聖杯戦争と言うイベントを、達成しなければならない大小様々な目標を包括した一つの大きな案件だと考えた場合、最も達成困難な目標とは、果たして何なのだろうか。
自身にとって一番相性的に不利なサーヴァントを下す事? 無傷の状態を維持する事? 宝具を一度も開帳しない事? 
それとも、聖杯戦争に参戦している多くの主従にとっての大願である、聖杯の獲得だろうか? 成程、これが一番達成不可能なタスクであろう。
しかし、クリアーする見込みが絶望的に低いタスクと言うのは、個々人によって違うもの。人によっては、聖杯の獲得の方がまだ簡単である、と言う程困難な仕事をせざるを得ない所もあるだろう。

 ――結論を言えば、一ノ瀬志希と八意永琳の主従も、そっちの、聖杯の獲得の方がまだ簡単なレベルの仕事をしなければならない者達だった。
八意永琳と言う天才と言う言葉を使う事すら烏滸がましい神域の知恵者、深淵たる魔導や学術の知識を有する存在にですら、そんな難事が存在するのだ。
月の賢者とすら称されたこの才女をして、達成困難と言わせしめる当面のミッション。それは、メフィスト病院の院長に今までの行為を許して貰う、と言う事であった。

 永琳とメフィストは、これから舌戦を繰り広げなくてはならない。その最大の争点は、一つだ。
永琳はメフィストの許しを得ず、勝手に職務を放りだし新国立競技場へと足を運び、其処で勝手に戦闘をしてしまった、と言う事。
他の事なら、手練手管を用いてフォロー出来る自信が永琳にはあった。だが、この点に関しては不可能。この勝手な行動を、最大の失点だと永琳は捉えていた。
あの、医術については厳格極まりない魔界医師・メフィストは、確実に自分の手前勝手を許しはしない。永琳はそう推理していた。
解雇処分、自分に下される処罰はそれだろう。命までは取られないのだから安いもの、と思われるだろうが、永琳としてはそれは困るのだ。
何せ、霊薬を作る、強力な毒を作る、などと言った、当初メフィスト病院に期待していた物事を何一つとして達成出来ぬまま、あの病院を去らざるを得ないのだ。
それは即ち、月の賢者とすら呼ばれる永琳の敗北に等しい。手持無沙汰、何の成果も得られず敵のアジトをとぼとぼ去る。
彼女にとってそれは、殺されるのと同じ程の屈辱である。そして屈辱である以上に、これではマスターである一ノ瀬志希に申し訳が立たな過ぎる。
何せ志希は、永琳を信頼して、わざわざメフィストの腹中とも言うべきメフィスト病院に紛れ込む、と言う永琳の考えを、何の疑いもなく認めてくれたのだ。
その彼女の心意気に応えられないのは、永琳の道理に反する。最低でも、何かの利は奪い取る。それが、永琳の当面の目標であった。

 とは言え、今から永琳が舌戦を繰り広げなければならないのは、あの魔界医師である。
月の賢者として宮仕えをしていた頃に、知恵者を名乗るに相応しい頭脳の持ち主達とは様々な議論を交わして来た永琳であったが、
メフィストは、彼らと比較しても何ら遜色のない――いや、それどころか、彼らすら上回る見識と知能の持ち主であると見て間違いはなかった。
これは、人に対して厳しい評価を下しがちな永琳にとっては、最大限の評価と言っても良い。彼女から、優秀であると言う評価を貰うのは、
難しいという言葉を用いるのが憚られる程の難度であると言っても良い。そんな彼女が、手放しに、メフィストを優秀だと判断している。
メフィストはそれ程までの難敵なのだ。最初に設定した、妥協に妥協したノルマですら、達成が困難かもしれない。
それでも、向かわねばならない。あの白き魔人が全てを取り仕切る、白亜の大伽藍へと。

「……少しは見れる風には、なったかしら」

 と言って、メフィスト病院前の駐車場、その、一目の付かない裏口で、永琳が呟く。

「と、思うな~」

 暢気そうに――実際にはそう振る舞っているだけ――口にしながら、永琳のマスターである志希が返事をする
タール状の形を取って現れた虚数空間、其処に呑まれて今や消えてなくなった新国立競技場では、パムを一緒に倒す為に一時期永琳が共闘していた、
チトセ・朧・アマツが己の能力を駆使し、其処にのみ集中豪雨を降り注がせ、フィールドを濡らしていた。
当然、永琳も志希も、その雨に思いっきり打たれてしまい、全身がずぶ濡れの状態であった。当然、こんなコンディションで院内に入る訳にはゆかない。
メフィストからの心証が悪くなるのは必定であるからだ。それに永琳に至っては、フレデリカが変身したアシェラト、パムとの戦闘でダメージを負った状態である。
要するに、血を流している状態だ。臨時のスタッフと言う体裁で此処で働ている以上、永琳は病院内では実体化して行動しなければならない。
それなのに、血を流していては、患者も、他のスタッフも驚いてしまうだろう。

 よって、院内に入る前に、志希は服を永琳の魔術で乾かせて。
永琳は、己の魔術で身体の傷を癒させてから、内部に入ろうと決めたのである。
そして現在。志希の服は完全に水分が吹き飛ばされ、乾燥され、永琳の傷も元通り。目立った外傷は何処にもない。
傷一つ存在しない白い肌を見て、果たして誰が、八意永琳がつい先程までサーヴァントと熾烈な戦いを繰り広げていたと思おうか。それ程までの、完璧な施術だった。

【これは恐らく、戦闘以上に厳しい戦いになるわ、マスター。あの魔人も貴女には直接手を上げないとは信じたいけど、万が一もある。気を張っておきなさい】

【う、うん。解ったね、アーチャー。それで……勝算って言うか、何とかなるの?】

【痛い所を突いて来るわね……。少なくとも、今回新国立競技場に勝手に足を運んだ事については、此方には落ち度しかないわ。其処が、私達の急所になる】

【じゃあ……】

【勘違いしないで。不利なのは事実よ。だけど、付け入る隙が無い訳じゃないわ。其処を、私は突くわ】

 永琳の言葉には、不安も何も感じられない。
平時の気丈さが、全く声音から失われていないのである。本心では、自信がないと思っているのかもしれないと、志希は考えた。
それを、自分に気取られない為に、然も必勝の策は我にあり、とでも言うような声音で、そう言っているのだろうと。志希は思った。

【時間よ。そろそろ服も乾いたでしょう。心底気が乗らないけれど……交渉、始めるわよ】

【うん】

 と、志希は即答をした。永琳の性根の強さに呼応するように、なるべく不安や恐れを払拭させた声音でだ。
それを受けて、先ずは永琳から、メフィスト病院の医師専用通用口から内部に入って行く。己のマスターの声音が、微かに震えていたと言う事実を、敢えて指摘せずに。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 メフィスト病院に勤めているスタッフ専用の通用口に入った瞬間、所定の人物を呼び出す為のアナウンスが、小気味の良い呼び出し音と同時に院内に鳴り響いた。
「薬科の鈴琳先生は、至急、二階応接間まで起こし下さい」。告げられた内容は、一字一句の間違いもなくこれであった。
鈴琳とは、この病院での八意永琳の偽名である。そして彼女は、このアナウンスを受け全てを得心。
如何やらメフィストの方も、こちらが院内に入った事に気付いたらしい。早急に話がしたい、と言う所なのであろう。

「せっかちね、息を吐く暇もないわ」

 そう軽口を叩いた後、永琳は直に、不安の色をもう見せ始めた、この病院内において助手と言う立場で通っている、一ノ瀬志希を引き連れ、
メフィストが指定した二階応接間まで足早に移動。そして一分後程経過して、両名は、応接間へと繋がる、鋼色の自動ドアの前までやって来た。

 ――『いる』、と言うのが、永琳は勿論、志希にも伝わる程の鬼気が、如何にも重圧そうな空気を醸す扉越しからでも伝わってくる。
扉を開ければ、光を編んだように眩いばかりの、白いケープを纏った魔人が佇んでいるであろう事は想像に難くない。
「お、怒ってるよねこれ……」、と小声で志希が意見を求めた。如何やら彼女は、扉越しの鬼風を、メフィストの怒気だと解釈したらしい。
そう志希が思いこむのも、むべなるかな、と言うものだ。永琳自身ですら、メフィストは『キレ』ているのではないかと、考えたのであるから。
とは言え、相手が怒っていようが何であろうが、永琳達は、この場に入るしか道はないのである。その為に永琳も、この病院に足を踏み入れたのだ。
メフィストが面会を望んでいると言うのであれば、それに応えるまで。「入るわよ」、そう短く告げた後、永琳は自動ドアを開かせ、内部に淀みなく足を踏み入らせた。

 其処は、応接間と言うよりは、西欧の王宮の客間か待合室を思わせるような、豪華絢爛たる部屋だった。
見るも壮麗たるバロック様式で統一された内装、鏡のように磨き上げられた大理石の床。
染みも無ければ汚れもないワイン色の壁紙と、其処に掛けられた、キリスト教を題材にした宗教画。
天井から垂れ下がる巨大なシャンデリアはそれ自体が水晶の小山の如く大きく、豪華以外の言葉を失う程の凄味を放っているが、そのシャンデリアそのものを支える、
天井自体も凄まじい。天井はもれなく全て巨大な一枚の黄金をドーム状に誂えたもので、その黄金を彫金し巨大な一つの天井画を形成していた。
とても、一病院の応接間とは思えぬ程に、美麗な一室だった。この病院の総予算の全てを擲って作ったと言われても、皆信じてしまう程には、この部屋は完成されていた。

「……」

 だが、この美しい部屋の最大の不幸とは、こんな一室が問題にならぬ程の存在感を放つ男が、この場に存在してしまっていると言う事だろう。
果たせるかな、この応接間にいて当然の人物が、黒革張りのチェスターフィールドソファに腰を下ろしていた。そう、その男は、美し過ぎた。余りにも。
初めてその姿を見せ、永琳が嘗てない衝撃を憶えた程の麗姿は、この病院で起こった椿事を経た後とは思えぬ程、褪せてはいない。
纏うケープは、宇宙に限りなく近い高山の山頂近くに堆積する万年雪が汚泥に見える程の純白さを保っていた。
其処から伸びる白い手は、白光を微かに放っていると錯覚する程滑らかで、輝いていた。
黒メノウを煮溶かしたような長髪は、宇宙のそれよりなお黒く――見るだけで、魂を焦がして燃え尽きさせると錯覚するほどのその美貌はまさに、この世の『美』なるものの最頂点。

 魔界医師・メフィスト。
彼はどうやら、永琳達がこの場にやって来るよりもずっと前から、この場で待機し、ずっと、無言の状態を保っていたようであった。
口は堅く、一文字に引き絞られ、その無表情の保たれた顔からは、何処となく、不機嫌そうなオーラが醸し出されている事が解る。
処断される。志希も永琳も、一瞬だが、そう思ってしまう程には、今のメフィストは、虫の居所が悪そうであった。

「かけたまえ」

 志希と、永琳の姿を横目で見やりながら、メフィストが言葉を紡いだ。
ただの一瞥。そんな、取るに足らない動作一つで、一ノ瀬志希は、その魂、その肉体を束縛されてしまう。
魔術も異能も、何もない。ただの目線だけで、この男は、人間から自由を奪ってしまうのである。

「お言葉に甘えさせて頂きますわ」

 そう言って、正気を保った状態の永琳が、志希の手を握り、そのまま、硝子のテーブルを挟んだ向かい側に設置されたチェスターフィールドまで移動。
永琳が手を引っ張った事で漸く、志希が正気を取り戻し、慌てた様子で永琳の歩調に合わせて移動。
そしてソファに近付くや、永琳が腰を下ろすのと同じタイミングで、志希も腰を下ろした。

「此処に呼ばれた理由を、説明していただけるかしら、ドクター?」

「凡愚が賢者に物を説明する事の無意味さを、知らぬ訳ではあるまい」

「ドクターほどの殿方が、己を凡愚と謙遜する事はそれ自体が罪です事よ。貴方が己の才を誇らねば、この世の全ての者の才覚の価値など芥程も無くなりますわ」

「医術は兎も角、調略の方は達者ではないのかね、女史よ。不興を買う事を恐れているように私には映るが、だとしたら、余りにも稚拙だぞ」

 如何やら、褒めて怒りを宥めさせる、と言う手段は駄目らしい。世間話の類がそれ程好きな男ではない、と言う事を永琳は再認。それに合わせたプランを行う方向性に、彼女はシフトチェンジする。

「職務を放り出した理由ですか?」

「それ以外にはないだろう。君とて、理解していない訳ではあるまい」

「サーヴァントはマスターの命令に従うのが道理、と言えば納得していただけるでしょうか?」

「半分はな」

「半分」

「常ならば、君の口にした道理の方が、成程確かに、聖杯戦争に召喚された英霊であるのなら全てに優先されるだろう。だが、当院では違う。この病院のスタッフになった以上、例えサーヴァントであろうとも、君は、当病院の掟に唯々諾々とするべきだったのだ。例えそれが、君の主の友の危機であったとしても、君は、主の命を無視して突っぱねるべきだったのだよ」

「仰る通り。己の職務を放棄する医者は、私としましても、医道に反する落伍者同然の評価しか下し得ません。不肖の弟子にして、不肖のマスター。一ノ瀬志希の我儘に従ってしまった事を、此処にお詫び致します」

 其処で永琳が、座りながら頭を下げる。遅れて志希の方も、永琳に倣った。

「月に在りて賢者と称される、八意のXXに頭を下げられると、さしもの私も弱い、と言いたい所だが、それでは君の為にならん。此処は私も、心を鬼とするとしよう」

 やはり、頭を下げる程度じゃ、許してくれないんだ。
案の定とも言う風に、志希は胸中でそんな事を思い浮かべるが、永琳は今、それ所ではなかった。
今、メフィストは、何と言った? 聞き間違える筈がない。この男は間違いなく、己の真名を言い当てた。
それも、八意永琳と言う、地上の民にも言いやすいよう自分が考えた偽の名前ではない。月の世界における、地上の民には発音不可能な、真の意味での永琳の本名を、
いとも簡単にメフィストは言い当てただけでなく、完璧な発音で、彼女の真名を口にして見せた。その事実に、永琳は、頭を下げながらも目を大きく見開かせていた。
如何やら、自分の予想を超えて、この男は難物であるようだと、永琳は考え込む。魔界医師。その綽名は、伊達でも何ともなかったようである。

「……何処で、その名を。そう聞いた所で、答えてはくれないのでしょうね」

「無論。敵に手札を明かさない程度の常識は、如何な私でも持ち合わせているさ」

 その謙遜を、永琳は自身への挑発と受け取った。
出鼻を挫かれ、掌で踊らされているのは今の所自身である。永琳は素直に、今の現状を認めた。
いやそればかりか、何故、メフィストが、真実の意味で、永琳の本当の名を知っているのか、それすらも永琳は予測が出来ずにいた。
――この男が、ドクター・メフィストだから。知っているのは当たり前。そんな理由も何もあった物じゃない理由で、本当に自分の名前を知っている、と言われても、
本気で納得してしまわんばかりの凄味と説得力を、メフィストは、全身で発散させているのであった。

「平時であれば、職務の放棄を行ったスタッフには、然るべき処罰を下してはいるのだが……君達は臨時スタッフ。それも、其処の八意女史は、当院の薬科どころか、並み居る古参の先生方と比較しても、遜色ないどころか比肩、超越する程の技量を発揮していた事を知っている」

 その、瞳の中に昏黒の宇宙が広がっていると言われても、永琳ですらが信じようと言う程の、吸い込まれそうな黒い瞳で、メフィストは二名を射抜いた。
意識を強く持たねば、永琳ですら、心どころか魂ですら持って行かれかねないその美貌は、今日の様な交渉では並々ならぬ力を発揮して来た事は、想像に難くない。
志希がゴクリ、と息を呑む。その事を咎める事は、永琳には出来ない。彼女ですらこれなのだ。一般人の志希がそんなリアクションを取って、誰が咎められようか。

「その技術を以って、君は確かに、当院に貢献していた時期もある。そう言った事情も酌量した場合、処罰を下す、と言うのは酷だと言う判断に至った」

 其処までメフィストが言った瞬間だった。
唐突に彼が、神憑り的な才を千年磨き上げた彫刻家が、白石英を手ずから削って作り上げた様な白い繊指で、パチンとフィンガースナップ。
それに呼応し、永琳達が応接間に入る為に通った自動ドアが一人でに開き始め、その方角にメフィストが腕を差し伸ばし、一言。

「お帰りはあちらだ。当院の規定違反による都合退職にならざるを得ないのが心苦しいが、君達の実力ならどの医局でも出色の存在になれるだろう。次の新天地を目指したまえ」

「優秀過ぎると、やっかみを買い過ぎますの。御院は私の実力を認めて下さった他に、私に妬みも嫉みを見せるスタッフすらいませんでしたので、居心地が良いのです」

「私はおべっかが好む所ではなくてね。本音と建前を駆使する小賢しい真似をするくらいなら、素直に、『其処の無力なマスターを保護したいから此処に残せ』ぐらい、堂々と口にして貰いたいものだな」

「それを言わないのが、大人、と言うものでしてよ」

「大人は課された職務と責任を放棄しないものだ」

 殺意と敵意を伴わせない。
ただ淡々とした、感情の裏を掻かせない交渉事。互いの土俵にどうやって相手を引きずり出すか、そして、自分の意思(わがまま)を呑ませるか。
それにのみ腐心する、大人のエゴのぶつかり合い。よりにもよってそれを行っているのが、月の賢者たる八意永琳、神の美貌を持つ魔界医師・メフィストと来ている。
一ノ瀬志希が、空間の余りの重さと密度に、呼吸が苦しい、と思って胸を抑えだすのも、無理からぬ事柄であった。

「とは言え、だ」

 玲瓏たる煌めきを内に宿した、黒水晶の如き瞳で、永琳を射抜く。
賢者は、動じなかった。流石に、何千、何万年を容易く上回る年月を生きて来ていない。天与、魔境……人知を超越したと言う意味合いで用いられるありとあらゆる比喩や修飾技術がこれ以上となく当て嵌まるメフィストの美に、彼女は既に慣れ始めていた。それでも、気を抜けば『やられる』力を、この医師の美は有していた。

「女史をこのまま、一切の弁疏も聞き入れずに、当院を解雇させる、と言うのも余りに惜しい。月の世界、興味がないと言えば、嘘になるからな」

「解雇させない、と言う選択肢を選んでくだされば、幾らでもお話しましてよ」

 ここを攻めるしかない、と志希ですら思ったタイミング。永琳ですら、此処で攻めに転ずるべきだと思った程だった。

「ここぞとばかりに、だな。だが、女史よ。私は元より、君を解雇するつもりで此処に呼んでいる。私の知らない知識を保有しているからと言って、最初の解雇が覆る可能性は絶無だぞ」

 心の中で舌打ちを響かせると同時に、何度も何度も、メフィストの顔面にデカい斧を振り下ろしまくる空想を描く永琳。
何処まで真面目な男なのだろうか。融通がこれっぽちも利かない。ガードが固すぎるのだ。他人から見た自分も、こんな風に思われているのだろうかと、永琳は自分を見つめ直す。

「絶無――だが」

「……だが?」

「私の出す課題をこの場でクリアすれば、解雇は取り下げる」

「乗ったわ」

 元より乗るしかない。課題が無理難題、或いは、マスターに危難が及ぶものであれば、直に降りる。その心構えだけは、忘れない。

「そう難しい物じゃない。『当院に私が君を留め置く正当性』、それを示して見せれば良い」

「実力、では駄目なのですか?」

「正当性としては弱すぎるな。薬科の先生の一人に体細胞を提供して貰い、これを利用し技術や記憶、人格を完全にコピーしたクローンを用意すれば、君の代わりなど事足りるのだよ」

「そうしない訳は?」

「同じ顔、同じ体格の人物が二人も同じ科にいれば、患者に混乱が生じるだろう」

「正論ですわね」

 何が何だか、と言う風に瞳をグルグル回し始めている志希を余所目に、永琳は考える。
この場合の、メフィストが求める正当性とは、技術ではない事は今の会話で示された通り。
では、その正当性とは、一体何なのだろうか? 永琳は、その正体に二秒と掛からず想到した。
彼の求める正当性、つまり答えとは、『貢献』だ。つまり、八意永琳と言う個人が、この病院について何を成せるか。それをメフィストは問うているのだ。
成程、求めているものがそうであるのならば、技術は正当性足り得ない。メフィストは其処から先、その技術で何をして来たか、それを聞きたいのである。
自分の技術があればこれが出来る、と言う未来的な話は、今のメフィストが見たい答えではない事は永琳も理解している。
肝心なのは、此処に所属してから、つまり、現在から見て過去に、永琳が何をこの病院にして見せたのか。其処なのである。

 ――そうであるのならば。勝ちの目は、自分にある。永琳は、そう確信したのだった。

「幾人もの患者を救った、と言う実績では不足ですか?」

「医者が患者を救う事など、人が食事を摂るにも等しい事柄。自慢にすらならんよ」

 予想していた答えである。現状、メフィストが永琳達を評価する目は、辛口を極るものだ。
この程度のアピールなど、一蹴する事は永琳とて予想出来ていた。と言うより、永琳がメフィストの立場でも、同じ事を口にしていただろう。
万策尽きた――などと言う事はなく。永琳は此処から、第二の矢、つまり、彼女が『本命』とも言うべき殺し文句を、今此処で解き放った。

「ですが、『御院のスタッフ』を治療した事については、自慢が出来る事柄ではありませんか?」

「ほう」

 其処を突くか、と言う風な目でメフィストが言った。或いは、想像していた通りの所を突いて来たか、とでも言う風な目だ。
まだ相手の掌で踊っている、と言う風な実感を永琳は捨てきれない。そうと思っていても、此処を突くしか最早ない。永琳は、言葉のナイフを、美の極点とも言うべきメフィストの身体に突き立てまくる。

「病院が何者かによって襲撃されていた時、私は、院長に負けぬ美貌を誇る、大淫婦に出会いましたわ」

「あの女を、七つ首の獣に騎乗するバビロンの女と呼ぶか。慧眼だな。あれを表現する言葉で、大淫婦以上に相応しいものはない」

「そして、それを呼び寄せたのは、他ならぬ貴方で御座いましょう? 院長」

 メフィストの、宝石ですらが路傍の石以下の価値に貶められる、玲瓏たる輝きを秘めたる双の眼球の奥底が、冷え始める。

「サーヴァントの身の上で、サーヴァントに似た何かを召喚する。驚くべき実力のキャスターですこと。流石は、魔界医師。そうと、スタッフに畏怖される事だけはありますわね」

「何が言いたいのかね?」

「本題を焦るなんて、院長らしくありませんわね。私の愚見にも、筋道と言うものがあります。その通りに話させて下さいな」

 ペースの手綱を握り始めている、その実感を、永琳は感じ取っていた。

「実を申し上げますと、この病院で出会った、サーヴァントとはやや気色の異なるサーヴァント……。私共が勝手に出向いた、新国立競技場でも、二体。出会いましたの」

「誰だったかね」

「二人とも、女性でしたわ。どちらも、正当な聖杯戦争で呼び出されていれば、最後の生き残りになれる程の強さだった事、我が身で実感いたしました」

「いかにも。私が呼び寄せたサーヴァント……と言うべき存在は、そのどれもが化外の強さを誇る魔人達。あれらを相手に生き残れるとは、君は荒事にも堪能らしいな」

「そんな事は問題ではありませんわ、ドクター。問題は……」

「問題は?」

 ニコッ、と微笑みながら、永琳は一言。

「『あれらの存在は確実に、此度の聖杯戦争の異物になり、そして、この<新宿>により大きな混沌(カオス)を齎す事は必至』、と言う事ですわ」

「……」

「戦いまして、理解した事がありますわ。私の出会った三名の女魔人達。そのどれもが、激しい性情を裡に秘めた、荒ぶる者。到底、大人しく雌伏の時を過ごすような者達ではありません。況して一人は、貴方も御存知の通り、人の命を命とすら思わぬ大妖婦。状況と時間次第では、あの黒礼服のバーサーカーよりも、甚大な被害を<新宿>に招く事、想像に難く御座いませんわ」

「恫喝かね、月の賢者よ」

「まぁ。ドクターはそう受け取りましたのね。私にはそんな意図は御座いませんでしたが……その発想は正味の話、私にはありませんでした」

 惚ける永琳だったが、勿論彼女は、メフィストの言う通り、脅しと釘刺しの目的で今の言葉を口にした。
如何にキャスターが魔術に造詣の深いサーヴァントとは言えど、自分達と同じ高次の霊的存在であるサーヴァントを召喚する等、あり得ない事柄である。
縦しんば召喚出来たとしても、サーヴァントを現界させる為の魔力が枯渇し、数時間と持たず召喚されたサーヴァントも、召喚した当のサーヴァントも、
ガス欠を引き起こす事は余りにも容易に想像が出来る。それを、メフィストは事もあろうにやっとのけている。
それは即ち、彼が卓越した魔術の御業の持ち主である事と、極めて潤沢な魔力の持ち主である事の証左である。だからこそ、尚の事ナシを付けておきたいのだ。
そして、サーヴァントがサーヴァントを召喚出来、完全に彼らを従えられるのであれば、迷わずそうするべきである。そうする事で、聖杯戦争は自分達にとって有利になるのであるから。

 ――但し、『従えられるのならば』、だ。
この病院で出会った大妖婦のライダー、及び、新国立競技場で応戦した四枚の黒羽のアーチャー。
彼らの態度を見るに、メフィストは明らかに彼らを御し切れていない。否、と言うよりは、手綱を握るつもりすらない、彼女の自由意思に任せている、
と言った方が適切だろうか。呼び出したサーヴァントが極めて高いモラルを持っているのであれば、その自由放任主義も良かっただろうが、
黒羽のアーチャーはいつ暴走するか解らない程の戦闘狂であったし、妖婦のライダーに至っては論外そのもの。あれは、全生命にとってのアンチ。
召喚する事も不可能だし、召喚出来たとしてもその手段を永久に封印する事の方が望ましい程の、絶対悪。
そんな存在達を聖杯戦争に呼び出し、剰え大殺戮を引き起こしたとしたら、どうなるのか。勿論、彼らを召喚したメフィストに帰責される。
マスター以外でサーヴァントを召喚出来るクラスは、エクストラクラスを除いた正規の七クラスの内、キャスター以外にあり得ない。
その中でも特に、桁違いに潤沢な魔力プールを秘めたメフィスト病院の主、つまり、キャスター・メフィストは真っ先にクロとして疑われる。
そうなった場合、メフィストは著しく不利を蒙る事になるか、最悪の場合、ルーラーからの制裁すら考えられる。

 如何にメフィストが魔界医師と謳われ、月の賢者たる永琳ですらが認める程の才能の持ち主とは言え、だ。
ルーラーから睨まれて、面白いと思う筈がない。そして、ルーラーと事を争いかねない一歩手前まで、メフィストは追い詰められている。
だが現状、あれらのサーヴァントを召喚した存在がメフィストである事は、永琳及び、その時一緒にいた不律とランサーの主従以外には今の所考えられない。
そればかりか、あの三体のサーヴァントが、正規の手段で召喚されなかったサーヴァントだと認識出来ている者すら、下手したら稀かもしれない。
自分の話を呑んでくれれば、『その事を黙ってやる』。永琳は暗に、こう言う事をメフィストに主張しているのである。そして驚くべき事には、この意見は、本命のそれではない。

「ドクター」

「何か」

 メフィストの態度は、あいも変わらず堂々としている。
志希は勿論の事、永琳にですら、内心焦っているのか如何かすら窺わせない。やはり、永琳にとってはこれ以上と相手し難い手合いであった。

「私が、この病院のスタッフを不律先生らと治療した、と言う事実については、どう思います?」

「その時の治療の程を、実はあの後拝見させて貰った。流石、の一言以外にないな」

「重ねての質問恐縮ですが……あのスタッフ達を害した存在が誰であったのか。御存知でしょうか?」

 永琳の顔から微笑みが消え、メフィストの物と同質の、冷たい光が、その双眸に宿り始めた。
極北の凍った大海、その上に巍々とした山脈の如く聳え立つ巨大な氷山が放つ冷たい冷気。それに似たオーラを、永琳の表情は醸し出し続けていた。
この男に限ってそんな事はないだろうとは、永琳も思っているが――惚ける事は、許さない。そんな凄味を、永琳の表情からは窺う事が出来た。

「私が召喚したライダー。彼女の悪性、淫悪さ、そして、強さから……我々は彼女を『姫』と呼ぶ」

「身の丈にあった者を、召喚するのが普通ではなくて? ドクター。あの吸血鬼……貴方にも私にも、手が余る程の魔そのものでしてよ」

「言われるまでもなく、私はあの女をこの地に招く事には反対だったさ。反対、しきれなかったがな」

 平時と変わらぬ声音でメフィストは言ったが、何処となく、言葉回しに疲れの色が、刷毛で塗られたかのように帯びていた。

「話を戻します。本来ならば私は、御院を頼って足を運んだ患者を治療する義務こそあれど、御院に従事するスタッフを治療する義務は、限りなくゼロに近いです。何故ならば、御院のテクノロジーを考えた場合、彼らが傷を負う可能性自体が、極めて低いからです」

「当院は、スタッフが100%のパフォーマンスを発揮出来るような設備を常に、完璧な状態で整えている。それは、外敵からの襲撃にも対応している。君の言っている事は正しい。当院のスタッフが傷付き、剰え、死ぬような事など本来的にはない」

「ですが、今回に限りそうはならなかった」

 かぶりを振るう永琳。

「勿論ドクターも御承知の通り、私の力足らずで、死なせてしまったスタッフも残念ながらおられます。ですが、私の手で一命を取り留めたスタッフがいる事も、事実」

 畳みかけるように、永琳。

「ご自身の不始末で産み出された怪物(まじん)、そしてそれによって生み出された死傷者。お見事な一人相撲だと感服致します」

「……成程。それが、君の正当性と言う訳か」

 胸の前で腕を組み、メフィストは永琳の事を眺める。
病院を預かる主として、相応しい威風と態度。天の神が産み出した精緻なミニアチュールを思わせる、白光を放っているとすら誤認させるその美貌には、
一つとして瑕疵がないように思える。志希は、確かにそう思っている。しかし、如何に態度で取り繕おうとも、優勢に立っているのは此方の方だと言う自負が、永琳にはあった。

 『お前の所のスタッフを助けたのだから、便宜を図らえ』。とどのつまり、永琳の主張とはそう言う事だ。
言うまでもなく、メフィスト病院の従業員を助けた瞬間とは、魔獣・ジャバウォックが襲撃した際の事を指している。
あの時、混乱に乗じて院内にやって来た姫は、戯れとでも言わんばかりに、機動服と呼ばれる機械鎧を纏ったスタッフを鎧袖一触。
幾人も殺して見せた事は、記憶に新しい。その時に、死に掛けであった従業員を治療したのは誰ならん、永琳と不律、そして、彼の従えるランサー・ファウストだった。
あの慌ただしい瞬間の中で、確かに永琳は、医者としての責任を果たすべく、スタッフを治療しようとも考えた。
だがそれ以上に、此処でメフィスト病院の従業員を治しておけば、後でスムーズに話が進められると言う打算があって、彼らを治したのである。
つまり、スタッフの命を救ったのは全て計算の上。今この状況の時を予期し、あの時助けたという事実を切り札(ジョーカー)にする為に。
永琳は、彼らスタッフを治療したのだ。まさに、恐るべき鬼謀である。そして、志希も漸く、永琳の目論見に気付く。
自分があわあわと狼狽していたあの時あの状況で、此処まで計算して動いていた何て、と。永琳を見る志希の目は、畏敬する神でも見る様なそれになっていた。

 自分を解雇すれば、そちらが<新宿>に撒いた災厄の件について言いふらす。
何よりも、自分には、そちらの所の従業員を治したと言う確かな実績がある。これが、メフィストに対して永琳が用意していた、切り札なのであった。

「……この程度の事を、主張出来ないようではな」

 ややあって、メフィストは落ち着いた口調でそう告げた。
この瞬間、メフィストの態度が平常通りのそれに復調。見る者の心に焦熱を齎す美貌をそのままに、目の前でミサイルが着弾した瞬間を見ても、
眉一つ動かさぬだろう事を確信させる恬然とした雰囲気を、今になって発散し始め出した。
今のメフィストの発言、そして、此処に来ての余裕の復活。その意味する所を、永琳は、全て得心した。

「……試していましたわね」

 鋭い瞳で、メフィストの瞳と真っ向から対峙する永琳。恐るべき事であった。
彼の魔界都市の住民は、どれ程の魔技を習得しようとも、どれだけ恐るべき体質を改造手術で得ようとも、魔界医師と真っ向から睨み合う事を避けた。
それは当然、この医師が、魔界都市<新宿>に於いて絶対に敵に回してはいけない三魔人の一人である、と言う事実がある事も大きい。
だがそれ以上に、その美貌のせいだ。純度の高い巨大なダイヤを丹念に研磨し、人の顔に彫り上げた様な美を誇るこの医者が、
相手を威圧・魅了すると言う目的で他人を見つめようものなら、たとい魔界都市の住民であろうとも、数秒と正気を保てまい。
ある者は、その美に心を絆され、或いは焦がされ、終生をこの男の奴隷となる事を誓うだろう。
ある者は、余りに隔絶された美の違いに発狂を引き起こし、胸元に差していたボールペンで直ちに己の心臓を貫き抉り取るだろう。
事実、やろうと思えばメフィストはこの程度の事、簡単にする事が出来る。そんな可能性を秘めた美しさに対し、真っ向から永琳が睨みつける。それがどれ程、メフィストと言う男について知っている者からすれば、勇猛果敢な行いであるのか。永琳が知る事は、ない。

「君の技術を捨て置く事は、正直な所惜しいのだよ。月の賢者、八意XX。それでも、当初私が設定した条件をクリア出来ぬようでは已む無く解雇する予定ではあったが……流石に、音に聞こえた思兼。高天原の知恵者だ」

「お褒めの言葉として、受け取っておきますわ」

 ――要するに。
メフィストは、永琳の事を解雇する気など初めからなかった。永琳は、そう解釈した。
無論、メフィストが知らない内に設定していた、解雇回避の基準を満たせていなければ、永琳も志希も病院から叩き出されていたのだろう。
だが、彼女らは見事これを回避して見せた。ならば、解雇は取り消し。こう言う事なのだろう。
それ程までに、永琳の有する、月の都の話とやらが、魅力的なものなのだろう。永琳はまだ、メフィストにこの都の事を話していない。
それを話さぬ内に、彼女を此処から立ち去らせるのは惜しい。だが、自分の求める水準にまで達していなければ、容赦なく切り捨てる。
その美貌からは想像もつかない程の、二枚舌。いや、三枚、四枚、五枚六枚も異なる舌をこの男は持っているに相違あるまい。つくづく、厄介な男だと、改めて永琳は思うのであった。

「良いだろう。君達に対して本来取る予定だった措置は、此処で撤回する。今より十分程の休息を与える。その後、業務へと戻りたまえ」

「かしこまりました。マスター。立って」

「あ、うん」

 言って永琳は、一ノ瀬を立たせ、共に一礼をさせようと試みるが、「あぁ、思い出した」、と言うメフィストの不意の一言で、彼女らは、直立したままの姿勢で静止させられてしまう。

「鈴琳……いや、八意先生、と言った方が宜しいか」

「どちらでも構いませんわ。ドクターに関しては、秘匿も何も意味がないと知りましたので」

「ではこの場に限り、八意先生と言わせて貰おう。臓器の方は如何したのかな?」

「……は?」

 永琳はメフィストに引きとめられた瞬間、何か、含みを持った忠告、或いは、それに類する謎めいた一言でも言われるものかと、思っていた。
だが、実態は違った。それどころか、志希は言うに及ばず、永琳ですらが理解が出来ていない。
神韻縹渺たる美の持ち主であるメフィストの口から放たれた、予期せぬ角度からの言葉のボディブローに、永琳達は当惑するしかないのだった。

「……ん? 不律先生は、君達が新国立競技場に向かったのは、当院のドナー用臓器を回収すると言う意味もあった、と窺っているのだが」

「……ちなみにお聞かせ頂きたいのですが、その臓器と言うのは、何処から?」

「無論、人の死体からだが。君の実力なら、死後数分以内の死体であるなら容易に回収、ドナー用に転じても問題はない程の状態を保つ事は出来るだろう」

 メフィストの言葉を、どう解釈したのか知らないが、志希の表情が途端に青褪め始め、「嘘……」と呟きながら、永琳の方を見つめた。
【あ、アーチャー……!?】、と、信頼していた友人が自分を裏切ったのを目の当たりにした人間が口にするような声音で、志希が念話を投げ掛けて来る。
【違う違う違う!! 何を勘違いしてるの!!】、と永琳が必死に否定する。志希がメフィストの言った事を如何様に解釈したのか、永琳には手に取るようにわかる。
まるで、禿鷹か、死霊術師(ネクロマンサー)のようだと思ったに違いあるまい。そして、永琳なら本当にやりそうだとも。確かに元の世界ではやった事はあるが、この世界ではやるつもりもないし、あの新国立競技場ではそんな事を行う、という考えは端からなかった。

 永琳の配属された診療科は、薬科である。これは、自分が薬剤師であった、と言う適性を見て、メフィストが配置した。
無論の事永琳はその時は、メフィストのこの采配に文句の一つも覚えなかったし、寧ろ、其処に配属されて当然だとも思っていた。
永琳は其処で、この病院で働く上での規則や心構え、労使協定――こんなものまで結ばされる――を精読した上で、契約。此処で働いていたのだ。
だから、この病院の事については、よく理解していたもの、と彼女は思いこんでいた。だが、それは間違いだった。メフィスト病院の細やかな暗黙の了解。
それを、彼女は解っていなかったのだ。結論を言えば、永琳は、メフィスト病院がドナー用の臓器が不足しており、そしてその足りない分の臓器を、
不心得者から腑分けさせて徴収している、と言う事実を知らなかったのである。知らなくて当然。何せ彼女の配属された所は薬科だ。
これが外科やら内科などに配属されていれば、彼女もそう言った情報を収集出来た事だろうが、薬による治療が望まれる薬科では、そう言った話題すら俎上に上がらなかったのである。

 不律が、今の状況の下手人である事を、永琳は理解した。
自分達を貶める為に、こんな嘘を流布させたのか。一瞬ではあるが、彼女はそう考えた。
だが、それは直に違うと、彼女は思い直した。そしてメフィストの方も、全て得心が言ったと言う風な表情で、納得。口を開いた。

「……如何やら、不律先生は、君達をサポートする為に、敢えて嘘を吐いたらしいな」

 そう言う事なのだろう。
メフィストの口ぶりから察するに、――俄かには信じ難い上、良心のへったくれもないが――不律の吐いた嘘は、この病院のスタッフにとっては、
肯定的に捉えられる事柄……、つまりは、良い事なのだろう。何せメフィストの口ぶりには、永琳を非難する様な色が全くないのであるから。
何故、あの老戦士はそんな事をしたのか。答えは明白だ、こちらに助け舟を出したつもりなのだろう。其処から、彼らに齎されるメリットは一つ。
自分達に恩を売り、味方として引き抜いておきたいのだろう。あの老人か、それとも妖怪よりも妖怪らしい身体を持ったランサーの猿知恵か。
それは永琳には解らない。どちらにしても言えるのは、『余計なお世話』、と言うもの。幸いメフィストからの心証は損なわずに済んだが、マスターからの誤解が酷い。これが、主従間の亀裂にならねばいいが、と永琳は祈る。

「『老』婆心、とは、さても良く言ったものですわね」

「全くだ。とは言え、臓器がないのならそれでも良い。引きとめて済まなかった、八意先生」

「いえ、問題はありません。私からも、聞きたい事が二つ程、御座いますので」

「……ほう」

 興味深そうな光を、その瞳が湛えた。メフィストが、他人に興味を覚える。
魔界都市の住民であるならば、それだけで、天にも昇る程の光悦……或いは、地獄に堕ちた方がマシだと言う程の恐怖を憶える。メフィストの関心とは、それだけの意味を持つ。

「一つ。ドクター。貴方は、姫と呼ばれるライダーや、黒軍服のセイバー、そして、戦闘狂極まりないアーチャーを召喚して、何を行うつもりなのですか?」

「さて、な」

「黙秘とは、無責任過ぎませんか? 確かに貴方程のキャスターであるのならば、そう言った存在を召喚して、聖杯戦争を有利に進めると言う事は取れる方策としては上等でしょう。ですが、貴方の召喚した存在は余りにも危険な存在が多すぎる。例え他の何体かが大人しくしていたとしても……姫、と呼ばれる吸血鬼を召喚したと言う事実一つだけで、ルーラーからの心証は最悪を極るもの。それで、ルーラーから討伐令を発布されたりなどしたら、馬鹿らしいにも程があり過ぎませんか?」

「全くだな。事によっては、ルーラーと争わねばならぬ時も、来るやも知れん」

 意外な事に、メフィストは、姫を召喚した事に対する永琳の非難を、すんなりと受け入れた。
如何やらこの魔界医師自身ですら、姫を<新宿>に招聘した、と言う事の意味を理解、その愚かさを承知していたらしい。
元より、メフィスト程の男が、全生命のアンチたる姫を召喚してしまった、と言う事実自体、永琳には今でも信じられない。何を思って、この男はあの怪物を、招き入れてしまったのか。……そして、永琳はその理由を、凡そであるが、理解しているつもりだった。

「貴方のマスターの、『金星人』の引き金、ですか?」

「……ほう。あれが直々に、君達の前に現れ、正体を口にしたのかは解らないが、独力で其処まで辿り着いたのであれば……成程。音に聞こえた、深遠なる知としか言いようがない」

 メフィストの「ほう」には、志希ですら理解出来る程の、驚嘆の色が含まれていた。
目の前に佇む、月の賢者、銀髪の美女の、驚くべき推理洞察力に、メフィストは、心底からの称賛を送っていた。今この瞬間、メフィストは、彼女が自分と同列の存在だと認めたのである。

「実を言うとその通りでね。時折、私は彼が何を考えているのかよく解らない時がある。『魔界』医師の名が廃るな」

「恥じる事では御座いませんわ。あれの考えが幸運にも理解出来ないのであれば……ギリギリ、ドクターは狂人の謗りを免れる事の出来る人物なのですから」

 永琳とメフィストの会話は時折、自分にも解る言葉で交わされているものにも関わらず、志希は、理解が出来ない事がある。
内容が難解であったり、そもそも自分にとって未知の内容を核に話が進んでいる、と言う事が理由としては大きい。
だが、今回の話は、志希にとってはまるで理解が出来なかった。話の内容が抽象的である事もそうだが、それ以上に、話の中心人物である、『金星人』、それのイメージが全く掴めないのである。故に、解らない。自分にも解る言葉で話しているのに、全くの異言語で交わされる会話を耳にしているような気分を、味わうしかないのである。

「続いて、もう一つの質問、宜しいでしょうか」

「伺おう」

「何故、貴方は本体ではないのですか?」

「……えっ?」

 頓狂な声を、志希は抑えきれなかった。

「あ、アーチャー? そこにいる院長先生って……」

「私でもなければ、気付かないわ。よく出来た『偽物』よ。但し――」

「ステータス及び、発揮出来る技術とその習熟度は、本体の私と同じだ。尤も、サーヴァントをサーヴァント足らしめる宝具までは、奮えないがね」

 軽く肩を竦める様な動作をし、メフィストは、立ち上がっている永琳の事を見上げた。
女性に見下ろされている、と言う事が耐えられなかったのか。それとも、そろそろ立ち上がるべきだと思ったのか。メフィストも、すっくと立ち上がって。
座っている姿もまた、女神の心を射止めるには十分過ぎる神韻があったが、其処に棒立ちしている姿もまた、美しい。
メフィストの立っているその姿に、煮溶かした白金を綺麗に塗りたくった、白樺の樹木の姿を、永琳と志希は連想した。

「偽物、と言う言い方は人聞きが悪い。クローン、或いは、ホムンクルスと呼びたまえ」

「どちらにしても、本体ではないのでしょう?」

 メフィストは時折、物理的な位置や、其処に到達するまでの時間を無視して突如としてその場に現れる、と言う事が数多い。
無論それは、メフィスト自身がこの病院の全てを知悉している院長であり、時空間に作用する程の病院のギミックを、
最大限利用していると言う事もあろう。事実、そうやって移動する事も、メフィストにはある。
それでも、メフィストの身体は一つである。同時に二つの異なる場所で治療する事は、メフィストにも難しい。
しかし、それを簡単にクリア出来る方法を、メフィストは知っている。簡単だ、『自分の数を二倍、四倍』にすれば良い。
そう、メフィストは、便利だからと言う理由で、己を模したホムンクルスを創造し、同時に異なる場所で異なる作業をやらせているのである。
ホムンクルスの医療技術、及び荒事に対する適正は、本体のそれと何らの遜色はなく、十全の活躍が約束されている。
彼らホムンクルスの仕事は、患者の治療及び、病院の運営、本体不在の際の院長業務の代理、そして、新しいギミックやデバイスの開発等多岐に渡る。
メフィスト病院が二十四時間フルタイムで営業出来、そして院長が常にその間、完璧なパフォーマンスを発揮出来る理由は正に、この自身のクローンによる分業体制、と言う所が大きいのである。

 ――だが。

「そんなに、私が本体ではないのが疑問かね」

「今はこの病院で働かせて頂いている身空とは言え、曲りなりにもサーヴァントと会うのに、ホムンクルスを代理にするのは、良い判断とは言えません。私がもし、何か叛意を起こしたとしたら、如何対策するつもりなのですか?」

「君が、此処でそれを出来ないと理解……、いや、信用しているからこそ、ホムンクルスである私が代理として君に会っているのだ」

 大した信頼のされ方だ、と永琳は胸中でゴチる。そしてすぐに、本題に入る。

「……本物のドクターは、何処に?」

「――『狩り』だ」

 その短い言葉を発した際のメフィストの言葉は、この応接間で今までメフィストが口にしたどんな言葉よりも、ずっと低く、高圧的で、そして――無慈悲だった。
まだ、氷山の方が温かみがある。志希はメフィストが発する――彼が発しているつもりなのかすら、永琳には解らない――狩りと言う言葉に怯えを隠し切れず、
永琳ですら、背骨が凍結して行くような感覚を覚える。此処まで、メフィストが『出来上がっている』とは思っていなかった。
彼をして此処まで言わせる人物。十中八九は、この病院を襲撃したサーヴァントとそのマスターであろう。
その二名は正味の話、永琳達からすれば因果応報、受けて当然の報いとしか映らないが。それでも、この魔界医師から追跡されるとなると、幾許かの同情は、隠せないと言うものであった。

「我が病院に救いを求めた者は、必ず帰す。だが、我々に危害を加えようとして、無事に帰った者は未だ嘗ていない。そして、これからも赦さない」

 二名を一瞥する、メフィスト。審判者の光が、その両目には宿っていた。

「バーサーカーのサーヴァント、ジャバウォック……もとい、高槻涼。そして、そのマスターであるロザリタ・チスネロス。本物の私は、二名を殺す為なら地の底まで追跡し、その魂を砕かんとするだろう。それは、ホムンクルスである私とて、同じ事。彼奴らは、赦されざる一線を越えたが故に」

「ドクターの応報が、果たせる事をお祈り致します」

「有り難いお言葉だ。休憩に入りたまえ、八意先生。君には、休息が必要だろう。まだ新国立競技場の疲れが抜け切れていまい。十分……いや、二十分に延長しておこう。身体を休め、業務を遂行したまえ」

「了解致しました。マスター、出るわよ」

「う、うん」

 そう言って二名は足早に、いつの間にか閉じられた自動ドアの下まで近づいて行く。
其処で永琳は、佇立するメフィストにお辞儀をし、彼女に倣うように、遅れて志希も腰を曲げ一礼。
その後二名は、主に対する一礼を受けたかのように開かれた、自動ドアの先へと消えて行く。

 音もなく、ドアが閉じる。
最早無意味とすら言える程の、壮麗たる応接間に一人、メフィストだけが残された。本物ではない、紛い物(ホムンクルス)のメフィストが。

「……金星人、か」

 ホムンクルスのメフィストは、それぞれ業務に当たるメフィスト及び、本物のメフィストが現在見聞き・体験している情報を、
超高速遠隔並列思考法により、リアルタイムで同期する事が出来る。当然、己のマスターがルイ・サイファーで、彼が何者なのかも、このメフィストには既知の事柄である。

「言い得て妙だな。月の賢者、恐るべし」

 それは、メフィストにとって、最大級の称賛の言葉であった。
彼が、女性を褒めるなど。彼の思い人である、黒コートを纏った『私』の男が聞けば、さて、何を思うのか。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【ねぇ……アーチャー】

【何かしら】

【……本当に、臓器の事……】

【一時間前の記憶すら曖昧なの? 貴女。誰の命令で、私が競技場まで出向いたのか、一々貴女に言わせないとダメかしら】

【あっはい、私です】

【宜しい】

 廊下を歩きながら、休憩所まで向かう、永琳と志希。
その道中、メフィストが言った、ドナー用の臓器探しの件がずっと頭から離れず、志希は永琳に問いかけてみるも、無論永琳にはそんな考えなどない。
メフィストの言霊の呪力が強力過ぎるとは言え、マスターである志希にですらあんな悍ましい真似を自分がしていると思われると、流石の永琳も少々凹む。いや、確かに元の世界ではやっていた事もあるが。

【アーチャー、一ついいかな】

【?】

【金星人……って、何? あの綺麗な人のマスターって、宇宙人なの?】

 志希はずっと、あの応接間で二名が行っていた会話の最後の辺りに出て来た、金星人の事が気になっていた。
余りにも謎めいており、どう言う人物なのか全く推察が出来ない。まさか、メフィストのマスターは本当に、この地球に住んでいる人間ではなく。
ウェルズの宇宙戦争に出て来たような、タコのお化けみたいな古典的な宇宙人がマスターであるとでも言うのだろうか? そんな可能性も、なくはない。
何せ呼び出されたサーヴァントが、あの美の魔人なのである。地球外の生命体でも、最早驚くに値しない。志希は、そう考えていた。

 志希は、永琳から「馬鹿ね」、とか、「そんなわけないでしょ」、とか。
自分の馬鹿げた意見を一蹴する様なリアクションを、当初は予期していた。――実際は、違った。非常に神妙そうな顔つきを露にしながら、彼女は口を開き、語った。

【……貴女の言った宇宙人の方が、ずっと可愛げがあるわね】

【違うの? じゃー、その金星人って、一体何なの?】

 時間にして、五秒程。永琳にしてはたっぷりの沈黙の後、彼女は、志希に対してこう告げた。

【悪魔、よ】

【悪、魔……?】

 何だか、人を表現する言葉としては、余りにもチープ。志希は、そんな事を考えた。

【私達が聖杯戦争を順調に生き残っていれば、何れ解る時が来るわ】

 【――けれど】

【解らない方が、ずっと幸せよ。私に出来るのは、早くその金星人が脱落する事を、心の底から、祈るだけ】

 志希には今も、永琳が口にした事の意味がよく解らない。
それでも、理解した事がある。きっと、金星人の意味など、解らない方が幸せであると言う事を。
それは、永琳の女性的で、柔らかな背中が、雄弁に語っているのであった。






【四ツ谷、信濃町方面(メフィスト病院/1日目 午後3:10】

【一ノ瀬志希@アイドルマスター・シンデレラガールズ】
[状態]健康、精神的ダメージ(極大)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]
[道具]服用すれば魔力の回復する薬(複数)
[所持金]アイドルとしての活動で得た資金と、元々の資産でそれなり
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>からの脱出。
1.午後二時ごろに、市ヶ谷でフレデリカの野外ライブを聴く?(メフィスト病院で働く永琳の都合が付けば)
[備考]
  • 午後二時ごろに市ヶ谷方面でフレデリカの野外ライブが行われることを知りました
  • ある程度の時間をメフィスト病院で保護される事になりました
  • ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
  • 不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
  • メフィストが投影した綾瀬夕映の過去の映像経由で、キャスター(タイタス1世(影))の宝具・廃都物語の影響を受けました
  • メフィスト病院での立場は鈴琳(永琳)の助手です
  • ライダー(姫)の存在を認識しました
  • アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました
  • 新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
  • 地母神アシェラトのチューナーとなった宮本フレデリカの死を目の当たりにし、精神的ダメージを負いました
  • メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません


【八意永琳@東方Project】
[状態]十全
[装備]弓矢
[道具]怪我や病に効く薬を幾つか作り置いている
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:一ノ瀬志希をサポートし、目的を達成させる。
1.周囲の警戒を行う。
2.移動しながらでも、いつでも霊薬を作成できるように準備(材料の採取など)を行っておく。
3.メフィスト病院で有利な薬の作成を行って置く
[備考]
  • キャスター(タイタス一世)の呪いで眠っている横山千佳(@アイドルマスター・シンデレラガールズ)に接触し、眠り病の呪いをかけるキャスターが存在することを突き止め、そのキャスターが何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だ明白に理解していません。
  • ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
  • 不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
  • メフィストに対しては、強い敵対心を抱いています
  • メフィスト病院の臨時専属医となりました。時間経過で、何らかの薬が増えるかも知れません
  • ライダー(姫)の存在を認識しました。また彼女に目を付けられました
  • アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました。また後者のサーヴァントには、良いイメージを持っております
  • 新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
  • タイタス10世の扮した偽黒贄礼太郎の正体を、本物の黒贄礼太郎だと誤認しております
  • メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
  • 事が丸く収まり次第、メフィストから襲撃者(高槻涼)との戦闘の模様と、霊薬を作成する為の薬を工面して貰うよう交渉する予定です
  • メフィストから許しを得、通常業務に復活する事が出来ました
  • メフィストのマスターが何者なのかついて理解していました
  • メフィストが現在病院不在で、彼が幾つものホムンクルスを分業させている事を知りました



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投下順



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48:明日晴れるかな 一ノ瀬志希 [[]]
アーチャー(八意永琳)

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最終更新:2021年03月31日 18:46