割にする斬撃。 此れをシャドームーンは膨大な魔力を纏わせた左腕のシルバーガードで防御。凄まじい火花が散り、シャドームーンの左腕の処か、全身の関節を震撼せしむる衝撃が伝わった。 シャドームーンとヴァルゼライドが、バチバチと火花を散らせながら拮抗すること3秒。シャドームーンは全方位に念動力を放ち、 ヴァルゼライドと後ろから斬りつけようとしていたザ・ヒーローを退けた。 ザ・ヒーローが立て直し、ヒノカグツチを構え直す。 シャドームーンがマイティアイを爛と輝かせ、キングストーンの絶大な力を開放しようとする。 ヴァルゼライドが刀身に纏わせたガンマレイをより一層輝かせる。 その時─────天地が翳った ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 三人が死闘を繰り広げる路上の側に有る廃マンション、クレセント・ハイツの上空から、要石に乗った佐藤十兵衛と、その横に浮遊する比那名居天子は、眼下で繰り広げられる魔戦を見守っていた。 但し、十兵衛には何が起きているのか全く理解できていないが。 「どうするの?あれ」 「どうって言われてもなあ……」 十兵衛の基本戦略は情報収集と数の暴力による圧殺。此処で天子を投入するのは十兵衛の本意では無い。 だが、此処でヴァルゼライドを葬れば十兵衛が令呪を独占できる。 優勝を狙うのならば避けては通れぬライドウや、油断も信頼もならない塞といった面子に隠れて切り札を増やせる、というのは魅力的だった。 腕組みして考える十兵衛。 大体、今の処は目の前の相手に集中しているのと、距離を置いている所為で気付かれてはいないが、気付かれたら最後、ヴァルゼライドの放射能熱線で消し飛ばされるのは必至。 少なくとも、自分が安全地帯に移動するまでは何もしないのが賢いのだが、此処で問題になるのが“もし自分が離れて、天子を嗾けた場合。果たして此方の指示を聞くのか”というものだった。 一撃加えて退け。と命じても、無視して戦闘続行しそうな気質をこの少女は有している。 「それにしても、あのバーサーカー。放射能熱線出しまくるわ、あんな傷でも元気に戦うわ。G細胞でも植え込んでるのか?」 無論バイオじゃ無い方の。 「G細胞?」 訪ねてくる天子をスルーして眼下を見る。高い地力と多彩な能力とを持つ銀蝗のセイバーが、ヴァルゼライドを相手に手傷を負わされていた。 此処に十兵衛の肚は決まった。 「セイバー。俺を安全な場所まで運んでから、強烈なのを一発カマシてくれ。狙いはバーサーカーのマスター」 双方が傷付いたのなら得るべきは漁夫の利。強敵を労せず排し、令呪をコッソリ頂こう。 「私達は蛤と鷸を捕らえる漁夫という訳ね。任せなさい、天網恢恢疎にして漏らさず。一網打尽という言葉の意味を教えてあげる」 手に握るは天人にしか扱えぬ緋想の剣。〈新宿〉に顕現した英霊が持つ宝具の中でも上位に入る性質の剣を開帳すると、巨大な要石を造り出し、その上に乗った。 要石 ─────* 天 地 開 闢 プ レ ス 直径10m、重量にして100tを超える要石が、地上で対峙する三人に落ち行く様は、まさに争いを止めぬ愚者共に対し、天が下した罰か。 古典文学に詳しい者なら、ジョナサン・スウィフトの小説に登場する、空に浮かぶ国を思い浮かべたかもしれない。 地上の三人が上を見上げたのが同時。 燃え盛る剣を持った男が要石の下から走って逃げようとし。 輝く剣を持った男が両手の光刃を振り上げ。 銀蝗の剣士の姿が描き消える。 そして─────落下した要石が路面を貫き、下水道すら粉砕し、完全に路面に埋まってから、緋想の剣を持った天子がドヤ顔で誰も居なくなった路上へと降り立った。 周囲に有った建造物が、要石の落下の際の激震と路上の陥没に伴い、大きく傾いでいるが気にした風も無い。 その時、天子の遥か上空から銀色の影が極音速すら超えて落下してくる。その様は、人が近い未来に於いて実現するであろう神威の兵器。“神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)”さながらのものだった。 回避も要石を用いた防御も間に合わぬ程に迫った処で、漸く気付いた天子が緋想の剣で銀影を受け止める。 隕石の落下にも匹敵する轟音は、衝撃波と化して周囲の建物を撃ち震わせ、耐えられなかった建物を倒壊させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ カシャン。という音と共に大地を踏みしめるシャドームーン。先刻までの戦意は消え失せ、凄まじい怒気を宿して、天子が立っていた場所に穿たれた大穴を睨め付けた。 「絶えて滅びよ、道化」 忌々しげに呟くと、念動力で天子を穴の底から引き摺り出した。 右の拳を真直ぐに引く、エルボートリガーを作動させることなどしない。 RXとの再戦の為の儀式、己がRX前に立つ為に避けては通れぬ相手との一戦に、巫山戯た乱入をしてきた女に、シャドームーンは激怒していた。 この怒りは乱入者を、死ぬまで殴って殺しでもしなければ晴れはしない。 穿たれた穴の底から天子がゆっくりと引き上げられてくる。 見る者が居れば、シャドームーンの風貌も合間って、宙に釣り上げられた天子は魔神に捧げられた美しい贄を思わせたに違いない。 その眼に烈しい戦意を湛え、身体の周囲に要石を旋回させていなければ。 「今のは…大分痛かったんだから!!」 ─────要石 カナメファンネル 天子の怒りの声と共に、天子に周囲を旋回していた要石がシャドームーン目掛けて猛進。シャドーセイバーを振るっての迎撃を嘲笑うが如く展開し、シャドームーンを包囲すると、凄まじい勢いで光弾を射出し始めた。 「ヌゥオオオオオオオ!!!」 全方位からの弾幕を浴び、全身に火花を散らせて怒声を上げるシャドームーン。然し、直線上に位置する天子とシャドームーンで射線が重なる為に、真後ろにだけ要石が配置されていない事を即座に看破、スティンガーを模した動きで一気に天子との距離を詰める。 前方に突き進むことで弾幕から逃れ、天子との距離を詰める。この二つの行為を一つの動作で行う動き。 今だシャドームーンの念動力に捉われた天子にこの攻撃を防ぐことも躱すことも叶いはしない。 「ゴフッ!?」 胸に撃ち込まれる拳の一撃、エルボートリガーもシャドーセイバーを用いなかったのは、やはり怒りの所為だった。 更に振るわれる拳の連打。肝臓、胃、鳩尾、心臓、喉、と急所に連続で撃ち込んで天子に苦鳴を吐かせ続け、最後に大きく右拳を弓引いた。 弓引いた右の拳に赤熱の魔力を纏わす、放つは必殺のシャドーパンチ。頑強な肉体を持つ天人といえども、この一撃を受ければ頭が砕けて死に至る。 拳が放たれようとした時、攻撃に間が生じた機を逃さず、天子がカナメファンネルを再度操り、シャドームーンの背中に連続して要石を直接叩き込む。 シャドームーンの背中に連続して火花が散り、よろめいたシャドームーンに今度は正面からありったけの魔力弾とレーザーを射出。 シャドームーンの姿が火花の向こうに消える程の弾幕を生成し、シャドームーンを後退させる。 此処で念動力による拘束が緩んだ事を認識した天子は、全力で拘束を振り切り大きく空中へ飛翔。30m程の処に浮遊すると、再度カナメファンネルを展開し、 自身の放つ魔力弾、レーザー、要石及び、カナメファンネルの魔力弾で濃密な弾幕を形成した。 幻想郷の弾幕ごっこだと反則必至の隙間の無い魔力弾とレーザーの嵐。 回避など出来よう筈も無く、防いだ処で雨霰と降り注ぐ攻撃に削り潰される。手数と威力に物を言わせた弾雨を、念動力の壁で防ぐシャドームーンの周囲が、陽炎のように揺らめいて無数の剣が形作られていく、その全ての切っ先は、シャドームーンの殺意を示すが如く天子の方に向いている。 念動力の壁が凄まじい勢いで削られている事を全く意に介さないシャドームーン、 シャドームーンの緑色の複眼が禍々しい光を放つと、一つ一つが膨大な魔力で形成された、無数の刃が天子めがけて殺到する。 天子の弾幕が雨ならば、此方はさしずめ剣の嵐。雨を蹴散らし呑み込んで、雨の元たる不良天人を斬り刻み、肉体を塵と散らして弾雨を止めんと宙を舞う。 並のサーヴァントならば、死命を制されていただろうが、そこは弾幕の撃ち合いには慣れっこの幻想郷の住民である比那名居天子、飛来する剣を回避し、カナメファンネルをぶつけて防ぎ、緋想の剣で薙ぎ払う。 顔面目掛けて飛んできた最後の一本を回避したのを最後に、撃ち止めになった事を認識し、防御の為に使い潰したカナメファンネルを再形成したその時、 背中側に在ったカナメファンネルが突如として砕け、反射的に身を捻った刹那、首筋を掠めて、さっき躱したばかりの剣が通過、処女雪の様な白い肌から紅い血の珠が飛散した。 シャドームーンは最後に放った剣に念動力を纏わせ、天使に回避された剣の向きを変えて、背後から襲わせたのだった。 天子がこの攻撃を凌いだのは、幻想郷での弾幕ごっこでは、躱した後背後から飛んでくるという攻撃はさほど珍しく無いからだが、 それにも関わらず刹那の差で致命傷を負わせる攻撃を行ったシャドームーンの技の冴えよ。 差し伸べられた右手に自然に収まった長剣、シャドーセイバーを構えて空中の天子を睨みあげるシャドームーン。 緋想の剣を手に、身体の周囲に要石を旋回させ、地上のシャドームーンを睨みつける天子。 天子が再び弾幕を放とうとし。 シャドームーンの周囲に陽炎が生じたその時。 要石の埋まった場所から、彼らのいる方向へと向かって、直線距離にして数百mの距離に渡って地面が爆砕、その先の1km近くが煮えたぎる灼熱の溶岩と化した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 要石を壁にして、噴き上がる土煙と瓦礫を避けながら天子は見た。地面に埋まった要石の頂点部分が閃光を放つのを。 光の柱が天地を繋ぎ、要石が内部からの光圧に耐えかねたかの様に千々に砕けて四散する。 その様は地中深くに封じられていた破壊神が、封を破って地上に躍り出ようとする瞬間に天子には見えた。 果たして閃光に灼けて眩む天子の視界の中を舞ったのは、黄金の英雄クリストファー・ヴァルゼライド。遍く邪悪を憎んで許さず撃滅する英雄だった。 「嘘でしょ………」 最早天子はヴァルゼライドが人類種とは信じられなくなってきた。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。 無論、ヴァルゼライドが健在なのには種が有る。ヴァルゼライドとてあんな巨岩に潰されれば死ぬ。 岩が直撃する寸前に振り上げた双刀に纏わせた黄金光の熱で、要石の自身と接触する部分を蒸発させ、砕けた路面と共に地下へと落下。 その場でガンマレイを放ち、地下からの一撃で乱入者諸共シャドームーンを消し飛ばそうと目論んだのだ。 その目論見は一応の成果を見せ、シャドームーンをこの場より消し去った。 だが、その代償は果たして成果に応じたものか?もとより満身創痍の上に、シャドームーンの猛攻に晒されたヴァルゼライドの身体は、最早死に体というものを通り越し、生きて─────現界を保てる事自体が理不尽な程の傷を負っていたのだ。 そこへ更に岩盤が蒸発したことによる、溶岩など比較にならない高熱のガスに身を浸していたのだ。ヴァルゼライドは人の英霊だ、吸血鬼でも蓬莱人でも無い、 にも関わらず五体が─────酷く傷付いているとはいえ存在し、動けること自体が異常此の上無いのだ。 ヴァルゼライドを見る天子の眼は、真性の怪物を見るそれだった。妖怪や神が其処いらで酒盛りしている幻想郷でも、天子が此の様な目で他者を見たことなどはない。 「あの銀のセイバーは消えたか、残るはお前だ。俺の願いの為、永遠の人理の繁栄の為に此処でその命を終えてもらう」 黄金光を纏わせた双刀を構えるヴァルゼライド。確かにダメージは受けている。傷の痛みと体機能の損傷はヴァルゼライドを苛んでいる。 それでもこの英雄は止まらない。有限の魔力体力では無く、無尽蔵の気合と根性で、壊れた/壊れつつある身体を支え、天子を斬ろうと動き出す。 「貴方はさっき“全ての悪の敵となり、全ての『善』と全ての『中庸』から『悪』を遠ざけ、彼方にて悪を断罪し続ける裁断者となる”そう言ったわね。 過ぎたるは猶及ばざるが如し、薬も過ぎれば毒となる。この世が病人だとするならば、貴方は過ぎた薬で、そして悪だわ。病魔を絶やしても病人を死なせる薬なんて意味が無い」 対する天子も緋想の剣を構え、身体の周囲にカナメファンネルを旋回させる。 新国立競技場でのヴァルゼライドの雷声は、 遮蔽物が無いというのもあるだろうが、かなり離れて見ていた天子の耳にも届く大音声だった。 そのヴァルゼライドの宣言に嘘偽りが無い本心からの言葉であることは天子にも理解できる。 そしてその在り方が有害極まりないことも、戦い方を見ていれば理解できる。 「だろうな。確かに俺はこの世界にとっては毒だろう。だが、毒であるからこそ病魔を駆逐する事が出来る。毒である俺が此の身を処するのは、全ての病魔を駆逐した後の事だ」 天子の言葉に返し終えた時には、既に双刀は黄金光に激しく鮮烈に輝いている。 ヴァルぜライドは天子の言葉が正しいと理解している。だがそれでも英雄は止まらない。只真っ直ぐに征き、そして理想成就という勝利を得て死ぬのみだ。 その決意と想いを刃に乗せ、クリストファー・ヴァルゼライドは比那名居天子を屠るべく動き出した。 方や地を操り天に住まう少女。 方や地に生き天罰の具現とも言うべき黄金光を放つ英雄。 生きる場所も、使うものも対照たる二人は、今天地に分かれて争覇する ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 天に浮かんで、地に聳え立つヴァルゼライドと対峙した天子は迷うこと無く地に降りようとした。 亜光速のガンマレイはその速度故に発動モーションを見て、放たれるより前に回避するしか無いが、飛翔速度が其れ程速くはない天子では、回避しきれ無い可能性が高いのだ。 防ぐことなど無論出来ず、回避も宙にあっては難しいとあれば、地に降りるのは理の当然。飛翔したままで、ヴァルゼライドの剣技を封じるという利点より、不利の方が大き過ぎる。 天子の動きにヴァルゼライドは、右手に握った星辰光の発動媒体であるアダマンタイト製の刀を振るう。 ヴァルゼライドの動きに、ガンマレイの発動を予感した天子は即座にカナメファンネルから光弾を射出しつつ、要石を蹴り抜き横っ飛びに移動。死光の射線上から身を避ける。 だが、そんな事はお見通しだとばかりのヴァルゼライドの一手。右は陽動、本命の左が、バージルの次元斬を模したガンマレイを発動する。 偽攻に釣られた天子に回避する術は無く、如何に頑強な天人の肉体といえども、極熱の放射能光を直接身に刻まれれば絶命するより他にない。 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」 天子が助かったのは、放ったカナメファンネルの一弾が偶然ヴァルぜライドの左腕を直撃。技の威力を鈍らせ、狙いを狂わせた為だった。 それでも右足を掠めた死光に、まともに声も出せずに苦悶し、地へと落ちていく。 天から落ちた天人は、只人にすら組み伏せられるのは各地に残る伝説が語る通りだ。 ましてや天子を地に引き摺り下ろしたのは、人類種に於ける最大の異常者(えいゆう)クリストファー・ヴァルゼライド、比那名居天子の命運は此処に窮まる─────事は無かった。 ─────気符 無念無想の境地。 如何なる攻撃を受けても怯まず退かぬ天子の闘法。一説によれば“只気合と根性で耐えているだけ”とされるだけの代物であるが─────鬼の猛打にすら引かずに制圧前進出来る頑強さをこの少女の華奢な身体は有している。 つまりは、比那名居天子は、死光の直撃を受けたのならば兎も角、光条が足を掠めた程度では倒れ伏すことも止まることもないのだ。 天に留まった天人は、その人という種とは比べられぬ程の頑強さを以って黄金の死光に耐え、大地を両の足で踏みしめて、殺到してくるヴァルぜライドを迎え撃つ。 「人間五十年。下天の内を比べれば、夢幻の如くなり。私(天人)から見れば一瞬にも満たない生で、幾ら功を積み上げても、天には届か無いと知りなさい!!」 緋想の剣を青眼に構えて天子が啖呵を切る。 「笑止。人が武技を研鑽し積み上げてきた歳月は、猿人同士が殺しあった時から始まっているッッ!!貴様がどれほどの生を生きたかは知らぬが、人という種を甘く見るなッッ!」 言葉とともに繰り出される黄金剣を、天子は橙色に燃え盛る剣で受ける。 「そっちこそ!種の違いを知りなさい!!」 緋想の剣で斬り返す。ヴァルゼライドは左手の刀で受け、天子の首目掛けて右の刀で刺突を放つ。 上体を横に振って躱した天子に、繰り出した刀を横薙ぎに振って追撃。膝を曲げて屈んだ天子が地に緋想の剣を突き立て、ヴァルゼライドの足元から要石を出現させる。 当たれば腰から下が骨と血の混じった肉塊と化した奇襲を、ヴァルゼライドは跳躍することで回避、追う様に下から迫る要石を更に蹴って飛翔。上方から天子目掛けて襲い掛かる。 天子は咄嗟にレーザーを数条放ち、ヴァルゼライドの身体を穿つが、頭部だけを護って突っ込んだヴァルゼライドは天子の脳天目掛けて、太陽の如き輝きを放つ刃を振り下ろす。 受け止めた天子の足元の路面が、割れ砕けて大きく陥没する程の一撃。 「鬼並みじゃない!!?」 シャドームーンと交えていた時よりも、上昇しているヴァルゼライドの膂力に驚愕する天子だが、そんな呑気な事をしている暇は無いと、刹那にも満たぬ後に思い知る。 頭頂から股間まで両断し、踏みしめている地殻ごと打ち砕かんと振り下ろされる上段からの斬撃。 胸を貫く─────どころか当たった部位を中心に、肉が骨が吹き飛んで大穴が開きそうな突き。 万年の大樹の幹を枯れ枝の様に撃砕する剣威の薙ぎ払い。 それら全ての動き一つ一つが複数の変化を秘め、全ての動きは自然に繋がり、淀みない連続技─────どころかたった一つの動作にを緩慢に行っている様に見える程に超高水準に連結された動き、双刀を存分に駆使したこの剣嵐を、要石を併用しているとはいえ、殆んどを只一振りの剣で支える天子の身体能力こそ讃えられるべきだろう。 それでも、服の各所に焦げ目が生じているのは、凌ぎきれずにグレイズしている為だった。 そんな窮状にありながらも、天子あ半歩も下がってはいない。両足は同じ場所を踏みしめたままヴァルゼライドの猛威を耐えしのいでいる。 其れは天人としての意地か、下がらずに耐えれば即座に反撃に移れるという計算か。 それも有るが、やはり死光の掠めた右足の損傷が無視できず、この猛撃のさなかに僅かでも下がればそのまま押し潰されると理解している為だ。 受け、弾き、捌き、躱し、その合間を縫ってレーザーや要石で応戦するも、悉く黄金に燃え盛る双刀に阻まれ、当たっても英雄の勢威を微塵も揺るがせることもできはしない。 誰の眼から見ても劣勢─────どころか敗勢にある天子だが、その眼に宿した戦意に僅かの曇りも無い。 裂帛の気勢と共に振り降ろされた黄金剣を緋想の剣で受け流す。天子の足元がひび割れる。 喉笛を貫き、剣勢で首を宙へと飛ばす程の突きを、緋想の剣を横からぶつけて逸らす。天子の足が砕けた路面に僅かに沈む。 壮絶無比の剣撃が伝える衝撃は、天子の身体を伝わり、元々傷んでいた路面を更に破壊していく。 そして遂に放たれる、受けた剣ごと両断し、剣が持っても剣を支える腕が撃砕される剣威の真っ向上段からの斬撃。 此れを天子はヴァルゼライドの刀を握る右手に要石を連続してぶつけることで対抗。刀こそ手放さぬものの。流石に威力を減じた斬撃を受け止める。 同時、形容し難い音とともに天子の足元の路面が砕け足首までが地に埋まった。 同時に繰り出される首を狙った左の横一文字。天子の首を斬り飛ばす処か微塵と砕く威力を乗せた刃が、音を遥かに超えた速度で迫る。 死地に落ちた天子にこの絶殺の斬撃を躱す術無し、受けたところで押し切られて首が飛ぶ。 此処に比那名居天子は〈新宿〉の聖杯戦争に於ける最初の脱落者に─────なりはしなかった。 空間をすら断裂する勢いで黄金に輝く刃が虚空を薙いだ時、天子の頭はヴァルゼライドの膝より低い位置に在った。 自分の踏んで居る場所が砕けつつあるの当にを感知していた天子は、路面が砕けて身体が沈んだと同時に膝を曲げ、上体を地面に伏せて、ヴァルゼライドの刃を躱してのけたのだ。 傍目から見れば敗北のベスト・オブ・ベストにしか見えない姿勢だが、そんな姿勢をこの気位の高い少女がするはずも無く。 ─────ッッ!? ヴァルゼライドの剣舞が極小の間、静止する。ヴァルゼライドは人の子の英雄、条理を逸脱した精神を持とうとも、その肉体構造は人のそれと同じ。 人の剣術が威を発揮するのは、相手の身体の高さが膝の辺りにあるまで、それより低い相手には、常の姿勢では刃は届かぬ。 この機を狙っていた天子が地に突き立てた緋想の剣を振り上げる。ヴァルゼライドの左の刀は振り切ったばかり、右の刀もこの下からの猛襲を防ぐには遠い。 古流剣術の奥伝にも似たこの動きは、ヴァルゼライド程の剣士をして剣舞を止め、退かせた。 咄嗟に後方に跳躍して躱したヴァルゼライドに、構え直した天子が、脚を叱咤して前方に跳躍し、真っ向上段から緋想の剣を振り下ろす。 此れに対しヴァルゼライドも猛然と右の刀を振るい、自身目掛けて振るわれる緋想の剣の切っ先目掛けて刃を振り下ろす。 振り下ろされた刀の加えた力により、緋想の剣は更に勢いを増すが、僅かに方向を狂わされ虚しく地面を穿つ。 緋想の剣を撃ち落としたヴァルゼライドの刀は、そのままの勢いで天子の頭を割りにいく。 攻防一体のこの動きは、ヴァルゼライドのいた世界では消滅した/今ヴァルゼライドの居る地─────日本に伝わる剣術で言うところの“切り落とし”と同じ技だった。。 思い切り天子が仰け反った為に、刃は被った帽子の鐔を割っただけに留まった。 ヴァルゼライドが後方に飛んで居る最中でなければ、天子の頭は両断されていただろう。 着地し、天子が放った要石を双刀で捌きながら、更に後ろに飛んだヴァルゼライドが、刀を握った両手を後ろに回す。 双刀から放たれるガンマレイ、斜め後方に放たれた黄金光が路面を穿ち、巨大な爆発を起こす。 そしてヴァルゼライドは超音速の爆風を背に受けると同時に地を蹴り、音を遥かに超える速さで天子目掛けて突貫した。 驚愕に天子の眼が見開かれる、こんな方法で加速するなど思いもよらぬ。背中に刺さった複数の石塊など知らぬとばかりに双刀を振りかざすその姿は、鬼神も三舎を避けるだろう。 咄嗟に天子は地に刺さったままの緋想の剣に魔力を注ぎ、足元の地面を隆起させ己の身体を上昇させる。 そのまま突っ込んだヴァルゼライドが黄金に輝く双刀を振り抜く、隆起した石柱に刀身が接触した刹那、常軌を逸した剣勢で石柱が爆散した。 石柱の内部に予め爆弾が仕込まれていて、それが爆発したのだと言われても納得いく爆発。石柱の上に乗っていた天子の身体が宙に放り出される。 間髪入れず放たれるガンマレイ、しかし、ヴァルゼライドがガンマレイを放つモーションに入るより早く、ヴァルゼライドの足元に撃ち込まれた要石と魔力弾が、ヴァルゼライドの足元を崩していた為、虚しく宙を彩るに留まった。 天子が空中で弾幕を形成し、ヴァルゼライドの両脚を狙って光弾を猛射、ヴァルゼライドに防御に務めさせて、その隙に着地を決める。 地に降り立ったと同時に、緋想の剣を地に突き立てると、己の足元から斜め三十度の角度で地面を勢い良く隆起させ、 先のヴァルゼライドの模倣を行い、その隆起をカタパルト代わりにして勢いをつけ、ヴァルゼライド目掛けて突撃する。 「ええええええええいッッ!!!」 「オオオオオオオオオッッ!!!」 叫喚して突っ込む天人に、英雄は双刀を振り上げ真っ向から迎撃。 三つの刃が両者の間で交差した。 刃と刃が激突した音が衝撃波と化して宙を伝わり、天子の突撃の威力が地面に激震として伝わり、砂塵はおろか周囲の瓦礫すら舞い上げる。 拮抗する両者が鍔競り合う最中、先刻放たれたガンマレイで、マグマと化して煮え滾っていた路面が盛り上がり、灼熱の波濤と化して二人の頭上から落ちてきた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ヴァルゼライドの放ったガンマレイの爆発で飛ばされ、マグマと化した一帯に墜落 したシャドームーンは、念動力を身体の周囲に展開し、自身の周りにマグマを寄せ付けず。 更にシルバーガードの防御力を併せる事で、マグマの中に潜伏。マイティアイを用いてザ・ヒーローの居場所を探っていたのだった。 結果、ザ・ヒーローは、乱入してきた女のマスターを求めて離れた場所に居る事を把握。此れでヴァルゼライドのマスターを巻き込む心配は無い。 シャドームーンは神経が繋がっているかどうか確かめる様に、左手の手指を開閉させる。 数万年の歴史を持つゴルゴムの科学力の結晶たるシャドームーンである、活火山の火口に放り込まれたのならいざ知らず、高熱で溶けたアスファルト程度では小揺るぎもしない。 気になるのはヴァルゼライドの一刀を受けた左腕。ヴァルゼライドの死光は高濃度の放射能を帯びているということは、ルーラーからの通達と、マイティアイでの観察で理解しているが、 それだけでは無い何かを、あの死光は帯びている様だった。でなければ、キングストーンの力を用いているのに、傷は治らず痛みが引かぬということがあり得ない。 ─────其れでも関係ない。 動けば良いのだ。クリストファー・ヴァルゼライドはあれだけの損傷を負って、尚も烈しく戦い抜いたのだ。 比べれば、この程度は傷とも呼べぬ。 シャドームーンはキングストーンの生成する膨大な魔力を用いて、マグマを束ね、津波として、合い戦う天子とヴァルゼライドの頭上から落としたのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 突如として起きた灼熱の津波に、二人が愕然としたのも束の間。意識が他を向いた隙に、十数発の魔力弾を放ちながら天子が大きく後ろに飛ぶ。 ヴァルゼライドの両脚と左右に放たれた魔力弾は、脚を撃って脱出を阻む狙いと、左右に回避する余地を潰す意図の元放たれている。 此れに対しヴァルゼライドはガンマレイを応射。魔力弾諸共天子を消し飛ばそうとするが、予め読んでいた天子は再度足元の地面を隆起させて踏み台とし、上空へと自身の身体を打ち上げていた。 いよいよ降りかかってくる灼熱の波濤を迎え撃つべく、ヴァルゼライドが双刀を振り上げ、ガンマレイを放とうとしたその時、 ヴァルゼライドの背後から飛来したカナメファンネルが背中を直撃。動きが止まった刹那を逃さず、緋想の剣気が直撃する。 そして─────英雄の姿は滾り落ちるマグマの中にに消えた。 「まだだっ!」 燃え盛る溶岩の中、より熾烈に、より鮮烈に煌めく黄金光が天地を繋ぐ。 天より神が降臨したと言われて、聞いた者全てが納得しそうな光景を現出せしめたのはクリストファー・ヴァルゼライドに他ならない。 灼熱の溶岩を浴びながらも、振り上げた双刀からガンマレイを放ち、溶岩を蒸発させてしまったのだ。 この光景を上空から呆然と見やる天子。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。 天子が動けずにいる間に、ヴァルゼライドが灼熱地獄と化した、陽炎揺らめく路上で双刀を動かす。 左の刀の切っ先は天子の方を。 右の刀の切っ先は津波が到来した方を。 放たれる二条のガンマレイ。切っ先が此方を向きだした瞬間に回避を始めていた天子は何とか回避に成功する。 右の刀から放たれたガンマレイは、空間そのものが揺らいでいるとしか見えない程に烈しく空気が揺らめく方へと放たれ、過ぎ去った。 ──────────!? 何かを感じた二人が頭上を仰ぎ見る。銀色の影が上空に浮遊する天子の更に上空に現れる。二人が構えた時、シャドームーンは既に攻撃を終えていた。 爆発音としか聞こえない轟音。シャドームーンが念動力で天子を叩き落としたのだ。 地面に種蒔いたら生えてくる戦闘員に自爆されたZ戦士そっくりなポーズで、天子の身体が路面にめり込む。その上から砕けたカナメファンネルの残骸が降り注いだ。 「ぐうう……」 流石に動く事も出来ずに呻くだけの天子目掛けて、止めを刺すべく空中からシャドームーンが膝を落とす。 レッグトリガーを最大限に稼働させたニードロップは、当たれば天子の背骨を粉砕し、九穴から赤黒い肉塊を噴出させて絶命させた事だろう。 だが、膝が触れる直前でシャドームーンの姿は掻き消え、俯せに伏したままの天子の身体が地に埋没する。 刹那の間も置かず、天子の倒れていた辺りを閃光が走り抜けた。 ガンマレイを放ったヴァルゼライドは双刀を持った両腕を真っ直ぐ伸ばして回転。自身の周囲を黄金光の幕で覆う。 シャドームーンが天子に止めを刺しに行ったのを、己の攻撃を誘う為と、己に天子を始末させる為の、二つの目的を持った行為と理解した上でのガンマレイ。 二人纏めて屠るつもり─────少なくとも天子は葬れると踏んだのだが、両者共にガンマレイを回避、ヴァルゼライドはこの結果にも動じず、シャドームーンの猛襲に備えて動く。 果たして、ヴァルゼライドが展開した防御幕に、全方位からシャドームーンが形成した武具が激突し、激しい爆発を起こす。 ここでヴァルゼライドは直感に任せてガンマレイを発射。確かにガンマレイはシャドームーンのいた位置を通り抜けるも、シャドームーンは捉えられず。 此れも又予測の内。右の刀を納刀し、左の刀を振り上げ垂直に放つ黄金光。同時に膝を地につけて屈み込む。 果たして黄金光は再度シャドームーンを捉えられず。ヴァルゼライドが屈むと同時にその背後に出現したシャドームーンが、真紅の長剣を振るうも虚しく虚空を裂いたのみ。 不意に居る筈の標的を見失い、シャドームーン程の大戦士が、刹那の間にも満たぬ間動きを止める。 先刻の天子が、ヴァルゼライドの剣舞を凌いで反撃した時と同じ状況だとは、シャドームーンは知らぬ。 此処に来て更に冴え渡るクリストファー・ヴァルゼライドの感覚は、シャドームーンの出現と同時に身体を動かし、神速という言葉ですら猶遠い抜刀でシャドームーンに斬り掛かる。 シャドームーンはこの攻勢に、素早く思考を巡らせる。 空間転移─────即座に使うことは出来ない。 魔力を脚に纏わせ敢えて受ける─────否。今からでは間に合わぬ。脚を斬り飛ばされる。 後ろに飛ぶ─────否。あの虚空に光条を刻む技を仕込んでいるかもしれない。 であれば残るは─────。 サイドステップして回避─────ヴァルゼライドの斬速の方が遥かに速い。 残るは─────上。 シャドームーンは跳躍し、ヴァルゼライドの斬撃を回避する。 しかし、此処で更にヴァルゼライドは加速。左腰の刀を抜刀して水平に薙ぐ右腕のベクトルを強引に変換。真っ向上段からの縦の斬撃に変えてシャドームーンを猛襲する。 もとよりこの局面、上方にしか逃げ場が無い。故にシャドームーンの読むことは容易いが、その動きへの対応が尋常では無かった。 強引極まりない変化に筋肉が裂け、骨が軋むがそんな事には構いはしない。 この鬼神でも予測不可能な奇襲を、シャドームーンは咄嗟にシャドーセイバーで防ぐ。 天を圧する巨人が、大鉄槌で山を砕いたかの様な衝撃と轟音。双方の刃が半ばからへし折れ宙を舞う。 シャドームーンは極音速で飛ばされ、ヴァルゼライドが空に刻んでいた黄金の斬痕に背中から突っ込んだ。 間髪入れずに放たれるガンマレイ。遍く悪を許さず滅ぼす黄金光がゴルゴムの世紀王、反英霊シャドームーンを討ち滅ぼす。 シャドームーンはヴァルゼライドの奇襲を受けた時、背中に魔力を集めて防御する事をしなかった。 そんな事に魔力を使うよりも、シャドーチャージャーに魔力を集める事を選んだのだ。 一日で二人の相手にこの宝具を使う事になるとはシャドームーンも思ってはいなかったが、読み合いに負けて王手詰み(チェックメイト)になった時点で切り札を切るしか無いと確信。 窮まった盤上を覆すには、最早盤面そのものを引っくり返すより他に無し。 「シャドーフラッシュ!!」 ヴァルゼライドが黄金光を放つと同時、シャドーチャージャーも緑色の光を放つ。 黄金光が緑色の光に呑まれる様に掻き消えたその時、シャドームーンはヴァルゼライド目掛けて躍り掛かっていた。 左へと─────ヴァルゼライドから見て右へと回り込み、再び形成したシャドーセイバーによる、ヴァルゼライドを縦に両断し地面にまで切っ先を食い込ませる振り下ろし。 ヴァルゼライドは必殺の一撃が霧散して、意識に空白が生じているが、そんなものが致命となる程この英雄は柔ではない。 そこで折れた刀を持つ手の方から仕掛ける。右の折れた刀では満足に防御が行えない。それはシャドームーンは知らぬが、ルーラーとの一戦でも明らかだ。 だが─────真紅の刃は半ばから折れた刀に止められていた。 激しく動揺しながらも繰り出す四撃、その全てが折れた刀で防がれる。反撃として放たれたライフル弾を超える速度のヴァルゼライドの突きを、左手の短剣で受け止める。 立て続けに繰り出される八連撃、悉くを短剣で捌いて首を狙っての刺突を返す、右の折れた刀で跳ね上げられ、空いた胸元に左の突き、 跳ね上げられた勢いを利用して後ろに飛び、右にサイドステップ。十数条の光条が虚空に刻まれる。 両者は5mの距離を置いて静止した。 シャドームーンは内心大いに驚愕していた。まさかこの極小の間に、己の剣技すら習得してのけるとは、やはりこの男は強い。それもスペックなどでは無く、人として純粋に強い。 まるで“あの男”の様に。身体を改造されても、人では無い身体となっても、人の心を失わず、人として戦い抜いた“あの男”の様に強い。 ─────矢張りこの男を越えねばRXは見えてこない。 そう、確信したシャドームーンは静かに一歩を踏み出す。 ヴァルゼライドは内心大いに驚愕していた。まさか己の星辰光が幻の様に消えるとは。 あれこそがこのセイバーの宝具なのだろう。宝具を用いずとも尋常では無い程の強さ、それがあの様な超常の宝具を用いだしたとなれば、魔星全てを同時に相手取って勝ちを収めるのではあるまいか? 今日戦った者達は、皆超絶の強さを異能を持つ者達。此の男は彼等と比べても遜色無いどころか上位に入る。 だが、それでも─────。 「“勝つ”のは俺だ」 そう口にして一歩を踏み出す。 進んだ距離は同じ、振り下ろす刃の速度も同じ、二つの刃が交わる─────。 その刹那、二人を中心に地面が急激に隆起する。 見る者が居れば、二人の発する圧で、二人の間の地面が押し上げられたと取るだろう。 この現象により、後方に崩れた姿勢を立て直そうとしていたヴァルゼライドが、不意にトンボを切って後方に飛ぶ。 同時に地面を突き破り、緋想の剣を肩に担いだ天子が飛び出して来た。 シャドームーンに叩き落とされ、ヴァルゼライドの死光を躱す為に地に潜った天子は、下水道を通って二人の下に移動、 『大地を操る程度の能力』を用いて二人の間の地面を隆起させ、隙を作らせた上で強襲したのだ 身体を真っ直ぐ伸ばし、頭からヴァルゼライド目掛けて飛翔する。天人の頑丈さを活かしたこの猛襲。直撃すればヴァルゼライドの背骨と臓腑が砕けたろうが、 天子が飛び出すと同時に回避行動に移っていたヴァルゼライドには当たらない。 だが、天子とてそれでも終わる攻撃をする様な甘いサーヴァントでは無い。自身の上方で背を晒すヴァルゼライドに担いだ緋想の剣を振るう。 緋想の剣がヴァルゼライドの身体を背骨に沿って斬り裂く、全身を大きく震わながらも着地を決めるが、ダメージが大きすぎるのかそのまま蹲ってしまう。 好機とばかりに天子が突っ掛けるが─────。 「まだだっ!!」 裂帛の気勢を挙げ、立ち上がったヴァルゼライドが、凄まじい速度で左の無事な刀を振るう。明らかに速過ぎる、天子の服に切っ先がかする事も無く過ぎ去る攻勢。 天子の全身に走る衝撃。石壁に全力疾走してぶつかった様な痛みと衝撃を受けて後方に飛ばされる。 ヴァルゼライドが人修羅との一戦で受けた『烈風破』、振り抜いた腕で大質量の物体に等しい空気の壁を作り出しぶつけて攻撃する技で、ヴァルゼライドは天子を弾き飛ばしたのだった。 元々はガンマレイを無効化する閻魔刀を持つバージルを破る為の方策を模索していた結果の産物だが、よもやこんな形で役立つとは思ってもみなかった。 今だ宙を飛び続ける天子目掛けてヴァルゼライドは死光を放つ。 此れに対し、天子は自身の斜め後ろに要石を形成、ぶつかることで飛翔の軌道を変えて、死光の範囲外へと逃れる。 ヴァルゼライドは追い討つ事をせず、回転しながら刃を振るう。180度開店した処で火花が散り、刃が止まる。 シャドームーンが空間転移を行い、ヴァルゼライドの後ろに回り込んだのを、ヴァルゼライドがその一刀を以って防いだのだ。 獅子吼と共に繰り出されるヴァルゼライドの六連撃。防ぎ、躱しきったシャドームーンが念動力を至近距離から放つも、ヴァルゼライドは黄金光に輝く刀で両断、霧散させてしまった。 シャドームーンとて、ヴァルゼライドを相手に散々多用した念動力だ、どれ程至近距離であろうと今更正面から念動力を放っても通用しないと判っている。 元よりこの攻撃はヴァルゼライドの攻勢を止める為のもの。シャドームーンは僅かに稼いだ時間で体勢を立て直し、猛然と刃を振るう。 共に長短の刃を持つ両者は、秒週の間に無数の剣撃を交わし、身体の周囲を無数の火花で彩った。 突如として両者に飛来する十数条の赤い光線。シャドームーンとヴァルゼライドがそれぞれ反対方向に7mも飛び、レーザーの飛来した方に視線を向ける。 二人の視線を浴びて傲然と立つは、比那名居天子に他ならない。既に身体の周囲にカナメファンネルを旋回させ、傲岸とさえ言える視線を両者に向ける。 「随分と面白くなってきたじゃない」 天界での何不自由無い平穏で退屈な暮らしに飽いて、ワザワザ地上に異変を起こした不良天人の本領此処に在り。 天人の永い永い生から見れば、人の生など瞬きの間に終わる程度。だが、人にとって、時に人の生の刹那の燃焼は、永劫の輝きを凌駕する。 比那名居天子は元は地上の者である。其れ故にこそ人の生の輝きに魅せられ、地上の諸人諸妖と交わり戯れる様になったのだ。 ─────愉しい。こんなに愉しいのは久し振り。 地上の愉快な人間達が皆死んでしまい。妖怪達も数が減り、死ぬ前にはそれはそれは退屈だった。 死んでからまたこんな愉快な事に巡り会えるとは思わなかった。 いっそのこと聖杯に願ってもう一度生を得ようかと思う程に、心の底からの愉悦を感じながら、不良天人は驚天の魔人超人に挑みかかる。 此処に三つ巴の魔戦が開始された。 三人の中で唯一、武器が宝具であり、尚且つ頑丈極まりない身体を有し、多彩な飛び道具を持ち、地殻を操る程度の能力を持つ比那名居天子。 三人の中で最も高いステータスを有し、シルバーガードによる高水準の防御力と、多彩な能力による強力な攻撃力と、尽きることの無い魔力を有するシャドームーン。 この両者と比べれば、やはりヴァルゼライドは劣っていると言わざるを得ない。 武器で劣り、手数で劣り、魔力量で劣り、何より基準となるべきステータスで劣る。 そして満身創痍を通り越して死に体だ。今日これまでに無数の傷を受け、そして此の場でも痛手を負った。 息が有るだけで奇跡。意識が有るだけで偉業と言える重篤の身で、二本の足で立って戦うという理不尽を成し遂げるヴァルゼライドは、二人を相手に優勢を保って戦うという大理不尽を成し遂げていた。 新国立競技場で、紅蒼の魔剣士達を相手取った時は、二人の息の合い過ぎたコンビネーションの前に一方的にやられたが、シャドームーンと天子にコンビネーションなど発揮出来るわけも無く。 且つシャドームーンはヴァルゼライドと戦って勝つ為に此の場に在り、比那名居天子は佐藤十兵衛の狙いがザ・ヒーローで有る為に此の場に現れた。 此の為、シャドームーンは先ず天子の排除を優先し、天子はヴァルゼライドを狙う。 そしてヴァルゼライドは二人を此の場で屠るべく奮起する。 ヴァルゼライドが新国立競技場で紅蒼の魔剣士達を相手にした時の策が、この戦場で成立した。 左の刀でシャドームーンの放った念動力を斬り散らし、右の折れた刀で天子の放った要石を、シャドームーン目掛けて飛ぶ様に軌道を変える。 シャドームーンが防いでいる隙に天子の目掛けて猛攻を掛ける。 悉くを受け、捌き、躱す天子だが、明らかにヴァルゼライドの動きに追随出来ていない。 それもその筈、幻想郷の住人は基本的に空を飛んで戦う者。地に足を着けて戦う経験が乏しい為に、間合いを構成する要素のうち、歩幅や歩法といったものに慣れていないのだ。 それでもヴァルゼライドの攻勢を凌ぎ切れるのは、陽動や回避先潰し、只の見せ球を含む無数に飛来する弾幕の中から、 自身に直撃するものを精確に見切って防ぎ、躱す、命名決闘法の経験によるものだ。 向かって左から首を薙いできた刀を緋想の剣で受け止める。ガンマレイが掠めた右足が激しく痛むが歯を食いしばって耐える。 動きが止まったのは一瞬。同時に2人は後ろに飛ぶ。 ヴァルゼライドの首の有った処を天子の放った光条が、天子の首が有った位置を真紅の長剣が、同時に通過した。 天子に向かってシャドームーンが猛進する。仮借無い殺意を乗せた凄絶無比の斬撃が途切れること無く天子を襲う。 十余合を打ち交わした時、傷ついた右足を狙ってシャドームーンが長剣を振るう。 緋想の剣で受けたのを狙いすまし、左の短剣を天子の口目掛けて突き込んでくる。 頑強な肉体を持つ天子といえど、口に刃を突き込まれて脳幹を貫かれれば絶命する。 仰け反って回避した天子に、シャドームーンが念動力を放とうとした時、踏み込みの勢いでアスファルトを砕き、ヴァルゼライドが二人纏めて両断する勢いで斬りつける。 シャドームーンが横に、天子が後ろに転がって回避。天子が要石を、シャドームーンが左のシャドーセイバーをヴァルゼライド目掛けて飛ばす。 長短の刀でヴァルゼライドが防いだ隙に、立て直した二人が殺到する。 龍を思わせる咆哮と共にヴァルゼライドが折れた刀を捨て、腰の刀に手をやる。今手にしている双刀では無く、新たに手にした三本目。 戦いながら再生させた三本目の刀で、バージルから習得した剣技を放つ。 シャドームーンが駆ける為に足に込めていた膨大な魔力を用いて横に飛び、天子がカナメファンネルを踏み台に上方に跳躍する。 読んでいたかの如くシャドームーンが跳躍した天子にシャドービームを放って直撃させるも、自身も光条が右の脇腹を掠めた。 地に落ちた天子目掛けて走り寄るヴァルゼライドが、突如虚空に一刀を振るうのと、立ち上がった天子が硬直したのが同時。 「アアアアアアアッッ!!」 天子が絶叫する。いきなり拘束されて、全身を魔力のスパークで灼かれているのだ。 ヴァルゼライドには看破出来ていた。ルーラーと戦った時、先んじてルーラーと交えていたアサシンの技と同類の─────操る技量も刃そのものも大幅に劣るが─────ものだと。 シャドームーンが精製した隠し札。サーチャーの使う妖糸の劣化コピー。 両手の中指から精製した、百分の一ミリの魔力糸を念動力で操り、ヴァルゼライドと天子目掛けて放ったのだ。 そもそもがオリジナルの再現など、そう簡単に出来るわけなど無い。太さも強度も紉性もサーチャーの妖糸には遥か及ばぬ。まして操る技など論外だ。 それでも百分の一ミリの魔力糸は不意を衝くには充分過ぎる─────筈、だったのだが。 天子には決まったものの、ヴァルゼライドは“以前にも対したことがある”かの様な手慣れた動きであっさりと防いでしまった。 魔力糸を介して天子に魔力を流し込んでダメージを与えながら、全長30cm程の魔力糸を数百条精製、念動力を用いて、ヴァルゼライド目掛けて殺到させる。 シャドームーンは知らぬ。ヴァルゼライドがこの地で戦った者の中に、サーチャー─────秋せつら─────と同じ日に生まれ、幼馴染として育ち、唯一の座を巡って相剋した魔人が居たことを。 シャドームーンと同じ宿命の元に産まれ、シャドームーンと同じく敗北した魔人、浪蘭幻十と対峙した経験を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの隠し札を破り捨てる。 ヴァルゼライドが“魔力糸の悉くを斬り払いながら猛進。瞬く間にシャドームーンに詰め寄り両手を後ろに廻す。 シャドームーンがヴァルゼライドの意図を読めず、硬直した刹那、ガンマレイを斜め後ろに発射。爆風を受けて加速する。 両腕を後ろに回したヴァルゼライドがどちらの腕で攻撃てしてくるのかシャドームーンには読めない。 先手を取って斬り伏せる、という事も考えたが、ヴァルゼライドが両腕を後ろに廻した時に、意図を読めずに硬直したことで遅れを取ってしまった。 この状態で繰り出せる攻撃などそうは無く、クリストファー・ヴァルゼライドならば、全て防ぐ準備を終えているだろうと判断。 先ずは防ぐ、そして返す一撃で仕留める。シャドームーンは意識を集中し、ヴァルゼライドを注視する。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく。 両腕は未だ身体の後ろ。 ヴァルゼライドが近づく─────最早刀の間合いでは無くなっている。 ヴァルゼライドが近づく。 左腕が動き出し、黄金に輝く刀身が振り上げられる。 ヴァルゼライドが近づく。 シャドームーンはヴァルゼライドの瞳に写る己の顔を見た。 ヴァルゼライドが近づく。 衝撃─────シャドームーンが後ろによろめく。その左胸に突き立っているのは右の刀。 ヴァルゼライドの左は陽動。左に気を引きつけて置いて、右の刀で心臓を抉るのが本命。 突撃の勢いを用いてシャドームーンの胸部に、僅かな狂いも無く直角に刃を突き立てることで、シルバーガードを貫いたのだ。 思考が受けに回った時点で、この結果は定まっていたのいたのかも知れない。 左の刀を振りかぶり、ヴァルゼライドがシャドームーンに刃を繰り出す。狙いは首。どれ程の戦闘続行能力があろうとも、首を落とせば身体を動かすことが出来ない。例え死なずとも戦闘不能。 総身が消滅しても平然と蘇る化け物が相手でも、首を落として動きを封じ、その間にマスターを殺せば良い。 不死身のバーサーカー黒贄礼太郎を殺すべく、ヴァルゼライドが出した答えが此れだった。あの場では乱戦の為に成功しなかったが、次に出会えば世の安寧の為に必ず殺す。 蝿の王や悪魔との混血まで居るこの魔戦の場、全ての敵に確実に死を滅びを与える手段をヴァルゼライドは思考し、そして眼前のセイバーで実践する。 シャドームーンは防御も回避も出来る状態では無く、念動力やシャドービムも使える状態ではない。だが、おとなしく首をやる程シャドームーンは諦めが良くは無い。 左腕を伸ばして斬撃を受け止める。凄絶な斬撃は、掌を断ち割り、肘まで達して刃は止まった。エルボートリガーを作動させて、刀身を砕こうとしたのにこの有様。 この時点でシャドームーンは敗北を悟っていた。 左腕を断ち割った黄金剣が更に鮮烈に煌めく。この次のヴァルゼライドの一手をシャドームーンは確信しているが何も出来ない。 刃を肉体に食い込ませたまま放つガンマレイ。RXの必殺の一撃と同じ技を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの左肘から先を消し飛ばした。 「グゥオオオオオオ!!!!」 此れが真っ当な一対一の闘争ならば、シャドームーンは敗北を受け入れることがまだ出来た。無念は残るが、此の男に勝てぬ様ではRXの前に立っても同じ結末を迎えるだけだからだ。 だが─────こんな邪魔が入った勝負で敗死するのは受け入れられない。 怒りと無念を乗せた念動力でヴァルゼライドを50mも後方に飛ばし、魔力のスパークで灼かれ続けて、蹲ったまま立てぬ天子に極大の殺意を向ける。 「オオオオオオオオオッッ!!!」 怒号と共に放たれる念動力。倒壊したクレセント・ハイツの瓦礫から、数トンはある円柱を宙に舞わせる。 比那名居天子は、生前に凄まじく自分勝手な理由で博麗神社を倒壊させたことが有る。 シャドームーンが今まさに、比那名居天子を潰すべく、念動力で持ち上げた円柱は、奇しくも此処とは異なる〈新宿〉で、 “神”によって天へと消え、その後天より落ちて、名も無き神社を破壊したものと同じ円柱だった。 説教の長い閻魔やスキマ妖怪なら『因果応報』とでも言うだろう。 「オ・ン・バ・シ・ラーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?」 上を仰ぎ見た天子が間抜けな絶叫を残し、円柱の影に消えた時、その場には誰も残ってはいなかった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ザ・ヒーローは南榎町の一角を当てど無く彷徨って居た。乱入してきたセイバーのマスターを仕留めるべく、ヴァルゼライドと別行動を取ったのだが、敵のマスターの姿を補足できなかったのだ。 其れもそのはずで乱入してきたセイバー、比那名居天子のマスターは矢来町に迄移動しているのだから、幾ら南榎町を探しても見つかる筈が無いのだった。 戻ってヴァルゼライドに合流するべきか。そう、考えた時、ザ・ヒーローの全身は、不意に動きを止めた。 「グ……アアアアア…」 凄まじい力で全身を締め上げられ、宙に浮くザ・ヒーロー。その目前に姿を現したのは、銀鎧のセイバー、シャドームーンに他なら無い。 比那名居天子にオンバシラ決めた後、空間転移であの場を離脱。マイティアイでザ・ヒーローを補足し、キングストーンによる疑似的な気配遮断を用いて近づき、念動力を以って拘束したのだ。 全身を拘束されて、宙に浮いたザ・ヒーローにシャドームーンに抗する術無し。 此処にザ・ヒーローの命運窮まったかと思われた。 「お前を殺すことは容易いが、クリストファー・ヴァルゼライドを斃すまでは貴様に生きていて貰わなければならぬ」 然し、シャドームーンにザ・ヒーローを害する意思なし。 念動力でザ・ヒーローを拘束したまま、ザ・ヒーローのアームターミナルに右手を伸ばす。 ザ・ヒーローが全身に力を漲らせる。アームターミナルはザ・ヒーローの魔力ソースであり、クリストファー・ヴァルゼライドの力の元でもある。此れを破壊されては、満身創痍のヴァルゼライドを治せない。 だが、シャドームーンの行動は、ザ・ヒーローの予想もし無い事だった。 シャドームーンの右手から、アームターミナルに流れ込む魔力。其れがマグネタイトとして、アームターミナルに蓄積されていく。 この量ならば、ヴァルゼライドの傷を治して、新国立競技場に於ける魔戦をもう一度行ってもまだまだ余剰が残る。 「クリストファー・ヴァルゼライドに伝えておけ、この聖杯戦争の後に控える相克に臨む為に、俺はお前の屍を越えると」 そうしてセイバーは現れた時同様、唐突に消え去り。後にはザ・ヒーローが残された。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「クソッ!!」 地面に突き立った石柱をガンマレイで消し飛ばし、地面に空いた穴を見たヴァルゼライドは怒声をあげて地面を蹴りつける。 満身創痍と読んでも良かった身体は、最早形容する言葉も無い程に傷ついていたが、そんなものはこの怒りを鈍らせる事など無い。 あの時、銀鎧のセイバーを確実に葬る為に左腕を吹き飛ばしたが、あの場は首を落としにいくべきでは無かったか。 ─────否。其れで獲れる程あの首は低くない。右腕で防ぐだけだ。 左腕を吹き飛ばし、更に左側から猛攻を掛ける。この方針に間違いは無い。あのセイバーの力量を鑑みればこれしか無い。 落ち度は一つ。己が間髪入れずにセイバーの首を落とせなかった事。そして、女のセイバーにガンマレイを撃たなかった事。 あの女のセイバーは動けない程に消耗していた。ガンマレイを放てば確実に仕留められていた。 だが、ヴァルゼライドは即座に思考を切り替える。二人共にダメージは深刻だ。当面の間戦闘能力は半減するだろう。仕留めるならば好機というもの。 ヴァルゼライドは脳裏に二人のセイバーを加えて、模擬戦闘を行いながら、ザ・ヒーローと合流すべく歩み去った。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(南榎町の一角)/一日目午後4:00】 【ザ・ヒーロー@真・女神転生】 [状態]肉体的ダメージ(中)、廃都物語(影響度:小) [令呪]残り二画 [契約者の鍵]有 [装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F [道具]ハンドベルコンピュータ [所持金]学生相応 [思考・状況] 基本行動方針:勝利する。 1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する 2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討 3.翼のマスター(桜咲刹那)を倒す 4.ルーラー達への対策 5.取り敢えずヴァルゼライドを治そう [備考] ・桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。 ・ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。 ・雪村あかりとそのサーヴァントであるアーチャー(バージル)の存在を認識しました ・マーガレットとアサシン(浪蘭幻十)の存在を認識しましたが、彼らが何者なのかは知りません ・ルーラーと敵対してしまったと考えています ・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです ・現在<新宿>新国立競技場周辺から脱出しています。何処に向かうかは次の科書き手様にお任せします ・キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました ・ライドウが自分と同じデビルサマナー、それも恐ろしいまでの手練だと確信しています ・セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。 【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】 [状態]肉体的ダメージ(超々極大)、魔力消費(大の大)、霊核損傷(超々極大)、放射能残留による肉体の内部破壊(極大)、全身に放射能による激痛(極大)、 全身に炎によるダメージ(現在重度)、幻影剣による内臓損傷(現在軽度)、内蔵損壊(超々極大)、頭蓋骨の損傷(大)、脊椎の損傷(大)、出血多量(極大) 、背骨を緋想の剣で縦に割られている(大)、背中に無数の石塊が埋まっている。 →以上を気合と根性で耐えている [装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀(現在五本破壊状態。宝具でない為時間経過で修復可) [道具]なし [所持金]マスターに依拠 [思考・状況] 基本行動方針:勝つのは俺だ。 1.あらゆる敵を打ち砕く 2.例えルーラーであろうともだ 3.ザ・ヒーローと合流する [備考] ・ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。 ・ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。 ・ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。 ・セイバー(チトセ・朧・アマツ)は、彼女の意向を汲みいつか決着を付けたいと思っております ・アーチャー(那珂)は素晴らしい精神の持ち主だとは思っておりますが、それはそれとして斬り殺します ・マーガレットと彼女の従えるアサシン(浪蘭幻十)の存在を認知しましたが、マスター同様何者なのかは知りません セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。 ・早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います ・早稲田鶴巻町の某公園から離れた、バージルと交戦したマンション街の道路が完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ・新小川町周辺の住宅街の一角が、完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ・交戦中に放ったガンマレイの影響で、霞ヶ丘町の集合団地や各種店舗、<新宿>を飛び越えて渋谷区、世田谷区、目黒区、果ては神奈川県にまでガンマレイが通り過ぎ、進行ルート上に絶大な被害と大量の被害者を出していますが、聖杯戦争の舞台は<新宿>ですので、渋谷区等の被害は特に問題ありません ・南榎町に有るマンション、クレセント・ハイツの有る一帯がが完全に破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います ---- ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 空間転移を繰り返し、メフィスト病院目指して移動しながらシャドームーンは思考する。 警察組織は掌握した。此れを今後にどう活用するべきか。 先ずは遠坂凛及びセリュー・ユピキタスの捜索だろう。この両者を仕留めることで令呪を独占する。 遠坂凛に関しては、警察からある程度の情報をあえて流すことにより、他の主従をぶつけることにする。 特に新国立競技場に居た者共は、遠坂凛はサーヴァントを失ったと認識している事だろう。そうして、あの歌うアーチャーに令呪を独占させまいとして、不死身のバーサーカー、黒贄礼太郎と遭遇する。 そして猟犬共と黒贄が交戦している間に、遠坂凛を殺せば良い。シャドームーンの持つ能力ならば十分可能だ。 マイティアイと空間転移と気配遮断の組み合わせは、現にあのザ・ヒーローですら不覚を取った。 そうして遠坂凛と黒贄礼太郎を排除し、黒贄と戦い、疲弊したサーヴァントを討つ。 あの新国立競技場での魔戦を戦った者共は、いずれも端倪すべからざる強者達。黒贄には精々頑張って奴等を消耗させて貰おう。 其の後に控えるのは黒衣のサーチャー及びクリストファー・ヴァルゼライドとの決着だ。 サーチャーのマスターはウェスが自分の手で破壊したがっている為、マスター同伴になる。リスクを無くす為にもやはり令呪を使うべきだろう。 だが、クリストファー・ヴァルゼライドに関しては、令呪など不要。己が力のみであの英雄を打倒できねば、到底RXの前には立てぬからだ。 残る討伐対象のセリュー・ユピキタスとバーサーカーに関しては、全く情報が無い。紅いセイバーの例もある。手の内を探ってから戦うべきだろう。 「勿体無い事をしたかも知れん」 シャドームーンの脳裏に浮かぶのは、本戦が始まった直後に撃破したバーサーカーとそのマスター。奴等が居れば、有用な駒として使い潰せるのに。 例えばこの場合なら、セリュー・ユピキタスにぶつけて威力偵察を行わせる。という事が可能だ。 シャドームーンはこの聖杯戦争を戦う主従の数を、こう推測していた。 今まで確認した中で、最も数が多いのがバーサーカーの四体。各クラス四体として、全八クラス有るのだから、全部で32組。 此れを単独で撃破するのは流石に面倒だ。其れに己が地に伏してもおかしく無い強者が犇いている。 やはり手駒は必要だった。 手駒が有れば、クリストファー・ヴァルゼライドとの一戦に際して、奴等が居ればザ・ヒーローを抑えさせる事も出来た。 シャドームーンは怒りを抑えて考える。 そもそもクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは目立つ。戦う度に周囲に黄金光を放ち、街を破壊する。 クリストファー・ヴァルゼライドは自身の存在を大声で喧伝しながら戦闘を行っているに等しい。 あの巫山戯た乱入者の様な輩が、次に沸いてこないとは言い切れない。何処か人の立ち入れ無い場所で決着を着けたかった。 此処で脳裏に浮かぶのは、紅いコートのセイバーと交えた異相空間。あの様な場所を用意出来れば、心置き無く戦えるのだが。 ─────悪魔か。 あのロキとかいう悪魔以外にも存在するというが、首尾よく見つかるのだろうか。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(南榎町の一角)/一日目午後4:00】 【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】 [状態]魔力消費(大だが、時間経過で回復) 、肉体的損傷(中)、左腕の肘から先を欠損 [装備]レッグトリガー、エルボートリガー [道具]契約者の鍵×2(ウェザー、真昼/真夜) [所持金]少ない [思考・状況] 基本行動方針:全参加者の殺害 1.敵によって臨機応変に対応し、勝ち残る。 2.他の主従の情報収集を行う。 3.ルイ・サイファーと、サーチャー(秋せつら)、セイバー(ダンテ)を警戒 4.クリストファー・ヴァルゼライドはこの手で必ず斃す。 5.手駒が欲しい。 [備考] ・千里眼(マイティアイ)により、拠点を中心に周辺の数組の主従の情報を得ています ・南元町下部・食屍鬼街に住まう不法住居外国人たちを精神操作し、支配下に置いています ・"秋月信彦"の側面を極力廃するようにしています。 ・危機に陥ったら、メフィスト病院を利用できないかと考えています ・ ルイ・サイファーに凄まじい警戒心を抱いています ・アイギスとサーチャー(秋せつら)の存在を認識しました ・葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)の存在を認識しました ・ルシファーの存在を認識。また、彼が配下に高位の悪魔を人間に扮させ活動させている事を理解しました ・〈新宿〉の警察組織を掌握しました ・新国立競技場で新たに、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました ・ ザ・ヒーローが人間を超えた強さを持つことを認識しました ・セイバー(比那名居天子)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。 ---- ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 十兵衛は戦場から大分離れた場所に降り立ち、そこから徒歩で移動して、矢来町のほぼ中央にある写真スタジオの前に居た。 かなりの距離を離した筈だが、時折此処にまで伝わる地響きは、十兵衛に聖杯戦争というものを雄弁に教えていた。 天子が未だに戻ってこないのは、戦いに巻き込まれたのか、戦いに乗ったのか。 どちらにせよ確かめる術は無く、十兵衛としては戻ってくるのを祈りながら待つより他無い。 手持ち無沙汰の現状、やれることといえば頭を働かせるくらいである。 まず、この聖杯戦争なる催しで言えることは、参加者の選考に関して運営は関わっていない─────完全ランダムという可能性が高い。 根拠としては、田島彬が開催した陰陽トーナメントの参加者と比較すれば判るが、あっちの参加者が皆悉くやる気全開で優勝狙い。 対して、こっちの参加者は、マスターはおろかサーヴァントにさえ、やる気が無いどころか運営に反旗を翻す気の奴等迄居る。 しかもその運営に逆らう奴の中に、主従共に全参加者中最強といって良い戦力持ちのライドウが居るという始末。 そんな連中を管理する運営の能力はどれほどのものか? もし仮にライドウが他のマスターを全員制圧し、令呪を使わせてサーヴァントに戦うことを禁じさせれば、聖杯戦争はそこで止まる。 つまり運営としてはライドウの行動を今のうちに掣肘してもおかしくは無いが、今現在それを行おうとはしていない。 遠坂凜やセリュー・ユピキタスの様に、暴れ回る連中を抑えに回っているというのも有るだろうが、積極的に行わない理由は三つ。 1.単純にライドウが意図する処を知らない。 2.歯向かって来ても返り討ちに出来るから放っている。 3.ライドウが意図する処を知っていて、今は対処する時では無いと考えて放置している。 2の場合だと、“運営に逆らう=死”という事が確定するが、十兵衛はおそらく1だと思っている。 3という可能性については、正直判らない。3の場合だと参加者の動向をリアルタイムで知っている事になるが、こればかりは不明である。 だが、討伐令が、NPCや〈新宿〉に対する大規模な加害行為に対して発布されていることを考えれば、3は無い。 相当数のNPCを悪魔化しているサーヴァントを放置している理由が無いからだ。 それに、今迄に出た討伐令の内容を踏まえれば、確実に3は無い。 「無能だな」 十兵衛の運営に関する評価は辛辣だった。 十兵衛は元いた世界の知識に照らし合わせて考えてみるが、運営が無能という結論はそうそう変わらない。 十兵衛が思い浮かべる知識は、北野武が華麗なナイフ投げを披露した、中学生が殺しあう映画だった。 運営のレベルがあの映画並だとすると、ザ・ヒーローに対する討伐令など出ない。逆らった時点で殺されるからだ。 十兵衛が己の令呪の有る位置を手で撫でた。凡そ元居た世界からして違うマスター達の唯一の共通項。三度きりの切り札を十兵衛はずっと疑っていたが、どうやら杞憂だった様だ。 この令呪が、マスター達の動向を逐一モニターし、尚且つ反逆行為や禁則事項に抵触した場合、マスターに死を齎すのでは無いか─────此れを十兵衛は懸念していたのだ。 あの二人、ザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドのおかげで判ったことが二つ有る。 聖杯狙い─────例えば塞のような─────にとっては気にかけることも無い事柄だが、脱出が目的の十兵衛にとっては重要な事実である。 運営に対する反逆=死では無いということ。少なくとも、運営が絶対的上位者で、全てのサーヴァントを問題としない権限を持っている訳では無い。もし持っていたとしても抵抗や対策は可能。 目的が目的の為に、運営と一戦交える可能性もある十兵衛にとって、あの二人はモルモットの役割を果たしたも同然だった。 もう一つは、“運営の監視能力の低さ”。何故にクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントのみ名前とステータスを開示したのか。 そして、何故にステータスと宝具の大雑把な説明しかしていないのか。 宝具の真名も発動条件も、保持するスキルも説明されていない。“運営に喧嘩売って怒らせた”というならば、ステータス及びスキルと宝具の詳細な情報を公開して然るべきでは無いか。 更には、今迄に出た討伐令の全てが、標的がどこに居るのかを明かしていない。 どうしても始末したいなら、居場所を公開するべきだろう。 此れに関しては、ザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドに対してすら無い。 何故に『ルーラー』という特殊なクラスが関わったにも関わらず、一般のマスターとサーヴァントが得られる程度の情報しかないのか。 此処から出せる推論は一つ。『此れが運営の限界』という事。おそらくはルーラーというサーヴァントの情報収集能力は、 対峙したサーヴァントの真名を看破する程度のものでしか無く、それ以外は一般のサーヴァントとそう変わらないのだろう。 つまりはよっぽど派手な動きをしない限り、運営が気付くことは無い。という結論になる。此れならNPCの悪魔化やライドウを放置している説明がつく。 そしていざ事を構えるにしても、此方の手を隠しておくことも可能だという事だ。 益々以って、あの跳ねっ返りの手綱を慎重に握っておかなくてはならなくなった。その場の勢いで宝具を使われては溜まったものでは無い。 ならばどうやってセリュー・ユピキタスの写真を入手したのかが不明だが、此の〈新宿〉のカメラ全てを掌握しているのだろうか?此処はよく判らない。 そして、この討伐令で運営が犯したミス。其れは“クリストファー・ヴァルゼライドと交戦した”という情報を提示したこと。つまり運営は〈新宿〉の何処かに居るという事を提示したに等しい。。 そしてクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは、戦闘の度に高濃度の放射能汚染を引き起こしている。つまり、居場所、或いは元居た場所の特定が容易ということだ。 ライドウならば、容易にルーラーの拠点に迫る事だろう。 そうなれば十兵衛としても行動を決めなければなら無い。迅速に離脱する為に、もし仮にライドウと共に運営と戦うのなら、ジョナサンと塞を駆り出せる。 ジョナサンは元々聖杯戦争に否定的であり、塞にした処で、運営を斃して聖杯を強奪出来るとなれば乗ってくるだろう。 もしルーラーが何らかの切り札を持っていても、十兵衛と天子以外の誰かが犠牲になれば、其れを元に攻略できる。 とまあ、仮定の話は置いておいて、此処から判る事は、運営している奴等は“此の手の事に関する経験を持たない”という事だ。例えば田島彬ならこんな杜撰なミスは犯すまい。 この事から十兵衛は運営の裏をかくことは、困難だが充分に可能だと判断した。 十兵衛は短く息を吐くと、思考を切り替える。 次に考えるべきは、脱出の方法だ。此れは4パターン有る。 1.何らかの脱出方法が有る。 2.運営をどうにかしなければ脱出不能。 3.聖杯に願わなければ脱出不能。 4.優勝しなければ脱出不能。 取り敢えずどの場合でも、必要とあれば十兵衛は天子を令呪を用いて自殺させるつもりでいる。余り気は乗らないが元より死人、良心は痛まない。 それはさて置き、どの場合でも当面の間、十兵衛は現在の同盟関係を崩すつもりは無い。 1の場合なら、脱出条件を満たすまでの身の護りとして、ライドウ達の戦力と、塞達の能力は有用だ。 2の場合ならば、ライドウ達の戦力は多いに利用出来る。天子が帰ってこなければ判らないが、ヴァルゼライドの戦力次第では、 ヴァルゼライドを退けたルーラーは運営としては無能だが、戦闘能力が極めて高い。という事になる。この場合、ライドウと組んでおくことが唯一の正答だろう。 若しくは、ルーラー何らかの隠し札を持っているかも知れないが、ライドウ達の戦力ならば、その隠し札の内容を明らかに出来るだろう。 3の場合だと、ライドウと組んで聖杯を獲れば良い。ジョナサンと手を組むのも有りだろう。 天子が途中で死んでも、ライドウかジョナサンが聖杯を獲れば、“巻き込まれたマスター達を元の世界に返す”という願いをして貰う事が出来る。あの二人ならば、この手の願いをさせることは可能だろう。 此処迄のパターンだと、十兵衛は塞を切り捨てることにな。向こうもそのつもりだろうが、塞と十兵衛では圧倒的に十兵衛が有利だ。 何故ならば、ライドウに対する為には塞単独では不可能だからだ。 塞と十兵衛の同盟は、ライドウという圧倒的な強者の存在が保証している。何かの拍子でライドウが死ねばともかく、生きて居る間は、塞は十兵衛を裏切れない。 そして4の場合。此れが一番困難なパターンだった。 この場合、一番の問題となるのは“ライドウを排除するタイミング”である。 理想的なのは、十兵衛と塞の同盟では苦戦するような連中が全員死んでいて、残った連中の手の内が判っている。というものだが、此れは高望みし過ぎだろう。 其れにライドウを倒すのならば、確実にあと一組は仲間にしたい。 此処で仲間にするとなれば、ライドウを速やかに排除出来きて、更には正面戦闘が苦手なアサシンが理想的だった。若しくは優秀なサーヴァントを従えた一般人。 敵対した時の事を考えれば、天子が苦戦するような相手でも、マスターを仕留めれば其れで済む。方針が優勝狙いならば“強いサーヴァントに一般人のマスター”というのは、理想的な同盟相手である。 そして塞も同じ事を考え、同盟相手を密かに探しているだろう。新国立競技場に居た、塞のサーヴァントの師匠とやらについては口を閉ざすことにしておこう。 まあ、対ライドウで同盟を組むのは容易だろう。何せ新国立競技場での乱戦で、主従共に破格の戦闘能力を存分に見せつけたのだ。 強敵と見做されて、対抗策としての同盟を考えている奴等が必ず居る筈だ。其奴等と組めば良い。 然し、組みたく無い相手もいる、それはアーチャーだった。単独行動スキルを持つアーチャーは、マスターを殺しても直ぐには消えない。思わぬ逆撃を食うのは御免だった。 では、アーチャーを従える塞との同盟は? 此れに関しては例外で、先ず問題は無い。何しろ向こうの手を知り尽くす天子が居る上に、京王プラザで出逢った時の向こうの反応から、あのウサギは天子に勝てないと判断して居る。 塞にした処で、真っ向勝負で十兵衛が十度戦って一度勝てれば良い方な強さだが、時間稼ぎに徹すればそうそう簡単にはやられ無い自信がある。要は天子がウサギを仕留める迄粘れば良いだけなのだ。 ライドウが健在な限り、十兵衛は塞に対し行動上で常に先手を取れる。直接戦闘以外の処で厄介極まりない二人だが、この優位は覆せ無い。 取り敢えず、現在の同盟関係ならば、どの様な状況にも対応は可能だ。この状態を崩すのは脱出方法が明らかとなり、聖杯戦争が終盤に差し掛かった頃だろう。 「お待たせ~~」 そこ迄考えた時、戻ってきた天子が実体化した。 「ボロボロじゃねぇか。負けたのか」 「お流れよ、お流れ。次は必ず私が勝つわよ!!」 眦を決して告げる天子に、十兵衛は口を閉ざした。オンバシラがどうこう言っているがスルー。 令呪をこっそり獲得&運営の機嫌を取る為に行ったザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドの討伐は失敗したらしい。 まあ、ルーラーが知らないであろう“NPCを悪魔化しているサーヴァント”の情報があるから問題は無いが。 「取り敢えずメフィスト病院行くか」 ほっといても治るが、時間が掛かる。その間に襲われたら事だし、魔力の消費も惜しい。 「そういやヤゴコロエーリン……とかいうのは医者なんだっけか。存外メフィスト病院に居たりしてな」 「ん~どうかしらね?結構気位高いそうだから、対抗意識燃やしてたりして、『フ…メフィスト病院か…そのくらいの事私にも出来る!!』みたいな事言ってたりして」 「で、誰にも相手にされなくて『メフィスト!メフィスト!メフィスト!どいつもこいつもメフィスト!何故奴を認めてこの私を認めないのよ!』とかキレてるのか」 この時〈新宿〉の何処かで銀髪の美女が凄まじく不愉快そうにクシャミをしたとかしなかったとか。 ---- 【早稲田、神楽坂方面(矢来町にある写真スタジオの前)/一日目 午後4:00】 【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】 [状態]健康 魔力消費(中)、廃都物語(影響度、小) [令呪]残り三画 [契約者の鍵]有 [装備]部下に用意させた小道具 [道具]要石(小)、佐藤クルセイダーズ(9/10) 悪魔化した佐藤クルセイダーズ(1/1) [所持金] 極めて多い [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。 1.他の参加者と接触し、所属する団体や世界の事情を聞いて見聞を深める。 2.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。 3.勝ち残る為には手段は選ばない。 4.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める。 5.当面は今の同盟関係を維持する。 [備考] ・ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました ・拠点は市ヶ谷・河田町方面です ・金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました ・セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました ・佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。 ・構成人員の一人、ダーマス(増田)が悪魔化(個体種不明)していますが懐柔し、支配下にあります。現在はメフィスト病院で治療に当たらせ、情報が出そろうまで待機しています ・セイバー(天子)経由で、アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、バーサーカー(高槻涼)、謎のサーヴァント(アレックス)の戦い方をある程度は知りました ・アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在と、真名を認識しました ・ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(増田)と交戦、<新宿>にそう言った存在がいると認識しました ・バーサーカー(黒贄礼太郎)の真名を把握しました ・遠坂凛、セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を塞から得ています ・<新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています ・<新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました ・塞の主従、葛葉ライドウの主従と遭遇。共闘体制をとりました ・屋上から葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)と、ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)が戦っていたのを確認しました ・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません ・セイバー(シャドームーン)を認識、ステータスを把握しました。 ・ルーラー及び主催者の能力について考察しました。ルーラーの能力は真名を看破する程度だと推測しましたが、その戦力は全くの未知数だと認識しています。 ・黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました 【比那名居天子@東方Project】 [状態]ダメージ(中)、放射能残留による肉体の内部破壊(小)、放射能による全身の痛み。 上機嫌。 [装備]なし [道具]携帯電話 [所持金]相当少ない [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。 1.自分の意思に従う。 2.復活を願うのも良いかも知れない。 3.まさかオンバシラされるとは思わなかった。 [備考] ・拠点は市ヶ谷・河田町方面です ・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません ・セイバー(シャドームーン)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。 ・新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました ・ ザ・ヒーロー及びライドウが人間を超えた強さを持つことを認識しました。 **時系列順 Back:[[修羅の道行]] Next:[[For Ruin]] **投下順 Back:[[追想のディスペア]] Next:[[お気に召すまま]] |CENTER:←Back|CENTER:Character name|CENTER:Next→| |46:[[It`s your dream or my dream or somebody`s dream]]|CENTER:佐藤十兵衛|[[]]| |~|CENTER:セイバー(比那名居天子)|~| |45:[[シャドームーン〈新宿〉に翔ける]]|CENTER:セイバー(シャドームーン)|[[]]| |48:[[明日晴れるかな]]|CENTER:ザ・ヒーロー|[[]]| |~|CENTER:バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)|~|

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