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 ――明るい未来を







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 たとえどんなに歴史が移り変わろうとも、この世から差別と争いがなくなる事がないと言う事を、彼女は痛切に思い知った。
時を重ね、哲学が多種多様に枝分かれし、テクノロジーが発展しても、この二つが世界から根絶される日は、永遠に来ないのだと彼女は知った。

 この世にある全てのものは、有限のものだった。
土地も、食料も、個人が生きて行くのに必要な摂取エネルギー量も。全て、その数は限られている。
世界には一つたりとも、無限大の数値を誇る実体などない。凡そすべての物質的なものは、有限のものなのだ。
彼女は、思うのだ。その有限のものを管理する為のものが今の社会であり、その有限のものを多く、或いは低い値で手に入れる為の線引きこそが、階級なのではないかと。

 レプリロイドが動く為のエネルギーは、慢性的な不足状態に陥っていた。
科学がどんなに発達しようとも、無から有を生み出す事は出来はしない。ややランクの落ちる、有を有のまま保つ技術も、かなり難しい。
有限のエネルギーを長く保たせる、最も簡単で、それでいて即時的に効果の表れる手法とは、とどのつまり何か? 
それは、そのエネルギーを摂取して活動する存在の総数を、減らす事であった。

 英雄・エックスが築き上げた理想郷、ネオ・アルカディアは、エックスを頂点とする事実上の専制君主制の国であった。
過去に勃発した大戦争により疲弊した人間達の為の楽園を築こうと言う名目で築き上げたこの国は、人の為の安定した平和の供給と言う意味では、成功を納めている。
しかし、其処では、レプリロイドの権利は蔑ろにされていると言っても良かった。元々レプリロイド、つまりロボット自体は人間の為に尽くすものだ。
人よりもやや低く見られるのは仕方のない事ではあるが、エネルギー不足にアルカディアが陥ってからは、少々目に余る。
と言うのも、正常な筈のレプリロイドを、イレギュラー認定し、不要の烙印を押し、処分すると言うケースが後を絶たないからである。
迫害されたレプリロイドは、住処を追われ、穴倉の生活を送り、いつ絶えるか解らないエネルギーを恐れ、ビクビクする生活を余儀なくされている。

 ――シエルには、それが堪らなく可哀相なものに見えた。
彼女はアルカディアに所属する科学者の一人だった。黙っていれば地位も安定した生活も約束された身分でもあった。
だが、謂れもなく処分されるレプリロイドを見て、疑問に思った。イレギュラーなんかじゃないのに……狂ってなんかいないのに。
何で、彼らが消えなくてはならないのだろうか? ネオ・アルカディアに不要だからと言う理由で、どうして排斥されねばならないのか。
聞いた事がある。アルカディアと言う言葉はそのまま理想郷と言う意味なのだと。誰にとっても平和な街だからこその、アルカディアではないのか?
誰もが明るく笑って暮らせるところだからこそ、アルカディアなのではないのか……?

 シエルはアルカディアの在り方に疑問を覚え、籠から外へと飛び出した。そして、迫害されるレプリロイドの為に、レジスタンスも創設した。
だが、現実は甘くなかった。戦いは何時だって苦難と離別の連続で、芳しい結果を得られた事など、片手で数えられる程しかなかった。
アルカディアは圧倒的な補給量と戦力を保持している。にわかレジスタンス如きが、到底刃向える相手ではなかったのだ。

 次々と破壊されて行く仲間達。先行きの不透明さに打ちひしがれる仲間達。
だから、シエルは欲していた。現状を打破してくれる、正義の……いや。より平和な世界を築く為の。
明るい未来を築いてくれる、暖かな、それでいて確かな力を持った英雄を。

 ――今シエルは、<新宿>にいた。
いつ建てられたのかも解らない、遺跡と化した建造物を調査していた時の事。遺跡の最奥に、蒼く光り輝く小さな宝石を発見したのだ。
エネルゲン水晶の類かと思い手に取るや、気付けば彼女は、異世界の<新宿>なる街へと飛ばされていたのだ。
そして、頭に刻み込まれた、聖杯の情報。如何なる願いをも叶えてくれる、万能の願望器。世界の改編すらも思うがままの、究極の神器。
それを廻って争う、聖杯戦争。彼女が此処で流血を我慢すれば――自分が生み出した偽りのXによる支配も、そして、冤罪をかけられ迫害されるレプリロイド達を。
全て等しく解決させ、本当に明るい未来を築き上げる事が、出来るのだ。

 怖くない、と言えば、嘘になる。本当は怖い。想像するだけで、身体が震える。歯の根が合わなくなる。
しかも今度の相手は、レプリロイドではない。生身の人間を相手にしなければならないのだ。恐ろしくない筈がない。

 だが、シエルは最強のカードを引き当てた。
彼女の引き当てたサーヴァントは、彼女の居た世界でも名の知れ渡った、赤き英雄。
嘗てエックスと共に、イレギュラー戦争を戦いぬいた、伝説の英雄の一人、『ゼロ』。それこそが、シエルが引いたサーヴァントなのだ!!
その強さは知っている。あのエックスと互角、或いはそれ以上の強さを持ち、戦場に現れるや鬼神のような活躍をして見せたという、最強のレプリロイド。
彼と一緒なら、本当に平和な世界を築ける、そんな気がするのだ。

 ……だがシエルは今、草むらの影に隠れ、ビクビクと怯えてその場をやり過ごそうとしていた。
ゼロの戦いぶりは凄まじい物である事、そして、実は英雄としての側面以外に、世界に混乱を齎したと言う部分がある事は、シエルは知っていた。
しかし、英雄と呼ばれるからには、絶対に高邁な魂の持ち主だと、彼女は堅く信じていたのだ。

 ――まさか、これ程までに激しく、そして、凄まじい戦いぶりを展開するとは、シエルも思わなかった。
<新宿>は戸山にある、とある大学のキャンパスの敷地内に響く、凄まじい戦響音。度々生じるフラッシュ。
あの戦い方は、何だ。あれはまるで英雄と言うよりは――――――









 英雄と言うよりは、破壊神ではないか。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 <新宿>はW大学の戸山キャンパスは今や、地獄の戦場となっていた。
舗装された地面には蜘蛛の巣めいたヒビや亀裂が生じている。深さ数m、直径十mにも及ぶクレーターの数々が幾つも生まれている。
街路樹が不細工なささくれを残して圧し折れている。かなたこなたで、メラメラと炎が燃え上がっている。
キャンパス内の学舎の一部が、倒壊を起こさぬのが不思議な程の絶妙なバランスで、廃墟と瓦礫の境界線を彷徨っている。あと少しの衝撃で、その建物は崩れ去ってしまいそうだった。

 どのような力を持った狂人が暴れれば、このような光景が産まれうるのだろうか。
正気を保った存在では到底このような、破れかぶれも甚だしい目だった破壊の光景を生み出す事はありえないだろう。
それもその筈、戸山キャンパスのこの惨状は現状、たった一人のバーサーカーによって齎されたに等しいのである。
無論、そのバーサーカーの足元で、身体を十字に四分割されて即死した魔術師と、彼が操っていたセイバーのサーヴァントによる破壊も、確かにあった。
だが彼らの破壊の傷痕を容易く塗り替え、目立たなくする程に、バーサーカーの戦いぶりは激しく、狂気染みていたのだ。

 そのバーサーカーはどちらかと言えば背丈も普通と言う他なく、身体の厚みも全くない。中肉中背と言った風情の体格だ。
威圧感の欠片も無いそんな体格や、ワインレッドのプロテクターを身体の所々に装備している事もそうだが、特に目を引くのが、女の様に長い黄金色の髪。
それが今は、キャンパス内を蕭々と吹く風に靡いていた。金色の粒子が、バーサーカーの周りの空間で煌めいているかのようだった。

 バーサーカーは夢想していた。足元で転がる魔術師が操っていた、騎士鎧を身に纏ったセイバーの事を。
強かった。それは確かだった。そして、この聖杯戦争には、そう言った存在が何体も何体も、何体も招かれているらしい。
であるならば、これをこそ止めるのが、自分の使命だとバーサーカーは堅く信じていた。
終る事無く続いていた百年戦争、後に妖精戦争と言われていた戦争を終結させた自分ならば、それが出来る。
このバーサーカーは、聖杯戦争を止める事をこそ義務と考えていた。それこそが、英雄の――救世主の役目であろう。

 <新宿>の夜空を、赤い英雄が見上げた。疎らに輝く星の中に、月が黄色に明けく輝いていた。
月に、星に。吠えるようにして、英雄は雄叫びを上げた。セイバーを切り裂き、そのマスターを葬った勝鬨の意味合いも、あったのかも知れない






                               「――我はメシアなり!!」





 爆発するような哄笑がその名乗りの後に上がった。
空気が震える、炎が揺らぐ。倒壊しかかった建物が、その躁病患者が上げるみたいな笑い声に呼応し、崩れ去る。天地が引っくり返るような轟音が、世界に響き渡る。

 バーサーカーは確かに百年戦争を終わらせたジャンヌ・ダルクではあった。そう言った意味では間違いなく英雄と呼ばれるに相応しい存在でもあった。
しかし彼は、妖精戦争と呼ばれるその戦争の終結の為に、何千何万、いや、何百万と言う命を犠牲にさせた、血塗られた救世主だった。
何よりも彼の魂は、本物の赤い英雄の魂では断じて有り得なかった。その身体は、赤い英雄の肉体そのものだ。

 だが、彼の中に宿る魂は、邪悪の権化の男が生み出した、破壊と死の権化。バーサーカーには、本物の英雄が持ち得るヒロイズムが、備わっていなかった。
彼は魂こそ偽物であったが、肉体だけは本物の英雄のそれだった。しかし、それでは同じ名前の存在が世に二人といる事になる。
それでは、紛らわしい。故に、区別する必要があるだろう。本物の英雄の魂を持つ者を始まりや起源を意味すると言う点で、ゼロと名付けるのであれば。
このバーサーカーは、終わりや終局を意味すると言う点で、きっとこう呼ばれるべきである。

 ――『オメガ』、と。






【クラス】

バーサーカー

【真名】

オメガ@ロックマンゼロ3

【ステータス】

筋力B+ 耐久C+ 敏捷A 魔力E- 幸運E- 宝具A

【属性】

秩序・狂

【クラススキル】

狂化:A-
狂化、と言うよりはある種の精神汚染に近い。ある科学者の手によって、破壊と殺戮のみに傾倒するよう思考回路を弄られている。
ある程度の意思疎通は可能とするが、この狂化にはステータスの向上効果はない上に、思考も上記の感情で固定化されている。
実質的にコミュニケーションを成立させる事は困難、ないし不可能である。バーサーカーは自分の事を救世主(メシア)だと言って憚らない。

【保有スキル】

信仰の加護(自身):EX
一つの価値観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、そもそも崇めているのが神性すらない自分自身である故に、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。バーサーカーはある科学者の手によって、思考回路をその科学者にとって都合のいいように弄られている。
バーサーカーは自分自身の事を、長らく続いた戦争を終結させた救世主であり、そして聖杯戦争をもこの手で終結させうる英雄であると、本気で信じている。

蛮勇:A
無謀な勇気。同ランクの勇猛効果に加え、格闘ダメージを大幅に向上させるが、視野が狭まり冷静さ・大局的な判断力がダウンする。
なおバーサーカーではなく、本物の『英雄』が有するスキルは、蛮勇ではなく『勇猛』である

無窮の武練:B
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。 心技体の合一により、いかなる精神的・地形的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
但しバーサーカーの魂は、本物の英雄の魂ではなく紛い物の魂である為、本来よりランクが下がっている。

真名混濁:B
自身の真名や過去を暴くスキルや魔術、宝具をかけられた時、真名の看破率を著しく下げるスキル。
バーサーカーの身体は『ゼロ』と呼ばれるレプリロイドのボディであるが、その魂は彼の物ではないと言うイレギュラー性に起因する。

【宝具】

『抜殻(オリジナル・ゼロ・ボディ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
バーサーカーのボディである、ゼロと呼ばれる伝説のレプリロイドのオリジナルのボディが宝具となったもの。つまり、バーサーカー自身が宝具である。
初めて製造された時から数百年経過しても尚、レプリロイドのカタログスペックの最先端を往き、その時代で最も優れた科学者達ですら、
解析する事すら不可能と言わせしめた程ブラックボックスの多いゼロのボディは、悪の科学者Dr.バイルによって、その性能を可能な限り高められている。
バーサーカーとなった影響で精度こそやや落ちているが、ゼロをゼロ足らしめていた、相手の必殺技をラーニングする機能は健在。
相手の必殺技や体術をコピーする事が出来る。格闘術やレーザーブレードを用いた剣術の高さは当然の事、銃による遠隔攻撃に、オーラめいたエネルギーを射出したりと、攻撃方法は多岐にわたり、その全てが強烈。

 但し、正真正銘本物の、イレギュラーハンターだった時代のゼロの魂が持っていた、代えがたい戦闘経験や戦闘に対する慎重さと言うものが、
バーサーカーからは失われている。兎に角攻めると言う行為しか彼には頭にない。だがその単純に攻め続けると言う行為こそが、何よりも恐ろしいのである。

【weapon】

無銘・セイバー:
柄からエネルギーを刃状に発生させて敵を斬る剣状の武器。エネルギーを収束させる事で、衝撃波を生み、地面を容易く叩き割る程の威力を発揮する。
凄まじい切れ味を誇る武器ではあるが、宝具ではない。伝説の英雄・ゼロの用いた、十の光る武器の一つ、ゼットセイバーとは別のもの。

無銘・バスター:
遠隔攻撃用のエネルギー銃。強烈な威力をこれも誇るが、あくまでも副武装の為、セイバーに比べて威力は落ちる
但し、エネルギーをチャージさせ、発射した場合には、この限りではない

【人物背景】

彼は確かに、長きに渡る戦争を終結させた。
地上の人類の6割、レプリロイドの9割と引き換えに、だが。

【サーヴァントとしての願い】

救世主(メシア)として、聖杯戦争を終わらせる。その為には、『手段を問わない』




【マスター】

シエル@ロックマンゼロ

【マスターとしての願い】

全てのレプリロイドと人間が笑って暮らせる世界の実現。

【weapon】

【能力・技能】

非常に優れた科学者であり、レプリロイドの開発者。
相応の科学技術の整った研究施設さえあれば、それらの開発や、新しいエネルギー理論の構築すらも可能な程の天才。
また、逃げだしたレプリロイド達の指揮官を務めていた事もあり、指揮能力にも非常に長ける。
但し本質的には極々普通の少女である為、身体能力も魔力の量も、期待は出来ない。

【人物背景】

優秀な科学者を遺伝子操作で生み出すという計画の下、ネオ・アルカディアが生み出した人造の科学者とも言うべき存在。
ネオ・アルカディアが当初予定していた目標通り、彼女は優秀な成果を収め、遂には伝説の英雄であるエックスのコピーを制作する事に成功する。
しかし、エックスの代行として自身が製作したコピーエックスのせいで、多くの無実のレプリロイドが処分されてしまった事に心を痛め、ネオ・アルカディアから離反。
以降は処分が不可避のレプリロイド達の指揮官となり、レジスタンス活動を続けていたのだが……。

今回は封印されていたゼロを解き放つ数週間前の時間軸から参戦。彼女のパートナーであるサイバーエルフ、パッシィは存在しない。

【方針】

ゼロ(と認識しているオメガ)を頼る