そこには静謐のみが存在した。
 日が陰り出した夕刻、赤みがかった光が差し込む鳥居は、そこから一歩踏み入れた瞬間から明確に空気の質が変質する。そこはまさしく聖域であった。
 新宿という雑多な街の一角にあって、しかし都会の喧騒とは無縁なそこには一切の雑念がなく、ただ清廉な空気が満ちるのみ。
 古びた社殿が存在するその場所は、名を鴉羽神社といった。

「どうしたもんかな、本当に」

 鳥居と社殿を繋ぐ短い参道に一人の少年が立っていた。鴉羽神社の居候兼神職見習いとして籍を置く彼は、中肉中背で特徴らしい特徴を持たない、言ってしまえばどこにでもいそうな雰囲気の少年だった。
 少年は学校の帰りだろうか、黒い学生服を着たまま両手で竹ぼうきを持って参道の落ち葉を黙々と片付けている。風に揺れる木々のざわめきだけが場を支配する中、ざっざっ、という規則的な音が心地よい響きを加えている。
 彼が置かれている現状を鑑みればいっそ滑稽なほどに平和的な光景である。しかし、少年が醸し出す朴訥な雰囲気が、その違和感を封じ込めていた。

「ねえキャスター、そこらへんまるっと全部手っ取り早く解決できたりしないかな」
「何を指して言っているのかあやふやにもほどがあるぞ、マスター。せめてもう少し具体的に物を言ってくれ」

 少年以外には誰一人として存在しなかった静謐の空間に、しかし虚空から答える声があった。いいや声だけではない。いつの間にか少年の背後にはもう一人学生服の少年が静かに佇んでおり、マスターと呼ばれた少年の春の陽気のようにのほほんとした言葉を切って捨てる。

「まあ、言わんとしていることは分かるさ。つまりこの聖杯戦争の根本的解決、マスターが言いたいのはそれだろう?」
「うん、それそれ」

 相も変わらない呑気な返事にキャスターと呼ばれたもう一人の少年は少し頭が痛くなるのを自覚した。召喚の際、マスターが聖杯を望まないと聞いた時も開口一番サーヴァントに何を言ってるんだこいつはと思ったが、どうにもこのマスターには打算とかそういう類のものがないらしい。
 生前もそうだったが、どうにも自分はこの手の人間には弱いらしい。もう少しくらい腹に一物を抱えていたり悪辣だったりしたほうがよっぽどやりやすいと心から思う。

「……正直なところ、最後の一人まで残る以外にはどうすることもできないというのが現状だな。聖杯戦争というシステムからしてそうだが、そもそも自ら聖杯戦争に挑む人間には代えがたい願いというものがある。中には当然、人の命など歯牙にもかけない悪党だって存在するだろう。そんな連中を相手に、仲良しこよしでやっていけるほど甘い戦いじゃ決してない」
「そっか。うん、まあそうだよね」

 茫洋とした雰囲気を微塵も変えようとしない主に、キャスターは本当に分かっているのかと口に出しかけるがすんでのところで呑み込んだ。

「それで、結局マスターはどうしたいんだ。願いがないなら帰還を目指すのもいいだろう。それまで俺が守るし、生き残りたいから戦うというなら共に戦おう。逃げたいなら逃げればいいし、戦いたくないなら隠れていればいい。やはり聖杯が欲しいというのならそれに否やは言わないさ。だから」
「それに対する僕の答えは決まってるよ、キャスター」

 言葉を遮りマスターたる少年は静かに振り返る。朴訥とした雰囲気はそのままに、しかしその双眸は決意で引き締められていて。

「僕は誰かの犠牲を認めない。願いのために誰かを殺すことを強制する聖杯なんて願い下げだし、そんな聖杯を求めて起こる戦いだって全部止めたいと思う」

 その答えは考えられる中では最も困難で最も滑稽なものだった。しかし少年は伊達や酔狂でこのようなことを言っているわけでは断じてない。
 〈新宿〉に招かれる直前、少年の前に二つの選択肢が提示された。自らの命と日本の未来と引き換えに大切な相棒と親友を生き永らえさせるか、二人を犠牲に束の間の平穏を手にするか。
 どちらかしか選べず、それ以外の選択肢などない状況。しかし少年は第三の答えを探すことを選んだ。
 その時の少年に、何か具体的な解決策があったわけではない。その当てがあったわけでもない。言ってしまえばそれは単なる青臭い感情の発露であり、いっそ愚かと断言してもいいものだったが。しかし少年はどこまでもそういう人間で、その芯を変えることはどうしてもできなくて。
 そんな少年だからこそ、聖杯戦争に対する答えも決まりきっていた。

「というのが僕の考えなんだけど、どうかなキャスター」
「……」

 キャスターは比喩でも何でもなく本気で頭を抱えていた。
 馬鹿だ馬鹿だと散々思っていたが、まさかここまで底抜けだったとは思いもしなかった。よりにもよってそれを選ぶのかと、正義の味方気取りもいい加減にしろよと思って。

 ―――けれど、だからこそ自分が彼のサーヴァントに選ばれたのではないのかとも思う。

「……分かった。マスターが決めたのなら俺もそれに従おう。全く、なんでこんなのが俺のマスターなんだか」
「またまた、本当は嬉しいくせに」

 なんかムカついたので軽く蹴りを入れてやる。何すんだと突っかかるマスターは、しかし怒りの感情は一切顔に浮かべていない。
 やはり、どうにもこういうタイプは苦手だ。



 かつてキャスターは文字通りに世界の命運をかけた戦いに身を投じた。
 最初は単なる巻き込まれで、やれ宿星だやれ運命だと自分の意思などほとんど介在しないものだったが。それでも、守りたいと願う人々が次々とできて。
 だからこそマスターの言葉も理解できる。理屈とかそういうものではないのだ、これは。
 嬉しいという指摘も図星だ。別に正義の味方を気取るつもりはないが、それでも悲劇を失くしたいという気持ちに嘘などないのだから。
 キャスターの口元には、抑えきれないくらいの笑みが浮かんでいた。






【クラス】
キャスター

【真名】
緋勇龍麻@東京魔人學園剣風帖

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具A++

【属性】
中立・善

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自分に有利な陣地を作り上げる。
龍脈・龍穴から力を汲み上げる方陣を作成可能。

道具作成:-
キャスターに道具作成の適正はなく、このスキルは機能していない。

【保有スキル】
気功:A
瞬間的な気の放出により身体能力を強化する。
発剄による攻撃や自身に限定した回復能力など様々な技に転用できる。

陽の古武術:A
日本古武術の一派。現代のものとは異なり、源流のひとつである。ランクB相当の見切りと矢避けの加護のスキルを内包する。

カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『黄龍甲』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
陰陽五行の中央に位置する黄龍が彫られた黄金に輝く手甲。真名解放と共に、手甲・無銘に重なるように出現する。
耐久・魔力を1ランク上昇させ、時間経過で自身の傷を癒す効果を得る。

『黄龍の器』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
龍脈を流れる膨大な気を自らの肉体に無尽蔵に取り込み、己の力とする。龍脈の上に専用の方陣を組み上げた状態でのみ発動可能。
この宝具を発動している間、キャスターの幸運が2ランク、それ以外のステータスが1ランク上昇し、後述する『秘拳・黄龍』が発動可能となる。
龍脈から直接力を得ているため陣地内では宝具発動を含むあらゆる魔力消費を必要とせずAランク相当の透化・対魔力スキルが付与されるが、発動後は時間経過と共に方陣が徐々に破壊されていく。
キャスターの宿星であり、キャスターの存在そのものと言える宝具。

『秘拳・黄龍』
種別:対城魔拳 レンジ:不定 最大捕捉:不定
陽の古武術に伝わる秘奥義であり、気功の究極形。龍脈から汲み上げた力を金色の龍にも似た姿の発剄として放出し、大規模な破壊として撃ちだす。
上述の宝具『黄龍の器』が発動している状態でのみ発動可能。龍脈の上に作り上げた専用の方陣がより完全な形で残っているほど威力・範囲が上昇する。
ただし、この宝具が発動し終わった時点で方陣は完全に破壊される。

【wepon】
手甲・無銘

【人物背景】
古武術を修め、「陽の黄龍の器」を宿星とする高校生。
新宿都立真神学園に転入したことをきっかけに、人ならぬ《力》を得た少年少女たちと出会い、東京に巣食う闇との戦いに巻き込まれていくことになる。
最終決戦において変化なき存続を選択した後はエジプトに行ったり宝探し屋と間違われていい年して再び高校生になったりしている。
いわゆる喋らない系主人公というやつだが、アニメ版の設定は一切含まないものとする。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。




【マスター】
七代千馗(しちだい・かずき)@東京鬼祓師 鴉乃杜學園奇譚

【マスターとしての願い】
日本滅亡を回避しつつ白や零を死なせない道を探る。

【weapon】
  • 呪言花札
白札と鬼札を除いた48枚を所持。
地形に張り付けることで様々な結界を張り、道具に張り付けることで伝承の武器へと変じさせる力を持つ。使用には当然魔力を必要とする。

【能力・技能】
秘法眼:あらゆる超常を見抜く魔眼。不可視の存在を視認しあらゆる隠蔽効果を無効にするが、使用には魔力を必要とする。

封札師:あらゆる呪符を封じ従える異能、及び手にした物品の力を限界まで引き出す資質。彼が手にした物ならば玩具や生活用品の類であろうと銃火器や刀剣類を超える火力を発揮する。

道具作成:物同士を組み合わせて新たなアイテムを作成可能。例:砂糖+輪ゴム=ガム。ガム+レトルトカレー=カレーガム
【人物背景】
図書館のアンケートにより秘法眼を見出された少年。高校二年生。
国立国会図書館収集部特務課から呪言花札の回収を命じられ新宿は鴉乃杜學園に転校することになる。
こちらも喋らない系主人公だが札に憑かれた燈治と弥紀を迷いなく助けようとするあたり結構な善人。あと仲間のコンプを目指してプレイすると底抜けに明るくてお人よしな熱血漢みたいな性格になる……ような気がする。
本編の第九話終了後、第三の選択肢を選んだ状態から参戦。

【方針】
聖杯戦争を止めるために動く。