Case1:区内某商社に通う商社マン、加藤俊也の場合 

 加藤俊也は率直に言って、相当に出来の悪い営業マンだった。顔が悪い上に口下手で、その上性根も根暗なそれ。とどめに、営業の業績も、社内で最低と来ている。
上司の心証はもとより、同僚の心証も頗る悪く、給湯室に足を運べば女性従業員が陰口に華を咲かせる代表の社員だった。
次の人事異動の時には窓際部署に配置される事が約束されているような男。自主退職を、誰よりも望まれる男。
それが、某商社の従業員が、加藤俊也と言う男に抱いていたイメージであった。

 ――それが、ある日を境に、別人になっていたのである。
どもりがちだった口調からはどもりが消えてなくなり、性格も身体の中身を全て変えたように明るいそれに変わり。
顔の悪さだけは流石に変え難かったが、服装と髪型を清潔なそれに変えるだけで、大分見違えるようになった。

 だが一番変わったのは、外見ではない。その成績が百八十度転換したのだ。
加藤はものの三日間で、社内で一番優秀な営業マンが月に成立させて来る商談契約の数と同じ数の契約を取り付けたのである。
超人的を通り越して、最早悪魔的な営業手腕であると言わざるを得ない。社内の誰かが言った。加藤は悪魔と契約したのではないかと。

 加藤俊也はたった二日で、それまでの自分のイメージの払拭に成功した。
コミュ症の無能と言うイメージが、一転。口達者で明るくて、その上に成績も良い。忽ち彼は、社内でも一目置かれる出世頭の一人へと躍り出た。

 加藤は一昨日、極めて大口の商談契約を取り付ける事が出来た。
その契約先との商談を成立させる為、様々なライバル会社が接待をしたり袖の下を送ったりしていた。
加藤の通う商社は、その接待合戦に出遅れた。今更接待をした所で、最早時間の無駄だろうと社の幹部達も諦めていたのだ。
それなのに彼は、商談を成立させて来たのだ。接待もしていなければ袖の下もなく、商談を成立させた加藤を、社は英雄だと称賛した。その営業手腕を魔法のようだと褒め称えた。

 そしてそれが、加藤俊也の最期の契約となった。
商談を成立させた後、加藤は何を思ったのか――自分の営業手腕に過度の自信を抱いたのか
彼は歌舞伎町の暴力団事務所に足を運び、営業を開始し、カチコミか何かかと勘違いした構成員のリンチを受け重傷を負った。
路上にほっぽりだされた加藤は、通行人の通報を受け、その後病院へと搬送された。
頭蓋骨陥没、全身の複雑骨折、神経断裂、脳挫傷。特に大脳に致命的なダメージを負ったという。
加藤が今後言語障害と全身マヒと付き合って行かねばならないと言うのは、彼を診断した医師の談であった。

Case2:区内某大学に通う学生、柿木健介の場合

 一言で言うのならば柿木健介は、女と縁のない学生だった。つまり、童貞だ。
女っ気がまるでなかった高校までの生活。柿木は自分の人生は大学に入学した時に変わるのだと本気で信じた。
だから高校二年から本気で受験勉強をし、その甲斐あって、見事難関私立への現役入学に彼は成功した
これで自分の大学のネームバリューにつられて、女が寄って来ると、入学前に本当に夢想した。

 だが、モテない。あれだけ勉強して良い大学に入ったのに。何故なのか。結論を言えば柿木は自分のキャラクターを弁えていなかった。
似合う顔じゃないのに、髪の色を茶に染めた。似合いもしないのに、洒落た服も買った。そして何よりも、似合うキャラじゃないのに、チャラついた雰囲気を醸し出そうとした。
つまり柿木は、自分がどう振る舞ったら良い印象で見られるか、と言う事に全く気付いていないのだ。
良い大学に入ったエリートなのに、雰囲気も軽くて親しみやすい。それが柿木の狙った、女性に好かれる自分の造型であった。
……実際柿木が、彼の入ったサークルの同級生や先輩からどう見られているのかと言えば、空回りしまくった痛い奴、なのだが、本人だけがそれに気づいていない。

 それがある日を境に、急に女性に好かれるようになった。
何かが変わったと言えば、何も変わっていない。顔も髪型も服装のセンスも、同級生の知る柿木健介のそれ。
何も変えていないのに、モテ始めた。同級生が寄ってくる、区内の女子高の生徒が寄ってくる、何故だか知らないが、女性ウケが途端によくなった。
サークルの人間に、自分が童貞を捨てた事を意気揚々と柿木は自慢し始めた。十回は射精したとも言っていた。
真偽は流石に不明だが、少なくとも、女性が寄り付くようになったのは、事実である。

 柿木は、自分の灰色の高校生活の事を思い出すのか、大学生よりも高校生と付き合う傾向が強い学生だった。
バイト先や、歌舞伎町、高田馬場など、女子高生がたむろする場所などこの区には数多い。
其処で柿木はナンパをし、彼の心意を知らずに、ホイホイとついて行く女性が後を絶たない。

 一昨日、柿木は意気揚々と、サークルに入った事により出来た学友に、女子中学生を抱いた事を自慢した。
流石に今回ばかりは反響が大きかった。「やるなぁ」と言う声もあれば、「ロリコンかよ」と非難する声もあった。
しかし、多くの男達の羨望を一挙に集める事は出来たのは事実。性欲も満たせ、自尊心も満たせる。柿木健介は、これ以上となく満ち溢れた性生活を送れていた。

 ――翌日柿木健介は、殺人の現行犯で逮捕された。
犯行内容は常軌を逸していた。世田谷区の住宅街に足を運んだ柿木は、ある一軒家へと押し入り、その家に主婦に暴行。
主婦が面倒を見ていた生後数ヶ月の女児の膣に、男根を突き入れたのである。身体の機能もまだ完成し切っていない赤ん坊が、当然これに耐えられる筈もなく。
膣の破ける凄まじい痛みに悲鳴を上げて、赤ん坊はその場で死亡。強姦罪以前に、殺人罪で起訴されたと言う訳である。

 当然柿木健介が、彼の在学していたW大学から除籍、退学処分にあった事は言うまでもない。

Case3:歌舞伎町で水商売に従事する女性、高山良子の場合

 高山良子は歌舞伎町で、仕事に疲れた男達の接客業……身も蓋もない言い方をすれば、キャバクラ嬢として働く女性だった。
顔と身体のプロポーションが仕事上の全てとも言えるこの業界において、高山は、かなり微妙なラインの女性であった。歳も、顔も。
指名された男性から、「君指名写真と随分顔が違うね?」と遠回しに言われた回数は、数知れない。
本当ならば頬を引っ叩いてやりたいところなのだが、腐っても客商売。朗らかに笑って「やだ~社長さんったら~」と言って場を和やかにしなければならない。

 昔ならばいざ知らず、今はインターネットもSNSも高度に発展した時代である。
今日日キャバクラに限らず、風俗もソープも、どの嬢が外れでどの嬢が当たりかと言う情報は、その店の名前で検索をすれば簡単に把握が出来る。
指名する程の女ではない。それが某ちゃんねる及び、キャバクラ店の評価サイトが、高山良子に対して下した評価であった。

 高山は女性である――いや、こんな仕事に従事する女性だからこそ。
女性と言う生き物が抱き続けるだろう究極の野望、永遠に美しくありたいと思うのは、至極当然とも言えた。
しかし、そんな願望が叶う等とは、本気で高山も思っていなかった。当たり前だ。高山はじき二十八になるいい大人だ。
同じキャバクラ仲間と話す。キャバクラ嬢を止めたらどうするのかと。嬢などいつまでもやってられる仕事ではない。
今の内に一生分の金を稼いで貯金をし、適当な所でパートをして過ごすか。或いは、誰だっていい。
理想は堅実な会社員、最悪ヤクザとでも結婚をして、場を固めるのがセオリーなのだ。その店で一番人気の嬢などは、若くして数千万にも届く貯金があるなどザラだ。
高山には、数十万の貯金しかない。これでは到底今後の人生を乗り切れない。所謂正規雇用の社員になろうにも、職歴欄にキャバクラ嬢など書ける訳がない。
これからどうやって生活をすればよいのか、眠ろうと布団の中に入ると、その不安の影が脳裏にチラつくのだ。――美しささえあれば!! 全てが解決するのに!!

 ある日を境に、高山良子は非常に美しくなった。人間性が、と言う意味ではない。その顔面からプロポーションに至るまで、全てが変わっていた。
顔付きはその店で一番人気の嬢を遥かに超え、身体つきは肉感的で非常にエロチシズムに溢れていて。
元の高山を知る店長や嬢達は、どの整形外科の先生に手ほどきされたのかとしつこく聞いて来た。高山は自慢げに、「神様が授けてくれた」と返すだけ。
別人のようになったその日から、高山はたちまち店の人気嬢となった。それまで一番人気であった女性の人気を、全て一瞬で掻っ攫ってしまった程である。
気を良くして指名した男達が、高い酒を注文してくれる、ぼったくりに等しい価格のフルーツの山盛りやおつまみをジャンジャン頼んでくれる。
店の売上にも直接的に貢献してくれる上に、それまで得られなかった、男性からチヤホヤも獲得出来る。高山良子はまさに、人生の絶頂の最中にいる気分であった。

 そんな高山が昨日から行方知れずになってしまった為に、店は一時騒然となった。数日間も店に来ないし、足立区の住まいの方に連絡を寄越しても反応がない。
何処ぞの悪い男にでも引っかかったのではないかと同僚のキャバクラ嬢や従業員達は噂した。本来ならばやりたくない手段だが、店長が警察に行方不明者届も出した。
最初に高山良子が店に来なくなった日と同日、同姓同名の老婆が、高田馬場駅の裏路地で野垂れ死にしていた事がニュースとなっていた。その老婆は九十歳であった。

Case Special:連続殺人犯、雨生龍之介の場合

「すげぇよアンタぁ、こんな事が出来る何て!!」

 <新宿>は歌舞伎町の裏路地を所在地とする、小ぢんまりした内装のバー『魔の巣』にて、見るからに軽薄そうな雰囲気の男が、熱っぽい声で賞賛した。
薄暗い室内、ムーディーなBGM、黙々とグラスを拭き続ける顔中髭だらけのマスター。如何にも落ち着いたバーだったが、その部屋の中で、この男だけが浮いていた。
蠱惑的で洒脱そうで、それでいて何処か軽そうなこの男は、<新宿>の繁華街の夜には相応しそうな男ではあるが、少なくとも『魔の巣』で酒を飲むには、子供っぽい。
雨生龍之介。魔の巣のカウンター席にて、ジン・トニックを飲みながら楽しそうにiPadを操作している男の名前である。

「いえいえ、それ程のものではございませんよ」

 龍之介の左隣の席で、ウイスキー・ソーダを口にする男が、控えめな声で謙遜する。
ずんぐりむっくりと言う言葉が、これ以上とない相応しい体型の男だった。背は龍之介よりも頭二つ、いや、下手したら三つ分ほども小さい。
脚も子供の様に短く、胴回りもとても太い。人間の体について研究している学者が彼を見れば、胴長短足のサンプルとして即座に採用を決めかねない程の男だ。
だが、男は酒を飲んでいる事からも解る通り、断じて子供ではなかった。黒いスーツに山高帽、茶の革靴を着こなすその様は、子供とは思えない。
いや寧ろ、下手な人間が着ようものなら即座に浮くであろう黒尽くめの服装が此処まで似合っていると言う事から見ても、ただ者ではない事が窺える。
そして極め付けが、男の顔つきだ。異様に大きい垂れた目と、張り付いた様に浮かべている、白い歯を見せつけるような薄気味悪い微笑み。
ある者がこの男を見たら、きっと不気味で近寄り難いと思うだろう。だが一方、ある者がこの男を見たら、不思議な親近感を覚える事であろう。兎に角、不思議な魅力を醸し出す男だった。

「だって、見てくれよこれ。<新宿>の商社に勤めるサラリーマンが重傷、W大学の学生が殺人の罪で逮捕、歌舞伎町で老婆が老衰で野垂れ死に……」

 尚も熱が冷めやらないのか、龍之介は言葉を止めない。

「一見して共通点がなさそうに見えるこの三人、俺は間近で見たから知ってるぜ。全員アンタの『客』だった人間じゃないか!!」

「ホッホッホ」

 山高帽の男は、耳に残る特徴的な笑いを浮かべて、龍之介の言葉を濁した。

「アンタすげぇよ本当に、人を幸せにしておきながら、後からそいつの大事なものを命も幸せも全部奪って行く何て……本物の悪魔だぜ!!」

「龍之介さん、それは違いますねぇ。私は悪魔でもなければ、人の命も幸せも不当に奪ったつもりもありませんよ」

「へ? でもあんた、三人とも無事にすまさせてないじゃん。ホラ、これ」

 言って龍之介は、手元に置いてあった、山高帽の男のiPadを操作し、先程見ていたニュースのタブを開いた。「どれどれ」と山高帽の男が覗いてみる。
<新宿>の商社のサラリーマンを暴力団構成員がリンチした事件、W大学の学生が生後間もない赤ん坊をレイプして殺人した事件、歌舞伎町で野垂れ死にした老婆……。
龍之介は知っている。この三人は、目の前の山高帽の男が、彼らが浮かべていた満たされない表情に気づいて近づいて来て、商品をセールスした客であると。何故知っているのかと言えば、話は単純。龍之介は近場で、その様子を見ていたからに他ならない。

「龍之介さん、私はあくまでもセールスマンです。しかも私は、日本で一番セールスマンの基本に忠実なセールスマンだと、自負しておりますから」

「その基本って?」

「セールスマンは相手の需要を満たさねばならない、と言う事ですよ。私の場合は、『ココロのスキマ』を埋める事を重視しております」

 言い終えてから、男はウイスキー・ソーダを呷った。「ココロのスキマねぇ……」、と龍之介は考え込む。 

「要するに、不満って事で良いのかい、それって」

「乱暴な言い方ですが、その通りですな。龍之介さん、先程貴方がiPadで示したその三人は、ある時期までは確かに幸せだったのですよ。それは保障致します」

「でもあんたが死なせるよう仕向けたじゃないかこう……『ドーン!!!!』って言って人差し指突き差してさ」

 言いながら龍之介は、山高帽の男に人差し指を突き付けるジェスチャーをして見せる。
普通の人物であったら失礼だと言って叱りそうなものであるが、この男はあいも変わらず、ふてぶてしい笑みを浮かべているだけだった。

「龍之介さん、私の商売する状況を見ていた貴方なら解る筈ですよ。私があの三人に商品を売りつける際に、私は条件を付けた筈です」

「条件……あ~あ~、言ってたなそういや。何て言ってたのかは忘れたけど」

「自分に自信がつくようになり、話し上手の聞き上手になれるネクタイを差し上げた加藤俊也さんには、『自分の会社よりも大きい規模の取引先とは取引してはいけない』。
女性に好かれやすくなるワックスを差し上げた柿木健介さんには、『高校生以下の年齢の女性とは絶対に交際してはならない』。
顔から身体までを自分が理想とする美女にしてくれる化粧用品一式を差し上げた高山良子さんには、『貢物は絶対に受け取ってはいけない』。……と。この三人はこのような条件を付しました」

「みーんな破ったよな」

 言ってから、龍之介はジン・トニックを口へと運んだ。

「私は自分でもお人よし過ぎて悩んでいましてねぇ、困っている人を見かけるとついつい助けてしまいたくなるのですよ」

 本当かよ、と言った目線に流石に山高帽の男も気付いたらしい、直に言葉を続けた。

「龍之介さん、人の満たされない心と言うものは解消されるべきだと私は思っておりますし、不幸でいるよりかは幸福でいる方が絶対に良いに決まっていると、私は思っております」

 ――「ですが」

「幸福は一極に集中させてはなりません。不幸だった人がある日幸福になり、人生が薔薇色になる。それは素晴らしい事だと思います。
ですが、その方が幸福になり過ぎる事によって、今度はそれまで幸福だった人が不幸になり、今不幸の中にいる方が更に不幸になる。
解りますか龍之介さん? 私の扱う道具は、幸福になり過ぎる事も十分可能です。しかし、なり過ぎてはいけないのです。『節度を持たねば』なりません。
そうしなければ人は……幸福を貪り続けるだらしのない人になってしまいますから」

 カラッと、山高帽の男が、ウイスキー・ソーダの中の氷を揺らして見せた。ロックアイスは、三つあった。

「セールスマンは、契約と責任を重んじます。私は契約を遵守致しますが、それは相手にも強います。
享受した幸福の度量によって、契約違反のペナルティは決められねばなりません。ですので、龍之介さん。私は相手の不幸を奪っているのではありません。殺しているのでもありません。幸せの代償を払って貰っているだけなのです」

「……な……」

「?」

 何処か疑問気な顔付きで、山高帽の男が龍之介の事を見上げた。

「何て、COOLで、CLEVERで、STOICな考え方なんだ、旦那ァ!!」

 龍之介は、目の前の男の――自分の懐に今もしまわれている、契約者の鍵だか言う青色の鍵に導かれてやって来た小男の言に、感動を覚えていた。
当初龍之介は、東京の<新宿>などと言う街に訳も解らず呼び寄せられ、しかも聖杯戦争だか言う茶番劇を行わねばならないと聞いた時には、心底辟易していた。
帰りたいとすら思った。誰かが勝手に解決してくれないか、と思っていたくらいには、聖杯戦争など如何でも良かった龍之介だったが……いやはや、この男と出会えたのならば、存外悪い物ではなかったのかも知れない。

 雨生龍之介はもといた世界に於いて、司直や捜査機関の手を巧みに掻い潜り、猟奇殺人を繰り返していた連続殺人犯であった。
今まで殺害してきた人数は両手の指の数を超える程。死刑など確実とも言える人数を殺して来ていながら、この男が今まで犯人として疑われてすら来なかったのは、
この男の殺人の手口が洗練されたそれであり、かつ、捜査の目を絶妙に掻い潜る方法を本能的に行っているからに他ならなかった。
龍之介にとって殺人とは一種の芸術表現であり、――本人達は同列にするなと激昂するだろうが――哲学者が命題(テーゼ)を求める行為に等しいのである。
彼は『死』と言う現象が如何なるものなのか、解体しようと試みていた。アニメやコミック、小説に映画などで表現された死と言うのは、嘘っぱちのそれ。
死んでいるのはこの世にいる人物ではない非実在の存在或いは役者がこう演じろと言われて演じているだけのそれで、実際には死んでいないのだと解ると、
実にチープなものとしか映らない。彼は死を理解しようと、解体しようと、様々な行為を行ってみた。つまりは――殺人である。

 実にいろいろな方法を試した。刃物も使った、電気も使った、水も使った、酸素も使ってみた。
原形を留めぬ程バラバラにして見た事もあれば、出来るだけ綺麗な状態で殺そうと努めた事もあった。
殺す対象も様々だ。男も殺したし女も殺した。大人も子供も老人も。外国人だって殺して来たかも知れない。
色々な方法を試しに、色々な人物を殺して行く内に、雨生龍之介はある種のスランプ、マンネリに陥った。
どうも此処最近の殺人は、昔にやったそれをなぞっているような気がしてならない。二番煎じはなるべく避けたい龍之介にとって……、殺人を一種の芸術表現だと思っているフシがある龍之介にとって、これは死活問題であった。

 現状のスランプを打破する為に、龍之介は、一度原点に立ち戻ってみようと考えてみた。スランプやモチベーション低下に悩まされる芸術家が良く取る方法である。
龍之介の原点とは、実家であった。彼は実に五年ぶりに田舎へと戻り、家族が寝静まった頃を見計らい、自分の表現行為の始点となった実家の土蔵へと足を踏み入れた。
彼の姉が、最後に見た時とは全く変わり果てた姿で、彼の事を出迎えてくれた。雨生龍之介の姉は、五年前から行方知れずであった。
当然だ、何故ならば龍之介の許されざる芸術活動の最初の犠牲者こそが、彼女の実の姉であるのだから。

 ――その姉の亡骸の横で、青い鍵が光り輝いていた。
思わず眼を龍之介は擦った。茶と、酸化して茶味がかった白色と、中途半端な黒色の三色しかない土蔵の中で、リンのようにその鍵は淡く光っていたのだ。。
誘蛾灯に誘われる羽虫みたいにその鍵に近付き、手に取った瞬間――雨生龍之介は、実家の田舎から、都会も都会の東京都新宿区……いや、<新宿>に転送された。

 <新宿>を舞台に行われる、どんな願いでも叶える事が出来る聖杯を賭けた聖杯戦争? 
人類史に名を遺した英雄や異なる世界の強者達をサーヴァントとして従える? どれもこれも、龍之介には魅力に映らない。
そもそも龍之介は殺しは好む所ではあるが、戦争が好きなわけではなかった。それに、どうもこの聖杯戦争と言う催し。
他人から「やれ」と言われているような気がしてならないのも、龍之介の意欲を更に下げる一因となっていた。
御誂え向きに、<新宿>でどう過ごすかと言う役割すらも与えられてしまっている。元居た世界と同じように、フリーターが、<新宿>での雨生龍之介のロールであった。
主催者に申し出れば棄権させて貰えるかなぁ、と考えていた所、土蔵に落ちていた鍵――契約者の鍵と言うらしい――に導かれ、目の前の山高帽が姿を現した。

 聖杯戦争のクラスに当てはめればキャスターと言うものに相当するその男は、相当な変り者だった。
如何にも満たされていなさそうな人物を見つけては、その人物に声を掛けて行き、巧みな話術で商品を与え――何とタダ!!――、
商品を与えた際に付け加えた条件をその人物が破れば、重大なペナルティを与える。その様子を見て龍之介は思ったのだ、自分が求めていたのはこれだったのだと。

 龍之介は思う。考えてみれば、自分が今まで取った方法は、少々独り善がりな感が否めなかったと。
つまり、『殺』に至るまでの物語性(ストーリー)がないのだ。相手との対話がないのだ。コミュニケーションがないのだ。
ただ相手を殺し、その死に様を観察して終わり。これでは、『死』と言うものを理解出来る筈がない。
しかし、殺す相手とコミュニケーションを取り、対話をし、関係を深めて行き、その後で殺すと言う事は極めて危険な行為だ。警察に足がついてしまう。
だから今まで、相手とのコミュニケーションは最小限度に抑えていたのだが、今は四の五の言っている場合ではないだろう。
それに此処は、元居た龍之介の世界とは違う上に、龍之介の創造を遥かに超えた力を振うキャスターだっているのだ。<新宿>でなら思う存分、この場で考えたメソッドを活用出来る。龍之介はそう考えたら、此処<新宿>に来れたのも、存外悪い事ではなかったのかも知れないと、今になって思い始めていた。

「なぁ、旦那。俺にさ、旦那の話術と、アレ教えてくれよ!! 『ドーン!!!!』って奴!!」

 元の世界に戻ったら、目の前のキャスターの話術を使い、龍之介は死と言うものを解体するつもりでいた。
話術を学ぶ事は、その重要な足がかり。しかし山高帽のキャスターは明らかに、龍之介の提案に難色を示した風に、ウイスキー・ソーダを口にしていた。

「ホッホッホ、ドーン、は貴方には無理かもしれませんが、話術が知りたいと言う事は……ふぅむ、弱りましたな」

「え? 駄目なのか?」

「いえ、口下手を直す道具ならば幾つもあるのですが、私は先程も申し上げましたように、ココロのスキマを埋めるセールスマン。
貴方はどうも悩みとは無縁そうな上に、私のマスターですからねぇ……。はてさて、どういたしましょうか……」

「そ、そんなぁ。何とかならないかなぁ、旦那ぁ」

 自分を拾ってくれと縋りつく子犬のような態度で龍之介が口にする。ややあってから、山高帽の男が口を開いた。

「ではこう致しましょう。今から貴方は私の補佐です。私のサラリーマン活動のサポートに回って下さい。
無論私も貴方にセールスの機会を与え、話術の何たるかを教えて差し上げますが……やはり話術は数と経験、そして上手い人から盗むもの。それで宜しいですね?」

「OKOK!! それで十分だよ、『メフィスト』の旦那!!」

「ホッホッホ……メフィスト、と言うのは、ゲーテのファウストに出てくるメフィストフェレスの事ですかな? 
私のような太っちょでチビの男がメフィストと呼ぶとは、本物のスマートなメフィストから怒られますよ龍之介さん。
……そう言えば貴方には私の名刺を渡しておりませんでしたな。私とした事が迂闊でした。最初に会った時に自己紹介をしたきりでしたね。この名刺をお納め下さい」

 言ってキャスターは懐の名刺入れから名刺を取り出し、それを龍之介へと手渡す。
「あ、どうもッス」、と、一端の社会人ならアウト以外の何物でもない返事をしながら、龍之介は渡された名刺に目をやってみた。

 ――ココロのスキマ、お埋めします。喪黒福造(もぐろふくぞう)……。






【クラス】

キャスター

【真名】

喪黒福造@笑ゥせぇるすまん

【ステータス】

筋力E 耐久A 敏捷E 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

道具作成:-
後述する宝具により所持しない。

陣地作成:D
魔術的な陣地の作成は出来ないが、代わりに、自らがセールスしやすい状況の作成に長ける。
本人曰く、『魔の巣』と呼ばれるバーが一番仕事がしやすいとの事。

【保有スキル】

魔術:C+++(EX)
キャスターは空間転移等の高位の魔術を扱えるが、取り分けて得意とするのがガンドである。
キャスターのガンドは大魔術・儀礼呪法と言った多重節の魔術に匹敵する威力を持つが、フィンの一撃は出来ない。キャスターのガンドは精神干渉などに偏っている。
と言うよりガンドに限らず、キャスターは直接的な攻撃手段に成り得る魔術を一切保有していない。……後述する宝具が発動すると、カッコ内の値に修正される。

話術:A+
言論にて人を動かせる才。国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
キャスターは特に一対一の対話に優れており、『心の隙間』に入り込むようなその話術は、悪魔的とさえ言える。

不死身:B
キャスターは異様に死に難い。ランク相当の再生と戦闘続行を兼ねたスキル。

【宝具】

『こんなこといいな、できたらいいな(四次元アタッシュ)』
ランク:E-~A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターがセールスする商品の入ったアタッシュケースが宝具となったもの。
キャスターのアタッシュケースの中はある種の亜空間になっており、アタッシュの体積以上の物品が何品も入り込んでいる。
自らをセールスマンだと名乗るこのサーヴァントが取り扱う商品は、現況に不満を抱く人物の悩みを即自的に解決する品そのもの。
生前の様に土地や不動産、現在の状況を即座に解決する『チャンス』まではセールス出来ず、あくまで解決するアイテムのセールスのみに留まる。
生前科学的、魔術的、空想科学的な物品の数々を扱って来たキャスターが、この聖杯戦争においてセールスする物品とは即ち『宝具』。
キャスターはE-~Aまでのランクに相当する宝具を、聖杯戦争の参加者及びNPCに、譲渡する事が出来る。
この宝具を用いた際に消費する魔力は、あくまでその宝具が本来有していた魔力から消費され、魔力を完全に消費し終えた宝具はその場で消滅する。
セールスマンを自称するキャスターは、その信条により、『武器に類する宝具は絶対に取引しない』し、『概念や逸話の具現化した宝具も譲渡不可』。
また、『キャスター及びそのマスターが、セールスする商品である宝具を自らの為に扱う事も出来ない』。

ともすれば相手にだけ利益を与える宝具に思われるが、この宝具を相手に譲渡する際にキャスターは1つだけ契約を付ける事が出来る。
相手がその契約を破った時、キャスターは後述する宝具の発動を可能とする。

『契約違反(ドーン!!!!)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターによって譲渡された宝具を譲り受けた者が、キャスターから付された契約を破った時に初めて発動可能となる宝具。
この宝具が発動した場合、魔術スキルのランクをカッコ内の値に修正。契約違反者に対して行う魔術の成功率が『対魔力や所持スキル、宝具の性能を無視して100%になる』。
キャスターが契約違反者に使う魔術は主にガンドであるが、この宝具が発動した場合に相手に舞い込む効果は、
性格の改変、社会的地位や信頼の喪失、成功しかけていた計画の頓挫、肉体の欠損、急激な老化、果てはその場で即死する等、聖杯戦争の範疇が許す限りの力を揮う事が可能。
譲渡した宝具のランクが高ければ高い程、契約違反者に致命的な効果を与える事が出来るが、逆に低い場合には、軽微な効果しか発動出来ない。
また、宝具を譲渡された者が契約を違反せず宝具を使い切った場合、或いは宝具の効果が気に入らずクーリングオフをした時も、この宝具を発動する事は出来ない。
あくまでもキャスターが言い渡した契約を破った者にしか、この宝具は効果を発揮しないのである。

【weapon】

名刺:
セールスマンの基本。自己紹介の際には必ず相手に与える。何故なら彼は、律儀なセールスマンだから。

【人物背景】

現代人のちょっとした悩みを解決する為に日々奔走する、人の好いセールスマン。幸福の運び手。
そして、セールス締結時に交わした契約を絶対に遵守する、厳しいサラリーマン。都会の魔王。

【サーヴァントとしての願い】

不明




【マスター】

雨生龍之介@Fate/Zero

【マスターとしての願い】

特にはない。強いて言えば、キャスターと一緒に立ち回る

【weapon】

【能力・技能】

天性的な殺人隠蔽能力。警察がどうやって自分を発見して来るか朧げながらに解っている

【人物背景】

死の意味を知る為に殺人を続ける殺人鬼。芸術家・哲学家崩れ。

四次聖杯戦争開始前、もっと言えばキャスター召喚前の時間軸からの参戦。

【方針】

キャスターの話術と『ドーン!!!!』を学びたい