「おっすじゅんぺー、なんだよ今日もしけた面してんなー。オレ? オレは今日も超!ハイテンション!よ!
 つーか聞いてくれよ、昨日もエミリがオレのこと頼ってきてくれてさ、やっぱイイ男ってのは普段から違うってゆーか、オレもう最高潮よホント!
 え? 本題入れって? あーもうツレねーなーったく。いやさ、実はダチからライブのチケット貰ったんだけど、ぶっちゃけオレ興味ないからお前にやるわ。
 そーだよライブ、ライブのチケット。しかもアイドルのだぜ? いや別に嫌いってわけじゃねーけど、ほらオレにはエミリがいるからさ。嫉妬させちゃうのも悪いじゃん?
 そもそもここに出てくる……えっと、クローネだっけ? そのメンバーってのが正直ガキすぎてオレの趣味じゃねーのよ。やっぱ女ってのはもっと年上じゃねーとってそう思うわけよオレは。
 つーわけで売るなりしても良かったんだけど、なんだかんだで持つべきものは友達じゃんか。そーゆーことで未だに春の来ない順平くんにオレからささやかなプレゼントってことで……え、お前に心配される謂れはない? まーた強がっちゃってぇ。
 ま、マジでいらねってんなら別に好きにしてくれていいぜ。んじゃ今からエミリに誘われてっからもう行くわ、オレマジで頑張っちゃうぜ見とけよ見とけよー。二学期に一皮むけたオレを披露してやるから楽しみに待ってろよ順平!」





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【いいんじゃねーか、行っても】

 念話で帰ってきた言葉は、何とも軽いものだった。
 念話の主、伊織順平がいるのは新宿内藤町の某高校、その一室だ。夏季休業に先駆けて行われた、無駄に長く感じる終業式を眠たい頭で耐え抜き、教室で配布された通知表の内容と宿題の山にトラウマを刺激され、諸々の注意事項を言い渡されようやく解放された、昼過ぎの出来事であった。
 無二の親友ともちーこと友近健二に半ば無理やりライブチケットを押し付けられ、本人はそそくさと逢引きとやらに向かってしまい、途方に暮れてライダーに念話を試してみたら返ってきたのがこの言葉である。
 流石に、自他共に認める能天気でお調子者な順平と言えど、それはないのではないかと思ってしまうのも無理はない。

【おま、それでいいのかよ】
【勿論考えなしで言ってるわけじゃねえさ。そのライブってのはそれなりに人が集まるんだろ? だったらそこにマスターやサーヴァントが来る可能性も少しは高くなる。
 正直なとこ、この狭い新宿で未だに発見数0ってのもそろそろマズイしな。接触するにせよしないにせよ、他陣営の情報くらいは持ち帰りたいもんだ】

 対するライダーの返答は、なるほど確かに、聞けばそれなりに納得できる理屈である。
 順平がこの地に招かれ、昨晩本戦開始の通達を受けるまでの幾日か、その間に動き回って分かったことは、ライダーの保有する気配隠蔽能力が非常に高いということだ。
 別に彼らとて、考えなしに日常をエンジョイしていたわけではない。勿論楽しみの面も存在していたが、それ以上にこの新宿という街の把握、及び介在するサーヴァントの索敵こそが彼らの目的である。
 何故、非好戦的な彼らがそこまで他者の捜索に余念がないのか。そして何故、これまで何の成果も挙げられていなかったのか。それは単に、ライダーに架せられたある種の制限が存在したからだ。
 本来、サーヴァントというものは索敵能力に優れない個体であろうとも、数百m単位の気配感知能力を標準的に備えている。それはライダーとて例外ではなく、むしろ解法の存在による気配看破に優れた彼の有する感知能力は、本職たるアーチャーのそれに匹敵する超長距離に及ぶものでなければおかしいほどのものだ。
 そう、本来ならば。しかし現実として彼に与えられた能力には、原因も分からぬ不調のようなものが付き纏っていた。感覚的にしか判別がつかないものの、現状彼が保有する素の索敵可能範囲は50m程度まで縮小し、その精度までもが低下している。
 だからこその、これは焦りではなく奮起であった。力が無いなら無いなりにやれることを頑張るのだという、言葉にしてみれば何ともありふれた行動方針。ライダーの言う通り、接触するかどうかの判断こそ未知数なれど、他陣営の情報は発見しておくに越したことはない。

【まあ、そういうことなら何となく分かったぜ。実を言うとオレもちょっと行ってみたかったんだよなー、これ。
 つっても、わざわざアイドルのライブ見に来るようなマスターなんているか普通?】
【お前がそれを言うのかよ。そうだな、ライブそのものじゃなくてそれを利用しようって連中ならいるかもな。来そうなのが"乗り気"なのばっかになりそうなのが怖ぇけど。
 あとは……ほら、例のバーサーカーとか】
【あー……そっか、その可能性もあるんだよな】

 聖杯戦争の参加者全員に討伐令を発布されたバーサーカー、その存在を思い出し知らず頬が引き攣ってしまう。
 白昼堂々大通りで大量虐殺を敢行した黒服のバーサーカーについては、既に彼らも昨夜のうちに話し合いのやり玉に挙げている。その行動目的については未だ詳細が不明なままであるが、少なくとも順平たちは「殺人そのものが目的」ではないかと睨んでいた。
 快楽殺人鬼、それも数を優先する性質だというならば、人員が大量に集まるライブなど持って来いの狩場であろうことは想像に難くない。
 いずれ何らかの形で接敵する時も来るだろうと腹を括ってはいるものの、遭遇の危険性を思えば憂鬱にもなるというものである。

【けどまあ、そんな悲観的になる必要もねえわな。何も起こらなかったらそれに越したことはねえし、純粋にライブを楽しむのもいいだろ。
 本戦が始まった以上は、これから嫌でも戦いに巻き込まれていくわけだし、精神的な負担は少しでも減らしたほうがいい】
【だから今の内に思い出づくりってか? 不吉なこと言うんじゃねーよって言いたいけど、反論できないのが悲しいなおい】
【はは、だからそんな気負う必要ねーっての。俺のスキルはお前だって知ってんだろ? いざとなりゃ二人揃って尻尾撒いて逃げることもできんだ、緊張感なんざいらねえとまでは言わねーけどある程度は安心していいんだぜ?】
【……おう、頼りにしてんぜ】

 ライダー……栄光の解法の凄まじさは身を以て実感している。基本的にはサーヴァントとしての気配を消失させることにしか使ってこなかったが、予選期間においては順平ごと透明化したり、重力をぶっちぎって一緒に飛んでみたり、ちょっとしたワープを体験してみたりとより取り見取りの経験を味わったものだ。
 その時は女風呂の覗きに最適だ、なんて馬鹿話で盛り上がったが、よく考えなくても解法の汎用性の高さは異常の領域である。まるでおとぎ話の魔法のようだと、ペルソナ能力という不可思議な力を行使する順平でさえも、思わずにはいられなかったほどだ。
 そしてそれはライダー当人が言う通り、仕切り直しという「逃げ」に特化した力でもある。例え遁走を封じる結界に囚われようと、よほどのことがない限りは順平ごと容易に逃走を成功させることができるほどに、その能力は強力なのだ。
 敵を前に逃げるなんて、などという戯言を順平は口にしない。現実を弁えないはた迷惑な英雄願望は、とうの昔に捨て去った。戦うべき時は戦い、逃げるべき時は逃げるのだと、順平は先を見据えそう考える。

 とはいえ、これもライダーの言う通り、今回のライブイベントで騒動が起きるとも限らないのだから、今から余計な心配をしたところで杞憂でしかないのだろう。
 随分おセンチになったもんだと頭の片隅で考えつつ、念話に一区切りつけるべく会話を続行する。

【ま、あーだーこーだ言っててもしゃーないし、ここはバシッと決めますか。つーわけで今日はライブ行き決定な。折角なんだしノリにノリまくっちゃうよオレっち!】
【あんまはしゃぎ過ぎてぶっ倒れんなよ? そんじゃ、俺も早いとこ捜索片して合流するわ。場所と時間だけ教えてくんねえか?】

 ライブ終わったら推しメン教えろよー、という会話と、場所と時間を告げると同時に念話をカット。幾ばくかの時間を置いて、順平はふぅと息をついた。
 今までライダーとはほとんど一緒に行動していたために使う機会がなかった念話だが、こうして使ってみると、なるほど不思議な感覚である。タルタロス探索における風花のナビとも違う、脳内に直接響くそれは、なんともこそばゆい感触を順平に与えていた。

「っと、そろそろオレも行かねーとな」

 物思いに沈みそうになる意識を引き起こし、半端に纏めていた教材を片付け立ち上がる。
 まばらとなったクラスメイトに別れを告げ廊下に出れば、まるで馴染みのない、しかしここ数日で見慣れてしまった新宿高校の校内が目に映る。
 目に見えるほとんどが自分とは縁がなかったはずの代物で、けれど友近のように見知った要素が幾らか存在するこの空間は、未知と既知という相反する混成物故に歪な既視感を醸し出す。
 如何に平和に映ろうと、ここは自分のいるべき場所ではないのだと、如実に示しているようだと順平は感じた。

(……いい加減、オレも覚悟決めとかねーとな)

 だから、羽目を外すのは今回で最後にしておこうと。そんなことを頭の片隅で考えながら、順平は気持ち足早に帰路を急ぐのだった。






【四ツ谷、信濃町方面(内藤町・新宿高校)1日目 午後(正午くらい)】

【伊織順平@PERSONA3】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]なし
[道具]召喚銃、ライブチケット二枚組
[所持金]高校生並みの小遣い並み
[思考・状況]
基本行動方針:偽りの新宿からの脱出、ないし聖杯の破壊。
0.ライブに向かう。
1.穏便な主従とコンタクトを取っていきたい。
2.討伐令を放ってはおけない。しかし現状の自分たちでは力不足だと自覚している。
[備考]
  • 戸山にある一般住宅に住んでいます。
  • 遠坂凛とは同級生です。噂くらいには聞いたことがあります。






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「ま、マスター探しも急げども焦る必要はなしってな。なんにも起きなきゃそれで良し、素直にライブを楽しめばいい。なんか起きたら……その時はその時だ」

 所変わって河田町はあけぼのばし通り。古き良き商店街の面影を残す閑静な通りに、大杉栄光の姿はあった。
 人の通りはまばらで閑散としており、明らかな未成年である彼が出歩いていても訝しむような者はいない。あるのは集合住宅と学校施設と、あとはとあるビルディングのみ。
 東京都新宿区という都会にあっても、一角外れればこのようなエアポケットじみた情景も多く存在する。かつてはフジテレビ開業と都営新宿線開通により多く賑わったこの場所ではあるが、フジテレビが港区お台場に移転した後は東京女子医科大が町域のほとんどを占めるようになり、現在の姿となっていた。

 ならば何故、他陣営の捜索に赴いているはずの彼が、このような人のいない場所に来ているのか。
 中心地よりも外れの閑散地にこそ参加者は逃れ潜んでいると踏んだのか。いいや違う。
 彼がここに赴いた理由。それは……

「もう少し時間がありゃあ、忍び込むなり何なりしてみても良かったんだけどな。アイツが動くってんなら俺も行かねえと嘘だろ」

 先ほどまで眼前に聳え立っていたビルディングを、振り返ることなく栄光は思い返す。
 UVM社……旧フジテレビ跡地に立つ、東京タワーもかくやと言う超高層ビルを本社に持つ新進気鋭の大手レコード会社。その威容はこの静かな土地にあって異様な存在感を放ち、つい先ほど直接見てきた本社においては、そこだけ都市の喧騒を切り取ったかのように多くの人員と物音が交錯していた。
 そこで働く社員やミュージシャン、あるいは大手企業の内定をその手に掴みたいと意気込む大学生や、自分を売り込みに訪れる音楽家たち。そこにあるのは人々の勤労から生まれる一種の躍動であり、規則的あるいは混沌とした人の動きが集約するビルの巨躯はまるで戯画化した巨大な蟻塚のような印象すらも栄光に与えた。
 それだけならば、別段気にする必要はない。どこでもどの分野でも最前線をひた走る大手というものは存在するし、周囲に比べ隆盛している程度、それだけでは目をつける要因にはなり得ない。
 UVM社という場所に、わざわざ危険を冒して忍び込むことさえ考えた理由。それは単に、UVM社の社長が人外の存在であるという噂話故であった。

 無論、余人では信じられない速度で自社を盛り立てた経営手腕を指してバケモノと揶揄する者もいるのだということは、重々承知している。しかしそれ以上に、彼の外見的特徴を指して人外と呼ぶ噂が多数を占めるということに、栄光は違和感を持ったのだ。
 曰く、黒く巨大なクラゲ頭を持った人型がUVM社には存在する。尾鰭やバリエーションの違いこそあれど、噂に共通するのはそういった内容だ。
 今更言うまでもなく、あからさまに怪しい。そして火の無いところに煙は立たない以上、できる範囲で調査するのは当然のことと言える。
 そういうわけで、栄光は今日この場所に来ていたのだが、いざ解法を駆使して忍び込もうとした矢先にかかってきたのが先の念話である。ライブが始まる時間と場所を聞いてみれば、なんと今から向かわなければ到底間に合わないぎりぎりのタイミングではないかと、一旦捜索の手を中断してその場を離れることとなったのだ。
 なお、ぎりぎりのタイミングというのは、あくまで徒歩と交通機関を使った場合のものである。己が宝具である風火輪を使って全力で飛べば数分とかからず踏破できる距離ではあるが、如何な解法による隠蔽を持つとはいえ、そんな目立つ真似をこんな序盤からするつもりは、栄光にはなかった。

「けど、アイドルのステージライブとはなぁ。こんな時じゃなけりゃ素直に喜べたってのによ」

 惜しいよなぁ、などとぼやきながら、栄光は告げられた場所へと足を進める。
 できることなら平穏無事に終わってくれよ、などと、そんなことを少しだけ思ってみたりした。






【市ヶ谷、河田町方面(河田町・あけぼのばし通り)1日目 午後(正午くらい)】

【ライダー(大杉栄光)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]マスターに同じ
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生きて元の世界に帰す。
1.マスターを守り、導く。
2.昼はマスターと離れ単独でサーヴァントの捜索をする。が、今は合流を優先。
3.UVM社の社長にまつわる噂の真偽を確かめてみる。
[備考]



時系列順


投下順



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ライダー(大杉栄光) 41:さくらのうた