「面白い見世物じゃった」

 

高田馬場・百人町に向かって舟の船首を向け、三人の娘を伴い、地獄の釜の底の様な争乱の

最中にある新国立競技場を後にする際、妖姫が口にした言葉がこれであった。

妖姫はメフィスト病院を後にして、せつらを求め<新宿>を当て所なく彷徨っていた、ジャ

バウォックに対する殺意は些かも揺らいでおらぬが、態々探し求めて殺すまでも無い。

次に出会えば必ず滅ぼすが、出会わなければそれまでだと割り切っている。

元より放埓気儘に生きてきた妖姫が、今更何かに捉われる事など有り得ない─────唯一

つの例外を除いて。

そうしていたところで突如生じた巨大な神気を感知。

古の時代を思い起こすその気配に誘われて、競技場へ赴いた先で見たものは、太古の地母

神“アシェラト”に変貌した人間と、ソレを討ち滅ぼした銀髪のアーチャーだった。

妖姫にも、これは驚嘆に値する出来事だった。“人が人以外の存在に変わる事など妖姫には

別段驚くにも値しない。

例えば─────面を被ることによって、その面が模す存在、猿なら猿、虎なら虎の力を得

る。

果ては他者の姿形どころか技能や精神までをも、面が表すもののそれに変え、秋せつらの面

をつまらぬ男に被せ、せつらを二人にしてのけた面作りがいた。

例えば─────自身で作成した薬を飲み、己が内の獣性を解き放ち、姿形をそれに相応し

い姿に変えた碩学がいた。

例えば─────人間に異なる生物の要素を植え付け、半獣半人の怪物へと変える技術が存

在した。

例えば─────人に“神”を降ろす事により。或いは“神”を喰らうことによりその血肉を取

り込み、文字通りの“現人神”と化した人間が居た。

例えば─────妖姫に血を吸われた者がそうだった。

 

それらを知る妖姫ですら、あのアシェラト女神は驚愕に値するする存在だった。

半獣人に作り変えるのとは訳が違う。凡百の悪魔に変えたわけでは無い。

あれ程の高位の古の女神を、如何なる術を用いたのか現世に蘇らせてのけた術者は賞賛に値

した。

そして、その女神を、本来の力を到底発揮しておらぬとはいえ圧倒し、滅ぼしてみせたアー

チャーに対する評価も改めた。

そして妖姫は、アシェラトとなっていた人間と愁嘆場を繰り広げている、アーチャーのマス

ター、一ノ瀬志希の顔を改めて覚えた。

それまでの妖姫にとっての一ノ瀬志希とは、路上の蟻と同じ、永琳が居なければ存在を気に

留めるどころか、認識すらしないだろう。

永琳に対する評価が上昇した事で、一ノ瀬志希もまた、覚えておくべき顔の持ち主となった

のだった。

そして妖姫は、その場から立ち去る二人を見逃した。

陽の下で戦うには永琳は手強い相手であり、魔獣から受けた傷も癒えてはいない。

血を啜るなり、紅湯に浸かるなりして傷を癒す必要が有った。

そうして妖姫は、激しい闘争の気配を感じ、飛翔して新国立競技場の外壁の上へと降り立

ち、フィールドを睥睨した。

そして見た。広い競技場を所狭しと疾駆し、争覇する三人の剣士を。

縦横に武器を戦い方を縦横に変える紅い魔剣士を。

空間を跳び、神速の嫌疑を振るい、次元を斬り裂く蒼い魔剣士を。

そして─────その二人に囲い責めにされながら、僅かも譲らず戦い抜き、深淵を穿った

黄金の英雄を。

凡そ人がその生涯に口にする米粒を遥かに上回る人間を見、殺し、血を啜ってきた妖姫です

ら、過去に於いて見てきた者たちの中でも最上位に入る男達。

淀んでいた血が賦活する。萎えていた邪悪な意志が喚び醒まされる。

例えせつらが腑抜けていたとしても、この男達を捩じ伏せ、膝下に膝まずかせる事で、充分

に釣り合う事だろう。

 

「ルシファーも存外気の利かぬ奴、この様な男達の存在を告げぬとは、私を踊らせたいのな

ら、此奴らの事を告げれば、意のままに踊ってやっても良かったのに」

 

あの“明けの明星”が何を考えて私を此の地に呼びつけたか知らぬが、どうでも良い。

最初に出会ったアーチャーといい、此の地には過去にも殆ど見た事がない輩共が数多いる。

それこそ、四千年の間に下僕とした二人、劉貴と秀蘭にも劣らぬ者達が。

従僕にしたい、そう思える存在が、まさか三人も一時に現れるとは。

過去に滅ぼしてきた国などよりも、あの男達の一人の方が遥かに価値がある。

あの様な者達がいるのならば、この街を過去滅ぼした国の様に変えてやることもやっても良い。

 

「しかし誰もが従いそうにないというのがな。ベイの如き輩を増やしても仕方がない」

 

血を啜って下僕にしても従うとは到底思えぬ。妖眼で縛るにしても縛れるとは到底思えぬ。

彼奴等を従僕とするのは不可能だろう。

 

「まあ部下とにするなら丁度良いサーヴァントが居る。彼奴なら秀蘭の代わりは充分に勤ま

るだろう」

 

とは言えその代わりを用意するのも一手間凝らさねばならないが。

 

その為の策を練る為に甲板に舞い降りた妖姫の眼に、新国立競技場から転けつまろびつ出て

きた三人の娘が映った。

今日1日で散々地獄の底を這いずり回った、アナスタシア・鷺沢文香・橘ありすの三人だっ

た。

常ならば認識すらしない。地を這う蟻を気にする人間がいない様に。

だが、今はあの魔獣に受けた傷が癒えていない。傷を癒す為に血を飲む必要があった。

男の血は熱く濃い。女の血は甘く薄い。この先最上の熱い血を持つ三人の男をその牙にかけ

るのだから、先ずは逆の味の血を持つこの女達で喉を潤そう。

精神的にも疲弊の極みにあった三人は突如現れた妖姫の美貌に全てを忘却した。美しいとい

う言語すらが、仮初に用いられるほどの、人の理解や認識の範疇を超えた美。

気力体力充溢した状態でも忘我の態となるなら、疲弊しきった状態でなら己が生きているこ

とをすら忘れ果てるだろう。

白痴のように立ち尽くした今の三人は意思を喪失し、妖眼の命じる儘に行動する木偶でし

かなかった。

もし此処で妖姫が三人の格好に気付かなければ、三人の命運は此処で尽きていただろう。

 

妖姫にとっては、“アシェラト”に変貌していた者が誰か、などという事は心底どうでも良い

事柄だった。

唯その“アシェラト”に変貌していた者が、メフィスト病院内で一戦交えたアーチャーのマス

ターと愁嘆場を演じていたからこそ、記憶に残っていたに過ぎない。

 

「お前達のその装束に見覚えがある」

 

嘗て<新宿>の吸血鬼達の長である“長老”孫である夜香、三万人のトルコ兵を串刺しにした

吸血魔王カズィクル・ベイを縛った妖姫の妖眼が、この<新宿>に赤く輝いた。

その双眸を見た刹那。三人は思考はおろか人間性すらをも喪失した。

 

「お前達の様に、命に溢れた者が数多く居る場所を教えよ」

 

競技場で魔天をすら揺るがす妖戦を戦う三人の丈夫(ますらお)といい、あの神箭手といい、

せつらといい。誰もが傷ついた身でその前に立つわけにはいかぬ相手だった。

特にせつらの前に立つ為には、傷を快癒させる必要がある。

この三人は使えぬ以上代わりを求める。その数が多ければ紅湯とし、少なければ飲み干す。

その思考の元に放たれた問いに、三人競い合う様に一つの答えを出した。

 

 

 

【四ツ谷、信濃町方面(新国立競技場周辺/1日目 午後230

 

【ライダー(美姫)@魔界都市ブルース夜叉姫伝】 

[状態]左脇腹の損傷(大。時間経過で回復)、実体化、せつらのマスターに対する激しい怒り、 

[装備]全裸 

[道具] 

[所持金]不要 

[思考・状況] 

基本行動方針:せつらのマスター(アイギス)を殺す 

1.アイギスを殺す、ふがいない様ならせつらも殺す 

2.ついでに見かけ次第ジャバウォックを葬る 

3.セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)に強い関心。彼らを力づくで捩じ伏せたいと思っています

4.血を飲むなり紅湯に浸かるなりして傷を癒したい

 

[備考] 

 

  • 宝具である船に乗り、<新宿>の何処かに消えました
  • 一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、不律&ランサー(ファウスト)の存在を認識しました
  • セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)を認識しました
  • 人間を悪魔化させる者がいる事を知りました
  • 高田馬場・百人町方面に向かって移動中です
  • アナスタシア・鷺沢文香・橘ありすの三人を妖眼で支配しました
  • 部下としてあるサーヴァントに目を付けました