身も蓋もない事を言うのであれば、ザ・ヒーローらが人修羅達を発見出来たのは、全くの偶然と言う他がなかった。
ヴァルゼライドの手傷をある程度治し終え、再び当てもなく<新宿>のサーヴァントを探すと言う事を行う。
この主従達が、こう言った索敵能力に優れていない事は、一時間以上と<新宿>を駆けまわっているのに、
蠅の魔王のランサーや蒼コートのアーチャーを発見出来なかったと言う事例からも証明されている。
今回もそれが徒労に終わるのかと思えば、それは、否だった。彼らは、蠅の王やコートの剣士とは、全く違う、しかし、強さは彼らに勝るとも劣らない存在達の気配を発見したのだ。

 ――其処は、<新宿>は新小川町に存在する、ある廃病院だった。
<新宿>衛生病院と称されているその病院は、今から十何年以上も前に、公安から最大限の警戒をされていたあるカルト宗教の息が掛かった所であったらしく、
敵対勢力の患者が此処に入院されるや、水面下で殺害。診断書を巧みに偽造して、その事が外部に知られる事を阻止していた、と言う大事件があったと言う。
当然、その様な病院が公序良俗に照らして存続が許される筈もなく。医の倫理を揺るがす大事件にまで発展し、その事件の象徴ともなったこの病院は、一瞬で廃業され、
こうして現在に至ると言う訳だ。病院は東京と<新宿>の発展の推移と変遷に乗る事もなく、ただ、廃業された瞬間のまま時間が止まり、そのまま、
時の流れるに任せ、荒れるに任せている。地元住民も、この病院が元が何であったのかと言う事をよく理解しており、不吉の象徴として、余り近寄りたがらない。
何せ草木も眠る丑三つ時になれば、殺された患者達の怨念が渦巻いていると言う噂もある位だ。全く根も葉もない噂でもなく、上述の事件があれば、そんな馬鹿なと笑い飛ばせないのが、全く救えないし、笑えない。

 その病院で、二人は反応を捉えた。しかも、その捉え方が、妙であった。
ヴァルゼライドの索敵範囲が、『移動の最中にサーヴァントの気配を発見した』、と言うのなら理解も出来よう。
だが、ヴァルゼライドの索敵範囲の『中に』、『突如サーヴァントの気配が現れた』、と言うのが奇妙だった。
つまり、彼が捉えた二つのサーヴァントの気配は、殆ど同時に、彼のサーヴァントとしての気配察知範囲に現れたのだ。
殺意も敵意も、ヴァルゼライド達の方に向けられていなかったと言う事を勘案するに、恐らくはこれは偶発的な物だったに相違あるまい。
――好機、と二人が捉えたのは言うまでもない。即座に彼らは<新宿>衛生病院の方へと足を運び、その場で戦っていたと思しき、二組の主従目掛けて、ガンマレイを放った。

 こうして――今の状況に至る訳である。

 突然の闖入者に、何者だこいつは、と言った様な表情を浮かべているのは人修羅の主従である。
人修羅に限って言えば、スキル・真名看破で、目の前のバーサーカーの真名をクリストファー・ヴァルゼライドだと言う事を理解している。
知らないサーヴァントだった。少なくとも、悪魔や神の類ではない事は確実だ。何せ人修羅自身、聞いた事すらなかったからだ。
恐らくは、自身と、彼の上に立つ明けの明星が破壊しようとしている、大いなる意思の世界法則(ゲットー)の外の住民であろう。
知らないサーヴァントではあるが、弱いとは、人修羅は認識していない。間違いなく、この男は強い。人間如きと言って、人修羅は侮らない。
何故ならば彼自身が、人から悪魔に転生した存在なのだ。人の持つ可能性と言う存在を、強く認識している人修羅は、自身の出自故に、例え人間が相手でも、一切侮らないのである。

【マスター、気を付けた方が良い】

 と、自身の主にそう忠言するのは、浪蘭幻十その人だった。

【あのサーヴァントの握る刀から、人間が触れれば即死する程の放射線が確認された。無論、アレの放った光の帯にしても同じだ。あれの通った先は、多分人が住めないと思う】

 驚いたのはマーガレットである。核の力を操るサーヴァント自体には驚かない。
だが、それを躊躇なく、しかも、人の密集している地帯で放出させると言うその神経の異常さに、むしろマーガレットは驚いていた。
妖糸の奥義の一つ、糸探りは、当然、放射線の有無やその強さをも、探知が出来る。如何な幻十と言えども、放射線に直撃して無事な訳はない。
彼は、マーガレットの驚きとは対照的に、つとめて冷静だった。魔界都市に於いては、放射線を用いた兵器など当たり前の存在だった。
核兵器などに転用出来るプルトニウムが当然のように流通していただけでなく、そもそもプルトニウムが産出出来る地脈自体が存在した程だ。
これだけならばまだしも、裏ルートで流通した核兵器の設計図すら流れていた始末だ。そのせいで、歌舞伎町のホストですら、小銭稼ぎに原子爆弾を作成、流通させていた、
と言う椿事すらあった。そう、幻十の認識する魔界都市では、核兵器など有り触れた武器の一つであった。ちょっとした中堅のヤクザですら持っていた。
あの街では、完璧な除染技術が確立されていたからそれも良かったものの、この<新宿>ではそれもない為、半減期が訪れるまで放射線汚染区域は放置するしかないであろう。

 ――知った事か――

 この街が崩壊しようが、幻十には如何でも良い事だった。
存分に、放射線でも撒けば良い。その末に、自滅でもしていろ。自分はただ、親友にして仇敵である秋せつらと決着をつけ、主催者を葬るだけ。それが出来れば、最早悔いなどないのだから。

 この場にいる主従達に目線をやるヴァルゼライド。
人修羅と、彼が抱えるエリザベスの順に目線をやり、次に幻十の方に目線を向けた。
その瞬間、幻十は表情に微笑みを浮かべ、鋼の英雄にそれを投げ掛けた。意図的に、美しさを際立たせる表情を作り、それを彼に向けたのだ。
陰鬱たる廃病院のロビーが、柔らかな陽光と黄金色の輝きで満ち溢れた楽園に変貌した様な錯覚を、ヴァルゼライドは憶えた。
人智を逸した美の持ち主である幻十の表情を見た瞬間、一瞬硬直した。ヴァルゼライドの脳髄に生まれた、思考の空白。
彼程の男にすら、その様な時間を与える、恐るべし、浪蘭幻十のその美貌。鋼の英雄にすら、間隙を与える、幻十の天与の美しさ。

 その思考の空白を狙い、幻十が動いた。
糸探りの為にヴァルゼライドの方に伸ばしていたチタン妖糸を、音速に数倍する速度で、彼の首目掛けて撓らせた。
一瞬で、空白だった脳蓋に、戦闘に対する意識で満たさせるヴァルゼライド。即座に表情を忘我のそれから、平時のそれへと切り替えさせ、
ガンマレイを纏わせたアダマンタイト刀を振るい、極細の殺意が迫るそれの方へと振り下ろす。
チィンッ、と言う音が刀の方から鳴り響き、黄金色の火花が散った。余人の目には、ヴァルゼライドの刀が透明な壁にぶつかり、火花を散らしている様にしか思えないだろう。
事実、ヴァルゼライドの瞳にすらそう見えている。しかし、彼の鋭い感覚が、それは違うと判断していた。
極めて細い線状の何かが、凄まじい殺意を伴って自分に向かい、自分は今その糸と拮抗している。既に彼は、此処まで攻撃の正体を捉えていた。
刀に纏わせた黄金色の光の出力を上昇させる。ロビー全体が、真実、眩い黄金色の光で照らされると同時に、チタン妖糸が蒸発した。

 幻十の方に鋭い瞳を向け、ヴァルゼライドがアダマンタイトの刀を振り抜き、ガンマレイを放とうとした、刹那。
チタン妖糸と刀を拮抗させている間に、幻十がバラ撒いて置いた妖糸を、一斉にヴァルゼライドの方に殺到させた。
千二百十条程の数のチタン妖糸。ナノmと言う、分子レベルの小ささの糸は、人修羅もヴァルゼライドも、当然視認出来ていない。
凧糸にも似た細い殺意が、凄まじい速度と勢いを伴って向ってきている、と言う事が理解出来る程度だ。理解しているからこそ、ナノmと言う小ささの糸を防御出来た。
これは優れた直感や、戦闘経験がなければどだい不可能な芸当で、彼らですら、今まで潜り抜けて来た戦闘で培った財産の全てをフルに活用しなければ、防げないのである。恐るべきは、浪蘭幻十の妖糸の技倆である。

 人修羅は、悪魔の反射神経を以て全てを破壊して防御した。 
ヴァルゼライドは――一点方向の妖糸の密集地帯に狙いを定める事で、状況を切り抜けようとした。
くすんだリノリウムの床を蹴り、幻十の方へと向かって行くヴァルゼライド。殺到するチタン妖糸を、極熱と放射線を纏わせた刀を幾度も振い、切り払う。
数本の魔糸が、彼の頬と背部を五mm程斬り裂く。血が勢いよく噴き出るが、知った事ではない。既に幻十を両断出来る間合いにまで、彼は到達していたのだから。

 刀をヴァルゼライドが振り抜いた。肉を斬り、骨を断った感触が腕に伝わらない。
何も無い空間を斬り裂いたと知ったのは、刀を振り抜き終えてからの刹那だった。
合せて、幻十のマスターと思しき青スーツの女性も視界から消えていた。人修羅やエリザベスが、先程ヴァルゼライドが宝具を射出させ、
病院に空けた大穴の方に顔を向けた。微かだが、残像が残っていた。黒コートの美男子の姿と、青いスーツの美女の姿が、空間に焼き付いていた。
妖糸を身体に巻き付けさせ、それを収縮させる反動を用いた移動を以て、この場から退散したのである。幻十は、当初の目的を忘れていなかった。
この場から退散すると言う目的をだ。敵がもう一人増えた以上、更にその考えを強めていたのである。
かくて、幻十らは見事に<新宿>衛生病院から退散して見せた。後には、ルーラーのサーヴァントとそのマスター。そして、英雄のバーサーカーがその場に残るだけとなった。

 敵に一人、見事に逃げられたとヴァルゼライドは冷静に考える
恐ろしく強いサーヴァントであった事もそうだが、一緒に退散したマスターの強さも、凄まじいものだった。恐らくは、生前戦った魔星と同等か、それ以上かもしれない。
それ程の強さにも拘らず、何故、逃げると言う選択肢を選んだのか、理解に苦しむ所であったが、過ぎた事を考えていても仕方がない。
今は、目の前の敵である、入れ墨を刻んだ青年の方に目線を向ける。一目見た時から、理解した。この男は、形容する言葉が見つからない程に、強い。
ヴァルゼライドは、例え記憶がどれだけ摩耗しようと忘れる事のない男の強さと、人修羅の強さとを重ねた。
天命によりて戦う宿命にあり、しかし、餓えた狼の逆襲を受け遂に戦う事はなくなってしまった、太陽の名を冠するあの男と、人修羅の強さに、大差はない。
それだけの敵にも関わらず、マスターの方も、それに負けず劣らずの強さと意志を内に秘めた強敵である事も、ヴァルゼライドは見抜いている。
掛け値なしの、強敵達。だからこそ、負ける訳にはいかない、折れてはならない。自身が成そうとする目的の為に、絶対に、目の前の敵は、葬らねばならないのだから。

 腰に差した鞘からアダマンタイトの刀を左手で引き抜くヴァルゼライド。今やその両手には、刀が力強く握り締められている。
片方は、遍く悪を裁く輝かしい黄金光で眩く激発し、片方は、美しい鋼色の剣身を外気に露とさせていた。
鋼色の刀身が、片方の刀の様な黄金の輝きを纏うのに、二秒もかからなかった。美しい光とは裏腹に、その実光の正体は放射線そのもの、
と言う死の魔刀を二振り持ち構えて。ヴァルゼライドは、人修羅達に鋭い目線を投げ掛けた。

「殊勝な心掛けだな。首を捧げに来たか」

 エリザベスを床に降ろしてからそう言ったのは人修羅だった。

「自分の行っている事が、非道だと言う事は理解している。何れ、俺は死ぬだろう。座から地獄にも堕ちるだろう。だがそれは、今ではない」

 ガンマレイを纏わせた刀の切っ先を人修羅の首元に突き付けるようにして、ヴァルゼライドが口を開く。

「貴様を討ち倒し、俺は行ける所まで行く。此処で死ぬ訳には行かない。俺は、勝ち続ける」

「お前は死んで地獄に行くべきサーヴァントだ。見ろ、この穴から見える光景を。お前があの光を放つ前までは、住宅街がこの先にあった。お前はその家を、住民ごと殺したんだぞ」

「だろうな」

 当然の推移を話すかのように、ヴァルゼライドが言葉を返した。

「……何とも思わないのか。お前は」

「自分の行っている事が、非道だと思っている。俺は、そう言った筈だ」

「心の中でそう認識してるから、見逃せ、と。さては馬鹿だな、お前」

 声音に呆れが混じる。

「先程のアサシンは逃げたが、心配するなよ。俺は逃げない。早急にお前を殺さなければならなくなったからな」

「成程。あの黒いコートの男に比べれば、お前は覚悟が――」

「何勘違いしてんだ馬鹿が」

 ヴァルゼライドが全てを言い切る前に、人修羅は彼の発言を即座に一刀両断する。
会話が可能なバーサーカー等、妙だな、と人修羅も思ったが、事此処に至って、確信した。
余りにもこのサーヴァントは、人の話を聞かな過ぎる。自分の価値観と、自分自身の目的を至上とした人物なのだ。
彼は、自分自身が悪いと認識している、それを償うべきだとも理解している。では、それで全てが許されるのか? 狂人から常人に評価を改められるのか?
悪い冗談だ、と人修羅は思っている。様々な言葉と立ち居振る舞いで本質を濁しているが、クリストファー・ヴァルゼライドと言う真名のこのサーヴァントを、
シンプルな言葉で言い表すのであれば、『わがままな馬鹿』以外の何者でもないと人修羅は見ていた。
自身の理想の成就を最優先事項にする余り、周りが一切見えていない。肉食獣の目線の様な持ち主の男であった。
だからこそ、躊躇なくあのような広範囲に破壊をもたらす攻撃が出来る。それが悪い事だと認識していても、それを顧みる事をしない。
全てを自分の価値観の下に正当化させ、他者の行動を自身の価値観と言う物差しで測り、判断する。そう言った存在がいても、別段良い。良いが、このサーヴァントの場合、それが余りにも危険過ぎる。

「俺はルーラーだ。<新宿>……いや、東京の管理者として、貴様を滅ぼす。クリストファー・ヴァルゼライド」

 両腕に刻まれた入れ墨が、バチバチと紫色の火花を散らす。大量の魔力が彼の腕を中心に、ロビー中を荒れ狂い、病院全体を鳴動させる。
飛び散る火花は、可視化され、人体の一部程度なら容易く消滅させる程の威力となった、人修羅と言う個体の生体電流であった。

 真名を当てられ、剰え、目の前の存在が、ルーラーと解っていても、ヴァルゼライドは泰然自若とした態度を崩さない。
成程、この男がルーラーと呼ばれるサーヴァントであったか。予定よりも早く斬る事になるとはな、と。彼は、本気でそんな事を考えていた。

「そうか、お前がルーラーだったか。<新宿>と言う地の管理の為に、俺を滅ぼすと言うその理屈。合理的だ」

 「――だが」

「俺は滅びん。お前がルーラーであろうがなかろうが、俺は、俺を滅ぼそうとする意志には断じて膝を折らない」

「そうか」

 ふっ、と。沈黙の帳が降りた。
人修羅が解放させている魔力に緩く応えるように、病院は揺れている。カタカタと、照明が振動で揺れる音と、人修羅の両腕から弾ける紫電の音だけが、
いやに大きく聞こえてならない。ジリッ、と、ヴァルゼライドがにじり寄る。対する人修羅は、自然体で立ちつくし、敵対者ヴァルゼライドを睨んでいる。
彼我の距離が十cm程縮まって行く度に、場の空気が指数関数的に重みを増して行く。部屋全体の重力が増し、今にも全てが押し潰されんばかりのプレッシャーだった。
常人は愚か、音に聞こえたサーヴァントですら、身体の全てが潰されかねない程の重圧的な空気。その最中にあって、その空気を初めに打ち破ったのは、人修羅の方からだった。

「死ね馬鹿」

 そう言った瞬間、人修羅の姿がヴァルゼライドの視界から消滅。それと同時に、<新宿>衛生病院自体が激震する。
振動に耐え切れず照明類が次々とリノリウムの床に落下。埃被ったガラスの破砕音が鳴り響いたと同時に、その音響を上回る、形容し難い大音が鳴り響いた。
人修羅の伸ばした左拳が、ガンマレイを纏わせたヴァルゼライドの刀に阻まれている。立ち位置から察するに、人修羅は一直線にヴァルゼライドの方に駆けたらしい。
ヴァルゼライドが人修羅の移動速度と攻撃速度に反応出来たのは、完璧にまぐれだった。点の殺意を感じた瞬間、その方向に刀を動かしたら、
人修羅の左拳が飛んできたのである。このバーサーカーは幸運だった。万が一にその一撃を貰っていれば、忽ち彼の胸部は肺や心臓ごと持って行かれたのだから。
一方、放射線の凝集体とも言うべき、ヴァルゼライドの黄金刀を触れている人修羅は、鈍い痛みを左拳全体に感じていた。
刀に纏わせた黄金の光を警戒し、人修羅は予めその拳に魔力を纏わせていたのだが、それすらも上回るらしい。
尤も、人修羅と言う悪魔の格がなければ、ガンマレイの放射線は、触れようものならたちどころに肉体が崩壊して行き死に至る程強烈な代物なのだ。痛み程度で済んでいると言う事実が、彼の異常性を如実に表している。

 ――人修羅の悪魔としての感覚が、この病院内に紛れ込んだ、もう一つの気配を察知した。
それは、騒ぎを聞き付けこの場にやって来た野次馬の類ではない。この場に自分の意思で入り込んだもう一人の存在。それは――。

「警戒しろマスター!!」

 エリザベスが人修羅の言葉を受け、身体に力を漲らせた。
この場に、自分達以外の何者かが、意図的に入って来ている事を彼女もまた見抜いていた。
気配のする方向――先程自分達がロビーに現れるのに用いた薄暗い廊下の方に身体を向けると。
弾丸の如き勢いで、燃え盛る刀を手にした青年が飛び出して来たではないか――!!
青年は間合いに入った途端、神剣・ヒノカグツチを勢いよく上段から振り下ろすが、エリザベスはこれを手にしていた辞典で防御する。
凄まじい衝撃波が、剣と本の接合点から走り始める。一瞬ではあるが、エリザベスも、この場に現れた闖入者、ザ・ヒーローも驚きの表情を浮かべた。
まさか自分の攻撃が本で防がれるとは、と思ったのはザ・ヒーローの方だ。そして、人の身でありながら此処までの力を持っている何て、と驚いたのはエリザベスだ。
彼女の中に流れる力を管理する者の血が、熱く、熱く猛り始める。だが、今は、やるべき事がある。
直にザ・ヒーローから距離を取り、ペルソナ辞典を開かせ、彼女は、宣言する。

「デッキ、オープン」

 そう言って一枚のカードを手にした瞬間、四人は、エリザベスの展開した閉鎖空間に取り込まれる。
人修羅が、力の一端を発揮出来るのに適した空間。エリザベスが、本気を出せる私的な空間。

「私、手加減が少々下手で御座いますので、予めご了承くださいませ」

 カードの一枚を手に取り、ザ・ヒーローに恭しくそう言った。
戦端は、そんな彼女目掛けて発砲された、ザ・ヒーローのベレッタの銃声によって、開かれたのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 人修羅が力を込めた瞬間、アダマンタイトの刀の剣身は、乾いた金属音を立てて圧し折れ、宙を舞った。 
驚いたのはヴァルゼライドだ。アダマンタイトは元を正せば数世紀以上前に滅びた日本国の技術の一つと言っても良く、これは、
星辰体感応奏者(エスペラント)がその能力を行使するのに必要不可欠な代物である。つまり、これがなければヴァルゼライドは、
星辰光(アステリズム)を行使する事もままならない。それもあるのだが、この金属の物質的な強固性は、彼の居た世界で極めて高く、人間の膂力では破壊する事は愚か、
形状を変化させる事すら不可能な程なのだ。それを、単純な腕力で破壊するとは、目の前の存在の力強さを改めてヴァルゼライドは認識した。

 後ろに五m程飛び退き、中頃から圧し折れたアダマンタイト刀を、人修羅の脳天目掛けて放るヴァルゼライド。
だが逆に人修羅の方が、彼の投げ放った刀の柄を握り返し、それを投げ返した。天与の反射神経でそれを弾き飛ばし、事なき事を得るヴァルゼライド。
これと同時に、人修羅の身体に刻まれた入れ墨から、数千万Vにも達する程の放電現象が発生。そのスパークが、鋼の英雄の方に伸びて行く。
入れ墨に内包された魔力の不気味な動きを察知していたヴァルゼライドは、直に、右手で握った刀を力いっぱい振り抜き、スパークを斬り裂いた。
所謂雷切伝説、と言うには規模が小さすぎるが、それでも、人智を逸した絶技である事には、何の変転もなかった。

 すぐに腰に差した刀の一本を鞘から引き抜き、星辰光による超常の光を刀に纏わせるヴァルゼライド。
それを見るや、ノータイムで人修羅は、口腔から摂氏一万度にも達する火炎を放出、彼の身体を文字通り、灰すら残さず焼き尽くそうとする。
大上段から刀を垂直に振り下ろし、火炎を真っ二つにヴァルゼライドは斬り裂いた。
彼の雄姿に恐れを成したかのように二つに別れたその火炎の真ん中を、英雄は走る。一直線に、悪魔・人修羅の方へと。

 手にした佩刀を、ヴァルゼライドは人修羅の胴体目掛けて振るった。
悪魔は何時だって、聖者か英雄に敗れ去るものだ。しかし、現実は何時だって甘くないし、英雄譚の中での出来事のように行かない。
お前の行動は読めていると言わんばかりに、人修羅は、エリザベスが展開した閉鎖空間の砂漠の砂地を蹴り抜き、飛び退く。
十m程右方向に着地した人修羅は、それと同時に、左手に魔力を練り固めた剣を握り、それを地面に叩き付けた。
剣先が叩きつけられた瞬間、放たれたのは、目に毒々しい、パンジーの様な紫色をした気の波であった。
悪魔達の剣技の一つとして、俗に『ベノンザッパー』と呼ばれるこの波濤は、人修羅程の悪魔が放てば、掠っただけで並の悪魔など原形を留めぬ程に粉々。
縦しんば生き残っても、強烈な毒素が身体を蝕む、と言う二段構えになっている。
ベノンザッパーの紫の気波を見て、第六感が命の危機を告げる。ヴァルゼライドは直にアダマンタイトの刀を縦に振り下ろし、頭上から、
黄金色の柱をベノンザッパー目掛けて落下させる。毒なるもの、全て、浄化されるべし。そのような、ガンマレイの強い意思が聞こえるようであった。
毒の波は一瞬で全て蒸発し、ヴァルゼライドに届く前に全て無害化される。砂煙が晴れ掛かったその時に、彼は見た。
マグマ化した砂地の先で、左腕を突き出し、猛禽の様に指を曲げた左手の掌にエネルギーを集中させる人修羅の姿を。
白色の粒子が掌に集中したと見るや、人修羅は、掌から光弾を放った。ヴァルゼライドの幸運は、それを見た瞬間、回避行動に移っていた事である。
人間の反射神経を凌駕する速度で離れた光弾は、余程反射神経に優れたサーヴァンでない限り見てからの回避など全く不可能な話で、予兆を見てから避けぬ限り命中は免れないのだ。

 ヴァルゼライドが避けた先に、人修羅が予め回り込んでいた。
指を獣の如く曲げた右腕を、横薙ぎに振るう。すんでの所で、上体を大きく後ろに引かせ、直撃だけは避ける。
が、人修羅の中指が彼の腹部を捉えた。軍服ごと、ヴァルゼライドの腹筋の筋肉を一部をちぎり取る。
痛み――だけで済んだのならばまだ良い。尋常じゃない速度が生み出した衝撃が体中を駆け抜ける。体中が沸騰しそうであった。
凄まじい、と言う言葉で形容するには余りにも陳腐すぎるその痛み。ヴァルゼライドの碧眼が血走る。

 人修羅が人間ではない事は、既にヴァルゼライドも知っている。
そして同時に、この悪魔が、自分の力を誇り、それを嬉々として振うだけの愚物でない事も。
自らの力の何たるかを理解し、それを適切な状況で、適度な力量で放つ事が出来る。早い話が、技者でもある。
またしても、強敵だった。ザ・ヒーローが記憶を取り戻す前に戦ったランサーも、早稲田鶴巻町の公園で戦った鋼の獣も。
蠅の魔王のランサーも、蒼いコートのアーチャーも。全員誰もが勝るとも劣らぬ烈士であり、運命が何かを違えれば、敗者になっていたのは自分だった程の強敵だったと、
ヴァルゼライドは強く認識している。強さの序列など、付けられる筈もない。だが、敢えて、しかも、今回の戦いの分も含めて序列をつけろ、と言われれば。
このルーラーは、間違いなく別格の存在だとヴァルゼライドは思っていた。単純な戦闘能力も、戦闘経験に裏付けられた技術の練度も、並のそれじゃない。生前の時点でも、人修羅程の強さの者など、数限られていた。

 生前、ヴァルゼライドが敗北を喫した男は、勝ち続けたが故に、更に強い敵が立ちはだかり、また倒し、また強い敵が立ちはだかる、と言うサイクルに、折れた。
その男にとって勝利とは解けぬ呪縛であり、度を越せば不幸しか招かないものだと、強く信じていた。
今、ヴァルゼライドは、勝利を求め続けるが故に、高邁かつ達成が著しく困難な理想を掲げるが故に、それに相応しい怪物を己が身元に招いてしまった。
理想の為に勝利を重ね続け、振り返れば最早来た道すら判別出来ぬ程の屍の山を積み続けた結果、今ヴァルゼライドは此処にいた。

 しかしそれでも……いや、『だからこそ』。

「まだだ」

 この男は折れなかった。自分よりも強敵が立ちはだかったのならば、自分も強くなり続ければ良い。
勝ち続けたいのならば、己が勝利以外の一切を考えなければ良い。己の勝利が、全ての諸問題を解決出来るのだと自惚れれば良い。
そうして勝って、勝って、勝ち続け、己の義務を貫き通す事。それこそが、勝者の務めなのだ。
勝者とは、『勝』ち続ける『者』であり、『勝』ってしまった『者』。ヴァルゼライドが元々は前者だったのか後者だったのか、今となっては彼も解らない。
だが、決めたのならば、終わりの地平まで、彼は駆け抜ける。そうして走り続けた先に、世界を拓き、人々を笑顔にする答えがあるのだと、彼は信じているから。

 黄金刀を電瞬の速度で振り下ろし、人修羅を斬り裂かんと動き始めるヴァルゼライド。
しかし、既に彼の纏わせている星辰光がただの光でない事に気付いている人修羅は、そう簡単に攻撃を貰わないし、防御だってしない。
全て、回避する。それが、彼の打ち立てた方針であった。黄金色の残像を空間に煌めかせながら迫る、ヴァルゼライドの神速の一撃を、
事もなげに人修羅は身体を逸らして回避する。回避と同時に、入れ墨が白く眩く光り輝き、スパークが迸った。
殆どゼロ距離で行われた放電を、ヴァルゼライドはその予兆を読み、大きく後ろに飛び退く事でこれを回避する。
衣服の一部が電熱によって焼け焦げたが、それでも、生身は無事な辺りが流石としか言いようがない。

 兎に角、攻めねば話にならない、と言うのがヴァルゼライドの見解だった。
目の前のサーヴァントは、守勢に回って勝利を拾える程甘い存在ではない。それに元より、ヴァルゼライドは自らの星辰光を含めて、持久戦には向いていない。
兎に角、攻める。相手の防御は、力尽くで破壊し、隙が生まれれば其処を突く。それが、彼の基本の戦い方と言っても良い。
人修羅も人修羅で、守勢に転ずるつもりはないらしく、空いた左手に魔力剣を握りしめ、ヴァルゼライドの方に風の様な速度で向かって行った。
同じ様にヴァルゼライドも、この混沌の悪魔の方へ駆けだした。

 人修羅が魔力を固めた魔剣を左中段から横薙ぎに振るった。
それに合わせてヴァルゼライドが上段から刀を振り下ろす。金属音とも取れぬ、ジュインッ、と言う意味不明な音が鼓膜を振わせる。
即座に人修羅が自らの剣を交合点から引き離させ、再びその剣を振った。今度は下段から掬い上げるように斬り上げて来た。
今度はヴァルゼライドが、ガンマレイを纏わせた魔剣を中段右から振り抜いて、これを防いだ。いや、防いだと言うよりは、攻撃が失敗に終わったと言うべきか。
無論それは、人修羅についても同じ事が言えた。どちらも防御を行うと言う意思はなく、攻撃を以て目の前の敵対存在を殺害すると言う事を目的としている。
その攻撃のレベルが余りにも高すぎるが故に、結果的に攻撃どうしが衝突。第三者から見たら、どちらかが攻撃を防御している様にしか見えなくなっているだけだ。

 ヴァルゼライドが吼えた。
黄金の魔刀を、振るう、振り落とす、振り上げる、薙ぐ、打つ、薙ぐ、袈裟懸けにする、打つ、振り落とす、振う、振う。
紫色の魔力で構成された魔力剣を、人修羅が、薙ぐ、打つ、打つ、振り上げる、振り落とす、袈裟懸けにする、逆袈裟にする。
鈍いサーヴァントであれば、自身が斬り殺されたと認識する事も出来ない程の速度で両者が武器を振い、
光すら避けられるのではと錯覚する程の人外染みた反射神経で、相手の攻撃を、自分の放った攻撃で、二名は防御を続けていた。

 これだけ攻撃を行っていながら、攻めあぐねているのはヴァルゼライドの方だった。
確かに凄まじい攻撃の数々を繰り広げている。今の自分が繰り出せる身体能力の限界に、今まで自分が培って来た剣理の全てを相乗させている。
にもかかわらず、人修羅に攻撃が届かない。尽くを防がれる。悪魔と人間との間に立ちはだかる、厳然たる身体能力の差。
つまりこの場合、ステータスの違いが、今の結果に繋がってた。アドラー帝国によって人体改造を施されたヴァルゼライドではあるが、
あくまでも人間と言う生物を科学的に改造して得た身体能力である事には代わりない。純然たる悪魔である人修羅に、身体の運動能力で負けるのは、当然の帰結だった。種差は、そう簡単には覆せないのだ。

 一方で、能力面で有利に立っていながら、この状況を奇妙に思っているのは人修羅の方だった。
自身が優勢にあると言う認識は、人修羅とて変わりない。変わりないが、人修羅の優れた直感や戦闘経験が、妙な結果を導いていた。
ヴァルゼライドの身体能力が、明らかに高まって来ている。最初は人修羅自身、認識が狂っているのではと思ったが、見間違いでない。
戦闘が始まった当初のヴァルゼライドの刀の一振りの最高速と、現在の最高速の差が、明らかに広がって来ている。
無論、最初の方の最高速の方が速いのではなく、『疲労も蓄積している筈の現在状態での最高速の方が速い』のだ。
このまま持ち堪えられれば、嫌な予感がする。万魔をその拳で砕いて来た混沌の悪魔の直感は、彼自身にそう告げていた。

 魔力剣と黄金刀の打ち合いは、既に二百合目程にも達さんとしていた。
衝突の際に生じた衝撃波は、砂を高く舞飛ばし、砂に埋もれた岩地に亀裂を生じさせる程で、このまま行けば終いには、天すらも砕きかねない程であった。
既にヴァルゼライドの両腕は痛覚も機能しない程の痺れが来ており、物すら持てない筈なのだが、彼はこれを気合で押し殺している。
打ち続け、打ち続け。英雄は、自身が有する勝利への渇望と気合と言う、無限大のリソースを肉体を動かす燃料とし、打ち合いを続けていた。
人修羅の思考と肉体が疲労し、稚拙な攻撃を行ったその瞬間こそが。ヴァルゼライドの佩刀が、この悪魔の頸を刎ね飛ばす時であった。

 ――そんなヴァルゼライドの考えを読んでいたかの如く、人修羅の腕を振う速度と、其処に込める力の勢いが倍加。
ヴァルゼライドを以ってして、気付いた時には腕が振り抜かれていたとしか見えなかった程の速さで人修羅は、魔力剣を握った左腕を完璧に振り抜き終えていた。
両の手で握るアダマンタイトの刀の重さが、明らかに軽くなっている事に気付いた。どちらの刀も、中頃から圧し折られ、未だ黄金色の光を放つ折れた剣身が、空中を舞っていた。人修羅が折ったのだ、と直にヴァルゼライドが気付いた。

 回避行動。間に合わない。防御。行おうにも、圧し折れた刀では満足に出来ない。
新しい刀を引き抜こうにも、その為にはまず刀を捨てねばならないと言うプロセスを経ねばならない為に、ラグが生じる。
この怪物との戦いでは、決して生んではならない程の、致命的なラグが。

 身体が破裂せんばかりの衝撃が、ヴァルゼライドの肉体に叩き込まれた。それと同時に、彼の身体は丸めたボール紙でも投げるように吹っ飛ばされる。
人修羅との距離がどんどん離れて行き、彼の身体が小さくなって行っているのをヴァルゼライドは感じる。
自分は今、凄まじい速度であれから遠ざかっているのだと、心の中の何処かにいる冷静なヴァルゼライドが告げていた。
地面に背面から落下。瞬間、大量の血をヴァルゼライドは喀血した。体中の臓器と言う臓器が磨り潰されている、と錯覚するような痛みが、彼の身体の中で爆発している。
事此処に来て漸く、人修羅が何を行ったのかを思い出した。彼は目にも留まらぬ速度で、空いた右腕を振り抜いたのだ。
但し、その右腕自体で攻撃したのではなく、右腕が生み出した、凄まじい物理的質量を伴った烈風の波が、ヴァルゼライドに現状を齎したのだ。
右腕で攻撃する筈が、狙いが外れて衝撃による攻撃に化けてしまったのか。それとも初めから、あの『烈風波』による攻撃が主であったのか。
それはヴァルゼライドには解らない。一つ言える事は、あの悪魔(かいぶつ)にしてみたら、肉体による攻撃だろうが、それによって生み出された副産物たる物理現象だろうが、雑魚を蹴散らすには十分過ぎる程の威力が内包されていると言う事であろう。

「――まだだッ……!!」

 立ち上がり、今まで手にしていた折れたアダマンタイトの刀を投げ捨てた。
敵は強い。故に、勝率が低い。ならば、『自分自身が戦闘の最中に強くなって、勝率を上げて行けばいい』。
まだまだ、あの悪魔と同じステージに立てていないかも知れない。ならば、同じステージに立てるまで、気合と根性で持ち堪えれば良い。
それが、ヴァルゼライドのこの戦闘における美学であった。

「……」

 立ち上がり、刀にガンマレイを纏わせるヴァルゼライドを見て、人修羅は、何か考えに耽っていた。と言うよりは、昔を思い出していた。
自らの上司であり、自身を悪魔へと変貌させたある意味で諸悪の根源とも言うべき、一人の男との会話を。
大いなる意思を砕かんとする旅路の最中、人修羅は、彼に質問を投げ掛けたのだ。

 ――何でアンタは、俺を悪魔にしようと思ったんだ――

 ――君が、あの病院にいた人間の中で、一番見込みがあったからさ――

 ――俺にはそんな実感はないが、まぁいい。アンタは如何して、元を正せばただの人間に此処まで肩入れしたんだ――

 ――と、言うと?――

 ――人は弱いだろう。単なる人間を悪魔にするなんて面倒な事をやるなら、もっと他にやり方はあったんじゃないのか――

 ――『人』修羅たる君が人を弱いと言うなんて意外だな。そう思っているのかね――

 ――少なくとも、あのボルテクス界にいた人間達は皆、力に縋ってなければ生きられなかっただろう。俺だって、アンタが与えた悪魔の力に縋ってなければ生きられなかった。これは、弱いと言うんじゃないのか――

 ――私の記憶が正しければ、彼らは皆、あの世界で自分なりの答えを見つけて、生きようとしていた風に見えたがね。無論、君も然りだ。私は今一人間の目線で物を見るのが得意じゃないが、ただの人間が、あの世界で生き延びると言うのは、至難の技だろう。それが曲りなりにも君も含めて全員出来ていたのだから、素晴らしい事だと思うよ――

 ――だがそれでも、そいつらは結局俺に斃された。アンタの言う、完全な悪魔になった俺の力でな。それは、人と悪魔の構図は覆せないと言う事と同じなんじゃないのか――

 ――君に不運があったとすれば、君は、人間の強さを見る機会に余り恵まれなかったと言う事だろうな。まぁ、ボルテクス界の事情が事情だ。仕方がなかったのかもね――

 ――アンタは見て来たような口ぶりだな――

 ――勿論。大抵、人が人としての強さを発揮する時は、私の悪だくみも頓挫する時だが……、それは喜ばしい事だと思うよ、私は――

 ――結局アンタは、人間の事をどう思ってるんだよ――

 ――弱いと思っているよ、心も、身体もね――

 ――正直だな。人間の強さが云々言っておきながら矛盾してるだろう――

 ――それを発揮出来るのは一部の人間だけなんだよ。厳然たる事実だこれは。ただ、強い人間がほんの一摘まみしか存在しないからと言って、私は人を見捨てないさ。愛しもしないがね――

 ――都合が良いな――

 ――そうだろうね。それで、最初の君の質問に答える形になるが、君に肩入れをしたのは、君が強い『人間』だと解っていたからだよ――

 ――結局其処じゃないか――

 ――いいや違うな。君が『人間である』、と言う事実が重要だったんだ。君が強い悪魔や人以外の『何か』だったら、私は君を利用する程度にとどめただろう。君を見込んだのは、君が人間である事が大きいのだよ――

 ――俺が人間だったから?――

 ――人は、神の狂気が生んだ産物だ。酩酊した神が地上に撒いた不揃いで不格好な種粒達だ。そんな人に、私は、知恵の林檎を齧らせ、育て上げた。悪魔は誰の領分でもないが、人は、私の領分なのだよ、混沌王。だから君を、私は丁寧に導いたのさ――

 ――傲慢だな、アンタは。その強い人間に叛逆を喰らうぞ――

 ――それもまた、善し、さ。そう言った事を何度も私は味わっているからな――

 ――『人』望が無いな。精々俺の待遇を考えておいてくれ、何せ、『人』修羅だからな――

 ――余り面白いジョークではないよ、混沌王。だが、私は冗談やはぐらかしで、そう言ったのではない。人は君の想像する以上に厄介なんだ。君の泣き所は、その人の強かさを見れなかった事だ――

 ――何時か俺も見れるか、それを――

 ――見たいのであれば、スケジュールを調整してあげよう。混沌王。君が、大いなる意思の天則を破壊する為の力を得たいと言うのなら私は、喜んで君の助けになるのだから――

「……こんな人間もいるのか」

 と、人修羅は感慨深げにそう言った。
無論、ヴァルゼライドが人類種のバグの様な存在であり、滅多な事で生まれる事のないレアケースである事は、人修羅とて知っている。
しかしそれでも、市井の中から、このような存在が生まれ、遂には、英霊に至ったと言う事は、事実なのである。
これも、人間の可能性の一つなのだろうか。どのような環境で生まれ、どのような経験を積めば、クリストファー・ヴァルゼライドなる個が生まれるのか。
元を正せば、何処にでもいる市井の人間の一人であり、東京受胎さえなければ、平平凡凡に生きる事しか出来なかった人修羅には、想像すら出来ない。

 ――成程、確かに、俺の弱みだな――

 自身の想像力のなさを自嘲する人修羅。
目の前の鋼の英雄には、嗟嘆の念を禁じ得ない。そして、同時に、彼は葬られねばならない。
今の人修羅は、帝都の守護者であり、聖杯戦争の管理運営を司るルーラーである。
この男は、その光り輝く意思の故に、<新宿>中を焼き滅ぼしてしまうであろう。そうなる前に、芽は摘まれねばならないのだ。
人でありながら自分と渡り合うヴァルゼライドに敬意を表しつつ、混沌王は、彼を殺害出来る絶対の特権を行使する事にした。

「――混沌王の名に於いて命ずる」

 その言葉に呼応するように人修羅に刻まれた、自らの悪魔としての象徴たる入れ墨が、赤く激発した。

「自害しろ。クリストファー・ヴァルゼライド」

 ルーラーとしての特権である、サーヴァントに用いる事が可能な令呪の行使を、人修羅は初めて此処で切った。
彼の身体に刻まれた入れ墨は、令呪としての機能も果たすのだと言う事実を、ヴァルゼライドは、知らない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 照準をエリザベスの心臓に合わせて、寸分の狂いもなくベレッタのトリガーを引き、銃弾を発砲するザ・ヒーロー。
これを、ペルソナ辞典を振り回し、弾丸を弾き飛ばして彼女は防御する。弾き終えるや、即座に辞典を開き、其処からカードを一枚取り出す。
彼女の背後に、人の形をした霊的ヴィジョンが浮かび上がる。黒い目と口を持ち、特徴的な青い帽子を被った雪だるまの様な容姿をしたこのペルソナ。
ザ・ヒーローは見覚えがあった。過去に何匹も斬り捨てて来たし、一時期使役していた悪魔と全く同じ姿をしていたからだ。
妖精・ジャックフロスト。それが、エリザベスの呼び出したペルソナの名前である。妖精にカテゴライズされる悪魔の中では、決して強い存在とは言えない悪魔だ。
しかし、エリザベスが呼び出したそれは、明らかに、凡百のジャックフロストとは一線を画する強さだと、彼は即座に見抜いた。
そして同時に、エリザベスの呼び出したあの妖精は、ザ・ヒーローが行うような悪魔使役とは全く別次元の技術によるものだとも。

 ジャックフロストに魔力が充填されて行き、それが解放された――その瞬間。
ザ・ヒーローは勢いよくヒノカグツチを地面に突き刺した。それと同時であった、彼の周りを取り囲むように、地面に分厚い氷が張られて行ったのは。
来ているジャケットなど防寒具どころか、着衣物としての体裁すら保てぬ程の極低気温が彼を襲う。彼が身に付けている衣服程度では、裸も同然だ。
ヒノカグツチに、COMPに溜められた魔力を流し込んで薪代わりにし、その剣身に纏わされている炎の熱量と勢いを増大させる。
地面の氷は一瞬で蒸発、元の砂地に巻き戻った。あのまま行けば、気温は絶対零度近くにまで落ち込み、忽ちザ・ヒーローは、生きたまま凍結した彫像となっていたろう。

 剣を引き抜くと同時に、エリザベスがザ・ヒーロー目掛けてカードを射出させてきた。
明らかに弾丸よりも速い速度で迫るそれを、彼はベレッタの弾丸で迎撃するが、向こうの方が硬度も威力も上らしい。
弾丸はいとも簡単に真っ二つなった上に、カードの方は全く勢いが落ちていない。
事此処に至って、ザ・ヒーローも回避行動に移ったが、少々遅れ、肩口を浅く斬り裂かれた。ジャケットなど問題にならない程の鋭さで、血が衣服を滲ませる。

 地を蹴り、ザ・ヒーローが向かって行く。
エリザベスですら嘆息する程の速度で、彼はヒノカグツチの間合いに入り、それを中段右から横薙ぎに振るいだす。
振い始めると同時に、エリザベスは辞典からカードを三枚程飛び出させ、それを、ヒノカグツチの剣身の軌道上に固定化させる。
秒と待たずに、剣身とカードが衝突する。火花の代わりに、ヒノカグツチの剣身を炎上させる炎の火の粉が飛び散った。
カードと言う通り、見かけは単なる薄い紙っぺらの様にしかザ・ヒーローには見えない。だが、衝突した際の衝撃はまるで凄まじい密度の鋼のようなそれで、
とてもじゃないが厚さ一mmもなさそうなカードを殴って伝わる衝撃とは思えなかった。
例えるならそれは、龍の鱗。此処に来る前は龍王の類など掃いて捨てる程斬り捨てて来たが、エリザベスが展開するカードはまさに、これに匹敵する程だった。

 初めて見た時から、ただ者じゃないとはザ・ヒーローも思っていた。
しかし、此処までとはさしもの彼も思っていなかった。恐らくこの女性は、魔王や大天使にも匹敵――或いは、それ以上の強さを誇る存在だと、彼は見積もった。
ザ・ヒーローは、聖杯戦争に参加した主従の中で、自分の戦闘経験と、それを乗り越えて来た自身の能力は比類のないものだと、万斛の自信を誇っていた。
今その認識を、彼は捨てた。自身と同様の戦闘能力を誇る存在がいるのであれば、それに相応しい戦い方をする。それが、大破壊後の東京を生き延びた一人の英雄の処世術であった。

 左手で握った拳銃を、エリザベス目掛けて発砲するが、彼女はこれを、身体を大きく横に逸らす事で回避。避けざまに、カードを一枚辞典から引き抜いていた。
その隙を縫って、ザ・ヒーローがヒノカグツチをカードから離し、稲妻の如き速度で上段からそれを振り下ろした。
彼女は、避けない。エリザベス程の存在の反射神経ならば、何かしらの反応を示すべきであるのだが、それすらもしない。
妙だ、と思った瞬間には、ヒノカグツチの剣身が彼女の脳天に直撃していた。頭頂部をスイカの様に割り断ち、身体を両断――しなかった。
ヒノカグツチの剣身は、彼女の美しい銀髪の生え揃った頭に触れてはいるが、其処からどんなに力を込めても一mmどころか一ナノmだって動かせない。
それどころか毛髪すら、ヒノカグツチの剣身が放つ炎で燃え上がっていない。ザ・ヒーローはこの感覚を即座に理解した。
これは、そっくりだ。悪魔が有する、特定の属性攻撃への無効化性質に――。

 ザ・ヒーローの幸運は、元いた世界でそう言ったケースを身を以て実感し、其処からの立ち直り方を学んでいた事であろう。
そして彼の不運は、エリザベスもといペルソナ使いが、装備したペルソナが有する属性相性がそのまま自分の身体にも反映されると言う事を、知らなかった事であろう。

 今のエリザベスに、ヒノカグツチの炎が通用しない事を悟ったザ・ヒーローが、急いで剣身を彼女から引き離し、そのまま距離を取ろうと飛び退いた。
当然、ヒノカグツチと言う最大の武器を封じられた今のザ・ヒーローを追い立てぬエリザベスでは断じてなく。
ペルソナカードを衛星軌道の様に自身の身体を基点に旋回させる。其処には当然、ザ・ヒーローが範囲内に含まれていた。
腹部と胸部の筋肉を、ペルソナカードが斬り裂き、抉った。「ぐっ」、と言う苦鳴が口から漏れる。
行動不能になる程度の深さではないが、それでも、激痛である事には代わりない。
尤も、この程度のダメージで済んだのは、ザ・ヒーローの卓越性があるからこそだった。彼でなければ、胴体が輪切りにされていた事は、想像に難くないのだから。

 攻撃をヒノカグツチによる攻撃から変えねばならないと、彼は判断した。
拳銃を、この程度の代物しか持って来れなかったのが悔やまれる。携帯性に優れると言う理由からベレッタを使用、所持していたが、
これでは威力と速度共に、目の前の女性を葬るには、チャチなオモチャと言う他がない。これ以上の代物は目立つ上に、そもそも<新宿>には流通していない。
ならば、と、現存する人類種の英雄たる男は、ヒノカグツチを鞘に納め、ベレッタも懐に戻し、そのまま特攻。素手による攻撃を敢行しようとする。
やけっぱちの行動では断じてない。武器がなくとも、素手で悪魔と交戦する手段も彼は心得ている。武器を弾き飛ばされ、その間素手で悪魔との戦闘を持たせた事だって、
一度や二度ではないのだ。どの道エリザベスは閉鎖空間を展開している。端から逃走は出来ない、やるしかなかった。

 エリザベスの白い細顎目掛けて、左のジャブを放つ。
終る事無く悪魔との戦闘に明け暮れた事によって鍛えられた筋力から放たれるこの一撃は、生半な人間ならば、顎を豆腐の如く砕く程の威力がある。
速度も鋭さも、重さも段違いのその一撃を、エリザベスは軽くスウェーバックする事で回避。手にしていたペルソナカードで、伸びきった彼の左腕を、
肘から切断しようとするが、直に彼は腕を引いてこれを躱す。カードが空を切ったと認識したその時、彼は下段の前蹴りで、エリザベスの右膝を破壊しようとする。
パシッ、と言う乾いた音が響いた。彼女が、辞典を持っていない左手で、ザ・ヒーローのアキレス腱を掴んだ音であった。
そのままグンッ、と力を籠め、エリザベスはザ・ヒーローを上空に放り投げた。凄まじい勢いで後方に回転しながら頭上を舞うザ・ヒーローの様子は、まるで車輪のようであった。

 回転を続けているザ・ヒーロー目掛けて、エリザベスはペルソナカードを射出させる。
目まぐるしく空と地上とを変転するザ・ヒーローの視界が、カードを放ったエリザベスの姿を認識する。
拙いと思い、急いで鞘からヒノカグツチを引き抜き、カード目掛けてタイミングよく振るった。運よく、その一発は弾き飛ばせた。
しかし、その運は果たして、どれ程まで続くのか。マシンガンの要領でエリザベスはカードを連射し、ザ・ヒーローを確実に仕留めようと動き始めたのだ。

 ヒノカグツチを一振りする。十枚程のカードは弾く事が出来た。更に一振り、今度も十枚程だ。
回転運動をしていると言う現在状況の都合上、次が最後の一振りとなるだろう。それも、かなり悪足掻き気味の一撃だ。
此処でカードを全て弾けねば、カードの何枚かはザ・ヒーローを貫く。消耗は避けたい。
振う。音よりも速い速度で振るわれたヒノカグツチの剣身が、カードを七枚弾いた。五枚が、残った。
高度十m弱と言うところで、ザ・ヒーローの身体がエリザベスに背を向けるような形になり、カードが背部から前面へと、彼の身体を貫いた。
火箸を突っ込まれたような、熱を伴った鋭い痛み。勢いよく体中から血が噴き出る。

 歯を食いしばりながら、ザ・ヒーローが背面から砂地に落下。倒れ込んだ。
エリザベスは、数秒程彼の様子を眺めた後で、一歩一歩、彼の方へと近付いて行く。
彼我の距離が、七m、六m、五m……。三m程になった、瞬間、バッ、とザ・ヒーローが立ち上がり、懐からベレッタを引き抜き、早撃ちを仕掛けた。
連続して鳴り響く、三発の銃声。それをエリザベスが、サイドステップを刻む事で回避する。
不意打ちは失敗したかと、ザ・ヒーローは歯噛みする。カードは確かに彼の身体を貫いたが、急所だけは見事に逸れていた。
偶然ではない。急所に向かって来るカードを集中的に、先程の三回の攻撃で狙って弾いたのだ。ダメージを受けてしまったが、それでも、行動不能に陥るよりはずっと良い。
砂地に落下したのだって、ザ・ヒーローは顎を引いて地面に後頭部を打たないようにする、と言う最低限の受け身を取っていた。
だがそれでも――エリザベスには届かない。その事実を、骨身にしみて認識せざるを得ないザ・ヒーローだった。

 ――COMPが使えれば……な――

 ザ・ヒーローは一人で英雄になった訳ではない。その傍らには何時だって、誰かがいた。
ある時までは、袂を分かった親友二人がいた。ある時までは、自分の為について来てくれた少女がいた。
ある時までは、種族を越えて自分と共に友誼を分かち合い、戦ってくれた悪魔がいて。そして――終生自分の理想と共に殉じると誓ってくれた、パスカルがいた。
この青年は、英雄であると同時に悪魔召喚士(デビルサマナー)だった。この男の本質は、悪魔に対して適切な指示を飛ばし、
悪魔と同時に見事なコンビネーションを行う事であった。ハッキリ言えば、使役するべき悪魔のいないザ・ヒーローは、その力の半分近くを損なっている状態に等しいのだ。
必然、これではエリザベスに対して勝機が薄くなる。彼女と対等以上に渡り合いたいのなら、悪魔との連携は、必要不可欠だっただろう。

 それでも、膝を折る訳には行かなかった。いや――違う。最早、膝を折れなかった。
ザ・ヒーローは……、ただの何処にでもいる人間だったこの英雄は、もう夢を諦めるには、遅すぎたのだ。
人類の平和を勝ち取る為に、肉を砕き骨を折り、悪魔を斬り伏せ天使を殺し、敵を葬り友を刺す。
英雄は、余りにも勝利を重ね過ぎた。来た道に屍の山を重ね過ぎた。来た道を戻ろうにも、別の道を模索しようにも、死体の大河がそれを許さない。
青年は夢を諦め、見切りをつける機会を完全に逸してしまっていた。転換点(ターニングポイント)など、最早この先に存在しなかった。
膝を折るのも、諦めるのも、遅すぎた。青年の小さな身体に寄せられた期待と、殺して来た者達の怨念が、青年に『英雄であると言う事』を強い続ける。
だから、勝ち続けるしかない。英雄として青年、ザ・ヒーローは、その名の通り、決して諦めず、不撓不屈の意思で勝利を重ね続ける英雄としての役割(ロール)を、演じ続けるしかないのだ。

「まだ、終れない」

 その言葉が、どのような意味合いで出た言葉なのか、ザ・ヒーローは解らないだろう。
兎に角、エリザベスを相手に持ち堪えねば、と彼は判断した。自身が引き当てた、鋼の英雄にして、光の魔人。
クリストファー・ヴァルゼライドと連携を取らねば、この状況を切り抜けられる可能性はゼロだ。
自身の引き当てたサーヴァントは、何をしているのか。エリザベスを目で追いながら並行して、ヴァルゼライドの方に意識を向ける。

 驚きに、目を見開かせた。当たり前である。
――自らの宝具である、黄金の星辰光を纏わせた刀を、背中から切っ先が貫通する勢いで、自らの腹に突き刺しているのだから。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 人修羅の言葉の理解が、ヴァルゼライドは遅れた。
自身の真名が知られている、と言う事実は何の問題にもならない。何故この男は、自分に対して命令を下したのか。
それを考えた瞬間だった。我が意に反して、ガンマレイを纏わせたアダマンタイトの刀を握る右腕が、勝手に動き始めたのは。
事此処に来て、異常を認知したヴァルゼライド。肉体が有する行動力を凌駕する程の意志力で、腕の動きを抑えようとするが、全く意味がない。
ヴァルゼライドは知る由もなかったろうが、これこそが、令呪の感覚なのである。サーヴァントに対する行動力のブースト、
と言う意味合いも令呪には確かにあるが、それ以前に聖杯戦争に参加したマスターの令呪についての認識とは、絶対的な命令権である。
その権限は強大で、人智を逸した存在であるサーヴァントですら、本人の意思とは裏腹に、命令された内容に従わざるを得ない程だ。
しかも、ルーラーとして召喚された人修羅の令呪は、一般的なマスターが行使する令呪とは、一線を画する。
帝都の守護者としての側面を有して召喚された人修羅が行使する令呪は、此処<新宿>の聖杯戦争に馳せ参じたサーヴァントらのマスターが使う令呪よりも、ずっと強力なのだ。
それは、東京に必要以上の戦火と戦禍を撒かないように、坂東にましますやんごとなき神格、即ち将門公からの加護を受けているからこその効能である。
つまり人修羅の令呪の強力さは、帝都の守護者として努力する限り、公によって与えられる加護ありきのそれなのである。その強力さは凄まじく、一般的な参加者が行使する令呪二画分の効力を、人修羅の令呪は有している程と言えば、その恐ろしさが知れよう。

 二画の令呪を用いた命令は、如何な対魔力を有したサーヴァントと言えども、逆らう事は不可能だ。
況してやヴァルゼライドは、対魔力を持たないサーヴァント。如何に彼が強靭なる意志を有していようとも、帝都の守護者の名代として人修羅が行使した令呪に、抗う事など不可能である。

「おおおおおぉおおおぉおぉおおぉっっ!!」

 喉が削れる程叫ぼうが、止まらない。
ヴァルゼライドの意力を越えて、彼の右腕が動く。剣先が、彼の腹の方に照準を定めた。
刹那、ヴァルゼライドはそのまま、自らの腹に、ガンマレイを纏わせた刀を突き刺した。
腹筋に刀が埋もれたのは、ほんの百分の一秒程。直に剣先が、肋骨の一本を破壊して、背中を突き破った事を彼は知った。
不思議と痛みがない――と思ったのは、一瞬の錯覚だった。直に、全身の細胞が炭酸の泡の如くに弾けて行く感覚を憶え、その後に、言外出来ぬ程の激痛が走った。
血液どころか、全身の筋肉が沸騰するが如き熱量が、腹部を中心に伝播して行く。瞳が紅く染まる。血が頭まで昇って来た為だ。
そしてそのまま、体中の血液を全て吐き出したと思わんばかりの、大量の血液を口から吐き出して、ヴァルゼライドは地面に膝を付いた。

 生前自身が、あらゆる悪を打ち滅ぼさんと放って来た裁きの光の。
此処<新宿>で、あらゆる強敵を薙ぎ払わんと放って来た平定の爆熱の、その威力。
人類の平等と平和の為に、悪そのものを消し滅ぼしたいと願った末に獲得したヴァルゼライドの星辰光は、正しく、その担い手であるヴァルゼライド自身をも裁く程の、凄まじい威力であった。

「終わりだ」

 無感動に、人修羅がそう告げた。

 ――だが

「いいや――」

 絶対に口にしない筈の。いや、絶対に言葉を口にしてはいけない筈の人物から、言葉が漏れた。






                                    「まだだァッ!!」






 そう叫びヴァルゼライドは、腹筋に自ら突き刺した黄金刀を引き抜き、人修羅の方に走って行った。
恐ろしいまでの走力だった。人類種には到底出せる筈のない時速数百㎞にも達する程のスピードで、混沌王の方へと一直線に彼は向かって行き、接近。
そして、主に死を齎さんと叛逆した己の右腕と、その手に握るアダマンタイト刀に、自らの意思と言う手綱をかけ、その腕を動かした!!

 心臓目掛けて、黄金色に激発する刀で刺突を行おうとするヴァルゼライド。
人修羅は、その刺突の余りの速度に反応が遅れた。いや、正確に言えば、平時の人修羅ならば反応が出来る速度であった。
平時ならば、回避も防御も思いのままだった筈なのに、何故この状況で、反応が鈍ったのか。
『最後にヴァルゼライドが見せた攻撃の速度よりも、明らかに攻撃の速度が跳ね上がっていた』からだ。明らかに、攻撃速度が倍になっている。
その攻撃の余りのトップスピード差故に、人修羅の感覚は狂わせられた。そのスピード差に思考が漂白されてしまったのだ。

 回避は最早間に合わない。ならば、と人修羅は覚悟を決めた。
己の右手を動かし、刺突の軌道上にそれを配置した。紙の様に、人修羅の肉体をヴァルゼライドの光剣が貫いた。
細胞の一つ一つを鑢で磨り潰されるような痛みと、溶けた鉛を痛覚に直に浴びせられるような熱痛が人修羅の腕から体中に伝播して行く。
何たる、痛みだろうか。超常存在である悪魔であろうとも、この痛みを浴びせられれば、下手に生きるよりも死を選ぶであろう。
昔の柔弱な人修羅ならばその選択を選んでいただろうが、今の彼は、違った。
人修羅の右掌を、ヴァルゼライドの振う刀はその剣身の中頃まで貫いていた。それ以上は、如何に力を込めても動かせない。
人修羅が、その筋肉を強く収縮させ、それ以上ヴァルゼライドが刀を動かせないようにしていたからだ。

「何故、生きている……ッ!!」

 人修羅としては、そう言わざるを得ないだろう。
彼は未だに、ヴァルゼライドの振う星辰光の正体が放射線のそれである事に気付いていない。
気付いていないが、直感と培った戦闘経験で、その光が触れようものなら生命体に死を齎す毒の光である事だけは理解していた。
何故、その光を受けて、この男は無事でいられるのか。何故、その光を身体に突き刺しておいて、この男は、動けるのか。
自分ですらこれ程のダメージを憶える程の光、並の英霊がそれを受けて、無事でいられる筈がないのに。

「俺には背負っている物がある。簡単に言外出来るものから、言葉で表象出来ぬものまで、全て一身に受けて、俺はその身体を動かしている。そう簡単に、死んでいられる筈がない」

 生前自分が統治していた、軍事帝国アドラーの民の幸福の為。確かにそれはその通りだ。
自分が勝ち続ける事で民が笑顔になり、自分が善政を敷く事で彼らの生活が豊かになり幸せになると言うのなら、彼はその為に身を粉にして働こう。
だがそれ以上に、ヴァルゼライドは、人間の総意を全て背負っていると言う気違い染みた自意識過剰さが存在した。
彼は何処までも、人類種の為の英霊だった。いや、より正確に言えば、『自分以外の』人類種の為の英霊だった。
この男の夢の世界観には、自分自身が存在しないのだ。世界中から悪と涙とを根絶やしにし、世界中の人々に幸福と笑顔を与えんが為、刀を振るい続ける。
それがクリストファー・ヴァルゼライドと言う男だが、彼が異常なのは、その夢の達成に、自分の利益が何にも含まれていないと言う事だった。
英雄譚や叙事詩の中に語られる、非の打ち所のない英雄猛将だって、結局は、金や名誉、人々の憧憬を受けたい、と言う思いが心の何処かであった筈なのだ。
この男にはそれがない。この男は義務の延長線上として勝利を重ね続け、義務の延長線上として人々の為に刀を振るい続ける。それが常態化していた。
だから、この男は異常なのだ。その性格と性根は何処までも独善的で利己的なのに、そんな彼が叶えようとする夢に、欲望と承認欲求とを満たすと言う事を求めていない。
世界中の人々に笑顔と幸福を、と願うその英霊の夢にはただ一人。『クリストファー・ヴァルゼライドだけが仲間外れ』であった。だからこそこの男は――同種の人間は愚か、悪魔ですら畏怖させる程の、異常者なのだ。

「そして、もう一つ――」

 更にヴァルゼライドは、言葉を続けた。

「貴様はこの俺が、自分自身の宝具で死ぬ阿呆に見えたかよッ!!」

 ヴァルゼライドの宝具は、生前受けた改造出術の賜物とも言うべきそれであるが、彼の場合それは更に特別で、
ただでさえ危険な改造手術に更に二重三重の改造手術を受けて、己の力と星辰光を更に底上げさせているのだ。
改造手術に改造手術を重ねるのは危険な処置で、手術と、術後の負担に耐えられる人間は通常存在しないのだが、彼はこれを『気合と根性』で耐えていた。
自分自身の身体と寿命を担保に手に入れた、世界の未来を切り開く為の強さ。それこそが、ヴァルゼライドの宝具、天霆の轟く地平に、闇はなく(Gamma・ray Keraunos)なのだ。
人々の夢と幸福の成就を成さんが為に手に入れた、己自身の武器を逆手に取られて、死ぬ訳には行かない。
その自意識こそが、放射線による激痛と確かな肉体的ダメージを超越して、ヴァルゼライドの肉体を動かしていた。

「……やっぱお前は、馬鹿なんだろうな」

 自分の右掌に突き刺させていた、ヴァルゼライドの刀に、人修羅は力を込める
グッ、と、刀に右の掌を貫かれていると言う状況下で、この混沌の悪魔は右手に力を込めて、握り拳を作った。
凄まじい力が手に収束するや、ベキンッ、と言う乾いた音を立ててアダマンタイトの刀が圧し折れた。
其処で漸く、自分の意思で右腕を動かせるようになった人修羅は、ブンッと右腕を動かして、右掌に突き刺さっていた折れた刀の刀身を放り投げた。
だがすぐに、ヴァルゼライドは空いていた左手で刀の一本を鞘から引き抜き、即座にガンマレイを纏わせる。
残像を生み出す程のスピードで、人修羅はヴァルゼライドから遠ざかった。二十m程、彼我の距離は離された。

「オオオォオオォオォォォッ!!!」

 肺腑に溜まった空気を全て大音声に置換しながら、ヴァルゼライドが叫ぶ。
身体が破裂せんばかりの気合を込めて、刀を握った左腕を振い、渾身のガンマレイを、人修羅目掛けて放った。
悪魔、死すべし。その意気を極光の激発と言う現象で表しながら、放射能光の光柱は彼の方へと向かって行く。

「シィッ!!」

 だが人修羅の方は、距離を離し終えたと同時に、右脚全体に、菫色の魔力を纏わせ迸らせていた。
その状態で、右脚によるソバットを放った瞬間だった。纏わせた魔力の色と同じ、菫色の魔力の奔流が、ヴァルゼライドの方目掛けて火砕流めいた勢いで向かって行ったのは。
所謂『ジャベリンレイン』と呼ばれる技であるが、人修羅の放つそれは普通の悪魔が放つそれとは違い特別なそれで、威力も効果範囲も、段違いの代物。
素で対城宝具にも匹敵する破壊力を秘めた悪魔の技が今、ヴァルゼライドの魂ごと粉砕せんと行軍する。

 亜光速にも達する爆光の柱と、砂地と岩地を発泡スチロールの様に破砕させながら迫る魔力の激流が、激突した。
鼓膜が破れんばかりの形容不可能な大音と、天すら砕く程の衝撃が、地面と空気とを伝わった。
否――比喩でも何でもなく、両者の攻撃の激突が生んだ衝撃波は、天と地平線とを粉々にした。
余りの威力の攻撃とが激突した為に、閉鎖空間がその衝撃波に耐えられなくなり、破壊されてしまったのである。

 灰色の空は一瞬で、文字通り灰の様な粉塵となり吹き飛んだ。地平線を構成する空間は秒と待たずに、視認不可能な程の細やかな粒子となった。
そうして現れたのは、元の貧相な、<新宿>衛生病院の廃れたロビーの風景であった。
攻撃どうしの衝突が生んだ衝撃波は、閉鎖空間を破壊するだけには飽き足らず、閉鎖空間を展開していた元の空間である病院ロビーを破壊。
天井は照明類ごと崩落し、壁は砂糖菓子の様に破壊され、床は旱魃の後の地面の様に亀裂が走る。一つの閉じた世界である閉鎖空間を完膚なきまでに粉砕し尽くして尚、その暴威の消える事のない、恐るべき、両者の攻撃の威力よ。

 そしてその攻撃の激突は、マスター達にも影響を与えていた。
自身のサーヴァント達が放った強大な一撃のぶつかり合いに、攻撃の応酬を彼らは中断。
それを行った瞬間に、彼らは激突の生んだ衝撃波に、吹っ飛ばされたのだ。
エリザベスと、ザ・ヒーロー。片や人類種を超越した強さの力を管理する者。片や人類種の限界点の更に限界に位置する、市井の生んだ英雄。
彼らであろうとも一切の抵抗を許さずロビーから吹き飛ばされてしまう程の、衝撃波の威力であった。
エリザベスとザ・ヒーローは、壁を何枚も打ち破ってロビーから消え失せてしまった。

 ガラッ、と、天井から瓦礫が一つ崩落する音がロビーに響いた。
元から荒廃の体を成していた衛生病院のロビーは、最早元がどのような部屋だったのか判別がつかない程荒れ果てていた。
地面を埋め尽くす瓦礫、崩落した壁や天井。まるで内紛の激戦地の最中に建てられた建物宛らであった。

「ルーラー!!」

 エリザベスの復帰は速かった。
と言うより、壁が破壊される程の勢いで叩きつけられても、さしたるダメージも受けた様子がないらしく、急いで、自身が吹っ飛ばされた方向の壁を通ってロビーへと現れた。
この男は、殺されねばならない。人修羅はヴァルゼライドを睨みつけながらそう考えた。放置を決め込むには、余りにも危険過ぎる男だ。
今は、閉鎖空間を展開する時間をも惜しい。可能な限り破壊規模をこの病院のみに止めつつ、この男の五体を粉々に砕く。
そう思い、人修羅が走った。先程ヴァルゼライドの、ガンマレイを纏わせた刀に貫かれた右手で握り拳を作る。
鋼の英雄もまた、混沌王の方へと走って行く。この強大な悪魔を斬り捨てんと、アダマンタイトの刀を中段から振い出す。

 拳と刀。それらが衝突するかと思ったその瞬間――。
人修羅の拳は、空を切った。殴打の勢いが生んだ衝撃波が、床の瓦礫を更に粉々に粉砕させ、更に床にクレーターを生み出した。
フェイントか、と思ったのは本当に短い一瞬の事。本来右拳とぶつかる筈だった刀どころか、それを振うヴァルゼライドすら影も形も見当たらないのだ。
まさか空間転移の類かと思ったが、すぐに違うと判断した。あれは明らかに、魔術を使えないタイプであったのだから。

 ……いや。空間転移の類なのは、代わりないだろう。未だこの場に現れない、ヴァルゼライドのマスターを見るに、答えは一つであるらしかった。

「令呪、でしょうね」

 エリザベスが人修羅の右手に手を当て、彼の傷を検分しながらそう言った。

「逃げられたか」

 令呪を以て、ヴァルゼライドは空間転移で逃げ果せた、と言う事なのだろう。
それが正しい判断なのかどうかは結果をみなければ何とも言えないが、これ以上の消耗を防ぐ、と言う点では正解以外の何物でもないだろう。
人修羅の攻撃の効果範囲は極めて大きい。帝都の守護者として、自分から東京の一部である<新宿>を破壊させられない人修羅にとって、市街地で自ら打って出て戦う等、
出来る筈がない。そう言う意味で、病院の外に逃げる、という選択は、成程。確かに理に叶っている。

 どちらにせよ、あの主従は早い所対策を打たねばならないだろう。
そんな事を考えていると、エリザベスは、場違いな程頓狂な口調で、「まぁ、酷い傷」と口にしていた。
そう言って彼女は、ペルソナを回復に優れたそれに装備し直し、人修羅の傷の治療に当たり始めた。その甲斐甲斐しさは、元の世界の相棒である、ピクシーの事を、何だか思い出す人修羅であった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「何故俺を戦わせなかった!!」

 ザ・ヒーローの下に現れるなり、ヴァルゼライドは激昂した。
怒気、と言う物を可視化させる事が出来るのであれば、きっと彼は、後光の代わりに、極熱を纏った黄金色の閃光を背中から放出していたに相違あるまい。
それ程までの、激しい怒りぶりであった。

「あのまま行けば、貴方も僕も、危なかったからだ」

 憮然とした態度で、ザ・ヒーローが答える。ヴァルゼライドの怒気を当てられてもこの青年は、臆した様子も見せなかった。

「あのまま戦っていれば、俺は勝っていた!!」

「僕にはそうには見えなかった!!」

 ザ・ヒーローが叫ぶ。此処は強く出なければ向こうは納得しないだろう。そう言う打算もあった事は事実だが、今の彼は少し感情的なきらいがあった。

 ガンマレイとジャベリンレインの衝突で生んだ衝撃波は閉鎖空間を破壊した事は事実だ
あの時ザ・ヒーローは、ヒノカグツチで衝撃波を防ぐと言う行為が間に合っていた。間に合って居ながら、何故彼は壁を打ち抜いてまで吹っ飛ばされる真似事をしたのか。
それは簡単で、あの場から逃走をする為であったのだ。現状、あのサーヴァントらに勝てる手段は、殆どゼロだと、彼は判断していた。
自分の攻撃は全くエリザベスに通じず、ヴァルゼライドの方も命を削らなければ有効打を打てない始末。だからこそ、あの場から距離を離す機会を窺っていた。
それが、思ってもよらぬ形で訪れた為、ザ・ヒーローはそれを利用したのである。其処から急いで病院から外に出、人修羅達から距離を取り、
飯田橋駅から近いマンションの屋上まで移動した後で、ヴァルゼライドを令呪で呼び寄せたのだ。

「いや……そのまま行けば、貴方があのルーラーを相手に勝利していたかもしれないだろう。だが、この聖杯戦争は消耗戦だ。如何に貴方が、聖杯戦争に参加したサーヴァント全員と戦って回っても無事とは言え、悪戯に消耗するのは、得策じゃないだろう」

 ヴァルゼライドが自分の選択を良しとしない事位、ザ・ヒーローとて理解していた。
解っていて尚、その様な行為を行ったのか。それは簡単な話で、余りにもヴァルゼライドが、人修羅一体にダメージを負い過ぎてしまっていたからだ。
この主従は聖杯と言う物を欲している。聖杯を手に入れると言う目的の都合上、多くの主従と戦う事になるのは必然的なものである。
当然、消耗は少なければ少ない程良い。タカジョーやバージルとの戦いは、まだ魔力で回復出来るレベルの傷だったから良かったものの、
今回のそれは明らかにその限度を超える程のダメージになりそうだった。ヴァルゼライドは此処<新宿>における、ザ・ヒーローのパートナーであり、
使役する悪魔にも等しい存在なのだ。しかもこのサーヴァントは、替えが効かない。大胆に、そして慎重に扱う必要がある。
日数が経過してから一日と経っていないのに、消滅一歩手前まで、そんな切札を酷使する事は、優れた悪魔召喚士として、到底許容出来る選択肢ではあり得なかったのだ。

「……そうか」

 其処でヴァルゼライドは、声のトーンを落とし、発散させていた怒気を直に霧散させ、一息吐いた。
刀に纏わせていたガンマレイの黄金光を消し、鞘にそれを収めた。

「マスターに罪がない事は解っている。お前は、お前なりの判断の規矩で物事を考え、結果、あの状況をそのまま推移させる事が危険だと考えたのだろう」

「そうだ」

「俺は一人の男としてお前に敬意を表しているし、認めてもいる。それは、お前が令呪と言う命令権を有したマスターだから認めているのではない。本心からそう思っている」

 「それ故に――」

「俺は、自身が不甲斐ない」

 目を瞑り、ヴァルゼライドは述懐する。

「何故そう思う」

「マスターと認めた男に、危機感を憶えさせるような戦いをして見せた自分が情けないのだよ」

 放射能光に汚染された身体が、血液をせり上がらせる。ペッ、とそれを吐き捨ててから、ヴァルゼライドは言った。

「お前の言う通りだ。あのまま戦っていれば、俺はあのルーラーに勝利していた。だが、お前にはそうは見えなかった。それが問題なのだ」

「つまり、どう言う事だ」

「勝利を得るまでの過程を、俺は余りにも醜く演じ過ぎた。言い訳をするつもりもないが、あのサーヴァントは掛け値なしの強敵だった。
苦戦するのも当然だが、それは、言い訳にはならない。俺は戦う以上、絶対に勝利を獲得せねばならなかった。無論、華麗な戦い方で勝利を得よとは俺も思わない。
だが、様になる戦い方はしなければならない。俺は、あの戦いでそれが出来なかった。故に、お前に要らぬ不安感を撒いてしまった」

 ヴァルゼライドは本心から、あのルーラーに勝てると思ってたらしく、しかも、マスターであるザ・ヒーローに、
安心感を与える戦い方を見せられなかった事を、心の底から恥じているらしかった。その碧眼に、強い後悔と、自責、そして、自噴の念が渦巻いている事を、ザ・ヒーローは見逃さなかった。

「客観的に見て、あの戦いは敗北だ。俺自身もそう思っているし、マスター自身にもそう思われているのならば、反論のしようも無い」

 其処で、ザ・ヒーローを睨みつけるような鋭い目線を、彼に投げかけて。ヴァルゼライドは言葉を続けた。

「だが、次は勝つ。その事を誓おう。この、身体の痛みに掛けて」

 そう言ってヴァルゼライドは、自らの腹部に目線を向けた。
ガンマレイを纏わせた刀に貫かれた傷は、詳しく見聞していないが、きっと、衣服を脱げば、惨憺たる様相を示す事は間違いない。

「その令呪は、余り使わないでおけ。我々の切り札になるのだからな」

 そう言ってヴァルゼライドは、ザ・ヒーローの右手甲に刻まれた令呪に注目して、そう言った。
彼の令呪は、一つの天秤に二振りの西洋剣がばってん状に交差していると言う意匠になっており、現在、右側の剣が消失している形となっていた。

「今後の予定は如何する、マスター」

「君の傷が癒えるまで、待とう。君も刀を随分失っただろう。それの修復も兼ねる」

「別段俺はまだ動くに支障はないが、解った。従おう」

 超高濃度の放射線に汚染されてなおこの発言であると言うのだから、恐れ入ると言う他がない。この男には、インターバルと言う概念が全く存在しないらしい
霊体化を行い、自らの身体の修復に当たろうとするヴァルゼライド。それと同時に、ザ・ヒーローは空を見上げた。
日が、高く昇っている。まだまだ一日は、長く続きそうなのであった。






【早稲田、神楽坂方面(飯田橋近辺のマンション屋上)/1日目 午前11:30】

【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]肉体的損傷(中)、魔力消費(中)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F
[道具]ハンドベルコンピュータ
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する。
1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する。
2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討。
3.翼のマスター(桜咲刹那)を追撃する。
4.ルーラー達への対策
[備考]
  • 桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。
  • ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。
  • 雪村あかりとそのサーヴァントであるアーチャー(バージル)の存在を認識しました
  • マーガレットとアサシン(浪蘭幻十)の存在を認識しましたが、彼らが何者なのかは知りません
  • ルーラーと敵対してしまったと考えています


【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]肉体的損傷(極大)、魔力消費(中)、霊核損傷(中)、放射能残留による肉体の内部破壊(極大)、全身に放射能による激痛(気合で耐えている)、全身に炎によるダメージ(現在軽度)、幻影剣による内臓損傷(現在軽度)、右腕の火傷(現在軽度)、
[装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀(現在三本破壊状態。宝具でない為時間経過で修復可)
[道具]なし
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:勝つのは俺だ。
1.あらゆる敵を打ち砕く
2.例えルーラーであろうともだ
[備考]
  • ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。
  • ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。
  • ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。
  • マーガレットと彼女の従えるアサシン(浪蘭幻十)の存在を認知しましたが、マスター同様何者なのかは知りません
  • 早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います
  • 早稲田鶴巻町の某公園から離れた、バージルと交戦したマンション街の道路が完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います
  • 新小川町周辺の住宅街の一角が、完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 黙々と、ロビーに散らばる瓦礫を片付ける二人がいた。
一人は体中に入れ墨を刻んだ青年であり、ハーフパンツに上半身裸と、実にラフな格好を彼はしていた。
もう一人は銀髪の美女とも言うべき女性で、特徴的な青い衣服を身に纏っており、一目見れば二十kg以上の荷物など到底持てそうもない、華奢そうな外見をしていた。
なのに彼女は、苦も無く重さ六十kg超もある瓦礫を片手で持ち上げ、隅っこまで運搬していた。青年の方も青年の方で、二百kgはありそうな弩級の瓦礫を軽々持ち上げ、軽く四隅に放り投げてどかしている。

 まさかロビーの掃除をしているこの二人が、<新宿>聖杯のルーラー一同であるなどとは、聖杯戦争参加者の誰に言っても信じて貰えまい。
片やサーヴァントに匹敵する実力を持った、力を管理する者。片や大いなる意思に反旗を翻した、混沌王の名を冠する大悪魔。
それが、こんな地味な雑務をこなしているのだ。二人が何者なのか、と言う事情を知っている者であれば、その驚きは更に高まる事であろう。

 ロビーが散らかっていると落ち着かないと言う理由で、最低限の掃除を提言したのはエリザベスの方だった。
人目が付くから、早く地下室にでも戻ろうと人修羅も反論したが、傷を治してくれた手前もある。結局彼は、彼女に従う事にしたのだ。
近い内この病院には、騒ぎを聞きつけて多くの人間がやって来る事であろう。出来るのならば、その前に掃除は終わらせておきたかった。

「混沌王ともあろう御方が、埃臭い雑務を行ってるものね」

 大人びた、艶のある女性の声が聞えて来た。
ツカツカと、瓦礫を粗方片付け終えたリノリウムの床を、ハイヒールが叩く音がロビーによく響く。
エリザベスも人修羅も、同時にその女性の声の方に顔を向けた。敵意はどちらも有していない。何故ならば、この声の正体が何者であるか、彼らは理解しているから。

 ケアをよく行っているのだろう、艶も見事な黒髪をポンパドールに纏めた、妖艶な女性であった。
格調高い黒のスーツを身に纏っているが、何処となく、妖しげな笑みを浮かべるその姿と相まって、淫猥な様子を見る者に想起させる。
それに、身体から発散させるその妖気よ。市井の中を活動する時は極限までそれを隠しているのだろうが、人修羅達にそれを隠していても無駄だと、
女性の方も解っているのだろう。余す事無く、その妖気を身体から彼女は醸し出していた。

「――『リリス』か。何の用だ。雑務を手伝いに来てくれたのか?」

「冗談は止して下さいませ。それと、此処<新宿>での私は、百合子(ゆりこ)よ」

 ヒールを鳴らしながらリリス――いや、ゆりこは人修羅達の方に近付いて行く。
リリス――彼のアダムの、イヴ以前の最初の婚約者であった筈の存在だが、神から直々にその恋を破談にされ楽園たるエデンを追放された悪魔。
その後彼女は楽園の外に蔓延っていたあらゆる生物と交わり、悪魔を地上に産みだし解き放ったと言う伝承が伝わっている。
そう、彼女は、夜魔と呼ばれる悪魔達の頂点に近しい存在であり、誰もが認める最上位の悪魔の一柱なのだ。
何故、それ程の大物が、此処<新宿>に人間に扮してやって来ているのか? 彼女こそが、ルーラーとしての資質を欠く人修羅のサポートの為にルシファーが遣わした、最上位悪魔の一人なのだ。

「私の方から逆に聞きたいけれど、この病院の惨状は何かしら? 早速、貴方達の目論見が露見したとでも?」

「それに近しい、とだけは言っておきましょう。私の目的をほぼ全て理解している身内が参加していました」

「その参加者が、此処に?」

「それだけで住んだのならば、まだ良かった。騒ぎを聞きつけて、別の主従がやって来た。それと交戦した結果、こうなった」

「ルーラーと解ってて貴方達と戦ったの? どうしようもない馬鹿ね、その主従は。どんな教育をされて来たのかしら。」

 ほとほと呆れた様子で、百合子が溜息を吐いた。そして同時に、この混沌王達の幸先の悪さに、同情しているようにすら見える。

「それより、リリス……、いえ百合子。定時に聖杯戦争の報告をしに来る貴方達が、何故時間外に此処に?」

「私としても此処に来るつもりはなかったんだけれども、どうしても伝えなくてはならない事が出来てしまったのよ」

「話せ」

 威圧的に人修羅が言葉を続けさせようとする。

「聖杯戦争に参加している主従の一組に、クリストファー・ヴァルゼライドと言う真名のバーサーカーを従えるマスターがいるのだけれど――」

 その言葉に反応したのは、人修羅だった。

「……その主従だ。この病院で大層暴れたのはな」

 驚きに目を見開かせるのは、百合子の方だった。この展開は彼女としても予想外だったらしく、数秒、言葉を失っていた。

「私が……、他の主従の監視に行っている間、まさか彼らがそんな事をしていた何て」

「お前のその語調。まるであいつらにだけお前が執心している様にしか俺には聞こえないが、何があった」

「別に、何でもないわ。報告したいのは、その主従の暴れ振りよ。既にあの主従は、早稲田鶴巻町で派手に破壊をばら撒いていたの」

「だろうな。あの馬鹿さ加減だ。容易に想像が出来る」

「問題は、彼らが暴れた後には、必ず、高濃度の放射線がその場に滞留している、と言う事なのよ」

 人修羅の表情が無表情のまま硬直したのは、三秒程の間だった。
直に、胃の中に大量の小石か砂利でも詰め込まれたような、重苦しい溜息を吐いて、彼は顔を抑えた。

「……放射線だったか。成程、俺の身体が痛い筈だな」

「直撃したのかしら? それで無事なのだから、流石に混沌王ね」

 百合子の世辞を、人修羅は聞き流していた。今彼は、放射線を振り撒くバーサーカー、ヴァルゼライドの事を考えていた。
高位悪魔の肉体は頑丈を極る為に、それ自体は珍しくないが、問題はあのヴァルゼライド自身だ。
あの男は間違いなく、超高濃度の放射線その物とも言うべき、あの黄金色の死光を纏わせた刀を自らの腹に突き立たせたにもかかわらず、まだ行動を続けていたぐらいだ。本当にあれは、人間なのかと疑いたくなるのも、無理からぬ事であった。

「それよりも、ルーラー。如何致しましょう。このままでは貴方は、公からの大目玉は不可避の物かと思われますが」

「言うな止めろ。俺も考えたくない」

 ただでさえあの度が過ぎた破壊力の光柱に、高濃度放射線が含まれていると言うのならば、堪った物ではない。
それよりもそもそも、そんな、周囲に重大な影響を与える宝具を、息を吸うように連発する、あの主従の精神性が全く理解不能だった。
あのバーサーカーは背負っている物が自分にはあると言っていたが、それならば先ずお前が責任を背負って欲しいと今すぐにでも彼らの前に現れて言い放ちたくなる。

「報告したい事柄は以上よ。早めにこの事は知らせた方が良いと思ってね」

「解った。下がって良いぞ」

「言われるまでもなく」

 人修羅とエリザベスが、全く同じタイミングでまばたきをする。その瞬間には百合子は、彼らの視界から消えていた。
溜息を再び吐き出す人修羅。ドンマイとでも言うようにその肩を叩くエリザベス。

「……今は別の事を考えよう。マスター。お前としては、如何するつもりだ」

「と言いますと……」

「お前の姉の事だ」

 目を瞑り、彼女は考え込む。十秒程考え込んでから、彼女は口を開いた。

「私達に反旗を翻したのですから、何かしらの処罰は下すべきなのかも知れません」

「それが普通だろうな」

「……ですが同時に、姉上とは、私自身が決着をつけたいと思っているのです」

「贅沢だな。言うだろう、二兎追う者は一兎も得ずと。有里湊と蘇らせたいのか、決着をつけたいのか、どちらかを選べ」

「どちらも選びたいのです、私は」

 頑迷としか言いようのない態度で、エリザベスが反論する。

「姉上が、何処の誰とも知らない主従に斃されると言う事に、私は耐えられません。あの方は、私自身が決着をつけねばならない、最大の壁なのです」

 エリザベスと言う女性にとって、マーガレットは強さの目標であった女性でもあり、憧れでもあった女性だった。
例え決別したとて、その思いには代わりはない。その彼女が、自分の目的を強く認識し、自身に敵対してくれている。
その事実を、エリザベスは嬉しく思っていた。マーガレットは、エリザベスの願いを叶える道に立ちはだかる、最大の強敵だ。打ち倒されるべき魔王だ。
マーガレットとの決着は、エリザベス自身がけじめをつけねばならない。他のどの参加者よりも、エリザベスはマーガレットの事を意識していた。
そのマーガレットが、他の主従につまらぬ方法で殺されようものならば。それはエリザベスにとって、堪らない後悔と口惜しさになるであろう。

「俺は別に、お前があの女と決着をつけようがつけまいが、どちらでも良い。ただ、それでお前の願いが台無しになったら、全く面白くないだろうよ」

「そうならないように、努力をするつもりです」

 力強く、エリザベスが言い返した。これ以上彼女に心変わりは期待出来ないと思った人修羅は、其処で折れた。
変に頑固な所があるとは人修羅自身も思っていたが、此処までとは思っていなかった。尤も、それが見限る決定的な原因、とはならないのだが。

「ヴァルゼライドの主従達についてだが」

「彼らは貴方も知っての通り、とても強い主従でした。あのバーサーカーもそうでしたが、貴方も視界の端で見えていたでしょう。あのマスターの強さを」

「見た。明らかに、戦い慣れた……と言うより、戦いに慣れ過ぎた動きだったな」

 ヴァルゼライドと死闘を演じる傍ら、人修羅はしっかりと、彼のマスターであるザ・ヒーローの戦いぶりを目にしていたのだ。
エリザベスと渡り合っていると言う事実だけでも、人修羅を驚かせるに足る要素だった。
特に一番驚いたのは、ザ・ヒーローの振るっていた剣で、あれは確か、ヒノカグツチと呼ばれる、記紀神話でも著名な、イザナミの股座から生まれた炎神の力を宿した神剣だ。
となればあの男が、悪魔とのコネクションを持った何者かである事は確実だった。もしも、だが。あの男が手練の悪魔を複数引き連れて戦っていたら、
エリザベスとて、不覚を取っていたかも知れなかった。人修羅はザ・ヒーローの強さを、この程度まで見積もっていた。

「強い主従ではありましたし、戦っていて心躍ったのも事実ですが……。今は、彼よりも優先すべき事柄が多いですので」

「つまり、あの二人の処遇は、俺に任せても良いと言う事だな?」

「えぇ、御随意に致します」

「そうか、良く言ってくれた。急いで対策を練らねばならんと思っていた所だ」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに、人修羅は口早にそう言った。
如何やらかなり鶏冠に来ているらしいと。エリザベスは、彼の様子を見て、そんな事を思うのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――ルーラー及び、<新宿>の管理運営者からの通達・報告。
ただ今の日付時刻、『7月15日金曜日正午12:00時』を以て、緊急の討伐クエスト発布の連絡をさせて頂きます。
本日深夜0:00に発布致しました二つのクエストに追加する形になります。なお報酬の方は、先の二つと同様、令呪一画とさせていただきます。
追加されたクエストは、以下の通りとなります。

現在の討伐クエストに、新しいクエストが一つ追加されました。

③:ザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドの討伐

討伐事由:<新宿>の著しい環境破壊、放射線散布、主催者に対する反逆行為

開示情報:ザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドの素顔、及びサーヴァント側のステータス、及びスキル、宝具考察を追加いたしました
+ ...
極めて高い戦闘続行能力と、平均的なステータスを補う程の圧倒的な武術練度。
そして、多少の恐怖や戦力的不利など全く意に介さない勇気を併せ持った、優れたサーヴァントです。
バーサーカーとは言いますが狂化している訳ではなく、言葉を交わす事も可能です。但し、その思考はかなり固定化されており、話は先ず通じない物と思って下さい。
またその宝具の一つに、極めて高い放射線を内包した光の柱を超高速で放つと言う物が確認されており、直撃すれば良くて霊核の損壊。
最悪、一切の抵抗も許さず消滅する事も考えられます。これらの情報を元に、戦略を練るようお願いいたします

備考:主従共に生死は問いません






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――相当頭に来てたんでしょうね……――

 目を瞑り、眉間にしわを寄せて考え込んでいる人修羅の様子を見て、エリザベスはそんな事を推理するのであった。




【早稲田、神楽坂方面(???)/1日目 午後12:10分】


【マーガレット@PERSONA4】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]青色のスーツ
[道具]ペルソナ全書
[所持金]凄まじい大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:エリザベスを止める
1.エリザベスとの決着
2.浪蘭幻十との縁切り
[備考]
  • 浪蘭幻十と早く関係を切りたいと思っています
  • <新宿>の聖杯戦争主催者を理解しています。が、エリザベスの引き当てたサーヴァントが何者なのか理解しました
  • バーサーカー(ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの主従を認識しました
  • 現在早稲田、神楽坂エリアの何処かを移動しています


【アサシン(浪蘭幻十)@魔界都市ブルース 魔王伝】
[状態]健康
[装備]黒いインバネスコート
[道具]チタン妖糸を体内を含めた身体の様々な部位に
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>聖杯戦争の主催者の殺害
1.せつらとの決着
[備考]
  • 北上&モデルマン(アレックス)の主従と交戦しました
  • 交戦場所には、戦った形跡がしっかりと残されています(車体の溶けた自動車、北上の部屋の騒動)
  • バーサーカー(ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの主従を認識しました
  • 現在早稲田、神楽坂エリアの何処かを移動しています


【早稲田、神楽坂方面(<新宿>衛生病院)/1日目 午後12:10分】


【エリザベス@PERSONA3】
[状態]健康
[令呪]残り???画
[契約者の鍵]有
[装備]青色のスーツ
[道具]ペルソナ全書
[所持金]凄まじい大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:有里湊の復活
1.マーガレットとの決着
2.湊様……
[備考]
  • 拠点は早稲田、神楽坂方面の新小川町を所在地とする<新宿>衛生病院です


【ルーラー(人修羅)@真・女神転生Ⅲノクターン マニアクス】
[状態]放射能残留による肉体の内部破壊(現在治療により回復)、全身に放射能による痛み(現在治療により回復)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>の聖杯戦争の管理・運営
1.怒られるから破壊やめろ
[備考]
  • マーガレット&アサシン(浪蘭幻十)、ザ・ヒーロー&バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)の叛逆を受けました
  • ヴァルゼライドの主従の討伐令を発布いたしました
  • 現在<新宿>中に、少数精鋭から成る、自身の上司である大魔王の配下である上位悪魔を人間に扮させて活動させており、彼らを主な情報習得源としています。が、信頼はしてません



時系列順


投下順



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28:超越してしまった彼女らと其を生み落した理由 マーガレット 36:ワイルドハント
アサシン(浪蘭幻十)
28:超越してしまった彼女らと其を生み落した理由 ザ・ヒーロー 48:Cinderella Cage
バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)
28:超越してしまった彼女らと其を生み落した理由 エリザベス
ルーラー(人修羅)


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最終更新:2021年03月31日 20:09