「上がれよ、坊や」

 そう言って、今時ヤクザ者かチンピラ、好き者しか着そうにない、赤地に金糸の刺繍が施されたシャツが特徴的な男が言った。
髑髏を模したようなデザインの、銀色に光る面頬を被り、威圧的な眼光をチラつかせる、巨躯の男の名前は、ソニックブーム。
『衝撃波』の名を冠するこの男は、あるニンジャの魂をその身に宿させた、常人(モータル)とは一線を画したニンジャ(イモータル)なのである。

 そんな男が今は、気さくな態度と声音で、偶然知り合った聖杯戦争の参加主従、荒垣とイルに入室を促す。
この部屋には罠の類は一切なく、実際安全である。であると言うのに、荒垣らは全く部屋に上がる気配を見せない。
それどころか荒垣の表情からは、凄まじいまでの険が渦巻き始めているではないか。威圧的な表情で、彼はソニックブームらを睨めつけていた。。

「オイオイボウヤ。ただの独身男の何て事ねェアパートに対して、ビビってくれるなよ」

「ただの独身の家に、死体なんざある訳ないやろドアホ」

 恐怖で言葉を失っているのか、それとも呆れているのか。
沈黙を保ち続ける荒垣の代わりに、実体化している状態のイルが、ソニックブームの言葉に反論する。
眉が酷く、不機嫌かつ不愉快そうに顰められている。当たり前だ、嗅ぎ慣れた死臭が漂って来ているのであれば、こんな顔を作りたくもなる。
それに、こんな表情を作っているのは、何もイルだけではない。ソニックブームの召喚したサーヴァント、つまり、一蓮托生の間柄であるセイバー・橘清音ですらも、
自身のマスターに対して呆れ返っているのだ。全員に、そんな目線を向けられる物であるから、流石のソニックブームも居た堪れなくなり、チッと舌打ちを響かせ、弁解の言葉を口にする。

「セイバー=サンにまでそんな目線を送られる筋合いはねぇな。この死体が何なのか、お前さんも良く解ってるだろ、エェッ?」

「勿論、理解してはいますよ。いますが……そのまま持って来る人がいますか、普通」

「誰の死体だ」

 と、口にするのは荒垣だ。
身に着けている学生服がカッチリとしてお堅いが、ソニックブームには雰囲気で解る。
体格の良さも然る事ながら、発散される雰囲気が、アウトロー寄りなのである。こう言う雰囲気は、服装で努力したとて中々消せない。
スーツや学生服程度では中和出来ない程、人間の魂や本質が放つ、『臭い』と言う物は強いのである。何度見ても、この荒垣真次郎と言う男は、ニンジャ向けの住民であった。常人なら吐き気を催しかねない死臭を嗅いでも、まるで動じていない。

「それについては、情報交換した後で話す。それでいいだろ」

「こんな環境で話すんか」

「死体の傍で話す事に躊躇う程、デリケートなサーヴァントじゃねぇだろ。アサシン=サンよ」

 荒垣が只者ではない事を、看破してしまうソニックブームだ。
勿論、イルがただの人間ではない事なども、当たり前のように理解する。但しそれは、イルがアサシンの『サーヴァント』だから、と言う理由からではない。
同じサーヴァントでも、潜った修羅場の数と質に大分違いがある事を、ソニックブームは当の昔に解っていた。
清音とイルなど正しくそうだ。同じサーヴァントでも、生前に体験した死線の数とクオリティが、二人は大分違う。清音は何処となく、幼さと未熟さがまだまだチラつく。
――イルは、違う。一体、どれ程の場数をこなせば、こんな雰囲気を発散出来ると言うのか。ソニックブームはニンジャになってから久しく感じた事のない、
戦慄を覚えた程だった。今この瞬間イルから発散されている空気は、桁違いに威圧的だ。それでいて、その威圧が空回っていない。虚勢でもないのだ。
これだけの空気は、消そうと思って消す事は最早不可能なレベルであると言うのに、イルは実体化してソニックブーム住まうマンションにやってくるまで、
あろう事かそんな空気を完璧に消して見せていた。すれ違う市井の住民に、自分が堅気の人間ではない事を悟らせぬ為であった。
それが、恐ろしい。此処までの戦士の気風を発散出来るだけの凄まじさもそうだが、それを完璧に消して見せる平素の立ち居振る舞いもそうである。

 其処までの領域に達しているサーヴァントが、今更死臭の香る環境で文句何て抜かすんじゃねぇ。
ソニックブームはそう言う事を口にしているのである。こう言われたら、イルも弱い。
何せこのニンジャの言う通りだからだ。イルの人生も思えば、死が身近にあった人生と言えるからであり、斯様な状況も珍しくなかったからである。

「密室に死体置いた状態で、オチオチ話も出来んやろ」

「其処を耐えろってーんだよ。ウォール・イヤー、ショウジ・アイって言うだろ。情報交換を、誰がいるかも解らない外で何て出来るかよ」

「……壁に耳あり障子に目あり、とでも言いたいんですか?」

「そうとも言うな。どっちにしろ、俺にとって安心してお前達と情報を交換出来る所が此処しか思い浮かばなかっただけだ。他に候補があるんだったら、俺もそれに従ってやるよ。俺だって死体の臭い嗅ぎながら話し合いなんざ真っ平御免だからな」

 思い浮かばない、と言うのが荒垣とイルの本音だ。
セラフィム孤児院位しか、二名は安心して話せる場所が思い浮かばなかったが、あそこはそもそも論外だ。
特にイルである。NPCとは言え、イリーナに火の粉が降りかかるような真似は、もう二度としたくないからだ。
そこ以外に候補がないとなると、此処は我慢して、ソニックブームのセッティングした場所で話し合うしかないようだ。
念話でイルも荒垣も、互いの意見の一致を見てから、マスターである荒垣の方が口を開く。

「此処で構わないが、サッサと終わらせるぞ。死体の臭いが身体にこびり付くのだけは、俺も勘弁だ」

「おう、同意するぜボウヤ」

 言ってソニックブームは、リビングにおいてあったソファの上に、スプリングが軋むような勢いで座りだす。
荒垣の方はと言うと、土足のまま部屋に上がり込み、ソニックブームの対面となる位置で、直立の姿勢のまま彼の事を見下ろした。
「土足かよ、礼儀がなってねぇ悪ガキだ」、と肩を竦めるソニックブーム。「まだ信頼してる訳じゃねぇからな」、と返す荒垣。
下手に靴を脱いで、行動に支障が出る様な状況に陥られては拙いと言う判断からである。その証拠に、ソニックブームのサーヴァント、橘清音は、
今もGスーツを装着した状態で臨戦態勢なのである。これで、胸襟をといて話し合おうじゃないか、と言う方がそもそも無理筋である。
普段のソニックブームであれば、裂帛の気魄と殺意を撒き散らしてヤクザスラングを口にしていたろうが、状況が状況だ。今回は、大目に見てやる事にした。

「俺からセリューの事について話すぜ」

 無言の荒垣とイル。構わない、と言う事の遠回しの意思表示だ。

「結論を言っちまうとだな、討伐令を敷かれるだけの事はあるイカレだったよ。マスターもサーヴァントもな」

「どっちも狂人、って事は大体、此処に来る前のアンタの言葉からも伝わった。だが、どんな感じにヤバいんや」

「倫理的にだとか、人道的に反して邪悪な思想の持ち主って訳じゃねぇ。ただ、独善的な奴なんだよ」

「独善的……?」

「セリューが殺して回った人間達、あれは実は、ただのカタギじゃねぇ。高い確率で、セリューはヤクザのみに絞ってスレイしてた」

「何でそうと解った?」

「何でも何も、セリュー自身が自信満面に口にしてたからな」

「……これは驚いた。嘘吐いてるように全然見えへんで、マスター」

 仮に嘘を吐いていたとしても、余人にそれを悟らせぬような仕草とポーカーフェイスをソニックブームは身に着けている。嘘を告げた所で、先ずそうだと人は気付くまい。
尤も、今回に限って言えば、イル程の男がこうと口にするのは、当たり前の話。何故ならば今ソニックブームが言った事は紛れもない事実。
セリューは確かに、ヤクザを重点的に殺して回っていると口にしていたのだし、その事実を単にソニックブームは告げたに過ぎないのだ。騙す、謀る以前の問題だ。そもそも騙す意図も必要性もないのだから、イルがソニックブームの言葉や挙措に譎詐を見いだせないのも仕方がないのだ。

「あの嬢ちゃんは言ってたぜ、自分達がヤクザ殺して回るのは、そいつらが悪だから……ってな」

「悪いNPCを裁くのは、警察とか司法関係のNPCの仕事やろ。そいつそっちの関係のロールなんか?」

「見えなかったな」

「成程な。そいつらに代わって自分が、って事か。確かに、独善的って表現は見当外れでもないみたいやな」

「んで、この主従の厄介な所は、表面上は話が通じそうだと思っちまう所にある」

「話が通じる、って言うのはどう言う意味だ」

 荒垣

「セリューって嬢ちゃんは、要するに正義感を暴走させてるんだ。根っこの所は、間違っても邪悪ではない。これは間違いない。だろう? セイバー=サン」

「えぇ。俺もそんな感じはしました。思うに……元々悪を絶対許せないって性格だったのが、サーヴァントと言う超常の力を持った存在を手に入れたせいで、歯止めが効かなくなった……と言う風に見えました」

「タチが悪ぃ事この上ねぇな」

 純粋な悪意で動いていると言うのなら、潰すのに何の遠慮も要らないのだが、善意の押し付けで動いている存在を遠慮抜きで叩ける程、荒垣と言う男は割り切れる男ではない。歯噛みの表情を隠せないでいた。

「セリューの『悪を許さない』って思考は、とてもヒーロー的だ。だからこそ、この主従は厄介だ。この主従の本質に気付けねぇ間抜けは、こう錯覚するだろう。『実はセリューさん達は良い人なんじゃ?』ってな。んな訳ねぇだろ、パニッシャーが実は善人だった、なんて面白くもねぇジョークだ」

「本来孤立して、他方から叩かれて然るべき奴らが、ひょっとしたら同盟か協力関係を得て、厄介な奴らの集まりになるかも知れない、っちゅーわけやな」

「其処は俺も危惧してる。単体じゃそれ程のサーヴァントでも、二組以上で徒党を組まれたら、何が飛び出て来るかわかんねぇからな」

 「それともう一つ」、とソニックブームは指を立てる。

「この主従には厄介なポイントがある」

「何?」

「サーヴァントだ。強さ、と言う点については、俺もセイバー=サンも直接戦った訳でもなく、奴らが戦ってる瞬間を目の当たりにした訳でもねーから、詳細は語れねぇ。だが、それとは別に危険な点がある」

 「それは?」、とイルが言った。

「契約者の鍵から投影されたホログラムの写真だけじゃ、食い殺されそうな位凶暴なバケワニだがよ、ありゃ違う。喋れるし、理知的なんだよ」

「……バーサーカーのクラス、何だろ?」

 荒垣が言いたい事も尤もだろう。
理性と会話能力を奪われた代わりに、平時のステータスに色を付けられたクラス。それがバーサーカーの筈なのだ。
それなのに、理性もあるし言葉も喋れると言うのであれば、そもそもの前提からして覆されてしまう。これでもし、ステータスの補正だけが生きているとなると、完全にインチキではあるまいか。

「そう、バーサーカーなのに何でかは知らないが、喋れる。しかも、一言二言話をするだけで解る。相当賢いぜ、あのワニ」

「喋れて知恵が回るバーサーカーか……。確かに、厄介かも――」

「まだある」

 イルの言葉を遮り、ソニックブームが言った。

「本当に問題なのはこのバケワニ、セリューを意識誘導してるフシがあるって所だ」

 眉を疑問気に吊り上げるイルと荒垣。疑問の解消の為口を開いたのは、荒垣の方であった。

「意識誘導……?」

「あの主従のやり取りを見てて思った。あの二人、マスターよりもサーヴァントの方にイニシアチブがあるように俺には見えた」

「これについては、俺も同意見です。どうにもセリューと言うマスターよりも、バーサーカーの方に主導権があるんじゃないか、と言う場面がありましたので」

「どう言う場面だったのか、説明してくれや」

「結論から言っちまうとだな、セリューって言う嬢ちゃんを体よく利用出来ねぇかと、交渉を持ちかけた。俺と組まねぇか、ってな」

「節操の欠片もねぇな」

「ルッセー。利用出来るモンは利用すんだよ。だが、結局は失敗だった。バーサーカー……バッターを名乗る野郎の独断で、一方的に決裂されてな」

「バッター……? そりゃ、バーサーカーの真名か? 何でそうだと解ったんや?」

「簡単な話だ、セリューの方が普通に奴の真名を口にしてたし、それで奴らは会話してた」

 「話を戻すぜ」、ソニックブームが話したい事に軌道を修正する。

「連中らも流石に、自分達が令呪って言う生肉を強制的にぶら下げられた、お尋ね者だって言う認識がある筈だ。そんな中で、同盟と言う申し出は輝いて見える筈だろ? 仮に罠だとしても、考える素振り位は見せる筈。なのにあのワニ野郎は、『一方的に交渉を破談させたばかりか、セリューはその強行を一切咎める様子がなかった』」

「……それを見て思った訳やな。この主従は、マスターであるセリューの判断よりも、バッターっちゅうバーサーカーの判断の方が、上位にあると」

「そうだ。仮に俺の考えが正しいとなると、セリューは、バッターに誑かされて、百人以上ものヤクザNPCをスレイした可能性が高い」

「……理由の方は、解んのか?」

「知るかよ。大方魂喰いなんじゃねぇのか? 魔力は欲しい、だが罪のねぇNPCからだとマスターからの顰蹙を買う。そうなるんだったら、反社のNPCを殺して腹の足しにしよう、って説得する方がよっぽどらしいじゃねぇか」

 合理的なソニックブームの考えに、荒垣もイルも納得する。考えてみれば、当たり前の理屈であったからだ。

「セリューって言う嬢ちゃんがあそこまで独善的なのは、バッターに意識誘導されてるか、洗脳されてるかのどっちかなんじゃねぇか。俺はそう睨んでる。そうなると、今後もより多くのNPCが殺される可能性が高い。危険度としてはかなり上位の主従だろうな」

「NPCの殺戮も、セリューではなく、バッターの誘導による物……お前はそう言いてぇのか」

「ま、セリュー自身の意思によるもの、って可能性もゼロじゃないだろう。が、俺が思うにそりゃ『オオアナ』だ。その線は薄いだろうぜ」

 荒垣もイルも考える。
確かに、ソニックブームの言った通り、セリューらの行った凶行の全てが、バーサーカー・バッターの教唆によるものだとしてしまえば。
その全てに辻褄が合う。だが、その目で実物のセリュー・ユビキタスとバッターを見ていない為、本当にソニックブームの私見が真実なのか。
逸って結論は下せない。とは言え、ソニックブームが此方を謀ろうと嘘を吐いていない可能性の方が高い事も、イルは承知している。
馬鹿と話して時間を取られた、こんな事なら不意打ちで殺しておけば良かった。そのような後悔めいた感情が、ソニックブームから伝わって来るからだ。
この手の空気は、相手も本気で醸している可能性が高い。よって、今ソニックブームの提供した情報は、かなりの確率で真実の蓋然性が高いのである。彼の意見が正しいとは言わないが、参考すべき意見としては、確かな物であった。

「ま、俺らから提供出来る情報は以上だ。次はお前達だぜ、アサシン=サン、ボウヤ」

「先ずそれについて、一つ聞きたい事がある。アンタら、遠坂凛達については、どない思ってるんや?」

「トオサカ、についてだぁ……?」

 ソニックブームが顔を清音に向け、意見を求める。清音の方もまた、考え込んでいた。

「俺が真っ先に思ったのは……もしも、遠坂凛がただの女子高生、って言う情報を頭から信じるなら……あんな事をするのか? って事ですね」

 優等生らしい意見だな、と思うのはソニックブーム。清音が言った『あんな事』とは当然、あの黒礼服のバーサーカーの大量虐殺の事を指す。
これについては、ソニックブームも同じ事を思っていた。セリュー達が仮に魂喰い目的でヤクザ達を殺して回ったとしても、これについては理に適う。
何故ならば彼らは一般的に殺されても表沙汰になり難い人種を、水面下で殺して回っていたからだ。魔力欲しさに、社会のゴミのNPCを裏で殺して回る。
結果的に彼らの狂行は露見こそしてしまったが、彼らの目的を知ってしまえば、筋も理も通っている、と誰もが思うであろう。

 だが、遠坂凛達については、筋も理も、何も通らない。行き当たりばったり過ぎるのだ。
魂喰いにしても、往来の真っ只中で行う意味が不明であるし、そもそもソニックブームにも清音にも、彼女らが魂喰いを行っている風には見えなかったのである。

「まぁ、俺が思うのは……アー……。遠坂凛は進んで、あのマス・マーダーを行った訳じゃねーんじゃ……、って事だな」

 ソニックブームも清音も、そして荒垣もイルも。
遠坂凛とそのバーサーカーが虐殺を行っている瞬間の映像は、TVニュースで流れた映像や動画サイトで嫌と言う程見て来た。
解像度はやや粗く、鮮明とは言えないが、遠坂凛や黒礼服のバーサーカーの表情や挙措で、何となくだが、こんな事が起ってしまった理由の推測が出来る。
遠坂凛は、バーサーカーの制御に失敗した、と言う事。詐欺師、サイコパス、そして何より殺人鬼……。
そんな類が跋扈する末世末法の地・ネオサイタマに於いて、ソウカイヤに属してニンジャのスカウト業を行っていたソニックブームには良く解る。
悪党か、そうじゃないか? その手の目利きは、スカウトの達人である彼は得意である。遠坂もセリューも、ソニックブームの目から見れば、根からの悪ではなかった。
但し、あの黒礼服のバーサーカーは、別。あれの表情は、明白に殺人を楽しんでいた。ソニックブーム自体も良く見た、典型的なサイコの顔。
遠坂とバーサーカーの表情を対比させて考えた場合、やはり思い浮かぶのは、バーサーカーの制御に凛が失敗、黒礼服の男の暴走を許してしまったと言う推論だ。
況してバーサーカーは、素人の付け焼刃で御せるようなサーヴァントではないと言うじゃないか。ただの女子高校生・遠坂凛がそのブレーキをミスったと言う話も、満更嘘ではないのだろう。

「……その前提が、覆りそうな証拠が出て来たんや」

「アーン?」

 言ってイルは、荒垣に対して手を伸ばす。
意を得た荒垣が、懐から一冊のノートを取り出し、それをイルに手渡して来た。
臙脂色に近い赤色をしたハードカバーのノート。それを荒垣は、ポイッとソニックブームの方に放って来た。
これをキャッチしたソニックブームは、マジマジと表装を眺めてみる。タイトルの類はない。何を記したノートかを表す認(したた)めもない。
不思議に思いソニックブームがノートを開く。そして其処に書かれた内容を見て、ソニックブームも、清音も、眼を見開いた。

「……何処でこれを」

 問うたのは、清音の方だ。

「奴さんの家や」

「四六時中、マッポやデッカー共が張り込んでる上に、今も調査・鑑識の真っ最中じゃねぇか。アサシン、のクラスなら余裕って訳か?」

「手札を晒す程阿呆やないで」 

 イルのアサシンクラスとしての適性は、正直言って並である。気配遮断のクラスも、取り立てて高いと言う訳ではない。
だがイルは、極めて特殊かつ強力な宝具、と言うより能力を保有しており、この一点に於いて彼は凡百のアサシンを凌駕していると言っても過言ではない。
万物を無視して移動出来る特殊な方法で、遠坂邸の障害物をすり抜けて内部まで侵入した、と説明するだけなら容易いが、これは言うまでもなく切り札を暴露するに等しい。方法を言え、と言われて言う訳がないのは当たり前の事であった。

「……驚きましたね。まさか遠坂凛が、魔術師だったなんて……」

 改めて、清音はノートの内容に目を走らせる。
羊皮紙に似た色合いの紙には、聖杯戦争についての知識及び、これを乗り切り優勝する為の綿密なプランニングが記されていた。
しかも、記されている筆跡から考えるに、<新宿>での聖杯戦争が開催される以前に、このノートは作られたと見て間違いがない。
ノートに書かれた、聖杯戦争についての情報の細かさ。これは一般人ではとても到達しえないレベルのそれであり、即ちこれが意味する事とは一つ。
遠坂凛は、魔術の世界に通暁する住民であった、と言う事である。

「この、冬木・シティってのは何処だ?」

 ソニックブームが真っ先に思った疑問を口にする。
確かに、ノートの中には、<新宿>での聖杯戦争参加者が見れば誰でも解る程、馬鹿丁寧に聖杯及び聖杯戦争への情報が細かく記されている。
だが、その聖杯戦争の対象が、此処ではないのだ。ノートの中で、遠坂凛が想定していた聖杯戦争の舞台は、『冬木』と呼ばれる町でのもの。
実際ノートをペラっと捲ると解るが、明らかに<新宿>を示すものではない地図がスクラップとして張りつけられており、そのスクラップには、
この町の要点と呼べるだろう所がペンでマーキングされているのである。あの少女は、地の利すら真剣に考察する程、本気で聖杯戦争に取り組もうとしていたのである。

「さぁな。類似する町が、果たしてこの世界の日本にもあるのかどうか、俺にはよう解らん。が、一つの推論としては、遠坂凛は契約者の鍵で<新宿>に招かれなければ、その町で聖杯戦争を行っていた可能性が高いっちゅー事やな」

「元居た世界……と言う事ですか。その世界にも聖杯戦争があったとなると……」

「ま、このふざけた催し自体、異世界・並行世界単位でマクロ視した場合、結構普遍的なものかも知れんと言う事になるな」

「世も末ってのは、惑星単位じゃなくて、ユニヴァース単位でって事かよ」

「全くやな」

 聖杯戦争なんて馬鹿げたイベント、この世界だけに限ったものかと思っていえば、多元宇宙規模で見たらそう珍しい物でもなかったらしい。
まさか世も末、なる言葉が人間の住む地球単位でのものではなく、数多の異世界・並行世界を内在させた多元宇宙とか連立次元規模の時空を指し示すものだったとは。つくづく、宇宙には悲劇しか認められていないようであった。

「遠坂凛が魔術師であったと仮定するなら……あの虐殺自体、嬢ちゃんが仕組んだものの可能性がある……こう言う事だな? アサシン=サン」

「その、可能性がある、って程度やな。テレビで見せてた、遠坂のリアクション……あれは、ほんまもんやで」

 耳どころか、瞼の裏にすらタコが出来そうな程、区内でも区外でも、黒礼服のバーサーカーの事件は地上波やBSで放送されているが、
その模様を映した断片の動画を見るだけでも、敏い者が見れば解るのだ。黒礼服の狂行を目の当たりにする凛の表情は、どう見ても想定外の事態に出くわしたそれ。
あれがもし演技であったと言うのなら吃驚仰天も甚だしいが、その線は見た所かなり薄い。

「とま、遠坂について俺らが語れる状況は、こんなもんや」

 其処で、イルが襟を正す。

「自分、誰殺したん?」

「アーン?」

「この場で惚ける何て、大層な肝の持ち主やな。今更隠し立てする事もないやろ。お前、俺らと会う前に誰を殺ったんや?」

 部屋に香る死臭は、イルも生前は嗅いで来た物である。今更、この臭いの正体を見誤るような真似はしない。
重要なのは、荒垣達と接触する前に、ソニックブームが誰を殺したのか。これであった。
この事実が、最後の分水嶺である事をソニックブームも清音も同時に理解していた。誰を殺したのか、それ次第でイル達との交渉が決裂する。
別段交渉が破談したとて、このニンジャは何らの痛痒も感じない。使える手駒が一人減った程度、である。去った所で、どうぞ、と言うだけの話だ。
とは言え、荒垣らは既に、ソニックブームのアジトに招かれている。この場所を交渉材料に、何かしらゴネて来るのではないかと誰もが思うだろう。
荒垣達はソニックブームが今いる所が、自分達の拠点であると思っているようだが、しかし、其処からしてもう違うのである。
当の昔に清音が、ソニックブームの為に新しい拠点を、不動産屋を通して設定してくれているのだ。古い方の拠点を知った所で、全く脅しにもならない。
つまりこの状況、彼は荒垣らを逃した所で、全く痛くないのである。別段決裂しても問題ない。それに、決裂するとも、ソニックブームは思っていなかった。

「ついて来いよ」

 言ってソニックブームはソファから立ち上がり、目的の場所へと案内する。
案内すると言っても、イルは既に死体の置かれている場所を理解している。能力を使うまでもない。風呂場だった。
仮にイルも、死体をこの部屋の中の何処かに置けと言われたら、風呂場に置く。いざと言う時に水が使える事が大きい上に、風呂のグレードによっては室内換気も使えるからだ。置かない手はなかった。

 ユニットバス式らしい、件の死体は洗面台の方ではなく、浴槽の方に置かれていた。
それ自体は問題ではない。問題があるとしたら――

「……!! こいつは……」

 真っ先にそれに反応したのは、意外にも荒垣の方であった。見覚えがあったからである。
浴槽で、スーツの様なものを纏って人間を装ってはいるがしかし、明らかに人間ではないと確信させる異形の存在……。
全体的に人間としての形を留めていながら、身体中から針金のように太くて茶色い毛を生やし、拉げた頭から脳を露出させたその顔面から、
象の鼻めいた物をだらしなく弛緩させているその怪物。荒垣は今日の深夜に、これとは別の怪物と戦っていた。
恰幅の良さそうな女性が変身した、ギュウキと言う名の怪物(ミュータント)と、だ!!

「ほう、知ってるのか? ボウヤ」

「……誰が、どんな手段で、そして何の目的で、こんな怪物にNPCを変身させてるのかは知らねぇ。だが……一度交戦した事がある」

「成程な」

 と、スルーした素振りを見せたが、荒垣の言葉選びから、イル自身が怪物を倒したのではなく、『荒垣自身』が怪物を倒したないし退けたのだ、
と言う事をソニックブームは看破した。セリューらがこの化物と立ち回ったのを遠巻きに眺めたと言う経験から、
これらの怪物の強さの平均値が大体どれ位のものであるのか、ソニックブームは卓越したニンジャ洞察力で凡その当たりを付けていた。
少なくとも、NPCは楽々蹂躙・殺戮出来るだけの力を保有し、下手をすればサーヴァントですら不覚を取りかねない強さであると言うのが彼の意見だ。
そんな強さの存在を、マスターの身で倒したと言うのだ。例え倒して居なくとも、退けたり、逃げ果せただけでも大した物である。荒垣はどうやら、纏う雰囲気相当にただのパンクではなかったようである。

「実を言うと俺もボウヤと同じで、こんなミューテーションを起こさせた奴が誰なのか解らなくてな。で、どうだいボウヤ。こいつの情報なんか知ってるだろ? エエッ?」

 これが、ソニックブームが面倒を承知で、あの時怪物に変身しようとしていた警官の死体を古い方のアジトに運搬した理由であった。
サーヴァントを相手に戦えるだけの怪物が、この<新宿>に、人間に化けて跋扈していると言うのは、如何な歴戦のニンジャであるソニックブームとて、
楽観視出来た物ではない。しかも高い確率で、NPCを怪物に変身させているサーヴァントは、彼らを統率する気がないと来ている。
統率する気があるのだったら、尋問次第で口を滑らせ居場所を教えてしまいそうな怪物化NPCを<新宿>に放つ方がリスクが高いからである。
セリュー達と怪物のやり取りから察するに、この怪物はかなり恣意的に動く可能性が高い。それを考えると、<新宿>の聖杯戦争は相当危険な物へと様変わりする。
マスターやサーヴァントが危険な存在なのは、当たり前の事である。最大限の警戒をするのは前提とすら言っても過言じゃない。
だが、これらに加えてNPCにまで気を張れとなると、ニンジャの持久力と精神力を持つソニックブームでも相当な心労を覚悟せねばならない。
不必要なリスクは避けたい。況してモータルであるNPCにまで警戒しろと言うのは、ニンジャとしてのプライドが許さないのである。だから、情報が欲しい。
これらの怪物について、どう立ち回るべきなのか、と言う知恵が。怪物に変じるNPCの情報を、他の参加者から得る為。これが、ソニックブームが古い方のアジトに死体を置いて来た理由の全てであった。

「さっきも言ったが、俺だって詳しい事を知ってる訳じゃねぇぞ」

「んなもん承知してる。このカラクリを仕掛けた奴は、俺は本気で危険な奴だと認識してる。下手すりゃ、セリューや遠坂以上のお尋ね者になるぜ」

 少しでも情報が欲しい、と言うソニックブームの言葉は本心から出ている。
荒垣も最初の方は、疑惑の目線をこのニンジャに向けていたが、やがて、情報は共有しておいた方が良いと言う思いの方が勝ったか。
話すべき情報を吟味し終えた彼は、ゆっくりと口を開き始めた。

「倒したNPCが口にしてた言葉から考えると、こいつらは、人を喰う」

 それはソニックブームも理解していた。
怪物化するNPCが引き起こしていたミンチ殺人は、聖杯戦争が始まる以前から有名な事件で、その特異性と猟奇性は各種メディアで詳らかにされていた。
だがソニックブームは、実際に当該NPCが引き起こしていた殺しの様相を目の当たりにするまで、俄かに信じられずにいた。
人を喰らって殺すなど、まるで獣の所業ではないか。末法の世界ネオサイタマを跋扈するサイコパス染みたニンジャですら、もう少しまともな殺し方をすると言うのに、
末世末法と言う言葉を使う事すら躊躇われるこの<新宿>で頻発する殺人の方が、猟奇的であると言うのは余りにも恐ろしい話だった。
だが、セリュー達と怪物化するNPCが戦っていた場所に転がっていた、酸鼻を極る死体の様相から察するに、本当に彼らは人を喰らうらしい。
此処までの情報は、ソニックブームも理解している。続きはないのか、と言う目線を荒垣に送るソニックブーム。

「後はそうだな……俺がそいつと接した時には、そいつは明らかに正気を失ってた」

「インセイン、って奴か」

「少なくとも、話が通じる様な手合いじゃなかった。怪物にされた影響でそうなったのか、それとも怪物にされてから何らかの条件を踏んでああなったのかは解らねぇ。が、確かなのは、あれは『何らかの条件で人の目何て構いなしに暴走する』って所だ」

 荒垣が神楽坂で、ギュウキに変じたNPCと接触したその時には、もうあのNPCは正気とは真逆の精神状態であった。
思い出すだけで、胸糞が悪くなる。荒垣の下にやって来る前に、あの女性の身に何が起こったのか。
今となっては知る由もないが、知るだけ腹が立って来るだけなのだろう、と言うのは確実であった。

「聖杯戦争の目的を挫く事とは別に、俺は、NPCを化物にするこのサーヴァントが気に喰わねぇ。見つけ次第、潰す事も考えてる」

「俺も同意見だぜ、ボウヤ。なぁ? セイバー=サン。お前もそう思うだろ?」

 「えぇ、まぁ……」、と締まりのない返事をする清音。ソニックブームの言葉が余りにも白々しかったので、生返事になってしまったのだ。
義憤から、件の下手人を叩こうとする荒垣とは違い、この衝撃波のニンジャは、完全なる打算で動いていた。
NPCを、サーヴァント並の強さの怪物に昇華(ミューテーション)させる力を持ったサーヴァント。危険過ぎるにも程がある。
ソニックブームは、戦いを楽しむと言う事とは別の次元で、この件の犯人を見ていた。戦いを楽しむ事においても、聖杯を獲得すると言う目的においても。
そのサーヴァントは明白に危険である。だから、早々に抹殺重点せねばならない。荒垣とは違いソニックブームが、犯人を倒そうとする理由は、
何処までも恣意的で利己的なそれであるが、それでも荒垣とは利害の一致を見ている。

 この場にいる誰もが、ソニックブームが荒垣のように、正義感から荒垣に協力しようとしている訳ではない事を見抜いている。
あくまでも、当面の目的が一致しただけに過ぎない。だが、その目的の一部が噛み合った、と言う事実が重要である。
知らない相手と手を組む条件を意見の全面一致に設定してしまえば、この聖杯戦争、勝ち抜けるものも勝ち抜けなくなる。
折り合いや折衷点を見つけ、何処かで妥協し、同盟相手と言えど気を張る事が重要である。
気の抜けない相手だとは解っている。胡散臭いし、ワルの臭いがする相手だと言う事も承知している。その上で荒垣は――妥協と言う道を選んだ。

「交換出来る情報は、これが全てみたいだな」

 ふぅ、と一息つく荒垣。

「アサシン。手を組むぞ。異論はあるか?」

「ま、お前がそう言うんやったら、俺も異存はないわ。不透明な所のある主従なのは事実やが、同盟なんてそんなもんやろ」

 結局同盟など、当座の利益と利害が一致しているか、叩くべき共通の敵がいる時だけに機能する即席の絆に過ぎない。
その程度の関係で、互いが腹の内を全て曝け出す事は通常考え難い。腹に一物潜めさせている、と考えるのが自然だ。
況してソニックブームの主従など、本心は果たしてどうなのか、と言う事が全く分からない。いつか背中を刺される可能性だって、ゼロじゃない。
だが、それを恐れていたのではこの聖杯戦争を勝ち抜く可能性も低いと言うのも、また事実。此処は、ある程度のリスクを承知で、同盟を呑んだ方が、目的達成に近付く。荒垣もイルも、そう考えていたのだった。

「オオ、流石に話が解るなボウヤ。気に入らない奴でも、大人は笑顔を浮かべて握手しなけりゃならん事をその歳で理解したな!!」

 ソニックブームとしても、もっと愚鈍で体よく利用出来そうな主従と同盟を組みたかったが、馬鹿過ぎるのもそれはそれで困り者だ。
気の抜けない相手と言うのは、荒垣視点からだけでなく、ソニックブーム視点から見ても同じ事。
付き合い方には配慮せねばなるまいが、ある程度の道徳心と実力を保有している主従と組めると言う事は、いざと言う時に大きい。
ソニックブームらにとって最良の主従とは言い難いが、扱き下ろす程悪くはない。及第点の主従と手を組む事が出来たのだ、とソニックブームは考える事としたのであった。

「今後の指針は決まってんのか、スジモノの兄ちゃん」

「ソニックブームって名前があるんだからそう呼んで貰いたいね、アサシン=サン」

「それ名前ちゃうくて、コードネームの類やろ。ほんまにそんな名前何か? 衝撃波やぞその名前ん意味」

「ま、偽名なのは事実だ。ってか、そう簡単に本名を明かす訳にはいかねぇだろ」

 ソニックブームが口にした通り、この名前は真実のものではない。
ニンジャソウルが憑依する前、つまり彼が口にするところの『モータル』であった時代には、しっかりとした人間の本名があった。
ソウルに憑依され、魂に『この名を名乗れ』と告げられた時、彼はモータルとしての名前を捨て、カゼ・ニンジャ・クランの一人。
即ち、現在のソニックブームとしての我と個性を得たのである。ニンジャの世界では、本名での名乗りは余り使われない。
専ら、ソニックブームのようにニンジャネームでのやり取りが普通である。そんな社会で生きて来た物であるから、通称・俗称・通名が全く一般的ではない、
この世界の社会は中々ソニックブームにとっては奇妙だった。今でもうっかり、社会に溶け込む為のフマトニと言う名前を口にすべき場面で、ソニックブームと口を滑らせてしまう所があるくらいだった。

「ま、俺の名前については突っ込むな。んで、方針としちゃそうだな、生憎俺は寝てても情報が転がり込むような立場じゃないんでな。後は、言わなくても解るだろ?」

「……自分の足で動け、ってか」

「そう言う事だボウヤ」

 結局はこれに終止する。
先ずは、誰かと接触せねば始まらない。敵ならば倒す、話の解り易そうな者なら、利用しようとする。こうする事で、事態も動くであろう。

「元より俺もそうするつもりだ。話が纏まったら、とっとと此処を出るぞ。臭いが酷くてしょうがねぇ」

「オオ、そうだな。だがその前に、セイバー=サン」

「? 何です?」

「その死体はもう用済みだ。これ以上の情報は引き出せそうにねぇからな。頭と四肢を斬ってバラバラにして、何処かに埋めるぜ」

 その指示を聞いた瞬間、心底嫌そうな態度と空気を清音は発散し始める。
眉一つ動かさずこんな指示を下すソニックブームを見て、やっぱり根っこの所では大層な悪党なんだなと言う事を、清音は再認し、イルも荒垣も認識し始めたのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 一・二世代前どころか、最早使っている人物はレッドリストに入っているのではないか、と言う程古いタイプのそれを使っている事もそうなのだが、
セリュー・ユビキタスは単純に、携帯電話と言うデバイスに上手く慣れていなかった。通話と言う機能を上手く扱えるようになったのは本当に此処最近の事で、
それ以外の機能などからっきし同然。こんな状態の女性が、いきなり現行のスマートフォンなど扱おうものなら、機能の洪水に呑まれて混乱してしまう事は想像に難くない。

 謎めいた美女のアサシンから貰った地図、その、要所となるような場所を赤丸で囲った所へと、セリューとそのバーサーカーであるサーヴァント・バッター。
そして、先程彼女らと同盟を結んだ番場真昼とシャドウラビリスは向かっていた。何故、その場所に彼女らが向かっているのか?
それは、現行のスマートフォンを持っていた番場が、セリューが女アサシンから受け取った地図に記されていた様々なチェックポイント。
其処で何が起っていたのか、SNSやニュースサイトを使って調べてくれたからである。
ある程度番場はセリューに代わって、地図のポイントを調べてくれたが、その結果は、半分近くが何もない所だった。調べても、これは、と言った情報なかった。
とは言え、怪しい動きを見せている主体が、超常の存在であるサーヴァントである。一般のNPC達では、そもそも怪しい何かすら認識出来なかった、と言う可能性もある。
あの女アサシンがこの地図をデタラメに作ったのか、と言う結論については、まだ一概には何とも言えない。
何故なら、チェックポイントの残りの半分は、本当に何かがあった所であったからだ。実際、その場所を赤丸で囲った所を調べてみると、明らかに不穏な動きがあった事が解るのだ。

 ――花園神社に放置された、黒灰色の不穏なローブ及び、大量の汚泥と穢れた塵。そして、これについての簡単なインタビューを受けている宮司の動画。
早稲田鶴巻町及び、<新宿>二丁目で勃発した大破壊。後者の方に至っては、サーヴァントと思しき者達が交戦している動画すら発見出来た。
自分達が知らない所で、サーヴァントの力を暴走させている者が沢山いる、と言うその事実。これにセリューは、義憤を憶えた。
自分達の手で、それは本当に正してやらねばならない。破壊を齎すサーヴァントは座と言う場所に送り返し、もしもマスターが、
サーヴァントの悪しき行動に加担するようなら、その時はマスターすら制裁しなければならない。やる事が、多すぎる。だが、挫けていられない。
何故なら今のセリューには、頼れる仲間が三人もいるのだ。これだけ揃っていれば、向かう所敵なし。どんな敵だって、浄化させられるに違いない!!

 今現在、四名が向かっている場所は、女アサシンの地図の要所の内、市ヶ谷の方面の一ポイントを、赤く囲った所。
その場所は、既に番場の手によって調べがついている。其処は嘗て、香砂会と呼ばれる規模の大きいヤクザの邸宅が建っていた場所である。
だが、今セリューらは、ヤクザ達を制裁する為にその場所に向かっているのではない。いや寧ろ、制裁を加えるべきヤクザはひょっとしたらもう、いないかも知れない。
結論から言う。その邸宅は今この世に存在しない。簡単だ、何者かの手によって、完膚なきまでに『破壊』されてしまっているからだ。
その破壊の様子、精確に言えば邸宅だった物の跡地を、セリューも番場も見たが、巨人が癇癪でも起こしたか、とでも言う程の有様だった。
辛うじて其処が、昔建物だったと言う名残がポツポツと散見出来る程度で、後は殆ど瓦礫と、大小さまざまな建材の破片のみ。
瓦礫の撤去にもかなりの時間を喰おう。無辜の市民に害を成して来たと言う悪因が応報されたのだろうか? それにしては、かなり荒っぽい審判ではあるが。

 セリューはその場所に、甚く興味を覚えた。
場所が比較的近かった、と言う事も確かにある。だがそれ以上に、よりにもよってヤクザの邸宅をこうした、と言う理由の方が気になった。

 ――もしかしたら……私達と同じで、正義第一に行動する人が!?――

 この女の残念な思考回路では、そう言った結論に行き着くのも、何らおかしい事ではない。
『戦闘の余波で結果的に壊れた可能性がある』とバッターは至極冷静に――頼もしい!!――指摘していたが、それとは別に、
その邸宅周辺がきな臭いと言う事実には変わりない。其処が最早祭りの後に過ぎなくとも、見て置く価値はゼロではない。
だから彼女らは向かっていた。香砂会の邸宅跡に。そして、期待していた。其処で出会えるであろう、同じ正義の徒の存在に――。

 Prrrr、と、携帯のアラームが鳴り響く。
番場のものではない。それは、セリューが胸ポケットに潜ませている、化石同然の古さの携帯電話であった。
香砂会までもうすぐなのに、と思いながら、携帯電話を手に取り、誰からのTELなのか確認し、「あっ」と声を上げた。

「『親切な人』からだ!!」

「え、し、親切な人……って?」

 当惑する番場の瞳に、セリューの旧型の携帯電話の画面が映る。
電話帳にも、本当にそんな名前で登録しているらしい。掛けている相手の名前はそのままズバリ、『親切な人』。
これは幾らなんでも常識がない登録ではないのかと思わないでもない番場だったが、こんな名前なのには事情がある。
何故ならセリューは、この電話先の相手の名前を知らないのだ。向こうは、何故か自分の名前を知っているのに、彼は、一度として己の名を告げた事がない。
それに対してセリューは驚くべき事に、不信感を抱いた事が一度としてなかった。声自信から感じる事が出来る絶対的な安心感もそうである。
だが、今までセリューやバッターが効率よく、ヤクザの拠点やマンションを制圧・浄化出来たのは、この善意の情報提供者である電話先の男がいたからだ。
果たして何の見返りも求めず、有益な情報を与えてくれる人間を、悪と言えるだろうか。セリューの頭の中の辞書において、それを悪と定義する事は出来ない。該当する単語はただ一つ。『善人』だった。

【……あの足長おじさん、か】

 と、バッターが念話で伝えたのと同時に、セリューはその電話に出た。笑顔であった。

「お久しぶりです、おじさん!!」

 実に、元気のよい声であった。

「はは、相変わらず元気だね。セリューさん。どうだい、その後の調子は」

「……そ、それは……」

 言い淀むセリュー。
何事もなければ、「バッチリです!!」とか、「絶好調!!」と元気よく返していたのだが、今はそんな状態でもない。
星渡りの災厄、狂乱と騒乱の怪人、ベルク・カッツェとの死闘で、魔力をある程度消費してしまったのだ。それに、あの弩級の悪をみすみす逃がしてもしまった。
決して、順風満帆な滑り出しとは言えなかった。何て言ったら良いのか、言葉を選ぶセリューを思ってか。電話先の男は、優しい声音でこう言った。

「そうか、君も結構苦労しているみたいだね。セリューさん」

「そ、そんな事ないです。私、まだ頑張れます!!」

「セリューさん。優れた戦士と言うのはね、終わるとも知れぬ、休ませてもくれぬ戦いの中で、自分の身体を癒す時間を探せる者でもある。時に君は、己の身体に癒しの時間を与える事も、大切だと私は思うな」

 そう言えばあの時、あの女アサシンは、自分の髪にそっと触れ、痛んでいると言っていた。
思えば、女性らしい身嗜みなど、整えた事なんてなかったなとセリューは回想する。
父親が殺されたあの日から、ただ悪を憎み、その為だけの力を培う日々。女性らしさなど二の次だった。
煌びやかな衣服を身に纏い、高そうな宝石のはめ込まれた装飾品を自慢げに見せつける女性に、憧れを抱いた事もとんとなかった。
休息とか癒しと言うのは、そう言った時間の事を言うのだろうか? 仕事や任務から一時離れ、自分の知らなかった世界を探検してみる。それこそが、癒し、なのであろうか?

「だけど――私、今は休まず頑張ります」

「ほう、何故だい?」

「だって、私があと少し、歯を食いしばって耐えたなら、『みんなが幸せになれる世界』がやって来るんです。私、もう少し頑張って頑張って、そのもう少しを、何回でも繰り返します」

「……そうか。皆が幸せになれる世界、か」

 その言葉は、電話先の男に幾許の感慨を抱かせるに足る言葉だったらしい。
彼は、セリューが本心から口にしたその言葉を、彼は舌の上で転がし、やがて数秒後程経過して、口を開いた。

「天使や神ですら成し遂げられなかった、全人類の幸福を、最初に達成した者達が君らであったのなら、さぞや、それは面白いのだろうね」

「おじさん……解ってくれたんですか?」

「人の本気の夢と理想を、私は嘲笑わない。出来得るものなら、私はいつだってその夢と理想を叶えて欲しいと思っている」

「おじさん……!!」

「だが――」

 其処で、電話先の男は言葉を区切った。穏やかな声音に、鉄が混じり始めた。

「私はそう思っていても、他の者はそうとは思わないだろうね」

「? あの、何を言って……」

「セリューさん。夢と理想を掴もうとする者には、往々にして障害と言う物が立ちはだかる。人はこれを、試練とかテストとか言う言葉で誤魔化すものだが、本質は障害だ。そしてこれらは、回避する術はない。ぶつかって、乗り越えなくてはならない」

「試練……って?」

「君の理想を、挫こうとする者。この世界における、君の不幸の源泉。彼らは、君の夢と理想の成就を妨げる為に、『死』と言う解りやすい贈り物を届けようとしてくる」

「貸せ、セリュー」

 今セリューらのいる所が偶然、人のいない住宅街であった事が幸いした。
これ幸いと実体化を始めたバッターが、セリューの持つ携帯をひったくり、それを顔まで持って行く。電話の内容は、全て耳にしていた。今を以って確信した。この電話先の相手は、聖杯戦争の関係者である蓋然性が高い。

「貴様、何者だ。俺達の事を余りにも知り過ぎているが、聖杯戦争の参加者か?」

「それは、君が思う程に重要な情報なのかな?」

「惚けるな。質問された事のみに答えろ」

「答えたいのは山々なのだが……君の疑問に全て答えていたら、君が消滅してしまうよ。バーサーカーくん」

「何を言っている」

「言った筈だ。その試練は、君達に『死』を与えんとする者であると。悠長に構えていると――」

 其処まで電話先の男が口にした次の瞬間だった。
直径にして六〇〇m以上の規模がある、バッターの極めて優れた霊的存在の知覚能力が、この場に現れたサーヴァントを感知。
αの名を冠する光輪を顕現させ、それをセリューの方に配置。――刹那、凄まじい熱量を秘めた白色の熱線が、アルファのリングを灼いた。
概念的性質を貫通する属性を有していなかった為、アルファはその熱線においても殆どノーダメージであったが、これがもし、
アルファの配置が遅れていたら、セリューはその熱線に脳髄を貫かれ、即死していた事は想像に難くない。
事態の不穏さを漸く認知し始めたセリューが、「ば、バッターさん!?」と叫ぶ。遅れて番場も、警戒の耐性に入ったらしい。
彼女の怯えを察知したかのように、エプシロンを霊基に固着させた影響で知力と実力の双方が向上されたシャドウラビリスが実体化。大斧を構えだした。

「言葉はいらなそうだね。では、健闘を祈る。そして、『神』を殴り殺した者が、『神』を斬り殺した者を倒せる事を、期待しているよ」

 其処で電話が切れ、バッターはセリューの方に携帯を放った。
バッターの白一色の瞳が、三十m先のマンションの屋上、その給水塔の上に直立し、不可思議な銃を構えている男の姿を捉えた。
近未来的なデザインの装いで身体を覆い、その背に大きな太刀を背負ったその男の名は、アレフ。
バッターが本来呼ばれるべきであった、救世主(セイヴァー)のクラスでこの<新宿>の地に呼ばれた、神を殺した事でメシアに至った男なのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 何事もなく、聖杯戦争一日目の内、半分の時間である十二時間を、有里湊と、彼が従えるセイヴァーはやり過ごした。
厳密に言えば障害と言うべき存在とは、今朝花園神社で戦いこそしたが、アレフはこれを何の苦もなく倒してしまった。全く以って、何事もなくの範疇である。

 区立<新宿>高校二年生、それが湊に課せられたロールである。
特に、何か特別な感情を抱いた訳ではない。<新宿>の高校なのだから、まぁ、其処に通うと言うロールも妥当だな、と言うぐらいである。
月光館学園の時と年次は同じだし、何よりも元の世界と同じ高校生としての身分である。ただ、通う学校と環境が変わっただけ、程度にしか湊は認識していない。
外見通りの、冷静沈着で、そして何処か冷めた男であった。

 偽りの世界で偽りのロールに身を委ねている内に、<新宿>高校はいつの間にか期末テストを終え、夏季休校に入ると言う段階に突入していた。 
待ちに待った夏休みに浮かれながらも、<新宿>を取り巻く不穏な気に怯えた風の同級生達と共に、怠い事この上ない終業式を終え、
通知表を担任から貰い、その成績に一喜一憂する生徒達を見ながら、本日の学校での日常の風景は終わった。

 今年の夏に湊が体験した風景を、リアレンジさせて焼き直させたようであった。
元の世界では、順平が成績の余りの悪さに頭を抱え、その様子をゆかりが呆れた様子で眺め、風花が「勉強一緒につきあおうか?」と順平にフォローしていたか。
懐かしい、と湊は思った。半年にも満たない程最近の記憶であると言うのに、今ではすっかり、十年も昔の記憶の様な雰囲気すらあった。
ニュクスの件が、関わっているのだろうなと湊は考える。十一月から十二月までは、目まぐるしく時間が過ぎて行ったと言うのに、その密度が信じられない程濃かった。
百年もの歳月を、一月のスパンに圧縮して体験させたような、そんな感覚。苦楽が同居するS.E.E.Sとの思い出が、絶対の死によってなかった事にされる。
いや、過去がなくなるだけじゃない。未来すらも、このままでは果てて失せるのだ。それだけは、防がねばならない。
その事を、湊は今日の学校で再認した。これだけで、学校に来る意味があったのだ。来てよかった。
そう思いながら湊は教室を出、スマートフォンの電源を入れ、情報の収集を行う。

【うーん、状況が動くのが早い】

 と、霊体化したアレフが、湊の操作するスマートフォンの画面を見てそう口にする。
アレフの意見に、湊は同調する。自分達が学校で過ごしている間に、<新宿>では、聖杯戦争から来る諸々の大事件が起こっていたようである。
正味の話、起こった事件をつらつらと上げて行くと、キリがない程その数は多く、その事件の規模も馬鹿にならない。
この学校が、聖杯戦争参加者達のトラブルによる塵埃に巻き込まれなかったのは、最早奇跡の領域であろう。

 そしてこれだけの事件が、ものの半日の間に頻発しているのである。
マシンガン並の立て続けさだ。これでは<新宿>高校どころか、聖杯戦争の舞台である<新宿>自体が崩壊しかねないではないか。
いよいよ以て、本格的に自分達も動いた方が良いんじゃないか、と湊は考え出す。

【動く事は慣れてる。ある程度酷使しても、俺は構わないよ】

 今朝戦ったナムリスなる存在とは違い、正真正銘本物のサーヴァントとの戦いは、アレフに大きな圧を掛けてしまうだろう。
それを慮る湊の心情を見抜いたか、救世主のクラスで呼ばれたサーヴァントは、直に自分の事は気にするなとフォローを入れに来た。

【うーん、頼もしい言葉ではあるけど、大丈夫なの?】

【人より連戦に対する耐性はあるつもりだよ。疲れにくさも、まぁそれなりだ】

 そう口にする当人は、朝も昼も夜もなく、あらゆる方向――それこそ空から海から地中から。
時に銃弾よりも数倍速く動く妖鳥や天使、時に岩盤すら問題にならない程の潜航力を持つ邪龍達、時に弾丸すら跳ね返す皮膚を持った屈強な鬼や邪神など。
『怪物』と言う言葉を聞いて人類が想起出来得る限りのあらゆる悪魔が襲い掛かってくる環境で、殺される事なく生き抜いてきた男である。
そんな男のタフネスがそれなりでは、果たして、どの英霊がタフガイであると言うのか。

【方針としては、まぁ僕らの場合、聖杯の破壊が最終目的だからね。僕らと同じ志の人達とは手を組んで、そうじゃない相手とは、戦うって感じで行こうと思ってるんだけど。どう? セイヴァー】

【悪くはないと言うか、それしかないだろうね。それに、俺の得意分野だ】

 自分と波長の合いそうな者を此方に引きずり込み、そうじゃない相手は撃ち殺し、斬り殺す。アレフも散々、悪魔相手にやって来た手段である。
交渉が決裂したと見るや、不意打ちと騙し討ちを行い、相手が動くよりも速く斬り殺した数など、百を容易く超えている。
それを悪魔相手じゃなく、サーヴァント相手にやる。それだけだとアレフは考えている。上手くいくかどうかは分からないが、流れでやるしかないだろう。

【前々から思ってたけど、僕の知ってる救世主像とセイヴァーの実際のイメージ全然かけ離れてる気がするんだけど】

【俺自身、自分が救世主ってクラスで呼ばれるとは思ってなかった程、実際救世主としての自覚は薄いよ。もっと相応しいクラスとかあると思うんだけどなぁ】

 と言った念話を続ける内に、校庭まで出る事になった湊達。
<新宿>と言う都心の真っ只中にある学校なだけあって、校庭の広さは随分と狭い。郊外にある学校の半分、下手したら1/3程度の面積しかない。
此処でドンパチが起こったらさぞや大変だろうなと、湊は冷静に、この学校が戦場になったら? と言う想定をシミュレートしていた。

【マスターとしては、何処か見て置きたい所とかある? 戦いが起きた場所を今更見る、ってのは後の祭りと思うかも知れないだろうけど、重要なヒントが隠されてる可能性だってあるものだぜ】

【そうだなぁ……】

 スマートフォンを見て、<新宿>で起こった聖杯戦争絡みと思しき事件のタブを全部展開させ、吟味する湊。

【この、香砂会って所が気になるな。此処から割と近いし、破壊の規模も目に見えて酷いから、ちょっと興味がある】

【OK。それじゃ向かうかい?】

【その前に、ご飯食べてからで良い? 今の内に食べておかないとね】

【解った】

 そう言う事になり、湊は、腹の虫に素直に従って、歌舞伎町の繁華街の方へと向かって行ったのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ラーメン・はがくれで、スープ濃い目麺固め油少な目で設定した、家系ラーメン大盛りとライスを平らげた後に、湊は自転車を漕いで目的地へと向かっていた。
カロリーは十分、食欲もバッチリ満たされた。これで今日一日、最悪食事がとれない状況に陥ってしまったとしても、明日の午後までは気合と根性で持ち堪えられる。
簡単な食い溜めを終えた湊は一直線に目的地へ……と言う訳ではなく、その前に、先ずは人目のつかない所へと移動し、学生鞄から契約者の鍵を取り出していた。
何故、こんな行動を取ったのかと言えば簡単な事。はがくれの券売機で食券を購入しようと、鞄から財布を取り出そうとした際に、鍵が光っている事に気付いたのだ。
伝達事項があるのだ、と言う事に気付いた湊は、はがくれで情報を見る事をよしとせず、食後、隠れてその内容を確認しようとアレフと決めたのだ。

 そうして現在湊達は、香砂会の邸宅から比較的近い位置にある裏通りで、契約者の鍵がホログラムとして投影する情報に、サッと目を通し終えた。
情報自体は、それ程難解な物ではない。葬れば令呪が獲得出来る、討伐対象が新しく一人増えた、と言うだけである。此処までは誰にでも理解出来る。
理解出来ないのは、何故聖杯戦争も序盤甚だしい局面で、ルーラー相手に反旗を翻すような真似をしたのか、と言う事。
聖杯戦争を台無しにすると言う方針で動こうとする湊やアレフにとって、目下最大の敵とは、聖杯戦争を運営していると思われるルーラーサイドである。
やがては彼らとも矛を交える可能性が高い。だからこそ、この主従はある程度仲間を増やしておきたいのである。
今はまだ、ルーラー達と事を構える時機ではない。それなのに何故、このザ・ヒーロー――その名前を聞いてアレフは微かに驚きの感情を見せていた――と、
バーサーカーのサーヴァント、クリストファー・ヴァルゼライドはルーラーに喧嘩を売ったのか?

 彼らが、自分達と同じで聖杯戦争を頓挫させる為に動いている主従、だとは湊もアレフも思っていなかった。
仮にそうだったとしても、あの主従と手を組んで行動する事は、不可能に近いと言う意見の一致も見ている。
当たり前だ。もうすでに討伐対象となっていると言う事実も然る事ながら、市街地に放射線を内包した宝具を放つばかりか、甚大な大破壊を齎す連中なのである。
見ないでも解る。かなり悪い方向に精神が振りきれた主従である事が。勿論此処までの話は憶測にすぎないが、どっちにしても彼らと組めない。リスクが高すぎるからだ。
【倒せば令呪を得られる主従、位の認識で行くべきだ】とアレフは口にしていた。その通りだと湊も思う。この主従は、『自分達は地雷である』と言うタスキをかけて外面にアピールしているような物である。流石に、そんな信号を纏う存在達とは、如何に湊と言っても仲よくは出来ない。

【ところで、さ。セイヴァー】

【うん?】

【さっき、このザ・ヒーローって人の情報を見た時、驚いた様な感じがしたんだけど……何で?】

【あー……それか】

 流石によく人を見てるな、とアレフは湊の事を感心しながら、その理由を説明する。

【何から何まで似てるんだよなぁ。昔、俺の世界で活躍したって言う、伝説のチャンピオンにさ】

【伝説の、チャンピオン?】

【俺が生まれた時には既に過去の人だったからな。その活躍は資料でしか確認出来ない。だけど、凄い人だったと聞くよ。自分の力で世界の平和を勝ち取った、本当の英雄だったとも聞いてる】

 思い出すのは、アレフではなくホークとして活躍していた時期の記憶。
ヴァルハラのコロシアムに飾られていた、歴代のチャンピオンの石像である。アレフと同じでデビルサマナーとしての側面を持ち、なおかつ、
その召喚者である当人自体も、信じられない程強かったと聞いている。その石像と、ホログラムとして投影されたザ・ヒーローなる人物の姿が、
寸分の狂いもない程同じであったのだ。アレフとしては正に、伝説の人物を目の当たりにした様な感覚だ。だからこそ、驚いていた。

【サーヴァントには時間軸と言う概念がない。今の時間軸から昔、既に過去の存在が呼び出される事もあれば、未来の英霊が呼び寄せられる事もあると聞く。だが……今回の聖杯戦争に関して言えば、その法則は、マスターの側にも適用されるのかもな】

【つまり、凄い昔の人や未来の人間が、現代に即した知識を叩き込まれた上で、マスターになるかも知れない、って事?】

【そう言う事だ。何れにせよ、ヴァルゼライドと言うサーヴァントのマスターが、俺の知るザ・ヒーローであるのならば、警戒しておくべきだ。少なくとも、無力な人間ではあり得ない。接敵したら、心して掛かるんだ】

【解った】

 救世主と呼ぶには疑問が残る言動と行動を見せるアレフではあるが、正しい判断を下せる、と言う意味では湊は全幅の信頼を寄せている。
アレフの的確なアドバイスを理解した湊は、再び自転車を漕ぎ、香砂会の方へと移動を始めた。
時刻は既に午後1時10分を回っていた。諸々の用事を片付ける内に、もうこんな時間だ。速く見る物を見ねば、と湊は急いで自転車を走らせる。

 もう距離的に香砂会とそんな差はない、と言う所に来て、湊はブレーキを掛ける。
人が、多すぎる。想定出来た事柄ではあったが、実際のそれは想像以上だ。この炎天下の中であると言うのに、何たる野次馬の数か。
到底、香砂会の惨状を見ると言う話ではない。人混みをかき分けて、最前列まで行くのも苦労する、と言うレベルでNPCが集まっているのだ。
今湊達がいる距離からでは、全く以って話にならない。人間の背中と後頭部しか見えないからだ。どうしたものかな、とアレフに相談する湊。

【高い所から眺めるのが良いと思うよ。流石に、見れる位置にまで行けるまで待つって言うのは面倒だ】

【やっぱそうなるか。何処か良さそうな場所あるかな】

【あれ何かいいんじゃないか? いい感じの立地と高さだ】

 アレフが意識を向けている方向に湊が顔を向けると、成程。
手頃な高度と立ち位置のマンションがあるではないか。香砂会の展望を眺めるには打って付けの場所である。
そして、攻撃を叩き込むにも実に適した立地の場所でもある。過去にあのマンションの屋上から、誰かが飛び道具で他サーヴァントに攻撃を叩き込んだ、と言われても、何もおかしな所はあるまい。

【解った。其処まで行こうか、セイヴァー】

【よし】

 言って湊は自転車を漕ぎ、目当てのマンションの方まで移動。
惨劇の起こった場へと向かう、或いは、其処から帰って行くNPC達を避けて移動する事数分程。
高台替わりのマンションに着いた湊。自分もあの高さから香砂会の邸宅だった所を見てみたかったが、今この通りは人の通りがそれなりにある。事件のせいだった。
非常階段経由から登ろうにも、人の目に触れる可能性が高い。湊はアレフに霊体化させたままマンションの屋上まで登ってくれと指示を出す。
それを受けたアレフは、二秒程で其処に到着。遥かな高みから、その惨劇の度合いの程を確認する。

【どうかな、セイヴァー】

【酷いザマだね。およそ、建物としての体裁を全く成していない】

 率直なアレフの言葉。だが、そうとしか言いようがない。
まるで、巨人の手を上から思いっきり振り降ろしてプレスして見せたように、あらゆるものが砕かれ尽くされていた。
壁も屋根も、柱も基礎部分も。全てが、元の形を留めていない。其処は元は建物であった、と言う注釈がなければ誰もが、香砂会の後を、
産業廃棄物の処理場か粗大ごみの打ち捨て場か何かかと勘違いしてしまうだろう。それ程までに、酷い様子なのだ。

 さぞや、派手に暴れたのだろうなとアレフは思う。
誰がどんな戦いを繰り広げたのか、あれでも推察の使用もないが、NPCの目に着く事をも覚悟の大立ち回りを繰り広げた、と言う事は確実だ。
此処で戦ったサーヴァントやマスターとは、手を組む事は出来ないかもな、と考えるアレフ。湊やアレフの方針は、聖杯戦争の参加者の殆どにとって受け入れがたい物だ。
下手をすれば、討伐令の発布された主従よりも危険と見做される可能性が高いし、最悪、運営から目を付けられて何もしていないのに討伐令が下される、
と言う事態だって往々にして起こり得る。それを考えた場合、悪目立ちすると言う事は極力避けたいのだ。勿論それは、手を組む相手にも求める。
それ故に、あのような戦いぶりをする主従とは組めない。こんな序盤も甚だしい局面で、此処まで馬鹿みたく目立つ戦い方を選択する者達なのだ。
アレフらの求める主従とは言い難い。端から手を組む事は、視野に入れない方が良いと考えるのも、当たり前の事の運びであった。

【誰がどんな感じで戦ったのか、って言う事までは、俺には解りそうにないかな】

【無駄足?】

【そんな事はない。サーヴァントと出会った時に、それとなくあの邸宅での件の事を話すのさ。それで、この事件に関わってたと解れば、縁がなかったって事で斬り捨てると】

【うーんこの畜生】

【酷い言いぐさだなぁ】

 と言うズレた会話を繰り広げていた、そんな時だった。
念話を通じて伝わるアレフの気配が、途端に、剣呑なそれへと変わる。
ナムリスと名乗る存在と戦った時も、同じような空気を醸してはいたが、今回のそれは、別格。
敵意と言うよりは最早殺意とも呼称するべき濃度の覇気を静かに放出しているアレフに、湊は怪訝そうな表情を浮かべる。

【どうしたの?】

【セリュー・ユビキタスと、それに従うバーサーカーのサーヴァントを見つけた】

 カッ、と目を見開かせる湊。予想だにしない展開だった。瓢箪から駒と言うべきなのか、或いは……。

【確かなのか?】

【間違いない。此処から三~四十m位離れた所で、セリューの傍で実体化を始めたバーサーカーを見た】

 アレフがセリューらを見つけたのは、全くの偶然だった。
香砂会の邸宅跡から目線を外した、その場所に。セリューの主従及び、彼女に誑かされたか騙されているのか、と思しき少女の姿を視認したのである。
契約者の鍵から投影された姿の段階で、恐ろしくそのバーサーカーの姿は特徴的だったのだ。ワニの頭に、野球のユニフォーム。よもや見間違える事など、あり得ない話であった。

【マスター。君としてはどうしたい? このまま無視するか、それともコンタクトを取るか。君の判断に従おう】

【……僕は、少なくとも。あの主従と手を組む、と言う事は出来ないと思ってる】

【それで?】

【何れルーラーと戦う事は避けられないけど、今はルーラーに従っている、と言う意思表示を行うって意味でも、そのバーサーカーを倒しておいた方が良いと考えてる。それに、令呪も貰えるみたいだしね。セイヴァー。バーサーカーを倒して欲しい】

【解った】

 そう言ってアレフは、位置調整の為給水塔の上まで軽く跳躍。
懐からブラスターガンを取り出し、照準をバーサーカー……ではなく、『セリュー・ユビキタス』の方へと向け、光速の弾体を射出させる。

 湊が、セリューではなくバーサーカーのみを殺してくれ、と暗に言っていた事には勿論アレフも気付いていた。
気付いていた上で、セリューを撃った。サーヴァントよりも、マスターの方が遥かに殺しやすい、と言う当たり前の理屈からである。
それに湊は、バーサーカーを倒せとは言ったが、『セリュー・ユビキタスを殺すな』とは言ってなかった。そんな下らない揚げ足取りで、アレフはセリューを狙った。
地獄のような世界を生き抜いてきたアレフにとって、悪魔を殺す事は勿論、眉一つ動かさず、一切の感慨も抱く事なく。人間を斬る事なんて、簡単な話。
そうでなければ自分が殺られる世界にアレフはいたのだ。向こうは動機がどうあれ、百を超えるNPCを殺す危険人物なのだ。
百人、である。一人二人ならうっかりしてなどと言った言い訳も利こうが、この人数は、気の迷いでしたと言う弁明が最早一切通用しない数値だ。
確かな意思の下で殺して回った、と見られて然るべき数をセリュー達は殺したのだ。話の通じない蓋然性が高いと、アレフは判断。
だから、セリューを殺しに掛かった。マスターを殺せばサーヴァントも死ぬ。況して相手はバーサーカー、単独行動スキルも持たない。魔力の供給源であるマスターを断てば、その時点でジ・エンドと言う訳だ。

 ――アレフの誤算は、バーサーカーのサーヴァント、バッターは彼の存在に気付いていたと言う事。 
高ランクの気配察知に似たスキルを有しているらしく、アレフの霊的気配を察知したバッターは、光速のレーザーが射出されるよりも『早く』、
アドオン球体をレーザーの軌道上に配置する事で、光の速度で迫る熱線からセリューを救って見せた。

「やるな」

 そう口にしたアレフの表情は、冷静そのもの。防いだ、と言う事実を淡々と受け止め、この上で次をどう動くか。
そんな事を思案しているような、平素の表情そのもの。光速を防いだ程度では、この救世主の心には波風一つ立たせる事は出来ないようであった。

 タッ、とアレフは給水塔を蹴り、空中に身を投げた――その、刹那。
アレフが先程まで経っていた給水塔が一瞬だけ、元の形の半分近くまで圧縮されたと見るや、一気に急膨張。
給水塔を構成するプラスチック及び、その内部の水が放射状に飛散、粉々に爆散した。バッターが何かしらの手段で攻撃に打って出たらしい。喰らっていれば、一溜りもなかっただろう。

【マスター。なるべく俺から距離を離さないようにしつつ、あの主従からは見えないような位置に常にいるよう心がけてくれ。そして、なるべくマスターだと気取られないような立ち居振る舞いも徹底しろ】

【解った】

 セイヴァーのかなり難しいリクエストに、湊は無理だと零さなかった。
出来る自信があるからなのか、それとも無理だと解っていてもやらねばならないからなのか。

 アレフが空中を舞っている、そのタイミングで、彼の回りの空間が、奇妙に歪み出す。
アレフの周囲の空間が、彼を中心としてギュッと圧縮され始めているのだ。先程バッターが行った、不可思議な現象をであろう。
これをアレフは、将門の刀を音の速度に容易く数倍する速度で鞘から一閃、空間の歪み自体を叩き斬り、瞬時に次に起こるであろう放射状の爆散現象を無効化させてしまう。
アレフの視界に、バッターの驚きのリアクションが映る。その瞬間を縫って、アレフは左手に握ったブラスターガンで、バッターに七発、セリュー自身に九発、
熱線を射出させた。これをアレフは、半秒でやってのけた。恐ろしいまでに早撃ちと連射スピードであった。
身体の何処かを撃ち抜かれれば大ダメージは免れない光速の弾体。しかしそれは、蛇が蜷局を巻くが如くに、セリューとバッターを覆うみたいに展開された、
白く輝く鎖のように長大な何かに阻まれてしまった。熱線は、鎖に当たって砕け散った。一本たりとも、二名の身体を貫く事はなかったのである。

 スタッ、と。アレフはアスファルトの地面の上に羽のように着地。
周囲に人は誰もいない。いなくて当たり前だ。いない場所に向かって、マンションの屋上から身を投げたのだから。
アレフは、バッターが二度も行った不思議な現象を回避し、彼らを殺すだけの迎撃を行いながら、空中で具に観察していた。
どのルートをどう行けば、バッター達の下へと最短ルートで、そしてNPC達の目に触れる事無く辿り着けるのか。そしてそのルートを、アレフは見抜いた。
脳内で弾き出した、最短かつ最良のルート目掛けて、アレフは地を蹴って駆けだす。

 至極シンプルな動作一つで、時速二百㎞の加速を得たアレフは、それだけのスピードで移動しながら、入り組んだ住宅街の通りなど物ともしていない。
急な曲り道、細い路地。これらを移動するのに、減速一つしない所か、一歩踏み出すごとに徐々に加速を経させていると言う程であった。
地上からバッターの姿を視認出来るまでの間合いに移動するまでに要した時間、僅か一秒半。そして、バッターまでの距離、十m。
これを切った瞬間、アレフは移動スピードを更に跳ね上げさせる。時速四九八㎞の速度を右足の踏込だけで得たアレフは、バッターの方まで一瞬で肉薄。
将門の刀で、このワニの頭の怪物を斬り捨てようと、下段から振り上げるが、これをバッターは、手にしたバットで迎撃、防御する。
響き渡る金属音の、何たる凄まじい大きさか。だがそれよりも何よりも刀とバットの衝突の際に発生する、衝撃波だ。
これを受けて、周囲にいたセリューと真昼が、木の葉のように吹っ飛んで行き、建物の外壁に背中から衝突してしまった。

「うぐっ……!!」

「あうっ!!」

 流石に、元居た世界では帝都警備隊に所属し、オーガの鍛錬をこなしていただけはある。
セリューは咄嗟に受け身を取り、背中を強く打つ程度で済んだが、真昼の方はそうも行かなかった。
受け身も何も取れず、後頭部をしたたかに打ち付けた真昼は、掻き混ぜられたように視界の混濁が起こり始め、よろよろとへたり込んでしまう。
立とうにも、視界のグラつきが酷過ぎて呂律が回らないのだ。酒を一気に何リットルも呷った後のように、真昼は立てずにいる。立とうと言う意思を、肉体と脳が超越してしまっているのである。

「ば、番場、さん……!!」

 セリューにしたって、受け身こそ何とか取れたが、ダメージが無いわけではない。
背骨がイッたと認識してしまう程背中が痛いし、呼吸も恐ろしく苦しい。今もセリューは、過呼吸気味に、バッターとアレフの様相と真昼の様子を交互に、忙しなく眺めるしか出来ない程であった。

「貴様……」

 威圧的な語気を伴わせ、バッターはアレフの事を睨みつける。
心臓を締め付けて来るような、バッターの濃密な殺意に当てられても、アレフの心には波風一つ立たない。殺意など、元居た世界で飽きる程放射されて来た。いなし方など、遥か昔に心得ていた。

「怒る程の事じゃないだろ、自分達のやった事をやられてるだけだぞ」

 殺しに殺して百数十と余名。それだけ殺していれば、因果は廻り廻るもの。
それが、今まさにこの瞬間の事だけだ、とでも言うような事を、一の後には二が続くレベルに自明の理を語るような当然さで口にした。

「バッター……さ……ん!! がん、ばって!!」

 苦しげにセリューが口にする。その言葉に応えるが如く、バットに込める力を増させて行くバッター。
それに対抗するように、アレフがバッターが込めた以上の力を刀に込め、押し返そうとする。ググッ、と言うオノマトペが聞こえてきそうだった。
そして、誰の目から見ても明白な光景だろう。余裕綽々に競り合いをしているアレフに対して、バッターの方は、この力比べに全くゆとりがないのだ。

 ――力が、入り難い……!!――

 バッターの内心を、驚愕の念が支配して行く。
アレフがこの場に現れてから、身体の反応が鈍い上に、本来のものより筋力が劣化している事にバッターは気付いていた。
アレフが原因である事は、バッターも当然気付いている。だが、何かを仕掛けられた覚えが全くない。アレフの一撃を防いだ事が、トリガーなのか。
そしてそもそも、この原因不明のステータス低下は、宝具なのかスキルなのかも解らない。確かなのは、このままでは危険であると言う事実だけだった。

 対するアレフの方は、自身が有するクラススキル、『矛盾した救世主』がバッターに機能している事を確認し、一先ず安心する。
姿形から見ても明白だが、バッターは人間ではないらしい。このスキルは言ってしまえば、『人間以外の全ての存在に機能するステータスダウン』だ。 
相手が純粋な人間以外であるのなら、大幅にアレフに対して有利が付く、恐るべきスキル。ただでさえ桁外れたアレフの強さを、更に補強する、
敵からすれば悪夢のようなそれである。これなら、油断しなければ殺せるだろうとアレフは踏んだ。

「砕け……散れェ!!」

 主が気絶、と言う危機に陥った為か、それまで霊体化の状態を維持していたシャドウラビリスが、堰を切ったように実体化。
手にした機械仕掛けの大斧を振り被り、背後からアレフに襲い掛かる。だが彼は、後ろの方を全く見ず、将門の刀を握っていない方の手で、
ホルスターにかけられていたブラスターガンを引き抜き、後ろ手に発砲。レーザーはシャドウラビリスの胸部を貫き、縁部分がオレンジ色に融解した細い円柱状の貫痕を置き土産にした。

「がっぁ……!?」

 苦悶の声を上げるシャドウラビリス。
矛盾した救世主のスキルの対象となっているのは、何もバッターだけではない。彼女にすら効果は発動していた。
機械すら、このスキルは対象とするのである。恐るべき、範囲の広さであった。

 バッターが握るバットから将門の刀を即座に離し、そのままシャドウラビリスの方に身体を回転。
この時の勢いを乗せて彼女の脇腹に痛烈な右回し蹴りを叩き込むアレフ。苦悶の声を上げる間もなくシャドウラビリスは吹っ飛んで行き、
近くにあったコンクリートの外塀に衝突。豆腐のように外塀は砕け散り、瓦礫の体積にシャドウラビリスは仰向けに倒れ込んだ。
蹴り足をすぐさま地面に戻したアレフは、蹴らなかった方の足で地面を蹴り、バッターから距離を離すように跳躍。
すると、先程までこの救世主が直立していた地点に、白色のリング状の物体が二つ、突き刺さったからだ。バッターが所有する宝具、アドオン球体。
その内の二つ、α(アルファ)とΩ(オメガ)であった。これを以てアレフの身体を切断しようと試みたバッターだったが、攻撃は失敗。
アドオンを己の背後に移動させ、己が手にする浄化の武器、バットを構える。バッターの背後に回った二つのアドオン球が、淡く白色に輝く。その様子はまるで、天使や仏が背に抱く、可視化された聖性やカリスマ性の象徴、光背のようであった。

 タッ、と着地するアレフ。
バッターの方に身体を向け直すや、ゆっくりと、ワニ頭の浄化者の方へとこの救世主は闊歩して行く。彼我の距離は、十m程。
大の大人の歩幅なら五秒と掛からぬような短い距離ではあるが、歩む者の先にいるのは、狂える浄化の具現・バッターである。
そうやすやすと、攻撃の間合いまで詰めよらせる事をバッターが許す筈がない。
アドオン球体・オメガを音の数倍の速度で飛来させるが、将門の刀を無造作に振い、上空へとアレフは弾き飛ばした。
オメガが接近した速度よりも、遥かにアレフの刀の一振りは速かった。刀を振り抜いたその隙を狙って、アレフの周囲の空間が歪み始める。
外から見たら、特殊なレンズで通して見たかのように、アレフの輪郭と身体は中心に引き寄せられて見えるであろう。
吹き飛ばされたオメガが、オメガ自体に備わる力を発動させたのだ。空間を急激に緊縮させたり拡散させたりして歪めさせ、
その空間内に存在する相手の身体及び物質の形状を、空間の歪みに引き摺らせる形で破壊する、フィルタと呼ばれる特殊な攻撃である。
先程マンションの給水塔を破壊したのも、オメガが使うこのフィルタと言う技術であった。だが、他の者ならいざ知らず……一度見た技はアレフには通じない。
振り抜いた刀を再び振るうと、収縮し始めた空間に無数の細線が走り始め、其処から歪みがズレ落ちて行き、元の見え方に戻る。

 今度はアルファが己の力を発動させ、白く輝いている鎖状の物質を地面から生やさせ、これをアレフ目掛けて伸ばさせて行く。
マンションから飛び降りたアレフが射出させた、ブラスターガンの光線。それを防いだのもこの鎖だった。
攻撃にも使う事が出来、十分な加速度を得さえすれば、バッターの身体と同じ大きさの岩塊や鋼塊も砕いてしまう。
しかしアレフはこれを、将門の刀を目にも映らぬ速度で振い、鎖自体を無数に輪切りして破壊し、無効化させる。

 後数歩で、刀の間合いと言う所になるや、バッターが動き出そうとする。
アスファルトを摩擦熱で融解させる程の勢いで地面を蹴り抜く事で行われる、神速の盗塁(スチール)。
これを以てアレフの下へと急接近し、タックルをぶちかまそうとしたのであるが――それすらも、アレフは読んでいた。
低姿勢を理想とするタックル、と言う行動に於いて、バッターが行ったタックルは、正に見本や手本その物。理想とすら言える程、見事なものだった。

 ――バッターにとっての不幸とは、その最高条件のタックルが、アレフにはスローモーにしか見えていなかったと言う事だろう。
タックルの始動の段階で、踵が完全に垂直に上に向く程の高さで右脚を上げていたアレフは、舌を伸ばせば地を舐められる程の低姿勢で突進を行っているバッターに対し、
稲妻が閃いたとしか見えぬ程の速度の踵落としを、バッターの脳天目掛けて振い落す。
帽子を被ったバッターの頭頂部に、アレフの踵が激突。苦悶一つ上げさせる事もなくバッターは顎からアスファルトに衝突。
バッターと言うサーヴァントが踵と地面の間でクッションになっているにも拘らず、アスファルトに深いすり鉢状のクレーターが刻まれた事からも、その威力が窺えよう。
顎の骨が砕けんばかりの衝撃が頭部に叩き込まれたばかりか、頸椎にも衝撃で圧し折れんばかり圧力が瞬時に掛かりだす。
歯と歯が強制的に噛み合わされた影響で、自身の口腔で舌が千切れて踊っているのを、激痛と共に彼は認識する。
正直、生きている事の方が奇跡だった。ある種の人造人間であるアレフの膂力から繰り出される蹴りの威力は、金属塊ですら木端微塵にする威力を持つ。
それを真っ向から喰らって、まだ『生きていられる』程度のダメージで済むと言うのは、尋常の耐久力ではなかった。

「ば、バッターさん……!?」

 初めて見せる、一方的な蹂躙以外に言葉が思い浮かびようがない、バッターの苦戦の様相に、セリューが戦慄を露にする。
セリューがバッターに対して掛けている色眼鏡による補正を抜きにしても、バッターとアレフ。どちらが勝つと言えば、その凶悪な様相から人はバッターに軍配を上げよう。
だが、これはなんだ。アレフは余裕綽々で、バッターの放つ攻撃の全てに対応するばかりか、バッターが放った攻撃の威力に倍する一撃をカウンターさせて来る。
余りにも圧倒的過ぎる、戦力差。「どうして、この男はバッターさんに此処までのダメージを!?」。セリューの胸中には、その疑問でいっぱいいっぱいだった。

「よ、くも……痛ィ……のよォ!!」

 アレフの蹴りの威力から復活したシャドウラビリスが、決然たる殺意を秘めた目付きを彼に向けながら、大斧を構え始めたのだ。
アレフは、バッターの纏う野球のユニフォームの背を引っ掴み、その状態のまま、シャドウラビリスの方にバッターをゴムボールでも投げる様な容易さで投擲。
それを見て動揺したシャドウラビリス。急いでバッターの方を受け止めるが、それが仇となった。この一瞬の隙を狙い、アレフが急接近。
バッターをキャッチしたせいで思考に空白が生まれ、次の行動に移るのにラグを要さざるを得なくなった状態のシャドウラビリスを、
その浄化者ごと刀で斬り殺そうとしたのである。上段から刀を振り降ろすアレフ。その先端速度は、最早サーヴァントですら認識不能の速度にまで達している。
この破滅的なスピードに、現在のダメージ状況でバッターが対応出来たのは、望外の偶然以外の何物でもなかった。
『保守』と呼ばれる独特の回復技術で、己の歯で噛みちぎられた舌を癒着させて回復させながら、体勢を整えさせ、アレフの方に向き直ったバッターが、手にしたバットで刀を防御する。

 戛然と響き渡る金属音、飛び散る橙色の火花。
そして、バッターの身体に伝わる、背骨が圧し折れるのではと錯覚する程の衝撃。アレフが齎した攻撃によるインパクトで、両腕の感覚が消失する。
身体への直撃は防いだ筈なのに、何故ダメージを負ったに等しい現象が舞い込まされているのか。理不尽な現象に、バッターの双眸に瞋恚が宿る。

「返して貰うぞ」

 悟るまでに払った代償が、重すぎた。
このサーヴァント、バッターがサーヴァントとして力を発揮する上で、最も重要となるアドオン球体・エプシロンを封印して勝てる相手では断じてない。
バーサーカー・シャドウラビリスはバッターと違い、狂化によって意思の疎通が著しく困難な上、素の実力も大した事がない存在だとは、ワイドアングルで見抜いていた。
その低い地力を補強させ、ピンチに陥った際に闊達に意思疎通を図れるようインテリジェンスを向上させる為に、アドオン球体エプシロンを、
シャドウラビリスの霊基に融合させていたのは、星渡りの災厄ベルク・カッツェとの戦闘の時からである。
他の相手ならばいざ知らず、アレフが相手では、シャドウラビリスにエプシロンを融合させたとて、焼け石に水。
エプシロンが有する真の実力を発揮させられぬままに、バッターが消滅し、この場にいる全員が脱落しかねないと言う共倒れにもなりかねない。それは拙い。
この機械のバーサーカーに、エプシロンは過ぎたオモチャであったようだ。一に十の数値を掛けるより、一より更に大きな数値に十を乗算させた方が遥かに望みはある。
シャドウラビリスの身体から、スポイトで水を吸い取るように、圧縮された白色の線が伸びて行く。それが彼女の身体からプツンと、臍の緒を断ち切られるみたいに、
リンクが切れるや急速に膨張。白色のリングの形を取る。アドオン球・エプシロンだ。その形状は、残り二つの球体であるアルファ、オメガと相似であった。

 切れた舌が元の状態に癒着されるや否や、アレフの下に叩き込まれる鎖の一振り。
何もない空間から生えるようにして現れ、鞭のように撓りながら迫るそれを、将門の刀をバットから離してバッターから距離を取る事で回避するアレフ。
バッターの背後、シャドウラビリスと彼との間の空間に、三つのアドオン球体が立ち並んで浮遊し始め、これと同時に、三球の輝きが増し始める。
漸く、本来の戦い方に戻る事が出来たとバッターは思う。単体で一人のサーヴァントに匹敵する機動力と攻撃性を、サポート性を兼ね備えた、
三位一体のアドオン球体を巧みに扱い波状攻撃を仕掛ける、と言うのがバッターの戦闘における基本スタンス。
アドオンの数が二つでも、並のサーヴァントには引けを取らないが、やはり真価は三つそろった時である。そしてアレフは、その真価を発揮させねば勝てぬ相手だった。

 今を以って、バッターは十全の状態で初めて、他サーヴァントと戦う。勿論、エプシロンを分離された影響で、シャドウラビリスの実力が矮化し始める。
知った事ではなかった。セリューは真昼とシャドウラビリスを保護すると言ったが、バッターが一番優先するべき命は、マスターであるセリューと自分なのだ。
シャドウラビリスを庇って自分が倒れる、と言う馬鹿は避けたい。この瞬間バッターは、シャドウラビリスと番場真昼/真夜の命を放棄したのである。
生き残りたければ、生き残れば良い。但し自分は、そちらの命は助けない。そのスタンスに、この瞬間バッターは転向した。

【セリュー、よく聞け】

 幸いアレフは、シャドウラビリスからエプシロンが抽出される光景を見て、警戒心を強めさせたか。
すぐには打って出てこなかった。念話を以って、セリューに意向を伝えるのは、今しかないとバッターは考えた。

【このサーヴァント、殺せば令呪を貰える主従だと明白に俺達を認識している。お前の命も、無慈悲に刈り取るだろう事は想像に難くない】

 事実その通りであった。何故ならアレフがマンションの屋上から真っ先にブラスター・ガンで狙い撃ったのは、他ならぬセリュー・ユビキタスなのだったから。

【お前が死ねば、俺も消滅する。それは最悪の事態だ、この男から距離を取れ】

【ば、バッターさんは……】

【早くしろ】

 有無を言わさぬ、強い語調でセリューを威圧。
己のサーヴァントが初めて、自分に向けた圧力に、セリューの身体が総毛立つ。この指示が絶対的な物だと肌で感じたセリューは、もう言葉を告げなかった。
気絶している番場の方に駆け寄り、彼女を抱えてこの場から退避しようとした。――そして、それを許すアレフではない。
バッターを無視し、セリューの方に対してブラスターガンの照準を合わせ、発砲。銃を構えてから照射まで、千分の一秒も掛かっていなかった。
これを読めないバッターではない。熱線のルート上に、アドオン球体アルファを配置させ、セリューを危難から避けさせる。
光条を防いだすぐ後に、バッターはエプシロンの力を発動させる。三位一体の一つ、聖霊を象徴するこのアドオン球は、『補助の術』に長けている。
『劇』と呼ばれる体系の補助技術を行う事が出来るこのアドオンは、指定した存在の肉体的な能力を向上させられる、戦略上の要。これが、最も重要な理由の訳だ。
そしてこの劇を、バッター自身に適用させる。身体に力が漲る。一瞬で、アレフが下げた五つのステータスの内、筋力・耐久・敏捷は下がる前の値にまで上昇。
本調子に戻ったバッターは、アレフ目掛けて出塁。右足でアスファルトを蹴り、七m程離れた所にいる救世主の下へと駆けて行った。
蹴られたアスファルトがドロドロに溶け、白色の煙を噴出させる程の力での蹴りによって得られた加速は、弾丸を連想させるそれであった。

 バットを上段から振り降ろすバッターと、これに対応して将門の刀の鞘で攻撃を防ぐアレフ。
伝播する衝撃波と、響き渡る鼓膜が馬鹿になる程の大音。戦闘の際に生じる不可避の副産物である。
しかし余人にとってはいざ知らず、バッターにもアレフにも、これらは行動を鈍らせる役目一つ果たす事のないただのノイズ。
だから、音にも衝撃にも怯む事なく、ゼロ距離からブラスターガンをバッター目掛けて発砲。脇腹の位置。
勿論、この距離から放たれた光速の弾丸には、バッターと言えど反応は不可。成す術なく熱線は、彼の身体をゼリーかプティングを楊枝で刺すようにして貫通、
それだけにとどまらず、彼の背後にいたシャドウラビリスの腹部をも貫いて行く。背後から聞こえる、機械のバーサーカーの苦悶。彼女はとんだとばっちりであった。

「Faullllllllllllllllllllllllllllllt!!」

 雄叫びを上げ、エプシロンによって向上した筋力を以ってバットを振うバッター。
振いながら、アレフの踵落としによって負った頭のダメージ及び、今さっき貫かれた熱線の痕を『保守』によって回復させる、と言う行為を両立。
振われたバットをスウェーバックで回避するアレフ。振り抜かれた際の突風が、凄い勢いでアレフの顔に叩き付けられる。
バットの軌道上に、焦げた匂いが立ち込めんばかりの速度でのスウィングであった。しかし、それだけの勢いの風が顔に吹き付けて来ても、アレフは目を閉じない。
閉じれば、閉じた分だけ攻撃が叩き込まれるからである。現に、避けたと同時に、背後からアルファが放った鎖が振われるのと、
オメガによる空間操作の攻撃が、アレフに叩き込まれたのだ。これを簡単に、自身の身体ごと将門の刀を横に一回転させ、破壊。無効化させる。

 見ると、セリューが真昼をおんぶしながら、この場から遠ざかろうとするのをアレフは視認。
そうはさせないと、ブラスターガンで狙撃しようと試みるが、何かに気付いた様な表情を一瞬浮かべるのと同時に、左方向にサイドステップを刻み始めた。
上空から、斧を大上段から振り被りながら迫るシャドウラビリス。着地と同時に、手にした大斧を、アレフがさっきまでいた地面に叩き付けた。
刻まれるクレーター、生じる激震。しかし、最も肝心要の、斧で破壊するべき相手は既に攻撃範囲から失せていた。

 シャドウラビリスを無視し、ブラスターガンでセリューらを狙撃しようとまたしても試みるアレフだったが、これを実行に移すよりも速く、
アドオン球体・オメガの空間操作能力が、アレフを捉える。しかし、空間が歪み始めるよりも速く、アレフが神業の如き一閃を煌めかせたせいか。オメガが空間操作を放ったと同時に、攻撃は無為と終わった。

 セリューらの遠ざかる速度が、速い。人一人を負ぶさってると言うのに、大層なスピードだ。優に時速二十㎞は出ているであろうか。
サーヴァントが身体能力を強化させたな、とアレフは推察。事実である。バッターはエプシロンの補助技術によって、セリューの身体能力を向上させていた。
すぐにでもこの場から退散させられるのと同時に、もしも彼女が、アレフのマスターらしき人物を見つけたら殺してくれるように、と言う淡い期待も込めてである。

 セリューを追跡して葬りに掛かろうかとアレフは思いもしたが、自身の想像以上に、バッター及び、彼が操る三つのアドオン球は曲者だった。
バッター一人と、アドオン二つまでならアレフ単体でも、蹴散しながらセリューを殺せる。
であるが、其処にもう一つのアドオンと、シャドウラビリスがいるとなるとそうも行かない。単純に、障害物の数が多いからだ。

 ――全員殺し尽すしかないか――

 シャドウラビリスについては、正味の話アレフは無視するつもりであった。
敵はあくまで、バッターとセリューだからだ。だが、これまでの流れから考えるに、このシャドウラビリスは話の通じない手合いのバーサーカーである可能性が高い。
そう言う輩とはアレフは手を組みたくないし、何よりもセリューと一緒にいたマスター、番場真昼ではシャドウラビリスを制御出来ていないであろう。
今は良くても、後で絶対に破滅する。それは、狂化したバーサーカー自身の手に掛かってか、それとも魔力切れによる退場か。
どちらにしても、此処でシャドウラビリスと縁切りにしてやったほうが、真昼にとっては幸運と言う物であろう。
令呪による命令強制も、三回までしか用を成さない。ある日数までは生き残れようが、最後の一人になるまで生き残れるには不足のない数かと言われれば、断じて否だ。

 結論、殺した方が身の為である。そうと心に決めたアレフは、将門の刀を正眼に構え直し、バッターとシャドウラビリスの方に向き直る。
剣気が、突風となって叩き付けられて行くのをバッターらは感じた。シャドウラビリスですら、只ならぬ物を感じ取ったか。唸りを上げて、後じさる。
死闘の場数をどれだけ越えて来たのか。どれだけの敵を、斬り捨てて来たのか。そうと夢想せずにはいられない、攻めれば『死ぬ』ぞ、
と言う事を身を以って実感させる程の圧が、アレフから無限大に放出されている。

 それはもう、救世主と言う存在が放って良い気では断じてなく。
それはもう、救世主と言う存在が浮かべる様な表情では断じてなく――

「来いよ」

 あらゆる存在に、死の国の寒さの何たるかを見せて来た、殺戮者のみが出せるであろう死の気配そのものであった。
目の前の生命を、取るに足らない塵芥、舞いあがった埃か何かだとしか認識していないような、仮面のような無表情であった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 自分も早く、バッターさんの助けにならなければ、とセリューは必死だった。
子供が見たって、解る。バッターは著しい苦戦を強いられていた。あの頼りがいがあって、強くて、自分よりもずっと賢いバッターが、である。
現れたサーヴァント……自分と同じ人間の様な姿形をしているのに、その容赦のなさも、何よりも身体能力も。バッターのそれの遥か上を行っていた。
近くで、あのセイヴァーと言うクラスのサーヴァントを目の当たりにした時、セリューは心の底から死を覚悟した。
人の形をしているのに、人間と相対していると言う感覚がゼロであった。勿論それは、セイヴァー・アレフがサーヴァントだと言う事もある。
だが、それよりもっと根幹的な部分が、あのサーヴァントは人間離れし過ぎている。そんな気を、セリューは感じ取ったのである。
トンファーガンは元より、元の世界に置いて来たコロがいたとしても、あのサーヴァントには叶うべくもなかったし、バッターのサポートすら出来なかったろう。
だから、バッターがセリュー戦線から外そうとしたのは、当然の話だ。彼女が死ねば、バッターも無条件で消滅する。
であるのなら、現状殺されれば自分も紐付けして消滅するセリューを足手まといと認識し、遠く離れた所に移動させると言うのは、余りにも常識的な判断であった。

 確かに、あの戦場ではセリューは、何の役にも立たない。
だが、それ以外の所では、役に立つ所がある筈だ。彼女はそう考えていた。
自分、つまりマスターを殺されればサーヴァントが死ぬ。それは、セリュー達だけに適用される不利益ではない。
この法則は絶対則だ。凡そあらゆる主従に適用されると言っても過言ではない、ゴールデン・ルールなのである。
そう、サーヴァントが強いのであるのならば、マスターを叩けば良いと言うのは至極当然の判断である。
アレフのマスターが善人なのか否かと言われれば、セリューは悪だと考えていた。真っ先に自分を狙って攻撃したと言う事実から、
聖杯戦争の趣旨にノっている主従である事は間違いない。そんな存在、生かしてはおけない。
自分の正義と、バッターの理想にかけて。制裁――いや。浄化されなければならない。

 バッターさんを助ける為に、番場さんを助ける為に、速くマスターを探さなくちゃ!!
そう思い、戦場から遠ざかりながらも、多方向にアンテナを伸ばして、不審人物を探すセリュー。
だが、そう簡単に見つかるのであれば、苦労はしない。サーヴァントを倒すのが難しいならマスターを。
そんな事、誰でも考え付く浅知恵である。当然、マスターは目につかない所にいるのが当たり前なのだ。
結論を言えば、アレフのマスターらしき人物が見つからない。そして、時間が経過するごとに、焦りが蓄積して行く。
今この瞬間にも、バッターは苦戦を強いられ、ダメージを負い、消滅の危機に立たされているのだ。

 自分の力足らずで、またしても大切な人が死んでしまう。
そんな事、駄目だ!! セリューは心の中で叫ぶ。恩師であるオーガが死んだ時もそうだった。
あの時のセリューは、恩師が危機に陥ってる際に、何の役にも立たなかった。師は、寂しく、そして無惨に、賊に殺されてしまったのだ。
その時の無力が、今も心の中に燻り、こびり付いている。あんな無力は、二度と御免だった。
しかも今回のケースでは、オーガの時とは違い、バッターのピンチに自分が関わっていると言う自覚が、セリューには確かにあるのだ。
つまり、セリューの頑張り次第では、バッターの消滅は、回避出来るのである。こんな状況で、バッターを死なせてしまえば自分は本当に役立たずだ。

 焦るな、冷静になれ。バッターなら、頼もしい態度で、今のセリューを見たらこうアドバイスするだろう。
そんな事、言われなくても解っているのに、秒針が右に刻々と進む毎に、弱火で炙られる様に、色水を紙が吸って行くように。
セリューの意思とは正反対に、ジワリと焦りが広がって行くのである。何処だ、何処だ、何処だ!?
翌日酷い筋肉痛になっても良い、何なら足の骨が折れたって構わない。今この瞬間で、維持と気合と根性を見せねば、嘘である。

 何処だ何処だと曲がり角を曲がり続ける内に、人気の少ない所に出ようとして――。
其処で不意に現れた、自転車に乗った青年の姿。「わっ!?」と声を上げて、急いで制止するセリュー。
そんなセリューに驚いて、急いで急ブレーキをかけて制動を掛けたのは、青みがかった黒髪が特徴的な、儚げで、しかし何処か、力強い石を感じさせる端正な顔立ちが特徴的な美青年だった。夏使用の学生服と、背丈から推測するに、この辺りに住む高校生か。

「す、すいません!! 急いでたものですから……」

 と、慌ててセリューは謝罪の言葉を送るが、当の青年の方は、セリューの顔を見て何か驚いた様な表情を浮かべていた。
が、それも一瞬の事。「あ、こちらこそ……」とすぐに謝って来た。これで今回の件は恙なく解決――する筈だった。

 違和感を覚えたのは、セリューの方である。
目の前の青年を見ていると、異様に脊椎が熱を持つ。敵――即ち、断罪されて然るべき悪と相対した時のような、あの感じだ。
脊椎から体中に熱が伝播して行く。チリチリと、身体の内奥から火の粉が舞いあがり、それが身体の内面を焼いて行くような感覚。
真昼を抱えながらあの場から逃走する自分を慮って、バッターが此方に何らかの術を掛け、身体能力を向上させた事には既にセリューも気付いていた。
走行条件の悪さからは考えられない程、疲労の蓄積が緩やかであったからだ。バッターの助けがあった事は明白である。

 だが、あの時浄化者がセリューに与えた恩恵は、何も身体能力だけではなかった。バッターが与えたもう一つの恩恵。
それは、『魔力に対する鋭敏な感覚』。セリューとの打ち合わせで、彼女が魔術とは無縁の世界からやって来た事にバッターは既に気付いていた。
即ち、魔力と言うエネルギーを探知する術が彼女には無いのである。これでは、折角マスターと一対一で遭遇しても、それに気付かないですれ違う、
と言う余りにももったいない現象が起こってしまう。普段であれば、セリューとバッターは離れず行動している為、バッターが誰がマスターなのかセリューに教えてくれる為、
マスターが誰なのかセリューが解らないと言う事は起きない。だが、今回のようにやむを得ず別行動を行う場合は勝手が違う。
今回は自分がいっしょに行けない、だからお前がマスターを見極め倒せ。バッターはそう言う意を込めて、アドオン球エプシロンを用い、
セリューの魔力に対する察知能力を強化させた。その結果が、今彼女の身体に起っている、身体の内面から湧き出る熱であった。

「次は気を付けて運転します。それじゃ、僕はこれで――」

 そう言って少年がペダルに足を掛け直し、この場から遠ざかろうとセリューとすれ違って去って行こうとしたその時だった。
セリューは、一種の博打に出た。自分がサーヴァントを従える聖杯戦争のマスターである事を露呈させると同時に――。
しかも、何も知らないNPCが聞いても何が何だか解らないが、聖杯戦争の参加者であればそれが何を意味するのかを知りかつ強制的に警戒せざるを得ない魔法のワードを。セリューは、この場に於いて解禁した。

「――令呪を以って命ずる!!」

 その言葉を叫んだ瞬間、キキッ、と掛かるブレーキの制動音。
そして、バッと振り返る、自転車に乗った青年、有里湊。カマかけに、湊は引っかかってしまった。セリューに令呪を切ると言う考えは端からなかった。
この言葉に反応すると言う事の意味は、一つだ。青年、有里湊は、聖杯戦争の参加者であると言う事。
ステータスが可視化されないと言う事は、マスターであろう。そして、この近辺でサーヴァントを連れないで単独行動をしている、と言う事は。
誰を召喚したマスターであるのかは、自明の理だ。セイヴァーと言う特殊なクラスのサーヴァント……そのマスターである、とセリューは判断。
となれば――彼女がするべき行動は、一つである。

「正義、執行ッ!!」

 背負っていた真昼を地面に急いで横たわらせるや、セリューは懐に隠していたトンファーガンを瞬時に装着。
その銃口部分を湊の方に向け、即座に発砲。バッターの身に降りかかっている、事態が事態だ。警告なしの即発砲が、この場合理に適っていると彼女は判断したのである。
迫りくる凶弾に、湊は気付かない。ただ、落ち着いた瞳でセリューを見ている。その間に、鉛の弾は音の速度と、人体に容易に死傷を与える威力を借りて迫って行くのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ――セリュー・ユビキタスの誤算その一。


 有里湊がペルソナ使いであった事。


 ――セリュー・ユビキタスの誤算その二。


 攻撃する前に会話のフェーズに移行しなかった事。


 ――セリュー・ユビキタスの誤算その三。










 そもそも、出会ってしまった事。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 弾は、湊に当たるその寸前で、カキン、と言う小気味の良い音を響かせた。
その音が響くと同時に、アクリルに似た透明さを持った球状の障壁(バリア)が、湊を取り囲むように展開される。
それが現れたのは、ほんの一瞬の事。少なくとも、セリューが認識すら出来ない程短い時間。
いやひょっとしたらセリューは、球のバリアは勿論、これが現れたと同時に生じた小気味の良い音すら、認識していなかったかも知れない。

 トンファーガンから放たれた、数発の弾丸は、放たれた弾道ルートを逆再生するが如く、射出された速度をそのままに、『セリューの方へと戻って行く』。
勿論、人の身体に死傷を与える速度をそのままに、である。避ける事すら、セリューには出来ない。計七発の弾丸は、セリューの胴体を貫き、貫通して行く。
最初の二秒間、セリューは己の身体に何が起こったのか、解らずにいた。当たり前だろう。殺すつもりで放った攻撃が、跳ね返されたなど。
常識で物を考えれば到底起こり得ない現象であるし、起こってもならない現象の筈だ。

 呆然とするセリューの意識を強制的に覚醒させたのは、自身の持つトンファーガンの威力が齎す、激痛からであった。
歯を食いしばり、苦悶を抑えながら、地面に膝を着くセリュー。歯が欠けんばかりに強く食いしばるが、それで収まる痛みじゃなかった。
意思で涙は止まらないし、弾痕から流れる血液などもっと止まらない。何で? 何が起こったの? 今のセリューの頭には、それしかなかった。

 ――セリューが知る筈もなかった。
湊は、アレフと解れたあの時、ペルソナ能力を発動させ、自分の身体に『テトラカーン』を展開させていた事など、解る筈がない。
テトラカーン、物理的な害意ある干渉を全て相手に向かって跳ね返す、高位の魔術或いはスキルである。
例外はない。マスターの攻撃は勿論、サーヴァントの攻撃にですら反射機能は等しく機能する。単独行動中に、サーヴァントに襲われれば拙い。
そうと考えた湊が、セーフティの為にこの魔術を発動させておくのは何もおかしい所はなかった。現にこうして、このセーフティはしっかりと機能した。湊の選択は一から十まで、何も間違っていなかった事の証である。

「き、貴様……ァ……!!」

 憎悪と憤怒の感情を、ありったけ。己の目線に込めてセリューが呻く。
身を丸め、貫かれた所を抑えるも、着衣物は吸いきれる限界の血液を抑える事が出来ず、ポタポタと雫となって、アスファルトの上に滴り落ちている。

「……」

 セリューの見上げる様な目線に対して、湊は平然としていた。
セリュー・ユビキタスを生かすも殺すも、自分の胸先三寸に掛かっている。それ程までに、彼女は弱っていた。
幾人もの人間を殺して来たと言う大罪人。契約者の鍵から投影される情報だけを見て考えれば、セリューと言う女性の評価はこんな所だろう。
人が人なら、此処でセリューに引導を渡すマスターもいるかも知れない。……だが、湊は違う。迷っていた。
セリューを殺す事など簡単だ。適当なペルソナを呼び出し、それで攻撃すれば良いだけだ。だが、その簡単な事で、迷っている自分がいる事に湊は気付いている。
アレフが、サーヴァントを殺せれば本当の事を言えばベストだ。マスターを殺すのが一番手っ取り早い事に頭では気付いていても、それを自分がやる勇気がない。湊は、そんな自分の性根に、最早戦えるべくもない少女に負の感情を向けられたこの段になって、気付いてしまった。

 自転車から降り、召喚器を取り出す湊。
それを見て、セリューが警戒する。撃ち殺される、と思ったのだろう。何せ召喚器の形状は、拳銃である。
武器の類に神経質になる必要がある聖杯戦争のマスターが、これを見て気を張らない訳がなかった。が、実態は違う。
拳銃の形をしてこそいるが、このデバイス自体に殺傷能力はない。この銃の形をした道具で撃つのは、相手ではなく自分なのだから。
何らかの手段で、黙らせる必要がある。その為の方策を、湊は頭で考えていた、その時だった。

「ヒューッ、驚いた。大したボウヤじゃないか、エエッ?」

 その声が、場に広がったと同時に、湊達の頭上よりも高い所から、猫のように舞い降りた、一人の巨漢。
リーゼント風の黒髪、メンボに覆われても解る凶悪な顔立ち。そして、並の鍛え方をしていないと一目でわかる、筋肉質で大柄な身体つき。
ニンジャ・ソニックブーム。歴戦の戦士のアトモスフィアを放出する男が、この場に現れた瞬間だった。

「……あなたは?」

「そ、ソニック……ブーム、さん……!!」

 ソニックブームが降り立ったのは、セリューの背後であった。
聞き覚えのある声がしたので、その方向に顔を向けると、腕を組み仁王立ちをしながら、巨漢は、セリューを見下ろし、湊の方に威圧的な目線を投げ掛けていた。

「オオ、何時間か振りだな、セリュー=サン。どうだい、あれから正義とやらは達成出来たのか?」

 その声音は、平時のソニックブームの声の調子から考えれば、『猫なで声』、に相当するものだった。
声には相変わらず怖いものがあったが、それでも、普段に比べれば大分優しい感じで言葉にしていると言う事が、湊にもうかがえた。

「私、私……」

「解った解った。皆まで言うな。何をするべきなのか、俺にはよーく解ってるぜセリュー=サン」

 感激の表情を、苦しみながらセリューは浮かべ、湊の方に向き直った。
首の皮一枚で、命が繋がった。そう思っているのだろう。このまま湊が放置を決め込んでも、セリューは失血死していた。
放っておいても彼女は詰みなのだ。しかし此処で、ソニックブームと言う優れた戦士が加勢してくれれば、その心配もない。
バッターが来るまで持ち堪えられれば、此方の勝ちだ。湊をやっつけられなかったのは残念至極としか言いようがないが、それでも、自分が死んでバッターが迷惑するのに比べれば、遥かにマシな落とし所だ。お前はもうおしまいだ、そんな目線を、セリューは湊に対して送って見せる。湊の驚きの表情を見ると、本当に、この場にソニックブームが現れて、幸運にセリューは思うのだ。

「――アラハバキ!!」

 そう叫び、湊は召喚器の銃口をこめかみに当て、発砲。
頭に響く、衝撃。そして、身体から何かが抜け出て行くような感覚。湊の背中からエクトプラズムめいて、霧状のエネルギー体が噴出し始め、
それが急速に形を伴って行く。一秒経たずしてエネルギー体は、青色の遮光器土偶としての形に変化し始めたではないか。
隠者のペルソナ、アラハバキ。湊の中の心の海に住まう高位のペルソナ、荒ぶる地祇の一柱である。現れたアラハバキは直に、閉じた瞳を開眼させ、セリューに力を送る。
これと同時に、ソニックブームは、セリューの首筋に手刀を叩き込もうとし、直撃までもう少し、と言う所で――あのカキン、と言う小気味の良い音が響き渡った。

「グワーッ!!」

 アラハバキが展開させたテトラカーンに手刀が直撃した瞬間、ソニックブームの野太いシャウトが響き渡る!!
テトラカーンは、相手の放った攻撃の威力をそのまま相手に跳ね返す術。言いかえれば、攻撃した側の技量や実力が高ければ高い程、効果を発揮する。
では、ソニックブーム程のカラテのワザマエを持つニンジャが、攻撃を跳ね返されればどうなるのか? 言うまでもない、大ダメージを負う!!
その結果が、これだ。折れては行けない所から骨が折れ、圧し折れたそれが突き出ている、ソニックブームの右腕である!!

「ッテッメー!! ザッケンナコラーッ!!」

 建物が揺れんばかりのヤクザスラングを稲妻の如く迸らせるソニックブーム!!
何が起こった、と言わんばかりにセリューが、ソニックブームの方に顔を向きなおらせ、愕然の表情を浮かべた。彼の腕が折れている事に、気付いたのだ。

 湊が驚いた理由は、この場にソニックブームが現れた事よりも、セリューに対して優しく声を投げ掛けていたソニックブームが、
『セリューが背を向けているのを良い事に背後から致死の威力を内包した手刀を彼女に叩き込もうとしたから』であった。
弱っているセリューを見て、絶好の機会だと思ったのだろう。だからこの場で引導を渡そうとした、その程度は湊にも解る。
だが、その行動を見ていた時、湊は反射的にペルソナ能力を発動してしまっていた。本当はセリューは、騙されているのではないか?
自身が召喚したバーサーカーに、良い様に操られているだけではないのか? そんな可能性が頭を過り、完全に否定出来なくなっていた時、
湊には二つの選択肢が提示されていた。セリューを助けるか、それとも見殺しにするか。選ばれたのは、前者の方だった。
それを選んだ時湊は、セリューの命を救いつつも、ソニックブームの命を損なわない術、テトラカーンを発動させていたのであった。

 そして、湊のそんな行いに対し、ソニックブームが激怒するのは当然の帰結であった。
言いたい事は、湊にもよく解る。セリュー・ユビキタスが倒せば令呪一画の美味しいマスターである事。
その美味しい賞金首が死にかけの体である事。そして、此処で彼女が死ねば自分も令呪に在り付けるかも知れないと言う事。
それらの事実を目線に一気に込めて、ソニックブームは湊に叩き付けている。解っている。そんなメリットは解っている。

「……ごめんなさい」

 解っていても身体が動いてしまったんだ。だから、身勝手だが許して欲しい。そんな思いを、この一言に湊は乗せた。

「貴様、よくもソニックブームさんを……!!」

 怒りが痛みを凌駕した。
よろよろと立ち上がり、トンファーガンを構え出すセリュー。事もあろうに、ソニックブームに背を向けた状態で、またしても。
とは言え今度は、またすぐに攻撃、と言う選択肢はソニックブームもとるまい。テトラカーンで、痛い目を見てしまったからだ。
また攻撃を反射されるのでは、と言う危惧が既に彼の中には芽生えている。『テトラカーンの効力は一回の発動につき一回切り』。
この法則を知っていればまた違う行動も選べたろうが、それを知らないからこそ起こった、都合のいい展開である。

「道理を知らねぇ悪ガキには、キュウって奴を据えなきゃいけねェみたいだな、エエッ!?」

 折れた右腕は使えない。左腕だけで、自身が会得したカラテの構えを見せるソニックブームを見るや、湊も召喚器を構える。
――このタイミングであった、湊の視界に、猛速で此方に向かって来る、ソニックブームよりもずっと大柄な身体つきをした、
人の身体にワニの頭を持った恐るべき存在が映ったのは。それを見た瞬間、湊は横っ飛びに勢いよく跳躍し、ワニの進行ルート上から逃れだす。

 この場に勢いよく現れたサーヴァント、バッターは、急いでセリューを回収。
そのゼロカンマ数秒後に、バッターの後ろを走っていたシャドウラビリスが、アスファルトに寝かせられていた真昼を回収。
そのまま、この二人のバーサーカーは嵐のような勢いで退散しようとするが、バッターはこのまま帰ろうとしなかった。
この場にいる二名のマスター、即ち、有里湊とソニックブームを認識するや、アドオン球体アルファとオメガを、彼ら目掛けて高速で飛来させる。
湊に迫るのはα、ソニックブームに迫るのはΩ。直撃すれば身体が寸断される鋭利さを内包したそれから、湊を救ったのは、救世主のクラスのサーヴァントだった。
バッターとシャドウラビリスを追跡していたアレフは、逃走している二名のバーサーカーの走る速度を超越する程の加速を、
『地面を普段より強く蹴る』と言う行動で得、本来追跡する筈だった二名を一瞬で追い抜き、湊の所まで移動。迫るアルファのアドオンを将門の刀で弾き飛ばしたのである。
一方、ソニックブームの下へと迫るΩに対抗したのは、彼の使役するセイバー・橘清音であった。
ソニックブームの下に着地した彼は、着地と同時に手にした音叉刀・疾風を振い、アレフと同様見当違いの方向にオメガを吹っ飛ばしたのだ。

 マスター両名の抹殺は未遂に終わったが、バッターにとってはそれで良い。この場から退散するのに十分過ぎる程の時間を稼ぐ事が出来たのであるから。
アレフはバッターを追跡しようと考えたが、もう遅いだろうと考えを修正。逆に彼は、バッター達ではなく、清音の方にターゲットを変更。
地を蹴り、時速数百㎞超の速度で彼の方に肉薄しようとするが、何を思い直したか、そのまま急ブレーキをかけだしたではないか。

「後はお前の自由にせーや、セイバー」

 アレフが立ち止まった理由は、単純明快。
清音とアレフの間の空間に、イルが、瞬間移動を駆使して現れたからである。
突如として現れた、得体の知れないサーヴァント。【そっちがアサシン、向こうの鎧のがセイバー】。湊が念話で告げて来る。
遅れてステータスも報告して来たが、どちらも目立った物はなかった。倒せるステータスではあるが、宝具とスキルが解らない以上は、油断するつもりはない。

「……貸し一つ、ですね。アサシン。恩に着ます」

「追うぞ、セイバー=サン!!」

 言ってソニックブームは、風の如き速度で走り始め、バッター達を追跡に掛かる。
清音もまた、その場から去り始めたマスターの後を追うように、残像が残る程の速度で駆け出して行く。
――そして後には、一人のアサシンと、一人のセイヴァー、そのマスターが残される形となった。

「邪魔して悪かったな、兄ちゃん。目的挫いたんは謝るが、こっちも割と必死なんや。すまんな」

「いいよ、と言いたいけど。落とし前位はつけて貰うかな」

 自分の描いていた絵図の完成を邪魔されて怒らない程、アレフも人の心をなくしている訳ではない。
イルが悪いサーヴァントでない事は、アレフも理解しているが、それとこれとは話は別。腕の一本位は、地面に置いて行って貰おうと。
将門の刀の剣先を、イルの喉元に突き付け、アレフは静かにその闘気を漲らせた。

「ヤクザモンみたいな事言うんやな。言うとくが、そんな安い腕ちゃうで」

 腰を落とし、あの格闘技のセオリーを無視した、二本の指を中途半端に曲げる構えを取り始めるイル。臨戦態勢は、それで整った。
これを見てアレフは、刀を中段に構え始めた。正式な戦いの構えを取り始めると、また気魄の量が違う。
精神の昂ぶりは、アレフは落ち着いている方だ。それなのに、身体から発散される気魄が倍加している。
穏やかな心のまま、闘気が雫となって刀の先から零れんばかりの覇気を放出する。それは、武を極め、戦いの何たるかを知る戦士でしかあり得ない芸当であった。
「セイヴァー……」、と心配そうに口にする湊。【心配するな、直に終わる】、アレフは念話でそう告げ、イルの方に目線を送った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 シンパシー、なる言葉がある。
共感とか、共鳴を意味する言葉であり、何者かの考えや行動、そして生き様に対し、その通りであると言う同意を憶えた時に、この言葉は使われる。

 幻視、と言う症状がある。
意識や精神、神経の異常が齎す発露だ。幻覚、とも言われる。実際にはないものが、その人物にはあるように見えてしまう事。肯定的な意味では、使用されない言葉だ。

 それは、サーヴァントと言う霊的な身の上が見せた、霊基のある種のバグだったのか。
それとも、生前とは違う身体の組成故に発生する、サーヴァント自身ですら知覚出来ない不思議な現象であったのか。

 アレフは、イルの姿を見続けた時、一つの幻が脳裏を過った。
薄い緑色の液体で満たされた培養層。その中に、大量のプラグを体中に刺し込まれた幼児の光景を、アレフは認識した。

 イルは、アレフの姿を見続けた時、一つの幻が脳裏を過った。
眠っている金髪の女性から取り出された受精卵。これが特殊な培養槽に入れられるや、瞬きする間に、受精卵の形から人の形になって行く光景を、イルは認識した。

 彼らの見た幻が、霊基のバグなのか。それとも、それらすら超越した奇怪な現象であったのか。
それを確かめる術は、彼らにはない。ないが、確かな事実が、二つある。

「――お前も生み出された命か」

「――お前も生み出された命か」

 これから戦う相手は、メソッドこそ違えど、人為的に生み出された一つの命であったと言う事。
血の繋がった母もなく父もない身体で、世界に確かに生きていた一人の人間であったと言う事。

 シンパシー、なる言葉がある。
共感とか、共鳴を意味する言葉であり、何者かの考えや行動、そして生き様に対し、その通りであると言う同意を憶えた時に、この言葉は使われる。

 互いの出自に似たものを感じた男達が、今地面を蹴って駆け始めた。
世界が異なれば、友にすらなれたかもしれない者達が戦いあう。それもまた、聖杯戦争の妙なのだと、二名は同時に気付いたのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 イルが、清音に襲い掛かろうとしていたアレフを食い止めようとする、言わば『殿(しんがり)』を買って出たのには訳がある。
勿論それは、あの抜き差しならぬ主従に恩を売っておきたかったと言う打算も勿論ある。
あの主従に貸しを作るのであれば、マスターよりも清音だとイルは判断した。あのマスターは、平気で嘘を吐くし、約束も反故にする、そんな臭いを感じ取ったからだ。
聖杯戦争を勝ち抜く、生き残ると言うスタンスの参加者として考えた場合、ソニックブームの考えは寧ろ正当な物とすら言える。全く間違ってはいない。
だが、信頼は築けないだろう。虚や嘘を交える事は大事ではあるが、この戦いを勝ち抜く上で必要なもう一つのファクター、信頼は、誠実を以ってしか稼げないのである。
してみると、信頼を築けそうなのはソニックブームの従えるセイバー、橘清音の方であった。話していて解る、あの男はくそ真面目で、真っ直ぐな人間であると。
現に、この場から清音を逃した際に、彼が口にしたあの言葉だ。恩に着る、ときたものだ。解りやすい程、実直な性格の持ち主だった。

 だがそれ以上に、個人的にではあるが、イルは、ああ言う性格の持ち主は嫌いではなかった。
この聖杯戦争にだって、肯定的な意見を本当は持っていないのだろう。叶えたい願いにしても、本当はないと言うのが正直な所なのだろう。
運命の悪戯的に呼ばれ、この街の在り方に迷っているサーヴァント。それが、清音なのかも知れない。
マスターであるソニックブームは兎も角、少なくともあのセイバーについては、今此処で脱落するには惜しい人材。イルはそう思っていた。
だから、こうして貧乏くじを自分から引いてはみたのだが――

 ――正直失敗やったな……――

 現在アレフとイルは、互いに十m程離れた地点で、睨み合っていた。
互いに交わした攻撃の数は、一合程。アレフは将門の刀を横薙ぎに振い、それに対しイルは、刀が自分の身体を斬るであろう場所を部分的に透過させ、
やり過ごしてからカウンターを叩き込む……『つもり』だった。だがイルは、アレフが攻撃を放とうとしたその段階で、急速に嫌な予感を感じ取り、駆けたルートに向かってバックステップ。こうして距離を取り、現在に至るのである。

 イルが清音の代わりに場を持たせようとしたのには、もう一つある。
清音では、アレフの相手は厳しいのではないか? そう思ったからである。
その戦闘スタイルの都合上、そして武術の練度を磨いて来たイルだからこそ、解る。アレフから迸る、底知れぬ程の武の練度をだ。
きっと清音自身も認識していたに相違あるまい。もしかしたら、自分の命は最早此処には、そしてこれからも存在しない心構えで立ち向かう気だったのかも知れない。
培った武練の差が、あり過ぎる。だからバトンタッチしたのである。自分の能力であれば、殆どの攻撃は通用しない。
憎たらしい能力ではあるものの、戦闘においての有用性は疑うべくもない。この能力を駆使すれば、それなりの時間稼ぎは出来るだろうと、イルは考えていたのである。この時までは。

 認識が、甘かったとしか言いようがない。
真正面と向かいあい、睨み合って初めて解る事もあると言うもの。アレフの武練は、イルの目から見ても桁違いのものだった。
Iブレインを駆使し、相手がどう動くのか、それに対し自分がどう動くのか。また、自分から動く場合にはどうすれば良くて、それに対する相手の行動は?
諸々の試算を脳内で捏ね繰り回してみたものの――全く決定打を見いだせない。既に脳内で演算したシミュレートの数は数百を超えているが、その全てが、
アレフに対して一撃も与えられず、その内の半数近くが、自分が逆に殺されると言う未来を予測していた。

 刀と言う武器を持っている都合上、相手の戦い方はきっと『騎士』から身体能力制御と自己領域を抜いたような物なのだろう。
話だけを聞けば、騎士との戦いに比べればずっとずっと、簡単なそれだと、元の世界にいた魔法士達なら思えるだろう。其処からして、既に間違いなのだ。
確かに、身体能力制御も自己領域も、アレフは使えない。光速の99%に迫る超速度での移動も、運動能力や知覚能力の向上もアレフは出来ない。
それなのに、相対するアレフの強さは、騎士のそれに匹敵する。いや、場合によっては、上回る、と言っても過言ではなかろう。

 奇抜な戦い方をする訳ではない事は、イルだって解っている。
手にした刀、ホルスターにしまわれた銃状の装置。其処から考えられる、アレフ自身の戦闘スタイルは、イルも理解している。
理解しているのに、『其処からどう言う動きを繰り出してくるのか解らない』のだ。人の形をした生き物が、剣を持っている。
どうやって攻撃して来るかなど、解らない筈がないと言うのに、予測が出来ない。こんなタイプの存在は初めてだった。

 想像も出来ない程に経験して来た戦闘の場数、それによって培った戦闘経験。そして、それらによって磨いて来た武術の冴え。
それらを以って、頭の中の量子コンピューターであるところのI-ブレインの予測すらもクランチさせる。恐るべき、アレフの武練であった。

 身体から汗が噴き出て、イルのシャツを濡らして行く。杓の中の水を、背中にぶちまけられた様であった。
自分から先んじれば状況を打破出来る確率と、自分が後手に回れば状況を打破出来る確率。完璧に、五分。
過去、此処まで次の行動を選ぶのを躊躇った事などなかった。イルは痛みを恐れない。己の身体が傷付く事については問題がない。
それで救える何かがあるのなら。それで、拓ける道があるのなら。自分の身体など、幾らでも差し出す。
その事は、己の身体に刻まれた、無数の勇気と蛮勇の象徴が証明してくれる。そんな性情でなお、イルは次の行動を選ぶのに迷っていた。
無傷では済むまい。何かしらを失ってしまうだろう。それは果たして、身体の一部か、それとも命か? 
……その段になって、初めて気付いた。身体のパーツを失うのを気にしているのではない。命を失うのが怖いのではない。

 ――アレフと言う存在を相手に、一瞬とは言え戦う。その事実を、イルは恐れているのだ。

 そんな時間が二分程続いたある時だった。
I-ブレインが、アレフとイル間の距離が、十mと二十cmから、九mジャストにまで縮まった事を告げて来た。
いつの間にか、にじり寄っていたらしい。それすらも、認識出来なかったとは。恐るべき体重操作の腕前であった。
とはいえ、人為的な動きは兎も角、距離は、特殊な技術で相対的に歪められない限りは絶対のものである。
少なくともこの場に於いて、距離と言う概念を歪める技術は使われていない。必然、I-ブレインが告げた距離は真実のものとなる。
だが、何時の間に距離を詰めて来た――イルの頭が、今現在の彼我の距離を認識したその瞬間を狙って、アレフが、弾丸の如き速度で駆けて来た!!

 ――出来るッ――

 二人の距離を考えていたその瞬間を狙っての、吶喊。
恐らくアレフは、一足飛びに飛び掛かれる距離を修正する為ににじり寄ったのではないのだろう。
イルが、今現在の距離を頭で考える、その瞬間を狙ったに違いない。本当に油断を省いたI-ブレイン保有者から、並の人間が真正面から、
彼らにそうと悟られぬよう攻撃を仕掛ける事は事実上不可能に等しいと言っても過言ではない。それ程までに、脳の処理速度が違うのだ。
アレフ程の技量の持ち主が今仕掛けたような事をして、漸く小数点以下の確率で突破口が開けるか、と言う位の可能性である。
確かに上手いが、それだけ。アレフの移動する速度は、少なくとも、イルに見切れぬ速度ではあり得なかった。

 イルは腹を括った。先ずは相手に攻撃をさせ、その後カウンターを仕掛ける。
アレフに対してこれを行い、自分の脅威を知らしめさせ、戦いを続ける事について特にメリットも得る物もない、ただ互いに徒労に終わると言う事だけを知らせしめるつもりだった。

 I-ブレインに頼るまでもなく、アレフが攻撃の間合いに到達した事を悟るイル。何が来る、と思った瞬間、イルは愕然とした表情を浮かべる。
奇妙にして、恐るべき現象だった。将門の刀は、確かに振るわれている。速度は音の七倍。破滅的な速度だ。
普通であれば、目ですら追えないし、I-ブレインが真っ先に警告を発する驚異的なスピードである。

 ――あるのに、I-ブレインが一向にアレフの攻撃を『脅威』として認識していない。攻撃とすら『感知』していないのだ。
故に、防御不能のアナウンスも、回避不能のアナウンスも告げない。いやそれどころか……当のイルの『理性や本能ですら、アレフの攻撃を攻撃と認識していない』のだ。
結局イルが、アレフが攻撃を放ったと認識したのは、将門の刀が、彼の手首に到達、その皮膚一枚に触れたその瞬間が初めての事であった。
つまり、刀がイルの肌に触れるまで、I-ブレインは勿論、イル当人ですらが、音の七倍以上の速度で迫るアレフの一撃を『自分の身体を損なう必殺の一撃』だと、思っていなかったのだ。

 ――シュレディンガーの猫は箱の中!!――

 すぐに、己の身体を幻影(イリュージョン)とする言葉を心の中で叫ぶ。
本来イルは能力をフルに用いれば、身体全体に透過の処理を施させ、あらゆる攻撃や現象をすり抜けさせる事が出来る。
つまり、その気になったイルの身体を害させる事は、不可能なのである。姿形は、誰の目から見ても明らかにその場所に存在する。
それなのに、誰もイルの身体に触れる事は出来ない。何故ならば能力を発動させたイルは、量子力学的に存在しないのと同じなのだから。
其処にいるのに、其処にいない。故にこそ、幻影(イリュージョン)。霧を撃ち殺せる狙撃手はない、水を斬り殺せる剣士はいない。例外は、己と同じく、量子を御せる術を持つ者だけだ。

 とは言え、戦闘の際に何時も自分の身体を量子化させる訳には行かない。常に量子化させると、荒垣に不必要な魔力消費を強いると言う事も勿論ある。
それ以上に、完全に身体を量子力学的に存在しない扱いにするという事は、『イルの方からの攻撃も相手を透過してしまう』のだ。つまり、ダメージを与えられない。
そんな幽霊のような相手と対峙した存在は、どんな手を取るか。『逃げる』のだ。攻撃が一切通用しない相手と戦い続けるのは、時間の無駄以上の意味がない。
逃げの一手。これはイルにとって取られて一番困る選択だ。しかし、相手にその選択肢を選ばせない方法が一つだけある。
それが、自分には攻撃が通用するぞと思わせる方法である。だからイルは、戦闘に陥ったら無暗に体全部を量子化させる事はしない。
身体の一部『のみ』を敢えて透過させるのだ。その一部とは即ち、血管や骨、内臓。破壊されれば甚大なダメージを負う器官のみを、ピンポイントで透過させるのだ。
こうする事で、相手に攻撃が通ったと思わせるのだ。無論実際には、ダメージは軽微なもの。何故ならば、表皮や筋肉しかダメージを負っていないからである。
実際には平気でイルは動ける。そうして相手が油断して、大技か、隙のある攻撃を放った所で、身体の大部分を量子化、すり抜けさせて致死の一撃を与える。
これが、イルと言う男の戦いの骨子であった。同じ魔法士をして、『気が狂っている』と言わせしめた程の、常軌を逸したイルの戦い方であり、彼なりの信念に基づいた戦い方だった。

 ――この信念を、イルは曲げた。
自身の身体全体を量子力学的に存在しないものとし、アレフの恐るべき剣閃をイルはすり抜けさせる。
アレフの攻撃が、振り抜かれる。まるで水を攻撃したように、するりと抜けて行くその感覚。アレフの眉がつりあがる。
憶えがあり過ぎる感覚だった。物理攻撃を無効化させる悪魔を斬ったような手応え。まさかこのサーヴァント……、そうアレフが考えた瞬間、イルが動いた。
量子化を解除させた後に、独特に人差し指と中指を曲げさせた拳を以って、将門の刀を握るアレフの右腕、その二頭筋の辺りに拳を放つ。
当たる瞬間に自身の手を透過させ、拳を握るのに必要な神経をそのまま外部に引っこ抜こう、と言う算段だ。イルの能力ならばそれが出来る。

 但し、アレフはそれをさせない。
イルが真正面からの攻撃及びフェイントに、I-ブレインが齎す高速演算能力で対応出来るのと同じように。
I-ブレインの保持者ではあるが、元の身体能力が人間の域を出ないイルでは、数多の戦場を潜り抜けてアレフが磨いた、獣の反射神経を凌駕出来ない。
イルの攻撃よりも遥かに速い速度で、攻撃した側の腕を引き、その状態からイルの左肩目掛けて弾丸もかくやと言わんばかりの刺突を放つ。
やはり、イルのI-ブレインはこれを攻撃として認知してくれない。攻撃をアレフが放ったと認識したのは、先程と同様だ。
刀の剣先が、衣服を突き破り、皮膚一枚に触れたその瞬間。普通のサーヴァントであるのならば、このタイミングで攻撃されたと気付いてももう遅い。
肩が吹っ飛び、血肉を撒き散らせながら腕が地に落ちている事だろうが、イルは違う。埒外の思考速度を持った彼は、I-ブレインの思考演算速度を以って、
即座に己の身体全体を量子化させ、再び攻撃を素通りさせる。アレフの腕が、伸びきった。果たして、如何なる速度でこの救世主は攻撃を放ったのか?
イルの背中をすり抜けた将門の刀、その剣先から放たれた衝撃波が、イルの背後の鉄筋コンクリートの塀にすり鉢状のクレーターを刻み、其処から生じて行った亀裂が壁を崩落させてしまったではないか。どれだけの威力を乗せた、突きであったと言うのか。

「かなわんで、ほんま」

 言ってイルはそのままバックステップで、自身と重なった位置にある将門の刀から距離を取り、量子化を解除させる。
今の言葉は本心から出た台詞だった。とてもではないが、人間と戦っている気がしない。

「これ以上戦って得られるものある訳ちゃうやろ。互いに疲れるだけや、これ以上はやめとけ」

「互いに疲れる、じゃないだろ? 自分が疲れるから、本当は勘弁して欲しい。そんな風にしか聞こえないが」

「実を言うとそん通りやな。おたく、人間か? 戦ってて寒気しかせんわ」

 アレフの放った、攻撃を攻撃と認識させないあの攻撃を指して、そう言っているのだろう。しかし事実、アレフは人間なのである。
生前アレフが戦って来た敵の中には、攻撃など避けられない程の巨体を持ちながら、攻撃を放った側からすれば、命中したはずなのに傷一つ負わない悪魔が相当数いた。
これは、その悪魔が高次の実力を持った存在に特有の避け方だが、『攻撃していると言う過程を歪め、命中した筈なのに避けたのと同じ扱いにして無傷でやり過ごす』、
と言った物があるのだ。アレフも生前は、これにはかなり苦戦させられた。そんな戦いを続ける内に、アレフは一つの技を見出した。
先程の対処方法は、悪魔が攻撃であるとそれを認識して初めて発動出来る。この発動を阻止する為には、相手の反射神経を凌駕した速度の一撃を行うか、
『攻撃と認識させない攻撃』を行うしかない。アレフは、この後者の技術を習得した。剣を振う。そのアクションは、誰の目から見ても攻撃の筈なのだ。
しかしアレフは、この『ダメージを与える手段であると認識させない技術体系』を会得した。
相手は、アレフが行動を終え、自分の身体が損なっている瞬間に初めて、アレフが攻撃したと言う事実を認識するのである。
イルは、この技術を宝具かスキルか、そうと認識したが実際には違う。終わるとも知れぬ戦いに身を投じ、それを勝ち抜き、死ぬ瞬間まで無敗を貫いてきた人界の救世主が、その戦いの過程で敵を斬り殺す為に会得した、神技の一つに過ぎなかったのである。

「で、どうするんよ。まだ戦うって言うんなら――」

「セイヴァー」

「解ったよ」

 湊の言葉を受けて、アレフは将門の刀を鞘にしまう。ホッと息をつきかけるイル。
如何やらアレフのマスターの方は、これ以上の戦闘をよしとしなかったようである。

「正直、そこまで悪そうな人に見えないから、僕としては戦いたくない」

「なんや、マスターの方が見る目あるやないか」

「人を見た目で判断しちゃ駄目だぞ、マスター」

 自身のマスターの軽率な判断を窘めるアレフ。

「……まぁ何にしても、そっちの邪魔したんは悪う思っとる。流石に見込みのある同盟相手を、こんな早くに失う訳にはいかんかったからな」

 一歩、イルは後ろに下がる。追う気配はアレフから感じられない。いや、一歩二歩、それどころか十m二十m。
この男から距離を離したとしても、一瞬で間合いまで詰められるか、予想だにしない攻撃手段で追撃されるだろう。今攻撃の構えを見せなくても、問題がない、と言った方がこの場合正しいのか。

「次逢う時は、なるべく今みたいな構図で戦いたくないもんやな。ほな、マスターの御厚意に、甘えさせて貰うとするわ」

 そう言ってイルは、バックステップを大きく刻み、この場から立ち去ろうとする。
イルの背後にあるのは、鉄筋コンクリートの塀。普通であればぶつかるのだが、身体を量子化させているので、ぶつかる事無くすり抜ける。
これを何度も何度も繰り返し、物理的にはあり得ないショートカットを利用する事で、イルは、アレフと言う恐るべき存在の居る所から退散したのであった。

「見逃して良かったのかい?」

 アレフが、湊の方に向き直り訊ねる。

「今はまだ何とも言えないけど……僕は、その選択に後悔してない」

「……そうか。そう言えるのなら、良いと思うよ」

 イルが去った所に目線を送りながら、アレフは言った。
アレフの目から見ても、イルと言う銀髪のアサシンは、救いようがない程の悪人とは見えなかった。
ただその場の流れで、同盟相手を助ける為に、立ちはだかった。その程度なのだろう。

「ここはもう目立つ。場所を変えよう」

「あぁ」

 そう言うと、即座にアレフは霊体化。
湊は、近くで横転している自転車を引き起こさせ、ペダルを漕いで急いでこの場から離れて行く。
そしてそうしながら、念話でアレフと会話をする。

【ところでさ、何でセイヴァーは、あのセイバーと敵対してたの?】

【あの、独特な鎧……と言うか甲冑? あれを装備してた奴か】

【うん】

【セリュー・ユビキタスが操るバーサーカーをあと一歩で消滅させられたのに、邪魔されちゃってね。それで、味方だと思った訳だ】

 バーサーカー・バッターを追い詰めていたアレフは、構えていた将門の剣身に反射して映った、背後から迫る謎の飛来物を認識。
それに対応しようと、背後を振り向き、刀でその飛来物――手裏剣のような物を破壊したのだ。
そして、バッターらがアレフから逃走するのに、この短い時間は十分過ぎる猶予だった。
即座に脱兎の如く退散を始めたバッター達。そして、これを追跡するアレフ……と、この手裏剣を放ったと思しき、不思議な装束のサーヴァント。
そのサーヴァントが、建物と建物の屋根を跳躍しながら、凄まじい速度でバッター達を追いかけていたのをアレフは見たのである。
此処から、あの手裏剣を放って、自分達からバッターと言う獲物を横取りしようとし、剰えバッターに逃げる時間すら与えてしまったサーヴァントは、
忍者めいて屋根と屋根を跳ぶサーヴァントだとアレフは認識。敵か、それに近しいポジションだとアレフは考えたのである。

【前途多難だなぁ】

【全くだよ】

 自転車を漕ぎながら、人が集まりつつある、嘗て戦場であった場所から遠退いて行く湊達。
頭上を見ると、青い空の上に白い月が浮かんでいた。五日後に満月となる、昼天に浮かぶ白い月が。
この世界の満月は――自分達にとって何を齎すのだろうか。不幸か、幸運か。それとも……それ以上、なのか。






【市ヶ谷、河田町方面(香砂会邸宅跡周辺)/1日目 午後1:30】

【有里湊@PERSONA3】
[状態]健康、魔力消費(極小)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]<新宿>某高校の制服
[道具]召喚器
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰る
1.可能なら戦闘は回避したいが、避けられないのなら、仕方がない
[備考]
  • 倒した魔将(ナムリス)経由で、アルケア帝国の情報の断片を知りました
  • 現在香砂会邸宅跡周辺から遠ざかっております。向かっている先は、次の書き手様にお任せします
  • 拠点は四谷・信濃町方面の一軒家です
  • アサシン(イル)を認識しました
  • ソニックブームと、セイバー(橘清音)の存在を認識しました
  • 番場真昼とバーサーカー(シャドウラビリス)の存在を認識しました


【セイヴァー(アレフ)@真・女神転生Ⅱ】
[状態]健康、魔力消費(極小)
[装備]遥か未来のサイバー装備、COMP(現在クラス制限により使用不可能)
[道具]将門の刀、ブラスターガン
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを元の世界に帰す
1.マスターの方針に従うが、敵は斬る
[備考]
  • アサシン(イル)を認識しました
  • ソニックブームと、セイバー(橘清音)の存在を認識しました
  • 番場真昼とバーサーカー(シャドウラビリス)の存在を認識。セリュー組の同盟相手だと考えています




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「死ぬ思ったわ」

 電柱に背を預ける荒垣の所に戻るなり、イルはそう呟いた。
何処となく、荒垣にはイルが憔悴しきっているように見える。口にした言葉を本心から言っている事の証だ。

「お前の口からそんな言葉が出る何て珍しいな」

「命張る事なんざ一度二度ちゃうが……それでも、肝冷えた位にはヤバい相手やった。生きてた頃でも、あんな怪物と戦った事ないわ」

 仮に命と言う概念が商品棚に無数に陳列されていたとして、その全部を使い切るばかりか棚が無数にあっても足りない程の、
戦場と地獄を潜り抜けて来たイル。その彼をして、セイヴァーと呼ばれたあのサーヴァントは、別格の存在であった。
あれより優れた身体能力を持つ者も、あれよりも特異で凶悪な能力を持った者もそれこそ、遍く世界を探し回れば幾らでもいるだろう。
事実イルも、そう言った存在に覚えがある。生前の時点で、アレフよりも身体スペックや能力的に優れた相手とは拳を交えてもいる。
それでもなお、勝てる、と言う展望を抱かせないのである。それどころか、戦えば死ぬ、殺されると言う確信すら抱かせる。恐るべきまでの武練と技量を持つ男だった。
何を極めれば、何を潜り抜ければ。あの高みへと至れるのか、イルには皆目見当がつかない。

「まぁ、向こうが本気で俺の命を殺ろうとするつもりがなかったから、こうして五体満足で戻れたがな。そうじゃなかった、ホンマどう転ぶか解らんかったな」

 荒垣kから送られる目線は、いまだに信じられないような物が微かに籠っている。
イルをして、此処まで言わせしめる敵なのだ。この男が嘘を言ってるとは思わないが、それでも、やはり信じられないと言う思いの方が強い。

「取り敢えず、サーヴァントがそれだけ強いってのは、良い。予測出来た事だ」

 自分の引いたサーヴァントよりも、強いサーヴァントが跳梁跋扈している。
その事実は、恐るべきものではあるが、やっぱりそうなのだろうな、と言った域を出ない。
荒垣が言ったように、往々にして予測出来た事柄だからだ。ありとあらゆる世界の、あらゆる年代からピックアップされて召喚される存在。
それがサーヴァントであるのなら、イルより強いサーヴァントが召喚されている、と言う事実は多少は驚きこそすれど、愕然とするような物ではない。

「気になるのは、『俺と同じ能力を使うマスター』の事だ」

 これが、荒垣にとって一番気になる事実だった。
アレフが清音に対して攻撃を仕掛けようと言う局面で、イルが其処に割って入って来るほんの少し前まで、荒垣はイルと行動を共にしていた。
この時、清音に恩を売っておきたいと考えたイルが、その場所へと向かって行ったその際に、こんな念話が荒垣の所に届いたのである。

 ――なんやコイツ!! マスターと同じ能力を……――

 驚いたのはイルよりも荒垣だ。同じ能力……言うまでもなく、ペルソナ能力の事である。
仔細を訊ねようと念話を飛ばそうにも、既に念話の有効射程外だった為、内容が掠れてよく聞き取れず、誰がペルソナ使いだったのかと言う肝心の情報は不明瞭。
念話圏内に近付こうとイルが考えた時、丁度アレフが清音に攻撃を仕掛けようとしていた為に、イルと荒垣は再合流が遅れた。
結局このタイミングになって初めて荒垣は、同じ能力者の特徴を知る事が出来る、と言う訳だ。

「お前と同じ能力なのかは解らんで。ただ、マスターが以前見せた能力とそっくりって思っただけやし、ホンマに似たような能力なだけなのかも知れん」

「それでも良い。そいつの特徴が知りたい」

「青みがかった髪で、背丈はマスターよりも小さい。中肉中背って奴やな。顔立ちは結構整ってて、後、ペルソナ使う時はお前と同じで銃を――どうした」

 話している内に、荒垣の表情が険しくなって行ったのを、イルは見逃さなかった。

「覚えがある。て言うか、知り合いかも知れねぇ」

「そうか……」

 当初荒垣は、ペルソナ使いであると言うのなら、自分にペルソナの制御薬を渡していた、ストレガの連中であって欲しいと願っていた。
知人と戦うなど、荒垣とて御免蒙るからだ。その点、ストレガであるのならば、殺しこそしないが思う存分叩き伏せられる。聖者気取りのあの男であったおなら、猶更だ。

 想定は、最悪の方向に裏切られた。
イルの話した特徴と合致するペルソナ使い。間違いなく、S.E.E.Sのリーダーである、有里湊であろう。
彼と過ごした時間は本当に短い間であったが、その期間だけでも、湊の強さは荒垣にもよく伝わった。
味方にすると頼もしい。だが、味方の際に頼もしいと言う事は、裏を返せば敵に回った時の厄介さが段違いである事にも等しい。
初めてタルタロスで共闘したその時点で、湊の強さは自分は勿論、長い期間ペルソナを駆使して戦っていた美鶴や真田をも最早上回っていた。
きっと、才能と言うものなのだろう。そして、その才能を磨き上げた結果でもあるのだろう。あの荒垣ですら一目置いていた程の、大人物。それが、有里湊と言うペルソナ使いなのだ。

「正直な所、敵対したくないってのが本音だ。俺よりも遥かに強いし、何より……良い奴だからな」

「その点については、まぁ、問題なさそうやな。俺が此処に無事に到着出来たんも、そのマスターが厚意を見せてくれたから、ってのが大きい」

「厚意……?」

「俺がな、良い奴っぽく見えたから余り戦いたくないんやと」

「……アイツらしいといえば、らしいのかもな……」

 苦笑いを浮かべるイルと荒垣。

「っちゅーても、この聖杯戦争。何が原因で振り子の落ち先が変わるかどうかは解らない。その良い奴が、何かを境に豹変して、お前と敵対するやも知れんが――」

「その点は、覚悟している」

 懐に隠した召喚器にそっと手を当て、荒垣は言った。
迷いも何もない言葉――と言いたい所ではあったが、微かなブレが、言葉尻にあるのをイルは見逃さなかった。
それについて咎める事は、イルもしない。身内と戦うと言う段になって、決意にブレが生じる。その事を、果たして誰が咎められると言うのだろうか。

 ――俺も、出来得るもんなら、今とは違う形で会いたいな……――

 腕を組み、清音達の到着を待ちながら、イルは空に目を走らせそう思った。
セイヴァーと称呼されるサーヴァント、アレフ。自分と同じく、誰かの手によりて、人間に本来想定されたものとは異なる形で産み落とされた、人造の仔。
昔日の時には、自分と同じように、大勢の普通の人間達が普通の生活を送る為の礎石に選ばれた、哀れな者達の事を強く思っていたイル。
嘗ては普通の人間に対して憤懣を抱いていた事もあったが、それも既に過去の話。だが、正しい形――つまり、母の胎から産まれると言う風ではなく、
遺伝学の高度な発展による遺伝子操作技術で生み出された者達への思いも薄れた、と言う訳ではない。
幼い頃に見た、シティに生きる人間の為の生贄に選ばれた子供達の事は、今でも忘れないし、忘れた事もない。

 要するにイルは、アレフに対してシンパシーを抱いていた。
当然、アレフが何時しか本気で自分と敵対すると言うのであれば、その共感を捨てる覚悟はイルにも出来ている。
その時には修羅となってアレフの懐に潜り込み、羅刹となりてその心臓を抉り取る。その腹積りに、イルは何時でもなれるのだ。
しかし、余り戦う事に乗り気はしないのも事実だ。アレフは強い上に、イルと言う存在がどのようにして産まれた者なのか、理解していた。
話し合える気がするし、共に戦えそうな気もする。恐ろしい男であったが、味方に引き入れられれば、心強い。
だから、次に会う時には、敵と味方と言う二項対立的な構図で、出会いたくない。あって話も、してみたい。

 夏の気温が、イルの身体に染みて行く。
夏の空とは、こんなにも高く、広く。渺茫としたものなのかとイルは幾度となく思う。
そして、この空の下で行わねばならない事が殺し合いだと言う事実が。イルにとっては、堪らなく腹ただしいのであった。






【市ヶ谷、河田町方面(香砂会邸宅跡周辺)/1日目 午後1:30】

【荒垣真次郎@PERSONA3】
[状態]健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]召喚器、指定の学校制服
[道具]遠坂凛が遺した走り書き数枚
[所持金]孤児なので少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を企む連中を叩きのめす。自分の命は度外視。
1.ひとまずは情報と同盟相手(できれば魔術師)を探したい。最悪は力づくで抑え込むことも視野に入れる。
2.遠坂凛、セリュー・ユビキタスを見つけたらぶちのめす。ただし凛の境遇には何か思うところもある。
3.襲ってくる連中には容赦しない。
4.人を怪物に変異させる何者かに強い嫌悪。見つけたらぶちのめす。
5.ロールに課せられた厄介事を終わらせて聖杯戦争に専念したい。
[備考]
  • ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(ギュウキ)と交戦しました。
  • 遠坂邸近くの路地の一角及び飲食店一軒が破壊され、ギュウキの死骸が残されています。
  • ソニックブーム&セイバー(橘清音)の主従と交渉を行い、同盟を結びました
  • セリューが、バーサーカー(バッター)に意識誘導をされているのでは、と言う可能性を示唆されました
  • バーサーカー(バッター)が喋れる事を認識しました


【アサシン(イリュージョンNo.17)@ウィザーズ・ブレイン】
[状態]健康、魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[所持金]素寒貧
[思考・状況]
基本行動方針:荒垣の道中に付き合う。
0.日中の捜索を担当する。
1.敵意ある相手との戦闘を引き受ける。
[備考]
  • 遠坂邸の隠し部屋から走り書きを数枚拝借してきました。その他にも何か見てきてる可能性があります。詳細は後続の書き手に任せます。
  • 有里湊&セイヴァー(アレフ)の存在を認識しました。また湊が、荒垣の関係者であり、ペルソナ使いである事も理解しています
  • 番場真昼/真夜&バーサーカー(シャドウラビリス)の存在を認知しました




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――追われているな―― 

 セリューを抱え、逃走を続けるバッターがそう思う。
鰐頭の浄化者に備わる、霊的・概念的存在を感知する力は、凡百のサーヴァントを凌駕して余りある。
数百m離れた場所に存在するサーヴァントを、一方的に感知出来る程そのアンテナの精度は高い。
だからこそ、解る。明らかに自分達を追跡している、二名の存在をだ。

 一人は、サーヴァントであった。
疾風の如き速度で此方を追って来ている。家屋と言う障害物を無視しているかのような移動速度。屋根から屋根を跳躍して移動しているのだろう。
姿はまだ目の当たりにしていないが、大変な奴である事は解る。戦って勝利を拾えるかどうかは、解らない。

 もう一方は、間違いなく人間であった。
厳密に言えば、一人の人間に、別の何かの『魂(ソウル)』を融合させた存在。
恐らくこの存在こそが、自分を追うサーヴァントのマスターである可能性が高いとバッターは睨んでいた。
そして、そのマスターが誰なのかも理解している。人が人を識別するのに、姿形や声、思想と言う個性を利用するのは周知の事実だが、
バッターはそれらに加えて、人の身体に内奥されている魂の個性を識別する事が出来る。そして、この魂は外見的な情報と違って誤魔化しようがなく、如何なる詐術を用いても不変である事が定められている。

 その、最早雪ぐ事すら不可能な程に汚れきった魂の持ち主。その名は『ソニックブーム』。
衝撃波の名を冠する戦士。出し難い技術によって穢れた魂と融合を果たした、忌むべき存在。
バッターからすれば、英霊や亡霊よりも唾棄すべき男だった。生者の国の人間でありながら、冥府の領分であるところの魂と融合し、不必要なまでの力を得た人間。
初めて出会った時はセリューの手前、浄化を行うのに手順を踏んだが、そうでなければ、そのような面倒な手順など経ず、側頭部目掛けてバットをスウィングしていた程には、吐き気を催す存在であった。

 ソニックブームも、彼が従えるサーヴァントに負けず劣らずの速度で此方を追い掛けている。
恐ろしい事実であった。サーヴァント並に動けるマスターの存在……危惧していなかった訳ではないが、そんな存在、机上の空論に過ぎぬと何処かで思っていた。
しかし、斯様な存在は実在するのである。ソニックブームの強さ、それを体現させている理論を思えば、これは不思議な事ではない。
ないが、ここまでの強さである事は想定外だ。セリューとソニックブームをぶつけた場合、間違いなくセリューは一方的な嬲り殺しにあってしまう。断じて、追い詰められる訳には行かなかった。

 ――足手まといめ――

 実を言えば、エプシロンの補助技術を用いて自身の身体能力を高めれば、ソニックブームや彼の従えるセイバー、橘清音を振り切る事は出来る。
出来るが、今はそれをしていない。アレフ達の所から退却してから、バッターがやった処置と言えば、抱えたまま走っているセリューに刻まれた、弾痕を癒しただけ。
既にアレフからは逃げ切っていると言うのに、何故自身のマスターの傷の手当のみしか行っていないのか。答えは、単純明快。バッターの背を追いかける、機械のバーサーカーが原因だった。

「……ッ」

 シャドウラビリス。そのような名前であると言う。名前の由来は如何でも良い。
確かなのは、今この状況において確実に、このサーヴァントは枷以外の何物でもないと言う事実であった。
敏捷のステータス自体は、それ程差がない。ないが、シャドウラビリスの方はアレフから受けた手傷の方を、回復し切れていない。
一方バッターの方は、保守の技術によって負わされたダメージの方は治癒出来ている状態だ。傷の治り具合に差がある以上、シャドウラビリスの方が後手に回るのは、当然の理屈であった。

 痛みを堪えながら、バッターの後を追うシャドウラビリスにフラストレーションを溜めながら、移動を続けていたその時。
数十m以上離れた所でバッターらを追う清音に、攻性の魔力が収束して行く感覚をバッターが捉えた。
この距離と、建物の密集度合から言って、あのサーヴァントの方から自分達は見えない筈だとバッターは正確に判断。
だが、相手はサーヴァント。遮蔽物越しからでも、此方を視認、或いは認識出来る術を持っていたとて、何らおかしくはない。
そして、此方を迎え撃つ為の一撃が今、見えぬ所にいる戦士から放たれた。

 それは高速で、明白に、バッター達の方角に向かって放たれていた。
立ち並ぶ家屋、電信柱に電線。それら障害物を、人が目に見える物を避けて移動する様に器用にかわして行く。
蒼白く独りでに光るそれは、掠れば肉が抉られるような鋭さのギザギザを携えている、菱形の手裏剣であった。
初めてソニックブームと出会った時に、対応した攻撃だとバッターは直に思い出す。勿論、どんな攻撃かも承知していた。

 飛来するそれ目掛けて、アルファのアドオンで迎撃。
清音の放った手裏剣、『無限刀 嵐』とアドオンが衝突、一方的にバッターのアルファが嵐を粉砕する。
それも当然だ。宝具としてのランクもそうであるが、ただの必殺技の延長線上に過ぎない手裏剣上の斬撃に過ぎない嵐が、
確かな形を持つ上に神秘としての強度も高いアルファに、掠り傷を負わせる事も出来ない。自然な事であった。

 バッターの知覚範囲内で、狙撃、不意打ちの類は無意味に等しい。
圏境の域に達する気配遮断能力を得たとて、それがサーヴァントと言う霊的性質を秘めた者であるのなら。バッターはこれを感知する事が出来る。
気配を消したとて、其処に存在すると言う事実までは決して歪められないからだ。故に、霊性を知覚する能力に恐ろしく長けたバッターからは、逃れられない。
姿を認識させない事が肝要な不意打ちや狙撃であるのなら、アサシンクラスとしての性質を持ったサーヴァントにとって、バッターは天敵にも等しい存在であった。

 だが、清音としても、バッターが攻撃に対応する事は織り込み済みであったらしい。
一発程度の攻撃では、全くバッターに王手を掛けるのは不足。であるのなら、攻撃を連発すれば良いのだ。
無限刀 嵐は、特殊な斬撃が宝具となった物に過ぎない、いわば技術が宝具となった物である。必然、その燃費は頗る良い。
清音は勿論、ソニックブームにも負担は最小限だ。このメリットを活かして、清音は菱形の斬撃を無数に、バッターら目掛けて飛来させる。
回転しながら迫るそれを、バットで弾いたり、オメガの空間歪曲で消滅させたり、アドオン自体を体当たりさせて破壊したりと、次々迎撃。

 ――その時に発生した衝撃で、シャドウラビリスがよろめいた。
彼女の体勢上、不可避の減速。此処でバッターは、シャドウラビリスを切り捨てる算段に打って出た。
アルファの力を発動させ、衝撃波を彼女目掛けて放つ。「ッァガ……!?」、何が起こったのか理解出来ないような、シャドウラビリスの苦鳴。
そのまま何mも、バッターの移動ルートとは逆方向に吹っ飛ばされた彼女は、そのまま地面に倒れ込んだ。
異変を察知したセリューが後ろを振り返る。俯せに倒れたシャドウラビリスと、仰向けに、ラビリスから離れた所でグッタリしている真昼。
それを見て、ハッとした表情をセリューは浮かべた。

「番場さん!!」

「非情になれ、セリュー」

「でも!!」

「綺麗事のみで、正義の道は舗装されていない。そして、無慈悲と非情は、悪ではない」

 バッターの鰐頭と、背後のシャドウラビリス達の方に、悲愴な目線を交互させるセリュー。
どうすれば良いのか? 此処で自分がなすべき事とは? 生まれて初めてのジレンマに、正義の遵奉者は陥っていた。
真昼を助けに行けば、自分やバッターが危ない。このまま逃げ切れば、真昼の命がない。
悩んだまま、どんどんバッターとシャドウラビリスの距離が離れて行く。眦に涙を浮かべて、真昼の方に悲しげな目線をセリューは送り続ける。

「無言は、俺の意見を採ったと解釈する」

 そしてそのままバッターは、自身にエプシロンによる補助を適応させ、自身の敏捷性を強化。
この状態で強く地を蹴るバッター。蹴った所が陥没する程の速度での踏込で、先程までの移動速度にプラス時速一二八㎞を得た。
疾風など目ではないスピードを得たバッターは、とうとう清音達からすらも逃げ切った。かくのごとく、バッターらは<新宿>に来てからの初めての命の危機から退却したのであった。






【市ヶ谷、河田町方面/1日目 午後1:30】

【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]肉体的損傷(中)、魔力消費(中)、番場真昼を失った事から来る哀しみ
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]この世界の価値観にあった服装(警備隊時代の服は別にしまってある)
[道具]トンファーガン、体内に仕込まれた銃、免許証×20、やくざの匕首、携帯電話、ピティ・フレデリカが適当に作った地図、メフィスト病院の贈答品(煎餅)
[所持金]素寒貧
[思考・状況]
基本行動方針:悪は死ね
1.正義を成す
2.悪は死ね
3.バッターに従う
4.番場さんを痛めつけた主従……悪ですね間違いない!!
5.メフィスト病院……これも悪ですね!!
6.番場さん……後で絶対助けます!!
[備考]
  • 遠坂凛を許し難い悪だと認識しました
  • ソニックブームを殺さなければならないと認識しましたが、有里湊から助けてくれたと誤認したせいで、決意に揺らぎが生じています
  • 女アサシン(ピティ・フレデリカ)の姿形を認識しました
  • 主催者を悪だと認識しました
  • 自分達に討伐令が下されたのは理不尽だと憤っています
  • バッターの理想に強い同調を示しております
  • 病院施設に逗留中と自称する謎の男性から、<新宿>の裏情報などを得ています
  • 西大久保二丁目の路地裏の一角に悪魔化が解除された少年(トウコツ)の死体が放置されています
  • 上記周辺に、戦闘による騒音が発生しました
  • メフィスト病院周辺の薬局が浄化され、倒壊しました
  • 番場真昼/真野と同盟を組みましたが、事実上同盟が破棄されました
  • 有里湊&セイヴァー(アレフ)の存在を認知。またどちらも、悪だと認識しました


【バーサーカー(バッター)@OFF】
[状態]肉体的損傷(大だが、現在回復進行中)、魔力消費(中)
[装備]野球帽、野球のユニフォーム
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:世界の浄化
1.主催者の抹殺
2.立ちはだかる者には浄化を
[備考]
  • 主催者は絶対に殺すと意気込んでいます
  • セリューを逮捕しようとした警察を相当数殺害したようです
  • 新宿に魔物をバラまいているサーヴァントとマスターがいると認識しています
  • 自身の対霊・概念スキルでも感知できない存在がいると知りました
  • 女アサシン(ピティ・フレデリカ)を嫌悪しています
  • 『メフィスト病院』内でサーヴァントが召喚された事実を確認しました
  • 有里湊&セイヴァー(アレフ)の存在を認識しました
  • 番場真昼/真夜&バーサーカー(シャドウラビリス)を見捨てました
  • …………………………………………

※現在、香砂会邸宅跡地から距離を離しています。何処に移動するかは、後続の書き手様にお任せ致します




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「マジかあのバケワニ!! 同盟者を見捨てやがったぜ!!」

 結局、バッターがシャドウラビリス達を切り捨てたと知らなかったのは、セリューだけだった。
ソニックブーム及び、彼の視界を通じて『むげんまあいのNOTE』でその一部始終を見ていた清音ですら、バッターが行った行動と、その意図を見抜いていた。
セリューが見ていない隙を狙ってバッターがそんな行動に出たから仕方がないとは言え、ソニックブームは、ある種の哀れさをセリューに感じていた。
あの少女は、バッターと言うサーヴァントが心の奥に宿す狂気を認識出来ていないのだ。恐ろしく利己的で、自己中心的なサーヴァント。それがバッターだ。
その本性を、マスターである彼女だけが知らない。これ程、哀しいピエロな話もない。セリューだけが除け者、バッターが演じるキャラクターに踊らされる道化なのだ。

「……俺達から逃げ切る為に、足の遅い同盟者を見捨てる。非情ではありますが、合理的な判断であるとは思います」

「……ホウ。セイバー=サンの口からそんな冷徹な言葉が出て来るとはな」

 茶化した様子もなく、見直した風な口で、ソニックブームをは清音の顔を見た。

「ですが、それと、裏切って同盟相手に不意打ちを仕掛ける事は別です。俺の目にあの足きりは、悪以外の何物にも映りませんでした」

 結局そう言う結論に、落ち着くらしい。
「折角が男としての箔がついたって思ったのによ」、と零すソニックブームに、眉を顰める清音。

「んで……結局この嬢ちゃんは、誰なんだろうな?」

 言ってソニックブームは、足元に転がる、嘗てのセリューの同盟相手……番場真昼の方に目線を向ける。
Gスーツを纏った清音、そしてそれを御すニンジャは、シャドウラビリスと真昼の両名から一mも離れていない所にまで近づいていた。

「順当に考えれば、セリューに騙されたか、脅された、哀れなマスター……何でしょうが」

「俺もそう思う」

 言ってソニックブームが、湊に折られなかった左手で、真昼の着る制服の襟を引っ掴む。
それを見てシャドウラビリスが、凶暴な表情を浮かべながら、ノライヌめいた唸りを上げるが、流石にこの男は肝が大きい。
サーヴァントに威圧されたとて、まるで臆した様子を見せはしない。と言うよりも、このサーヴァントは何故――

「動けねぇのか、コイツ?」

 ソニックブームの疑問は其処だった。
バッターの放った攻撃の影響で、身体の何処かに著しい損傷を負い、動けないと言うのであれば話は解る。
だが今のシャドウラビリスにはそれらしい外傷はない。それなのにこの復帰の遅さは、疑問を抱かざるを得ない。余程、自分達が見つけるまでに体力を消費し過ぎたのだろうか。

 ソニックブーム達は知る由もないだろうが、バッターが従えるαのアドオン球がシャドウラビリスに向かって放った衝撃波には、
直撃した相手を麻痺させる追加効果があったのだ。その効果が今、シャドウラビリスに対して最大限発動している状態だ。だからこそ、今彼女は動けないでいる。
バッターがそんな事をした理由は一つ。シャドウラビリスがバッター達に追いつけないようにする為であった。

「どうしましょうか、彼女達……」

 清音の言葉からは、このまま捨て置けない、と言う念がありありと伝わってくる。
これは、ソニックブームでなくとも難を示すであろう。このまま見捨てる、と言う選択肢を選ぶ主従の方が、もしかしたら多いかも知れない。
余程道に外れた提案でなければ、受け入れよう。清音はそう考えていたのであるが……。

「利用されるだけされて、ってのは可哀相だからな。何とか立て直しの道位は示してやりてぇよな」

 意外にも、ソニックブームから出た言葉には、救済措置を設けてやろう、と言う旨が明白に存在した。驚きの表情を、Gスーツのマスク越しに浮かべる清音。

「そう怖い顔するなよ、バーサーカー=サン。心配するな、お前のマスターは俺が責任もって保護してやるからよ」

 と、蹲って此方を睨みつけるシャドウラビリスを諭すソニックブーム。猫なで声であった。
……勿論、ソニックブームの言葉を、清音は額面通りに受け取っていなかった。確実に、何か疚しい目的があるから、保護するのだろう。そう清音は考えていた。

 清音が向ける、疑惑の目線に気付くソニックブーム。当然ソニックブームは、無償の善意で真昼を保護したのではない。
既にソニックブームは気付いていた。――真昼の身体の何処を探しても、令呪らしいものがない事に。
令呪の存在しないバーサーカー。これ程恐ろしい話はない。手綱の存在しない暴れ馬など、今のソニックブームには穀潰しも良い所であった。
同盟相手としては、論外を極る。肉の盾か、鉄砲玉。それ以外の使い方を、今のソニックブームは思い浮かべていない。
何なら、折見て荒垣の主従にぶつけると言う事も、アリである。自分に火の粉が降りかからないように、真昼達をどのように扱うか?
そのシミュレートは、ソニックブームの頭の中で、冷徹に組み上がっているのであった。






【市ヶ谷、河田町方面/1日目 午後1:30】

【ソニックブーム@ニンジャスレイヤー】
[状態]右腕骨折
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]ニンジャ装束
[道具]餞別の茶封筒、警察手帳
[所持金]ちょっと貧乏、そのうち退職金が入る
[思考・状況]
基本行動方針:戦いを楽しむ
1.願いを探す
2.セリューを利用して戦いを楽しめる時を待つ
3.セイバー=サンと合流
[備考]
  • フマトニ時代に勤めていた会社を退職し、拠点も移しました(新しい拠点の位置は他の書き手氏にお任せします)。
  • セリュー・ユビキタスとバッターを認識し、現住所を把握しました。
  • セリューの事を、バッターに意識誘導されている哀れな被害者だと誤認しています
  • 新宿に魔物をバラまいているサーヴァントとマスターがいると認識しています。
  • 荒垣&アサシン(イル)の主従と、協力関係を結びました
  • 有里湊&セイヴァー(アレフ)の存在を認識しました
  • 悪魔(ノヅチ)の屍骸を処理しました
  • 古い拠点は歌舞伎町方面にあります
  • 気絶している真昼/真夜を抱えた状態です


【橘清音@ガッチャマンクラウズ】
[状態]健康、霊体化、変身中
[装備]ガッチャ装束
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯にマスターの願いを届ける
1.自分も納得できるようなマスターの願いを共に探す
2.セリュー・バッターを危険視
3.他人を害する者を許さない
[備考]
  • 有里湊&セイヴァー(アレフ)の存在を認識しました


【番場真昼/真夜@悪魔のリドル】
[状態]肉体的損傷(小)、気絶
[令呪]残り零画
[契約者の鍵]無
[装備]学校の制服
[道具]聖遺物(煎餅)
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:真昼の幸せを守る。
1.<新宿>からの脱出
[備考]
  • ウェザー・リポートがセイバー(シャドームーン)のマスターであると認識しました
  • 本戦開始の告知を聞いていませんが、セリューたちが討伐令下にあることは知りました
  • 拠点は歌舞伎町・戸山方面住宅街。昼間は真昼の人格が周辺の高校に通っています
  • セリュー&バーサーカー(バッター)の主従と同盟を結びましたが、これを破棄されました


【シャドウラビリス@ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ】
[状態]肉体的損傷(中)、魔力消費(小)、
令呪による命令【真昼を守れ】【真昼を危険に近づけるな】【回復のみに専念せよ】(回復が終了した為事実上消滅)
[装備]スラッシュアックス
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:全参加者及び<新宿>全住人の破壊
1.全てを破壊し、本物になる
[備考]
  • セイバー(シャドームーン)と交戦。ウェザーをマスターと認識しました。
  • メフィストが何者なのかは、未だに推測出来ていません。
  • 理性を獲得し無駄な暴走は控えるようになりましたが、元から破壊願望が強い為根本的な行動は改めません。
  • バッターが装備させていたアドオン球体を引き剥がされました




時系列順


投下順



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38:仮面忍法帖 ソニックブーム [[]]
セイバー(橘清音)
38:仮面忍法帖 荒垣真次郎 [[]]
アサシン(イリュージョンNo.17)
43:推奨される悪意 セリュー・ユビキタス [[]]
バーサーカー(バッター)
43:推奨される悪意 番場真昼/真夜 [[]]
バーサーカー(シャドウラビリス)
27:征服-ハンティング- 有里湊 [[]]
セイヴァー(アレフ)

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最終更新:2021年03月31日 18:31