サーヴァントは全盛期の姿で召喚される事が常である、と言う知識は、当然現世に召喚されるサーヴァントに当たり前の如く備わっている。
老いていた時代よりも、脂が乗り活動力もある若い時の姿の方が強いと言うのは当然の話である。だが、この『全盛期』と言う言葉は、額面通りの意味とは限らない。
例えば、その一生涯に善と悪の、正常と狂気の側面を以って行動していた英霊がいるとする。例えば生涯の若き時代と老境の時に、極めた技術が違う英霊がいたとする。
サーヴァントは通常その英霊の一側面の為、必然的にある面だけを切り取ってこの世に招聘されるのだ。全てを兼ね備えて召喚される、と言う英霊は余り存在しない。
つまり同じ全盛期でも、若い時が剣術の全盛期、老いていた時には槍の全盛期と言うサーヴァントがいたとして、この英霊を召喚しようとすると、若年時代或いは老年時代の姿で召喚される事があるのだ。そして同様に、善であった時代、悪であった時代、狂気に身を委ねていた時代と、異なった切り口でも召喚される事も珍しくない。

 では、大本となる英霊の座に存在する本体、その一部分(=サーヴァント)とは、何を基準にしてこの世界に呼ばれるのか。
召喚するのに用いた触媒などその最たる例だ。槍或いは剣を得意としていた英霊がいて、どちらかの側面を呼びたいと言うのなら、生前その英霊が使っていた槍か剣かの破片でも用意して、それを触媒にすれば良い。それらが用意出来なかった場合は、どうなるのか?
答えは、召喚者の性格や性質で決まる。召喚者、つまりマスターの性格が善なる者ならそれに相応しい者が呼ばれ、その反対も然り。
そして彼らは基本、性格の馬が合う事が多い。属性も同じであり、趣味嗜好も同じであるのだからそれも当然だ。
だがこれに加え、パズルのピースがはまるように、互いが互いを補い合うか如何かと言う事も加味して、マスターの下にサーヴァントがやってくるのだ。マスターの性格や性質、在り方と言うのは、サーヴァントを呼び寄せる最も強い『縁』なのである。

 ダガー・モールスによって召喚されたアーチャー・那珂は、本来召喚される筈だった側面とは違う形で召喚されたサーヴァントである。
通常彼女は川内型軽巡洋艦三番艦にして、第四水雷戦隊の旗艦であった『那珂』をモティーフにした艦娘、つまり、
悖らず、恥じず、憾まずと言う、五省の精神を正しく理解し高い誇りと使命感を抱いた立派なサーヴァントとして召喚される。
だが此処に、音楽を生命維持活動の糧とするダガーの在り方が加わった事により、帝国海軍としての矜持と『艦隊のアイドル』としての在り方の比率がやや狂った。
那珂のアイドルとしてのこだわりは、後付けで付加されたと言うキャラクターではなく、『地』である。つまり、元からこう言う気はあったのだ。
アイドルとしての側面がフィーチャーされた結果、本来有する筈であった宝具が完全に変質を遂げてしまった。那珂こそ正しく、変則的に召喚されたサーヴァントの代表格であった。

 早く此処から退散しましょうと、マネージャーのオガサワラが那珂に対して当たり前の事を言っていたのが、遠い昔の事のように思える。
極めて常識的で当たり前の判断である。何せ那珂がオガサワラと共に見ていた光景は、黒贄礼太郎が謎の稲妻を出して殺戮を繰り広げていたと言う物である。
何時自分に累が及ぶか解らない。オガサワラとしても命が惜しい為逃げ出したかっただろうし、何よりも那珂を此処で死なせたくもなかっただろう。

 それでも那珂は、新国立競技場と言う名前をしたこの地獄に残った。
此方の手首を掴んで引っ張ろうとするオガサワラの手を振り切り、怯え、逃げ惑い、そして殺される聴衆やアイドル達を眺めていた。
時間が経過し、NPC達の哀れな骸だけが取り残された競技フィールドで、新しくこの場に参上したサーヴァント達の死闘の光景をつぶさに観察しながら。
那珂は、『その瞬間』を待っていた。<新宿>に集まった人間達を救えぬ無力と言う耐え難きを耐え続け、NPC達が全員逃げてもなお、那珂をこの場から退散させようと必死に粘っていたオガサワラをこの建物から急いで退散させて。遂に、その時が訪れた。

 那珂は、アイドルである。戦える、アイドルである。
彼女にとってアイドルとは、希望のシンボルであり、人に安らぎを与える偶像の事を指す。
それは正しく、戦時にあって自国に勝利を、国民と自身を操舵する兵士に戦勝の喜びを与える『軍艦』に求められた役割その物だった。
那珂は、平和と希望を愛していた。そして可能なら、戦闘も、それによる死者も、この世からなくなる事を望んでいた。彼女に限らず、艦娘の多くはそれを望んでいた筈だ。

 那珂のいる日本は、軍艦そのものだった那珂が活躍していた日本とは違うけれど。艦娘として活躍していた世界の日本とも違うけれど。
それでも、彼女は自分を抑えられなかった。希望のシンボルである自分が、此処でこの地獄から逃げ出してしまえば、嘘だと思っていたからだ。
――かくして那珂は、自分よりもずっと強いサーヴァントが跋扈する新国立競技場のフィールドへと参上した。地獄に光を差し込む為に、光で魔城を崩さんが為に。
アイドルとして召喚された那珂と、第四水雷戦隊の旗艦である本来の那珂には、大きな共通点が一つあった。そのどちらもが、『正義』の人だと言う事。第四水雷戦隊として呼ばれても、那珂はきっと、この地獄に飛び込んでいただろう。彼女は、そう言う人であるからだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 きっと、誰もが面喰った事であろう。そして事実、彼らは動きを止め、その少女の方に目線を向けていた。
双方共に並々ならぬ因縁を持っている悪魔の双子、ダンテとバージルも。生前からの付き合いであり、出会えば敵同士の宿命を持つヴァルゼライドとチトセも。
パムも、永琳も、レイン・ポゥも、栄光も。果ては、無窮と無限大の殺意の化身たる魔王・黒贄礼太郎ですら、その動きを止め、滂沱と降り頻る雨に打たれ続ける少女――那珂の方に目線を向けているではないか。

 サーヴァントを相手に、外見の厳めしさから強さを判断する等と言うのはナンセンスだが、それでも、こう思わざるを得ない。
市井の中では目立つ程度の姿しか特徴のない、女性に過ぎないと。永琳やチトセ、パムと言う万人が想起する所の美女のイメージそのもののサーヴァントと比較されれば、とてもではないが分が悪いにも程がある。
まさに、サーヴァントには思えぬ様な外見のサーヴァント。凄味も何もない、底抜けの明るさと善性だけが取り柄の、NPCの延長線上の存在と言っても信じられるだろう女性。それが、この場にいる全員が那珂に対して抱いたイメージだ。

 そんな存在が突如としてこの場所に現れ、そしてあろう事か大声で自分の真名まで明かしてしまった。これには皆も、柄杓で水を浴びせられたような顔をしている。
尤も、自分の真名を明らかにすると言う前例は、黒贄礼太郎と相見えたサーヴァントは既に体験している為、さして驚きもない。
それ以上に一部のサーヴァント――特にライダー・大杉栄光にとって一番驚きであったのが、こんなサーヴァントがまだ隠れていたのか、と言う事である。
そも大杉栄光が競技場の内部を駆けずり回っていたのは、偽物の黒贄礼太郎、つまりタイタス10世と彼を操っていたク・ルームの主を探す為であった。
結局、この二人を操っていただろうサーヴァントを栄光は見つける事が出来なかったのであるが、それでも、解法による魔術的な解析を繰り返しながら、この建物を広範に駆けずり回っていたのは真実である。
栄光の解析の術が高度な物である事は、ベルク・カッツェを防戦一方に追い込んだ事からも周知の事実。
栄光自身も己の解法には絶対の自信があったのだが、その栄光をして、那珂の存在を認知する事が出来なかった。この一点に栄光は、強い衝撃を憶えていた。
彼が本気を出して解法を用い、競技場中を探していれば、サーヴァントとしての那珂の存在を認識する事は出来たろう。
ベルク・カッツェや黒贄との一戦が立て続けに起こってしまったが為に、那珂を探す事が出来なかった事と、那珂自身のある特質が、栄光の解析を欺く隠れ蓑となったのだ。

 那珂に限らず、艦娘と言うものは彼女ら自身を象徴する装備である艤装を外してしまうと、艦娘としての力が発揮でなくなり、生身の人間と全く同じ存在となる。
これは、サーヴァントの身の上になっても同じ事なのだ。艦娘がサーヴァントとしての実力を発揮出来るのは、艤装を装着している時のみであり、これを外してしまうと彼女達はサーヴァントの時に出来た筈の攻撃行動すら取れなくなる代わりに、サーヴァントとして認識されなくなるのである。
艤装を外した際の彼女ら艦娘の、自分達の隠蔽能力は極めて高い。余程高度な魔術を操れるか、彼女らについて深い知識を有しているか、そもそも彼女らがサーヴァントである事について既に知っていると言う事を除けば、先ず彼女らが聖杯戦争に参戦しているサーヴァントだと気付かれないのである。
恐らくは、栄光や永琳、パムと言ったサーヴァントが那珂の存在を認知し、本気で解法や魔術、黒羽による解析を叩き込んでいれば、彼女がサーヴァントであると気付く事が出来たろう。その状況が訪れなかった事が、那珂の存在を事此処に至るまで認識させずに至った原因の一つなのである。

「今日はここでね、とてもすごいアイドルの皆が、元気に、綺麗に歌ってたの。だけど皆、最後まで歌うことは出来なかった。……どんな激しいパフォーマンスの後の疲れも直に吹っ飛んじゃう、貰って嬉しいアンコールの声援も、最後までなかった」

 己の名を宣誓してから、那珂は続ける。地面に当たり、弾けて砕ける雨の音の中にあって、彼女の声はよく響く。
彼女の口にしている内容は恐らく、346プロダクション主導で行われていたアイドルのライブイベントの事であろう。
黒贄礼太郎――に化けたタイタス10世、そして、此処に集ったサーヴァント達の毒牙、或いは、毒牙を折らんとまたしても集まった正義のサーヴァントの手によって、彼女達の晴れ舞台は完膚なきまでに破壊されてしまった。
悪なる者が己の目的と欲とを満たす為に混沌を振り撒き、そして悪を倒さんと参上した善なる者。
介入が介入を呼び、そして参戦がより深く広い混沌を生む。嘗て、少女達の夢と希望で溢れていたこのステージは、言ってしまえばこの、己の尾を喰らう蛇(ウロボロス)の如き、終わる事のない悪意と善意の介入による熾烈で陰惨な戦いの末に破壊されたも同然であった。

「そのアイドル達が活躍する筈だったこの舞台で、私が歌うのは、活躍の横取りみたいで、とってもアレだけど――」

 すると那珂は、懐に隠し持っていたマイクを取り出し、口元へと持って行った。
ワイヤレスとは言え、無線を受信するスピーカーは戦いの影響で尽く壊滅している。声を競技場中に広がらせると言う事は出来ない。それは那珂も知っている。
このマイクは言わば、己のアイドルとしての意識を強化させ、これから行うパフォーマンスに全霊を注ぐ為に精神的な切り替えを行う、ある種の儀式的な意味を持つアイテムである。宝具でもなければ、魔力の籠った代物でもない。本当にただのマイク、行ってしまえばこれは、己の意思確認の為だけの代物に過ぎないのだ。

「それでも、私は、歌わせて貰うね。悲劇は誰だって、嫌だから。アイドルは、希望と平和と、愛の象徴だから――!!」

 並々ならぬ気魄を感じ取ったか、三人のサーヴァントが行動に移った。
パムは己の黒羽の形状を変化させようとし、永琳は己と志希の気配を遮断させ透明化させる結界の内部で弓を引き、バージルは閻魔刀の柄に手を伸ばす。
この中で一番攻撃を行うのが早かったのがバージルである。神速の居合と閻魔刀の持つ性質が符合する事で初めて成立する絶技、次元斬が那珂を斬り刻まんとするが、何と彼女はこれを右に数m滑って移動する事で回避した。
これは、偶然でもまぐれでもない。那珂は、艤装を纏っていなければサーヴァントとして認識されないと言う特徴を持つ事は既に説明したが、艤装を外した状態でも例外的に発揮出来る、艦娘特有の異能を有している。
超長距離を目視する事が出来る視力の良さ、つまりは千里眼だ。時には目視で十数㎞以上先の水平線に潜む深海棲艦を確認しなければならない艦娘が持つ視力の良さは、艤装を外した状態でも引き継がれており、これを以ってダンテとバージル、ヴァルゼライドの戦闘を予め、つぶさに観察していたのだ。故に、解る。彼らがどんな戦い方をして、どんな技を使うのかが。次元斬など、那珂が特に警戒していた技である。最大限警戒している今この状況で、当たる筈もなかった。

 ならば、と次元斬を再び放とうとするバージルであるが――柄に今まさに右手が触れんとする、そのタイミングで、彼は静止した。
いや、静止した、と言う、まるで『自分の意思で行動を止めた』ような言い方は、精確ではない。正しい言い方は、『動けなくなった』、だ。
そして、その奇怪な現象に見舞われたのは、バージルだけに非ず。ダンテも、永琳も、チトセもヴァルゼライドもレイン・ポゥも黒贄も身体の自由を奪われ、空中を浮遊していたパムと栄光は己の能力で保っていた浮力を全て無効化された挙句、地面へと墜落。そのまま地面に這い蹲らされた状態で、動く事が出来なくなった。
動けないのはサーヴァントだけではない。マスターであるライドウやザ・ヒーロー、純恋子に志希、そしてサヤに至るまで。例外など一つとして存在しない。この場所にいる全員が、動けなくなったのだ。

 ――そしてその原因が、突如として競技場中に響き渡っている、リズミカルな金属音のせいである事は、動けぬ全員が認識していた。
この音が鳴り響いた瞬間の事だった。超常の技巧を身に付けるダンテやバージル、ヴァルゼライド、極めて高ランクの対魔力を有する永琳ですらが、生きたまま剥製にされるが如く動けなくなったのは。

 金属と金属をぶつけたような、それでいて軽快さを感じさせる音が幾度か続いた後であった。
スピーカーは既に破壊されたばかりか、これを機能させる送電線の類も戦闘の余波で断線されて機能していない筈なのに。
何処からともなく奏でられる、電子楽器のメロディーが、一同の聴覚が拾った。拾って、当たり前の話だ。何せ競技場中に響き渡る程の大音響なのだ。
この軽快なポップ調が聞こえないなど、鼓膜が破れているか先天的に耳が聞こえないのどちらかしかあり得ない。

「では、聞いて下さい。私、那珂ちゃんが誇る唯一最大のヒットナンバー。『恋の2-4-11』を!!」

 何かが来る。この場にいる誰もがそう思い、身体に力を込めた。
そう思うのも、当然の事であろう。屈指の実力者であるダンテやバージル、ヴァルゼライドにパム、そして、
この場にいるメンバーの中で一番高い対魔力を誇る永琳や、解法と言う術の解体に最も適した技術の達者である栄光ですら、指一本動かせない状態なのだ。
聖杯狙いのサーヴァントなら、動けない事を良い事にサーヴァントに致死の一撃を与える事など平気で行うだろう。そんな事、素人でも想到出来る推論だ。
と言うよりそれが、当然の判断である。どちらにしてもこの状況、唯一自由に動けるのは那珂一人だけである事に皆気付いている。何をされてもおかしくない。
どんな攻撃が来るのか、そしてその攻撃を喰らった後どう立て直す? どちらにしても痛い一撃の一つは貰う事は避けられない。マスターに攻撃が来たらどう対処する?
誰も彼もが、那珂の次の行動を警戒し、その動向を注目していた。彼らをどうするかは、他ならぬ那珂の一存に掛かっていたからだ。






          「――気づいてるわ、みんなが私を」






 ……………………。
皆も予想出来なかったろう。確かに、歌わせて貰うと他ならぬ彼女自身が言っていた。アイドルとは何なのか、と言う思いの丈をぶつけてきたりもした。
だがまさか、本当に『歌い始める』とは、全員が予想していなかった。魔力や呪力を、歌や踊りに込めて成立する魔術や奇跡は、珍しいものではない。
イアソン率いるアルゴー船を難破させかけたセイレーンや、ヒンドゥー教における破壊神シヴァの相(アヴァターラ)の一つである舞踊の王・ナタラージャなど、歌や踊りを象徴する悪魔や妖精、神などレアと呼べるものでもなく、翻って、こう言った物を応用した魔術や儀式の存在は世界中の何処にでも存在する。
だが聞いた所、那珂の歌と踊りにそんな力はない。つまり、本当にこのサーヴァントは、この場にいる超一級所ばかりのサーヴァント達を行動不能にさせた上で、何の効果もない歌と踊りを披露しているだけなのだ。目が点になるのも、当たり前の事であった。

「ハートの視線で、見つめてるの」

 CV:佐倉綾音で歌い続ける那珂に、一同は驚きと呆れの目線を注ぎ続ける。

 ダンテは、白い拳銃アイボリーの銃口を那珂の方、黒い拳銃エボニーの方をヴァルゼライドの方に向けた状態で、停止していた。
「何でアイドル気取りのサーヴァントの余興を観なきゃいけねぇんだ」、と胸中でダンテが愚痴を零している事を、果たして那珂は知っているだろうか。知らない。

 バージルは、閻魔刀を鞘から十cm程引き抜いた状態で、停止していた。恐らくはスカイフィッシュなどのUMAよりもみる事が出来ない、バージルの貴重な抜刀の瞬間だ。
此方もダンテ同様、那珂のパフォーマンスを観なければならない事に不機嫌を隠せない。ただ、刻まれた眉間の険しさは、ダンテよりも遥かに強い。

 永琳は、那珂目掛けて今まさに矢を弦から放とうと言うその瞬間のまま、停止させられていた。
音楽が流れたその瞬間に、透明化と気配遮断の効果を齎す結界も強制的に解除させられ、彼女と、傍にいる志希の姿は誰の目から見ても露の状態になっている。
此方もバージル同様、普通であればまずお目に掛かれぬ貴重な状態で動きを止められているが、この姿勢を維持するのは、彼女としてもキツいらしい。表情が固い。

 チトセの方は、蛇腹剣を持った右腕を、那珂の方に走って近づこうとするヴァルゼライドに向けている姿勢のまま、停止していた。
メロディが奏でられていなければ、蛇腹剣は必殺の速度と威力を伴って英雄に殺到したのだろうが、今はダランと、チトセの足元まで縄暖簾の如く垂れていた。
那珂の歌の影響か、チトセが頭上に展開させていた雨雲から降り頻る雨の勢いが徐々に弱くなっていく。雨雲を維持するのに必要な、チトセから常時供給される魔力が今は途絶えている状態なのだ。このまま行けば一分後には、雨雲は消えてなくなる。

 ヴァルゼライドは、右足を上げた状態のまま、右手に握った刀を振り被っている状態のまま停止させられている。
恐らくはそのまま刀を振るい、ガンマレイを放つつもりであったのだろう。歌の影響で此方も、刀に付与させていたガンマレイが消え失せてしまい、その裸の剣身が露に――否。
ヴァルゼライドの握っていた刀は、鍔の先が完全に消失していた。剣身が根元から存在しないのだ。
アダマンタイト刀の剣身は、先のダンテとバージルとの戦いで纏わせていた極大のガンマレイの熱の影響で当の昔に消滅していたのである。つまりヴァルゼライドはある時期まで、刀身の形をしたガンマレイを振ってダンテ達と戦っていた事になる。

 それまで自らの力を使って空を飛んでいた栄光とパムは、那珂の歌の影響でそのまま地面に墜落。両者共に立ち上がろうとする瞬間のまま止まっていた。
順平と一緒に、何も無ければアイドルのステージを楽しむと言う目的が、こんな形で叶ってしまった栄光は、複雑そうな顔を隠せない。
一方パムの方はと言うと、素直に那珂のパフォーマンスを眺めていた。普段の口ぶりや素行、そして彼女自身の性格から予想出来るように、彼女はこう言ったキャピキャピチャラチャラしたイベントは好みではない。好みではないが、たまにこうして見るのも悪くはないなと思っていた。やらせてみるのも悪くはないと思っていた。やってみる、ではなく『やらせてみる』なのがミソだった。

 レイン・ポゥは、スタンド席の柵に足を掛け、競技場へと飛び出して戦線に混じろうとする純恋子の襟を引っ張って静止させている状態のまま停止していた。
当然純恋子も、那珂の音楽の影響で動けない状態である。動けないのは癪だが、純恋子も動けないし、これはこれで助かる面もある、とレイン・ポゥは考えていた。

 黒贄は、地面を這い回って動こうとする、そのタイミングで動きを止められている。
子供でも、一分と生きられない事が解る程の惨い状態であるのに、まだ、生命力の熾火が身体から消えていない事が、冷たく、それでいて爛々と黒く輝く双眸からも窺い知れる。

 ライドウとザ・ヒーローは、この場に那珂が新しく乱入した事に気づいても、互いの戦いに集中していたらしい。
那珂に気を取られていれば、その隙を狙って首を落とされるからだ。二人は、己の持つ得物で鍔迫り合いを行った状態のまま、動けなくさせられていた。
今まさにザ・ヒーローに飛び掛かろうと身体を屈めさせているケルベロスも、今の事態に驚きを隠せていない様子だった。
そして、二人からやや離れた所で、プラズマ球を放とうと構えを取るが、その状態のまま行動不能を余儀なくされているサヤ・キリガクレの姿があった。

「恋の2-4-11、ハートが高鳴るの!! 入渠しても治まらない、どうしたらいいの? 」

 曲は、一番のサビの入った。どうしたらいいと言うのはこっちの台詞だと、胸中で零したのは誰だったか。
それぞれが思い思いの体勢で、那珂のパフォーマンスを眺めている。真面目に聞いている人物など、果たしてこの場に幾人いるのだろうか。

 指を思わせる太さの雨糸が、絹の糸を思わせるような細さに目に見えて変じて行く。そして、雨脚も目に見えて弱くなって行く。
チトセが頭上に展開させていた雨雲は、徐々に千切れて、その形を保てなくなって行き、黒雲の切れ目から太陽の光が、破邪の聖光めいて競技場に降り注いだ。

「気づかないの? 私がみんなに向けてる視線と違うことに」

 歌いながら那珂は、此方に無慈悲に降り注いでいた雨が徐々に弱まり、競技場の至る所に陽光が差している事を認識。
歌の力ね、と、彼女は熱唱と熱演を続けながら思った。そしてそれは真実、その通りではあるのだが。

 ダンテ達を行動不能の状態に陥れている原因が、那珂の歌及び音楽である事は、既にこの場にいる全員が気付いている。
真実である。彼ら程の実力を誇る戦士に一方的なまでに自発的な行動を封印させ続けるこの宝具こそ、『恋の2-4-11』。
そう、那珂の言っていた曲名は正真正銘本当の宝具名だったのだ。この宝具の本質は、『歌が届く範囲を強制的に固有結界の内部と同じ扱いにする』、と言う変則的なもの。
つまり、歌が聞こえる範囲に存在する者は全て、那珂の固有結界に引きずり込まれるのと同じなのだ。
そして固有結界の内部で起る事は、今繰り広げられている光景の通りである。那珂が歌っている間は一切、範囲内の者達は那珂の行動を阻害出来ない。
一度始まってしまえば最後、彼らは那珂の歌やパフォーマンスを聞く以外の選択肢を一切合財奪われるのである。
言ってしまえばこの宝具は、『魅力的なアイドルの歌唱に聴衆は圧倒されねばならない』、と言う価値観を強制するものなのだ。

 但し、その価値観は那珂にも適用される。
アイドルである以上曲目を歌い始めたのなら、『曲の中で行われるパフォーマンスを終えない限り、そのパフォーマンス以外の行動をとる事は許されない』。
そう、この宝具は発動してしまえば最後。宝具を行った当人である那珂ですら、曲が終わるまで歌い続け、踊り続けねばならないのだ。
これは当たり前の事である。アイドルならば、曲が始まってしまえばそれが終わるまでパフォーマンスを途中で終わらせて帰るなど、言語道断であるからだ。
言ってしまえばこの宝具は、『アイドルとしてのプロフェッショナリズムを那珂自身にも強要する』、という側面も持っている。

 この宝具の弱点は単純明快である。『那珂が動けない事』、この一点に尽きる。
行動不能になりたくないのならば、宝具の範囲内に移動すれば良く、其処まで逃れてしまえば、後はどうなるか。那珂はパフォーマンスを行わねばならず、動けない。
つまり、宝具の範囲外から遠距離攻撃を行ってしまえば、彼女は一方的に攻撃を叩き込まれるサンドバッグと成り果てるのだ。
当然の事、那珂は誰よりもこの宝具の弱点を認識している。実は那珂が正義感に燃えていながら、どうして戦闘が起ったと同時にこの場に突入しなかったのか、と言う理由はこれが原因である。
那珂はアイドルである以上に、マスターであるダガー・モールスに勝利と言う希望を見せねばならないサーヴァントだ。
故に、勝手に敗北し、消滅する事は許されない。そしてこの宝具はその危険性が特に高まる。使用には慎重に慎重を期さねばならないのは当然の帰結。
他にもサーヴァントがいるかも知れないと考えると、おいそれと開帳出来る代物ではない。そう、那珂は、もう他にサーヴァントは来ないだろうと言うタイミングを、見計らっていたからこそ参戦が遅れたのである。そしてその間、次々にNPC達が死んで行き、その度に己の無力を噛みしめるしかなかった。
希望と愛を教えるアイドルと、戦闘の為の装置である艦娘でありサーヴァントとの狭間で苦しみ続け、そして漸く巡って来たその瞬間。その乱入の瞬間こそが、トットポップ達と挨拶を行ってからの出来事だった。

 では、この宝具で愛と平和の尊さを訴えたからと言って、彼らが直ちに戦いを止めるのか?
止めない、と誰もが思うだろう。事実、この宝具の発動者である那珂ですら、そうは思っていない。この宝具は動きを止めるだけ。相手の意識を変える力などないのだ。
ただ動きを四分半止める程度では、彼らの意識は変わりようがない。そんな事、那珂は初めから解っていた。
では、初めから徒労に終わると解った上で、那珂はリスクを冒したのか? 答えは、否。那珂には勝算と、ダガーに対して有利を献上する確かな策があったからこそ、こうして宝具を開帳しているのだ。

 那珂と言う少女は知っている。戦争が何故起こるのか、そのメカニズムをだ。
究極的には人間は、『メリットのない戦いは避ける生き物』だと言う事を、那珂は知っている。勿論例外は存在するが、例外は少数派の中の少数派だからこそ例外なのである。
戦争が起きる理由など、洋の東西の歴史を紐解いても、『戦うと言う事自体にメリットがある』からに他ならない。
国益の為、己の主権と覇権の為、そして、我欲の為。何時だって戦争は、人のエゴとサガから勃発する。人の歴史が今後何千年続こうが、これは変わらないだろう。
嘗て大日本帝国海軍で運用された、戦争の為の道具である軍艦・那珂の転生体にも等しい艦娘、川内型軽巡洋艦三番艦・アーチャー那珂は――いや。
戦時に何時突入してもおかしくない異様な時代に生まれ、そして事実戦争の為の道具として用いられた軍艦の転生体である艦娘達は皆等しく、戦争のメカニズムを肌で理解していたのだ。

 今回の新国立競技場での戦いを、那珂は、彼女なりに分析していた。
今回の戦いが何故起ったのか、その切欠となったのは間違いなく黒贄礼太郎に化けたタイタス10世が暴れたからであろう。
では、その切欠が排除されたのに、どうしてこの戦いは泥沼化しているのか? 戦端を開く原因となったタイタス10世を排除するべく、次から次へとサーヴァント達が乱入し、そして彼らにもまた、何かしらの因縁があったからである。
勿論、此処にいるサーヴァントが有しているそれぞれの因縁全てを、那珂は把握している訳ではない。
彼らがそれぞれ有している宿命を理解している訳でもないし、彼らに纏わる因縁を全て解決出来るとは那珂は端から考えていない。
考えていないが、今回の戦いを高い確率で終わらせる策を、那珂は持っていた。そして正にその策は、先の『戦うと言う事自体にメリットがある』、という話に繋がるのだ。
そう、今回の戦いに参戦する『メリット』とは、とどのつまり何なのか? 答えは一つしかない。この場に『手負いの状態の指名手配サーヴァントがいる』事に他ならない。
指名手配のサーヴァント、つまりは黒贄礼太郎とクリストファー・ヴァルゼライドの両名である。
倒せれば令呪が一画手に入る、誰がどう考えても明白な悪事を働いたサーヴァントが、ダメージを負った状態でこの場に現れれば、彼らを倒そうと次々とサーヴァントが参戦し、戦局が泥沼化する等当たり前の事である。戦闘が一気に収束するとは思えないが、その切欠にはなるだろうと、那珂は確信していた。

 ――そう、黒贄礼太郎とクリストファー・ヴァルゼライドの二人を抹殺すれば。
この場で彼らが争い合うメリットの多くは消滅し、NPC達に悲劇を振り撒いて来たこの戦いも終わりを迎えるのではないかと、那珂は考えていた。

「アナタのココロを制圧しちゃうから」

 今この瞬間、二番のサビが終わり、今この瞬間、恋の2-4-11という宝具(曲)は間奏を迎えた。
パフォーマンスを続ける一方で、曲が間奏に差し掛かる今この時が訪れるまでずっと、黒贄とヴァルゼライドが何処にいるのか、そしてその距離を測っていた。
彼我の距離、三十m程。この距離ならば確実に、『殺せる』。天使の笑顔を浮かべながら、那珂は胸中でずっと、洗練された殺意を更に研いで磨いていたのである。

 間奏を迎えてから八秒後程、那珂の腰回りに装着された艤装から、シュッ、と何かが放たれた。
明らかにその動きに不吉なものを感じ取った全員が、目を瞠った。放たれた物は、放物線の軌道を描いて一m程先の地点の地面に落ち――そのまま、地面に沈んだ。
そう、その様子はまるで、地面が『水』になったかのように。そして、水になった地面を、魚が海を泳ぐが如く、那珂の脚から放たれた物が、黒贄とヴァルゼライドの下まで猛速で迫って行くのだ。二名は、那珂の脚から何かが落ちた事は知れど、それが此方に迫っている事に気付いていない。地中を泳いでいるが故に、地表から見ただけではその接近に気付けないのである。

 放たれてから三秒が経過。刹那――黒贄とヴァルゼライドが佇んでいた地点に、橙色の爆風が立ち上った!!
今も流れるメロディを掻き消す程の爆発音、燃え盛る太陽が地に堕ちて来たとしか思えぬ程強いオレンジ色の光。それらが競技フィールドを一瞬で支配する。

 ――なっ!?――

 爆風がバタバタと、身に付ける軍服をはためかす。指名手配されたサーヴァント、その内ヴァルゼライドに最も近い位置にいたチトセが、驚きの表情を隠せない。
爆発の仕方、そして何よりも五感に訴えかけるこの香り。火薬による爆発である事は、元々が軍人であるチトセには隠せようがない。
元より那珂が、その装備から近現代或いはそれに近しい技術の世界から招かれたサーヴァントである事は、この場にいる誰もが思っていた。
だが、今放ったものについての正体が、まるで掴めない。栄光ならば解法を使う事でその正体を割り出せるのだろうが、今はそれを封じられている為、彼ですら解っていなかった。

「『恋の2-4-11』って、何だか知ってる?」

 此処で歌は間奏から、那珂の台詞のパートに移行。爆発の余韻が響く中にあっても、彼女の声は良く届いていた。
そして、爆発など初めから存在しなかったし、気付いてすらいないとでも言う風に、那珂は滞りなくパフォーマンスを続行していた。

 那珂の放ったものの正体は『61cm四連装魚雷』、嘗ての大日本帝国海軍の軍艦にも装備されていた魚雷管と同じ名を冠する兵器である。
流石に実際に運用されていた本物に比べれば、その大きさは那珂の体格に合わせたサイズに縮小されているが、威力自体は本物のそれに匹敵する。
つまり、人間に耐えられる火力ではない。サーヴァントですら、直撃してしまえば残りの体力次第では即死に持ち込めるとすら那珂は自負している。
黒贄とヴァルゼライドの消耗ぶりは、那珂も良く知っている。あのダメージでは魚雷の直撃を受ければどうなるかなど、最早説明するべくもない。
そして何よりも、今の二名を倒した事で、ダガーに令呪を約束出来る。そう、那珂にはあの二名を倒せば戦いが終わると言う展望と同時に、『自分が二人を直接倒してルーラーから令呪を獲得する』と言う打算すら存在したのだ。
那珂は令呪がキーとなる宝具を他にも持っていると言う都合上、令呪の画数と言うのは特に注意しておかねばならないポイントである。そうでなくとも、令呪は聖杯戦争を勝ち残る上で重要となる財産だ。稼いでおきたいのは当然の心理。
NPCと<新宿>の平和の為を謳いつつも、自身の強化の為、そして何よりもマスターであるダガー・モールスの為。
この三つの理由から、那珂は命を張って恋の2-4-11を熱唱しているのだ。アイドルであると同時に、戦う為の存在である艦娘。そしてそれ以上に、マスターに勝利を約束するサーヴァント。那珂は、この場にいる皆が思う以上に、計算高く、強かなサーヴァントなのだった。

「『2』は『スキ』、『4』は『ダイスキ』、『11』は『セカイイチ アナタガスキ』」

 アイドルとしての営業スマイルを浮かべ、パフォーマンスを続けながらも、魚雷が炸裂した所へ意識を向ける事を那珂は忘れない。
時には嵐が降りしきる夜の海域で、少しの油断も許されない夜戦を行う事すら彼女には珍しくなかった。敵を轟沈させた、と確認するまで安心出来ないのだ。
高々数十mの距離、しかも動けない的同然の相手に、那珂程の経験値を積んだ艦娘が魚雷を外すなどあり得ない。魚雷は、クリーンヒットした。
が、当の相手は深海棲艦以上に油断が出来ないサーヴァント。如何に手傷を負っていたからと言って、魚雷が命中したので殺し切れた、など楽観視しない。勝利を確信するには、早過ぎる。

「私はアナタのことが…世界で一番…大好きだよ!!」

 セリフのパートが終わる頃には、魚雷の炸裂によって生じた爆風と、舞いあがった土煙が弱まり、煙の先の光景が見える程にまでなる。
黒贄礼太郎の姿は、爆心地には無い。元々、何故動けるのか理解不能な程、彼の肉体的損傷は酷い物だった。魚雷の爆発で、身体が粉々になった事は想像に難くない。
――問題は、もう一方のバーサーカー、クリストファー・ヴァルゼライドの方だった。結論を、言う。『生きている』。
魚雷の威力は、時と次第によっては戦艦の主砲のそれに匹敵する。構造力学的に極めて頑丈な、海に浮かぶ鉄の城たる戦艦ですら、一発で破壊する程なのだ。
その直撃をモロに受けて、ヴァルゼライドは、生きている!! 無論、無傷ではない。軍服の胴体部分は完全に爆風の影響で消し飛び、上半身の殆どが炭化しているに等しい状態。流れ出る血液は焦げ、内臓の焼ける臭いが此方まで届いて来る。死んでない事が理不尽とすら言える、手負いの状態だ。
爆発をモロに受けて、手足が繋がっている事だけが奇跡だが、そんなものは瑣末な事。何故この男は、那珂の魚雷に命中して、意気軒昂たる瞳で此方を睨みながら、仁王立ちが出来るのだ!? 那珂の胸中には、そんな疑問がリフレーンし続けていた。

「恋の2-4-11、バッチリ編成(じゅんび)して、私はアイドルだから『轟沈(しずむ)』なんてないわ」

 そして歌は、佳境となる三番のサビに突入する。次で、勝負を決めると那珂は歌いながら考える。
この宝具、確かに発動してしまえば自発的に那珂から行動する事は不可能である。だが、『曲が間奏の状態』だと、一部例外が発生する。
当然間奏の間もパフォーマンスは続行しなければならない為、恋の2-4-11用の動きはし続けるのだが、それ以外の動き。
つまり今回の様な、魚雷による攻撃だけは別になるのだ。艤装である艦砲による攻撃は、狙いを定めると言う動作が不可欠の為、発動中は不可能だ。
だが魚雷については、それを放つ艤装が『腰』に装着されている為、身体の向きを対象に合わせるだけで問題なく発射が可能なのである。

 間奏は、三番のサビが終わりと、アウトロに当たる那珂の台詞の間に一回差し込まれる。そしてこれが、この曲最後の間奏になる。
この間奏で、ケリを付ける。魅惑的な笑顔の裏では、幾多の死線を掻い潜って来た艦娘としての闘志の焔が、燃え上がっている事に誰が気付けたろうか。

「愛の砲雷撃戦で、アナタのココロを攻略しちゃうから」

 そして、間奏に入った瞬間、再び魚雷が那珂の艤装から放たれ、地面に沈み、マグロが大海原を泳いで行くかの如く、ヴァルゼライドの方へと一直線。
当然、宝具の効果はまだ消えていないので、ヴァルゼライドは動けない。故に、命中する。魚雷はヴァルゼライドの足元で炸裂。
巻き起こった爆発の影響で、ヴァルゼライドの身体は紙クズの如く上空に吹っ飛んで行き、遂には、競技場を取り囲む屋根よりも高い所まで飛ばされてしまった。

「スキ!! ダイスキ!! セカイイチアナタガスキ!!」

 一回目の台詞。この台詞は、今の一回を含め四回続く。

「スキ!! ダイスキ!! セカイイチアナタガスキ!!」

 二回目。この歌がそろそろ終わるのを、那珂は肌で実感している。
J-POPを聞き慣れている者なら、じきにこの歌が終わる事が、初見でも直に解るだろう。事実、志希やレイン・ポゥ、順平に栄光、あかり辺りは、それを認識していた。

「スキ!! ダイスキ!! セカイイチアナタガスキ!!」

 三回目。

「スキ!! ダイスキ!! セカイイチアナタガスキ!!」

 四回目。そして――。

「ダイスキ!!」

 此処で、那珂の歌うパートは全て終了。
そうして、幾許かの余韻の時間が流れて、真実、この宝具は終了。四分三一秒、これだけの時間、この場にいる多くのサーヴァントやマスターは、行動不能を余儀なくされていた。

 曲が終わると同時に、那珂と言うサーヴァントに出来る最高最良の笑みを浮かべながら、この場にいる一同にバッと向き直る。
陽光の光を受けてダイヤモンドの破片の如く、彼女の周囲で身体から飛び散った汗と雨雫とが煌めいた。
那珂と言う少女の青春美と女性の結晶を吸って、より輝いているようだった。チトセの星辰光が降らせた雨の影響で髪は垂れ、服も水を吸って温く、重くなっているが、そんな事は関係ない。兎にも角にも、歌いきった。その実感が、彼女の笑顔をより魅力的なものへと昇華させるのだ。

「みんな、ありがとー!! 恋の2-4-11、ボーカル・ギター・ドラム・ベース担当の那珂ちゃんがお送りしましたー!!」

 歌い終えた後の自己紹介も、決して那珂は忘れない。
極論を言ってしまえば、アイドルはステージに立った瞬間に、アイドルとして振る舞い続けねばならないのだ。
他参加者とのしがらみを捨て、自身が内在させているエゴも滅却させ、相応しいパフォーマンスを披露する。
舞台の袖からステージに登場する所から始まり、最後の退場までの挨拶まで、プロフェッショナリズムを維持し続ける。それが、アイドルと言う物だ。

 ――さぁ、と、那珂は此処で心の在り方を切り替える。今より自分は、アイドルとしての那珂ではない。
第四水雷戦隊の一員にして、川内型軽巡洋艦三番艦。アーチャー・那珂と言うサーヴァントとして振る舞わねばならない。
そう、那珂と言うサーヴァントにとって最大の試練、地獄は此処から始まると言っても過言ではない。
元より、こうなるだろう事は彼女も予測していた。出来ていなければ、おかしいのである。自分のした事が何か、彼女にはよく解っている。
要するに彼女の行った事は、事此処に至るまでそれぞれに渦巻いていた因縁を清算させようとしていた、或いは令呪を獲得しようと言う打算で動いていたサーヴァント達、
彼らの戦闘を強制的に中断させた挙句、彼らが行動不能なのを良い事に、葬れば令呪を獲得出来る主従を自分で独り占めにしたに等しいのである。
当然、彼らはその事についてよく思っている訳がない。サーヴァントによっては確実に怒りに身を任せ、此方を攻撃してくるであろう事は想像に難くない。
そして今、彼らの動きを縛っていた那珂の宝具の効力はなくなり、自由に動けるようになった。此処から彼らが、どんな行動を選択するのか?
那珂には、解っている。が、これだけの数のサーヴァントだ。きっと、那珂の思う通りの行動を選ばない者もいるだろう、その方が有り難い。だが決して、全員がそれを選ぶ事はあり得ない。一人以上は、いる筈なのだ。――『自分に攻撃を仕掛けてくるサーヴァント』が。

 そして現実はやはり、甘い物ではなかった。
那珂は勢いよく飛び退くと、彼女が今までいた所に、蒼い断裂が無数に走り始めたのだ。バージルが放つ、宝具・閻魔刀による次元斬だ。
この場において特に那珂に対して良いイメージを抱いていなかった男である。真っ先に攻撃を行おうとするのは、当然の運びであった。
スタッ、と着地し、見事次元斬を回避する事に成功した那珂。時に音の速度を遥かに超える弾丸や砲弾が飛び交う戦場でしのぎを削って来た女傑、それが那珂だ。
バージルの攻撃の速度は、那珂は愚か、艦娘を遥かに超える運動能力を持つ深海棲艦の一部個体ですら見切る事が不可能であろうと思われる程の凄まじさだが、何とか、避けきる事は出来た。

 見よ、今の那珂の顔に刻まれている、その表情を。
果たして誰が今の彼女を見て、先程まで持ち歌を完璧なパフォーマンスと歌唱力で披露していた少女と同一人物であろうと思おうか。
つりあがった眉、鋭い目つき、一文字に引き絞られた口。今まで浮かべていた、ヒマワリの花に例えられる笑みの名残など何処にもない。
そう、この場にいるサーヴァント達ならば、見慣れた顔付きだろう。那珂が浮かべている表情は確かに、戦士の顔つきであった。

 次に、那珂を攻撃して来たのは、チトセであった。攻撃の理由は、ズバリ、那珂がヴァルゼライドに齎した幕切れ、その方法だ。
那珂が乱入する前も、大混戦も甚だしい戦闘は確かに勃発していた。それによる流れ弾の影響で、あの光の英雄が倒されても、腑には落ちないが、
仕方がない事だとは割り切れた。それ程までの混迷ぶりであったからだ。だが、今回那珂が行った事については、納得も行かないし割り切れない。
獲物の強奪のみならず、その奪い方も、チトセには到底許せたものではなかった。クリストファー・ヴァルゼライドは敵ではあったが、チトセはヴァルゼライドが紛う事なき英雄である事を誰よりも理解していた。その男を、余りにもふざけたやり方で那珂は抹殺した。それが、チトセの逆鱗に触れたのだ。

 那珂目掛け、真空のナイフを飛来させる。
チトセの戦闘の様子をも、確認していた事が那珂にとって幸いした。氷上をスケートする様に地面を滑って移動し、
迫り来る不可視の攻撃を回避しようと努めるが、背中と頬の辺りを浅く、真空刃が掠め、其処から血が飛び出た。
「きゃー顔はやめてー!!」と、本気で那珂は叫ぶ。ボディは兎も角、アイドルは顔が命なので其処への攻撃はご法度である。
そして、こんな事を叫びつつも、腕に装着した14cm連装砲を砲口をチトセの方に向け、躊躇なく発射する辺りに、今の那珂の心構えを表しているだろう。
自らに迫り来る砲弾を、チトセは認識。人間並の耐久力しか持たない彼女がこれに直撃すれば身体など粉々、掠めたとて、その部位が千切れ飛ぶ。
慌てて目の前に突風による風防を産み出させ、攻撃の軌道を逸らさせる。そして彼女自身も、砲弾が逸れるだろう方向とは逆方向に飛び退き、何とか那珂の攻撃を回避した。軌道をズラされた砲弾は、スタンド席に命中、鼓膜が破裂せんばかりの爆音を振動を発生させ、着弾地点を崩落させてしまった。

 バージルが那珂の方を睨み、浅葱色をした魔力の剣、幻影剣を射出させるが、これを危なげに那珂は回避。
そして、攻撃を放つ人物は先の二名だけではない。地上に墜落させたパムの方も、面白半分で那珂に攻撃を始めた。
こちらは特に那珂に対して否定的なイメージを持っていないが、強者の気配と、何よりもレイン・ポゥに似た強かな性格の持ち主だと察した為に、興味を抱いたのだ。
黒羽を固定砲台の形状に変化させ、那珂目掛けて砲弾を発射。その身体を爆散させようとするが、同じような攻撃、艦娘である那珂は千にも届く回数対処して来た。
大きく横に移動する事で那珂は、パムの放った攻撃を回避する。如何に威力が高かろうが、見慣れた攻撃に当たる程、落ちてはいないのだ。

 ――『此処から逃げ果せる事』。それが、今の那珂の急務である。
改二でもない状態で、複数のサーヴァントを相手にする事は無謀にも程がある。しかもこの場にいるサーヴァント達は全員、一級所の者ばかり。
お世辞にもステータスが優れているとは言えず、何よりも決定打となる宝具を持たぬ那珂が、この場にいる者達皆を倒して回るなど、元よりあり得ない選択である。
此方に敵意を持っているサーヴァントは、最低でも三名。バージル、チトセ、そしてパム。一人ですら手に余る程の強敵だと言うのに、それが三人もいるのだ。
天地が引っくり返っても那珂に勝機はない。よって彼女の取れる選択は一つ、逃げ続ける事、或いはこの場から逃げ果せると言う事である。
だが現実問題、この三名を相手に無事に逃走出来るかと言うと、それは困難を極る。少なくとも、無傷ではあり得ない。
よって那珂は、何としてでも此処から退場し、ダガー・モールスの所まで帰還しなければならないのである。この時、身体に負うダメージの大小は問わない。
消滅しないで、逃げられれば良いのだ。そして、その為の布石は既に打っている。但しその布石が成就するのは、まだ時間が掛かるだろうと那珂は踏んでいる。
それまでに自分が消滅すれば失敗。張っていた伏線が回収されれば、此方の勝利。そう言う事であった。

 改めて此処にいる面子を見渡す那珂。バージルやチトセ、パムは此方を葬るつもりでいる事は既に述べた通り。
残りは、如何するかと言う身の振り方を決めている様であった。ダンテとそのマスターであるライドウは、那珂の目論見通り、
真っ先に倒すべきだった黒贄とヴァルゼライドを失い、方針を失い気味のようで、彼女に対して攻撃する素振りが見られない。
栄光にしても同じ事のようだ。倒すべき敵を一気に失った事で身の振り方を忘れてしまったのは、ダンテと同じ。
そして彼にはどうにも、那珂が悪人には見えていないようで、此処からどう行動するべきなのか迷っている状態だった。
レイン・ポゥは那珂の宝具である恋の2-4-11による行動不能から復帰した純恋子が、歌を披露する前と何ら変わらず戦線に出ようとするのを必死に抑えており、永琳の方はもうこの場に留まり戦うと言う選択に必要性を見出さなかったらしい。此処からの脱出を図ろうとアクションを起こそうとしていた。具体的には、志希を抱えて、飛んで逃げようと言うようだ。

 自分が対処しなければならない敵は、如何やら最初に攻撃を仕掛けて来た三名。
つまり、バージル、チトセ、パムであると那珂は認識。彼らの攻撃を凌ぎ切れば、此方の勝ちだと意気込む。
だが、それは何処までも間違っていた。敵は、もう一人いたのである。そしてそれこそは、那珂が恋の2-4-11を発動中に絶対に倒すと決めていた敵であり、この場に於いて黒贄の次に負傷していた、閃剣を振うバーサーカー。<新宿>中の全ての聖杯戦争参加者と決別する道を選び、そして、彼ら全員を相手にしても勝利を得られる、
と万斛の自信を露にする英雄(きょうじん)。彼が今、魚雷の爆発で吹っ飛ばされた状態から姿勢を整え、競技フィールドの上に両脚から着地した。
その姿を見た瞬間、那珂は、死者が目の前で蘇る光景でも見てしまったかのような表情を浮かべてしまった。他の人物にしても、同じ。
この場で一番、件の人物と死闘を演じていたダンテとバージルは、同じ思いでその男の事を見ていた。――『どうやったらこの男は死ぬのだ?』、と言う目でだ。

「お前の平和への思い、とくと見させて貰った」

 何故、魚雷の炸裂を二度も受けて、クリストファー・ヴァルゼライドと言う名前のこの男は、無事でいられるのか。
軍服の上半身部分が吹き飛んだ事で露出された胴体には、炭化していると一目で解る程黒ずんだ火傷が殆ど覆っており、それが、那珂の魚雷の威力を物語っている。
内臓部分など、事実上全て体外に掻きだされているのと何ら変わりないだろう。要するに一つたりとも機能していない状態だ。
如何に人間よりも遥かに頑丈なサーヴァントとは言え、これは幾らなんでも、常軌を逸し過ぎている。同じサーヴァントのくくりから見ても、埒外の肉体再生力を誇るダンテとバージルですら、人間を見る目でヴァルゼライドを見ていなかった。

「歌を以って平和の尊さを啓蒙し、愛と希望の貴きを説く。しかしそれでいながら、お前は夢想家では断じてない。身体の裡に烈しい力を抱き、人とは違う力を持って生まれた者の責務として、己が平和の礎石になろうと戦い抜く決意をお前は秘めている。成程、貴様は確かに『光』なのだろうよ」

 「だが――」

「お前の光は柔らかで、優し過ぎる。それでは、世界を取り巻く理不尽を……世界の裏で善を嘲る、唾棄すべき悪を滅ぼせない。現にお前の光は、屑たる俺すらも葬る事が出来なかった」

 アダマンタイトの刀を鞘から一本引き抜き、ヴァルゼライドは言葉を続ける。

「お前の在り方と尊さを、俺は称賛しよう。そしてその上で言おう。間違っていると。平和で世界を満たしたいのなら、悲劇をこの世から根絶させたいと言うのなら――常に烈しく光り輝き、悪を照らして焼き滅ぼす光になるしかないのだ」

 一連の言葉を受けてから、那珂は重苦しい様子で口を開いた。

「……多分だけど、私、あなたの事を見過ぎて、目が見えなくなっちゃって、幸せな生き方を見失った人、沢山いたと思うな」

 装備させた連装砲の照準をヴァルゼライドに合わせる。そして意識を彼だけじゃなく、全方向に那珂は研ぎ澄ませた。

「言ってる事は一理あるけど……。やってる事に説得力がなさ過ぎ、自分勝手、完璧主義!! あなたは私の事を褒めたのかも知れないけど、私は全ッッッッッ然褒められない!! あなたの意見に賛同出来る人間なんて、同じ位の馬鹿だけ!!」

 ヴァルゼライドの今の言葉だけで、那珂は、目の前のバーサーカーと言うキャラクターを理解したらしい。
きっと、何でも出来た人間なのだろう。勉強は勿論、運動も、そして、命の取り合いたる戦闘も。人が求める遥か上の水準で、難なく成し遂げて来たに相違ない。
そしてそれ故に、挫折を知らない。彼には、折り合い、妥協する力……言ってしまえば、『諦める才能』、と言う、人間であれば誰しもが有する才覚がなかったのだ。
辿って来た人生の故なのか、それとも、持って生まれた性分なのか、それは那珂にも解らない。何れにしてもこの男は、余りにも行き過ぎた完璧主義者だ。
理想に妥協は許さない。その姿勢はきっと、他人から見れば余りにも眩しい姿だろう。だが、断言出来る。この男はその在り方の故に、害を成し、災禍を振り撒く。
現にヴァルゼライドは、幾百、場合によっては千にも届こうと言うNPCをその理想の為に亡き者にしているではないか。そんな存在、到底那珂に許容出来る筈がない。目の前の男は、光である。正義と善が放つ光でその身を糊塗した、恐るべき『光の魔王』だ。

「あらゆる悪罵を、受け入れよう」

 其処で、引き抜いていた刀が、閃剣に変わった。黄金色に輝く死の光が、その細い刀身に纏われ始めた。

「だが、殺す。お前が罵倒した、俺の完璧の礎になってくれ」

「いや、お前がなれよ」

 ――突如としてこの場に響いた、明らかにこの場にいる誰の者とも違う声。
己の背後から聞こえた、この年若い少年の声に聞き覚えがあったヴァルゼライドは、バッとその方向に振り向いて――鳩尾の辺りに強い衝撃を受け、水平に勢いよく吹っ飛ばされた。今まで英雄の体格に隠れて見えなかったが、彼が其処からいなくなった事で、新しい闖入者の姿が露になる。

「やぁ。楽して得取りに来たよ」

 伸ばした右脚を引き戻しながら、笑顔を浮かべ、ランサー・高城絶斗は言い放ったのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「そら きれい」

 新国立競技場の場外、そのアスファルトの地べたに大の字に寝転がりながら、星渡りのアサシン、ベルク・カッツェは呟いた。
バーサーカー・黒贄礼太郎に殴られた所が、死ぬ程痛い。脇腹を殴られたが、正直、殴られた所から身体が千切れ飛ばなかったのが、奇跡である。
防御行動がもう少し遅れていれば、カッツェは本当に死んでいた。それ程までに、黒贄の膂力は馬鹿げていた。
常ならば激怒によって腸が煮えくり返っている所だろうが、今はそれを行うエネルギーすら惜しい。湧き出てくる魔力を、傷の回復に充てている。それが、黒贄に殴られてから今に至るまで、カッツェが行っていた行動だった。

 ここの所不幸続きである。
メフィストとの出会いから始まり、バッターとの邂逅、自分の技術が全く通用しない栄光との戦いに、そして黒贄の不意打ち。
とんとん拍子に余りにも行かなすぎる。生前はそれこそ、水が立て板の上から流れるように、自分の絵図は進んで行ったと言うのに、此処ではまるでそうならない。
NPC、つまり何処にでもいる大衆を騙すのはカッツェにとってはベイビー・サブミッションと言う物であるが、この世界には折角、聖杯戦争の参加者と言う特別な存在がいるのだ。馬鹿な大衆を扇動するよりは、サーヴァントと彼らを駆るマスターを騙して破滅させた方が、よりメシウマなのは明らかだ。
しかし、敵もさる者。相手も恐ろしく手強すぎて、中々隙を見せない。それどころか今の所、カッツェの方が黒星が多い程である。
なるべく怒らないように努めていたが、この事実を思い起こす度に胃の辺りがムカムカして来る。そして身体が、ストレスのぶつけ先を求めるのだ。

「ごめん、ちょっと良いかな」

 明らかに、カッツェ自身に対して言っているとしか思えぬ、十代に差し掛かったかどうかと言う幼い少年の声が聞こえて来た。
しかも、ただのNPCではない。存在するだけである種の認識阻害を引き起こし、視界にその姿を映らなくさせるカッツェが、自身の身体にその技を適用させていると言うのに、難なくその姿を捕捉出来ている。サーヴァント以外の誰が、この星喰いの災厄そのものたるアサシンに話しかけられるというのか。

「んだよ」

 もう自分の隠形が通用しない事にすら、カッツェは驚かない。
不貞腐れた、反抗期のガキの如き態度で応対する。サーヴァントの方を見ようともしない。危なくなれば、空間転移で逃げ去れば良いのだから。

「今気持ちよく寝転がってんだから、ミィの邪魔するな散れ猿」

「それは悪いね。後君、見た所手負いで殺しやすそうだから退場して貰うね」

「は?」

 余りにも不遜な少年の声に苛立ちを覚え、立ち上がり、その声の方向に身体を向け――絶句した。
声のイメージ通り、カッツェの半分程の身長しかない少年が其処にいた。女みたいに色の白い肌をした、これまた幼さを宿した顔立ち。
しかし、その顔に刻まれる、とても少年が浮かべる笑みではないと思わせるに足る悪辣な笑みはどうだ。
そして、少年の頭上に展開されている、空間に穿たれた無窮の暗黒を思わせる、黒洞はどうだ。その吸い込まれそうな程完璧な黒色をした球体を見た時、カッツェは悟った。あれに触れれば、自分に命などないのだ、と。

「ここで寝られると邪魔だから、座にでも寝転がっててくれ」

 それだけ告げると、ランサーのサーヴァント、タカジョーは、宝具・ディープホールを球体上に収束させた代物を、カッツェ目掛けて高速で叩き落とす。
慌てて、NOTEの力を応用した空間転移を用い、軌道上から立ち退くカッツェ。地面に、タカジョーが創造した球体が直撃する。
球体は如何やら液体としての性質を持っているらしく、着弾と同時に、粘性の液体を板張りの床にでも落としてみたように広がって行く。

「チッ、逃げられたか」

 相手を殺したかどうかの手応えは、放った当人であるタカジョーが一番よく解っている。
カッツェには、逃げられた。道化のようにふざけた容姿をしていながら、自分と同じ空間転移の使い手であるとは思っても見なかった。
「どうも獲物を獲り逃すな……腕が鈍ったかな」、と愚痴り、新国立競技場を見上げる。カッツェを逃したのは惜しいが、今は彼よりも優先するべき存在がいる。

 刹那の持っているスマートフォンと、其処に映し出された情報から、タカジョーもまたここで起った騒動を知った。
そして此処に、複数名のサーヴァントがいる事は明らかだ。黒贄礼太郎と思しき存在の大暴れから、優に二十分以上は経過している筈だと言うのに、此処にはまだサーヴァントがおり、そして戦いを続けている。
うま味がない所で延々と戦い続ける等、馬鹿の所業そのものとしか思えないが、タカジョーにとっても好都合である。それだけ相手が消耗し、そして、多くのサーヴァントを葬れると言うのだから。

【着いたのか? ランサー】

 と、新国立競技場から一㎞程も離れた所から、マスターである桜咲刹那が念話を送って来た。
念話を送った、と言う言い方は精確ではないか。陰陽道の秘術である式神の技術の応用である。
遠隔地にいても通話をする事が可能な、簡易的な式神の機能を持たせた懐紙を、タカジョーの懐に忍ばせているのだ。

【うん】

【あの虐殺から……もうすぐ、三十分経過しようとしている。まだ、いるのか?】

【飽きもしないでまだ戦ってるよ。馬鹿じゃないのか、こいつら】

 内部に入って見ないでも解る。競技場内部、恐らくはフィールド部分だろうが、其処から濃密なまでの敵意と殺意が渦巻いているのが解るのだ。
タカジョーとしては、当初は競技場の偵察に終わるだろうと思っていた。もう流石に、サーヴァント達は帰っただろうと考えていた為だ。
だが予想は良い意味で裏切られた。少年の口元に、嗜虐的な笑みが浮かぶ。楽に強豪を葬り去れる、と言う実感を感じているからだった。

【……NPCの、生き残りは】

【いないだろうね。ま、逃げ果せた奴は兎も角、今も此処に残ってる奴で、生きていられる奴なんていないだろうよ】

 そう、其処まで激しい戦いぶりなのだ。
物見遊山気分で観戦していると、その流れ弾に被弾して死に至る。此処から逃げる事が、NPC達の最適解である。

【解った。戻れ……と言っても、お前は素直に従わないだろう】

【ハハ!! 何だいそれ。まるで信用がないな】

【事実だろう。お前の事だ、殺せそうなサーヴァントがいれば、真っ先に手を掛けているだろう】

 ほう、とタカジョーが嘆息する。よく解ってるじゃないか。現にさっき、ベルク・カッツェを葬ろうとしていたのだ。
刹那の言葉は間違いではない。刹那の言葉に対して沈黙で返したのは、その言葉が正解であると、刹那に対して暗に教える為だった。

【サーヴァントならば、葬っても構わない。だが、マスターを殺すのは、やめろ】

【あぁ、最大限善処するよ】

【……早く戻れ】

【了解】

 其処で、念話を打ち切った。

「……馬鹿な奴だな」

 マスターを殺すな、ときた。この期に及んでだ。
クリストファー・ヴァルゼライドと言う狂人のバーサーカーを従えるマスターと戦って、死ぬ寸前まで追い詰められた人間の言う言葉とは思えない。
聖杯戦争に参加してるマスターの多くが、性善の輩であると本気で思っているのだろうか。だとしたら、話にならない甘ったれだった。
サーヴァントを倒したいなら、マスターを殺すのが一番の近道。魔道に傾倒していない常人ですら、聖杯戦争のシステムを噛み砕いて説明すれば、その結論に行き着くだろう。
それを分かっていて、刹那は自分にそんな無理難題を吹っ掛けて来る。他の悪魔と刹那が契約していれば、当の昔に出しぬかれて、惨めに野垂れ死にになっているだろう。

「ま、馬鹿な奴だと解ってて、裏切れない僕も相当な馬鹿、か」

 人ならざる力を持っていながら、傍目から見れば賢くない、馬鹿げた選択を取り続ける人物と縁があるのは、タカジョーと言う男の宿命である。
それが同じ『セツナ』の名を冠していると言うのだから、大いなる意思とやらが設定した運命は、憎たらしいものだ。
どの道この<新宿>のタカジョーなど、今もホシガミの下で待機している本物の深淵魔王からすれば、刹那の泡沫、邯鄲の夢そのもの。
どうせ刹那の夢ならば、馬鹿のマスターの下で自分なりに動き、そして、彼女の判断が彼女自身に降りかかって来るのか、思い知らせてやるだけだ。

「……従う義理もない奴に此処まで肩入れさせるなんて、お前の影響だぜ。セッちゃん」

 生前の一番の友人であった男の名を、懐かしげに、しかし、何処か恨めし気に呟いた後、タカジョーはかぶりを振るった。
意識を、『魔王』のそれへと切り替えたのだ。此処より自分は、サーヴァントを破壊し、マスターを殺戮し尽くす恐るべき蠅の王として振る舞うのだ。
辺りを見渡す。カッツェの気配は何処にもない。もう、去ったのだろう。その事を確認してから、タカジョーは、競技場の外壁に開いていた穴から内部へと侵入した。それが、黒贄礼太郎によって殴られて吹っ飛ばされたベルク・カッツェが、その勢いで空けさせたものだと、遂にこの魔王は知る事もなかった。

 そして、魔王が競技場の中に入っても、カッツェが此処に戻って来る事は無かった。
始祖帝の策謀によりて地獄の釜底と化した新国立競技場から真っ先に退場したのは、嘗て此処でNPC達に希望を見せようと張り切っていたアイドルを、
一人残らず絶望の淵へと沈めた星渡りの災厄であったとは。魔界都市には悪が最後に嗤うのだ、と言う事の証左なのであろうか。答えは、誰にも、解らない。






【四ツ谷、信濃町方面/1日目 午後2:50分】

【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]実体化、肉体損傷(大)、霊器損傷(中)、魔力消費(大)
[装備]
[道具]携帯電話
[所持金]貰ってない
[思考・状況]真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!
基本行動方針:
1.血を見たい、闘争を見たい、<新宿>を越えて世界を滅茶苦茶にしたい
2.ルイルイ(ルイ・サイファー)に興味
3.バッターに苦手意識
[備考]
  • 現在<新宿>の街のあちこちでNPCの悪意を煽り、惨事を引き起こしています。
  • 新国立競技場で悪意を煽り、346プロのその場にいた346プロのアイドルの多くを昏睡させました(リハーサル室にいたアイドルは現在、黒贄礼太郎の手で全員殺されました)
  • 新国立競技場にて美城常務に変身する事が可能となりました(現在変身可能な存在は、美城常務とバーサーカー・バッターです)
  • 伊織順平&ライダー(大杉栄光)の存在を認知。彼らに対して強い殺意と敵意を抱いております
  • バーサーカー(黒贄礼太郎)の存在を認知しました。彼についても強い殺意と敵意を抱いております
  • ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
  • 現在空間転移を駆使し、何処かへ逃走しています。行く先は、後続の書き手様にお任せします






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 これ以上戦うメリットを、永琳は見出せなかった。
正面切って相手を、圧倒的な力と技術で叩き伏せる。そんな戦い方も出来なくはないが、それは、魔力が潤沢なマスターの下でのみ限られるやり方だ。
一ノ瀬志希は何度も言うように、魔力の潤沢なマスターとは言い難い。だが、そんなマスターに当たったからと言って、弱音を吐く永琳ではない。
そう言うマスターには、そのマスターに迎合した戦い方があるのだ。最小限度の魔力の消費で、相手を一撃で葬り去る。言ってしまえば、暗殺だ。
それを意識した立ち回りを此処で行った筈なのだが、敵も中々どうして、やるものだ。中々暗殺が上手く行かなかった。
その上永琳自体も、手傷が酷い。この程度の傷を負った程度で、永琳は消滅もしないし、そもそも彼女は魔力ある限り不滅の存在だが、その魔力が有限のリソースだ。
無為に消費するのも惜しいし、何よりも自分の手札を披露し過ぎるのがリスクに繋がると考えた。

 その推理に行き着いた上で永琳が取った行動は、逃走である。逃げる事は恥ではない。脆弱なマスターを抱えた上では猶更だ。
永琳は、マスターである一ノ瀬志希を御姫様抱っこの要領で抱き抱えながら空を飛び、新国立競技場を後にしていた。
誰からの追撃も貰う事なく、この場から立ち去れたのは奇跡と言えよう。最も、永琳は地上戦と同じ程に、空中での戦闘を得意とする人物だ。
地上からの付け焼刃の追撃など、簡単に対処して見せるのだが。何れにしても、突如としてあの場に現れたアーチャーのサーヴァント・那珂が、意識と敵意を全て持って行ってくれたおかげで、滞りなく退散する事が出来た。

 それよりも問題は、これから帰る先、つまりメフィスト病院に帰ってからだ。
間違いなく、あのある種偏執狂的なまでのプロフェッショナリズムを持った男、魔界医師ドクターメフィストは、自分の行動を赦すまい。
休憩時間を大幅に超えて、新国立競技場で油を売っていたのだ。何らかのペナルティを課せられるだろう事は、既に永琳も視野に入れている。
本来課せられる筈だったペナルティを回避しつつ、それまでの地位と権限を維持し、そしてかつ、霊薬の材料を工面して貰い、情報提供もさせて貰える。
これが今後、自分が成すべきノルマであると認識していた。あの魔界医師を相手に、どんな魔法を使えばこんな達成不可能なミッションをクリア出来るのか。
そう思わぬ永琳ではない。恐らくそれは、先程戦った魔王パムを相手に勝利を拾う以上の難事だろう。
あの男は医療技術のみならず、交渉のテーブルにおける舌戦についても、永琳と同等或いはそれ以上の難物である。此方が望んだ完璧な結果は、引き出せないかも知れない。
だがそれでも永琳は、当初のノルマを達成するべく全力を尽くさねばならない。それこそが、この聖杯戦争で一ノ瀬志希が生きて元の世界へと帰還させる為の、条件でもあるからだ。

 ――先行きが不安ね……――

 そもそもは志希が逸って、新国立競技場に足を運んだ事が苦難の切欠である。
だがその事については、永琳は特に何も言わない。人は時に、理よりも感情で動くもの。それを愚かだと、神は嘆き、そして嘲るのかも知れない。
しかし永琳はそれについて、嘲笑を向けるつもりはなかった。自分もまた、憶えがあったからである。自分の過ちによって、宇宙が熱適死を迎えても生き続けねばならぬ宿命を背負った女性、彼女を守る為に月人としての使命を擲った時から、永琳は嘗て非合理的だと認識していた人のサガを理解したのであるから。

「……え?」

 志希がふと、そんな声を上げた。余りにも簡単な問題をケアレスミスで間違えた事を、採点された後の答案用紙を見て初めて気付いた人間が上げる声も、それに近いかも知れない。

「如何したの?」

「あ、あれ……」

 志希が指差した方向に顔を向け、永琳はカッと目を見開いた。
今まで自分達が戦っていた、そして、志希にとっても忘れられぬ悲劇の舞台となった新国立競技場が、『沈んでいる』。
まるでそれは、液状化した土壌の上に建てられた建造物が、ズブズブと沈んでいくような風に似ていた。
何故、そんな奇怪な現象に新国立競技場が見舞われているのか。その理由が目に入らぬ程永琳の目は節穴ではない。それどころか志希ですら、理解していた。

 ――見るが良い、新国立競技場全体を取り巻き、そして、フィールド部分をも埋め尽くす、『黒いタール状の粘液』を!!
其処に触れた部分から徐々に、新国立競技場ともあろう巨大な『ハコ』が何も抗えずに沈んで行くのだ!!
そして永琳はその正体を遠目から解析、そして、認識。あれは、正真正銘本物の無限大の闇。あれに完全に呑み込まれた物は、虚数空間にも似た『無』に取り込まれ消滅する。
生前の永琳ならば、呑み込まれたとて自我を保てるが、きっとその状態であそこに呑みこまれれば、何もない無限の闇の中を、意識を保った状態で彷徨う事を余儀なくされる。
こうなると、死んだ方がマシだと思う程の苦痛を永劫味わい続ける事になる。今はサーヴァントと言う限りある命での召喚の為その危険性はないが、もしもそうなったらと思うと、ゾッとしない話だった。

「……あんなものを放てるサーヴァントがいるだなんて……」

 そしてあれは、並大抵のサーヴァントに放てるものでは断じてない。余りにも、危険過ぎる代物だ。
あの闇は何も生み出さない、非生産性の極致の如き産物。一度世に放たれれば、あらゆる物を呑み込み無に還す恐るべき現象。
サーヴァントとしての召喚の為、あの程度の範囲に収まっている。だがもしも、生前の状態であれを放てば、日本全体、いや、惑星全土をあの闇で覆う事も不可能ではない。
あんなものを産み出せるものは、人間ではない。それこそ悪魔――それも、魔王に近しい実力を誇る程の格の持ち主か、人類の中から生まれる、彼らが滅ぼすべき『人類悪(ビースト)』ぐらいのものであろう。

 どちらにしても、あれを産み出せるサーヴァントが乱入する前に、此処から立ち退く事が出来て正解である。
もしもあの場にNPCが残っていれば、今頃は闇に呑まれて虚無となっているだろうが、それに同情する永琳ではなかった。

「皆、消えたのかな。あれで……」

 何の感慨も抱かぬ瞳で、その方向を見つめ続ける永琳。その意識を、志希の何気ない一言が呼び戻した。

「多分、ね。サーヴァントを従えるマスターなら兎も角、その庇護もないNPCは、成す術がないわね」

「346プロの、皆も?」

「……皆、逃げたわよ。きっと。安心なさい」

 そうであると、願いたいものだった。
だが、それが気休めの言葉であると解らぬ程、志希も子供ではない。そして永琳自身も、そんな甘い展望は抱いていない。
確実に、志希の多くの仲間が死んでいるのだろう。あれ程の規模の戦いだ。巻き添えを喰らって死んでいる者も、少なくない。
そしてそれを思うと、志希は、親友であるフレデリカの死を間近に見てしまった記憶がリフレーンする。
人を喰らわねばならぬと言う禁断の飢餓に苦しみ、そして最後に、何処にでも売っているジャンクフードを食べたいと言う清々しい飢餓を抱いて死んだフレデリカ。
永琳の胸元に、志希が顔を埋めて来た。

「……行こ。ごめんね、わがままにつきあわせて」

「良いわよ別に。子供はわがまま言うのも仕事よ」

「アタシ、もう十八なんだけどな~……」

「私からすれば子供よ」

 そう言うと永琳は、目的地であるメフィスト病院へと今度こそ、上空数百mを飛びながら向かって行く。
今も胸に顔を埋めている志希が、涙と一緒に漏れ出る声を抑え込んでいる事には、気付いていた。そして、それを指摘しないのも優しさである事も、気付いているのであった。

 かくて、地獄の釜底から二番目に、志希と永琳は立ち去る事に成功したのであった。






【四ツ谷、信濃町方面(新国立競技場周辺の上空数百m)/1日目 午後2:50】

【一ノ瀬志希@アイドルマスター・シンデレラガールズ】
[状態]健康、精神的ダメージ(極大)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]
[道具]服用すれば魔力の回復する薬(複数)
[所持金]アイドルとしての活動で得た資金と、元々の資産でそれなり
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>からの脱出。
1.午後二時ごろに、市ヶ谷でフレデリカの野外ライブを聴く?(メフィスト病院で働く永琳の都合が付けば)
[備考]
  • 午後二時ごろに市ヶ谷方面でフレデリカの野外ライブが行われることを知りました
  • ある程度の時間をメフィスト病院で保護される事になりました
  • ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
  • 不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
  • メフィストが投影した綾瀬夕映の過去の映像経由で、キャスター(タイタス1世(影))の宝具・廃都物語の影響を受けました
  • メフィスト病院での立場は鈴琳(永琳)の助手です
  • ライダー(姫)の存在を認識しました
  • アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました
  • 新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
  • 地母神アシェラトのチューナーとなった宮本フレデリカの死を目の当たりにし、精神的ダメージを負いました
  • メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません


【八意永琳@東方Project】
[状態]十全
[装備]弓矢
[道具]怪我や病に効く薬を幾つか作り置いている
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:一ノ瀬志希をサポートし、目的を達成させる。
1.周囲の警戒を行う。
2.移動しながらでも、いつでも霊薬を作成できるように準備(材料の採取など)を行っておく。
3.メフィスト病院で有利な薬の作成を行って置く
[備考]
  • キャスター(タイタス一世)の呪いで眠っている横山千佳(@アイドルマスター・シンデレラガールズ)に接触し、眠り病の呪いをかけるキャスターが存在することを突き止め、そのキャスターが何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だ明白に理解していません。
  • ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
  • 不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
  • メフィストに対しては、強い敵対心を抱いています
  • メフィスト病院の臨時専属医となりました。時間経過で、何らかの薬が増えるかも知れません
  • ライダー(姫)の存在を認識しました。また彼女に目を付けられました
  • アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました。また後者のサーヴァントには、良いイメージを持っております
  • 新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
  • タイタス10世の扮した偽黒贄礼太郎の正体を、本物の黒贄礼太郎だと誤認しております
  • メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
  • 事が丸く収まり次第、メフィストから襲撃者(高槻涼)との戦闘の模様と、霊薬を作成する為の薬を工面して貰うよう交渉する予定です






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「――貴様」

 その姿を見た時、怒りに猛り始めたのはバージルである。誰が見ても明らかな程の怒気を、バージルは体中から発散させ続けている。
そんな思いに彼が駆られ、らしくもなく怒りを放射し続けるのも、むべなるかな。数時間前の事を忘れる程バージルは馬鹿ではない。
早稲田鶴巻町でランサー・高城絶斗が、バージルの誇りでもある父、大魔剣士スパーダの血を徹底的に虚仮にした事を。よもや忘れる事など出来る筈もなく。

「おいおい、誰が戦ってるのかと思えば、君も一枚噛んでたのかよ」

 肩を竦め、出来の悪い教え子を見る教師の様な、憐みとも侮蔑とも取れる目でバージルの事を見やるタカジョー。
今この瞬間になって初めて、この場にいるサーヴァント達が誰なのか、と言う事を知ったのは事実である。
その中に、討伐令の対象であるバーサーカーにして、タカジョーが己の手で殺したくて堪らなかった男、ヴァルゼライドがいた為、この魔王は真っ先に英雄を狙った。
そしてその後改めて、この場にいるメンバーを再確認したが、其処で初めて、早稲田鶴巻町で散々馬鹿にした、蒼いコートの魔剣士がいた事を知ったのである。
ヴァルゼライドと言いバージルと言い、これではまるで、あの時の戦いの再現ではないか。しかも何の運命のいたずらか、ケルベロスすら存在していると来ている。
尤も、この場のケルベロスはサーヴァントとしてのケルベロスではない、ライドウによって従えられた方のそれである為に、状況の完全な再現とは言い難いのだが。

 バージルは元より知っていたが、この場に於いて、解析の技術の達者である栄光と、そしてバージル同様同族の気配について敏感なダンテ、そして、悪魔について並々ならぬ知識を有しているライドウ達は気付いた。目の前に現れたサーヴァントが、決してサーヴァントとして呼ばれるべくもない存在であると。
並の悪魔であれば、サーヴァントとして相応しい霊基で召喚され、相応の性能にまでデチューンされる事は、珍しくないだろう。
だが、タカジョーは無理だ。元となった悪魔の『格』が、余りにも高すぎる。タカジョーの正体とは、神霊と遜色のない力を奮う大悪魔であった。
魔王とは、神との熾烈な権力闘争に敗れ、神の座を追われた者である。つまり彼ら自身もまた、神としての側面も持ち、彼らに近しい力を発揮する事が出来る。
元となった存在からして、そんな存在なのである。サーヴァントとして呼ばれる事など、不可能に近い。弱体に弱体を重ね、限界まで能力に妥協を施しても、タカジョーの元となった存在を召喚する事は、困難を極る。何せこの少年の姿をした悪魔こそは、魔界に在りては明けの明星に次ぐ魔界の副王。
伝承によっては明星を玉座から引きずり落とし、新たに魔界の覇王として君臨しているともされる強壮たる魔王にして、渺茫たる砂漠の国で崇め奉られていた嵐の主神の成れの果て――魔王ベルゼブブの化身であるのだから。

 リベリオンを構え、鋭い目つきでタカジョーの事を睨む。
強い悪魔をハントする事に生き甲斐を感じる、悪魔狩人の宿命か。その瞳には、狂喜にも似た感情がメラメラと燃えていた。
今しがたライドウから念話で、タカジョーの正体の推察が送られて来た。これが本当であるのなら、相手にとって不足なし所の話ではない。
生前ですら、ベルゼブブと比肩する大物悪魔と対峙した事は数限られてくる。百にも届く数の上位悪魔を仕留め来たが、確実に目の前の蠅王と同格と呼べる悪魔は二体。
魔帝・ムンドゥス、覇王・アルゴサクス程度である。サーヴァントとして召喚され、これ程までの大物と対峙出来るとは、さしものダンテも思っていなかった。
リベリオンを握る右腕に、特に熱が籠って行くのを実感するダンテ。バージルの奴も、同じ気持ちなのだろうかと、ふと考えてしまった。

「お、張り切ってるね~。それに、流れてる血の質と、顔立ちもそっくりだ。双子かな、君達」

 悪魔の血に敏感なのは、何もダンテとバージルだけじゃない。タカジョー自身も、そう言った物については過敏である。
故に、二名が同じ悪魔の血を引いている事も、即座に看破した。口では決して褒める事はしないが、両名が受け継ぐ悪魔の正体は、名こそ知らないが、深淵魔王ゼブルたる自分と同等かそれ以上の格のものである。ヘラヘラと余裕ぶった態度を取っているが、その実タカジョーは、この場にいるサーヴァント達の中でこの二名を一番警戒していた。

「其処の蒼い奴には前言ったんだけど、僕は楽して君達に消えて欲しいんだよね。だから、其処の紅いかっこつけ君。君の期待には応えられそうにないね。僕は君とまともに戦うつもりなんて、これっぽっちもないよ」

「勝つ上に逃げられる、と? この、狼の巣その物の空間から」

 そう告げたのはパムである。彼女の言葉も尤もだろう。
この空間、乱入する事自体は容易いが、一度この場にいる全員からマークされてから逃げ果せるとなると、腕の一本で済むぐらいなら安い物とすら言える程の難事となるのだから。

「ハハ、馬鹿だなぁおばさん」

 ケラケラと言う効果音でも浮かび上がりそうな程軽薄な笑みを作って、タカジョーが返答する。
おばさん、と言う言葉を聞いた瞬間、パムの額に青筋の様なものが走った事に、タカジョーは気付いていた。

「――勝算もないのに虎穴に入る馬鹿が、何処にいるんだよ」

 そうタカジョーが告げた瞬間、競技場と言う建物全体が軋み、建材の破壊される音が随所から響き渡った。
何事だと一同が思い思いの方向に顔を向ける。一同が見た物は、石油に似た黒い、粘性を備えた液体が津波の如く押し寄せる、と言う光景であった。
それが、競技場の内部から溢れ出、フィールドに迫って来ているのである!!

「アーチャー!!」

 と、自分のマスターである雪村あかりが叫ぶ声を聞き、その方向にバージルが顔を向ける。
見ると彼女は、黒いタール状の液体の波に追われ、それから逃げる為にこの場に危険を顧みず入り込んだようである。
得体の知れない液体に触れるよりは、リスクを覚悟で、狼の巣と表現される新国立競技場の競技フィールドに入った方がマシ。それは、正しい判断だった。

 同じような判断をしたのはあかりだけではない。
ライダー、大杉栄光のマスターたる伊織順平も同じ事を考えたらしく、彼はライダーの名を叫びながら、このフィールド上に足を踏み入れていた。
そして栄光は、自慢の解法の技術で、このタール状の物質の正体を解析――愕然とした。
見た目からのみ判断すればすれば、重油、或いは墨液としか思えない。
兎に角、液体に似た性質を持っている事がその流動性からも推し量れるこの物質。
しかし、今自分達に迫り来ているこの物質の正体は、ある種の虚数空間を目で見て触れる事が出来る形状に可視化させたものであるのだ。
言ってしまえばこのタールにも似た物質は、それ自体が虚無への入口なのである。これに全身を取り込まれれば最後、その者は完全なる無そのものの空間に取り込まれ、消滅が確約される。脱出する手段は、ないと見て間違いない。

 自身の言う通り、タカジョーは、メリットのない戦いに参戦する性格ではないし、況してその戦いに参戦しようと心変わりを起こしても、無策で戦場に首を突き込む程愚かな男ではない。この魔王は、虎狼の巣穴たるこの競技フィールドに入る前に、一つの仕込みを予め行っていたのだ。
それこそが、今この場にいる全員を虚無に還さんと迫る、タール状の物質。つまりは、タカジョーの宝具、ディープホールである。
彼はこの宝具を、競技フィールドに足を踏み入れる前に予め、競技場の残った建物全体に仕込んで起き、時間が来次第それを、フィールド目掛けて一斉に殺到させる、と言う風に仕組んでいたのである。
ただ、これを行う際万が一、内部にNPCが存在した場合、タカジョーは散々蔑んで来た討伐令のサーヴァントの対象に自分がなると言う、あってはならない事態に確実に一歩前進する。そうならないように、内部の偵察もしっかり済ませていた。
ディープホールの巻き添えを喰らいかねない生き残りNPCの捜索。その結果は、階段付近で気絶していたあるNPC以外、『全滅』だ。
逃げ出す事をしなかった、或いは何らかの事情があってこの場に留まり続けたのか。どちらの意図でこの地獄に残っていたのかタカジョーには最早解らないが、この建物に存在するNPCは一人除いて全員死亡。瓦礫に埋もれていたり、原形を留めぬ程ズタズタに殺されていたり、屋外で胸部に風穴を殺されていたりと。
新国立競技場で起った今回のサーヴァント同士の大戦争が如何程の物であったのか、NPCの死体は雄弁にタカジョーに語っていた。
結局タカジョーは、まだ息のある、階段から落ちて気絶していただけのNPCを遠方の公園に隔離させてから、ディープホールを仕込んだのである。
誰が消滅、退場するのか。後は、タカジョーの立ち回り方次第だ。

 獰猛な笑みを浮かべ、タカジョーが空間転移を用い、上空百m地点に転移。
彼が転移し終えた瞬間に、バージルの次元斬が、先程までこの魔王が佇んでいた地点を斬り刻んでいた。
余程隙だらけの状態でなければ、バージル以上の空間転移の使い手であるタカジョーに、次元斬を当てるのは至難の業であった。
上空に転移するやタカジョーは、背中から己の魔力で構築された光の翼を展開。その翼は、葉脈に似た網目状の構造が表面に走った、昆虫の翅を思わせる姿だった。
そして其処から大量に、ディープホールと言う名前の黒泥が大量に滴り落ち始めるではないか。狙いは競技フィールド、もっと言えば、其処にたむろするサーヴァント達である。

 絨毯爆撃宛らに地面に着弾するディープホール。
事此処に至って初めて此処にいるサーヴァント達は、行動の指針の変更を余儀なくされた。
完全に身体が呑み込まれれば消滅しか道がない、完全なる虚無(null)への入り口が随所に存在し、しかも現在進行形で増え続けているのだ。
戦うどころでは最早ない。早急にこの場から退散しなければならない。それまで散々熾烈な戦いを繰り広げていたライドウもザ・ヒーローも、
急いで各々のマスターの下へと駆け初めており、レイン・ポゥは空目掛けて虹を伸ばし、マスターである純恋子を抱えたまま其処を走り出した。
無論、この場からの逃走の為だ。そしてその判断を、同盟相手である魔王パムが咎めたか、と言うとそれは否だ。
何故ならばパムも、黒羽でディープホールの正体を解析していたからだ。この場に留まって戦うのは得策ではない。
常軌を逸した戦闘狂であるパムですらが、退散を考える程今の状況は危険なのである。レイン・ポゥの判断は正しいとすら言えた。
ただの狡賢いだけの男かと思ったが、確かな実力を持った上で、搦め手や卑怯な手段を用いる、パムが最も厄介だと判断する手合いだとパムは高城を評価する。
この場で戦えぬのが惜しいが、此処でレイン・ポゥを失うのは惜しい。タカジョーとの――いや。
この新国立競技場で戦った全てのサーヴァント達との次の逢瀬を期待しつつ、パムは飛翔。飛燕の如き速度と、蜻蛉の如き自由な軌道を両立させた凄まじい動きで空を飛び、虹の橋の上を走るレイン・ポゥを彼女に抱えられた純恋子をキャッチし、そのまま飛翔高度を急上昇。一気に新国立競技場を後にした。これで彼女らは、三番目に新国立競技場を後にした事になる。

 これで、この新国立競技場に残ったのは、能動的な飛行手段を己の能力の応用以外に持たない存在達だけである。
つまりは、タカジョーが『カモ』と呼んでも差し支えの無い者達である。だが、彼らですらも油断が出来ない。飛行に準ずる移動手段を持っている者が殆どだからだ。
それに彼らの中には、ディープホールですら破壊する攻撃手段を持つ者もいるらしい。バージルと栄光が正しくそうである。
時空すらも切断する魔剣・閻魔刀で、迫り来るディープホールの波を斬り裂き破壊するバージル。
斬られたタール状の虚数空間は、グラスに注がれたきめ細かいビールの泡が、弾けてなくなるが如くに三次元空間から消滅。
栄光の方は、解法の崩、つまり構築されたものの解体に特化した技術を直接ディープホールに叩き込み、対処していた。
崩の直撃を受けたディープホールは、亜空間への入口としての体裁を成さない程粉々に砕け散り、そして閻魔刀に斬られたそれ同様消滅した。
どちらも余裕綽々に対処している、と言う風に傍目から見えるが、その肚裡には焦りが渦巻いており、そしてタカジョーの宝具の対処も、全力で当たっていた。
特にバージル以上に、栄光に余裕がない。バージルはただ、高ランクの宝具である閻魔刀を振えばディープホールを破壊出来るものの、栄光の場合はベルク・カッツェの透明化を解除させた時の如き、全力の『崩』を叩き込まねば対処出来ないのである。
ディープホールは神秘の強度も恐るべき高さの為に、全力の『透』でなければ攻撃の透過は出来ない。そしてこの状況、タカジョーは自由に動く事が可能なのである。
彼の追撃も視野に入れて動かねば、攻撃をモロに栄光は直撃する事になる。精神的な負担も、筆舌に尽くし難い程掛かっているのだった。

 彼らですら、精神的な焦りが隠せないのだ。
恒常的にディープホールを破壊する手段を持たないダンテとチトセの心労は、如何程の物であろうか。
ただダンテの方は、焦ってこそいるが、バージル程余裕がないわけではない。何せ彼の場合、一蓮托生たるマスターの方も規格外の存在なのだ。
【焦るな、抜け出す手段はある】、とライドウから頼もしい念話を飛ばされれば、馬鹿みたいに焦った素振りを見せる事もない。いつも通り鷹揚と構えていれば良いのだ。
正真正銘余裕がないのはチトセの方だ。ディープホールの正体が解らない上に、対処するべき宝具もない。だが、この場にいるサーヴァントの反応を見れば、触れれば拙い物である事位はチトセにも解る。そんな物が、競技場の面積の優に八割以上を占めている状態で、交戦する程馬鹿ではない。故に彼女が逃走を選ぶのは、自然な選択と言えよう。

 ――そして、それを見逃すタカジョーではない。
数百m間の空間転移を可能とする彼は、一瞬にして地上へと転移。先ずバージルの方へと接近したこの蠅王は、彼の横腹目掛けて突き刺さるようなソバットを叩き込む。
苦悶すら上げる間もなく蒼コートの魔剣士は蹴り足の伸びた方向へと吹っ飛ばされる。其処は正に、タカジョーの放ったディープホールの溜まり場であった。
しかしタカジョーは、バージルがディープホールに着弾するよりも速く、チトセの方へと転移。今度は彼女の腹部に、左脚による回し蹴りを叩き込んでいた。
渇いた息を上げ此方も、ディープホールの蓄積地点へと吹っ飛ばされた。だが、いかに眼にも止まらぬタカジョーの早業と言えど、二人も蹴り飛ばしていれば、歴戦のサーヴァントには気付かれる。
現にバージルとチトセ以外のサーヴァントは皆、タカジョーが何かしらの事を行ったと言う事実を認識し始めていた。
空間転移を三度行い、今度は栄光の方へと転移、掌から白色の魔力のフレアーを放ち夢を操る戦士を焼き尽くそうとするが、間一髪、それを回避。
移動速度を急上昇させた栄光は、一気に、ディープホールに足を絡められ始めた順平の下まで接近し、彼の足元のディープホールに崩を叩き込み、破壊。
そして、順平を即座に抱き抱え、解法の力を用いて重力と引力の枷を振り払った。そして、跳躍。たったそれだけのアクションで、一気に彼らは高度八十m地点まで飛翔。そしてその勢いのまま栄光は空中を滑り、競技場から退散した。これで彼らは、四番目に新国立競技場を後にした事になる。

「もう無理かなぁ、警戒されてるし」

 あっけらかんと言う風にタカジョーが口にする。もう無理、と言うのは、空間転移を利用した不意打ちの攻撃が、である。
本来は此処から更に、那珂とダンテを攻撃するつもりであったが、流石に五体を一時に不意打ちする、と言うのは無茶があったようだ。
現にダンテも那珂も、既にタカジョーの動きを警戒している。これでは先ず、攻撃は当たるまい。

 チッ、と舌打ちをダンテが響かせたのを、タカジョーは見逃さなかった。
攻撃したくても出来ない事は、知っている。何故ならダンテがこの後しなければならないのは、マスターであるライドウと一緒にこの場から退散する事であるからだ。
自分程のサーヴァントを仕留めたければ、腰を据えて戦うしかない事位は流石に気付いているだろう。タカジョーはこう考えており、実際その通りであった。
此処から無事脱出する事が出来る短い時間の間に、タカジョーを葬る事など先ず不可能。よって、二名に取れる最優先の事柄は、此処から脱出するしかない。

「――モー・ショボー!!」

 と、ライドウが叫び、懐から管状の物を取り出した。
すると、蓋の先端から緑色の光が迸り、その光と同時に、管の中に封印されていたものが姿を現した。
ライドウの呼び出したものは、アジア風の民族衣装を身に纏う幼い少女だった。長く伸ばした後ろ髪の中頃から先が、鳥の翼の様に左右に大きく広がっている。
だが、その後ろ髪は伊達に伸ばしている訳ではない。それ自体が独りでに、意思を以って羽ばたかれており、そうする事で本当に鳥の翼と同じ力を発揮しているらしいのだ。
その少女は、空中をパタパタと浮いている。そしてそんな技が出来るのは、人間にはあり得ない。タカジョーは気付いていた。ライドウが呼び出した存在が、『悪魔』である事に。

「やっほーライドウ!! サツリク――げっ、あそこにいるのって、は、蠅王サマ……!?」

 流石に生粋の悪魔であるモー・ショボーは、一目でタカジョーの正体が解ってしまったようである。
愕然とした顔を浮かべ、畏怖に似た感情で、少年の形を取って現れたこの深淵魔王の事を見つめていた。

「モー・ショボー。単刀直入に言う、此処から俺達を脱出させろ」

「う、うん、解った!! 次はサツリクの為に呼んでね!!」

「セイバー!! 備えろ!!」

「あいよ」

 リベリオンを構え、タカジョーの方に目線を投げ掛け続けるダンテ。
元よりタカジョーに、ダンテを攻撃するつもりは今はない。あれは隙の無い男である。
適当な搦め手では対処され、それどころか下手に手を出すと手痛い一撃を貰いかねない。

「じゃね、次出会えたら遊んでやるよ」

 故に、タカジョーの取った行動は、笑顔を浮かべ、軽く手を振ってダンテ達を見送る、と言う余りにも彼らを馬鹿にした行動であった。

「おう、全力で遊ぼうや。蠅坊主」

 そうダンテが、獰猛な笑みを浮かべ軽口を叩くや、ダンテとライドウ。
そして、那珂の宝具が終わった時からずっと、ライドウの護衛を担当していたケルベロスの足元から、凄まじい勢いの風が噴出。
その風の勢いで、両名とケルベロス、そして、ライドウに抱えられたモー・ショボーが、バネ仕掛けの人形が跳躍する様な勢いで、高高度まで飛行。
モー・ショボー、もとい、疾風族の悪魔が有する、風の通り道を創造し、その経路にそって飛行能力のない存在を飛行させる、『神風』と呼ぶ技である。
これを用いて、ライドウは此処から退散しようとしたのだ。これで彼らは、五番目に新国立競技場を後にした事になる。

「お姉様!!」

 叫びながら、チトセの右腕にして、今は宝具となっている少女、サヤ・キリガクレが、太腿までディープホールに浸かった状態のチトセの下まで接近。
そして、彼女の服を掴み、力の限り彼女を引き上げようとする。それを見逃さぬタカジョーではない。空間転移を行い、彼女らを脱落させようとするのだが――。
カッと目を見開かせ、タカジョーは何を思ったか、自分の足元にまで満たされたディープホールの闇の中に、『潜航』。
すると、先程までタカジョーが軽く浮かんでいた地点に、浅葱色の剣と砲弾めいた物が通り過ぎて行った。双方共に、命中する筈だったタカジョーが軌道上にいなかった為、最終的にはディープホールの入口に直撃。そのまま呑み込まれて消え失せた。那珂と、バージルが放った攻撃は、かくてスカを喰ってしまった。

「チィ、奴は潜っても問題ないのか!!」

 苛立ち気味にバージルが叫んだ。流石に閻魔刀の持ち主である。
ディープホールに身体を激突され、動きを阻害された状態でも、彼は巧みに刀を操ってこれらを破壊。
急いで、腰の辺りまでタール状の虚数空間に呑まれたあかりの下まで近づき、彼女の行動を阻害する泥を消滅させてから、バージルは幻影剣を放っていたのだ。

「当たり前だろ、自分の毒で死ぬ程間抜けじゃないよ」

 そう言ってタカジョーが、ディープホールから姿を現した。
タカジョーの言った通り、この宝具はタカジョーが認めた存在か、そもそもタカジョー自身は、完全に身体を呑み込まれたとて無に還さない仕組みになっている。
つまりタカジョーはその気になれば、展開したディープホールに身体を潜航させる事で、この場にいる全員の攻撃をおよそ全て無傷でやり過ごす事が出来たのである。

 那珂が再び、装備した連装砲から砲弾を放つが、直撃の寸前で、間欠泉めいてディープホールが噴き上がり、砲弾を絡め取り、攻撃を虚無に還してしまう。
バージルも恐らくは連鎖して何か攻撃をする事は目に見えていた為、先手をタカジョーは打っておいた。
今も展開させている光の翅を羽ばたかせ、其処からディープホールの粘塊をバージルの方へと飛来させる。
速度にして音の数倍に達したそれであるが、バージルは容易く対処。閻魔刀を縦に一振り――余人には、上段から垂直に一回だけ振り下ろした風にしか見えないだろう。
しかし実際には、目にも留まらぬ速さで縦に横にと振り抜いていた事が、一辺二cmのサイコロ角に斬り刻まれまくっているディープホールの塊を見れば解る事だろう。
果たして百分の一秒を遥かに下回るあの一瞬の時間に、どれだけの数バージルは刀を振るっていたと言うのか。
塵となって消滅した、タカジョーの放ったディープホールを見届けた後、蒼コートの魔剣士はあかりを抱き抱え、一気に跳躍。
一っ跳びで二十m程跳躍したバージルだが、その高度に達した瞬間魔力で構築された足場を踵の辺りに産みだし、それを蹴り抜き、空中で再び跳躍。
それを何度も何度も繰り返し、競技場から脱出を試みる。だが、それを許すタカジョーではない。右手に白色の魔力を収束、球体上に練り固め、それを投擲しようとする。
が、背後から聞こえた砲音を察知、音の方向にそれを投げつけた。そして轟き渡る、腹部に響く程の重低音。タカジョーの魔力球と、那珂の放った連装砲からの砲弾が、激突した音だった。

 これと同時にバージルとあかりが、新国立競技場の、ディープホールが展開されていない範囲外まで脱出した。これで彼らは、六番目に新国立競技場を後にした事になる。
そして、何とかチトセをディープホールから引っ張り出す事に成功したサヤは、チトセに何かを吹き込まれたか。直にそれを実行。
隻眼の女戦士を背負うや、そのまま跳躍。如何にサヤが星辰光で身体能力を強化させられるとは言え、この状態でバージル達のように、一気に此処から脱出する事は、不可能のように思える。実際、それは不可能である。但しそれは、彼女だけの力を利用しようとしたのなら、だ。
此処でチトセが、サヤの脱出の手助けをする。チトセは自らの右眼の眼帯を外し、右眼窩に埋め込まれた、星辰光(アステリズム)の出力を爆発的に向上させる、一種の装置を解放。
この装置は本来、チトセの切り札となる宝具である神威招来・級長津祀雷命を発動する為に必要なものである。
だがこれは、切り札の宝具を放つ為だけの装置ではない。もっと応用力のあるデバイスなのである。神威招来・級長津祀雷命と言う宝具は雷の形態を取るが、何も『強化させられる現象は雷だけではない』。星辰光の出力を向上させる、と言う事は、雷以外の気象の強さも跳ね上げさせられると言う事である。
そう、このデバイスを応用すれば雷だけではなく、風の強さも、雨の勢いも、一気に上昇させる事が出来るのである。
チトセはこの装置を応用し、爆発的勢いの上昇気流を産み出させ、一気にサヤと自分を上空まで飛翔させる。
彼女らは能動的に空を飛ぶ事は出来ないが、能力を限定的に行使する事で、離れ業的手段であるが、こうして空を飛ぶ事が出来るのである。
かくて二人の、星の力を操る女戦士はディープホールの魔の手から逃れ出る事が出来た。これで彼女らは、七番目に新国立競技場を後にした事になる。

 チトセ達が脱出するまでの間、タカジョーは彼女らを脱落させようと追撃する事も考えはした。
だが、それが出来ぬ事情があった。那珂が未だ臨戦態勢であった為、追い打ちを仕掛けようにも中々それが困難だった事。
そして、那珂が自分の宝具であるディープホールが、競技フィールド全体を完全に埋め尽くし、建造物部分に至っては完全に闇に呑まれていると言う現状にも拘らず、平然と生き残っている事に興味を覚えたからだ。

「たまげたなぁ、君には通用しないのかい」

 口では軽い調子を見せているが、内心は本当に驚いていた。
那珂には何故、ディープホールが通用しないのか。その理由は実を言うと一目瞭然である。
単純な話だ。足の踏み場もない程に満たされたディープホールの上を、那珂は『浮いている』のだ。
いや、浮いている、と言う言い方は正確ではないかも知れない。正しくは、『ディープホールの表面に足が触れてはいるが、足から上がそれ以上沈まない』、である。
タカジョーには理解出来なくて当然だが、このトリックは、那珂が装備している宝具・艤装が関係している。
那珂達艦娘を艦娘足らしめるこの艤装は、本来は彼女達が『海上』で深海棲艦と戦う為の必須武装である。これを装着している限り、彼女らは水の上を滑るが如く移動し、沈む事なく、軽やかに行動する事が出来るのである。そして、この宝具の存在が、那珂をディープホールに呑みこまれる事を防いだ。
ディープホールは『タール状』に形状を変化させている為実感が湧きにくいが、本質的には一種の虚数空間であり亜空間である。
タール状、つまりは液体としての性質を少なからず持つ。この、液体としての性質が那珂の命を救った。那珂の艤装は海上、つまり液体の上であれば問題なく行動を可能とし、彼女をその液体に沈ませる事を防ぐのである。
勿論、その液体が溶岩であったり、宝具にすら影響を与える程の強酸性の代物などであった場合にはこの限りではないが、ディープホールの場合はそうではない。故に那珂には、ディープホールを足元に展開されたからと言って何も困る事は無いのである。

「……こんなの、酷過ぎる」

「は?」

 言葉の意味が解っていながら解らないフリをするのはタカジョーの常套手段だが、今回に限って言えば本気で意味が解らない。目的語の類が少なすぎる。

「何で、こんな事するの? まだこの建物には、生き残ってる人が――」

 那珂の言葉に徐々に熱が帯び、それが最高潮に達した段階で、タカジョーは顔を抑えて、嗤った。那珂を嘲弄する様な響きが、くつくつ漏れた忍び笑いから十分過ぎる程見て取れる程だった。

「僕がこんな宝具を展開するまでもなく全滅してるよ」

「――え?」

 生き残っている人がいるかも知れないのに、こんな宝具を発動するなんて。大方那珂は、そう言いたかったのだろう。
だが、タカジョーの言う方が正しい。少なくとも彼が空間転移を駆使して競技場の中をどれだけ捜索しても、気絶していた一名を除いたNPC全員は、一人残らず死に絶えている。
競技フィールドの戦いを注視する事に集中し、内部を捜索する事をしていなかった那珂には、知る由もない情報であろう。

「飽きもしないで殺し合いに明け暮れた挙句、散々に死と破壊を振り撒いて来たサーヴァントが口にする言葉が、街を破壊して、NPCを殺して、良心が痛まないのか、と来たもんだ。笑っちゃうだろ? 戦争屋が良心の呵責に訴えるんだぜ? 自分の姿が鏡に映らないのかと邪推したくもなるさ」

 其処でタカジョーの表情から、張り付けた様な笑みすら消えた。喜びも悲しみも、そして、怒りすらもが消え去ったような、虚無その物の表情だった。

「愚かだよ、お前達は。口を開けば聖杯の為、大義の為。都合のいい願望器と言うニンジンには夢中な癖に、そのニンジンをぶら下げるデマゴーグには何の興味も抱かない。そんな愚かな風だから、お前達は真理を掴み損ねる。何時まで経っても、無知蒙昧のまま。魔王に足元を掬われる」

 スッと掌を開いた状態で、右腕を那珂の方に突き出した。生半なサーヴァントなら、塵一つ残さぬ魔力の放出をタカジョーは可能とする。

「馬鹿につける薬は言葉と暴力で十分だが、愚かにつける薬は『死』以外にない。NPCを殺して良心が痛むんだろ? なら、自分の死で罪を贖えよ」

 そう言うと同時に、タカジョーの掌からフラッシュがたばしった。
開かれた掌から噴き上がった物は、穢れの一つもない白い火柱である。それも那珂程度の身長の物なら、容易く呑み込む程のそれだ。
この攻撃を那珂は間一髪、大きく右方向に滑って移動する事で回避。あのオモチャの砲口から攻撃を放つのだろうとタカジョーは警戒するが、那珂は回避したっきり、攻撃をする気配がない。それ以外に何か攻撃手段があるのか、とタカジョーが緊張の糸を張りつめさせるのも当然と言えよう。

「駄目だね私、人を見かけで判断するなんて」

「何?」

 両手に白い魔力の粒子を収束させながら、タカジョーが言った。

「君は本当は、口も態度も悪いけど、起こる必要もない――いいや。そもそも戦争自体が、好きじゃないんだよね?」

 ――嫌な所を、突いて来るな……――

 思わずタカジョーは、顔に苦みが走りそうになるのを抑えた。那珂の指摘は当たらずとも遠からずであった。
違う、と断言出来ないのが悔しい。何せタカジョーは此処とは異なる世界で、好きになった幼馴染の為に、命を擲ってまで人間界と魔界の平和に尽力していたのであるから。
那珂の言った事を否定してしまうと、デビルチルドレンと世界を救う為に共闘したあの過去すらも否定してしまいそうになるので、タカジョーは『違う』と言う言葉を口から吐き出せず、舌の上で転がすだけに終わってしまった。

「買被り過ぎだよ。君達と、聖杯戦争と言う絵図を描いた黒幕が破滅する様を見て、ゲラゲラ笑いたいだけさ」

「普通、本心からそう思ってたら、ストレートにそんな事言わないよ。悪ぶるの、案外下手だったりする?」

 馬鹿そうなナリをして、意外と頭と口が回るらしいと、タカジョーは嫌になった。その癖素直な性分であると来ている。戦って殺せるか否かは抜きにして、話していて嫌な手合いだった。

「んで? 僕が仮に君の言った通りの存在だったとして、君は見逃してくれるとでも? 僕を、さ」

「うーん。それは厳しい、かな。名残惜しいと思いながら、倒すかも。戦いって、そう言うものでしょ?」

 チャッ、と連装砲の砲口を那珂はタカジョーに合わせた。魔王は、目の前の少女の評価を改めた。下方に、ではなく上方に修正させたのである。
平和と希望を愛する甘そうな外見とは裏腹に、内に秘めた性根は確かに彼女は戦士のそれであったのだ。成程、目の前の存在は確かに、サーヴァント、いや。英霊であった。

「マスターが聖杯を欲してるから、私は戦う。でも、この街の平和も勝ち取るよ。私は」

「水の上に楼閣は建たないよ、お嬢さん」

 と、臨戦態勢に両者が入ったその時だった。
余りにも濃密な殺気が一方向から噴出した為に、その方角に顔を向けざるを得なくなった。
一同が顔を向けた方向、其処には、右手に烈しく黄金色に照り輝く光刀を握り締め、全力で此方に向かって走って来る、クリストファー・ヴァルゼライドの姿があった。
ディープホールにヴァルゼライドは沈んでいなかった。タカジョーがヴァルゼライドを蹴り飛ばした時、その方向には確かにあの虚数空間への入り口があり、其処にこの男は一時身体を絡め取られたが、それを気合と根性で振り払った。それが、つい今しがたの事である。
その後、ディープホールから抜け出た彼は、タカジョーが未だに此処にいる事を即座に認識し、其処に突進。何故艤装に類する特別な宝具を持たないヴァルゼライドが、虚数空間に沈まないのか、と言えば単純明快。足元に展開されたディープホールに、人を含めた万物が沈むのには、短いながらも時間が掛かる。
ならば、『ディープホールに触れた足が闇に沈み出すよりも速くその足を振り上げ、そしてもう片方の足を闇に触れさせ、また沈むよりも速くそっちの足を振り上げる』。
言ってしまえばやっている事は、目にも留まらぬ速さで行われる足踏みである。これを繰り返す事でヴァルゼライドは、ディープホールの闇に消える事を防いでいた。

 剣身がタカジョーの頸を刎ね飛ばす間合いに近付くや、ヴァルゼライドは、軌跡すら残らぬ程の速度で刀を一閃。
しかし、ディープホールに足をやや絡められ、移動速度に減退が生じていたのが明暗を別った。即座に空間転移を用い、英雄の頭上に魔王が回る。
そしてそのまま、英雄の後頭部に踵を落とした!! 苦悶すら上げる事無くヴァルゼライドは、俯せにディープホールで満たされた地面に倒れ込んだ。

「今更お前如きを相手にしてやるかよ。僕が上で、お前は下だ!! 失意と怒りを抱いて、虚無の闇に還るがいい!!」

 そしてそのまま着地したタカジョーが、ヴァルゼライドの背中を怪力スキルを発揮させた上で幾度も踏みつける。
その度に、英雄が闇に沈む速度が加速度的に上昇して行く。抵抗を試みようとするが、刀を持った方の腕が既に闇に呑まれている為それも出来ない。

「ヴァルゼライド!!」

 遠方から、英雄を従えるマスターであるザ・ヒーローの声が聞こえてくる。
流石にザ・ヒーローの方は、ディープホールに触れて無事と言う訳ではなかったらしい。今や上半身の中頃まで、闇に取り込まれていた。
それ以上の浸食が遅いのは、ヴァルゼライド程では無いとは言え、この男もまた気合と根性を発揮して持ち堪えているからに過ぎない。

 だが、ザ・ヒーローの声援も虚しく、遂にはヴァルゼライドは、完璧にディープホールに沈んでしまう。
「馬鹿な……」、と、英雄の名を冠する青年が絶望するよりも速く、タカジョーは翅を振い、ディープホールの塊を飛来させ、それで彼を取り込んだ。
何も足元から徐々に沈ませて行くと言うプロセスをわざわざ踏む必要はない。自分の堆積以上のディープホールに身体を取り込まれれば、その時点で勝負は決するのだから。

「邪魔者はいなくなった。如何する、僕を殺すかい?」

「逃がしてくれるのなら、殺さないよ」

「先の事は解らないね」

 其処で幾許かの沈黙が流れた。
既に新国立競技場、と言う建物は跡形もなく、ディープホールの闇に呑まれていた。
残っているのは、新国立競技場と言うハコが建てられていた場所に、それと同じ面積で地面に広がる、完全なる黒色のタールだけであった。
回りを見渡しても、スタンド席も無ければ、上を見上げても屋根もない。周りに広がるのは、<新宿>の街並みだけである。
346プロのアイドルが活躍していたと言う事実も、そして彼女らの亡骸も、タカジョーの展開した闇に呑まれ、消滅してしまった。
そして広がるのは、ただの闇のみ。余りにも虚しい風景が、那珂とタカジョーの間に広がっていた。そして、それについて感慨を抱く暇も、今はない。

 下げていた腕を今構え、那珂が連装砲の砲口を向けたその時であった!!
――那珂の姿が忽然と、その場から消えてしまったではないか!! これにはタカジョーも目を見開く。
空間転移!! その可能性を先ずは考慮した。だが、そんな便利な物が使えるのであれば、自分から逃走する事など容易であったろう。
そんな便利な術を持っていながら、今まで使っていなかった訳。そうか、と此処で結論に至った。『令呪』である。恐らく誰かが、那珂を令呪の力で呼び戻したのだろう。何れにしても、これで彼女は、八番目に新国立競技場を後にした事になる。

 令呪を使って退散したと言う事は、近くに那珂のマスターがいる筈である。
たかが数百m、事によっては数㎞離れた所で、タカジョー相手には何の意味もない。一回の空間転移で最大、二百m以上を容易く超える距離を彼はワープ出来るのだから。
見つけて血祭りに上げようと思い辺りを見渡すが――そんな事が問題にならなくなる程の大物を、今タカジョーは発見してしまった。
タカジョーが見つめているのは、目線の八十m先の、ワゴン車を改造して誂えた移動式屋台、其処から今出て来た少女の姿である。
見間違える筈がない。服装こそ、ネットやTVなどで出回っている一番有名な写真とは違うが、遠坂凛そのものである。
服装が見た事のない学校の制服のものだった為、一瞬は結論を下すのを迷ったが、見れば見る程やはり遠坂凛だと、疑惑が確信に変わった。
そしてその瞬間、タカジョーは空間転移を使い、凛が此方に気付くよりも速く、彼女の下まで転移。
地上から一mの所を飛んだ状態で其処に移動したタカジョーは、凛の頭部に右脚による浴びせ蹴りを叩き込もうとする。直撃すれば、首から上が千切れ飛ぶ。

 攻撃が、命中した。だが、感触がおかしい。確かにタカジョーの右脚は、肉を蹴った感覚が伝わってくる。
だがそれは、頭にクリーンヒットしたものではない。命中は命中でも、これではまるで、蹴りを『防がれた』ようである。

「すいません、依頼人を殺される際は私にお話を通されると嬉しいのですが」

 聞くだに気だるげな、脱力するようなやる気のない男の声が、凛とタカジョーの間から聞こえて来た。
彼らの間に割って入っているのは、よれよれの黒い略礼服で身を包み、ボロボロのスニーカーを履いた、骨太でガッシリとした体格の偉丈夫である。
整った顔立ちだが、その肌は蝋細工のように不健康な白さを持ち、その髪はセルフカットをしているのか、左右で髪の長さが違う事が解る黒髪であった。
この男の正体も、タカジョーは知っている。一般メディア経由で知らされている写真は、解像度が悪い為顔立ちがやや不鮮明だろうが、それでも目敏い者が見れば一発で解る。
況してタカジョー達聖杯戦争の参加者は、契約者の鍵を通じてその顔を直々に投影されているのだ。見間違う筈もない。遠坂凛が引き当てたバーサーカーにして、神楽坂の大量虐殺の主犯――黒贄礼太郎その人であった。

 その黒贄礼太郎が、タカジョーの回し蹴りを右手で彼の足首を掴む事で、防御。こうする事で、凛が殺される事を防いでいた。
那珂の宝具で動きを止められ、魚雷を打ち込まれ、その爆発に直撃した際、黒贄は確かに死亡した。死亡した後、内緒の場所でこっそりと生き返った。
蘇生後再び、競技フィールドに戻ろうにも、タカジョーのディープホールで跡形もなく競技場の建物も、殺害対象のサーヴァントも脱出していた為、殺すべき対象を失ってしまい仕方なく遠坂凛の下へ戻ろうとした時に、空間転移を用いる前のタカジョーが、遠くから凛を眺めているのを発見。
「依頼料を貰ってないのに殺されるのは拙い」とか、「凛さんを殺すのは私でありたいですね」とかを思いながら、音速の七倍近い速度で一気に跳躍。
距離を詰め、タカジョーの蹴りを防いだ。事のあらましは、こう言う事になるのであった。

「く、黒贄!?」

 事此処に至って漸く凛は、最低最悪とすら評している自身のバーサーカーが、自分の命を救った事を認識。
明らかに競技場から伝わる雰囲気が一変したな、と思い、今まで隠れていたこのワゴン車を改造した点心の屋台から姿を見せた、その迂闊な隙を凛は狙われた。
もしも黒贄が助けに入っていなければ、遠坂家の血脈は、事実上此処で途絶えていたに等しい。

 「ヤバい」、タカジョーの胸中をその思いが支配した。
色々思う所はある。この男は本当に人間なのか、人間にこの膂力はあり得るのか、この男が有する瞳はまるで『魔王』の――。
だが、それよりもプライオリティの高い感情は、この状況をどうにかしなければ、である。当然の話だがこの状況、己の足首を掴んでいる黒贄の方が圧倒的に有利だ。
サーヴァント程高次の霊基に身体を生で掴まれた状態で、空間転移はリスクが余りにも高すぎる。この状況、己の力で打破するしかない。
残った左脚で黒贄を攻撃しようとするが、それよりも速く、黒贄が勢いよくタカジョーの右足首を掴んでいる右腕を振り上げてしまった為、軌道が逸れて失敗。

「ほうりゃ」

 そして背面からタカジョーを、アスファルトの上に叩き付けた。その衝撃で、タカジョーの激突した所を中心とした、直径七十mに渡る地面に亀裂が生じた。
どれ程の腕力で、黒贄はタカジョーを叩き付けたのか。普通のサーヴァントであれば、この一撃で体中が砕け散り即死していた事だろう。
だが、黒贄の相手しているランサーは、見た目を遥かに上回る程の頑健なサーヴァントである。いや、魔王の分霊である。
迂闊にタカジョーの右足首から手を離した事が、不幸に繋がった。アスファルトに完全にめり込んだ状態のタカジョーの姿が、一瞬にして掻き消え、黒贄から数m離れた所にまで距離を取った。流石に無事ではない。背中も痛いし、後頭部も強く打ったし、兎に角痛いし視界も歪んでいる。再生スキルで耐久が上がっていなければ、どうなっていたか。

 桁違いに、筋力と敏捷が高い。タカジョーの下した黒贄への評価だ。
これは恐らくではあるが、空間転移を最大限駆使して攪乱したとしても、黒贄は自分の姿を捕捉出来るだろう。
それ程までに地力が違う。少なくとも、『今』のタカジョーでは勝利は拾えない。マスターを殺そうにも、先ずあの馬鹿げた反射神経で妨げられる。

 ――ここらが潮時かな?――

 もちろん、黒贄を振り切ろうと思えばタカジョーには余裕である。空間転移を連発して移動すれば良いのだから。
どの道、クリストファー・ヴァルゼライドはもう葬った。これだけで、十分過ぎる程のおつりが返ってくる。何せ令呪が一画付与されるのであるから。
ルーラーから証拠を見せろと言われれば苦しいが、証拠を見せねば誰が葬ったのかも分からないような無能がルーラーをやっているとはタカジョーには思えない。
このまま刹那の下へと帰ろうと決めた――その時だった。新国立競技場が建っていた部分に、湖の如く広がっているディープホール、その随所から、幾筋もの光が溢れ出た。黄金色の、光の筋が。

 一瞬の事だった。ディープホールの表面全体が、餅を熱した様に膨らみ始め、其処から、破裂した。
破裂の原因は、膨らみの頂点を貫くように現れた、黄金色の光の柱が原因で、それは瞬きよりも遥かに速い速度で、天空まで伸びて行く。目視する限り、成層圏を容易く超え、宇宙空間にまでその光は達している事だろう。

 破裂の影響で、ガラスをハンマーで叩いた様な細かい破片となって砕けたディープホール。
それが黒い色紙で作った紙吹雪めいて、チラチラと空中を漂い始め、そしてその全てが、時間差こそあるものの端の方から燃え出し始め、灰すら残る事無く消滅して行く。
このある種幻想的とも取れる光景の真っ只中に、男達はいた。意識を軽く手放している己のマスターを二人三脚の要領で肩抱きにする、上半身が裸の状態の、金髪の男。
無限の闇が砕けた破片が、光に誘われる蛾のように舞って漂い、そして、燃え上がり、火の粉と変じて行くその状況を、恐れる事無く彼は進む。
古傷の走ったその顔には、弛緩の一つも見いだせない。サファイアを思わせるような碧眼には、宇宙の中心で激しく燃え上がる太陽宛らの決意と覇気とが赫々としている。
いや、瞳の方は、意思が燃え上がっているだけではない。誰の目にも明白な程に、彼の右眼から黄金色の光が噴出しているのだ。見る者が見れば、彼の無限大の闘志と不撓不屈の意思とが、全てを燃やしつくし神聖な黄金光となって溢れ出ているとすら表現してしまう事だろう。

 きっと今の状況のように、酷い火傷を体中に負っていても、最早死んでいると思われる様な傷を体中に刻まれても、其処から内臓が見えようとも。
この男の決意を折る事は、光の速度を変えるよりも不可能な事だと思うだろう。例え心臓を抉り出したとて、この男から闘気を奪い去る事など、出来はしまいだろう。

「――まだだ」

 そして――。
男が元居た世界で、どんな詠唱(ランゲージ)よりも短く、どんな恫喝よりも恐ろしいとされた言葉を。
民草にとっての至高の英雄にして、敵対者にとっての不条理の究極体とも言える男、クリストファー・ヴァルゼライドは、地の底から響き渡るが如き低い声音で呟いた。その手に、天使の神威の象徴めいた光剣を握り締めて。

「黒贄!!」

 凛が叫び、黒贄の右手を掴み、そのまま走ろうとするが、黒贄がつられて動かない上に、黒贄自身が信じられない力で立ち止まっている為に、勢い余って凛はつんのめった。右肩が、外れるかと思った程の衝撃である。

「え、殺さなくても良いんですか?」

 悪びれもなく黒贄が言った。かなり痛かったらしく、涙目で凛が睨みつけて来る。

「予定変更!! さっさと逃げるわよ!!」

「ですが殺したりない――」

「ああもう、何とか工面してあげるから!! 速く逃げるの!!」

 凛は黒贄から手を離し、一人で走る事にした。黒贄は理解が遅すぎる。
どの道もう、此処で鎬を削る必要性もメリットもないと凛は判断した。ヴァルゼライドの主従は殺せば令呪が手に入るのだろうが、仮に自分達が倒したとて同じ討伐令対象である自分達が令呪を貰えるとは凛も思っていない。つまり、本当にこの場に居残って戦う事で得られる利益がないのだ。
凛が逃走を選ぶのも、当たり前の話だった。その意図を黒贄が理解出来たかは知らないが、彼もまた、凛の後を追うように、この場から退散し始めた。
彼らのような主従を、タカジョーもヴァルゼライドも放っておくとは思えないが、異な事に、彼らは追撃すらしなかった。
両者共に、互いの事を睨みつけ、凍て付く様な殺意を放射している状態だからだ。これで彼女らは、九番目に新国立競技場を後にした事になる。

「お前は、理不尽の権化かダブスタ野郎ッ!!」

 黒贄達がこの場から逃走して行く事は無論タカジョーも知ってはいるが、それが気にならない程激怒していた。
自分の宝具が破られた事? それも勿論あるが、完全に虚無の闇の中に呑みこまれたと言うのに、それが当たり前であるかのように、ヴァルゼライドは元の世界に帰還した。
その余りにも常識を逸脱した、理不尽にも程があるヴァルゼライドの行為に、タカジョーは憤っていた。虚数空間にまで放逐したと言うのに、これで死ななければ、この男は何を以ってして死ぬと言うのか。

 ヴァルゼライドがどんな手段で、ディープホール内部の無限の闇から抜け出せたのか。
そのトリックをタカジョーは理解していた。簡単な話だ。桁違いの威力のガンマレイで焼き尽くしたのである。
ディープホールと言えど、破壊不可能でない事は、バージルの閻魔刀や栄光の解法の例からも証明されているし、タカジョーもそれは解っている。
しかしあれらは、空間にすら作用する程の高ランクの神秘、或いは術の解体に特化した術だからこそ、破壊されたに過ぎない。
そう言った効果がなければ、ディープホールは破壊不可能であり、ヴァルゼライドの宝具・ガンマレイにはそんな効果はない。
だが現実にガンマレイは、虚数空間そのものとすら言えるディープホール内部を完全に破壊して見せた。一体、どうやって?
答えは単純明快。『気合と、根性』。心の力だけで、虚数空間を破壊するだけの威力に到達するまでガンマレイの出力を跳ね上げさせ、これを放ち、ディープホールの無限の闇を完膚なきまでに破壊して見せたのだ。それが、どれ程の難事で、そして、ヴァルゼライド以外に不可能な事柄なのかは、今更説明するべくもないであろう。

「俺が……この世で一番唾棄し、嫌悪するものは……ッ、貴様のように善を嗤い、善なるものが集めた蜜を自らは苦労の一つもせずに掠め取ろうとする塵屑だッ!!」

 ヴァルゼライドは叫んだ。全天が轟きかねない、空の支配者であるところのあの雷霆を司る神々の王宛らの声であった。

「俺は、貴様のような屑を裁き、貴様らの様な屑が犯した罪に罰を与え、そして――何処からともなく溢れ出る膿の如き邪悪を滅ぼす死の光として輝き続け、全ての悪の敵となり、全ての『善』と全ての『中庸』から『悪』を遠ざけ、彼方にて悪を断罪し続ける裁断者となると、俺は誓ったのだッ!!」

 口角泡には、血が混じっている。今までの戦いで負ったダメージは確かに、ヴァルゼライドを苛んでいるのだ。

「貴様を葬る、その一心だけで俺は地獄から戻って来た!! 理不尽の権化? 当たり前だ!! 貴様らの様な塵(ゴミ)を裁くと俺は過去も、これからも誓い続けている!! あんな汚泥に沈められた程度で、このクリストファー・ヴァルゼライドを葬れたと思うな!!」

 ヴァルゼライドの怒りを代弁するように、光で煌々と燃え上がるアダマンタイトの刀の剣先を、ヴァルゼライドはタカジョーに突き付けて尚も言った。

「貴様には何の信念もない!! 労苦を味わう事もせず、ただ勝利の美酒を平らげるが為に暗躍する。生前も、貴様の如き肥えた豚は飽きる程見て来た。蠅の王など片腹痛い。貴様など、糞に集る蠅と何の違いもないだろうが!!」

 光の英雄の怒りの要訣は、正しく其処だった。
タカジョーは確かに強い。身体能力だけでなく、それを適切に揮う事の出来る技術、何よりも魔王特有の、人間にはない数多の異能。
そのどれもが英雄にとっては脅威であり、掛け値なしの強敵。それが、高城絶斗と言う魔王であった。
だがヴァルゼライドは、目の前の少年魔王に、何らの信念も感じ取れなかった。皆が戦いに疲弊し、誰もが真っ先に脱落してもおかしくない、と言うその状況になって漸く現れ、獲物を略奪しようとするその姿勢に。初めからまともに取り合おうとすらしないその態度に、ヴァルゼライドは激怒していた。
腐肉を漁るハイエナ。糞に集る蛆虫。それとタカジョーは、何らの違いもないと考え、そして、激怒していた。何故ならばそんな存在を滅ぼさんが為にヴァルゼライドは、悪の敵になる事を誓っていたのであるから。

「信念、信念だと? あ、はは、アッハハハハハハ!!」

 黙ってヴァルゼライドの口上を聞いていたタカジョーだったが、全てを聞き終えるや、もう堪えられない。
今の今まで、笑いをずっと堪えていたとでもいう風な態度で、爆発するような哄笑を上げ、英雄の事を笑い飛ばした。その構図は宛ら、勇者の若く青い見聞を笑い飛ばす、永く生きた魔王のそれであった。

「――笑わせるなよ屑野郎が」

 其処でタカジョーの声音が、真夏の蒸し暑さを感じさせぬ程の底冷えとしたものになる。
本当に、頭一つ分程も小さいこの少年が、こんな声を発しているのかと思う他ない程に、彼の声は低く、威圧的な物に変わっていた。

「ならお前は、あれすらも信念を免罪符に肯定するのか? 目に痛いだけのピカピカの光でNPCを散々殺した挙句に、平和な街のど真ん中に放射線をばら撒きまくる現状がよ!!」

 バッと、タカジョーはある方向を指差した。
其処こそは、新国立競技場が健在であった時に、ヴァルゼライドがダンテ目掛けて放ったガンマレイが、競技場を貫通しそのまま一直線に通り過ぎて行った方向である。
ヴァルゼライドと戦った経験があるタカジョーは、一目であの惨状を齎したのが誰であるのか、理解出来た程だ。
――その惨さたるや想像を絶する。ガンマレイが通り過ぎたルート上に存在したコンビニ等の店舗、一般家屋、団地などの集合住宅、オフィスビルやファッションビルなど。
それらは全てヴァルゼライドの放った黄金の爆熱光の影響で、爆散させられ、瓦礫の堆積にされてしまった。きっとその瓦礫の下には、多くのNPCの死体が埋まっている事だろう。
しかも更に性質の悪い事には、ガンマレイの性質だ。死光と時に称されるこの宝具には超高濃度の放射線が含まれており、通り過ぎた所には人が住めない程の放射線管理区域となる。そう、ヴァルゼライドは一時に人々の命を奪っただけでなく、今後其処に人間が住むかも知れないと言う未来すら、簡単に奪ってしまったのだ。

 タカジョーが指差す方角には今も、朦々と、それまで砂煙が立ち昇っているだけでなく、嵐のようなサイレンの音と人々の怒号や悲鳴が聞こえてくる。
これらは全て、タカジョーが屑と呼んだ男の後先顧みぬ所業が生んだ姿だった。英雄とすら呼ばれた男が生み出した、破壊の様相であった。

「大したもんじゃないかヴァルゼライドくん。いとも簡単に、千、いや、万か? それだけの命を簡単に奪っちゃうんだからさ。中々出来る事じゃないぜ。もっと胸を張れよ」

「俺は俺の――」

「やった事を十分理解している。NPCと呼ばれる人間の犠牲も痛ましく思う」

 ヴァルゼライドの言葉を途中で遮るばかりか、途中でこの男が何を言おうとしたのか、その言葉を予想し、ヴァルゼライドの声音を真似てタカジョーが言った。
其処でヴァルゼライドは緘黙した。言おうとしていた事そのままを、タカジョーに言われてしまったからである。

「反省して全部チャラになるなら、神も天使もいるもんかよ。そしてこの後、お前はこう続ける。『だが殺す』と。自分の行った所業、その罪深さを知っているフリをお前はしてるだけだ」

 小柄な身体からは想像も出来ない程の濃密な殺意を放射し続けながら、なおもタカジョーは続ける。

「お前は自分の信じた道しか歩ける所がないと勘違いしている、強迫症の患者そのものだ。それ以外の道を模索する事が出来ない、そりゃそうだ。だってお前の信じる道以外には悪がいて、そしてそいつらの存在を認めなきゃいけないからな。それが、お前は恐ろしいのさ」

 ――

「底が割れたなヴァルゼライド。お前は、世界で一番の臆病者だ。人の世が人の世である以上無視出来ない、滅ぼせない悪の存在が、お前は許せないんじゃない。怖いだけだ。だから虚勢を張ろうとするのさ。全ての悪を滅ぼす光になるだなどと抜かしてな!!」

「貴様――!!」

「理想の邁進の為により多くの死と破壊を振り撒くお前のその姿。まるで、魔王そのものじゃないか。ハハ、生粋の魔王たる僕のお墨付きだぜ? もっと誇れよヒーロー」

 ヴァルゼライドを小馬鹿にするタカジョーは、声音こそ軽い調子のものがあるが、その表情は何処までも笑っていない。瞳に至っては、ガラス球の方がまだ温かみがあると思わせる程、何の感情も込められていなかった。

「英雄……か」

 タカジョーの事を睨みながら、ヴァルゼライドが呟く。魔王の口にしたヒーローと言う単語に、思う所があるらしい。

「生前も言われたよ、底辺からのし上がった英雄、公明正大・滅私奉公の名君、至高にして究極の人だとな。過大評価にも程がある。彼らがそう評価している人間は、エゴイストの極致にいるような屑でしかないと言うのに、な」

「そう自覚してるのならとっとと自殺なりしろよ」 

「するさ。皆が俺を、不要だと言うのなら」

 予想に反し、ヴァルゼライドの反論は、余りにも速かった。

「民は、人はそれでも、俺を求めた。屑の所業でしかない俺の行いを、英雄の行う正当な行為だと礼賛してな。彼らの声が愛おしくもあったからこそ、俺は戦い続けた。その愛と希望と、光とを育む土壌の為に俺は、彼らの幸福を奪い取ろうとする悪の敵になると嘗て誓った。その誓いが、人によっては正しく、俺が嫌悪する悪そのものに映ると、知った上でだ」

 尚も語る。

「誰に何を言われようとも、俺は悪を灼き尽くす光になり続けよう。俺の道を歩み続けよう。そして、地上から悪が消え去った暁には、『この地上に最後に残った悪』である俺も果てよう」

 「それが――」

「他人とは違う力と使命を授かって生まれた、『英雄(クズ)』の仕事、と言うものだろう? 魔王よ。英雄譚を締め括るのはいつだって、英雄自身の死なのだからな」

「大衆は今すぐにでもお前に死んで欲しいと望んでるぜ」

「俺のマスターが望んでいないのでな。悪いがこの命、貴様にはくれてやれん」

 一拍間を置く、ヴァルゼライド。

「俺の考えに異を唱える者も、貴様の如くいるだろう。全否定する者だって、いるだろう。そしてその考えは、何処までも正しい。彼ら自身が正しいと言えば、考えは無限大に正しくなり続ける」

 「だがな」

「俺は俺の意見も正しいと思っている。俺の夢は何処までも正当な物だと考えている。今後誰に俺の理想を間違っていると問われても、俺は、相手の理想の貴びながら、俺の正しさの下に相手を斬る。俺は――俺の理想の方が正しいと、絶対に信じているからだ」

「……オーケー。其処までの覚悟か。クリストファー・ヴァルゼライド」

 これまでの会話でタカジョーは、考えを改めた。この男の考えを変える事は困難ではない。『不可能』なのだ。
余りにも、言葉の端々から伝わる決意の総量が、違い過ぎる。まるで数億年も昔から存在する山脈が語りかけてくるような重圧さを、魔王は感じた。
目の前の英雄が言った事に、偽りから出た言葉は一つとしてない。世界に悪がいなくなれば自死すると言う言葉も。
正しい意見に遭遇してもその意見を尊重しながら否定する事も。全てが、ヴァルゼライドの魂の奥底から出された本音である。
こんな相手に、千の厚遇万の世辞を尽くしても、心変わりが望むべくもない。つまりクリストファー・ヴァルゼライドは、タカジョーが最初に思ったイメージ通りの男。初めから、敵対するしか道の無い、正しく英雄の如き男であったと言う事だ。

「端から話し合いに応じる事自体が、間違いだった訳か。望み通りその希望ごと、無限の闇に叩き落としてやるよ」

「……来い」

 ヴァルゼライドが刀を構えたその瞬間だった。
タカジョーが懐に忍ばせていた、マスターの刹那が用意していた式神の機能を持たせた懐紙から、刹那の怒号めいた念話が聞こえて来た。

【ランサーッ!! 何をやっている!? 競技場が黒いタールの様なものに呑みこまれたと、SNSや緊急速報で――】

 ――チッ、間の悪い女だ……――

 もうヴァルゼライドの命など風前の灯火、何時でも葬れる状態だと言うのに。
この後口にする事は解っている。早急な帰還だろう。このままだと刹那は令呪を切りかねない。
ただの帰還命令に従わないだけで、令呪を一画失わせるのは余りにも無益だ。どの道、目の前の主従に残された道は確実な破滅だ。
自分が手を下すまでもない。癪だが此処は、刹那の言葉に従ってやる事にした。

「マスターが帰って来いってうるさいんだ。清算はいつか付けてやる」

「逃げるのか、ランサー」

「素直がモットーなんでね。精々苦しんで死になよ、ヒーロー」

 其処でタカジョーが空間転移で姿を消した。
今の言葉自体がブラフである可能性も高い為、辺りを素早くヴァルゼライドは見渡すが、如何やら本当に消えたらしい。
何処にもタカジョーの気配もなく、殺気も感じられない。宣言通り、あの蠅の魔王は逃走を選んだらしい。これで彼は、十番目に新国立競技場を後にした事になる。

「……起きているか」

 今まで肩抱きにしていたザ・ヒーローに問うた。

「大分前に。駄目だな、一分とは言え、意識を奪われるとは」

 ヴァルゼライドがマスターと認めた男の返事は素早かった。
「立てるか」、と言う問いに是を示すと、ザ・ヒーローは直に自分の足で立ち上がる。如何やら平気のようである。

「悪いな。またしても、葬れなかった」

「僕は気にしない。上手く行く事の方が、珍しいからね」

 そう言ってザ・ヒーローは、ディープホールが展開していた新国立競技場の方面を見やる。
タカジョーの消失と同時に、あの無限の闇も消えてなくなっており、後には、ヴァルゼライドが空けた深度八千mにも達する大穴だけが残された。
それ以外は正に、更地。起伏も何も見られない、平らな地面だけが広がるだけだった。

「人が来る。行こうバーサーカー」

 そうしてザ・ヒーローは襟を直し、違う方向に目線を向けた。
その方向は、人の集まりがやや薄いと、彼が判断した場所だった。その方角に目掛けて移動すれば、この場から脱出出来るだろう。

「僕は君を否定しない。僕も、理想の為に友達を斬った事がある。君の否定は、僕の否定にも繋がる」

「……不甲斐ないサーヴァントで、すまない」

「君が不甲斐なかったら、どんなサーヴァントも不甲斐なくなるさ。行くぞ」

「了解」

 其処でヴァルゼライドは霊体化を行い、走り出したザ・ヒーローの後を追う。これで彼らは、最後に新国立競技場を後にした事になる。
残されたのは、ゼロの地平だけだった。ただの穴と、ただの更地。此処から新たに夢を築くのは、一体どれほど、困難な物になるのだろうか。
中天に浮かぶ夏の太陽は、黙して語らない。新国立競技場で起った悲劇は、かくの如くに終わりを迎えたのであった。






【四ツ谷、信濃町方面(新国立競技場跡地)/1日目 午後3:00】

【葛葉ライドウ@デビルサマナー葛葉ライドウシリーズ】
[状態]健康、魔力消費(中の小)、廃都物語(影響度:小)、アズミとツチグモに肉体的ダメージ(大→中)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いマント、学生服、学帽
[道具]赤口葛葉、コルト・ライトニング
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の主催者の思惑を叩き潰す
1.帝都の平和を守る
2.危険なサーヴァントは葬り去り、話しの解る相手と同盟を組む
3.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める(現在困難な状態)
4.バーサーカーの主従(ロベルタ&高槻涼)を排除する
[備考]
  • 遠坂凛が、聖杯戦争は愚か魔術の知識にも全く疎い上、バーサーカーを制御出来ないマスターであり、性格面はそれ程邪悪ではないのではと認識しています
  • セリュー・ユビキタスは、裏社会でヤクザを殺して回っている下手人ではないかと疑っています
  • 上記の二組の主従は、優先的に処理したいと思っています
  • ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(ラクシャーサ)と交戦、<新宿>にそう言った存在がいると認識しました
  • チューナーから聞いた、組を壊滅させ武器を奪った女(ロベルタ&高槻涼)が、セリュー・ユビキタスではないかと考えています
  • ジェナ・エンジェルがキャスターのクラスである可能性は、相当に高いと考えています
  • バーサーカー(黒贄礼太郎)の真名を把握しました
  • セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を塞から得ています
  • セイバー(シャドームーン)の存在を認識しました。但し、マスターについては認識していません
  • <新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています
  • <新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました
  • バーサーカーの主従(ロベルタ&高槻涼)が逃げ込んだ拠点の位置を把握しています
  • 佐藤十兵衛の主従、葛葉ライドウの主従と遭遇。共闘体制をとりました
  • ルシファーの存在を認識。また、彼が配下に高位の悪魔を人間に扮させ活動させている事を理解しました
  • 新国立競技場で新たに、バージル、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです
  • アサシン(レイン・ポゥ)の本性を、モコイの読心術で知りました
  • ランサー(高城絶斗)の正体に勘付きました
  • 現在<新宿>上空を、使役する悪魔モー・ショボーの神風で飛行中です。着地地点は次の書き手様にお任せします
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世をテレビ越しに目視した影響で、廃都物語の影響を受けました


【セイバー(ダンテ)@デビルメイクライシリーズ】
[状態]肉体的ダメージ(中の中)、魔力消費(中)、放射能残留による肉体の内部破壊(回復進度:小)、全身に放射能による激痛
[装備]赤コート
[道具]リベリオン、エボニー&アイボリー
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の破壊
1.基本はライドウに合わせている
2.人を悪魔に変身させる参加者を斃す
3.バージルとタカジョーを強く意識
[備考]
  • 人を悪魔に変身させるキャスター(ジェナ・エンジェル)に対して強い怒りを抱いています
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)の異常な耐久力を認識しました
  • 宝具『天霆の轟く地平に、闇はなく』が掠めた事で、体内で放射能による細胞破壊が進行しています。悪魔としての再生能力で治癒可能ですが、通常の傷よりも大幅に時間がかかります


【雪村あかり(茅野カエデ)@暗殺教室】
[状態]肉体的ダメージ(中)、脹脛をガンドで撃ち抜かれる、疲労(中)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]なし
[道具]携帯電話
[所持金]何とか暮らしていける程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を絶対に手に入れる。
1.なるべく普通を装う
[備考]
  • 遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました
  • 遠坂凛の住所を把握しましたが、信憑性はありません
  • セリュー・ユビキタスが相手を選んで殺人を行っていると推測しました
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの存在を認識、その後通達で真名と宝具とステータスを知りました
  • ランサー(高城絶斗)の存在を認識しましたが、マスターの事は知りません
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました
  • 遠坂凛が魔術師である事を知りました
  • 伊織順平がライダー(大杉栄光)のマスターである事を認識、彼と同盟を組もうと考えています
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルーム及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました


【アーチャー(バージル)@デビルメイクライシリーズ】
[状態]肉体的ダメージ(小)、魔力消費(閻魔刀によって極小)、放射能残留による肉体の内部破壊(回復進度:中)、全身に放射能による激痛
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、力を得る。
1.敵に出会ったら斬る
2.何の為に、此処に、か
[備考]
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)とザ・ヒーローの存在を認識、その後通達で真名と宝具とステータスを知りました
  • ランサー(高城絶斗)の存在を認識しましたが、マスターの事は知りません
  • 宝具『天霆の轟く地平に、闇はなく』を纏わせた刀の直撃により、体内で放射能による細胞破壊が進行しています。悪魔としての再生能力で治癒可能ですが、通常の傷よりも大幅に時間がかかります
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)の異常な耐久力を認識しました
  • 現在雪村あかりを抱え、新国立競技場からそう離れていない目立たない所に隠れています。何処かは次の書き手様にお任せ致します


【ランサー(高城絶斗)@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]肉体的ダメージ(中)、魔力消費(中)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ
1.聖杯には興味がないが、負けたくはない
2.何で魔王である僕が此処にいるんだろうね
3.マスターほんと使えないなぁ
4.馬鹿ばかりかよ
[備考]
  • ビースト(パスカル)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦。睦月をマスターと認識しました
  • ビーストがケルベロスに縁のある、或いはそれそのものだと見抜きました
  • ビーストの動物会話スキルには、まだ気付いていません
  • 雪村あかりとアーチャー(バージル)の主従の存在を認識しました
  • アルケアの事を訝しんでいます
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました


【伊織順平@PERSONA3】
[状態]健康、魔力消費(小)、疲労(中)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]なし
[道具]召喚銃
[所持金]高校生並みの小遣い並み
[思考・状況]
基本行動方針:偽りの新宿からの脱出、ないし聖杯の破壊。
0.ライブに向かう。
1.穏便な主従とコンタクトを取っていきたい。
2.討伐令を放ってはおけない。しかし現状の自分たちでは力不足だと自覚している。
[備考]
  • 戸山にある一般住宅に住んでいます。
  • 遠坂凛とは同級生です。噂くらいには聞いたことがあります
  • 遠坂凛が魔術師である事を認識しました
  • あかりが触手を操る人物である事を知りました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、アサシン(レイン・ポゥ)、アサシン(ベルク・カッツェ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです
  • 現在<新宿>上空を、栄光に抱えられた状態で飛行中です。着地地点は次の書き手様にお任せします
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルーム及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました


【ライダー(大杉栄光)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態]健康、魔力消費(中)覚えのない記憶(進度:超極小)
[装備]なし
[道具]宝石・スピネル(魔力量:大)
[所持金]マスターに同じ
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生きて元の世界に帰す。
1.マスターを守り、導く
2.昼はマスターと離れ単独でサーヴァントの捜索をする。が、今は合流を優先
3.UVM社の社長にまつわる噂の真偽を後で確かめてみる
4.何で野枝さんの記憶植え付けるんだよあのヤブ
5.アサシン(ベルク・カッツェ)と黒贄礼太郎は生かしておけない
[備考]
  • 生前の思い出す事が出来ない記憶について思い出そうとしています。が、完全に思い出すのは相当困難でしょう
  • キャスター(メフィスト)の存在を認知。彼から魔力の籠った宝石を貰いました
  • キャスター(メフィスト)から記憶に関する治療を誘われました。判断は後続の方々にお任せします
  • アサシン(ベルク・カッツェ)の存在を認識。強い敵意を抱いております
  • アサシン(ベルク・カッツェ)が今回の事態の黒幕ではないかと、やや引っかかる所はありますが考えているようです


【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]精神的疲労(極大)、肉体的ダメージ(小→中)、魔力消費(中)、疲労(中)、額に傷、絶望(中)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]いつもの服装(血濡れ)→現在は島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズの学校指定制服を着用しております
[道具]魔力の籠った宝石複数(現在3つ)
[所持金]遠坂邸に置いてきたのでほとんどない
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びる
1.バーサーカー(黒贄)になんとか動いてもらう
2.バーサーカー(黒贄)しか頼ることができない
3.聖杯戦争には勝ちたいけど…
4.今は新国立競技場から逃走
[備考]
  • 遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました
  • 豪邸には床が埋め尽くされるほどの数の死体があります
  • 魔力の籠った宝石の多くは豪邸のどこかにしまってあります。
  • 精神が崩壊しかけています(現在聖杯戦争に生き残ると言う気力のみで食いつないでる状態)
  • 英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)の主従を認識しました。
  • バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)が<新宿>衛生病院で宝具を放った時の轟音を聞きました
  • 今回の聖杯戦争が聖杯ではなく、アカシックレコードに纏わる操作権を求めて争うそれであると理解しました
  • 新国立競技場で新たに、ライダー(大杉栄光)の存在を認知しました。後でバーサーカー(黒贄礼太郎)から詳細に誰がいたか教えられるかもしれません
  • あかりが触手を操る人物である事を知りました
  • 現在黒贄を連れて新国立競技場から距離を取っています。何処に移動するかは次の書き手様にお任せします


【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]『狂気な凶器の箱』で出た凶器
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.護衛は苦手なんですが…
5.そそられる方が多いですなぁ
6.幽霊は 本当に 無理なんです
[備考]
  • 不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきてました
  • アサシン(レイン・ポゥ)をそそる相手と認識しました
  • 百合子(リリス)とルイ・サイファーが人間以外の種族である事を理解しました
  • 現在の死亡回数は『2』です
  • 自身が吹っ飛ばした、美城に変身したアサシン(ベルク・カッツェ)がサーヴァントである事に気付いていません
  • ライダー(大杉栄光)が未だに幽霊ではないかと思っています


【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]肉体的ダメージ(中)、魔力消費(中)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F
[道具]ハンドベルコンピュータ
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する。
1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する
2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討
3.翼のマスター(桜咲刹那)を倒す
4.ルーラー達への対策
[備考]
  • 桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。
  • ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。
  • 雪村あかりとそのサーヴァントであるアーチャー(バージル)の存在を認識しました
  • マーガレットとアサシン(浪蘭幻十)の存在を認識しましたが、彼らが何者なのかは知りません
  • ルーラーと敵対してしまったと考えています
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです
  • 現在<新宿>新国立競技場周辺から脱出しています。何処に向かうかは次の科書き手様にお任せします
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
  • ライドウが自分と同じデビルサマナー、それも恐ろしいまでの手練だと確信しています


【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]肉体的ダメージ(超々極大)、魔力消費(中の大)、霊核損傷(超々極大)、放射能残留による肉体の内部破壊(極大)、全身に放射能による激痛(極大)、
全身に炎によるダメージ(現在重度)、幻影剣による内臓損傷(現在軽度)、内蔵損壊(超々極大)、頭蓋骨の損傷(大)、脊椎の損傷(大)、出血多量(極大)
→以上を気合と根性で耐えている
[装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀(現在六本破壊状態。宝具でない為時間経過で修復可)
[道具]なし
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:勝つのは俺だ。
1.あらゆる敵を打ち砕く
2.例えルーラーであろうともだ
[備考]
  • ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。
  • ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。
  • ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。
  • セイバー(チトセ・朧・アマツ)は、彼女の意向を汲みいつか決着を付けたいと思っております
  • アーチャー(那珂)は素晴らしい精神の持ち主だとは思っておりますが、それはそれとして斬り殺します
  • マーガレットと彼女の従えるアサシン(浪蘭幻十)の存在を認知しましたが、マスター同様何者なのかは知りません
  • 早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います
  • 早稲田鶴巻町の某公園から離れた、バージルと交戦したマンション街の道路が完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います
  • 新小川町周辺の住宅街の一角が、完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います
  • 交戦中に放ったガンマレイの影響で、霞ヶ丘町の集合団地や各種店舗、<新宿>を飛び越えて渋谷区、世田谷区、目黒区、果ては神奈川県にまでガンマレイが通り過ぎ、進行ルート上に絶大な被害と大量の被害者を出していますが、聖杯戦争の舞台は<新宿>ですので、渋谷区等の被害は特に問題ありません


【セイバー(チトセ・朧・アマツ)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]肉体的ダメージ(中)、魔力消費(中の大)、実体化
[装備]黒い軍服
[道具]蛇腹剣
[所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライドとの戦闘と勝利)
1.余り<新宿>には迷惑を掛けたくない
2.聖杯を手に入れるかどうかは、思考中
[備考]
  • 現在<新宿>の何処かに移動中。場所は後続の書き手様にお任せします
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました
  • アーチャー(八意永琳)とそのマスターには、比較的好意的な考えを持っております
  • サヤ「あのアーチャー様は、お姉様には本当に僅差には劣りますが、美しい方でしたね……性格も宜しいですし」
  • サヤ「泥投げて来たあのクソガキ殺す!! 絶対殺してやる!!」

各種備考:
※新国立競技場がランサー(高城絶斗)の宝具、ディープホールの影響で消滅、代わりにこの建物が経っていた場所は深さ八千m程の大穴だけが残された更地になりました。またディープホールの影響で、新国立競技場の在った所だけは、ガンマレイによる放射線汚染はありません
※346プロの所属のアイドルの八割五分は死亡しました。今回の話で生存が確認されている赤城みりあ、佐々木千枝、城ヶ崎莉嘉、橘ありす、鷺沢文香、アナスタシア以外に今回出演していたネームドアイドルは、完全に死亡したと思って下さい。誰が残りの一割五分かは、後続の書き手様にお任せ致します






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ダガー・モールスは兎に角、気が気ではなかった。
SNS、ニュースサイト、そしてテレビの緊急速報。新国立競技場近辺で起っている大殺戮、その新情報が一分単位で更新されて行くが、その更新される情報に、状況の好転を示すものは一つとして存在しない。時間が経てば経つ程に、状況は爆発的に悪化して行く。
暫定的な死傷者数は、情報が更新される度に数十人単位で増えて行く。だが、新国立競技場から現れた光が渋谷区方面に向かって行った、と言う情報を契機に、桁が跳ね上がった。
具体的には一気に、数千、数万人単位で死者の数が増え始めたのだ。被害が及んでいる建物も新国立競技場のみならず、<新宿>外の建物にまで累が広がり始めた。

 ブルブルと身体を震わせながら、ダガーはUVM社のタワービルの最上階に設置された社長室から、新国立競技場の方を眺めた。
此処からよく、あの建物の光景が見えるのだ。酷過ぎるにも、程がある。この位置から見ても、倒壊の具合が明らかな程、あのハコはボロボロになり始めている。
最初の方は鷹揚と事を構え、今回の事件をダシに新しいプランを考えたりもしたが、それも最初の数分だけ。
入ってくる情報が最悪を極るものばかりの為、ダガーの関心はこれからの仕事よりも、新国立競技場にいる筈の那珂に向かわざるを得なくなった。心配なのだ。
那珂自体、見た目からは想像も出来ないが、耐久力と継戦能力には特に秀でている。多少は持ち堪えるだろうが、それでも限度はあるのだ。
今はまだ、那珂とダガーとを繋ぐ令呪が消滅していない為に、彼女が死亡していないのが解るが、それでもあの状況である。
何を契機に、彼女が死ぬ事になるのか解った物ではない。早く此処に戻って来て欲しいと、切に、切にダガーは祈っていた。

 病的な目で新国立競技場を見下ろしていたダガーだったが、その意識は一気に、彼のデスクへと向けられる。
電話が鳴っている。急いで駆け寄る。オガサワラからの物である事を確認するや、急いで子機に手を伸ばし電話に出た。

「貴様オガサワラァッ!! 今の今まで何処で油を売っていた!!」

 子機を取るなり口元までダガーはこれを持って行き、ありったけの声量で子機の向こう側のオガサワラに怒鳴りつけた。
余りにもオーバーな怒りと思われるかもしれないが、ダガーの怒りはかなり正当な物である。何せダガーは今まで何度も、ダガーの携帯にTELを掛けていたのだ。
それにもかかわらず、オガサワラはダガーのTELに一度だって出なかった。UVMの社長であるダガー・モールスの電話を無視しただけでも案件に近いのに、しかも電話の内容が内容である。
オガサワラの命は別に如何でも良いが、那珂の身に何かあっては堪らない。それ程までの火急の用事を、オガサワラは無視し続けていた。
オガサワラもまた、ダガーが如何なる用事で此方にTELを掛けて来たのか、よもや知らない訳はあるまい。余りにも出ないのでダガーは、オガサワラごと那珂が死んだのではと本気で思っていた程である。

「ち、違うんですボス!! た、確かに出なかった事は事実ですが、そ、その――」

「貴様、知っていて無視したのか!!」

「ち、違います!! 状況が状況だった為に、気付くのが遅れたんです!! 後は、そ、そ……その……」

「何だ!!」

 さっきから、何かをひた隠しにしている事がダガーにはよく解る。
そしてその秘密が、言ってしまえばダガーの逆鱗に触れる為に、言うのを躊躇っている風な事も、薄々ではあるが察していた。

「な、那珂さんから、あるタイミングまで電話を掛けるな、って言われたんです!!」

「何、アーチ……那珂から、だと?」

 思わずサーヴァントのクラス名で言いそうになるが、其処は何とか呑み込んだ。それよりも、オガサワラの言った事が気になる。
まさかこの期に及んで、こんな嘘を吐くとは思えない。勿論、オガサワラが操られているとか言うのなら話は別であるが、それについて思索を巡らせ、時間を無駄にするのは余りにも馬鹿げている。ダガーは話の続きを促した。

「わ、私は一緒に逃げようと何度も説得したんですが、那珂さんは言う事を聞かず、か、勝手に競技フィールドに――」

「競技、フィールドだと!?」

 バッと窓の方を振り向き、競技場の方を見やる。よりにもよって一番危険な場所ではないか。
しかも、何が起こっているのか、競技場を黒い何かが覆い尽くし始めている!! タブレットをタップしてニュースチャンネルに切り替えると、黒いヘドロ状の何かが競技場を呑み込んで沈ませて行く、と言う続報がたった今入り始めているのだ。明らかにこれは、サーヴァントによる攻撃だ。

「オガサワラァ!! 貴様、其処に那珂を一人で行かせたのか!!」

「た、確かに行かせました!! で、ですが、『私には秘策がある』とか、『それにはオガサワラさんの協力が必要』だって言って聞かなかったんです!!」

「何!?」

「那珂さんは『自分は競技フィールドに向かうから』と言ったのと同じ時に、私には『急いで競技場の外に出て周りに誰もいない所に向え』と命令したんです!! そして、周りに誰もいない所に着いたら、『那珂さんから別れた瞬間から起算して八分後に、ボスに電話を掛けろ』って言われたんです!!」

 此処まで言われて、那珂の意図に気付いた。那珂はオガサワラを競技場から脱出させるのと同時に、この男を伝令代わりにしたのである。伝える先は勿論、彼女のマスターであるダガー・モールス以外にあり得ない。

「彼女は何て言っていた!!」

「わ、私にはよく解りませんが、れ、れ……『れいじゅ』、と言う物を使って社長室に那珂さんを呼んで――」

 其処で乱暴に子機を受話器に起くダガー。要するに那珂は今、競技場で戦っており、そして、逃げ出せないと解っていたからこそ、ダガーを頼ったのだ。
そう、令呪。これを使えば百%どんな所からも逃げ切れる。令呪は確かに貴重なソースだが、此処で切らねば那珂が死ぬ。四の五の言ってはいられない、今まさにダガーは三つの鬼札の内の一つを切った。

「――令呪の福音にダガーが命ずる」

 言ってダガーは、己の喉に刻まれた、UVM社のロゴマークを模したトライバルタトゥーに右手を当てる。

「我がサーヴァント、アーチャーの那珂をこの場に呼び戻せ!!」

 そう告げた瞬間、ダガーの喉に刻まれた令呪がカッと光り輝き始め、それと同時に一画を失う。
そして次の瞬間、デスク越しに那珂が何の前触れもなく姿を現していた!! 頭からつま先間で余す事無く、素潜りをした後のように彼女はずぶ濡れだった。
だが、そんな姿が問題にならない程、今の那珂は、ダガーの知る彼女とは別の存在になっていた。
腕に装備した連装砲は、マスターであるダガーの方に向けられており、それが途轍もない威圧感を彼に与える。だが何よりも恐ろしいのは、那珂の宿す双眸の輝き。今までの中には見られない、虎か狼を思わせる鋭い光は、ダガーを威圧するには十分過ぎるものがあった。

 那珂が、自分が連装砲を向けている相手が誰なのかに気付いたらしい。
ハッとした顔で艤装を解除し、ふぅと息を吐き、へなへなと両膝から地面に座ってしまった。

「さ、作戦成功……」

 疲労困憊と言った様子で、那珂が呟き、彼女を見かねてダガーが近寄ってくる。
かくして那珂は、令呪と引きかえにではあるが、あの地獄の如き世界から逃れる事に成功したのであった。






【市ヶ谷、河田町(UVM本社)/1日目 午後3:00分】

【アーチャー(那珂)@艦隊これくしょん】
[状態]健康、魔力消費(中の中)
[装備]オレンジ色の制服
[道具]艦装(現在未装着)
[所持金]マスターから十数万は貰っている
[思考・状況]
基本行動方針:アイドルとして、平和と希望と愛を守る
1.とほほ、もうライブはこりごりだよ~
2.ダガーもオガサワラも死なせないし、戦う時は戦う
[備考]
  • 現在オガサワラ(SHOW BY ROCK!!出典)と行動しています
  • キャスター(タイタス1世{影})が生み出した夜種である、告死鳥(Ruina -廃都の物語- 出典)と交戦。こう言った怪物を生み出すキャスターの存在を認知しました
  • 現在の交戦回数は、上記の告死鳥の分も含めて『2回』です。あと1回の交戦で、改二の条件を満たします
  • 新国立競技場で歌を歌った事で、改二の条件を一つ満たしました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「創生せよ……あぁ、これはとても語感がいい……。それとも、天昇せよ……? うむ、これは良いかも――」

 高度数百m地点を、パムに抱えられながら、元のアジトであるホテルセンチュリーハイアットへと向かっているレイン・ポゥと純恋子。
純恋子に纏われていた黒羽のライダースーツは既に解除され、元のパムの羽へと戻っている。
現在パムは、己の羽の一枚を彼女ら三名に作用するステルス現象に変化させ、自分達の身体の透明化に充てさせていた。誰かに見られたら事の為だ。
流石に便利な能力だとレイン・ポゥも思ってはいたが、さっきからブツブツと、パムが煩い。流石の純恋子も不気味に思っているらしく、胡乱そうな目でパムの事を見ていた。

「ねぇ、うるさいんだけど魔王様」

「む。それはまぁ……そうだな」

「? ……何か素直だな。何かあったのかよ、あの競技場で」

 パムが戦闘を楽しむと言うのはよくある事なので、それは良い。
如何も今のパムは思い悩んでいるようで、戦闘で負ったダメージが気がかりと言うよりは、何か戦闘で自分の心証や固定観念を覆される様な何かに出くわしたような。そんな空気を、レイン・ポゥはパムから感じ取ったのである。

「いやな、あの競技場で凄いかっこい――ゴホン、参考になる詠唱を唱えるサーヴァントと戦ってな。それを応用したい」

「私達の魔法って詠唱何て必要ないでしょ、固有の奴だし。やろうと思えばノータイムで行けるじゃん」

「此処から突き落とすぞ小娘。兎に角、そう言う事だ。だからな、お前に聞きたい、虹の道化師」

「何」

 もうナチュラルに虹の道化師である事を受け入れてる自分が、レイン・ポゥは恐ろしくて仕方がなかった。

「『天昇せよ、我が守護星―――魔王の光気を掲げるが為』、と、『創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星』、のどっちの詠唱が良いと思う?」

「……どっちも痛い」

「は?」

 拙い、逆鱗だったようだと思い直す。本気で考えなくては行けないらしい。
戦闘で選択肢を間違えて死ぬのなら兎も角、何故こんな戦闘とは無関係の所で選択肢を間違えると、物理的に首が撥ね飛ばしてくる相手と自分は同盟を組んでるのだろうと、レイン・ポゥは考えていた。

「そ、創生せよ……、の方かな」

 全部言うのはとても恥ずかしい詠唱なので、最初の数文字しかレイン・ポゥは言えなかった。

「私は、天昇せよの方かと。天へと昇ると言うのが好みです」

「そうか……うむ、そうか!! やはりそっちの方が良いか!!」

 ある程度悩んでから、パムは満面の笑みを浮かべ、純恋子の意見を採択した。正直レイン・ポゥには、どっちの詠唱の何が良いのかよく解らない。

「いや、実を言うと確かに『創世せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星』の方も捨て難いのだが、こっちの方は私と戦ったサーヴァントとの唱えた詠唱でな。そっちを採用すると所謂『パクリ』になりそうだったのでな。正直此方を使う事は嫌だったんだ。だからやはり、前者の『天昇せよ、我が守護星――魔王の光気を掲げるが為』の方がオリジナリティがあるし、私のキャラにも合致して良いなとは、薄々思っていたんだ。良いセンスだぞアイアン・メイデン純恋子。そして、虹の道化師。お前は実力こそ優れているがこっちの方のセンスがないな。普通に考えれば詠唱の中の魔王と言う言葉から、こっちの方が私好みだと解りそうなものだが、ハハハ、さてはお前は余り本を読んでないな。だからあまりセンスの方が磨かれてなかったんだ。よし、帰ったら一緒に私とセンスを磨いて修行






【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット近辺上空)/1日目 午後3:00分】

【英純恋子@悪魔のリドル】
[状態]意気軒昂、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]サイボーグ化した四肢
[道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている)
[所持金]天然の黄金律
[思考・状況]
基本行動方針:私は女王(魔王でも可)
1.願いはないが聖杯を勝ち取る
2.戦うに相応しい主従をもっと選ぶ
[備考]
  • アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました
  • パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
  • 遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました
  • メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました
  • 自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました
  • 現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません
  • 遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
  • キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世をテレビ越しに目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
  • 次はもっとうまくやろうと思っています


【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]霊体化、肉体的ダメージ(小)、魔力消費(小)、身体の内から自分ではない何かが皮膚を裂いて現れその何かに任せて暴れ回りたい程のストレス
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠
2.天昇じゃなくて昇天しろ馬鹿共
[備考]
  • 遠坂凛が実は魔術師である事を知りました
  • アーチャー(パム)と事実上の同盟を結びました。凄まじく不服のようです
  • パムから、メフィスト病院でキャスター(メフィスト)がドリー・カドモンで何を行ったか、そして自分の出自を語られました
  • ライドウに己の本性を見抜かれました(レイン・ポゥ自身は気付いておりません)


【アーチャー(魔王パム)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]肉体的ダメージ(中)、実体化
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]一応メフィストから不足がない程度の金額(1000万程度)を貰った
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘をしたい
1.私を楽しませる存在めっちゃいる
2.聖杯も捨てがたい
[備考]
  • 英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)と事実上の同盟を結びました
  • 新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、ランサー(高城絶斗)の存在を認知しました
  • すごくテンションが上がっています






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……来たか。ク・ルーム。我が配下にして無二なる友。討竜を成し遂げた不死身の英雄よ」

 その男が姿を見せた瞬間、警護を担当していた夜種の多くが、通り道の左右に分かれ、キビキビと整列を始めた。
そして彼らに見守られるが如く、岩地の道をゆっくりと歩いて進む男がいた。フードと一体化した黒灰色のローブを身に纏う、二mにも届こうかと言う偉丈夫。
両手に大剣を握り締め、油断なく、竜種の骨を削って造られた円卓の上座に座る男と、その対面に座っているスーツの男の方へと近付いて行く。
彼ら以外に、この円卓に腰を掛けるものはいない。歴代のアルケアの皇帝のみが腰を下ろす事を赦される、言ってしまえば選ばれた神の座に相当するこの円卓の席の大部分は、今は空白の状態だった。

 スーツを纏った男、ムスカ、神楽坂における一連の事件の黒幕とすら言えるこの男は、タイタス10世が大暴れしたのを見届けるや、全く無関係なNPCの風を装い、急いで新国立競技場から脱出。その後すぐにタクシーを利用し、元のアジトである百人町の高級ホテルへと帰還していた。
そして、サーヴァントである始祖のタイタスに諸連絡を行い、暫くしてから、ク・ルームが戻って来た。事のあらましは、こう言う事になる。

「……画策した企ての方はどうなっている」

 到達するなり、ク・ルームは訊ねた。いきなりこのような事をぶしつけに訊ねられたのは、上座に座る、王の中の王。
数千年続いた由緒ある古帝国にあって、『神』とすら時に同一視された事もある男。それが、上座の男である。
そんな偉大なる男に対してこのような態度を取れるのは、上座の男――始祖帝とク・ルームとが、旧知の間柄にして、同じ釜の飯を喰らい合った程の関係だからに他ならない。灰色のトーガを身に纏った、王の威風を放つ男は静かに口を開き始めた。

「余が当初思い描いていた、十番目に連なるタイタスを用いた策は、夢を用いる戦士の勇敢さを以って失敗に終われり」

「夢、とは? 始祖よ、其処まで解るのですか?」

 始祖のタイタスに対して、彼のマスターたるムスカが問うた。
これではムスカがサーヴァント(奴隷)で、タイタスの方がマスターの方だと、誰もが思うだろう。だが、ムスカが此処まで遜るのを、果たして誰が責められようか。
竜の肋骨を削って作った椅子の肘掛けに肘を付くこの男、魔術の始祖にして文明の創造主たるこの男の前では、ムスカの如き男は、忽ちその価値が消失してしまう。

「彼ら魔将は、我が手足にして我が耳目。余がその気になれば、山を隔てた草原、海を越えた島に魔将がいようとも、魔将が見聞きしているものは此処にいながら余も見聞出来るのだ」

「で、では始祖は此処にいながら、同志ク・ルームの視ていた物を……」

「それすらも出来ずに、魔術の王を名乗るなど……恥知らずにも程があろう」

「夢を操る戦士、とは何か。始祖よ」

「勇者よ。お前が見た戦士は、素養のない者が見ても不可思議な技を使う男にしか見えぬだろうが、あの戦士が用いていたものは夢なり。我らの生きる現実にも作用する夢よ」

「何を以って解る」

「それをこそ、愚問。認識の中に国を編む術を生んだ余が、よもや夢を見誤ると?」

 これを言われれば、ク・ルームもそうだと思う他がない。始祖の言う通り、『夢』については、始祖のタイタス程造詣の深い存在はこの地にはいないのだから。

「十番目の余は、夢の戦士の手によりまさに邯鄲に堕ちた。だが、勇者よ。お前の働きによりて、余の計画は一先ずの段階にまで至った」

「夜か」

「然り。夜の君主である月と、月の臣下たる星とが天球を行軍するその時間にこそ、我らに魔力が集まる時。そしてその時を以って、アーガの都は空に結ばれる」

「では、始祖よ!! この戦いは我々の勝利――」

「逸るな、貴種(マスター)。その言葉、口にするには余りに早い」

 タイタスの瞳が光った。それだけでこの場の気温が、十度も下がったような気配を一同は憶えた。

「時計の針が右に回る程に、余は実感する。異世界の勇者なる者達の強さを。そして、彼らの行いを知る度に、意識する。余の案に生じる、避ける事の出来ぬ綻びを」

 言葉を続ける。

「決して、気を緩めるな。聖杯戦争、一筋縄で行くものではない事は重々言っているだろう。現に、十番目の余は成す術もなく、夢を操る戦士に葬られたのだからな」

 ムスカに目を向けてから、佇むク・ルームの方に目線を向け、タイタスが口を開く。

「五度、滅ぼされたな。勇者よ」

「言い訳は、しない」

 その言葉にムスカは愕然とする。あの三十分程度の短い時間に、五回も殺されたと言うのか?
如何に弱体化しているとは言え、この魔将は竜種の王と互角以上の戦いを繰り広げた勇者なのである。それをいとも簡単に幾度も葬れる手合い……それが、サーヴァントなのかと。ムスカは改めて、己らの敵になる存在の強さと恐ろしさを再認した。

「責めた訳ではない。竜をも抑え込むこの男ですら、たかが半刻の戦いで五度も命を落としてしまう。聖杯戦争……いよいよ余も、力を蓄えねばならぬと、思っただけよ」

 一呼吸を置いてから、タイタスは口を開く。

「何れにしても、見事なりク・ルーム。お前の働きの甲斐もあり、余は今後の未来を決める天啓を得る為の素を得たり。二番目の余の下まで戻るが良い」

「……御意」

 身に纏う魔将の外衣をはためかせ、ク・ルームはこの場を後にする。
向った先はタイタスが『二番目の余』と言っていた者が幽閉されている場所……つまりは、タイタス2世が閉じ込められている石室であった。
2世は始祖を除けば最も優れた膂力と霊的資質を有するが、10世同様ある時期を境に乱心を起こし発狂してしまったが為に、専用の石室に閉じ込められているのだ。
これを常に番していなければならないのが、ク・ルームである。と言うより、これこそが本来のク・ルームの仕事なのである。

「……休ませなくても、宜しいのですか? 始祖よ」

「疲れなど、余の魔術で幾らでも治る」

「……成程」

 この恐るべき労働スケジュールが、何時か自分にまで回って来るのかと思うと、ムスカには、ゾッとしない話なのであった。






【高田馬場、百人町方面(百人町三丁目・高級ホテル地下・墓所)/1日目 午後3:00分】


【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ】
[状態]得意の絶頂、勝利への絶対的確信
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]普段着
[道具]
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:世界の王となる。
0.アルケア帝国の情報を流布し、アーガデウムを完成させる。
1.本日、市ヶ谷方面で行われる生中継の音楽イベントにタイタス十世を突撃させて現場にいる者を皆殺しにし、その様子をライブで新宿に流す。
2.タイタス一世への揺るぎない信頼。だが所詮は道具に過ぎんよ!
[備考]
  • 美術品、骨董品を売りさばく運動に加え、アイドルのNPC(宮本フレデリカ@アイドルマスター シンデレラガールズ)を利用して歌と踊りによるアルケア幻想の流布を行っています。
  • タイタス十世は黒贄礼太郎の姿を模倣しています。模倣元及び万全の十世より能力・霊格は落ち、サーヴァントに換算すれば以下のステータスに相当します。
  • 遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました。
  • 結城美知夫とコンタクトを取りました
  • 真っ先に新国立競技場から出た為に、内部で何が行われていたのかをほとんど知りません


【魔将ク・ルーム@Ruina -廃都の物語-】
[状態]健康
[装備]二振りの大剣、準宝具・魔将の外衣(真)
[道具]タイタス十世@Ruina -廃都の物語-
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:タイタスの為に動く
1.ムスカの護衛
2.道具である十世を守り抜く
[備考]
  • タイタスにより召喚された、魔将です。サーヴァントに換算すれば以下のステータスに相当します。

【クラス:セイバー 筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運E- スキル:勇猛:C 対魔力:C 戦闘続行:EX 異形:A 心眼:C 】

  • 準宝具の魔将の外衣は、Cランク相当の対魔力を付与させると同時に、『7回までは死んでも即座に復活出来る』と言う効果を持ちます(現在死亡回数は5です)
  • セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)、ライドウ、ザ・ヒーロー、英純恋子の存在を認知しました(タイタス1世もこれを理解しております)

※偽黒贄礼太郎(タイタス10世)及びク・ルームの影響で、廃都物語が数百万人規模で拡散されました。が、これでもまだアーガデウムの顕現には時間が掛かります






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





   346プロダクションの方々へ、私めにアイドルと言う素晴らしい女子や女性を預ける事を許された親御様、そして全てのアイドルの関係者様へ



   素晴らしい夢を見させて頂き、まことにありがとうございます。シンデレラプロジェクトは発足からずっと苦しい事も続きましたが、



   私にとってはどれもかけがえのない、一つの例外もなく素晴らしい思い出ばかりでした。



   未来に希望が満ち溢れ、若く、そして素晴らしい命を散らしてしまった責任者として、そのけじめをつけたいと思います。



   皆さま、今までありがとうございました。そしてごめんなさい。私は、耐えられません





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 目が覚めた時には、美城は公園のベンチの上だった。
其処に仰向けに寝かされていた美城は、意識が戻るなり、バッと起き上がり、辺りを見渡した。
何があったのか、最初の数秒は思い出せなかったが、それが過ぎる頃には鮮明に思い出していた。
確か自分は、自分の姿に化けた長身の怪人に、階段から突き落とされ、頭を打ち、意識を失ってしまったのだ。今も、打ちつけた後頭部がジンジン痛む。夢ではない。
そして今美城がいる場所は明らかに、新国立競技場の内装ではない。外だった。そしてその上、どう見ても霞ヶ丘町の風景ではない。
此処は何処だと、スマートフォンを取り出し地図アプリを開いた。如何やら<新宿>の富久町、その公園であるらしかった。

 普段はあまり人通りのない街の上、今の<新宿>で起った事件が事件だ。輪を掛けて、人通りが少ない。
東京都の中で一番活気のある<新宿>の住宅街である筈なのに、この過疎の波に攫われた田舎の商店街の如き静けさは、どうだ。
まるで、街全体が死んでいるようだと、美城は思った。スマートフォンが指し示した時刻は、夕方の六時。沈みゆく太陽は、既に白から、焼けるような橙色に変じている。
振える指で、新国立競技場で何が起こったのか、美城は改めて調べ、そして、スマートフォンを落としてしまった。
新国立競技場そのものが、忽然と姿を消し、そして、346プロダクションに所属するアイドルの多くが行方不明。
今回の責任者であった美城常務自体の行方も杳として掴めず、警察はその行方を今しがた捜査し始めたらしかった。

 だが真に生々しい情報が列挙されていたのは、SNSやニュースのまとめブログである。
アイドルの死を悼む記事やツイートもあれば、淡々と事件の流れをリアルタイムで纏めているものも。
そして、PV数やRT数を稼ぎたいが為に、ある事ない事を吹聴し、恣意的な編集を行う見るに堪えないものも。
その中に、今回のイベントの最高責任者であるところの、美城を非難する記事やツイートを見た時、息が止まりそうになった。
自分だけ逃げたと言うものもあった、最低だ、人間の屑だと言う意見もある。賠償金や慰謝料を支払われる可能性だってある事を示唆するものもあった。
自分の責任を追及するものも、当たり前のようにインターネットの各所で散見出来るのだ。それは当然の流れでもあった。
何故ならば今回のイベントにGOサインを出したのは他ならぬ、この美城本人であるのだから。

 自分は何故、此処にいる? 誰に手によって、連れて来られた?
そんな事は、何の問題にもならない。ただ解るのは、自分が築き上げてきた社会的地位も、個人・企業・法人問わぬ信頼関係も、全て失ってしまったと言う事だ。
これを認識した瞬間、美城は真っ先に、胸元からペンを取り出し、懐にいつも忍ばせていた手帳の一ページをちぎり、文章をしたためていた。
そしてその後美城は、近くのゴミ箱を引き倒し、それを踏み台に、近くの枝に己の着ていたスーツを紙縒り合せ、それを枝に巻き付けていた。
紙縒りあわされたスーツの先端は輪っかになっており、その輪っかに手を掛け、美城は、一気に何十歳も老け込んだような疲れた顔立ちで、静かに呟いた。ごめんなさい、と。そしてその輪っかに頭をくぐらせようとした時だった。

「およしなさい、美城さん」

 自分の名を呼ぶ声に、美城はバッと背後を振り返った。
其処には、よく知った人物がいた。何十年来の古い付き合い、と言う訳ではない。彼と知り合ったのは一週間にも満たない短い時間。
身に纏うスーツも、シャツも、ネクタイも、タイピンも、革靴も、腕時計も。全て、『一本』の年収以上を容易く稼ぐ男が纏える一級品。
それを嫌味なく着こなすのは、これまたエリート特有の、甘く整った顔立ち。結城美知夫。今回のライブイベントの際に、数億円の融資を美城に許可した、あるメガバンクの貸付主任であった。

「ゆ、結城様……貴方が如何して、此処に……」

「住まいが近かっただけですよ」

 短くそう答えながら美城の下に近付いて行くや、目にも留まらぬ速さで彼女のシャツを引っ掴み、そのまま地面に押し倒した。
突然の事だったので彼女は仰向けに勢いよく倒れ込み、強かに頭を打ちつけてしまう。
それを悪びれる事もなく結城は、彼女が脱いでいたハイヒールの右足に丁寧に畳んで入れられていた紙を取りだし、其処に書かれていた内容を読む。

「……やはり、遺書でしたか。そしてこっちは――」

 首吊りの為の、言ってしまえば『縄』と言う訳だ。
自殺の理由は、言うまでもない。今回の事件が、耐えられないからだろう。

「何で、何で邪魔をする!! お願い、私を……私を死なせて!!」

 結城の意図に気付いた美城が、それまで被っていたキャリアウーマン然とした仮面の全てを脱ぎ捨てた、本当の素顔で叫んだ。
いや、今回の事件の当事者になって、誰が気丈な姿でいられるか。彼女もまた、良心の呵責に耐えられなかった一人の人間であった。

「今の貴女にとって、こんな言葉など聞きたくもない陳腐なものなのかもしれませんが……死ぬ事は、逃げでは?」

「そうだ、そんな事……解っている!! だが、私は……私は、どうしたらいいの……!?」

 其処で顔を覆い、美城は泣き始めた。結城に引き倒された時点で、既に涙で濡れていたその顔は、化粧が崩れる程グシャグシャになっていた。

「皆、私なんかよりもずっと未来が輝いてて……、皆、とっても良い子達だったのに……どうして……どうして……、皆死んでしまったの!? ……どうして、私だけが、生き残ってしまったの……!? どうせなら、皆と一緒に、消えてなくなるべきだったのに……」

 其処で美城は、本当に大声で泣き始めてしまった。
三十路も過ぎ、じき四十に達するかと言う年齢の女性が、子供のように大泣きしているのだ。それ程までに、彼女の身に襲い掛かっている重圧は、身体を外側から圧迫し、内側から身体を張り裂いて来る程の苦しさなのである。

「こんな苦しみ……耐えられない……!! こんな重荷を背負って生きて行くなんて、私……私……!!」

「恐らく貴女は、生き残るべくして生き残ったと、私は思いますな」

 美城の肩に手を掛け、結城が呟く。その言葉を受け、美城は、何を言っているのか解らないと言う風に、彼の方に顔を向けた。

「あれから、もう三時間も経っています。酷い物でした。恐らく、逃げ遅れた方々は一人残らず死に絶えたでしょう」

「では何故、私は今も――」

「それは解りませんが……、恐らくは、貴女が生き残ったのはきっと、偶然ではない筈です。あんな酷い所から、貴女だけが生き残る。偶然と考えるには、余りにも虫が良過ぎる。貴女は、生き残るべくして、生き残ったのだと私は思います」

「そんな事……解らないでしょ……」

「そうですね。ですが、死んだアイドルの方々も、貴女に後を追って貰う事を、望んではいないと思いますがね。寧ろ、生きていて欲しいと、思っている風に私は思いますが?」

 結城の言葉に、目を見開かせた。そんな事、考えもしなかった。

「ば、馬鹿な……私に、一体何が出来ると、言うの……!? こんな、悪運だけが強い女に、何が……!!」

「それを、一緒に私と話しあいましょう。今回の事件、貴女に融資をしてしまった私も、責任を感じています。何処かで融資を断っていれば、もしかしたら、違った未来があったのかもと思うと、私は……」

「あ、貴方は関係ない!!」

「そう言って貰えると、私も大変嬉しく思います。……美城様、如何か自殺だけは思い止まって下さい。それに此処は目立ちます。今は貴女も有名になってしまわれた。此処から私の住まいが近い。其処で落ち着いて話し合いましょう」

「……」

 無言で美城は立ち上がり、結城の肩を借りた状態で、何とか靴を履き、よろよろと歩き出した。
向う先は、結城の住まいである、富久町から歩いて数分の、超高級タワーマンションであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「此方です」

 結城に案内されたタワーマンションは、差別的な空気に満ちた言葉だが、文字通りの人生における勝ち組だけが住める物件だった。
ロビーからして既に高級感あふれる佇まいなだけでなく、通路も清掃が整っており、内装自体も現代的。
――だが、結城の部屋は、美城の予想していた部屋の内装を大きく裏切る、言ってしまえば異質その物の空間であった。

 所々に設置された、様々な数値が絶えず変動する用途不明のコンソール、液晶TVのそれとは違う巨大ディスプレイ、TVニュースでも見た事のあるスーパーコンピューター。
そして何よりも目を引くのが、随所に陳列された、何かを培養しているカプセルと、其処で蠢く何かの生物。
子供の頃に見たSFもののアニメや特撮などに出てくる、悪のマッドサイエンティストのイメージ宛らの様相。それが、国内最大級の総資産を誇る某メガバンクの貸付主任、結城美知夫のプライベートの象徴たる、私室の姿であった。

「子供の頃からの趣味……と言われると、ハハ、少々厳しいでしょうかね。これでも結構、こう言うのに憧れておりましてね。ずっとこう言う部屋にしてみたかったのですよ。尤も、同僚からは子供っぽいと笑われましたがね」

 笑みを浮かべ、鍵を掛ける結城。何が何だか、と言う風に、結城の先を歩かせられていた美城は、異様な空間を見渡すだけ。
結城はやはり、部屋の主だけあって歩き慣れている。設置された物々しい機械の類の密集した方向とは違う、クラシカルなデザインの棚が趣味の良さを窺わせる、ホームバーの方へと向かって行く。棚の中には、酒の知識を少し嗜んだ者が見れば、直にそれと解る程の高級銘柄がズラリと並んでいた。
現代の科学技術の何年先を行っている、と言う装置や機械が部屋の殆どを埋め尽くしていると言う奇妙過ぎる空間の中にあって、このホームバーだけが、タワーマンションの部屋に備わっていた元々の設備の名残を残しており、寧ろ異常さをより際立たせていた。

 棚から酒瓶を一本取り出し、手慣れた風にそれを開け、ショットグラスにそれを注いで行く。
ストレートだった。如何やら氷を入れるオンザロックや、天然水で割る水割り等を好まない、無垢の味わいを楽しむのが好きな性格らしい。

「サントリーから販売されている、響の三十年物です。日本はウィスキーの歴史が浅いからとツウには馬鹿にされがちですが……いやはや、国内外の銘柄を色々飲み比べると、これが中々侮れない。これは中々の逸品ですよ」

 そう言って結城は、美城の方に、響と言う名前のウィスキーを注がれ、琥珀色に変じたショットグラスを差し出した。

「わ、私は遠慮しておきます……」

「おや飲めませんか? それとも、不謹慎でしたかな。落ち着かせる為に用意しましたが……いやはや、所詮は馬鹿みたいに酒を飲む銀行員の間でしか通用しない処世術でしたか」

 残念な風に、ショットグラスと響の酒瓶をカウンターテーブルの上に置き、溜息を吐いた。何処までが本気だったのか、美城にはよく解らない。

「……煩いぞマスター。気が散る、別室で待機していろ」

 それは、こんな事が起きる前の美城以上にヒステリックで、しかし、美城以上に知性の奥深さを感じさせる女性の声だった。
立ち並ぶ機械と機械の影になっている所からヌッと現れたその女性は、射干玉の如き黒髪を後ろに長く伸ばした、白衣とも、白装束とも取れる服を身に纏う女性だった。
年の頃は、美城と大差ないかも知れない。だが、何故だろう。声からは女性である事は解る。胸の隆起も、女性特有のもの。
だが不思議な事に美城は、女性を見た瞬間、『男性的』なイメージを感じ取ったのだ。男らしい、と言う印象を受けるアイドルは多々いたが、男性としての側面が見られると思う程の女性は……美城は、これまでの人生で、出会った事がなかった。

「あぁ、キャスターか。彼女だよ。以前話していた、アイドルプロダクションの……」

「……成程、彼女がか」

 如何やら結城と、キャスターと呼ばれる女性は、同棲関係に近い間柄のようで、しかも、美城の事を既に話していたようである。

「だが彼女は、いなくなった筈ではないのか? 警察も捜索している事だろうし、何よりも……何故彼女を此処に招き入れた? 手癖の悪さを、自慢する為か」

「ハハハ、馬鹿な。熟れるだけ熟れて、後は醜くなって行く女性は、僕の趣味じゃないんだ。まぁ、抱かなきゃ行けない時は抱くんだけどね」

 其処で結城は、自分の分のショットグラスに、響の中身を注ぎ、蓋を閉める。
そして、美城が、何が何だか解らないと、顔の向きをキャスターの方に向けた瞬間を狙い、酒瓶を彼女の脳天に振り落した!!
ガシャン、と言う音。どれだけの力で殴りつけたのか、酒瓶は砕け散り、砕けたのと同時に頭から血を流し、美城は俯せに倒れ込んだ。
シャツに、琥珀色の染みに混じって紅い液体が伝い始めて浸みこんで行くのを、結城は面白そうな笑みを浮かべて眺める。

「ま、何が言いたいかって言うと、如何だろう? 彼女、チューナーにするには良いんじゃないかな? ってさ」

「……お前と言う奴は」

 呆れ気味に、キャスター、ジェナ・エンジェルが呟く。

「『窓の外で面白いものを見たから、ちょっと話してくる』……。何を見つけたのかはその時は解らなかったが、そう言う事か」

「まぁね」

 事の顛末は、ジェナの言葉の通り。
急いで新国立競技場から立ち去り、務めている銀行の<新宿>支店に戻らず、今日はこのまま行方不明を装いフケ込もうと思い、
結城は自宅のタワーマンションに戻っていたのだ。流石に情報戦に強いジェナは、新国立競技場で起った事件をある程度は理解していたらしく、その時はかなり心配していた。
どちらにしても何とか生き残った結城は、ジェナの作ったこの工房に引きこもり、暇を潰していたのだが、ふと、窓を眺めていると、公園に見知った人物がいたのを発見した。
それこそが、346プロのシンデレラプロジェクトの責任者にして、最新の融資相手、美城常務その人だったのだ。
階数がそれ程高くないのが幸いした。もっと高ければ、近くの公園に一人だけぽつんと佇んでいた女性が、美城だとは知る由もなかったろう。
そして、彼女を使った面白い遊びを思いつき、結城は彼女にコンタクトを取ったのだが……流石に、自殺を試みようとするなど思わなかった。
其処で、口八丁手八丁を用い、美城を此処まで案内し――そうして、今の様な行為を行った。美城は今もカウンターテーブル越しの床で、ビクビクと、魚の活け作りのように痙攣を続けていた。

「如何だろう、遊べるかな」

 無邪気な、子供の声音。

「……丁度、ウィルスの補充も少しは済んだ所だ。遊べるかは兎も角、チューナーには出来るさ」

「おっ、さっすがキャスター先生。確か、魔術って奴で傷を治せるんだろ? 治してさっさとチューナーにしちゃおうぜ」

 カウンターテーブルに両肘をかけた状態で、だらしなくウィスキーを口に運びながら、結城はジェナに対してそんな提案をした。
そして、そんな悪魔的な提案に対してジェナもまた、悪魔的な微笑みで返した。今からやる事に対して、面白さを感じてる事の証左であった。

 魔界都市に神はいない。何故ならば、魔界に跋扈するのは何時だって――悪魔と、悪魔のような『人間』だけであるから






【市ヶ谷、河田町方面(富久町・超高級マンション)/1日目 午後6:00分】

【結城美知夫@MW】
[状態]いずれ死に至る病
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]銀行員の服装
[道具]
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利し、人類の歴史に幕を下ろす。
0.とにかく楽しむ。賀来神父@MWのNPCには自分からは会わない。
1.<新宿>の有力者およびその関係者を誘惑し、情報源とする。
2.銀行で普通に働く。
[備考]
  • 新宿のあちこちに拠点となる場所を用意しており、マスター・サーヴァントの情報を集めています(場所の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
  • 新宿の有力者やその子弟と肉体関係を結び、メッロメロにして情報源として利用しています。(相手の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
  • 肉体関係を結んだ相手との夜の関係(相手が男性の場合も)は概ね紳士的に結んでおり、情事中に殺傷したNPCはまだ存在しません
  • 遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました
  • 早期に新国立競技場から退散した為に、内部で何があったのかの殆どを理解していません
  • 346プロダクション(@アイドルマスター シンデレラガールズ)に億の金を融資しました
  • 宮本フレデリカがチューナーである事を知っています
  • ムスカと接触、高い確率で彼が聖杯戦争に何らかの形で関わっているのではと疑っています






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     心に シンデレラ

     私だけじゃ始まんない

     変われるよ 君の願いとリンクして

     誰かを 照らせるスター☆

     いつかなれますように…

     動き始めてる 輝く日のために