「――ハ、ハハ……アハハハハ! 素晴らしい! 実に素晴らしいよ!」

月の蒼い晩に青年の少し掠れた笑い声が木霊していた。
もしここに誰か他の人間が通りかかれば、彼の甘くもどこかズレた声調から狂気を感じ取っただろう。
凡そほとんどの人間はそれに嫌悪を示しこの場を足早に立ち去り、僅かなそうでない者は快楽めいた眩暈を覚えたに違いない。

だが、ここには青年ただ一人しかいない。
新宿中央公園――陽のある内はレクリエーションに励む人々の明るい顔が見られるここも、深夜となっては閑散とする。
特に今晩は何故だかどこもしんと静まり返り、酔っ払いやカップルの姿すらもなかった。
今ここに存在するのは不気味な青年のみ――いや、加えるならば彼と彼を見下ろす巨像のみ。

「こんな“奇跡”がボクに降りかかるなんて!」

両手を夜空に向け青年は喝采する。その左手は不思議と指のない手袋に覆われていた。

「なんて“幸運”なんだ!」

青年の出で立ちは不気味であった。
長身痩躯。肌は生気を感じさせぬ白。面立ちは整っており、すましていれば美青年とも見えるが、揺らめく白髪が不気味だ。
しかしなによりもその目が不快の極みであった。
水と油のように決して相容れぬ感情を同じ量ずつ内包し、それでいてやはりそれを合わせることなく、しかし交じり合い持つ眼。
物の怪の持つ魔眼、妖眼とはまた違う。
人間の尊さを慎重に悪辣にかつ破壊を齎さぬよう丁寧に分解しつづければ、こうなるのではと思わせる眼。
完全に絶望させて、しかし完璧に絶望を否定する――その様な矛盾を孕んだ狂眼であった。

「これで世界を“絶望”させることができるんだ。より完全に、絶望的に、破滅的なまでのどん底に!」

青年の歪んだ口の端から怪鳥の様な不気味な笑い声が漏れる。
この青年は“絶望”を欲していた。全世界の全人類の心が挫け押し潰されるような強力な“絶望的な絶望”を切望していた。
そこに“希望”が生まれることを、新しい光が闇の奥より産声を上げ、その白光がこの世界を新しく塗りつぶすことを。
人類にとってより輝かしい“未来”。その為に不可欠な人類が乗り越えるべき“絶望的な絶望”。
それを、青年は――狛枝凪斗と呼ばれる彼はずっと求めていたのだ。

そして、かつては“超高校級の幸運”と呼ばれた彼は、この新宿でそれと出会ったのであった。







  - Ж - Ж - Ж -


『――愚物が』

一人喝采を上げる青年へとどこからか、岩を擦り合わせたような重い声が落ちた。
果たしてそれはどこからか? 未だ顔を歪めたままの青年は目の前の巨像をうっとりと見上げる。
否。それは真実巨像ではなかった。
王座とも見える台座より腰を上げ、立ち上がってみせたそれは石でできた像ではなく、また別のひとつの存在であった。

月光を跳ね返す青い表皮は金属の様でもあり、永く磨き上げた石の様でもあった。
筋骨隆々とした古代のヘラクレスを思わせるその姿は、全体として非常に有機的な造詣であったが、部分を見れば無機的だ。
およそ5メートルほどの身長を持つそれの、体躯に比しては小さな頭部。その耳まで裂けた口が僅かに開く。

『何の能も持たぬホモ・サピエンスがこの我を御せると思うか。
 この一瞬、未だ貴様の命が繋がれているのは、貴様自身がこの世界においてわしの核であるからにすぎんのだと知れ。
 例え、令呪とやらをかざしてみせようが、このアポカリプスを一瞬でも怯ませられると思うな』

彼は王であった。
通常の人類――ホモ・サピエンスより分岐した新しい人類であるホモ・スペリールの初めての者にして最古の者。
この人類の世界に終末という新しい局面を与えようとする自身のことを、彼は人に『アポカリプス(黙示録)』と呼ばせている。

「当然だよ。ボクが君に指図するだなんてとんでもない。考えただけで身も毛もよだつようなおぞましささ。
 ボクみたいななんの実力もない、なにも達成した例のない愚物という言葉をもらうことすらおこがましい存在が、
 万物の王たるキミにボク自身の意思を汲み取ってもらおうだなんて、そんなことを考えるはずもないよ」

アポカリプスは自分の足元で囀る矮小な人間に、最大の侮蔑の視線を投げかけた。
彼はこのように自らを無価値と思う者、より強き存在へと媚びへつらうことで生を長じようとする者を蛇蝎の如く嫌っている。
好むは強き者。自らの手のみによって未来を切り開き、その手によって新しい世界の理を生み出す者だ。
『適者生存』――所謂、弱肉強食というのが彼が標榜し信奉する唯一の価値観であった。

しかし、そうするならばアポカリプスのマスターである狛枝凪斗という人間は、部分的には共通する思想の持ち主である。
アポカリプスはより強い種による世界征服を望み、狛枝凪斗はより強い希望による世界の一新を願う。
その過程で行われるのは弾圧と支配、圧倒的な暴力と絶望。弱肉強食を強制すること。

『囀らぬことだ。黙示録の到来を望むというのならば、貴様が成すべきことはそれを記憶することに他ならん。
 いや、貴様にはこの我の傍にいて偉業の証言者となる義務がある。それを果たすまでは死することすら許されん』

ぴたりと口を閉じ、しかし薄ら笑いは浮かべたままの人間に辟易すると、アポカリプスは視線を外し新宿を遠くまで眺めた。
アポカリプスが足元の人間を踏み殺さずに聖杯戦争へと乗り出したのには複数の理由がある。
ひとつに、狛枝凪斗がこの世界にアポカリプスが顕現していられる為の核であること。
ひとつに、狛枝凪斗はアポカリプスが最も嫌う人種であるが、その目的に重なる部分があること。
そして――

『(この“新宿という世界”、決して見かけ通りではあるまい。
  おそらくは、アストラル界を通して視ればまた別の様相を、この街が真に“適者生存”であることを現そうぞ)』

アポカリプスはこの“世界(新宿)”に興味を持ったのだ。
この街は全てを受け入れ、正誤の針は実力によってのみ動かされる――そういう世界だと予感が揺らめいていた。

彫像のように表情を浮かばせないアポカリプスの顔が今は僅かに歪んでいる。




DOWN OF APOCALYPSE――ここより、黙示録の始まりである。









【クラス】 エクスターナル(規格外)
【真名】 エン・サバー・ヌール
【属性】 混沌・悪

【ステータス】
 筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B++ 魔力:C 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
 イモータル:A
  不老不死。もはや通常の存在を超えた者に寿命というものは存在しない。
  ※不滅ではない。実体が完全に破壊されれば死を迎える。

【保有スキル】
 分子構造変換:A
  自身の分子構造を自在に変換するミュータント能力。
  これにより身体の大小や形、強度、重さを思ったままに変化させることができ、形態変化により飛行も可能とする。
  また、これを他人に使用することで姿形を変えたり、不老不死の存在にすることも可能。

 超能力:B
  強力なサイコキネシスと、短距離のテレポート能力を有する。

【宝具】
 『黙示録の世界(AGE OF APOCALYPSE)』
 ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
 この世界に、アポカリプスが世界征服を果たしたという並行世界の現実を重ね合わせ、そのまま上書きする。
 実行されれば別世界の歴史により全存在の在り様が変化することになるが、
 展開に宇宙開闢クラスのエネルギーを必要とするため、この宝具が使用されることは到底あり得ないだろう。

 『黙示録の四騎士(FOUR HORSE MEN)』
 ランク:A 種別:対英霊宝具 レンジ:--- 最大捕捉:4騎
 アポカリプスの名において、すでにマスターを失ったサーヴァントを同時に4騎まで自身の配下する能力。
 配下としたサーヴァントの魔力はアポカリプス自身が賄うこととなる。
 この宝具には洗脳効果があるが、支配された者が自身の能力を振るう度に弱まるという欠点があり、最後には解けてしまう。

【weapon】
 『アポカリプス』
 アポカリプスの肉体そのものが分子構造変換によりあらゆる武器と化す。

【人物背景】
 出展は「X-MEN」及び「マーベルコミックス全般」
 元々は古代エジプトで奴隷となっていたただの人間の男である。
 だが、ある者により遺伝子改造を受け、強力なミュータントとなり、時の王と成り代わりその時代を支配した。
 その根本にあるのは「適者生存」という信条。
 より強い者こそが支配者に相応しいと傲慢に信じており、逆に己より強い者が現れれば滅ぼされるのは必然と潔くもある。

 増長し、軍勢を率いて神の国に乗り込むようなこともあったが、紆余曲折を経て一度は活動を停止。
 その後、発掘されたことを切欠に現代において活動を再開。
 ホモ・スペリオル=ミュータントによる世界征服を目指し、X-MENや他のヒーローと幾度となく死闘を演じることとなる。

 より未来である39世紀には世界征服を成功させており、また別の並行世界では現代の時点で世界征服を成しえていた。

【サーヴァントとしての願い】
 この世界に「適者生存」を。

【基本戦術、方針、運用法】
 自らが動くのはよほどのことであるので、まずは黙示録の四騎士を揃えようとする。
 それが成功したならば、その四騎士を操作して聖杯戦争を進め、自らに匹敵する強者を確かめた時のみ自身が動く。


【マスター】 狛枝凪斗

【参加方法】
 『契約者の鍵』の鍵を持ったまま偶然に新宿へと足を踏み入れた。鍵の出自そのものは謎。

【マスターとしての願い】
 この世界に再び『人類史上最大最悪の絶望的事件』を起こす。

【weapon】
 『なし』

【能力・技能】
 『超高校級の幸運(Devil's Luck)』
 自分によって都合のいい現実を引き寄せる幸運としかいい様のない能力。
 くじ引きや数当てといった簡単なものなら意識すれば確実に当たりを引け、より複雑な状況でもまず幸運でいられる。
 ただし、狛枝凪斗の幸運は常にそれと見合った不幸とワンセットであり、不幸は必ず幸運より前に来る。

【人物背景】
 出展は「スーパーダンガンロンパ2」及び「絶体絶望少女」
 超高校級の幸運を認められる青年。

 その“幸運”という才能を認められ希望ヶ峰学園に入学した彼は、より強い才能がよりよい“希望”を発揮すると信じていた。
 故に、在学中に超高校級の絶望である江ノ島盾子へと傾倒。
 彼女の手足となって世界中に絶望を振りまき、その中で歯向かい強くなるであろう才能に期待した。

 だが、江ノ島盾子は狛枝凪斗の次代の幸運であり、実際は何も才能を持たない苗木誠に敗北する。
 これを目の当たりにした狛枝凪斗の中で、希望は才能からではなく絶望から生まれるのだとその思想はより性悪なものへと変化。
 左手に死んだ江ノ島盾子の手を移植した(※)彼は、それから世界を絶望させる方法を探して世界を放浪している。

 ※手首の先を無理やり取り替えただけで神経も筋肉もつながっていないので、その左手が動くことはない。

【方針】
 全てをアポカリプスに任せ、世界の絶望とそこから生まれるであろう希望を切望し続ける。