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柊聖十郎&セイヴァー」(2015/07/26 (日) 16:19:40) の最新版変更点

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                         それは、逆さ十字の罪人が天国という名の地獄に導かれる、少し前のお話。  「おのれがァッ……ふざ、けるなッ……!」  地を這う病人の姿は、最早人間の形をしていなかった。  壮健さとは裏腹の朽木色の素肌。少し動かすだけで肌が罅割れ、腐乱臭を放つ膿を垂れ流す。  血走り見開かれた眼球は既に白濁しており、表面は歪に粟立ってすらいる。  たとえどれほどの重篤な末期患者の症例を持ってきたとしても、彼のそれには到底敵うまい。  脳、眼球、気管系、血管、肺、胃、肝臓、膵臓、腎臓、腸、皮膚、脂肪、骨、細胞――人体の全ての部位が、彼の場合はまともに機能していない。即ち、狂しているのだ。一欠片として、そこにまともに動くものはない。  粘付くを通り越してコールタールのように変じた膿は粘膜が剥がれ、溶け落ちたものだ。それが気管に貼り付きあるいは溜まり、この末期病人から呼吸の自由さえも奪い取ろうとしている。    しかし彼は死なない。柊聖十郎という男は、そんなことでは死なない。    聖十郎は天才だった。  学問も運動も、あらゆる分野で彼に匹敵する人間は存在しない。  そして生まれ持った天賦の才能は、時に人間へ身の丈を上回った自尊心を植え付ける。  柊聖十郎は、己を見下し、哀れむ全てのものを許さない。その怒りは当然、彼を蝕む病魔にも平等に向けられる。  「糞、糞、屑め――役に立たん、塵が……貴様の生まれた意味などッ、俺に使われる為に決まっておろうがァッ!」  信じられないことだろうが、彼が生きている理由はそれだけである。  彼はこれまであらゆる延命方法を尽くしてきた。それこそ、民間療法からオカルトの分野まで、凡そ全てを。  だが、どれ一つとして聖十郎を救うものはなかった。彼を蝕む病魔の桁は、最早病弱の域を遥か凌駕している。  全部位に発生した末期腫瘍を免疫不全が数倍に増強し、血など全て白血病の魔の手によって支配された。  彼が役立たずと、塵と切り捨ててきた延命手段の中には、確かにヒトを永らえさせるものがあったかもしれない。    それでも、柊聖十郎は生かせない。  悪逆の逆さ十字を生かす術理は、世界のどこを引っ繰り返しても見つからない。  巫山戯るな。認めん認めん、断じて認めん。誰よりも優れているこの俺は、常に不死身でなければ道理が成らん。  彼の意志は、聖十郎を常に今際への瀬戸際で止めてきた。  鎮痛剤さえ作用を諦める苦痛の呑底にあって尚、彼は探求し続け――やがて一人の男と出会う。  「甘粕――――甘、粕ゥゥゥゥゥッ!!」  光の魔王、甘粕正彦――  彼は盧生。邯鄲の夢を司る者にして、聖十郎には決して手の届かない高みへおわす者。  故に聖十郎にとっての彼は無間の苦しみより脱する光であり、決して認められない闇の象徴であった。  彼の眷属として接続されることで、聖十郎は病よりの脱却を果たす。  逆十字の男は誓った。己の胤より成った子より盧生の資格を剥奪し、いずれはこの魔王を必ず排除すると。  俺の上に立つような存在は――この世に居ない。それを証明するために、逆さの磔が幾度と無く鳴動した。  その顛末が如何なるものであったのかなど――今の彼を見れば、火を見るよりも明らかであろう。  八虐無道の逆さ十字は敗北した。  敗北者には罰が待ち受ける。その例に漏れず、彼もそれに甘んじることとなった。  邯鄲に繋がることで抑えていた病は再度溢れ出し、現在彼は苦痛の濁流に意識を蹂躙されている。  常人であれば即座に脳死を通り越し即死するような激痛の大波濤――にも関わらず瀬戸際を保っていることが、彼という人間の埒外ぶりを物語っていた。柊聖十郎は魔人である。たとえ彼を厭う者であれ、その認識に異を唱える者は居まい。    孝の心、それは即ち報いる祈り。  彼にとっての鬼門である「対等」を前に、魔人は討たれた。  本来であれば、初代の逆さ十字は悪魔との契約通り、彼を天国(じごく)へ導く悪魔(てんし)が現れ。彼にとって最も理解の出来ない愛情という名の汚泥に抱かれ――天命を全うする筈であった。  百年後の未来に至るまで多くの爪痕と波乱を残して、柊聖十郎は救われる/壊される筈であった。  「俺は、不死身だッ……舐めるなよ、屑めらが……!   誰にも、負けん――不可能は、ないッ……………………!!」  しかし彼は生きている。  沸騰せんばかりの怒りと苦痛によって、彼はその不可解さを認識すらしていなかったが、それでも生きているのだ。  それはあってはならぬこと。この男が永らえることは、世界にとって凡そ毒以外とはなり得ない。    「寄越せ、寄越せェ――貴様の全てを、俺に……寄越せェェェッ!!」  その毒牙に掛かったのは、騎士を連れた女であった。  重篤なる病へ羅患した彼は、たとえ夢を持たずとも人外の域にある。  叩き込むのは病の波動。凶念である。  即ち呪殺、人間にとってもっとも在り来りな殺人方法が真っ向より魔術師を冒す。  即座に魔術師は脳死へと至り、騎士は最後まで呆けきったままこの魔界都市より退場を果たした。  聖杯戦争のセオリーを真っ向覆すような行いもしかし悲しきかな。これより死に逝く男には何の誉れともならない。  それでも、柊聖十郎の辞書に諦めるという文字は存在しない。  彼にしてみれば不本意であろうが、彼が阿呆と軽蔑する魔王とも、その一点においてのみ共通している。  枯れ木を通り越し、罅割れた砂岩のようですらある足を軋ませ、醜悪なる病身は壁を伝い立ち上がる。  ――聖十郎は狂っている。そして徹頭徹尾鬼畜である。彼の中には一縷の良心も、付け入る隙もありはしない。    だがしかし。  それでも聖十郎は“愛される”。  彼が憎悪する甘粕正彦も。  彼と絶望の契約を結んだ神野明影も。  彼と唯一対等に殴り合った真奈瀬剛蔵も。  彼を一度は憎み、それを乗り越えた柊四四八も。  そして――彼を光り輝く天国へ導く救済者である、柊恵理子も。  皆が彼を愛している。こんな、愛すべき所など微塵も存在しないであろう悪鬼であるのにだ。  その生き様は否応なしにヒトの興味を惹き、憐れみを生み――時に、彼の最も理解できぬ感情へヒトを至らせる。  「諦める、ものかッ」  だがそれは、彼にとって必ずしも幸いではない。  何故ならば彼を愛する者は、彼にとっては破滅を運ぶ鬼門の存在であるからだ。  愛など気味が悪い。だから死ね、俺の役に立ったなら疾く消えろ。聖十郎は常にそう思っている。  「俺は必ず――」  聖十郎は吼える。  窒息死へ導く膿の塊を気勢で押し潰し、その動作のみで筋肉が、皮膚が、潰れるのも厭わずに。  そうすることこそが己に最後の好機を齎すのだと信じていた。  それはこの魔界都市――<新宿>に迷い込んだ彼だからこそ、本能的に理解したことだったのかもしれない。    聖杯戦争。  マスターは、サーヴァントと共に成る。  だが聖十郎の場合は例外だ。彼は既に死にゆく身である。  彼が生を諦め荼毘に臥すことを受け入れたなら、彼はこのまま息を引き取ったろう。  悪魔との盟約すら果たすことはなく、彼が望み憧れる地獄という死後へ至ったろう。  しかし、彼は生を願う。求めるのは一つ。いかなる時も、柊聖十郎が求める奇跡は一つである。  聖杯? 役不足だ。  何故なら討つべき敵が残っている。  柊四四八、甘粕正彦。俺以外の盧生などは忌まわしい。  だからこそ、彼が願うのはただ一つ。  渇望のみで他の全てを滅ぼせるほど狂おしく――ある一つの“資格”を希っている。  だから彼は吼えるのだ。  生きるために吼えるのだ。  己が屑にも劣る敗残者で終わらない為に、最後の奇跡に縋るのだ。  「夢を掴み――――盧生となるッ!!」  そして。  今日もまた、彼を愛する化外が舞い降りる。  魔王、仁義、天使、悪魔。  それに並ぶに相応しい名を持って、快楽の魔性がやって来る。      そのサーヴァントは思った。  何故にこの男は、これほどまでに生を願うのだろうと。  それは彼、柊聖十郎と接する上で決して抱いてはならない感情だったが、ともかくそう思った。  そして同時に、彼女もまた光の魔王と同じ境地へ至った。    「なんという御仁でしょうか」  仮に人伝に彼の存在を語り聞かせられたとして、それを信じはしなかったろう。  そんな人間が居る筈がないと、英霊に昇華された身をしてもそう結論付ける以外にないからだ。  それほどまでに、逆さ十字の魔人は人間を逸脱している。  しかし同時に、サーヴァントはそんな彼の姿へ奇妙な愛情をすら覚えた。    「ああぁぁ……そうです――貴方は、救われるべきだ」    瞬きの内に消える三千世界。  ヒトを超え神を目指すなど愚かだと説いた、欲望の果てが此処にある。  彼女の銘は魔性菩薩。教化を受け入れられぬ者を救うべく顕れた和光同塵。  何万何億という人間を用い、至上の快楽に酔うことを望んだ全能なる酩酊者。  それとの契約が成った途端――柊聖十郎の体へ、遍く魔力が雪崩れ込む。  状態で言えば、邯鄲の中に在る時と同じであった。  然し、夢の資質に関して言うならば弱体化している。  使えるのは精々が詠段まで。彼の十八番である玻璃爛宮は顕象出来ぬ有り様。彼に言わせれば、度し難い。    「さあ、視て下さいませ。それとも、諦めてしまったのですか?」      聖十郎の双眸が、その女を捉える。  彼女に救われたというのに、そこに感謝の色合いは欠片とてなかった。  当然である。彼は人を使いこそすれど、それで感謝を覚えるようなことは決してない。  彼の口許に滲むのは不敵な笑み。されど彼は確信していた。どうやら、己はまだ終わらぬようだと。  「魔術師(キャスター)か、貴様は」  「いえ――魔術師などでは御座いません。   強いて言うなら、私は救済者(セイヴァー)……遍く総ての人間から、快楽を賜る菩薩でありますゆえ」  「――ハ。成程、売女かよ。貴様、見下げた屑のようだな」  聖十郎の指摘は、事実間違ってなどいない。  彼は紛うことなき邪悪であるが、その人物評に限って言えば何よりも的確にこの救済者の本質を言い当てていた。  彼女は大人物では決してない。  柊聖十郎や、彼を一度救い上げた魔王、更には邯鄲に群れを成す他の六凶のように。  さりとて、心根の下らないモノが阿呆ほどの力を持っている方が、その危険度は洒落にならない域へ跳ね上がる。    セイヴァーは屑だ。  セイヴァーは売女だ。  しかし彼女は屑であるからこそ、全人類をすら破滅させる力を持つ。  「真の名を名乗れよ売女。俺の道具として、聖杯を勝ち取るまで手綱を引いてやる」  「まあ、光栄です、我が主(マスター)。あなたは私を理解し、賛同して下さるのですね」  「戯けが。   貴様に賛同するならば、酔いどれの戯言に耳を貸していたほうが余程有意義だとすら思うよ」  それを聞けば、これは手厳しいとセイヴァーは嗤う。  そして、彼女は己の真名を告げた。    「殺生院キアラ」  彼女は全能。  彼女は破滅。  彼女は救いで、彼女は終わりの随喜自在第三外法快楽天――  「生きとし生けるもの、総ての苦痛を招くものです」  【クラス】  セイヴァー  【真名】  殺生院キアラ@Fate/EXTRA CCC  【パラメーター】  筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:EX 幸運:B 宝具:EX  【属性】  混沌・中庸  【クラススキル】  彼女は異端のセイヴァー。  本来ならば彼女がこのクラスを名乗ることが、何かの冒涜である。  殺生院キアラという救済者は、クラススキルを持たない。  【保有スキル】  法力:A  彼女は最悪の破戒僧であるが、その法力だけは紛れもない本物である。  ウィザード:A  天才的なまでのウィザードとしての腕前。  電脳世界での逸話を主とし顕現したサーヴァントであるため、現実世界にもコードキャストを適用できる。  素性秘匿:A  彼女は自らがサーヴァントであるという事実を、後述のスキルを使わない間は隠蔽可能。  この秘匿は非常に高度なものであり、たとえ専用の宝具を用いても看破不可能な域にある。  魔人化:EX  かつてマスター達とアルターエゴを吸収して変生した魔人の姿となる。  これはあくまで彼女の逸話をなぞるスキルであるため、改めてそれらを取り込む行程は不要。  頭部に2本の巨大な角を生やし、周囲には彼女に取り込まれた多くの人間の魂が怨霊のような姿で現れ、背後には巨大な髑髏が現れる。この魔人形態は随喜自在第三外法快楽天と呼ばれる。  しかしこの魔人化は規格外のランクにありながらも不完全。  宇宙規模の存在規模も、太陽系を管理するほどの権限も持たない。  それでも――対サーヴァント戦をこなすくらいならば、雑作もないことである。  神性:EX  魔人化発動時のみ自動修得する。  権限がなくとも、彼女は一個の神格、菩薩である。  【宝具】 『この世、全ての欲(アンリマユ/CCC)』  ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:- 最大捕捉:全人類  魔人化した彼女の対星宝具。  人類すべての欲望を受け止める大地母神に変生した彼女は、同時に人類すべての欲望の生け贄でもある。  人類全ての欲望のはけ口となった彼女は、コードキャスト・万色悠滞により人々の魂を自身の身体に招き入れ、何十億という快楽の渦を作り上げる。この快楽の渦は知性あるものを融かし、その『人生』を一瞬で昇華させる。わずか一瞬の、しかし永遠の極楽浄土の誕生である。  この快楽の渦はどれほど知性構造が異なっていようと、知性あるものには例外なく作用する。  地球に残ったあらゆる生き物(人間、動物、植物)に自分の体を捧げ、これを受け入れる事で最大の官能を会得し、成長する権能。その規模の大きさから大権能として扱われる。  異性であるか否かや知性の高さによってこの宝具によるダメージは変動する。曰く、最低最悪の宝具。  ゲーム内では現HP・MPの99%ダメージを与える。ただし、これは「全能を振るうことができない相手」である主人公(のサーヴァント)に対しての効果であり、この制限が無かった場合の効果は不明。  当企画においては、魔人化が不完全であること、マスターの存在などが枷となり使用不可。  これを使用するには、それこそ聖杯を用いるでもして真の全能形態を取り戻さねばならない。 【weapon】  素手。 【人物背景】  本名は殺生院祈荒。月の裏側に召喚されたマスターの1人で、二十代後半の日本人。穏やかな眼差しと清楚な佇まいが特徴の尼僧で、月の聖杯戦争には「人々を救うという自身の欲望のため」に参加したと公言している。  その正体は『CCC』の事件の黒幕であり、BBのプログラムを改変し、彼女の「主人公を消滅の未来から救う」という目的に「人類の欲望の解放による破滅」という破綻した意識を植え付けた張本人。  「自分が気持ちよくなる」ためだけにムーンセルを乗っ取り、神になろうとする。  自身の欲を追求した結果人類が滅びたとしてもかまわないと考えており、自分の欲のために人を救う、あるいは滅ぼすことにためらいを持たない。他人の人生を台無しにすることでしか絶頂することができない異常者で、彼女が菩薩として崇め奉られたのも単に逸脱しすぎた人間性を解脱と見紛われたに過ぎない。  その人格は人間として破綻しきっており、他人を虫同然と見做し、己の快楽のための道具として扱うことに何の抵抗もない――しかしその上で、全ての人間を真に「愛している」ことが彼女の特筆すべき異常性である。  【マスター】  柊聖十郎@相州戦神館學園 八命陣  【マスターとしての願い】  聖杯を得、盧生の資格を手に入れる  【能力・技能】  邯鄲の夢。  戟法、楯法、咒法、創法、解法の五種から成る夢を用いる。  今の彼は破段、急段の夢を使うことが出来ないが、それでも詠段までの夢を超人的な域で扱う魔人である。  頭脳も運動神経も魔人の域に達しており、達人の格闘技程度ならば闘いながら覚えられる。   【人物背景】  おびただしいまでの死病に冒され、それを打破するべく邯鄲法を発立させた張本人。  その内面は悪魔的なまでの自尊心の塊であり、自身を見下す者、哀れむ者を決して許さない人格破綻者。  悪魔・神野明影との契約通り、破滅の運命を辿る筈だったが、その瀬戸際で魔性菩薩との再契約を果たす。   【方針】  敵を討つ。  使えるものは使い、使えなければ塵と断じて押し潰す。
                         それは、逆さ十字の罪人が天国という名の地獄に導かれる、少し前のお話。  「おのれがァッ……ふざ、けるなッ……!」  地を這う病人の姿は、最早人間の形をしていなかった。  壮健さとは裏腹の朽木色の素肌。少し動かすだけで肌が罅割れ、腐乱臭を放つ膿を垂れ流す。  血走り見開かれた眼球は既に白濁しており、表面は歪に粟立ってすらいる。  たとえどれほどの重篤な末期患者の症例を持ってきたとしても、彼のそれには到底敵うまい。  脳、眼球、気管系、血管、肺、胃、肝臓、膵臓、腎臓、腸、皮膚、脂肪、骨、細胞――人体の全ての部位が、彼の場合はまともに機能していない。即ち、狂しているのだ。一欠片として、そこにまともに動くものはない。  粘付くを通り越してコールタールのように変じた膿は粘膜が剥がれ、溶け落ちたものだ。それが気管に貼り付きあるいは溜まり、この末期病人から呼吸の自由さえも奪い取ろうとしている。    しかし彼は死なない。柊聖十郎という男は、そんなことでは死なない。    聖十郎は天才だった。  学問も運動も、あらゆる分野で彼に匹敵する人間は存在しない。  そして生まれ持った天賦の才能は、時に人間へ身の丈を上回った自尊心を植え付ける。  柊聖十郎は、己を見下し、哀れむ全てのものを許さない。その怒りは当然、彼を蝕む病魔にも平等に向けられる。  「糞、糞、屑め――役に立たん、塵が……貴様の生まれた意味などッ、俺に使われる為に決まっておろうがァッ!」  信じられないことだろうが、彼が生きている理由はそれだけである。  彼はこれまであらゆる延命方法を尽くしてきた。それこそ、民間療法からオカルトの分野まで、凡そ全てを。  だが、どれ一つとして聖十郎を救うものはなかった。彼を蝕む病魔の桁は、最早病弱の域を遥か凌駕している。  全部位に発生した末期腫瘍を免疫不全が数倍に増強し、血など全て白血病の魔の手によって支配された。  彼が役立たずと、塵と切り捨ててきた延命手段の中には、確かにヒトを永らえさせるものがあったかもしれない。    それでも、柊聖十郎は生かせない。  悪逆の逆さ十字を生かす術理は、世界のどこを引っ繰り返しても見つからない。  巫山戯るな。認めん認めん、断じて認めん。誰よりも優れているこの俺は、常に不死身でなければ道理が成らん。  彼の意志は、聖十郎を常に今際への瀬戸際で止めてきた。  鎮痛剤さえ作用を諦める苦痛の呑底にあって尚、彼は探求し続け――やがて一人の男と出会う。  「甘粕――――甘、粕ゥゥゥゥゥッ!!」  光の魔王、甘粕正彦――  彼は盧生。邯鄲の夢を司る者にして、聖十郎には決して手の届かない高みへおわす者。  故に聖十郎にとっての彼は無間の苦しみより脱する光であり、決して認められない闇の象徴であった。  彼の眷属として接続されることで、聖十郎は病よりの脱却を果たす。  逆十字の男は誓った。己の胤より成った子より盧生の資格を剥奪し、いずれはこの魔王を必ず排除すると。  俺の上に立つような存在は――この世に居ない。それを証明するために、逆さの磔が幾度と無く鳴動した。  その顛末が如何なるものであったのかなど――今の彼を見れば、火を見るよりも明らかであろう。  八虐無道の逆さ十字は敗北した。  敗北者には罰が待ち受ける。その例に漏れず、彼もそれに甘んじることとなった。  邯鄲に繋がることで抑えていた病は再度溢れ出し、現在彼は苦痛の濁流に意識を蹂躙されている。  常人であれば即座に脳死を通り越し即死するような激痛の大波濤――にも関わらず瀬戸際を保っていることが、彼という人間の埒外ぶりを物語っていた。柊聖十郎は魔人である。たとえ彼を厭う者であれ、その認識に異を唱える者は居まい。    孝の心、それは即ち報いる祈り。  彼にとっての鬼門である「対等」を前に、魔人は討たれた。  本来であれば、初代の逆さ十字は悪魔との契約通り、彼を天国(じごく)へ導く悪魔(てんし)が現れ。彼にとって最も理解の出来ない愛情という名の汚泥に抱かれ――天命を全うする筈であった。  百年後の未来に至るまで多くの爪痕と波乱を残して、柊聖十郎は救われる/壊される筈であった。  「俺は、不死身だッ……舐めるなよ、屑めらが……!   誰にも、負けん――不可能は、ないッ……………………!!」  しかし彼は生きている。  沸騰せんばかりの怒りと苦痛によって、彼はその不可解さを認識すらしていなかったが、それでも生きているのだ。  それはあってはならぬこと。この男が永らえることは、世界にとって凡そ毒以外とはなり得ない。    「寄越せ、寄越せェ――貴様の全てを、俺に……寄越せェェェッ!!」  その毒牙に掛かったのは、騎士を連れた女であった。  重篤なる病へ羅患した彼は、たとえ夢を持たずとも人外の域にある。  叩き込むのは病の波動。凶念である。  即ち呪殺、人間にとってもっとも在り来りな殺人方法が真っ向より魔術師を冒す。  即座に魔術師は脳死へと至り、騎士は最後まで呆けきったままこの魔界都市より退場を果たした。  聖杯戦争のセオリーを真っ向覆すような行いもしかし悲しきかな。これより死に逝く男には何の誉れともならない。  それでも、柊聖十郎の辞書に諦めるという文字は存在しない。  彼にしてみれば不本意であろうが、彼が阿呆と軽蔑する魔王とも、その一点においてのみ共通している。  枯れ木を通り越し、罅割れた砂岩のようですらある足を軋ませ、醜悪なる病身は壁を伝い立ち上がる。  ――聖十郎は狂っている。そして徹頭徹尾鬼畜である。彼の中には一縷の良心も、付け入る隙もありはしない。    だがしかし。  それでも聖十郎は“愛される”。  彼が憎悪する甘粕正彦も。  彼と絶望の契約を結んだ神野明影も。  彼と唯一対等に殴り合った真奈瀬剛蔵も。  彼を一度は憎み、それを乗り越えた柊四四八も。  そして――彼を光り輝く天国へ導く救済者である、柊恵理子も。  皆が彼を愛している。こんな、愛すべき所など微塵も存在しないであろう悪鬼であるのにだ。  その生き様は否応なしにヒトの興味を惹き、憐れみを生み――時に、彼の最も理解できぬ感情へヒトを至らせる。  「諦める、ものかッ」  だがそれは、彼にとって必ずしも幸いではない。  何故ならば彼を愛する者は、彼にとっては破滅を運ぶ鬼門の存在であるからだ。  愛など気味が悪い。だから死ね、俺の役に立ったなら疾く消えろ。聖十郎は常にそう思っている。  「俺は必ず――」  聖十郎は吼える。  窒息死へ導く膿の塊を気勢で押し潰し、その動作のみで筋肉が、皮膚が、潰れるのも厭わずに。  そうすることこそが己に最後の好機を齎すのだと信じていた。  それはこの魔界都市――<新宿>に迷い込んだ彼だからこそ、本能的に理解したことだったのかもしれない。    聖杯戦争。  マスターは、サーヴァントと共に成る。  だが聖十郎の場合は例外だ。彼は既に死にゆく身である。  彼が生を諦め荼毘に臥すことを受け入れたなら、彼はこのまま息を引き取ったろう。  悪魔との盟約すら果たすことはなく、彼が望み憧れる地獄という死後へ至ったろう。  しかし、彼は生を願う。求めるのは一つ。いかなる時も、柊聖十郎が求める奇跡は一つである。  聖杯? 役不足だ。  何故なら討つべき敵が残っている。  柊四四八、甘粕正彦。俺以外の盧生などは忌まわしい。  だからこそ、彼が願うのはただ一つ。  渇望のみで他の全てを滅ぼせるほど狂おしく――ある一つの“資格”を希っている。  だから彼は吼えるのだ。  生きるために吼えるのだ。  己が屑にも劣る敗残者で終わらない為に、最後の奇跡に縋るのだ。  「夢を掴み――――盧生となるッ!!」  そして。  今日もまた、彼を愛する化外が舞い降りる。  魔王、仁義、天使、悪魔。  それに並ぶに相応しい名を持って、快楽の魔性がやって来る。      そのサーヴァントは思った。  何故にこの男は、これほどまでに生を願うのだろうと。  それは彼、柊聖十郎と接する上で決して抱いてはならない感情だったが、ともかくそう思った。  そして同時に、彼女もまた光の魔王と同じ境地へ至った。    「なんという御仁でしょうか」  仮に人伝に彼の存在を語り聞かせられたとして、それを信じはしなかったろう。  そんな人間が居る筈がないと、英霊に昇華された身をしてもそう結論付ける以外にないからだ。  それほどまでに、逆さ十字の魔人は人間を逸脱している。  しかし同時に、サーヴァントはそんな彼の姿へ奇妙な愛情をすら覚えた。    「ああぁぁ……そうです――貴方は、救われるべきだ」    瞬きの内に消える三千世界。  ヒトを超え神を目指すなど愚かだと説いた、欲望の果てが此処にある。  彼女の銘は魔性菩薩。教化を受け入れられぬ者を救うべく顕れた和光同塵。  何万何億という人間を用い、至上の快楽に酔うことを望んだ全能なる酩酊者。  それとの契約が成った途端――柊聖十郎の体へ、遍く魔力が雪崩れ込む。  状態で言えば、邯鄲の中に在る時と同じであった。  然し、夢の資質に関して言うならば弱体化している。  使えるのは精々が詠段まで。彼の十八番である玻璃爛宮は顕象出来ぬ有り様。彼に言わせれば、度し難い。    「さあ、視て下さいませ。それとも、諦めてしまったのですか?」      聖十郎の双眸が、その女を捉える。  彼女に救われたというのに、そこに感謝の色合いは欠片とてなかった。  当然である。彼は人を使いこそすれど、それで感謝を覚えるようなことは決してない。  彼の口許に滲むのは不敵な笑み。されど彼は確信していた。どうやら、己はまだ終わらぬようだと。  「魔術師(キャスター)か、貴様は」  「いえ――魔術師などでは御座いません。   強いて言うなら、私は救済者(セイヴァー)……遍く総ての人間から、快楽を賜る菩薩でありますゆえ」  「――ハ。成程、売女かよ。貴様、見下げた屑のようだな」  聖十郎の指摘は、事実間違ってなどいない。  彼は紛うことなき邪悪であるが、その人物評に限って言えば何よりも的確にこの救済者の本質を言い当てていた。  彼女は大人物では決してない。  柊聖十郎や、彼を一度救い上げた魔王、更には邯鄲に群れを成す他の六凶のように。  さりとて、心根の下らないモノが阿呆ほどの力を持っている方が、その危険度は洒落にならない域へ跳ね上がる。    セイヴァーは屑だ。  セイヴァーは売女だ。  しかし彼女は屑であるからこそ、全人類をすら破滅させる力を持つ。  「真の名を名乗れよ売女。俺の道具として、聖杯を勝ち取るまで手綱を引いてやる」  「まあ、光栄です、我が主(マスター)。あなたは私を理解し、賛同して下さるのですね」  「戯けが。   貴様に賛同するならば、酔いどれの戯言に耳を貸していたほうが余程有意義だとすら思うよ」  それを聞けば、これは手厳しいとセイヴァーは嗤う。  そして、彼女は己の真名を告げた。    「殺生院キアラ」  彼女は全能。  彼女は破滅。  彼女は救いで、彼女は終わりの随喜自在第三外法快楽天――  「生きとし生けるもの、総ての苦痛を招くものです」 ----  【クラス】  セイヴァー  【真名】  殺生院キアラ@Fate/EXTRA CCC  【パラメーター】  筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:EX 幸運:B 宝具:EX  【属性】  混沌・中庸  【クラススキル】  彼女は異端のセイヴァー。  本来ならば彼女がこのクラスを名乗ることが、何かの冒涜である。  殺生院キアラという救済者は、クラススキルを持たない。  【保有スキル】  法力:A  彼女は最悪の破戒僧であるが、その法力だけは紛れもない本物である。  ウィザード:A  天才的なまでのウィザードとしての腕前。  電脳世界での逸話を主とし顕現したサーヴァントであるため、現実世界にもコードキャストを適用できる。  素性秘匿:A  彼女は自らがサーヴァントであるという事実を、後述のスキルを使わない間は隠蔽可能。  この秘匿は非常に高度なものであり、たとえ専用の宝具を用いても看破不可能な域にある。  魔人化:EX  かつてマスター達とアルターエゴを吸収して変生した魔人の姿となる。  これはあくまで彼女の逸話をなぞるスキルであるため、改めてそれらを取り込む行程は不要。  頭部に2本の巨大な角を生やし、周囲には彼女に取り込まれた多くの人間の魂が怨霊のような姿で現れ、背後には巨大な髑髏が現れる。この魔人形態は随喜自在第三外法快楽天と呼ばれる。  しかしこの魔人化は規格外のランクにありながらも不完全。  宇宙規模の存在規模も、太陽系を管理するほどの権限も持たない。  それでも――対サーヴァント戦をこなすくらいならば、雑作もないことである。  神性:EX  魔人化発動時のみ自動修得する。  権限がなくとも、彼女は一個の神格、菩薩である。  【宝具】 『この世、全ての欲(アンリマユ/CCC)』  ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:- 最大捕捉:全人類  魔人化した彼女の対星宝具。  人類すべての欲望を受け止める大地母神に変生した彼女は、同時に人類すべての欲望の生け贄でもある。  人類全ての欲望のはけ口となった彼女は、コードキャスト・万色悠滞により人々の魂を自身の身体に招き入れ、何十億という快楽の渦を作り上げる。この快楽の渦は知性あるものを融かし、その『人生』を一瞬で昇華させる。わずか一瞬の、しかし永遠の極楽浄土の誕生である。  この快楽の渦はどれほど知性構造が異なっていようと、知性あるものには例外なく作用する。  地球に残ったあらゆる生き物(人間、動物、植物)に自分の体を捧げ、これを受け入れる事で最大の官能を会得し、成長する権能。その規模の大きさから大権能として扱われる。  異性であるか否かや知性の高さによってこの宝具によるダメージは変動する。曰く、最低最悪の宝具。  ゲーム内では現HP・MPの99%ダメージを与える。ただし、これは「全能を振るうことができない相手」である主人公(のサーヴァント)に対しての効果であり、この制限が無かった場合の効果は不明。  当企画においては、魔人化が不完全であること、マスターの存在などが枷となり使用不可。  これを使用するには、それこそ聖杯を用いるでもして真の全能形態を取り戻さねばならない。 【weapon】  素手。 【人物背景】  本名は殺生院祈荒。月の裏側に召喚されたマスターの1人で、二十代後半の日本人。穏やかな眼差しと清楚な佇まいが特徴の尼僧で、月の聖杯戦争には「人々を救うという自身の欲望のため」に参加したと公言している。  その正体は『CCC』の事件の黒幕であり、BBのプログラムを改変し、彼女の「主人公を消滅の未来から救う」という目的に「人類の欲望の解放による破滅」という破綻した意識を植え付けた張本人。  「自分が気持ちよくなる」ためだけにムーンセルを乗っ取り、神になろうとする。  自身の欲を追求した結果人類が滅びたとしてもかまわないと考えており、自分の欲のために人を救う、あるいは滅ぼすことにためらいを持たない。他人の人生を台無しにすることでしか絶頂することができない異常者で、彼女が菩薩として崇め奉られたのも単に逸脱しすぎた人間性を解脱と見紛われたに過ぎない。  その人格は人間として破綻しきっており、他人を虫同然と見做し、己の快楽のための道具として扱うことに何の抵抗もない――しかしその上で、全ての人間を真に「愛している」ことが彼女の特筆すべき異常性である。  【マスター】  柊聖十郎@相州戦神館學園 八命陣  【マスターとしての願い】  聖杯を得、盧生の資格を手に入れる  【能力・技能】  邯鄲の夢。  戟法、楯法、咒法、創法、解法の五種から成る夢を用いる。  今の彼は破段、急段の夢を使うことが出来ないが、それでも詠段までの夢を超人的な域で扱う魔人である。  頭脳も運動神経も魔人の域に達しており、達人の格闘技程度ならば闘いながら覚えられる。   【人物背景】  おびただしいまでの死病に冒され、それを打破するべく邯鄲法を発立させた張本人。  その内面は悪魔的なまでの自尊心の塊であり、自身を見下す者、哀れむ者を決して許さない人格破綻者。  悪魔・神野明影との契約通り、破滅の運命を辿る筈だったが、その瀬戸際で魔性菩薩との再契約を果たす。   【方針】  敵を討つ。  使えるものは使い、使えなければ塵と断じて押し潰す。

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